(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】冷却液良否管理システム及び冷却液良否検出ユニット
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20231204BHJP
B24B 55/03 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B24B55/03
(21)【出願番号】P 2020510933
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012922
(87)【国際公開番号】W WO2019189212
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018063273
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】新堂 正俊
(72)【発明者】
【氏名】逸見 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴行
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-085577(JP,A)
【文献】特開2006-130603(JP,A)
【文献】特開昭64-046003(JP,A)
【文献】特開平01-155004(JP,A)
【文献】特開平11-276818(JP,A)
【文献】特開2009-136986(JP,A)
【文献】特開2014-111284(JP,A)
【文献】特開2015-157330(JP,A)
【文献】特開2014-176942(JP,A)
【文献】特開2009-002252(JP,A)
【文献】特開2000-158343(JP,A)
【文献】特開2009-054629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0139432(US,A1)
【文献】米国特許第6555379(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/10
B24B 55/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属加工装置の動作中又は停止中に加工ツールを冷却する冷却液の良否を検出する冷却液良否管理システムであって、少なくとも、
所定の時間又は期間ごとに前記冷却液の供給流路中にある冷却液の貯留タンク内の底部から液面までの中間層の冷却液を分取して、その温度、濃度及び/又はpH値をそれぞれ計測する温度計測手段、濃度計測手段及び/又はpH値計測手段を備え、
前記濃度計測手段は、前記分取した冷却液の光の屈折率の変化に基づいて濃度に換算することで濃度計測し、前記pH値計測手段は、該分取した冷却液の電導度の変化に基づいて水素イオン濃度を推定することでpH値を計測し、
前記温度計測手段、濃度計測手段及び/又はpH値計測手段による前記分取した冷却液の計測は、同時に行い、
前記濃度計測手段及び前記pH値計測手段の計測は、冷却液の流動や液面の変動が無い状態及び/又は冷却液の流動が停止した状態で行う、冷却液良否管理システム。
【請求項2】
前記温度計測手段は、別途の温度計、及び/又は前記濃度計測手段と前記pH値計測手段とのそれぞれの内蔵温度計で構成される、請求項1に記載の冷却液良否管理システム。
【請求項3】
前記貯留タンクは、液面の高さが異なり上方に開口された複数の容器で構成され、
前記貯留タンク内の
冷却液の分取は、上流上方側の容器の流出口から外部放出された冷却液が下流下方側の容器内に注がれ
ることにより行われる、請求項1又は2に記載の冷却液良否管理システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却液良否管理システムにおいて貯留タンク内の冷却液から分取したバイパス流路中に配設されて、該バイパス流路内の冷却液の濃度及びpH値をそれぞれ計測する濃度計測手段及びpH値計測手段と、
前記バイパス流路内の冷却液を貯留させる貯留槽と、
前記貯留タンク内の冷却液を吸引する吸引ポンプと、を備える冷却液良否検出ユニット。
【請求項5】
前記バイパス流路内の冷却液をろ過する交換可能なフィルタと、
前記バイパス流路内の冷却液の流量を測定する流量センサと、を備える
請求項4に記載の冷却液良否検出ユニット。
【請求項6】
前記貯留槽は、前記冷却液良否検出ユニット内で高床状に配設され、前記バイパス流路内の冷却液は、該貯留槽の上方の流入口から流入されて下方の流出口から放出される、
請求項4又は5に記載の冷却液良否検出ユニット。
【請求項7】
前記濃度計測手段は、冷却液を貯留して光の屈折率を計測するための計測用貯留部を設け、
該計測用貯留部は、冷却液を流入する流入口と、冷却液を流出する流出口とを有し、該流入口及び流出口はそれぞれ、前記計測用貯留部内の冷却液の濃度の計測するための通常用流入口及び通常用流出口と計測用貯留部内を洗浄するための洗浄用流入口及び洗浄用流出口とを備え、前記洗浄用流入口及び洗浄用流出口はそれぞれ、端部から前記計測用貯留部に至る流路を略直線とし、前記通常用流入口及び通常用流出口はそれぞれ、端部から前記計測用貯留部に至る流路に変曲部を設ける、
請求項4~6のいずれか1項に記載の冷却液良否検出ユニット。
【請求項8】
pH値計測手段は前記貯留槽に装着されてその内部の冷却液を計測し、前記貯留槽は電気絶縁性の素材で構成される、
請求項4~7のいずれか1項に記載の冷却液良否検出ユニット。
【請求項9】
請求項7に記載の冷却液良否管理システムにおいて貯留タンク内の冷却液から分取したバイパス流路中に配設されて、該バイパス流路内の冷却液の濃度を計測する濃度計測手段と、
前記貯留タンク内の冷却液を吸引する吸引ポンプと、を備え、
前記濃度計測手段は、前記バイパス流路内に配設された該計測用貯留部内に冷却液を流出入させて内部に配設されたレンズで冷却液の光の屈折率を計測し、前記計測用貯留部は、冷却液の流出口が最上部に位置し、前記レンズが傾斜部分に配設されるように傾斜して位置決めされる、冷却液良否検出ユニット。
【請求項10】
pH値計測手段は前記貯留タンクの内部又は前記バイパス流路と別に配設された流路内の冷却液を計測する、
