(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】電解コンデンサの製造方法および電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20231201BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20231201BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20231201BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20231201BHJP
H01G 9/012 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 F
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/012 309
(21)【出願番号】P 2020156087
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳場 康弘
(72)【発明者】
【氏名】勝又 悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-072132(JP,A)
【文献】特開2016-082053(JP,A)
【文献】特開2020-119916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
H01G 9/012
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部引出電極用のリード端子を接続した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより巻回素子を作製する巻回素子作製工程と、
当該巻回素子の、前記陽極箔の切断された断面および前記リード端子との取り付け部を化成処理する化成処理工程と、
化成処理後の巻回素子を、導電性高分子が水に分散した分散液または導電性高分子溶液に浸漬して、前記導電性高分子からなる導電性高分子層を形成させてコンデンサ素子を作製する導電性高分子形成工程と、
当該コンデンサ素子と電解液を有底筒状の金属ケース内に収納し、当該金属ケースの開口部を封止する封止工程と、
エージング処理工程と
を有する電解コンデンサの製造方法において、
前記導電性高分子形成工程は、前記分散液または導電性高分子溶液に浸漬した後の巻回素子を乾燥した後、
前記導電性高分子を完全に固化させる前に、前記巻回素子をポリグリセリン溶液中に、当該巻回素子の上面よりも上方の前記リード端子
の丸棒部まで浸漬させ
、当該丸棒部に付着した導電性高分子を除去した後、前記ポリグリセリン溶液から取り出して乾燥
を行い、前記導電性高分子を完全に固化させて前記導電性高分子層を形成させることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記ポリグリセリン溶液は、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール
、またはエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールの2以上の溶媒の混合物を溶媒とすることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記ポリグリセリン溶液は、エチレングリコールを溶媒とし、ポリグリセリン濃度が1~30重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
外部引出電極用リード端子が丸棒部の一方を加工した扁平部と丸棒部の他方に溶接されたリード線からなり、前記リード端子の扁平部を接続した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回した巻回素子と、前記セパレータに保持された導電性高分子と電解液とを備えた電解コンデンサにおいて、
前記リード端子の丸棒部が、
導電性高分子層を有さず、ポリグリセリン被膜によって被覆されていることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項5】
前記巻回素子の外周は、前記巻回素子の前記リード端子引出方向を上方としたとき、前記巻回素子の下方端より上方側に前記巻回素子高さの1/3~2/3まで前記導電性高分子で覆われていることを特徴とする請求項4に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサの製造方法および電解コンデンサ、特に導電性高分子と電解液を併用するハイブリッドアルミニウム電解コンデンサの製造方法およびハイブリッドアルミニウム電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解コンデンサは、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属からなる、エッチングピットや微細孔を持つ陽極電極の表面上に誘電体となる酸化皮膜層を形成した後、この酸化皮膜層上に電解質層を形成し、電極を引き出して構成される。
このように形成した電解質層が真の陰極であり、電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼすことから、従来から種々の方法により電解質層を形成することが提案されている。
【0003】
