(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】硬質材料粒子、硬質材料粒子の製造方法、硬質材料粒子の使用方法、硬質材料粒子を含む粉末、及び硬質材料粒子を含む粉末の使用方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/24 20060101AFI20231201BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231201BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20231201BHJP
【FI】
B22F3/24 102A
B22F1/00 P
B22F1/16
(21)【出願番号】P 2020540314
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2019052917
(87)【国際公開番号】W WO2019158418
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】318010867
【氏名又は名称】ハー.ツェー.スタルク タングステン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ミーゼ-マーケットシュフェル,ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】オブリッヒ,アーミン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラント,アンヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ダー ピュッテン,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ランプレヒト,イネス
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102294473(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0097907(US,A1)
【文献】特表昭56-500658(JP,A)
【文献】国際公開第97/011805(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0052803(US,A1)
【文献】特表昭56-500657(JP,A)
【文献】特表2008-525631(JP,A)
【文献】国際公開第2004/026509(WO,A1)
【文献】特表2003-518195(JP,A)
【文献】特公昭30-009303(JP,B2)
【文献】特開2000-149941(JP,A)
【文献】特開2017-014593(JP,A)
【文献】特表2010-503765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた硬質材料粒子
の製造方法であって、
a)少なくとも1つのコバルトア
ンミン錯体からなる水溶液を準備し、
b)該水溶液に硬質材料粒子を添加して、水酸化コバルト化合物で被覆された硬質材料粒子からなる懸濁液を得
ることであって、
前記水酸化コバルト化合物の化学組成が、式CoO
x
(OH)
y
で表され、y=z-2xであり、zはコバルトの酸化状態を表し、2.9≦z≦3、及び0≦x≦z-2であり、
c)被覆された硬質材
料粒子を分離すること
を含む、コーティングされた硬質材料粒子の
製造方法。
【請求項2】
前記水酸化コバルト化合物が、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の
製造方法。
【請求項3】
前記硬質材料
粒子がタングステンカーバイド(WC)であることを特徴とする、請求項
1又は2に記載の
製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコバルトア
ンミン錯体がコバルトヘキサミン錯体であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の
製造方法。
【請求項5】
前記a)の工程の前記水溶液は、少なくとも1つのCo(II)塩からなる水溶液とアンモニアとを混和し、次いで得られた混合物を酸化剤と混和することによって調製されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の
