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  • 特許-蒸気圧計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】蒸気圧計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/28 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
G01M3/28 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022145056
(22)【出願日】2022-09-13
(65)【公開番号】P2023081831
(43)【公開日】2023-06-13
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】110144850
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520430077
【氏名又は名称】台湾電力股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】曾千▲ウェイ▼
(72)【発明者】
【氏名】陳燦堂
(72)【発明者】
【氏名】楊學文
(72)【発明者】
【氏名】蘇奎元
(72)【発明者】
【氏名】高全盛
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼勝凱
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-145123(JP,A)
【文献】特開平08-082382(JP,A)
【文献】特表2013-528732(JP,A)
【文献】特許第2954183(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0240494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00~3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物を模擬した模造炉管を用いて、異なる蒸気圧ごとの前記模造炉管の温度及び歪み量に基づいて作成された蒸気圧グラフを提供する工程と、
前記蒸気圧グラフを参照して前記目標物内部の蒸気圧値を把握し、前記目標物に蒸気漏洩が発生したか否かを判断する工程と、
を含むことを特徴とする、蒸気圧計測方法。
【請求項2】
前記蒸気圧グラフは、曲線の形式として目標曲線図に統合されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項3】
前記目標曲線図は、前記模造炉管を用いて模擬作業を行うことにより得られることを特徴とする請求項2に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項4】
前記模造炉管は、
炉管本体と、
前記炉管本体の両端をそれぞれ閉鎖する第1の柱状蓋及び第2の柱状蓋と、
前記第1の柱状蓋を貫通して前記炉管本体端部に突設されている接続管と、
前記炉管本体内に位置する内管と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項5】
前記第1の柱状蓋及び第2の柱状蓋は、金属構造であることを特徴とする請求項4に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項6】
前記内管は、金属管体であり、それと前記炉管本体の内壁との間に距離を保つことを特徴とする請求項4に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項7】
前記接続管は、ステンレス高圧管であることを特徴とする請求項4に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項8】
前記模造炉管の上には、熱電対及び歪みゲージが取り付けられることにより、異なる蒸気圧の条件において温度変化に対応する前記炉管本体の歪み量を記録することを特徴とする請求項に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項9】
前記模擬作業において、前記模造炉管の両端を閉鎖し、その内部を所定の蒸気圧まで加圧し、その蒸気圧を一定に保持し、前記模造炉管の外壁を加熱することにより、前記目標物の運転状況を模擬することを特徴とする請求項3に記載の蒸気圧計測方法。