中でも、固体電解コンデンサは、高周波領域でインピーダンス特性を改善するために、イオン伝導性である液状の電解質に替えて、電子伝導性である固体の電解質を用いるものである。例えば、かかる固体電解質として7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体を用い、このTCNQ錯体を熱溶融して陽極電極に浸漬、塗布し、固体電解質層を形成したものや、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子を固体電解質として用いたものが公知である。導電性高分子の形成方法としては、モノマーとドーパントを用いて陽極電極上で化学重合や電解重合により導電性高分子を形成する方法と、導電性高分子を溶媒に分散させた分散液または導電性高分子を溶解させた導電性高分子溶液を陽極電極に浸漬、塗布し、溶媒を除去して形成する方法が知られている。
【0004】
ところで、かかる固体電解コンデンサにおいては、その漏れ電流(Leakage Current, LC)を低くするために、所定の条件下で、当該電解コンデンサの両電極間に所定の電圧を適切な時間だけ印加することによるエージング処理がなされるのが一般的であり、例えば、下記の特許文献1には、エージング後の常温放置中に漏れ電流が増大する固体電解コンデンサを予め排除するために、エージング工程の後に100~150℃で1~5分放置し、その後に漏れ電流を測定して、その値が規定値以上のものを不良品として排除することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法が開示されている。
【0005】
また、近年では自動車等の分野において、電解質に導電性高分子および電解液を用いたハイブリッド型のコンデンサ(以下「ハイブリッドコンデンサ」という)が使用されているが、ハイブリッドコンデンサの陰極層である導電性高分子層を形成する際にも、導電性高分子を水に分散させた分散液または導電性高分子溶液が用いられている。
しかしながら、封口ゴムが装着されていない素子に分散液や導電性高分子溶液を含浸する場合、導電性高分子が上方側に這い上がりリード端子の丸棒部に付着することがある。これは、分散液や導電性高分子溶液に対する素子の浸漬深さを浅くしても導電性高分子の浸透が起こるからであり、丸棒部への導電性高分子の付着を完全に抑制することはできない。そして、分散液や導電性高分子溶液を含浸させた後に高温で乾燥を行って導電性高分子を固化させるが、固化した導電性高分子を丸棒部から除去することは難しく、漏れ電流の低減が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における上記の問題点を解決し、リフロー前後の漏れ電流(LC)の変動が小さい電解コンデンサ、特にハイブリッドアルミニウム電解コンデンサを提供すること、およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者等は種々検討を行った結果、導電性高分子を完全固化させる前の巻回素子を、ポリグリセリン溶液中に、当該素子の上面(巻回によって形成されるコンデンサ素子のリード端子側の円平面、
図2の符号5を参照)よりも上方の部分、すなわちリード端子の丸棒部まで浸漬させることにより、漏れ電流を改善することができることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題点を解決可能な本発明の電解コンデンサの製造方法は、外部引出電極用のリード端子を接続した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより巻回素子を作製する巻回素子作製工程と、
当該巻回素子の、前記陽極箔の切断された断面および前記リード端子との取り付け部を化成処理する化成処理工程と、
化成処理後の巻回素子を、導電性高分子が水に分散した分散液または導電性高分子溶液に浸漬して、前記導電性高分子からなる導電性高分子層を形成させてコンデンサ素子を作製する導電性高分子形成工程と、
当該コンデンサ素子と電解液を有底筒状の金属ケース内に収納し、当該金属ケースの開口部を封止する封止工程と、
エージング処理工程と
を有する電解コンデンサの製造方法において、
前記導電性高分子形成工程は、前記分散液または導電性高分子溶液に浸漬した後の巻回素子を乾燥した後、当該巻回素子をポリグリセリン溶液中に、当該巻回素子の上面よりも上方の前記リード端子まで浸漬させた後、前記ポリグリセリン溶液から取り出して乾燥させ、前記導電性高分子層を形成させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の特徴を有した電解コンデンサの製造方法において、前記ポリグリセリン溶液は、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびこれらの混合物を溶媒とすることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、上記の特徴を有した電解コンデンサの製造方法において、前記ポリグリセリン溶液は、エチレングリコールを溶媒とし、ポリグリセリン濃度が1~30重量%であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明は、外部引出電極用リード端子が丸棒部の一方を加工した扁平部と丸棒部の他方に溶接されたリード線からなり、前記リード端子の扁平部を接続した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回した巻回素子と、前記セパレータに保持された導電性高分子と電解液とを備えた電解コンデンサにおいて、前記リード端子の丸棒部が、ポリグリセリン被膜を有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、上記の特徴を有した電解コンデンサにおいて、前記巻回素子の外周は、前記巻回素子の前記リード端子引出方向を上方としたとき、前記巻回素子の下方端より上方側に前記巻回素子高さの1/3~2/3まで前記導電性高分子で覆われていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リフロー前後のLC変動の少ない電解コンデンサ、特にハイブリッドアルミニウム電解コンデンサが製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの要部透視図である。
