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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】止血組成物を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20231204BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231204BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231204BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231204BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231204BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231204BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231204BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231204BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20231204BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20231204BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20231204BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20231204BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231204BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20231204BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
A61K38/36
A61K9/06
A61K9/19
A61K47/42
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/32
A61L24/10
A61L24/04 200
A61L24/08
A61P7/04
A61P17/02
A61P19/08
A61P19/04
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020558619
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2019061903
(87)【国際公開番号】W WO2019215274
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】62/669,056
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510339094
【氏名又は名称】フェロサン メディカル デバイシーズ エイ/エス
(73)【特許権者】
【識別番号】503325941
【氏名又は名称】エチコン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ETHICON,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハマースホイ, ピーター, ルンド
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンズ, ダグラス, ビー.
(72)【発明者】
【氏名】スミス, ニコール
(72)【発明者】
【氏名】カルディナーレ, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】フェラーラ, ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, グアンフイ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0005636(US,A1)
【文献】特表2016-536042(JP,A)
【文献】特開2005-239713(JP,A)
【文献】特表2002-501815(JP,A)
【文献】特表2013-532139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0172848(US,A1)
【文献】特表2018-503425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血組成物を調製する方法であって、
a)第1のシリンジ中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2のシリンジ中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて前記第1のシリンジと前記第2のシリンジを連結するステップ、及び、
d)前記第1及び第2のシリンジの内容物を混合するステップ、
を含み、
前記生体親和性ポリマーが、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、アルギネート、セルロース、酸化セルロース、ポリグリコール酸、及び、ポリ酢酸からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記混合するステップが、前記第1及び第2の容器の内容物を数回往復して移送することによって実施され、それによりトロンビンの実質的に均一な分布が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移送の回数が10回未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記止血組成物の全体にわたる前記トロンビンの均一な分布が10%未満のトロンビン含量の変動によって特徴付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記止血組成物が、止血及び/又は創傷治癒における使用に適したペーストである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記止血組成物が流動性組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥したトロンビン組成物が噴霧乾燥又は凍結乾燥によって調製されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生体親和性ポリマーが水性媒体に実質的に不溶な粉末粒子からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生体親和性ポリマーが架橋されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)における前記ペーストが生体親和性ポリマーを7%~20%の含量で含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記止血組成物が1つ又は複数の親水性化合物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ又は複数の親水性化合物が1つ又は複数のポリオールである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記止血組成物が、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができる1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記止血組成物が押出し促進剤をさらに含み、前記押出し促進剤がアルブミンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項11に記載の親水性化合物、請求項13に記載の生物活性剤、及び/又は、請求項14に記載の押出し促進剤が、
ステップa)における前記乾燥したトロンビン組成物の成分である、
ステップb)における前記ペーストの成分である、及び/又は、
ステップd)の後の別のステップにおいて前記止血組成物中に組み込まれる、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のシリンジがガラスシリンジであるか、又は前記第1のシリンジが前記乾燥したトロンビン組成物を含むガラスインサートを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のシリンジがプラスチックシリンジである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ステップa)における前記乾燥したトロンビン組成物、ステップb)における前記ペースト、及び/又は、前記止血組成物を滅菌するさらなるステップを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
a)乾燥したトロンビン組成物を含む第1のシリンジ、
b)生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2のシリンジ、及び、
c)任意選択で外部包装、
を含むキットであって、前記2つのシリンジが相互連結可能であり、
前記生体親和性ポリマーが、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、アルギネート、セルロース、酸化セルロース、ポリグリコール酸、及び、ポリ酢酸からなる群から選択さる、キット。
【請求項20】
乾燥したトロンビン組成物をもどす方法であって、
a)第1のシリンジ中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2のシリンジ中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて前記第1のシリンジと前記第2のシリンジを連結するステップ、及び、
d)前記第1及び第2のシリンジの内容物を混合するステップ、
を含み、
前記生体親和性ポリマーが、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、アルギネート、セルロース、酸化セルロース、ポリグリコール酸、及び、ポリ酢酸からなる群から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本開示はトロンビンを含む止血ペースト組成物を調製する単純化された方法に関し、本方法は乾燥したトロンビンを、生体親和性ポリマーを含むペースト等のペーストの中で直接もどすステップを含む。トロンビンを含む止血組成物は、乾燥したトロンビン組成物及びペーストから単一ステップの操作で調製され、創傷の処置に用いられ得る。
【0002】
[背景技術]
コラーゲン及びゼラチン等のタンパク質系の止血材料は手術手順における使用のための固体スポンジ及び緩い又は詰め込まれていない粉末の形態で市販されている。この緩い又は詰め込まれていない粉末を食塩液又はトロンビン溶液等の流体と混合することによって、混合条件及び材料の相対的な割合に応じて、特に不均一な表面又は到達しにくい区域からの拡散した出血の場合における使用のための止血組成物として有用なペースト又はスラリーを形成することができる。
