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特許7395086X線発生装置、ターゲットの調整方法、および、X線発生装置の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】X線発生装置、ターゲットの調整方法、および、X線発生装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20231201BHJP
   H01J 35/30 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01J35/08 C
H01J35/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023566722
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016711
【審査請求日】2023-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 洋一
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0150184(US,A1)
【文献】特開2001-126650(JP,A)
【文献】特開平6-124671(JP,A)
【文献】国際公開第2020/084664(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0353288(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
H01J 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置であって、
第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットを薄化するための第1モードと、第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させる第2モードとの実行を制御する制御部を備え、
前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい、
ことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記電子線を偏向させる偏向器を更に備え、
前記ターゲットに対する前記電子線の入射位置は、前記電子銃のカソードと前記ターゲットとの間に印加される加速電圧によって変化し、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、複数の加速電圧にそれぞれ対応する複数の入射位置のそれぞれについて前記ターゲットを薄化する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ターゲットから放射されるX線の線量に基づいて、前記第1モードにおける前記ターゲットの薄化の終了を判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2モードにおいて前記ターゲットから放射されるX線の線量に基づいて、前記第1モードにおいて前記ターゲットの薄化の終了を判定する、
ことを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記第1モードでは、前記ターゲットの前記電子線が入射した部分が蒸発することによって前記ターゲットが薄化され、
前記制御部は、前記加速電圧が前記ターゲットの薄化を行うべき加速電圧に維持された状態で、前記第1モードにおける前記ターゲットの薄化と、前記第2モードにおける前記ターゲットから放射されるX線の線量の検出とを繰り返しながら、所定の条件が満たされるまで前記ターゲットを薄化する、
ことを特徴とする請求項4に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記所定の条件は、前記ターゲットから放射されるX線の線量のピークが検出されることである、
ことを特徴とする請求項5に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限の2倍以上である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記電子銃は、カソードと、前記ターゲットを含むアノードと、前記カソードとアノードとの間に配置された引出電極と、前記引出電極と前記アノードとの間に配置された収束電極とを含み、
前記制御部は、前記第1モードでは、前記引出電極の電位を第1電位に設定し、前記第2モードでは、前記引出電極の電位を前記第1電位とは異なる第2電位に設定する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項9】
