(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】シラン化合物重合体
(51)【国際特許分類】
C08G 77/06 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
C08G77/06
(21)【出願番号】P 2023538155
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2022043562
(87)【国際公開番号】W WO2023100770
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021194147
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【氏名又は名称】橋本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】森 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】樫尾 幹広
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281971(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122796(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122762(WO,A1)
【文献】特開2014-171974(JP,A)
【文献】特開2016-146434(JP,A)
【文献】ABE Y., et al.,Preparation and properties of flexible thin films by acid-catalyzed hydrolytic polycondensation of m,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,1995年,vol. 33, no. 4,pages 751-754,https://doi.org/10.1002/pola.1995.080330416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(1)〕を有し、
下記式(2)
【化2】
〔R
1は、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(2)〕を有する、又は有しないシラン化合物重合体であって、以下の要件1~
6を充足するシラン化合物重合体。
〔要件1〕
シラン化合物重合体に含まれる繰り返し単位(1)の量が、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%である。
〔要件2〕
シラン化合物重合体の25℃における粘度が、15,000Pa・s以下である。
〔要件3〕
シラン化合物重合体が、熱硬化性を有する。
〔要件4〕
シラン化合物重合体が、アルコキシ基を有する。
〔要件5〕
シラン化合物重合体が、下記式(3)で示されるT1サイトを有するものであって、アルコキシ基を有するT1サイトの量が、全T1サイト中20~60モル%である。
【化3】
〔R
2
は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。X
1
、X
2
は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*には、ケイ素原子が結合している。〕
〔要件6〕
シラン化合物重合体が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものであり、シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率が2.5~25%である。
【請求項2】
シラン化合物重合体中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項3】
シラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)が500~20,000である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【請求項4】
シラン化合物重合体が、下記式(3)で示されるT1サイト、下記式(4)で示されるT2サイト、及び下記式(5)で示されるT3サイトを有するものであって、前記T1サイトの量が、T1サイト、T2サイト、及びT3サイトの合計量に対して2.5~25モル%である、請求項1に記載のシラン化合物重合体。
【化4】
〔R
2は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*には、ケイ素原子が結合している。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化性組成物は用途に応じて様々な改良がなされ、光学部品や成形体の原料、接着剤、コーティング剤等として産業上広く利用されてきている。
また、硬化性組成物は、光素子固定材用接着剤や光素子固定材用封止材等の光素子固定材用組成物としても注目を浴びてきている。
【0003】
光素子には、半導体レーザー(LD)等の各種レーザーや発光ダイオード(LED)等の発光素子、受光素子、複合光素子、光集積回路等がある。
近年においては、発光のピーク波長がより短波長である青色光や白色光の光素子が開発され広く使用されてきている。このような発光のピーク波長の短い発光素子の高輝度化が飛躍的に進み、これに伴い、光素子の発熱量が更に大きくなっていく傾向にある。
【0004】
ところが、近年における光素子の高輝度化に伴い、光素子固定材用組成物の硬化物が、より高いエネルギーの光や光素子から発生するより高温の熱に長時間さらされ、接着力が低下するという問題が生じた。
この問題を解決するべく、特許文献1~3には、ポリシルセスキオキサン化合物を主成分とする光素子固定材用組成物が提案されている。
【0005】
ところで、これらの光素子固定材用組成物のような硬化性組成物において、室温で固体のポリシルセスキオキサン化合物を主成分として用いる場合、硬化性組成物の塗布性を向上させるために、通常、硬化性組成物に溶剤が添加される。
しかしながら、近年、環境負荷の低減等の観点から硬化性組成物の無溶剤化が望まれている。このため、室温で液体のポリシルセスキオキサン化合物を合成すべく、これまでに種々の検討が行われてきた。