【0003】
従来の止血ペーストは通常、組成物の均一性をもたらすため、使用現場において、機械的撹拌及び生体親和性ポリマー、例えばゼラチンと液体、例えばトロンビン溶液の混合によって調製される。ペーストを形成するための混合は通常、混練又は2つのシリンジの間の移送等の広範囲な混合を必要とする。
【0004】
止血ペーストはペーストの最適の止血効果をもたらすためにトロンビン成分を含むことが望まれることが多い。安定性の理由により、トロンビン成分は通常、生体親和性ポリマー成分とは別の乾燥した組成物として提供される。乾燥したトロンビンは次いで生体親和性ポリマーと混合される前にもどされて懸濁液又は溶液を形成する。このトロンビン成分のもどしのステップは通常、生体親和性ポリマーと混合する直前に行なわれる。トロンビンのもどしには時間を要し、多ステップのシリンジ取り扱いを含み、困難である。外科医は止血材が準備されるのを待つ間、その手順を中断しなければならないので、これらの要因は出血が起こっている手術室の環境では望ましくない。
【0005】
Surgiflo(登録商標)Haemostatic Matrix(Ethicon社)はトロンビンを含む止血ゼラチンペーストを生成するためのキットであり、これは乾燥したトロンビン組成物を最初にもどし、次いでゼラチンマトリックス-トロンビンの溶液混合物を全部で少なくとも6回通過するよう、連結された2つのシリンジの間を往復して移送することによって調製される。Floseal(登録商標)Haemostatic Matrix(Baxter社)は同様に止血ゼラチンペーストを生成するためのキットであり、乾燥したトロンビン組成物を最初にもどし、続いてゼラチンマトリックス-トロンビンの溶液混合物を全部で少なくとも20回通過するよう、連結された2つのシリンジの間を往復して移送することを必要とする。実質的に均一なペースト組成物がいったん達成されれば、シリンジからペーストを押し出すことによって、止血ペーストを出血部に塗布して止血を促進することができる。
【0006】
例えば既に国際公開第2011/151400号、第2011/151384号、第2011/151386号、及び第2013/185776号に記載されているように、生体親和性ポリマーと乾燥状態のトロンビンとを同じシリンジの中で提供する試みもなされてきた。これらの教示は参照により全体として組み込まれる。しかし、止血製品の製造において通常採用される滅菌方法、即ちイオン化照射及び/又はエチレンオキシドに対するトロンビンの感受性、水に対するトロンビンの感受性、並びにトロンビンとゼラチン等の通常採用されるポリマーとの物理化学的特性の相違のため、製造、滅菌の間、及び製品の貯蔵期間を通して十分なトロンビンの活性を保持し、及び/又は最終のもどされた止血ペースト製品の中のトロンビンの満足すべき分布を保証する、そのような「オールインワン」製品を製造することが困難であることが分かってきた。
【0007】
上述のように、止血ペーストの中にトロンビンを組み込むことは、製造若しくは安定性の理由から、又は生体親和性ポリマーとの混合の前の乾燥したトロンビン組成物のもどしに時間を要することから、困難である。したがって、当技術において止血ペーストの中にトロンビンを迅速かつ容易に組み込むための新規な方法の開発へのニーズがある。
【0008】
[概要]
本開示は、止血ペーストの中へのトロンビンの組込みに関する上記の課題に対処し、乾燥したトロンビン組成物を、生体親和性ポリマーを含むペーストの中で直接もどし、トロンビンを含む止血ペーストを単一ステップの操作で産生する方法を提供する。止血組成物を調製するためのそのような単純で速い方法は、潜在的な出血を速くかつ効率的に制御しなければならない手術室において極めて価値がある。
【0009】
したがって1つの態様では、本開示は止血組成物を調製する方法に関し、本方法は、
a)第1の容器中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2の容器中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて第1の容器と第2の容器を連結するステップ、及び
d)容器の内容物を混合するステップ
を含む。
【0010】
第2の態様では、本開示は乾燥したトロンビン組成物をもどす方法に関し、本方法は、
a)第1の容器中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2の容器中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて第1の容器と第2の容器を連結するステップ、及び
d)容器の内容物を混合するステップ
を含む。
【0011】
容器の内容物を混合するステップは、容器の内容物を数回、例えば、20回未満、例えば15回未満、例えば、10回未満、好ましくは約6回、往復して移送することによって実施し得る。
【0012】
本発明者らは驚くべきことに、乾燥したトロンビン組成物を、生体親和性ポリマーを含むペーストの中で直接もどすそのような方法によって、止血組成物中のトロンビンの実質的に均一な分布が得られることを見出した。したがって、本開示は、生体親和性ポリマーと混合する前にトロンビン成分を別にもどすことを必要としない速く単純な方法でトロンビンを含む止血組成物を調製する方法を提供する。
【0013】
本開示はさらに、本明細書に記載した方法によって得られる止血組成物並びにその使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】乾燥したトロンビン組成物を、生体親和性ポリマーを含むペーストの中で直接もどして止血組成物を産生するための例示的な装置及び方法を示す図である。乾燥したトロンビン組成物は第1のシリンジの中に含まれており、本明細書ではゼラチンペーストによって例示する生体親和性ポリマーを含むペーストは第2のシリンジの中に含まれている。2つのシリンジは本実施形態ではスタティックミキサーによって互いに連結されており、シリンジの内容物を6回往復して移送することによって止血組成物が産生される。
図2】本開示の方法を用いてもどされた止血組成物を含むシリンジの開始部分、中間部分、及び最後の部分におけるトロンビン活性の分布を示す図である。平均トロンビン活性は全トロンビン活性の百分率として与えられる。データは、ペーストによる乾燥トロンビンのもどしによってトロンビンの均一な分布を有する止血ペースト組成物が得られることを示している。エラーバーは平均値からの1標準偏差を用いて構築される。
図3】対照(2mLのトロンビン溶液と混合したSurgiflo)と比較した本発明のペースト(6TMペースト)の止血効率(止血時間(TTH))を示す図である(平均±SEM、n=7)。本発明に従って調製した6TMペーストは、対照ペーストより速くかつより一貫して止血を誘起することが見出された。
【0015】
[定義]
「生物活性剤」は、in vivo又はin vitroで実証され得る、しばしば有益であるいくつかの薬理学的効果をもたらす任意の薬剤、薬物、化合物、物質の組成物又は混合物である。したがって、薬剤はそれがヒト又は動物の体内の細胞組織との相互作用又はこれへの影響を有するならば、生物活性と考えられる。本明細書で用いる場合、この用語には、個体に局所的又は全身的な影響を生じる任意の生理学的又は薬理学的に活性な物質がさらに含まれる。生物活性剤は酵素等のタンパク質であってもよい。生物活性剤のさらなる例には、それだけに限らないが、オリゴ糖、多糖、任意選択でグリコシル化されたぺプチド、任意選択でグリコシル化されたポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、脂質、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び二次代謝物が含まれるか、又はそれらからなる薬剤を含む。これは、ヒト又はその他の任意の動物等の個体の処置と併せて、予防的又は治療的に用いられ得る。本明細書で用いる用語「生物活性剤」は、真核細胞又は原核細胞等の細胞を包含しない。
【0016】
「生体親和性」は、いずれの実質的な望ましくない局所的又は全身的な影響をも宿主に誘発せずにその意図された機能を実行する材料の能力を意味する。
【0017】
「生物吸収性」又は「再吸収性」は、本発明の文脈において、前記粉末が作られる材料が体内で血流中に輸送できる大きさの小分子に分解できることを記述するために用いられる用語である。前記分解及び吸収によって、前記粉末材料は塗布された部位から徐々に除去されることになる。例えば、ゼラチンはタンパク質分解性組織酵素によって吸収性小分子に分解することができ、それによりゼラチンは組織に塗布した場合、典型的には約4~6週で、また出血している表面及び粘膜に塗布した場合、典型的には3~5日で吸収される。
【0018】
「ゲル」は、「柔軟で弱い」から「硬くて強い」までの範囲の特性を有し得る固体でジェリー状の材料である。ゲルは実質的に希薄な架橋されたシステムとして定義され、定常状態では非流動性を示す。荷重下ではゲルはほとんど液体であるが、液体中の三次元架橋ネットワークによって固体のように挙動する。ゲルにその構造(硬さ)を与え、粘性(タック性)に寄与するものは流体中の架橋である。このように、ゲルは固体中の液体の分子の分散であり、その中で固体は連続相、液体は非連続相である。ゲルはペースト又はスラリーではない。例えば、非架橋ゼラチンは可溶性で、水のような水性媒体と接触すればゲルを形成する。
【0019】
「止血」は、出血を軽減し又は停止させるプロセスである。止血は血液が体外又は血管外に存在する場合に起こり、出血及び血液の損失を停止する身体の本能的な応答である。止血の間には、3つのステップが迅速なシーケンスで起こる。血管の攣縮が第1の応答であり、血管が収縮して血液の損失を少なくする。第2のステップでは血小板血栓が形成され、血小板が互いに接着して一時的なシールを形成し、血管壁の破損を覆う。第3のかつ最終のステップは凝血又は血栓と呼ばれる。凝血は「分子糊」として作用するフィブリン糸で血小板血栓を補強する。したがって、止血化合物は止血を刺激することができる。
【0020】
「国際単位(IU)」。薬学では、国際単位は生物学的な活性又は効果に基づく物質の量についての測定の単位である。これはIU、UI、又はIEと略称される。これはビタミン、ホルモン、いくつかの医薬、ワクチン、血液製剤、及び同様に生物学的に活性な物質を定量するために用いられる。
【0021】
本開示による「ペースト」は、歯磨きのように展延性のあるパテ状の稠度を有する。ペーストは微粉化された固体/粉末形態の固体と液体との粘稠な流体混合物である。ペーストは十分に大きな負荷又は応力が印加されるまでは固体として挙動し、その時点で流体のように流れる物質である。即ち、ペーストは流動可能である。流動可能な物質は塗布(application)に際して不規則な表面に効率よく適合する。ペーストは典型的にはバックグラウンドの流体の中の粒状材料の懸濁からなる。個別の粒は浜辺の砂のように相互に詰まり合い、不規則なガラス状若しくは不定形な構造を形成し、ペーストにその固体状性格を与える。ペーストにその最も独特の特性のいくつかを与えるものはこの「相互の詰まり合い」であり、これによってペーストは脆弱な物質の特性を示す。ペーストはゲル/ジェリーではない。「スラリー」は粉末化された/微粉化された固体と水のような液体との流体混合物である。スラリーはある意味では粘稠な流体のように挙動し、重力下で流れ、あまり粘稠でなければポンプで流すことができる。スラリーは機能的には薄い水のようなペーストとみなされ得るが、スラリーは一般的にはペーストより多くの水を含む。架橋ゼラチン粒子のような実質的に水不溶性の粉末状粒子は、水性媒体との混合に際してペーストを形成することになる。
【0022】