電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置における前記ターゲットの厚さを調整する調整方法であって、
第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットの厚さを薄化する薄化工程と、
第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させ、前記X線を検出する検出工程と、とを含み、
前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい、
ことを特徴とする調整方法。
【請求項10】
前記検出工程において前記ターゲットから放射されるX線の線量が所定の条件を満たすまで、前記薄化工程および前記検出工程を繰り返す、
ことを特徴とする請求項に記載の調整方法。
【請求項11】
前記所定の条件は、前記ターゲットから放射されるX線の線量のピークが検出されることである、
ことを特徴とする請求項10に記載の調整方法。
【請求項12】
前記X線発生装置は、前記電子線を偏向させる偏向器を更に備え、
前記ターゲットに対する前記電子線の入射位置は、前記電子銃のカソードと前記ターゲットとの間に印加される加速電圧によって変化し、
前記薄化工程および前記検出工程は、複数の加速電圧にそれぞれ対応する複数の入射位置のそれぞれについて実行される、
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の調整方法。
【請求項13】
前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限の2倍以上である、
ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の調整方法。
【請求項14】
前記電子銃は、カソードと、前記ターゲットを含むアノードと、前記カソードとアノードとの間に配置された引出電極と、前記引出電極と前記アノードとの間に配置された収束電極とを含み、
前記薄化工程では、前記引出電極の電位が第1電位に設定され、前記検出工程では、前記引出電極の電位が前記第1電位とは異なる第2電位に設定される、
ことを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の調整方法。
【請求項15】
電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置の使用方法であって、
第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットの薄化する薄化工程と、
第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させる発生工程と、を含み、
前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい、
ことを特徴とするX線発生装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置、ターゲットの調整方法、および、X線発生装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型のX線管では、電子線をターゲットに照射することでターゲットからX線が放射される。カソードにおいて発生した電子線は、加速電圧によって加速されてターゲットに照射される。この加速電圧を変化させると、ターゲットに衝突する電子線が持つエネルギーが変化する。ターゲットが最適厚より薄い場合、電子線の一部がターゲットを透過してしまうためにX線の発生量が減少する。一方、ターゲットが最適厚より厚い場合、発生したX線がターゲットを透過する際に減衰する。すなわち、X線の放射量が最大になるターゲットの厚さは、加速電圧に依存して変化する。そのため、単一のターゲットでは、加速電圧の範囲が制限される。加速電圧の範囲を広げるためには、厚さが互いに異なる複数のターゲットを備える必要があった。
【0003】
特許文献1には、X線透過窓と、X線透過窓の真空側に設けられたX線ターゲットを形成する金属薄膜と、電子ビームを発生する電子銃と、電子ビームを偏向する偏向器とを有する透過型X線管装置が記載されている。この金属薄膜は、徐々に変化する厚さを有する。このX線管装置では、金属薄膜の厚さと電子が進入する深さとが一致する場所に電子ビームが照射される。しかし、X線管装置では、金属薄膜の加工精度、X線管装置の組み立て公差などによる個体差が存在するので、電子ビームを金属薄膜の目標位置、即ち、目標膜厚を有する位置に正確に入射させることは難しい。よって、従来のX線管装置では、金属薄膜に対する電子ビームの入射位置を調整するための特別な構成や調整工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-126650号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、X線を効率的に発生するために有利な技術を提供する。
