IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オハラの特許一覧

特許7394757非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池
<>
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図1
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図2
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図3
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図4
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図5
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図6
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図7
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図8
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図9
  • 特許-非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】非晶質固体電解質およびそれを用いた全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/16 20060101AFI20231201BHJP
   C03C 3/17 20060101ALI20231201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231201BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231201BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231201BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231201BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C03C3/16
C03C3/17
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020525419
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2019021246
(87)【国際公開番号】W WO2019239890
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2018114300
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小笠 和仁
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-243006(JP,A)
【文献】特開2012-076988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/16
C03C 3/17
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/13
H01M 4/62
H01B 1/06
H01B 1/08
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
Scopus
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li2O-P25-SO3で示され、
前記Li2O-P25-SO3の組成が
酸化物換算のモル比で
Li2O = 40~70mol%、
25 = 20~50mol%、
SO3 = 9.7~30mol%
である非晶質固体電解質。
【請求項2】
前記非晶質固体電解質がLi2O-P25-SO3-Al23で示される非晶質固体電解質であり、
前記Li2O-P25-SO3-Al23の組成が
酸化物換算のモル比で
Li2O = 40~70mol%、
25 = 20~50mol%、
SO3 = 9.7~30mol%、
Al23 = 0超~6mol%
である請求項1に記載の非晶質固体電解質。
【請求項3】
Li、Zr、Ti、Sn、Si、Ge、Sc、Y、La、Nb、Al、Ca、Mg、Fe、Mn、Co、Cr、O、P、B、F、Cl、Inの3元素以上からなり、菱面体晶系を含むリチウム含有リン酸化合物、NASICON構造、ペロブスカイト構造、LISICON構造、ガーネット構造、β-Fe2(SO43型構造を示すいずれか1種以上の結晶性固体電解質あるいはガラスセラミックスを第二の固体電解質、および請求項1又は2に記載の非晶質固体電解質を第一の固体電解質として含み、導電助剤を含む負極層材料が焼結された負極層、
前記第二の固体電解質および前記第一の固体電解質を含み、導電助剤を含む正極層材料が焼結された正極層、または、
前記第二の固体電解質および前記第一の固体電解質を含む固体電解質層材料が焼結された固体電解質層を備える、全固体二次電池。
【請求項4】
前記負極層材料の全質量に対する前記第一の固体電解質の含有量が2質量%以上60質量%以下である、請求項3に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記正極層材料の全質量に対する前記第一の固体電解質の含有量が2質量%以上60質量%以下である、請求項3又は4に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質層材料の全質量に対する前記第一の固体電解質の含有量が3質量%以上90質量%以下である、請求項3~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物系固体電解質及びその用途に関する。更に詳しくは、本発明は、低温でのプレスでも高い伝導率を示しうる酸化物系固体電解質、それを実現する固体電解質と、それを含む固体電解質層、正極層、負極層および全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用電源、携帯端末用電源などの用途で、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