請求項9に記載の冷却液良否検出ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工装置における動作中の冷却液を各種センサ(温度計、濃度計、pHメータ)で定期的に計測し外部で集中管理でき、各種センサの動作障害となる物理現象を回避(又は低減)しつつ、システム導入が容易且つ計測が安定的であり、加工条件の変化に対して標準化した評価を得やすい冷却液良否管理システム及び冷却液良否管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属加工装置において加工時の加工ツールの冷却は、製品の加工精度、歩留まり、工具寿命等に大きく影響するものでありながら、個々の装置、使用工具、 加工工程(作業)ごとに冷却油の状態を測定しておらず、現場の作業員の経験則に任せている状況であった。高精度な加工現場においては冷却油を冷却する追加のクーラント冷却装置で管理する場合もあるが、クーラント冷却装置は大型で高価なもので広く現場に普及できておらず、その管理も冷却油メーカ指定の標準的な閾値・使用条件での管理(濃度、pH、交換頻度、推奨交換時期等)のみであり個々現場での加工部品の精度や工具の寿命に寄与するような最適なものではなかった。
【0003】
したがって、加工条件ごと、各加工装置(切削装置、研削装置,旋盤装置、鍛造装置や鋳造装置など、広く金属加工装置全般)において、種々の仕様のクーラントを使った実加工に際して、その良否が定量的に評価できるシステムに対する社会的・潜在的なニーズが高まっていた。各加工ツールの加工中の計測評価技術(特許文献1、2参照)を提唱してきた出願人は、これらの技術と密接に関係し組み合わせ発展させ得るものとして、金属加工装置における加工ツールのクーラント(以下、「冷却液」とも称する。)を供給する流路において、温度や濃度、不純物量等を計測し、外部に無線送信する冷却液良否検出システムを提供した(特許文献3(国際出願PCT/JP2017/035050))。
【0004】
上記出願人提案の冷却液良否検出システムでは、金属加工装置の動作中に所定時間又は期間ごとに冷却液の温度や濃度、pH値を定期的に計測することができ、その計測値の変化により冷却液の性能劣化を数値データとして客観的に検出し、冷却液の性能劣化を定量的に判定することができる。その結果、冷却液の経時的な変化や劣化に起因する工具の疲労、破損等の回避、ひいては被加工物の加工精度の低下、製品の歩留まり低下を回避するようにリアルタイムに評価・管理を行うことができる。
【0005】
しかしながら、上記冷却液良否検出システムでは、各種センサ(温度計、濃度計、pHメータ)の設置場所が種々選択的に提案されたが、その後、出願人は実用化開発を続けた結果、センサの動作障害を避けつつ長期間計測可能な耐久性を担保し得るための課題及び良好な構成がわかってきた。また、実際の加工装置に各種センサを設置する各位置での具体的な設置や計測のしやすさも検討された。さらに、実加工中に冷却液良否を評価する場合、金属加工の加工条件に拘わらず計測データと冷却液の良否との関係を標準化して定量的に評価し得ることが好ましく、この点(課題)にも適応し得る良好な具体的構成の提供が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開公報WO2015-022967
【文献】国際公開公報WO2016-111336
【文献】国際出願PCT/JP2017/035050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて創作されたものであり、金属加工装置における冷却液の冷却液良否検出システムにおいて、各種センサ(温度計、濃度計、pHメータ)の動作障害となる物理現象を回避(又は低減)しつつシステム導入が容易且つ計測が安定的であり、加工条件の変化に対して標準化した評価を得やすい具体的な冷却液良否検出システムの構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属加工装置の動作中に加工ツールを冷却する冷却液の良否を検出する冷却液良否管理システムであって、少なくとも、
所定の時間又は期間ごとに前記冷却液の供給流路中にある冷却液の貯留タンク内の底部から液面までの中間層の冷却液を分取して、その温度、濃度及びpH値をそれぞれ計測する温度計測手段、濃度計測手段及び/又はpH値計測手段を備え、
前記濃度計測手段は、前記分取した冷却液の光の屈折率の変化に基づいて濃度に換算することで濃度計測し、前記pH値計測手段は、該分取した冷却液の電導度の変化に基づいて水素イオン濃度を推定することでpH値を計測し、
前記温度計測手段、濃度計測手段及び/又はpH値計測手段による前記分取した冷却液の計測は、同時に行う。
【0009】
金属加工装置における冷却液の冷却液良否検出システムにおいて、特許文献3では冷却液の温度変化を主たる冷却液良否の評価指標としていたが、温度変化は装置の構成、加工条件、環境条件、計測場所ごとに種々の変化をし、これのみを冷却液評価の指標として標準化することは難しいことがわかってきた。したがって、温度変化以外に冷却液の直接的な良否指標としての濃度やpH値の計測も必須の計測指標とする方が好ましいことがわかってきた。
【0010】
一方、各種センサ(温度計測手段、濃度計測手段、pH値計測手段)の動作の障害の要因となる物理現象としては、クーラント内への気泡の混入、切削くずの混入、冷却液の増減による液面の変動、温度変化が代表的である。光の屈折率の変化を利用して、濃度に換算する濃度計測手段(濃度計)では、冷却液に気泡の混入や切削くず(金属片)の混入が進行すると、冷却液の種類が異なるものと同じように冷却液メーカから提示された換算係数に影響が出ることがあり計測データ(計測濃度)の信頼性が低下する。
【0011】
また、電導度(電気抵抗)の変化を利用して水素イオン濃度を推定するpH値計測手段(pHメータ)では、電導度の変化を計測している以上、基本的に水系の冷却液しか計測対象とできないため冷却液に気泡の混入や、不水溶性の浮上油の発生、切削くず(金属片)の混入、液面の変動が発生すると、適正な計測データ(計測pH値)の出力が困難となる。一方、切削くずや気泡や浮上油を循環系の配管流路にフィルタを設けたり配管交換で除去することも考えられるが、フィルタのみで不水溶性の浮上油を除去することは難しく、長期の連続使用を考慮すると目詰まり対策や配管交換のメンテナンスが煩雑であり、逆洗での対応は堆積した切削くず等の飛翔になるため計器損傷のおそれもある。したがって、本発明では冷却流路の中で気泡や不水溶性の浮上油、切削くずの混入を避け、液面変動が小さい箇所で計測できる箇所として、冷却液を一時的に静水として貯留する貯留タンク内の冷却液に注目した。貯留タンク内では一時貯留により液面変動が小さく切削くずが底部に沈殿し気泡が曝気されるため、特に「貯留タンク」内の液面から底部までの中間層の高さ位置の冷却液(以下、「中間層の冷却液」とも称する。)を「分取」あるいは選択的に計測することが好ましいことがわかった。