【0006】
例えば、特許文献4には、有機溶媒を用いずに、3官能ケイ素アルコキシドと水と酸触媒とからなる混合物を加水分解及び重縮合させた後、3官能ケイ素アルコキシドの加水分解によって生じるアルコールを除去することを含むポリシルセスキオキサン液体の製造方法が記載されている。
特許文献4の実施例においては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランを単量体として用いて、種々のポリシルセスキオキサン液体を製造している。
【0007】
特許文献5には、特定の繰り返し単位を有するポリシルセスキオキサンを主成分とするポリシルセスキオキサン液体が記載されている。
特許文献5の製造例においては、エチルトリメトキシシランを単量体として用いて、ポリシルセスキオキサン液体を製造している。
【0008】
特許文献6には、室温で液状のポリシルセスキオキサン等を含有する縮合反応型シリコーン組成物が記載されている。
特許文献6の製造例1、2においては、メチルトリメトキシシランを単量体として用いて、液状のポリシルセスキオキサンを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-359933号公報
【文献】特開2005-263869号公報
【文献】特開2006-328231号公報
【文献】特開2013-253223号公報
【文献】特開2016-98245号公報
【文献】WO2017/122762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、特許文献4~6には室温で液体のシラン化合物重合体が記載されている。
しかしながら、本発明者らの検討の結果、メチルトリアルコキシシランを単量体として用いる場合、特許文献4や5の実施例や製造例と同様の反応条件では、室温で液体のシラン化合物重合体が得られ難いことが分かった。
また、特許文献6に記載の方法によれば、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有し、かつ、室温で液体のシラン化合物重合体が得られるが、このシラン化合物重合体は熱硬化性に劣るため、硬化触媒を添加しないとシラン化合物重合体が十分に硬化しないことが分かった。
本発明は、これらの問題を解決することを目的としてなされたものであり、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有し、室温(25℃、以下同じ)で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体を提供することを目的とする。
なお、本発明において、「室温で液体」とは、25℃において流動性を有するものをいう。
また、「熱硬化性」とは、硬化触媒が存在しなくても、加熱のみで硬化する性質をいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有するシラン化合物重合体について鋭意検討を重ねた。
その結果、シラン化合物重合体中のアルコキシ基の量を調節することで、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有し、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔7〕のシラン化合物重合体が提供される。
【0013】
〔1〕下記式(1)
【0014】
【0015】
〔Meは、メチル基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(1)〕を有し、
下記式(2)
【0016】
【0017】
〔R1は、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。〕
で表される繰り返し単位〔繰り返し単位(2)〕を有する、又は有しないシラン化合物重合体であって、以下の要件1~4を充足するシラン化合物重合体。
〔要件1〕
シラン化合物重合体に含まれる繰り返し単位(1)の量が、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%である。
〔要件2〕
シラン化合物重合体の25℃における粘度が、15,000Pa・s以下である。
〔要件3〕
シラン化合物重合体が、熱硬化性を有する。
〔要件4〕
シラン化合物重合体が、アルコキシ基を有する。
〔2〕シラン化合物重合体中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、シラン化合物重合体の全繰り返し単位中80~100モル%である、〔1〕に記載のシラン化合物重合体。
〔3〕シラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)が500~20,000である、〔1〕又は〔2〕に記載のシラン化合物重合体。
〔4〕シラン化合物重合体が、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
〔5〕シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率が2.5~25%である、〔4〕に記載のシラン化合物重合体。
〔6〕シラン化合物重合体が、下記式(3)で示されるT1サイト、下記式(4)で示されるT2サイト、及び下記式(5)で示されるT3サイトを有するものであって、前記T1サイトの量が、T1サイト、T2サイト、及びT3サイトの合計量に対して2.5~25モル%である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のシラン化合物重合体。
【0018】
【0019】
〔R2は、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。X1~X3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。*には、ケイ素原子が結合している。〕
〔7〕アルコキシ基を有するT1サイトの量が、全T1サイト中20~60モル%である、〔6〕に記載のシラン化合物重合体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有し、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《シラン化合物重合体》
本発明のシラン化合物重合体は、上記繰り返し単位(1)を有し、上記繰り返し単位(2)を有する、又は有しないシラン化合物重合体であって、上記要件1~4を充足するシラン化合物重合体である。
