IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-インクジェットインク及び記録装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】インクジェットインク及び記録装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20231204BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231204BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019236132
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105094
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 学
(72)【発明者】
【氏名】内薗 駿介
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 美紀
(72)【発明者】
【氏名】郷津 世奈
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321876(JP,A)
【文献】特開2013-224340(JP,A)
【文献】特開2018-109119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、無機酸化物コロイドと、ベタイン類と、水と、を含み、
インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度(mg/L)が、500ppm以下であり、
前記無機酸化物コロイドの含有量は、固形分として、インクの総量に対して、0.5~15質量%であり、
前記ベタイン類の含有量は、インクの総量に対して、1~30質量%であり、
前記水の含有量が、インクの総量に対して、50~80質量%である、
インクジェットインク。
【請求項2】
樹脂エマルションを含む、
請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記無機酸化物コロイドが、コロイダルシリカを含む、
請求項1又は2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記無機酸化物コロイドの含有量が、固形分として、インクの総量に対して、1.0~10質量%である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記ベタイン類が、トリメチルグリシンを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記ベタイン類の含有量が、前記無機酸化物コロイドの固形分含有量より、質量基準において多い、
請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットインクを記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える、
記録装置。
【請求項8】
前記インクジェットヘッドが、ラインヘッドである、
請求項7に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、画質等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1では、無機酸化物コロイドを用いた水性インクにより裏抜け防止効果、文字画質の向上、表面反射濃度の向上を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-321876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように無機酸化物コロイドを含むインクを用いた場合、一度ノズルのつまりが生じるとヘッドクリーニングをしても回復し難いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインクジェットインクは、顔料と、無機酸化物コロイドと、ベタイン類と、水と、を含み、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度(mg/L)が、500ppm以下である。
【0006】
上記インクジェットインクは、樹脂エマルションを含むことが好ましい。
【0007】
上記インクジェットインクは、無機酸化物コロイドが、コロイダルシリカを含むことが好ましい。
【0008】
上記インクジェットインクは、無機酸化物コロイドの含有量が、固形分として、インクの総量に対して、1.0~10質量%であることが好ましい。
【0009】
上記インクジェットインクは、ベタイン類が、トリメチルグリシンを含むことが好ましい。
【0010】
上記インクジェットインクは、ベタイン類の含有量が、無機酸化物コロイドの固形分含有量より、質量基準において多いことが好ましい。
【0011】
上記インクジェットインクは、水の含有量が、インクの総量に対して、50~80質量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の記録装置は、上記インクジェットインクを記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える。
【0013】
上記記録装置は、インクジェットヘッドが、ラインヘッドであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る記録装置を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
1.インクジェットインク
