IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーの特許一覧

<>
  • 特許-多層歯科装具 図1
  • 特許-多層歯科装具 図2
  • 特許-多層歯科装具 図3
  • 特許-多層歯科装具 図4
  • 特許-多層歯科装具 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】多層歯科装具
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
A61C7/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021538201
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 IB2019061444
(87)【国際公開番号】W WO2020141440
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】62/787,009
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】リウ,リチャード ユフェン
(72)【発明者】
【氏名】スカムセル,ダニエル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラマカンニ,ヴァスカー ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】レーン,ナサニエル アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヒルシュ,ミッシェル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ペクロブスキー,リュッドミラ エー.
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-522405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302742(US,A1)
【文献】特開2009-000555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯をポジショニングするための歯科装具であって、
1本以上の歯を受容するための複数の空洞を備えるポリマーシェルを備え、前記ポリマーシェルは、少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、
層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、
層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、前記熱可塑性ポリマーBは前記熱可塑性ポリマーAとは異なり、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する、歯科装具。
【請求項2】
前記ポリマーA及び前記ポリマーBが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)、ポリカーボネート(PC)、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択される、請求項1記載の歯科装具。
【請求項3】
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、且つ前記ポリマーBがポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)であるか、
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、且つ前記ポリマーBがポリエステルとポリカーボネート(PC)とのブレンドであるか、又は
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、且つ前記ポリマーBがポリカーボネート(PC)である、請求項に記載の歯科装具。
【請求項4】
前記歯科装具がその主表面にポリマー水分バリア層を含み、前記ポリマー水分バリア層が熱可塑性ポリウレタン(TPU)及びオレフィンから選択されるポリマーを含み、前記オレフィンが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、環状オレフィン(COP)、
エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、重合性二重結合を有するC2~C20炭化水素モノマーから選択される部分を有するコポリオレフィン、並びにこれらの混合物及び組み合わせ、
オレフィン/酸無水物、オレフィン/酸、オレフィン/スチレン、オレフィン/アクリレート、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択されるオレフィンハイブリッドから選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の歯科装具。
【請求項5】
歯科装具を製造する方法であって、
前記歯科装具を提供するために多層ポリマーフィルム内に複数の歯保持空洞を形成することを含み、前記多層ポリマーフィルムは少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、
層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、
層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、前記ポリマーBは前記ポリマーAとは異なり、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯科矯正治療は、改善された美容的外観及び歯科機能のために、位置ずれしている歯を整復し、咬合配置を改善することを伴う。歯を整復することは、制御された力を長い治療期間にわたって患者の歯に加えることによって達成される。
【0002】
