(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】非線形スペクトル圧縮ファイバ増幅器のためのAM/FMシード
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20231201BHJP
G02F 1/365 20060101ALI20231201BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20231201BHJP
H01S 3/23 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01S3/10 D
G02F1/365
H01S3/067
H01S3/23
(21)【出願番号】P 2020533755
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 US2018061960
(87)【国際公開番号】W WO2019147327
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-01
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】グッドノ,グレゴリー・ディー
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0002688(US,A1)
【文献】特開平05-289125(JP,A)
【文献】特表2017-527124(JP,A)
【文献】特開2011-043808(JP,A)
【文献】特開2002-156616(JP,A)
【文献】特開平11-195844(JP,A)
【文献】特開平11-195843(JP,A)
【文献】国際公開第2016/144572(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105762623(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0212802(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0128744(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0201880(US,A1)
【文献】片岡智由、外2名,“自己位相変調によるスペクトル広がりの観測と位相変調器による補償”,1992年電子情報通信学会-創立75周年記念-秋季大会講演論文集,1992年09月15日,分冊4,p.4-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
H01S 5/00 - 5/50
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/35 - 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ増幅器システムであって、
光学的なシード・ビームを提供する光学的ソースと、
前記シード・ビームと第1のRF駆動信号とに応答する周波数変調(FM)電気光学変調器(EOM)であって、前記シード・ビームのスペクトル線幅を拡幅するように、前記第1の駆動信号を用いて前記シード・ビームを周波数変調するFM EOMと、
前記シード・ビームと第2のRF駆動信号とに応答する振幅変調(AM)EOMであって、前記周波数変調されたシード・ビームと同期した振幅変調されたシード・ビームを提供するように、前記第2の駆動信号を用いて前記シード・ビームを振幅変調する
ことで、前記周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの振幅のピークが前記周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの位相の谷と整列する、AM EOMと、
AM変調およびFM変調された前記シード・ビーム受け取り、前記シード・ビームを増幅する非線形ファイバ増幅器であって、前記振幅変調されたシード・ビームにより前記ファイバ増幅器において自己位相変調を生じさせ、前記シード・ビームが前記ファイバ増幅器により増幅されているときに前記シード・ビームを位相変調し、FM EOMにより生じさせられるスペクトル線幅の拡幅を相殺するように働かせる、非線形ファイバ増幅器と
を含むファイバ増幅器システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、前記FM EOMと前記AM EOMとは別個の変調デバイスである、システム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、前記FM EOMと前記AM EOMとは1つに組み合わされた変調デバイスである、システム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号と前記第2の駆動信号とはシングル・トーン正弦波信号である、システム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号の振幅は、前記FM EOMにより前記シード・ビームの0次周波数からのパワーのほとんどを除去するように、選択される、システム。
