(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】津波学習装置、津波学習方法、津波予測装置、及び津波予測方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
G01V1/00 Z
(21)【出願番号】P 2023560954
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044431
(87)【国際公開番号】W WO2023100342
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玄太
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173160(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2061500(KR,B1)
【文献】MAKINOSHIMA, Fumiyasu et al.,Early forecasting of tsunami inundation from tsunami and geodetic observation data with convolutiona,NATURE COMMUNICATIONS,2021年04月15日
【文献】一言 正之 ほか,水災害・土砂災害におけるAI技術の活用の取り組み,こうえいフォーラム,日本工営株式会社,2020年,第28号,p.39-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋レーダの観測データを含む学習データセットを取得する入力部と、
CNNを有し、前記学習データセットに対してCNN処理を実施するCNN部と、を備え、
前記CNNは、入力層のチャンネル方向が前記観測データの方位方向となるように前記観測データが入力され、
距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、を有し、
前記距離方向特徴量抽出部は、一つ以上の距離方向畳込み層を有し、
前記距離方向畳込み層は、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズのフィルタを有し、
前記時間方向特徴量抽出部は、一つ以上の時間方向畳込み層を有し、
前記時間方向畳込み層は、前記時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを有し、
前記学習データセットは、津波の模擬観測データと予測地点での津波波形データとのセットである、
津波学習装置。
【請求項2】
入力部が海洋レーダの観測データを含む学習データセットを取得し、
CNN部がCNNを有し、前記学習データセットに対してCNN処理を実施し、
前記CNNは、入力層のチャンネル方向が前記観測データの方位方向となるように前記観測データが入力され、
距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、を有し、
前記距離方向特徴量抽出部が、一つ以上の距離方向畳込み層を用い、
前記距離方向畳込み層が、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズのフィルタを用い、
前記時間方向特徴量抽出部が、一つ以上の時間方向畳込み層を用い、
前記時間方向畳込み層が、前記時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを用い、
前記学習データセットは、津波の模擬観測データと予測地点での津波波形データとのセットである、
津波学習方法。
【請求項3】
前記学習データセットには、さらに震源情報が含まれる、
請求項1に記載の津波学習装置。
【請求項4】
前記学習データセットには、さらに震源情報が含まれる、
請求項2に記載の津波学習方法。
【請求項5】
学習済みのCNNを備え、予測地点での現時刻を含む津波波形を予測する津波予測装置であって、
前記CNNは、入力層のチャンネル方向が海洋レーダの観測データの方位方向であり、
距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、を有し、
前記距離方向特徴量抽出部は、一つ以上の距離方向畳込み層を有し、
前記距離方向畳込み層は、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズのフィルタを有し、
前記時間方向特徴量抽出部は、一つ以上の時間方向畳込み層を有し、
前記時間方向畳込み層は、前記時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを有し、
前記時系列予測部は、前記時間方向特徴量抽出部の出力を用いて前記予測地点での前記津波波形を予測する、
津波予測装置。
【請求項6】
学習済みのCNNを用い、予測地点での現時刻を含む津波波形を予測する津波予測方法であって、
前記CNNは、入力層のチャンネル方向が海洋レーダの観測データの方位方向とし、
距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、を有し、
前記距離方向特徴量抽出部が、一つ以上の距離方向畳込み層を用い、
前記距離方向畳込み層が、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズのフィルタを用い、
前記時間方向特徴量抽出部が、一つ以上の時間方向畳込み層を用い、
前記時間方向畳込み層が、前記時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを用い、
前記時系列予測部が、前記時間方向特徴量抽出部の出力を用いて前記予測地点での前記津波波形を予測する、
