(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】パラレルワイヤ機構
(51)【国際特許分類】
B66D 1/40 20060101AFI20231204BHJP
B66D 3/18 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B66D1/40 A
B66D3/18 E
(21)【出願番号】P 2020010258
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】武田 行生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大輔
(72)【発明者】
【氏名】陳 光燦
(72)【発明者】
【氏名】武居 雅央
(72)【発明者】
【氏名】片村 立太
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚人
(72)【発明者】
【氏名】柳田 克巳
(72)【発明者】
【氏名】古賀 達雄
(72)【発明者】
【氏名】三谷 哲史
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193866(JP,A)
【文献】特開2005-154047(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0025498(KR,A)
【文献】特開2000-313590(JP,A)
【文献】特開2009-039814(JP,A)
【文献】特開2002-308569(JP,A)
【文献】特開2003-221186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/40
B66D 3/18
B66F 19/00
B66C 21/00
B66C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設現場に設置される
3本以上のワイヤと、
前記
3本以上のワイヤのそれぞれに設けられ各前記ワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うモータを有する複数のウインチと、
前記
3本以上のワイヤに接続されると共に前記
3本以上のワイヤに支持される作業対象物と、
前記作業対象物にかかる力を測定するセンサと、
前記センサによって測定された力に基づいて仮想的な慣性、粘性及びばね定数のうち少なくともいずれか1つを計算して前記作業対象物の目標位置、目標速度及び目標加速度の少なくともいずれかを算出する第1算出部と、
前記作業対象物が前記目標位置、前記目標速度及び前記目標加速度の少なくともいずれかで移動するための各前記ワイヤの巻き出し長さ、巻き出し速度及び巻き出し加速度の少なくともいずれかを各前記ウインチの前記モータごとに算出する第2算出部と、
前記巻き出し長さ、前記巻き出し速度及び前記巻き出し加速度の少なくともいずれかの指令値を各前記ウインチの前記モータに出力する出力部と、
を備え、
前記第1算出部は、ワイヤ張力の合力であるワイヤ駆動力、及び出力節の重力から静力学計算によって推定操作力を算出し、前記推定操作力から予め与えられている仮想質量、仮想粘性係数及び仮想ばねのばね定数によって前記作業対象物の目標位置を目標出力節位置として計算し、
前記第2算出部は、計算された前記目標出力節位置から逆運動学計算によって各前記ワイヤの目標ワイヤ長を各前記ワイヤの巻き出し長さとして算出
し、
前記作業対象物は、前記3本以上のワイヤによって3次元方向に移動する、
パラレルワイヤ機構
。
【請求項2】
前記第1算出部は、前記作業対象物の場所に応じて前記ばね定数を変化させる、
請求項
1に記載のパラレルワイヤ機構。
【請求項3】
前記第1算出部は、前記作業対象物の重力をキャンセルして前記目標位置、前記目標速度及び前記目標加速度のいずれかを算出し、
前記第1算出部は、前記作業対象物の重力の一部をキャンセルしないで前記算出を行う、
請求項1
または請求項2に記載のパラレルワイヤ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業対象物を吊り下げて作業対象物を移動させるパラレルワイヤ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業対象物を吊り下げて作業対象物を移動させる装置としては種々のものが知られている。特許文献1には、バランス用のシリンダを備えたホイストが記載されている。このホイストは、ガイドレールに沿って転動する複数のガイドローラと、複数のガイドローラの鉛直下方において複数のガイドローラに垂直プレート及びサポートを介して連結されたドラムと、ドラムから鉛直下方に延び出すワイヤと、ワイヤの下端に取り付けられたフックとを備える。このホイストでは、フックに物を引っ掛けた後に、ワイヤをドラムに巻き取って物を上昇させ、この状態でガイドレールに沿って複数のガイドローラを転動させることにより、物を所定の場所に移動させる。