【請求項6】
請求項4に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号の振幅は、前記FM EOMにより前記シード・ビームの0次および+/-1次の周波数において等しい振幅のパワーを生成するように、選択される、システム。
【請求項7】
請求項4に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号は32GHzの周波数を有する、システム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムであって、周波数変調拡幅を提供するように前記シード・ビームを周波数変調する補助EOMを更に含むシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムであって、前記光学的なソースはマスタ発振器である、システム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムであって、前記ファイバ増幅器システムは、コヒーレント・ビーム結合(CBC)ファイバ増幅器システムまたはスペクトル・ビーム結合(SBC)ファイバ増幅器システムの一部である、システム。
【請求項11】
ファイバ増幅器システムであって、
光学的なシード・ビームを提供する光学的ソースと、
周波数変調拡幅を提供するために前記シード・ビームを周波数変調する補助電気光学変調器(EOM)と、
前記シード・ビームと、第1のRF駆動信号と、第2のRF駆動信号とに応答する、組み合わせ型の周波数変調(FM)および振幅変調(AM)EOMであって、前記シード・ビームのスペクトル線幅を拡幅するように、前記第1の駆動信号を用いて前記シード・ビームを周波数変調し、前記周波数変調されたシード・ビームと同期した振幅変調されたシード・ビームを提供するように、前記第2の駆動信号を用いて前記シード・ビームを振幅変調する
ことで、周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの振幅のピークが前記周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの位相の谷と整列する、FMおよびAM EOMと、
AM変調およびFM変調された前記シード・ビーム受け取り、前記シード・ビームを増幅する非線形ファイバ増幅器であって、前記振幅変調されたシード・ビームにより前記ファイバ増幅器において自己位相変調を生じさせ、前記シード・ビームが前記ファイバ増幅器により増幅されているときに前記シード・ビームを位相変調し、FMおよびAM EOMにより生じさせられるスペクトル線幅の拡幅を相殺するように働かせる、非線形ファイバ増幅器と
を含むファイバ増幅器システム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号と前記第2の駆動信号とはシングル・トーン正弦波信号である、システム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムであって、
前記第1の駆動信号の振幅は、前記FMおよびAM EOMにより前記シード・ビームの0次周波数からのパワーのほとんどを除去するように、選択される、システム。
【請求項14】
請求項12に記載のシステムであって、前記第1の駆動信号の振幅は、前記FMおよびAM EOMにおいて前記シード・ビームの0次および+/-1次の周波数において等しい振幅のパワーを生成するように、選択される、システム。
【請求項15】
光学的なシード・ビームを増幅する方法であって、
前記シード・ビームを、そのスペクトル線幅を拡げるように、第1のRF駆動信号を用いて周波数変調するステップと、
前記周波数変調されたシード・ビームと同期した振幅変調されたシード・ビームを提供するように、前記シード・ビームを、第2のRF駆動信号を用いて振幅変調する
ことで、周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの振幅のピークが前記周波数変調および振幅変調がなされたシード・ビームの位相の谷と整列する、ステップと、
非線形ファイバ増幅器において前記周波数変調および振幅変調されたシード・ビームを増幅することにより、前記振幅変調されたシード・ビームが、前記ファイバ増幅器において生じる自己位相変調を生じさせ、前記シード・ビームが前記ファイバ増幅器により増幅されているときに前記シード・ビームを変調し、前記周波数変調による影響を受ける前記スペクトル線幅を相殺するように働くようにするステップと