現在市販されているリチウムイオン二次電池の多くは、高いエネルギー密度を有するために、有機溶媒などの液体の電解質(電解液)が一般的に使用されている。この電解液は、炭酸エステルや環状エステルなどの非プロトン性有機溶媒などにリチウム塩を熔解させて用いられている。
【0003】
しかし、液体の電解質(電解液)を用いたリチウムイオン二次電池においては、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に一般的に用いられる有機溶媒などは可燃性物質であり、安全上、好ましくないという問題がある。
【0004】
そこで、有機溶媒など液体の電解質(電解液)に替えて、固体電解質を用いることが提案されている。また、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成された全固体二次電池の開発が進められている。
【0005】
全固体二次電池は使用する電解質に応じて硫化物系と酸化物系に分類される。硫化物系においては、95(0.6LiS・0.4SiS)・5LiSiOやβLiPSなど、酸化物系ではNASICON構造のLi1+xTi2-xAl12(x=0.1~0.4)やガーネット構造のLiLaZr12などが固体電解質に用いられる。大きな課題の1つが界面形成であり、課題解決の1つの方法として、硫化物系でも酸化物系でも、イオン伝導性のガラスを混合することで界面形成を促進させている。あるいは酸化物系ではLi1+xGe2-xAl12など易焼成性のセラミックが用いられている。
文献1に記載の全固体二次電池の固体電解質では、LiO-Al-P系のガラスを用い、200MPaの圧力をかけてガラスが溶融する温度である600℃で焼結している。焼結温度がまだ高いため、電極活物質と固体電解質が反応して放電容量が低下するという課題があった。
文献2に記載の固体電解質は、(100-x)LiBO・xLiSO(x=0~100)の固体電解質をメカニカルミリングによりガラス状にし、255℃、360MPa、4時間という低温であるが高圧、長時間の熱処理により部分的に結晶化し1×10-5S/cmの固体電解質を形成している。高圧、長時間の熱処理が必要であり、量産性に疑問が残る。
文献3に記載の固体電解質はLi1.5Al0.5Ge1.5(POの粉末を金型で成形後に800℃で焼成している。ガラス電解質を使用していないため、反応温度を高く設定しているがそれでも抵抗値が3×10-7S/cmと高抵抗であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-60084
【文献】特開2015-176854
【文献】特開2007-258165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、高いイオン伝導性を持ちつつも、低温・極短時間で合成でき、低抵抗で放電容量が高く、かつ量産性に優れた非晶質電解質を用いて短時間の熱処理で合成できる全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため、鋭意試験研究を重ねた結果、全固体二次電池に用いる固体電解質としてLiO-P―SO系又はLiO―P-SO-Al系の非晶質固体電解質を第一の固体電解質として用いることで、これまで用いられてきた非晶質固体電解質よりも低温・短時間で全固体二次電池の界面を形成することが可能であることを見出した。また、LiO-P―SO系又はLiO―P-SO-Al系の非晶質固体電解質を用いることにより耐還元性の低い固体電解質であるLi1+x+yAlTi2-x3-ySi12(LATPと称する)を全固体二次電池中で、第二の固体電解質として使用することができるようになり、低抵抗な電解質膜および全固体二次電池を形成できることも見出した。また、耐還元性の高いLi1+x+yAlZr2-x3-ySi12(LAZPと称する)を用いた場合でも正極層および負極層の活物質の分解を抑制でき放電容量を高く保てることができるようになり、高エネルギー密度の全固体二次電池を合成できることも見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下に示す全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LiO-P―SO系又はLiO-P-SO-Al系の非晶質固体電解質を第一の固体電解質として用いることにより、リチウムに対して2.0V程度の電位で還元してしまい、炭素などが存在する条件の熱処理で還元してしまうが、高いイオン伝導度をもつLATPを第二の固体電解質として使用することができるようになり、結果として低抵抗値の全固体二次電池を得ることができる。さらに耐還元性のあるLAZPを第二の固体電解質として使用する場合にも熱処理温度を低温化でき正極層および負極層中の活物質の分解を抑制でき、高エネルギー密度の全固体二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】比較例1の熱重量・示差熱測定の結果である。
図2】比較例2の熱重量・示差熱測定の結果である。
図3】実施例1の熱重量・示差熱測定結果である。
図4】実施例2の熱重量・示差熱測定結果である。
図5】実施例3の熱重量・示差熱測定結果である。
図6】実施例1の交流インピーダンス測定結果である。
図7】実施例19の交流インピーダンス測定結果である。
図8】比較例4~8および実施例15~21、伝導度の熱処理温度依存性測定結果の図である。(実線:第一の固体電解質として実施例2の非晶質固体電解質使用、破線:第一の固体電解質として比較例2の非晶質固体電解質使用)
図9】実施例26の充放電測定結果(実線:充電曲線、破線:放電曲線)である。
図10】実施例14の充放電測定結果(実線:充電曲線、破線:放電曲線)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の全固体二次電池の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0012】