【
図2】
図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施例に係るコンデンサ素子の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の製造方法により製造される電解コンデンサ(ハイブリッドコンデンサ)の好ましい実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1に例示したハイブリッドコンデンサ1は、金属ケース2と、金属ケース2に収容されたコンデンサ素子3と、金属ケース2の開口を封止した封口部材4とを備えており、符号5が、コンデンサ素子3の上面である。
【0016】
コンデンサ素子3は、
図2に示すように、陽極箔(陽極)11と陰極箔(陰極)12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられた樹脂製のテープ14により巻止めされている。
【0017】
陽極箔11は、表面に誘導体酸化皮膜が形成されたアルミニウム等の弁作用金属の箔である。誘導体酸化皮膜は、エッチング処理にて表面を粗面化した弁作用金属箔に化成処理を施すことによって形成されている。
【0018】
陰極箔12もアルミニウム等の弁作用金属箔を用いて形成され、エッチング処理により表面が粗面化されたもの(粗面化箔)が使用される。陰極箔12として、他にエッチング処理を施さないプレーン箔も使用でき、また、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタンやニッケルやその炭化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの混合物からなる金属薄膜や、カーボン薄膜を形成したコーティング箔、誘電体酸化皮膜を形成した化成箔も使用することができる。
【0019】
陽極箔11および陰極箔12にはそれぞれ図示しないリード端子の扁平部が接続されている。陽極箔11および陰極箔12は、それぞれリード端子の扁平部を介して、リード端子21およびリード端子22と接続されている。リード端子21およびリード端子22は、
図1に示すように、封口部材4に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。
図2に示すセパレータ13は、導電性高分子および電解液を保持している。
【0020】
次に、上述の構造を有する電解コンデンサを製造するための本発明の製造方法について説明する。
最初に、所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔を準備し、この陽極箔および陰極箔に外部引出電極用のリード端子を接続し、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより巻回素子を作製する(巻回素子作製工程)。
この際に使用される陽極箔は、表面上に誘電体酸化皮膜が形成された弁金属からなり、陽極箔に用いられる弁金属としてはアルミニウムやタンタル、ニオブ等が挙げられる。また、陽極箔の表面上の誘電体酸化皮膜は、弁金属の表面にエッチング処理および化成酸化処理を施すことにより形成される。一方、陰極箔は、表面に炭化物粒子またはチタン粒子が保持されたアルミニウム箔または、箔表面をエッチング処理したアルミニウム箔からなるものが一般的であるが、これに限定されるものではない。また、巻回素子を作製する際に使用されるセパレータは、セルロース繊維を主体としたものが一般的であるが、化学繊維が混紗された混合繊維セパレータおよび合成繊維セパレータでも良い。化学繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等の合成繊維が挙げられる。
【0021】
そして、次に、巻回素子における陽極箔の切り口や、リード端子取り付け時に欠損した、誘電体酸化皮膜の修復、いわゆる、化成処理を行う(化成工程)。この化成処理に用いる化成液には、カルボン酸基を有する有機酸塩類、リン酸等の無機酸塩類の溶質を有機溶媒または無機溶媒に溶解した化成液が使用できる。この際、アジピン酸アンモニウムを主体とした溶質を水溶媒に溶解させ、濃度を0.1~2.0重量%に調整した化成液(例えば、リン酸化成液やホウ酸化成液)を用いることが好ましく、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に似した電圧を印加して第一化成処理を行う。
その後、熱処理を加え、リン酸を主体とした溶質を水溶媒に溶解させ濃度を0.1~0.5重量%に調整した化成液を用いて最終化成を実施する。本発明では、この化成~熱処理工程を繰り返すことにより、強靭な誘電体酸化皮膜が形成され、ここで行う熱処理は300℃以下の温度範囲で数分~数十分程度行うのが一般的である。
【0022】
