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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】金属加工用流体添加剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20231201BHJP
   C10M 161/00 20060101ALI20231201BHJP
   C10M 173/00 20060101ALI20231201BHJP
   C10M 137/12 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 145/12 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20231201BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20231201BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20231201BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20231201BHJP
   C10N 30/16 20060101ALN20231201BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M161/00
C10M173/00
C10M137/12
C10M133/08
C10M145/14
C10M145/12
C10M133/06
C10M133/16
C10M133/56
C10N40:22
C10N40:20 Z
C10N30:16
C10N30:12
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2020518788
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018077052
(87)【国際公開番号】W WO2019068831
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】17195289.8
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501354624
【氏名又は名称】カストロール リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ハルト,トーマス,ペーター
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104277902(CN,A)
【文献】特表2010-515731(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105176656(CN,A)
【文献】特開2009-073932(JP,A)
【文献】特開2016-135840(JP,A)
【文献】特開2012-076200(JP,A)
【文献】Brutto, Patrick E.,The influence of amine structure on performance in MWFs,Tribology & lubrication technology,2011年03月01日,pp. 26-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用流体添加剤組成物であって、
組成物の少なくとも5重量%の量で存在する1種またはそれ以上の金属イオン封鎖剤であって、前記1種またはそれ以上の金属イオン封鎖剤のそれぞれが式(B);
【化1】
(式中、R は1個または2個の炭素原子および1個または2個のホスホネート部分を含む置換ヒドロカルビル基である)
の1種の化合物と、
前記組成物の10重量%~50重量%の量で存在し、5~12個の炭素原子を含有する式(A);
【化2】
(式中、R およびR は独立して1~5個の炭素原子を含有する非置換ヒドロカルビル部分から選択される)
の1種またはそれ以上の化合物、
である工業用流体添加剤組成物
【請求項2】
およびRが独立して1~10個の炭素原子を含有する置換脂肪族ヒドロカルビル部分または1~10個の炭素原子を含有する非置換脂肪族ヒドロカルビル部分から選択される請求項1に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項3】
置換脂肪族ヒドロカルビル部分または非置換脂肪族ヒドロカルビル部分が直鎖または分岐鎖である請求項2に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項4】
およびRが独立して1~10個の炭素原子を含有する置換アルキル部分または1~10個の炭素原子を含有する非置換アルキル部分から選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項5】
およびRが独立して1~5個の炭素原子を含有する置換アルキル部分、または1~5個の炭素原子を含有する非置換アルキル部分から選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項6】
がn-ブチルおよびRがエチルである請求項1~のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項7】
が1つまたは2つのホスホネート部分を含有する置換C~Cアルキル基である請求項1~6のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項8】
が1つまたは2つのホスホネート部分および1つまたはそれ以上の水酸基部分を含む置換C~Cアルキル基である請求項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項9】
1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤が1-ヒドロキシエタン1、1-ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)またはそれらの組み合わせから選択される請求項1~のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項10】