(非晶質固体電解質)
本発明で使用される第一の固体電解質は、LiO-P―SO系又はLiO-P―SO-Al系の非晶質の固体電解質(ガラス、あるいはアモルファス)である。
特に限定はしないが、好ましくは水冷キャスト法、より好ましくは双ローラー急冷法、最も好ましくはキャスト法で成形するのが量産性を考える上で好ましい。
LiO成分はリチウムイオン伝導度を発現させるために必要な必須成分である。酸化物換算組成で40mol%以上含有する場合にLiイオン伝導度が室温で1×10-10S/cm以上となる。そのため、LiOの含有量は、好ましくは40mol%以上、より好ましくは45mol%以上、さらに好ましくは50mol%以上とする。一方、LiO成分はガラス電解質の伝導度を低下させる結晶状態を安定化させる要因でもあり、多すぎると結晶化しやすくなる。そのため、好ましくは70mol%以下、さらに好ましくは58mol%以下、最も好ましくは57mol%以下とする。
【0013】
成分は固体電解質が非晶質となるのに必要な必須成分である。同様に低融点化が期待できるガラス形成酸化物であるBに比べるとLiOに対するガラス化範囲が広いため、より低い割合で安定な高イオン伝導度のガラスが形成しやすい。特に低融点化の成分であるSOとの相性が良く、低融点、低Tg化できる。そのため、Pの含有量は、好ましくは20mol%、より好ましくは22mol%、最も好ましくは25mol%以上とする。一方、P成分が多くなりすぎると他の成分が入らなくなりリチウムイオン伝導の機能が損なわれるため、好ましくは50mol%以下、さらに好ましくは45mol%以下、最も好ましくは40mol%以下とする。
【0014】
SO成分は、非晶質固体電解質を低融点化あるいは低Tg化するのに必要な必須成分である。酸化物換算で1mol%以上あると非晶質固体電解質を低融点化あるいは低Tg化する。さらに、SO3を含む結晶のイオン伝導度は他のガラス電解質の結晶化したものに比べて高いため、焼成などにより結晶化してもガラス電解質の結晶化による抵抗増を抑制できる。
そのため、SOの含有量は、好ましくは1mol%以上、さらに好ましくは3mol%以上、最も好ましくは5mol%以上とする。一方、SO成分はガラス合成時に有毒ガスであるSOを放出する恐れがあるため、好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは25mol%以下、最も好ましくは20mol%以下とする。
【0015】
Al成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0%超含有することによって耐水性とイオン伝導性を向上させる。そのためAlの成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。 一方、Al成分は、含有量が多いと非晶質電解質の結晶状態を安定化させる要因となり、含有量が高すぎると結晶化しやすくなり、固体電解質が非晶質状態で得られにくくなる。そのため、Al成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。ここで耐水性は水だけでなく、アルコールなどの極性溶媒に対しても適応され、シート成形など電池の製造工程で重要な要素となる。
【0016】
本発明の非晶質(あるいはガラス)組成物は、その組成が酸化物換算組成の非晶質(あるいはガラス)全質量に対するmol%で表されているため直接的に重量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす固体電解質中に存在する各成分の重量比表示による組成は、重量比で概ね以下の値をとる。
重量比で
Li = 5~17重量%及び/又は
P = 17~40重量%及び/又は
S = 1~15重量%及び/又は
O = 55~58重量%
【0017】
本発明の非晶質(あるいはガラス)組成物は、その組成が酸化物換算組成の非晶質(あるいはガラス)全質量に対するmol%で表されているため直接的にモル比の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす固体電解質中に存在する各成分のモル比表示による組成は、重量比で概ね以下の値をとる。
モル比で
Li = 15~36mol%及び/又は
P = 9~20mol%及び/又は
S = 1~8 mol%及び/又は
O = 53~65mol%
【0018】
本発明の非晶質(あるいはガラス)組成物は、その組成が酸化物換算組成の非晶質(あるいはガラス)全質量に対するmol%で表されているため直接的に重量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす固体電解質中に存在する各成分の重量比表示による組成は、重量比で概ね以下の値をとる。
重量比で
Li = 5~17重量%及び/又は
P = 17~40重量%及び/又は
S = 1~15重量%及び/又は
Al = 0超~6.5重量%及び/又は
O = 55~58重量%
【0019】
本発明の非晶質(あるいはガラス)組成物は、その組成が酸化物換算組成の非晶質(あるいはガラス)全質量に対するmol%で表されているため直接的にモル比の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす固体電解質中に存在する各成分のモル比表示による組成は、重量比で概ね以下の値をとる。
モル比で
Li = 15~36mol%及び/又は
P = 9~20mol%及び/又は
S = 1~8 mol%及び/又は
Al = 0超~5mol%及び/又は
O = 53~65mol%
【0020】
(負極層)
本発明の全固体二次電池における負極層は、負極活物質及び、第一の固体電解質として非晶質電解質、第二の固体電解質として結晶性固体電解質又はガラスセラミックス固体電解質の少なくとも1つ以上及び導電助剤を含む材料を焼結したものであることが好ましい。
上記負極層の負極活物質の種類は限定されない。本発明の負極活物質としては、TiO、Nb、WOなどの遷移金属酸化物あるいはその固溶体、LiTi12、LiTiが好ましい。