「百分率」。他に指示がなければ、百分率は重量百分率、%w/w又はwt%である。比は重量対重量(w/w)として指示される。
【0023】
「トロンビン含量の変動」。本明細書で用いられるトロンビン含量の変動は、止血組成物の2つの部分の間の平均トロンビン活性における百分率の差として定義される。平均トロンビン活性は止血組成物全体の全トロンビン活性の百分率としてのある部分のトロンビン活性として与えられる。
【0024】
[詳細な説明]
本開示はトロンビンを含む止血ペースト組成物を調製する単純化された方法に関する。本方法は乾燥したトロンビン組成物を、生体親和性ポリマーを含むペースト等のペーストの中で直接もどす(reconstitute)ステップを含む。
【0025】
したがって本発明は止血組成物を調製する方法に関し、本方法は、
a)第1の容器中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2の容器中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて第1の容器と第2の容器を連結するステップ、及び
d)容器の内容物を混合するステップ
を含む。
【0026】
混合の後、第1又は第2の容器は(移送の回数によって)止血組成物を組織に送達するための送達デバイスとして用いることができる。
【0027】
したがって、トロンビンを含む止血組成物を、乾燥したトロンビン組成物の溶液中における時間がかかり失敗しやすいもどし操作を必要とせずに、乾燥したトロンビン組成物及びペーストから単一ステップの操作で調製することができる。
【0028】
止血組成物を調製するためのそのような単純で速い方法は、潜在的な出血を速くかつ効率的に制御しなければならない手術室において極めて価値がある。
【0029】
本開示で提供する方法及びそのような方法によって得られる止血組成物の利点は数多くあり、下記が含まれる。
【0030】
止血組成物を調製するために費やされる時間がより短い。例えば、出血をより速く停止できる。
【0031】
取り扱いステップがより少ないので、調製中の止血組成物の無菌性を損なう危険が低減される。
【0032】
ペーストの調製が単純化されるので、調製中に失敗する危険が低減される。
【0033】
短時間で信頼性及び一貫性があるもどしができる。
【0034】
標準的な止血組成物の調製における時間がかかり失敗しやすいトロンビンの希釈ステップが避けられる。
【0035】
ここに記載した製品の調製が単純で速く、使用しないかも知れない止血用流動物を手術の前に事前調製する理由がないので、手術室の費用を最小化できる。
【0036】
最終混合組成物の稠度を改変するためにペーストに水性媒体を添加する適応性が増大する。
【0037】
上記の要因の全てが、患者の安全性の増大につながる。
【0038】
乾燥したトロンビン組成物
本開示は乾燥したトロンビン組成物をペーストの中で直接もどす方法に関する。
【0039】
トロンビンは、ヒトではF2遺伝子によってコードされる「トリプシン様」セリンプロテアーゼタンパク質である。凝血カスケードにおいてプロトロンビン(凝血第II因子)がタンパク質分解的に開裂してトロンビンを形成し、これが最終的に血液損失の抑制をもたらす。次にトロンビンは可溶性フィブリノーゲンを不溶性のフィブリンのストランドに変換し、また他の多くの凝血関連反応を触媒するセリンプロテアーゼとして作用する。血液凝固経路において、トロンビンは第XI因子をXIaに、第VIII因子をVIIIaに、第V因子をVaに、及びフィブリノーゲンをフィブリンに変換するように作用する。
【0040】
一実施形態では、トロンビンはヒトトロンビンである。
【0041】
一実施形態では、トロンビンは組み換えヒトトロンビンである。
【0042】
他の実施形態では、トロンビンの起源はヒト以外の哺乳動物であり、例えばウシトロンビンである。
【0043】
一実施形態では、トロンビンはプロトロンビンの形態である。
【0044】
乾燥したトロンビン組成物は当業者には既知の任意の方法で調製してよく、通常、無菌状態で提供される。したがって、一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は無菌である。
【0045】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は噴霧乾燥又は凍結乾燥によって調製されている。
【0046】
好ましい実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は凍結乾燥によって調製されている。
【0047】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は2%未満の水、例えば、1%未満の水を含む。
【0048】
止血組成物中のトロンビンの量は、効果的な止血を保証するために十分であるべきである。一実施形態では、止血組成物中のトロンビンの最終濃度は約50IU/mL~約1000IU/mL、例えば100IU/mL~約500IU/mL、例えば、約150IU/mL~約450IU/mL、例えば約200IU/mL~約400IU/mL、例えば、約200IU/mL~約300IU/mLの範囲である。
【0049】
乾燥したトロンビン組成物は、任意選択で1つ又は複数の親水性薬剤、例えば1つ若しくは複数のポリオール及び/又は1つ若しくは複数のポリ(エチレングリコール)(PEG)等を含んでよい。
【0050】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。そのような1つ又は複数の生物活性剤は、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができ得る。
【0051】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は任意選択で1つ又は複数の押出し促進剤、例えばアルブミン等を含む。止血ペーストの押出し性を改善するための押出し促進剤の使用は、例えば全体として本明細書に組み込まれる国際公開第2015/086028号に記載されている。
【0052】
生体親和性ポリマーを含むペースト
本開示の乾燥したトロンビン組成物は、生体親和性ポリマーを含むペースト等のペーストの中で直接もどされる。
【0053】
本開示の生体親和性ポリマーは生物由来又は非生物由来のポリマーであってよい。好適な生物由来のポリマーには、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、ヘモグロビン、カゼイン、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、ケラチン、及びラミニン等のタンパク質、又はそれらの誘導体若しくは組合せが含まれる。ゼラチン又はコラーゲンの使用が特に好ましく、ゼラチンがより好ましい。その他の好適な生物由来のポリマーにはグリコサミノグリカン類、デンプン誘導体、キシラン、セルロース誘導体、ヘミセルロース誘導体、アガロース、アルギネート、及びキトサン等の多糖類、又はそれらの誘導体若しくは組合せが含まれる。好適な非生物由来のポリマーは、2つの機構、即ち(1)ポリマー骨格の破壊、又は(2)水への溶解性をもたらす側鎖の分解、のいずれかによって分解されるように選択されることになる。例示的な非生物由来のポリマーには、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリビニル樹脂、ポリラクチド-グリコリド類、ポリカプロラクトン類、及びポリオキシエチレン類等の合成物、又はそれらの誘導体若しくは組合せが含まれる。異なる種類のポリマーの組合せも可能である。
【0054】
一実施形態では、生体親和性ポリマーは生物吸収性である。好適な生物吸収性材料の例には、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、アルギネート、セルロース、酸化セルロース、ポリグリコール酸、ポリ酢酸、及びそれらの組合せが含まれる。これらの種々の形態、例えば線状若しくは架橋した形態、塩、エステル等も本開示に意図されることが理解されよう。本発明の好ましい実施形態では、生物吸収性材料はゼラチンである。ゼラチンは高度に生物吸収性であるので好ましい。さらに、ゼラチンは高度に生体親和性であり、血流中に進入した場合、又はヒト組織と長期に接触した場合に、ヒトのような動物に対して非毒性であることを意味している。
【0055】
ゼラチンは典型的にはブタ供給源由来であるが、ウシ又は魚類の供給源等の他の動物供給源由来でもよい。ゼラチンは合成によって作られてもよく、即ち組み換え手段によって作られてもよい。
【0056】
好ましい実施形態では、生体親和性ポリマーは架橋されている。架橋により通常、ポリマーは水性媒体に実質的に不溶になる。一実施形態では、生体親和性ポリマーは水性媒体に実質的に不溶な粉末粒子からなる。化学的及び物理的な架橋法の両方を含む当業者には既知の任意の好適な架橋法が用いられ得る。
【0057】
本開示の一実施形態では、ポリマーは乾熱等の物理的手段によって架橋されている。乾熱処理は通常、100℃~250℃、例えば、約110℃~約200℃の温度で実施される。特に温度は110~160℃の範囲、例えば110~140℃の範囲、又は120~180℃の範囲、又は130~170℃の範囲、又は130~160℃の範囲、又は120~150℃の範囲であってよい。架橋のための時間は当業者によって最適化され、通常約10分~約12時間、例えば、約1時間~約10時間、例えば約2時間~約10時間、例えば、約4時間~約8時間、例えば約5時間~約7時間、例えば、約6時間である。
【0058】
別の実施形態では、ポリマーは化学的手段、即ち化学的架橋剤への曝露によって架橋されている。好適な化学的架橋剤の例には、それだけに限らないが、アルデヒド、特にグルタルアルデヒド及びホルムアルデヒド、アシルアジド、カルボジイミド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリエーテルオキシド、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、タンニン酸、アルドース糖類、例えばD-フルクトース、ジェニピン、及び色素介在光酸化が含まれる。具体的な化合物には、それだけに限らないが、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)及びジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)(DTP)が含まれる。
【0059】
一実施形態では、本開示によるペーストの調製のために用いられる生体親和性ポリマー粒子は、例えばゼラチン又はコラーゲンの架橋スポンジ、特にゼラチンの架橋スポンジ(市販のSpongostan(登録商標)スポンジ及びSurgifoam(登録商標)スポンジ等)から得られる。架橋スポンジを、例えばロータリーベッド、押出し、顆粒化、及び強力なミキサー中での処理、又はミリング(例えばハンマーミル若しくは遠心ミルの使用による)等の当技術で既知の方法によって微粉化して、粉末状態の架橋生体親和性ポリマーが得られる。次いで粉末状態の架橋生体親和性ポリマーをある量の水性媒体と混合して、所望の稠度を有するペーストが得られる。
【0060】
Ethicon社から入手可能なSpongostan(登録商標)/Surgifoam(登録商標)は、ゼラチン系架橋吸収性止血スポンジである。これは1g当たり35gを超える血液を吸収し、ヒト体内で4~6週以内に完全に吸収される。
【0061】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、乾熱処理によって架橋された微粉化多孔質ゼラチンスポンジから得られる架橋ゼラチン粒子を含む。
【0062】
