(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
B60K 15/01 20060101AFI20231201BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231201BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20231201BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20231201BHJP
B60L 50/72 20190101ALI20231201BHJP
【FI】
B60K15/01 Z
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
B60L3/00 H
B60L50/72
(21)【出願番号】P 2020182123
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-02-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 富士スピードウェイにて展示、令和2年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 信貴
(72)【発明者】
【氏名】相島 哲二
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-291867(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0202472(US,A1)
【文献】特開2013-139756(JP,A)
【文献】特開2017-035956(JP,A)
【文献】特開2020-047385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/00 - 15/10
H01M 8/04
H01M 8/00
B60L 3/00
B60L 50/72
F02B 67/00
F02M 35/00
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタと、前記インジェクタに接続されるデリバリパイプと、前記デリバリパイプに設けられ当該デリバリパイプを他部材に固定する固定フランジと、を有し、車両に搭載される燃料供給装置において、
前記固定フランジは、脆弱部を備え
、
前記脆弱部は、締結部材を挿入する孔部を形成する内壁面に形成された切り欠き部であり、
前記切り欠き部は、前記内壁面の一部にて、前記孔部の外側に向って凹んで形成される部分であること、
を特徴とする燃料供給装置。
【請求項2】
請求項1の燃料供給装置において、
前記脆弱部は、締結部材を挿入する孔部の中心よりも前記車両の後方側の位置に設けられていること、
を特徴とする燃料供給装置。
【請求項3】
請求項1または2の燃料供給装置において、
前記脆弱部は、前記車両の左右方向について、前記デリバリパイプの外形部よりも外側の位置に配置されていること、
を特徴とする燃料供給装置。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1つの燃料供給装置において、
前記固定フランジを3個以上有しており、
前記インジェクタと前記デリバリパイプと前記固定フランジを含む部品群の重心の位置が、各々の前記固定フランジにおける締結部材を挿入する孔部の中心を頂点として形成される多角形の内側の位置に収まるようにして、前記固定フランジが配置されていること、
を特徴とする燃料供給装置。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1つの燃料供給装置において、
前記燃料供給装置は、前記車両の前方にあるエンジンコンパートメント内に配置されており、
前記デリバリパイプとして、前記インジェクタに対して前記車両の後方に設けられる後方側デリバリパイプと、前記インジェクタに対して前記車両の前方に設けられる前方側デリバリパイプと、を有し、
前記固定フランジは、前記後方側デリバリパイプに設けられていること、
を特徴とする燃料供給装置。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか1つの燃料供給装置において、
前記インジェクタの軸方向を、前記車両の前後方向に一致させていること、
を特徴とする燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池に気体燃料を供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料配管とレギュレータとの連結部位を、脚部と保護部材で形成されるスペースに設けることにより、車両前方からの衝突時にて保護するガス燃料供給構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池に気体燃料を供給する燃料供給装置として、燃料を噴射するインジェクタと、当該インジェクタに接続されるデリバリパイプを有するものがある。そして、このような燃料供給装置は、例えばデリバリパイプを車両の搭載物に固定することにより、車両に搭載されているが、車両の衝突時において、燃料供給装置が車両の例えばダッシュパネルに衝突して、デリバリパイプが変形したり、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分が変形したりして、燃料供給装置から燃料が漏れるおそれがある。ここで、特許文献1には、このようなインジェクタとデリバリパイプを有する燃料供給装置における車両の衝突時の燃料漏れを抑制する対策については、何ら開示されていない。