歯は、一般に歯科矯正アライナ又は歯科矯正アライナトレイと呼ばれるポリマー製の漸増的位置調整装具などの歯科装具を、患者の歯を覆って配置することによっても整復され得る。歯科矯正アライメントトレイは、患者の1本以上の歯を受容するために構成された複数の空洞を有するポリマーシェルを含む。ポリマーシェル内の個々の空洞は、1本以上の歯に力を加えて、上顎又は下顎内の選択された歯又は歯のグループを弾性的かつ漸増的に整復するように形成される。一連の歯科矯正アライナトレイは、歯科矯正治療の各段階中に順次かつ交互に患者が装着するために提供され、最終的に所望の歯の整列状態が達成されるまで、歯を位置ずれした歯配列から連続的でより位置のそろった歯配列に徐々に整復する。所望の整列状態が達成されると、アライナトレイ、又は一連のアライナトレイを、患者の口腔内で定期的又は連続的に使用して、歯のアライメントを維持することができる。加えて、歯科矯正リテーナトレイを長期間使用して、初期歯科矯正治療後に歯のアライメントを維持することができる。
【0003】
歯科矯正治療の1つの段階では、ポリマー製の歯科矯正リテーナ又はアライナトレイが、数日間、数週間、又は更には数ヶ月もの長い治療期間にわたって、1日に最長22時間、患者の口腔内に留まることを必要とする場合がある。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、患者の上顎又は下顎内の歯の位置を移動又は保持するように構成された歯科矯正歯科装具、例えば、歯科矯正アライナトレイ又はリテーナトレイなどを対象とする。患者の歯に対して安定かつ一貫した整復力を効果的に発揮するように選択された比較的剛性のポリマー材料から作製された歯科矯正歯科装具は、歯科装具が長い治療期間にわたって患者の口腔組織又は舌と繰り返し接触するときに不快感を引き起こす可能性がある。加えて、口腔内の温かく湿った環境は、歯科装具内のポリマー材料に水分吸収させて膨潤する可能性があり、これは歯科装具の機械的な歯整復特性を損なう恐れがある。このように機械的特性が損なわれることにより、歯の整復効率が低下する場合があり、所望の歯の整列状態が有効となるために必要な治療時間が不必要に延びることがある。更に、場合によっては、患者の歯に対する歯科装具の露出表面の繰り返し接触は、歯科装具の露出表面を早い段階ですり減らし、不快感を引き起こす可能性がある。
【0005】
歯科矯正アライナ及びリテーナトレイなどの歯科装具は、ポリマーフィルムを熱成形してその中に複数の歯保持空洞を設けることによって製造することができる。場合によっては、熱成形プロセスは、所望の治療時間にわたって歯整復力を効率的に加えるように選択された比較的剛性のポリマーフィルムの領域を薄くする場合がある。この望ましくない薄化は、患者が歯の上に歯科装具を繰り返し配置するときに、熱成形された歯科装具の局部的なクラッキングを引き起こす可能性がある。
【0006】
一般に、本開示は、複数のポリマー層を含む、例えば歯科矯正アライナトレイ又はリテーナトレイなどの多層歯科装具に関する。一実施形態において、歯科装具は、長い治療期間にわたって実質的に一定の応力プロファイルを維持するように、かつ患者の歯に繰り返し配置することによる早期のクラッキングを生じることなく、歯の整復効率を維持又は改善するために、治療時間にわたって比較的一定の歯整復力を提供するように選択された少なくとも2つの熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマーの組み合わせはまた、歯科装具がポリマーフィルムから熱的に形成された後に、例えば良好なステイン耐性、低光学ヘイズ、及び良好な離型特性などの、歯科装具に他の有益な特性を提供するように選択される。
【0007】
いくつかの実施形態において、歯科装具内の追加の任意のポリマー層もまた、水和阻止、ステイン耐性、患者の口腔組織に対する感触、又は透明性若しくはヘイズのうちの少なくとも1つなどの美容的特性のうちの1つ又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない歯科装具の他の有益な特性を改善又は維持するために含まれる。
【0008】
歯科装具が多層ポリマーフィルムの実質的に平坦なシートから熱成形される場合、多層ポリマーフィルムは、任意に熱成形プロセス中にドローダウンによって引き起こされる薄化を低減するように選択されたポリマー材料を有するレオロジー変性層を更に含むことができ、熱成形された歯科装具の耐久性を、患者の口腔内での所望の治療時間にわたって改善することができる。多層ポリマーフィルムはまた、熱成形中に使用される成形型からの離型を強化又は維持するように選択されたポリマー層を含むことができる。
【0009】
一態様では、本開示は、1本以上の歯を受容するための複数の空洞を有するポリマーシェルを含む、患者の歯をポジショニングするための歯科装具に関する。ポリマーシェルは、少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、熱可塑性ポリマーBは熱可塑性ポリマーAとは異なる。熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(T)を有する。
【0010】
別の態様では、本開示は、複数の歯保持空洞が多層ポリマーフィルム内に形成される歯科装具を製造する方法に関する。多層ポリマーフィルムは、少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、熱可塑性ポリマーBは熱可塑性ポリマーAとは異なる。熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(T)を有する。
【0011】
別の態様では、本開示は、歯科装具を1本以上の歯の周りにポジショニングすることを含む、歯科矯正治療の方法に関する。歯科装具は、1本以上の歯を受容するための複数の空洞を有する第1主表面を有するポリマーシェルを含み、空洞は、患者の歯の少なくとも一部を覆い、そこに補正力を加えるように成形されている。ポリマーシェルは、少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、熱可塑性ポリマーBは熱可塑性ポリマーAとは異なる。熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(T)を有する。