負極層材料の全質量に対する上記負極活物質の含有量は、10質量%~60質量%が好ましい。特にこの含有量を10質量%以上にすることで、全固体二次電池の電池容量を高めることができる。そのため、負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは18質量%以上とする。一方で、この含有量を60質量%以下にすることで、電極層のイオン伝導性を確保し易くできる。そのため、負極活物質の含有量は、好ましくは60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下とする。
【0021】
本発明記載の負極活物質の組成はLi成分についてはICP発光分光分析で確認できる。また、それ以外の組成については蛍光X線分析測定で確認できる。また、電極内に分散された場合、透過型電子顕微鏡のEDX測定などによっても解析することができる。その場合、Li成分については分析上の相違が発生することと、負極活物質であるためにLi量が不明量であることから、他の組成の価数のバランスから推定することもできる。
【0022】
上記負極層材料の全質量に対する第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量が、2質量%以上含有する場合に、リチウムイオン伝導性の界面を形成することができる。また上記非晶質固体電解質は、負極層の密度を高め、体積当たりのエネルギー密度を高くする成分である。従って、非晶質固体電解質の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、特に好ましくは5質量%以上とする。また、非晶質固体電解質は熱処理の過程でイオン伝導性の結晶が析出するのであれば結晶化しても良い。
他方で、上記負極層材料の全質量に対する第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量を60質量%以下にすることで、第二の固体電解質である結晶性電解質に比べて低いリチウムイオン伝導度の非晶質固体電解質が過剰に存在することに起因するリチウムイオン伝導度の低下を抑制できる。また、負極層中の電子伝導は導電助剤同士の接触又は接合によって生じる電子伝達によって成るので、電子伝導性を有しない非晶質固体電解質により導電助剤同士の接触が阻害されると電子伝導の抵抗が高くなる。よって、電子伝導性を有しない非晶質固体電解質が過剰に存在することに起因する電子伝導度の低下を抑制できる。従って、ガラス電解質の含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下とする。
【0023】
本発明の負極層材料の第二の固体電解質である結晶性固体電解質は、特に限定しないが、菱面体晶系を有するリチウム含有リン酸化合物であることが好ましい。その化学式は、LiM’12(X=1~1.7)で表される。ここでM’はZr、Ti、Fe、Mn、Co、Cr、Ca、Mg、Sr、Y、Sc、Sn、La、Ge、Nb、Alからなる群より選ばれた1種以上の元素である。また、Pの一部をSi又はBに、Oの一部をF、Cl等で置換してもよい。例えば、Li1.15Zr1.85Al0.15Si0.052.9512、Li1.2Ti1.8Al0.1Ge0.1Si0.052.9512等を用いることができる。また、異なる組成の材料を混合又は複合してもよい。ガラス電解質などで表面をコートしてもよい。又は、熱処理によりNASICON型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスセラミックスを用いてもよい。ここで、上記ガラスセラミックスにおけるLiOの配合割合は酸化物換算で8質量%以下であることが好ましい。NASICON型構造でなくとも、Li、La、Mg、Ca、Fe、Co、Cr、Mn、Ti、Zr、Sn、Y、Sc、P、Si、O、In、Nb、Fからなり、LISICON型、ぺロブスカイト型、ガーネット型、β―Fe(SO型の結晶構造をもち、Liイオンを室温で1×10-5S/cm以上伝導する固体電解質を用いても良い。また、上記電解質を混合しても良い。
以上をまとめると、本発明の電解質層材料の第二の固体電解質は、Li、Zr、Ti、Sn、Si、Ge、Sc、Y、La、Nb、Al、Ca、Mg、Fe、Mn、Co、Cr、O、P、B、F、Cl、Inの3元素以上からなり、菱面体晶系を含むリチウム含有リン酸化合物、NASICON構造、ペロブスカイト構造、LISICON構造、ガーネット構造、β―Fe(SO型構造を示すいずれか1種以上の結晶性固体電解質あるいはガラスセラミックスである。
【0024】
本発明の負極層材料の導電助剤は、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ、銅、アルミ合金、亜鉛合金、銀、ルテニウムなど電子伝導性を有する材料を用いることができる。異なる材料を混合または複合しても良い。
上記負極層材料の全質量に対する、導電助剤の含有量は導電助剤の種類にもよるが5質量%~30質量%であることが好ましい。
特に、上記含有量を5質量%以上にすることで、導電助剤によって形成される電子伝導のネットワークが確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量をより高め易くできる。従って、負極層における導電助剤の合計含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは8質量%以上とする。
他方で、上記含有量を30質量%以下にすることで、負極層中に含まれる負極活物質の含有量が増加するため、全固体二次電池のエネルギー密度を高められる。よって、負極層における上記導電助剤の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下とする。
【0025】
(正極層)
本発明の全固体二次電池における正極層は、正極活物質及び、リチウムイオン伝導性の第一の固体電解質としての非晶質固体電解質、第二の固体電解質として結晶性電解質又はガラスセラミックス電解質の少なくとも1つ以上及び導電助剤を含む材料を焼結したものであることが好ましい。