【請求項10】
前記目標曲線図は、曲線あてはめ方法により目標式が得られ、
前記目標式は、異なる蒸気圧において運転温度による金属材料の変形を、指数の数学形式で表現することを特徴とする請求項2に記載の蒸気圧計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧計測方法に関し、特に、高温及び高圧環境下における金属物に蒸気の漏洩が発生したか否かについて予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の発電所においては、発電ボイラーの運転の際の炉内温度が摂氏1100℃と高く達するため、通常の計測デバイスはこのような高温環境に耐えない。
【0003】
現在、発電所のパイプや管路のクリープ損害を計測する予測方法では、計測デバイスを炉の外部の集管セクションに取り付ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような計測方法では、メンテナンス作業員が発電機セットの状態を即時に観察することは容易ではないため、効果的かつ適切な措置を行うことができない。
【0005】
従って、従来技術の種々の欠点を解決することは、当業界において解決しようとする極めて重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の従来技術の種々の欠点に鑑み、本発明は、温度及び歪み量に基づいて作成された蒸気圧グラフを提供する工程と、該蒸気圧グラフを参照して目標物内部の蒸気圧値を把握し、目標物に蒸気漏洩が発生したか否かを判断する工程とを含む、蒸気圧計測方法を提供する。
【0007】
上記の方法において、該蒸気圧グラフは、曲線の形式として目標曲線図に統合されてなるものである。例えば、該目標曲線図は、模造炉管を用いて模擬作業を行うことにより得られる。
【0008】
さらに、該模造炉管は、炉管本体と、該炉管本体の両端をそれぞれ閉鎖する第1の柱状蓋及び第2の柱状蓋と、該第1の柱状蓋を貫通して該炉管本体端部に突設されている接続管と、該炉管本体内に位置する内管とを備える。例えば、該第1の柱状蓋及び第2の柱状蓋は、金属構造である。あるいは、該内管は、金属管体であり、それと該炉管本体の内壁との間に距離を保つ。または、該接続管は、ステンレス高圧管である。
【0009】
さらに、該模造炉管の上には、熱電対及び歪みゲージが取り付けられることにより、異なる蒸気圧の条件において温度変化に対応する該炉管本体の歪み量を記録する。
【0010】
また、該模擬作業においては、該模造炉管の両端を閉鎖し、その内部を所定の蒸気圧まで加圧し、その蒸気圧を一定に保持し、該模造炉管の外壁を加熱することにより、該目標物の運転状況を模擬する。
【0011】
また、該目標曲線図では、曲線あてはめ方法により目標式が得られる。例えば、該目標式は、異なる蒸気圧において運転温度による金属材料の変形を、指数の数学形式で表現する。
【発明の効果】
【0012】
上記からわかるように、本発明に係る蒸気圧計測方法は、主に、蒸気圧グラフを提供することで、ユーザがグラフを参照するという方法を採用でき、該目標物に蒸気漏洩が発生したか否かを判断できるため、本発明の方法では、発電所の発電ボイラーの現場において、高温環境に入って計測デバイスを観察することなく、炉管に損害が発生したか否かを予測することができ、メンテナンス作業員(またはその他のユーザ)が容易に発電機セットの状態を即時に把握し、効果的かつ適切な措置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る蒸気圧計測方法に用いられる炉管蒸気圧グラフの目標曲線図である。
図2図1を作成するための模擬作業に用いられる模造炉管の断面模式図である。
図3図1を作成するための模擬作業に参照されるASME B31.1-2007の115ページ目の抜粋図である。
図4A図1を作成するための模擬作業に用いられるゲージファクター(Gage Factor)と温度との関係曲線図である。
図4B図1を作成するための模擬作業に用いられる温度と公称歪み(Apparent Strain)との関係曲線図である。
図5図1があてはめされた後の曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を特定の実施例に基づいて説明する。当業者は、本明細書の記載内容によって簡単に本発明の他の利点や効果を理解できる。
【0015】