【0022】
〔シラン化合物重合体を構成する繰り返し単位〕
本発明のシラン化合物重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位(1)を有するものである。
【0023】
【0024】
式(1)中、Meは、メチル基を表す。
【0025】
本発明のシラン化合物重合体は、下記式(2)で表される繰り返し単位(2)を有する、又は有しないものである。
【0026】
【0027】
式(2)中、R1は、無置換の炭素数2~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基を表す。
【0028】
R1で表される「無置換の炭素数2~10のアルキル基」の炭素数は、2~6が好ましく、2~3がより好ましい。
「無置換の炭素数2~10のアルキル基」としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0029】
R1で表される「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アルキル基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、R1が「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」である場合、R1の炭素数は10を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」のアルキル基としては、メチル基や、「無置換の炭素数2~10のアルキル基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0030】
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フェニル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0031】
R1で表される「無置換の炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。
「無置換の炭素数6~12のアリール基」としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0032】
R1で表される「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アリール基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、R1が「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」である場合、R1の炭素数は12を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」のアリール基としては、「無置換の炭素数6~12のアリール基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、R1としては、無置換の炭素数2~10のアルキル基、又は無置換の炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0035】
本発明のシラン化合物重合体が繰り返し単位(2)を有するとき、本発明のシラン化合物重合体は、1種のR1を有するものであってもよいし、2種以上のR1を有するものであってもよい。
【0036】
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件1を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体において、繰り返し単位(1)の量は、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量に対して70~100モル%であり、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、さらに好ましくは95~100モル%である。
従来、「メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を有するシラン化合物重合体」は、室温で固体になり易いという傾向があった。また、特許文献6に記載の方法によれば、メチルトリメトキシシランを単量体として用いて液状のポリシルセスキオキサンが得られるが、この方法で得られるポリシルセスキオキサンは熱硬化性に劣っていた。
一方、本発明のシラン化合物重合体は、繰り返し単位(1)(すなわち、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位)を多く含むものであるが、要件2及び要件3を満たすもの(すなわち、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するもの)である。
後述するように、シラン化合物重合体中のアルコキシ基の量を適切に調節することで、要件1、要件2、及び要件3を充足するシラン化合物重合体を得ることができる。
【0037】
本発明のシラン化合物重合体中の繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量は、全繰り返し単位中、好ましくは80~100モル%、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の合計量が、全繰り返し単位中80モル%以上のシラン化合物重合体は、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有する傾向がある。
【0038】
本発明のシラン化合物重合体が繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)以外の繰り返し単位を有するとき、繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)以外の繰り返し単位としては、トリメチルメトキシシラン等の1官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、ジメチルジメトキシシラン等の2官能シラン化合物に由来する繰り返し単位、3官能シラン化合物に由来する繰り返し単位(ただし、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)を除く)、テトラメトキシシラン等の4官能シラン化合物に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