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記第1の駆動信号と前記第2の駆動信号とはシングル・トーン正弦波信号である、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記第1の駆動信号の振幅は、前記周波数変調の間に前記シード・ビームの0次周波数からのパワーのほとんどを除去するように、選択される、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、
前記第1の駆動信号の振幅は、前記周波数変調の間に前記シード・ビームの0次および+/-1次の周波数において等しい振幅のパワーを生成するように、選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府条項
[0001] 本発明は、エア・フォース・リサーチ・ラボラトリから付与された契約第FA9451-18-C-0101号の下で、政府の支援を受けてなされた。政府は、この発明の特定の権利を有する。
【0002】
背景
分野
[0002] 本開示は、一般に、高い出力および狭い線幅を有するファイバ・レーザ増幅器に関するものであり、より具体的には、電気光学変調器(EOM)を含むファイバ・レーザ増幅器システムに関するものであり、EOMは、シード・ビームへ周波数変調(FM)信号を印加してその線幅を拡げ、また、FM信号と同期されるシード・ビームへ振幅変調(AM)信号を印加するものであり、変調されたシード・ビームは、非線形ファイバ増幅器により増幅され、それにより、シード・ビームが増幅器を通って伝搬するときにシード・ビームを位相変調する自己位相変調が、ビームの周波数変調をキャンセルして、元のシード・ビームのスペクトルを回復させる。
【背景技術】
【0003】
検討
[0003] 高出力レーザ増幅器には、工業、商業、軍事などを含む多くの応用がある。それら及び他の応用のために、レーザ増幅器の設計者は、レーザ増幅器のパワーを増加させる方法を継続的に研究している。1つの既知のタイプのレーザ増幅器は、ドープト・ファイバを用いるファイバ・レーザ増幅器であり、ドープト・ファイバは、シード・ビームと、シード・ビームを増幅するポンプ・ビームとを受け取り、高出力レーザ・ビームを生成するものであり、このファイバは、約10-20μmまたはそれより大きいアクティブ・コア直径を有する。
【0004】
[0004] ファイバ・レーザ増幅器の設計における改善は、その実用的パワーおよびビーム品質限度に近づくように、ファイバの出力パワーを増加させた。ファイバ増幅器の出力パワーを更に増加させるために、幾つかのファイバ・レーザ・システムは複数のファイバ・レーザ増幅器を用い、それらは、複数の増幅されたビームを或る様式で結合(combine)して高パワーを生じさせる。このタイプのファイバ・レーザ増幅器システムに関する設計での挑戦は、複数のファイバ増幅器からの複数のビームを、それら複数のビームが1つのビーム出力を提供するような形で結合して、そのビームを小さい焦点へ焦点合わせできるようにすることである。長距離(ファーフィールド)での小さいスポットへの結合ビームの焦点合わせは、ビームの品質を限定する。
【0005】
[0005] 1つの既知の多ファイバ増幅器の設計では、マスタ発振器(MO)がシード・ビームを生成し、そのシード・ビームは複数のファイバ・シード・ビームへと分割され、それらビームのそれぞれは共通波長を有するものであり、各ファイバ・ビームは増幅される。増幅されたファイバ・シード・ビームは、次に、コリメートされ、回折光学素子(DOE)へ送られ、これは、複数のコヒーレントのファイバ・ビームを1つの出力ビームに結合する。DOEは、素子内へ形成された周期的構造を有するので、それぞれが少し異なる角度方向を有する個別のファイバ・ビームが周期的構造により向きを変えられたときに、それらのビームの全てがDOEから同じ方向に回折する。各ファイバ・ビームは位相変調器へ提供され、位相変調器は、ビームの位相を制御して、全てのファイバ・ビームの位相がコヒーレントに維持されるようにする。しかし、帯域についての制限および位相合わせのエラーにより、コヒーレントに組み合わすことができるファイバ・ビームの数が制限され、従って、レーザの出力パワーが制限される。
【0006】
[0006] 別の既知の多ファイバ増幅器の設計では、複数のマスタ発振器(MO)が複数の波長で複数のファイバ・シード・ビームを生成し、各ファイバ・シード・ビームは増幅される。増幅されたファイバ・シード・ビームは、次に、コリメートされ、回折格子または他の波長選択的素子へ送られ、これは、複数の異なる波長のファイバ・ビームを1つの出力ビームに結合する。回折格子は、素子内へ形成された周期的構造を有するので、それぞれが少し異なる波長および角度方向を有する個別のファイバ・ビームが周期的構造により向きを変えられたきに、それらのビームの全てが回折格子から同じ方向に回折する。しかし、帯域についての制限により、波長結合できるファイバ・ビームの数が制限され、従って、レーザの出力パワーが制限される。
【0007】