津波予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、津波学習装置、津波学習方法、津波予測装置、及び津波予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋レーダの観測データを利用して、津波高及び津波到達時間を予測する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に係る津波高及び津波到達時間予測システムは、学習モデルにCNN(Convolutional Neural Networks)を採用して予測を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CNNは、画像認識の分野で多く利用される。画像認識にCNNを利用する場合、チャンネル方向にはRGBデータが設定され、畳込みフィルタのサイズとしてはn×n(nは、2以上の自然数)が設定されることが一般的である。これに対し、津波予測にCNNを利用する場合、チャンネル方向にどの物理量を設定するか、畳込みフィルタをどのようなサイズに設定するか、といった設計自由度がある。例えば、特許文献1に記載されたに用いられるCNNは、チャンネル方向に時系列データを設定している。また、このシステムにおける畳込みフィルタのサイズについては、画像認識にCNNを利用する場合と同様に、n×nとすることが考えられる。以降、チャンネル方向に時系列データが設定され、畳込みフィルタのサイズがn×nに設定された、津波高及び津波到達時間予測システムを「従来技術」と称する。
しかしながら、上記のように、津波予測にCNNを利用する場合の設計自由度を考慮すると、従来技術よりも津波予測の精度が高いCNNの設定が存在する可能性がある。
そこで、本開示技術は、従来技術と比較して予測精度が高い津波予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術に係る津波学習装置は、海洋レーダの観測データを含む学習データセットを取得する入力部と、CNNを有し、学習データセットに対してCNN処理を実施するCNN部と、を備え、CNNは、入力層のチャンネル方向が観測データの方位方向となるように観測データが入力され、距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、を有し、距離方向特徴量抽出部は、一つ以上の距離方向畳込み層を有し、距離方向畳込み層は、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズのフィルタを有し、時間方向特徴量抽出部は、一つ以上の時間方向畳込み層を有し、時間方向畳込み層は、時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを有し、学習データセットは、津波の模擬観測データと予測地点での津波波形データとのセットである。
【発明の効果】
【0007】
本開示技術に係る津波予測装置は、上記構成を備えることにより、従来技術と比較して予測精度が高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示技術に係る津波予測装置の機能ブロックを表すブロック図である。
【
図2】
図2は、本開示技術に係る津波予測装置の処理ステップを表すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本開示技術に係る津波予測装置のハードウエア構成図である。
【
図4】
図4は、本開示技術に係る津波予測装置への入力として用いられる観測データの観測点の配置を表す模式図である。
【
図5】
図5は、本開示技術に係るCNN部への入力データの構造を示した模式図である。
【
図6】
図6は、本開示技術に係るCNNの距離方向特徴量抽出部の入出力を示した模式図である。
【
図7】
図7は、本開示技術に係るCNNの時間方向特徴量抽出部を示した模式図である。
【
図8】
図8は、本開示技術に係るCNNの処理過程を示した模式図である。
【
図9】
図9は、本開示技術に係る津波予測装置の出力を示した模式図である。
【
図10】
図10は、本開示技術に係る学習データの作成例を示した模式図である。
【
図11】
図11は、本開示技術に係る学習済みの津波予測装置の効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示技術に係る津波予測装置100は、津波による陸地の浸水又は海上の津波の波高を予測する装置である。
本開示技術に係る津波予測装置100は、AI(Artificial Intelligence)を用いた装置であり、学習フェーズとAI活用フェーズとに分けて考えることができる。学習フェーズとAI活用フェーズとを明確にする必要がある場合においてのみ、学習フェーズにおける本装置を津波学習装置と称して区別する。またAI活用フェーズにおける津波予測装置100は、本開示技術によって学習済みのCNNモデルを備えればよく、学習機能自体を備える必要はない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る津波予測装置100の機能ブロックを表すブロック図である。
図1に示されるとおり津波予測装置100は、入力部10と、前処理部20と、CNN部30と、出力部40を備える。
【0011】
実施の形態1に係る津波予測装置100は、海洋レーダからの観測データを入力情報とする。具体的に観測データは、流速を想定しているが、波高、又は水圧、といった物理量でもよい。津波予測装置100の入力部10は、海洋レーダからの観測データを受け取る。海洋レーダが観測する領域についての詳細は、後述の
図4についての説明により明らかとなる。
本開示技術に係る津波予測装置100は、学習フェーズとAI活用フェーズとにおいて、異なった入力情報が用いられてもよい。例えば学習フェーズにおける津波学習装置は、事前にスーパーコンピュータを活用して多数のシナリオを想定した津波シミュレーションを行い、津波シミュレーションデータを生成し、津波の模擬観測データを入力情報としてよい。もちろん、教師データとして津波の実観測データが入手可能であれば実観測データを入力情報としてもよい。つまり、「海洋レーダからの観測データ」には、模擬観測データ、又は、実観測データが含まれ得る。また津波予測装置100は、AI活用フェーズにおいては、地震発生時等にリアルタイムに得られる実観測データを入力情報としてよい。
【0012】
津波予測装置100の前処理部20は、入力された観測データについての前処理を実施する。より具体的に前処理部20は、入力部10に入力された海洋レーダからの観測データを、CNN部30が扱える形式に変換する処理を行う。前処理の詳細は、後述の説明により明らかとなる。
