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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】光触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/138 20060101AFI20231201BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231201BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231201BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231201BHJP
   C01G 29/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
B01J27/138 M
B01J35/02 J
B01J37/04 102
B01J37/08
C01G29/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023083910
(22)【出願日】2023-05-22
(62)【分割の表示】P 2023523515の分割
【原出願日】2022-12-15
【審査請求日】2023-05-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋航
(72)【発明者】
【氏名】太田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜
(72)【発明者】
【氏名】冨田 修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 肇
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0106982(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102513133(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111790412(CN,A)
【文献】ISHII,Yusuke, et al.,Improved water oxidation activity of a Sillen SrBi3O4Cl3 photocatalyst by flux method with an appropriate binary-component molten salt,Sustainable Energy & Fuels,2022年06月09日,Vol. 6,p.3263-3270,Supplementary Information,DOI:10.1039/d2se00635a
【文献】石井 佑典、他,可視光応答型酸ハロゲン化物光触媒SrBi3O4Cl3の高活性化にむけた物性制御,第128回触媒討論会討論会A予稿集,2021年09月08日,A1講演1C13
【文献】石井 佑典、他,層状酸ハロゲン化物SrBi3O4Cl3光触媒の塩化物混合フラックスを用いる単相合成と可視光酸素生成活性,日本化学会第102春季年会講演予稿集,2022年03月09日,B304-3vn-04
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01G 29/00
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi元素及びアルカリ土類金属であるSr元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素であるCl元素で構成された3つのハロゲン層と、により構成された組成式がSrBi Cl である層状酸ハロゲン化物の複数の結晶片を備え、3つの前記ハロゲン層は、一層状にCl元素が配列した1つの第1のハロゲン層、及び、二層状にCl元素が配列した2つの第2のハロゲン層であり、前記層状酸ハロゲン化物は、2つの前記フルオライト層と1つの前記第1のハロゲン層と2つの前記第2のハロゲン層とが前記第2のハロゲン層、前記フルオライト層、前記第1のハロゲン層、前記フルオライト層、及び前記第2のハロゲン層の順に配置された板状結晶である光触媒の製造方法において、
炭酸ストロンチウムSrCO の粉末と塩化酸化ビスマスBiOClの粉末とKCl-SrCl 混合フラックスとが混合された前駆体溶液を600~750℃の範囲で加熱することで前記炭酸ストロンチウムSrCO の粉末及び前記塩化酸化ビスマスBiOClの粉末を溶解し、かつ前記KCl-SrCl 混合フラックスを蒸発させる加熱工程と、
前記前駆体溶液に対して前記加熱工程を行った後に、徐冷を行うことで前記層状酸ハロゲン化物の前記板状結晶を成長させる徐冷工程と、
前記徐冷工程後に、前記板状結晶を物理的に破砕し微粉末化する破砕工程と、を備える