【0005】
そこで、本開示は上記した課題を解決するためになされたものであり、インジェクタとデリバリパイプを有する燃料供給装置において、車両の衝突時における燃料漏れを抑制できる燃料供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、インジェクタと、前記インジェクタに接続されるデリバリパイプと、前記デリバリパイプに設けられ当該デリバリパイプを他部材に固定する固定フランジと、を有し、車両に搭載される燃料供給装置において、前記固定フランジは、脆弱部を備え、前記脆弱部は、締結部材を挿入する孔部を形成する内壁面に形成された切り欠き部であり、前記切り欠き部は、前記内壁面の一部にて、前記孔部の外側に向って凹んで形成される部分であること、を特徴とする。
【0007】
この態様によれば、車両の衝突時において、デリバリパイプが変形したり、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分が変形する前に、固定フランジの脆弱部が変形する。そのため、デリバリパイプの変形やインジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できるので、デリバリパイプやインジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分からの燃料漏れを抑制できる。したがって、燃料供給装置において、車両の衝突時における燃料漏れを抑制できる。
また、脆弱部を形成する際には孔部を形成する内壁面に切り欠き部を形成すれば足りるので、簡素な構造で脆弱部を形成できる。そのため、製造コストを低減できる。
【0008】
上記の態様においては、前記脆弱部は、締結部材を挿入する孔部の中心よりも前記車両の後方側の位置に設けられていること、が好ましい。
【0009】
この態様によれば、車両の前方の衝突時において、燃料供給装置に対して車両の前方からの衝撃が加えられたときに、車両の後方側の位置に設けられた脆弱部が変形し易い。そのため、車両の前方の衝突時において、より効果的に、デリバリパイプの変形やインジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できる。
【0010】
上記の態様においては、前記脆弱部は、前記車両の左右方向について、前記デリバリパイプの外形部よりも外側の位置に配置されていること、が好ましい。
【0011】
この態様によれば、車両の衝突時において、脆弱部の変形がデリバリパイプにより妨げられることを抑制できる。そのため、車両の衝突時において、より確実に、脆弱部が変形して、デリバリパイプの変形やインジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できる。
【0014】
上記の態様においては、前記固定フランジを3個以上有しており、前記インジェクタと前記デリバリパイプと前記固定フランジを含む部品群の重心の位置が、各々の前記固定フランジにおける締結部材を挿入する孔部の中心を頂点として形成される多角形の内側の位置に収まるようにして、前記固定フランジが配置されていること、が好ましい。
【0015】
この態様によれば、部品群の重心の位置の過度な偏りを防止できる。そのため、車両の衝突時において、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分に作用する衝撃の作用方向がインジェクタの軸方向と大きくズレることを抑制できるので、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できる。
【0016】
上記の態様においては、前記燃料供給装置は、前記車両の前方にあるエンジンコンパートメント内に配置されており、前記デリバリパイプとして、前記インジェクタに対して前記車両の後方に設けられる後方側デリバリパイプと、前記インジェクタに対して前記車両の前方に設けられる前方側デリバリパイプと、を有し、前記固定フランジは、前記後方側デリバリパイプに設けられていること、が好ましい。
【0017】
この態様によれば、車両のダッシュパネルに近い後方側デリバリパイプに固定フランジが設けられ、この固定フランジに脆弱部が設けられている。そのため、車両の前方の衝突時において、脆弱部の部分またはその周辺部分が変形して、後方側デリバリパイプとダッシュパネルとの衝突が緩和され易くなる。したがって、より効果的に、デリバリパイプの変形やインジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できる。
【0018】
上記の態様においては、前記インジェクタの軸方向を、前記車両の前後方向に一致させていること、が好ましい。
【0019】