本実施形態のインクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう。)は、顔料と、無機酸化物コロイドと、ベタイン類と、水と、を含み、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度(mg/L)を、500ppm以下に調整したものである。
【0017】
無機酸化物コロイドを含むインクを用いた場合には、無機酸化物コロイドの目止め効果により顔料が記録媒体上に留まりやすくなり、得られる記録物の発色性がより向上するという利点がある。しかしながら、例えば長期間にわたり記録装置を使用しないと、ノズル近傍でインクが乾燥し、無機酸化物コロイドが凝集体として析出し、ノズル詰まりを生じさせる。このような目詰まりは、ノズルに凝集体が硬く固着するため、クリーニングによっても回復させることが困難で、永久的なノズル抜けとなるという問題がある。
【0018】
これに対して、本実施形態に記載のインクジェットインクにおいては、ベタイン類を用い、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度を調整することにより、無機酸化物コロイドを含むインクジェットインクの目詰まり回復性を向上することができる。なお、このような組成の溶剤を用いることにより目詰まり回復性が向上する理由は、特に制限されるものではないが、無機酸化物コロイドが乾燥によって凝集する際にベタイン類が保護コロイドとして作用することで硬い凝集体の形成を妨げることができ、また、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度を調整することにより、無機酸化物コロイドの分散安定性が向上するためと考えられる。
【0019】
以下、本実施形態に係るインクジェットインクにおいて、含まれ得る成分、物性及び製造方法について説明する。
【0020】
1.1.顔料
顔料としては、特に制限されないが、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料;カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等)、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等の無機顔料;炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料等を用いることができる。
【0021】
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加されることが好ましい。
【0022】
上記顔料分散液を構成する顔料及び分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
顔料の含有量は、インクの総量に対して、固形分として、好ましくは1.0~12質量%であり、より好ましくは2.0~10質量%であり、さらに好ましくは3.0~9.0質量%である。
【0024】
1.2.無機酸化物コロイド
無機酸化物コロイドは、SiO2、Al23等の微粒子が分散媒に分散した状態を言い、本実施形態においてインクが無機酸化物コロイドを含むとは、インクを構成する溶媒を分散媒として無機酸化物微粒子が分散した状態であることをいう。
【0025】
無機酸化物コロイドとしては、特に制限されないが、例えば、コロイダルシリカ、アルミナコロイドが挙げられる。このなかでも、コロイダルシリカが好ましい。このような無機酸化物コロイドを用いることにより、得られる記録物の発色性がより向上し、またカールやコックリングがより抑制され、それによって記録媒体の高速搬送が可能になる。またコロイダルシリカは、ヒュームドシリカ等の乾式シリカと比較して、沈降が抑制され分散安定性がより向上する傾向にあり、また含有させてもインクジェットインクの粘度が上がりにくいため、吐出安定性にも優れる傾向にある。これに加えて、このような無機酸化物コロイドを用い、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度を調整することによって目詰まり回復性がより向上する傾向にある。なお、無機酸化物コロイドは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
無機酸化物コロイドの粒子は、表面処理がされたものであってもよい。例えば、コロイダルシリカは、アルミナで表面処理されていてもよい。これにより、コロイドの安定分散が可能なpHの範囲が拡大し、分散安定性がより向上する傾向にある。
【0027】
上記のようなコロイダルシリカとしては、市販品を用いることもでき、例えば、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスC(以上、すべて「日産化学工業株式会社」製)が挙げられる。
【0028】
無機酸化物コロイドの平均粒径は、好ましくは5~150nmであり、より好ましくは5~100nmであり、さらに好ましくは10~70nmである。平均粒径が150nm以下であることにより、沈降が抑制され分散安定性がより向上する傾向にある。また、平均粒径が5nm以上であることにより、印字面の滑摩擦がより向上する傾向にある。
【0029】
コロイダルシリカの平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。このような粒度分布測定装置としては、例えば、周波数解析法としてホモダイン光学系を採用した大塚電子株式会社製の「ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ2000ZS」(商品名)が挙げられる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、個数基準の平均粒子径のことを指すものとする。
【0030】