[0007] これらの制限を克服し、レーザ・ビームのパワーを更に増加させるために、複数のマスタ発振器を提供して様々な波長の複数のシード・ビームを生成することができ、その場合において、個々の波長のシード・ビームのそれぞれは、複数のファイバ・シード・ビームへと分割され、各グループのファイバ・シード・ビームは、同じ波長を有し、相互にコヒーレントである。各グループの各波長の複数のコヒーレントなファイバ・シード・ビームは、最初に、DOEによりコヒーレントに結合され、次に、各グループのコヒーレントに結合されたビームは、少し異なる角度でスペクトル・ビーム結合(SBC)格子へ送られ、これは、それらのビームを同じ方向に回折して、複数波長の1つの結合されたビームとする。SBC格子はまた、異なる波長の複数のビームを結合するための周期的構造を含む。
【0008】
[0008] ビームの品質を向上させるために、ファイバ増幅器からの出力ビームが狭い線幅であること、即ち、狭い周波数範囲を有することが望ましいことが多い。しかし、高い出力には広いビーム線幅が必要であるため、典型的には、高い出力と狭い線幅とは両立し難いので、従来、高い出力と狭い線幅との双方を提供することは技術における挑戦であった。より具体的には、誘導ブリルアン散乱(SBS)、即ち、ビームがファイバ増幅器に沿って伝搬するときのビームの非線形後方散乱は、小さい周波数範囲の狭い線幅で増加し、これは、ビームのパワーを低減するように働く。しかし、ビーム線幅が広いほど、既知のビーム結合技術を通じて複数のファイバからの複数のビームを1つのビームへと、コヒーレントに結合またはスペクトル的に結合することが、難しくなる。特に、SBC格子からの分散効果は、増幅されているビームの線幅が狭いことを必要とし、そこでは、スペクトル分散により、ビームのスペクトル成分が様々な角度で回折される。換言すると、SBCに関して、シード・ビームのスペクトル輝度が、結合ビーム出力の理論的輝度を直接的に制限する。
【0009】
[0009] 増幅器間での群遅延および分散が完全に整合しないので、コヒーレント・ビーム結合(CBC)に関して、シード・ビームのスペクトル輝度は結合の効率を制限する。典型的には、ソース・スペクトル輝度はSBSにより制限され、そして、ピークSBSゲインを低減し、望まれる出力パワーを達成するために、ファイバ増幅器へのシード・ビーム・ソースは周波数変調されなければならない。周波数変調スペクトル拡幅は、1つのファイバ増幅器から達成可能なスペクトル輝度を制限し、したがって、システム出力を制限する。
【0010】
[0010] これらの制限を克服するために、ファイバ増幅器の設計者は、典型的には、周波数変調を通じて線幅を低減するために、ファイバ増幅器の増幅段の前に1以上の位相変調器を用いる。しかし、ビームがファイバ増幅器により増幅される前に、ビームへ周波数変調が適用されると、そのビームのスペクトル成分の拡幅が増幅器を通して保たれ、その結果として、低スペクトル輝度の増幅されたビームとなる。
【0011】
[0011] Goodnoその他に対しての2015年5月19日に発行された「Nonlinear Spectrally Narrowed Fiber Amplifier」という表題の米国特許第9036252号は、スペクトル輝度を向上させるための高い出力および狭い線幅を有するファイバ・レーザ増幅器システムを開示し、この文献は、この参照によりここに組み込まれる。この’252特許に開示されているファイバ増幅器システムは、光学的シード・ビームを提供するシード・ソースと、調波位相変調器とを含み、調波位相変調器は、シード・ビームとRF駆動信号とを受け取り、駆動信号を用いてシード・ビームを周波数変調して、シード・ビームの主帯域または0次周波数からの光パワーを除去し、そのパワーを、駆動信号の周波数により区切られる側波帯周波数へ入れる。分散素子は、周波数変調されたシード・ビームを受け取り、そのシード・ビームの時間的振幅変調を提供する。非線形ファイバ増幅器は、周波数および振幅が変調されたシード・ビームを分散素子から受け取り、そのシード・ビームを増幅するものであり、周波数変調およびファイバ増幅器の非線形性により生じる自己位相変調(SPM)は、結合して側波帯周波数から光パワーを除去し、それを0次周波数へと戻す。
【0012】
[0012] 上記で一般的に説明したように、’252のファイバ増幅器システムは、シード・ビームを周波数変調し、次に、周波数変調されたシード・ビームを、分散を用いて振幅変調するものであり、振幅変調は、ファイバ増幅器の非線形性により生じる自己位相変調を駆動し、ビームが増幅されているときのビームのスペクトルが低減されるようにして、狭い線幅を有する高パワー出力ビームを生成する。この技術は、上記のように、高い出力且つ狭い線幅のビームを有効に提供することができるが、振幅変調は周波数変調と正確に整合しないので、シード・ビームの振幅変調を提供するために分散に依存することは制限され、これは、高い変調度でのファイバ増幅器における非線形スペクトル圧縮の効率を制限する。より具体的には、低い変調度および高い非線形のファイバ増幅器に関して、ファイバ増幅器でのスペクトル圧縮は有効である。