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特許7394713溶融炉監視システム、溶融炉監視方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】溶融炉監視システム、溶融炉監視方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F27B 1/28 20060101AFI20231201BHJP
   G06T 7/215 20170101ALI20231201BHJP
   G01B 11/28 20060101ALI20231201BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
F27B1/28
G06T7/215
G01B11/28 H
F27D21/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020111447
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010742
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】浜元 和久
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281603(JP,A)
【文献】特開2000-065479(JP,A)
【文献】特開2002-147731(JP,A)
【文献】特開平09-243337(JP,A)
【文献】特開2019-152652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00 - 3/28
G06T 7/215
G01B 11/28
F27D 21/00
F27D 3/15
F23J 1/00 - 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉の出滓口を連続的に撮影して時系列の複数の画像を生成するカメラと、
輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出するスラグ候補領域抽出部と、
前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出する動き検出部と、
前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定部と、
を備える、溶融炉監視システム。
【請求項2】
前記固着スラグ領域に基づいて前記出滓口の開口率を算出する開口率算出部をさらに備える、
請求項1に記載の溶融炉監視システム。
【請求項3】
前記スラグ候補領域抽出部は、輝度の閾値による判定により前記複数の画像において共通して抽出された領域を、前記スラグ候補領域として抽出する、
請求項1または2に記載の溶融炉監視システム。
【請求項4】
前記複数の画像のそれぞれについて直前の画像との位置ずれを補正する位置ずれ補正部をさらに備え、
前記動き検出部は、位置ずれが補正された前記複数の画像において前記動き検出領域を検出する、
請求項1ないし3の何れかに記載の溶融炉監視システム。
【請求項5】
前記スラグ候補領域内で前記動き検出領域を膨張させる動き検出領域補正部をさらに備える、
請求項1ないし4の何れかに記載の溶融炉監視システム。
【請求項6】
前記動き検出部は、前記複数の画像の何れかにおいて動きが検出された領域を、前記動き検出領域として検出する、
請求項1ないし5の何れかに記載の溶融炉監視システム。
【請求項7】
前記動き検出部は、オプティカルフローにより前記動き検出領域を検出する、
請求項1に記載の溶融炉監視システム。
【請求項8】
カメラにより溶融炉の出滓口を連続的に撮影して時系列の複数の画像を生成し、
輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出し、
前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出し、
前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する、
溶融炉監視方法。
【請求項9】
溶融炉の出滓口を連続的に撮影するカメラにより生成された時系列の複数の画像を取得する画像取得部、
輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出するスラグ候補領域抽出部、
前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出する動き検出部、及び、
前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定部、
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉監視システム、溶融炉監視方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶融炉の出滓口を連続的に撮影した複数の画像のそれぞれにおいて輝度の閾値による判定によってスラグ領域を抽出し、複数の画像において共通してスラグ領域が抽出された領域を固着スラグ領域として特定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-152652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、出滓口を流れるスラグの量や性状は設備ごとに異なるため、設備によってはスラグが同じ場所を連続的に流れ続ける状況が発生する。