【0006】
本発明の第1の側面は、電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置に係り、前記X線発生装置は、第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットを薄化するための第1モードと、第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させる第2モードとの実行を制御する制御部を備え、前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい。
【0007】
本発明の第2の側面は、電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットと、前記電子線を偏向させる偏向器とを有するX線発生装置に係り、前記X線発生装置において、前記ターゲットは、複数の凹部を有し、前記複数の凹部は、前記電子銃のカソードと前記ターゲットとの間に印加される複数の加速電圧にそれぞれ対応する位置に配置され、前記複数の凹部における前記ターゲットの厚さは、互いに異なる。
【0008】
本発明の第3の側面は、電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置における前記ターゲットの厚さを調整する調整方法に係り、前記調整方法は、第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットの厚さを薄化する薄化工程と、第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させ、前記X線を検出する検出工程と、とを含み、前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい。
【0009】
本発明の第4の側面は、電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有するX線発生装置の使用方法に係り、前記使用方法は、第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットの薄化する薄化工程と、第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させる発生工程と、を含み、前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態のX線発生管の構成を模式的に示す図。
図2】電子銃から放射された電子線がターゲットに衝突する様子を模式的に示す図。
図3】加速電圧に応じた偏向量(即ち、入射位置)ごとにターゲットを薄化する動作を模式的に示す図。
図4】一実施形態のX線発生装置の構成を例示的に示すブロック図。
図5】一実施形態のX線撮像装置の構成を模式的に示す図。
図6】第1モード(加工モード)および第2モード(X線発生モード)の実行に関するX線発生装置の動作例を示す図。
図7】1つの管電圧(カソード電位)についてのターゲットの厚さの調整に関するX線発生装置の動作例を示す図。
図8】X線発生装置の動作例あるいは使用例を示す図。
図9A】加工モードで加工されたターゲットを有するX線発生装置の構成例の一部を模式的に示す図。
図9B】加工モードで加工されたターゲットを有するX線発生装置の構成例の一部を模式的に示す図。
図9C】加工モードで加工されたターゲットを有するX線発生装置の構成例の一部を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
図1には、一実施形態のX線発生管XG中心付近の断面構成が模式的に示されている。X線発生装置1は、透過型X線発生装置として構成されうる。X線発生装置1は、X線発生管XGを備えている。X線発生管XGは、電子銃EGを備えている。またX線発生管XGは、電子銃EGから放射される電子線あるいは電子を受けてX線を発生させるターゲット22とを含みうる。一例において、X線発生管XGは、2つの開口端を有する絶縁管10と、絶縁管10の2つの開口端の一方を閉塞するアノード20と、絶縁管10の2つの開口端の他方を閉塞する閉塞部材30とを備えうる。アノード20は、ターゲット22と、ターゲット22を保持するターゲット保持板21と、ターゲット保持板21を支持しつつターゲット保持板21を介してターゲット22に電位を与える電極23とを含みうる。アノード20は、例えば、接地電位に維持されうる。他の閉塞部材30は、電子銃EGを保持するように構成されうる。絶縁管10、アノード20および閉塞部材30は、密閉空間を規定する容器を構成しうる。該密閉空間は、真空、あるいは高い真空度に維持される。