1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤がさらにポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリラクテート、2つまたはそれ以上のカルボキシル基を含有する化合物、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、ニトリロ三酢酸、スクシンイミド、またはそれらの任意の組み合わせを含む請求項1~のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項11】
式(A)の化合物の少なくとも一部および1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤の少なくとも一部が組成物の形成時に反応してホスホン酸アンモニウム塩を形成する請求項1~10のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項12】
組成物のpHが8~10.5である請求項1~11のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項13】
組成物のpHが8.5~10である請求項1~12のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項14】
組成物のpHが9~9.5である請求項1~13のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項15】
式(A)の化合物が組成物中に組成物の15重量%~35重量%の量で存在する請求項1~14のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項16】
組成物が水をさらに含む請求項1~15のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項17】
水が組成物の30重量%~60重量%の量で存在する請求項16に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項18】
組成物がpH増加添加剤をさらに含む請求項1~17のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項19】
pH増加添加剤がモノエタノールアミンなどのC~C10第一級アルキルアミンである請求項18に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項20】
pH増加添加剤が組成物の5重量%~15重量%の量で任意に存在するモノエタノールアミンを含む請求項1~19のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項21】
1つまたはそれ以上の界面活性剤をさらに含む請求項1~20のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項22】
1つまたはそれ以上の界面活性剤が組成物の2重量%~6重量%の総量で存在する請求項21に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項23】
組成物がいかなる第二級アミンをも含まない請求項1~22のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項24】
工業用流体添加剤は金属加工用流体での使用に適している請求項1~23のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項25】
組成物が殺生物剤を含まない請求項1~24のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物を含む金属加工用流体。
【請求項27】
請求項1~25のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物が金属加工用流体中に金属加工用流体の0.1重量%~5重量%の量で存在する請求項26に記載の金属加工用流体。
【請求項28】
請求項1~25のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物が金属加工用流体中に金属加工用流体の0.5重量%~1.5重量%の量で存在する請求項26または27に記載の金属加工用流体。
【請求項29】
1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤が金属加工用流体中に金属加工用流体の少なくとも0.01重量%の量で存在する請求項2628のいずれか一項に記載の金属加工用流体。
【請求項30】
式(A)の1つまたはそれ以上の化合物が金属加工用流体中に金属加工用流体の0.1重量%~0.35重量%の量で存在する請求項2629のいずれか一項に記載の金属加工用流体。
【請求項31】
金属加工用流体のpHが8~10.5である請求項2630のいずれか一項に記載の金属加工用流体。
【請求項32】
金属加工用流体のpHが8.5~10である請求項31に記載の金属加工用流体。
【請求項33】
金属加工用流体のpHが9~9.5である請求項32に記載の金属加工用流体。
【請求項34】
金属加工用流体が、油性ベース、水性ベース、油中水型エマルジョン、または水中油型エマルジョンである請求項2633のいずれか一項に記載の金属加工用流体。
【請求項35】
細菌および/または真菌の増殖を阻害するなど微生物の増殖を阻害するための請求項1~25のいずれか一項に記載の工業用流体添加剤組成物の使用。
【請求項36】
使用が金属加工用流体中の微生物増殖を阻害することを含む請求項35に記載の使用。
【請求項37】
金属加工用流体が請求項2634のいずれか一項に記載のものである請求項36に記載の使用。
【請求項38】