【0012】
さらに、上記濃度計測手段、pH値計測手段は共に、その計測データの温度依存性が大きく、冷却液の良否による大きな温度変化も予想されるため(元来、温度変化と冷却液良否との関連が大きいことから本発明の元開発技術(特許文献3)が創出された)、同じ温度状態での濃度計測及びpH値計測が好ましく、本発明では温度、濃度及び/又はpH値の計測を同時に行うこととした。
【0013】
また、前記温度計測手段は、別途の温度計、及び/又は前記濃度計測手段と前記pH値計測手段とのそれぞれの内蔵温度計で構成される場合がある。
【0014】
上述したように濃度及びpH値の計測データは温度依存性が高く、同じ温度条件での計測データを評価することが望ましい。その一方、濃度計測手段、pH値計測手段には、温度依存性を排除すべく温度変化に対して自動補正する内蔵温度計を備える場合がある。したがって、濃度計測データおよびpH値計測データの温度依存性除去の補正としては、(1)冷却液良否の評価指標としての温度変化計測用の温度計(別途の温度計)からの温度計測データを使用する場合や、(2)濃度計等内蔵の温度計による温度変化に対する濃度等自動補正機能を使用する場合が考えられる。
【0015】
前記貯留タンクは、液面の高さが異なり上方に開口された複数の容器で構成され、
前記貯留タンク内の液面近傍の冷却液の分取は、上流上方側の容器の流出口から外部放出された冷却液が下流下方側の容器内に注がれることで行われても良い。
【0016】
本冷却液良否管理システムにおいて貯留タンク内の浮上油や底部に溜まった金属くずを含むドレン以外の計測に良好な冷却液のみを分取するには、複数の容器を上下方向多段に設置し、上流側の容器内の中間層の冷却液を下流側に注いでいくことが考えられる。この例では、単に中間層の冷却液を何度か分取することで順に切削くずや不水溶性の浮上油等の不純物が除去される。とりわけ切削くずが多い場合や腐敗した沈殿物が多い場合。不水溶性の浮上油が液面近傍に溜まっている場合、などは効果的である。具体例は後述する。
【0017】
また、前記濃度計測手段及び前記pH値計測手段の計測は、冷却液の流動や液面の変動が無い状態及び/又は冷却液の流動が停止した状態で行うことが好ましい。
【0018】
具体的には、後述する冷却液良否検出ユニットで冷却液を吸引する吸引ポンプを間欠的に作動させることが好ましい。
【0019】
また本発明は、上述してきた本冷却液良否管理システムにおいて貯留タンク内の冷却液から分取したバイパス流路中に配設されて、該バイパス流路内の冷却液の濃度及びpH値をそれぞれ計測する濃度計測手段及びpH値計測手段と、
前記バイパス流路内の冷却液を貯留させる貯留槽と、
前記貯留タンク内の冷却液を吸引する吸引ポンプと、を備える冷却液良否検出ユニットを提供する。
【0020】
本冷却液良否検出ユニットは、上述した冷却液良否管理システムにおいて貯留タンクから分取したバイパス流路過程に設置して濃度、pH値を計測するユニットである。このユニットは、その中にも貯留槽を設けており、この貯留槽に一旦、冷却液が溜められるため上述してきた金属加工装置の貯留タンク同様に底部に切削くずが沈殿する沈殿槽の機能と気泡を除去する曝気槽の機能とを有する。また、本冷却液良否検出ユニットは貯留タンクから冷却液を分取するための吸引ポンプを設けることでユニット内への冷却液供給(特に濃度計、pHメータへの供給)をスムーズにし、吸引ポンプの作動時に濃度、pH値を計測することで小型のユニットであっても適正な計測を行うことができる。
【0021】
また、本冷却液良否検出ユニットは、
前記バイパス流路内の冷却液をろ過する交換可能なフィルタと、
前記バイパス流路内の冷却液の流量を測定する流量センサと、を備えることが好ましい。
【0022】
上記貯留槽には冷却液のろ過するフィルタを設けることが好ましく、このフィルタで切削くずを除去する。また、流量センサにより冷却液の流量が低減した場合にフィルタは目詰まりしたと検出する目詰まり検知も可能である。
【0023】
また、前記貯留槽は、前記冷却液良否検出ユニット内で高床状に配設され、前記バイパス流路内の冷却液は、該貯留槽の上方の流入口から流入されて下方の流出口から放出される、ことが好ましい。
【0024】
この構成を採用すると、貯留槽を通過する際の切削くず等を除去と冷却液の上流から下流へのスムーズな流れとのバランスを調整することができ、吸引ポンプの出力に応じたユニット設計が可能となる。
【0025】
また、上記冷却液良否検出ユニットの濃度計測手段は、冷却液を貯留して光の屈折率を計測するための計測用貯留部を設け、
該計測用貯留部は、冷却液を流入する流入口と、冷却液を流出する流出口とを有し、該流入口及び流出口はそれぞれ、前記計測用貯留部内の冷却液の濃度の計測するための通常用流入口及び通常用流出口と計測用貯留部内を洗浄するための洗浄用流入口及び洗浄用流出口とを備え、前記洗浄用流入口及び洗浄用流出口はそれぞれ、端部から前記計測用貯留部に至る流路を略直線とし、前記通常用流入口及び通常用流出口はそれぞれ、端部から前記計測用貯留部に至る流路に変曲部を設ける、ことが好ましい。
【0026】
本冷却液良否検出ユニットの濃度計測手段によれば、通常時(計測時)用の流出入口と洗浄用の流出入口とを兼用にするので、端部を洗浄用に付け替えるだけで通常時と同じ放出クーラントで計測用貯留部を洗浄でき、計測用貯留部内の切削くず等を容易かつ確実に洗浄し、常に高い計測精度の濃度計測をすることができる。また、洗浄用の流出入口は直線状のクーラント助走区間を設けているため流速低下がなく、計測用貯留部内では通常時と近似軌跡のクーラント噴流を放射できるため洗浄力を高く保つことができ、同時に通常用の流出入口に変曲部(屈曲部等)を設けてクーラントの流速を低下させ、気泡の除去をすることも可能である。
【0027】