【0039】
〔シラン化合物重合体の物性〕
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件2を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度は、15,000Pa・s以下であり、好ましくは4,000Pa・s以下、より好ましくは2,000Pa・s以下である。
本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度が15,000Pa・s以下であるため、本発明のシラン化合物重合体は室温で十分な流動性を有する。したがって、本発明のシラン化合物重合体は、有機溶媒を含まない硬化性組成物の硬化性成分として適している。
本発明のシラン化合物重合体の25℃における粘度の下限値は特にないが、通常0.3Pa・s以上である。
したがって、本発明のシラン化合物重合体は、25℃における粘度が0.3~15,000Pa・sのものが好ましい。
【0040】
本明細書において、「25℃における粘度」とは、コーン半径(円錐底面の半径)12.5mm、コーン角度0.5度のコーンプレートを用いた、せん断速度2.2s-1に対する粘度をいう。ただし、この測定で50Pa・sを超える場合、「25℃における粘度」とは、半径12.5mmのパラレルプレートを用いた、角周波数2.0rad/sに対する粘度をいう。
【0041】
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件3を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体は、硬化触媒が存在しなくても、加熱のみで十分硬化する。したがって、本発明のシラン化合物重合体は、硬化触媒を含まない硬化性組成物の硬化性成分として適している。
【0042】
本発明のシラン化合物重合体を試料として用いて、実施例に記載の熱硬化性試験を行った場合、撹拌トルクが0.049N/cmになるまでの時間は、好ましくは1,500秒以下、より好ましくは1,000秒以下である。
撹拌トルクが0.049N/cmになるまでの時間が1,500秒以下のシラン化合物重合体は、熱硬化性に優れる硬化性組成物の硬化性成分としてより適している。
撹拌トルクが0.049N/cmになるまでの時間の下限値は特にないが、通常100秒以上である。
したがって、本発明のシラン化合物重合体は、実施例に記載の熱硬化性試験を行ったときに、撹拌トルクが0.049N/cmになるまでの時間が、100~1,500秒のものが好ましい。
【0043】
本発明のシラン化合物重合体は、上記要件4を充足する。
すなわち、本発明のシラン化合物重合体は、アルコキシ基を有するものである。
要件4を満たすことで、要件1、要件2、及び要件3をいずれも満たすシラン化合物重合体が得られ易くなる。
すなわち、シラン化合物重合体は、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を多く含むものであっても、アルコキシ基を多く含むことで、室温で液体になる傾向がある。
一方、アルコキシ基が多すぎるシラン化合物重合体は、熱硬化性に劣る傾向がある。
このため、シラン化合物重合体中のアルコキシ基の量を適切に調節することで、要件1、要件2、及び要件3を充足するシラン化合物重合体を得ることができる。
【0044】
後述するように、本発明のシラン化合物重合体は、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで効率よく製造することができる。以下において、本発明のシラン化合物重合体の中で、アルコキシシラン化合物を加水分解重縮合させることで得られるものを、「シラン化合物重合体(A)」と記載することがある。
【0045】
シラン化合物重合体(A)のアルコキシ基残存率は、2.5~25%が好ましく、3.0~20%がより好ましい。
シラン化合物重合体(A)のアルコキシ基残存率は、単量体として用いたアルコキシシラン化合物に含まれていたアルコキシ基が、シラン化合物重合体(A)にどの程度残存しているかを表すものである。
アルコキシ基残存率が2.5%以上のシラン化合物重合体(A)は、室温で液体になる傾向がある。
アルコキシ基残存率が25%以下のシラン化合物重合体(A)は、十分な熱硬化性を有する傾向がある。
【0046】
アルコキシ基残存率は、シラン化合物重合体(A)の1H-NMRを測定することで算出することができる。例えば、メチルトリエトキシシランを用いてシラン化合物重合体(A)を製造した場合、シラン化合物重合体(A)の1H-NMRを測定し、メチル基とエトキシ基の割合をピークの面積比に基づいて求めることで、シラン化合物重合体(A)のアルコキシ基残存率を算出することができる。
なお、本発明のシラン化合物重合体は、アセトン等のケトン系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等の各種有機溶媒に可溶であるため、これらの溶媒を用いて、本発明のシラン化合物重合体の溶液状態でのNMRを測定することができる。
【0047】
先に説明した繰り返し単位(1)や繰り返し単位(2)は、下記式(6)で示されるものである。
【0048】
【0049】
式(6)中、R2は、メチル基又はR1で表される基を表す。O1/2は、酸素原子が隣の繰り返し単位と共有されていることを表す。
【0050】
式(6)で示されるように、本発明のシラン化合物重合体は、一般にTサイトと総称される、ケイ素原子に酸素原子が3つ結合し、それ以外の基(R2で表される基)が1つ結合してなる部分構造を有する。
本発明のシラン化合物重合体に含まれるTサイトとしては、下記式(3)で示されるT1サイト、下記式(4)で示されるT2サイト、下記式(5)で示されるT3サイトが挙げられる。
【0051】
【0052】
式(3)~(5)中、R2は、前記と同じ意味を表す。X1~X3は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。X1~X3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。上記式(3)~(5)中、*には、Si原子が結合している。
【0053】
前記式(3)で示されるT1サイト、式(4)で示されるT2サイト、式(5)で示されるT3サイトの含有割合は、特許文献6に記載されるように、常法に従って、本発明のシラン化合物重合体の溶液状態での29Si-NMRを測定することにより求めることができる。
