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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】血液測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20231204BHJP
【FI】
A61B5/1455
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019121746
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021007486
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】513139873
【氏名又は名称】LOOK TEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】小倉 仁
(72)【発明者】
【氏名】竹沢 幸一
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 高行
(72)【発明者】
【氏名】林 史夫
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181602(JP,A)
【文献】特開2005-087740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0119287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長の第1光線を照射する第1発光部と、第2波長の第2光線を照射する第2発光部と、を有する発光部と、
被測定部位を通過した前記第1光線および前記第2光線を受光する受光部と、
前記第1光線および前記第2光線の受光強度に基づいて血液中含有成分量を推定する演算制御部と、
前記発光部が収納される発光部収納部と、
前記受光部が収納される受光部収納部と、
前記発光部収納部および前記受光部収納部の近傍に形成された傾斜面と、
一方側の側面を構成する第1当接部と、
他方側の側面を構成する第2当接部と、
前記傾斜面よりも外側に向かって突出する押圧部と、を具備し、
前記第1当接部は、指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面であり、
前記第2当接部は、指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面であり、
前記被測定部位の前記血液中含有成分量を測定する際に、
前記第1当接部は、ユーザの指に当接し、
前記第2当接部は、前記ユーザの他の指に当接し、
前記押圧部は、前記ユーザの母指球またはその近傍に当接し、
前記第1当接部は、前記ユーザの親指に当接し、
前記第2当接部は、前記ユーザの人差指に当接することを特徴とする血液測定装置。
【請求項2】
前記第1当接部は、湾曲面であり、
前記第2当接部は、湾曲面であることを特徴とする請求項1に記載の血液測定装置。
【請求項3】
前記押圧部が、前記ユーザの前記母指球またはその近傍に当接することにより、
前記発光部および前記受光部と、前記被測定部位とを、所定の位置関係にすることを特徴とする請求項1に記載の血液測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体等の被測定部位の内部に於ける血液中含有成分量を光学的に計測する血液測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定部位の内部における糖分を検出する方法として、侵襲法と非侵襲法がある。侵襲法とは、例えば人体の指先等より採血を行い、その血液を用いてグルコース量を測定する方法である。非侵襲法とは、人体から血液を採取すること無く、人体の外部に配置されたセンサでグルコース量を測定する方法である。正確なグルコース量算出のためには侵襲法が一般的であるが、使用者の苦痛軽減や利便性向上のために非侵襲法による算出装置が望まれている。
【0003】
非侵襲法でグルコース量を測定する装置の一例として、近赤外光等を人体に照射することで光学的に測定するものが知られている。
【0004】
また、グルコース量の光学的測定装置として、近赤外光のグルコースによる吸収量の差異を検出するものがある。具体的には、この装置では、近赤外光をある部位において透過させ、その透過光量からグルコース量を測定する(例えば特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3093871号公報
【文献】特許第3692751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した各特許文献に記載された非侵襲法によるグルコース量の測定装置では、グルコース量を必ずしも正確に測定できるとは言えない課題があった。
【0007】
具体的には、特許文献1に記載された測定技術では、グルコース酸化酵素法によりグルコース量を算出しているため、グルコース量の算出が煩雑である課題があった。また、特許文献2に記載された測定技術では、光学的手法によりグルコース量を計測しているものの、糖尿病の可能性を判定できる程度であり、グルコース量を定量的に測定できるには至っていない。
【0008】
