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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/36 20060101AFI20231201BHJP
   F16C 33/36 20060101ALI20231201BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231201BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20231201BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/36
F16C33/58
F16C33/66 Z
F16C33/64
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022138103
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2018155417の分割
【原出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2022172254
(43)【公開日】2022-11-15
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実公昭45-003207(JP,Y1)
【文献】特開平04-331813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に円錐状の軌道面を有する外輪と、
外周に円錐状の軌道面を有し、この軌道面の大径側に大つば面が設けられた内輪と、
前記両軌道面間に転動自在に配列された複数の円すいころと、
前記円すいころを収容する保持器とを備え、
軸受使用時に前記円すいころの大端面が前記内輪の大つば面に接触して案内される円すいころ軸受において、
前記円すいころの大端面の設定曲率半径をR、前記円すいころの円すい角の頂点から前記内輪の大つば面までの基本曲率半径をR BASE とし、
前記内輪の大つば面と接触する前記円すいころの大端面は、ころ中心線を中心とした環状で、かつ前記円すいころの縦断面において前記設定曲率半径Rよりも小さい曲率半径を有する円弧状であり、前記縦断面に現れる二つの円弧状の大端面は、互いに異なる位置に曲率中心を備え
前記設定曲率半径Rと前記基本曲率半径R BASE との比率R/R BASE を0.70以上とし、
前記内輪の大つば面と接触する前記円すいころの大端面の実曲率半径をR ACTUAL としたとき、前記実曲率半径R ACTUAL と前記設定曲率半径Rとの比率R ACTUAL /Rが0.5を超える値であることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記内輪の大つば面と接触する前記円すいころの大端面および前記内輪の大つば面が、超仕上げ加工面であることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記内輪の大つば面に逃げ面が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記内輪の軌道面および前記外輪の軌道面は、ストレート形状又は緩やかな円弧のフルクラウニング形状とし、
前記円すいころの転動面は、対数クラウニング形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記内輪、前記外輪および前記円すいころの少なくとも一つが、窒素富化層を有し、かつ、窒素富化層の深さが0.2mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記内輪、前記外輪および前記円すいころの少なくとも一つが、窒素富化層を有し、かつ、前記窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の円すいころ軸受。
【請求項7】
自動車に用いられる請求項1~6のいずれか一項に記載の円すいころ軸受。
【請求項8】
前記円すいころ軸受の用途が自動車のトランスミッション又はデファレンシャルであることを特徴とする請求項7に記載の円すいころ軸受。
【請求項9】
前記実曲率半径は、前記円すいころの縦断面において、前記大端面と端面チャンファとの接続点と、前記大端面と逃げ部との接続点と、前記両接続点の中点とからなる3点を通る円弧曲線半径として規定され、前記大端面と逃げ部との接触点が、前記内輪の大つば部の外径より半径方向内側に位置する請求項1~8いずれか一項に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途では、ラジアル荷重、アキシアル荷重およびモーメント荷重を受ける部位に円すいころ軸受が多く使用される。円すいころ軸受は、使用時、円すいころの大端面と内輪の大つば面で接触し、一定のアキシアル荷重を受けることができる。しかし、円すいころの大端面と内輪の大つば面の上記の接触は転がり接触ではなく、すべり接触となる。すべり接触であるために、潤滑環境が不十分であると発熱し、急昇温する恐れがある。
【0003】
上記問題点を解決するためには、円すいころの大端面と内輪の大つば面との接触部における摩擦によるトルクロスと発熱を低減する必要があり、次のような技術が提案されている(特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1には、円すいころの大端面と内輪の大つば面の接触部における油膜厚さを向上(発熱低減)させる手法として、円すいころの大端面の曲率半径をRとし、円すいころの円錐角の頂点から内輪の大つば面(円すいころとの接触部)までの距離をRBASEとしたときに、R/RBASEを0.75~0.87の範囲にすることが提案されている。
【0005】
特許文献2には、円すいころの大端面と内輪の大つば面との間の接触領域への潤滑油の引き込み作用を高めて十分な油膜を形成させる手法および円すいころのスキュー時のころ大端面へのエッジ当り(疵の問題)を解決する手法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、円すいころ軸受に発生し得る接触面圧を適正化し、軸受寿命の延長を図れる手法として、円すいころ等に対数クラウニング形状を付与することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-170774号公報
【文献】特許第4165947号公報
