IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7394761クリオライトを含有する析出物を除去するためのホウ酸を含まない組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】クリオライトを含有する析出物を除去するためのホウ酸を含まない組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/86 20060101AFI20231201BHJP
   C23G 1/02 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C23C22/86
C23G1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020532630
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018084005
(87)【国際公開番号】W WO2019115395
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】17206616.9
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】モール,アンナ フェレナ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-332581(JP,A)
【文献】特開昭54-062930(JP,A)
【文献】特表2005-501173(JP,A)
【文献】特表2003-535220(JP,A)
【文献】特開2003-038982(JP,A)
【文献】特開昭56-044775(JP,A)
【文献】特開昭50-101240(JP,A)
【文献】特開昭50-093238(JP,A)
【文献】特開昭60-013079(JP,A)
【文献】特開昭53-124499(JP,A)
【文献】特開平01-139798(JP,A)
【文献】特表2006-520852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0230425(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第04128107(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006011875(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第101487117(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1665957(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105441955(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00-30/00
C23G1/00-5/06
C23F1/00-4/04
C25D5/00-7/12
C25D11/00-11/38
C23F11/00-11/18
C23F14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の化成処理に供されるプラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための水性組成物であって、
前記組成物は、
a)2.0~8.0モル/lの範囲の通常濃度(合計)を有する少なくとも1種の鉱酸、及び
b)0.07~1.5モル/lの範囲の合計濃度を有する式HOOC-(CH-COOH(式中、xは0~3である)で表される少なくとも1種のジカルボン酸
を含み、そして、ホウ酸塩含有化合物が前記組成物に添加されていない、水性組成物。
【請求項2】
a)3.0~6.0モル/lの範囲の通常濃度(合計)を有する少なくとも1種の鉱酸、及び
b)0.35~1.5モル/lの範囲の合計濃度を有する式HOOC-(CH-COOHで表される少なくとも1種のジカルボン酸
を含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の鉱酸及び前記少なくとも1種のジカルボン酸を、2.4:1~60:1の範囲のモル比(前記少なくとも1種の鉱酸のモル/lで表される通常濃度(合計):前記少なくとも1種のジカルボン酸のモル/lで表される合計濃度)で含む、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の鉱酸が硫酸を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項5】
硝酸塩をさらに含む、請求項4に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のジカルボン酸が、マロン酸及び/又はシュウ酸を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項7】
a)3.0~6.0モル/lの範囲の通常濃度(合計)を有する硫酸、及び
b)0.35~1.0モル/lの範囲の合計濃度を有するシュウ酸