式(3)~(5)で示されるように、T3サイトは隣接する3つのSi原子を有し、T2サイトは隣接する2つのSi原子を有するのに対し、T1サイトは、隣接するSi原子は1つだけである。したがって、T1サイトは、シラン化合物重合体の末端部を構成する傾向があり、他の分子と相互作用をする際に重要なサイトである。
シラン化合物重合体の状態(液体又は固体)や熱硬化性は、他の分子との相互作用の結果として表される性質である。したがって、T1サイトの含有量や、T1サイト全体に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合は、前記アルコキシ基残存率と同様、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体の指標となり得るものである。
【0054】
本発明のシラン化合物重合体に含まれるT1サイトの量は、T1サイト、T2サイト、T3サイトの合計量に対して2.5~25モル%が好ましく、2.5~15モル%がより好ましい。
本発明のシラン化合物重合体において、T1サイト全体に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合は、全T1サイト中20~60モル%が好ましく、25~50%がより好ましい。
T1サイト全体に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合は、実施例に記載の方法にしたがって算出することができる。
【0055】
本発明のシラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは500~20,000、より好ましくは600~10,000、さらに好ましくは700~5,000である。
本発明のシラン化合物重合体の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、通常1.00~10.00、好ましくは1.10~6.00、より好ましくは1.15~4.00である。
質量平均分子量や分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にあるシラン化合物重合体は、硬化性組成物の硬化性成分として好適に用いられる。
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0056】
本発明のシラン化合物重合体が共重合体である場合、本発明のシラン化合物重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれであってもよいが、製造容易性等の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
また、本発明のシラン化合物重合体の構造は、ラダー型構造、ダブルデッカー型構造、籠型構造、部分開裂籠型構造、環状型構造、ランダム型構造のいずれの構造であってもよい。
【0057】
《シラン化合物重合体の製造方法》
本発明のシラン化合物重合体の製造方法は特に限定されない。
本発明のシラン化合物重合体の製造方法としては、例えば、メチルトリアルコキシシランを水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程(工程PO)と、工程POで得られたシラン化合物重合体を精製する工程(工程PU)を有するものが挙げられる。
【0058】
〔工程PO〕
工程POは、メチルトリアルコキシシランを水、及び酸触媒の存在下で加水分解重縮合させる工程である。
【0059】
工程POにおいては、必須の単量体としてメチルトリアルコキシシランが用いられる。メチルトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン等が挙げられる。
【0060】
工程POにおいては、上記要件1を満たすシラン化合物重合体が得られる限り、メチルトリアルコキシシラン以外の3官能アルコキシシラン化合物を単量体として用いてもよい。
メチルトリアルコキシシラン以外の3官能アルコキシシラン化合物としては、下記式(7)で表される3官能アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0061】
【0062】
式(7)中、R1は前記と同じ意味を表す。ORは、アルコキシ基を表す。ORは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
ORで表されるアルコキシ基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
ORで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0064】
式(7)で表される3官能アルコキシシラン化合物の具体例としては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリプロポキシシラン等の置換アルキルトリアルコキシシラン化合物類;
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン化合物類;
4-メトキシフェニルトリメトキシシラン、4-メトキシフェニルトリエトキシシラン、4-メトキシフェニルトリプロポキシシラン等の置換アリールトリアルコキシシラン化合物類;等が挙げられる。
これらの3官能アルコキシシラン化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
メチルトリアルコキシシランの量は、3官能アルコキシシラン化合物の全量に対して、通常70~100モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、さらに好ましくは95~100モル%である。
【0066】
工程POにおいては、3官能アルコキシシラン化合物に加えて、トリメチルメトキシシラン等の1官能アルコキシシラン化合物、ジメチルジメトキシシラン等の2官能アルコキシシラン化合物、テトラメトキシシラン等の4官能アルコキシシラン化合物を単量体として使用してもよい。
【0067】
3官能アルコキシシラン化合物の量は、アルコキシシラン化合物全体中、好ましくは80~100モル%、より好ましくは85~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%である。
3官能アルコキシシラン化合物の量が、アルコキシシラン化合物全体中80モル%以上であることで、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するシラン化合物重合体が得られ易くなる。