【0003】
特許文献2には、フックに吊り下げられた荷を移動させるバランサーが記載されている。バランサーは、車輪付きの台座に立設された支柱と、支柱の上端で水平方向に回転可能とされた棒状のアームと、アームに沿って移動すると共にアームから鉛直下方に延びるトロリーと、トロリーの下端に設けられた動滑車と、動滑車から更に鉛直下方に延び出すフックとを備える。
【0004】
バランサーは、更に、支柱のアームとの反対側に位置するホイストと、ホイストからアームに沿って延びると共にトロリー及び動滑車に連結された索条とを備える。ホイストは、アームに索条を介して連結されたドラムと、ドラムの下部に位置するホイスト本体とを有する。フックに荷を引っ掛けた状態でドラムを回転させると、索条の巻き取りによってフックが上昇し、荷が吊り上げられる。この状態でトロリーをアームに沿って移動させることにより、荷を所定の場所に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭58-71094号公報
【文献】実登3027081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したようなホイスト及びバランサーでは、フックに物を引っ掛けてガイドレール又はアームに沿って物を移動させることが可能である。しかしながら、前述したホイストでは、ガイドレールが敷設された範囲でしか物を移動させることができない。また、前述したバランサーでは、アームの移動範囲でしか物を移動させることができないという問題が生じうる。
【0007】
前述したバランサーでは、支柱が延び出す台座に台車が設けられているものの、建設現場の状況によっては台座を容易に移動できない場合がある。例えば、現場の地面又は床面等に凹凸が形成されていたり段差が存在するような場合には台車を容易に移動できない。従って、前述したホイスト又はバランサーを用いた場合には、狭い範囲には荷を移動させることができるものの広域に荷を容易に移動させることはできないという問題がある。特に、建設現場では広域に作業対象物を移動させたいという要望が生じることがあるが、広域に作業対象物を容易に移動させることができていないという現状がある。
【0008】
本開示は、作業対象物に力を加えた方向に広域且つ容易に作業対象物を移動させることができるパラレルワイヤ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るパラレルワイヤ機構は、建設現場に設置される複数のワイヤと、複数のワイヤのそれぞれに設けられ各ワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うモータを有する複数のウインチと、複数のワイヤに接続されると共に複数のワイヤに支持される作業対象物と、作業対象物にかかる力を測定するセンサと、センサによって測定された力に基づいて仮想的な慣性、粘性及びばね定数のうち少なくともいずれか1つを計算して作業対象物の目標位置、目標速度及び目標加速度の少なくともいずれかを算出する第1算出部と、作業対象物が目標位置、目標速度及び目標加速度の少なくともいずれかで移動するための各ワイヤの巻き出し長さ、巻き出し速度及び巻き出し加速度の少なくともいずれかを各ウインチのモータごとに算出する第2算出部と、巻き出し長さ、巻き出し速度及び巻き出し加速度の少なくともいずれかの指令値を各ウインチのモータに出力する出力部と、を備える。
【0010】
このパラレルワイヤ機構では、複数のワイヤと、複数のワイヤに接続される作業対象物と、複数のワイヤのそれぞれに設けられ各ワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うモータを有する複数のウインチとを備え、各ウインチにおけるモータの各ワイヤの巻き出し及び巻き取りによって作業対象物が移動する。従って、複数のワイヤの間で囲まれた領域内において各ワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うことにより、作業対象物を移動させることができるので、作業対象物を容易に移動させることができる。また、複数のワイヤによって形成された3次元空間内の全体を作業対象物の可動範囲とすることができるため、作業対象物を広範囲に移動させることができる。加えて、このパラレルワイヤ機構は、複数のワイヤと、モータを有する複数のウインチとを備えていればよく、前述したガイドレール及びアーム等の重量設備を不要とすることができるので、パラレルワイヤ機構の設置及び盛り替えを容易に行うことができる。従って、広域の建設現場においてパラレルワイヤ機構の設置及び盛り替えを容易に行うことで、広域且つ容易に作業対象物を移動させることができる。更に、センサによって作業対象物にかかる力を測定し、測定した力に基づいて作業対象物を移動させることができるので、作業者は作業対象物に力を加えることで直感的に作業対象物を移動させることができる。
