IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 株式会社Kyuluxの特許一覧

<>
  • 特許-組成物および有機発光素子 図1
  • 特許-組成物および有機発光素子 図2
  • 特許-組成物および有機発光素子 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】組成物および有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/12 20230101AFI20231204BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231204BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20231204BHJP
   H10K 101/10 20230101ALN20231204BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20231204BHJP
   H10K 101/25 20230101ALN20231204BHJP
   H10K 101/30 20230101ALN20231204BHJP
【FI】
H10K50/12
C09K11/06 640
C09K11/06 645
H10K85/60
H10K101:10
H10K101:20
H10K101:25
H10K101:30
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019186950
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021064641
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 一
(72)【発明者】
【氏名】グエン バ タイン
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】垣添 勇人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 礼隆
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087743(JP,A)
【文献】国際公開第2015/041157(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0259959(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109994628(CN,A)
【文献】特表2017-502516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/202251(WO,A1)
【文献】特表2018-519663(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109994634(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109192874(CN,A)
【文献】特開2017-059826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0006602(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0214571(US,A1)
【文献】国際公開第2018/047853(WO,A1)
【文献】特開2019-068068(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-102/20
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B1を満たす組成物。
(条件A)
前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B1)
前記エキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が下記の関係式(単位eV)を満たす。
T1(EX)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(EX)
【請求項2】
エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B2を満たす組成物。
(条件A)
前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B2)
前記組成物から放射される燐光が、前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物からの燐光である。
【請求項3】
前記アクセプター化合物が前記条件Aを満たす、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アクセプター化合物が、ハメットのσp値が負の基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アクセプター化合物が、環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環と、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アクセプター化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有する、請求項5に記載の組成物。
【化1】
[一般式(1)において、ZはNまたはC(R)を表し、ZはNまたはC(R)を表し、R~Rは各々独立に水素原子、CN、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表すが、R~Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基である。]
【請求項7】
~Rの少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基である、請求項6に記載の組成物。
【化2】
[一般式(2)において、RおよびRは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、Lは単結合、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。nは1以上でLに置換可能な最大数以下の整数を表す。*は一般式(1)の複素芳香環に結合する位置を表す。]
【請求項8】
前記アクセプター化合物が、分子中に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を2つ以上有する、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記アクセプター化合物が、分子中に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を3つ以上有する、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項10】
前記ドナー化合物が、ハメットのσp値が0.2以上の基を有さない、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ドナー化合物が、ハメットのσp値が正の基を有さない、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ドナー化合物が、トリアリールアミン部分構造を2つ以上有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ドナー化合物が、下記一般式(3)で表される構造を有する、請求項12に記載の組成物。
【化3】
[一般式(3)において、Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【請求項14】
およびZがNである、請求項6~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
さらに蛍光性化合物を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が下記の関係式(単位eV)を満たす、請求項15に記載の組成物。
T1(M)≦ ET1(F)
【請求項17】
前記蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位 T1 (M)が下記の関係式(単位eV)を満たす、請求項16に記載の組成物。
T1(F)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(F)
【請求項18】
前記エキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)、前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(F)、前記エキサイプレックスの極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(EX)、および前記蛍光性化合物の極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(F)が下記の関係式(単位eV)をいずれも満たす、請求項15~17のいずれか1項に記載の組成物。