本明細書に添付されている図面に示す構造、比例、寸法等は、当業者が理解できるように明細書に記載の内容に合わせて説明されるものであり、本発明の実施を制限するものではないため、技術上の実質的な意味を有せず、いかなる構造の修飾、比例関係の変更又は寸法の調整は、本発明の効果及び目的に影響を与えるものでなければ、本発明に開示されている技術内容の範囲に入ることは知るべきである。また、本明細書に記載されている、例えば、「上」、「第1」、「第2」、「一つの」等の用語は、便宜上で記載を明瞭にするためのものであり、本発明の実施可能な範囲を限定するものではなく、その相対関係の変更または調整は、技術内容の実質的な変更がなければ、本発明の実施可能な範囲に見なされるべきである。以下、本発明の実施形態を特定の実施例に基づいて説明し、当業者は本明細書の記載内容によって簡単に本発明の他の利点や効果を理解できる。
【0016】
本発明に係る蒸気圧計測方法では、温度と歪み量とを利用して炉管蒸気圧グラフ(図1に示す目標曲線図)を作成し、メンテナンス作業員が上記グラフを参照して、炉における炉管(例えば、熱交換管)内部の蒸気圧値を把握することにより、目標物(例えば、実際の炉管)に異常な膨張または管の破損等による蒸気漏洩事故が発生しているか否かを判断する。
【0017】
この実施例において、該目標曲線図は、模造炉管2(図2に示す)を用いて模擬作業を行うことにより得られる。
【0018】
上記の模造炉管2は、炉管本体2aと、該炉管本体2aの両端をそれぞれ閉鎖する第1の柱状蓋21及び第2の柱状蓋22と、該第1の柱状蓋21を貫通して該炉管本体2aの端部に突設されている接続管20と、該炉管本体2a内に位置する内管23と、該炉管本体2aの周面に環状に設けられ溶接ビード24とを備える。
【0019】
上記の炉管本体2aは、無欠損の炉管のサンプルであり、そのサンプリングの長さが150mm+2Dよりも大きく、該無欠損の炉管を機械的に切り取った後、その表面に対して非破壊的検査を行い、標準を満たせば、後続の加工作業が行われる。ここで、Dは、該無欠損の炉管の外径である。
【0020】
上記の第1の柱状蓋21及び第2の柱状蓋22は、ステンレス材質の凸形状構造である。
【0021】
上記の内管23は、ステンレス管体であり、それと該炉管本体2aの内壁との間の距離が0.5mmである。
【0022】
上記の接続管20は、ステンレス材質の高圧管であり、圧力注入管として用いられる。
【0023】
上記の模造炉管2の開先加工作業は、ASME B31.1の溶接規則に基づいて行われ、該炉管本体2aと、該第1の柱状蓋21、第2の柱状蓋22及び接続管20との溶接工程をタングステン電極アルゴンアーク溶接で行い、溶接が完了した後に、該溶接ビード24は、10分間以内の圧力減少がないことを確保するために、放射線検査が行われて模擬作業の前に1.2倍圧力の水圧試験が実行されるべきである。
【0024】
この実施例において、該模擬作業の環境温度は10℃~30℃に保持されている。
【0025】
さらに、該模造炉管2は、加工前にその内径、外径及び軸方向寸法を記録すべきである。例えば、外径が46.52mmであり、管壁の厚さが5.62mmである。
【0026】
また、該模造炉管2の上、中及び下の3つの領域において、いずれも少なくとも1つの熱電対及び歪みセンサが取り付けられている。
【0027】
また、該模造炉管2に対して加圧して10分間圧力を維持した後に、加熱しながら関連データを記録することを始める。
【0028】
模擬作業においては、該模造炉管2は実際の炉管と見なすことができ、その両端を閉鎖してその内部を所定の蒸気圧まで加圧し、その蒸気圧を一定に保持しながら、該模造炉管の外壁を加熱することにより、実際の炉管の運転状況を模擬する(模擬運転温度は、常温から摂氏850℃までである)。ここで、該模擬作業は、実際の発電所のボイラーの炉管運転状態を模擬しており、該炉管本体2aの上には、熱電対及び歪みゲージが取り付けられることにより、異なる蒸気圧の条件下において温度変化に対応する該炉管本体の歪み量を記録し、下表の通りである。
【表1】
【0029】
ここで、図1において、温度(横軸)毎に7つの歪みの記録が生じる。
【0030】
この実施例において、加圧の方法としては、加圧設備の回路に放出バルブと加圧バルブと搭載し、接続管により均一に該模造炉管2へ圧力を連続的に印加して所要の圧力値に調整する。例えば、圧力印加の過程において、加圧媒体としては脱イオン水が用いられ、また、模擬圧力は実際に使用されている圧力の5%~100%の間にあり、圧力値の相対誤差は1.0%よりも小さい。
【0031】
さらに、模擬過程において、該蒸気圧が所定の圧力値よりも1.0%低くなった場合は、直ちに加圧して一定の圧力を保持し、該蒸気圧が1.0%低下する時間は1分間未満である。