上記正極層の正極活物質の種類は限定されない。本発明の正極活物質としては、オリビン構造を有するLiRPOであって、RはFe、Co、Mn、Ni、Zrのうち1種以上で、Alなどにより一部を置換してもよい。また、Pの一部をSi又はBで置換してもよい。Oの一部をFで置換してもよい。また、スピネル構造を持つLiMn、層状酸化物のLiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiNiO、LiCoOなどを用いてもよい。正極活物質は、Liを含有しているが、焼成時に正極活物質中のLiが電解質材料側に移動すると電荷のバランスを取るために正極活物質中の酸素が放出されて、正極活物質がLiを含まない酸化物に分解する現象が起こる。この現象がおこると正極活物質としての機能が著しく低下し放電容量が低下する。 一方、正極活物質の結晶構造中の酸素が強固に他の元素と結合していると格子中の酸素が放出しづらくなり、電荷のバランスを取るために、正極活物質中のLiを電解質側に放出しづらくなり、Liを含まない酸化物への分解を抑制し放電容量を高い状態で維持できる。そのため最も好ましくは、正極活物質中の酸素がリンと強硬に結合しているオリビン構造である。次に好ましくは、スピネル構造を持つLiMnである。好ましくは層状酸化物のLiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiNiO、LiCoOなどの層状酸化物である。
正極層材料の全質量に対する上記正極活物質の含有量は、10質量%~60質量%が好ましい。特にこの含有量を10質量%以上にすることで、全固体二次電池の電池容量を高めることができる。そのため、正極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは18質量%以上とする。一方で、この含有量を60質量%以下にすることで、電極層のイオン伝導性を確保し易くできる。そのため、正極活物質の含有量は、好ましくは60質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下とする。
【0026】
上記正極層材料の全質量に対する第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量は、2質量%以上含有する場合に、リチウムイオン伝導性の界面を形成できる。また第一の固体電解質である非晶質固体電解質は、軟化融解することで正極層の密度を高め、体積当たりのエネルギー密度を高くする成分である。従って、第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、特に好ましくは5質量%以上とする。
他方で、正極層材料の全質量に対する第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量を60質量%以下にすることで、第二の固体電解質である結晶性電解質に比べて低いリチウムイオン伝導度の第一の固体電解質である非晶質固体電解質が過剰に存在することに起因するリチウムイオン伝導度の低下を抑制できる。また、正極層中の電子伝導は導電助剤同士の接触又は接合によって生じる電子伝達によって成るので、電子伝導性を有しないガラス電解質により導電助剤同士の接触が阻害されると電子伝導の抵抗が高くなる。よって、電子伝導性を有しない第一の固体電解質である非晶質固体電解質が過剰に存在することに起因する電子伝導度の低下を抑制できる。従って、第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下とする。
【0027】
本発明の正極層材料の第二の固体電解質である結晶性固体電解質又はガラスセラミックス電解質は、特に限定しないが、菱面体晶系を含むリチウム含有リン酸化合物であることが好ましい。その化学式は、LiM”12(X=1~1.7)で表される。ここでM”はZr、Ti、Fe、Mn、Co、Cr、Ca、Mg、Sr、Y、Sc、Sn、La、Ge、Nb、Alからなる群より選ばれた1種以上の元素である。また、Pの一部をSi又はBに、Oの一部をF、Cl等で置換してもよい。例えば、Li1.15Ti1.85Al0.15Si0.052.9512、Li1.2Ti1.8Al0.1Ge0.1Si0.052.9512、Li1.2Fe0.2Ti1.812等を用いることができる。また、異なる組成の材料を混合又は複合してもよい。非晶質電解質などで表面をコートしてもよい。又は、熱処理によりNASICON型構造を有する結晶を含むリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスセラミックスを用いてもよい。例えばオハラ社製のLICGCTMなどを用いても良い。ここで、上記ガラスセラミックスにおけるLiOの配合割合は酸化物換算で8質量%以下であることが好ましい。NASICON型構造でなくとも、Li、La、Mg、Ca、Fe、Co、Cr、Mn、Ti、Zr、Sn、Y、Sc、P、Si、O、In、Nb、Fからなり、LISICON型、ぺロブスカイト型、ガーネット型、β―Fe(SO型の結晶構造を有し、Liイオンを室温で1×10-5S/cm以上伝導する固体電解質を用いても良い。また、上記電解質を混合しても良い。
以上をまとめると、本発明の正極層材料の第二の固体電解質は、Li、Zr、Ti、Sn、Si、Ge、Sc、Y、La、Nb、Al、Ca、Mg、Fe、Mn、Co、Cr、O、P、B、F、Cl、Inの3元素以上からなり、菱面体晶系を含むリチウム含有リン酸化合物、NASICON構造、ペロブスカイト構造、LISICON構造、ガーネット構造、β―Fe(SO型構造を示すいずれか1種以上の結晶性固体電解質あるいはガラスセラミックスである。
【0028】
上記正極層材料の全質量に対する、リチウム伝導性の第二の固体電解質である結晶性固体電解質の含有量は30質量%~80質量%であることが好ましい。
特に、上記含有量を30質量%以上にすることで、第一の固体電解質である非晶質固体電解質によって形成されるリチウムイオンの移動経路が確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量をより高め易くできる。従って、電極層におけるリチウム伝導性の第二の固体電解質の合計含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上とする。
他方で、上記含有量を80質量%以下にすることで、正極層中に含まれる正極活物質の含有量が増加するため、全固体二次電池のエネルギー密度を高められる。よって、正極層における上記リチウム伝導性の第二の固体電解質の含有量は、好ましくは80質量%、より好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下とする。