S1(F) < ES1(EX)
peak(EX) < Epeak(F)
【請求項19】
膜状である、請求項1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の組成物を含む発光層を有する有機発光素子。
【請求項21】
遅延蛍光を放射する、請求項20に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層の材料として有用な組成物およびその組成物を用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、通常の有機化合物では熱失活により失われる励起三重項状態のエネルギーを活用することにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、ドナー分子とアクセプター分子の間に形成されるエキサイプレックスを利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
エキサイプレックスは、ドナー分子およびアクセプター分子の一方が励起状態になったときに、ドナー分子からアクセプター分子への電荷移動が起こって二分子間に形成される励起状態である。エキサイプレックスは、ドナー分子のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とアクセプター分子のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)が空間的に分離していることに起因して、励起一重項エネルギー準位ES1と励起三重項エネルギー準位ET1との差ΔESTが小さく、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が起こり易い。そのため、エキサイプレックスを利用することにより、励起三重項エネルギーを励起一重項エネルギーに効率よく変換して、そのエネルギーを発光に有効活用することが可能になり、有機発光素子の発光効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】D.D.Zhang,etc. ACS Appl.Mater.Interfaces. 2016,8,3825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、エキサイプレックスを利用することにより、有機発光素子の発光効率を向上させることができる。しかし、エキサイプレックスを用いた有機発光素子(エキサイプレックス発光素子)については、駆動安定性の検討が十分になされておらず、これまでの材料構成では駆動寿命が実用レベルに遠く及ばないという問題があった。
そこで、非特許文献1には、エキサイプレックス発光素子の装置構成を工夫することにより、駆動寿命を向上させたことが記載されている、しかし、非特許文献1に記載された有機発光素子は、装置構成を従来のものから大幅に変更しているため、使用できるドナー化合物とアクセプター化合物が制限され、材料選択の幅が狭いという問題がある。
【0006】
このような状況下において本発明者らは、エキサイプレックス発光素子の駆動寿命を改善できるドナー化合物とアクセプター化合物の組合せを開発することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定のエネルギー関係を満たすドナー化合物とアクセプター化合物を組み合わせて用いることにより、駆動寿命が改善されたエキサイプレックス発光素子を実現できることを見出した。本発明はこうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0008】
[1] エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B1を満たす組成物。
(条件A)
前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B1)
前記エキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が下記の関係式(単位eV)を満たす。
T1(EX)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(EX)
[2] エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B2を満たす組成物。
(条件A)
前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B2)
前記組成物から放射される燐光が、前記ドナー化合物または前記アクセプター化合物からの燐光である。
[3] 前記アクセプター化合物が前記条件Aを満たす、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 前記アクセプター化合物が、ハメットのσp値が負の基を有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 前記アクセプター化合物が、環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環と、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 前記アクセプター化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有する、[5]に記載の組成物。
【化1】
[一般式(1)において、ZはNまたはC(R)を表し、ZはNまたはC(R)を表し、R~Rは各々独立に水素原子、CN、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表すが、R~Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基である。]
[7] R~Rの少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基である、[6]に記載の組成物。
【化2】
[一般式(2)において、RおよびRは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、Lは単結合、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。nは1以上でLに置換可能な最大数以下の整数を表す。*は一般式(1)の複素芳香環に結合する位置を表す。]
[8] 前記アクセプター化合物が、分子中に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を2つ以上有する、[6]または[7]に記載の組成物。
[9] 前記アクセプター化合物が、分子中に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を3つ以上有する、[6]または[7]に記載の組成物。
[10] 前記ドナー化合物が、ハメットのσp値が0.2以上の基を有さない、[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11] 前記ドナー化合物が、ハメットのσp値が正の基を有さない、[1]~[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[12] 前記ドナー化合物が、トリアリールアミン部分構造を2つ以上有する、[1]~[11]のいずれか1項に記載の組成物。
[13] 前記ドナー化合物が、下記一般式(3)で表される構造を有する、[12]に記載の組成物。
【化3】
[一般式(3)において、Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。]
[14] ZおよびZがNである、[6]~[13]のいずれか1項に記載の組成物。
[15] さらに蛍光性化合物を含む、[1]~[14]のいずれか1項に記載の組成物。
[16] 前記蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が下記の関係式(単位eV)を満たす、[15]に記載の組成物。
T1(M)≦ ET1(F)
[17] 前記蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)と、前記条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位 T1 (M)が下記の関係式(単位eV)を満たす、[16]に記載の組成物。
T1(F)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(F)
[18] 前記エキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)、前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(F)、前記エキサイプレックスの極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(EX)、および前記蛍光性化合物の極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(F)が下記の関係式(単位eV)をいずれも満たす、[15]~[17]のいずれか1項に記載の組成物。
S1(F) < ES1(EX)
peak(EX) < Epeak(F)
[19] 膜状である、[1]~[18]のいずれか1項に記載の組成物。
[20] [1]~[19]のいずれか1項に記載の組成物を含む発光層を有する有機発光素子。