【文献】特許第5334665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、自動車は、モータ併用のハイブリット車又は電気自動車の普及に伴い、変速機構、減速機構としてのトランスミッション又はデファレンシャルのコンパクト化が進んでいる。また、自動車の出力(排気量等)の大小に関わらず、トランスミッションやデファレンシャルの共通化の動向がある。このようなトランスミッション、デファレンシャルの傾向に伴い、使用される円すいころ軸受のサイズの小型化及び高負荷荷重が要求されている。
【0009】
潤滑環境面では、自動車のトランスミッション又はデファレンシャルに使用される円すいころ軸受の潤滑は、ケーシング内に溜められた潤滑油がギヤの回転により跳ね上げられて生じる潤滑油の飛沫により行われるが、ケーシング内構造が複雑な場合には、潤滑不足が生じることも考えられる。このように、自動車のトランスミッション又はデファレンシャルに使用される円すいころ軸受は、厳しい潤滑環境下で使用される。
【0010】
また、近年、潤滑油の撹拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッション又はデファレンシャルにおいて低粘度の潤滑油を使用することや、潤滑油の量を少なくする傾向にある。上述した軸受サイズの小型化が要求される一方で、円すいころ軸受に負荷される荷重は大きく、かつ、上記のような低粘度の潤滑油の使用により、潤滑条件も一層厳しくなる状況にある。
【0011】
特許文献1のR/RBASEを0.75~0.87の範囲にする技術は、円すいころの大端面と内輪の大つば面の接触部における油膜厚さを向上(発熱低減)する手法として優れたものである。しかし、円すいころの大端面の加工後の実曲率半径の許容範囲が規定されていないので、R/RBASEを0.75~0.87の範囲内に設定しても、上記の実曲率半径が小さくなると、円すいころの大端面と内輪の大つば面との接触部に想定よりも大きなつば面圧を誘発することが判明した。特に、軸受サイズの小型化が要求される中で、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受における上記の問題は、工業上重要な課題であり、これに着目したのが本発明である。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑み、厳しい潤滑環境下で使用される円すいころ軸受、例えばBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受において、円すいころの大端面と内輪の大つば面とのすべり接触部に適正な油膜形成を促し、円滑な回転を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の目的を達成するために種々検討した結果、以下の分析と新たな着想によって、本発明に至った。
(1)RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、これに使用する円すいころが必然的に小さくなり、円すいころの大端面の設定曲率半径Rが小さく、つば部面圧が大きくなりやすい。加えて、加工面が小さくなることから、大型の円すいころと比較して加工条件の影響を受けやすく、円すいころの大端面の設定曲率半径と加工後の実曲率半径との比の大小により、敏感につば部面圧に影響することが判明した。
(2)RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、円すいころが小さいので、スキューの問題は緩和される。
(3)その結果、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、R/RBASEの範囲と、設定曲率半径と加工後の実曲率半径の比の範囲の両方の範囲を適正に設定することが不可欠であるという新たな着想に至った。
【0014】
前述の目的と達成するための技術的手段として、本発明は、内周に円錐状の軌道面を有する外輪と、外周に円錐状の軌道面を有し、この軌道面の大径側に大つば面が設けられた内輪と、前記両軌道面間に転動自在に配列された複数の円すいころと、前記円すいころを収容する保持器とを備え、軸受使用時に前記円すいころの大端面が前記内輪の大つば面に接触して案内される円すいころ軸受において、前記円すいころの大端面の設定曲率半径をRとし、前記内輪の大つば面と接触する前記円すいころの大端面は、ころ中心線を中心とした環状で、かつ前記円すいころの縦断面において前記設定曲率半径Rよりも小さい曲率半径を有する円弧状であり、前記縦断面に現れる二つの円弧状の大端面は、互いに異なる位置に曲率中心を備えることを特徴とする。
【0015】
上記の構成により、厳しい潤滑環境下で使用されるRBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受において、円すいころの大端面と内輪の大つば面とのすべり接触部に適正な油膜形成を促し、円滑な回転を可能にすることができる。ここで、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受とは、具体的な軸受仕様において同等の作用効果を有する100mmを3~5%程度超えるRBASEの円すいころ軸受も含むものである。特許請求の範囲におけるRBASEが100mm以下とは、上記の意味で用いる。
【0016】
上記の設定曲率半径Rと基本曲率半径RBASEとの比率R/RBASEを0.70~0.90の範囲とすることが望ましい。これにより、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受において、比RACTUAL/Rによる円すいころの大端面の実曲率半径RACTUALの小さくなる条件下での比R/RBASEの下限についても明確にすることができる。
【0017】
上記の円すいころの大端面および内輪の大つば面を超仕上げ加工面とすることにより、油膜パラメータを高め潤滑条件を向上させることができる。
【0018】
上記の内輪の大つば面に逃げ面を形成することにより、大つば面と円すいころの大端面との接触領域への潤滑油の引き込み作用が高まり十分な油膜を形成することができる。
【0019】
上記の内輪の軌道面および外輪の軌道面は、ストレート形状又は緩やかな円弧のフルクラウニング形状とし、円すいころの転動面は、対数クラウニング形状等の複合曲面形状であることが好ましい。これにより、円すいころと軌道面の局所的な面圧の上昇や摩耗の発生を抑制することができる。
【0020】