微粉化多孔質ゼラチンスポンジは、不連続な気相を含む発泡体を創成するためにある量の可溶性ゼラチンを水性媒体と混合し、前記発泡体を乾燥し、乾燥した発泡体を乾熱に曝露して架橋することによって調製できる。得られる架橋スポンジは当技術で既知の方法によって微粉化することができる。ゼラチン発泡体は通常、重量で約1%~70%、通常重量で3%~20%のゼラチン濃度を有する。乾燥は通常約20℃~約40℃で約5~20時間実施する。乾燥した発泡体は通常、約110℃~約200℃の温度に約15分~約8時間、例えば約150℃~約170℃に約5~7時間、曝露することによって架橋される。
【0063】
一実施形態では、本開示によるペーストの調製のために用いられる生体親和性ポリマー粒子は、例えばゼラチン又はコラーゲンの架橋ゲル、特に架橋ゼラチンゲルから得られる。架橋ゲルを上記のようにして微粉化してもよい。次いで粉末状態の架橋生体親和性ポリマーをある量の水性媒体と混合して、所望の稠度を有するペーストが得られる。
【0064】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、乾熱処理によって架橋された微粉化ゼラチンゲルから得られる架橋ゼラチン粒子を含む。
【0065】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、ゼラチンヒドロゲルから得られる架橋ゼラチン粒子を含むか、又はそれからなる。ゼラチンヒドロゲルは、ある量のゼラチンを水性緩衝液に溶解して、典型的には重量で1%~70%、通常重量で3%~10%の固体含量を有する非架橋ヒドロゲルを形成することによって調製することができる。ゼラチンは、例えばグルタルアルデヒド(例えば0.01%~0.05%w/w、水性緩衝液中、0℃~15℃で一夜)、過ヨウ素酸ナトリウム(例えば0.05M、0℃~15℃で48時間保持)、若しくは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(例えば0.5%~1.5%w/w、室温で一夜)に曝露すること、又は約0.3~3メガラッドのγ線若しくは電子線への照射に曝露することによって、架橋され得る。得られる架橋ヒドロゲルを断片化し、乾燥してゼラチン粉末が得られる。或いは、ゼラチン粒子をアルコール中、好ましくはメチルアルコール若しくはエチルアルコール中に固体含量1重量%~70重量%、通常3重量%~10重量%で懸濁して、架橋剤、典型的にはグルタルアルデヒド(例えば0.01%~0.1%w/w、室温で一夜)に曝露することによって架橋し得る。グルタルアルデヒドで架橋する場合には、架橋はシッフ塩基を介して形成され、これは引き続いて例えば水素化ホウ素ナトリウムによる処理で還元することによって安定化され得る。架橋の後、得られる顆粒を水で洗浄し、任意選択でアルコールによってリンスし、乾燥してゼラチン粉末を得ることができる。一実施形態では、架橋ゼラチン粒子は本質的に米国特許第6066325号に記載されたようにして調製される。
【0066】
一実施形態では、ペーストは生体親和性ポリマーを約7%~20%、例えば、約8%~18%、例えば約10%~16%、例えば、約11%~15%、例えば約12%~14%の含量で含む。
【0067】
一実施形態では、ペーストは生体親和性ポリマーを約7%~20%、例えば、約7%~18%、例えば約7%~16%、例えば、約7%~14%、例えば約7%~13%、例えば、約7%~12%、例えば約7%~11%、例えば、約7%~10%、例えば約7%~9%の含量で含む。
【0068】
一実施形態では、ペーストは生体親和性ポリマーを約7%~20%、例えば、約10%~20%、例えば約11%~20%、例えば、約12%~20%、例えば約13%~20%、例えば、約14%~20%、例えば約15%~20%、例えば、約17%~20%、例えば約19%~20%の含量で含む。
【0069】
一実施形態では、ペーストは生体親和性ポリマーを約10%~20%、例えば、約10%~18%、例えば約10%~16%、例えば、約10%~15%の含量で含む。
【0070】
生体親和性ポリマーを含むペーストは、1つ又は複数の親水性薬剤、例えば1つ若しくは複数のポリオール及び/又は1つ若しくは複数のポリ(エチレングリコール)(PEG)等をさらに含んでよい。
【0071】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。そのような1つ又は複数の生物活性剤は、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができ得る。
【0072】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、1つ又は複数の押出し促進剤、例えばアルブミン等を含む。
【0073】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、1つ又は複数の抗微生物剤、例えば1つ又は複数の抗菌剤を含む。
【0074】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、塩化ベンザルコニウムを含む。
【0075】
本明細書に記載した生体親和性ポリマーを含むペーストは、当技術で既知の手法に従って調製し得る。したがって、生体親和性ポリマーを含むペーストは、生体親和性ポリマーの粉末を水性媒体と混合して前記ペーストを産生することによって調製し得る。
【0076】
生体親和性ポリマーを含むペーストは通常、無菌状態で提供される。したがって、一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは無菌である。
【0077】
生体親和性ポリマーを含むペーストは水性媒体、例えば水、食塩液、塩化カルシウム溶液、又は緩衝水性媒体をさらに含む。
【0078】
水性媒体
本開示では生体親和性ポリマーを含むペーストを調製するために水性媒体が用いられ得る。
【0079】
本開示の水性媒体は、ペーストの調製に適した当業者には既知の任意の水性媒体、例えば水、食塩液、又は緩衝水性媒体であってよい。水はWFI(注射用水)であってよい。水性媒体は、もどされたペースト生成物が止血及び/又は創傷治癒の目的のため等のヒト若しくは動物対象への使用を意図した場合に、本質的に等浸透圧であるように選択することが重要である。水性媒体は、好ましくは無菌である。
【0080】
本開示の水性媒体は、一実施形態では食塩溶液である。
【0081】
一実施形態では、水性媒体は塩化カルシウム溶液である。
【0082】
他の実施形態では、水性媒体は水である。
【0083】
水性媒体は止血ペーストにおける使用に適した緩衝水性媒体であってもよい。当業者には既知の任意の好適な緩衝剤、例えばクエン酸ナトリウム;クエン酸、クエン酸ナトリウム;酢酸、酢酸ナトリウム;KHPO、KHPO;NaHPO、NaHPO;CHES;Borax、水酸化ナトリウム;TAPS;Bicine;Tris;Tricine;TAPSO;HEPES;TES;MOPS;PIPES;Cacodylate;SSC;MES、又はその他からなる群から選択される1つ又は複数の緩衝剤が用いられ得る。緩衝水性媒体のpHはヒトへの用途を意図した止血ペーストを創成するために好適であるべきであり、当業者によって決定することができる。
【0084】
したがって、一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、水、食塩液、塩化カルシウム溶液、及び緩衝水性媒体からなる群から選択される水性媒体を含む。
【0085】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、約60%~約95%の水、例えば約70%~約90%の水、例えば、約75%~約90%の水、例えば約80%~約90%の水を含む。
【0086】
水性媒体は、1つ又は複数の親水性薬剤、例えば1つ若しくは複数のポリオール又は1つ若しくは複数のポリ(エチレングリコール)(PEG)を含んでよい。
【0087】
一実施形態では、水性媒体は1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。そのような1つ又は複数の生物活性剤は、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができ得る。
【0088】
一実施形態では、水性媒体は1つ又は複数の押出し促進剤、例えばアルブミン等を含む。
【0089】
親水性化合物
一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数の親水性化合物を含む。親水性化合物は通常、極性又は電荷を有する機能性基を含み、それにより水溶性になっている。本開示の止血組成物に1つ又は複数の親水性化合物が含まれていることがトロンビンの安定性に有利な効果を有していると考えられ、それにより、乾燥したトロンビン組成物のもどし効率が改善され得る。親水性化合物はまた、止血組成物の稠度を改善し得る。
【0090】
一実施形態では、親水性化合物は親水性ポリマーである。親水性ポリマーは天然でも合成でもよく、線状でも分枝状でもよく、任意の好適な長さを有し得る。
【0091】
一実施形態では、親水性ポリマーはポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アリルアミン塩酸)、及びポリ(ビニル酸)からなる群から選択される。一実施形態では、親水性化合物はPEGである。
【0092】
一実施形態では、親水性化合物はセチルピリジニウムクロリド、ドクセートナトリウム、グリシン、ヒプロメロース、フタレート、レシチン、リン脂質、ポロキサマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンカスター油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンステアレート類、ポリビニルアルコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンエステル類(ソルビタン脂肪酸エステル類)、及びトリカプリリンからなる群から選択される。
【0093】
好ましい実施形態では、親水性化合物はポリオールである。したがって、本発明の一実施形態によれば、1つ又は複数のポリオールが止血組成物中に含まれてよい。ポリオールは乾燥したトロンビン組成物のもどし速度を速め、トロンビンの活性を安定化し、止血組成物の最適の稠度を保証する役割を果たし得る。
【0094】
本明細書で定義するポリオールは複数のヒドロキシル官能基を有する化合物である。ポリオールには糖類(単糖類、二糖類、及び多糖類)、糖アルコール類、及びそれらの誘導体が含まれる。特に好ましいものは糖アルコール類である。
【0095】
単糖類には、それだけに限らないが、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、及びリボースが含まれる。
【0096】
二糖類には、それだけに限らないが、スクロース(サッカロース)、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、及びセロビオースが含まれる。
【0097】
多糖類には、それだけに限らないが、デンプン、グリコーゲン、セルロース、及びキチンが含まれる。
【0098】
