(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/025 20160101AFI20231201BHJP
【FI】
C08G75/025
(21)【出願番号】P 2022524872
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047916
(87)【国際公開番号】W WO2021234992
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020089533
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 瑞輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128539(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125480(WO,A1)
【文献】特開2016-108488(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068159(WO,A1)
【文献】特開2004-123958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00-75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)前記仕込み混合物を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる前段重合工程と、
(3)反応系内の反応混合物に相分離剤を添加して相分離状態を形成する相分離工程と、
(4)相分離工程後に重合反応を継続する後段重合工程と、
を含み、
前記前段重合工程において、前記ジハロ芳香族化合物の転化率が80質量%より高く93質量%以下である時点において、前記プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後に、反応系内の前記反応混合物に芳香環に結合する3つ以上のハロゲン原子を有する芳香族化合物を添加する、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記前段重合工程に供される前記仕込み混合物における前記有機極性溶媒の量が、前記硫黄源1モル当たり500g以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記前段重合工程において添加される芳香環に結合する3つ以上のハロゲン原子を有する前記芳香族化合物の量が、前記硫黄源1モルに対して0.010~0.050モルである、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記相分離剤として、水と有機カルボン酸金属塩とを組み合わせて用いる、請求項1~3のいずれ1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
前記有機カルボン酸金属塩が酢酸ナトリウムである、請求項4に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
前記相分離剤としての前記水の質量が、前記有機カルボン酸金属塩の質量の10倍以上50倍以下である、請求項4又は5に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項7】
前記相分離剤としての前記水の質量が、前記有機カルボン酸金属塩の質量の20倍以上30倍以下である、請求項4又は5に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」とも称する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」とも称する。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PASは、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
上記のPAS樹脂を成形品に成形する際に、バリが生じることがしばしばある。このようなバリの発生を抑制するために、高溶融粘度のPASがバリ抑制剤として用いられている。
【0004】
かかる高溶融粘度のPASの製造において、廃棄物としての超微粉体が多量に発生することが問題となっている。廃棄物量が多い場合、廃棄物の処理に時間やコストがかかるため、PASの生産性が悪化する。このため、廃棄物としての超微粉体の発生量を低減できる分岐型PASの製造方法が求められている。
【0005】
かかる超微粉体の発生の問題を解決できるPASの製造方法として、以下の工程(1)~(3):
(1)有機アミド溶媒、硫黄源、水、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程;
(2)該仕込み混合物を170~280℃の温度で重合反応させて、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、
(3)該プレポリマーを含有する反応系を245~290℃の温度で、相分離状態で重合反応を継続する後段重合工程;
を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法において、相分離状態の反応系に多官能化合物を添加することを特徴とするPASの製造方法が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1等に開示される従来の製造方法では、超微粉の発生を抑制出来ても、高溶融粘度のPASを得にくい問題があることが分かった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、超微粉の発生を抑制しつつ、高溶融粘度のPASを製造できるPASの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる前段重合工程と、(3)反応系内の反応混合物に相分離剤として水を添加して相分離状態を形成する相分離工程と、(4)相分離工程後に重合反応を継続する後段重合工程とを含むPASの製造方法において、前段重合工程にてジハロ芳香族化合物の転化率が80質量%より高く93質量%以下であって、プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後の時点において、ポリハロ芳香族化合物を反応混合物に添加することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明にかかるPASの製造方法は、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる前段重合工程と、