製造方法。
【請求項6】
前記Co(II)塩が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の
製造方法。
【請求項7】
前記b)の工程の前記懸濁液がさらに水酸化ナトリウムからなることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の
製造方法。
【請求項8】
前記c)の工程に続いて、前記水酸化コバルト化合物を金属コバルトに還元するd)の工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の
製造方法。
【請求項9】
前記水酸化コバルト化合物の還元が、常圧下で、水素気流中で行われることを特徴とする請求項8に記載の
製造方法。
【請求項10】
硬質材料粒子が水酸化コバルト化合物でコーティングされて
おり、
前記水酸化コバルト化合物の化学組成が、式CoO
x
(OH)
y
で表され、y=z-2xであり、zはコバルトの酸化状態を表し、2.9≦z≦3、及び0≦x≦z-2であることを特徴とする、硬質材料粒子を含む粉末。
【請求項11】
2.98≦z≦3であることを特徴とする、請求項
10に記載の粉末。
【請求項12】
前記コーティングが、前記粉末
の20重量
%以下含むことを特徴とする、請求項
10又は11に記載の粉末。
【請求項13】
前記コーティングされた硬質材料粒子の粒子径とコーティングされていない硬質材料粒子の粒子径との比が、ISO 13320に従って決定されるように、1.05~1
5であることを特徴とする、請求項
10乃至12のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項14】
前記コーティングされた硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径と、コーティングされていない硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径との比は、ASTM B330に従って決定されるように、1.01~
4であることを特徴とする請求項
10乃至12のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項15】
超硬合金製品を調製するための、請求項
10乃至14のいずれか一項記載の粉末の使用
方法。
【請求項16】
硬質材料粒子が水酸化コバルト化合物でコーティングされており、
前記水酸化コバルト化合物の化学組成が、式CoO
x
(OH)
y
で表され、y=z-2xであり、zはコバルトの酸化状態を表し、2.9≦z≦3、及び0≦x≦z-2であることを特徴とする、コーティングされた硬質材料粒子。
【請求項17】
2.98≦z≦3であることを特徴とする、請求項16に記載の硬質材料粒子。
【請求項18】
前記コーティングされた硬質材料粒子の粒子径とコーティングされていない硬質材料粒子の粒子径との比が、ISO 13320に従って決定されるように、1.05~1
5であることを特徴とする、請求項
16又は17に記載の硬質材料粒子。
【請求項19】
前記コーティングされた硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径と、コーティングされていない硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径との比は、ASTM B330に従って決定されるように、1.01~
4であることを特徴とする請求項
16又は17に記載の硬質材料粒子。
【請求項20】
超硬合金製品を調製するための、請求項
16乃至19のいずれか一項に記載の硬質材料粒子の使用
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化コバルト化合物でコーティングされた硬質材料を調製するプロセスと、当該コーティングされた硬質材料粒子からなる粉末と、その使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
100年以上前から、超硬合金は、特に高性能の切削工具や中ぐり工具の調製に使用されてきた。
【0003】
