(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
C09D11/18
(21)【出願番号】P 2022116831
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2019526866の分割
【原出願日】2018-06-22
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2017128431
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】平山 暁子
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
(72)【発明者】
【氏名】三好 花奈
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-207772(JP,A)
【文献】特開2017-082154(JP,A)
【文献】特開2007-238736(JP,A)
【文献】特開平10-298480(JP,A)
【文献】特開2005-290197(JP,A)
【文献】特開平04-013783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位、(b)無水マレイン酸単位、(c)スチレン単位で構成され、これらの組成比がモル%で(a):(b):(c)=25~75:25~75:0~50であり、かつ質量平均分子量が1000~50000であるアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルアルコールとのグラフト化物0.1~5質量%と、
平均粒子径が0.4~20μmの樹脂粒子5~40質量%と、水とを少なくとも含有す
る水性ボールペン用インク組成物
を搭載したことを特徴とする水性ボールペン。
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数1~5のアルキル基を示し、mは5~50の正の数である。〕
【請求項2】
前記樹脂粒子が、下記A群から選ばれる着色樹脂粒子であることを特徴とする、請求項1記載の水性ボールペン。
A群:樹脂粒子中に顔料からなる着色剤が分散された着色樹脂粒子、樹脂粒子の表面が顔料からなる着色剤で被覆された着色樹脂粒子、樹脂粒子に染料からなる着色剤で染着された着色樹脂粒子、マイクロスフェア、熱変色性の着色樹脂粒子、光変色性の着色樹脂粒子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間に亘ってペン先を露出させても書き初めのインク吐出性(初筆性)に優れた水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、マイクロカプセル顔料を配合したインクなど、固形分濃度が 高いインクを用いた水性ボールペンは、ペン先を露出した状態で時間が経過すると、書き初めのインク吐出性が低下する現象(初筆性の低下)がしばしば発生するなどの課題がある。
【0003】
このような課題に対しては、1)着色剤と、水と、増粘剤と、カチオン化デキストランとを少なくとも含有してなるボールペン用水性インキ組成物(例えば、特許文献1参照)、2)水と、着色剤と、水溶性有機溶剤と、ピリジンの2位、4位、6位の炭素のうち1乃至3か所が同一の親水性の電子供与性基で置換されたピリジン誘導体、ピリミジンの2位、4位、6位の炭素のうち1乃至3か所が同一の親水性の電子供与性基で置換されたピリミジン誘導体から選ばれる1種又は2種以上を少なくとも含むボールペン用水性インキ組成物(例えば、特許文献2参照)、3)特定化合物からなる粒子を含有するボールペン用水性インク組成物(例えば、特許文献3参照)、4)少なくともビシン、トリシンから選ばれる化合物をインク組成物全量に対して、0.1~10質量%含有するボールペンなどに好適な筆記具用インク組成物(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~4などの従来の発明においても、一定の効果は得られるものであるが、より長期間に亘ってペン先を露出させても効果を持続させることができることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-238736号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2012-46637号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2011-178973公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2016-132749号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、より長期間に亘ってペン先を露出させても、書き初めのインク吐出性(初筆性)に優れた水性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の現状等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、水と、特定の化合物と樹脂粒子とを各特定の範囲内で含有せしめた筆記具用水性インク組成物とすることにより、上記目的の水性ボールペンが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の水性ボールペ
ンは、(a)下記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位、(b)無水マレイン酸単位、(c)スチレン単位で構成され、これらの組成比がモル%で(a):(b):(c)=25~75:25~75:0~50であり、かつ質量平均分子量が1000~50000であるアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルアルコールとのグラフト化物0.1~5質量%と、
平均粒子径が0.4~20μmの樹脂粒子5~40質量%と、水とを少なくとも含有す