【0068】
工程POにおいて反応系内に添加する水の量は、下記式(F1)で導かれる水とアルコキシ基のモル比Mが、0.46~0.86となる量が好ましく、0.48~0.80となる量がより好ましく、0.50~0.70となる量がさらに好ましい。
【0069】
【0070】
式(F1)中、MH2Oは、反応系内に添加する水の物質量(モル数)であり、MORは、アルコキシシラン化合物中のアルコキシ基の総数(総モル数)である。
例えば、メチルトリアルコキシシラン1モルに対して、水を1モル添加した場合、モル比Mの値は、1/3(0.33)である。
【0071】
モル比Mが0.46~0.86であることで、アルコキシ基を適量含み、上記要件2及び要件3を満たすシラン化合物重合体を効率よく得ることができる。
【0072】
工程(PO)において用いられる酸触媒としては、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、クエン酸、酢酸、及びメタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0073】
酸触媒の使用量は、アルコキシシラン化合物の総量に対して、通常0.05~10モル%、好ましくは0.1~5モル%である。
【0074】
工程POは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
工程POにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0075】
工程POの反応条件は特に限定されない。
工程POの反応温度は、通常0~85℃、好ましくは15~75℃である。
工程POの反応時間は、通常30分から50時間、好ましくは1~24時間である。
【0076】
工程POは、開始から終了まで一定の条件で行うものであってもよいし(すなわち、1つのステップを有するものであってもよいし)、反応条件が異なる複数のステップを有するものであってもよい。
目的の分子量のシラン化合物重合体を効率よく製造し得ることから、工程POは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップ(ステップPO-I)と、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップ(ステップPO-II)を含むものが好ましい。
【0077】
ステップPO-Iは、水、及び酸触媒の存在下で、アルコキシシラン化合物の加水分解を進行させるステップである。
ステップPO-Iは、例えば、反応容器に、アルコキシシラン化合物、水、及び、酸触媒を入れ、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。また、反応容器内には、これらの成分の他に有機溶媒が存在していてもよい。
有機溶媒としては、工程POの有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
ステップPO-Iにおいて有機溶媒を使用する場合、アルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~1倍、より好ましくは0.1~0.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0078】
ステップPO-Iの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-Iの反応温度は、通常0~50℃、好ましくは15~35℃である。
ステップPO-Iの反応時間は、通常10分から2時間、好ましくは15~90分である。
【0079】
アルコキシシラン化合物の加水分解用に添加した水は、ステップPO-Iの終了時において十分に消費されていることが好ましい。水の消費量は、例えば、単量体として、メチルトリエトキシシランを使用する場合、反応生成物について1H-NMRを測定し、「Si-Me」の量と「Si-OEt」の量とを対比することにより推測することができる。
なお、ステップPO-Iにおいては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応だけでなく、重縮合反応が進行していてもよい。
【0080】
ステップPO-IIは、シラン化合物重合体の分子量を調整するステップである。
すなわち、ステップPO-IIは、目的の分子量を有するシラン化合物重合体を生成させるために、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を進行させるステップである。
【0081】
シラン化合物重合体の分子量を調整するために、必要に応じて、ステップPO-IIを行う際に、反応系内に塩基を添加することが好ましい。
塩基を比較的多めに添加したり、ステップPO-IIを比較的高い温度で行ったり、ステップPO-IIの反応時間を長くしたりすることにより、室温で液体であり、熱硬化性を有し、かつ、比較的分子量が大きなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。また、ステップPO-Iにおいて、酸触媒の量や反応温度を調整して、アルコキシシラン化合物の加水分解反応を促進させることにより、分子量が大きなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。
一方、塩基を比較的少なめに添加したり、ステップPO-IIを比較的低い温度で行ったり、ステップPO-IIの反応時間を短くしたりすることにより、室温で液体であり、熱硬化性を有し、かつ、比較的分子量が小さなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。また、ステップPO-Iにおいて、酸触媒の量や反応温度を調整して、アルコキシシラン化合物の加水分解反応を抑制気味に進行させることにより、分子量が小さなシラン化合物重合体が得られる傾向がある。
【0082】
ステップPO-IIを行う際に反応系内に塩基を添加する場合、その添加量は、ステップPO-Iにおいて用いた酸触媒に対して、好ましくは0.1~20当量、より好ましくは0.5~8当量である。
反応系内に上記の量の塩基を添加することで、目的の分子量を有するシラン化合物重合体を効率よく製造することができる。
【0083】