さらに、pH値計測手段は前記貯留槽に装着されてその内部の冷却液を計測し、前記貯留槽は電気絶縁性の素材で構成される、ことが好ましい。
【0028】
pH値の計測においては、pHメータ9を取り付ける貯留槽21を電気絶縁性の素材で構成もしくは、貯留槽21内部のクーラント液を電気的にフローティング(非電気導電性に)することで、切削油の循環により、外部装置と電気的に接続された切削油と、pH値計測対象の切削油が回路を構成し、タンク内の電位を変動させることがなくなり、pHメータによる計測が不能もしくは、誤差が大きくなる現象の発生が抑制される。
【0029】
また、冷却液良否管理システムにおいて貯留タンク内の冷却液から分取したバイパス流路中に配設されて、該バイパス流路内の冷却液の濃度を計測する濃度計測手段と、
前記貯留タンク内の冷却液を吸引する吸引ポンプと、を備え、
前記濃度計測手段は、前記バイパス流路内に配設された該計測用貯留部内に冷却液を流出入させて内部に配設されたレンズで冷却液の光の屈折率を計測し、前記計測用貯留部は、冷却液の流出口が最上部に位置し、前記レンズが傾斜部分に配設されるように傾斜して位置決めされる、冷却液良否検出ユニットであっても良い。
【0030】
この濃度計測手段によれば、計測用貯留部を傾斜させつつ、不水溶性の浮上油を抜き出してレンズが不水溶性の冷却液に浸されて計測不能にならないように流出口が計測用貯留部の最上部に配設し、レンズを傾斜部に配設することで金属くず等の不純物(ドレン)がレンズ周りに溜まって屈折率計測できなくなることも防止できる。
【0031】
さらに、pH値計測手段は前記貯留タンクの内部又は前記バイパス流路と別に配設された流路内の冷却液を計測しても良い。
【発明の効果】
【0032】
以上、本発明の冷却液良否管理システム及び冷却液良否検出ユニットによれば、金属加工装置における実加工中等の冷却液を各種センサ(温度計、濃度計、pHメータ)で計測し外部で集中管理でき、各種センサの動作障害となる物理現象を回避しつつ、システム導入が容易且つ計測が安定的で加工条件の変化に対して標準化した評価を得やすい構成を提供している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の冷却液良否管理システム及び冷却液良否検出ユニットを用いる金属加工装置の一例としての切削装置の斜視図を示している。
【
図2】切削装置の加工ツールに対する冷却液の供給経路を示す流路図である。
【
図3】温度計、濃度計、pHメータで計測するためにクーラントを分取する切削装置の貯留タンクを例示している。
【
図4】(a)は冷却液良否検出ユニットの実施形態の正面図であり、(b)は冷却液良否検出ユニット内の濃度計の計測用貯留部の略断面図を示している。
【
図5】(a)は、
図4と略同視点の3次元図、(b)は
図4の上方視点の3次元図(天面視点)、を示している。
【
図6】
図4及び
図5の冷却液良否検出ユニットの他の例を示す略斜視図を示している。
【
図7】
図6の冷却液良否検出ユニットに配設される濃度計の計測用貯留部の傾斜や、流入口及び流出とレンズとの位置関係の種々の例を示す略断面である。
【
図8】計測された温度、濃度、pH値が外部ユニッ卜に送信されるまでの電気信号のフローを示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
《切削装置例の概説》
図1は、本発明の冷却液良否検出システムを用いる金属加工装置の一例としての切削装置100の斜視図を示している。切削装置100は、概ねツールホルダ把持部105と、被加工部材設置面102aと、ワークステージ102と、ヘッド支台108と、ヘッド107と、操作盤106と、を備えて構成される。なお、
図1に示していない参照番号の部材は後述する
図2等を参照する。
【0035】
まず、ツールホルダ把持部105に加工対象となる被加工部材109(
図2参照)に回転当接(当接方向=矢印Z方向、回転方向=矢印Zの軸周り方向)させるドリル等の加工ツール110(
図2参照)を把持させたツールホルダ104を装着する。これによりツールホルダ把持部105とツールホルダ104及び加工ツール110は一体に回転することとなる。また、被加工部材109は、基台103上をX方向に移動するワークステージ102の上面の被加工部材設置面102aに載置され、固定用クランプ(図示せず)や固定用ボルト(図示せず〉等を用いて固定される。
【0036】
オペレータは、操作盤106を操作し、ワークステージ102をX方向へ移動させ、被加工部材が所望の接合位置直上に加工ツール110が位置するところで停止・位置決めする。次に、被加工部材上に停止・位置決めされた状態で操作盤106を操作して、加えてツール110を下降させ被加工部材に当接させ、切削部に当接しながら回転させ、加工方向に繰り返し移動させる。オペレータは操作盤106で予め加工ツール110に付与する荷重や、加工ツール110の加工速度や1回あたりの切削距離、加工ツール110の回転速度等の各パラメータを入力し、切削条件を設定する。
【0037】
操作盤106での設定が終了すると、被加工部材上で加工ツール110を回転させて設定した各パラメータに従って、ヘッド107をZ方向下方へ移動させ、被加工部材109の切削開始点で加工ツール110を当接する。また、
図1の例ではY方向の移動についてはヘッド支台108を設定した移動速度でY方向に移動させることで行う。なお、
図1の例では、X方向の移動をワークステージ、Y方向の移動をヘッド支台108、Z方向の移動を主軸101で行う切削装置100が示されているが、X方向の移動やY方向の移動をワークステージ102で行う装置の場合もある。所望の切削が達成された後、加工ツール110の回転を維持させながらヘッド107をZ方向上方へ移動させ、切削終了点から加工ツール110を引き抜いた後にその回転を停止させる。この工程により切削加工が終了する。
【0038】
≪加工装置でのクーラントの流路例について》
続いて、
図2の切削装置100の加工ツール110に対する冷却液(以下、「クーラント」とも称する)の供給経路について
図2を参照して説明する。なお、ここでクーラントとは、切削箇所に対する潤滑機能や冷却機能等を有する切削液であり、後述のpHメータで水素イオン濃度を計測するため水溶性切削油である。