本発明はこの様な問題点を鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、血液中含有成分量を算出するための各光線を、同一の光軸に沿って通過させることで、正確に血液中含有成分量を推定することができる血液測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の血液測定装置は、第1波長の第1光線を照射する第1発光部と、第2波長の第2光線を照射する第2発光部と、を有する発光部と、被測定部位を通過した前記第1光線および前記第2光線を受光する受光部と、前記第1光線および前記第2光線の受光強度に基づいて血液中含有成分量を推定する演算制御部と、前記発光部が収納される発光部収納部と、前記受光部が収納される受光部収納部と、前記発光部収納部および前記受光部収納部の近傍に形成された傾斜面と、一方側の側面を構成する第1当接部と、他方側の側面を構成する第2当接部と、前記傾斜面よりも外側に向かって突出する押圧部と、を具備し、前記第1当接部は、指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面であり、前記第2当接部は、指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面であり、前記被測定部位の前記血液中含有成分量を測定する際に、前記第1当接部は、ユーザの指に当接し、前記第2当接部は、前記ユーザの他の指に当接し、前記押圧部は、前記ユーザの母指球またはその近傍に当接し、前記第1当接部は、前記ユーザの親指に当接し、前記第2当接部は、前記ユーザの人差指に当接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血液測定装置によれば、正確に血液中含有成分量を推定することができる血液測定装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る血液測定装置を示す図であり、(A)および(B)は血液測定装置を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る血液測定装置の接続構成を示す概念図である。
図3】本発明の実施形態に係る血液測定装置のアクチュエータを示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る血液測定装置のアクチュエータを示す分解斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る血液測定装置を用いてグルコース量を測定する方法を示し、(A)および(B)はフィンガーウェブに血液測定装置を適用する方法を逐次的に示す上面図である。
図6】本発明の実施形態に係る血液測定装置を用いてグルコース量を検出する方法を示し、フィンガーウェブに血液測定装置を適用する状況を示す断面図である。
図7】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示す図であり、(A)、(B)、(C)および(D)は、発光点を移動させながら、且つ、発光部と受光部とを接近させながら測定する状況を示す側面図である。
図8】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示す図であり、(A)はフィンガーウェブを示す模式図であり、(B)は指先でグルコース量を測定した結果を示すグラフであり、(C)はフィンガーウェブでグルコース量を測定した結果を示すグラフである。
図9】本発明の他の形態に係る血液測定装置を用いてグルコース量を検出する方法を示し、フィンガーウェブに血液測定装置を適用する状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る血液測定装置10を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明では、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。本実施形態では、血液測定装置10が計測する血液中含有成分量の一例として、グルコース量を採用している。
【0027】
図1を参照して、本形態の血液測定装置10の外観等を説明する。図1(A)は血液測定装置10を上側前方から見た斜視図であり、図1(B)は血液測定装置10を下側前方から見た斜視図である。
【0028】
図1(A)および図1(B)を参照して、血液測定装置10の意匠部分は合成樹脂等から形成されている。また、血液測定装置10は、全体として、前後方向に沿う長手方向を有する略直方体形状を呈している。血液測定装置10を上方から見た場合、前端中央部は前方に向かって突起している。また、血液測定装置10の大きさおよび重量は、血液測定装置10でグルコース量を測定する使用者が、片手で掴むことができる程度とされている。ここで、グルコース量とは、血中あるいは間質のグルコース量である。また、グルコース量は、血糖値等と称されることもある。
【0029】
血液測定装置10の下部には、アクチュエータ収納部30が形成されている。アクチュエータ収納部30には、後述する発光部11を変位させるための機構が収納され、その構成は後述する。アクチュエータ収納部30の前面中央部近傍を、前方に向かって突出させることで、第2押圧部27が形成されている。第2押圧部27は、血液測定装置10を用いてグルコース量を計測する際に、人体の特定の部位を押圧し、その詳細は図6を参照して後述する。