光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光の照射によって励起される光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光照射によって化学物質を分解する。光触媒において、波長が400nm以上である可視光の照射によって触媒活性を示す可視光応答性の光触媒がある。例えば、可視光応答性を示す典型金属化合物として、ビスマス複合アニオン化合物BiXY(Xは第16族元素アニオン、Yは第17族元素アニオン)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたビスマス複合アニオン化合物は、可視光に応答できるバンドギャップを有する、材料を構成するハロゲン組成によってバンドギャップを調整できる、及び、優れた半導体特性を有する等の理由から、有望な光エネルギー変換用光電極材料等として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-172505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるビスマス複合アニオン化合物を光触媒として用いると、殆どの場合で、光吸収によって生じた正孔が、分解対象物(化学物質)の気相もしくは液相における水ではなく、触媒自体の第17族元素ハロゲンを酸化してしまい、容易に光触媒活性が失われることが知られている。そのため、このような可視光応答性の光触媒を、長期間安定した性能を維持しながら利用することは困難である。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、可視光が照射されたときに分解対象物を分解する性能を、長期間維持することができる光触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る光触媒の製造方法は、Bi元素及びアルカリ土類金属であるSr元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素であるCl元素で構成された3つのハロゲン層と、により構成された組成式がSrBi Cl である層状酸ハロゲン化物の複数の結晶片を備え、3つの前記ハロゲン層は、一層状にCl元素が配列した1つの第1のハロゲン層、及び、二層状にCl元素が配列した2つの第2のハロゲン層であり、前記層状酸ハロゲン化物は、2つの前記フルオライト層と1つの前記第1のハロゲン層と2つの前記第2のハロゲン層とが前記第2のハロゲン層、前記フルオライト層、前記第1のハロゲン層、前記フルオライト層、及び前記第2のハロゲン層の順に配置された板状結晶である光触媒の製造方法において、炭酸ストロンチウムSrCO の粉末と塩化酸化ビスマスBiOClの粉末とKCl-SrCl 混合フラックスとが混合された前駆体溶液を600~750℃の範囲で加熱することで前記炭酸ストロンチウムSrCO の粉末及び前記塩化酸化ビスマスBiOClの粉末を溶解し、かつ前記KCl-SrCl 混合フラックスを蒸発させる加熱工程と、前記前駆体溶液に対して前記加熱工程を行った後に、徐冷を行うことで前記層状酸ハロゲン化物の前記板状結晶を成長させる徐冷工程と、前記徐冷工程後に、前記板状結晶を物理的に破砕し微粉末化する破砕工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の光触媒の製造方法によれば、光触媒は、第2のハロゲン層、フルオライト層、第1のハロゲン層、フルオライト層、及び第2のハロゲン層の順に配置された層状酸ハロゲン化物を備えたものとなる。これにより、光触媒は、可視光応答性を有するものとなり、且つ、従来と比べ、光触媒の分子構造の安定性が高くなるので可視光の吸収によって生じた正孔によるハロゲン元素の酸化失活を抑制することができる。よって、可視光が照射されたときに分解対象物を分解する性能を、長期間維持することができる光触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施の形態1に係る光触媒の模式図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る光触媒の製造工程を示す図である。
図3】本開示の実施の形態1に係る光触媒のTEM像である。
図4】本開示の実施の形態1の変形例に係る光触媒の製造工程を示す図である。
図5】本開示の実施の形態2に係る光触媒担持体の模式図である。
図6】本開示の実施の形態2に係る光触媒担持体の製造工程を示す図である。
図7】本開示の実施の形態3に係る光触媒担持体の模式図である。
図8】本開示の実施の形態3に係る光触媒担持体の製造工程を示す図である。
図9】本開示の実施の形態3の変形例に係る光触媒担持体の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る光触媒1の模式図である。光触媒1は、光照射によって励起し、強い酸化力を発現して例えば気相化学物質を分解する。光触媒1は、アルカリ土類金属XかつBi元素を含む複数のフルオライト層と、ハロゲン元素で構成された複数のハロゲン層とで構成された層状酸ハロゲン化物から成る。具体的には、光触媒1は、2つのフルオライト層と3つのハロゲン層とにより構成された層状酸ハロゲン化物であり、3つのハロゲン層は、1つの第1のハロゲン層Lha及び2つの第2のハロゲン層Lhbである。ここで、第1のハロゲン層Lhaは、一層状にハロゲン元素が配列したハロゲン層であり、各第2のハロゲン層Lhbは、二層状にハロゲン元素が配列したハロゲン層である。層状酸ハロゲン化物は、2つのフルオライト層と1つの第1のハロゲン層Lhaと2つの第2のハロゲン層Lhbとが第2のハロゲン層Lhb、フルオライト層、第1のハロゲン層Lha、フルオライト層及び第2のハロゲン層Lhbの順に積層された構造を持つ。このような構造から、光触媒1は、紫外光領域の波長の光だけでなく可視光領域の波長の光によっても光触媒反応を示す。