図2に示すように、切削装置100は、クーラントが貯留される貯留タンク(以下、単に「タンク」とも称する)112と、タンク112内に設置される切削装置100内へのクーラント供給用のポンプ114とを有している。また、切削装置100は、複数の電磁弁116,118,120等によって構成されるバルブユニット(クーラント供給部)122を有している。バルブユニッ卜122は、ポンプ114の吐出ポート(出力ポート)に接続される入力流路124を有している。入力流路112は、ポンプ114の吐出ポート直後の吐出流路124aにはリリーフ弁126が接続され、リリーフ弁126にはバルブユニット122に入力される余剰流量(これは、ポンプ114からの流量から、バルブユニッ卜122に必要な流量を差し引いた流量に等しい)をタンク112内に戻すドレン流路128に接続されることで、バルブユニット122に入力される流量を制御している。
【0039】
また、リリーフ弁126を通過した入力流路112には、第1供給経路130、第2供給経路132および第3供給経路134が接続されている。それぞれの供給経路130、132、134は、チェック弁136、138、140、電磁切替弁116、118、120および絞り弁142、144、146によって構成されている。第1供給経路130に接続される出力流路148は、クーラントを噴射する噴射ノズル(噴射手段)154に接続されている。同様に、第2供給経路132、に接続される出力流路150は、ヘッド107 (やヘッド支台108)およびツールホルダ把持部105、ツールホルダ104内に形成される接続流路150を介して、回転工具等の加工ツール110に接続されている。加工ツール110は上端から下端までの貫通孔(オイルホール:図示せず)が設けられており、接続流路150と連通している。また、第3供給経路134に接続される出力流路152は、同様にヘッド107等およびツールホルダ把持部105内(又はツールホルダ104内)に形成される接続流路152を介してツールホルダ把持部105(又はツールホルダ104)の下端のポート(図示せず)まで接続している。
【0040】
バルブユニッ卜122の電磁切替弁116,118,120の作動状態を制御するため、切削装置100にはCPU、メモリおよび駆動回路等からなる制御ユニット160が設けられている。制御ユニッ卜160は、所定の制御プログラムに沿って電磁切替弁116,118、120を連通状態または遮断状態に制御する。第2供給経路132、第3供給経路134の電磁切替弁118、120が連通状態に切り替えられると、ポンプ114から吐出されるクーラントは、第2供給経路132、第3供給経路134から接続流路150、152を経て、加工ツール110の内部又は外部から加工ツール110に供給される。一方、第2供給経路132、第3供給経路134の電磁切替弁118、120が遮断状態に切り替えられると、第2供給経路132、第3供給経路134においてクーラントが遮断される。
【0041】
このように、第2供給経路132を連通する状態(第1状態)にバルブユニッ卜122が制御されると、クーラントが加工ツール110内を通過して下端のクーラント穴から放出される。また、第3供給経路134を連通する状態(第2状態)にバルブユニッ卜122が制御されると、ツールホルダ把持部105内(又はツールホルダ104内)をクーラントが通過して下端のクーラント穴から加工ツール110に噴射される。一方、第2供給経路132、第3供給経路134を遮断する状態にバルブユニット122が制御されると、前記それぞれのクーラント穴からのクーラントの放出・噴射が停止される。
【0042】
また、第1供給経路130の電磁切替弁116が連通状態に切り替えられると、ポンプ114から吐出されるクーラントは、第1供給経路130および出力流路148を経て噴射ノズル154に供給される。そして、噴射ノズル154に供給されたクーラントは、被加工部材109や加工ツール110に向けて外部から噴射される。
【0043】
《クーラントの分取及び分取されたクーラントの温度、濃度、pH値の計測》
金属加工装置内のクーラントの良否評価は、所定期間ごと(所定時間ごと、所定期間ごと等)にクーラントの温度、濃度、pH値を計測(検出)したデータに基づいて行う。本冷却液良否検出システムでは、温度、濃度、pH値の計測手段となる温度計、濃度計、pHメータで計測するクーラントはタンク112から分取する。ここでは温度計としては日本電測株式会社製、濃度計としては光の屈折率の変化を利用して濃度換算する株式会社アタゴ製「CM-BASEα(A)」、pHメータとしては電導度(電気抵抗)の変化を利用して水素イオン濃度を推定する株式会社佐藤計測器製作所製「ハンディ型pH計SK-620PH II」を用いて行い、それぞれデジタル化した温度信号、濃度信号、pH値信号を外部送信する。なお、後述する温度依存性の補正を考慮して温度計は、上記濃度計やpHメータに内蔵する温度計を活用することも考えられる。
【0044】
温度計、濃度計、pHメータで計測するためにタンク112から分取されるクーラントは、タンク112から貯留するクーラントのうち不純物が少なく下流に放出して良い部分である。不純物の少ないかつ上澄み(液面近傍のクーラント)である。例えば
図3(a)の例では装置内の回収流路153のクーラントがタンク112内に放出(ドレン)され(
図3(a)矢印1)、タンク112の側部中央近傍にクーラントの流出口113を設け、流出口113から放出されたクーラント((
図3(a)矢印2)の温度、濃度、pH値を計測している。タンク112内のクーラントに混入していた切削くず等の不純物(
図3(a)下方の「ドレン」)が底部に沈殿し、不水溶性の成分からなる浮上油が上部に溜まっている場合(
図3(a)上方の「浮上油」)であっても、浮上油とドレンとの中間層のクーラントのみ分取することで良好なクーラントのみ計測することができ、濃度計の汚れ、pHメータの目詰まり等を避けることができる。
【0045】
また、タンク112は、
図3(b)(c)に示すように複数の容器を上下方向多段に設置し、上流側の容器内の良好な冷却液を下流側に注いでいく場合もある。
図3(b)の場合、まず装置内の回収流路153のクーラントが容器112a内に放出され(
図3(b)矢印3)、一旦、容器112a内に貯留した比較的良好なクーラントが流出口113aから下段の容器112bに放出される((
図3(b)矢印4)。流出口113aは、浮上油とドレンとの中間層のクーラントが存在する容器112a内の液面から底部までの高さの中央近傍に位置する。下段の容器112bに放出されたクーラントは一旦、容器112b内に貯留し、容器112aの場合同様にさらに良好なクーラントが流出口113bから下段の容器112cに放出される(