【0030】
血液測定装置10の上端部には、上側板部20が形成されている。上側板部20の前面中央部近傍を、前方に向かって突出させることで、第1押圧部25が形成されている。第1押圧部25は、血液測定装置10を用いてグルコース量を計測する際に、人体の特定の部位を押圧し、その詳細は図6を参照して後述する。
【0031】
図1(A)を参照して、血液測定装置10の右側面上部には、当接部28が形成されている。当接部28は、平坦面でも良いし、使用者の指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面でも良い。当接部28は、血液測定装置10を用いてグルコース量を算出する際に、例えば、使用者の親指が当接する部位である。
【0032】
当接部28の前端部を部分的に切欠くことで、挟持部232が形成されている。挟持部232の上下方向の幅は、後述するフィンガーウェブが挿入できる程度である。また、挟持部232の後端は、測定のための光線が通過する開口部41よりも後方に配置されている。従って、被測定部位であるフィンガーウェブの周縁部を、挟持部232の後端に当接させることで、フィンガーウェブを開口部41に確実に配置し、開口部41を通過する光線をフィンガーウェブに確実に透過させることができる。
【0033】
図1(B)を参照して、血液測定装置10の左側面上部には、当接部29が形成されている。当接部29は、平坦面でも良いし、使用者の指が填まりやすいように内側に向かって窪む湾曲面でも良い。当接部29は、血液測定装置10を用いてグルコース量を算出する際に、例えば、使用者の人差指が当接する部位である。
【0034】
当接部29の前端部を部分的に切欠くことで、挟持部231が形成されている。挟持部231の具体的形状は、上記した挟持部232と同様である。
【0035】
図1(A)を参照して、アクチュエータ収納部30の上面前端近傍に、発光部収納部31が形成されている。また、発光部収納部31は、左右方向に於いて、挟持部231と挟持部232との間に配設されている。発光部収納部31は、後述する発光部11が配置される部位である。また、発光部収納部31の前方部分には、前方に向かって下方に傾斜する傾斜面33が形成されている。傾斜面33を形成することで、グルコース量を測定する際に、フィンガーウェブを傾斜面33に沿って挟持部231および挟持部232に案内することができる。また、発光部収納部31の上面を開口することで、開口部41が形成されている。
【0036】
図1(B)を参照して、上側板部20の下面前方から下方に向かって突出する受光部収納部32が形成されている。受光部収納部32には、後述する受光部19が収納される部位である。また、受光部収納部32の下面には、グルコース量の測定に用いられる光線が通過するための開口部42が形成されている。
【0037】
図2は、血液測定装置10の基本構成を示す概念図である。図2を参照して、血液測定装置10は、測定に用いられる光線を射出する発光部11と、発光部11から射出される光線を被測定部位18に導く光学素子であるレンズ14と、被測定部位18を透過した光線を受光する受光部19と、受光部19の出力に基づいてグルコース量を算出する演算制御部17と、記憶部13と、表示部15と、操作入力部12と、温度計測部21と、を具備している。ここで、レンズ14に替えて、ピンホールを用いて光線を絞ることもできる。
【0038】
血液測定装置10の機能は、光線を被測定部位である人体に透過させることで、非侵襲法により人体のグルコース量を計測することにある。
【0039】
発光部11は、グルコース量を計測するために所定の波長の光線を射出する。発光部11は、波長が異なる光線を射出する第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113を有している。第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113は、夫々、発光ダイオードから成る。例えば、第1発光部111から射出される第1光線の波長は1310nmであり、第2発光部112から射出される第2光線の波長は1450nmであり、第3発光部113から射出される第3光線の波長は1550nmである。
【0040】
第1光線は生体中の成分に吸収されない光線であり、第2光線および第3光線は生体中のグルコース、タンパク質および水に吸収される光線である。第1光線で、光軸22の光路長を測定することで、光路長が各光線の吸収率に与える影響を測定し、光路長の影響を排除することができ、グルコース量を正確に算出することができる。
【0041】
アクチュエータ16は、発光部11を左右方向に移動する。発光部11を移動させることで、第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113の何れかの発光点を、同一の光軸22の軸上に配置できる。ここでは、第2発光部112の発光点を光軸22の軸上に配置した場合を示している。
【0042】
また、アクチュエータ16は、発光部11および受光部19の何れか一方または両方を上下方向に移動させる。例えば、アクチュエータ16は、血液測定装置10がグルコース量を計測していない被測定時には、受光部19を発光部11から離間させる。一方、アクチュエータ16は、血液測定装置10がグルコース量を計測する測定時には、受光部19と発光部11とを接近させる。アクチュエータ16の具体的な構成の一例は、図3および図4を参照して後述する。
