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特許7394780ポリカルボジイミド化合物、並びに、これを用いたポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂改質剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ポリカルボジイミド化合物、並びに、これを用いたポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂改質剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 267/00 20060101AFI20231201BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20231201BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20231201BHJP
   C08L 75/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C07C267/00 CSP
C08L67/00
C08K5/29
C08L75/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020553872
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042099
(87)【国際公開番号】W WO2020090702
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018205562
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】小谷 沙織
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006950(WO,A1)
【文献】特開平08-027092(JP,A)
【文献】特開平09-309871(JP,A)
【文献】特開2013-193986(JP,A)
【文献】特開2016-065252(JP,A)
【文献】特開2010-031174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 267/00
C08L 67/00
C08K 5/29
C08L 75/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、
mNH2-m-CO-NH-Z-(N=C=N-Z)n-NH-CO-NH2-mm (1)
前記Rmは、RmNH3-mで表される、1気圧における沸点が150℃以下のアミン化合物の炭化水素残基であり、前記アミン化合物が、シクロヘキシルアミン及びジイソプロピルアミンから選ばれる1種以上であり、
前記mは1又は2であり、
前記Zは、脂肪族ジイソシアネート化合物から2個のイソシアネート基を除いた残基であり、
前記nは2~7のいずれかの整数である、ポリカルボジイミド化合物。
【請求項2】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種以上である、請求項に記載のポリカルボジイミド化合物。
【請求項3】
前記nが、3~6のいずれかの整数である、請求項1又は2に記載のポリカルボジイミド化合物。
【請求項4】
ポリカルボジイミド化合物を含み、ポリエステル樹脂の相溶化剤であるポリエステル樹脂改質剤であって
前記ポリカルボジイミド化合物は、下記一般式(1)で表され、
m NH 2-m -CO-NH-Z-(N=C=N-Z) n -NH-CO-NH 2-m m (1)
前記R m は、R m NH 3-m で表される、1気圧における沸点が150℃以下のアミン化合物の炭化水素残基であり、
前記mは1又は2であり、
前記Zは、脂肪族ジイソシアネート化合物から2個のイソシアネート基を除いた残基であり、
前記nは2~7のいずれかの整数である、
ポリエステル樹脂改質剤。
【請求項5】
前記アミン化合物の1気圧における沸点が80~150℃である、請求項4に記載のポリエステル樹脂改質剤
【請求項6】
前記アミン化合物が、シクロヘキシルアミン及びジイソプロピルアミンから選ばれる1種以上である、請求項4又は5に記載のポリエステル樹脂改質剤
【請求項7】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種以上である、請求項4~6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂改質剤
【請求項8】
前記nが、3~6のいずれかの整数である、請求項4~7のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂改質剤
【請求項9】
前記相溶化剤が、ポリエステル樹脂(A)を、ポリエステル樹脂(B)と相溶化させる相溶化剤であり、前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)のFedors法により求められる溶解パラメータの差が0.20(cal/cm31/2以上である、請求項4~8のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂改質剤。
【請求項10】