「超硬合金」という用語は、単独で使用した場合、その硬度が高いために比較的高い脆さを有する金属硬質材料の焼結複合材料を意味するが、通常、実用に供するために、鉄族の軟質および強靭な元素であるFe、Co、Ni(いわゆる結合金属または結合金属)からなる群から選択される金属マトリックスに、主に埋め込まれたものである。金属硬質材料自体は、典型的には、様々な遷移金属の炭化物、窒化物、ケイ化物および/またはホウ化物からなる。典型的には、前記遷移金属として、タングステン、タンタル、ニオブおよび/またはモリブデンなどの高融点耐火金属だけでなく、クロム、バナジウム、チタンなどの他の遷移金属、例えばそれらの混合結晶を含む遷移金属が使用される。
【0004】
超硬合金の中で最も一般的なものの一つであるWC/Co超硬合金は、現在でも市場シェアが最も高く、WC粉末は用途に応じて粒度、粒度分布、コバルト含有量の点で大きな幅がある。
【0005】
材料中の均一な構造を得るために、粉末冶金による従来の(無添加の)超硬合金の製造において、最初にWC粉末をCo粉末と密に混合しなければならない。これは通常、液体炭化水素(例えばヘキサン)の存在下で、WC粉末と適当なコバルト粉末を、例えばアトライター(attritors)やアジテータービーズミル(agitator bead mills)で一緒にミリングすることによって行われ、混合プロセス終了後に真空乾燥によって再び除去される。その後、通常、パラフィンまたは有機ワックスなどの添加剤を添加した後、素地(green body)は、例えば、押出成形、射出成形/MIM(ホットプレスまたはコールドプレス)、または軸方向のコールドプレスによってプレスされる。残った有機成分を除去するために適度な温度で素地からバインダーを除去した後、金属バインダーの溶融温度の範囲内の温度で焼結することにより、さらなる成形が行われる。後続のステップでは、熱間等方性アフタープレス(hot isostatic
afterpressing)を任意に行うことができ、得られた超硬合金成分は、さらなる機械的後処理(旋盤加工、フライス加工および/または研削加工など)、および/またはコーティングプロセス(CVDまたはPVD)を受けてもよい。
【0006】
超硬合金の製造において特に重要なのは焼結プロセスであり、このプロセスでは、上述したように、コバルトの融点(1495℃)付近の高温による焼結により、超硬合金からなる実質的に緻密なボディ(body)が形成される。特に、超微粒(ナノ)WC粉末から1μm程度の中粒度のWC粉末、さらにはかなり粗いWC粉末(40~100μm程度)までのWC粉末を、質量の小さいコバルト金属粉末と可能な限り均一に混合しなければならないことを考慮すると、このような分布の調整は非常に困難であるため、プレミックス中のコバルト粒子とWC粒子の最適な分布は非常に重要であると考えられる。
【0007】
最初から実質的に良好なコバルトのより均質な分布は、WC粒子をコバルトでコーティングすることによって確かに達成され得る。したがって、試験目的のためのそのような粉末が、工業的に実行可能で経済的に効率的な製造プロセスによって利用可能になることが、超硬合金産業において長い間望まれてきた。例えば、コーティングが十分に均一であれば、アトライターやアジテータービーズミルによるWCやコバルト粉末の面倒な一般的な粉砕は完全に不要になることが考えられる。このことは、安全性の観点から非常に厳しい有機溶剤の取り扱いも省略できることを意味し、また、超硬合金の製造者は、吸入による発がん性だけでなく、皮膚への発がん性もあるとされているコバルト金属粉末を取り扱う作業も最小限に抑えることができることを意味している。
【0008】
金属コバルトによる硬質材料粒子のコーティングは、原理的には、Co2+イオンの化学反応によって直接達成することができる。これは一般に知られており、例えばニッケルまたはコバルトによる基材のコーティングは、いわゆる無電解めっきにおいて、特定の浴組成物を用いて広範囲に利用されている。一般的な還元剤としては、例えば次亜リン酸塩、ヒドラジン、または十分な還元力を有する有機還元剤が挙げられる。しかしながら、これらのプロセスでは、所望の基材上で実際に金属析出が行われ、いわゆる自然析出(wild precipitations)が発生しないようにするために、通常、基材表面にパラジウム結晶のような異物結晶を播種し、これが実際の金属析出のための種となるようにしなければならない。超硬合金粉末の製造では、パラジウムの使用は、経済的およびその他の理由から不可能である。
【0009】
国際公開第2006/069614号には、180℃で34.5barの圧力下で、水素を含むCo(II)塩アンモニア溶液から還元することによって、コバルトを含む金属コーティングが達成されるプロセスが記載されている。