(3)反応系内の反応混合物に相分離剤を添加して相分離状態を形成する相分離工程と、
(4)相分離工程後に重合反応を継続する後段重合工程と、
を含み、
前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80質量%より高く93質量%以下である時点において、プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後に、反応系内の反応混合物に芳香環に結合する3つ以上のハロゲン原子を有する芳香族化合物を添加する、ポリアリーレンスルフィドの製造方法である。
【0011】
本発明にかかるPASの製造方法では、前段重合工程に供される仕込み混合物における有機極性溶媒の量が、硫黄源1モル当たり500g以下であってもよい。
【0012】
本発明にかかるPASの製造方法では、前段重合工程において添加されるポリハロ芳香族化合物の量が、硫黄源1モルに対して0.010~0.050モルであってもよい。
【0013】
本発明にかかるPASの製造方法では、相分離剤として、水と有機カルボン酸金属塩とを組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明にかかるPASの製造方法では、相分離剤としての水の質量が、有機カルボン酸金属塩の質量の10倍以上50倍以下であってもよい。
【0015】
本発明にかかるPASの製造方法では、相分離剤としての水の質量が、有機カルボン酸金属塩の質量の20倍以上30倍以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超微粉の発生を抑制しつつ、高溶融粘度のPASを製造できえASの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかるPASの製造方法の一実施形態について以下に説明する。本実施形態におけるPASの製造方法は、必須の工程として、仕込み工程と、重合工程と、相分離工程と、後段重合工程とを含む。本実施形態におけるPASの製造方法は、所望により、脱水工程、冷却工程、後処理工程等を含んでもよい。
以下、本発明に用いられる各材料について詳細に説明するとともに、各工程について詳細に説明する。
【0018】
なお、本出願の明細書、及び請求の範囲において、「ジハロ芳香族化合物」は、芳香環に直結した2個の水素原子がハロゲン原子で置換された芳香族化合物を意味する。
本出願の明細書、及び請求の範囲において、「ポリハロ芳香族化合物」は、芳香環に結合する3つ以上のハロゲン原子を有する芳香族化合物を意味する。
【0019】
(有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物)
有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物としては、特に限定されず、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物の各々は、単独で用いてもよいし、所望する化学構造を有するPASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも称する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンがさらにより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0021】
有機極性溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、上記硫黄源1モルに対し、1~30モルが好ましく、3~15モルがより好ましい。
【0022】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることができ、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物が好ましく、アルカリ金属水硫化物がより好ましい。硫黄源は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うことができ、計量性、搬送性等のハンドリング性の観点から、水溶液の状態であることが好ましい。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムが挙げられる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムが挙げられる。
【0023】
ジハロ芳香族化合物としては、例えば、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ-ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等のジハロ芳香族化合物が挙げられる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個以上のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。中でも、入手性、反応性等の点で、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、及びこれら両者の混合物が好ましく、p-ジハロベンゼンがより好ましく、p-ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」とも称する。)が特に好ましい。
【0024】
ジハロ芳香族化合物の使用量は、硫黄源の仕込み量1モルに対し、好ましくは0.90~1.50モルであり、より好ましくは0.92~1.10モルであり、さらにより好ましくは0.95~1.05モルである。上記使用量が上記範囲内であると、分解反応が生じにくく、安定的な重合反応の実施が容易であり、高分子量ポリマーを生成させやすい。
【0025】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機極性溶媒、及び硫黄源を含有する混合物を含む系内から、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する工程である。脱水工程に供される混合物は、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物を含んでいてもよい。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しないように、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0026】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0027】
