(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20231201BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20231201BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231201BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20231201BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231201BHJP
C09D 165/00 20060101ALI20231201BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20231201BHJP
H01B 1/12 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
C08L65/00
C08G61/12
C08J5/18 CEZ
C08L25/06
C08L101/12
C09D165/00
H01B13/00 503C
H01B1/12 F
(21)【出願番号】P 2020124429
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508954(JP,A)
【文献】特開2017-171920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00-65/04
C08G 61/00-61/12
C08L 25/06
C08L 101/00-101/16
C09D 165/00
C08J 5/18
H01B 1/20
H01B 13/00
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アルキルスルホン酸と、分散媒とを含有する、
導電性高分子含有液であり、
前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンとして、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸のみを含む、導電性高分子含有液。
【請求項2】
前記アルキルスルホン酸が前記π共役系導電性高分子に結合し、前記導電性複合体に含まれている、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記ポリアニオンが、アミン化合物との反応によって修飾されている、請求項1
又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
前記ポリアニオンが、エポキシ化合物との反応によって修飾されている、請求項1
又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
前記ポリアニオンが、エポキシ化合物及びアミン化合物との反応によって修飾されている、請求項1
又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~
5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、
前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子含有液を得ることを含む、
導電性高分子含有液の製造方法であり、
前記導電性高分子含有液は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンとして、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸のみを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項8】
アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、
前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子分散液を得た後、
得られた前記導電性高分子分散液に、アミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加し、前記導電性複合体を析出させることと、
析出した前記導電性複合体を回収し、溶剤を加え、導電性高分子含有液を得ることと、を含む、
導電性高分子含有液の製造方法であり、
前記導電性高分子含有液は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンとして、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸のみを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項9】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。しかし、導電性複合体を含む導電層は、大気暴露によって導電性が経時的に低下する問題がある。この問題を軽減する方法として、導電層に酸化防止剤を含有させる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された発明に代わる新たな導電性高分子含有液が求められている。
本発明は、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電性フィルムを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アルキルスルホン酸と、分散媒とを含有する、導電性高分子含有液。
[2] 前記アルキルスルホン酸が前記π共役系導電性高分子に結合し、前記導電性複合体に含まれている、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記ポリアニオンが、アミン化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記ポリアニオンが、エポキシ化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記ポリアニオンが、エポキシ化合物及びアミン化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子含有液を得ることを含む、導電性高分子含有液の製造方法。
[9] アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子分散液を得た後、得られた前記導電性高分子分散液に、アミン化合物及びエポキシ化合物のうち少なくとも一方を添加し、前記導電性複合体を析出させることと、析出した前記導電性複合体を回収し、溶剤を加え、導電性高分子含有液を得ることと、を含む、導電性高分子含有液の製造方法。
[10] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子含有液及びこれを用いた導電性フィルムの製造方法によれば、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造できる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、上記の導電性高分子含有液を容易に製造できる。