請求項2634のいずれか一項に記載の金属加工用流体を金属に塗布することを含む金属を切断、研削または洗浄する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工用流体に関する。特に本発明は金属加工用流体に使用するための工業用流体添加剤組成物と、このような添加剤の使用およびこのような添加剤を含む金属加工用流体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工用流体(MWF)は金属の切断と成形のために世界中の作業場で使用されている。それらの主な目的は工具、加工中の製品および機械を冷却および潤滑し、腐食を抑制し、切り屑を取り除き、金属の切断、研削および洗浄を支援することである。金属加工用流体には様々な異なる種類がある。金属加工用流体は典型的には、(1)非水混和性油、(2)水混和性油、および(3)完全に合成された油を含まない製品のうちの1つに分類される。非水混和性油は典型的には基油(通常95%を超える)を含む。これは、鉱油、エステル油(例えば未精製または化学的に改質された菜種油)または合成油(例えばポリ―α―オレフィン)であり得る。水混和性油ベースの金属加工用流体は製品および機械加工のタイプに応じて、典型的には金属加工用流体の2~25重量%の水濃度で使用前に水と混合される。非水混和性油ベースの金属加工用流体に使用されるのと同じタイプの油を使用することができる。油を水と組み合わせて水中油型エマルジョンを得るためには乳化剤が必要である。完全に合成の油を含まない金属加工用流体は水混和性であり油を含まない。これらは乳化剤を必要としない。これらは水混和性グリコール化合物および水のような化合物を含み得る。
【0003】
細菌および真菌の増殖などの微生物の増殖は、一般に非水混和性油ベースの金属加工用流体にとって問題ではない。しかしながら水混和性の油ベースの金属加工用流体および完全に合成の油を含まない金属加工用流体については微生物の増殖が問題である。特に微生物の増殖は水中油型エマルジョンの形成で油と水の両方を含む水混和性油ベースの金属加工用流体の問題である。水中油型エマルジョンに基づく金属加工用流体は典型的には細菌および真菌の増殖を促進する多数の成分、例えばリンおよび硫黄含有添加剤を含有する。微生物はまた、水、床、空気、人間、および加工中の製品自体を介してもたらされることもある。金属加工用流体中で許容され得る微生物の数は問題の用途に依存する。微生物は金属加工用流体の様々な成分の劣化を引き起こす可能性があり、その機能に悪影響を及ぼす可能性がある。水中油型エマルジョンに基づく金属加工用流体のpHは典型的には8.5~9.5である。金属加工用流体中に微生物が存在する場合、金属加工用流体の様々な成分の分解は流体の二酸化炭素含有量を増加させることができそのpHを低下させる。これは金属加工用流体が使用中に接触する金属の腐食の増加につながる可能性がある。
【0004】
金属加工用流体中の腐食を抑制する様々な方法が当技術分野で知られている。これらのほとんどは金属加工用流体がより酸性のpHを有する場合と比較して腐食が減少するように、pHをアルカリ性のpHに増加させるpH増加添加剤を金属加工用流体に添加することを含む。このような腐食防止剤はまた金属加工用流体中に存在する微生物が死滅するようなレベルまでpHを上昇させるか、またはさらなる微生物の増殖が有意に阻害されるレベルまでpHを上昇させ得る。金属加工用流体中で一般に使用される腐食防止剤の例はホウ酸アミン腐食防止剤である。これらは非常に良好な腐食抑制を提供し、さらに殺生物活性を有することが知られている。このような腐食防止剤の使用は金属加工用流体における他の殺生物剤の使用がアミンホウ酸塩の殺生物活性のために回避され得ることを意味する。しかしながらホウ酸アミンは環境影響を有し健康上の危険を引き起こすことが知られており工業的用途では一般に望ましくない。したがっていくつかのアミン腐食防止剤がホウ酸アミンを置換することが示唆されている。これらにはジシクロヘキシルアミン、3―アミノ―4―オクタノール、モノエタノールアミンおよびトリエタノールアミンが含まれる。これらの化合物の腐食防止特性は、以前はこれらのpH増加効果によってのみ引き起こされると考えられていた。腐食抑制におけるこのような化合物の使用は一般にホウ酸アミンよりも劣ることが見出されている。さらにシクロヘキシルアミンの使用は好ましくないと考えられる。強力な殺生物剤であるにもかかわらずシクロヘキシルアミンのような第二級アミンは毒性であることが知られているニトリルの存在下でニトロソアミンを形成する。
【0005】
したがって金属加工用流体中の微生物の増殖も抑制する良好な腐食抑制剤である代替化合物が望まれている。特許文献1は酸性リン酸塩ならびに種々の第一級および第三級アミン化合物を含む組成物を開示する。この組成物は良好な腐食防止剤であり、長期間にわたる金属加工用流体中の細菌増殖を抑制または遅らせることが報告されている。それにもかかわらず、金属加工用流体中の微生物の成長を妨害または阻害する金属加工用流体中で使用するための化合物および組成物が引き続き必要とされている。特に第二級アミン添加剤のような殺生物剤を含まない化合物および組成物が引き続き必要とされている。上述したようにこのような添加剤は有毒であり、金属加工用流体の分野における多くの規制は現在それらの使用を禁止するかまたはそれらの使用を少量に制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第2930229号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤および1つまたはそれ以上の式(A)の化合物を含む工業用流体添加剤組成物が提供される:
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、RおよびRは独立して、1~10個の炭素原子を含有する置換ヒドロカルビル部分または1~10個の炭素原子を含有する非置換ヒドロカルビル部分から選択される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による工業用流体添加剤組成物を含む金属加工用流体が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、細菌または真菌の増殖を阻害するなどの微生物の増殖を阻害するための、本発明の第1の態様による工業用流体添加剤組成物の使用が提供される。好ましくは、使用は本発明の第2の態様による金属加工用流体において、本発明の第1の態様による工業添加剤組成物を使用することを含む。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第2の態様による金属加工用流体を金属に塗布することを含む、金属を切断、研削、または洗浄する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、本発明の第1の態様による工業用流体添加剤組成物が金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害する際に驚くほど良好な効力を有することが予想外に見出されたという知見に基づく。金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害するこの効力は、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤と組み合わせた式(A)の化合物の使用に関連することが見出された。金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害する際の本発明の添加剤組成物の効力は、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤を含むが式(A)の化合物を含まない組成物の微生物の増殖を阻害する効力と比較して、および式(A)の化合物を含むが金属イオン封鎖剤を含まない組成物と比較して相乗的であることが見出された。式(A)の化合物のみを含み、かつ金属イオン封鎖剤を含まない組成物は真菌の増殖を阻害する際にわずかな効果を有するが、細菌増殖には効果を有さないことが以前に見出されている。金属イオン封鎖剤のみを含み、式(A)の化合物を含まない組成物は微生物の増殖にいかなる影響も及ぼすことがこれまで見出されていない。
【0014】
理論によって限定されるものではないが、金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害する際の本発明の組成物の予想外の効力は以下の要因に起因すると考えられる。式(A)の化合物は金属加工用流体のpHが上昇するほど十分に塩基性である。金属加工用流体のpHの上昇は、一般に中性pH値でより良く成長する金属加工用流体中の微生物の成長を妨げる。式(A)の化合物において、OH部分に結合した炭素原子に近接する炭素原子に結合した―NH部分を有することもまた重要であると考えられる。分子中のそのような部分は、式(A)の化合物がミセル境界に存在するのを助けるので、水中油型エマルジョンである金属加工用流体において特に有用であると考えられる。本発明の添加剤組成物中に存在する1種以上の金属イオン封鎖剤は、金属加工用流体中に存在する任意の金属イオンをキレート化すると考えられる。金属イオンは微生物の代謝に関与するので、金属イオンの存在は微生物の成長を促進する。1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は金属イオンをキレート化するが、これは存在する微生物が溶液中に存在する金属イオンを吸収することができず、それらを成長のための代謝に使用することができないことを意味する。したがって添加剤組成物中の1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤の存在は金属加工用流体中に存在する微生物の増殖を阻害し得る。
【0015】
本発明の添加剤組成物は、第二級アミン(例えばジシクロヘキシルアミン)などの追加の殺生物成分を含んでもよい。しかしながら、式(A)の化合物と1種以上の金属イオン封鎖剤との組み合わせは、ジシクロヘキシルアミンのような殺生物剤が添加剤組成物中に含まれる必要が無く、金属加工用流体中の微生物の成長を阻害するのに十分であることが見出された。したがって好ましい実施形態では、本発明の添加剤組成物は殺生物剤を含まない。別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は第二級アミン(例えばジシクロヘキシルアミン)を含まない。
【0016】
本明細書で使用される殺生物剤という用語は、流体中に存在する微生物を直接殺す添加剤組成物または金属加工用流体の成分を指すために使用される。同様に用語「殺菌剤」および「防カビ剤」は、それぞれ細菌および真菌を直接殺す組成物の成分を指すために使用される。このような殺生物性部品の例には、ジシクロヘキシルアミン、オルトフェニルフェノール、メチルイソチアゾリノン、ベンゾイソチアゾリノンおよびN―(3―アミノプロピル)―N―ドデシルプロパン―1,3―ジアミンなどの第二級アミンが含まれる。一般に毒性のような理由のために、金属加工用流体における殺生物剤の使用に関して厳しい規制がある。したがって金属加工流体中に存在する微生物の増殖を抑制するが、添加組成物自体が殺生物性ではない金属加工用流体のための添加組成物を提供することが有利である。このような利点は、金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害することができるが、殺生物性ではなく存在する微生物を直接殺すことができない本発明の添加剤組成物によって提供される。本発明の工業用流体添加剤組成物が、既に微生物を含む金属加工用流体に添加される場合、本発明の添加剤組成物は金属加工用流体の微生物集団を減少させるように作用し得る。これは微生物がもはやその中で増殖できず、結果として死滅するように金属加工用流体の環境が添加剤の存在によって変更され得るからである。例えば上記で説明したように1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は微生物がその代謝に必要な溶解金属イオンを取り込むことを防止し、その結果微生物を死滅させることができる。このように本発明の工業用流体添加剤組成物は金属加工用流体の環境を微生物の生命に不浸透性であるように変化させることによって、金属加工用流体中の微生物を殺すように間接的に作用することができる。このような活性は殺生物剤分子が例えば微生物に対して毒性であることによって、存在する微生物を殺すように直接作用する殺生物剤の活性とは区別される。