【0013】
電子銃EGは、カソードCTと、カソードCTとアノード20との間に配置された引出電極EEと、引出電極EEとアノード20との間に配置された収束電極CEとを含みうる。カソードCTは、電子を放出する。カソードCTとアノード20との間には、加速電圧が供給される。アノード20のターゲット22に時間当たりに入射する電子の量、即ち電流は、管電流と呼ばれ、引出電極EEに供給される引出電位に依存しうる。収束電極CEは、カソードCTから放出された電子あるいは電子線を収束させる。収束電極CEは、複数の電極を含んでもよい。
【0014】
X線発生装置1は、カソードCTにカソード電位を供給するカソード電位供給部41を備えうる。カソード電位供給部41は、接地電位に維持されうるアノード20とカソードCTとの間に加速電圧を供給する構成要素として理解されてもよい。X線発生装置1は、引出電極EEに引出電位を供給する引出電位供給部42を備えうる。引出電位供給部42は、カソードCTと引出電極EEとの間に引出電圧を供給する構成要素として理解されてもよい。X線発生装置1は、収束電極CEに収束電位を供給する収束電位供給部43を備えうる。収束電位供給部43は、カソードCTと収束電極CEとの間に収束電圧を供給する構成要素として理解されてもよい。
【0015】
X線発生装置1は、電子銃EGから放射される電子線を偏向させる偏向器50を更に備えうる。偏向器50は、X線発生管XGの外側に配置されうる。偏向器50は、例えば、偏向器50を横切る仮想平面VP3がターゲット22の電子線入射面(電子銃EGに対面する面)を含む仮想平面VP1と電子銃EGの先端面(ターゲット22側の面)を含む仮想平面VP2との間に位置するように配置されうる。仮想平面VP1、VP2、VP3は、電子銃EGの中心軸AXに垂直に交差する平面として定義されうる。偏向器50は、電子銃EGから放射された電子線に対して磁界を作用させることによって該電子線を偏向させる。偏向器50が電子線を偏向させる量は、加速電圧に依存しうる。
【0016】
偏向器50は、永久磁石で構成されてもよいし、電磁石で構成されてもよいし、永久磁石および電磁石で構成されてもよい。一例において、偏向器50は、第1磁石および第2磁石を含みうる。第1磁石の第1磁極(例えば、S極)と第2磁石の第2磁極(例えば、N極)とは、絶縁管10あるいはX線発生管XGを介して互いに対向するように配置されうる。偏向器50は、磁極が絶縁管10あるいはX線発生管XGの径方向を向くように配置された1つの磁石で構成されてもよい。
【0017】
電極23は、ターゲット22に電気的に接続されていて、ターゲット22に電位を与える。ターゲット22は、電子銃EGからの電子がターゲット22に衝突することによってX線を発生する。ターゲット22が発生したX線は、ターゲット保持板21を透過してX線発生管XGの外部に放射される。アノード20は、例えば、接地電位に維持されうるが、他の電位に維持されてもよい。ターゲット22は、金属材料で構成される。ターゲット22は、融点が高い材料、例えば、タングステン、タンタルまたはモリブデン等で構成されることが望ましく、これらの材料は、X線の発生効率を向上させるために有利である。ターゲット保持板21は、例えば、X線を透過し易い材料、例えば、ベリリウム、ダイヤモンド等で構成されうる。X線発生装置1は、アノード20のターゲット22に時間当たりに入射する電子の量、即ち管電流を検出する管電流検出部44を更に備えうる。
【0018】
図2には、電子銃EGから放射された電子線EBがターゲット22に衝突する様子が模式的に示されている。図2では、電子銃EGとターゲット22とが近接して示されているが、電子銃EGとターゲット22とは、より離隔して配置されうる。電子銃EGから放出された電子線EBは、偏向器50が発生する磁界によって偏向された後にターゲット22に入射あるいは衝突する。電子線EBが偏向される量、換言すると、ターゲット22に対する電子線EBの入射位置は、偏向器50が発生する磁界、および、加速電圧に依存しうる。
【0019】
図2において、電子線EBaは、加速電圧(カソードCTとアノード20との間に印加される電圧)Vaにおける電子線EBの軌道を模式的に示し、電子線EBaは、ターゲット22に対して、加速電圧Vaによって定まる深さDaまで進入する。電子線EBbは、加速電圧Vbにおける電子線EBの軌道を模式的に示し、電子線EBbは、ターゲット22に対して、加速電圧Vbによって定まる深さDbまで進入する。電子線EBcは、加速電圧Vcにおける電子線EBの軌道を模式的に示し、電子線EBcは、ターゲット22に対して、加速電圧Vcによって定まる深さDcまで進入する。ここで、|Va|>|Vb|>|Vc|である。電子線EBaの偏向量(中心軸AXからの電子線EBの入射位置のシフト量)はda、電子線EBbの偏向量はdb、電子線EBcの偏向量はdcである。偏向器50が発生する磁界の強度が等しい場合、da<db<dcである。