[21] 遅延蛍光を放射する、[20]に記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物によれば、エキサイプレックスを形成して安定な発光を実現することができる。本発明の組成物を発光層に含む有機発光素子は、エキサイプレックスによる発光を安定に持続して、長い駆動寿命を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の組成物の発光メカニズムを説明するための模式図である。
図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図3】ドナー化合物として化合物D1を用い、アクセプター化合物として化合物A1~A6のいずれかを用いた各有機エレクトロルミネッセンス素子の発光強度の駆動時間依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0012】
<組成物(第1組成物)>
本発明の組成物は、エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B1を満たすものである。
(条件A)
ドナー化合物またはアクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B1)
エキサイプレックスの最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)と、条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が下記の関係式(単位eV)を満たす。
T1(EX)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(EX)
本発明における「エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物」とは、ドナー化合物およびアクセプター化合物の一方が励起状態になったとき、ドナー化合物からアクセプター化合物への電荷移動によって励起錯体を形成しうる化合物の組合せのことを意味し、「エキサイプレックス」とは、その励起錯体における励起状態のことを意味する。エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物の組合せであることは、ドナー化合物とアクセプター化合物の混合膜で観測される発光スペクトルが、ドナー化合物の単独膜で観測される発光スペクトルおよびアクセプター化合物の単独膜で観測される発光スペクトルの少なくとも一方と、異なるパターンを示すことをもって確認することができる。混合膜の発光スペクトルがエキサイプレックスに由来するものである場合、通常、その発光極大波長が、単独膜の発光スペクトルの発光極大波長よりも長波長側にシフトして観測される。
【0013】
本発明の組成物は、エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物を含む組成物であって、上記の条件Aおよび条件B1を満たすことにより、エキサイプレックスを形成して安定な発光を持続することができる。これは、条件Aおよび条件B1を満たす組成物では、連続的なキャリア注入(連続駆動)に伴って蓄積したキャリアの、アクセプター化合物への不必要な注入またはドナー化合物への不必要な注入により生じた励起三重項エネルギーが、エキサイプレックスの形成に利用されるためであると推測される。ここで、「不必要なキャリア注入」とは、励起錯体を形成しているアクセプター化合物のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)に正孔が注入されること、または、励起錯体を形成しているドナー化合物のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)に電子が注入されることをいう。この具体的なメカニズムを、アクセプター化合物のΔESTが0.35eV以下である場合(アクセプター化合物が条件Aを満たす場合)を例にして図1を参照しながら説明する。
【0014】
すなわち、本発明の組成物にキャリアを注入すると、ドナー化合物またはアクセプター化合物が励起状態になってドナー化合物のHOMOの電子がアクセプター化合物のLUMOに移動し、エキサイプレックスが形成される(図1(a)参照)。そのエキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ET1(EX)からの輻射失活により蛍光が放射される。また、エキサイプレックスでは、最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)と最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)のエネルギー差ΔESTが極めて小さいため、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が起こり易く、その逆項間交差により形成された励起一重項状態も輻射失活して遅延蛍光が放射される。したがって、エキサイプレックスでは、励起一重項エネルギーとともに、励起三重項エネルギーも発光に有効利用され、高い発光効率が得られる。
しかし、連続駆動に伴って正孔が高密度に蓄積してくると、ドナー化合物のHOMOからアクセプター化合物のHOMOへ不必要な正孔注入が起こるようになる。その結果、図1(b)に示すように、アクセプター化合物上で正孔と電子が再結合してアクセプター化合物自体が励起一重項状態と励起三重項状態へ遷移する現象が生じる。
このとき、図1(c)の左側に示すように、アクセプター化合物のΔESTが0.35eVを超えている場合(本発明の条件Aを満たしていない場合)、励起三重項状態は寿命が長いため、輻射失活する前に熱失活するか、高密度に蓄積して三重項-三重項消滅を起こし、発光に有効活用することができない。そのため、条件Aを満たしていない系では、駆動時間が長くなるのに伴って発光強度が急速に低下し、駆動寿命が短くなる。
一方、図1(c)の右側に示すように、アクセプター化合物のΔESTが0.35eV以下である場合(本発明の条件Aを満たしている場合)、その最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)と最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)の差が小さいため、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が起こり易い。そのため、不必要な正孔注入によりアクセプター化合物自体が励起三重項状態に遷移しても、逆項間交差を介して効率よく励起一重項状態に変換される。そして、エキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)は、アクセプター化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)よりも通常低いため、そのアクセプター化合物で生じた励起一重項エネルギーは電荷移動を伴って最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)へと移動し、エキサイプレックスの形成に寄与する。すなわち、アクセプター化合物が条件Aを満たすことにより、アクセプター化合物への不必要な正孔注入により生じた励起三重項エネルギーを高密度に蓄積させることなく、エキサイプレックスの形成に有効活用することができる。
さらに、本発明の組成物では、ΔESTが0.35eV以下であるアクセプター化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)がET1(EX)-0.2~ET1(EX)eVの範囲にあること、すなわち本発明の条件B1を満たすことにより、エキサイプレックスの励起三重項エネルギーをアクセプター化合物に効率よく移動させてエキサイプレックス上での三重項励起子の蓄積を抑えることができる。また、そのエキサイプレックスから移動してきた励起三重項エネルギーを、上記の逆項間交差を介した経路により、アクセプター化合物上で励起一重項エネルギーに効率よく変換してエキサイプレックスの形成に再利用することができる。
これらのことから、本発明の組成物は、条件Aと条件B1を満たすことにより、エキサイプレックスによる発光を安定に持続して長い駆動寿命を実現することができる。
【0015】
ここで、以上の説明では、アクセプター化合物が条件Aを満たす場合を例にして、本発明の組成物の発光メカニズムを説明したが、ドナー化合物が条件Aを満たす場合にも、ドナー化合物の最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位が、それぞれ、ES1(M)、ET1(M)に対応することを除いて、上記と同様のメカニズムでエキサイプレックスによる安定な発光、長い駆動寿命を実現することができる。
また、いずれの場合においても、条件B1におけるET1(M)の下限は、ET1(EX)-0.2であることが好ましく、ET1(EX)-0.1であることがより好ましい。これにより、各化合物上での逆項間交差の効率をより高くすることができる。
【0016】
以下において、本発明の組成物が含むドナー化合物およびアクセプター化合物、必要に応じて添加されるその他の成分について説明する。
【0017】
[アクセプター化合物]