しかし、ファイバ増幅器での非線形性が低い場合、ビームの振幅変調度をより高くするためには、より多くの分散が必要とされる。しかし、分散が大きい場合、振幅変調のときの形状は周波数変調線幅拡幅のときの形状と正確に一致しない、即ち、振幅変調の波形は完全な正弦波ではないので、非線形スペクトル圧縮は非効率的であり、多くのパワーが側波帯に残り、これにより低減できる線幅の量が制限される。従って、スペクトル圧縮の効率と高いSBSの抑制との間でのトレードオフがある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、シード・ビームの周波数変調と振幅変調とを提供するための個別のEOMを含むファイバ・レーザ増幅器システムの入力部の概略的ブロック図である。
【
図2】
図2は、シード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含むファイバ・レーザ増幅器システムの入力部の概略的ブロック図である。
【
図3】
図3は、シード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含み、複数のファイバ増幅器間の整合するB積分を有するCBCを用いるファイバ・レーザ増幅器システムの入力部の概略的ブロック図である。
【
図4】
図4は、シード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含み、複数のファイバ増幅器間の整合しないB積分を有するCBCを用いるファイバ・レーザ増幅器システムの入力部の概略的ブロック図である。
【
図5】
図5は、複数のチャンネルを有するファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図であり、各チャンネルは、シード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含み、SBCを用いる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0018] ビーム・パワーを増加し且つビーム幅を低減するためのシード・ビームの周波数変調および振幅変調を提供するファイバ・レーザ増幅器に関しての本開示の実施形態の下記の説明は、本質的に単なる例示であり、本開示やその応用や使用を限定することを意図していない。
【0015】
[0019] 上述のように、ファイバ・レーザ増幅器では、高いパワーと狭い線幅とは両立しないので、スペクトル輝度が制限される。この両立しないということを克服するために、本開示は、周波数変調と振幅変調との双方を用いることにより、シード・ビームの線幅を拡幅し、次に、高出力ファイバ増幅器の非線形性により生じる自己位相変調を用いて、増幅されたビームの線幅を元の拡幅されていないシード・ビームの線幅近くにスペクトル圧縮することを、提案する。
【0016】
[0020]
図1は、ファイバ・レーザ増幅器システム10の一部の概略的なブロック図であり、このシステムは、ライン14で特定の波長を有するシード・ビームを生成するマスタ発振器12を含む。シード・ビームは補助RF電気光学変調器(EOM)16へ提供され、このEOMは補助RFドライバ18により制御されて周波数変調を提供する。EOM16により提供される周波数変調は、ホワイト・ノイズまたは擬似乱数ビット・シーケンス(PRBS)などのような周波数変調拡幅を提供するための従来の技術を呈するものであり、幾つかの増幅器システムでは、必要とされない場合や望まれない場合がある。EOM16は、システム10のシード・ビームが増幅される前の任意の適切な位置に配せばよいことに、留意されたい。補助EOM16に続くレーザ・フィールドE
1(t)は、下記の形となる。
【0017】
【0018】
[0021] 式(1)から理解できるように、レーザ・フィールドの増幅は、時間において一定であり、その位相は、EOM16により課せられる関数φ(t)で時間的に変化する。
【0019】
[0022] EOM16からの変調されたシード・ビームは、次に、FM EOM20へ送られ、FM EOM20はまた、RFドライバ22からRF駆動信号f(t)を受け取る。EOM20は、光学シード・ビームの位相へRF駆動信号を課して、時間においてシード・ビームの周波数を変化させて、周波数変調を提供する。EOM20からの周波数変調されたフィールド出力は下記の形である。
【0020】
【0021】
上記において、駆動信号f(t)は、ゼロ平均(時間平均)であり、1に正規化され、βは、ラジアンでの周波数変調度であると仮定する。
【0022】
[0023] 周波数変調は、シード・ビームの位相における時間依存型の変化を提供し、これはビームの線幅を拡幅するものであり、広い線幅はSPS抑制を提供する。ここでの説明を目的とする1つの非限定的な例では、ドライバ22により提供されるRF駆動信号は、シングル・トーン正弦波信号
f(t)=sin(ωmt)
であり、ここにおいて、
ωmt/2π