上記の内輪、外輪および円すいころの少なくとも一つが、窒素富化層を有し、かつ、窒素富化層の深さが0.2mm以上であることが好ましい。これにより、クラウニング形状が存在する中で窒素富化層を適切に確保することができる。
【0021】
上記の内輪、外輪および円すいころの少なくとも一つの軸受構成部品が、窒素富化層を有し、かつ、前記窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあることが好ましい。これにより、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0022】
本発明の円すいころ軸受は、自動車のトランスミッション用、デファレンシャル用として好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、厳しい潤滑環境下で使用される円すいころ軸受、例えばBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受において、円すいころの大端面と内輪の大つば面とのすべり接触部に適正な油膜形成を促し、円滑な回転を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受を示す縦断面図である。
図2図1の円すいころの大端面と内輪の大つば面の設計仕様を説明する縦断面図である。
図3図1の円すいころの大端面の曲率半径と油膜厚さの関係を示すグラフである。
図4図1の円すいころの大端面の詳細形状を説明する図で、(a)図は円すいころの部分縦断面図で、(b)図は、(a)図のA部を拡大した縦断面図で、(c)図は、(b)図の模式図である。
図5】機能特性の検討結果を示す表である。
図6図1の円すいころの形状を示す正面図である。
図7】(a)図は図1の内輪の詳細形状を示す縦断面図で、(b)図は(a)図のD部を拡大した縦断面図ある。
図8図7(a)の内輪の軌道面の母線方向の形状を示す模式図である。
図9図1の円すいころ軸受の窒素富化層の形成状態を示す縦断面図である。
図10図9の円すいころを示す部分模式図である。
図11図10の円すいころの一部を拡大した模式図である。
図12】対数クラウニング形状を示すy-z座標図である。
図13】軸受構成部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
図14】円すいころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図15図14の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。
図16図15の熱処理パターンの変形例を示す模式図である。
図17】従来の焼入れ方法による軸受構成部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
図18図1の円すいころ軸受が適用された自動車用トランスミッションを示す縦断面図である。
図19図1の円すいころ軸受が適用された自動車用デファレンシャルを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受を図1図19に基づいて説明する。まず、本実施形態の円すいころ軸受の概要を図1図6に基づいて説明する。図1は、本実施形態の円すいころ軸受の中心線から上側半分を示す縦断面図で、図6は、図1の円すいころの形状を示す正面図である。本実施形態に係る円すいころ軸受は、円すいころの転動面と、内輪の軌道面および外輪の軌道面の各円錐角の頂点が、円すいころ軸受の中心軸上の一点で一致するが、前記頂点から内輪の大つば面までの距離RBASEが100mm以下の小型の部類に属するものである。
【0026】
図1に示すように、円すいころ軸受1は、内輪12、外輪13、内輪12と外輪13との間に組込まれた円すいころ14、円すいころ14を保持する保持器15からなる。内輪12は外周に円錐状の内輪側軌道面12a(以下、単に軌道面12aと呼ぶ。)が形成され、小径側に小つば部12bが設けられ、大径側に大つば部12cが設けられている。外輪13は内周に円錐状の外輪側軌道面13a(以下、単に軌道面13aと呼ぶ。)が形成されている。内輪12の軌道面12aと外輪13の軌道面13aとの間に複数の円すいころ14が組み込まれている。各円すいころ14は、保持器15のポケット15aに収容され、円周方向等間隔に保持されている。
【0027】
内輪12の軌道面12aと大つば部12cの大つば面12eとが交わる隅部に研削逃げ部12fが形成され、軌道面12aと小つば部12bの小つば面12dとが交わる隅部に研削逃げ部12gが形成されている。このように、内輪12の軌道面12aには研削逃げ部12f、12gが設けられているので、軌道面12aの有効軌道面幅LG〔図7(a)参照〕は円すいころ14の転動面16の有効転動面幅LW(図6参照)より短い。
【0028】
円すいころ14の外周には、円錐状の転動面16が形成され、小径側に小端面14a、大径側に大端面14bが形成され、円すいころ14は、その大端面14bが内輪12の大つば面12eで受けられる。円すいころ軸受1の使用時、大端面14bは内輪12の大つば面12eに接触して案内される。円すいころ14の転動面16は、図6に示すように、母線方向の中央部分のストレート部16aと両端部のクラウニング部16b、16cとからなる。ここで、ストレートとは、工業上概略形状としてのストレートであって、幾何形状であってもよい。図6に示すクラウニング部16b、16cのドロップ量は誇張して図示している。クラウニング部16b、16cの詳細は後述する。図1に示すように、保持器15は、小径側環状部15bと、大径側環状部15cと、小径側環状部15bと大径側環状部15cとを軸方向に繋ぐ複数の柱部15dとからなる。
【0029】
図1に示す円すいころ14の小端面14aと小つば面12dとのすきまSは0.4mm以下に設定されているので、円すいころ軸受1の組込時の馴染み回転を減らし組付け性も良好である。
【0030】
本実施形態の円すいころ軸受1の概要は以上のとおりである。次に、本実施形態の円すいころ軸受1の特徴的な構成を図2図4に基づいて説明する。図2は、図1の円すいころの大端面と内輪の大つば面の設計仕様を説明する縦断面図で、図3は、図1の円すいころの大端面の曲率半径と油膜厚さの関係を示すグラフである。図4は、図1の円すいころの大端面の詳細形状を説明する図で、図4(a)は円すいころの部分縦断面図で、図4(b)は、図4(a)のA部を拡大した縦断面図で、図4(c)は、図4(b)の模式図である。図4(b)、図4(c)では、図示を簡素化するためにハッチングを省略している。
【0031】