無機酸化物コロイドの含有量は、固形分として、インクの総量に対して、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1.0~10質量%であり、さらに好ましくは3.0~10質量%であり、特に好ましくは5.0~8.0質量%である。無機酸化物コロイドの含有量が0.5質量%以上であることにより、得られる記録物の発色性がより向上し、またカールやコックリングがより抑制され、それによって記録媒体の搬送速度をより向上できる。また、無機酸化物コロイドの含有量が15質量%以下であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0031】
1.3.ベタイン類
本実施形態におけるベタイン類は、隣接しない正電荷と負電荷を同一分子内に持ち、分子全体としては電荷を持たない化合物をいう。正電荷部位は、第4級アンモニウムカチオンが好ましい。このようなベタイン類としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルグリシン、γ-ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリン、及びグルタミン酸ベタインなどが挙げられる。このなかでも、トリメチルグリシン、γ-ブチロベタイン、カルニチンが好ましく、トリメチルグリシンがより好ましい。このようなベタイン類を用いることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。なお、ベタイン類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ベタイン類を構成する炭素数は、好ましくは4~12であり、より好ましくは4~7であり、さらに好ましくは4~6である。ベタイン類の炭素数が上記範囲内であることにより、帯電性異物の混入などの外乱に対する安定性がより向上する傾向にある。
【0033】
ベタイン類の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは4~16質量%である。ベタイン類の含有量が上記範囲内であることにより、無機酸化物コロイドが乾燥によって凝集する際に硬い凝集体が形成されることが抑制され、また、無機酸化物コロイドの分散安定性が向上するため、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0034】
ベタイン類の含有量は、無機酸化物コロイドの固形分の含有量よりも質量基準において多いことが好ましい。具体的には、ベタイン類の含有量は、無機酸化物コロイドの固形分の含有量に対して、質量基準で、好ましくは1.1~10倍であり、より好ましくは1.1~8.0倍であり、さらに好ましくは1.1~5.0倍である。ベタイン類の含有量が上記範囲内であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0035】
1.4.水
水の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは40~80質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、さらに好ましくは55~75質量%であり、特に好ましくは55~70質量%である。水の含有量が40質量%以上であることにより、水の一部が蒸発した際でもインクの粘度上昇が抑制され、吐出安定性がより向上する傾向にある。また、水の含有量が80質量%以下であることにより、得られる記録物のカールやコックリングがより抑制される傾向にある。
【0036】
1.5.カリウムイオンとナトリウムイオン
本実施形態のインク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度(mg/L)は、500ppm以下であり、好ましくは400ppm以下であり、より好ましくは350ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下である。インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度(mg/L)の下限は、好ましくは50ppm以上であり、より好ましくは100ppm以上であり、さらに好ましくは150ppm以上である。インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度が500ppm以下であることにより、主に負電荷に帯電し静電反発力により分散している無機酸化物コロイドの静電反発力が維持され、分散安定性がより向上する。
【0037】
無機酸化物コロイドの分散安定性や凝集性には、カチオンが寄与するものと考えられるが、そのなかでも分散安定性や凝集性に対する影響は異なる。例えば、トリエタノールアミンなどの有機アルカリは金属イオンよりも分散安定性や凝集性に対する影響が小さく、また、金属イオンの中でもリチウムイオンは、カリウムイオンとナトリウムイオンと同様の一価の金属イオンではあるが、分散安定性や凝集性に対する影響が小さい。そのため、本実施形態においては、カリウムイオンとナトリウムイオンの合計濃度を規定する。
【0038】
なお、本実施形態のインクに含まれる二価の金属イオンの濃度は、少ないことが好ましい。より具体的には、二価の金属イオンの濃度(mg/L)は、好ましくは20ppm以下であり、より10ppm以下である。なお、二価の金属イオンは少ないほど好ましく、その下限は特に制限されないが、例えば、検出限界以下とすることができる。インク中の二価の金属イオンの濃度が20ppm以下であることにより、主に負電荷に帯電し静電反発力により分散している無機酸化物コロイドの静電反発力が維持され、分散安定性がより向上する傾向にある。ここで、二価の金属イオンとしては、特に制限されないが、例えば、カルシウムイオンが挙げられる。
【0039】