【0017】
本発明の工業用流体添加剤組成物中に存在する式(A)の化合物は以下の式を有する:
【0018】
【化2】
【0019】
ここで、RおよびRは独立して、1~10個の炭素原子を含有する置換ヒドロカルビル部分または1~10個の炭素原子を含有する非置換ヒドロカルビル部分から選択される。
【0020】
およびRは、アルキル部分、アルケニル部分、アルキニル部分、シクロアルキル部分、シクロアルケニル部分、アリール部分、アルカリール部分およびアラルキル部分などの置換または置換されていない脂肪族または芳香族炭化水素部分から独立して選択されてもよい。好ましくは、RおよびRは脂肪族ヒドロカルビル部分を含む。より好ましくはRおよびRはアルキル部分を含む。RおよびRは直鎖または分岐鎖アルキル部分またはシクロアルキル部分を含み得る。好ましくはRおよびRは直鎖アルキル部分を含む。
【0021】
2つ以上の部分が部分のリストから「それぞれ独立して」選択されると記載される場合、これは部分が同じであっても異なっていてもよいことを意味する。従って各部分の独自性は、1つまたはそれ以上の他の部分の独自性とは無関係である。複数の置換基が構造に結合しているものとして示されている場合、置換基は同じであっても異なっていてもよいことが理解されるであろう。
【0022】
本明細書で使用される「ヒドロカルビル」という用語は水素および炭素原子からなる群を指し、この群は1~30個の炭素原子を有する。例えばヒドロカルビル基は、1~20個の炭素原子、例えば1~12個の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子を有し得る。ヒドロカルビル基は非環式基、環式基であってもよく、または非環式部分および環式部分の両方を含んでもよい。ヒドロカルビル基の例としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル(例えばシクロアルキル、シクロアルケニルまたはアリール)およびアラルキルが挙げられる。
【0023】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、1~30個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキル部分を指す。例えばアルキル基は1~20個の炭素原子、例えば1~12個の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子を有し得る。特にアルキル基は1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有し得る。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル(n―プロピルまたはイソプロピル)、ブチル(n―ブチル、sec―ブチルまたはtert―ブチル)、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は、2~30個の炭素原子を有し、さらに適用可能な場合には、EまたはZ立体化学のいずれかの少なくとも1つの炭素―炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖アルキル基を指す。例えばアルケニル基は2~20個の炭素原子、例えば2~12個の炭素原子、例えば2~10個の炭素原子を有し得る。特にアルケニル基は2、3、4、5または6個の炭素原子を有し得る。アルケニル基の例としては、エテニル、2―プロペニル、1―ブテニル、2―ブテニル、3―ブテニル、1―ペンテニル、2―ペンテニル、3―ペンテニル、1―ヘキセニル、2―ヘキセニル、3―ヘキセニルなどが含まれる。
【0025】
本明細書で使用される「アルキニル」という用語は2~30個の炭素原子を有し、さらに少なくとも1つの炭素―炭素三重結合を有する直鎖または分岐鎖アルキル基を指す。例えばアルキニル基は2~20個の炭素原子、例えば2~12個の炭素原子、例えば2~10個の炭素原子を有し得る。特にアルキニル基は2、3、4、5または6個の炭素原子を有し得る。アルキニル基の例としては、エチニル、1―プロピニル、2―プロピニル、1―ブチニル、2―ブチニル、3―ブチニル、1―ペンチニル、2―ペンチニル、3―ペンチニル、1―ヘキシニル、2―ヘキシニル、3―ヘキシニルなどが含まれる。
【0026】
本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は3~20個の環炭素原子を有する脂肪族炭素環部分を指す。例えばシクロアルキル基は3~16個の炭素原子、例えば3~10個の炭素原子を有し得る。特にシクロアルキル基は3、4、5または6個の環炭素原子を有し得る。シクロアルキル基は、単環式、多環式(例えば二環式)または架橋環系であってもよい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルなどが含まれる。
【0027】
本明細書で使用される「シクロアルケニル」という用語は5~20個の環炭素原子を有し、さらに環中に少なくとも1つの炭素―炭素二重結合を有する脂肪族炭素環部分を指す。例えばシクロアルケニル基は5~16個の炭素原子、例えば5~10個の炭素原子を有し得る。特にシクロアルケニル基は5個または6個の環炭素原子を有し得る。シクロアルケニル基は、単環式、多環式(例えば二環式)または架橋環系であってもよい。シクロアルケニル基の例としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどが含まれる。
【0028】
本明細書で使用される「アリール」という用語は6~30個の環炭素原子を有する芳香族炭素環系を指す。例えばアリール基は6~16個の環炭素原子、例えば6~10個の環炭素原子を有し得る。アリール基は単環式芳香族環系または少なくとも1つが芳香族である2つ以上の環を有する多環式環系であってもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アズレニル、インデニル、アントリルなどが含まれる。
【0029】
本明細書で使用される「アラルキル」という用語はアリール基で置換されたアルキル基を指し、アルキル基およびアリール基は本明細書で定義されるとおりである。アラルキル基の例としてはベンジル基である。