【0010】
国際公開第2004/26509号には、硬質材料粒子が最初に金属塩でコーティングされ、金属塩層がその後、圧力下、200℃で中間的に酸化性化合物または水酸化性化合物に変換され、最終的に金属コバルトへの還元が、30barの圧力下、200℃の温度で、水素で反応器を加圧することによって行われるとされるプロセスが記載されている。
【0011】
このようなプロセスの共通の特徴は、高温で、かつオートクレーブ内で少なくとも30barの非常に高い水素圧力下で、水性媒体中で水素と還元することによって金属コバルトを製造することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、硬質材料粒子をコバルトでコーティングするための簡単なプロセスを提供することであり、これにより、先行技術で要求されるような安全管理の点で非常に厳しい極端な反応条件を回避すると同時に、コーティングを非常に均一な塗布することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
コーティングされた硬質材料粒子を調製する方法であって、a)少なくとも1つのコバルトアミン錯体からなる水溶液を準備し、b)該水溶液に硬質材料粒子を添加して、水酸化コバルト化合物で被覆された硬質材料粒子からなる懸濁液を得て、c)被覆された硬質材料の粒子を分離することを含む、コーティングされた硬質材料粒子の調製方法。
前記水酸化コバルト化合物が、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
前記硬質材料がタングステンカーバイド(WC)であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか又は両方に記載の方法。
前記少なくとも1つのコバルトアミン錯体がコバルトヘキサミン錯体であることを特徴とする、先行する請求項のうちの1又は複数に記載の方法。
前記ステップa)の前記水溶液は、少なくとも1つのCo(II)塩からなる水溶液とアンモニアとを混和し、次いで得られた混合物を酸化剤と混和することによって調製されることを特徴とする、先行する請求項のうちの1又は複数に記載の方法。
前記Co(II)塩が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
前記ステップb)の前記懸濁液がさらに水酸化ナトリウムからなることを特徴とする、先行する請求項のうちの1又は複数に記載の方法。
前記方法が、ステップc)に続いて、前記水酸化コバルト化合物を金属コバルトに還元するステップd)をさらに含むことを特徴とする、先行する請求項のうちの1又は複数に記載の方法。
前記水酸化コバルト化合物の還元が、常圧下で、水素気流中で行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
請求項1~9のうち1又は複数に記載の方法により得られるコーティングされた硬質材料粒子。
硬質材料粒子が水酸化コバルト化合物でコーティングされていることを特徴とする硬質材料粒子を含む粉末。
水酸化コバルト化合物の化学組成が、式CoO
x
(OH)
y
で表され、y=z-2xであり、zはコバルトの酸化状態を表し、2≦z≦3、及び0≦x≦z-2であることを特徴とする、請求項11に記載の粉末。
2.5≦z≦3、より好ましくは2.9≦z≦3、さらに好ましくは2.98≦z≦3であることを特徴とする、請求項12に記載の粉末。
請求項1~9のうち1又は複数に記載の方法によりコーティングされた硬質材料粒子が調整されていることを特徴とする、先行する請求項のうち1又は複数に記載の粉末。
前記コーティングが、前記粉末の最大20重量%、好ましくは2~15重量%含むことを特徴とする、先行する請求項のうち1又は複数に記載の粉末。
前記コーティングされた硬質材料粒子の粒子径とコーティングされていない硬質材料粒子の粒子径との比が、ISO 13320に従って決定されるように、1.05~15、好ましくは1.05~5、より好ましくは1.05~1.5であることを特徴とする、請求項11~15のうち1又は複数に記載の粉末又は請求項10に記載の硬質材料粒子。
前記コーティングされた硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径と、コーティングされていない硬質材料粒子のFSSSに従った粒子径との比は、ASTM B330に従って決定されるように、1.01~4、好ましくは1.01~2、より好ましくは1.01~1.5であることを特徴とする請求項11~15のうち1又は複数に記載の粉末又は請求項10に記載の硬質材料粒子。