カリウムイオンとナトリウムイオンは、下記pH調整剤などとして任意にインク中に添加するほか、顔料や無機酸化物コロイドとともにインク中に混入され得る。インク中に混入されるカリウムイオンとナトリウムイオンは、顔料や無機酸化物コロイドの種類や、添加量によって異なる。そのため、最終的にインク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度が500ppm以下となるように、pH調整剤や透析膜によるイオンの除去で、調整することができる。
【0040】
1.6.樹脂エマルション
本実施形態のインクジェットインクは、樹脂エマルションをさらに含んでもよい。樹脂エマルションとしては、特に制限されないが、例えば、ウレタン樹脂エマルション、(メタ)アクリル樹脂エマルションが挙げられる。このような樹脂エマルションを用いることにより、得られる画像のにじみがより抑制され、耐擦性もより向上する傾向にある。樹脂エマルションは一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0041】
ウレタン樹脂エマルションとしては、分子中にウレタン結合を有する樹脂エマルションであれば特に限定されず、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。このなかでも、アニオン性のウレタン樹脂微粒子が好ましい。
【0042】
アクリル樹脂エマルションとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体を重合させたものや、スチレンアクリル樹脂など、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させたものが挙げられる。このなかでも、アニオン性のアクリル樹脂微粒子が好ましい。
【0043】
樹脂エマルションのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは25℃以下であり、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは-5℃以下である。樹脂エマルションのガラス転移温度の下限は、好ましくは-40℃以上であり、より好ましくは-30℃以上であり、さらに好ましくは-20℃以上である。樹脂エマルションのガラス転移温度が25℃以下であることにより、より低温で膜形成をすることが可能となり、得られる記録物の定着性が向上する傾向にある。また、樹脂エマルションのガラス転移温度が-40℃以上であることにより、得られる記録物の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0044】
樹脂エマルションの含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.1~7.5質量%であり、より好ましくは0.3~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.5~3.0質量%である。樹脂エマルションの含有量が0.1質量%以上であることにより、得られる画像のにじみが抑制され、耐擦性もより向上する傾向にある。また、樹脂エマルションの含有量が7.5質量%以下であることにより、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0045】
1.7.水溶性有機溶剤
本実施形態のインクジェットインクは、上記以外の成分として、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン;2-ピロリドン、N-メチルピロリドンなどの含窒素溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコールのグリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテルなどが挙げられる。このなかでも、保湿効果という点からグリセリンが好ましい。
【0046】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは0.5~25質量%であり、より好ましくは3.0~20質量%であり、さらに好ましくは5.0~15質量%である。
【0047】
1.8.界面活性剤
本実施形態のインクジェットインクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。このなかでも、目詰まり回復性の観点からアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0048】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアープロダクツ社製商品名)、サーフィノール61、104、465(日信化学工業社製商品名)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)などが挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
界面活性剤の含有量は、インクの総質量に対し、好ましくは0.1~5.0質量%であり、より好ましくは0.1~3.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0052】
1.9.pH調整剤
本実施形態のインクジェットインクは、上記以外の成分として、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸等)、無機塩基(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン)、有機酸(例えば、アジピン酸、クエン酸、コハク酸等)等が挙げられる。このなかでも、有機塩基が好ましい。pH調整剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0053】