糖アルコールはポリアルコールとしても知られているが、炭水化物の水素化形であり、そのカルボニル基(アルデヒド又はケトン、還元糖)は一級又は二級のヒドロキシル基(以後、アルコール)に還元されている。糖アルコール類は一般式H(HCHO)n+1Hを有する一方、糖類はH(HCHO)HCOを有している。本開示の方法において用いられ得るいくつかの一般的な糖アルコール類には、それだけに限らないが、グリコール(2炭素)、グリセロール(3炭素)、エリスリトール(4炭素)、スレイトール(4炭素)、アラビトール(5炭素)、キシリトール(5炭素)、リビトール(5炭素)、マンニトール(6炭素)、ソルビトール(6炭素)、ダルシトール(6炭素)、フシトール(6炭素)、イジトール(6炭素)、イノシトール(6炭素、環状糖アルコール)、ボレミトール(7炭素)、イソマルト(12炭素)、マルチトール(12炭素)、ラクチトール(12炭素)、ポリグリシトールが含まれる。
【0099】
一実施形態では、止血組成物は単一の親水性化合物、例えば単一のポリオールを含む。
【0100】
本発明の一実施形態では、止血組成物は2つ以上の親水性化合物、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上の異なる親水性化合物を含む。
【0101】
好ましい実施形態では、親水性化合物はポリオールである。
【0102】
本発明の一実施形態では、止血組成物は2つのポリオール、例えばマンニトール及びグリセロール、又はトレハロース及びグリコールを含む。
【0103】
本発明の一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数の糖アルコール、例えばグリコール、グリセロール、エリスリトール、スレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ダルシトール、フシトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール、ポリグリシトールからなる群から選択される1つ又は複数の糖アルコールを含む。
【0104】
一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数の糖アルコール及び1つ又は複数の糖、例えば1つの糖アルコール及び1つの糖を含む。
【0105】
一実施形態では、止血組成物は1つの糖アルコール及び任意選択で1つ又は複数のさらなる親水性化合物、例えば糖アルコール類又は糖類であってよい1つ又は複数のポリオールを含む。
【0106】
一実施形態では、止血組成物は唯一のポリオールとして糖を含まない。
【0107】
本発明の一実施形態では、止血組成物はマンニトールを含む。
【0108】
本発明の一実施形態では、止血組成物はソルビトールを含む。
【0109】
本発明の一実施形態では、止血組成物はグリセロールを含む。
【0110】
本発明の一実施形態では、止血組成物はトレハロースを含む。
【0111】
本発明の一実施形態では、止血組成物はグリコール、例えばプロピレングリコールを含む。
【0112】
本発明の一実施形態では、止血組成物はキシリトールを含む。
【0113】
本発明の一実施形態では、止血組成物はマルチトールを含む。
【0114】
本発明の一実施形態では、止血組成物はソルビトールを含む。
【0115】
一実施形態では、止血組成物は約1%~約20%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば約1%~約15%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば、約1%~約10%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば約1%~約7%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば、約1%~約5%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば、約2%~約5%の1つ又は複数の親水性化合物、例えば約3%~約5%の1つ又は複数の親水性化合物を含む。
【0116】
一実施形態では、本開示の親水性化合物はポリ(エチレングリコール)(PEG)ではない。
【0117】
親水性化合物は、乾燥したトロンビン組成物の成分、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分であってよく、及び/又は乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込んでもよい。
【0118】
一実施形態では、1つ又は複数の親水性化合物は、乾燥したトロンビン組成物の成分である。
【0119】
一実施形態では、1つ又は複数の親水性化合物は、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分である。
【0120】
一実施形態では、1つ又は複数の親水性化合物は、乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込まれる。
【0121】
好ましくは、(1つ又は複数の)親水性化合物は、止血組成物を生成するためのさらなる混合ステップを避けるために、トロンビン成分又はペースト成分に含まれる。
【0122】
さらなる生物活性剤
本発明の一実施形態では、止血組成物は、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができる1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。1つ又は複数の生物活性剤は、乾燥したトロンビン組成物、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分であってよく、及び/又は乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込んでもよい。好ましくは、そのような生物活性剤は、さらなる混合ステップを避けるために、乾燥したトロンビン組成物の中又は生体親和性ポリマーを含むペーストの中に含まれる。生物活性剤が保存及びもどしの間にその生物活性を保持すること、即ち、その薬剤が最終の止血組成物中でその生物学的機能を保持していることが重要である。多くの生物活性剤、特に水が存在すると分解するか又はその二次構造を失うおそれがある酵素及びその他のタンパク質は、溶液中で不安定である。
【0123】
1つ又は複数のさらなる生物活性剤は、例えばフィブリノーゲン、第XIII因子と組み合わせたフィブリノーゲン、又はトラネキサム酸と組み合わせたフィブリノーゲン及び第XIII因子であってよい。
【0124】
一実施形態では、止血組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)からなる群から選択される1つ又は複数の増殖因子等の、骨及び/又は腱及び/又は組織の治癒を刺激する1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。
【0125】
一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数の骨形成タンパク質(BMP)を含む。骨形成タンパク質(BMP)はTGF-βスーパーファミリーのサブグループである。骨形成タンパク質(BMP)はサイトカインとして及びメタボロゲンとしても知られている増殖因子の群である。もともとは骨及び軟骨の形成を誘起する能力によって発見されたが、BMPは今では身体全体の組織構築を統合する重要な形態形成シグナルの群を構成していると考えられている。
【0126】
一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を含む。MMPは亜鉛依存性エンドペプチダーゼである。MMPは傷害の後の治癒プロセスの間の細胞外マトリックス(ECM)の分解及びリモデリングにおいて極めて重要な役割を有している。MMP-1、MMP-2、MMP-8、MMP-13、及びMMP-14を含むある種のMMPはコラーゲナーゼ活性を有する。これは多くの他の酵素と異なり、コラーゲンIフィブリルを分解する能力を有していることを意味している。
【0127】
これらの増殖因子は全て、治癒プロセスの間で異なった役割を有している。IGF-1は炎症の最初の段階の間にコラーゲン及びプロテオグリカンの生成を増大し、PDGFも傷害後の早期の段階の間に存在してその他の増殖因子の合成並びにDNAの合成及び細胞の増殖を促進する。TGF-βの3つのアイソフォーム(TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3)は創傷の治癒及び瘢痕の形成に役割を果たしていることが知られている。VEGFは血管新生を促進し、内皮細胞の増殖及び遊走を誘起することがよく知られている。
【0128】
一実施形態では、本開示の止血組成物は細胞外マトリックス(ECM)のフレーク又は粒子を含む。ECMは動物組織の細胞外の部分であり、通常、動物細胞を構造的に支持するとともに、他の種々の重要な機能を果たしている。ECMは機能的な組織再生を促進するので、治癒において極めて有益な効果を有していることが示されている。
【0129】
本発明の止血組成物と併せて用いられ得るさらなる種々の生物活性剤の範囲は広い。一般に、本発明の止血組成物を介して投与され得る生物活性剤には、限定なく、抗生剤及び抗ウイルス剤等の抗感染薬;鎮痛薬及び組合せ鎮痛薬;抗寄生虫薬;抗関節炎薬;抗痙攣薬;抗うつ薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症薬;抗片頭痛製剤;抗新生物薬;抗パーキンソン病薬、抗精神病薬;解熱剤;鎮痙剤;抗コリン作用薬;交感神経用作用薬;キサンチン誘導体;カルシウムチャネルブロッカー並びにピンドロール及び抗不整脈薬等のベータブロッカーを含む心臓血管系製剤;抗高血圧薬;利尿剤;一般的な冠動脈、末梢、及び脳を含む血管拡張剤;中枢神経系刺激剤;エストラジオール、及びコルチコステロイドを含むその他のステロイド等のホルモン類;免疫抑制剤;筋弛緩剤;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;天然誘導の若しくは遺伝子操作されたタンパク質、多糖類、糖タンパク質、又はリポタンパク質;オリゴヌクレオチド、抗体、抗原、コリン作用薬、化学療法剤、放射活性剤、骨誘導剤、嚢胞抑制剤、ヘパリン中和剤、凝結促進剤及び止血剤、例えば、プロトロンビン、トロンビン、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ヘパリナーゼ、第X/Xa因子、第VII/VIIa因子、第VIII/VIIIa因子、第IX/IXa因子、第XI/XIa因子、第XII/XIIa因子、第XIII/XIIIa因子、組織因子、バトロキソビン、アンクロッド、エカリン、フォンウィレブランド因子、血小板表面糖タンパク質、バソプレシン、バソプレシンアナログ、エピネフリン、セレクチン、凝血促進性蛇毒、プラスミノーゲン活性化阻害剤、血小板活性化剤、並びに止血活性を有する合成ぺプチドが含まれる。
【0130】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる生物活性剤は、乾燥したトロンビン組成物の成分である。
【0131】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる生物活性剤は、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分である。
【0132】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる生物活性剤は、乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込まれる。
【0133】
さらなる化合物
本発明の止血組成物は、DMSO(ジメチルスルホキシド)及び/又は2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)のうちの1つ又は複数をさらに含んでよい。