る水性ボールペン用インク組成物
を搭載したことを特徴とする。
【化2】
〔上記式(I)中、Rは炭素数1~5のアルキル基を示し、mは5~50の正の数である。〕
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期間に亘ってペン先を露出させても書き初めのインク吐出性(初筆性)に優れた水性ボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の水性ボールペン用インク組成物は、(a)下記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位、(b)無水マレイン酸単位、(c)スチレン単位で構成され、これらの組成比がモル%で(a):(b):(c)=25~75:25~75:0~50であり、かつ質量平均分子量が1000~50000であるアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルアルコールとのグラフト化物0.1~5質量%と、樹脂粒子5~40質量%と、水とを少なくとも含有することを特徴とするものである。
【化2】
〔上記式(I)中、Rは炭素数1~5のアルキル基を示し、mは5~50の正の数である。〕
【0011】
本発明で用いるグラフト化物は、(a)上記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位、(b)無水マレイン酸単位、(c)スチレン単位で構成され、これらの組成比がモル%で(a):(b):(c)=25~75:25~75:0~50であり、かつ質量平均分子量が1000~50000であるアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルアルコールとのグラフト化物である。
これら(a)、(b)及び(c)単位の組成比は、モル%で(a):(b):(c)=25~75:25~75:0~50である。
上記(c)のスチレン単位が0モル%の場合は、スチレン単位が含まれない場合であり、この場合は、(a)上記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位、(b)無水マレイン酸単位で構成され、これらの組成比がモル%で(a):(b)=25~75:25~75であり、かつ質量平均分子量が1000~50000であるアリルアルコール・無水マレイン酸共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルアルコールとのグラフト化物である。
【0012】
上記(a)ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル単位に対して(b)無水マレイン酸単位が、上記範囲外(未満及び超過)となる場合は、本発明の効果を発揮することができず、好ましくない。また、スチレン単位を含む場合、上記範囲より超過の場合も、本発明の効果を発揮することができず、好ましくない。
上記(c)のスチレン単位を含む場合において、上記(a)~(c)の好ましい組成比は、モル%で(a):(b):(c)=25~40:25~40:20~50となるものが望ましい。
上記成分(b)のエチレンオキサイド単位の付加モル数、具体的には、式(I)中のmは、5~50モルであり、この範囲のものを用いることにより、本発明の効果を発揮できるものとなる。
また、Rは炭素数1~5の直鎖又は分岐を有するアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基の直鎖のもの;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基の分岐鎖のもの;シクロプロピル基、シクロペンチル基の環状のもの等が挙げられる。
更に、上記グラフト化物の質量平均分子量は、1,000~50,000であり、質量平均分子量が50,000を超えると、インク粘度がアップし、一方、1,000未満では、溶解性が低下し、好ましくない。
【0013】
本発明に用いるアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化物としては、例えば、下記式(II)、また、アリルアルコール・無水マレイン酸共重合物とポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとのグラフト化物としては、下記式(III)に示すものが例示され、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
【化3】
具体的には、上記式(II)中、m=11、n=20、質量平均分子量:15000となるグラフト化物、市販品ではマリアリムAKM-0531(日油社製)、上記式(II)中、m=13、n=18、質量平均分子量:40000となるグラフト化物、市販品ではマリアリムAAB-0851(日油社製)、上記式(II)中、m=28、n=20、質量平均分子量:30000となるグラフト化物、市販品ではマリアリムAFB-1521(日油社製)などが挙げられる。なお、上記式(II)中のnは、上記質量平均分子量の範囲で調整される正の数である〔以下の式(III)中も同様〕。
【0015】
【化4】
具体的には、上記式(III)中、m=11、n=14、質量平均分子量:10000となるグラフト化物〔メトキシポリエチレングリコール(エチレンオキサイド11モル付加)アリルエーテルと無水マレイン酸の共重合体〕、市販品ではマリアリムSC-0505K(日油社製)などが挙げられる。
【0016】
上記グラフト化物の合計含有量は、インク組成物全量に対して、0.1~5質量%(以下、「質量%」を「%」という)、好ましくは、0.2~4%とすることが望ましい。
この含有量が0.1%未満であると、本発明の効果を発揮することができず、一方、5%を超えると、インクの経時安定性が低下するため、好ましくない。
【0017】
本発明に用いる樹脂粒子としては、例えば、着色樹脂粒子、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子、粒子内部に空隙のない中実樹脂粒子などが挙げられる。