【0011】
また、第1算出部は、作業対象物の場所に応じてばね定数を変化させてもよい。この場合、近づくことが好ましくない場所に作業対象物が近づいたときにばね定数を変化させることによって、当該場所に作業対象物を近づけにくくすることができる。従って、ばね定数を変化させることにより、予め設定されている可動限界領域又は障害物等に作業対象物を近づけにくくする斥力を生じさせることができる。その結果、操作ミス等で作業対象物が可動限界領域又は障害物等に近接しようとした場合であっても、当該斥力によって当該近接を防止することができるので、建設現場における作業の安全性を高めることができる。
【0012】
また、第1算出部は、作業対象物の重力をキャンセルして目標位置、目標速度及び目標加速度のいずれかを算出し、第1算出部は、作業対象物の重力の一部をキャンセルしないで当該算出を行ってもよい。この場合、第1算出部は、作業対象物の重力をキャンセルして目標位置、目標速度及び目標加速度のいずれかを算出する。但し、第1算出部は、作業対象物が地面又は床面に載置されているとき等には、作業対象物の重力の一部をキャンセルしないで当該算出を行う。従って、重力の一部がキャンセルされないことにより、例えば地面又は床面に載置した作業対象物を移動させたい状況下において、作業対象物の重力の一部が地面又は床面等に付与されることとなる。その結果、地面又は床面に所望の荷重を与えることができると共に、当該荷重を必要量だけ低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、作業対象物に力を加えた方向に広域且つ容易に作業対象物を移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るパラレルワイヤ機構が適用される建設現場を模式的に示す図である。
【
図2】(a)及び(b)のそれぞれは、変形例に係るパラレルワイヤ機構を模式的に示す図である。
【
図3】
図1のパラレルワイヤ機構の機能を示すブロック図である。
【
図4】
図1のパラレルワイヤ機構によって行われる各種計算を示すブロック線図である。
【
図5】
図1のパラレルワイヤ機構によるワイヤの巻き出し長さの計算を模式的に示す図である。
【
図6】変形例に係るパラレルワイヤ機構によって行われるポテンシャル法の説明のための図である。
【
図7】
図6のパラレルワイヤ機構によって行われる各種計算を示すブロック線図である。
【
図8】更なる変形例に係るパラレルワイヤ機構が適用される建設現場を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら本開示に係るパラレルワイヤ機構の実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るパラレルワイヤ機構1、及びパラレルワイヤ機構1が適用される建設現場Aを示している。パラレルワイヤ機構1は、作業対象物Tを支持する複数のワイヤ5を備える。本開示において、「作業対象物」とは、建設現場で行われる作業において用いられる資材を示している。建設現場Aは、例えば、特殊設備が必要であったり、人の進入が困難な場所であってもよく、このような場所でもパラレルワイヤ機構1は、ワイヤ5を用いて作業対象物Tを自在に移動させることが可能である。
【0017】
パラレルワイヤ機構1は、例えば、
図1に示されるような建設現場Aに設けられる3次元の懸垂型パラレルワイヤ機構であって、後述のバランサー制御によって作業対象物Tを所望の位置に移動させる。すなわち、パラレルワイヤ機構1は、広域に作業対象物Tを移動させることが可能な広域バランサー装置として用いることが可能である。例えば、作業対象物Tは、作業者M(
図2(a)又は
図2(b)参照)に引っ張られたり押されたりすることによって、力が加えられて移動する。一例として、作業者Mは、介錯ロープを引っ張って作業対象物Tを移動させる。
【0018】
なお、4本のワイヤ5が設けられる
図1に限られず、