【0007】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アルキルスルホン酸と、分散媒とを含有する、導電性高分子含有液である。
本態様の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0010】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0011】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0012】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0013】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、後述するようにエポキシ基含有化合物やアミン化合物と反応させる前の状態では、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0014】
本発明のポリアニオンは、ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)と、エポキシ基含有化合物及びアミン化合物の少なくとも何れか一方との反応物であってもよい。すなわち、本発明のポリアニオンは、エポキシ基含有化合物と一部のアニオン基の反応によって形成された置換基(A)と、アミン化合物と一部のアニオン基との反応によって形成された置換基(B)との何れか一方又は両方を有していてもよい。
【0015】
(置換基A)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0016】
【0017】
[式(A1)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0018】
【0019】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR5、複数のR6、複数のR7、及び複数のR8はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR5は同一でも異なっていてもよく、複数のR6は同一でも異なっていてもよく、複数のR7は同一でも異なっていてもよく、複数のR8は同一でも異なっていてもよい。]
【0020】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SO3H」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0021】
式(A1)において、R1、R2、R3、及びR4の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R1とR3とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R1とR3とが前記炭化水素基であり、R1の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R3の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R5、R6、R7、及びR8の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R5とR7とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0022】
エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物(エポキシ化合物)である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
前記導電性複合体と反応するエポキシ基含有化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0023】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0025】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0026】
エポキシ基含有化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2,000以下であることが好ましい。また、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ基含有化合物は、炭素数が4以上120以下のものが好ましく、7以上100以下のものがより好ましく、10以上80以下のものがさらに好ましく、15以上50以下のものが特に好ましい。
【0027】
(置換基B)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0028】
-HN+R11R12R13 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0029】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0030】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0031】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記導電性複合体と反応するアミン化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子含有液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0032】
有機溶剤への分散性、特に、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。
【0033】
ポリアニオンが置換基(A)及び置換基(B)を有する場合、[置換基(A)]:[置換基(B)]で表される質量比(以下、A/B比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/B比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)-(エポキシ基含有化合物と反応させる前の導電性複合体の質量)]で算出することができる。また、[置換基(B)が結合したアニオン基]の質量は、[(前記反応物Aとアミン化合物とを反応させて得られる反応物Bの質量)-(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)]から算出することができる。
【0034】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基にエポキシ基含有化合物やアミン化合物を反応させる際に疎水性に容易に変換できる。
【0035】
導電性高分子含有液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下が特に好ましい。
【0036】
<アルキルスルホン酸>
本態様の導電性高分子含有液に含まれるアルキルスルホン酸は、直鎖状又は分岐鎖状のアルカンを骨格として、前記アルカンに結合する水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基によって置換された化合物である。アルキルスルホン酸は、前記ポリアニオン以外の化合物である。