本発明の正極層材料の導電助剤は、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ、アルミ合金、亜鉛合金、銀、ルテニウムなど電子伝導性を有する材料を用いることができる。異なる材料を混合または複合しても良い。
上記正極層材料の全質量に対する、導電助剤の含有量は導電助剤の種類にもよるが、5質量%~30質量%であることが好ましい。
特に、上記含有量を5質量%以上にすることで、導電助剤によって形成される電子伝導のネットワークが確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量をより高め易くできる。従って、正極層における導電助剤の合計含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは8質量%以上とする。
他方で、上記含有量を30質量%以下にすることで、正極層中に含まれる正極活物質の含有量が増加するため、全固体二次電池のエネルギー密度を高められる。よって、正極層における上記導電助剤の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下とする。
【0029】
(固体電解質層)
本発明の全固体二次電池における固体電解質層は、第一の固体電解質としての非晶質固体電解質、第二の固体電解質としての結晶性固体電解質又はガラスセラミックス電解質の少なくとも1つ以上を含む材料を焼結したものであることが好ましい。
【0030】
上記固体電解質層材料の全質量に対する第一の固体電解質としての非晶質固体電解質の含有量は、3質量%以上の場合に、非晶質固体電解質が第二の固体電解質である結晶性固体電解質界面に行き渡り、固体電解質層のイオン伝導度を上げる事が出来る。また、上記固体電解質層の密度を上げることができるので、全固体二次電池の強度も高くできる。3質量%未満の場合、固体電解質層のイオン伝導度を高くできない。従って、固体電解質層中の第一の固体電解質である非晶質電解質の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは4.5質量%以上、特に好ましくは5質量%以上とする。
他方で、第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量が90質量%を超えると、第二の固体電解質である結晶性固体電解質同士をつないでいる第一の固体電解質である非晶質固体電解質の膜厚が厚くなり、リチウムイオンが非晶質固体電解質を通る距離が長くなる。結晶性電解質よりも伝導度が低い非晶質固体電解質の伝導度の影響が強くなり、結果としてイオン伝導度が低下する。そこで、第一の固体電解質である非晶質固体電解質の含有量を90質量%以下にすることで上記のようなイオン伝導度の低下を防ぐことができる。従って、非晶質固体電解質の含有量は、好ましくは90質量%未満、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下とする。
【0031】
上記固体電解質層材料に含まれる第二の固体電解質である結晶性固体電解質の種類は限定されない。本発明の第二の固体電解質である結晶性固体電解質としては菱面体晶系のNASICON型構造を有するリチウム含有リン酸化合物であって、化学式Li12(X=1~1.7)で表される。ここでLは、Zr、Ti、Fe、Mn、Co、Ca、Mg、Sr、Y、La、Ge、Nb、Alからなる群より選ばれた1種以上の元素である。また、Pの一部をSiやBに、Oの一部をF、Cl等で置換しても良い。例えば、Li1.2Zr1.85Al0.15Si0.052.9512、Li1.2Zr1.85Al0.1Ti0.05Si0.0512等を用いることができる。また、異なる組成の材料を混合又は複合しても良い。NASICON型とは別のリチウムイオン伝導体、La0.57Li0.29TiO(LLTOと称する)などのぺロブスカイト構造を有する固体電解質、LiLaZr12(LLZO)などの立方晶ガーネット構造を有する固体電解質、LiIn(POなどのβ-Fe(SO型の固体電解質、Li3.5Si0.5などのLISICON型の固体電解質などを用いても良い。いずれのセラミック電解質もガラス電解質などで表面をコートしても良い。
以上をまとめると、本発明の電解質層材料の第二の固体電解質は、Li、Zr、Ti、Sn、Si、Ge、Sc、Y、La、Nb、Al、Ca、Mg、Fe、Mn、Co、Cr、O、P、B、F、Cl、Inの3元素以上からなり、菱面体晶系を含むリチウム含有リン酸化合物、NASICON構造、ペロブスカイト構造、LISICON構造、ガーネット構造、β―Fe(SO型構造を示すいずれか1種以上の結晶性固体電解質あるいはガラスセラミックスである。
【0032】
上記固体電解質層材料の全質量に対して、リチウムイオン伝導性の第二の固体電解質である結晶性固体電解質の含有量を98質量%以下にすることが好ましい。これにより、第一の固体電解質である非晶質固体電解質が存在できるようになり固体電解質層中にリチウムイオンの伝導する界面および経路が形成され易くなるため、固体電解質層のリチウムイオン伝導性をより高めることができる。
他方で、上記リチウムイオン伝導性の結晶性固体電解質の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0033】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
本発明の説明としては、第一の固体電解質である非晶質固体電解質の合成と評価、第一の固体電解質である非晶質固体電解質と第二の固体電解質の混合・焼成と評価、第一の固体電解質である非晶質固体電解質と第二の固体電解質である結晶性固体電解質を混合した固体電解質の全固体二次電池への適応評価の3つとした。
【0034】
<第一の固体電解質である非晶質固体電解質の調製>