【0010】
図1に示されるように、光触媒1を構成する複数の層の積層方向(上下方向)において、第1のハロゲン層Lhaは中央に位置し、2つの第2のハロゲン層Lhbは第1のハロゲン層Lhaの上下方向の両側に位置して光触媒1の上面と下面とを構成する。各第2のハロゲン層Lhbは、二層状にハロゲン元素が配列したハロゲン層であるため、各第2のハロゲン層Lhbの上下方向の厚さは、一層状にハロゲン元素が配列した第1のハロゲン層Lhaの上下方向の厚さよりも厚くなっている。以下では、2つの第2のハロゲン層Lhbのうち上側に位置するものを上側の第2のハロゲン層Lhb1と称し、下側に位置するものを下側の第2のハロゲン層Lhb2と称する。また、層状酸ハロゲン化物を構成する2つのフルオライト層のうち、上側の第2のハロゲン層Lhb1と第1のハロゲン層Lhaとの間に位置するフルオライト層を第1のフルオライト層Lf1と称し、第1のハロゲン層Lhaと下側の第2のハロゲン層Lhb2との間に位置するフルオライト層を第2のフルオライト層Lf2と称する。
【0011】
すなわち、光触媒1は、第1のハロゲン層Lhaの上面に第1のフルオライト層Lf1が位置し、第1のハロゲン層Lhaの下面に第2のフルオライト層Lf2が位置し、第1のフルオライト層Lf1の上面に上側の第2のハロゲン層Lhb1が位置し、第2のフルオライト層Lf2の下面に下側の第2のハロゲン層Lhb2が位置するものである。
【0012】
フルオライト層(第1のフルオライト層Lf1及び第2のフルオライト層Lf2のそれぞれ)を構成するアルカリ土類金属Xは、ストロンチウムSr、バリウムB、及びカルシウムCから選択される少なくとも一種が好ましい。特に、ストロンチウムSrが望ましい。また、ハロゲン層(第1のハロゲン層Lha、上側の第2のハロゲン層Lhb1及び下側の第2のハロゲン層Lhb2のそれぞれ)を構成するハロゲン元素は、塩素Cl、臭素Br、及びヨウ素Iから選択される少なくとも一種が好ましい。特に、塩素Clが望ましい。
【0013】
図2は、本開示の実施の形態1に係る光触媒1の製造工程を示す図である。図2に基づき、上述した光触媒1の製造方法について説明する。光触媒1は、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)の粉末2と、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)の粉末3と、フラックス剤4とを混合し、混合液を所定の温度で加熱して粉末2及び粉末3の溶解およびフラックスの蒸発除去を行った後に、徐冷することで製造される。以下、混合液を前駆体溶液ともいう。
【0014】
ここで、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)としては炭酸ストロンチウムSrCOが用いられる。一方、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)としては、塩化酸化ビスマスBiOClが用いられる。また、比表面積の高い板状結晶状の光触媒粉末を得るために混合するフラックス剤4としては、塩化カリウムKClと塩化ストロンチウム六水和物SrCl・6HOとをモル比1:1で混合したKCl-SrCl混合フラックスが用いられる。なお、フラックス剤4は、焼成によって板状の光触媒結晶が得られるものであればよく、これに限定されない。このようなフラックス剤4としては、上記のメタタングステン酸アンモニウムの他に、LiCl、NCl、KCl、CCl、SrCl等から選択される少なくとも一種以上のものが好ましい。
【0015】
図2に示されるように、まず、それぞれ設定された量となるように、炭酸ストロンチウムの粉末2が計量され(ステップST1)、塩化酸化ビスマスの粉末3が計量され(ステップST2)、KCl-SrCl混合フラックスが計量される(ステップST3)。そして、計量された炭酸ストロンチウムの粉末2と、計量された塩化酸化ビスマスの粉末3と、KCl-SrCl混合フラックスとが混合され、混合液が作成される(ステップST4)。例えば、炭酸ストロンチウムと塩化酸化ビスマスとKCl-SrCl混合フラックスとのモル比が1:3:100の割合で混合した混合液が作成される。
【0016】
ここで、炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合する方法はどのようなものでもよく、例えば、振とう機、モータ攪拌機、マグネチックスターラー、回転式攪拌機、ミキサー、振動攪拌機又は超音波攪拌機等を用いた混合方法がある。なお、炭酸ストロンチウムと塩化酸化ビスマスとKCl-SrCl混合フラックスとの混合比は、特に限定されず、例えば、光触媒1が設置される環境、光源が用いられる場合には光源の光の波長、あるいは分解対象の化学物質等により適宜決定されるとよい。
【0017】