脱水工程における加熱温度は、特に限定されず、300℃以下が好ましく、100~250℃がより好ましい。加熱時間は、15分~24時間であることが好ましく、30分~10時間であることがより好ましい。
【0028】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、仕込み混合物(後述)における水分量が、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」又は「有効硫黄源」とも称する)1.0モルに対して、好ましくは0.5~2.4モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、前段重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0029】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する混合物を調製する工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0030】
脱水工程を行う場合、仕込み混合物における硫黄源の量(以下、「仕込み硫黄源の量」又は「有効硫黄源の量」とも称する。)は、原料として投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって、算出することができる。
【0031】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。特に、脱水時に生成した硫化水素の量と脱水時に生成したアルカリ金属水酸化物の量とを考慮したうえで、アルカリ金属水酸化物を添加することが出来る。アルカリ金属水酸化物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。アルカリ金属水酸化物は、単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。なお、アルカリ金属水酸化物のモル数は、仕込み工程で必要に応じて添加するアルカリ金属水酸化物のモル数、並びに、脱水工程を行う場合には、脱水工程において必要に応じて添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、及び、脱水工程において硫化水素の生成に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。硫黄源がアルカリ金属硫化物を含む場合には、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、アルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。硫黄源に硫化水素を使用する場合には、生成するアルカリ金属硫化物のモル数を含めて、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を算出するものとする。ただし、他の目的で添加されるアルカリ金属水酸化物のモル数、例えば、相分離剤として有機カルボン酸金属塩を有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物との組み合わせの態様で使用する場合には、中和等の反応で消費したアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。さらに、何らかの理由で、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が使用される場合等は、上記少なくとも1種の酸を中和するに必要なアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。
【0032】
仕込み混合物において、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物の各々の使用量は、例えば、硫黄源の仕込み量1モルに対し、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物に関する上記説明中で示す範囲に設定される。
なお、前段重合工程に供される仕込み混合物における有機極性溶媒の量は、硫黄源1モル当たり500g以下が好ましく、450g以下がより好ましく、400g以下が特に好ましい。仕込み混合物における有機極性溶媒の量の下限は、前段重合工程において仕込み混合物を良好に流動させることができる限り特に限定されない。仕込み混合物における有機極性溶媒の量の下限は、例えば、硫黄源1モル当たり200g以上が好ましく、250g以上がより好ましく、300g以上がさらに好ましい。
【0033】
(前段重合工程、相分離剤添加工程、及び後段重合工程)
前段重合工程は、仕込み混合物を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる工程である。前段重合工程では、有機極性溶媒中で硫黄源と、ジハロ芳香族化合物とを重合させて分岐していない状態のPASのプレポリマーを生成させる。なお、前段重合工程及び後段重合工程において加熱される混合物と、相分離剤添加工程において相分離剤が添加される混合物と、相分離剤添加工程において相分離した混合物とを、「反応混合物」と称する。
【0034】
高分子量のPASを得るために、重合反応は2段階以上に分けて行われる。具体的には、上記の前段重合工程と、相分離剤の存在下で重合反応を継続する後段合工程とが行われる。相分離剤は、前段重合工程と後段重合工程との間に設けられる相分離剤添加工程において反応混合物に加えられる。
【0035】
前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80質量%より高く93質量%以下である時点において、プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後に、反応系内の反応混合物にポリハロ芳香族化合物を添加する。
このようにポリハロ芳香族化合物を添加することによって、超微粉の発生を抑制しつつ、高溶融粘度のPASを製造することができる。
ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
本明細書において、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0036】
なお、前段重合工程の条件をあらかじめ設定したうえで、前段重合工程での反応を実施後、TCBを添加せずに室温付近まで冷却することで、分岐していない状態のPASプレポリマーを含む反応混合物が得られる。この反応混合物を試料として用い、前述の方法により測定されたジハロ芳香族化合物転化率及びPASの重量平均分子量を、ポリハロ芳香族化合物添加時のジハロ芳香族化合物転化率及びプレポリマーの重量平均分子量とすることができる。