を含み、前記硫酸及び前記シュウ酸を、4.0:1~12:1のモル比(前記硫酸のモル/lで表される通常濃度(合計):前記シュウ酸のモル/lで表される合計濃度)で含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項8】
少なくとも1種の非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の腐食防止剤をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種の腐食防止剤が、下記の式I
O-(CH-C≡C-(CH-OR (I)
(式中、R及びRは両方ともHである)で表される化合物と
式I(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立してw≧2であるHO-(CH基である)で表される化合物との混合物であり、
ここで、式Iで表される2つの化合物のそれぞれについて、x及びyが、各場合とも互いに独立して1~4である、請求項9に記載の水性組成物。
【請求項11】
濃縮物であって、でこの濃縮物を希釈することによって、請求項1から10のいずれか一項に記載の金属表面の化成処理に供されるプラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための水性組成物を得るための、濃縮物。
【請求項12】
金属表面の化成処理に供されるプラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去する方法であって、前記プラント及び/又はプラントの部分と請求項1から10のいずれか一項に記載の水性組成物との接触を含む、方法。
【請求項13】
前記水性組成物が、40~80℃の範囲の温度を有する、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の化成処理に供されるプラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及び鋼(例えば、亜鉛めっき鋼を含む)の金属表面に対して、後続の有機コーティングに適した表面コーティングベースとして、化成コーティングを付与することは、既知の慣例である。この目的に用いられる溶液は、リン酸塩処理溶液の場合、例えば、亜鉛及びリン酸イオン、並びに、ニッケル、マンガン、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、アルカリ金属及び/又はアンモニウムのイオンも含んでよい。
【0003】
また、亜硝酸塩、塩素酸塩、過酸化物又はそれらの組み合わせなどの加速アジュバントの存在、電気中性を維持するための塩化物及び硫酸塩などのアニオンの存在、及び、場合により、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸又は縮合リン酸塩などのコート精製アジュバントの存在、及び複雑な又は単純なフッ化物の存在も、一般的なことである。
【0004】
さらに、特にアルミニウム及び亜鉛の処理に使用されるのは、フッ化物及び場合により硝酸塩及び/又はリン酸塩を含有する処理溶液である。アルミニウムの処理の場合、チタン及び/又はジルコニウムイオン、フッ化物イオン、及び場合によりタンニンを含有する溶液も一般的である。
【0005】
全体又は一部がアルミニウム又はその合金からなる金属表面の処理に前述の溶液が使用される範囲で、アルミニウムのイオンが溶液に入り、そして、浴溶液中に存在するナトリウムイオン及びフッ化物イオンによって、反応式
3Na(aq)+Al3+(aq)+6F-(aq)→NaAlF(s)↓
のように、溶解度が非常に低いクリオライト(cryolite)の形で沈殿する。この場合、沈殿したクリオライトの一部は、浴溶液中に懸濁したままであるか、又はポンプが使える流動性のある沈殿物として浴容器の底に落ちる。さらなる部分は、浴容器の壁及びライン、ポンプ、熱交換器、ノズルアセンブリ、及び噴霧ノズルの内部にも非常にしっかりと付着するクラスト(crust)の形で成長し、プラントの機能に悪影響を及ぼす。従って析出物は、機械的又は化学的に、アクセスが制限されている場所では化学的に、定期的な除去を行わなければならない。
【0006】
プラント又はプラントの部分の析出物の化学的除去は、用いられる建築材料に応じて、硫酸、アミド硫酸、塩酸、硝酸、又は水酸化ナトリウム/錯化剤をベースとする溶媒を使用して行われる。これらは、亜鉛めっき鋼を含む鋼のリン酸塩処理で発生する種類のリン酸亜鉛及びリン酸鉄からなるクラストを除去するのに適している。
【0007】
逆に、問題の析出物の大部分が非常に溶けにくいクリオライトからなる場合、発生する問題は、前述の溶媒の攻撃が非常に遅く、さらに、少量のクラストしか溶解できないことである。これは、メンテナンス回数が不必要に長く、そして化学消費レベルが過度に高いことを意味する。
【0008】
クリオライト析出物を除去するために、DE4128107A1は、プラント又はプラントの部分を、鉱酸及びホウ酸塩含有化合物を含む溶液と接触させることを教示している。
【0009】