【0020】
ここで、与えられた加速電圧においてX線が最も効率的に放射させるターゲット22の厚さを最適厚とすると、ターゲット22の厚さが最適厚より厚いと、X線は、ターゲット22を通過するまでに減衰する。一方、ターゲット22の厚さが最適厚より薄いと、ターゲット22における電子線からX線への変換効率が低下する。よって、最適厚は、加速電圧に依存する。また、前述のとおり、電子線の偏向量(ターゲット22に対する電子線の入射位置)も加速電圧に依存する。これは、加速電圧に応じた偏向量(即ち、入射位置)ごとにターゲット22の厚さを調整することができることを意味する。
【0021】
図3には、加速電圧に応じた偏向量(即ち、入射位置)ごとにターゲット22を薄化する動作が模式的に示されている。前述のとおり、電子線EBがターゲット22に進入する深さは、加速電圧によって定まる。一方、ターゲット22における電子線EBが入射する位置ではジュール熱が発生し、このジュール熱の量は、引出電極EEに供給される引出電位に依存する管電流によって定まる。詳細を後述するように、X線発生装置1は、第1電流範囲内に調整された電流でターゲット22に電子線を照射することによってターゲット22を薄化するための第1モードと、第2電流範囲内に調整された電流でターゲット22に電子線を照射することによってX線を発生させる第2モードとを有する。第1電流範囲の下限は、第2電流範囲の上限より大きい。第1電流範囲の下限は、例えば、第2電流範囲の上限の2倍以上、3倍以上、4倍以上、または、5倍以上でありうる。第1モードは、ターゲット22の厚さを調整するための加工モードとして、第2モードは、X線を発生するX線発生モードとして理解されてもよい。
【0022】
第1モード(加工モード)では、ターゲット22に対する電子線EBの照射によって発生するジュール熱によってターゲット22における電子線EBが入射する箇所を蒸発させることによってターゲット22を薄化、あるいはターゲット22の厚さを調整する。本実施形態では、第1モードにおいて、設定された管電圧でターゲット22の厚さを最適厚に調整し、第2モード(X線発生モード)において、その設定された管電圧でターゲット22に電子線EBが照射されうる。これによって、その最適厚に調整された位置に電子線EBが照射され、X線を効率的に発生させることができる。複数の管電圧の各々について、即ち、ターゲット22の複数の位置の各々について、ターゲット22の厚さをそれぞれの最適厚に調整することによって、複数の管電圧の各々についてX線を効率的に発生させることができる。
【0023】
図3には、電子線EBaを発生させる加速電圧Va、電子線EBbを発生させる加速電圧Vb、電子線EBcを発生させる加速電圧Vcの各々が入射する位置において、ターゲット22の厚さをそれぞれの最適厚に調整した例が模式的に示されている。
【0024】
図4は、一実施形態のX線発生装置1の構成を例示的に示すブロック図である。X線発生装置1は、例えば、X線発生管XGと、昇圧回路110と、駆動回路40と、制御部CNTとを備えうる。X線発生管XGは、前述のように、電子銃EGと、電子銃EGから射出される電子線EBが照射されることによってX線を発生するターゲット22とを含みうる。昇圧回路110は、外部から供給される電圧を昇圧し、昇圧された電圧を駆動回路40に供給しうる。昇圧回路110は、駆動回路40の一部として理解されてもよい。
【0025】
駆動回路40は、例えば、カソード電位供給部41、引出電位供給部42、収束電位供給部43および管電流検出部44を含みうる。制御部CNTは、例えば、CPUと、プログラムを格納したメモリと、を含み、該CPUは、該プログラムに基づいて動作することによって駆動回路40を制御するように動作しうる。あるいは、制御部CNTは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)等で構成されてもよい。
【0026】
制御部CNTは、駆動回路40に組み込まれてもよい。制御部CNTの全部または一部は、昇圧回路110、駆動回路40およびX線発生管XGを収容する不図示の筐体に内部に配置されてもよいし、該筺体の外部に配置されてもよい。制御部CNTは、第1電流範囲内に調整された電流でターゲット22に電子線EBを照射することによってターゲット22を薄化するための第1モードと、第2電流範囲内に調整された電流でターゲット22に電子線EBを照射することによってX線を発生させる第2モードとの実行を制御するように構成されうる。第1モードの実行が不要になった場合、第1モードを実行するためのモジュールは、制御部CNTから取り除かれてもよい。
【0027】