合成した第一の固体電解質である非晶質固体電解質の仕込み組成を表1に示す。原料にはLiPO、LiPO、LiSO・5HO、Al(PO、HPO、LiCO、HBO、を用い、量論比で合成した。熔解には白金坩堝を用い熔解温度は600℃~1100℃とした。熔解時間は30分~2時間とした。伝導度測定をするサンプルは、耐熱鋼性のキャスト板で挟んで板状に成形することで取得した。その他のサンプルは耐熱鋼上にキャストして取得した。SO成分は揮発しやすいため、Al成分が多い組成については、一度SO以外の成分を高温で熔解後成形後に粉砕し、SO成分であるLiSO・5HOを加えて熔解した。比較例3を除いて、いずれも安定な非晶質(ガラス)であり、結晶化はしなかった。比較例3ではガラス状のサンプルは取得できなかった。また、作製後の非晶質固体電解質の分析結果を表2に示す。測定方法は、ICP発光分光分析装置(アジレント・テクノロジーズ株式会社製:ICP-OES 720-ES)を用いて実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
<非晶質固体電解質の評価>
合成した第一の固体電解質である非晶質固体電解質の熱特性は、熱重量・示差熱測定(ブルカー・エイエックスエス社製TG-DTA2000SA)により行った。評価結果を図1図5および表3に示す。SOを含有しない比較例1および比較例2に比べ、SOを含有する実施例1~14はいずれもガラス軟化点(Tg)で10.0℃~78.4℃、融点(mp)で14.3℃~192.2℃低下することが確認できた。
伝導度は、交流インピーダンス法による交流抵抗測定で得られた抵抗値と、厚さおよび電極面積測定により得られた厚みと電極径より計算して導いた。交流インピーダンス法に用いるブロッキング電極は金を用いた。板状に成形したサンプルに対して800番と2000番の耐水研磨紙で研磨液として1-プロパノールを用いて表面を研磨し、研磨面に金電極をマグネトロンスパッタ(サンユー電子製SC701HMC)により形成した。厚さはマイクロメーターを用い、電極径はノギスにて評価した。実施例1の交流インピーダンス測定結果を図6に示す。いずれの結果も図6にある矢印の点を抵抗値として読み取り、電解質厚さと金電極の面積から伝導度を算出した。比較例1および比較例2、実施例1~14の算出した伝導度の値を表3に示す。伝導度についても比較例に比べて2~10倍程度の向上が確認された。
以上の結果から、ガラス軟化点、融点およびイオン伝導度という界面形成に必要な条件について改善が認められた。
【0038】
【表3】
【0039】
<第一の固体電解質である非晶質固体電解質と第二の固体電解質である結晶性固体電解質の混合体の伝導度評価>
作製した第一の固体電解質である非晶質固体電解質が第二の固体電解質である結晶性固体電解質と混合することでイオン伝導性界面を形成して伝導度を向上させる機能を有するかを確認するために、第一の固体電解質である非晶質固体電解質と第二の固体電解質である結晶性固体電解質を混合した電解質膜を形成して交流インピーダンス法により伝導度評価を行った。
【0040】
<第二の固体電解質である結晶性固体電解質の作製>
第二の固体電解質としては、NASICON型の固体電解質としてLi1.2Al0.15Zr1.85Si0.052.9512(LAZP12と称する)とLi1.2Al0.15Ti1.85Si0.052.9512(LATP12と称する)を用いた。また、ペロブスカイト型の固体電解質として、La0.51Li0.34TiO2.94(LLTOと称する)をガーネット型の固体電解質として、LLZOをLISICON型の固体電解質として、Li3.5Si0.50.5(LSPOと称する)を用いた。
【0041】
<第二の固体電解質である結晶性固体電解質の調製 LATP12>
第二の固体電解質である結晶性固体電解質の1つとして、高イオン伝導性のLi1.2Al0.15Ti1.85Si0.052.9512を調製した。原料としてLiPO、TiO、Al(PO、及びSiOの微紛体と、HPO溶液とを量論比で混合した後、石英るつぼにて1100℃で5時間焼成した。焼成した原料の混合物をスタンプミルで106μm以下に粉砕し、湿式の遊星ボールミルで1μm以下まで粉砕することで固体電解質を得た(以降この固体電解質をLATP12と言及する)。焼成した試料を粉末X線回折装置(フィリップス社製 X‘Pert-MPD)で評価し、菱面体晶系のLiTi(PO(JCPDS:35-0754)と同様の結晶構造になることを確認した。
【0042】
<第二の固体電解質である結晶性固体電解質の調製 LAZP12>
固体電解質の1つとして、Ti成分を含まない耐還元性のLi1.2Al0.15Zr1.85Si0.052.9512を調製した。原料としてLiPO、ZrO、Al(PO、及びSiOの微紛体と、HPO溶液とを量論比で混合した後、白金板上にて1350℃で1時間焼成した。焼成した原料の混合物をスタンプミルで106μm以下に粉砕し、湿式の遊星ボールミルで1μm以下まで粉砕することで耐還元性固体電解質を得た(以降この耐還元性固体電解質をLAZP12と言及する)。得られた試料を粉末X線回折装置で評価し、菱面体晶のLiZr(PO(JCPDS:084-0998)と同様の結晶構造であることを確認した。
【0043】
<それ以外の第二の固体電解質である結晶性固体電解質>
それ以外の結晶性固体電解質(La0.57Li0.29TiO、LiLaZr12、Li3.5Si0.5)は、高純度化学研究所より購入した。
【0044】
<試料の粉砕・混合>
作製および入手した第一の固体電解質である非晶質固体電解質および第二の固体電解質である結晶性固体電解質を窒素雰囲気下でスタンプミルを用いて106μmメッシュパスまで粉砕した。第一の固体電解質である非晶質固体電解質が6重量%、第二の固体電解質である結晶性固体電解質が94重量%になるように混合後、1-プロパノールを溶剤として遊星ボールミルにて湿式粉砕した。試料の粉砕条件は、粒度分布測定装置(マルバーン製 マスターサイザー3000)を用いて、屈折率をTiO(2.9)相当としてD90で2μm以下の粒度分布を示すまで粉砕後、試料を取出し乾燥させた。乾燥後の粉末をラボミルサーにて106μm以下まで粉砕し、焼成前原料とした。
【0045】
<成形・焼成・評価>
焼成前原料0.1gを2000kgf/cmにて加圧成形後に所定の温度まで加熱して電解質膜を得た。得られた電解質膜の両面を800番と2000番の耐水研磨紙を用いて表面を研磨した。研磨後の試料を乾燥後、短絡しないように両面にマグネトロンスパッタを用いて金電極をスパッタにより形成した。インピーダンス測定は、電気化学測定装置(BiO Logic製 SP-300)を用いて測定した。振幅電圧は10mV、測定温度は25℃とした。測定周波数は1MHzから0.1Hzとした。いずれも評価温度は25℃とした。実施例19の測定結果を図7に示す。マイクロメーターで測定した膜厚は0.47mm、電極の直径は0.67cmであった。抵抗値の見取りについては、図7矢印部分に相当する抵抗値をそれぞれのグラフから読み取った。測定結果を表4および図8に示す。