上記手法では、スラグが同じ場所を連続的に流れ続ける部分が固着スラグ領域と判定されるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、出滓口における固着スラグの判別精度向上を図ることが可能な溶融炉監視システム、溶融炉監視方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の溶融炉監視システムは、溶融炉の出滓口を連続的に撮影して時系列の複数の画像を生成するカメラと、輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出するスラグ候補領域抽出部と、前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出する動き検出部と、前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の態様の溶融炉監視方法は、カメラにより溶融炉の出滓口を連続的に撮影して時系列の複数の画像を生成し、輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出し、前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出し、前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する。
【0008】
また、本発明の他の態様のプログラムは、溶融炉の出滓口を連続的に撮影するカメラにより生成された時系列の複数の画像を取得する画像取得部、輝度の閾値による判定によって前記複数の画像におけるスラグ候補領域を抽出するスラグ候補領域抽出部、前記複数の画像において動きが検出された領域を、動き検出領域として検出する動き検出部、及び、前記スラグ候補領域のうちの前記動き検出領域を除いた領域を、固着スラグ領域として特定する固着スラグ領域特定部、としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、出滓口における固着スラグの判別精度向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る溶融炉監視システムの構成例を示す図である。
図2】処理装置の構成例を示す図である。
図3】カメラにより撮影される画像の例を示す図である。
図4】実施形態に係る溶融炉監視方法の手順例を示す図である。
図5】固着スラグ領域取得処理S4の具体的な手順例を示す図である。
図6図5に続く図である。
図7】S3の説明図である。
図8】S4-5aの説明図である。
図9】S4-5aの説明図である。
図10】S4-5b2,5b3の説明図である。
図11】S4-5b5,5b6の説明図である。
図12】S4-5b7の説明図である。
図13】S4-6の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る溶融炉監視システム100の構成例を示す図である。溶融炉監視システム100は、ガス化溶融炉200を監視するためのシステムである。溶融炉監視システム100は、処理装置1及びカメラ3を備えている。
【0013】
ガス化溶融炉200は、例えばゴミ処理施設に用いられるガス化溶融炉である。ガス化溶融炉200は、溶解炉21を備えている。ガス化炉(不図示)で熱分解された可燃性ガスと未燃分とが流入路23を通って溶融炉21の炉内に流入する。溶融炉21は、未燃分を高温で燃焼させ、その灰分を溶融させることでスラグを生成する。溶融したスラグは、溶融炉21の下部に形成された出滓口25から排出され、排出路27を通って溶融炉21の炉外に取り出される。
【0014】
溶融炉21の下方には、出滓口25を撮影するためのカメラ3が設けられている。カメラ3は、出滓口25の斜め下に配置されており、排出路27設けられた監視穴29を通じて出滓口25を撮影する。カメラ3は、出滓口25を連続的に撮影して時系列の複数のカメラ画像を生成し、処理装置1に出力する。時系列の複数のカメラ画像は、例えば動画データに含まれる複数の静止画像(フレーム)であってもよいし、所定の時間間隔で撮影して個別に生成された複数の静止画像であってもよい。
【0015】
処理装置1は、カメラ3から供給されるカメラ画像に基づいて、出滓口25に固着した固着スラグを特定し、出滓口25の開口率を計算する。算出された開口率のデータは、オペレータPに提示される、又はガス化溶融炉200の制御装置に送信される。開口率のデータを参照したオペレータP又は受信した制御装置は、出滓口25の開口率を改善するように各種操作を実行する。
【0016】
図2は、処理装置1の構成例を示すブロック図である。処理装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。処理装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0017】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0018】
処理装置1は、画像取得部11、スラグ候補領域抽出部12、位置ずれ補正部13、動き検出部14、動き検出領域補正部15、固着スラグ領域特定部16、及び開口率算出部17を備えている。これらの機能部は、処理装置1がプログラムに従って情報処理を実行することにより実現される。
【0019】
図3は、カメラ3により撮影されるカメラ画像の例を示す図である。カメラ画像に写る出滓口の範囲内には、炉内が見える開口部、溶融スラグ、及び固着スラグが現れている。このうち、溶融スラグと固着スラグは、輝度が近く判別が困難である。
【0020】
特許文献1の手法では、連続する複数の画像において共通してスラグ候補が抽出される領域を、固着スラグとして判別しているが、設備によってはスラグが同じ場所を連続的に流れ続ける状況が発生するため、当該手法では、そのような部分が固着スラグと判定され、開口率の計算精度が低下するおそれがある。
【0021】
そこで、本実施形態では、以下に説明するように、スラグ表面の動きに着目することで固着スラグの判別精度向上を図っている。