作成された混合液は、予め設定された温度(例えば、650℃)で加熱される(ステップST5)。加熱によりフラックスを蒸発させることで、混合液の過飽和度を増加させ、生成される光触媒1を結晶成長させることができる。なお、光触媒1の加熱温度は特に限定されず、加熱により、炭酸ストロンチウムの粉末2及び塩化酸化ビスマスの粉末3が溶解し、かつKCl-SrCl混合フラックスが蒸発除去される温度であればよい。混合液の加熱温度は550~850℃、望ましくは600~700℃が良い。上記の温度で加熱を行うことで、得られる光触媒結晶の高い比表面積と高い結晶性とを両立でき、分解性能の高い光触媒粒子を得ることができる。
【0018】
混合液に対してステップST5の加熱を予め決められた時間行った後に、徐冷を行う(ステップST6)。温度が低下すると溶解度は小さくなるため、徐冷によっても混合液の過飽和度が増加し、生成される光触媒1を結晶成長させることができる。
【0019】
このような方法で製造された光触媒1は、組成式がSrBiClの板状結晶であり、図1に示すような層状化合物となる。すなわち、このような方法で得られた光触媒1の層構成は、第1のハロゲン層Lhaの上面に第1のフルオライト層Lf1が位置し、第1のハロゲン層Lhaの下面に第2のフルオライト層Lf2が位置し、かつ、第1のフルオライト層Lf1の上面に上側の第2のハロゲン層Lhb1が位置し、第2のフルオライト層Lf2の下面に下側の第2のハロゲン層Lhb2が位置するものである。光触媒1がこのような構成となることで、可視光に対する吸収能を持ちつつ、光吸収によって生成した正孔によるハロゲン元素の酸化失活を抑制することができる。
【0020】
図3は、本開示の実施の形態1に係る光触媒1のTEM(透過電子顕微鏡)像である。図3に示される光触媒1は、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)として炭酸ストロンチウムを、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)として塩化酸化ビスマスを、フラックス剤4としてKCl-SrCl混合フラックスをそれぞれ用いて上述した方法で製造された光触媒1である。つまり、光触媒1は、炭酸ストロンチウムと塩化酸化ビスマスとKCl-SrCl混合フラックスとのモル比が1:3:100の割合となるように炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合した混合液が、650℃で加熱され、加熱後に徐冷されて得られたものである。
【0021】
光触媒1を構成する板状結晶の板厚Vs(後述の図5参照)と板径Wsとの寸法の比は、例えばステップST5の加熱の際の加熱温度によって異なり、加熱温度が低温度であるほど、形成される板状結晶の比表面積が大きくなる傾向にある。
【0022】
実施の形態1において、光触媒1は、板状に成長した結晶であることから、光触媒1の比表面積が広くなり、光触媒1と分解対象物(例えば気相化学物質)との接触面積を広くすることができるので、分解対象物に対する酸化能力を向上させることができる。
【0023】
更に、光触媒1は、板状結晶であることからその厚さ(すなわち板厚Vs)が小さいので、板面11に対して垂直方向から光照射することにより、多くの光を吸収できる。詳しくは、厚さが薄い板状結晶で光触媒1が構成されているので複数のハロゲン層間の距離を短くすることができ、板面11に対して垂直方向から照射された可視光は、そのエネルギーが光触媒1中でバンドギャップ以下のエネルギーに減衰する前に深部の第1のハロゲン層Lha又は下側の第2のハロゲン層Lhb2に到達して吸収される。そのため、光照射量に対して高い性能を得ることができる。そして、光照射強度を抑えることができるため、光源コストを削減でき、また、光触媒1の2つのフルオライト層又は後述する担持基材20といった材料における照射光による劣化を軽減できる。
【0024】
図4は、本開示の実施の形態1の変形例に係る光触媒の製造工程を示す図である。以下、変形例に係る光触媒を、図2に示される方法で得られる光触媒1と区別して光触媒1aと称する場合がある。変形例に係る光触媒1aは、図2に示される方法で得られる光触媒1よりも、粒形(すなわち図3に示した板径Ws)が小さいものである。変形例に係る光触媒1aは、実施の形態1において光触媒粒子が生成されたステップST6(徐冷)の後に、得られた光触媒粒子(光触媒1であり板状結晶)を物理破砕すること(ステップST7)により得られる。光触媒粒子を物理破砕することにより、板状結晶は割れて、それぞれが層構造を持つ複数の結晶片(光触媒1a)となる。
【0025】
層構造を持つ光触媒1、1aにおいて、光励起後に生成した電子は層間を移動して、光触媒1、1aの表面に移動する。ここで、光触媒1、1aの表面とは、図3に示した上側の板面11、及び板状結晶又は結晶片のエッジ部分12である。変形例の光触媒1aのように得られた板状結晶を微粒子化することで、電子の層間の移動距離を短縮し、光触媒1aの表面において電子による還元作用を積極的に得ることができる。また、微粒子化により比表面積も増加するため、照射光の利用率も増加し、さらに高い性能を得ることができる。
【0026】