【0012】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明に示す。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】多層歯科装具の実施形態の概略的俯瞰斜視図である。
【0014】
図2図1の多層歯科装具の実施形態の概略断面図である。
【0015】
図3図1の多層歯科装具の実施形態の概略断面図である。
【0016】
図4図1の多層歯科装具の実施形態の概略断面図である。
【0017】
図5】歯を覆うように歯科アライメントトレイを配置することによって、歯科アライメントトレイを使用する方法の概略的俯瞰斜視図である。
【0018】
図中の同様の符号は、同様の要素を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示す歯科矯正装具100などの歯科装具は、本明細書で歯科矯正アライナトレイとも称され、患者の上顎又は下顎内の1本以上の歯を受容するように形づけられた複数の空洞104を有する薄いポリマーシェル102を含む。いくつかの実施形態において、歯科矯正アライナトレイでは、空洞104は、1本以上の歯を1つの歯配列から連続する歯配列に弾性的に整復するように、患者の歯に力を加えるように成形及び構成される。リテーナトレイの場合、空洞104は、以前に整列された1本以上の歯の位置を受容する及び維持するように成形及び構成される。
【0020】
歯科矯正装具100のシェル102は、概ね患者の歯に適合する弾性ポリマー材料であり、透明、半透明、又は不透明であってもよい。図1の実施形態では、シェル102は、少なくとも3層の交互ポリマー層を含む。ポリマー層は、ポリマーABを含み、A及びBは、異なる熱可塑性ポリマー材料である。熱可塑性ポリマーABは、所望の治療時間中に十分かつ実質的に一定の応力プロファイルを維持し、かつシェル102の歯の整復効率を維持又は改善するために、治療時間にわたって比較的一定の歯整復力を提供するように選択される。
【0021】
図1の実施形態では、ポリマー層110はシェル102の外面106を形成し、ポリマー層112はシェル102の内部表面108を形成し、ポリマー層114はポリマー層110とポリマー層112との間に存在する。ポリマー層110、112、114はそれぞれ、熱可塑性ポリマー材料A又はBの層を含む。層110、112、114内の熱可塑性ポリマー材料は、例えば、配列ABA又はBABのように交互になるよう配置される。例えば、図1の実施形態では、層110はポリマーAを含むことができ、層114はポリマーBを含むことができ、層112はポリマーAを含むことができる。又は、層110はポリマーBを含むことができ、層114はポリマーAを含むことができ、層112はポリマーBを含むことができる。
【0022】
熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率、及び約40℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する。加えて、熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBは、水分吸収に対する耐性、ステインに対する耐性、例えば色、可視光透過率、及びヘイズなどの所望の光学特性、空洞104を形成するために使用される熱成形成形型からの離型の容易さ、及び患者の歯の上に繰り返し配置した後のクラッキングに対する耐性を含むがこれらに限定されない、シェル102に対する特定の特性を提供するように選択することができる。
【0023】
様々な実施形態において、ポリマーA及びポリマーBのそれぞれは、約1GPa~約3GPa、又は約1.5GPa~約2.5GPaの曲げ弾性率を有する。いくつかの実施形態において、歯科装具100の層110、112、114におけるポリマーA、Bの曲げ弾性率は、隣接する層に存在するポリマーの曲げ弾性率の2倍以下である。
【0024】
様々な実施形態において、ポリマーA及びポリマーBのそれぞれは、約50℃~約200℃、又は約70℃~約170℃、又は約75℃~約150℃のガラス転移温度(Tg)を有する。いくつかの実施形態において、歯科装具100内の任意の2つの隣接する層110、112、114におけるポリマーA、BのTg間の差は、約70℃以下である。
【0025】
いくつかの実施形態において、歯科装具100の外側主面106上の層110、及び内面108上の層112は、同じポリマー層A又はBを含む。他の実施形態では、歯科装具100の外側主面106上の層110及び内面108上の層112は、異なるポリマー層A及びポリマー層Bを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、ポリマーシェル102の層110、112、114のそれぞれのポリマーA及びポリマーBはポリエステルであり、いくつかの実施形態では、特定の層内のポリエステルは、ポリカーボネート(PC)と任意にブレンドされてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーAはポリエステルであり、ポリマーBはPCである。
【0027】
様々な実施形態において、ポリマーA及びポリマーBは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)、ポリカーボネート(PC)、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択される。好適なPETg及びPCTg樹脂は、例えば、Eastman Chemical(Kingsport,TN);SK Chemicals(Irvine,CA);DowDuPont(Midland,MI);Pacur(Oshkosh,WI);及びScheu Dental Tech(Iserlohn,Germany)などの様々な商業的供給業者から入手することができる。例えば、Eastman ChemicalのEASTAR GN071 PETg樹脂及びPCTg VM318樹脂が好適であることが見出されている。好適なポリカーボネート(PC)は、例えば、Covestro AG(Baytown,TX)から商標名MAKROLON LTG2623で入手することができる。好適なポリエステル及びPCブレンドとしては、Sabic(Exton,PA)から商標名XYLEXで入手可能な樹脂、例えばXYLEX X8519が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