図5には、一実施形態のX線撮像装置200の構成が示されている。X線撮像装置200は、X線発生装置1と、X線発生装置1から放射され物体230を透過したX線XRを検出するX線検出装置240を備えうる。X線検出装置240は、制御装置210および表示装置220を更に備えてもよい。X線検出装置240は、X線検出器242および信号処理部244を含みうる。制御装置210は、X線発生装置1およびX線検出装置240を制御しうる。前述の制御部CNTの全部または一部は、制御装置210に組み込まれてもよい。X線検出器242は、X線発生装置1から放射され物体230を透過したX線XRを検出あるいは撮像しうる。信号処理部244は、X線検出器242から出力される信号を処理して、処理された信号を制御装置210に供給しうる。制御装置210は、信号処理部244から供給される信号に基づいて、表示装置220に画像を表示させる。
【0028】
図6には、第1モード(加工モード)および第2モード(X線発生モード)の実行に関するX線発生装置1の動作例が示されている。図6に示された動作は、制御部CNTによって制御されうる。工程S601では、制御部CNTは、モードの指定を読み込む。工程S602では、制御部CNTは、工程S601で読み込んだモードの指定が第1モードであるか、第2モードであるかを判断し、第1モードが指定されている場合には工程S603を実行し、第2モードが指定されている場合には工程S604を実行する。なお、制御部CNTが実行可能なモードは、第1モードおよび第2モード以外に、第3モード等の他のモードを含んでもよい。
【0029】
工程S603では、制御部CNTは、第1モード(加工モード)の実行の準備として、第1電流範囲内の管電流を流すための第1引出電位を発生するように、引出電位供給部42を設定する。工程S604では、制御部CNTは、第2モード(X線発生モード)の実行の準備として、第2電流範囲内の管電流を流すための第2引出電位を発生するように、引出電位供給部42を設定する。
【0030】
図7には、1つの管電圧(カソード電位)についてのターゲット22の厚さの調整に関するX線発生装置1の動作例が示されている。複数の管電圧(カソード電位)の各々についてのターゲット22の厚さを調整する場合には、各管電圧について図7に示された動作が実行されうる。図7に示された動作は、制御部CNTによって制御されうる。工程S701では、制御部CNTは、目標とする管電圧が発生するようにカソード電位供給部41を設定する。以下の工程S702~S710は、工程S701で設定された管電圧が維持された状態で実行される。工程S702では、制御部CNTは、以下の処理で使用するパラメータDmaxを0又は0に近い値に設定する。
【0031】
工程S703では、制御部CNTは、図6に示された動作を起動し、X線発生装置1あるいは引出電位供給部42を第2モード(X線発生モード)に設定する。工程S704では、制御部CNTは、カソードCTから電子線EBを放射させることによってターゲット22からX線を放射させ、そのX線を検出するように配置されたX線検出器にX線を検出させ、その検出結果をDdetとして取り込む。このX線検出器は、図7に示された動作の実行の前に、X線発生装置1が発生するX線を検出可能な位置に設置され、制御部CNTと通信可能に接続されうる。このX線検出器として、図5に示されたX線撮像装置200のX線検出器242のようなX線検出器が使用されてもよい。工程S703は、現在の管電圧(換言すると、ターゲット22に対する電子線EBの入射位置)、および、当該入射位置におけるターゲット22の厚さにおいてターゲット22から放射されるX線の線量を確認する工程であると理解されてよい。
【0032】
工程S705では、制御部CNTは、DmaxからのDdetの変化率Δを計算する。変化率Δを計算するための計算式は、例えばΔ=(Dmax-Ddet)/Dmaxで与えられうる。ここで、変化率Δの値が正であることは、第1モード(加工モード)におけるターゲット22の加工(薄化)によるX線の線量の変化がピークを過ぎたことを示唆する。一方、変化率Δの値が負であることは、第1モード(加工モード)におけるターゲット22の加工(薄化)によるX線の線量の変化がまだピークに到達していないことを示唆する。
【0033】
工程S706では、制御部CNTは、変化率Δの値が判定基準値R以上になったかどうか、換言すると、薄化が終了したかどうかを判定し、変化率Δの値が判定基準値R以上になったら図7に示された動作を終了し、そうでなければ、工程S707を実行する。この例では、判定基準値Rは正の値であり、変化率Δの値が判定基準値R以上になったことは、第1モード(加工モード)におけるターゲット22の加工(薄化)によるX線の線量の変化がピークを過ぎたことが確認されたこと、換言すると、X線の線量のピークが検出されたことを意味する。判定基準値Rの値は、ノイズおよび検出誤差等を考慮して任意に設定されてよく、例えば、0.01に設定されうる。判定基準値Rが0.01であることは、検出されたX線の線量がピーク値から1%低下したことを意味する。ここでは、上記の計算式および判定基準値を満たすまでターゲット22の薄化を行うが、ターゲット22の薄化は、他の所定の条件が満たされるまで実行されてもよい。他の所定の条件は、例えば、電子線の入射位置におけるターゲット22の厚さが目標膜厚の許容範囲に入ることでありうる。