以上のように、実施の形態1に係る光触媒1は、アルカリ土類金属X及びBi元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素Yで構成された3つのハロゲン層と、により構成された層状酸ハロゲン化物(例えば、組成式がSrBiClの板状結晶)を備える。3つのハロゲン層は、一層状にハロゲン元素Yが配列した1つの第1のハロゲン層Lha、及び、二層状にハロゲン元素Yが配列した2つの第2のハロゲン層である。層状酸ハロゲン化物は、2つのフルオライト層と1つの第1のハロゲン層と2つの第2のハロゲン層とが第2のハロゲン層(下側の第2のハロゲン層Lhb2)、フルオライト層(第2のフルオライト層Lf2)、第1のハロゲン層Lha、フルオライト層(第1のフルオライト層Lf1)、及び第2のハロゲン層(上側の第2のハロゲン層Lhb1)の順に配置されたものである。
【0027】
光触媒1は、第2のハロゲン層、フルオライト層、第1のハロゲン層、フルオライト層、及び第2のハロゲン層の順に配置された層状酸ハロゲン化物を備えるので、可視光応答性を有したものとなる。更に、光触媒1は、このような層状酸ハロゲン化物を備えことで、従来と比べ、光触媒1の分子構造の安定性が高くなり、可視光の吸収によって生じた正孔によるハロゲン元素の酸化失活を抑制することができる。よって、可視光が照射されたときに分解対象物を分解する性能を、従来よりも長期間維持することができる。
【0028】
また、実施の形態1に係る光触媒1の製造方法は、層状酸ハロゲン化物(例えば、組成式がSrBiClの板状結晶)を備えた光触媒1の製造方法である。ここで、光触媒1は、上記のように、アルカリ土類金属X及びBi元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素Yで構成された3つのハロゲン層と、により構成された層状酸ハロゲン化物を備え、3つのハロゲン層は、一層状にハロゲン元素が配列した1つの第1のハロゲン層、及び、二層状にハロゲン元素が配列した2つの第2のハロゲン層であり、層状酸ハロゲン化物は、2つのフルオライト層と1つの第1のハロゲン層と2つの第2のハロゲン層とが第2のハロゲン層、フルオライト層、第1のハロゲン層、フルオライト層、及び第2のハロゲン層の順に配置されたものである。そして、実施の形態1に係る光触媒1の製造方法は、アルカリ土類金属Xを含む炭酸アルカリ土類金属XCOの粉末2と、ハロゲン元素Yを含むビスマス酸ハロゲン化物BiOYの粉末3とをフラックス剤4に溶解させた前駆体溶液(混合液)を加熱する工程(ステップST5)を備える。
【0029】
このような工程を備えることで、複数のハロゲン層を含む層構造を有した板状結晶の光触媒1、すなわち、従来よりも自己酸化失活しにくく長期間安定した性能を維持できる光触媒1を製造することができる。
【0030】
また、光触媒1の製造方法は、前駆体溶液(混合液)を加熱する工程(ステップST5)において、前駆体溶液を600~750℃の範囲で加熱する。このような温度で加熱を行うことにより、光触媒結晶の高い比表面積と高い結晶性とを両立でき、分解性能の高い光触媒粒子を得ることができる。
【0031】
また、変形例に係る光触媒1aの製造方法(図4参照)は、前駆体溶液(混合液)を加熱する工程により生成された光触媒粒子を、物理的に破砕し微粉末化する工程(ステップST7)を備える。これにより、光触媒を複数の結晶片で構成して比表面積の増加を図ることができ、また、電子の層間の移動距離が短くなることで光触媒1aの表面に電子が現れ易くなり、表面での還元作用が促進される。よって、性能が向上する。
【0032】
実施の形態2.
図5は、本開示の実施の形態2に係る光触媒担持体100の模式図である。図5に示されるように、光触媒担持体100は、光触媒1と、光触媒1を担持する担持基材20とを備える。以下、実施の形態2において、実施の形態1と共通する部分については説明を省略し、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0033】
担持基材20は、製造工程の焼成後に形状が保持されるものであればよい。このような担持基材20としては、例えば金属成型体、ガラス成型体、セラミック成型体及び不織布等がある。以下、担持基材20が、ガラス成型体の一形態であるカラス基板である場合について説明する。
【0034】
図6は、本開示の実施の形態2に係る光触媒担持体100の製造工程を示す図である。光触媒担持体100は、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)として炭酸ストロンチウムを、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)として塩化酸化ビスマスを、フラックス剤4としてKCl-SrCl混合フラックスをそれぞれ用い、炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合して混合液を作成し、混合液を担持基材20に塗布して加熱することで製造される。
【0035】