この態様によれば、車両の衝突時において、より効果的に、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分に作用する衝撃の作用方向がインジェクタの軸方向と大きくズレることを抑制できるので、インジェクタにおけるデリバリパイプとの接続部分の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の燃料供給装置によれば、インジェクタとデリバリパイプを有する燃料供給装置において、車両の衝突時における燃料漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の水素供給装置を有する燃料電池システムの概要図である。
【
図2】
図1の燃料電池システムが搭載された車両の概略図である。
【
図8】ヒューズの先端部の曲率と切り欠き深さの説明図である。
【
図9】水素供給装置がダッシュパネルと衝突する様子を示す図である。
【
図10】車両の前方の衝突時であって、車両の正面方向から衝突したときの作用を示す図である。
【
図11】車両の前方の衝突時に、水素供給装置がPCUから切り離されることを示す図である。
【
図12】車両の前方の衝突時であって、車両の右斜め方向から衝突したときの作用を示す図である。
【
図13】車両の前方の衝突時であって、車両の左斜め方向から衝突したときの作用を示す図である。
【
図14】第1実施例の変形例の後方側フランジ周辺の拡大図である。
【
図15】第1実施例の変形例の右側フランジ周辺の拡大図である。
【
図16】第1実施例の変形例の左側フランジ周辺の拡大図である。
【
図17】第2実施例の水素供給装置の構成図である。
【
図20】第2実施例の変形例の右側フランジ周辺の拡大図である。
【
図21】第2実施例の変形例の左側フランジ周辺の拡大図である。
【
図22】4個の固定フランジを有する水素供給装置の構成図である。
【
図23】固定フランジの内壁面の形状が略四角形である例を示す図である。
【
図24】固定フランジの内壁面の形状が略四角形である他の例を示す図である。
【
図25】ヒューズの形状が円弧形状である例を示す図である。
【
図26】固定フランジの配置を変更した例の水素供給装置の構成図である。
【
図27】車両の前方の衝突時に、水素供給装置がPCUに固定された状態のままである場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の燃料供給装置の実施形態の1つである水素供給装置1(すなわち、水素供給ASSY)について説明する。なお、本実施形態の水素供給装置1について説明する前に、まず、水素供給装置1が使用される燃料電池システム101について説明する。
【0023】
<燃料電池システムの説明>
燃料電池システム101は、車両100(
図2参照)に搭載されており、
図1に示すように、FCスタック(燃料電池)111と、水素系システム部112と、エア系システム部113を有する。
【0024】
水素系システム部112は、水素供給通路121、水素排出通路122を備えている。水素供給通路121は、水素タンク131からFCスタック111へ水素ガス(気体燃料の一例)を供給するための通路である。水素排出通路122は、FCスタック111から水素ガスを排出するための通路である。
【0025】
そして、水素供給通路121に、本実施形態の水素供給装置1が設けられている。この水素供給装置1については、後で詳しく説明する。
【0026】
このような構成の燃料電池システム101において、FCスタック111は、水素系システム部112からの水素ガスの供給と、エア系システム部113からのエアの供給を受けて発電を行う。そして、FCスタック111で発電された電力は、例えば、インバータ(図示略)を介して車両100の駆動用モータ(図示略)に供給される。
【0027】
<水素供給装置の説明>
次に、本実施形態の水素供給装置1について説明する。
【0028】
(第1実施例)
まず、第1実施例の水素供給装置1について説明する。
【0029】
水素供給装置1は、
図2と
図3に示すように、車両100の前方にてダッシュパネル142によりキャビンと仕切られたエンジンコンパートメント100a内において、FCスタック111の上に設けられたPCU141(すなわち、パワーコントロールユニット)の上に搭載されている。なお、PCU141は、本開示の「他部材」の一例である。
【0030】
図4に示すように、水素供給装置1は、後方側デリバリパイプ11と、インジェクタ12と、前方側デリバリパイプ13を有する。
【0031】
後方側デリバリパイプ11は、インジェクタ12に対して車両100の後方に設けられている。この後方側デリバリパイプ11は、水素タンク131(
図1参照)から水素供給通路121(
図1や
図3参照)を介して供給される水素ガスを、各々のインジェクタ12へ分配する。
【0032】
インジェクタ12は、その軸方向の両端に備わる軸シール部44にて、燃料のシール性を確保しながら、後方側デリバリパイプ11と前方側デリバリパイプ13に接続している。
図4に示す例では、インジェクタ12は3個設けられているが、インジェクタ12が設けられる数は特に限定されない。このインジェクタ12の軸方向は、車両100の前後方向に一致している。そして、このようなインジェクタ12は、後方側デリバリパイプ11に供給された水素ガスを、その流量及び圧力を調節しながら噴射して、前方側デリバリパイプ13に供給する。
【0033】