【0043】
本実施形態では、第1光線、第2光線および第3光線は、同一の光軸22に沿って、発光部11から受光部19まで照射される。すなわち、第1光線、第2光線および第3光線の、被測定部位18の内部における伝搬径路および伝搬長が同じである。
【0044】
上記のように各光線で光軸22を共有することで、グルコース量を正確に計測することができる。具体的には、Lambert-Beerの法則により、グルコース量は以下の式1で算出される。
式1:C=-log10(I/I)/(0.434×μ×r)
上記した式1に於いて、Cはグルコース量であり、Iは出射光パワーであり、I0は入射光パワーであり、μは皮膚の吸光係数であり、rは光路長である。
【0045】
本実施形態では、第1光線、第2光線および第3光線で、光軸22を共有することにより、光路長rを同一にすることで、算出するべき未知数を減少させ、正確且つ簡易にグルコース量Cを求めることができる。
【0046】
レンズ14は、上記した第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から射出された第1光線、第2光線および第3光線を、その屈折作用や回折作用により、被測定部位18に導く。
【0047】
被測定部位18は、本形態の血液測定装置10でグルコース量が計測される部位である。具体的には、被測定部位18としては、指先、耳たぶ、フィンガーウェブ等を採用できる。後述するように、被測定部位18としては、含有される脂肪分が少なく、厚みの個人差が小さく、且つ、太い血管が形成されていないフィンガーウェブが好適である。
【0048】
受光部19は、例えばフォトダイオードから成る半導体素子であり、被測定部位18を透過した第1光線、第2光線および第3光線を受光し、その強度を検出する受光部位か形成されている。受光部19は、第1光線、第2光線および第3光線の受光強度に応じた信号を演算制御部17に伝送する。
【0049】
記憶部13は、RAMやROMから成る半導体記憶装置等であり、受光部19の出力値からグルコース量を算出するための計算式、パラメータ、推定結果、グルコース量算出方法を実行するためのプログラム等を記憶している。
【0050】
操作入力部12は、使用者が演算制御部17に対して指示を与える部位であり、スイッチ、タッチパネル等から構成される。
【0051】
温度計測部21は、使用者の体に接触することで、使用者の体温を計測する部位である。
【0052】
演算制御部17は、CPUから構成され、各種演算を行うと共に血液測定装置10を構成する各部位の動作を制御している。詳しくは、演算制御部17は、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、第1光線、第2光線および第3光線を照射する。また、演算制御部17は、受光部19および温度計測部21等から入力される電気信号に基づいて、換算式を用いて、グルコース量を推定する。また、演算制御部17は、算出したグルコース量を表示部15に表示するようにしても良い。例えば液晶モニタである表示部15にグルコース量を表示することで、血液測定装置10を使用する使用者は、自身のグルコース量の変化をリアルタイムに知ることができる。更に、計測の際に、各発光部の発光点を光軸22の軸状に配置するために、演算制御部17は、アクチュエータ16を操作し、発光部11および受光部19を移動させる。
【0053】
図3および図4を参照して、アクチュエータ16を詳述する。図3はアクチュエータ16を示す斜視図であり、図4はアクチュエータ16を上下方向に分解して示す分解斜視図である。
【0054】
図3を参照して、アクチュエータ16は、筐体34、蓋部35、ホルダ36、モータ37、回転軸38および螺合部39を主要に有している。アクチュエータ16は、上記した演算制御部17の指示に基づいて、発光部11を左右方向に移動させることで、第1発光部111、第2発光部112または第3発光部113の各発光点を、光軸22の軸上に配置している。尚、受光部19の受光点も、光軸22の軸上に配置されている。
【0055】
具体的なアクチュエータ16の動作は、上記した演算制御部17の指示に基づいて、モータ37が回転軸38を回転させ、回転軸38と螺合または係合している螺合部39が左右方向に移動する。螺合部39が左右方向に移動すると、上部に発光部11が載置されているホルダ36も共に左右方向に移動する。これにより、第1発光部111、第2発光部112または第3発光部113の発光点を、光軸22の軸状に配置できる。
【0056】
図4を参照して、アクチュエータ16を構成している各部位を説明する。筐体34は、上部が開口する略箱状の部位である。筐体34に、モータ37、回転軸38、螺合部39が内蔵される。
【0057】
筐体34の内部に於いて、モータ37から導出する回転軸38の一部は、螺合部39に配置されている。回転軸38の側面にはネジ溝が形成されている。螺合部39は、回転軸38のネジ溝に螺合または係合することで、回転軸38の回転に伴い、左右方向に移動する。螺合部39の上面には孔部44が形成されている。孔部44は、後述する開口部40の下方に配置されている。
【0058】
蓋部35は、筐体34の上面開口を塞ぐ板状の部材である。蓋部35には、左右方向に沿って細長い開口部40が形成されている。
【0059】