前記相溶化剤が、ポリエステル樹脂をポリアミド樹脂と相溶化させる相溶化剤である、請求項4~8のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂改質剤。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド化合物、及びポリエステル樹脂を含む、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリカルボジイミド化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂の合計100質量部に対して0.2~5.0質量部である、請求項11に記載のポリエステル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の耐加水分解性の向上のために好適に用いることができるポリカルボジイミド化合物、並びに、該ポリカルボジイミド化合物を用いたポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、一般に、透明性や機械的強度、加工性、耐溶剤性等に優れていることから、繊維やフィルム、シート等に広く利用されており、リサイクルでも活用されている。
しかしながら、ポリエステル樹脂は、経時劣化により加水分解を生じやすいため、これを抑制し、耐加水分解性を向上させる目的で、ポリエステル樹脂改質剤としてカルボジイミド化合物が添加されることがある。
【0003】
例えば、特許文献1に、特定のウレア変性カルボジイミドが、ポリエステル樹脂との相溶性が良好であり、ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させることができることが記載されている。具体的には、実施例として、ジ-n-ブチルアミン(1気圧での沸点159℃)によりウレア結合を導入したカルボジイミド基数(カルボジイミド基の重合度)が1又は3のウレア変性カルボジイミドが開示されている。また、n-ブチルアミン(1気圧での沸点78℃)によりウレア結合を導入したカルボジイミド基数(カルボジイミド基の重合度)が10のウレア変性カルボジイミドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-81533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1に開示されているウレア変性カルボジイミドは、沸点が150℃以上と高いアミン化合物を用いてウレア結合が導入されているもの、あるいはまた、沸点がこれよりも低いアミン化合物が用いられている場合は、カルボジイミド基の重合度が10のものである。
【0006】
しかしながら、高沸点のアミン化合物を原料として用いた場合、得られるウレア変性カルボジイミド中には、未反応の該アミン化合物が留去されずに残留しやすくなる。また、ポリエステル樹脂との溶融混練時の加熱により、ウレア結合が切れて該アミン化合物が遊離し、該ウレア変性カルボジイミドを含むポリエステル樹脂組成物中に、揮発せずに残留する場合もある。このような残留アミンは、該ウレア変性カルボジイミドが添加されたポリエステル樹脂の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、アミン化合物として、ジ-n-ブチルアミンよりも沸点の低い、n-ブチルアミンを用いた場合であっても、カルボジイミド基の重合度が10のウレア変性カルボジイミドは、該ウレア変性カルボジイミドを含むポリエステル樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、加工性に劣る。
【0007】
したがって、ポリエステル樹脂に添加されるポリカルボジイミド化合物は、残留アミン量ができる限り少なく、しかも、添加によって該ポリエステル樹脂に付与される耐加水分解性を低下させることなく、かつ、混練や成形等において良好な加工性を有していることが求められる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、残留アミン量が少なく、添加によって付与されるポリエステル樹脂の耐加水分解性を保持しつつ、ポリエステル樹脂への添加における加工性が良好であるポリカルボジイミド化合物、並びに、これを用いたポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、所定の沸点を有するアミン化合物により末端イソシアネート基が封止され、かつ、所定のカルボジイミド基の重合度であるポリカルボジイミド化合物が、耐加水分解性及び加工性の点で、ポリエステル樹脂改質剤として優れていることを見出したことに基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
[1]下記一般式(1)で表され、
mNH2-m-CO-NH-Z-(N=C=N-Z)n-NH-CO-NH2-mm (1)
前記Rmは、RmNH3-mで表される、1気圧における沸点が150℃以下のアミン化合物の炭化水素残基であり、前記mは1又は2であり、前記Zは、脂肪族ジイソシアネート化合物から2個のイソシアネート基を除いた残基であり、前記nは2~7のいずれかの整数である、ポリカルボジイミド化合物。
[2]前記アミン化合物の1気圧における沸点が80~150℃である、上記[1]に記載のポリカルボジイミド化合物。
[3]前記アミン化合物が、シクロヘキシルアミン及びジイソプロピルアミンから選ばれる1種以上である、上記[1]又は[2]に記載のポリカルボジイミド化合物。