前方側デリバリパイプ13は、インジェクタ12に対して車両100の前方に設けられている。この前方側デリバリパイプ13は、各々のインジェクタ12から供給される水素ガスを合流させる。
【0034】
本実施例では、
図4に示すように、後方側デリバリパイプ11において、後方側フランジ21-1、右側フランジ21-2、左側フランジ21-3から構成される3個の固定フランジ21が設けられている。この固定フランジ21は、後方側デリバリパイプ11(水素供給装置1)をPCU141に固定するための部位である。
【0035】
後方側フランジ21-1は、後方側デリバリパイプ11における車両100の後方側に設けられている。右側フランジ21-2は、後方側デリバリパイプ11における車両100の右側(車両100の前方から見て右側)に設けられている。左側フランジ21-3は、後方側デリバリパイプ11における車両100の左側(車両100の前方から見て左側)に設けられている。
【0036】
そして、各々の固定フランジ21の孔部31(
図5~
図7参照)に挿入されたボルト32により、後方側デリバリパイプ11がPCU141(
図3参照)に固定され、これにより、水素供給装置1がPCU141に固定されている。なお、ボルト32は、本開示の「締結部材」の一例である。
【0037】
詳しくは、例えば、
図5に示すように、円盤状のゴム部材であるグロメット33が固定フランジ21(ここでは、一例として、後方側フランジ21-1)の孔部31に取り付けられ、そのうえで、グロメット33の孔部にボルト32が挿入され、さらに、このボルト32がPCU141に締結されることにより、後方側デリバリパイプ11(水素供給装置1)がPCU141に固定されている。なお、
図4を含めて以下に説明する図面においては、説明の便宜上、適宜、固定フランジ21におけるボルト32やグロメット33の図示を省略している。
【0038】
図5~
図7に示すように、孔部31の中心軸(すなわち、中心41を通り紙面の手前および奥行き方向に伸びる軸)方向から固定フランジ21を見たときに、固定フランジ21の形状は、例えば、略C形状となっている。また、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、孔部31の外形を形成する内壁面42の形状は、略円形状となっている。
【0039】
これらの後方側フランジ21-1、右側フランジ21-2、左側フランジ21-3から構成される3個の固定フランジ21は、各々、
図5~
図7に示すように、孔部31と隙間34を備えている。孔部31は、ボルト32とグロメット33を挿入するための孔部である。隙間34は、孔部31と固定フランジ21の外部とを連通させるようにして形成されている。
【0040】
また、
図4に示すように、後方側デリバリパイプ11とインジェクタ12と前方側デリバリパイプ13と3個の固定フランジ21を含む部品群である水素供給装置1の重心の位置が、各々の固定フランジ21における孔部31の中心41を頂点として形成される三角形の内側の位置に収まるようにして、3個の固定フランジ21が配置されている。
【0041】
詳しくは、後方側フランジ21-1は、後方側デリバリパイプ11における車両100の後方側の外形部43において、車両100の左右方向の中央の位置に配置されている。そして、後方側フランジ21-1は、隙間34が車両100の後方側に位置するようにして配置されている。
【0042】
また、右側フランジ21-2は、後方側デリバリパイプ11における車両100の右側の外形部43において、車両100の前方側の位置に配置されている。そして、右側フランジ21-2は、隙間34が車両100の右側に位置するようにして配置されている。
【0043】
また、左側フランジ21-3は、後方側デリバリパイプ11における車両100の左側の外形部43において、車両100の前方側の位置に配置されている。そして、左側フランジ21-3は、隙間34が車両100の左側に位置するようにして配置されている。
【0044】
なお、製造し易さの観点からは、エンジンコンパートメント100a内において、各々の固定フランジ21の高さは、同一であることが好ましいが、水素供給装置1のPCU141への搭載性を考慮して、各々の固定フランジ21の高さは、同一でなくてもよい。
【0045】
本実施例では、
図6と
図7に示すように、右側フランジ21-2と左側フランジ21-3は、孔部31を形成する内壁面42に形成された切り欠き部であるヒューズ35を備えている。
【0046】
このヒューズ35は、ボルト32を挿入する孔部31の中心41よりも車両100の後方側の位置に設けられている。
図6や
図7に示す例では、ヒューズ35は、孔部31の中心41を通る中心線上の位置に配置されているが、これに限定されず、孔部31の中心41よりも車両100の後方側の位置であれば、どの位置に設けられていてもよい。なお、ヒューズ35は、本開示の「脆弱部」の一例である。
【0047】
また、ヒューズ35は、
図6と
図7に示すように、車両100の左右方向について、後方側デリバリパイプ11の外形部43よりも後方側デリバリパイプ11の外側の位置に配置されている。
【0048】
また、ヒューズ35の強度は、「(車両100のダッシュパネル142の強度)<(ヒューズ35の強度)<(車両100の振動によって受ける力)」の条件式を満たすようにして決められる。このとき、例えば、