このようにして、前段重合工程でのジハロ芳香族化合物転化率及びプレポリマーの重量平均分子量を把握しておくことにより、ポリハロ芳香族化合物の添加のタイミングをあらかじめ決定しておくことができる。
【0037】
前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80質量%より高く93質量%以下である時点において、プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後に、反応系内の反応混合物にポリハロ芳香族化合物が添加される。
特に良好に超微粉の発生を抑制でき、また、特に高溶融粘度のPASを製造しやすいことから、ポリハロ芳香族化合物を添加する際のジハロ芳香族化合物の転化率は、83質量%以上が好ましく、86質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
ポリハロ芳香族化合物は、粉体、融液、溶液、又は分散液として反応混合物に添加され得る。ポリハロ芳香族化合物を溶液又は分散液として添加する場合、溶媒又は分散媒体としては、前述の有機極性溶媒を好ましく使用できる。
【0038】
ポリハロ芳香族化合物は、芳香環に結合する3つ以上のハロゲン原子を有する芳香族化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素等が挙げられる。ポリハロ芳香族化合物における3以上のハロゲン原子は、同じであっても異なっていてもよい。ポリハロ芳香族化合物における、芳香環に結合するハロゲン原子の数は3以上であれば特に限定されず、3~5の整数が好ましく、3又は4がより好ましく、3が特に好ましい。ポリハロ芳香族化合物は、1種を単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0039】
前段重合工程において反応混合物に加えられるポリハロ芳香族化合物の好適な具体例としては、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,2,3,4-テトラクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロ-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,4,6-トリクロロトルエン、1,2,3-トリクロロナフタレン、1,2,4-トリクロロナフタレン、1,2,3,4-テトラクロロナフタレン、2,2’,4,4’-テトラクロロビフェニル、2,2’,4,4’-テトラクロロベンゾフェノン、2,4,2’-トリクロロベンゾフェノン等の、ハロゲン置換数3以上のポリハロ芳香族化合物が挙げられる。
【0040】
オリゴマー、又はプレポリマーとの反応性や得られるPASの重合度(溶融粘度)や収率等の観点から、ポリハロ芳香族化合物としては、1,2,4-トリクロロベンゼンが特に好ましい。以下、1,2,4-トリクロロベンゼンをTCBと記す場合がある。
【0041】
前段重合工程において添加されるポリハロ芳香族化合物の量は、硫黄源1モルに対して、0.005~0.200モルが好ましく、0.005~0.150モルがより好ましく、0.005~0.100モルがさらに好ましく、0.010~0.100モルがさらに好ましく、0.010~0.050モルが特に好ましい。硫黄源1モル当たりのポリハロ芳香族化合物の量が少なすぎると、高収率でPASを得にくい場合がある。ポリハロ芳香族化合物の量が多すぎると、生産コストの増大や、架橋反応の過度の進行により、粒状のPASの平均粒径が小さくなり、製品として回収できるPASの量が減少することがある。
【0042】
前段重合工程、及び後段重合工程では、重合反応の効率等の観点から、温度170~300℃の加熱下で重合反応を行うことが好ましい。前段重合工程、及び後段重合工程における重合温度は、180~290℃の範囲であることが、副反応及び分解反応を抑制する上でより好ましい。特に、前段重合工程では、重合反応の効率等の観点から、温度170~270℃の加熱下で重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率を80質量%より高く93質量%以下である範囲内とし、重量平均分子量が10000以上のプレポリマーを生成させることが好ましい。前段重合工程における重合温度は、180~265℃の範囲から選択することが、副反応及び分解反応を抑制する上で好ましい。
【0043】
前段重合工程に続く後段重合工程において、前記プレポリマーの重合度を上昇させる。
後段重合工程において、先に説明した前段重合工程で生成したプレポリマーを含有する反応系を加熱して、相分離状態で重合反応を継続する。後段重合工程での重合温度は、通常前段重合工程より高い温度であるのが好ましい。後段重合工程での重合温度は、好ましくは240~290℃、より好ましくは250~280℃、さらに好ましくは255~275℃である。後段重合工程での重合温度が低すぎると、相分離状態を発現しないため高重合度のPASが得られにくい。重合温度が高すぎると、生成したPASや有機極性溶媒が分解するおそれがある。重合温度は、一定の温度に維持されるのが好ましい。重合温度は、必要に応じて、後段重合工程中に段階的に又は連続的に上げられても下げられてもよい。
【0044】
相分離剤の存在により、後段重合工程においては、重合反応系(反応混合物)は、ポリマー濃厚相(有機アミド溶媒中のポリマー濃度が高い相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒中のポリマー濃度が低い相)とに相分離する。相分離は、相分離剤の添加時期の調整や重合温度の調整等により、後段重合工程の途中で生じさせてもよい。
【0045】
相分離剤としては、良好な相分離状態を形成しやすいことから、水が好ましい。相分離剤添加工程においてと、水以外の相分離剤を使用し得る。水以外の相分離剤は、単独で使用されてもよく、水とともに使用されてもよく、水とともに使用されるのが好ましい。水以外の相分離剤としては、特に限定されない。水以外の相分離剤としては、例えば、有機カルボン酸金属塩(例えば、酢酸ナトリウムのような脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩や、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩等)、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、及び無極性溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、相分離剤として使用される上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