ホルダ36は、略直方体形状を呈し、その上面に発光部11が配設されている。また、ホルダ36には、下方に突出する略棒状の突出部43が形成されている。突出部43は、開口部40を通過して、孔部44に挿入されている。
【0060】
アクチュエータ16が上記のように構成されることで、演算制御部17の指示に基づいて、モータ37が一方向に回転軸38を回転させると、当該回転により螺合部39が右方向に向かって移動し、これに伴い、ホルダ36および発光部11は右方向に向かってに移動する。逆に、演算制御部17の指示に基づいて、モータ37が逆方向に回転軸38を回転させると、当該回転により螺合部39が左方向に向かって移動し、これに伴い、ホルダ36および発光部11は左方向に向かってに移動する。このようにすることで、第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113の何れかの発光点を、同一の光軸22の軸状に配置できる。一方、前後左右方向に於いて受光部19の位置は、前後左右方向に於いて常に固定されており、光軸22の軸状に配置されている。
【0061】
次に、図5から図7に基づいて、上記した図1ないし図4も参照しつつ、上記した構成の血液測定装置10を用いて、利用者のグルコース量を測定する具体的方法を説明する。
【0062】
図5を参照して、先ず、血液測定装置10を利用者の被測定部位にセットする。図5(A)および図5(B)は、被測定部位であるフィンガーウェブに血液測定装置10をセットする状況を逐次的に示す図である。ここでは、グルコース量を測定するための部位として、左手の親指と人差指との間に形成されるフィンガーウェブを採用している。よって、利用者は、自身の右手で血液測定装置10を簡易に操作する。
【0063】
図5(A)を参照して、フィンガーウェブの人差指側部分から血液測定装置10を嵌め込む。具体的には、血液測定装置10の挟持部232および挟持部231を、フィンガーウェブの人差指側部分からスライドさせる。この時、使用者は、親指と人差指とを広げることで、フィンガーウェブを伸ばしている。
【0064】
図5(B)を参照して、次に、フィンガーウェブが挟持部231および挟持部232に挟み込まれた状態のまま、血液測定装置10を左方に押しつつ親指側に向かって移動させる。ここでは、血液測定装置10の先端部が、親指の付け根またはその近傍に至るまで、血液測定装置10をスライドさせている。
【0065】
ここで、フィンガーウェブの端部は、挟持部231および挟持部232の後端に当接している。このようにすることで、発光部11および受光部19を、フィンガーウェブと重畳する部分に配置することができる。この状態であると、発光部11から発光された各光線は、フィンガーウェブを透過して受光部19に到達する。
【0066】
ここで、血液測定装置10の当接部28に、親指の付け根またはその近傍を当接させてもよい。また、血液測定装置10の当接部29に人差指の付け根またはその近傍を当接させても良い。これにより、親指と人差指とが開く角度を一定以上にし、フィンガーウェブの撓みを防止できる。更には、グルコース量を測定する際において、親指と人差指とが開く角度を均一にし、フィンガーウェブの厚みを一定にすることができる。
【0067】
図6は、図5(B)の切断面線A-Aにおける断面図である。この図を参照して、血液測定装置10の第1押圧部25は、手の母指内転筋24またはその近傍を、前方に向かって押圧している。また、血液測定装置10の第2押圧部27は、母子球26またはその近傍を、前方に向かって押圧している。このようにすることで、発光部11および受光部19とフィンガーウェブとの相対位置を、所定の位置関係にすることができ、フィンガーウェブを透過する光線を用いてグルコース量をより正確に算出することができる。
【0068】
図7を参照して、発光部11を変位させながら各光線を照射する事項を説明する。図7(A)は、光線を照射する前の発光部11を示し、図7(B)は第2発光部112から第2光線を照射する状況を示し、図7(C)では第1発光部111から第1光線を照射する状況を示し、図7(D)は第3発光部113から第3光線を照射する状況を示している。ここでは、第2発光部112、第1発光部111および第3発光部113の順番で、光軸22に沿って光線を照射するが、この順番は変更することができる。
【0069】
図7(A)を参照して、発光部11および受光部19は、フィンガーウェブである被測定部位18を上下方向に於いて挟むように配置されている。アクチュエータ16は、発光部11および受光部19の何れか一方または両方を上下方向に移動させることで、上下方向に於ける発光部11と受光部19との距離を短くしている。
【0070】
ここでは、上記した演算制御部17の指示に基づいて、アクチュエータ16は、受光部19を下方に移動させている。例えば、図1(A)を参照して、受光部収納部32を下方に移動させていることで、受光部収納部32に内蔵された受光部19を下降させることができる。ここで、フィンガーウェブは、発光部収納部31と受光部収納部32との間で挟まれることで一定の厚みとされても良いし、挟まれなくても良い。
【0071】
図7(B)を参照して、第2発光部112から第2光線を照射する際には、先ず、演算制御部17は、アクチュエータ16により、第2発光部112の発光点が光軸22と重畳するように、発光部11を移動させる。第2発光部112の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第2発光部112から第2光線を発光する。発光された第2光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第2光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0072】