【0030】
本明細書で使用される「アルカリール」という用語はアルキル基で置換されたアリール基を指し、アルキル基およびアリール基は本明細書で定義されるとおりである。アルカリールの一例としてはメチルフェニルである。
【0031】
およびRは置換または非置換のヒドロカルビル部分を含み得る。化学基に関連して本明細書で使用される「置換された」という用語は、その基中の水素原子の1つまたはそれ以上(例えば1、2、3、4または5)が対応する数の置換基によって互いに独立して置換されていることを意味する。もちろん1つまたはそれ以上の置換基はそれらが化学的に可能である位置にのみ存在してもよく、すなわち任意の置換は換原子および置換基の許容される原子価に従いそして置換は安定な化合物を生じることが理解される。この用語は化学基または化合物の全ての許容可能な置換基を含むと考えられる。所与の置換基上の1個以上の水素原子は、適切であればそれ自体が置換され得ることが当業者によって理解される。置換基の非限定的な例としては―OH、―NH、―Cl、―B、―F,―COH,―CO,―COR,―CONH―Rなどの部分が挙げられ、ここでRは置換または非置換ヒドロカルビルである。
【0032】
好ましくは、RおよびRは非置換アルキル基から独立して選択され、より好ましくは非置換直鎖アルキル基である。
【0033】
とRはそれぞれ1~10個の原子をもつ。好ましくは、RおよびRはそれぞれ1~5個の炭素原子を有する。好ましくは、式(A)の化合物は合計5~12個の炭素原子を含む。したがって好ましい実施形態では、RおよびRはそれぞれ1~5個の炭素原子を有し、式(A)の化合物は総計で5~12個の炭素原子を含む。非常に好ましい実施形態では、Rはn―ブチルおよびRはエチルである。これは化合物3―アミノ―4―オクタノールである。理論によって限定されるものではないが、式(A)の化合物が上記のようにOH部分に結合した炭素原子に近接する炭素原子に結合した―NH部分を含む分子と共に、式(A)の化合物が水中油型エマルジョン中のミセル界に存在することを可能にするために最適であるため、式(A)の化合物がそれぞれ1~5個の炭素原子を有するRおよびRを合計で5~12個の炭素原子を含むことが好都合であると考えられる。
【0034】
式(A)の化合物は任意の適切な量で本発明の工業用流体添加剤組成物中に存在することができる。例えば式(A)の化合物は工業用流体添加剤組成物の10重量%~50重量%の量で存在することができる。好ましくは、式(A)の化合物は工業用流体添加剤組成物の15重量%~35重量%の量で存在する。
【0035】
本発明の工業用流体添加剤組成物は、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤を含む。溶解した金属イオンを水溶液または水中油型エマルジョン中で効果的にキレート化することが知られている任意の公知の適切な金属イオン封鎖剤またはキレート剤を使用することができる。本発明の添加剤組成物に使用することができる金属イオン封鎖剤には、分子中に1つまたはそれ以上のホスホネート部分を含む化合物が含まれる。本発明に従って使用するための金属イオン封鎖剤の他の例としては、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリラクテート、化合物であって、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、ニトリロ三酢酸、スクシンイミド、またはそれらの任意の組み合わせなどの2つまたはそれ以上のカルボキシル基を含む化合物が含まれる。
【0036】
好ましくは、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は1つまたはそれ以上のホスホネート部分を含む化合物を含む。より好ましくは、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は式(B)の化合物を含む:
【0037】
【化3】
【0038】
式中、Rは、1~10個の炭素原子を含有する置換ヒドロカルビル基、または1~10個の炭素原子を含有する非置換ヒドロカルビル基である。好ましくは、Rは1~10個の炭素原子を含有する置換アルキル基、または1~10個の炭素原子を含有する非置換アルキル基である。
【0039】
好ましくは、Rは1~10個の炭素原子を含む置換アルキル基である。より好ましくは、ここで、Rは1つまたは2つのホスホネート部分を含む置換されたアルキル基(例えば1つまたは2つのホスホネート部分を含む置換されたCまたはCアルキル基)である。最も好ましくは、Rは1つまたは2つのホスホネート部分、および1つまたはそれ以上のヒドロキシル部分を含むCアルキル基への置換Cである。非常に好ましい実施形態において、式(B)の化合物は、1―ヒドロキシエタン1、1―ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0040】
1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は、任意の適切な量で本発明の工業用流体添加剤組成物中に存在してもよい。例えば1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は工業用流体添加剤組成物の少なくとも5重量%の量で、例えば工業用流体添加剤組成物の5重量%~20重量%の量で存在してもよい。
【0041】
1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤が1つまたはそれ以上のホスホネート基を含む場合、式(A)の化合物の少なくとも一部および1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤の少なくとも一部は、組成物の形成時に原位置(in situ)で反応してホスホン酸アンモニウム塩を形成すると考えられる。理論によって限定されるものではないが、この塩の形成は金属加工用流体中の微生物の増殖を阻害する際の組成物の予想外に良好な効力に寄与すると考えられる。さらに塩の原位置(in situ)での形成は塩の安定性によって添加剤組成物の貯蔵寿命を延ばす。
【0042】