は変調周波数であり、32GHzとすることができ、これは、溶融シリカ繊維におけるSBSに起因するストークス周波数シフトの2倍である。しかし、様々な応用において他の高周波数正弦波駆動信号を用いることも可能なことに、留意されたい。より一般的には、駆動信号f(t)は、必ずしも正弦波である必要はなく、実際には、例えば、PRBSフォーマットや整形されたノイズ・スペクトルを含めての、任意の関数形式でよい。
【0023】
[0024] EOM20により提供される周波数変調は、光学シード・ビームを生成し、これは、駆動信号の関数形式f(t)および変調度βにより定められる拡幅されたスペクトル幅を含る。ここで説明する非限定的な例では、シード・ビームのスペクトルの内容は、32GHzで区分される周波数側波帯を含む。ドライバ22からのRF駆動信号の変調度βは、望まれるスペクトル幅に応じて選択されるものであり、変調度の高い信号は広い線幅を生じさせる。例えば、ここで説明する非限定的な例では、駆動信号の変調度βは、EOM20においてシード・ビームの0次周波数からのパワーの全てを除去するように、選択され得る。代替的には、駆動信号の変調度βは、EOM20においてシード・ビームの0次および+/-1次の側波帯周波数において等しい振幅パワーを作り出すように、選択され得る。代替的には、駆動信号の変調度βは、EOM20においてシード・ビームの多数の側波帯を作り出すように、選択され得る。
【0024】
[0025] 周波数変調されたシード・ビームは、次に、AM EOM24へ送られ、これは、RFドライバ26からRF駆動信号を受け取り、RF駆動信号は、シード・ビームの振幅変調を提供するもの、即ち、時間においてシード・ビームのパワーを変化させるものであり、EOM2は、光学シード・ビームの振幅へ駆動信号を課して、振幅変調を提供する。RFドライバ26は、共通の基礎となる駆動信号f(t)を介してRFドライバ22と同期して、EOM24から下記の形式のAM/FMフィールド出力を提供するようにされる。
【0025】
【0026】
上記において、パラメータBは、AM/FMソースによりシードがなされるファイバ増幅器28と関連する自己位相変調に起因する非線形位相シフト(単位はラジアン)であり、換言すれば、ファイバ増幅器28から出される増幅された高パワー・ビームは、パラメータBの非線形位相シフトを経験する。
【0027】
[0026] 周波数変調が無い場合、シード・ビームの振幅変調
(1-(β/B)f(t))1/2
は、シード・ビームの線幅の僅かな拡幅を提供するであろう。式(3)の検討から明らかなように、振幅変調は周波数変調と同期され、それにより振幅のピークは位相の谷と整列させられる。EOM24は、ビームの振幅変調を直接に提供するものであり、’252特許の場合のように振幅変調を提供するために分散に依存しないので、振幅変調の項
(1-(β/B)f(t))1/2
および周波数変調の項
eiβf(t)
は、高い変調深度β且つ/又は低い増幅器の非線形性Bの場合であっても、正確に整合させることができる。
【0028】
[0027] また、EOM20とEOM24との順を変えることができる場合には、シード・ビームの周波数変調を、シード・ビームの振幅変調の前に行うことが必要ではないことが、式(3)から明らかである。更に、FM EOM20とAM EOM24とを1つのデバイスとして組み合わせることができる。その実施形態は、
図2のファイバ増幅器システム40により例示しており、その実施形態では、システム10と同様の構成要素は、同じ参照番号で示されている。システム40では、EOM20とEOM24とは組み合わされて1つのAM/FM EOM41とされ、これは、RFドライバ44から同期した駆動信号を受け取り、シード・ビームへ振幅変調と周波数変調とを同時に課す。EOM42は、ここで説明する目的に適する任意のデバイスとすることができ、それは、EOspace(トレードマーク)から商業的に入手可能なブロードバンドの低損失のLiNbO
3の電気光学デュアルドライブ・マッハツェンダ干渉強度変調器(Mach-Zehnder interferometric intensity modulator)などである。
【0029】
[0028] 振幅および周波数が変調されたシード・ビームは、次に、非線形ファイバ増幅器28へ送られ、これは、複数のファイバ増幅段とすることができ、各段は、ポンプ・ビームと、イッテルビウム(Yb)がドープされ、10-20μmのコアを有するファイバなどのような、或る長さのドープト・ファイバとを含み、増幅された出力ビームはファイバ30へ提供される。振幅変調および周波数変調は式(3)により同期するようにされ、それにより、ファイバ増幅器28の所与の非線形パラメータBに関して、高いパワーおよび狭い線幅に対しての、増幅されたビームの最適なスペクトル圧縮を提供することができる。振幅変調と周波数変調とを組み合わせて行われたシード・ビームは、ファイバ増幅器28の非線形性に合うようにされているので、シード・ビームが増幅器28へ送られたときにスペクトル線幅が拡幅される。ファイバ増幅器28では非線形のカー効果があるため、ファイバのパワー依存型の屈折率が、高いパワーで光学ビームにおける位相シフトを大きくする原因となるので、シード・ビームにおける振幅変調されたパワー変動の相互作用により、ファイバ増幅器28においてビームの同期位相シフトを生じさせる。この自己位相変調が原因で生じる時間依存型の非線形の位相は下記のようになる。