図2(a)の変形例に示されるように、ワイヤ5の本数が3本である懸垂型パラレルワイヤ機構であってもよい。更に、
図2(b)の変形例に示されるように、2本のワイヤ5を備える2次元の懸垂型パラレルワイヤ機構であってもよい。一例として、作業者Mはリモコンによって作業対象物Tを移動させてもよい。
【0019】
図1に示されるように、パラレルワイヤ機構1は、例えば、複数の柱2と、複数の柱2のそれぞれに取り付けられた複数のシーブ3と、複数の柱2のそれぞれの下部に位置する複数のウインチ6と、各ウインチ6から上方に伸びると共にシーブ3に掛け渡される複数本のワイヤ5とを備える。柱2及びシーブ3は、例えば、建設現場Aに予め設けられたものであってもよい。
【0020】
複数のシーブ3のそれぞれは、例えば、各柱2の上端に取り付けられている。また、シーブ3は柱2以外のものに取り付けられていてもよい。一例として、柱2、シーブ3、ワイヤ5及びウインチ6の組数は、4組である。しかしながら、柱2、シーブ3、ワイヤ5及びウインチ6の数は、3組以上であれば組数は限定されず適宜変更可能である。また、
図1に示される例に代えて、ウインチの本体が柱2の上部に設けられる場合には、シーブ3を不要とすることができる。
【0021】
柱2は、一例として、H鋼である。しかしながら、柱2の種類は、例えば、鋼管柱であってもよく、適宜変更可能である。平面視において、複数のワイヤ5は、各シーブ3から複数の柱2で囲まれた領域の内側に伸び出しており、結束点Pにおいて互いに交差している。また、複数のワイヤ5は、作業対象物Tの重力によって各シーブ3から結束点Pに向かって斜め下方に伸びている。
【0022】
複数のワイヤ5の結束点Pには、例えば、フックF及び紐Bを介して吊り荷である作業対象物Tが吊り下げられる。作業対象物Tは、例えば、建設現場Aにおいて搬送される搬送対象物(資材)である。なお、作業対象物Tは、資材に限られず、ロボットのエンドエフェクタ、建設現場Aを撮影するカメラ、又は建設現場Aの検査を行う各種検査装置であってもよく、作業対象物Tの種類は適宜変更可能である。
【0023】
図3は、パラレルワイヤ機構1の機能を示すブロック図である。
図1及び
図3に示されるように、各ウインチ6は、各ワイヤ5の巻き出し及び巻き取りを行うモータ7を備える。各ウインチ6の各モータ7で各ワイヤ5の巻き出し及び巻き取りが行われることにより、複数の柱2で囲まれた領域の範囲内において作業対象物Tを所望の位置に移動させることが可能である。
【0024】
パラレルワイヤ機構1は、例えば、作業者Mが作業対象物Tに力を加えて移動させるときのアシストを行う。例えば、パラレルワイヤ機構1は、ワイヤ5ごとに設けられた複数(例えば4個)のセンサ11と、制御部10と、モータ7が内蔵された複数のウインチ6とを含む。
【0025】
複数のセンサ11のそれぞれは、作業対象物Tにかかっている外力を測定する。センサ11としては、例えば、シーブ3に設けられると共にワイヤ5の張力を測定する張力センサを用いることが可能である。シーブ3に設けられた張力センサであるセンサ11を用いる場合、既存の張力センサを有効利用することが可能である。なお、センサ11の位置は、シーブ3の近傍であってもよいし、作業対象物Tの近傍(例えばフックF)であってもよい。また、張力センサ以外の力センサによって作業対象物Tに加えられた外力が測定されてもよい。
【0026】
制御部10は、例えば、バランサー制御を行って作業対象物Tの移動を制御する。バランサー制御とは、作業対象物Tに仮想的な慣性、粘性及びばね定数を与え、これにより、作業対象物Tに対するパワーアシストの特性(例えば、作業対象物Tをどの程度軽い力で動かせるか、及び作業対象物Tに力を加えるのを止めたときにどの程度早く作業対象物Tの動きが止まるか)を変化させる制御のことをいう。
【0027】
制御部10は、例えば、インピーダンス制御によって作業対象物Tの移動を制御する。インピーダンス制御とは、あるものに外から力が加えられたときに生じる機械的なインピーダンス(慣性、粘性及びばね定数)を所望の値に設定するための位置と力の制御手法を示している。
【0028】
制御部10は、センサ11によって作業対象物Tにかかっている外力を測定し、外力がかかっているときにおける仮想的な慣性、粘性及びばね定数を含む系の挙動をインピーダンスモデルによって計算し、この計算の計算値で作業対象物Tを動かすことによって所望のインピーダンス特性を実現する。なお、本実施形態において、インピーダンス制御で計算される仮想的な慣性、粘性及びばね定数は、作業対象物Tの物理的パラメータと同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0029】