超微粉の発生の抑制効果が高いことから、相分離剤として、水と有機カルボン酸金属塩とを組み合わせて用いるのが好ましく、水と酢酸ナトリウムとを組み合わせて用いるのがより好ましい。
水と有機カルボン酸金属塩とを組み合わせて用いる場合、相分離剤としての水の質量は、有機カルボン酸金属塩の質量の10倍以上50倍以下が好ましく、20倍以上30倍以下がより好ましい。
【0046】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機極性溶媒1kgに対し、0.01~20モルの範囲内でよい。相分離剤として水を用いる場合、相分離剤として使用される水の量は、硫黄源1モル当たり2以上10モル以下が好ましく、2.1モル以上7モル以下がより好ましく、2.2モル以上5モル以下がさらに好ましい。
【0047】
後段重合工程において、アルカリ金属水酸化物の量は、硫黄源1モルに対し、好ましくは1.00~1.10モル、より好ましくは1.01~1.08モル、さらにより好ましくは1.02~1.07モルである。アルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内であると、得られるPASの分子量がより上昇しやすく、より高分子量のPASをより得やすい。後段重合工程では、前段重合工程後の反応混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量に基づき、最終的なアルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内となるように、該反応混合物にアルカリ金属水酸化物が添加されるのが好ましい。
【0048】
前段重合工程、及び後段重合工程における重合反応は、バッチ式で行ってもよいし、連続的に行ってもよい。例えば、少なくとも、有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物の供給と、有機極性溶媒中での硫黄源とジハロ芳香族化合物との反応によるPASの生成と、PASを含む反応混合物の回収と、を同時並行で行うことにより、重合反応を連続的に行うことができる。
【0049】
(後処理工程、及び回収工程)
以上説明した方法により生成したPASは、通常、後処理工程、及び回収工程を経て回収される。後処理工程及び回収工程は、常法によって行うことができる。例えば、後段重合工程後の反応混合物を冷却することにより、粒状のポリマー生成物を含むスラリーが得られる。冷却した生成物スラリーをそのまま、又は水等で希釈してから、濾別し、洗浄・濾過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収できる。
【0050】
上記の方法により粒状のPASを生成させることにより、例えばスクリーンを用いて篩分する方法により、粒状のPASを、反応液から分離できる。そうすることで、PASを、副生物やオリゴマー等から容易に分離することができる。生成物スラリーが高温状態のままで、粒状のPASを篩分してもよい。具体的には、100メッシュ(目開き径150μm)のスクリーンにより分離される(「100メッシュオン」ということもある。)粒状のPASを製品として回収できる。
【0051】
上記のようにして生成物スラリーから回収される粒状のPASは、前述の有機極性溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄されるのが好ましい。高温水等で粒状のPASを洗浄してもよい。また、粒状のPASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0052】
また、前述の100メッシュ(目開き径150μm)のスクリーンを通過する(「100メッシュパス」ということもある。)生成物についても同様の洗浄等の処理を行い、さらに400メッシュ(目開き径38μm)のスクリーンを使用して篩分することにより分離される(「400メッシュオン」ということもある。)、100メッシュパス400メッシュオンの微粉体と、400メッシュパスの超微粉体とを回収する。
微粉体は、粒径が小さいため製品として回収されない粒子状PASであって、製品として回収される粒子状のPASと同程度の分子量を有するPASからなる微粒子である。微粉体のうちの大部分の粒子の粒子径は、38μm以上150μm未満の範囲内である。
超微粉体は、粒径が小さいため製品として回収されない粒子状PASであって、副反応の影響により分子量が小さいPASからなる微粒子である。超微粉体のうちの大部分の粒子の粒子径は、38μm未満である。
超微粉体はオリゴマー成分を含む。このため、超微粉体の組成は複雑である。それゆえ、超微粉体を無害化して廃棄処理する際に、多大な費用がかかる。
本発明によれば、微粉体及び超微粉体、中でも超微粉体の生成量が減少するので、産業廃棄物の減少による環境問題への寄与及び産業廃棄物処理費用の低減という効果も奏される。
【0053】
本実施形態におけるPASの製造方法において、PASは、特に限定されず、PPSであることが好ましい。
【0054】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、本出願の明細書に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本出願の明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種特性や物性等の測定方法は、次のとおりである。
【0056】
(1)溶融粘度
ポリマーの溶融粘度は、乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1-Cを使用して測定した。この際、キャピラリーは、2.095mmφ×8.04mmLの流入角付きダイを使用し、設定温度は、330℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、せん断速度2sec-1での溶融粘度を測定した(単位:Pa・s)。
【0057】
(2)平均粒径
ポリマーの平均粒径は、100メッシュ(目開き径150μm)オンのポリマー粒子について、さらに使用篩として、7メッシュ(目開き径2,800μm)、12メッシュ(目開き径1,410μm)、16メッシュ(目開き径1,000μm)、24メッシュ(目開き径710μm)、32メッシュ(目開き径500μm)、60メッシュ(目開き径250μm)及び80メッシュ(目開き径180μm)を使用する篩分法により測定した。
【0058】
(3)超微粉体の回収量
回収工程において、100メッシュ(目開き径150μm)のスクリーンを通過する生成物について、さらに400メッシュ(目開き径38μm)のスクリーンを使用して篩分することにより、400メッシュパスの超微粉体とを回収し、その量を測定した。測定された超微粉体の質量と回収されたポリマー全体の質量とに基づいて、回収されたポリマー全体の質量に対する超微粉体の質量の比率を算出した。