アクセプター化合物は、組成物に注入された電子を受け取る電子受容性ユニットを有する化合物であり、ハメットのσp値が負の基を有することが好ましい。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp値)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。ハメットのσp値が負である置換基は電子供与性(ドナー性)を示し、ハメットのσp値が正である置換基は電子求引性(アクセプター性)を示す傾向がある。
【0018】
アクセプター化合物は、ハメットのσp値が負の基を有することにより、連続駆動時にドナー化合物のHOMOからアクセプター化合物へ正孔が注入されたとき、そのハメットのσp値が負の基が正孔を受け取る正孔受容部(HOMO)として機能し、電子受容性ユニットのHOMOに正孔が注入されることが抑えられる。これにより、電子受容性ユニットのHOMOに正孔が注入されることで起こる、アクセプター化合物分子の分解が抑制され、連続駆動時のエキサイプレックスの安定性をより向上させることができる。また、アクセプター化合物にハメットのσp値が負の基を導入すると、HOMOとLUMOが空間的に分離した電子状態が形成され、小さいΔESTが得やすいものになる。
【0019】
アクセプター化合物は、環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環と、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有することが好ましい。複素芳香環は、電子受容性ユニットとして構成することができ、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基は、ハメットのσp値が負の基として構成することができる。アクセプター化合物において、環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環の1分子当たりの数は1つであっても2つ以上であってもよい。アクセプター化合物が、環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環を2つ以上有するとき、複数の複素芳香環は互いに同一であっても異なっていてもよい。アクセプター化合物において、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基の1分子当たりの数は1つであっても2つ以上であってもよい。アクセプター化合物が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を2つ以上有するとき、複数の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環は、単環であってもよいし、窒素原子を有する複素芳香環が2つ以上縮合した縮合環や、窒素原子を有する複素芳香環の少なくとも1つと芳香環の少なくとも1つが縮合した縮合環であってもよい。複素芳香環は、環骨格構成原子として窒素原子を有する6員環を含むことが好ましく、その6員環における窒素原子の数は1~3であることが好ましい。環骨格構成原子として窒素原子を有する6員環の具体例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環を挙げることができる。
置換もしくは無置換のジアリールアミノ基の「置換もしくは無置換のアリール基」の説明については、下記一般式(2)のRおよびRにおける「置換もしくは無置換のアリール基」の説明を参照することができる。ジアリールアミノ基の2つのアリール基は、単結合または連結基(第1連結基)で互いに連結して複素環構造を形成していてもよい。第1連結基の好ましい範囲と具体例については、下記一般式(2)のRにおけるアリール基とRにおけるアリール基を連結する連結基についての記載を参照することができる。
【0020】
環骨格構成原子として窒素原子を含む複素芳香環と、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基は単結合で結合していてもよいし、連結基(第2連結基)を介して連結していてもよい。第2連結基の説明については、下記一般式(2)のLにおける「置換もしくは無置換のアリーレン基」の説明を参照することができる。第2連結基に結合する置換もしくは無置換のジアリールアミノ基の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。第2連結基に2つ以上の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基が結合しているとき、複数の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
アクセプター化合物の好ましい例として、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(1)において、ZはNまたはC(R)を表し、ZはNまたはC(R)を表し、R~Rは各々独立に水素原子、CN、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表すが、R~Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基である。R~Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
一般式(1)において、ZおよびZは、いずれか一方がNで、他方がC(R)またはC(R)であってもよいし、両方がNであってもよい。好ましいのは、ZおよびZの両方がNであるトリアジン環である。
【0025】
~Rにおけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。好ましい炭素数は1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などを例示することができる。アルキル基に置換しうる置換基として、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
【0026】
~Rにおけるアリール基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。アリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~40であることが好ましく、6~22であることがより好ましく、6~18であることがさらに好ましく、6~14であることがさらにより好ましく、6~10であることが特に好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフタレニル基、ビフェニル基を挙げることができる。
【0027】
~Rにおけるヘテロアリール基を構成する複素芳香環は、単環であっても、1以上の複素環と1以上の芳香環または複素環が縮合した縮合環であっても、1以上の複素環と1以上の芳香環または複素環が連結した連結環であってもよい。ヘテロアリール基を構成する複素環の炭素数は3~40であることが好ましく、5~22であることがより好ましく、5~18であることがさらに好ましく、5~14であることがさらにより好ましく、5~10であることが特に好ましい。複素環を構成する複素原子は窒素原子であることが好ましい。複素環の具体例として、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。
【0028】
~Rにおけるアリール基およびヘテロアリール基に導入しうる置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基のうち置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。
【0029】
~Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基である。R~Rのうち、置換もしくは無置換のジアルールアミノ基を有する基であるものは、1つであっても2つ以上であってもよい。R~Rの2つ以上が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基であるとき、それらの置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基は、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であってもよいし、さらに、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を、一般式(1)の複素芳香環に連結する連結基を有するものであってもよい。置換もしくは無置換のジアリールアミノ基の説明については、上記の複素芳香環とともにアクセプター化合物を構成する「置換もしくは無置換のジアリールアミノ基」についての説明を参照することができ、連結基の説明については、上記の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を複素芳香環に連結する「第2連結基」についての説明を参照することができる。
【0030】
~Rの少なくとも1つが表す置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基の例として、下記一般式(2)で表される基を挙げることができる。
【0031】
【化5】
【0032】
一般式(2)において、RおよびRは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、Lは単結合、または、置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。nは1以上でLに置換可能な最大数以下の整数を表す。*は一般式(1)の複素芳香環に結合する位置を表す。RおよびRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