図6に示されるように、まず、それぞれに設定された量となるように、炭酸ストロンチウムの粉末2が計量され(ステップST11)、塩化酸化ビスマスの粉末3が計量され(ステップST12)、KCl-SrCl混合フラックスが計量される(ステップST13)。そして、計量された炭酸ストロンチウムの粉末2と、計量された塩化酸化ビスマスの粉末3と、KCl-SrCl混合フラックスとが混合され、混合液が作成される(ステップST14)。例えば、炭酸ストロンチウムと塩化酸化ビスマスとKCl-SrCl混合フラックスとのモル比が1:3:100の割合となるように炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合した混合液が作成される。
【0036】
次に、混合液が、担持基材20に添着される(ステップST15)。具体的には、ステップST14で作成された混合液が、担持基材20として使用されるガラス基板に塗布される。ここで、添着方法はどのようなものでもよく、例えばディッピング法、スプレー法又はコーティング法等が用いられてもよい。すなわち、担持基材20に混合液を塗布する代わりに担持基材20を混合液に含浸するようにしてもよい。
【0037】
ステップST15において混合液が添着された担持基材20は、予め設定された温度(例えば、650℃)で加熱される(ステップST16)。ここで、加熱温度は限定されず、加熱により、炭酸ストロンチウムの粉末2及び塩化酸化ビスマスの粉末3が溶解し、かつKCl-SrCl混合フラックスが蒸発除去される温度であればよい。混合液の加熱温度は550~850℃、望ましくは600~700℃が良い。上記の温度で加熱を行うことで、得られる光触媒結晶の高い比表面積と、高い結晶性を両立でき、分解性能の高い光触媒粒子を得ることができる。
【0038】
混合液に対してステップST16の加熱を予め決められた時間行った後に、徐冷を行う(ステップST17)。温度が低下すると溶解度は小さくなるため、徐冷によっても混合液の過飽和度が増加し、生成される光触媒1を結晶成長させることができる。
【0039】
このような方法で製造された光触媒担持体100は、実施の形態1の場合と同様に板状結晶であり層状化合物である光触媒1と、担持基材20とを備える。すなわち、担持基材20により担持された光触媒1の層構成は、第1のハロゲン層Lhaの上面に第1のフルオライト層Lf1が位置し、第1のハロゲン層Lhaの下面に第2のフルオライト層Lf2が位置し、かつ、第1のフルオライト層Lf1の上面に上側の第2のハロゲン層Lhb1が位置し、第2のフルオライト層Lf2の下面に下側の第2のハロゲン層Lhb2が位置するものである。
【0040】
以上のように、実施の形態2に係る光触媒担持体100は、実施の形態1の光触媒1と、光触媒1を担持する担持基材20と、を備えたものである。このような光触媒1を備える光触媒担持体100は、住宅、商業施設、自動車又は鉄道用などの空調における空気清浄デバイスの一部として使用することができる。
【0041】
また、実施の形態2に係る光触媒担持体100の製造方法は、層状酸ハロゲン化物を備えた光触媒1を担持基材20により担持した光触媒担持体100の製造方法である。ここで、光触媒1は、実施の形態1に示したように、アルカリ土類金属X及びBi元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素Yで構成された3つのハロゲン層と、により構成された層状酸ハロゲン化物を備え、3つのハロゲン層は、一層状にハロゲン元素が配列した1つの第1のハロゲン層、及び、二層状にハロゲン元素が配列した2つの第2のハロゲン層であり、層状酸ハロゲン化物は、2つのフルオライト層と1つの第1のハロゲン層と2つの第2のハロゲン層とが第2のハロゲン層、フルオライト層、第1のハロゲン層、フルオライト層、及び第2のハロゲン層の順に配置されたものである。そして、実施の形態2に係る光触媒担持体100の製造方法は、アルカリ土類金属Xを含む炭酸アルカリ土類金属XCOの粉末2と、ハロゲン元素Yを含むビスマス酸ハロゲン化物BiOYの粉末3とをフラックス剤4に溶解させた前駆体溶液(混合液)を担持基材20に塗布もしくは含浸する工程(ステップST15)と、担持基材20に前駆体溶液を塗布もしくは含浸したものを加熱する工程(ステップST16)と、備えたものである。
【0042】
これにより、フラックス剤4に粉末2及び粉末3を溶解させた前駆体溶液を担持基材20に直接塗布又は含浸して加熱することで、担持基材20の表面に光触媒層を直接形成することができるので、バインダレスの光触媒担持体100を簡便に製造することができる。
【0043】
実施の形態3.
図7は、本開示の実施の形態3に係る光触媒担持体200の模式図である。以下、実施の形態3において、実施の形態2の光触媒担持体100と共通する部分又は製造工程と共通する工程については説明を省略し、実施の形態2との相違点を中心に説明する。図7に示されるように、光触媒担持体200は、光触媒1と、光触媒1を担持する前に下処理(すなわち、後述するステップST25に示す前処理)を実施した担持基材21とを備える。以下、担持基材21の下処理前の担持基材20が、例えばフッ素ドープ酸化スズ基板である場合について説明する。なお、下処理前の担持基材20は、製造工程の焼成後に形状が保持されるものであればよく、これに限定されない。このような担持基材20としては、例えば金属成型体、ガラス成型体、セラミック成型体及び不織布等がある。
【0044】