アルキルスルホン酸は、ポリアニオンと同様にπ共役系導電性高分子にドーパントとして結合し得る。ドーパントとして機能する場合にはスルホン酸基がアニオン基としてドープすると考えられる。アルキルスルホン酸がドープすることが、後述する導電層の大気暴露耐性の向上において好ましいが、ドープせずに単に添加剤として導電性高分子含有液に含まれているだけでもよい。アルキルスルホン酸のスルホン酸基は、前述したポリアニオンと同様に、エポキシ基含有化合物又はアミン化合物と反応して修飾されていてもよい。
【0037】
前記アルカン骨格の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~4が特に好ましい。
上記の好適な範囲の炭素数であると、導電性高分子含有液におけるアルキルスルホン酸の溶解性が高まり、結果として導電層の導電性及び大気暴露耐性をより高めることができる。
【0038】
前記アルカン骨格は、直鎖状であることが好ましい。直鎖状であることにより、π共役系導電性高分子に対するドープが容易となり、結果として導電層の導電性及び大気暴露耐性をより高めることができる。
【0039】
前記アルキルスルホン酸の好適な具体例としては、例えば、1-メタンスルホン酸、1-エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸等が挙げられる。
【0040】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるアルキルスルホン酸は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
本態様の導電性高分子含有液に含まれるアルキルスルホン酸の合計の含有量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上5000質量部以下が好ましく、5質量部以上1000質量部以下がより好ましく、10質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、後述する導電層の導電性及び大気暴露耐性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の含有割合低下による導電性低下を抑制することができる。
【0041】
<分散媒>
本態様の導電性高分子含有液に含まれる分散媒は、前述した導電性複合体と、アルキルスルホン酸とを分散又は溶解する液剤である。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。よって、前記分散媒を溶媒と言い換えてもよい。
【0042】
前記分散媒は、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方を含む。
導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体は、前述したように疎水化されていてもよいし、疎水化されていなくてもよい。疎水化されている場合には、分散媒として有機溶剤を用いることが好ましい。疎水化されていない場合には、分散媒として水系分散媒を用いることが好ましい。
【0043】
(有機溶剤)
本態様における有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0044】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子含有液のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤、ケトン系溶剤又はエステル系溶剤が好ましい。
【0045】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子含有液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0046】
本態様の導電性複合体が前記置換基(A)又は前記置換基(B)を有し、疎水化されている場合、導電性高分子含有液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%超であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99.9質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲であると、疎水化された導電性複合体を容易に分散させることができ、容易に導電層を形成するこができる。
【0047】
(水系分散媒)
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%以上であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0048】
(エステル系溶剤)
前記エステル系溶剤は、エステル基(-C(=O)-O-)を有するエステル基含有化合物である。
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤(エステル基含有化合物)を含む場合、導電性複合体の分散性を高める観点から、下記式1で表される1種類以上のエステル基含有化合物を含むことが好ましい。
式1:R21-C(=O)-O-R22
[式中、R21は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、R22は炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0049】
本態様の導電性複合体の分散性を高める観点から、R21はメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R22の炭素数は2~5が好ましく、2~4がより好ましい。
【0050】
前記エステル基含有化合物の好適な具体例としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
【0051】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるエステル基含有化合物の含有量は、前記分散媒の総質量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより一層好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。エステル基含有化合物の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0052】
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤を含む場合、エステル系溶剤以外の有機溶剤がさらに1種類以上含まれていても構わない。
【0053】
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤を含む場合、前記導電性複合体の分散性を高める観点から、前記導電性複合体は前記置換基(A)及び前記置換基(B)を有することが好ましい。
【0054】
<バインダ成分>
本態様の導電性高分子含有液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