次に、上記の化成処理を行った後の巻回素子に、ハイブリッドコンデンサの陰極層である導電性高分子層を形成してコンデンサ素子を作製するが、導電性高分子層の形成方法は限定されるものではなく、例えば、導電性高分子を水に分散させた分散液に化成処理後の巻回素子を浸漬させる、または、導電性高分子を溶媒に溶解させた導電性高分子溶液に化成処理後の巻回素子を浸漬させた後、巻回素子を引き上げ、溶媒を除去し、素子内に導電性高分子層を形成させる(導電性高分子形成工程)。この際、上記の巻回素子を分散液または導電性高分子溶液に含浸させる際の浸漬深さは、巻回素子の軸方向の高さ(以下、単に「巻回素子高さ」という)の1/3~2/3とすることが好ましい。すなわち、巻回素子のリード端子引出方向を上方としたとき、巻回素子の下方端より上方側に巻回素子高さの1/3~2/3までテープの外周が導電性高分子で覆われるように含浸させる。巻回素子から溶媒を除去するための乾燥には、常温程度での長時間の乾燥や減圧乾燥を用いてもよい。
なお、分散液または導電性高分子溶液への巻回素子の浸漬深さが、巻回素子高さの1/3未満では巻回素子内部への導電性高分子の形成が不十分となり、2/3を超えるとリード端子への導電性高分子の付着量が増えるため、後述するポリグリセリン溶液への浸漬とポリグリセリン被膜による効果が十分に得られなくなる。また、巻回素子の外周はテープとなるが、テープ表面に対する分散液または導電性高分子溶液への巻回素子の浸漬位置まで導電性高分子が巻回素子外周に形成される。
本発明において、導電性高分子層を形成する際に使用される導電性高分子としては、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸ポリマー(PEDOT-PSS)や、自己ドープ型ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の製造方法では、上記のようにして、化成処理後の巻回素子に導電性高分子を含浸させた後、加熱を行う前に、導電性高分子が付着した巻回素子を、ポリグリセリン溶液中に、当該巻回素子の上面よりも上方の位置まで浸漬させ、リード端子の丸棒部に当該溶液を付着させる。この際、巻回素子の上面から丸棒部の少なくとも1/3、好ましくは丸棒部全域をポリグリセリン溶液に浸漬させる。リード端子の丸棒部の浸漬位置が1/3未満では漏れ電流の低減効果が少なく、丸棒部を超えてリード線まで浸漬すると製造設備を汚染することがある。
【0024】
その後、コンデンサ素子をポリグリセリン溶液から取り出して150~210℃の温度で加熱を行い、導電性高分子を完全に固化させて導電性高分子層と丸棒部にポリグリセリン被膜を形成させる。ポリグリセリン溶液に用いるポリグリセリンとしては、重量平均分子量が100~1000であるものが好ましく、200~400の範囲にあるポリグリセリンを用いることがより好ましい。
ポリグリセリン溶液に用いる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール等が挙げられるが、導電性高分子の配向性を整えることができるエチレングリコールを用いることが望ましい。ポリグリセリン溶液には、導電性高分子への悪影響を与えない溶媒(例えば、ポリアルキレングリコール等)を添加してもよい。ポリグリセリン溶液の濃度は1~30重量%が好ましく、3~20重量%がより好ましく、5~15重量%が特に好ましい。
本発明では、ポリグリセリン溶液に、コンデンサ素子の上面よりも上方のリード端子の丸棒部まで浸漬させる工程を設けることによって、リード端子の丸棒部に付着した導電性高分子を除去することができるとともに、ポリグリセリン被膜を形成するため、リフロー前後の漏れ電流の安定化が達成できると考えられる。
【0025】
本発明では、上記により導電性高分子層を形成したコンデンサ素子に電解液を含浸させる。この際使用される電解液としては、溶質と安定剤を含有する溶液が一般に採用され、沸点が180℃以上で、1kΩ・cm以上の比抵抗を有するものが好ましい。
上記の電解液における溶媒としては、水、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1,5-ペンタンジオール、γ‐ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、N‐メチルホルムアミド、スルホランなどが挙げられ、溶質としては、ホウ酸、アジピン酸、マレイン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、リシノール酸、亜リン酸、ジブチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられ、上記電解液中の溶質濃度は0.5~15.0重量%であることが好ましく、1~11重量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の製造方法においては、上記の電解液を含浸したコンデンサ素子を、有底筒状の金属ケース内に収納し、当該金属ケースの開口部を密封するための封口部材を取り付け、金属ケースの開口部をカーリングして封止する(封止工程)。この際、封口部材は弾性のあるゴム(例えばブチルゴム等)からなり外部引き出し端子が貫通する貫通孔を備えたものを用いる。なお、コンデンサ素子と電解液とを金属ケースに収納し、金属ケース内でコンデンサ素子に電解液を含浸してもよい。
続いて、カテゴリ上限温度以下の温度条件にてコンデンサに定格電圧を印加し、エージング処理を行う(エージング処理工程)と、ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサが完成する。
上記の工程を実施することによって得られるハイブリッドコンデンサは漏れ電流の低減が達成されたものであり、リフロー前後の漏れ電流の変動が小さいという特性を有する。
以下に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
〔実施例:本発明の製造方法を用いたハイブリッドアルミニウム電解コンデンサの製造例〕