[4]前記脂肪族ジイソシアネート化合物が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド化合物。
[5]前記nが、3~6のいずれかの整数である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド化合物。
【0011】
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド化合物を含む、ポリエステル樹脂改質剤。
[7]ポリエステル樹脂の相溶化剤である、上記[6]に記載のポリエステル樹脂改質剤。
[8]前記相溶化剤が、ポリエステル樹脂(A)を、他のポリエステル樹脂(B)と相溶化させる相溶化剤であり、前記ポリエステル樹脂(A)及び前記ポリエステル樹脂(B)のFedors法により求められる溶解パラメータの差が0.20(cal/cm31/2以上である、上記[7]に記載のポリエステル樹脂改質剤。
[9]前記相溶化剤が、ポリエステル樹脂をポリアミド樹脂と相溶化させる相溶化剤である、上記[7]に記載のポリエステル樹脂改質剤。
【0012】
[10]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリカルボジイミド化合物、及びポリエステル樹脂を含む、ポリエステル樹脂組成物。
[11]前記ポリカルボジイミド化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂の合計100質量部に対して0.2~5.0質量部である、上記[10]に記載のポリエステル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカルボジイミド化合物は、原料由来の残留アミン量が少なく、高品質のものとして得ることができる。また、ポリエステル樹脂への添加により該ポリエステル樹脂が付与される耐加水分解性を低下させることなく、かつ、混練や成形等において良好な加工性を有している。
したがって、前記ポリカルボジイミド化合物を用いたポリエステル樹脂組成物は、耐加水分解性が良好であり、かつ、加工性にも優れている。
また、本発明によれば、前記ポリカルボジイミド化合物を用いることにより、ポリエステル樹脂に耐加水分解性を良好に付与し得るポリエステル樹脂改質剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリカルボジイミド化合物、並びに、該ポリカルボジイミド化合物を用いたポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂改質剤について詳細に説明する。
【0015】
[ポリカルボジイミド化合物]
本発明のポリカルボジイミド化合物は、下記一般式(1)で表される。
mNH2-m-CO-NH-Z-(N=C=N-Z)n-NH-CO-NH2-mm (1)
前記式(1)において、Rmは、RmNH3-mで表される、1気圧における沸点が150℃以下のアミン化合物の炭化水素残基である。mは1又は2である。Zは、脂肪族ジイソシアネート化合物から2個のイソシアネート基を除いた残基である。nは2~7のいずれかの整数である。
【0016】
(アミン化合物)
アミン化合物は、前記式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物の両末端を構成し、末端イソシアネート基を封止して、ウレア結合を導入するものである。前記アミン化合物は、RmNH3-mで表され、mは1又は2である。すなわち、第一級アミン(RNH2)又は第二級アミン(R2NH)である。Rは炭化水素基であり、前記第二級アミンにおける2つのRは、同一であっても、異なっていてもよい。また、前記式(1)で表される両末端のRのそれぞれは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0017】
前記アミン化合物は、1気圧における沸点(以下、単に「沸点」と言う。)が150℃以下の化合物であり、好ましくは、沸点が80~150℃であり、より好ましくは80~140℃である。
【0018】
前記ポリカルボジイミド化合物の合成原料として、150℃超の高沸点のアミン化合物を用いた場合、該ポリカルボジイミド化合物中に未反応の該アミン化合物が留去されずに残留しやすくなる。残留アミン量が多いポリカルボジイミド化合物は、これを添加するポリエステル樹脂の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、前記ポリカルボジイミド化合物におけるウレア結合は150~200℃程度で切れやすく、ポリエステル樹脂との溶融混練時の加熱等において、該ウレア結合が切れて該アミン化合物が遊離し、揮発せずに残留することも生じやすい。
これに対して、沸点が150℃以下のアミン化合物は揮発しやすく、これをポリカルボジイミド化合物の合成原料として用いた場合、該ポリカルボジイミド化合物中に残留し難く、残留アミン量が少ない、高品質のポリカルボジイミド化合物が得られる。また、沸点が80℃以上であれば、前記ポリカルボジイミド化合物の合成の際、前記末端イソシアネート基を封止する反応において、十分な反応性を得る上で好ましい。
【0019】