図2に示すように、円すいころ14の転動面16と、内輪12の軌道面12aおよび外輪13の軌道面13aの各円錐角の頂点は、円すいころ軸受1の中心軸上の一点Ovで一致する。円すいころ14の大端面14bの最適な曲率半径Rと、頂点Ovから内輪12の大つば面12eまでの距離RBASEとする。このRBASEが本実施形態の円すいころ軸受1では100mm以下である。
【0032】
図3に、比R/RBASEの関係と円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eとの間に発生する油膜厚さの比を示す。油膜厚さは、Karnaの式〔以下の式(1)〕から求められる。円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eとの間に形成される油膜厚さをtとし、図3の縦軸は、比R/RBASEが0.76のときの油膜厚さt0に対する比t/t0で示す。式(1)では、油膜厚さtはhで表されている。図3のように、油膜厚さtは、比R/RBASEが0.76のとき最大となり、比R/RBASEが0.9を越えると急激に減少する。一方、比R/RBASEが0.7を下回っても、油膜形成の低下度合いは鈍感である。
【数1】
【0033】
油膜厚さの最適値という面では、特許文献1の記載のとおり、比R/RBASEが0.75~0.87の範囲であるが、円すいころ14の大端面14bの最適な曲率半径、すなわち設定曲率半径Rに対して、加工後の実曲率半径RACTUALが小さくなると、円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eとの接触部に想定よりも大きなつば面圧を誘発し、特に、軸受サイズの小型化が要求される中で、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受における上記の問題は、工業上重要な課題であり、これに着目した。
【0034】
そこで、円すいころ14の大端面14bの最適な曲率半径、すなわち設定曲率半径Rと、加工後の実曲率半径RACTUALとの関係を検討した。図3に示す円すいころ14の大端面14bの曲率半径Rは、図4(a)に示す円すいころ14の大端面14bが設定した理想的な球面でできていたときのR寸法である。詳述すると、図4(b)に示すように、円すいころ14の大端面14bの端部の点P1、P2、P3、P4および点P1、P2の中点P5、点P3、P4の中点P6とすると、点P1、P5、P2を通る曲率半径R152、点P3、P6、P4を通る曲率半径R364および点P1、P5、P6、P4を通る曲率半径R1564は、R=R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線である。上記において、点P1、P4は、大端面14bと端面チャンファ14dとの接続点であり、点P2、P3は、大端面14bと逃げ部14cとの接続点である。ここで、R=R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線を設定曲率半径Rという。特許請求の範囲における設定曲率半径Rは上記の意味である。なお、点P2、P3の位置は、図4(b)の位置に限らない。例えば、点P2は点P1側に、点P3は点P4側にわずかに(0.1mm程度)ずれた位置でもよい。
【0035】
ところが、実際には、図4(c)に示すように、研削加工時に大端面14bの両端がダレることで、大端面14b全体のR1564に対する片側のR152は同一ではなく小さくできてしまう(他方の片側R364も同様である)。ここで、円すいころ14の大端面14bの加工後の片側のR152、R364を実曲率半径RACTUALという。特許請求の範囲における実曲率半径RACTUALは上記の意味である。
【0036】
設定曲率半径Rおよび実曲率半径RACTUALは次のようにして求める。図4(c)における大端面14b全体のR1564は、図4(b)に示す大端面14bの点P1、P5、P6、P4の4点を通る近似円である。R152、R364、R1564の測定方法について説明する。R152、R364、R1564の測定は、「株式会社ミツトヨ製表面粗さ測定機 サーフテスト」の例えば、機種名:SV-3100を用いて測定した。測定方法は、上記測定器を用いて円すいころ14の大端面14bの母線方向の形状を出し、点P1、P2、P3、P4をプロットした後、P1、P2の中点P5およびP3、P4の中点P6をプロットした。片側のR152は点P1、P5、P2を通る円弧曲線半径として算出した(他方の片側R364も同様である)。大端面14b全体のR1564は、「複数回入力」というコマンドを用いて4点を取った値で近似円弧曲線半径を算出した。大端面14bの母線方向の形状は、直径方向に1回の測定とした。
【0037】
次に、設定曲率半径Rと実曲率半径RACTUALの差による影響を説明する。円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eとの接触は、片側のR152、R364の部分としか接触しないので、実際の大端面14bと大つば面12eの接触は、設定曲率半径R(R1564)よりも小さい実曲率半径RACTUAL(R152、R364)となる。このため、大端面14bと大つば面12eとの接触面圧が上昇する。上記の問題が実際の研削加工を検証して判明した。
【0038】
以上のような設定曲率半径Rと加工後の実曲率半径RACTUALとの関係ついて種々検討した結果、以下の分析と新たな着想によって、本実施形態の特徴的な構成に至った。
(1)RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、これに使用する円すいころが必然的に小さくなり、円すいころの大端面の設定曲率半径Rが小さく、つば部面圧が大きくなりやすい。加えて、加工面が小さくなることから、大型の円すいころと比較して加工条件の影響を受けやすく、円すいころの大端面の設定曲率半径Rと加工後の実曲率半径RACTUALとの比の大小により、敏感につば部面圧に影響することが判明した。
(2)RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、円すいころが小さいので、スキューの問題は緩和される。
(3)その結果、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、設定曲率半径Rと円すいころの円錐角の頂点から前記内輪の大つば面までの基本曲率半径RBASEとの比R/RBASEの範囲と、設定曲率半径Rと加工後の実曲率半径RACTUALの比RACTUAL/Rの範囲の双方の範囲を適正に設定することが不可欠であるという新たな着想に至った。
【0039】