超硬合金製品を調製するための、請求項11~16のうち1又は複数に記載の粉末の使用又は請求項1に記載の硬質材料粒子の使用。
従来の超硬合金製品の製造における、請求項11~16のうち1又は複数に記載の粉体の使用又は請求項10に記載の硬質材料粒子の使用。
超硬合金製品を調製するための添加剤製造プロセスにおける、請求項11~16のうちの1又は複数に記載の粉末の使用又は請求項10に記載の硬質材料粒子の使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】
粒径1.04μm(FSSS)の元のWC粉末を示す図である。
【
図1b】
CoO
x
(OH)
y
でコーティングされたWC粒子を示す図である。
【
図1c】
コバルトが金属の形態をしているコーティング粒子を示す図である。
【
図2】
実施例2に従った本発明に係るコバルト金属でコーティングされたWC粒子の8万倍の拡大図である。
【
図3】
電子顕微鏡写真であり、本発明に係るプロセスが通常のすべてのWCグレードに適用できることを示す図である。
【
図4】
従来の方法でコーティングしたWC粒子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
驚くべきことに、この目的は、第1のステップで硬質材料粒子をコバルトの水酸化性化合物でコーティングし、第2のステップで前記水酸化性コバルト化合物を金属コバルトに還元する無圧プロセスによって達成され得ることが分かった。
【0016】
したがって、本発明は、まず、以下のステップからなる、コーティング硬質材料粒子を調製するためのプロセスに関する。
a) 少なくとも1つのコバルトアミン錯体からなる水溶液を準備し、
b) 水溶液に硬質材料粒子を添加して、水酸化コバルト化合物でコーティングされた硬質材料粒子からなる懸濁液を得て、
c) コーティングされた硬質材料の粒子を分離する。
【0017】
コバルトの水酸化性化合物は、好ましくは、コバルト(III)水酸化物、コバルトオキシ水酸化物、コバルト(II)水酸化物、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0018】
本発明の範囲内では、3価の水酸化コバルト化合物は、化学式CoOx(OH)3-2xの化合物であり、0≦x≦1である。
【0019】
さらに本発明の範囲内で、前記コバルト(II)水酸化物は、化学式Co(OH)2の化合物である。
【0020】
本発明における両者の混合物は、化学式CoOx(OH)yの化合物であって、y=z-2xであり、ここで、zはコバルトの酸化状態であり、2≦z≦3、及び0≦x≦z-2である。
【0021】
好ましくは、zの値は2.5≦z≦3を満たし、より好ましくは2.9<z≦3である。
【0022】
本発明に係るプロセスの好ましい実施形態では、硬質材料粒子は、タングステン、タンタル、ニオブ、モリブデン、クロム、バナジウム、チタン、およびそれらの混合物からなる群から選択される遷移金属の炭化物、窒化物、および/または炭窒化物である。
【0023】
硬い材料は、特に、高い融点に関連して高い硬度によって特徴付けられる。したがって、前記硬質材料がタングステンカーバイド(WC)である実施形態が好ましい。
【0024】
驚くべきことに、前記コバルトアミン錯体としてCo(III)ヘキサミン錯体が使用されている場合には、硬質材料粒子の水酸化コバルト化合物による特に均一なコーティングが達成されることが分かっている。したがって、前記コバルトアンミン錯体がコバルトヘキサアンミン錯体である実施形態が好ましい。
【0025】
好ましい実施形態では、ステップa)の水溶液は、少なくとも1つのCo(II)塩からなる水溶液をアンモニアと混和し、その後、得られた混合物を酸化剤と混和することによって調製される。
【0026】
好ましくは、前記酸化剤は、空気、酸素、過酸化水素、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0027】
本発明に係るプロセスのさらなる好ましい実施形態では、前記Co(II)塩は、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、前記Co(II)塩は、硫酸コバルトである。代替的に好ましい実施形態では、前記Co(II)塩は硝酸コバルトである。
【0028】