【0030】
【0031】
[0029] 従って、ファイバ増幅器28から出される増幅されたフィールドは下記のようになる。
【0032】
【0033】
[0030] 式(5)は、非線形の自己位相変調に起因して生じる位相シフトSPM(t)が、EOM20から先に提供された周波数変調βf(t)を相殺することを、示す。唯一残る位相の項は、光学スペクトルに影響しない一定のグローバル位相シフト(constant global phase shift)Bである。シード・ビームが、ファイバ増幅器28を通って伝搬して増幅されると、非線形のカー効果により増幅器28での自己位相変調が生じ、それにより、ビームのパワーは、フィールドE1(t)と関連する元の線幅へ戻るようにシフトされ、ファイバ増幅器の出力で狭い線幅を持つ高パワー・ビームが提供される。
【0034】
[0031] この効果を通じて光信号の周波数変調を相殺することにより、元のビームE1(t)のスペクトルは、増幅器28の出力で、剰余振幅変調項
(1-(β/B)f(t))1/2
から生じる小量の線幅拡幅のみを伴うが、ほぼ完全に回復される。増幅器28の入力と出力(それぞれ、フィールドE3(t)とE4(t))の間のスペクトルにおける変化は、或る長さのファイバ増幅器28における様々な位置からの後方散乱されたSBSのスペクトルの重複を低減させる。これは、変調の無いシード・スペクトルと比較して、SBSのスレッショルドを増加させる。換言すると、シード・ビームが周波数変調されたときの、フィールドE3(t)により表される該シード・ビームのスペクトル線幅が広くされている結果として、フィールドE4(t)により表される増幅されたビームの線幅とスペクトルが重複する、光の後方散乱が低減される。ビームがファイバ増幅器28を通って伝搬するときに、光パワーが、蓄積した自己位相変調によりスペクトル圧縮されると、SBSは増加するが、それは、ビームの伝搬の初期にスペクトル輝度の低下により制限される。
【0035】
[0032] 前述のように、シード・ビームは、最初に、そのスペクトル線幅を拡げるために変調され、そして、シード・ビームが増幅され非線形位相が蓄積すると、パワーは、フィールドE1(t)と関連する元の線幅へとスペクトル圧縮される。ファイバ増幅器28における任意の点からの後方散乱されたSBSストークス光は、その点でのローカル・スペクトルを表す。ファイバ増幅器28の大部分を通る前方へ伝搬するビームは、ファイバ増幅器28の出力端の近くで後方散乱された戻る波とのスペクトルの重複が非常に少ないので、SBS利得は、AM/FM変調が無い場合よりもかなり低くなる。これは、SBSに関するスレッショルドを増加させるものであり、自己位相変調圧縮の無い周波数変調に関する従来技術よりも高いスペクトル輝度出力を可能にする。更に、正弦波変調の非限定的ケースに関して、変調周波数をSBSストークス・シフトの2倍とする、即ち、32GHzとする賢明な選択は、SBSのスレッショルドを低減することから、自己シーディング効果(self-seeding effect)の多くを取り除くことができる。
【0036】
[0033] 入力フィールドE1(t)と関連する元のスペクトル線幅への最大の圧縮効率を保証するために、振幅変調の大きさは、式(3)により記述された最適な値
(1-(β/B)f(t))1/2
に従うように調節されることができる。この調節は、振幅変調の駆動電圧の変調度を変更すること、または増幅器28の後ろにパッシブ・デリバリ・ファイバを付加することの何れかにより行うことができ、これはB積分を増加させるものであり、または、増幅器28のパワーを変化させることにより行うことができ、これはB積分を比例的に変更するものである。
【0037】
[0034] SBSの抑制を例示するために有用な変調パラメータのセットの例を、下記で説明する。ファイバ増幅器28は、2kWファイバ増幅器とすることができ、これに伴う典型的なB積分はB=10ラジアンである。変調RF駆動信号は、
f(t)=sin(ωmt)
となるように選択し、ここにおいて、ωm/2π=32GHzである。β=2.4ラジアンという周波数変調度を選択することにより、FMフィールドE2(t)のスペクトル線幅は、~2βωm/2π=150GHzへと拡幅される。EOM24は、式(3)により記述された同期振幅変調を課し、それによりAM/FMフィールドは次のようになる。
【0038】
【0039】
[0035] 結果的なパワーの変動は、変調されていない連続波パワー・レベルに対して~48%のピーク・トゥ・ピーク変調度を伴う正弦波である。非線形ファイバ増幅器28において増幅がなされると、蓄積されたSPMは、課せられた周波数変調を相殺し、それにより出力フィールドは単に次のようになる。