【0134】
一実施形態では、本開示の止血組成物は、1つ又は複数の抗菌剤等の、1つ又は複数の抗微生物剤を含む。
【0135】
一実施形態では、本開示の止血組成物は塩化ベンザルコニウムを含む。
【0136】
一実施形態では、本開示の止血組成物は抗微生物剤を含まない。
【0137】
一実施形態では、止血組成物は押出し促進剤、即ちシリンジからのペーストの押出しを促進することができる化合物をさらに含む。
【0138】
適切な量のアルブミン等のある種の押出し促進剤を提供することによって、ゼラチンペースト組成物を例えばシリンジから押し出すために必要な力の量を低減することができるので、より高い濃度のゼラチンを用いることができることが既に示されている。高い濃度のゼラチンを用いることにより、そのような製品の止血特性を改善することができる。押出し促進剤は適切な量で提供することが必要である。その量は押出し効果が得られるように、即ち比較的大量の生体親和性ポリマー、例えば架橋ゼラチンであっても流れやすいペーストを可能にして、外科医が例えばアプリケーターチップを含むシリンジを用いて止血組成物を正確に塗布できるために十分多いことが好ましいが、一方、その量は止血組成物の起こり得る望ましくない機能特性を防止するために十分少ない必要がある。
【0139】
押出し促進剤は好ましくはアルブミン、特にヒト血清アルブミンである。
【0140】
本発明の止血組成物では、アルブミン等の押出し促進剤は約0.1%~約10%、例えば、約0.2%~約8%、例えば約0.3%~約7%、好ましくは約0.5%~約5%、例えば、約1%~約4%の量で存在する。
【0141】
一実施形態では、本発明の止血組成物は、例えば、0.1%未満、例えば0.01%未満、例えば、0.001%未満、例えば0.0001%未満の微量のアルブミンを含む。
【0142】
1つ又は複数のさらなる化合物は、乾燥したトロンビン組成物の成分、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分であってよく、及び/又は乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込んでもよい。
【0143】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる化合物は、乾燥したトロンビン組成物の成分である。
【0144】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる化合物は、生体親和性ポリマーを含むペーストの成分である。
【0145】
一実施形態では、1つ又は複数のさらなる化合物は、乾燥したトロンビン組成物をもどした後の別のステップにおいて止血組成物中に組み込まれる。
【0146】
止血組成物の作成/乾燥したトロンビン組成物のもどし
本開示は、乾燥したトロンビン組成物をペーストの中で直接もどして創傷の処置における特に止血目的のための使用に適した止血組成物を産生する方法に関する。
【0147】
したがって、一実施形態では、止血組成物を調製する方法が提供され、本方法は、
a)第1の容器中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2の容器中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて第1の容器と第2の容器を連結するステップ、及び
d)容器の内容物を混合するステップ
を含む。
【0148】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物をもどす方法が提供され、本方法は、
a)第1の容器中に乾燥したトロンビン組成物を用意するステップ、
b)第2の容器中に生体親和性ポリマーを含むペーストを用意するステップ、
c)好適な連結手段を用いて第1の容器と第2の容器を連結するステップ、及び
d)容器の内容物を混合するステップ
を含む。
【0149】
容器は通常シリンジ、より好ましくは相互連結可能なシリンジである。
【0150】
一実施形態では、好適な連結手段はスタティックミキサーを含む。前記スタティックミキサーは混合中に空気をペーストの中に混合する能力を提供し得る。スタティックミキサーの寸法は止血組成物の稠度及び空気を止血組成物中に混合する能力に影響し得る。
【0151】
一実施形態では、好適な連結手段はルアーロック又はルアースリップコネクター等の標準的な型のコネクター部分を含む。ルアーロック又はルアースリップコネクションの寸法によって、止血組成物の稠度及び止血組成物の中に空気を混合する能力に影響し得る。
【0152】
混合は容器の内容物を数回往復して移送することによって実施される。
【0153】
一実施形態では、移送の回数は20回未満、例えば15回未満、例えば、12回未満、例えば10回未満、例えば、6回未満である。
【0154】
一実施形態では、移送の回数は10回未満、例えば9回未満、例えば、8回未満、例えば7回未満、例えば、6回未満、例えば5回未満である。
【0155】
一実施形態では、移送の回数は8回未満である。
【0156】
好ましい実施形態では、移送の回数は約6回又はそれ未満である。
【0157】
6回の移送による混合は下記のように実施することができる。混合は、生体親和性ポリマーを含むペーストを、乾燥したトロンビン組成物を保持した第1の容器に移送することによって開始される。したがって、1回目の移送は生体親和性ポリマーを含むペーストの第2の容器から第1の容器への移送によって特徴付けられる。2回目の移送はトロンビン及び1回目の移送に起因するペースト混合物の第1の容器から最初に生体親和性ポリマーを含むペーストを保持していた第2の容器への移送によって特徴付けられる。3回目の移送はトロンビン及び2回目の移送に起因するペースト混合物の第2の容器から第1の容器への移送によって特徴付けられる。4回目の移送はトロンビン及び3回目の移送に起因するペースト混合物の第1の容器から第2の容器への移送によって特徴付けられる。5回目の移送はトロンビン及び4回目の移送に起因するペースト混合物の第2の容器から第1の容器への移送によって特徴付けられる。6回目かつ最終の移送は、トロンビン及び5回目の移送に起因するペースト混合物の第1の容器から第2の容器への移送によって特徴付けられる。
【0158】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物をペーストの中でもどすために、第1の容器と第2の容器との間の7回以上の移送が用いられる。
【0159】
一実施形態では、最終の移送はトロンビン及びペースト混合物の第1の容器から第2の容器への移送によって特徴付けられる。次いで得られる止血組成物が前記第2の容器から処置する部位、例えば出血している創傷の上に直接塗布され得る。一部の実施形態では、アプリケーターチップをシリンジに取り付けて、既に述べたように使用してもよい。
【0160】
乾燥したトロンビン組成物と生体親和性ポリマーを含むペーストとを混合することによって、止血組成物中のトロンビンの実質的に均一な分布がもたらされる。
【0161】
止血組成物
本開示の止血組成物は、乾燥したトロンビン組成物を、生体親和性ポリマーを含むペーストの中で直接もどすことによって調製される。ペーストのもどしは本明細書に記載した方法によって実施し得る。止血組成物は、止血組成物中のトロンビンの実質的に均一な分布を有する。
【0162】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビンの均一な分布は、20%未満、例えば10%未満、例えば、5%未満、例えば4%未満、例えば、3%未満、例えば2%未満、例えば、1%未満のトロンビン含量の変動によって特徴付けられる。トロンビン含量の変動は、容器中の止血ペーストの異なった部分、例えばシリンジの開始時の部分、シリンジの中間部分、又はシリンジの最後の部分の間のトロンビンの活性又は濃度の差異として測定し得る。
【0163】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は10%未満である。
【0164】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は5%未満である。
【0165】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は4%未満である。
【0166】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は3%未満である。
【0167】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は2%未満である。
【0168】
一実施形態では、止血組成物の全体にわたるトロンビン含量の変動は1%未満である。
【0169】
本明細書に記載した方法によって得られる止血組成物は、好ましくは流動性組成物である。本明細書に記載した方法によって得られる止血組成物は、止血及び/又は創傷治癒における使用に好適である。
【0170】
止血組成物は、1つ又は複数の親水性薬剤、例えば1つ若しくは複数のポリオール又は1つ若しくは複数のポリ(エチレングリコール)(PEG)等を含んでよい。
【0171】
一実施形態では、止血組成物はトロンビンの他に1つ又は複数のさらなる生物活性剤を含む。そのような1つ又は複数の生物活性剤は、止血、創傷の治癒、骨の治癒、組織の治癒、及び/又は腱の治癒を刺激することができ得る。
【0172】
一実施形態では、止血組成物は1つ又は複数の押出し促進剤、例えばアルブミン等を含む。
【0173】
止血組成物は本明細書に記載した乾燥したトロンビン組成物をもどす任意の方法によって得ることができる。
【0174】
一実施形態では、止血組成物は約100g×秒~約10,000g×秒、例えば、約500g×秒~約5000g×秒、例えば約1000g×秒~約3000g×秒、例えば、約1500g×秒~約2000g×秒の範囲内の稠度を有する。
【0175】
一実施形態では、止血組成物は約5000g×秒未満、例えば約4000g×秒未満、例えば、約3000g×秒未満、例えば約2000g×秒未満の稠度を有する。
【0176】
容器
止血組成物を調製するために、当業者には既知の任意の好適な容器、例えばバイアル、ジャー、チューブ、トレイ、カートリッジ、又はシリンジが用いられ得る。
【0177】
乾燥したトロンビン組成物が第1の容器中に用意され、生体親和性ポリマーを含むペーストが第2の容器中に用意される。
【0178】
第1及び第2の容器は任意の好適な材料、例えばプラスチック、ガラス、セラミック、プラスチック、又はステンレススチール等の金属から作成できる。好適なプラスチック材料の例には、それだけに限らないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が含まれる。
【0179】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物は、シリンジ、バイアル、ジャー、チューブ、トレイ、又はカートリッジから選択し得る第1の容器中に用意される。
【0180】
好ましい実施形態では、乾燥したトロンビン組成物を保持する前記第1の容器は、それを必要とする患者に流動性止血組成物を分配するために適した医用送達デバイス、例えばシリンジである。
【0181】
第1の容器は通常、容器の内容物に影響しない化学的表面滅菌に適した材料から作られる。例えば、前記第1の容器は、エチレンオキシドを透過しない材料から作られ、例えばエチレンオキシドを透過しない金属、ガラス、又はプラスチックから作られ得る。
【0182】