およびRにおけるアリール基を構成する芳香環、および、Lにおけるアリーレン基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲については、上記のR~Rにおけるアリール基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲を参照することができ、RおよびRにおけるアリール基の具体例については、上記のR~Rにおけるアリール基の具体例を参照することができる。Lにおけるアリーレン基の具体例としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基を挙げることができ、フェニレン基であることが好ましい。フェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよいが、1,4-フェニレン基であることが好ましい。アリール基およびアリーレン基に導入しうる置換基の説明と好ましい範囲については、下記一般式(2a)のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
におけるアリール基とRにおけるアリール基は、単結合または連結基で連結して複素環構造を形成していてもよい。連結基は、連結鎖長が1原子の連結基であることが好ましい。連結基の具体例として、-O-、-S-、-N(R91)-または-C(R92)(R93)-で表される連結基が挙げられる。ここにおいて、R91~R93は各々独立に水素原子または置換基を表す。R91がとりうる置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を例示することができる。R92およびR93がとりうる置換基としては、各々独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数12~40のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等を例示することができる。
nは1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1~2の整数であることがさらに好ましい。
【0034】
一般式(2)のnで括られた基(置換もしくは無置換のジアリールアミノ基)は、一般式(2a)で表される基であることが好ましい。
【0035】
【化6】
一般式(2a)において、R11~R20は各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基の数は特に制限されず、R11~R20のすべてが無置換(すなわち水素原子)であってもよい。R11~R20のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(2a)に置換基が存在している場合、その置換基はR12~R14、R17~R19の少なくとも1つであることが好ましく、R13およびR16の少なくとも1つであることがより好ましい。
11~R20がとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素数1~10のアルキルスルホニル基、炭素数1~10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2~10のアルキルアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3~40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数1~20のジアルキル置換アミノ基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数6~15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3~12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。また、R11~R20における置換基は、一般式(2a)で表される基であることも好ましい。
【0036】
11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環などを挙げることができる。
【0037】
一般式(2a)で表される基は、下記一般式(2b)~(2f)のいずれかで表される基であることが好ましく、一般式(2b)で表される基であることがより好ましい。
【化7】
【0038】
一般式(2b)~(2f)において、R21~R24、R27~R38、R41~R48、R51~R58、R61~R65、R81~R90は、各々独立に水素原子または置換基を表す。ここでいう置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。一般式(2b)~(2f)における置換基の数は特に制限されない。R21~R24、R27~R38、R41~R48、R51~R58、R61~R65、R81~R90は、各々独立に上記一般式(2b)~(2f)のいずれかで表される基であることも好ましい。すべてが無置換(すなわち水素原子)である場合も好ましい。また、一般式(2b)~(2f)のそれぞれにおいて置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
また、一般式(2b)~(2f)に置換基が存在している場合、その置換基は一般式(2b)であればR22~R24、R27~R29のいずれかであることが好ましく、R23およびR28の少なくとも1つであることがより好ましく、一般式(2c)であればR32~R37のいずれかであることが好ましく、一般式(2d)であればR42~R47のいずれかであることが好ましく、一般式(2e)であればR52、R53、R56、R57、R62~R64のいずれかであることが好ましく、一般式(2f)であればR82~R87、R89、R90のいずれかであることが好ましく、R89およびR90であることが好ましい。R89およびR90が表す置換基は、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基であることがより好ましい。また、R89およびR90が表す置換基は同一であることが好ましい。
【0039】
一般式(2b)~(2f)において、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R27とR28、R28とR29、R29とR30、R31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R45とR46、R46とR47、R47とR48、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R64とR65、R54とR61、R55とR65、R81とR82、R82とR83、R83とR84、R85とR86、R86とR87、R87とR88、R89とR90は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造の説明と好ましい例については、上記の一般式(2a)において、R11とR12等が互いに結合して形成する環状構造の説明と好ましい例を参照することができる。
【0040】
一般式(1)中に存在する一般式(2a)で表される基は、すべてが一般式(2b)~(2f)のいずれか1つの一般式で表される基であることが好ましい。例えば、すべてが一般式(2b)で表される基を好ましく例示することができる。
【0041】
アクセプター化合物は、分子中に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を2つ以上有することが好ましく、3つ以上有することがより好ましい。分子中に有する置換もしくは無置換のジアリールアミノ基の数の上限は特に制限されず、6以下であってもよく、5以下であってもよく、4とすることもできる。
【0042】
一般式(1)で表される化合物の好ましい例として、R~Rの1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を有する基であるものを挙げることができる。この場合、R~Rの残りは、水素原子であっても置換基であってもよいが、置換基であることが好ましく、置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましい。
【0043】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
【化8】
【0045】
[ドナー化合物]
ドナー化合物は、組成物に注入された正孔を受け取る電子供与性ユニットを有する化合物である。ドナー化合物は、ハメットのσp値が0.2以上の基を有さないことが好ましく、ハメットのσp値が正の基を有さないことがより好ましい。
ドナー化合物はトリアリールアミン部分構造を2つ以上有することが好ましい。ドナー化合物が有する複数のトリアリールアミン部分構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。トリアリールアミン構造の窒素原子に結合する3つのアリール基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。アリール基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、アリール基の具体例については、上記のR~Rにおけるアリール基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、アリール基の具体例を参照することができる。トリアリールアミン部分構造の各アリール基は置換基で置換されていてもよい。アリール基に置換してもよい置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。また、トリアリールアミン構造の隣り合うアリール基の少なくとも1組は、単結合または連結基で連結していてもよい。連結基の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のRにおけるアリール基とRにおけるアリール基を連結する連結基についての記載を参照することができる。