図7(C)を参照して、次に、演算制御部17は、アクチュエータ16により発光部11を右方に移動させることで、第1発光部111の発光点を光軸22と重畳させる。第1発光部111の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第1発光部111から第1光線を発光する。発光された第1光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第1光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0073】
図7(D)を参照して、次に、演算制御部17は、アクチュエータ16により発光部11を左方に移動させることで、第3発光部113の発光点を光軸22と重畳させる。第3発光部113の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第3発光部113から第3光線を発光する。発光された第3光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第3光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0074】
また、演算制御部17の指示に基づいて、温度計測部21は使用者の体温を計測し、当該体温を示す電気信号は演算制御部17に伝送される。
【0075】
上記した方法により、第1光線、第2光線および第3光線の受光強度を計測した後は、各光線の受光強度、体温等に基づいて、使用者のグルコース量を算出する。この算出方法としては、例えば、統計学的手法を用いることができる。一例として、使用者の採血グルコース量、各光線の受光強度、体温等を用いた統計学的分析により重回帰曲線を作成する。そして、当該回帰曲線を用いて各光線の受光強度および体温から、推定グルコース量を算出する。
【0076】
図8を参照して、グルコース量を推定するために各光線を照射する被測定部位としてフィンガーウェブが適している事項を説明する。図8(A)は使用者の手を示す模式図であり、図8(B)は指先を用いてグルコース量を推定したエラーグリッドを示すグラフであり、図8(C)はフィンガーウェブを用いてグルコース量を推定したエラーグリッドを示すグラフである。図8(B)および図8(C)では、横軸は採血グルコース量を示し、縦軸は本実施形態に係る方法により計測した推定グルコース量を示している。
【0077】
図8(A)を参照して、フィンガーウェブとは、人体の指どうしの間に形成される膜状の部位である。ここで、他の指どうしの間に形成されるフィンガーウェブを、被測定部位として採用することもできる。
【0078】
図8(B)を参照すると、測定結果を示すドットが、破線で示す基準ラインから離れて分布している。このようなる理由は、指先の太さは個人差が大きくこれにより光路長が異なること、および、指先に存在する太い血管が悪影響を及ぼしていることが考えられる。
【0079】
一方、図8(C)を参照すると、測定結果を示すドットが、破線で示す基準ラインの近傍に分布している。このようなる理由は、フィンガーウェブは、厚さが2mmから4mm程度で、個人間による差が小さく、脂肪の含有量が極めて少なく、その内部に太い血管が無いため毛細血管および真皮で測定を行えるからである。更に、被測定部位としてフィンガーウェブを採用した場合は、光路長を短くすることができ、低出力の光でグルコース量を測定することが出来る。
【0080】
表1を参照して、脂肪の含有量の観点から、被測定部位としてフィンガーウェブが適している事項を説明する。
【0081】
【表1】
【0082】
表1では、脂肪を含む検体1(表皮0.2mm、真皮0.8mm、脂肪1.5mm)と、脂肪を含まない献体2(表皮0.2mm、真皮0.8mm、脂肪はなし)に関して、第1光線、第2光線および第3光線の透過率を測定した結果を示している。一例を示すと、検体1は脂肪がある人体の指先であり、検体2はフィンガーウェブである。
【0083】
ここでのシミュレーション条件は、光線本数が5000本であり、散乱回数が一本につき1000回であり、皮膚入射光径はφ1.5mmであり、受光面径はφ3mmまたはφ1mmである。
【0084】
表1に示すように、波長が1310nmである第1光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の3.4倍となっている。また、波長が1450nmである第2光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の6.2倍となっている。更に、波長が1550nmである第3光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の3.5倍となっている。
【0085】
上記のことから、例えば指先である検体1は、第1光線ないし第3光線の透過率が低いため、グルコース量を計測するための部位としては好適でない。更に、脂肪の含有量は個人差が大きいことを考慮すると、脂肪の多寡が透過率に影響を与え、これよりグルコース量の推定が困難になることは明らかである。
【0086】