用いることができる着色樹脂粒子は、着色された樹脂粒子から構成されるものであれば特に限定されず、例えば、1)樹脂粒子中にカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料等の有機顔料などの顔料からなる着色剤が分散された着色樹脂粒子、2)樹脂粒子の表面が上記顔料からなる着色剤で被覆された着色樹脂粒子、3)樹脂粒子に直接染料、酸性染料、塩基性染料、食料染料、蛍光染料などの染料からなる着色剤が染着された着色樹脂粒子、4)ポリマーで構成されているマトリックス、OH基を有する樹脂、及び水不溶性染料を有するマイクロスフェア、5)ロイコ色素等を用いて熱変色性とした着色樹脂粒子、6)光変色性色素となるフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素等を用いて光変色性とした着色樹脂粒子などが挙げられる。
【0018】
上記1)~3)の着色樹脂粒子の樹脂成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン等の重合体もしくはこれらの共重合体、ベンゾグアナミン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等から選択される少なくとも1種が挙げられ、必要に応じて架橋などの処理を行ったものであってもよい。これらの樹脂への着色方法としては、従来公知の懸濁重合、分散重合などの手法が用いられる。
【0019】
上記4)のマイクロスフェアは、ポリマーで構成されているマトリックス、OH基を有する樹脂、及び水不溶性染料を有するものである。
マトリックスを構成するポリマーとしては、例えば、エポキシポリマー、メラミンポリマー、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、若しくはウレアポリマー、又はこれらの組合せであることができる。
OH基を有する樹脂は、マトリックス中に含有されている。OH基を有する樹脂としては、例えば、テルペンフェノール樹脂、ロジンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリオール変性キシレン樹脂、エチレンオキシド変性キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、水酸基変性アクリル樹脂水酸基変性スチレンアクリル樹脂、カルボキシル変性アクリル樹脂、カルボキシル変性スチレンアクリル樹脂等が挙げられる。
水不溶性染料は、常温において水に不溶の染料であり、例えば、アゾ系、金属錯塩アゾ系、アンスラキノン系及び金属フタロシアニン系の化学構造を有する染料などの造塩染料、分散染料、油溶性染料等を用いることができるが、発色性の観点から、造塩染料を用いることが好ましい。
【0020】
マイクロスフェアは、例えば、以下の作成工程(乳化重合法、相分離法〉により製造することができる。
乳化重合法によるマイクロスフェア作成工程は、油相を作製すること、水相を作製すること、及び油相と水相とを混合させて油相の成分を乳化した後に重合させる工程からなる。
油相は、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、酢酸エチル等の有機溶剤、上記水不溶性染料、上記OH基を有する樹脂、及びモノマー又はプレポリマーを含有している。この有機溶剤は、複数種含有されていてもよい。
この油相は、有機溶剤を所定の温度に加温しながら、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂を加えて撹拌し、次いで、ポリマーを構成するメラミンモノマー又はプレポリマー、エポキシモノマー又はプレポリマー、アクリルモノマー又はプレポリマー、イソシアネートモノマー又はプレポリマーなどのモノマー又はプレポリマーを加え、更に随意に他の有機溶剤を加えることにより、作製することができる。
水相は、水及び分散剤を混合させることにより作製することができる。分散剤としては、例えばポリビニルアルコールを用いることができるが、これに限定されない。
【0021】
乳化及び重合工程は、まず、油相の成分を乳化し、さらに重合させる工程は、水相に油相を投入し、ホモジナイザー等を用いて所定の温度に加温しながら乳化混合することにより行うことができる。
マイクロスフェア作成工程は、他の工程、例えばマイクロスフェアを分級する工程を含んでいてもよい。
【0022】
相分離法によるマイクロスフェア作成工程は、染料含有溶液を作製すること、保護コロイド剤含有溶液を作製すること、モノマー又はプレポリマーを重合させることからなる。
染料含有溶液は、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂を有機溶剤に加熱溶解することにより作製することができる。水不溶性染料、OH基を有する樹脂及び有機溶剤としては、乳化重合によるマイクロスフェア作成工程に関して挙げたものを用いることができる。
保護コロイド剤含有溶液は、保護コロイド剤を水に溶解させることにより、作製することができる。保護コロイド剤としては、例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体等を用いることができる。
モノマー又はプレポリマーの重合は、染料含有溶液を、所定の温度に加温した保護コロイド剤含有溶液に添加して油滴状に分散させ、ここに上記モノマー又はプレポリマーを添加し、温度を維持して撹拌することにより、行うことができる。これによれば、モノマー又はプレポリマーを重合して得られたポリマーに、水不溶性染料及びOH基を有する樹脂が内包されることとなる。
【0023】
得られるマイクロスフェアにおいて、マイクロスフェア全量中の、OH基を有する樹脂の含有率は、好ましくは、1質量%以上40質量%以下であることが望ましく、また、水不溶性染料の含有率は、好ましくは、10質量%以上45質量%以下であることが望ましい。マイクロスフェアの平均粒子径は、0.3μm以上3.0μm以下から好ましい。本発明(後述する実施例等を含む)において、「平均粒子径」とは、レーザー回折法において体積基準により算出されたD50の値であり、この測定は、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いて行うことができる。