一実施形態では、ポリマーAはPETgであり、ポリマーBはPCTgである。別の実施形態では、ポリマーAはPETgであり、ポリマーBはポリエステルとPCとのブレンドである。別の実施形態では、ポリマーAはPETgであり、ポリマーBはPCである。
【0029】
歯科装具200の別の実施形態の概略断面図が図2に示されており、これは多層ポリマー構造を有するポリマーシェル202を含む。ポリマーシェル202は、熱可塑性ポリマーABを含む交互層を含み、第1主面220及び第2主面222の近位に同じ層Aを含む。層ABは、治療時間中に実質的に一定の応力プロファイルを維持する、図1に関して論じられた熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのいずれかから選択することができ、歯の整復効率を維持若しくは改善し、ステインに抵抗し、水分吸収に抵抗し、クラッキングに抵抗し、所望の光学特性を提供する、及び/又は熱成形成形型からの離型の容易さを提供するために、治療時間にわたって比較的一定の歯整復力を提供する。
【0030】
図2の実施形態では、ポリマーシェル202は、シェル202の特性を改善するために含まれ得る追加の任意の性能向上層を更に含む。限定することを意図しない様々な実施形態では、性能向上層は、例えば、ステイン及び水分吸収に対する耐性を有するバリア層、耐磨耗層、着色剤を任意に含む場合がある、又はポリマーシェル202の光学ヘイズ若しくは可視光透過性を調節するように選択されたポリマー材料を含む場合がある、美容的層、層ABのパケット間又は各パケット中の層AB間の適合性又は接着性を向上させる結合層、患者のためのより軟らかい口当たりを与える弾性層、熱成形を強化するための層ABのパケット間又は各パケット中の層AB間の熱成形補助層、熱成形中の離型を強化するための層、及び同様のものが挙げられる。
【0031】
性能向上層は、特定の性能効果を提供するように選択された多種多様なポリマーを含んでもよいが、性能向上層中のポリマーは、一般的に、ポリマーABよりも柔らかく、より弾性のある材料から選択される。限定することを意図しない様々な実施形態では、性能向上層は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)及びオレフィンを含む。
【0032】
いくつかの非限定的な例では、性能向上層中のオレフィンは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、環状オレフィン(COP)、重合性二重結合を有するエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、重合性二重結合を有するC2~C20炭化水素モノマーから選択される部分を有するコポリオレフィン、並びにこれらの混合物及び組み合わせ、オレフィン/酸無水物、オレフィン/酸、オレフィン/スチレン、オレフィン/アクリレート、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択されるオレフィンハイブリッドから選択される。
【0033】
例えば、図2の実施形態では、ポリマーシェル202は、各外面上に任意の水分バリア層240を含み、これは、ポリマー層ABへの水分侵入を防止し、治療時間中にシェル202が実質的に一定の応力プロファイルを維持することができる。ポリマーシェル202は、交互層の各パケット内の個々の層AB間で同じであっても異なっていてもよい結合又は熱成形補助層250を更に含む。いくつかの実施形態では、結合/熱成形補助層250は、ポリマーシェル202が多層ポリマーフィルムから形成されるときに層AB内のポリマー間の適合性を改善するか、又は層AB間の層間剥離を低減し、長い治療期間にわたってポリマーシェル202の耐久性及び耐クラック性を改善することができる。図2のポリマーシェル202は、同じ又は異なる弾性層260を更に含み、シェル202の柔軟性又は口当たりを改善するために含まれ得る。図2の実施形態では、弾性層260は、シェル202の主表面220、222の近位に位置する。
【0034】
歯科装具300の別の実施形態の概略断面図が図3に示されており、これは多層ポリマー構造を有するポリマーシェル302を含む。ポリマーシェルは、熱可塑性ポリマーABの交互層を含み、第1主面320及び第2主面322の近位に異なる層を含む。層ABは、図1図2に関連して上述した熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのいずれかから選択することができる。
【0035】
図3の実施形態では、ポリマーシェル302は、各外面上に水分バリア及び耐ステイン層340を含み、これにより、ポリマー層ABへの水分の侵入を防止し、色のついた食品(例えば、茶、コーヒー、赤いワインなど)からのシェル302への損傷を低減することができる。ポリマーシェル302は、交互層ABの各パケット同士で同じであっても異なっていてもよい結合又は熱成形補助層350を更に含む。いくつかの実施形態では、層350は、ポリマーシェル302が多層ポリマーフィルムから形成されるときに層AB内のポリマー間の適合性を改善するか、又は治療時間中層AB間の層間剥離を低減することができる。
【0036】
歯科装具400の別の実施形態の概略断面図が図4に示されており、これは多層ポリマー構造を(AB)を有するポリマーシェル402を含み、ここでn=2から約500、又は約5から約200、又は約10から約100である。異なるポリマーを含む層ABは、図1図3に関連して上述した熱可塑性ポリマーA及び熱可塑性ポリマーBのいずれかから選択することができる。限定することを意図しないいくつかの実施形態では、層A及び層Bは、ポリエステル、ポリカーボネート、及びこれらのブレンドから選択されるポリマーを含む。いくつかの非限定的な実施形態において、層A及び層Bのポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)、ポリカーボネート(PC)、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択される。
【0037】