本発明の工業用流体添加剤組成物は、典型的には水を含む。水は任意の適切な量で存在し得る。例えば水は工業用流体添加剤組成物の20重量%~80重量%、好ましくは30重量%~60重量%の量で存在することができる。
【0043】
工業用流体添加剤組成物のpHは典型的には7~11の範囲である。好ましくは、添加剤組成物のpHは、8~10.5、より好ましくは8.5~10、最も好ましくは9~9.5である。理論によって限定されるものではないが、9~9.5の範囲内のpHが好ましいが、それはそのようなpHが金属加工用流体中の微生物増殖の阻害に寄与するのに十分に高いことが見出されているからである。驚くべきことに本発明の工業用流体添加剤組成物は、公知の添加剤よりも低いpHで金属加工用流体中の微生物の増殖を抑制して微生物の増殖を抑制するのに有効であることが見出された。
【0044】
理論によって限定されるものではないが、これは本発明の添加剤組成物において1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤および式(A)の化合物を使用することに関連する上述の相乗効果に関連すると考えられる。より低いpHで微生物の増殖を十分に阻害することは、組成物があまり苛性ではない環境でも同様に機能することを意味するため有利である。
【0045】
本発明の工業用流体添加剤組成物は、pH増加添加剤をさらに含んでもよい。pH増加添加剤の例には、モノエタノールアミンなどのC~C10第一級アルキルアミンが含まれる。pH増加添加剤の他の例にはトリエタノールアミンが含まれる。pH増加添加剤は添加剤組成物中に添加剤組成物のpHが所望の範囲内、例えば上述の範囲内に上昇するのに十分な任意の適切な量で存在してもよい。典型的にはpH増加添加剤は添加剤組成物中に添加剤組成物の2~25重量%の量で、好ましくは添加剤組成物の5~15重量%の量で存在する。
【0046】
本発明の工業用流体添加剤組成物はまた、金属加工用流体での使用に適した当技術分野で公知の他の成分および金属加工用流体での使用のための添加剤組成物を含んでもよい。このような成分は当業者に公知である。例えば本発明の添加剤組成物は1つまたはそれ以上の界面活性剤をさらに含み得る。1つまたはそれ以上の界面活性剤は任意の適切な量で存在し得る。典型的には、1つまたはそれ以上の界面活性剤は添加剤組成物中に添加剤組成物の1重量%~10重量%、例えば添加剤組成物の2重量%~6重量%の量で存在する。
【0047】
本発明はまた、本発明の工業用流体添加剤組成物を含む金属加工用流体を提供する。本発明による金属加工用流体は、(1)非水混和性油、(2)水混和性油、および(3)完全に合成された油を含まない製品など、当技術分野で知られている任意のタイプの金属加工用流体とすることができる。したがって金属加工用流体は、油ベース、水性ベース、油中水型エマルジョン、または水中油型エマルジョンであってもよい。好ましくは、本発明の金属加工用流体は水混和性油に基づくか、または完全に合成された油を含まない製品である。最も好ましくは、金属加工用流体は水混和性油に基づく。このような金属加工用流体は、典型的には水と、鉱油、合成油またはエステル油などの油とを含む。金属加工用流体はまた水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンの形成を助けるために乳化剤を含んでもよい。好ましくは、本発明の金属加工用流体は水中油型エマルジョンである。好ましくは、水中油型エマルジョンは乳化剤を含む。
【0048】
本発明の金属加工用流体は、金属加工用流体に典型的に見られるような1つまたはそれ以上の添加剤をさらに含んでもよい。このような添加剤は当業者に知られており一般的である。
【0049】
本発明の金属加工用流体は、本発明の工業用流体添加剤組成物を任意の適切な量で含むことができる。典型的には本発明の金属加工用流体は微生物学的増殖の抑制効果を達成するのに十分な量で本発明の工業用流体添加剤組成物を含む。典型的には本発明の金属加工用流体は0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、最も好ましくは0.5重量%~1.5重量%の量で本発明の工業用流体添加剤組成物を含む。
【0050】
したがって本発明の金属加工用流体は、1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤を含むことができる。典型的には1つまたはそれ以上の金属イオン封鎖剤は金属加工用流体中に金属加工用流体の少なくとも0.01重量%、例えば0.01重量%~0.15重量%の量で存在する。本発明の金属加工用流体はまた、式(A)の1つまたはそれ以上の化合物を含む。典型的には、式(A)の1つまたはそれ以上の化合物は金属加工用流体の0.1重量%~0.5重量%、好ましくは0.15重量%~0.35重量%の量で存在する。
【0051】
金属加工用流体のpHは金属加工用流体のための任意の適切なpHであってもよい。金属加工用流体の特定のpH値は、特定の用途のために当業者によって選択され得る。典型的には、金属加工用流体のpHは8~10.5、より好ましくは8.5~10、最も好ましくは9~9.5である。このようなpHは、苛性すぎることなく微生物学的増殖の阻害を可能にするので最適であると考えられる。本発明の金属加工用流体の利点は、流体中の微生物学的増殖がpH9~9.5で十分に抑制されることである。本発明によらない種々の既知の金属加工用流体は微生物学的増殖を十分に抑制するためにより高いpH値を必要とする。
【0052】
本発明はまた、細菌および/または真菌の増殖の阻害などの微生物増殖の阻害における本発明の工業用流体添加剤組成物の使用を提供する。本発明による使用は、微生物学的増殖の阻害が所望されるかまたは必要である任意の工業用流体中で本発明の添加剤を使用することを含み得る。好ましくは、本発明による使用は金属加工用流体中の微生物の増殖を抑制するために工業用流体添加剤組成物を使用することを含む。
【0053】
本発明はまた、金属加工用途において本発明の金属加工用流体を使用する方法を提供する。金属加工用途は当業者に公知の金属加工用流体のための任意の公知の用途を含み得る。好ましくは、本発明の方法は本発明の金属加工用流体を適用することを含む、金属を切断、研削または洗浄する方法を含む。
【実施例
【0054】