上記の着想に基づいて、比R/RBASEおよび比RACTUAL/Rの双方の適正範囲を見出すためにRBASEが100mm、80mm、60mmの円すいころ軸受について機能特性を検討した。検討条件は以下のとおりである。
<検討条件>
〔軸受仕様〕・RBASE=100mm:型番4T-30302(内径φ15mm、外径φ42mm、幅14.25mm)
・RBASE=80mm:型番4T-30203(内径φ17mm、外径φ40mm、幅13.25mm)
・RBASE=60mm:型番4T-30305D(内径φ25mm、外径φ62mm、幅18.25mm)
〔潤滑油〕:タービン油ISO粘度グレード VG32
【0040】
上記の機能特性の検討では、潤滑油は、トランスミッションによく使用されるタービン油ISO粘度グレード VG32とした。VG32の120℃粘度は、7.7cSt(=7.7mm2/s)で、油膜厚さhは式(1)より求めた。油膜厚さhは、図3における油膜厚さtと同じである。VG32の120℃粘度は低く、潤滑状態は極めて厳しい条件となる。
【0041】
上記のような油膜が十分でない環境で接触面圧が上昇すると、円すいころ14の大端面14bの大つば面12eとの接触が不安定になり、油膜パラメータが低下する。油膜パラメータが1を切ると金属接触が始まる境界潤滑となり、急昇温の懸念が高まることが考えられる。このため、評価項目をつば部面圧と油膜パラメータとした。ここで、油膜パラメータとは、弾性流体潤滑理論により求まる油膜厚さhと、円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eの二乗平均粗さの合成粗さσとの比で定義されるΛ(=h/σ)である。
【0042】
機能特性の検討結果を図5に示す。図5に示す総合評価の判定マークは、以下のとおりである。
×:ころ大端面Rが小さ過ぎつば面圧大のため、安定した油膜形成能力が得られず、現状 使用条件(極めて厳しい潤滑条件)では、大つば部が急昇温する場合もあるため総合評 価×となる。
△:ころ大端面Rが比較的小さくつば部面圧も高い。しかし、現状使用条件では使用範囲 内と言える。但し、余裕代が少ないため、総合評価△となる。
○:大つば部に安定した油膜が形成され使用上問題なく運転可能、よって総合評価〇となる。
【0043】
図5の結果より、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受では、比R/RBASEが0.90以下の範囲で、かつ比RACTUAL/Rが0.5を超える値であることにより実用可能であることが検証された。
【0044】
また、比R/RBASEが0.70~0.90の範囲で、かつ比RACTUAL/Rが0.5を超える値であることにより実用可能であることも検証された。この検証結果は、RBASEが100mm以下の小型の部類に属する円すいころ軸受において、比R/RBASEが0.7を下回っても油膜形成の低下度合いは鈍感であるが、比RACTUAL/Rによる円すいころ14の大端面14bの実曲率半径RACTUALの小さくなる条件下での比R/RBASEの下限が0.7であることを見出したことに重要な意味を有する。
【0045】
図5の結果より、RBASEが100mm以下の円すいころ軸受でも、特にRBASEが80mm以上100mm以下の円すいころ軸受において、比R/RBASEが0.70~0.90の範囲で、かつ比RACTUAL/Rが0.5を超えることにより、小型化および高負荷荷重が求められる自動車用円すいころ軸受において、ころ大端面と内輪大つば面とのすべり接触部に適正な油膜が形成され、実用可能であるとの効果が確認された。
【0046】
さらに、円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eの表面性状について検討した。その結果として、油膜パラメータは、円すいころ14の大端面14bと内輪12の大つば面12eの合成粗さに依存するため、大端面14bと大つば面12eは超仕上げ加工面であることが望ましいという結論に至った。したがって、本実施形態では、大端面14bと大つば面12eは超仕上げ加工面としている。表面粗さは、円すいころ14の大端面14bが0.10μmRa以下で、内輪12の大つば面12eが0.063μmRa以下である。特許請求の範囲における超仕上げ加工面は上記の表面粗さを有する。
【0047】
次に、本実施形態に係る円すいころ軸受1の有利な構成を図9図17に基づいて説明する。図9は、有利な構成としての窒素富化層の形成状態を示す縦断面図で、図10は、図9の円すいころを示す部分模式図で、図11は、図10の円すいころの一部を拡大した模式図である。有利な構成として、円すいころ軸受1の内輪12、外輪13および円すいころ14は、高炭素クロム鋼(例えば、JIS規格SUJ2材)からなり、内輪12、外輪13、円すいころ14の少なくとも一つの軸受構成部品は、窒素富化層を形成させるための熱処理を施している。
【0048】
図9に示すように、内輪12の軌道面12aを含む表面および外輪13の軌道面13aを含む表面には窒素富化層12B、13Bが形成されている。窒素富化層12B、13Bは、図9の内輪12、外輪13の表面から破線で示す範囲に形成されている。窒素富化層12B、13Bは、それぞれ内輪12の未窒化部12Cおよび外輪13の未窒化部13Cより窒素濃度が高くなっている領域である。円すいころ14の表面には窒素富化層14Bが形成されている。窒素富化層14Bは、円すいころ14の未窒化部14Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層12B、13B、14Bは、例えば、浸炭窒化処理、窒化処理などの従来周知の任意の方法により形成できる。
【0049】
なお、内輪12のみに窒素富化層12Bを形成してもよいし、外輪13のみに窒素富化層13Bを形成してもよいし、円すいころ14のみに窒素富化層14Bを形成してもよい。また、内輪12、外輪13、円すいころ14のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
【0050】
円すいころ14は、その表面に窒素富化層14Bが形成されていると共に、転動面16にクラウニングが形成されている。図10に示すように、円すいころ14の転動面16は、母線方向の中央部分のストレート部16aと両端部のクラウニング部16b、16cとからなる。円すいころ14の小端面14aとクラウニング部16cとの間に端面チャンファ14eが形成され、大端面14bとクラウニング部16bとの間に端面チャンファ14dが形成されている。
【0051】