【0013】
津波予測装置100のCNN部30は、学習モデルとしてCNNを備える。別の言い方をすればCNN部30は、前処理された観測データについてCNN処理を行う。CNNは、距離方向特徴量抽出部と、時間方向特徴量抽出部と、時系列予測部と、から構成されている。CNNは、津波の模擬観測データと予測地点での津波波形との関係を学習する。学習に用いるための津波の模擬観測データと予測地点での津波波形データとのセットは、学習データセットと称す。CNNの詳細は、後述の説明により明らかとなる。
【0014】
津波予測装置100の出力部40は、CNN処理により得られる予測結果を出力する。より具体的に出力部40は、予測地点における津波の予測波形を出力する。予測地点は1つの地点に限定されず、複数の地点における予測が同時に可能である。
【0015】
図2は、実施の形態1に係る津波予測装置100の処理ステップを表すフローチャートである。
図2に示されるとおり津波予測装置100の処理ステップは、入力部10が実施する入力処理ST10と、前処理部20が実施する前処理ST20と、CNN部30が実施するCNN処理ST30と、出力部40が実施する出力処理ST40と、を含む。
【0016】
図3は、実施の形態1に係る津波予測装置100のハードウエア構成図である。
図3に示されるとおり津波予測装置100は、入力インターフェース50と、プロセッサ60と、メモリ70と、出力インターフェース80と、から構成されてよい。
津波予測装置100における入力部10、前処理部20、CNN部30、及び出力部40の各機能は、処理回路により実現される。すなわち津波予測装置100は、観測データを入力し、前処理し、CNN処理し、出力することによって津波予測をするための処理回路を備える。処理回路は専用のハードウエアであっても、メモリ70に格納されるプログラムを実行するプロセッサ60であってもよい。プロセッサ60は、CPU、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP、と称されることもある。
【0017】
処理回路が専用のハードウエアである場合、処理回路は、例えば単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。津波予測装置100は、入力部10、前処理部20、CNN部30、及び出力部40の各部の機能それぞれを処理回路で実現されてもよいし、各部の機能がまとめて処理回路で実現されてもよい。
【0018】
処理回路がCPUの場合、入力部10、前処理部20、CNN部30、及び出力部40の機能は、ソフトウエア、ファームウエア、又はソフトウエアとファームウエアとの組合せにより実現される。ソフトウエア及びファームウエアはプログラムとして記述され、メモリ70に格納される。処理回路は、メモリ70に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち津波予測装置100は、処理回路により実行されるときに、入力部10が実施する入力処理ST10、前処理部20が実施する前処理ST20、CNN部30が実施するCNN処理ST30、及び出力部40が実施する出力処理ST40、が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ70を備える。また、これらのプログラムは、入力部10、前処理部20、CNN部30、及び出力部40の手順及び方法をコンピュータに実行させるものである、ともいえる。ここでメモリ70は、例えばRAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、及びEEPROM、等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリであってよい。またメモリ70は、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、又はDVDであってもよい。さらにメモリ70は、HDD、又はSSDであってもよい。
【0019】
なお津波予測装置100は、入力部10、前処理部20、CNN部30、及び出力部40の各機能について、一部が専用のハードウエアで構成され、一部がソフトウエア又はファームウエアで構成されてもよい。
このように、処理回路は、ハードウエア、ソフトウエア、ファームウエア、又はこれらの組合せによって、津波予測装置100の各機能が実現される。
【0020】
図4は、実施の形態1に係る津波予測装置100への入力として用いられる観測データの観測点の配置を表す模式図である。観測データは、実際に又は模擬的に、海洋レーダによって取得される。観測点は、海洋レーダの送受信アンテナを中心に扇状に広がる複数の視線上に、送信アンテナから離れる方向へ等間隔に設定される。津波予測装置100が用いる観測データは、海洋レーダの観測領域を上空からみたときに面としての次元と広がりとを有している。
図4に示されるとおり、送信アンテナから離れる方向は「距離方向」と、海洋レーダを中心とした回転方向は「方位方向」と、それぞれ称する。
【0021】
図5は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの入力層の構造を示した模式図である。
図5の矢印の左側(矢印の元)は、時系列方向をチャンネル方向としたCNNの入力層の構造を示している(従来技術)。
図5の矢印の右側(矢印の先)は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの入力層の構造を示している。
図5に示されるとおり実施の形態1に係るCNN部30のCNNは、入力層において、チャンネル方向が観測データの方位方向となるように観測データが入力される。
【0022】
図6は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの距離方向特徴量抽出部の入出力を示したものである。
一般にCNNにおける畳込み層は、二次元畳込みと呼ばれる操作を行う。画像処理における畳込み操作の代表例には、ガウシアンフィルタによるぼかし操作、ラプラシアンフィルタによる輪郭抽出、といったものが挙げられる。言い換えればCNNにおける畳込み層においては、よくn×nといった2次元の畳込みフィルタが用いられる。