図3(b)矢印5)。この段階でクーラント内に浮上油やドレンはほぼ含まれておらず、下段の容器112c内の良好なクーラントが流出口113cから放出され(
図3(b)矢印6)、このクーラントを温度計、濃度計、pHメータで計測する。この例では上流から下段の容器に放出されるたびに不水溶性の浮上油や切削くず等の不純物(ドレン)が除去される。
【0046】
また、
図3(c)のクーラントの分取例では、容器112eの内で底部から高床の容器112dが設置されており、まず装置内の回収流路153のクーラントが容器112d内に放出され(
図3(c)矢印7)、一旦、容器112d内に貯留したクーラントのうち浮上油やドレンの大部分を除いたクーラントが流出口113dから下段の容器112cに放出される((
図3(c)矢印8)。下段の容器112eに放出されたクーラントは容器112e内に貯留し、さらに良好なクーラントのみが流出口113eから放出され(
図3(c)矢印9)、不水溶性の不溶油や切削くず等の不純物が除去された後のクーラントが温度計、濃度計、pHメータで計測される。なお、流出口113d、113eは、流出口113a等と同様に容器112d内の浮上油とドレンとの中間層のクーラントが存在する位置、すなわち底部から液面の中間に位置する。
【0047】
《第1の冷却液良否検出ユニット例について》
次に、タンク112から分取したクーラントを計測する第1の冷却液良否検出ユニット1の具体例について説明する。
図4~
図5は、冷却液良否検出ユニットの実施形態の主要構成例の1つを示した図であり、
図4は正面図、
図4(b)は冷却液良否検出ユニット内の濃度計の計測用貯留部の略断面図、
図5(a)は
図4と略同視点の3次元図、
図5(b)は
図4の上方視点の3次元図(天面視点)、を示している。なお、
図4~
図5は後述する各部材の説明の理解を助けるために必要な部材のみ示しており、各図により省略している部材が異なるものもある(後述する
図6~
図7も同様)。冷却液良否検出ユニット1は概ね、pHメータ9と濃度計11と台座23と貯留槽21と吸引ポンプ24とを有している。なお、温度計10は冷却液良否検出ユニット1内に別途、配設されても、後述するように濃度計11やpHメータ9に内蔵される温度計を利用しても良い。
【0048】
この冷却液良否検出ユニット1は、タンク112から分取されたバイパス流路(図示せず)の途中に配設されるものである。ここに言うタンク112のクーラントを分取した「バイパス流路」は加工装置100の循環系と異なる計測専用のバイパス流路であり、このバイパス流路の途中に冷却液良否検出ユニット1が介在しても良く、冷却液良否検出ユニット1が直接タンク内のクーラントの上澄みに接続して流出入するものであっても良い。まず、タンク112内のクーラントは吸引ポンプ24により吸引される。吸引ポンプ24は、電気モータ24aで駆動部24bが駆動して計測タイミングに合わせて間欠的に作動する(例えば10分ごとに作動)。本冷却液良否検出ユニット1では吸引ポンプ24は駆動部24bを外部側、電気モータ24bを内部側にして外枠2に固定されている。タンク112から吸引したクーラントは
図4(a)の矢印丸1~丸2に示すように吸引ポンプ24で吸引され、冷却液良否検出ユニット1内(外枠2内)に運ばれる。
【0049】
吸引ポンプ24で吸引されたクーラントは、濃度計11の流入口11aから計測用貯留部11c内に流入される(矢印丸3参照)。
図4(b)は、濃度計11の計測用貯留部11cへのクーラントの流出入を示す略断面である。計測用貯留部11cは、先端が小さい円錐台形であり中心に濃度計測用のレンズ(プリズム)24(サファイア製)が配設されている。計測用貯留部11cの流入口11aから流入したクーラントは、レンズ24に向かって放出され円錐台形内壁を廻ってレンズ24にクーラント内の金属くず等が溜まらせずクーラントの速度を低下させながら流出口11bから流出される。このときレンズ24で計測用貯留部11c内のクーラントの光の屈折率を計測し、その変化から濃度を換算する。
【0050】
濃度計11は外枠2の底部から起立する支持板25の上部に装着される。
図4(a)の例では支持板25の上部が右下方に傾斜しているが、この傾斜角度は計測用貯留部11c内に流出入するクーラントの速度や傾斜角、計測用貯留部11cの形状等に応じて変更されるものであって
図4(a)の例よりも矢印A方向に起き上がっても良い。
【0051】
また、計測用貯留部11cの内壁は反射板となっており、クーラント中の切削くず等が付着すると濃度計11の計測精度が低下する。このため計測用貯留部11cの流入口11a、流出口11bは、
図4(b)に示すように計測時(通常時)の流入口、流出口以外にそれぞれ洗浄用の流入口、流出口を有している。洗浄用の流入口、流出口は、計測時(通常時)の流入口、流出口に合流しており、計測用貯留部11c内にクーラントが放出されるときには計測時(通常時)、洗浄時ともに同じ流路及び同じ位置から放出される。計測時(通常時)のクーラントの流れに応じて付着した切削くず等であるため同じ流路を辿って洗浄することが好ましいからである。また、流入口11a、流出口11bのうち洗浄側(
図4(b)の「洗浄IN」「洗浄OUT」参照)は、計測用貯留部11c内に至る流路及び計測用貯留部11c内から外部に至る流路、すなわち助走区間を略直線とし噴流の洗浄水の流速低下を回避している。その一方、計測時(通常時:
図4(b)の「通常IN」「通常OUT」参照)の流入口及び流出口は、助走区間を屈曲させて流速を低下させるようにしている。
【0052】
計測用貯留部11c内に流入したクーラントは、下方の流出口11bから放出され(矢印丸4参照)、貯留槽21の上方に流入する(矢印丸5参照)。貯留槽12は、
図5に示すように上方に開口する筒状部材であり、外枠2の底部に設置される台座23に高床状に装着されている。貯留槽12の上方の開口は蓋部材22で閉鎖され、蓋部材22に設けられた貫通孔(又は貯留槽21の側部上方の貫通孔等)をクーラントの流入口としている。また、蓋部材22は中心に貫通孔を設けて該貫通孔を通してpHメータ9を担持している。貯留槽22に流入したクーラントは貯留槽21内を通過することで流速が低下し、切削くず等が沈殿するため、沈殿物に接して誤計測しないようにpHメータ9の下端は貯留槽21の底部から隙間を空けて配設される。なお、貯留槽21の流入部(例えば、蓋部材22の貫通孔近傍)には、切削くず等をろ過するフィルタが装着されることが好ましい。そして貯留槽21への流出入前後の流路に流量センサを設け、流量の低下が計測されると目詰まり検出とすることもできる。