前記アミン化合物としては、沸点150℃以下の脂肪族アミンが挙げられる。具体例としては、n-プロピルアミン(沸点49℃)、n-ブチルアミン(沸点78℃)、イソブチルアミン(沸点63℃)、sec-ブチルアミン(沸点63℃)、tert-ブチルアミン(沸点46℃)、シクロヘキシルアミン(沸点135℃)等の第一級アミン;ジエチルアミン(沸点55℃)、ジイソプロピルアミン(沸点84℃)等の第二級アミンが挙げられる。これらのうち、1種単独であっても、2種以上を含むものであってもよい。これらのうち、該ポリカルボジイミド化合物のポリエステル樹脂への添加時の均一な混合の容易性等の観点から、シクロヘキシルアミン、ジイソプロピルアミンが好ましく、より好ましくはシクロヘキシルアミンである。
【0020】
(脂肪族ジイソシアネート化合物)
前記式(1)中のZは、脂肪族ジイソシアネート化合物から2個のイソシアネート基を除いた残基である。ジイソシアネート化合物とは、2個のイソシアネート基を有する化合物である。
本発明で言う「脂肪族ジイソシアネート化合物」とは、イソシアネート基に直接結合する炭素原子が芳香環を構成している化合物ではないジイソシアネート化合物を意味する。すなわち、イソシアネート基に結合する炭化水素基は、鎖状であっても環状であってもよく、また、イソシアネート基に直接結合しない炭素原子が芳香環を有するものも含むものとする。
【0021】
前記Zが、イソシアネート基に直接結合する炭素原子が芳香環を構成する化合物、すなわち、芳香族イソシアネート化合物を由来とするものである場合、該ポリカルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂に十分な耐加水分解性を付与し難く、これを添加したポリエステル樹脂は粘性が高く、混練や成形等の加工性に劣るものとなる。
【0022】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(別名:イソホロンジイソシアネート)、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン(別名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)等が挙げられる。これらのうち、1種単独であっても、2種以上を含むものであってもよい。これらのうち、安定性やポリエステル樹脂の耐加水分解性の向上効果等の観点から、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0023】
(カルボジイミド基の重合度)
前記式(1)中のnは、該ポリカルボジイミド化合物に含まれるカルボジイミド基の数を表しており、本明細書中において、「カルボジイミド基の重合度」と言う。
前記nは2~7のいずれかの整数であり、好ましくは3~6、より好ましくは4~6である。
ポリエステル樹脂に添加されるポリカルボジイミド化合物は、そのカルボジイミド基によって耐加水分解性を付与し得る。前記nが2未満では、十分な耐加水分解性が得られない。また、前記nが7以下であることにより、該ポリカルボジイミド化合物を、ポリエステル樹脂と溶融混練する際の加熱温度において適度な粘性を有するものとすることができ、相溶性が良好となり、ポリエステル樹脂との均一な混合物が得られやすい。したがって、このようなポリカルボジイミド化合物は、混練や成形等において良好な加工性を有するものとなる。
【0024】
(ポリカルボジイミド化合物の製造方法)
前記ポリカルボジイミド化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造することができる。例えば、前記脂肪族ジイソシアネート化合物を、カルボジイミド化触媒を用いてカルボジイミド化反応を行い、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得る工程と、前記イソシアネート末端ポリカルボジイミドの末端イソシアネート基を、前記アミン化合物を用いて封止する反応を行い、前記ポリカルボジイミド化合物を得る工程とを有する製造方法により製造することができる。具体的な製造方法としては、下記実施例に示すような方法が挙げられる。
【0025】
前記カルボジイミド化触媒は、前記脂肪族ジイソシアネート化合物の脱炭酸縮合反応を促進する作用を有するものである。例えば、ホスホレン化合物やリン酸エステル化合物等の有機リン化合物;金属アルコキシドや金属カルボニル錯体、金属アセチルアセトン錯体等の有機金属化合物等が挙げられる。触媒活性等の観点から、前記有機リン化合物としてはホスホレンオキシドが好ましい。また、前記有機金属化合物としてはチタンやハフニウム、ジルコニウム等のアルコキシドが好ましい。
より好ましくは、ホスホレンオキシドであり、具体的には、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-エチル-1-ホスホレン-1-オキシド、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド、及びこれらの3-ホスホレン異性体等が挙げられる。これらのうち、触媒活性や入手容易性等の観点から、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドがより好ましい。
【0026】
前記カルボジイミド化反応におけるカルボジイミド化触媒の使用量は、カルボジイミド化反応を促進することができる程度の一般的な触媒量でよく、反応原料であるジイソシアネート化合物の種類、カルボジイミド化反応の温度や時間、及び得られるポリカルボジイミド化合物におけるカルボジイミド基の重合度等に応じて適宜設定される。通常、前記脂肪族ジイソシアネート化合物100質量部に対して0.01~2.0質量部であり、好ましくは0.05~1.8質量部、より好ましくは0.1~1.5質量部である。