再び図1を参照すると、いくつかの実施形態では、ポリマーシェル102は、実質的に透明なポリマー材料から形成される。本出願において、実質的に透明という用語は、電磁スペクトルのうち、ヒトの眼が感じる波長領域(約400nm~約750nm)の光を通すが、他の領域の光を通さない材料を指す。いくつかの実施形態では、シェル102に選択されたポリマー材料の反射縁部は、ヒトの眼の感度からちょうど外れて、約750nmを超える必要がある。
【0038】
いくつかの実施形態では、ポリマーシェル102のいずれかの層又はすべての層は、任意に、染料又は顔料を含み、例えば、装飾的となり得る、又は患者の歯の外観を改善するように選択され得る、所望の色をもたらすことができる。
【0039】
歯科矯正装具100は、多種多様な技法を用いて作製され得る。一実施形態では、歯保持空洞の好適な構成は、図1図4に関連して上述した構成のように配置されたポリマー材料の層を含む多層ポリマーフィルムの実質的に平坦なシートに形成される。空洞は、熱成形、レーザー加工、化学的又は物理的エッチング、及びこれらの組み合わせを含む任意の好適な技術によって形成され得るが、熱成形は良好な結果及び優れた効率を提供することが見出されている。いくつかの実施形態では、多層ポリマーフィルムは、歯保持空洞を形成する前に加熱されるか、又はその表面は、任意選択的に、例えば、空洞を形成する前又は後に、表面をツールと接触させることによって、エッチングすることによって又は機械的にエンボス加工することによって、化学的に処理されてもよい。
【0040】
ここで図5を参照すると、歯科矯正装具500のシェル502は、外側表面508と、患者の歯600のうちの1本以上に概ね適合する空洞504を有する内面508、及び外面506を含む。いくつかの実施形態では、空洞504は、患者の最初の歯の配置からわずかにずれており、他の実施形態では、空洞504は、所望の歯の配置を維持するよう患者の歯に適合する。いくつかの実施形態では、シェル502は、実質的に同じ形状又は成形型を有する一群又は一連のシェルのうちの1つであってもよいが、異なる材料から形成されて、患者の歯を動かす必要に応じて異なる剛性又は弾力性を提供する。このようにして、一実施形態では、患者又はユーザーは、各治療段階中、患者の好ましい使用時間又は各治療段階に望まれる治療期間に応じて、歯科矯正装具のうちの1つを交互に使用してもよい。
【0041】
シェル502を歯600の上に保持するためのワイヤ又は他の手段は設けられなくてもよいが、いくつかの実施形態では、歯に個別のアンカーをシェル502内の対応する受け部又は開口部と共に設け、シェル502がそのようなアンカーが存在しなければ不可能な保持力又は他の方向の歯科矯正力を歯に加えることができるようにすることが望ましい又は必要であり得る。
【0042】
シェル502は、例えば、日中及び夜間使用、機能中又は非機能中(咀嚼中対非咀嚼中)、社会的場面(外観がより重要となり得る)及び非社会的場面(審美的外観が重要要因ではない場合がある)に合わせて、又は、歯の移動を加速したいという患者の要望に基づいて(任意に、各治療段階で、剛直性の低い装具ではなく、より剛直な装具をより長時間使用することによって)、カスタマイズされてもよい。
【0043】
例えば、一態様では、患者に、歯の位置を保持するために主に使用され得る透明な歯科矯正装具と、各治療段階で歯を移動させるために主に使用され得る不透明な歯科矯正装具と、を提供してもよい。したがって、日中、社会的場面で、さもなければ患者が身体的外観をより切実に意識する環境で、患者は透明な装具を使用し得る。更に、夕方又は夜間、非社会的場面で、さもなければ身体的外観があまり重要でない環境で、患者は、異なる量の力を提供するように構成された、さもなければ、より剛直な構成を有して各治療段階での歯の移動を加速する、不透明な装具を使用し得る。このアプローチは繰り返されて、各治療段階中に装具の対の各々が交互に使用されてもよい。
【0044】
再び図5を参照すると、歯科矯正治療システム及び方法は、歯科矯正治療の各治療段階に対して、各々同じ材料又は異なる材料から形成された、複数の漸進的位置調整装具を含む。歯科矯正装具は、患者の上顎又は下顎602において個々の又は複数の歯600を漸進的に整復するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、空洞504は、選択された歯が整復されるように構成され、一方でその他の歯は、装具が整復しようとする1本又は複数の歯に対して弾性的な整復力を加えたときに、整復装具を所定の位置に保持するための基部又はアンカー領域として指定される。
【0045】
歯600の上に弾性ポジショナー502を配置することにより、制御された力が特定の場所に加えられ、歯を新たな配置に徐々に移動させる。異なる構成を有する連続的な装具を用いたこのプロセスの繰り返しにより、最終的に患者の歯を、一連の中間配置を経て最終的な所望の配置に移動させる。
【実施例
【0046】
本開示のデバイスは、以下の非限定的な実施例に更に記載される。
材料
PP:Total Petrochemicals USA(Houston,TX)製のポリプロピレン:グレードFINA3230
TPU:Lubrizol(Wickliffe,OH)製の熱可塑性ポリウレタン:グレードESTANE ETE 60DS3
XYLEX:Sabic(Exton,PA)製のポリエステル/PCブレンド、グレード:XYLEX X8519PC
PC:Covestro(Baytown,TX)製のポリカーボネート、グレード:MAKROLON LTG2623
PETg:Eastman Chemicals(Kingsport,TN)製、グレード:EASTAR GN071
PCTg:Eastman Chemicals製、グレード:VM318
KRATON G1645:Kraton Corp(Belpre,OH)製のスチレン系直鎖状トリブロックコポリマー熱可塑性エラストマー
【0047】
層ABの選択されたポリエステルの特性
以下の実施例で使用されるポリマー材料の一部の特性を表1に示す。
【表1】
【0048】
試験手順の要約
以下の試験手順を以下の実施例で使用した。
【0049】
離型
定性的検査試験は、熱成形ポリマーシェルを歯型から外すのに必要な力を評価する。シェルを外すのが非常に困難であった場合、評価は不良(--)とした。容易にシェルが外れた場合、評価は非常に良好(++)とした。その間レベルは、普通(-)又は良好(+)のいずれかで評価した。