陽極箔として、アルミニウム箔をエッチング処理にて粗面化した後、化成処理を施すことにより、誘電体酸化皮膜が形成されたものを準備し、陰極箔としては、表面がエッチング処理にて粗面化されているアルミニウム箔を準備し、セパレータとしては、一般的なセルロース繊維のセパレータを用いた。
そして、所定の幅に切断された上記陽極箔および陰極箔に、それぞれ外部引き出し電極用のリード端子の扁平部(アルミニウムで形成)を接続し、上記のセパレータを介して巻回することにより巻回素子を作製した。
【0028】
次いで、溶質にアジピン酸アンモニウムを主体とした水溶媒に溶解させ、濃度が1重量%の化成液を調製し、この化成液を用いて上記巻回素子に、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に似した電圧を印加し、第一化成処理を行った。その後、熱処理(200℃、30分)を加え、リン酸を主体とした溶質を水溶媒に溶解させ濃度を0.2重量%に調整した化成液を用いて最終化成を実施した。この化成~熱処理工程を繰り返すことにより、誘電体酸化皮膜を形成した。
その後、化成処理後の巻回素子を、減圧下で、PEDOT/PSSを含む分散液に、浸漬深さが巻回素子高さの1/2程度となるようにして15分間浸漬させ、分散液から巻回素子を引き上げた後に90℃以下で乾燥を行った。分散液は巻回素子内部を浸透し、当該巻回素子の上面まで保持され導電性高分子が形成されているが、テープ表面に形成される導電性高分子は、テープと分散液との接触角が大きいため、巻回素子の浸漬位置までしか形成されない。
【0029】
そして、エチレングリコールにポリグリセリン(PG、重量平均分子量:300)を10%混合したポリグリセリン溶液を準備し、この溶液中に、導電性高分子が付着した巻回素子を、当該巻回素子の上面よりも上方の部分、リード端子の丸棒部全域までが浸漬するようにして浸漬し、上記ポリグリセリン溶液が巻回素子のリード端子の丸棒部に付着するようにした(浸漬時間:1分)。また、ポリグリセリン溶液への浸漬により、リード端子の丸棒部表面に付着した導電性高分子は除去されるが、テープ表面に形成された導電性高分子はあまり除去されない。
その後、巻回素子を引き上げて160℃にて乾燥を行うことにより導電性高分子層を形成させコンデンサ素子を作製した。
【0030】
その後、上記で得られたコンデンサ素子と所定量の電解液(溶媒:1,5-ペンタンジオールおよびγ-バレロラクトン、溶質:リシノール酸、亜リン酸、ジブチルアミン、溶質濃度:10.5%)を、有底筒状の金属ケース内に収納し、当該金属ケースの開口部を密封するための封口部材(ブチルゴム製)を取り付け、金属ケースの開口部をカーリングして封止した。続いて、カテゴリ上限温度の125℃の温度条件にてコンデンサに所定電圧を印加しエージング処理(125℃、1時間)を施し、ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサ(本発明品)を50個作製した。なお、この実施例にて作製したハイブリッドコンデンサは、サイズが直径φ10mm×長さ10mmで、定格電圧が35V、定格静電容量が270μFのものである。
【0031】
〔比較例:巻回素子高さの1/2までポリグリセリン溶液に浸漬させた場合〕
前記実施例における、ポリグリセリン溶液中への浸漬深さを巻回素子高さの1/2程度の高さまでとし、意図的な液面レベルのアップを行わない以外は、前記実施例1と同様にして、ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサ(比較品)を50個作製した。この比較例にて作製したハイブリッドコンデンサのサイズ、定格電圧および定格静電容量は、実施例のものと同じである。
【0032】
〔リフロー前後の電気特性比較〕
上記実施例で作製した電解コンデンサと、上記比較例で作製した電解コンデンサのそれぞれについて、リフロー前(エージング後)とリフロー後の電気特性、即ち、周波数120Hzにおける静電容量(Cap)と損失角の正接(tanδ)、周波数100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)、および定格電圧を2分間印加した後の漏れ電流(LC)を測定し、比較を行った。
その結果を、以下の表1に示す。この表1には、測定値の最大値(MAX)、最小値(MIN)とn=50の平均値(AVE)の他に、静電容量の変化割合(ΔCap)、等価直列抵抗の変化率も示されている。
【0033】
【0034】
上記表1の結果から、ポリグリセリン溶液に、導電性高分子が付着した巻回素子を、リード端子の丸棒部まで浸漬させて丸棒部にポリグリセリン被膜を形成した場合には、リフロー前後の漏れ電流(LC)の変動を安定化できることが確認された。
【0035】
なお、実施例では、PEDOT/PSSを導電性高分子に用いたが、自己ドープ型ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンや等の他の導電性高分子を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法によれば、導電性高分子を完全固化させる前の巻回素子を、ポリグリセリン溶液中に、当該素子の上面よりも上方の部分、すなわちリード端子の丸棒部まで浸漬させることで、漏れ電流を改善することができ、本製法は、電解コンデンサ、特に導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサの製造に有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 ハイブリッドコンデンサ
2 金属ケース(外装ケース)
3 コンデンサ素子
4 封口部材
5 コンデンサ素子の上面
11 陽極箔(陽極)
12 陰極箔(陰極)
13 セパレータ
14 テープ
15 導電性高分子
21,22 リード端子
23 丸棒部
31,32 孔