【0059】
[実施例1]
1.脱水工程:
硫黄源として、水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を用いた。チタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略記)6,000g、62.53質量%の水硫化ナトリウム水溶液2,010g、73.21質量%の水酸化ナトリウム水溶液1,146gを投入した。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、水酸化ナトリウム/硫黄源(NaOH/S)のモル比(モル/モル)は0.937であった。
【0060】
反応缶内を窒素ガスで置換した後、約3時間かけて、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温して、水(H2O)906g、NMP808g、及び硫化水素(H2S)13.53g(0.40モル)を留出させた。
【0061】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、反応缶を温度150℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記する。)3,467g、NMP2,839g、純度97%水酸化ナトリウム8g、及び水68gを加えて仕込み混合物を調製したところ、缶内の温度は140℃に低下した。缶内のNMP/Sの比率(g/モル)は365であり、pDCB/S(モル/モル)は1.072であり、H2O/S(モル/モル)は1.50であり、かつ、NaOH/S(モル/モル)は1.00であった。
【0062】
3.重合工程:
(前段重合工程)
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで回転して仕込み混合物を撹拌しながら220℃まで昇温し、220℃で1時間反応させた後、230℃で1.5時間反応させた。230℃で1.5時間反応させた時点で、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を、TCBのモル数の硫黄源(S)のモル数に対する比率がTCB/Sとして0.03モル/モルであるように反応混合物に添加した。TCBの添加後、NMP770gを添加した。NMPの添加後、さらに230℃で0.25時間反応を行った。
TCB添加時のpDCBの転化率は93質量%であった。転化率は、明細書において説明した方法により測定された。
TCB添加時のプレポリマーの重量平均分子量は、13000であった。重量平均分子量は、明細書において説明した方法により測定された。
【0063】
(相分離工程、及び後段重合工程)
前段重合工程後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、相分離剤として、97%水酸化ナトリウム26gを溶解させた水297gを圧入し〔缶内の合計水量/NMPは5.6(モル/kg)であり、缶内の合計水量/有効Sは2.25(モル/モル)であり、かつ、NaOH/Sは1.029(モル/モル)であった。〕、次いで、反応混合物を温度255℃まで昇温したところ、相分離状態となった。その後、温度255℃を維持して2時間重合反応させた。
【0064】
4.後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状のPASについて、溶融粘度が288000Pa・sであり、平均粒径が488μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は7.8質量%であった。
【0065】
[実施例2]
製造条件を表1に記載の条件に変更することの他は、実施例1と同様にして粒状のPASを得た。得られた粒状のPASについて、溶融粘度が279000Pa・sであり、平均粒径が455μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は6.5質量%であった。
【0066】
[実施例3]
製造条件を表1に記載の条件に変更することの他は、実施例1と同様にして粒状のPASを得た。得られた粒状のPASについて、溶融粘度が239000Pa・sであり、平均粒径が596μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は5.4質量%であった。
【0067】
[実施例4]
製造条件を表1に記載の条件に変更し、前段重合における230℃の反応時間を1時間15分にすることの他は、実施例1と同様にして粒状のPASを得た。得られた粒状のPASについて、溶融粘度が248000Pa・sであり、平均粒径が978μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は10.8質量%であった。
【0068】
[比較例1]
製造条件を表1に記載の条件に変更することの他は、実施例1と同様にして粒状のPASを得た。
なお、前段重合工程では、220℃で3時間反応を行った後に、TCBを添加した。TCBの添加後、NMPを添加した。NMPの添加後、230℃で0.25時間反応を続けた。
得られた粒状のPASについて、溶融粘度が207000Pa・sであり、平均粒径が1546μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は18.6質量%であった。
【0069】
[比較例2]
製造条件を表1に記載の条件に変更することの他は、実施例1と同様にして粒状のPASを得た。
なお、前段重合工程では、220℃で1時間反応を行い、さらに230℃で2時間反応を行った後に、TCBを添加した。TCBの添加後、NMPを添加した。NMPの添加後、230℃で0.25時間反応を続けた。
得られた粒状のPASについて、溶融粘度が183000Pa・sであり、平均粒径が732μmであった。また、回収されたPASの全質量に対する超微粉体の比率は14.7質量%であった。
【0070】
【0071】
表1によれば、前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物であるpDCBの転化率が80質量%より高く93質量%以下である時点において、プレポリマーの重量平均分子量が10000以上に達した後にポリハロ芳香族化合物であるTCBを反応混合物に添加した実施例では、高溶融粘度であり超微粉体の比率が少ないPASを製造できることが分かる。
他方、前段重合工程において、プレポリマーの重量平均分子量が10000に達する前か、pDCBの転化率が80質量%より高く93質量%以下である範囲から外れる時点でTCBを反応混合物に添加した比較例では、溶融粘度が高く、超微粉体の比率が少ないPASの製造が困難であった。