【0024】
上記5)の熱変色性の着色樹脂粒子としては、電子供与性染料であって、発色剤としての機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.2~3μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性の着色樹脂粒子などを挙げることができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱撹拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂等となる樹脂原料を使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより熱変色性のマイクロカプセル顔料からなる熱変色性の着色樹脂粒子を製造することができる。この熱変色性の着色樹脂粒子では、ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
【0025】
上記6)の光変色性の着色樹脂粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性の着色樹脂粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.2~3μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性の着色樹脂粒子などを挙げることができる。マイクロカプセル化法としては、上述の熱変色性の樹脂粒子の製造と同様に調製することができる。
この光変色性の着色樹脂粒子樹脂粒子は、フォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などを好適に用いることにより、例えば、室内照明環境(室内での白熱灯、蛍光灯、ランプ、白色LEDなどから選ばれる照明器具)において無色であり、紫外線照射環境(200~400nm波長の照射、紫外線を含む太陽光での照射環境)で発色する性質を有するものとすることができる。
【0026】
更に、本発明では、上記1)~6)の着色樹脂粒子の他、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子、粒子内部に空隙のない中実樹脂粒子を用いることができる。
中空樹脂粒子、中実樹脂粒子の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどの単独重合体や、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体などの2種以上のモノマーが共在している共重合体、これらの変性体などの固体の樹脂粒子を用いることができる。
また、本発明に用いる上記各樹脂粒子の形状は、球状(真球状、略球状、略楕円球状)の他、多角形状、扁平状等の異形の形状のものなどが使用できるが、球状の樹脂粒子の使用が好ましい。
上記各樹脂粒子のうち、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は、白色顔料として、上記1)~6)の各着色樹脂粒子は、蛍光顔料、熱変色性顔料や光変色性顔料のマイクロカプセル顔料、マイクロスフェアなど(色材)として使用することができる。また、上記1)~6)の各樹脂粒子は、各製造法により製造した各樹脂粒子を使用することができ、市販品があれば、それらを使用してもよいものである。
【0027】
これらの樹脂粒子の含有量は、樹脂粒子を色材として単独で使用する場合、着色のない樹脂粒子と色材となる着色樹脂粒子として併用したりする場合など、目的に応じてその量は変動する。例えば、隠蔽剤として用いる場合、目止め剤として用いる場合、着色剤として用いる場合では、それぞれ適切な含有量はあるが一様ではない。具体的には、初筆性の低下と樹脂粒子の含有量は概ね比例する傾向にあり、含有量が多いほど初筆性は低下しやすい。
用いる樹脂粒子(固形分量)の合計含有量は、筆記性能や描線品位及び初筆性の両立を高度にする点から、インク組成物全量に対して、5~40%であり、好ましくは、5~30%とすることが望ましい。この樹脂粒子含有量が5%未満では、筆記性能や描線品位が劣ることとなり、一方、40%超過では初筆性の低下が認められ、好ましくない。
また、樹脂粒子の平均粒子径についても、初筆性の低下と概ね比例する傾向にあり、樹脂粒子の平均粒子径が0.4μm以上であると初筆性の低下が若干認められ、1.0μm以上となるとより低下傾向となる。平均粒子径の上限は、筆記性能や描線品位を考慮すると、20μm以下とすることが望ましい。
【0028】
本発明の水性ボールペン用インク組成物において、上記グラフト化物、上記樹脂粒子の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、また、他の色材や、通常用いられる各成分、例えば、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、pH調整剤などを本発明の効果を損なわない範囲で、適宜量含有することができる。
【0029】
用いることができる他の色材としては、筆記具用水性インク組成物に慣用されている顔料及び/又は水溶性染料が挙げられる。顔料としては、無機系及び有機系顔料の中から任意のものを使用することができる。
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラックや、酸化チタン、金属粉等が挙げられる。また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔 料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。
これらの色材は、単独で、又は2種以上を混合して適宜量用いることができる。
【0030】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、目的によって変動する。例えば、書き味の向上、ペン先での乾燥防止を目的とする場合は、10%を超える量とすることが好ましい。