以下の試験製剤をそれぞれの成分を表に示す量で混合することによって調製した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
上記の試験製剤において、トリトン DF―12およびLubrophos(登録商標)LB400Eは、市販の界面活性剤である。
【0058】
Corrguard(登録商標)EXTは、化合物3―アミノ―4―オクタノール(式(A)の化合物の例)である。
【0059】
HEDP―60は、化合物1ヒドロキシエタン1,1―ジホスホン酸であり、金属イオン封鎖剤の例である。
【0060】
上記表に示す値は工業用流体添加剤組成物の重量%である。
【0061】
上記の工業用流体添加剤組成物は全て金属加工用流体の1重量%の量で水中油型エマルジョン金属加工用流体に混合された。各金属加工用流体を金属加工用流体中に存在する細菌および真菌の量について一定期間にわたって試験した。
【0062】
(試験シリーズ1)
【表3】
【0063】
試験シリーズ1において細菌および真菌含有量についての上記値は、cfu/mlである。Time=0での初期値は細菌:3.44×10^9 cfu/ml、真菌:1×10^5 cfu/mlであった。金属加工用流体の48時間後のpHは、SCL―003では8.7、SCL―008では8.6、対照流体では8.1であった。
【0064】
(試験シリーズ2)
【表4】
【0065】
試験シリーズ2において細菌および真菌含有量についての上記値は、cfu/mlである。Time=0での初期値は細菌:1.72×10^7 cfu/ml、真菌:1×10^3 cfu/mlであった。
【0066】
(試験シリーズ3)
【表5】
【0067】
試験シリーズ3において細菌および真菌含有量についての上記値は、cfu/mlである。Time=0での初期値は細菌:3.44×10^9 cfu/ml、真菌:1×10^5 cfu/mlであった。
【0068】
(試験シリーズ4)
【表6】
【0069】
試験シリーズ4において、細菌および真菌含有量についての上記値は、cfu/mlである。Time=0での初期値は細菌:5.6×10^6 cfu/ml、真菌:9×10^1 cfu/mlであった。
【0070】
(結果の考察)
試験シリーズ1の結果は、本発明の添加剤を含む(すなわち金属イオン封鎖剤および式(A)の化合物の両方を含む)金属加工用流体が、48時間後に細菌および真菌の増殖を阻害したことを実証する。本発明の添加剤は存在する微生物が死滅するように、金属加工用流体が微生物の生命にとって住み難くなるように、金属加工用流体の環境を変化させることが示されている。対照的に本発明の添加剤を含まない対照製剤では、真菌および細菌のレベルは96時間にわたって同様のままであった。結果はまた本発明の工業用流体添加剤(SCL―003)であって、殺生物剤および第二級アミンを含まないものが殺生物剤ジシクロヘキシルアミンを含む金属加工用流体と同様に微生物の増殖を阻害するのに良好であることを示す。
【0071】
試験シリーズ2の結果は、製剤SCL―017が96時間にわたって金属加工用流体の細菌集団を減少させることを示す。これは細菌および真菌レベルが一定のままであった対照製剤とは対照的である。SCL―017は本発明による工業用流体添加剤組成物である。しかしながらそれは試験シリーズ1のSCL―003製剤と比較して、非常に低いレベルの金属イオン封鎖剤を含有する。予想通り、SCL―017は細菌集団を減少させるように作用したが、この減少ははるかに多量の金属イオン封鎖剤を含む試験シリーズのSCL―003よりもはるかに少なかった。
【0072】
試験シリーズ3の結果は、金属イオン封鎖剤、式(A)の化合物およびモノエタノールアミンpHブースターを含む本発明の例示的な工業用流体添加剤組成物(SCL―003)を、同量の式(A)の化合物および同量のモノエタノールアミンを含むが金属イオン封鎖剤を含まない対応する製剤SCL―019、SCL―021およびSCL―026と比較した。SCL―019、SCL―021、SCL―026も脂肪酸を含んでいた。これは4つの試験製剤全てのpHを同様の値に調整するためであった。脂肪酸をSCL―019、SCL―021、SCL―026に添加する必要があったのは、SCL―003に匹敵するようにpHを低下させるためであった。脂肪酸が存在しない場合、これらの製剤のpHは酸性HEDP―60金属イオン封鎖剤が存在しないためより高くなるであろう。結果は経時的に本発明の添加剤が金属加工用流体の細菌および真菌集団の両方を減少させたことを示す。対照的にSCL―019およびSCL―026は真菌集団を非常にわずかに減少させたが、SCL―003よりも大幅に低い範囲であった。SCL―021は時間=ゼロの集団がゼロであったため、真菌集団に影響を及ぼさなかった。SCL―019、SCL―021、SCL―026の各々は金属加工用流体の細菌集団を全く減少させなかった。
【0073】
試験シリーズ4の結果は、脱イオン水および界面活性剤のみを含有する対照試料SCL―DF12およびSCL―LB400が細菌および真菌集団にほとんど影響を及ぼさないことを示す。また、金属イオン封鎖剤のみを含むSCL―HEDPは細菌性と真菌性の両方の集団にほとんど影響を与えないことが示された。水およびモノエタノールアミンのみを含有するSCL―MEAは経時的に細菌集団をわずかに減少させることが示されたが、真菌集団には影響を及ぼさなかった。式(A)の化合物のみを含有するSCL―EXTは細菌集団および真菌集団の両方をわずかに減少させることが示されている。
【0074】
対照的に本発明による製剤SCL―003およびSCL―029は細菌集団および真菌集団の両方を有意に減少させた。SCL―003は細菌集団および真菌集団の両方を減少させる点で他の全ての試験製剤よりも良好であった。SCL―003がSCL―029よりも細菌および真菌集団の両方を減少させたのは、SCL―029が製剤のpHを上昇させ、したがって微生物の増殖を阻害するその効力を増大させるモノエタノールアミンを全く含まないからである。これはまたSCL―EXT製剤がSCL―029よりも高い抗菌効果を示した理由を説明する。SCL―EXTは式(A)の化合物および水のみを含有するので、式(A)の塩基性化合物および酸性HEDPの両方を含有するSCL―029よりもはるかに高いpHを有する。