【0053】
そして、貯留槽21内に流入したクーラントは、pHメータ9でクーラントの電導度の計測、水素イオン濃度の推定によりpH値が検出され、下方の流出口21b(
図5(b)参照)から流出する(矢印丸6参照)。貯留槽21から流出されたクーラントは、タンク112へのバイパス流路へ流入し、タンク112に戻される。なお、
図4~
図5の冷却液良否検出ユニットでは、クーラントは上述してきたように吸引ポンプ24、濃度計11、貯留槽21の順(矢印丸1、丸2,丸3、丸4、丸5、丸6の順)に流れるが、吸引ポンプ24、貯留槽21、濃度計11の順(矢印丸1、丸2,丸5、丸6、丸3、丸4の順)に流されても良い。
【0054】
また、冷却液良否検出ユニット1では、温度計10による温度計測対象はタンク112内のクーラントである場合もあるが、濃度計11とpHメータ9とに温度計10が内蔵されており、この内蔵の温度計10で濃度又はpH値を測定すると同時に測定された温度を出力する場合もある。この温度情報により、それぞれの濃度計11とpHメータ9とで計測される濃度、pH値を温度依存性が排除されるように補正する。この補正には、濃度計11及びpHメータ9それぞれの基準温度が異なる場合に両者の基準温度における濃度及びpH値に変換する補正が含まれることもある。また、温度計測は、クーラントの腐敗に影響する「室温(大気温度)」を受信機に付けた熱電対にて計測、データ収集する場合もあり、この温度情報をも加味して濃度及びpH値を補正し温度依存性を排除する場合もある。
【0055】
さらに、pH値の計測においては、pHメータ9を取り付ける貯留槽21を電気絶縁性の素材で構成もしくは、貯留槽21内部のクーラント液を電気的にフローティング(非電気通電性に)することで、切削油の循環により、外部装置と電気的に接続された切削油と、pH値計測対象の切削油が回路を構成し、タンク内の電位が変動することがなくなり、pHメータによる計測が不能もしくは、誤差が大きくなる現象の発生が抑制される。
【0056】
なお、配管内を切削油が流動することで発生した、「静電気によるチャージ」も、pH計測結果に影響を与えることがあり、pH値及び/または濃度を計測する際には、クーラント液の流動を停止することが、pH値及び/または濃度の計測値の精度を確保するうえで好ましい。
【0057】
《第2の冷却液良否検出ユニット例(小型化例)について》
次に、タンク112から分取したクーラントを計測する第2の冷却液良否検出ユニット1’の具体例について
図6~
図7を参照して説明する。
図6~
図7の中で同種の部材は同一の参照番号を付して説明する。
図6~
図7は、第2の冷却液良否検出ユニット1’の実施形態の主要構成例の1つを示した図であり、
図6は
図5と同様にユニット内部をも示した3次元斜視図である。なお、
図6~
図7は後述する各部材の説明の理解を助けるために必要な部材のみ示しており、特に言及していない部材等については概ね
図4~
図5と同様である。
【0058】
第2の冷却液良否検出ユニット1’では、第1の冷却液良否検出ユニット1と異なり、タンク112周辺のスペースを考慮してユニット全体の小型化を達成した例であり、pHメータ9を貯留槽21ではなくタンク112等に直接挿入してpH計測している(挿入一例は
図4(b)を参照)。ユニットの小型化を企図するにあたって第1の冷却液良否検出ユニット1の構成そのままで小型化するとpHメータ9と濃度計11への電力供給を共通電源から得る必要性があり、その場合、pHメータ9の計測電位が狂ってくる問題があったが、その原因が共通電源の影響で接地電位が狂い、液絡による電位シフトが発生したものであることがわかった。したがって、第2の冷却液良否検出ユニット1’ではpHメータ9をユニット内に配設せず、別途の電源でタンク112に直接又はタンク112から分取した流路内に挿入して計測することとした。pHメータ9が第2の冷却液良否検出ユニット1’に配設されないこととなったため貯留槽21も配設されず、結果、一定の小型化を達成している(
図6参照)。
【0059】
さらに第2の冷却液良否検出ユニット1’では、pHメータ9及び貯留槽21が排除されたことによる小型化による弊害解消やさらなる小型化の達成をすべくクーラントの流れ方向の改善も行っている。具体的には、濃度計11傾きや流入口11a及び流出口11bの位置が異なる。タンク112内のクーラントは吸引ポンプ24により吸引される。本冷却液良否検出ユニット1’では、タンク112から吸引したクーラントは
図6の矢印丸1’~丸2’に示すように吸引ポンプ24で吸引され、冷却液良否検出ユニット1‘内(外枠2内)に運ばれる。
【0060】
吸引ポンプ24で吸引されたクーラントは、濃度計11の流入口11aから計測用貯留部11c内に流入される(矢印3参照)。
図7(a)は、濃度計11の計測用貯留部11cへのクーラントの流出入を示す略断面である(計測用貯留部11cの部分のみを示す
図4(b)と異なり濃度計11全体の透視断面図を示している)。
図4(b)で前述するように計測用貯留部11cは、先端が小さい円錐台形であり中心(中心の凹部)に濃度計測用のレンズ(プリズム)24が配設され、流入口11aから流入したクーラントは、レンズ24に向かって放出され、レンズ24でクーラントの光の屈折率を計測し、その変化から濃度を換算する。
【0061】
図4(b)や
図7(b)のように流入口11aをレンズ24より下方に位置するように傾斜させて配設した場合、上述するようにレンズ24にクーラント内の金属くずが溜まり難くなる点では有利であるが、その反面、気泡の発生を抑制できるため油面より上方で泡状の浮上油が発生し、これがレンズ24にまで至ると屈折率計測の阻害要因となるが、
図4(b)や
図7(b)の構成の場合、浮上油を通常の対流で流出口11bから抜き出すことが難しいという問題がある。
【0062】
逆に、
図7(c)のようにレンズ24のように単に流入口11aをレンズ24より上方に位置するように配設した場合、上述する浮上油が抜けない問題は発生しないが、レンズ24にクーラント内の金属くずが溜まり易い点では問題である。