ドナー化合物が有するトリアリールアミン部分構造の数は、2~6であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、2つまたは3つであることがさらに好ましい。
【0046】
ドナー化合物の好ましい例として、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。
【0047】
【化9】
【0048】
一般式(3)において、Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のRのうちの置換基の数は特に制限されず、全てが無置換(水素原子)であってもよい。また、複数のRの中に置換基が存在する場合、少なくともカルバゾール環の3位のRが置換基であることが好ましい。
Rがとりうる置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。また、一般式(3)における複数のRの少なくとも1つは、置換もしくは無置換のカルバゾリル基であることが好ましく、置換もしくは無置換の3-カルバゾリル基であることがより好ましく、9位が置換基で置換された3-カルバゾリル基であることがさらに好ましく、9位が置換もしくは無置換のアリール基で置換された3-カルバゾリル基であることがさらにより好ましい。
【0049】
以下において、一般式(3)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(3)で表される化合物はこの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化10】
【0050】
[ドナー化合物とアクセプター化合物の割合]
組成物におけるアクセプター化合物の割合は、アクセプター化合物とドナー化合物の合計質量に対して、1質量%以上であっても、10質量%以上であってもよく、50質量%以上とすることもできる。また、組成物におけるアクセプター化合物の割合は、アクセプター化合物とドナー化合物の合計質量に対して、99質量%以下であっても、50質量%以下であってもよく、10質量%以下とすることもできる。
【0051】
[その他の成分]
本発明の組成物は、ドナー化合物およびアクセプター化合物とともに、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の好ましい例として、蛍光性化合物、ホスト材料、燐光性化合物、量子ドット等を挙げることができる。
【0052】
(蛍光性化合物)
本明細書中における「蛍光性化合物」とは、励起一重項状態からの輻射失活により蛍光を放射しうる化合物のことをいい、その発光に遅延蛍光を含んでいてもよい。遅延蛍光は、逆項間交差を介して形成された励起一重項状態から放射される光であり、直接遷移により形成された励起一重項状態からの光(即時蛍光)よりも遅れて観測される。
本発明の組成物が蛍光性化合物を含むことにより、エキサイプレックスの励起一重項エネルギーを蛍光性化合物に移動させて蛍光性化合物を発光させることができる。蛍光性化合物は、その光吸収帯域が、エキサイプレックスの発光ピークと重なるものであることが好ましい。また、蛍光性化合物の発光波長は特に制限されず、例えば可視光領域であっても近赤外線領域であってもよい。また、可視光領域は、青色領域、緑色領域、赤色領域等のいずれであってもよい。
【0053】
蛍光性化合物を含む組成物では、その蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)と、条件Aを満たすドナー化合物またはアクセプター化合物の励起三重項エネルギー準位ET1(M)が、下記関係式を満たすことが好ましい。
T1(M)≦ ET1(F)
蛍光性化合物、特にET1(F)が高い青色蛍光性化合物では、連続駆動に伴って三重項励起子が高密度に蓄積することにより、素子の動作が不安定になる場合がある。これに対して、上記の関係式を満たしていると、蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(F)から、ドナー化合物またはアクセプター化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)へエネルギーが移動し、さらに、ドナー化合物またはアクセプター化合物上での逆項間交差、逆項間交差で生じた励起一重項状態の電荷移動によるエキサイプレックス形成という一連の経路を通じて、蛍光性化合物の三重項励起子の数が減少する。そのため、蛍光性化合物の三重項励起子が蓄積することにより生じる不安定動作が回避され、長い駆動寿命を得ることができる。
さらに、下記関係式を満たしていると、ドナー化合物またはアクセプター化合物の最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)が、その最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)により近くなるため、ドナー化合物またはアクセプター化合物上での逆項間交差を効率よく行うことができる。
T1(F)-0.2 ≦ ET1(M)≦ ET1(F)
【0054】
また、さらに、蛍光性化合物を含む組成物では、エキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)、蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(F)、エキサイプレックスの極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(EX)、および蛍光性化合物の極大発光波長から求められるエネルギーEpeak(F)が下記の関係式(単位eV))をいずれも満たすことが好ましい。
S1(F) < ES1(EX)
peak(EX) < Epeak(F)
これにより、蛍光性化合物の三重項励起子に由来するエキサイプレックスの励起一重項エネルギーが、その最低励起一重項エネルギー準位ES1(F)から蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位ET1(F)へ移動して蛍光性化合物の発光に再利用されるようになり、素子動作をより安定化することが可能になる。
【0055】
組成物における蛍光性化合物の割合は、組成物の全質量に対して、0.5質量%以上であっても、1質量%以上であってもよく、3質量%以上とすることもできる。また、組成物における蛍光性化合物の割合は、組成物の全質量に対して、50質量%以下であっても、15質量%以下であってもよく、5質量%以下とすることもできる。
【0056】
[組成物の態様]
本発明の組成物の態様は特に制限されないが、膜状であることが好ましい。膜状の組成物は、ドナー化合物とアクセプター化合物が膜中に均一に存在していてもよく、ドナー化合物が高濃度に存在する領域とアクセプター化合物が高濃度に存在する領域を有していてもよく、ドナー化合物を含む層とアクセプター化合物を含む層をそれぞれ1層以上積層した多層構成であってもよい。
膜状の組成物は、共蒸着法のようなドライプロセスで形成することができ、ドナー化合物とアクセプター化合物を含む塗工液を用いるウェットプロセスで形成してもよい。
膜状の組成物の厚さは、5~1000であることが好ましく、10~500であることがより好ましく、15~100であることがさらに好ましい。
【0057】
<組成物(第2組成物)>
次に、本発明の第2組成物について説明する。
本発明の第2組成物は、エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物とを含み、下記条件Aおよび条件B2を満たす組成物である。
(条件A)
ドナー化合物またはアクセプター化合物が、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位の差ΔESTが0.35eV以下の化合物である。
(条件B2)
組成物から放射される燐光が、ドナー化合物またはアクセプター化合物からの燐光である。
第2組成物は、第1組成物の条件B1の代わりに条件B2が規定されたものであり、条件B2以外の構成の説明については、<組成物(第1組成物)>の欄の対応する記載を参照することができる。
条件B2において、組成物から放射される燐光が、ドナー化合物またはアクセプター化合物からの燐光であることは、組成物、ドナー化合物およびアクセプター化合物で測定された各燐光スペクトルを対比し、組成物の燐光スペクトルと、ドナー化合物またはアクセプター化合物の燐光スペクトルとが共通の発光極大波長を有することをもって確認することができる。
条件B2は、組成物で形成されたエキサイプレックスの励起三重項エネルギーが、ドナー化合物またはアクセプター化合物に移動することを意味している。これにより、エキサイプレックスでの三重項励起子の蓄積を抑えることができる。また、そのエキサイプレックスから移動してきた励起三重項エネルギーを、ドナー化合物またはアクセプター化合物での逆項間交差により、励起一重項エネルギーに効率よく変換してエキサイプレックスに移動させ、そのエキサイプレックス発光に再利用することができる。