【0027】
前記カルボジイミド化反応における反応温度は、適度な反応促進や、得られるポリカルボジイミド化合物におけるカルボジイミド基の重合度等に応じて適宜設定される。通常、80~220℃であることが好ましく、より好ましくは90~200℃、さらに好ましくは100~195℃である。
前記カルボジイミド化反応における反応時間は、反応温度や、得られるポリカルボジイミド化合物におけるカルボジイミド基の重合度等に応じて適宜設定される。通常、1.0~36.0時間であることが好ましく、より好ましくは2.0~30.0時間、さらに好ましくは3.0~25.0時間である。
【0028】
前記イソシアネート末端ポリカルボジイミドの末端イソシアネート基を封止する反応における反応温度は、封止に用いられる前記アミン化合物の種類等に応じて、副反応を生じることなく、反応を促進し得る範囲内で適宜設定される。通常、20~200℃であることが好ましく、より好ましくは30~190℃、さらに好ましくは50~180℃である。
前記イソシアネート末端ポリカルボジイミドの末端イソシアネート基を封止する反応における反応時間は、反応温度や前記アミン化合物の種類等に応じて適宜設定される。通常、0.1~3.0時間であることが好ましく、より好ましくは0.2~2.0時間、さらに好ましくは0.3~1.5時間である。
【0029】
[ポリエステル樹脂組成物]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記ポリカルボジイミド化合物及びポリエステル樹脂を含むものである。
前記ポリエステル樹脂組成物は、その用途において求められる性能等の観点から、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内において、例えば、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤等のポリエステル樹脂に適用される公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0030】
前記ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体、ヒドロキシ酸の重縮合体等を基本構成とする樹脂であって、公知のものを用いることができる。
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリ乳酸(PLA)やポリヒドロキシ酪酸(PHB)等のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、エチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、工業的な入手のしやすさ、リサイクル活用等の観点から、PET、PBT、PBS、PBSA、PLA、PHBが好適に用いられる。バイオマスプラスチックとしての観点からは、例えば、PLA、PHB等が好ましい。
【0031】
前記ポリエステル樹脂組成物において、前記ポリカルボジイミド化合物の含有量は、前記ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.2~5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3~3.0質量部、さらに好ましくは0.5~2.0質量部である。
前記含有量が0.2質量部以上であれば、前記ポリエステル樹脂に十分な耐加水分解性を付与することができる。また、5.0質量部以下であれば、前記ポリカルボジイミド化合物の過剰添加に起因する、混練や成形における加工性の低下や、該ポリエステル樹脂組成物から形成される成形品の強度低下等を抑制することができる。
【0032】
前記ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記ポリカルボジイミド化合物と前記ポリエステル樹脂とを溶融混練することにより得ることができる。このとき、前記ポリカルボジイミド化合物と前記ポリエステル樹脂とを予め混合した混合物を溶融混練してもよく、あるいはまた、溶融させた前記ポリエステル樹脂に前記ポリカルボジイミド化合物を添加して混練してもよい。また、これらのいずれかの方法で、一旦、マスターバッチ等の樹脂コンパウンドを調製したものとポリエステル樹脂とを溶融混練してもよい。なお、前記ポリカルボジイミド化合物以外に、前記添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
溶融混練手段は、特に限定されるものではなく、公知の混練機を用いて行うことができる。前記混練機としては、例えば、単軸や二軸の押出機、ロール混合機等が挙げられる。
【0033】
前記ポリエステル樹脂組成物を用いたポリエステル樹脂製品の製造は、射出成形法やフィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法等の公知の方法を用いて成形することにより行うことができる。使用するポリエステル樹脂の溶融温度以上で、フィルム状やシート状、ブロック状等の種々の形態に成形することができる。
【0034】
[ポリエステル樹脂改質剤]
本発明のポリエステル樹脂改質剤は、前記ポリカルボジイミド化合物を含むものである。