導電性高分子含有液の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0056】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0057】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0058】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0059】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0060】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0061】
導電性高分子含有液におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。また、導電層の大気暴露耐性をより高めることができる。
上記範囲の上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0062】
(その他の添加剤)
導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の導電性高分子含有液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0063】
本態様の導電性高分子含有液はアルキルスルホン酸を含むのでpHが酸性となり易い。具体的には、pH3以下となり易く、pH2以下となり易い。
【0064】
≪導電性高分子含有液の製造方法1≫
本発明の第二態様は、アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子含有液(導電性高分子分散液と呼んでもよい。)を得る工程(重合工程)を含む、導電性高分子含有液の製造方法である。
本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子含有液を製造することができる。
【0065】
前記反応液における導電性複合体の合成は、前記反応液にアルキルスルホン酸が含まれること以外は、従来の導電性複合体の合成と同様にして行うことができる。
【0066】
前記反応液に含まれる前記分散媒は、前記水系分散媒が好ましく、水がより好ましい。
前記分散媒が水を含むことにより、前記モノマーの重合反応が安定して進行し、得られた導電性複合体が分散媒中で安定に分散された状態で得られる。
【0067】
前記モノマーを化学酸化することによって前記モノマー同士を重合させることができる。化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0068】
前記反応液の総質量に対するアルキルスルホン酸の含有量としては、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、目的の導電性高分子含有液において、導電性複合体とアルキルスルホン酸の含有比を、前述した好適な範囲に調整することが容易となる。
【0069】
重合反応開始直前の前記反応液の総質量に対する前記モノマーの含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
重合反応開始直前の前記反応液の総質量に対する前記ポリアニオンの含有量は、例えば、0.2質量%以上10質量%以下が好ましく、0.4質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.6質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲とすることにより、導電性複合体の濃度を前述した好適な含有量とした導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0070】
重合反応により形成する導電性複合体において、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンの含有割合を、前述した好適な割合にする観点から、重合反応開始直前における前記反応液に含まれる前記モノマーと前記ポリアニオンの含有割合は、前記モノマー100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。
【0071】
前記モノマーの化学酸化重合によりπ共役系導電性高分子を合成することにより、目的の第一態様の導電性高分子含有液を得ることができる。
【0072】
前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を、前記モノマーの化学酸化重合の後で、導電性高分子含有液から除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子含有液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子含有液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0073】
第一態様の導電性高分子含有液は、上述した本発明の第二態様以外の方法で得ることもできる。例えば、市販のπ共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体の含有液に対して、アルキルスルホン酸を適量添加する方法が挙げられる。しかし、既に導電性複合体が完成した状態でアルキルスルホン酸を添加しても、アルキルスルホン酸がπ共役系導電性高分子に対して結合し難いことがある。
一方、本発明の第二態様の方法で製造すると、π共役系導電性高分子の化学酸化重合時にアルキルスルホン酸が存在するので、アルキルスルホン酸がポリアニオンとともにπ共役系導電性高分子に結合し易くなる。この結果、大気暴露耐性に優れた導電層を形成可能な本発明の第一態様の導電性高分子含有液が確実に得られる。
【0074】
以上で得られた導電性高分子含有液に、さらにバインダ成分を添加してもよい。バインダ成分の種類及び含有量は第一態様で説明した好適な範囲を適用することが好ましい。
【0075】
≪導電性高分子含有液の製造方法2≫
本発明に関する別の態様は、アルキルスルホン酸と、ポリアニオンと、分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子と前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記アルキルスルホン酸と、前記分散媒とを含む導電性高分子含有液(導電性高分子分散液と呼んでもよい。)を得る工程(重合工程)と、得られた導電性高分子含有液にエポキシ基含有化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方を添加することにより、前記導電性複合体とエポキシ基含有化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方との反応生成物を析出させ、析出した前記反応生成物を回収する工程(析出回収工程)と、回収した前記反応生成物に溶剤を加えることにより、導電性高分子含有液を得る工程(有機溶剤添加工程)と、を含む導電性高分子含有液の製造方法である。
本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子含有液を製造することができる。
【0076】
本態様の製造方法は、重合工程と析出回収工程との間に前記重合に用いた前記酸化剤及び前記触媒を除去する処理を行ってもよい。また、析出回収工程と有機溶剤添加工程との間に洗浄工程をさらに有してもよい。また、有機溶剤添加工程後に、バインダ成分添加工程をさらに有してもよい。
【0077】
[重合工程]
本工程の説明は前述した第二態様の導電性高分子含有液の製造方法の説明と同様であるので重複する説明は省略する。