制御部10は、一例として、作業対象物Tの目標位置を算出する第1算出部12と、各ワイヤ5の巻き出し長さをモータ7ごとに算出する第2算出部13と、第2算出部13が算出したワイヤ5の巻き出し長さの指令値を各モータ7に出力する出力部14とを備える。第1算出部12は、センサ11によって測定された力に基づいて仮想的な慣性、粘性及びばね定数を計算して作業対象物Tの目標位置を算出する。
【0030】
センサ11、第1算出部12、第2算出部13及び出力部14の例示的な計算のブロック線図を
図4に示している。
図4において、τ
mは計測されたワイヤ5の張力、P
refは目標出力節位置、f
ext,estは推定操作力、L
refは目標ワイヤ長、をそれそれ示す。センサ11は、例えば、計測ワイヤ張力τ
mを測定する。
【0031】
本実施形態において、第1算出部12は、各センサ11の値から作業者Mが作業対象物Tに加えた力を計算する。このとき、以下の静力学計算によって作業対象物Tの自重による力(重力)をキャンセルする。具体例として、第1算出部12は、計測ワイヤ張力τmを用いて、静力学計算、不感帯処理、及びインピーダンスモデルによる計算を行って目標出力節位置Prefを作業対象物Tの目標位置として算出する。例えば、第1算出部12による静力学計算は下記の式(1)によって行われる。
【0032】
【数1】
式(1)において、-f
wireはワイヤ駆動力(ワイヤ張力の合力)、Gは出力節の重力を示している。例えば、第1算出部12による不感帯処理は下記の式(2)によって行われる。
【0033】
【0034】
第1算出部12は、作業者が作業対象物Tに加えた推定操作力fext,estから予め与えられているインピーダンスパラメータ(例えば、仮想質量M、仮想粘性係数C及び仮想ばねのばね定数K)によって作業対象物Tの目標位置を目標出力節位置Prefとして計算する。なお、第1算出部12は、作業対象物Tの目標位置に代えて、作業対象物Tの目標速度又は目標加速度を算出してもよい。作業者Mが付与した力に応じて作業対象物Tを迅速に移動させたい場合、仮想粘性係数Cと仮想質量Mはなるべく小さい値であることが好ましい。但し、仮想粘性係数C及び仮想質量Mは、あまり小さい数値であると振動を生じさせる可能性があるため、振動しない範囲でなるべく小さい値であることが好ましい。仮想ばねのばね定数Kは、作業者が付加した力を除いたときに元の場所に戻る必要がない場合には、0であることが好ましい。
【0035】
第2算出部13は、計算された目標出力節位置P
refから逆運動学計算によって各ワイヤ5の目標ワイヤ長L
refを各ワイヤ5の巻き出し長さとして算出する。第2算出部13は、ワイヤ5の巻き出し長さに代えて、ワイヤ5の巻き出し速度又は巻き出し加速度を算出してもよい。
図5のx1,x2,x3,x4のそれぞれは、現在位置の作業対象物Tを吊り下げている4本のワイヤ5のうち、第1ワイヤの巻き出し長さx1、第2ワイヤの巻き出し長さx2、第3ワイヤの巻き出し長さx3、及び第4ワイヤの巻き出し長さx4を示している。
図5に示されるように、第2算出部13は、目標位置の作業対象物Tを吊り下げている4本のワイヤ5のうち、第1ワイヤの巻き出し長さy1、第2ワイヤの巻き出し長さy2、第3ワイヤの巻き出し長さy3、第4ワイヤの巻き出し長さy4のそれぞれを算出してもよい。
【0036】
出力部14は、各ワイヤ5の巻き出し長さの指令値(例えば、前述した巻き出し長さy1,y2,y3,y4のそれぞれ)を駆動系である各モータ7に出力する。このように出力部14が各モータ7に巻き出し長さの指令値を出力して各ワイヤ5が当該指令値に基づく巻き出し長さで巻き出されることにより、作業対象物Tを所望の位置に移動させることが可能となる。
【0037】
次に、本実施形態に係るパラレルワイヤ機構1の作用効果について説明する。
図1及び
図3に示されるように、パラレルワイヤ機構1では、複数のワイヤ5と、複数のワイヤ5に接続される作業対象物Tと、複数のワイヤ5のそれぞれに設けられ各ワイヤ5の巻き出し及び巻き取りを行う複数のウインチ6を備える。各ウインチ6におけるモータ7の各ワイヤ5の巻き出し及び巻き取りによって作業対象物Tが移動する。
【0038】
従って、複数のワイヤ5の間で囲まれた領域内において各ワイヤ5の巻き出し及び巻き取りを行うことにより、作業対象物Tを移動させることができるので、作業対象物Tを容易に移動させることができる。また、複数のワイヤ5によって形成された3次元空間内の全体を作業対象物Tの可動範囲とすることができるため、作業対象物Tを広範囲に移動させることができる。
【0039】