【0022】
図4は、溶融炉監視システム100において実現される、実施形態に係る溶融炉監視方法の手順例を示す図である。図5及び図6は、固着スラグ領域取得処理S4の具体的な手順例を示す図である。処理装置1は、プログラムに従って図4図6に示す情報処理を実行する。
【0023】
まず、処理装置1は、時刻tのカメラ画像Xcam(t)を取得、前処理を行い、画像Xrn(t)を得る(S1:画像取得部11としての処理)。後段の処理ではグレースケール画像の使用を前提とするため、前処理では、カメラ画像をグレースケール変換する。
【0024】
前処理としては、他にノイズ除去処理などを加えてもよい。ノイズ除去処理としては、例えばMedianフィルタ、Averageフィルタ、gaussianフィルタ、biliteralフィルタ、Openフィルタ、又はCloseフィルタ等がある。また、カメラ画像がインターレース画像であれば、インターレース解除処理(偶数列・偶数行又は奇数列・奇数行のデータのみ取得する)を行ってもよいし、カメラ画像がアナログ画像であれば、電気ノイズ起因で生成した縞模様を行毎又は列毎の投影輝度分布から検出し、補正を掛けてもよい。
【0025】
次に、処理装置1は、上記S1で得られた画像Xrn(t)で出滓口の位置を特定し、出滓口領域の中心が画像中心に来るよう補正した画像Xana(t)を得る(S2)。
【0026】
具体的には、<処理1>事前登録した出滓口形状マスク画像Mをテンプレートとして、Xrn(t)に対してテンプレートマッチング処理を行う、又は<処理2>出滓口の位置補正処理をした前時刻の画像Xana(t-1)をテンプレートとして、Xrn(t)に対してテンプレートマッチング処理を行うことで、画像Xrn(t)から出滓口領域を検出する。本実施形態では、一定時間Tspan経過する度に処理1を行い、処理1を行わないタイミングで処理2を行う。その後、検出した出滓口の外接矩形の中心(外接矩形の対角線交点)を画像の対角線交点に一致させるように画像を平行移動させて、補正した画像Xana(t)を得る。
【0027】
次に、処理装置1は、上記S2で得られた画像Xana(t)に基づいて、時刻tの固着スラグ候補領域S(t)を取得する(S3:スラグ候補領域抽出部12としての処理)。図7は、(a)解析元画像Xana(t)と(b)固着スラグ候補領域S(t)の例を示す図である。(b)の図では、白部分が固着スラグ候補領域S(t)を表す。
【0028】
本処理では、特許文献1と同様に、輝度の閾値による判定によって固着スラグ候補領域S(t)を抽出する。具体的には、カメラ画像の輝度ムラを抑制し、カメラ画像の輝度急変部を抽出し、カメラ画像から輝度急変部を除いて輝度ヒストグラムを計算し、輝度ヒストグラムに基づき閾値を自動決定し、二値化処理を実行して、輝度が閾値以下の領域を固着スラグ候補領域S(t)として抽出する。
【0029】
次に、処理装置1は、固着スラグ領域Y(t)取得処理を実行する(S4)。固着スラグ領域Y(t)取得処理では、溶融スラグの動き検出を利用して、固着スラグ候補領域S(t)から固着スラグと溶融スラグを判別し、固着スラグ領域Y(t)を取得する。ここでは、固着スラグ候補領域S(t)のうち、一定時間動きがなく検出され続けた部分を固着スラグ領域Y(t)と判別する。
【0030】
固着スラグ領域Y(t)取得処理S4については、図5及び図6のフロー図を用いて詳細を説明する。なお、本実施形態では当該処理を行うに当たって、長さNのリングメモリを3つ(RM1,RM2,RM3)用意している。
【0031】
図5に示すように、まず、処理装置1は、処理開始からの経過時間に従って、評価時刻長さTt1を設定する(S4-1)。具体的には、処理開始からの経過時間Tpが設定値未満である場合には、評価時刻長さTt1を評価時刻長さTt1とし、それ以外の場合には、評価時刻長さTt1を設定値Nとする。これは、リングメモリに十分なデータが蓄積されていないときに処理するデータ数を決めるための処理である。
【0032】
次に、処理装置1は、時刻t,時刻t-1の解析元画像Xana(t),Xana(t-1)と、時刻tの固着スラグ候補領域S(t)とを入手し、固着スラグ候補領域S(t)をリングメモリRM1に記録する(S4-2,3)。
【0033】
次に、処理装置1は、処理開始からの経過時間Tpが設定値Th1を超えているか否かを判定する(S4-4)。これは、十分な数の画像(T1枚以上の画像)がリングメモリRM1に蓄積されているか否かを判定するための処理である。
【0034】
処理開始からの経過時間Tpが設定値Th1を超えている場合(S4-4:YES)、処理装置1は、時刻t-Tt1~時刻tの画像を用いて、以下に説明する2つの処理、すなわち、固着スラグ候補領域S(t)であり続けた共通領域B(t)を求める処理S4-5a1~3と、溶融スラグの動きが検出された領域E(t)を求める処理S4-5b1~7とを行う。
【0035】
一方、処理開始からの経過時間Tpが設定値Th1を超えていない場合(S4-4:NO)、処理装置1は、時刻t-Tt1~時刻tにリングメモリRM1に記録された固着スラグ候補領域S(t-Tt1)~S(t)の画像の全てで共通する領域を論理積演算(And演算)で抽出して共通領域B(t)とし(S4-5c1)、その共通領域B(t)を固着スラグ領域Y(t)として出力する(S4-9b)。
【0036】
処理S4-5a1~3について説明する。本処理において、処理装置1は、固着スラグ候補領域S(t)であり続けた共通領域B(t)を求める(スラグ候補領域抽出部12としての処理)。特許文献1と同様の処理を行ってもよいが、ここでは開口率計算のさらなる精度改善のため、各時刻の固着スラグ候補領域S(t)における検出漏れを補正する(S4-5a1)。
【0037】
具体的には、まず、処理装置1は、リングメモリRM1に記録されている時刻t-1の固着スラグ候補領域S(t-1)の検出漏れ領域A(t-1)を次式から導出する(S4-5a1)。