上述したように、本発明のポリカルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂に添加することにより、良好に耐加水分解性を付与し得るものであることから、ポリエステル樹脂改質剤として好適に用いることができる。
【0035】
前記ポリエステル樹脂改質剤には、ポリエステル樹脂の相溶性を向上させる機能を有する相溶化剤も含まれる。前記相溶化剤を添加する樹脂の少なくとも1種は、ポリエステル樹脂である。前記相溶化剤は、異なる種類のポリエステル樹脂同士、あるいはまた、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを良好に相溶化させることができる。
前記ポリエステル樹脂改質剤が、このような相溶化剤である場合も、異なる種類のポリエステル樹脂同士、あるいはまた、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを用いて、上述したポリエステル樹脂組成物を得るための溶融混練と同様の操作により、良好に相溶化されたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
前記相溶化剤を添加するポリエステル樹脂は、前記ポリエステル樹脂組成物の説明で例示したポリエステル樹脂のうちから選ばれるものでよい。
異なる種類のポリエステル樹脂同士を併用して、ポリエステル樹脂組成物を調製する際、異なる種類のポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)のFedors法により求められる溶解パラメータ(SP値)の差が0.20(cal/cm31/2以上である場合は、通常、相溶性に劣る。例えば、PLA(11.10)とPBS(10.85)、PLA(11.10)とPBSA(10.44~10.85)、PET(12.39)とPLA(11.10)、PLA(11.10)とPCL(10.16)等が挙げられる(カッコ内の数値は、SP値[(cal/cm31/2])。
前記相溶化剤は、いずれの種類のポリエステル樹脂にも適用することができるが、特に、上記のようなSP値の差が0.20(cal/cm31/2以上と大きいポリエステル樹脂同士の相溶性を向上させる上で効果的である。
【0037】
また、前記ポリアミド樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、汎用樹脂であるナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。前記相溶化剤は、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂を併用して、ポリエステル樹脂組成物を調製する際にも、両樹脂の相溶性を効果的に向上させることができる。
【0038】
なお、前記相溶化剤を添加するポリエステル樹脂組成物において併用される樹脂同士の相溶性の良否は、該ポリエステル樹脂組成物のシート状成形体(試験片)のヘーズを指標として判断することができる。前記ヘーズは、JIS K 7136:2000に準じた方法で測定された値、すなわち、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から2.5°以上それた透過光の百分率を用い、具体的には、下記実施例に記載の方法により測定することができる。前記ヘーズは、値が小さいほど、光の散乱が小さく、前記試験片の透光性が良好である。このように透光性が良好な場合、前記ポリエステル樹脂組成物において併用される樹脂同士の相溶性が良好であると言える。
【0039】
なお、前記ポリエステル樹脂改質剤が、前記相溶化剤である場合も、ポリエステル樹脂組成物中の前記ポリカルボジイミド化合物は、上記と同様の含有量で、良好な相溶性を発揮し得る。
【0040】
前記ポリエステル樹脂改質剤は、その用途に応じて、適宜、前記ポリカルボジイミド化合物以外に、前記ポリエステル樹脂組成物についての説明で述べたのと同様の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内において、予め含むものであってもよい。このようなポリエステル樹脂改質剤を、上記のようなポリエステル樹脂組成物を製造する際に用いれば、前記添加剤を別途添加する手間を省くことができ、作業の効率化を図ることができる。
なお、前記改質剤の性状は、特に限定されるものではないが、取り扱い容易性等の観点から、固形状、特に、粉末状又はペレット状であることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0042】
[ポリカルボジイミド化合物の合成]
下記実施例及び比較例においてポリカルボジイミド化合物の合成に用いた原料化合物の詳細を以下に示す。
<ジイソシアネート化合物>
・HMDI:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート;分子量262.35
・TMXDI:テトラメチルキシリレンジイソシアネート;分子量244.29
・IPDI:イソホロンジイソシアネート;分子量222.29
・MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート;分子量250.26
<アミン化合物>
・CHA:シクロヘキシルアミン;分子量99.18、沸点135℃
・DIPA:ジイソプピルアミン;分子量101.19、沸点84℃
・BA:n-ブチルアミン;分子量73.14、沸点78℃
・PA:n-プロピルアミン;分子量59.11、沸点49℃