しかしながら、それ以来、環境保護及び毒性学の理由から、ホウ酸などのホウ酸塩含有化合物の使用は可能な限り避けるべきとされている。近い将来、REACH規制によって、ホウ酸はもはやまったく利用できなくなる可能性がある。少なくとも、記載した理由により、ホウ酸の利用可能性は、今後数年でますます低下するであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】DE4128107A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、金属表面の化成処理に供されるプラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための組成物及び方法を提供することである。前記組成物及び方法は、既知の組成物又は方法それぞれの欠点をもはや有さず、そして、特に、より時間のかからない、経済的な洗浄プロセスを可能にすると共に、ホウ酸塩含有化合物を使用せずに、実質的に、特には完全に作用する。
【0012】
さらに、クリオライト析出物の完全な破壊/分散に必要な時間(溶解時間)、及び溶媒の単位量あたりの溶解したクリオライト析出物の量は、鉱酸及びホウ酸塩含有化合物の組み合わせによって達成されるものに匹敵することとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、第一に、プラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための本発明の方法によって達成され、この方法は、プラント又はプラントの部分を、以下の成分
a)少なくとも1種の鉱酸及び
b)式HOOC-(CH-COOH
(式中、xは0~3である)の少なくとも1種のジカルボン酸を含み、そしてホウ酸塩含有化合物が組成物に添加されていない水性組成物と接触させることを含む。
【0014】
少なくとも1種の鉱酸は、その高い酸性度により、クリオライトの析出物を破壊するのに貢献するのに対して、一方、この点については、少なくとも1種のジカルボン酸の効果は、そのジカルボン酸がAl3+の効果的な錯化剤であり、そして、錯体を形成することによってこのイオンをクリオライトの溶解度平衡から取り去ることである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義:
本発明において、「クリオライト析出物」という用語は、好ましくは50質量%を超える、そしてより好ましくは90質量%を超える程度のクリオライト(乾燥質量)からなる固体析出物、すなわちクラストを指す。
【0016】
「クリオライト析出物を除去する」とは、前記析出物を対応するプラント又はプラントの部分から引き離すことだけでなく、さらに、析出物の少なくとも90質量%の溶解及び/又は分散、そしてより具体的には完全な溶解/分散として理解されるものとする。
【0017】
本発明において、「水性組成物」とは、水を主として、すなわち50質量%を超える程度まで、溶媒又は分散媒体として含む組成物として理解されることを意図している。水性組成物は好ましくは溶液であり、より好ましくはその溶媒として水のみを含有する溶液である。
【0018】
「組成物にホウ酸塩含有化合物が添加されていない」という記述は、組成物中に無視できる割合のホウ酸塩含有化合物が存在する可能性を排除することを意図したものではなく、この場合、使用する原材料の汚染に起因する。「ホウ酸塩含有化合物」とは、特に、ホウ砂及びホウ酸を意味する。
【0019】
酸の「通常濃度」とは、酸から放出可能なプロトンのモル濃度と同義である。例えば硫酸の場合、酸の分子あたり2個のプロトンが放出される。それ故、モル濃度が1モル/lの硫酸は、2モル/lの通常濃度を有する。
【0020】
少なくとも1種のジカルボン酸は塩として溶液に添加されていてもよく、言い換えれば、ジカルボキシレート又は一水素ジカルボキシレートとして水性組成物に添加されていてもよい。
【0021】
好ましい一実施形態によれば、プラント及び/又はプラントの部分を、
以下の成分
a)1.0~10モル/lの範囲の通常濃度(合計)を有する少なくとも1種の鉱酸、及び
b)0.07~1.7モル/lの範囲の合計濃度を有する式HOOC-(CH-COOH
(式中、xは0~3である)の少なくとも1種のジカルボン酸を含み、そしてホウ酸塩含有化合物が組成物に添加されていない水性組成物と接触させる。
【0022】
この少なくとも1種の鉱酸は、好ましくは2.0~8.0モル/l、より好ましくは3.0~6.0モル/l、そして非常に好ましくは3.5~4.5モル/lの範囲の通常濃度(合計)で存在し、一方で少なくとも1種のジカルボン酸は、0.07~1.5モル/l、より好ましくは0.35~1.5モル/l、非常に好ましくは0.35~1.0モル/l、そして特に好ましくは0.5~0.8モル/lの範囲の合計濃度で存在する。
【0023】
同様に、少なくとも1種の鉱酸についての上記の濃度範囲と、少なくとも1種のジカルボン酸についての上記の濃度範囲とのすべての組み合わせが包含される。
【0024】
水性組成物は、好ましくは、少なくとも1種の鉱酸及び少なくとも1種のジカルボン酸を、2.4:1~60:1、より好ましくは2.6:1~60:1、より好ましくは2.6~1~12:1、非常に好ましくは4.0:1~12:1、そして特に好ましくは5.0:1~8.0:1の範囲のモル比(少なくとも1種の鉱酸のモル/lで表される通常濃度(合計):
少なくとも1種のジカルボン酸のモル/lで表す合計濃度)で含む。
【0025】
プラント又はプラントの部分を、少なくとも1種の鉱酸として塩酸、硫酸及び/又は硝酸を含んでいる水性組成物と接触させることが、特に有利である。
【0026】
少なくとも1種の鉱酸は、特に好ましくは硫酸である。
【0027】