図8に示すようにヒューズ35の先端部45の曲率をR、切欠き深さをaと定義するとき、以下の数式で表される応力集中係数α(固定フランジ21のヒューズ35部分に発生しうる応力の大きさを表す係数)を考慮して、ヒューズ35の強度を調整する。
[数1]
α=1+2√(a/R)
【0049】
ここで、車両100の前方の衝突時において、
図9に示すように、水素供給装置1が、FCスタック111とPCU141とともに車両100の後方へ移動して、ダッシュパネル142と衝突した場合を想定する。
【0050】
このとき、水素供給装置1がPCU141に固定された状態のままである場合には、後方側デリバリパイプ11の本体がダッシュパネル142と強く衝突する。すると、場合によっては
図27に示すように後方側デリバリパイプ11がダッシュパネル142を突き抜けるなどして、後方側デリバリパイプ11が大きな衝撃を受けて変形したり、あるいは、インジェクタ12の軸シール部44が大きな衝撃を受けて変形するおそれがある。そうすると、後方側デリバリパイプ11やインジェクタ12の軸シール部44からの水素漏れが発生するおそれがある。
【0051】
これに対し、本実施例では、右側フランジ21-2と左側フランジ21-3は、脆弱部であるヒューズ35を備えている。これにより、例えば、車両100の前方の衝突時に、車両100の正面方向から衝突したときには、
図10に示すように、水素供給装置1に対して車両100の前方の方向に力が作用する。すると、右側フランジ21-2と左側フランジ21-3において、脆弱部であるヒューズ35の部分にボルト32が当たって、ヒューズ35の部分を起点として、ヒューズ35の部分またはその周辺部分が折れる。また、後方側フランジ21-1の隙間34からボルト32が後方側フランジ21-1の外部へ抜ける。
【0052】
そして、これにより、
図11に示すように、水素供給装置1は、PCU141から切り離されて、車両100の前方へ移動する。そのため、後方側デリバリパイプ11とダッシュパネル142との衝突が緩和される。したがって、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できるので、後方側デリバリパイプ11やインジェクタ12の軸シール部44からの水素漏れを抑制できる。ゆえに、水素供給装置1において、車両100の前方の衝突時における水素漏れを抑制できる。
【0053】
なお、車両100の前方の衝突時に、車両100の右斜め方向や左斜め方向から衝突したときにおいても、車両100の正面方向から衝突したときと同様に、
図11に示すように、水素供給装置1はPCU141から切り離されるので、後方側デリバリパイプ11やインジェクタ12の軸シール部44からの水素漏れを抑制できる。
【0054】
すなわち、例えば、車両100の前方の衝突時に、車両100の右斜め方向から衝突したときには、
図12に示すように、水素供給装置1に対して車両100の右斜め方向に力が作用する。すると、左側フランジ21-3において、脆弱部であるヒューズ35の部分にボルト32が当たって、ヒューズ35の部分を起点として、ヒューズ35の部分またはその周辺部分が折れる。これにより、水素供給装置1が回転可能になって、後方側フランジ21-1の隙間34からボルト32が後方側フランジ21-1の外部へ抜ける。そして、これにより、
図11に示すように、水素供給装置1は、PCU141から切り離されて、車両100の前方へ移動する。
【0055】
また、例えば、車両100の前方の衝突時に、車両100の左斜め方向から衝突したときには、
図13に示すように、水素供給装置1に対して車両100の左斜め方向に力が作用する。すると、右側フランジ21-2において、脆弱部であるヒューズ35の部分にボルト32が当たって、ヒューズ35の部分を起点として、ヒューズ35の部分またはその周辺部分が折れる。これにより、水素供給装置1が回転可能になって、後方側フランジ21-1の隙間34からボルト32が後方側フランジ21-1の外部へ抜ける。そして、これにより、
図11に示すように、水素供給装置1は、PCU141から切り離されて、車両100の前方へ移動する。
【0056】
なお、変形例として、
図14~
図16に示すように、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、固定フランジ21の形状は、略O形状となっていてもよい。
【0057】
そして、このとき、
図14に示すように、後方側フランジ21-1は、孔部31の中心41に対して車両100の後方側の位置に、隙間34の代わりに、ヒューズ35を備えている。なお、これにより、車両100の前方の衝突時に、後方側フランジ21-1において、脆弱部であるヒューズ35の部分にボルト32が当たって、ヒューズ35の部分を起点として、ヒューズ35の部分またはその周辺部分が折れることになる。
【0058】
また、
図15に示すように、右側フランジ21-2は、孔部31の中心41に対して車両100の後方側と右側の位置に、ヒューズ35を備えている。さらに、
図16に示すように、左側フランジ21-3は、孔部31の中心41に対して車両100の後方側と左側の位置に、ヒューズ35を備えている。
【0059】
なお、このような固定フランジ21の形状は、必要な強度に応じて選択される。そのため、例えば、略O形状の方が略C形状よりも強度が大きいので、必要な強度が大きい場合には略O形状とすることが考えられる。