【0034】
工程S707では、制御部CNTは、DdetがDmaxより大きいかどうかを判断し、DdetがDmaxより大きければ、工程S708においてDmaxの値をDdetの値で置き換える(即ち、Dmaxを更新)。
【0035】
工程S709では、制御部CNTは、図6に示された動作を起動し、X線発生装置1あるいは引出電位供給部42を第1モード(加工モード)に設定する。工程S710では、制御部CNTは、ターゲット22を加工(薄化)するための第1電流範囲内に調整された電流でターゲット22に電子線EBを照射することによってターゲット22(の管電圧によって定る入射位置)を薄化する。工程S710は、例えば、予め設定された時間にわたって実行され、その後に工程S701~S710が繰り返される。
【0036】
図8には、X線発生装置1の動作例あるいは使用例が示されている。図8に示された動作は、制御部CNTによって制御されうる。工程S801では、制御部CNTは、X線発生装置1が通常用途、典型的にはX線撮像のために使用されるかどうかを判断し、X線発生装置1が通常用途で使用される場合には、工程S802~S805を実行する。一方、制御部CNTは、ターゲット22の厚さを調整する場合には、工程S806において図7に示された動作を実行する。
【0037】
工程S802では、図6に示された動作を起動し、X線発生装置1あるいは引出電位供給部42を第2モード(X線発生モード)に設定する。工程S803では、制御部CNTは、目標とする管電圧が発生するようにカソード電位供給部41を設定する。工程S804では、制御部CNTは、第2モード(X線発生モード)の実行の準備として、第2電流範囲内の管電流を流すための第2引出電位を発生するように、引出電位供給部42を設定する。工程S805では、制御部CNTは、上位の制御装置、例えば、制御装置210からの指令に従って、カソードCTから電子線が放射されるようにカソード電位供給部41を制御し、これにより、電子線が入射するターゲット22からX線を放射させる。
【0038】
図9A図9B図9Cには、上記の方法によって加工されたターゲット22を有するX線発生装置1の構成の一部が模式的に示されている。図9Aの例では、ターゲット22は、複数の凹部901を有し、複数の凹部901は、電子銃EGのカソードCTとターゲット22との間に印加される複数の加速電圧にそれぞれ対応する位置に配置され、複数の凹部に901おけるターゲット22の厚さは、互いに異なる。図9Aの例では、複数の凹部901は、互いに分離されて配置されている。
【0039】
図9Bの例でも、ターゲット22は、複数の凹部902を有し、複数の凹部902は、電子銃EGのカソードCTとターゲット22との間に印加される複数の加速電圧にそれぞれ対応する位置に配置され、複数の凹部に901おけるターゲット22の厚さは、互いに異なる。図9Bの例では、複数の凹部902のうち隣り合う凹部902は、それらの周辺において互いに部分的に結合するように配置されている。
【0040】
図9Cの例では、ターゲット22は、複数の加速電圧にそれぞれ対応する位置において調整された厚さを有するように傾斜面903を有する。
【0041】
本実施形態において、第1モードおよび第2モードにおいて、加速電圧が同じであれば、電子線はターゲットの同じ位置に入射するので、電子線をターゲット22の最適位置(第1モードにおいて調整された厚さを有する位置)に入射させることができる。よって、本実施形態によれば、加速電圧に応じてターゲットに対する電子線の入射位置を調整するための構成や作業は不要である。
【0042】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0043】
1:X線発生装置、EG:電子銃、XG:X線発生管、CT:カソード、EE:引出電極、CE:収束電極、10:絶縁管、20:アノード、21:ターゲット保持板、22:ターゲット、23:電極、30:閉塞部材、50:偏向器、AX:中心軸、EB:電子線
【要約】
X線発生装置は、電子銃と、前記電子銃から射出される電子線が照射されることによってX線を発生するターゲットとを有する。前記X線発生装置は、第1電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによって前記ターゲットを薄化するための第1モードと、第2電流範囲内に調整された電流で前記ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生させる第2モードとの実行を制御する制御部を備え、前記第1電流範囲の下限は、前記第2電流範囲の上限より大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C