特定の理論に拘束されることなく、コバルト(III)アンミン錯体の形成は、例えば以下の式に従って行われると考えられる。
【0029】
【0030】
好ましくは、本発明に係るプロセスのステップb)において、水酸化ナトリウムが懸濁液にさらに添加される。驚くべきことに、水酸化ナトリウムの添加により、強化された反応が達成され得るだけでなく、コーティングされた硬質材料粒子の凝集傾向もまた減少され得ることが判明した。さらなる好ましい実施形態では、本発明に係るプロセスは、超音波を用いて実施することができる。驚くべきことに、特にこの方法では、粒子の凝集傾向がさらに低減され得ることが分かっている。代替的または追加的に、凝集傾向は、例えば、超音波を適用することによって、または攪拌強度を適応させることによって、影響を与えることができる。
【0031】
水酸化コバルト化合物の沈殿に水酸化ナトリウムの添加を省略すると、コバルト(III)アンミン錯体の反応は、CoOOHを例に挙げて示すように、加熱して余分なアンモニアを排出することで進行すると想定される。
【数2】
【0032】
したがって、好ましい実施形態では、懸濁液は、60℃~100℃の温度、より好ましくは65℃~85℃の温度に加熱される。別の実施形態では、コバルト(III)アンミン錯体の反応は、減圧下で作業することによっても支持され得る。
【0033】
本発明に係るプロセスは、硬質材料粒子の特定の粒径に依存しない。したがって、硬質材料粒子が0.1~100μm、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは1~40μmの粒径を有する実施形態が好ましい。粒子径は、フィッシャーモデルサブシーブサイザー(Fisher Model Sub-Sieve Sizer;FSSS)を用いてASTM E B330に準じて決定した。本発明の範囲内では、「粒子径」は、粒子の等価直径を指す。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明に係るプロセスは、ステップc)に続いて、水酸化コバルト化合物をコバルト金属に還元するステップd)をさらに含む。驚くべきことに、還元は、水素の流れの中で、常圧下で実現できることが判明しており、先行技術に記載されているような増圧や特定の装置のような条件は必要ないことが判明している。したがって、水酸化コバルト化合物の還元が水素流中の常圧下で行われる実施形態が好ましい。
【0035】
本発明は、さらに、このようにして得られたコーティング硬質材料粒子に関する。
【0036】
本発明はさらに、前記硬質材料粒子が水酸化コバルト化合物のコーティングを有することを特徴とする硬質材料粒子からなる粉末に関する。好ましくは、コーティングされた硬質材料粒子は、本発明に係るプロセスによって調製される。
【0037】
好ましい実施形態では、前記水酸化コバルト化合物の化学組成物は、式CoOx(OH)yによって記述され、ここで、y=z-2xであり、zはコバルトの酸化状態を表し、2≦z≦3、および0≦x≦z-2である。特に好ましい実施形態では、2.5≦z≦3、より好ましくは2.9≦z≦3、さらに好ましくは2.98≦z≦3である。
【0038】
更なる好ましい実施形態では、硬質材料粒子は金属コバルトでコーティングされる。
【0039】
驚くべきことに、本発明に係る粉末は、水酸化コバルト化合物で均一かつほぼ完全にコーティングされることを特徴とすることが判明した。
【0040】
本発明に係る粉末は、硬質材料粒子上に水酸化コバルト化合物が非常に均一に堆積することを特徴とする。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明に係る粉末は、コバルトが金属形態である場合、ASTM D 3663に従って決定されるように、0.05~5g/m2、好ましくは0.05~2g/m2のBET比表面積を有する。コバルトが水酸化物の形態にある場合、粉末は、好ましくは5m2/gより大きい、より好ましくは10m2/g~20m2/gより大きい比表面積を有する。
【0042】
本発明に係る粉末は、高い焼結活性を有することをさらに特徴とする。したがって、本発明に係る粉末は、例えば、高い機械的負荷性および高い耐摩耗性を特徴とする部品の調製に適している。これらの特性は、主に、粉末中に存在する特徴的な硬質材料によるものである。完成した部品がこれらの特性からも恩恵を受けることができるようにするためには、超硬合金中の硬質材料粒子の含有量を可能な限り高くする必要がある。これは、結合金属の含有量が、硬質材料の自然な脆さを打ち消すために必要な最小の必要量に制限されるべきであることを意味している。結合金属としてのコバルトの使用は、さらに、無視されるべきではないコスト要因を表しており、この理由からも、結合金属の含有量は、必要な技術的に最小の量を超えてはならない。したがって、コーティングが粉体の最大20重量%、好ましくは2~15重量%の範囲で構成される本発明の実施形態が好ましい。