【0063】
図4(b)や
図7(b)の計測用貯留部11cの傾斜及びレンズ24の位置の有利な点及び問題点と、
図7(c)の計測用貯留部11cの傾斜及びレンズ24の位置の有利な点及び問題点と、は互いに背反し、両者の有利な点及び問題点とのバランスを考慮した例が
図6及び
図7(a)に示される。
図6及び
図7(a)の例では、計測用貯留部11cを45°程度傾斜させつつ、流入口11a及び流出口11bが共にレンズ24より上方に位置するように計測用貯留部11cを45°程度傾斜(矢印B方向に傾斜)させて配設している。この構成の場合、傾斜箇所にレンズ24を配設しているためレンズ24にクーラント内の金属くずが溜まり難く、同時に流出口11bが最上点に位置するため浮上油が抜け易くなっている。
【0064】
再び
図6を参照する。計測用貯留部11c内に流入したクーラントは、上方の流出口11bから放出され(矢印丸4’参照)、計測用貯留部11を下方に配設したことによる上方スペースを用いてクーラントを運搬し(矢印丸7’参照)、
図6の例ではpHメータが内蔵されないためそのまま下方に向かって放出する(矢印丸8’参照)。
【0065】
《外部送信について》
次に、
図4~
図7の冷却液良否検出ユニット1(1')で計測された温度情報、濃度情報、pH値情報の外部への送信について説明する。
図8では計測された温度、濃度、pH値について外部ユニッ卜16に送信されるまでの電気信号のフローを例示説明する。この例では概ね、pH値検出手段(pHメータ)9、温度計測手段(温度計)10、濃度計測手段(濃度計)11、から電気信号の流れを示している。なお、温度計測手段10は
図4~
図7に示すような冷却液良否検出ユニット1に内蔵されても、タンク112内に設置されても良く、pH値検出手段9及び濃度計測手段(濃度計)11自体に内蔵されても良い(いずれの場合も温度計測手段10が冷却液良否検出ユニット1の構成要素と言える)。またpH値検出手段9についても、
図8では
図4~
図5の冷却液良否検出ユニット1のようにpH値検出手段9が内蔵された例が示されているが、pH値検出手段9は
図7の冷却液良否検出ユニット1’のように内蔵せずタンク112内に設置されても良い。
【0066】
上述したpHメータ9、温度計10、濃度計11からの信号は、デジタル信号化して出力される。
図8での温度計測手段10は、代表的には熱電対を用いて電位差増幅器やA/D変換器を介してデバイス内の制御回路によりデジタル信号を出力する温度受信部である。また、pH値計測手段9、温度計測手段10、濃度計測手段11からの出力信号は、切削装置100が備え付けた又は有線接続された送信部13のコントローラ14が受信し、無線送信デバイス15で外部に無線送信される。また、冷却液良否検出ユニット1は、
図4~
図7
に示すようにタンク112からクーラントを吸引するポンプ(吸引ポンプ)24を備える。ポンプ24は電気式であり間欠的に作動であり、pH値計測手段9、温度計測手段10、濃度計測手段11からの出力信号を受信した送信部13のコントローラ14により適正な間欠信号をポンプ24に送信し、ポンプ24を作動する。
【0067】
また、無線送信された温度情報及びpH値情報、濃度情報の出力信号は、外部ユニッ卜16の無線受信デバイス17で受信される。
図8中の破線で示す無線送信デバイス15・無線受信デバイス17間の無線通信規格は、Wi-Fi (Wireless Fidelity)、Bluetooth (ブルートゥース)、無線LAN (Local Area Network)、及び、ZigBee (ジグビー)等を使用することが可能である。外部ユニット16は無線受信デバイス17を含むノー卜パソコン等の記憶・演算装置19の例も考えられるが、
図8の例では別途専用の無線受信デバイス17を設置し、これとUSBポートで有線接続し、記憶・演算装置19で信号受信される。そして、ディスプレイやプリンタ等の出力装置20で画像表示、印刷等される。
【0068】
また、
図8では、冷却液良否検出ユニット1と送信部13とが別ブロックで示されているが、送信部13は冷却液良否検出ユニット1に含まれても良い。例えば、
図4~
図5に示す冷却液良否検出ユニット1の外枠2内に送信部13が含まれても良い。また、温度計測手段10についても冷却液良否検出ユニット1とは別に設けても良く、タンク112内に熱電対を挿入し、電位差増幅器やA/D変換器を介してデバイス内の制御回路によりデジタル信号を出力する温度受信部を設けても良い。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明に含まれる種々の変形例、改良例が存在し得ることは当業者に明らかであろう。なお、本発明の冷却液良否管理システム及び冷却液良否検出ユニットで冷却液の計測を行う金属加工装置について切削装置を例示して説明したが、金属加工装置には冷却液を循環させるその他の金属加工装置、例えば研削装置や放電加工装置なども含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1,1’ 冷却液良否検出ユニット
2 外枠
9 pH値計測手段(pHメータ)
10 温度計測手段(温度計)
11 濃度計測手段(濃度計)
13 送信部
14 コントローラ
15 無線送信デバイス
16 外部ユニッ卜
17 無線受信デパイス
18 シリアルUSB変換器
19 記録・演算装置
20 出力装置
21 貯留槽
22 蓋部
23 台座
24 吸引ポンプ
25 支持板
100 切削装置
101 主軸
102 ワークステージ
102a 被加工部材接地面
103 基台
104 ツールホルダ
105 ツールホルダ把持部
106 操作盤
107 ヘッド
108 ヘッド支台
109 被加工部材(ワーク)
110 加工ツール
112 貯留容器(タンク)
112a,112b,112c,112d,112e 容器
113 流出口
114 クーラント供給用ポンプ(ポンプ)
116、118、120 電磁切替弁
122 バルブユニット(クーラント供給部)
124 入力流路
124a 吐出流路
126 リリーフ弁
128 ドレン流路
129 フィルタ(濾過手段)
130 第1供給経路
132 第2供給経路
134 第3供給経路
136, 138,140 チェック弁
142,144,144 絞り弁
148,150,152 出力流路(接続流路)
154 噴射ノズル(噴射手段)
160 制御ユニット