【0046】
比較例2および実施例2の非晶質電解質とLATP12を用いた固体電解質膜については、熱処理温度と伝導度の関係を確認した。比較例2の固体電解質を使用した場合(比較例4~8)の結果を表4に示す。熱処理温度600℃処理品(比較例4)では室温で1.2×10-4S/cmと高いイオン伝導度を示すが、熱処理温度を50℃下げると(比較例6)、イオン伝導度は3.4×10-5S/cmまで低下した。それに比べ、SOを添加した実施例2の固体電解質を使用した場合(実施例15~22)は450℃の低温から0.2×10-4S/cmという高いイオン伝導を示すことが確認できた。
この温度域の熱処理で構成した電解質膜としては、非常に高いイオン伝導度である。ガラス電解質単体あるいはガラス電解質を結晶化させた材料でも実現できておらず、また高いイオン伝導度のあるLATP12のみの粉末を用いてもこの温度域の熱処理では実現できていない。
第二の固体電解質である結晶性固体電解質として、LATP12やLAZP12以外にガーネット構造を有するLLZOで1.0×10-5S/cm、ぺロブスカイト構造を有するLLTOをもちいても1.0×10-4S/cm、LISICON構造を有するLi3.5Si0.5を用いても0.7×10-6S/cmの高いイオン伝導性を示すことが確認でできた。LLZO、LLTOおよびLi3.5Si0.5いずれも第一の固体電解質を混合しないで同様の処理をしてもイオン伝導性を示さず、第二の固体電解質である非晶質固体電解質の効果が確認できた(実施例23~25)。
【0047】
【表4】
【0048】
<全固体二次電池の評価>
第一の固体電解質である非晶質固体電解質が全固体二次電池の固体電解質として機能することを確認するために、全固体二次電池を作製して評価した。全固体二次電池は、正極活物質を含む正極層、負極活物質を含む負極層、電解質のみで形成される電解質層を含む。電解質層は伝導度測定で用いた混合電解質を用いた。正極層および負極層の合成方法および全固体二次電池の作製方法について以下に述べる。
【0049】
<活物質粉末作製と正極層および負極層粉末作製>
負極活物質としてLi1.5Fe0.5Ti1.512(以降LFTP15と称する)を作製した。原料にLiPO、Fe、TiO、HPOを用い、量論比で混合後、石英ポットに入れて大気下1000℃で10時間焼成した。焼成した試料を粉末X線回折装置で評価し、菱面体晶系のLiTi(PO(JCPDS:35-0754)と同様の結晶構造になることを確認した。
【0050】
正極活物質としてLiMn0.75Fe0.25PO(以降LMFPと称する)を作製した。原料にLiPO、Fe、MnOを用い、量論比で混合後、5wt%のアセチレンブラックを混ぜ、黒鉛坩堝に入れて密閉し、グラファイトを周りに配置した窒素雰囲気炉にて800℃で1時間焼成した。粉末X線回折装置にてLiMnPO(JCPDS:77-0178)であることを確認した。
負極活物質、正極活物質いずれも、1-プロパノールを分散媒として遊星ボールミルにてD90で0.5μm以下まで粉砕した。
正極層および負極層は、それぞれ表5の調合方法に従い調合後、泡とり錬太郎(シンキー製 ARV200)で混合した。YTZボールを分離し素早く蒸発乾固させた後、ラボミルサーで解砕して、それぞれ正極層粉末、負極層粉末とした。
【0051】
<全固体二次電池構成と評価>
φ11の金型に負極層粉末30mgを入れた後に金型の自重程度で押して面をならした。次に電解質層粉末を50mg入れ、再度、面をならした。最後に正極層粉末をいれて面をならした後、上型をはめた。粉末充填後2000kgf/cmで加圧成形後に設定温度まで昇温して全固体二次電池を得た。得られた全固体二次電池は外周の短絡を抑制するために800番の耐水研磨紙を用いて200μm程度研削した。集電は黒鉛ペースト(日本黒鉛製)を用い、正極側にアルミ箔、負極側に銅箔を用いて集電し、アルミラミネートパックにて外気を遮断した。
第一の固体電解質である非晶質固体電解質として実施例2および比較例2の非晶質固体電解質、第二の固体電解質である結晶性固体電解質としてLATP12、負極活物質としてLFTP15、正極活物質としてLFMPを用い、熱処理温度を500℃とした全固体二次電池の充放電特性を実施例26として図9に示す。同様の組成で熱処理温度600℃とした場合はいずれの条件でも充放電特性は示さなかった。
600℃で熱処理した場合、充放電特性を示さなかった結果について確認するために比作製した電池(比較例9)を粉末とし、電子スピン共鳴測定を行った。使用した装置は電子スピン共鳴分析装置(BrukerE500)である。分析の結果、未処理試料に比べて数重量%に相当する2.5×1018spins/mgのピークの増加が確認された。このことから、正極層および負極層に分散させたカーボンによる還元雰囲気により第二の固体電解質であるLATP12中のTiがTi4+からTi3+に還元されLATP12が電子伝導性を有するようになったと考えられる。そのため短絡し、充放電特性を示さなかったものと考察する。500℃の低温処理(実施例26)でも未処理品に比べ0.9×1018spins/mgのピーク増加を確認したが、短絡挙動は示さないことからTi3+の還元は電解質膜中でネットワークを形成するほどは進んでいないことが推定できる。
以上のことより実施例で示すガラス電解質により、これまでできなかった低温処理が可能となり、充放電可能で低抵抗な全固体二次電池が得られることが確認できた。
Tiを含有するLATP12に比べて高い耐還元性を示すLAZP12を電解質膜として用いた場合、600℃の熱処理でも充放電特性を示した。LAZP12にはTi成分が無いため還元せず短絡が抑制できたためと考えられる。作製した電池の抵抗値を測定するために交流インピーダンス法による抵抗測定を実施した。結果を表7に示す。第二の固体電解質としてLATP12を用いたセルは第二の固体電解質としてLAZP12を用いたセルに比べて1桁低抵抗であることが確認された。
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10