【0078】
[析出回収工程]
析出回収工程は、水系分散媒を含む導電性高分子分散液にエポキシ基含有化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方を添加し、導電性複合体を析出させ、前記析出物を濾過又はデカンテーションにより回収する工程である。
導電性高分子分散液にエポキシ基含有化合物を添加すると、エポキシ基含有化合物のエポキシ基が、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(A)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。この際、エポキシ基含有化合物の一部がアルキルスルホン酸と反応しても構わない。
エポキシ基含有化合物の添加の際には反応促進のために加熱してよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
エポキシ基含有化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤、特に炭化水素系溶剤及びエステル系溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のエポキシ基含有化合物による導電性低下を防止できる。
【0079】
導電性高分子分散液にエポキシ基含有化合物又はアミン化合物を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。添加する有機溶剤は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0080】
導電性高分子分散液にアミン化合物を添加すると、アミン化合物がポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(B)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。この際、アミン化合物の一部がアルキルスルホン酸と反応しても構わない。
アミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、50質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤、特に炭化水素系溶剤及びエステル系溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のアミン化合物による導電性低下を防止できる。
【0081】
析出回収工程において、エポキシ基含有化合物とアミン化合物の両方を添加する場合、これらを添加する順序は特に限定されない。合成中間体(反応中間体)の取り扱いが容易であることから、導電性高分子分散液にエポキシ基含有化合物を添加して、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応させた後、アミン化合物を添加してポリアニオンの一部のアニオン基と反応させることが好ましい。
【0082】
析出回収工程によって得られる析出物の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で析出物を洗い流す方法、析出物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0083】
[洗浄工程]
析出回収工程と有機溶剤添加工程との間の洗浄工程は、洗浄用有機溶剤で前記析出物を洗浄する工程である。この洗浄工程によって、残留する水、未反応のエポキシ基含有化合物、未反応のアミン化合物、エポキシ基含有化合物とアミン化合物との反応物、及び、エポキシ基含有化合物の加水分解物を除去する。
洗浄用有機溶剤は、析出物を溶解せずに洗浄可能なものが好適に使用される。洗浄用有機溶剤に含まれる有機溶剤は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して析出物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出物を攪拌して析出物を洗浄してもよい。
【0084】
[有機溶剤添加工程]
有機溶剤添加工程は、前記析出した反応生成物(析出物)に有機溶剤を添加して調製液を得る工程である。
有機溶剤は、第一態様の導電性高分子含有液に含まれる有機溶剤を適用することができる。なかでも、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤から選択される1種類以上が好ましく、イソプロパノール、メチルエチルトン、及び酢酸エチルから選択される1種類以上がより好ましい。これらの好適な有機溶剤を用いることにより、調製液において析出物の分散性をより一層高めることができる。
前記有機溶剤に含まれる各溶剤の含有量は、第一態様で例示した好ましい範囲であることが好ましい。
【0085】
析出物に有機溶剤を添加した後には調製液を攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0086】
本態様の製造方法が後述する[バインダ成分添加工程]を有さない場合には、有機溶剤添加工程において得られた調製液が導電性高分子含有液となる。
【0087】
[バインダ成分添加工程]
バインダ成分添加工程は、前記調製液に、前記バインダ成分を添加する工程である。本工程において、前記バインダ成分とともに任意の有機溶剤を添加してもよい。
調製液に前記バインダ成分を添加した後には攪拌して、前記バインダ成分の分散性を高めることが好ましい。
【0088】
[添加剤の添加]
その他の添加剤を導電性高分子含有液に含有させる場合には、有機溶剤添加工程、及びバインダ成分添加工程のいずれか1つ以上の工程において添加すればよい。
【0089】
≪導電性フィルム及びその製造方法≫
本発明の第三態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液を塗工し、塗膜を形成する工程を含む、導電性フィルムの製造方法である。
【0090】
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0091】
(導電性フィルム)
本態様の導電性フィルムが備える導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する。導電層にはアルキルスルホン酸、或いはアルキルスルホン酸と前記エポキシ基含有化合物又は前記アミン化合物との反応生成物が含まれる。
フィルム基材に塗布した導電性高分子含有液が、バインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分若しくはバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、優れた導電性を示し、前記上限値以下であれば、フィルム基材から剥離し難い導電層となる。
導電層の平均厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0092】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0093】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0094】
(塗工工程)
導電性高分子含有液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