【0043】
本発明に係る粉体は、凝集傾向が低いことを特徴とする。凝集傾向の指標は、例えば、コーティングされた材料とコーティングされていない材料との粒度分布のD50値の比である。
【0044】
好ましい実施形態では、コーティングされた硬質材料粒子の粒子径と非コーティングされた硬質材料粒子の粒子径との比は、1.05~15、好ましくは1.05~5、より好ましくは1.05~1.5であり、ここで、計算は、ISO 13320に従ってマスターサイザー(Master Sizer)を用いて測定された粒度分布のD50値に基づいて行われる。
【0045】
全く異なる量は、一次粒の平均サイズに対する等価直径として理解されるように、ASTM B330に従ったいわゆるフィッシャー値FSSSである。本発明によれば、この値は、コーティングによって低い程度にのみ増加し、例えば、市販のWC DS 100材料の場合、1.0~1.3まで増加する。したがって、本発明はさらに、水酸化コバルト化合物および/または金属コバルトでコーティングされた硬質材料粒子にも関するものであり、コーティングされた材料の非コーティング材料に対するASTM B330に従ったFSSS値の比が1.01~4、好ましくは1.01~2、より好ましくは1.01~1.5であることを特徴とするものである。
【0046】
更なる好ましい実施形態では、コーティングされた硬質材料粒子は、本発明に係る粉末中に離散粒子として存在する。驚くべきことに、通常観察される強い凝集は、本発明に係る粉末中では発生しないか、または非常に低い程度にしか発生しないことが判明した。特定の理論に拘束されることなく、これは、選択されたコーティング材料およびそれを堆積させる特定の方法に起因する。
【0047】
本発明に係る粉末は、好ましくは超硬合金の調製に使用され、ここで、従来の製造プロセスおよび添加剤製造技術の両方を加工に使用することができる。
【0048】
従って、本発明は、従来の製造プロセスにおける本発明に係るコーティング硬質材料粒子および/または本発明に係る粉末の使用に関する。前記粒子および/または粉体は、例えば、整形、圧縮、バインダーの除去、および焼結を介した古典的な粉末冶金ルート、または焼結HIP法(HIP:hot isostatic press)を介して処理することができる。驚くべきことに、製造の過程で通常必要とされる、高い安全基準を必要とする、硬質材料とバインダー金属粉末との間の上流の複雑な混合ステップは、本発明に係る使用によって、一部または完全に省略することができることが分かっている。
【0049】
本発明はさらに、本発明に係るコーティング硬質材料粒子および/または本発明に係る粉末の、添加剤製造プロセスにおける使用に関する。そのような製造プロセスにおいて、粉体および/または粒子は、好ましくは、粉体ベッド(particle bed)として、スプレー粒状粉体の形態で、または印刷インキの構成要素として直接採用される。好ましくは、そのような添加物製造プロセスは、選択的レーザー焼結、バインダージェット技術、または直接印刷法などの粉末ベッド融合プロセスである。
【0050】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは本発明の思想を限定するものとして理解されるべきではない。
【0051】
まず、コバルトアンミン錯体を含む溶液を以下のように調製した。
【0052】
a)水4.5リットル中に硫酸コバルト七水和物1145gを溶解し、次いで、この溶液を3リットルの濃度(25%)アンモニアと撹拌しながら混和した。その後、ガラスフリットに16時間空気を通した。初期の青色のCo(OH)2の沈殿物が急速に溶解し、深紅色の溶液が得られた。後者を水で正確に8.00リットルに充填し、各1500mlをWC400g(5種類のグレード)のコーティングに使用した。
【0053】