【0060】
(本実施例の作用効果)
以上のように本実施例の水素供給装置1によれば、固定フランジ21は、ヒューズ35を備えている。
【0061】
これにより、車両100の前方の衝突時において、後方側デリバリパイプ11が変形したり、インジェクタ12における軸シール部44が変形する前に、固定フランジ21のヒューズ35が変形する。そのため、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できるので、後方側デリバリパイプ11やインジェクタ12の軸シール部44からの水素漏れを抑制できる。したがって、水素供給装置1において、車両100の前方の衝突時における水素漏れを抑制できる。
【0062】
また、ヒューズ35は、孔部31の中心41よりも車両100の後方側の位置に設けられている。
【0063】
これにより、車両100の前方の衝突時において、水素供給装置1に対して車両100の前方からの衝撃が加えられたときに、車両100の後方側の位置に設けられたヒューズ35が変形し易い。そのため、車両100の前方の衝突時において、より効果的に、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できる。
【0064】
また、ヒューズ35は、車両100の左右方向について、後方側デリバリパイプ11の外形部43よりも外側の位置に配置されている。
【0065】
これにより、車両100の前方の衝突時において、ヒューズ35の変形が後方側デリバリパイプ11により妨げられることを抑制できる。そのため、車両100の前方の衝突時において、より確実に、ヒューズ35が変形して、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できる。
【0066】
また、ヒューズ35は、孔部31を形成する内壁面42に形成された切り欠き部である。
【0067】
これにより、ヒューズ35を形成する際には孔部31を形成する内壁面42に切り欠き部を形成すれば足りるので、簡素な構造でヒューズ35を形成できる。そのため、製造コストを低減できる。
【0068】
また、水素供給装置1の重心の位置が、各々の固定フランジ21における孔部31の中心41の位置を頂点として形成される三角形の内側の位置に収まるようにして、3個の固定フランジ21が配置されている。
【0069】
これにより、水素供給装置1の重心の位置の過度な偏りを防止できる。そのため、車両100の前方の衝突時において、インジェクタ12の軸シール部44に作用する衝撃の作用方向がインジェクタ12の軸方向と大きくズレることを抑制できるので、インジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できる。
【0070】
また、固定フランジ21は、後方側デリバリパイプ11に設けられている。
【0071】
このようにして、車両100のダッシュパネル142に近い後方側デリバリパイプ11に固定フランジ21が設けられ、この固定フランジ21にヒューズ35が設けられている。そのため、車両100の前方の衝突時において、ヒューズ35の部分またはその周辺部分が変形して、後方側デリバリパイプ11とダッシュパネル142との衝突が緩和され易くなる。したがって、より効果的に、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できる。
【0072】
また、インジェクタ12の軸方向を、車両100の前後方向に一致させている。
【0073】
これにより、車両100の前方の衝突時において、より効果的にインジェクタ12の軸シール部44に作用する衝撃の作用方向がインジェクタ12の軸方向と大きくズレることを抑制できるので、インジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できる。
【0074】
(第2実施例)
次に、第2実施例について説明するが、第1実施例と異なる点を中心に説明する。
【0075】
本実施例では、
図17に示すように、後方側デリバリパイプ11において、後方側フランジ21-1、前方右側フランジ21-4、前方左側フランジ21-5から構成される3個の固定フランジ21が設けられている。
【0076】
後方側フランジ21-1は、第1実施例と同様に、後方側デリバリパイプ11における車両100の後方側に設けられている。前方右側フランジ21-4は、後方側デリバリパイプ11における車両100の前方側かつ右側に設けられている。前方左側フランジ21-5は、後方側デリバリパイプ11における車両100の前方側かつ左側に設けられている。
【0077】
図17~
図19に示すように、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、固定フランジ21の形状は、例えば、略C形状となっている。また、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、孔部31の外形を形成する内壁面42の形状は、略円形状となっている。
【0078】
これらの後方側フランジ21-1、前方右側フランジ21-4、前方左側フランジ21-5から構成される3個の固定フランジ21は、各々、
図5と
図18と
図19に示すように、孔部31と隙間34を備えている。
【0079】
また、