塩基としては、アンモニア水;トリメチルアミン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、アニリン、ピコリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール等の有機塩基;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
【0084】
ステップPO-IIの反応条件は特に限定されない。
ステップPO-IIの反応温度は、通常20~85℃、好ましくは24~70℃である。
ステップPO-IIの反応時間は、通常20分から48時間、好ましくは1~24時間である。
【0085】
従来、シラン化合物重合体を製造する場合、重縮合反応を十分に進行させるために「熟成工程」を設けることがあった。この熟成工程に関しては、例えば、前記特許文献4の段落(0020)には、「3官能ケイ素アルコキシドと水と酸触媒とからなる混合物を好ましくは20~60℃程度の温度で24時間保持し、加水分解及び重縮合を行う。」と記載されている。実際に、特許文献4の実施例では、密閉容器中で、3官能ケイ素アルコキシドと水と酸触媒とからなる混合物を20℃で3時間撹拌した後、60℃で24時間熟成させて(静置して)、シラン化合物重合体を製造している。
【0086】
ステップPO-IIは、前記熟成工程と同様に重縮合反応を十分に進行させるものではあるが、前記熟成工程とは異なり、撹拌しながら行うことが好ましい。
すなわち、加水分解反応後の混合物を静置するという熟成工程は、特許文献4の実施例のように十分な量の水(3官能ケイ素アルコキシドに対して3当量の水)を添加し、ほぼ全てのアルコキシ基をヒドロキシ基に置換させた後の重縮合反応に適した工程であると考えられる。一方、本発明のシラン化合物重合体を製造する際は、水とアルコキシ基のモル比Mが0.46~0.86の範囲になる条件で行うことが好ましいため、添加した水が加水分解によって完全に消費された場合であっても、ステップPO-Iの反応生成物にはアルコキシ基が残存している。
このように、ステップPO-Iの反応生成物には、Si-OHとSi-ORが混在しているため、この反応生成物の重縮合反応を効率よく行い、目的の分子量のシラン化合物重合体を得るためには、反応系内を撹拌することが好ましい。
【0087】
ステップPO-IIは有機溶媒存在下で行うことが好ましい。ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことで、反応系内を十分に撹拌することができ、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を十分に進行させることができる。
また、ステップPO-Iの反応生成物の重縮合反応を希釈条件下で行うことができるため、分子量の調整を再現性よく行うことができる。
【0088】
有機溶媒としては、工程POにおける有機溶媒として先に例示したものが挙げられる。
したがって、ステップPO-Iを有機溶媒の存在下で行った場合、その有機溶媒をそのまま利用してステップPO-IIを行うことができる。
一方、ステップPO-Iを有機溶媒が存在しない状態で行った場合、ステップPO-Iで得られた反応混合物に有機溶媒を加えることで、ステップPO-IIを有機溶媒存在下で行うことができる。
ステップPO-IIにおいて有機溶媒を使用する場合、ステップPO-Iにおいて用いたアルコキシシラン化合物に対して、体積基準で、好ましくは0.05~3倍、より好ましくは0.1~1.5倍の有機溶媒が用いられる。
【0089】
ステップPO-IIは開放系で行うことが好ましい。ステップPO-IIを開放系で行うことで、工程POにおける生成物である水やアルコールが反応系外に放出され易くなるため、水やアルコールにより重縮合反応が阻害されるのを回避することができる。また、ステップPO-IIを有機溶剤の存在下で行う場合、過度な加圧状態になることを抑制し得るため、重縮合反応を安全に進行させることができる。
開放系とは、反応系と、その周囲の系が完全に遮断されておらず、互いに分子の移動が可能な状態にある系をいう。
【0090】
〔工程PU〕
工程PUは、得られたシラン化合物重合体を精製する工程である。
工程PUを行うことで、高純度のシラン化合物重合体を得ることができる。そのようなシラン化合物重合体は、光素子固定材用組成物等の硬化性組成物の硬化性成分としてより適している。
【0091】
工程PUとしては、溶媒抽出法による精製工程が挙げられる。
溶媒抽出法による精製工程としては、例えば、以下のステップを有するものが挙げられる。
(ステップPU-I)工程POで得られた反応混合物に、必要に応じて水非混和性の有機溶媒や水を加え、これを撹拌した後、静置して、有機相と水相に分離させるステップ
(ステップPU-II)ステップPU-Iで生じた有機相を分取し、必要に応じて有機相を水で洗浄するステップ
(ステップPU-III)ステップPU-IIで分取した有機相を乾燥させるステップ
(ステップPU-IV)ステップPU-IIIで乾燥させた有機相から溶媒を除去するステップ
【0092】
ステップPU-Iにおいては、工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離するように、必要に応じて、前記反応混合物に、水非混和性の有機溶媒や水等の溶媒を加える。加える溶媒の量や、有機溶媒の種類は工程POで得られた反応混合物が有機相と水相に分離する限り、特に限定されない。
【0093】
シラン化合物重合体は、通常、有機相に含まれる。したがって、ステップPU-IIにおいては、ステップPU-Iで生じた有機相を分取する。この後、常法に従って、有機相を水で洗浄してもよい。
【0094】
ステップPU-IIIにおいては、硫酸マグネシウムの添加等、常法に従って、有機相を乾燥させる。
【0095】
ステップPU-IVにおいては、有機相から溶媒を除去する。溶媒の除去は、エバポレーターによる濃縮処理や、真空乾燥処理等、常法に従って行うことができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0097】
〔実施例1〕
300mlのナス型フラスコに、メチルトリエトキシシラン47.41g(266mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水9.576g(531mmol)に35質量%塩酸0.0693g(HCl:0.665mmol、メチルトリエトキシシランに対して0.250mol%)を溶解した水溶液を加え、全容を30℃にて1時間撹拌した。系を70℃へ昇温し、そこへ酢酸プロピル11.9gと28%アンモニア水溶液0.040g(NH3:0.658mmol、HClに対して0.99当量)を加え、2時間撹拌した。