【0050】
ヘイズ
ヘイズは、ASTM D1003-13「Standard Test Method for Haze and Luminous Transmittance of Transparent Plastics」で規定されるように、その方向が入射光束の方向から2.5度より大きく逸れるように散乱した透過光のパーセントとして定義する。ヘイズは、BYK-Gardner Inc.(Silver Springs,MD)から入手でき、ASTM D1003-13規格に準拠すると言われるHAZE-GARD PLUS計を使用して測定する。
【0051】
ポリマーシェルを作製するために使用したフィルムを、Haze-Gard Plusで試験した。フィルムが5%未満のヘイズを有する場合、非常に良好(++)と評価した。ヘイズが10%を超える場合、不良(--)と評価した。
【0052】
ステイン耐性
ステイン試験にはコーヒーを使用した。サンプルを37℃で72時間、コーヒーに浸漬した。得られた色変化(DE)を、X-Rite 3M Inst.No.1528196を使用して浸漬前及び浸漬後に測定した。
【0053】
色変化(DE)が10よりも大きい場合、サンプルは不良(--)と評価した。色変化(DE)が10未満である場合、サンプルは良好(++)と評価した。
【0054】
耐クラック性
ポリマーシェルは、三次元(3D)印刷された歯型にシェルを被せ、そこからシェルから取り外す手動操作を使用して、耐クラック性について試験した。ポリマーシェルは、37℃で常に水に浸した。ポリマーシェルの耐久性は、サイクル数及び損傷モードの両方に基づいて評価された。具体的には、鋭いクラックの脆性損傷は、塑性降伏及び伸張を伴う延性損傷よりも望ましくないと見なされた。
【0055】
比較例1
100%XYLEX樹脂を有する単層ポリマーフィルムを、15lbs/hrのスループットでパイロットスケール押出機を用いてフィルムダイを通して押し出した。押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。押出成形されたシートをキャスティングロール上で冷却し、ロール状に回収した。シートの厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0056】
次いで、フィルムを熱的に形成して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、単層剛性XYLEXの歯科トレイは、繰り返し応力試験の下で容易にクラックが生ずる。
【0057】
比較例2
押出溶融温度を530°F(277℃)に制御したこと以外は、比較例1と同じプロセスを用いて、100%PC樹脂を有する単層フィルムを押し出した。シートの厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0058】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、単層剛性PCの歯科トレイは、繰り返し応力試験の下で容易にクラックが生じた。
【0059】
比較例3
押出溶融温度を500°F(260℃)に制御したこと以外は、比較例1と同じプロセスを用いて、100%PP樹脂を有する単層フィルムを押し出した。シートの厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0060】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、単層剛性PPは、曇った外観及び低い補正力を有した。
【0061】
比較例4
3層ABA(軟質/剛性/軟質)フィルムを、フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを用いて押し出した。スキン層(A)押出機にTPU樹脂を供給し、押出溶融温度を380°F(193℃)に制御した。スループットは、4.8lbs/hr(2.2kg/hr)であった。コア層(B)押出機にPETg樹脂を供給し、押出溶融温度を520°F(260℃)に制御した。コア層押出スループットは、15lbs/hr(6.8kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0062】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、3層フィルムの歯科トレイは、低い補正力を有し、容易に染色された。
【0063】
実施例1
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA((PETg/PCTg/PETg/PCTg/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、10lbs/hr(4.5kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、PCTg樹脂を供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、10lbs/hr(4.5kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0064】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、剛性/剛性多層フィルムの歯科トレイは、良好な耐クラック性及び良好な耐ステイン性を有した。
【0065】
実施例2
フィルム全体の厚さを25mil(0.64mm)に制御したことを除いて、実施例1と同じプロセスで5層ABABA(PETg/PCTg/PETg/PCTg/PETg)フィルムを作製した。
【0066】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、剛性/剛性多層フィルムの歯科トレイは、良好な耐クラック性及び良好な耐ステイン性を有した。
【0067】
実施例3