乾燥したトロンビン組成物は好ましくはガラス容器内に用意され、したがってエチレンオキシドガスを用いて前記容器を滅菌することが可能である。一実施形態では、前記第1の容器はガラスシリンジである。一実施形態では、前記第1の容器は乾燥したトロンビンを保持するガラスインサートを有するシリンジである。
【0183】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストが、シリンジ、バイアル、ジャー、チューブ、トレイ、又はカートリッジから選択され得る第2の容器中に用意される。生体親和性ポリマーを含むペーストは当技術で既知の方法、例えば生体親和性ポリマー粉末を水性媒体と混合して前記ペーストを産生することによって調製し得る。生体親和性ポリマーを含むペーストは、好適にはバルクで調製され、前記第2の容器に移送され/分割され得る。
【0184】
好ましい実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストを保持する容器は、それを必要とする患者に流動性止血組成物を分配するために適した医用送達デバイス、例えばシリンジである。一実施形態では、第2の容器は使い捨てプラスチックシリンジである。
【0185】
一実施形態では、第1及び第2の容器は相互連結可能である。コネクター部分はルアーロック又はルアースリップコネクター等の標準的な型のコネクター部分であってよい。コネクター部分は適合するコネクターとの連結を確実にするためのネジ部分を備えてよい。前記ルアーロック又はルアースリップコネクションの寸法によって、乾燥したトロンビン組成物と生体親和性ポリマーを含むペーストとの混合の間に止血組成物の中に空気を混合する能力を変化させることができ得る。さらに、ルアーロック又はルアースリップコネクションの寸法によって、止血組成物の稠度に影響を与えることができ得る。
【0186】
一実施形態では、コネクター部分はスタティックミキサーを含む。前記スタティックミキサーの寸法によって、乾燥したトロンビン組成物と生体親和性ポリマーを含むペーストとの混合の間に止血組成物の中に空気を混合する能力を変化させることができ得る。さらに、スタティックミキサーの寸法によって、止血組成物の稠度に影響を与えることができ得る。
【0187】
外部包装
一実施形態では、例えば本明細書で開示したシリンジ等のシリンジ、又はその他の封入ユニットの中に含まれる乾燥したトロンビン組成物及び/又は生体親和性ポリマーを含むペーストは外部包装の中にさらに含まれ、それにより製品は使用まで無菌に保たれる。これにより使用者は外部包装を取り除き、止血組成物の成分を無菌野に移すことができる。
【0188】
外部包装は通常、可撓性で半剛性又は剛性の材料から作られ、典型的にはプラスチック、アルミニウムホイル及び/又はプラスチックラミネート等の材料からなり、プラスチックはPET、PETG、PE、LLDPE、CPP、PA、PETP、METPET、Tyvekからなる群から選択してよく、任意選択でポリウレタン等の接着剤で接合され、又は共押し出しされる。
【0189】
一実施形態では、外部包装はアルミニウムホイルの外部包装である。
【0190】
外部包装は、好ましくは湿気に対する完全なバリアを形成する。
【0191】
外部包装は、好ましくは照射等による滅菌処理に耐えることができる。
【0192】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物を含む第1のシリンジ及び生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2のシリンジは、個別の外部包装に含まれる。
【0193】
滅菌
本開示の乾燥したトロンビン組成物、生体親和性ポリマーを含むペースト、及び/又は止血組成物は、好ましくは無菌である。当技術で既知の任意の好適な滅菌手法を利用することができる。滅菌は、伝染性の物質(例えば真菌、細菌、ウイルス、プリオン、及び胞子の形態等)を効果的に殺滅し又は排除する任意のプロセスを意味する。滅菌は例えば熱、化学物質、及び/又は照射の適用によって達成することができる。
【0194】
滅菌はオートクレーブ(高温の水蒸気を用いる)及び乾熱を含む熱滅菌によって達成され得る。
【0195】
滅菌は成分に無菌性を提供する照射、例えばイオン化照射によって達成され得る。そのような照射にはeビーム(β線照射)、X線、γ線及びβ線、UV光並びに原子内粒子が含まれ得る。照射のレベル及び時間を含む滅菌条件が、無菌組成物を提供する。滅菌条件は当技術で現在用いられているものと同様であり、当業者によって決定することができる。
【0196】
滅菌は例えばエチレンオキシドガス、オゾン、塩素漂白剤、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、過酸化水素及び/又は過酢酸を用いることによる化学滅菌によって実施され得る。
【0197】
乾燥したトロンビン組成物は通常、無菌の方法によって調製され、それにより前記第1の容器中で無菌の乾燥したトロンビン組成物が用意される。
【0198】
一実施形態では、乾燥したトロンビン組成物を含む第1の容器の表面は、エチレンオキシドガス等による化学滅菌によって滅菌される。
【0199】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストは、γ線照射等の照射によって滅菌される。
【0200】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2の容器の滅菌は、β線又はγ線の照射を用いて滅菌され、それにより無菌のペースト及び無菌の容器が用意される。
【0201】
一実施形態では、生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2の容器の滅菌は最終滅菌として、即ち生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2の容器が外部包装の中に含まれたときに行なわれる。
【0202】
医学用途
本開示は、本開示の方法によって得られる止血組成物の、止血及び/又は創傷の治癒を促進するための使用にさらに関する。
【0203】
本開示の止血組成物は、例えば出血の制御が望まれる数々の手術手順の中で用いられ得る。止血組成物は不規則な表面に適合するペーストの形態であって出血を速く止めることができ、したがって止血スポンジが効率的でない粗い又は不均一な表面において迅速な止血を提供するために有用である。
【0204】
一般に、止血ペーストは手術場において必要なときに医療従事者、即ち医師又は看護師によって、通常は液体(任意選択でトロンビンを含む)をある量の生体親和性ポリマーを含むシリンジ等の容器に添加することによって直接調製される。生体親和性ポリマーは液体で前もって湿潤化してもよく、又は本質的に乾燥していてもよい(自由流動粉末)。したがってペーストは極めて緊張した条件下で調製されることが多く、したがってペーストを調製するプロセスが単純で速く、出血をできるだけ速く阻止すること、及びペーストを調製する間に失敗がなく、看護師が止血材を調製する代わりに外科医の要求に集中できることを確実にすることが重要である。ペーストの稠度が止血ペーストとしての使用に好適であること、並びに製品の稠度が調製ロット間及び経時的に変化しないことも重要である。
【0205】
現在利用可能な流動性ペースト製品(Floseal(登録商標)及びSurgiflo(登録商標))は、トロンビン組成物を液体中でもどした後に、実質的に均一なペーストを得るために生体親和性ポリマーとその液体とを2つの連結されたシリンジの間を数回通過させることによってもどされたトロンビン溶液と生体親和性ポリマーとを機械的に混合する必要がある。トロンビンのもどしは時間がかかり失敗しやすく、これらは手術室での設定における2つの望ましくない要素である。これらの製品は手術時に必要な場合には手術前に手術室において事前準備されることが多く、未使用の製品が廃棄されて不必要に高い手術室のコストを引き起こすことが多い。
【0206】
本開示の止血組成物を調製する方法は、乾燥したトロンビン組成物をペースト中で直接もどすことを可能にすることにより、手順中の取り扱いステップの数を低減するので、現在利用可能な方法よりも優れている。本開示の止血組成物は、生体親和性ポリマーを含むある量のペーストを乾燥したトロンビン組成物を含む容器に加え、相互に連結された2つのシリンジの間で内容物を数回移送する等、内容物を混合することによって単純に調製することができ、それにより、実質的に均一に分布したトロンビンを含む即時使用可能な止血ペーストが形成される。
【0207】
乾燥したトロンビン組成物を液体中で事前にもどす必要がないという事実は、ペーストを調製するために費やされる時間がより短いことをも意味し、それにより、止血組成物をより速く患者に塗布できるという事実及び調製法が単純なので止血組成物を調製する間に失敗する可能性が少なくなるという事実の両方から、患者の安全性が増大する。また、本開示の止血組成物を調製する方法は、調製が単純で速く、現行の製品を手術前に事前調製する必要がないので、手術室のコストを低減することができる。
【0208】
本発明の方法のもう1つの注目すべき利点は、現行の止血用流動性キットと比較してより少ない部品からなるキットを調製することができることである。手術室において流動性ペースト組成物を調製するために必要な全てのものは、シリンジ等の第1の容器に含まれる本明細書に記載した乾燥したトロンビン組成物、及び生体親和性ポリマーを含むペーストを含む医用送達デバイス等の第2の容器である。2つを連結して混合すれば、効果的な止血のためのトロンビンを含む全ての必要な薬剤を含む即時使用可能な流動性ペーストが形成される。したがって、本開示の方法に従って調製した製品では、追加のシリンジ、バイアルアダプター、針、及び混合ボウルは必要ない。これは製造コストが低減できることを意味し、また手術の間に手術室のスタッフが追跡すべき部品の数がより少ないので患者の安全性を良好に保証できる。止血材の調製に針を必要としないことも、手術室のスタッフの安全性を保証する。
【0209】
一実施形態では、本開示は、本開示の方法によって調製された止血組成物を出血部位に塗布することによる、それを必要とする個体において出血を停止させ/止血を促進する方法に関する。
【0210】
本開示の止血組成物は、一般手術、心臓胸部手術、血管手術、形成外科手術、小児外科手術、結腸直腸手術、移植手術、腫瘍外科手術、外傷手術、内分泌外科手術、乳房手術、皮膚手術、耳鼻咽喉手術、婦人科手術、口腔及び顎顔面手術、歯科手術、整形外科手術、神経手術、眼科手術、足の手術、泌尿器科手術を含む任意の種類の手術に用いられ得る。
【0211】
一実施形態では、本開示は、本開示の方法によって調製された止血組成物を創傷に塗布することによる、それを必要とする個体において創傷の治癒を促進する方法に関する。
【0212】
「創傷」は、様々な原因(例えば長期の臥床による床擦れ及び外傷によって誘起された創傷)によって始まり、種々の特徴を有する皮膚及び/又はその下(皮下)の組織の傷害を広く意味する。創傷は創傷の深さに応じて4つのグレード:i)グレードI:上皮に限局した創傷;ii)グレードII:真皮内に進展した創傷;iii)グレードIII:皮下組織内に進展した創傷;及びiv)グレードIV(又は全厚創傷):骨が露出した創傷(例えば大転子又は仙骨等の骨圧点)の1つに分類され得る。本開示は、本開示の止血組成物を用いる任意の種類の上述の創傷の処置に関する。
【0213】
創傷の処置は、原理的には創傷の治癒又は創傷の治癒の促進をもたらす。治癒の促進は、例えば創傷治癒促進物質の投与の結果であり得る。或いは、創傷の治癒は、細菌又はウイルスによる感染を防止すること、又はさもなければ創傷の処置のプロセスを長期化したかも知れない感染のリスクを低減することによって促進され得る。
【0214】