技術的応用の観点から、そしてその機能性に基づいて、硫酸は塩酸及び硝酸よりも有利である。例として、塩酸を使用するとクリオライト析出物はゆっくりとしか溶解させることができないという問題がある。なぜなら溶解プロセスを加速するためにプラントを加熱する可能性がないからである。加熱すれば、形成される蒸気がプラントを腐食させるであろう。一方で硝酸の場合は、リン酸塩処理残留物との反応を介して、亜硝酸ガス(nitrous gases)が形成されるリスクがある。
【0028】
式HOOC-(CH-COOHの少なくとも1種のジカルボン酸は、グルタル酸(x=3)、コハク酸(x=2)、マロン酸(x=1)、及び/又はシュウ酸(x=0)であってよい。
【0029】
x>3のジカルボン酸(x=4のアジピン酸でさえ)は、逆に水性媒体への溶解度が低すぎ、従ってAl3+の錯化剤としてもはや機能できない。
【0030】
少なくとも1種のジカルボン酸は、好ましくはマロン酸(x=1)及び/又はシュウ酸(x=0)であり、そしてより好ましくはシュウ酸(x=0)である。
【0031】
水性組成物は、有利には、少なくとも1種の非イオン性界面活性剤をさらに含む。その理由は、これによって水性組成物によるクリオライト析出物の湿潤が促進されるからである。この場合、少なくとも1種の非イオン性界面活性剤が、エトキシル化脂肪アルコールポリグリコールエーテルからなる群から選択されると、特に有利である。
【0032】
水性組成物は、プラント又はプラントの部分を水性組成物と接触させる間に腐食から保護するため、好ましくは少なくとも1種の腐食防止剤をさらに含んでよい。
【0033】
この少なくとも1種の腐食防止剤は、好ましくは、尿素誘導体及びアルコキシル化ジオールを含むジオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。
【0034】
第1の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1種の腐食防止剤は、N,N’-ジエチルチオ尿素又はN,N’-ジ(o-トリル)チオ尿素、N,N’-ジブチルチオ尿素、及びヘキサメチレンテトラミンの混合物である。
【0035】
第2の特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1種の腐食防止剤は、式I
O-(CH-C≡C-(CH-OR (I),
(式中、R及びRは両方ともHである)の化合物、及び式I(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立してw≧2であるHO-(CH基であり、好ましくは両方がHO-CH基である)の化合物の混合物であり、ここで、式Iの2つの化合物のそれぞれについて、x及びyは、各場合とも互いに独立して1~4である。この種の混合物は、前述の尿素誘導体よりも毒性学的に不都合ではなく、環境への害も少ない。
【0036】
本発明によれば、上記に特定した種類の方法の構成が、プラント又はプラントの部分を、以下の成分
a)1.0~10モル/lの範囲の通常濃度(合計)を有する硫酸、及び
b)0.07~1.7モル/lの範囲の合計濃度を有するシュウ酸
(ここで、ホウ酸塩含有化合物が組成物に添加されていない)
を含む水性組成物と接触させるようなものである場合、特に有利である。
【0037】
この硫酸は、好ましくは2.0~8.0モル/l、より好ましくは3.0~6.0モル/l、そして非常に好ましくは3.5~4.5モル/lの範囲の通常濃度(合計)で存在し、一方でシュウ酸は、0.07~1.5モル/l、より好ましくは0.35~1.5モル/l、非常に好ましくは0.35~1.0モル/l、そして特に好ましくは0.5~0.8モル/lの範囲の合計濃度で存在する。
【0038】
同様に、硫酸についての上記の濃度範囲と、シュウ酸についての上記の濃度範囲とのすべての組み合わせが包含される。
【0039】
水性組成物は、好ましくは、硫酸及びシュウ酸を、2.4:1~60:1、より好ましくは2.6:1~60:1、より好ましくは2.6:1~12:1、非常に好ましくは4.0:1~12:1、そして特に好ましくは5.0:1~8.0:1のモル比(硫酸のモル/lで表される通常の濃度(合計):シュウ酸のモル/lで表す合計濃度)で含む。
【0040】
少なくとも1種の鉱酸として硫酸を使用する場合、本発明の有利な一実施形態によると、プラント又はプラントの部分を、硝酸塩をさらに含む水性組成物と接触させる。硫酸を含んでいる水性組成物中に硝酸塩が存在すると、ステンレス鋼で作られたプラント又はプラントの部分の不動態化が確実になる。
【0041】
硫酸及びシュウ酸及び硝酸塩を含んでいる水性組成物を用いたプラント及び/又はプラントの部分の処理において、本発明の別の有利な実施形態によれば、前記プラント及び/又はプラントの部分を、硫酸(HSOとして計算)の硝酸塩(NO として計算)に対する質量比が5:1~50:1、好ましくは15:1~25:1である水性組成物と接触させる場合、特に好ましい結果が達成される。
【0042】
クリオライト析出物が取り除かれるプラントは、例えば、リン酸塩噴霧処理プラント又はリン酸塩浸漬処理プラントであってよい。
【0043】
クリオライト析出物が取り除かれるプラントと水性組成物との接触は、好ましくは、クリオライト析出物を有するプラントのすべての部分が水性組成物で覆われるような高さまで、この組成物をプラントに入れることにより行う。
【0044】
あるいは、影響を受けるプラントの部分を取り外し、プラントのすべての部分が水性組成物で覆われるように、対応する水性組成物の処理浴に入れてもよい。
【0045】