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/XYLEX/PETg/XYLEX/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、16lbs/hr(7.3kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、XYLEXを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、4lbs/hr(1.8kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0068】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、剛性/剛性多層フィルムの歯科トレイは、良好な耐クラック性及び良好な耐ステイン性を有した。
【0069】
実施例4
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/XYLEX/PETg/XYLEX/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、14lbs/hr(6.4kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、XYLEXを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、6lbs/hr(2.7kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0070】
次に、フィルムを熱成形して歯科トレイにした。以下の表2に要約されるように、剛性/剛性多層フィルムの歯科トレイは、良好な耐クラック性及び良好な耐ステイン性を有した。
【0071】
実施例5
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/XYLEX/PETg/XYLEX/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、12lbs/hr(5.5kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、XYLEXを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、8lbs/hr(3.6kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0072】
その後、フィルムを熱成形して歯科トレイにし、試験結果を以下の表2に要約する。
【0073】
実施例6
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/PC/PETg/PC/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、16lbs/hr(7.3kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、PCを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、4lbs/hr(1.8kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0074】
その後、フィルムを熱成形して歯科トレイにし、試験結果を以下の表2に要約する。
【0075】
実施例7
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/PC/PETg/PC/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、14lbs/hr(6.4kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、PCを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、6lbs/hr(2.7kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0076】
その後、フィルムを熱成形して歯科トレイにし、試験結果を以下の表2に要約する。
【0077】
実施例8
フィードブロック及びフィルムダイを備えたパイロットスケールの共押出ラインを使用して、5層ABABA(PETg/PC/PETg/PC/PETg)フィルムを押し出した。スキン層(A)押出機に、第1の剛性樹脂、PETgを供給した。スキン層押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。スループットは、12lbs/hr(5.5kg/hr)であった。コア層(B)押出機に第2の剛性樹脂、PCを供給し、押出溶融温度を520°F(271℃)に制御した。コア層押出スループットは、8lbs/hr(3.6kg/hr)であった。押出成形されたシートを、キャストロール上で冷却した。シート全体の厚さは、30mil(0.76mm)に制御した。3層フィルムサンプルをロール状に巻き取った。
【0078】
その後、フィルムを熱成形して歯科トレイにし、試験結果を以下の表2に要約する。
【表2】
【0079】
本発明の様々な実施形態を説明した。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
本願発明は以下の態様を包含する。
(項目1)
患者の歯をポジショニングするための歯科装具であって、
1本以上の歯を受容するための複数の空洞を備えるポリマーシェルを備え、前記ポリマーシェルは、少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、
層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、
層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、前記熱可塑性ポリマーBは前記熱可塑性ポリマーAとは異なり、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する、歯科装具。
(項目2)
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれが、約1GPa~約3GPaの曲げ弾性率を有する、項目1に記載の歯科装具。