A(t-1)=~S(t-1) and (S(t) and S(t-2))

ここで、and は論理積であり、~ は白黒画像を反転させるオペレータである。
【0038】
次に、処理装置1は、固着スラグ候補領域S(t-1)を次式で補正し、固着スラグ候補領域S(t-1)の検出漏れを除去する(S4-5a2)。

S(t-1)=S(t-1) or A(t-1)

ここで、or は論理和である。
【0039】
図8は、ステップS4-5a1~2の説明図である。(a)~(c),(e)の図では、白部分が固着スラグ候補領域S(t)を表す。(d)の図では、白部分が検出漏れ領域A(t-1)を表す。
【0040】
最後に、処理装置1は、上記補正を反映させた、時刻t-tT1~時刻tの固着スラグ候補領域S(t-Tt1)~S(t)全ての画像の論理積をとり、共通領域B(t)を得る(S4-5a3)。図9は、ステップS4-5a3の説明図である。以上の処理により、固着スラグ候補領域S(t)の共通領域B(t)を高精度に求めることができる。
【0041】
処理S4-5b1~7について説明する。本処理において、処理装置1は、溶融スラグの動きが検出された領域E(t)を求める。すなわち、本処理は、時刻t-tT1~時刻tに観測されたスラグ表面の模様が動いた領域の論理和を求め、その部位を溶融スラグとみなすものである。具体的には、以下手順で行われる。
【0042】
まず、処理装置1は、直前のフレームとの位置ずれを補正した画像Xana'(t)を取得する(S4-5b1:位置ずれ補正部13としての処理)。具体的には、時刻t-1の画像Xana(t-1)をテンプレートとして、時刻tの画像Xana(t)に対してテンプレートマッチングを行う。これにより画像間のずれを検出し、画像Xana(t)を補正して画像Xana'(t)を得る。この処理は、カメラの振動が発生したときにその影響を除外するために行われる。
【0043】
次に、処理装置1は、オプティカルフローにより溶融スラグの動きの変位量を検出する(S4-5b2:動き検出部14としての処理)。具体的には、時刻t-1の画像Xana(t-1)と時刻tの画像Xana'(t)を入力としてオプティカルフローを実行し、時刻t-1~時刻tの溶融スラグの動きの変位量を求める。オプティカルフローには、疎なオプティカルフローと密なオプティカルフローがあるが、本実施形態では密なオプティカルフローを用いることが好ましい。
【0044】
次に、処理装置1は、求めた変位量に対して閾値処理を掛けることにより、変位量が一定値以上の領域を抽出し、動き検出画像C(t-1)を取得する(S4-5b3:動き検出部14としての処理)。図10は、ステップS4-5b2,5b3の説明図である。(c)の図では、白部分が変位量が一定値以上の領域を表す。なお、動き検出の手法としては、オプティカルフローだけでなく、複数フレームから背景画像を統計的に推定して動き検出を行う背景差分法を用いてもよい。
【0045】
次に、処理装置1は、動き検出画像C(t-1)のノイズを除去し、動き検出画像C’(t-1)を得てメモリに記録する(S4-5b4)。ノイズの除去は、例えば微細動き検出漏れ除去(Closeフィルタ)、動き検出領域のにじみ除去(Erodeフィルタ)、微細動き検出領域除去(Openフィルタ)、又はA(t-1)を膨張させた領域の除去などである。これは、オプティカルフローによる動き検出結果に過検出や検出漏れがあることや動いているものの形状検出精度が低いために行われる。
【0046】
次に、処理装置1は、画像C’(t-1)内の動き検出領域を固着スラグ候補領域S(t-1)内で膨張させて画像D(t-1)を得て、リングメモリRM2に記録する(S4-5b5,6:動き検出領域補正部15としての処理)。図11は、ステップS4-5b5,5b6の説明図である。
【0047】
具体的には、(1)半径r’(スラグの最小領域幅より小さい値)で動き検出領域C(t-1)を膨張させ、(2)膨張後の動き検出領域C(t-1)から、固着スラグ候補領域S(t-1)との重複領域を消去する(固着スラグ候補領域を超えた膨張を防ぐ)。(3)上記(1),(2)の処理を、r’×n≦半径rを満たす最大のnまで繰り返す。(4)最後に、半径(r-(r’×n))で膨張させたのち、上記(2)の処理を行う。
【0048】
上記S4-5b4のノイズ除去処理は効果が強いため、動き検出領域C’(t-1)は実際に溶融スラグが動いている領域よりも小さいものとなる。そのため、膨張処理をかけて補正を行う。その際、上記(1)~(4)の手順で膨張させることで、動き検出領域を固着スラグ候補領域以上に膨張させないようにする。これにより、動き検出領域をスラグの形状を踏まえて補正できる。
【0049】
次に、処理装置1は、リングメモリRM2に記録されている時刻t-tT1~t-1の動き検出画像D(t-Tt1)~D(t-1)の論理和を計算し、動き検出積算画像E(t)を取得する(S4-5b7)。図12は、ステップS4-5b7の説明図である。このように、複数の時刻の画像の何れかにおいて動きが検出された領域を、動き検出積算領域として抽出することで、溶融スラグの動き領域を高精度に検出できる。
【0050】
次に、処理装置1は、固着スラグ候補の共通領域画像B(t)と動き検出積算画像E(t)との差分F(t)を求め、リングメモリRM3に記録する(S4-6:固着スラグ領域特定部16としての処理)。具体的には、次式により差分F(t)を求める。