図8は、本開示の実施の形態3に係る光触媒担持体200の製造工程を示す図である。光触媒担持体100は、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)として炭酸ストロンチウムを、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)として塩化酸化ビスマスを、フラックス剤4としてKCl-SrCl混合フラックスをそれぞれ用い、炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合して混合液を作成し、下処理を実施した担持基材21に混合液を塗布して加熱することで製造される。
【0045】
図8に示されるように、まず、それぞれ設定された量となるように、炭酸ストロンチウムの粉末2が計量され(ステップST21)、塩化酸化ビスマスの粉末3が計量され(ステップST22)、KCl-SrCl混合フラックスが計量される(ステップST23)。そして、計量された炭酸ストロンチウムの粉末2と、計量された塩化酸化ビスマスの粉末3と、計量されたKCl-SrCl混合フラックスが混合され、混合液が作成される(ステップST24)。例えば、炭酸ストロンチウムと塩化酸化ビスマスとKCl-SrCl混合フラックスとのモル比が1:3:100の割合となるように炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合した混合液が作成される。
【0046】
次に、担持基材20にSILR法(Successive Ionic Layer adsorption and reaction)による前処理を行い、フッ素ドープ酸化スズ基板上に塩化酸化ビスマスBiOClのシード層22を堆積させた担持基材21を生成する(ステップST25)。詳しくは、フッ素ドープ酸化スズ基板を、硝酸ビスマス4.8mMに5秒間含浸した後、脱イオン水で洗浄し、続いて塩化カリウム4.8mMに5秒間含浸した後、同様に脱イオン水で洗浄する。上記の処理を複数回繰り返すことにより、BiOClのシード層22を堆積させた担持基材21を生成する。シード層22とは、担持基材21上に光触媒1の結晶を成長させるスタート地点となるものである。なお、シード層22は、上記の塩化酸化ビスマスBiOClに限定されず、塩素Cl以外のハロゲン元素を含むビスマス酸ハロゲン化物でもよい。
【0047】
続いて、ステップST25の前処理を行った担持基材21に、混合液を添着する(ステップST26)。具体的には、ステップST24で作成された混合液が、担持基材21として使用される前処理後のフッ素ドープ酸化スズ基板に塗布される。ここで、添着方法はどのようなものでもよく、例えばディッピング法、スプレー法又はコーティング法等が用いられてもよい。すなわち、担持基材21に混合液を塗布する代わりに担持基材21を混合液に含浸するようにしてもよい。
【0048】
ステップST26において混合液が添着された担持基材21は、予め設定された温度(例えば、650℃)で加熱される(ステップST27)。また、加熱温度は限定されず、加熱により、炭酸ストロンチウムの粉末2及び塩化酸化ビスマスの粉末3が溶解し、かつKCl-SrCl混合フラックスが蒸発除去される温度であればよい。混合液の加熱温度は550~850℃、望ましくは600~700℃が良い。上記の温度で加熱を行うことで、得られる光触媒結晶の高い比表面積と、高い結晶性を両立でき、分解性能の高い光触媒粒子を得ることができる。
【0049】
混合液に対してステップST27の加熱を予め決められた時間行った後に、徐冷を行う(ステップST28)。温度が低下すると溶解度は小さくなるため、徐冷によっても混合液の過飽和度が増加し、生成される光触媒1を結晶成長させることができる。
【0050】
このような方法で製造された光触媒担持体200は、実施の形態1の場合と同様に板状結晶であり層状化合物である光触媒1と、担持基材21とを備える。そして、図7に示されるように、BiOClのシード層22の上に組成式がSrBiClの板状結晶が担持基材面20sに対して45~90度配向した構造となる。すなわち、板状結晶である光触媒1の板面11と担持基材21の上面との角度が45~90度となる。このように、担持基材面20sに対して光触媒1が立ち上がった光触媒担持体200では、実施の形態2のように担持基材面20sと光触媒1の板面11とが並行する光触媒担持体100と比べ、光触媒1の比表面積を大きくすることができる。よって、光触媒1と分解対象物(例えば気相化学物質)との接触面積を広くすることができるので、分解対象物に対する性能、すなわち分解対象物を吸着させる、及び分解対象物を酸化し分解する能力を向上することができる。また、実施の形態3の光触媒担持体200は、実施の形態2の光触媒担持体100と同様、住宅、商業施設、自動車又は鉄道用などの空調における空気清浄デバイスの一部として使用することができる。また、板状結晶(光触媒1)のエッジ部分12が光触媒担持体200の表面に現れる配置となるため、電子による還元反応を積極的に得ることができるようになる。具体的には、光照射により生じて光触媒1の層間を移動し、光触媒担持体200の表面側において光触媒1のエッジ部分12に現れた電子により、分解対象物の分解が行われる。
【0051】