b)本発明に係るプロセスによる炭化タングステンと水酸化コバルト化合物のコーティングは、以下のようにして行った。加熱可能な撹拌反応器に2リットルの水を充填し、撹拌しながら400gのWCをそこに懸濁させた。次いで、この懸濁液を1500mlのコバルトヘキサミン複合体溶液とアドミックスし、約0.5リットルの水を4リットルに充填した。その後、溶液を恒久的な撹拌で5時間以内に80℃までゆっくりと加熱し、この温度でさらに3時間撹拌した。この間、液体の損失は、このように懸濁液の体積を一定に保つために水を計量することによって蒸発によって補償された。アンモニアが排出され、pHは10から6.6~6.8に低下し、懸濁液は暗褐色を呈した。
【0054】
c)懸濁液をまだ熱いうちに濾過し、暗褐色のフィルターケーキを2リットルの温水(60℃)で洗浄し、次いで、90℃の乾燥キャビネットで一晩かけて乾燥させた。得られた量および本発明に係る水酸化コバルト化合物でコーティングされたタングステンカーバイドの分析された特性は、表1に要約されている。母液および濾液からの未沈殿コバルトは、コバルト(II)塩に変換され、このようにして再利用可能であった。
【0055】
d)得られたタングステンカーバイドを水酸化コバルト化合物でコーティングした各タングステンカーバイドから、以下のようにして一部を還元した。粒子の200グラムを金属ボート(Thermax)で秤量した。このボートを管状炉に入れた。アルゴンでフラッシングした後、水素を炉内に通し、最初は10℃/分で650℃まで昇温した。この温度を2時間保持した後、さらに10℃/分で750℃まで加熱した。750℃で2時間保持した後、アルゴン雰囲気下で冷却した。本発明に係る金属コバルトでコーティングされたタングステンカーバイドの得られた量および分析された特性はまた、以下の表1にまとめられている。
【0056】
【0057】
図1a、1bおよび1cは、微細なタングステンカーバイドグレードWC DS100のための本発明に係るプロセスの個々のステップを示す。
【0058】
図1aは、粒径1.04μm(FSSS)の元のWC粉末を示している。
【0059】
図1bは、CoO
x(OH)
yでコーティングされたWC粒子を示す。
【0060】
図1cは、コバルトが金属の形態をしているコーティング粒子を示している。粒子径はFSSS法で測定したところ1.28μmであった。
【0061】
本実施例の出発原料として、FSSS値が1.04μm、BET比表面積が1.01m2/gのH.C. Starck Tungsten GmbH社製の市販WC DS100を使用した(表1より実施例2)。使用したWC粉末の粒度分布のD50値は1.2μmであった。得られた最終製品WC/CoのFSSS値は1.28μm、BET比表面積は1.32m2/gであった。ISO 13320に準拠したレーザー回折法で測定した粒度分布のD50値は8.5μmであった。また、コバルト含有率は8.4%と判定された。比較例が示すように、比表面積(BET ISO 9277)とFSSS値がわずかに変化しただけである。このわずかな変化は、本発明に係る粒子が凝集傾向が低いことを示している。この特性のため、本発明に係る粉末は、素地にプレスすることができる超硬合金部品の従来の製造プロセスによる使用に非常に適している。その結果として生じる流動性のため、本発明に係る粉末はまた、完成した部品を付加的に構築するレーザー溶融のような付加的な製造方法にも採用することができる。
【0062】
図2は、実施例2に従った本発明に係るコバルト金属でコーティングされたWC粒子の8万倍の拡大図を示す。
【0063】
図3は電子顕微鏡写真であり、本発明に係るプロセスが通常のすべてのWCグレードに適用できることを示している。上から順に、実施例5の顕微鏡写真は、それぞれWC、WC/CoO
x(OH)
y、WC/Coである。
【0064】
WC微粉末では層厚が薄くてもほぼ完全に塗膜が形成されていることがわかる。WC粒子が大きくなると、同じコバルト含有量でも層厚が大きくなり、水酸化コバルトでコーティングされたWCには乾燥クラックが形成される。また、金属コバルトは水酸化コバルトよりも密度が高いため、還元の過程で自然に収縮が起こる。特に粗大なWCグレードでは、このため、WC粒子の表面に金属コバルトの島が形成される。しかし、この金属多孔質ナノコバルト領域は、欠け落ちることなく、驚くべきことにWC粒子の表面にしっかりと付着したままであり、粉末パッキン中に非常に均一に分布している。
【0065】
図4に従来の方法でコーティングしたWC粒子を示す。このように、WC粒子をCoSO
4水溶液に懸濁させ、60℃に加熱し、NaHCO
3添加した。得られた塩基性炭酸コバルトでコーティングされた粒子を水素流中に入れ、炭酸コバルトを金属コバルトに還元した。これにより、
図4からわかるように、大きなコバルト粒子がその大部分が分離し、コーティングを形成しない。