図17に示すように、水素供給装置1の重心の位置が、各々の固定フランジ21における孔部31の中心41の位置を頂点として形成される三角形の内側の位置に収まるようにして、3個の固定フランジ21が配置されている。
【0080】
詳しくは、後方側フランジ21-1は、第1実施例と同様に、後方側デリバリパイプ11における車両100の後方側の外形部43において、車両100の左右方向の中央の位置に配置されている。
【0081】
また、前方右側フランジ21-4は、後方側デリバリパイプ11における車両100の右側の外形部43と車両100の前方側の外形部43との接続部の位置に配置されている。そして、前方右側フランジ21-4は、隙間34が車両100の前方側に位置するようにして配置されている。
【0082】
また、前方左側フランジ21-5は、後方側デリバリパイプ11における車両100の左側の外形部43と車両100の前方側の外形部43との接続部の位置に配置されている。そして、前方左側フランジ21-5は、隙間34が車両100の前方側に位置するようにして配置されている。
【0083】
本実施例では、
図18と
図19に示すように、前方右側フランジ21-4と前方左側フランジ21-5は、ヒューズ35を備えている。
【0084】
このヒューズ35は、孔部31の中心41よりも車両100の後方側の位置に設けられている。
【0085】
また、ヒューズ35は、
図18と
図19に示すように、車両100の左右方向について、後方側デリバリパイプ11の外形部43よりも後方側デリバリパイプ11の外側の位置に配置されている。
【0086】
本実施例においても、前方右側フランジ21-4と前方左側フランジ21-5がヒューズ35を備えているので、第1実施例と同様に、車両100の前方の衝突時に、水素供給装置1は、PCU141から切り離されて、車両100の前方へ移動する。そのため、後方側デリバリパイプ11の変形やインジェクタ12の軸シール部44の変形を抑制できるので、後方側デリバリパイプ11やインジェクタ12の軸シール部44からの水素漏れを抑制できる。ゆえに、水素供給装置1において、車両100の前方の衝突時における水素漏れを抑制できる。
【0087】
なお、変形例として、
図14と
図20と
図21に示すように、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、固定フランジ21の形状は、略O形状となっていてもよい。
【0088】
そして、このとき、
図20に示すように、前方右側フランジ21-4は、孔部31の中心41に対して車両100の後方側と右側の位置に、ヒューズ35を備えている。また、
図21に示すように、前方左側フランジ21-5は、孔部31の中心41に対して車両100の後方側と左側の位置に、ヒューズ35を備えている。
【0089】
以上のような本実施例の水素供給装置1においても、第1実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0090】
(その他の変形例)
後方側デリバリパイプ11において、固定フランジ21が設けられる数は、3個以上であればよく、特に限定されない。そこで、例えば、
図22に示すように、後方側デリバリパイプ11において、後方右側フランジ21-1a、後方左側フランジ21-1b、右側フランジ21-2、左側フランジ21-3から構成される4個の固定フランジ21が設けられていてもよい。
【0091】
なお、このとき、水素供給装置1の重心の位置が、各々の固定フランジ21における孔部31の中心41を頂点として形成される四角形の内側の位置に収まるようにして、4個の固定フランジ21が配置されている。
【0092】
このように、本実施形態では、水素供給装置1の重心の位置が、各々の固定フランジ21における孔部31の中心41を頂点として形成される多角形の内側の位置に収まるようにして、3個以上の固定フランジ21が配置されている。
【0093】
また、
図23と
図24に示すように、孔部31の中心軸方向から固定フランジ21を見たときに、内壁面42の形状は、略四角形でもよい。
【0094】
また、
図25に示すように、ヒューズ35の形状は円弧形状でもよい。
【0095】
また、後方側デリバリパイプ11において固定フランジ21が配置される位置は、第1実施例や第2実施例にて示した例に特に限定されない。そこで、例えば、
図26に示すように、後方側デリバリパイプ11において、後方側フランジ21-1、右側フランジ21-2、前方左側フランジ21-5から構成される3個の固定フランジ21が設けられていてもよい。
【0096】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0097】
1 水素供給装置
11 後方側デリバリパイプ
12 インジェクタ
13 前方側デリバリパイプ
21 固定フランジ
21-1 後方側フランジ
21-1a 後方右側フランジ
21-1b 後方左側フランジ
21-2 右側フランジ
21-3 左側フランジ
21-4 前方右側フランジ
21-5 前方左側フランジ
31 孔部
32 ボルト
34 隙間
35 ヒューズ
41 中心
42 内壁面
43 外形部
44 軸シール部
100 車両
100a エンジンコンパートメント
101 燃料電池システム
111 FCスタック
112 水素系システム部
121 水素供給通路
141 PCU
142 ダッシュパネル