【0032】
一方、加熱過程において、ヒータの温度制御用の熱電対としてはR-Typeが用いられ、該模造炉管2の温度測定用の熱電対としてはK-Typeが用いられる。例えば、温度制御器の精度は0.1℃であり、温度補償の精度は±1℃内である。
【0033】
また、加熱用の高温炉には、3つの独立の温度制御領域(即ち、上、中、下等の3つの領域)が設けられており、均一温度領域の長さは該模造炉管の長さよりも1.2倍大きい。例えば、該高温炉の加熱素子には、少なくとも1つの隔離装置が大気にさらされないように設けられている。また、該高温炉の上、中、下等の3つの領域の温度偏差は±3℃よりも小さい。
【0034】
模擬過程において、該炉管本体2aの外径と管壁の厚さの要素のほか、該炉管本体2aの材質も図3に示すようにその変形量に影響する(ASME B31.1-2007の115ページ目のMaximum Allowable Stress Values in Tension, MPa, for Metal Temperature, °C, Not Exceedingから抜粋)。例えば、炭素鋼、低合金鋼またはステンレス等の金属材料を選択すると、高温時の最大許容応力の表現はそれぞれ異なり、また、クロム含有量によって、最大許容応力の急遽低下が生じる温度値が決定される。従って、金属材料の高温時の許容応力の表現によって、該炉管本体2aの高温高圧での運転時の変形量が決定される。
【0035】
模擬過程において、該歪みゲージは、該炉管本体2aの表面に取り付けられており、(該歪みゲージのデータを抽出する)電子装置と回路バランスが取れているので、計測される歪み値は指示歪み(Indicated Strain)であり、また、温度変化により抵抗が変化することによって、該歪みゲージのゲージファクターは図4Aに示すように温度の変化に応じて増減する。温度によって誘起される抵抗変化から計測された歪み値は、公称歪み(Apparent Strain)と呼ばれ、図4Bに示されている。従って、該歪みゲージと該炉管本体2aとの材料結合によって、両者の熱膨張効果に公称機械歪み(Apparent Mechanical Strain)が生じるので、正確な歪みを求めるために、該ゲージファクター及び該公称歪みに対して歪み補償(Strain of compensated)を行うことができる。
【0036】
模擬が終了した後に、模擬データを図1に示す目標曲線図に統合する。図1において、一定の温度条件下で、蒸気圧が次第に増加することに伴って、歪み量が規則的に増加する。持続的に加熱されると、異なる蒸気圧の場合において、該炉管本体2aは同様の歪み量の曲線傾向が生じる。さらに、温度が500度以上になる場合、結晶粒界にフェライトが析出することに起因して、歪み量が顕著に増加し始める。従って、正常の運転条件では、歪み量には合理的な変化が存在する。このため、実際の炉管が異常な蒸気圧、長期の過熱又は短期の過熱等の各状況下で運転されると、その歪み量は直ちに急遽に上昇し、クリープ速度の増加幅によってもその管破損事故の発生時間を予測することができる。
【0037】
図1に示す目標曲線図に基づいて、曲線あてはめ方法により、以下に示すように目標式(Tzeng’s Equation)が得られる。
(数1)
ε=A×e-T/B+C×e-T/D+E
ここで、蒸気圧17MPaを例として、図5に示すように、εは炉管材料の歪み量であり、Tはボイラーの運転の摂氏温度であり、A、B、C、D及びEは指定数値(または係数)であり、eは自然定数である。理解されるべきなのは、異なる蒸気圧において運転温度Tによる金属材料の変形について、いずれも指数の数学形式で表現できることである。
【0038】
上記の説明をまとめると、本発明に係る蒸気圧計測方法は、主に、温度及び歪み量に基づいて作成された炉管蒸気圧グラフを利用することにより、メンテナンス作業員(または他のユーザ)がグラフを参照するという方法で該目標物内部の蒸気圧値を把握し、該目標物内部に異常(例えば、膨張または管破損)による蒸気漏洩が発生しているかを容易かつ効果的に判断できる。
【0039】
上記実施例は、本発明の原理及びその効果を例示的説明に過ぎず、本発明を限定するためのものではなく、当業者が本発明の主旨を逸脱しない範囲で上記の実施例に対して修正することが可能である。従って、本発明の権利保護範囲は、後述の特許請求の範囲の通りである。
【符号の説明】
【0040】
2 模造炉管
2a 炉管本体
20 接続管
21 第1の柱状蓋
22 第2の柱状蓋
23 内管
24 溶接ビード
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5