反応液を室温(25℃)まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル100g及び水200gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機相を分取した。この有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機相をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、シラン化合物重合体を得た。
【0098】
〔実施例2~4、比較例1~3〕
第1表に記載の条件に変更したことを除き、実施例1と同様にしてシラン化合物重合体を得た。
【0099】
【0100】
実施例1~4、比較例1~3で得られたシラン化合物重合体について、それぞれ以下の測定、試験を行った。結果を第2表に示す。
【0101】
〔粘度測定〕
実施例1、3、比較例2においては、レオメーター(装置名「MCR301」、Anton Paar社製)にて、コーン半径が12.5mm、コーン角度が0.5°のコーンプレートを用い、25℃で2.2s-1の粘度を測定した。
実施例2、4においては、半径が12.5mmのパラレルプレートを用い、25℃で2.0rad/sの粘度を測定した。
【0102】
〔熱硬化性試験〕
自動硬化時間測定装置「まどか」(株式会社サイバー製)を用いて、以下の条件で硬化時間を測定した。
170℃に加熱されたステンレス板上に、0.20mLのサンプルを投入し、撹拌した。経時的に撹拌トルクが上昇するため、0.049N・cmとなるまでの時間(秒)を測定した。
この時間に基づき、以下の基準でシラン化合物重合体の熱硬化性を評価した。
なお、比較例1、比較例3で得られたシラン化合物重合体は固体であったため、参考実験として、混合溶媒〔ブチルジグリコールアセテート:トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(4:6)〕で希釈したもの(比較例1は固形分濃度90重量%、比較例3は固形分濃度80重量%)を試料として用いて、熱硬化性試験を行った。
〇:1000秒以下
△:1000秒超1500秒以下
×:1500秒超
なお、撹拌条件は以下のとおりである。
・撹拌翼の自転回転数: 200rpm
・撹拌翼の公転回転数: 80rpm
・ギャップ(加熱板と撹拌翼間の距離): 0.2mm
【0103】
〔1H-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
1H-NMR共鳴周波数:500MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
繰り返し時間:1s
積算回数:16回
【0104】
〈1H-NMR試料作製方法〉
シラン化合物重合体濃度:3%
測定溶媒:アセトン-d6
内部標準:TMS
【0105】
〔アルコキシ基残存率〕
1H-NMR測定結果に基づき、メチル基に対するアルコキシ基の割合を求め、シラン化合物重合体のアルコキシ基残存率を算出した。
【0106】
〔29Si-NMR測定〕
装置名:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
29Si-NMR共鳴周波数:99.352MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
試料回転数:20kHz
測定法:インバースゲートデカップリング法
29Si フリップ角:90°
29Si 90°パルス幅:8.0μs
繰り返し時間:5s
積算回数:9200回
観測幅:30kHz
【0107】
〈29Si-NMR試料作製方法〉
緩和時間短縮のため、緩和試薬としてFe(acac)3を添加し測定した。
シラン化合物重合体濃度:15%
Fe(acac)3濃度:0.6%
測定溶媒:アセトン-d6
内部標準:TMS
【0108】
〈波形処理解析〉
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ピークトップの位置によりケミカルシフトを求め、積分を行った。
【0109】
なお、メチルトリエトキシシランの単独重合体においては、以下の範囲の積分値に基づき、T1サイト、T2サイト、T3サイトの量をそれぞれ求めた。
T1サイト:-52.0~-45.0ppm
T2サイト:-60.7~-52.0ppm
T3サイト:-71.5~-60.7ppm
また、メチルトリエトキシシランとフェニルトリメトキシシランの共重合体においては、以下の範囲の積分値に基づき、T1サイト、T2サイト、T3サイトの量をそれぞれ求めた。
T1サイト:-51.0~-46.0ppm
T2サイト:-74.0~-68.5ppm、-60.5~-51.0ppm
T3サイト:-83.0~-74.0ppm、-68.5~-60.5ppm
【0110】
〔T1サイト全体に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合〕
29Si-NMR測定を行い、以下の範囲の積分値に基づいて、アルコキシ基を1つ又は2つ有するT1サイトの量を求めた。
メチルトリエトキシシランの単独重合体:-52.0~-50.0ppm
メチルトリエトキシシランとフェニルトリメトキシシランの共重合体:-50.3~-49.0ppm
次いで、これらの領域の積分値を基に、T1サイト全体に対する、アルコキシ基含有T1サイトの割合(T1(OR)/T1(total))を算出した。
【0111】
〔平均分子量測定〕
シラン化合物重合体の質量平均分子量(Mw)は、以下の装置及び条件にて測定した。
装置名:HLC-8220GPC、東ソー株式会社製
カラム:「TSK guard column SuperH-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperHM-H」「TSK gel SuperH2000」を順次連結したもの
溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン
注入量:20μl
測定温度:40℃
流速:0.6ml/分
検出器:示差屈折計
【0112】
【0113】
第1表及び第2表から以下のことが分かる。
実施例1~4で得られたシラン化合物重合体は、メチルトリアルコキシシラン由来の繰り返し単位を含むものであるが、室温で液体であって、かつ、熱硬化性を有するものである。
一方、比較例1、3で得られたシラン化合物重合体は室温で固体である。
また、比較例2で得られたシラン化合物重合体は室温で液体であるが、熱硬化性に劣っている。