一実施形態では、本開示は、本開示の方法によって調製された止血組成物を傷害された骨/腱に塗布することによる、それを必要とする個体において骨及び/又は腱の治癒を促進する方法に関する。
【0215】
「個体」は、本明細書では、それだけに限らないが、マウス及びハムスター等のげっ歯目の哺乳動物、及びウサギ等のウサギ目の哺乳動物を含む任意の哺乳動物であってよい。哺乳動物はネコ科(ネコ)及びイヌ科(イヌ)を含む食肉目からのものであることが好ましい。哺乳動物はウシ亜科(ウシ)及びブタ科(ブタ)を含む偶蹄目、又はウマ科(ウマ)を含むウマ目からのものであることがさらに好ましい。哺乳動物は霊長目、セボイド目、又はシモイド目(サル)、又は真猿亜目(ヒト及び類人猿)のものであることが最も好ましい。特に好ましい哺乳動物はヒトである。
【0216】
一実施形態では、本開示は創傷の処置における使用のため、例えば出血を停止するため、又は創傷の治癒を促進するための、本明細書で開示した止血組成物に関する。
【0217】
止血用キット
本開示はさらに、本開示の乾燥したトロンビン組成物及び乾燥したトロンビン組成物の量に適合した生体親和性ポリマーを含むペーストを含み、混合に際して止血における使用に適したトロンビン含量を有する止血組成物が形成される止血用キットに関する。
【0218】
したがって、一実施形態では、本開示は、
a)乾燥したトロンビン組成物を含む第1のシリンジ、
b)生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2のシリンジ、及び
c)任意選択で外部包装
を含む止血用キットであって、
2つのシリンジが相互連結可能である、止血用キットに関する。
【0219】
一実施形態では、止血用キットは、
a)外部包装中の乾燥したトロンビン組成物を含む第1のシリンジ、
b)外部包装中の生体親和性ポリマーを含むペーストを含む第2のシリンジ、及び
c)任意選択でa)及びb)の成分を含む外部包装
を含み、2つのシリンジは相互連結可能である。
【0220】
一実施形態では、キットは1つ又は複数のアプリケーターチップをさらに含む。
【0221】
キットは任意選択でキットの使用のための指示書を含んでよい。
【0222】
止血用キットの部品は本明細書の他の箇所に記載した通りでよい。
【0223】
[実施例]
[実施例1:ペースト中のトロンビンの分布]
材料:
10mLガラスシリンジ中、2000IUの乾燥したトロンビン(第1のシリンジ)
10mLシリンジ中、5mLのゼラチンペースト(第2のシリンジ)
【0224】
方法:
ルアーロックを介して2つのシリンジを相互連結し、ゼラチンペーストの内容物を、乾燥したトロンビン組成物を含むシリンジに移送する(第1の移送)。次いで得られるトロンビンとゼラチンペーストの混合物を第1と第2のシリンジの間を5回往復させて移送し、第2のシリンジの中に含まれた止血組成物を得る(図1)。移送の全回数は6回である。得られる止血組成物はトロンビンを含む流動性ペースト製剤であり、本明細書では「6tomix」又は「6TM」ペーストと特定する。混合の結果として全体で約3mLの空気がペーストの中に入り、ペーストの最終体積は約8mLになる。
【0225】
結果:
最終の止血組成物は体積約8mLのペーストである。
【0226】
止血組成物のトロンビン含量は止血組成物の異なる部分の平均トロンビン活性として測定される。以下の部分への分割が適用される。開始部分(即ちシリンジから押し出された最初の3分の1の止血組成物)、中間部分(シリンジから押し出された中間の3分の1の止血組成物)、及び最後の部分(シリンジから押し出された最後の3分の1の止血組成物)。
【0227】
止血組成物全体のトロンビン活性を100%とし、個別の部分の平均トロンビン活性を全活性の百分率として計算する。止血組成物中のトロンビンの分布が完全に均一であれば、3つの部分のそれぞれの平均トロンビン活性は33.333%になる。
【0228】
【表1】
【0229】
トロンビン含量の変動
トロンビン含量の変動は、2つの部分の間の平均トロンビン活性の百分率での差異として計算する。
【0230】
本明細書では、トロンビン含量の最大変動は
(36/(31+36))-0.50100=3.7%
として計算される。
【0231】
結論として、この結果は、2つのシリンジの間で2つの成分を6回移送することによって、乾燥したトロンビン組成物をゼラチンペーストの中で直接もどすことができ、止血組成物中で実質的に均一なトロンビンの分布を有する止血組成物が産生されることを実証している。
【0232】
[実施例2:ペーストの止血効果]
目的
本研究の目的は、実施例1の6TMペーストの止血効率を試験することであった。ペーストの止血効率を市販のSurgiflo(登録商標)ペーストの止血効率と比較した。Surgiflo(登録商標)は出血している表面に塗布することによる止血用途に承認された無菌の吸収性ブタゼラチンペースト製剤であり、確立された市販の製品である。
【0233】
止血効率は以下に記載するようにブタ脾臓生検モデルで試験した。
【0234】
実験モデル
ブタ脾臓生検パンチモデルを用い、最初10秒の圧迫時間、続いて120秒の評価時間、その後10秒の圧迫時間で8mmの穿刺(深さ3mm)を脾臓に適用した。
【0235】
ブタ脾臓生検パンチモデルは止血ペーストの止血効率をin vivoで評価するための確立されたモデルである(Hutchinsonら、2015、Surgical Technology International XXVII)。本研究のブタ脾臓生検パンチモデルはHutchinsonら、2015で用いられたものと同様である。本研究はThe Animal Experiments Inspectorate of Denmark (Dyreforsoegstilsynet)の許可のもとに行なった。
【0236】
実験動物
ブタは大量の血液(70mL/kg)及び大血管の脾臓を有し、単一の動物で多くの止血の比較が可能であるので、このモデルのために選択される動物である。本研究の雌ブタは体重約40kg(±5kg)、月齢約3か月であった。体重をブタの組み入れ基準とした。体重の下限は試験すべき臓器が適切な大きさであることを保証することとし、上限はブタの大きさが標準化されていることを保証する指針であった。
【0237】
手術の際に、試験したブタには臨床的疾病の兆候は見られなかった。
【0238】
麻酔及び流体治療
ブタは手術前、少なくとも6時間絶食させた。以下の混合物、即ち6.25mLのNarcoxyl(キシラジン20mg/mL)、1.25mLのKetaminol(ケタミン100mg/mL)、2mLのTurbogesic(ブトルファノール10mg/mL)、及び2mLのMetadon(メタドン10mg/mL)をZoletil 50Vetバイアルに添加したもの(125mgのチレタミン及び125mgのゾラゼパムを含む)を筋肉内注射(1mL/10kg)することによって麻酔を誘導した。
【0239】
ブタに挿管し、レスピレーターを用いて0.5Lの酸素/2.5Lの空気/分の混合物で換気した。フェンタニル(50μg/mL、1mL/10kg/時間)及びプロポフォール(10mg/mL、1.5mL/kg/時間)の静脈内投与によって麻酔を維持した。動物はラクテートリンゲル液(125mL/時間)で正常補水状態に保った。上記の医薬の使用が止血に影響しないことは既に評価済みである。
【0240】
本研究に用いたブタは、心停止をもたらすバルビツル酸塩の過剰投与によって手術後に安楽死させた。
【0241】
試験手順
試料の調製
実施例1に記載したように、即ち食塩液中でトロンビンを事前にもどすことなく、湿潤したゼラチンペーストを乾燥したトロンビンの調製物と混合することによって、本発明の6TMペーストを調製した。
【0242】
Surgifloペースト(対照)は、2014年6月11日付けのSurgiflo使用指示書に従ってトロンビン溶液と混合した。
【0243】
いったんトロンビンと混合すれば、対照製品(Surgiflo)と本発明の6TMペーストの化学組成及び含水率は同一であった。
【0244】
保存条件を模倣するため、ペーストは40℃で3か月保存してからトロンビンと混合し続いて試験した。唯一の相違は、対照ペーストが含む液体(食塩液)が保存中の本発明の6TMペーストより2mL少ないことであった。対照ペーストにはトロンビンを含む2mLの食塩液を試験の直前に加え、本発明の6TMペーストは試験の直前に実施例1に記載したように乾燥したトロンビンと混合した。
【0245】
手術手順
正中腹部切開を作成して脾臓を露出した。脾臓に8mmのパンチ(深さ3mm)を作成した。出血強度は本明細書で下記するように0~5のスケールで評価した。出血強度3及び4のみを許容可能とみなした。パンチは今や対照試料又は試験試料のいずれかに準備できた。試験試料ごとに新たなパンチを作成した。
【0246】
それぞれの試料の種類を7回試験した(n=7)。試料はランダム化された順序で試験した。
【0247】
それぞれのブタについて、試験期間の開始時及び完了時に湿潤したガーゼのみを用いる12分の陰性対照を実施した。陰性対照は、研究期間を通して動物の出血する能力の指標として用いた。
【0248】
一次試験パラメーターは止血までの時間(TTH)を測定することであった。TTHは、さらなる出血が起こらないこと、即ち非再出血を保証する最終の止血評価期間を全時間から差し引いた時間として定義される。
【0249】
出血強度の評価並びに試験試料及び陰性対照の適用について、以下に詳細に述べる。
【0250】
出血強度
それぞれのパンチの出血強度は、外科医によって0~5のスケールで評価された(下表を参照)。
【0251】
出血強度はそれぞれのパンチについてt=0で記録した。出血強度3~4の創傷について実施した試験のみを、さらなる解析に用いた。
【0252】
【表2】
【0253】
陰性対照
湿潤したガーゼをパンチの上に直接載せた。指圧を30秒間印加し、続いて120秒を止血評価時間とした。止血を評価した(血液が試験物品の下から30秒間漏出しないことと定義)。120秒以内に止血が達成されない場合には、さらに30秒間の指圧を印加し、120秒の止血再評価を実施した。出血が停止して止血が達成されるまで、又は試験時間が12分に達するまで、タンポンの適用及び観察時間を実施した。陰性対照では止血は12分の試験時間以内で達成されず、したがって研究を通してブタが出血する能力が示された。
【0254】
試験試料の塗布
アプリケーターチップを用いて、ほぼ1~2mLのペーストを直接パンチに塗布した。塗布の間、チップをパンチの中に進入させ、組織との接触を確実にした。塗布の後、0.9%の食塩液で湿潤したガーゼをパンチの上に載せた。指圧(タンポン)を10秒間印加した。加圧を停止し、ガーゼを取り除きし、続いて止血を評価した。試験物品の下からの血液の漏出が120秒間見られない場合には、止血が達成されたと結論し、実験を終了する。血液が試験物品の下から120秒の時間枠内で漏出した場合には、漏出に要する時間を記録し、再び指圧を10秒間印加し、その後、止血を検査した。止血が達成されるか、12分のいずれか早い方まで、この手順を継続した。
【0255】
止血時間の評価のための計算例
指圧10秒、止血の検査:39秒後に血液漏出、指圧さらに10秒、止血の検査120秒間:漏出なし-結論:止血は10+39+10秒=59秒後に達成された。即ち、最後の観察時間はTTHの計算に含めない。
【0256】
結果
本研究の結果を下表に示し、さらに図3に示す。
【0257】
【表3】
【0258】
結果は、6TMペーストの平均TTHが対照ペーストと比較してほとんど2分の1に低減することを示している。
【0259】
対照ペーストのメディアンTTHは37秒であり、一方6TMペーストのメディアンTTHは10秒であった。
【0260】
データは本発明に従って調製した6TMペーストが驚くべきことに対照ペーストよりも速くかつより一貫して止血をもたらすことを示している。
図1
図2
図3