(項目3)
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれが、約50℃~約200℃のガラス転移温度(Tg)を有する、項目1又は2に記載の歯科装具。
(項目4)
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれが、約70℃~約170℃のガラス転移温度(Tg)を有する、項目1~3のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目5)
前記歯科装具内の層における熱可塑性ポリマーの前記曲げ弾性率が、前記歯科装具の隣接する層内に存在する熱可塑性ポリマーの前記曲げ弾性率の2倍以下である、項目1~4のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目6)
前記歯科装具内の任意の2つの隣接する層における前記熱可塑性ポリマーのガラス転移温度(Tg)間の差が、約70℃以下である、項目1~5のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目7)
前記歯科装具が、5層以上の層を含む、項目6に記載の歯科装具。
(項目8)
前記歯科装具が層構造(AB) を含み、n=2~500である、項目1~7のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目9)
前記ポリマーA及び前記ポリマーBがそれぞれ、ポリエステルを含む、項目1~8のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目10)
前記ポリマーAがポリエステルを含み、1つの前記ポリマーBが、ポリエステルとポリカーボネートとのブレンドを含む、項目1~8のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目11)
前記ポリマーAがポリエステルを含み、前記ポリマーBがポリカーボネートを含む、項目1~8のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目12)
前記ポリマーA及び前記ポリマーBが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)、ポリカーボネート(PC)、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択される、項目1~8のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目13)
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)である、項目12に記載の歯科装具。
(項目14)
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリエステルとポリカーボネート(PC)とのブレンドである、項目12に記載の歯科装具。
(項目15)
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリカーボネート(PC)である、項目12に記載の歯科装具。
(項目16)
前記歯科装具がその主表面にポリマー水分バリア層を含み、前記ポリマー水分バリア層が熱可塑性ポリウレタン(TPU)及びオレフィンから選択されるポリマーを含み、前記オレフィンが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、環状オレフィン(COP)、
エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、重合性二重結合を有するC2~C20炭化水素モノマーから選択される部分を有するコポリオレフィン、並びにこれらの混合物及び組み合わせ、
オレフィン/酸無水物、オレフィン/酸、オレフィン/スチレン、オレフィン/アクリレート、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択されるオレフィンハイブリッドから選択される、項目1~15のいずれか一項に記載の歯科装具。
(項目17)
歯科装具を製造する方法であって、
前記歯科装具を提供するために多層ポリマーフィルム内に複数の歯保持空洞を形成することを含み、前記多層ポリマーフィルムは少なくとも3層の交互ポリマー層ABを含み、
層Aは熱可塑性ポリマーAを含み、
層Bは熱可塑性ポリマーBを含み、前記ポリマーBは前記ポリマーAとは異なり、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約1.0GPa~約4.0GPaの曲げ弾性率を有し、
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれは、約40℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する、方法。
(項目18)
前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれが、約1.5GPa~約2.5GPaの曲げ弾性率を有し、前記熱可塑性ポリマーA及び前記熱可塑性ポリマーBのそれぞれが、約75℃~約150℃のTgを有する、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記ポリマーA及び前記ポリマーBが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)、ポリカーボネート(PC)、並びにこれらの混合物及び組み合わせから選択される、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール(PCTg)であるか、前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリエステルとポリカーボネート(PC)とのブレンドであるか、又は前記ポリマーAがポリエチレンテレフタレートグリコール(PETg)であり、前記ポリマーBがポリカーボネート(PC)である、項目17~19のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5