本実施形態のインクのpHは、好ましくは6~10である。pHが上記範囲内であることにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。pH調整剤の含有量はpHを目的とする範囲に調整可能な量であれば特に制限されないが、一例として、インクの総質量に対し、好ましくは0.1~5.0質量%であり、より好ましくは0.1~3.0質量%である。
【0054】
1.10.インクジェットインクの製造方法
本実施形態のインクジェットインクの製造方法は、特に制限されず、顔料と、無機酸化物コロイドと、ベタイン類と、水と、必要に応じてその他の成分とを、混合する方法が挙げられる。なお、無機酸化物コロイドは、コロイド溶液の状態で混合してもよいし、顔料を用いる場合には、顔料分散液の状態で混合してもよい。
【0055】
また、本実施形態のインクジェットインクの製造方法では、混合中または混合後において、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度が500ppm以下となるように、透析等によって調整する工程を有してもよい。
【0056】
2.インクジェット方法
本実施形態に係るインクジェット方法は、所定のインクジェットヘッドを用いて、上記インクジェットインクを、吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体を搬送する搬送する搬送工程とを有する。なお、吐出工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0057】
2.1.吐出工程
吐出工程では、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0058】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0059】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0060】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0061】
2.2.搬送工程
搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインクが記録媒体に付着し、記録物が形成される。搬送は、連続的に行ってもよいし断続的に行ってもよい。
【0062】
2.3.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に制限されないが、例えば、吸収性又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。このなかでも、吸収性記録媒体はカールなどの問題が生じやすいため、無機酸化物コロイドを用いつつも目詰まり回復性に優れる本発明が有効である。
【0063】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0064】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0065】
3.記録装置
本実施形態の記録装置は、インクジェットインクを記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える。インクジェットヘッドは、インクが供給される圧力室と、インクを吐出するノズルと、を備える。また、搬送手段は、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトから構成される。
【0066】
以下、本実施形態に係る記録装置について、図1を参照して説明する。なお、図1において示すX-Y-Z座標系はX方向が記録媒体の長さ方向、Y方向が記録装置内の搬送経路における記録媒体の幅方向、Z方向が装置高さ方向を示している。
【0067】
記録装置10は一例として、高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェットプリンターである。記録装置10は、用紙等の記録媒体Pを収納する給送部12と、搬送部14と、ベルト搬送部16と、記録部18と、「排出部」としてのFd(フェイスダウン)排出部20と、「載置部」としてのFd(フェイスダウン)載置部22と、「反転搬送機構」としての反転経路部24と、Fu(フェイスアップ)排出部26と、Fu(フェイスアップ)載置部28とを備えている。
【0068】
給送部12は、記録装置10において装置下部に配置されている。給送部12は、記録媒体Pを収納する給送トレイ30と、該給送トレイ30に収納された記録媒体Pを搬送経路11に送り出す給送ローラー32とを備えている。
【0069】
給送トレイ30に収納された記録媒体Pは、給送ローラー32により搬送経路11に沿って搬送部14に給送される。搬送部14は、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36とを備えている。搬送駆動ローラー34は、図示しない駆動源により回転駆動される。搬送部14において、記録媒体Pは、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36との間に狭持(ニップ)されて搬送経路11の下流側に位置するベルト搬送部16へと搬送される。
【0070】
ベルト搬送部16は、搬送経路11において上流側に位置する第1ローラー38と、下流側に位置する第2ローラー40と、第1ローラー38及び第2ローラー40に回転移動可能に取り付けられた無端ベルト42と、第1ローラー38と第2ローラー40との間において無端ベルト42の上側区間42aを支持する支持体44とを備える。
【0071】