前記導電性高分子含有液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0095】
(乾燥工程)
塗工工程で形成した塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
前記導電性高分子含有液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm2以上が好ましい。照度が100mW/cm2未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【実施例】
【0096】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0097】
(実施例1)
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、1.5gのポリスチレンスルホン酸を15.0gのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。次に、メタンスルホン酸の10質量%水溶液5gと、イオン交換水84.5gを添加した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、0.03gの過硫酸アンモニウムを4.97gのイオン交換水に溶かした酸化剤溶液と、1.1gの硫酸第二鉄を8.9gのイオン交換水に溶かした触媒溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、前記π共役系導電性高分子に結合したメタンスルホン酸と、分散媒である水とを含む導電性高分子分散液(導電性高分子含有液)を得た。
この導電性高分子分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去された導電性高分子分散液を得た。得られた導電性高分子分散液の固形分(不揮発成分)の質量とpHを測定した結果を表1に示す。
次に、得られた導電性高分子分散液5gにメタノール5gを添加して得た塗料(導電性高分子含有液)を、#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0098】
(実施例2)
メタンスルホン酸水溶液の添加量を5gから10gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから79.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0099】
(実施例3)
メタンスルホン酸水溶液の添加量を5gから15gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから74.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0100】
(実施例4)
メタンスルホン酸水溶液(濃度10質量%)5gの代わりに、エタンスルホン酸水溶液(濃度10質量%)5gを添加した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
ここで得た導電性高分子分散液は、PEDOT-PSSと、PEDOTに結合したエタンスルホン酸と、分散媒である水と、を含む導電性高分子分散液である。得られた導電性高分子分散液の固形分とpHを測定した結果を表1に示す。
【0101】
(実施例5)
エタンスルホン酸水溶液の添加量を5gから10gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから79.5gに変更した以外は、実施例4と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0102】
(実施例6)
エタンスルホン酸水溶液の添加量を5gから15gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから74.5gに変更した以外は、実施例4と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0103】
(比較例1)
メタンスルホン酸水溶液5gを添加せず、イオン交換水の添加量を84.5gから89.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
ここで得た導電性高分子分散液は、PEDOT-PSSと、分散媒である水と、を含む導電性高分子分散液である。得られた導電性高分子分散液の固形分とpHを測定した結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
メタンスルホン酸水溶液(濃度10質量%)5gの代わりに、硫酸水溶液(濃度10質量%)5gを添加した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
ここで得た導電性高分子分散液は、PEDOT-PSSと、分散媒である水と、を含む導電性高分子分散液である。得られた導電性高分子分散液の固形分とpHを測定した結果を表1に示す。
【0105】
(比較例3)
硫酸水溶液の添加量を5gから10gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから79.5gに変更した以外は、比較例2と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0106】
(比較例4)
硫酸水溶液の添加量を5gから15gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから74.5gに変更した以外は、比較例2と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0107】
(比較例5)
メタンスルホン酸水溶液(濃度10質量%)5gの代わりに、パラトルエンスルホン酸水溶液(濃度10質量%)5gを添加した以外は、実施例1と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0108】
(比較例6)
パラトルエンスルホン酸水溶液の添加量を5gから10gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから79.5gに変更した以外は、比較例5と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0109】
(比較例7)
パラトルエンスルホン酸水溶液の添加量を5gから15gに変更し、イオン交換水の添加量を84.5gから74.5gに変更した以外は、比較例5と同様にして導電性高分子分散液を得て、導電性フィルムを作製した。
【0110】
(比較例8)
実施例3においてポリスチレンスルホン酸を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様にして反応を行ったが、π共役系導電性高分子(PEDOT)と考えられる青色の固体が析出し、イオン交換樹脂と共に青色の固体がすべてろ取されたため、中止した。
【0111】
(比較例9)
実施例6においてポリスチレンスルホン酸を添加しなかったこと以外は、実施例6と同様にして反応を行ったが、π共役系導電性高分子(PEDOT)と考えられる青色の固体が析出し、イオン交換樹脂と共に青色の固体がすべてろ取されたため、中止した。
【0112】
(実施例7)