【0040】
【0041】
[0036] 増幅された出力フィールドのスペクトル線幅は、元の入力フィールドE1(t)のものと非常に似ている。ファイバ増幅器28の長さの大部分にわたってシード・ビームのスペクトル輝度が低減されることにより、このAM/FM構成に関しての期待されるSBSのスレッショルドが、変調されない場合と比較して~2x倍に増加されるであろうことを、計算は示す。これは、他の場合に達成でき得るよりも~2x高いスペクトル輝度の出力パワーを可能にする。
【0042】
[0037] 上述のファイバ・レーザ増幅器システム10および40は、任意の適切なファイバ増幅器システムの一部とすることができ、当業者は、ここでの説明に沿った様々な構成要素の配置の方法を理解するであろう。例えば、ファイバ増幅器システム10または40が、同じ(整合した)B積分を持つ複数の並列のファイバ増幅器28を含むコヒーレント・ビーム結合(CBC)ファイバ増幅器システムの一部とされる場合、周波数変調されたシード・ビームは、EOM24または42の後に複数のチャンネルへと分割される。各チャンネルはまた、相アクチュエータを含む。各チャンネルのファイバ増幅器28が、B積分に関して一致していない場合、シード・ビームは、EOM16とEOM20または42との間で分割され、EOM16の下流の成分は、各チャンネルに対して複製される。ファイバ増幅器システム10または40がスペクトル・ビーム結合(CBC)ファイバ増幅器システムの一部とされる場合、幾つかのファイバ増幅器システム10または40があることになり、それぞれは、異なる波長で動作し、共通の構成要素を有さない。それらのファイバ増幅器システムは、以下で更に説明される。
【0043】
[0038]
図3は、ファイバ・レーザ増幅器システム50の概略的なブロック図であり、ファイバ・レーザ増幅器システム50は、システム40と同様のシード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含み、ここでは、同様の構成要素は同じ参照番号で識別しており、また、ファイバ増幅器28間で整合したB積分を有するCBCを用いている。システム50は、EOM42の後ろにビーム分波器52を含み、ビーム分波器52は、変調されたシード・ビームを複数のチャンネル54へと分割する。それぞれのチャンネル54の変調されたシード・ビームは、相アクチュエータ56へ送られ、相アクチュエータ56は、それぞれのチャンネル54の変調されたシード・ビームの位相を制御し、それにより、それらは互いに同相となる。位相制御され変調されたシード・ビームは、次に、各チャンネル54の増幅器28により増幅され、複数の増幅されたビームはビーム結合光学系58により結合され、ビーム結合光学系58は、共通の波長を有するビームのCBCのための適切な光学系およびグレーティングを含むものであり、結合されたビームがそこから出力される。
【0044】
[0039]
図4は、ファイバ・レーザ増幅器システム60の概略的なブロック図であり、ファイバ・レーザ増幅器システム60は、システム40および50と同様のシード・ビームの周波数変調と振幅変調との双方を提供するための1つのEOMを含み、ここでは、同様の構成要素は同じ参照番号で識別しており、また、ファイバ増幅器28間で整合していないB積分を有するCBCを用いている。システム60はビーム分波器52を含み、ビーム分波器52は、シード・ビームを、それがEOM42により変調される前に分割し、分割されたシード・ビームは複数のチャンネル62へ送られる。それぞれのチャンネル62の分割されたビームは、そのチャンネル62のEOM42へ送られ、変調されたシード・ビームは、相アクチュエータ56へ送られ、相アクチュエータ56は、それぞれのチャンネル54の変調されたシード・ビームの位相を制御し、それにより、それらは互いに同相となる。位相制御され変調されたシード・ビームは、次に、各チャンネル54の増幅器28により増幅され、次に、複数の増幅されたビームはビーム結合光学系58により結合され、結合されたビームとしてそこから出力される。
【0045】
[0040]
図5は、複数のチャンネル72を含むファイバ・レーザ増幅器システム70の概略的なブロック図であり、各チャンネル72は、レーザ増幅器システム40および50のうちの1つを有し、ここでは、同様の構成要素は同じ参照番号で識別しており、また、各チャンネル72の各MO12は、SBCに適した個別の波長で動作する。各チャンネル72の増幅器28からの増幅されたビームは、ビーム結合光学系74により結合され、ビーム結合光学系74は、様々な波長を有するビームのSBCに対しての適切なグレーティングおよび光学系を用いて、結合されたビームを生成する。
【0046】
[0041] 上記の説明は、単に、本開示の例としての実施形態を開示し記述したものである。当業者は、このような説明から、および添付の図面および請求の範囲から、以下の請求の範囲に定めた本開示の精神および範囲から離れることなく様々な変更、改造、および変形がなされ得ることを、容易に認識するであろう。