・DBA:ジ-n-ブチルアミン;分子量129.24、沸点159℃
・DCHA:ジシクロヘキシルアミン;分子量181.32、沸点256℃
【0043】
ポリカルボジイミド化合物の合成における各種分析及び測定は、以下に示す装置又は方法にて行った。
<赤外吸収(IR)スペクトル測定>
使用装置:フーリエ変換赤外分光光度計「FTIR-8200PC」(株式会社島津製作所製)
<カルボジイミド基の重合度>
使用装置:自動滴定装置「COM-900」(平沼産業株式会社製)
ポリカルボジイミド化反応により得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミドに、既知濃度のDBAのトルエン溶液を混合して、前記末端イソシアネート基とDBAとを反応させ、残存するDBAを塩酸標準液で中和滴定し、電位差滴定法によりイソシアネート基の残存量(末端NCO量[質量%])を算出した。この末端NCO量から、カルボジイミド基の重合度nを求めた。
【0044】
(実施例1)
HMDI 100質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド0.5質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、185℃で6.5時間撹拌混合し、カルボジイミド化反応を行い、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得た。
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミドについて、IRスペクトル測定にて、波長2150cm-1前後におけるカルボジイミド基による吸収ピークが確認された。また、末端NCO量は12.02質量%であり、カルボジイミド基の重合度は2であった。
【0045】
次いで、前記イソシアネート末端ポリカルボジイミドに、窒素気流下、150℃で、CHA 25.2質量部(前記イソシアネート末端ポリカルボジイミドの末端イソシアネート基と同モル当量)を添加し、0.5時間撹拌混合し、末端イソシアネート基の封止反応を行った。
IRスペクトル測定にて、波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認した後、反応容器から反応生成物を取り出し、室温まで冷却して、淡黄色透明な固形状のポリカルボジイミド化合物を得た。
【0046】
(実施例2~10及び比較例1~8)
実施例1において、下記表1に示すように、ジイソシアネート化合物、アミン化合物、及びカルボジイミド化反応の反応条件(温度及び時間)をそれぞれ変更し、それ以外は実施例1と同様にして、下記表1に示す所定の重合度nの各ポリカルボジイミド化合物を合成した。
【0047】
(比較例9)
MDI 100質量部、及びCHA 13.2質量部を還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、室温(25℃)で0.5時間撹拌混合し、MDIの末端イソシアネート基の封止反応を行い、次いで、カルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド0.5質量部を添加し、110℃で2.0時間撹拌混合して、カルボジイミド化反応を行い、淡黄色透明な固形状のポリカルボジイミド化合物を得た。
【0048】
[ポリエステル樹脂組成物の調製]
上記実施例及び比較例において合成した各ポリカルボジイミド化合物、及び下記に示すポリエステル樹脂(及びポリアミド樹脂)を用いて、各種ポリエステル樹脂組成物を調製した。
<ポリエステル樹脂>
・PBSA:ポリブチレンサクシネートアジペート;「BioPBS(登録商標) FD-92PM」、PTT MCCバイオケム社製
・PLA:ポリ乳酸;「インジオ(登録商標) バイオポリマー 4032D」、ネイチャーワークスLLC社製
・PBS:ポリブチレンサクシネート
・PET:ポリエチレンテレフタレート;「TRN-8550FF」、帝人株式会社製
<ポリアミド樹脂>
・Ny6:ナイロン6;「ユニチカナイロン6 A1030BRL」、ユニチカ株式会社製
【0049】
(ポリエステル樹脂組成物(1)の調製)
ラボミキサー(「セグメントミキサKF70V」、株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル(登録商標);以下、同様。)を用いて、PBSA 100質量部を170℃で溶融させた後、ポリカルボジイミド化合物1.0質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル樹脂組成物(1)を調製した。
【0050】
(ポリエステル樹脂組成物(2)の調製)
ラボミキサーを用いて、PLA 90質量部、及びPBSA 10質量部を、210℃で溶融させた後、ポリカルボジイミド化合物0.5質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル樹脂組成物(2)(PET/PBSA)を調製した。
【0051】
(ポリエステル樹脂組成物(3)の調製)
ラボミキサーを用いて、PLA 80質量部、及びPBS 20質量部を、210℃で溶融させた後、ポリカルボジイミド化合物0.5質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル樹脂組成物(3)(PET/PBS)を調製した。
【0052】
(ポリエステル樹脂組成物(4)の調製)