クリオライト析出物の溶解を促進するため、この場合には、対応するプラント又は対応するプラントの部分と接触させたまま水性組成物を攪拌するのが有利である。
【0046】
あるいは、水性組成物は、特に有利には、プラント、タンク、パイプ、ノズルなどを通して循環させることができる。
【0047】
水性組成物を用いる温度は、原則として、室温とおよそ95℃の間であってよい。しかしながら、特に有利なのは、40~80℃、より具体的には50~70℃の範囲の温度である。なぜならここで、クリオライト析出物の溶解は特に迅速であるのに、かなり高いエネルギー消費に悩まされる必要がないからである。所望の温度は、例えば、対応するプラント及び/又は対応する処理浴を加熱することによって確立してよい。
【0048】
水性組成物をプラント中に循環させる場合、除去のための時間、より具体的には、すべてのクリオライト析出物の完全な溶解/分散のための時間(溶解時間)は、好ましくは2~6時間の間である。
【0049】
水性組成物100g当たりの溶解したクリオライト析出物の量は、好ましくは少なくとも4g、より好ましくは少なくとも5gである。
【0050】
この場合、好ましくは、水性組成物が特に室温に冷却されるときに、堆積物がほとんど形成されない。これにより、プラント又はプラントの部分からポンプで排出した後の水性組成物のリサイクルが容易になる。
【0051】
本発明の組成物/方法は、その適用が、耐酸性金属材料から作られたプラント又はプラントの部分に加えて、プラスチックで作られたものにも特に適している。
【0052】
当目的は、第二に、プラント又はプラントの部分からクリオライト析出物を除去するための水性組成物によって達成され、前記組成物は以下の成分、
a)少なくとも1種の鉱酸及び
b)式HOOC-(CH-COOH
(式中、xは0~3である)の少なくとも1種のジカルボン酸を含み、そしてホウ酸塩含有化合物が組成物に添加されていない。
【0053】
本発明のこの組成物の有利な構成は、本発明の方法に関連して上記ですでに説明されている。
【0054】
本発明はさらに、適した溶媒及び/又は分散媒、好ましくは水で希釈することにより、本発明の水性組成物を得ることができる濃縮物に関する。
【0055】
本発明の組成物/方法を、以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、これはいかなる制限を課すものとしても理解されるべきではない。
【実施例
【0056】
80質量%のアルミニウム、15質量%の亜鉛メッキ鋼、及び5質量%の鋼から構成される金属表面を処理するためのリン酸塩噴霧処理プラントにおいて、難溶性の析出物がノズルアセンブリで観察された。この析出物の組成は次のとおりであった(すべての数値は質量%):
Na 30.3%
Al 12.4%
F 52.3%
Zn 1.2%
Fe 1.8%
Mn 0.2%
1.8%
従って、析出物は、およそ95質量%のクリオライト(NaAIF)で構成されていた。
【0057】
各場合とも、クリオライトのクラスト1片を、ガラス容器内で所定量の溶媒で覆った。穏やかに攪拌し(250回転/分)、そして以下の表1に報告する温度で、クラストが完全に溶解/分散するのにかかった時間を、最初に肉眼で測定した。表1で報告する時間(必要な溶解時間)の後に、明らかに溶解/分散したクラストと溶媒とを一緒に遠心チューブに移した。およそ1時間後、遠心分離管のシリンダー先端を観察し、堆積物が形成されているかどうかを確認した。表1の結果に関して、報告するクラストの溶解量及び必要な溶解時間では堆積物は測定されなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
表にまとめた結果は、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム(錯化剤の有無にかかわらず、そして様々な濃度)、塩化アルミニウム、及びアミド硫酸をベースとした溶媒(60℃での硫酸を除く)の使用、そして硫酸/ホウ酸の組み合わせの使用では、クラストが完全に溶解/分散する前に、比較的長い溶解時間が必要であることを示す。
【0060】
逆に、本発明の方法を使用する場合、必要な溶解時間は比較的短い。しかしながら特に印象的であるのは、本発明の方法を適用する場合に、100gの溶媒によって取り込まれるクリオライト析出物の量が、他の溶媒を使用する場合(硫酸/ホウ酸の組み合わせを除く)よりも、著しく多いことである。
【0061】
比較試験の大部分(ホウ酸塩を含まない変形形態)に対して測定すると、溶解した量は4~6倍多くなり、結果として溶媒が大幅に節約される。本発明の方法を使用する場合に溶解した量は、硫酸/ホウ酸の組み合わせにより溶解した量に匹敵する。
【0062】
アジピン酸は20%硫酸に不溶であり、従ってAl3+の錯化剤として機能することができない。従って結果は、20%硫酸単独の場合と同じである。その結果、ここでクラストの溶解量は、硫酸/ホウ酸の組み合わせの場合よりも著しく低くなる。
【0063】
一方でグルタル酸は、溶解手順に最大で30分かかる場合があるにせよ、20%硫酸に溶解する。これに対応して、ここでクラストの溶解量は、硫酸/ホウ酸の組み合わせの溶解量にすでに匹敵している。
【0064】
必要な溶解時間に関して最良の結果は、6%及び11%のシュウ酸(20%硫酸との組み合わせ)で達成することができた。しかしながら、6%のシュウ酸を使用すると、11%のシュウ酸の場合よりも、冷却後に存在する堆積物が少ないという利点もある。