実施例1で得た導電性高分子分散液5gに、メタノール4gとプラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)1gを添加し、塗料を得た。この塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0113】
(実施例8)
実施例4で得た導電性高分子分散液5gに、メタノール4gとプラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)1gを添加し、塗料(導電性高分子含有液)を得た。この塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0114】
(比較例10)
比較例1で得た導電性高分子分散液5gに、メタノール4gとプラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)1gを添加し、塗料を得た。この塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0115】
(比較例11)
比較例2で得た導電性高分子分散液5gに、メタノール4gとプラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)1gを添加し、塗料を得た。この塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0116】
(比較例12)
比較例5で得た導電性高分子分散液5gに、メタノール4gとプラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)1gを添加し、塗料を得た。この塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0117】
(実施例9)
実施例3の導電性高分子分散液100gに、イソプロパノール50gと、トリオクチルアミン10gとを添加し、1時間攪拌した。ここで、π共役系導電性高分子とポリアニオンとメタンスルホン酸とトリオクチルアミンの反応物が析出し、すべて溶液上層に浮遊したことを確認した。
得られた反応液を濾過し、前記反応物の粉体1.6gを得た。得られた粉体に498.4gのイソプロパノールを加え、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、500gの導電性複合体のイソプロパノール溶液(導電性高分子含有液)を得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0118】
(比較例13)
実施例3の導電性高分子分散液100gを比較例1の導電性高分子分散液100gに変えたこと以外は、実施例9と同様にして、1.6gの粉体を得た。得られた粉体に498.4gのイソプロパノールを加え、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、導電性複合体のイソプロパノール溶液500gを得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0119】
(実施例10)
実施例3の導電性高分子分散液100gに、メタノール300g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。ここで、π共役系導電性高分子とポリアニオンとメタンスルホン酸とエポキシ化合物の反応物が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.6gの粉体を得た。
次に、298.4gのメチルエチルケトンに上記の粉体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、導電性複合体のメチルエチルケトン溶液(導電性高分子含有液)300gを得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0120】
(比較例14)
実施例3の導電性高分子分散液100gを比較例1の導電性高分子分散液100gに変えたこと以外は、実施例10と同様にして1.6gの粉体を得た。次に、298.4gのメチルエチルケトンに上記の粉体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、導電性複合体のメチルエチルケトン溶液300gを得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0121】
(実施例11)
実施例3の導電性高分子分散液100gに、メタノール300g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。次に、イソプロパノール100gとトリオクチルアミン1gを添加し、室温で1時間攪拌した。ここで、π共役系導電性高分子とポリアニオンとメタンスルホン酸とエポキシ化合物とアミン化合物の反応物が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.7gの粉体を得た。
次に、798.3gの酢酸エチルに上記の粉体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、導電性複合体の酢酸エチル溶液(導電性高分子含有液)800gを得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0122】
(比較例15)
実施例3の導電性高分子分散液100gを比較例1の導電性高分子分散液100gに変えたこと以外は、実施例11と同様にして1.7gの粉体を得た。次に、798.3gの酢酸エチルに上記の粉体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、導電性複合体の酢酸エチル溶液800gを得た。この溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0123】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「1.0E+05」は「1.0×105」を意味し、他も同様である。
表面抵抗値の測定は、導電性フィルムの製造直後(R0)と、24時間大気に暴露した大気暴露後(R1)の両方を行った。各測定結果を表1に示す。
【0124】
[pHの測定]
各例で作製した導電性高分子含有液について、市販のpHメーターを用いて常法により、温度20℃でのpHを測定した。各測定結果を表1に示す。
【0125】
【0126】
<結果>
アルキルスルホン酸を含む実施例1~6の導電性高分子含有液を用いて作製した導電性フィルムの大気暴露耐性は著しく向上した。さらにバインダ成分を含む実施例7~8の導電性フィルムの大気暴露耐性は格段に向上した。導電性複合体が、アミン化合物又はエポキシ化合物によって修飾されている場合にも大気暴露耐性が充分に向上した。
比較例1ではアルキルスルホン酸を含まなかったので、大気暴露後の導電性が大きく低下した。比較例2~7では硫酸又はパラトルエンスルホン酸を添加したことによって、大気暴露耐性が少し向上したが、実施例と比べて劣っていた。比較例8~9では、そもそも水系溶媒に分散可能な導電性複合体が得られなかった。比較例10~12では、バインダ成分の添加により大気暴露耐性が少し向上したが、実施例と比べて劣っていた。比較例13~15では、導電性複合体が、アミン化合物又はエポキシ化合物によって修飾されたことにより大気暴露耐性が少し向上したが、実施例と比べて劣っていた。
以上の結果から、アルキルスルホン酸を含むことにより、導電性複合体を含む導電層の大気暴露耐性が著しく向上することが明らかである。