円すいころ14の製造工程において、窒素富化層14Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、円すいころ14のクラウニングは形成されておらず、円すいころ14の外形は、図11に破線で示される仕上げ加工前表面14Eとなっている。この状態で窒素富化層14Bが形成された後、仕上げ加工として、図11の矢印で示すように円すいころ14の転動面16が加工され、図10および図11に示すように、ストレート部16aおよびクラウニング部16b、16cが形成された軌道面16が得られる。
【0052】
次に、窒素富化層の詳細について図11および図13を参照して説明する。図13は、軸受構成部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
【0053】
[窒素富化層の厚さ]
図11に示す円すいころ14における窒素富化層14Bの深さ、すなわち、窒素富化層14Bの最表面から窒素富化層14Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、端面チャンファ14eとクラウニング部16cとの境界点である第1測定点31、小端面14aから距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、円すいころ14の転動面16の中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層14Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、窒素富化層14Bの深さとは、円すいころ14の中心線26に直交すると共に外周側に向かう径方向における窒素富化層14Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層14Bの深さT1、T2、T3の値は、端面チャンファ14d、14eの形状やサイズ、さらに窒素富化層14Bを形成する処理および仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。
【0054】
例えば、図11に示した例では、上述のように窒素富化層14Bが形成された後に、クラウニング部16cのクラウニング22Aが形成されることに起因して、窒素富化層14Bの深さT2が他の深さT1、T3より小さくなっている。しかし、窒素富化層14Bの深さT2においても0.2mm以上になっているので、クラウニング22Aが存在する中で窒素富化層14Bの深さを適切に確保されている。また、上述したプロセス条件を変更することで、上記の窒素富化層14Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
【0055】
図9に示す内輪12および外輪13における窒素富化層12B、13Bについても、その最表面(軌道面)から窒素富化層12B、13Bの底部までの距離である窒素富化層12B、13Bの厚さは、0.2mm以上となっている。ここで、窒素富化層12B、13Bの厚さは、窒素富化層12B、13Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層12B、13Bの底部までの距離を意味する。
【0056】
[窒素富化層の結晶組織]
図13に、本実施形態に係る円すいころ軸受の軸受構成部品の窒素富化層におけるミクロ組織を示す。本実施形態では窒素富化層における旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べて十分に微細化されている。具体的には、本実施形態の窒素富化層におけるミクロ組織では旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図17に示す従来の焼入れ方法によるミクロ組織と比較して2分の1以下とすることができる。これにより、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0057】
窒素富化層の特性の測定方法を説明する。
[最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法]
内輪12および外輪13については、上記の窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向に硬度分布を測定する。測定装置としてビッカース硬さ測定機を用いることができる。内輪12および外輪13について、深さ方向に並ぶ複数の測定点、例えば、0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
【0058】
円すいころ14については、図11に示す第1測定点31での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
【0059】
[粒度番号の測定方法]
旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定した断面とする。
【0060】
次に、クラウニング形状の詳細について図10図12を参照して説明する。図12はクラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。図10図11に示す円すいころ14のクラウニング部16b、16cに形成されるクラウニングの形状は、対数曲線からなるクラウニングであり、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量は、円すいころ14の転動面16の母線をy軸とし、母線と直交する方向をz軸とするy-z座標系において、K1、K2、zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円すいころの転動面16の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円すいころの転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたとき、下記の式(2)で表される。
【0061】
【数2】
【0062】
図12は、対数クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。円すいころ14の母線をy軸とし、円すいころ14の母線上であって内輪12又は外輪13と円すいころ14の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線と直交する方向(半径方向)にz軸をとったy-z座標系に、上記式(2)で表されるクラウニングの一例を示している。図12において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、円すいころ12にクラウニングを形成していない場合の内輪12又は外輪13との接触部位である。また、円すいころ14の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図12では、一方のクラウニング22Aのみを示す。