これらのことから、本発明の第2組成物は、条件Aと条件B2を満たすことにより、エキサイプレックスによる発光を安定に持続して長い駆動寿命を実現することができる。
【0058】
<ES1(M)、ET1(M)、ΔEST、ES1(EX)、ET1(EX)の測定方法>
本発明で用いるドナー化合物またはアクセプター化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)および最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)、ES1(M)とET1(M)のエネルギー差ΔEST、並びに、エキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)および最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)は以下のようにして測定される。以下の説明において、測定対象物は、ES1(M)およびET1(M)、ΔESTについてはドナー化合物またはアクセプター化合物であり、ES1(EX)およびET1(EX)についてはドナー化合物とアクセプター化合物をそれぞれ50質量%で含む組成物である。
[1]ES1(M)およびES1(EX)
測定対象物を、蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の360nm励起光による蛍光スペクトルを測定する。ここで、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長とする蛍光スペクトルを得る。この蛍光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値を最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)またはES1(EX)とする。
換算式:最低励起一重項エネルギー準位[eV]=1239.85/λedge
蛍光スペクトルの測定は、例えば励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を用い、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いて行うことができる。
[2]ET1(M)およびET1(EX)
最低励起一重項エネルギー準位の測定に用いたものと同様の試料を30Kに冷却し、この試料に360nm励起光を照射し、ストリークカメラを用いて燐光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後20ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長とする燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値を最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)またはET1(EX)とする。
換算式:最低励起三重項エネルギー準位[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
[3]ΔEST
[1]で測定したES1(M)と[2]で測定したET1(M)を用い、ES1(M)-ET1(M)から算出した値をΔESTとする。
【0059】
<有機発光素子>
本発明の組成物は、エキサイプレックスを形成して発光するため発光効率が高く、また、エキサイプレックスによる発光を安定に持続することができるため、有機発光素子の発光層の材料として有用である。本発明の組成物が安定なエキサイプレックス発光を示すメカニズムについては、<組成物(第1組成物)>の欄の記載を参照することができる。また、本発明の組成物が高い発光効率を示すのは、エキサイプレックスのΔESTが小さいことにより、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が効率よく起こるためであると推測される。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0060】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、エキサイプレックスでは、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は励起一重項へ逆項間交差されて蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光よりも長くなり、遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このようなエキサイプレックスの励起子移動機構を用いれば、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となり、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0061】
本発明の組成物を発光層の材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図2に示す。図2において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0062】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0063】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0064】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0065】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。本発明の有機発光素子では、発光層が本発明の組成物を含む。発光層は、本発明の組成物のみで構成されていてもよいし、その他の材料を含んでいてもよいが、膜状に形成された本発明の組成物からなることが好ましい。膜状の組成物の説明については、上記の[組成物の態様]の欄の記載を参照することができる。
本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層で形成されたエキサイプレックス、もしくは、必要に応じて組成物に添加した蛍光性化合物、または、これらの両方から生じる。この発光は蛍光発光や遅延蛍光発光を含む。但し、発光の一部にドナー化合物やアクセプター化合物からの発光があってもかまわない。
【0066】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0067】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0068】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0069】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0070】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0071】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0072】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0073】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0074】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0075】
まず、発光層(組成物)のホスト材料として用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0076】
【化11】
【0077】
【化12】
【0078】
【化13】
【0079】
【化14】
【0080】
【化15】
【0081】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0082】
【化16】
【0083】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0084】
【化17】
【0085】
【化18】
【0086】
【化19】
【0087】
【化20】
【0088】
【化21】
【0089】
【化22】
【0090】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0091】
【化23】
【0092】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0093】
【化24】
【0094】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0095】
【化25】
【0096】
【化26】
【0097】
【化27】
【0098】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0099】
【化28】
【0100】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0101】
【化29】