一方、平均粒子径が大きい樹脂粒子を含むインクを用いた筆記具は、インクの流量を多くする場合が多い。そうすると描線乾燥性が低下するという課題が生じやすい。したがって、筆記具としての全体的な性能を損なわない範囲で含有量を少なくすることが望ましい。インク組成物全量に対して、好ましくは、上記の点から、10%以下、更に好ましくは、5~10%とすることが望ましい。
【0031】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0032】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンゾイソチアゾリン、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア等が挙げられる。
【0033】
この水性ボールペン用インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記式(I)で表されるグラフト化物、上記樹脂粒子、他の色材の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
得られる本発明の水性ボールペン用インク組成物は、金属チップ、樹脂チップなどのボールペンチップを備えたインクリフィル、並びに、ボールペンに搭載して使用に供される。
【0034】
このように構成される本発明の水性ボールペン用インク組成物では、上記グラフト化物0.1~5質量%と、樹脂粒子5~40質量%と、水とを少なくとも含有することにより、長期間に亘ってペン先を露出させても書き初めのインク吐出性(初筆性)に優れた水性ボールペン用インク組成物が得られることとなる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
実施例及び比較例で用いたマイクロスフェア、熱変色性マイクロカプセル顔料は、下記の製造例1,2により得たものを用いた。
【0036】
製造例1(マイクロスフェアAの製造)
(油相溶液の作製)
有機溶剤としての酢酸エチル12.5質量部を60℃に加温しながら、ここに水不溶性染料としての油溶性黒染料(Oil Black 860、オリヱント化学工業社)3.5質量部及びテルペンフェノール樹脂(YSポリスターN125 ヤスハラケミカル株式会社)0.5質量部を加えて十分に溶解させた。次いで、ここにプレポリマーとしてのヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(TLA-100、旭化成ケミカルズ社)8質量部を加えて、油相溶液を作製した。
(水相溶液の作製)
蒸留水200質量部を60℃に加温しながら、ここに分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社)15質量部を溶解して、水相溶液を作製した。
(乳化重合)
60℃の水相溶液に油相溶液を投入し、ホモジナイザーで6時間撹拌することにより乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することでマイクロスフェアを回収し、黒色のマイクロスフェアAを得た。
【0037】
製造例2(熱変色マイクロカプセル顔料の製造)
ロイコ色素として、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン1部、顕色剤として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン2部、及び変色性温度調整剤として、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。上記で得た組成物27部の均一な熱溶液にカプセル膜剤として、イソシアネート10部及びポリオール10部を加えて攪拌混合した。次いで、保護コロイドとして12%ポリビニルアルコール水溶液60部を用いて、25℃で乳化して分散液を調製した。次いで、5%の多価アミン5部を用いて、80℃で60分間処理してマイクロカプセルを得た。以上の手順により得たマイクロカプセル化した水分散体をスプレードライすることでパウダー状にして熱変色性マイクロカプセル顔料を製造した。この熱変色性マイクロカプセル顔料は室温下で青色で、60℃以上で無色(消色)するものであった。
【0038】
(実施例1~5及び比較例1~5)
下記表1に示す配合処方(全量100質量%)にしたがって、常法により各水性のボールペン用水性インク組成物を調製した。
【0039】
(水性ボールペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:UF-202〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ90mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インクを充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
得られた実施例1~5及び比較例1~5の各水性ボールペンを用いて、下記評価方法で初筆正の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0040】
これらの水性ボールペンについて、キャップをしない状態で、25℃、60%RH下で1週間放置後、PPC用紙に直線を筆記し、下記評価基準で初筆性を評価した。
評価基準:
A:書き始めから問題なく筆記可能
B:書き始めから1mm未満のカスレが確認される
C:書き始めから1mm以上のカスレが確認される
【0041】
【0042】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~5のボールペン用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~5のボールペン用水性インク組成物に較べ、長期間に亘ってペン先を露出させても書き初めのインク吐出性(初筆性)に優れるボールペン用水性インク組成物となることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
ボールペンに好適なボールペン用水性インク組成物が得られる。