また、光触媒担持体200の製造方法は、炭酸アルカリ土類金属XCO(Xはアルカリ土類金属)として炭酸ストロンチウムを、ビスマス酸ハロゲン化物BiOY(Yはハロゲン元素)として塩化酸化ビスマスを、フラックス剤4としてKCl-SrCl混合フラックスをそれぞれ用い、炭酸ストロンチウムの粉末2と塩化酸化ビスマスの粉末3とKCl-SrCl混合フラックスとを混合した混合液を、BiOClのシード層22を予め堆積させた担持基材21に塗布した後に加熱するものである。これにより、光触媒1の担持基材21上での配置を制御した光触媒担持体200を簡便に製造することができる。
【0052】
図9は、実施の形態3の変形例に係る光触媒担持体201の製造工程を示す図である。変形例の製造工程では、シード層22を堆積させた担持基材21を生成する(ステップST25)の前に、処理前の担持基材20に対して、分解対象物の寸法よりも大きいマスキングを行う工程(ステップST25_0)を行う。マスキングは、シード層22の生成を阻害するもので、担持基材20上に一定間隔のマスキングが行われることで、マスキングを行った部分には、その後のステップST25においてシード層22が形成されず、ステップST26からステップST28において光触媒1が結晶成長する範囲を制限することができる。したがって、変形例の製造工程で製造された光触媒担持体201では、分解対象物が十分に吸着できるスペースを確保でき、光触媒担持体201上での吸着作用と光触媒1による分解作用のバランスを取ることができる。また、光触媒担持体201の光触媒1も、実施の形態1及び2の場合と同様、板状結晶であり層状化合物である。
【0053】
以上のように、実施の形態3に係る光触媒担持体200は、層状酸ハロゲン化物で構成された可視光応答型の光触媒1と、光触媒1を担持する担持基材21と、を備える。担持基材21は、担持基材面20sにビスマス酸ハロゲン化物のシード層22が形成されたものである。そして、光触媒1は、担持基材面20sに対して45~90度配向した配置となっている。
【0054】
これにより、光触媒担持体200の表面に板状の光触媒1のエッジ部分12が位置するので、光触媒担持体200の表面において分解対象物の分解が促進される。また、光触媒1間から光触媒層の内部に光が入り易く、光触媒層の深部においても光吸収による電子と正孔との発生が生じ易くなるので性能が向上する。
【0055】
また、変形例に係る光触媒担持体201(図9の製造方法により得られる)において、担持基材21の担持基材面20sには、間隔をあけてシード層22が設けられる。これにより、シード層22間に分解対象物を吸着する空間ができるので、吸着作用と光触媒1による分解作用とにより効率的に分解対象物を処理できる。
【0056】
また、実施の形態3に係る光触媒担持体200の製造方法は、層状酸ハロゲン化物で構成された光触媒1を担持基材21により担持した光触媒担持体200の製造方法において、担持基材20にビスマス酸ハロゲン化物BiOYをシード層22として堆積させる前処理を行うものである。そして、前駆体溶液を担持基材に塗布もしくは含浸する工程では、前処理後の担持基材21に前駆体溶液を塗布もしくは含浸する。これにより、光触媒層の光触媒1を、配向性のある板状結晶構成とすることができ、性能の良い光触媒担持体200が容易に得られる。
【0057】
また、変形例に係る光触媒担持体201の製造方法(図9参照)は、担持基材20に予め決められた間隔でマスキング処理(ステップST25_0)を実施し、マスキング処理後の担持基材20に対して前処理(ステップST25)を行うものである。これにより、マスキング処理を行った箇所にはシード22層及び光触媒1が形成されず、分解対象物を吸着する空間ができるので、吸着作用と触媒での分解作用とを両立した光触媒担持体201を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1、1a 光触媒、2 粉末、3 粉末、4 フラックス剤、11 板面、12 エッジ部分、20、21 担持基材、20s 担持基材面、22 シード層、100、200、201 光触媒担持体、Lf1 第1のフルオライト層、Lf2 第2のフルオライト層、Lha 第1のハロゲン層、Lhb 第2のハロゲン層、Lhb1 上側の第2のハロゲン層、Lhb2 下側の第2のハロゲン層、Vs 板厚、Ws 板径。
【要約】      (修正有)
【課題】可視光が照射されたときに分解対象物を分解する性能を、長期間維持することができる光触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ土類金属X及びBi元素を含む2つのフルオライト層と、ハロゲン元素Yで構成された3つのハロゲン層と、により構成された層状酸ハロゲン化物を備え、3つのハロゲン層は、一層状にハロゲン元素が配列した1つの第1のハロゲン層、及び二層状にハロゲン元素が配列した2つの第2のハロゲン層であり、層状酸ハロゲン化物は、2つのフルオライト層と1つの第1のハロゲン層と2つの第2のハロゲン層とが第2のハロゲン層、フルオライト層、第1のハロゲン層、フルオライト層、及び第2のハロゲン層の順に配置された光触媒であり、その製造方法は、炭酸アルカリ土類金属XCOの粉末と、ハロゲン元素Yを含むビスマス酸ハロゲン化物BiOYの粉末とをフラックス剤に溶解させた前駆体溶液を加熱する工程を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9