一方、フィンガーウェブである検体2は、脂肪の含有量が極めて少ないことから、第1光線、第2光線および第3光線を良好に透過させ、透過する各光線の強度に基づいてグルコース量を正確に推定し得る。また、使用者が肥満体であったとしても、フィンガーウェブに含まれる脂肪が極端に増加することはない。よって、フィンガーウェブを透過する各光線を用いてグルコース量を推定すれば、使用者が肥満体であるか否かの影響を受けずに、グルコース量を正確に推定することができる。
【0087】
図9を参照して、他の形態に係る血液測定装置10の構成を説明する。図9は、他の形態に係る血液測定装置10の断面図である。この図に示す血液測定装置10の基本構成は、図1ないし図4に示したものと同様であるため、重複する構成および方法の説明は割愛し、相違する部分を中心に説明する。
【0088】
血液測定装置10は、本体45を有し、血液測定装置10を構成する各構成部材は、本体45に内蔵されている。ここでは、本体45の内蔵される発光部11および受光部19を図示している。
【0089】
本体45の前端面からは、導波路48および導波路49が突出しており、導波路48にはミラー46が内蔵され、導波路49にはミラー47が内蔵されている。また、導波路48の後方には受光部19が配置され、導波路49の後方には発光部11が配置されている。更に、ミラー46の下方の導波路48を開口することで開口50が形成され、ミラー47の上方の導波路49を開口することで開口51が形成されている。更に、ミラー46およびミラー47は、導波路48および導波路49の前端に配置されている。また、導波路48と導波路49との間に、温度計測部21が配置されている。
【0090】
本体45の内部には、グルコース量を測定する際に各光線が通過する光軸22が形成されている。光軸22は、発光部11、導波路49、ミラー47、開口51、開口50、ミラー46、導波路48および受光部19を経由するように規定されている。
【0091】
血液測定装置10を用いてグルコース量を算出する際には、先ず、フィンガーウェブを導波路48と導波路49との間に配置する。これにより、フィンガーウェブは、開口50と開口51との間に位置する。更に、温度計測部21は、フィンガーウェブに接触して体温を計測する。
【0092】
次に、演算制御部17は、光軸22に沿って、発光部11から各光線を照射する。発光部11から射出された各光線は、導波路49を通過し、ミラー47で反射され、開口51を通過し、フィンガーウェブを透過し、開口50を通過し、ミラー46で反射され、導波路48を通過し、受光部19の受光点に至る。演算制御部17は、発光部11を上下方向に移動させることで、第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113の各発光点から、光軸22に沿って、第1光線、第2光線および第3光線を発光する。ここで、導波路48および導波路49は、フィンガーウェブを圧迫しない程度に離間されているか、フィンガーウェブに軽く接触している。
【0093】
次に、受光部19は各光線の受光強度を示す電気信号を演算制御部17に伝送する。演算制御部17は、重回帰式等の換算式を用いて、各光線の受光強度および温度計測部21が測定したフィンガーウェブの温度等を用いて、グルコース量を算出する。
【0094】
図9に示す血液測定装置10では、導波路48および導波路49がフィンガーウェブおよびその近傍の部位を押圧することがない。よって、フィンガーウェブの内部に於ける血流が良好な状態で、グルコース量を正確に算出することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0096】
例えば、上記した本実施形態では、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を用いてグルコース量を算出したが、2つの光線(例えば、波長が1310nmである第1光線、波長が1550nmである第3光線)を用いてグルコース量を算出することもできる。
【0097】
また、上記した血液測定装置10は、グルコース量測定以外の目的で使用することもできる。例えば、人体を透過して受光部19が受光する各光線の強度からガンなどの病気を診断することができる可能性もある。
【0098】
更に、上記した本実施形態では、被測定部位として親指と人差指との間に形成されるフィンガーを採用したが、他の指どうしの間に形成されるフィンガーウェブを被測定部位として採用することもできる。
【符号の説明】
【0099】
10 血液測定装置
11 発光部
111 第1発光部
112 第2発光部
113 第3発光部
12 操作入力部
13 記憶部
14 レンズ
15 表示部
16 アクチュエータ
17 演算制御部
18 被測定部位
19 受光部
20 上側板部
21 温度計測部
22 光軸
231 挟持部
232 挟持部
24 母指内転筋
25 第1押圧部
26 母子球
27 第2押圧部
28 当接部
29 当接部
30 アクチュエータ収納部
31 発光部収納部
32 受光部収納部
33 傾斜面
34 筐体
35 蓋部
36 ホルダ
37 モータ
38 回転軸
39 螺合部
40 開口部
41 開口部
42 開口部
43 突出部
44 孔部
45 本体
46 ミラー
47 ミラー
48 導波路
49 導波路
50 開口
51 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9