実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの距離方向特徴量抽出部は、一つ以上の距離方向畳込み層を有する。距離方向畳込み層は、時間方向に1のサイズ、距離方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを有する。このような畳込みフィルタのサイズを採用したことで、距離方向の流速分布に対してのみ畳込み操作が行われ、その結果、流速分布の距離方向の特徴量が、流速分布の時間方向の特徴量とは独立して抽出される。
なお距離方向特徴量抽出部の距離方向畳込み層は、複数重ねることもできる。
【0023】
図7は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの時間方向特徴量抽出部を示した模式図である。より具体的に
図7は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの時間方向特徴量抽出部の入出力を示したものである。
実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの時間方向特徴量抽出部は、一つ以上の時間方向畳込み層を有する。時間方向畳込み層は、時間方向に自然数のサイズ、距離特徴量方向に自然数のサイズの畳込みフィルタを有する。このような畳込みフィルタのサイズを採用したことで、時間方向の特徴量に対して畳込み操作が行われ、その結果、時間方向の流速分布の特徴量が抽出される。なお、時間方向特徴量抽出部の畳込み層は複数重ねることもできる。また、時間方向の特徴量抽出は畳込み操作だけではなく、RNN、又はtransformer、等とした実現方法もあり得る。
【0024】
図8は、実施の形態1に係るCNN部30におけるCNNの処理過程、すなわちCNN処理ST30を示した模式図である。
図8に示されるとおりCNN部30におけるCNNは、時系列予測部の出力が、予測地点での現時刻を含む津波波形である。
なお
図8に示されるとおり、CNN部30におけるCNNの処理過程において、地震の震源情報などの補助情報が用いられてもよい。具体的な地震の震源情報の与え方は、教師データである学習データセットに加えてもよいし、
図8に示されるとおりCNNの中間生成物に加えてもよい。
具体的な補助情報としては、震源情報のほかに、海底ケーブルで取得した水圧やGPS波浪計の潮位変化などが挙げられる。補助情報を加えることは、学習する津波のパターンをより特徴づけることを可能とし、これにより、津波の予測精度の向上が期待される。
【0025】
図9は、実施の形態1に係る津波予測装置100の出力を陸地の浸水深とした場合の模式図である。
図9に示されるグラフにおいて、縦軸は浸水深[m]を、横軸は経過時間[分]を、それぞれ表す。
学習フェーズにおけるグラフとして
図9を見た場合、グラフにおいて真値とは、学習に用いた教師データのプロットを表す。教師データは、多くの場合スーパーコンピュータを用いたシミュレーションにより生成されたものだが、実測値を入手できる場合は実測値でもよい。
図9に示されるとおり津波予測装置100は、時系列回帰の結果から、「x分後のy[m]の波高又は浸水深」という予測が可能である。また
図9に示されるとおり津波予測装置100の出力は、確率分布を考慮した予測を行ってもよい。すなわち本開示技術に係る津波予測装置100は、「x分後にy±Δy[m]の波高又は浸水深」と予測結果を出力してもよい。
またAI活用フェーズにおけるグラフとして
図9を見た場合、グラフにおいて真値とは、実測値のプロットを表す。
【0026】
図10は、実施の形態1に係る津波予測装置100の学習フェーズ、すなわち津波学習装置における学習データセットの作成例を示した模式図である。
図10は、ある観測点における波の高さを表したシミュレーションの時系列データに、平常時の時系列観測データを足すことで、シミュレーション波形を実際の波形に近づける工夫を示したものである。これは、一般にシミュレーションにより生成できる波形データは津波自身の流速成分データであり、津波以外に由来するゆらぎ、又はノイズといった成分は、モデル化が難しいためである。
実施の形態1に係る津波予測装置100は、このように作成された学習データセットを用いて学習がなされてもよい。
【0027】
図11は、実施の形態1に係る学習済みの津波予測装置100の予測誤差分布を、従来技術と比較して示したグラフである。
図11に示される予測性能比較の実験に使用した津波のシミュレーションデータは1519件であり、このうちの1209件を学習データセットとして用い、残りの310件を性能比較のための検証データセットとして用いた。性能の比較は、最大浸水深についての誤差分布を比較した。公平を期すため、比較に用いた予測装置と本開示技術に係る津波予測装置100と、それぞれ同じCPU及びGPUが使用された。比較に用いた予測装置に係るCNNの畳込みフィルタは、サイズが3×3のもので、過去10時点のデータを入力とした。本開示技術に係るCNNは特徴量抽出部の畳込みフィルタサイズが1×3のもので、時間方向特徴量抽出部の畳込みフィルタサイズが2×1のもので、過去8時点のデータを入力とした。
予測性能比較の実験の結果、比較に用いた予測装置の平均絶対誤差が0.33であったのに対し、本開示技術に係る津波予測装置100の平均絶対誤差は0.25であった。
【0028】
実施の形態1に係る津波予測装置100は上記構成を備えるため、CNNにおける畳込み層において時間軸と空間軸とを独立して特徴量が抽出される。この作用により本開示技術に係る津波予測装置100は、従来技術と比較して、予測の平均絶対誤差が小さく、予測精度が高いという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本開示技術に係る津波予測装置100は実際の津波防災において利用でき、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0030】
10 入力部、 20 前処理部、 30 CNN部、 40 出力部、 50 入力インターフェース、 60 プロセッサ、 70 メモリ、 80 出力インターフェース、 100 津波予測装置。