【0102】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光や遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、燐光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、燐光については、本発明の組成物のような通常の有機化合物の組合せでは、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換されて失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0103】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、エキサイプレックスを形成するドナー化合物とアクセプター化合物を含み、特定の条件を満たす組成物を発光層に含有させることにより、発光効率が高く、駆動寿命が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例
【0104】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、マルチチャンネル分光光度計(浜松ホトニクス社製:PMA-12)および絶対PL量子収率測定システム(浜松ホトニクス社製:Quantaurus-QY Plus)を用いて行い、素子特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:Keithley 2400)、絶対外部量子効率測定システム(浜松ホトニクス社製:C9920-12)および輝度計(トプコン社製:SR-3AR)を用いて行った。
【0105】
本実施例で用いたドナー化合物およびアクセプター化合物を下記に示し、各化合物の最低励起一重項エネルギー準位ES1(M)と最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)、および、ドナー化合物と各アクセプター化合物の組合せによるエキサイプレックスの最低励起一重項エネルギー準位ES1(EX)と最低励起三重項エネルギー準位ET1(EX)を表1に示す。
【0106】
【化30】
【0107】
【化31】
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示すように、本発明の条件Aおよび条件B1を満たすドナー化合物とアクセプター化合物の組合せは、化合物D1と化合物A1、化合物D1と化合物A2の各組合せである。
【0110】
[1]有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
(実施例1)
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度5×10-5Pa以下の条件にて化合物D1と化合物A1とを異なる蒸着源から蒸着し、化合物D1と化合物A1の含有量が共に50質量%である薄膜を100nmの厚さで形成して、有機フォトルミネッセンス素子(PL素子)とした。
【0111】
(実施例2、比較例1~4)
アクセプター化合物として、化合物A1の代わりに表2に示すアクセプター化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機フォトルミネッセンス素子(PL素子)を作製した。
【0112】
【表2】
【0113】
各実施例および各比較例で作製したPL素子について、360nm励起光による発光スペクトルおよび発光の過渡減衰曲線を測定したところ、6種類のPL素子の発光極大波長は499~518nmの範囲にあり、いずれも、そこで用いたアクセプター化合物の単独膜の発光極大波長よりも赤色側にシフトしていた。このことから、各PL素子の発光はエキサイプレックス発光であることが確認された。また、いずれのPL素子からも遅延蛍光が観測され、その遅延蛍光寿命τは2.8±0.2μsの範囲、逆項間交差の速度定数kRISCは10-1オーダーでほぼ一致していた。このことから、エキサイプレックスにおける逆項間交差のプロセスは、各PL素子で共通していることが示唆された。また、実施例1および比較例1の各PL素子について燐光スペクトルを測定し、そこで用いたアクセプター化合物の単独膜の燐光スペクトルと比較したところ、いずれも単独膜の燐光スペクトルと共通の発光極大波長を有しており、エキサイプレックスの励起三重項エネルギーをアクセプター化合物へ移動しうるものであることがわかった。
【0114】
[2]有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
(実施例3)
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、Tris-PCzを30nmの厚さに形成した。次に、化合物D1と化合物A1を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物D1と化合物A1の発光層における含有量は共に50質量%とした。次に、SF3-TRZを10nmの厚さに形成した後、LiqとSF3-TRZを異なる蒸着源から共蒸着し、20nmの厚さの層を形成した。この層におけるLiqとSF3-TRZの含有量は共に50質量%とした。さらにLiqを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)とした。
【0115】
(実施例4、比較例5~8)
化合物A1の代わりに表3に示すアクセプター化合物を用いたこと以外は、実施例3と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)を作製した。
【0116】
【表3】
【0117】
各実施例および各比較例で作製した有機EL素子について、3.3mA/cm-2の定電流密度で発光強度の駆動時間依存性を測定した結果を図3に示す。
図3に示すように、実施例3、4のEL素子は、比較例5~8のEL素子に比べて発光強度の減少傾向が明らかに緩やかであった。また、初期発光強度に対する発光強度の半減時間LT50は、実施例3で350時間、実施例4で300時間、比較例5で125時間、比較例6および比較例7で90時間未満、比較例8で180時間であった。すなわち、実施例3、4のEL素子は、比較例5のEL素子に比べて2倍以上にLT50が延長し、比較例6および7のEL素子に比べて3倍以上にLT50が延長した。このことから、エキサイプレックスを形成する一方の化合物として、ΔESTが小さく、且つ、その最低励起三重項エネルギー準位ET1(M)がET1(EX)-0.2~ET1(EX)eVの範囲にある化合物を用いることにより、有機EL素子の駆動寿命が大きく改善されることがわかった。
また、実施例3、比較例5および比較例6の各EL素子について、初期(LT100)、発光強度が初期の80%になった時点(LT80)および発光強度が初期の50%になった時点(LT90)で発光スペクトルを観測したところ、化合物D1と化合物A4を用いた比較例6の有機EL素子においてのみ、LT80およびLT50の各発光スペクトルで初期発光スペクトルには見られない赤色発光が観測された。この赤色発光は、エレクトロマーに由来する発光であると推定され、化合物A4のHOMOに正孔が注入されたことを示す現象である。この赤色発光が、電子供与基を含むアクセプター化合物(化合物A1、A3)を用いた各素子(実施例3、比較例5)で見られていないのは、そのアクセプター化合物の電子供与基が正孔の受容体として機能して、電子受容性ユニット(ここではフェニル基で置換されたトリアジン環)への正孔注入が回避されたためであると考えられる。このことから、アクセプター化合物に電子供与基を導入することにより、電子受容性ユニットへの正孔注入に伴うアクセプター化合物分子の分解が抑えられ、EL素子の安定性向上に貢献できることが示された。
さらに、上記のようにΔESTが0.35eV以下である化合物A1、A2を用いた素子の方が、ΔESTが0.35eVを超える化合物A3~A5を用いた素子よりも遥かに長いLT50を示したことから、アクセプター化合物のΔESTを0.35eV以下に規定することにより、EL素子の安定性を大きく向上できることがわかった。また、これにより、有機EL素子の劣化に三重項励起子が大きく影響していることが支持された。
なお、その他の素子特性については、各EL素子でほぼ同等であった。具体的には、各EL素子の発光スペクトルは、実施例3および比較例7で510nm、実施例4および比較例6で505nm、比較例5で515nm、比較例8で520nmであり、ほぼ一致していた。また、電流密度-電圧-輝度特性およびオンセット電圧も6種類のEL素子で同等であった。さらに、外部量子効率-電流密度特性における最大外部量子効率EQEmaxは、実施例4で14%、実施例3、比較例5~8で約10%であり、概ね一致していた。このことから、電子受容性ユニットが共通していれば、その置換基を変更してΔESTを0.35eV以下に制御した場合でも、ドナー化合物のHOMOからアクセプター化合物(電子受容性ユニット)のLUMOへの電荷移動、電荷再結合、エキサイプレックス形成、キサイプレックスからの発光といった一連の発光プロセスが同様に起こることが示唆された。
【0118】
【化32】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の組成物は、エキサイプレックスによる発光を安定に持続することができる。このため本発明の組成物を有機発光素子の発光層材料に用いることにより、駆動寿命が長いエキサイプレックス発光素子を実現することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0120】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3