F(t)=B(t) and ~E(t)

ここで、and は論理積であり、~ は白黒画像を反転させるオペレータである。
【0051】
図13は、ステップS4-5b7の説明図である。(a)の図では、白部分が固着スラグ候補の共通領域を表す。(b)の図では、白部分が動き検出積算領域を表す。(c)の図では、白部分が差分領域を表す。この処理は、固着スラグ候補の共通領域から動き検出積算領域を除外する処理である。すなわち、動きが検出されない固着スラグ候補領域が一定時間検出され続けた領域を抽出する処理である。
【0052】
次に、処理装置1は、一定期間前の差分F(t-Tt2)から時刻tの差分F(t)までに減少した固着スラグ候補の縮小領域G(t)を計算する(S4-7)。具体的には、次式により縮小領域G(t)を求める。

G(t)=F(t-Th2) and ~F(t) and(S(t-Th2) and S(t))

ここで、and は論理積であり、~ は白黒画像を反転させるオペレータである。Th2は設定値である。
【0053】
スラグの動き検出の効果で短時間に差分F(t)の領域が縮小した場合、スラグの動きを過検出している可能性がある。スラグの動きを過検出している場合は、動き検出結果を反映しない方が望ましいため、本処理では、差分F(t)の領域縮小を検出して、動き検出結果を反映するかしないかを決定する。
【0054】
次に、処理装置1は、出滓口の面積に対する縮小領域G(t)の面積の比率が、閾値Th3よりも小さいか否か判定する(S4-8)。求めた比率が閾値Th3よりも小さい場合(S4-8:YES)、処理装置1は、差分F(t)を固着スラグ領域Y(t)として出力する(S4-9a)。一方、求めた比率が閾値Th3以上である場合(S4-8:NO)、処理装置1は、動き検出結果を考慮していない共通領域B(t)を、固着スラグ領域Y(t)として出力する(S4-9b)。
【0055】
以上により、固着スラグ領域Y(t)取得処理S4が終了する。
【0056】
図4の説明に戻る。固着スラグ領域取得処理S4が終了すると、処理装置1は、固着スラグ領域Y(t)に基づいて出滓口の開口率を算出する(S5:開口率算出部17としての処理)。具体的には、出滓口の開口率は、事前登録した全開時出滓口形状面積に対する固着スラグ領域Y(t)の面積として、次式により求められる。

A=(H-S)/H

ここで、Aは出滓口開口率であり、Hは全開時出滓口形状面積であり、Sは固着スラグ領域面積である。
【0057】
以上の手順により、出滓口開口率が計算される。もし開口率Aが閾値Tより小さい場合は、処理装置1はアラームを発令する。このアラームに基づき、オペレータ又は制御装置はスラグ除去を行う。これにより、従来は人間が判断していたスラグ除去の判断を自動化することができる。
【0058】
以上に説明した実施形態によれば、溶融スラグの動きを検出して固着スラグと溶融スラグを判別するので、判別精度の向上を図ることが可能となる。また、動き検出領域を固着スラグ候補領域内で膨張させること等により、溶融スラグの動きの検出精度の向上を図ることも可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0060】
1 処理装置、11 画像取得部、12 スラグ候補領域抽出部、13 位置ずれ補正部、14 動き検出部、15 動き検出領域補正部、16 固着スラグ領域特定部、17 開口率算出部、2 ガス化溶融炉、21 溶解炉、23 流入路、25 出滓口、27 排出路、29 監視穴、3 カメラ、100 溶融炉監視装置、200 ガス化溶融炉

図1
図2
図3
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図13