無端ベルト42は、図示しない駆動源により駆動された第1ローラー38または第2ローラー40により上側区間42aにおいて+X方向から-X方向に移動するように駆動される。このため、搬送部14から搬送された記録媒体Pは、ベルト搬送部16においてさらに搬送経路11の下流側に搬送される。
【0072】
記録部18は、ライン型のインクジェットヘッド48と、該インクジェットヘッド48を保持するヘッドホルダー46とを備えている。尚、該記録部18は、Y軸方向に往復移動するキャリッジにインクジェットヘッドが設けられたシリアル型のものであってもよい。インクジェットヘッド48は、支持体44に支持された無端ベルト42の上側区間42aと対向するように配置されている。インクジェットヘッド48は、無端ベルト42の上側区間42aにおいて記録媒体Pが搬送される際、記録媒体Pに向けてインクを吐出し、記録を実行する。記録媒体Pは、記録が行われつつベルト搬送部16により搬送経路11の下流側に搬送される。
【0073】
なお、「ライン型のインクジェットヘッド」とは、記録媒体Pの搬送方向と交差する方向に形成されたノズルの領域が、記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能なように設けられ、ヘッド又は記録媒体Pの一方を固定し他方を移動させて画像を形成する記録装置に用いられるヘッドである。なお、ラインヘッドの交差する方向のノズルの領域は、記録装置が対応している全ての記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能でなくてもよい。
【0074】
また、ベルト搬送部16の搬送経路11の下流側には、第1分岐部50が設けられている。第1分岐部50は、記録媒体PをFd排出部20またはFu排出部26へ搬送する搬送経路11と、記録媒体Pの記録面を反転させて再度記録媒体Pを記録部18に搬送する反転経路部24の反転経路52とに切り替え可能に構成されている。尚、第1分岐部50により反転経路52に切り替えられて搬送される記録媒体Pは、反転経路52における搬送過程において記録面が反転され、最初の記録面と反対側の面がインクジェットヘッド48と対向するように記録部18に再度搬送される。
【0075】
搬送経路11に沿って第1分岐部50の下流側には、さらに第2分岐部54が設けられている。第2分岐部54は、記録媒体PをFd排出部20へ向けて搬送し、または記録媒体PをFu排出部26へ向けて搬送するように記録媒体Pの搬送方向を切り替え可能に構成されている。
【0076】
第2分岐部54においてFd排出部20へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fd排出部20から排出され、Fd載置部22に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fd載置部22に対向するように載置される。また、第2分岐部54においてFu排出部26へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fu排出部26から排出され、Fu載置部28に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fu載置部28と反対側に向くように載置される。
【0077】
インクジェット法を用いる記録装置では、液体であるインクを記録媒体に付着させることから、記録媒体、特に普通紙、インクジェット用紙等の吸収性の記録媒体においてはカールなどの問題が生じたり、インク乾燥前に記録物が排出され重なるため記録物を正確にスタックできないという問題が生じたりする。特に記録媒体を0.5m/s以上で高速搬送すると、この課題が顕著になる傾向にある。また、インクジェット印字面のぬれ摩擦抵抗が大きいベタ画像になると、記録物が滑らずにつっかえてしまったり、ほぼ記録物が揃っても、きれいに揃えることが困難になり、ステープラー(ホッチキス止め)がずれてしまうといった課題が発生する。また、印字面が下を向いて排紙されるフェイスダウン排紙においては、インクの乾燥がし難いため、よりスタック性が困難になるといった課題が発生する。その上、吸収性の記録媒体においては、印字すると、印字面が膨張するため、印字直後に印字面が凸となる排紙カール(一次カール)が発生するという課題もある。さらに、乾燥が進行すると、印字面が収縮するため、十数秒から数分で印字面が凹となる永久カール(二次カール)が発生するという課題がある。
【0078】
これに対して、本実施形態では、無機酸化物コロイドを含む上記インクジェットインクを用いることにより、印字面のぬれ摩擦抵抗を下げつつ、カールを抑制できることから、スタック性を向上させることができる。特に、0.5m/s以上の高速で記録媒体Pを搬送させつつ、インクジェット記録を行う場合に、スタック性の向上効果が顕著となる。
【0079】
なお、上記では、ライン型のインクジェットヘッドを用いる場合の例について説明したが、本実施形態に係る記録装置は、シリアル型のインクジェットヘッドを用いるプリンタ(シリアルプリンタ)であってもよい。シリアルプリンタでは、記録媒体を搬送方向に搬送させつつ、インクジェットヘッドを当該搬送方向と交差する方向に移動させることにより、印刷が行われる。シリアルプリンタであっても、印刷中におけるヘッドと記録媒体の相対速度が0.5m/s以上と高速であれば、スタック性の課題が生じ得るため、上述したインクを用いることによりスタック性の向上効果が得られる。
【実施例
【0080】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
1.インクの調製
表1に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例のインクジェットインクを得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、無機酸化物コロイド及び顔料分散液の数値は、固形分の質量%を表す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1中で使用した略号や製品成分は以下のとおりである。