【0063】
荷重Q、有効接触部の母線方向長さLおよび等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められた値である。
【0064】
上記式(2)において、z(y)は、円すいころ14の母線方向位置yにおけるクラウニング22Aのドロップ量を示しており、クラウニング22Aの始点O1の座標は(a-K2a,0)であるから、式(2)におけるyの範囲は、y>(a-K2a)である。また、原点Oからクラウニング22Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a-K2a)のとき、z(y)=0となる。
【0065】
設計パラメータK1は荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング22Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータK2は、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング22Aの母線方向長さymの割合を意味している(K2=ym/a)。設計パラメータzmは、有効接触部の端部におけるドロップ量、すなわち、クラウニング22Aの最大ドロップ量を意味している。
【0066】
設計パラメータK1、K2、zmの最適化手法として種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、円すいころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、極めて厳しい潤滑状態における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
【0067】
本実施形態の円すいころ14の転動面16は、図10図12に示すように、母線方向の中央部分のストレート部16aと両端部のクラウニング部16b、16cとからなり、クラウニング部16b、16cは対数クラウニングで形成されている。ただし、ストレート部16aは、直線状の他、ドロップ量が数μm程度のクラウニングのある概略直線状のものを含む意味で用いる。
【0068】
本実施形態における円すいころ14のクラウニング部16b、16cのクラウニング24A、22Aは、上記の式(2)によって求められた対数クラウニングとした。ただし、上記の式(2)に限られるものではなく、他の対数クラウニング式を用いて対数曲線を求めてもよい。
【0069】
円すいころ14のクラウニング形状は任意の方法により測定できる。例えば、円すいころ14のクラウニング形状を表面性状測定機により測定してもよい。
【0070】
次に、円すいころ軸受の製造方法を説明する。図14は、図1に示す円すいころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図15は、図14の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図16は、図15に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。図17は、従来の熱処理方法による軸受構成部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
【0071】
図14に示すように、まず、部品準備工程S100を実施する。この工程では、内輪12、外輪13、円すいころ14、保持器15(図1参照)などの軸受構成部品の中間部品を準備する。円すいころ14となるべき中間部品には、まだクラウニングは形成されておらず、当該中間部品の表面は図11の破線で示す仕上げ加工前表面14Eとなっている。
【0072】
その後、熱処理工程S200を実施する。この工程では、上記の軸受構成部品の特性を確保するため、所定の熱処理を実施する。例えば、内輪12、外輪13、円すいころ14の少なくとも1つに窒素富化層12B、13B、14Bを形成するため、浸炭窒化処理又は窒化処理と、焼入れ処理、焼き戻し処理などを行う。この工程S200における熱処理パターンの一例を図15に示す。図15は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図16は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。図15図16において、処理T1では、鋼の素地に炭素又は窒素を拡散させ、また炭素の溶け込みを十分に行った後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、例えば、加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
【0073】
上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち、浸炭窒化処理に引き続いて、そのまま1回焼入れするよりも、軸受構成部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記の熱処理工程S200によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層12B、13B、14Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図17に示す従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図13に示すようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を施した軸受構成部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0074】
次に、加工工程S300を実施する。この工程では、各軸受構成部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工(例えば、研削加工、超仕上げ加工)を行う。円すいころ14については、図10、11に示すように、クラウニング22Aが形成され、クラウニング部16b、16cを含む転動面16および小端面14a、大端面14bが最終形状に仕上げられる。