ラボミキサーを用いて、PET 80質量部、及びNy6 20質量部を、260℃で溶融させた後、ポリカルボジイミド化合物0.5質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル樹脂組成物(4)(PET/Ny6)を調製した。
【0053】
[ポリカルボジイミド化合物及びポリエステル樹脂組成物の評価]
上記で得られた各ポリカルボジイミド化合物及び各ポリエステル樹脂組成物について、下記項目についての評価を行った。これらの評価結果を、下記表1にまとめて示す。
【0054】
(残留アミン量)
ポリカルボジイミド化合物をテトラヒドロフランに溶解した後、アセトニトリルと混合し、ポリカルボジイミド化合物を析出させて、ろ過した。ろ液中に残留する未反応アミン化合物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて定量した。HPLCの測定条件は、以下のとおりである。
<測定条件>
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(ウォーターズコーポレーション製、内径2.1mm×長さ100mm、粒子径1.7μm)
カラム温度:40℃
移動相:ギ酸/メタノール=0.1/99.9(体積比)、流速0.4mL/min
検出器:MS/MS(タンデム質量分析)
下記表1においては、残留アミン量が20ppm未満の場合をA、20ppm以上の場合をBとして評価結果を示す。
【0055】
(耐加水分解性)
ポリエステル樹脂組成物(1)を170℃の熱プレスにより、厚み約300μmのシート状に成形した後、幅10mm、長さ10cmの短冊状の試験片を作製した。
作製直後(初期)及び湿熱処理後に、引張試験を行った。前記湿熱処理は、湿熱試験機にて、温度70℃、相対湿度90%で200時間曝露することにより行った。
前記引張試験は、引張試験機(「3365」、インストロン社製)を用いて、標線間距離30mm、引張速度100mm/分の条件で、試験片が破断したときの引張伸びを測定することにより行った。初期の引張伸びを100とし、これに対する湿熱処理後の引張伸びの相対比を算出した。
前記引張伸びの相対比が大きいほど、湿熱処理前後での引張伸びの低下の程度が小さく、耐加水分解性に優れていると言える。
下記表1においては、前記引張伸びの相対比が80以上の場合をA、60以上80未満の場合をB、60未満の場合をCとして評価結果を示す。なお、比較参照のため、ポリカルボジイミド化合物を未添加の場合についても、上記と同様の引張試験を行ったところ、評価結果はCであった。
【0056】
(加工性)
ポリエステル樹脂組成物(1)の溶融粘度を、キャピラリーレオメーター(「フローテスタCFT-500D」、株式会社島津製作所製)にて、170℃で、直径1.0mm×10.0mmのオリフィスを用いて測定した。
前記溶融粘度が低いほど、ポリエステル樹脂組成物(1)を均一に混合する上での作業性が良好であり、また、成形も容易であり、加工性に優れていると言える。
下記表1においては、溶融粘度が1,200Pa・s未満の場合をA、1,200Pa・s以上1,600Pa・s未満の場合をB、1,600Pa・s以上の場合をCとして評価結果を示す。
【0057】
(相溶性)
得られたポリエステル樹脂組成物(2)~(4)のそれぞれを、熱プレスにより、厚み150~200μmのシート状に成形し、試験片(50mm×50mm)を作製した。熱プレス温度は、ポリエステル樹脂組成物(2)及び(3)では210℃、ポリエステル樹脂組成物(4)では260℃とした。
また、ポリエステル樹脂組成物(2)~(4)の調製において、ポリカルボジイミド化合物を添加せずに、それ以外は同様の操作を行うことにより得られた各ポリエステル樹脂組成物を用いて、前記試験片と同様にして、各ブランク試験片を作製した。
【0058】
各試験片及びブランク試験片について、ヘーズメーター(「NDH5000」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 7136:2000に準じた方法で、ヘーズを測定した。
前記ヘーズは、値が小さいほど、光の散乱が小さく、試験片の透光性が良好である。ポリエステル樹脂組成物(2)~(4)のそれぞれにおける2種の樹脂の相溶性が良好である場合、前記試験片の透過性が良好であり、ヘーズ値が小さくなる。このため、ヘーズ値を相溶性の指標として用いた。
ブランク試験片のヘーズ値(基準値)から試験片のヘーズ値を引いた差(ΔH)が大きいほど、添加されたポリカルボジイミド化合物の相溶剤として効果が優れていると言える。
下記表1においては、前記ΔHが10%以上の場合をA、5%以上10%未満の場合をB、5%未満の場合をCとして評価結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の評価結果から分かるように、本発明のポリカルボジイミド化合物は、原料由来の残留アミン量が少ない、高品質のものとして得られると言える。
また、前記ポリカルボジイミド化合物を用いたポリエステル樹脂組成物(1)は、耐加水分解性も良好な結果であり、かつ、加工性にも優れており、該ポリカルボジイミド化合物はポリエステル樹脂改質剤として良好な効果を奏するものであることが認められた。
また、前記ポリカルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂組成物中の樹脂同士の相溶性を向上させることができ、ポリエステル樹脂の相溶化剤として良好な効果を奏することも認められた。