【0084】
〔顔料分散液〕
ブラック顔料(CAB-O-JET300(キャボット社製)、固形分15%)
シアン顔料(CAB-O-JET250C(キャボット社製)、固形分10%)
マゼンタ顔料(CAB-O-JET260M(キャボット社製)、固形分10%)
イエロー顔料(CAB-O-JET470Y(キャボット社製)、固形分15%)
〔無機酸化物コロイド〕
コロイダルシリカ(日産化学工業製、ST-CM、粒子径20nm、固形分30%)
コロイダルシリカ(日産化学工業製、ST-30L、粒子径45nm、固形分30%)
〔樹脂エマルション〕
ウレタン系樹脂エマルション(第一工業製薬製、スーパーフレックス420、Tg:-10℃)
スチレンアクリル系樹脂エマルション(星光PMC社製、X-436、Tg:33℃、酸価33mgKOH/g)
〔ベタイン類〕
トリメチルグリシン(無水ベタイン、東京化成工業社製)
〔水溶性有機溶剤〕
2-ピロリドン
グリセリン
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)
〔界面活性剤〕
オルフィンE1010(エアープロダクツ社製商品名、アセチレングリコール系界面活性剤)
サーフィノール104(日信化学工業社製商品名、アセチレングリコール系界面活性剤)
〔pH調整剤〕
トリイソプロパノールアミン(東京化成工業社製)
水酸化カリウム
【0085】
1.1.イオン濃度
表1中、ナトリウムイオンの濃度は、コンパクトカリウムイオンメータLAQUAtwin<K-11>(HORIBA社製)により測定し、カリウムイオンの濃度は、コンパクトカリウムイオンメータLAQUAtwin<Na-11>(HORIBA社製)により測定した。なお、測定の温度は25℃とした。得られた合計濃度(mg/L)をppmで表1に示す。
【0086】
また、インク中のカルシウムイオンの濃度を、コンパクトカルシウムイオンメータ LAQUAtwin(HORIBA社製)により測定したところ、実施例のインクはいずれも20ppm以下であった。
【0087】
2.評価方法
2.1.発色性
EPSON製PX-S840(シリアルインクジェットプリンタ)のインクカートリッジにインクを充填した。そして、Xerox P紙(富士ゼロックス社製A4コピー用紙、坪量64g/m2、紙厚88μm)に温度25度、湿度50%の環境下において、印刷Duty:100%でベタパターンを印刷した。なお、インク付着量は4.5mg/inch2とした。その後、測色機(Xrite社製、Xrite i1)を用いてOD値を測定し、下記評価基準により発色性を評価した。その結果を、表1に示す。
〔評価基準〕
A:OD値1.3以上
B:OD値1.3未満1.2以上
C:OD値1.2未満1.1以上
D:OD値1.1未満
【0088】
2.2.目詰まり回復性の評価
EPSON製PX-S840(シリアルインクジェットプリンタ)のインクカートリッジにインクを充填し、全ノズルよりインクが吐出できることを確認した。その後、インクジェットヘッドがプリンタに備えられたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態で、40℃ 湿度20%の環境下で7日間放置した。
【0089】
放置後、インクジェットヘッドのクリーニングとして、ノズル内のインクの吸引動作を1回行うごとに、インクが吐出できないノズルの本数をカウントし、すべてのノズルが回復するまでクリーニング動作を繰り返した。そして、すべてのノズルが回復した時のクリーニング回数に基づいて、下記評価基準により目詰まり回復性を評価した。その結果を、表1に示す。
〔評価基準〕
A:クリーニング回数3未満
B:クリーニング回数3以上6回未満
C:クリーニング回数6以上9回未満
D:クリーニング回数9以上
【0090】
3.評価結果
表1に、各例で用いたインクの組成、並びに評価結果を示した。表1から、ベタイン類を含み、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度が500ppm以下であるインクを用いた場合には、無機酸化物コロイドを含むインクであっても目詰まり回復性に優れることが分かった。
【0091】
詳しくは各実施例と比較例1とを比較すると、インク中のカリウムイオンとナトリウムイオンの合計の濃度が500ppmよりも少ないことにより目詰まり回復性に優れることが分かる。さらに、各実施例と比較例2とを比較すると、無機酸化物コロイドを含むことにより発色が向上することが分かる。また、各実施例と比較例3とを比較すると、ベタイン類を含むことにより発色が向上することが分かる。
【0092】
また、EPSON製LX-10000F (ラインインクジェットプリンタ)のインクカートリッジに各実施例のインクを充填し、記録媒体(A4サイズのXerox P紙、富士ゼロックス社製コピー用紙、坪量64g/m2、紙厚88μm)に対して、温度25℃、湿度50%の環境下において、印刷Duty:100%でベタパターンを20枚連続印刷し、フェイスダウンで排紙したところ、用紙が良好にスタックできた。
【符号の説明】
【0093】
10記録装置、11搬送経路、12給送部、14搬送部、16ベルト搬送部、18記録部、20Fd排出部、22Fd載置部、24反転経路部、26Fu排出部、28Fu載置部、30給送トレイ、32給送ローラー、34搬送駆動ローラー、36搬送従動ローラー、38第1ローラー、40第2ローラー、42無端ベルト、42a無端ベルトの上側区間、44支持体、46ヘッドホルダー、48インクジェットヘッド、50第1分岐部、52反転経路、54第2分岐部、56排出ローラー対、64排出駆動ローラー、68駆動軸、76載置面、78凸状部、80第1付勢部材、82第2付勢部材、84、86支持軸、P記録媒体
図1