【0075】
最後に、組み立て工程S400を実施する。この工程では、上記のように準備されて軸受構成部品を組み立てることにより、図1に示す円すいころ軸受1を得る。このようにして、本実施形態の円すいころ軸受1は製造される。
【0076】
本実施形態の円すいころ軸受は、円すいころの転動面に対数クラウニングを施し、内輪および外輪の軌道面をストレート形状又は緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状とする。内輪の軌道面の母線方向の形状を図7および図8に基づいて具体的に説明する。図7(a)は内輪の詳細形状を示す縦断面図で、図7(b)は、図7(a)のD部を拡大した図で、図8は、図7(a)の内輪の軌道面の母線方向の形状を示す模式図である。図7(a)、図7(b)では、円すいころの大端面側の一部輪郭を2点鎖線で示す。
【0077】
図7(a)、図8に示すように、内輪12の軌道面12aは、緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状に形成され、研削逃げ部12f、12gに繋がっている。緩やかな単一円弧のフルクラウニングの曲率半径Rcは、軌道面12aの両端で5μm程度のドロップ量が生じる極めて大きなものである。図7(a)に示すように、内輪12の軌道面12aには研削逃げ部12f、12gが設けられているので、軌道面12aの有効軌道面幅はLGとなる。
【0078】
図7(b)に示すように、大つば面12eの半径方向の外側には、大つば面12eに滑らかに接続する逃げ面12hが形成されている。逃げ面12hと円すいころ14の大端面14bとの間に形成される楔形隙間によって、潤滑油の引き込み作用を高め、十分な油膜を形成することができる。内輪12の軌道面12aの母線方向の形状は、緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状を例示したが、これに限られず、ストレート形状としてもよい。
【0079】
以上では、内輪12の軌道面12aの母線方向の形状を説明したが、外輪13の軌道面13aの母線方向の形状も同様であるので、説明は省略する。
【0080】
本実施形態の円すいころ軸受の有利な構成として、内輪12、外輪13および円すいころ14が、高炭素クロム軸受鋼(例えば、SUJ2材)からなり、内輪12、外輪13、円すいころ14の少なくとも一つ軸受構成部品は窒素富化層を形成させるための熱処理を施したものを説明したが、これに限られず、内輪12および外輪13は、クロム鋼(例えば、SCR435)又はクロムモリブデン鋼(例えば、SCM435)などの浸炭鋼とし、熱処理として従来からある浸炭焼入れ焼戻しを適用してもよい。
【0081】
最後に、本実施形態に係る円すいころ軸受の好適な用途として、自動車用トランスミッションおよび自動車用デファレンシャルの概要を図18および図19に基づいて説明する。すなわち、本実施形態に係る円すいころ軸受1は、自動車用円すいころ軸受である。図18は自動車用トランスミッションの要部の縦断面図で、図19は自動車用デファレンシャルの縦断面図である。
【0082】
図18に、本実施形態の円すいころ軸受1を、自動車のトランスミッション30の回転軸(ここでは入力軸31および出力軸32)を回転自在に支持する転がり軸受として使用した例を示す。このトランスミッション30は、エンジンの回転が入力される入力軸31と、入力軸31と平行に設けられた出力軸32と、入力軸31から出力軸32に回転を伝達する複数のギヤ列33と、これらのギヤ列33と入力軸31又は出力軸32との間に組み込まれた複数のクラッチ(図示省略)とを有し、そのクラッチを選択的に係合させることで使用するギヤ列33を切り替え、これにより、入力軸31から出力軸32に伝達する回転の変速比を変化させるものである。出力軸32の回転は出力ギヤ(図示省略)に出力され、その出力ギヤの回転がデファレンシャル(図示省略)に伝達される。デファレンシャルは、トランスミッション30の出力ギヤと噛み合うリングギヤ(図示省略)を有し、出力ギヤからリングギヤに入力される回転を、左右の車輪に分配して伝達する。入力軸31と出力軸32は、それぞれ円すいころ軸受1で回転自在に支持されている。円すいころ軸受1の潤滑は、ケーシング34内に溜められた潤滑油がギヤの回転により跳ね上げられて生じる潤滑油の飛沫により行われる。
【0083】
次に、デファレンシャルを図19に基づいて説明する。図19は一般的な自動車のデファレンシャルの縦断面図である。デファレンシャルケース100の入力側にドライブピニオン軸101が収容され、一対の円すいころ軸受15、16により回転自在に支持される。ドライブピニオン軸101は、リンクギヤ(減速大歯車)103とかみ合うドライブピニオンギヤ(減速小歯車)104が一体に設けられている。
【0084】
リンクギヤ103は差動歯車ケース105に連結され、差動歯車ケース105は一対の円すいころ軸受17、18によりデファレンシャルケース100に対して回転自在に支持される。差動歯車ケース105の内部に、一対のピニオンギヤ106と、これとかみ合う一対のサイドギヤ107とがそれぞれ配設される。ピニオンギヤ106はピニオン軸108に装着され、サイドギヤ107は差動歯車ケース105に装着されている。サイドギヤ107の内径部に左右のドライブシャフト(図示省略)が連結(セレーション連結等)される。本発明の実施形態に係る円すいころ軸受は、上記の円すいころ軸受15~18である。駆動トルクは、ドライブピニオンギヤ104→リンクギヤ103→差動歯車ケース105→ピニオンギヤ106→サイドギヤ107→ドライブシャフトという経路で伝達される。
【0085】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0086】
1 円すいころ軸受
12 内輪
12B 窒素富化層
12a 軌道面
12b 小つば部
12c 大つば部
12d 小つば面
12e 大つば面
12h 逃げ面
13 外輪
13B 窒素富化層
13a 軌道面
14 円すいころ
14B 窒素部化層
14a 小端面
14b 大端面
15 保持器
16 転動面
16a ストレート部
16b クラウニング部
16c クラウニング部
22A クラウニング
24A クラウニング
LG 有効軌道面幅
LW 有効転動面幅
Ov 頂点
R 設定曲率半径
ACTUAL 実曲率半径
BASE 基本曲率半径
T1 窒素富化層の深さ
T2 窒素富化層の深さ
T3 窒素富化層の深さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19