パラレルワイヤ機構1は、複数のワイヤ5と、モータ7を有する複数のウインチ6とを備えていればよく、クレーン、ガイドレール又はアーム等の重量設備を不要とすることができるので、パラレルワイヤ機構1の設置及び盛り替えを容易に行うことができる。従って、広域の建設現場Aにおいてパラレルワイヤ機構1の設置及び盛り替えを容易に行うことで、広域且つ容易に作業対象物Tを移動させることができる。
【0040】
センサ11によって作業対象物Tにかかっている外力を測定し、測定した力に基づいて作業対象物Tを移動させることができるので、作業者Mは作業対象物Tに力を加えることで直感的に作業対象物Tを移動させることができる。更に、本実施形態では、建設現場Aの床面に作業対象物Tの荷重をかけずに作業対象物Tを移動することが可能であるため、積載荷重に制限がある施工中のデッキスラブ上等であっても利用可能である。
【0041】
次に、変形例に係るパラレルワイヤ機構1について
図6及び
図7を参照しながら説明する。以下では、前述した実施形態に係る内容と重複する説明を適宜省略する。変形例に係るパラレルワイヤ機構1は、作業対象物Tの可動範囲外への作業対象物Tの移動を規制したり、障害物Wを回避したりするためにポテンシャル法を用いる。
【0042】
ポテンシャル法は、経路導出手法の一つであり、ポテンシャル法を利用することで障害物Wや上記の可動範囲外の領域等、作業対象物Tを近づかせたくない場所と作業対象物Tの目標位置との距離に応じて、作業対象物Tを押し戻す力を変化させることができる。ポテンシャル法では、当該目標位置と障害物Wの位置にポテンシャル関数を定義し、当該ポテンシャル関数の勾配値を障害物Wに向かうにつれて大きくすることで障害物Wへの接近を抑制しつつ、上記の目標位置への移動経路を導出する。ポテンシャル法では、作業対象物Tの経路をリアルタイムに変更可能とされている。
【0043】
例えば、変形例に係るパラレルワイヤ機構1では、第1算出部12がポテンシャル法を用いて仮想剛性を算出する。第1算出部12は、一例として、作業対象物Tの位置(下記のxの値)に応じて以下の式(3)を用いて仮想剛性としてのばね定数Kを算出する。
【数3】
【0044】
上記のように、式(3)では、作業対象物Tの位置に応じて仮想ばねのばね定数Kが0である場合もあれば0以外の値である場合もある。このように、作業対象物Tの位置に応じてばね定数Kを変化させることにより、作業対象物Tの移動に対してばね力を生じさせることが可能となる。従って、障害物Wに近づく作業対象物Tに対して障害物Wから作業対象物Tを押し戻すばね力を生じさせることが可能となる。
【0045】
以上、変形例に係るパラレルワイヤ機構1において、第1算出部12は、作業対象物Tの場所に応じてばね定数Kを変化させる。従って、近づくことが好ましくない場所に作業対象物Tが近づいたときにばね定数Kを変化させることによって、当該場所に作業対象物Tを近づけにくくすることができる。
【0046】
更に、ばね定数Kを変化させることにより、予め設定されている可動限界領域又は障害物W等に作業対象物Tを近づけにくくする斥力を生じさせることができる。その結果、操作ミス等で作業対象物Tが可動限界領域又は障害物W等に近接しようとした場合であっても、当該斥力によって当該近接を防止することができるので、建設現場における作業の安全性を高めることができる。
【0047】
なお、前述した変形例では、作業対象物Tに距離センサが搭載され、当該距離センサがリアルタイムで障害物Wとの距離を測定し、当該距離センサの測定の結果に応じて障害物Wに対する回避が行われてもよい。この場合、上記同様、第1算出部12は、作業対象物Tの場所に応じてばね定数Kを変化させるので、障害物Wへの接触を回避することができる。
【0048】
続いて、更なる変形例に係るパラレルワイヤ機構1について
図8を参照しながら説明する。このパラレルワイヤ機構1では、広域荷重低減追従制御を行う。すなわち、本変形例では、前述した吊り荷である作業対象物Tに代えて、床Cに力がかかる作業対象物Vの移動を制御する。作業対象物Vは、自走する機能を有していてもよいし、自走する機能を有していなくてもよい。
【0049】
例えば、床Cにはコンクリートが打設されており、作業対象物Vはコンクリート仕上げロボットである。一例として、作業対象物Vの自重は200kgである。本変形例において、複数のワイヤ5の結束点は作業対象物Vに設けられており、パラレルワイヤ機構1は床Cにかかる荷重を低減する。この作業対象物Vも、前述した作業対象物Tと同様、複数のワイヤ5によって形成された領域内を自由に移動することが可能である。
【0050】
本変形例に係るパラレルワイヤ機構1において、第1算出部12は、静力学計算を行うときに作業対象物Vの自重による力(重力)の一部をキャンセルしないで作業対象物Vの目標位置を算出する。具体例として、作業対象物Vの自重が200kgであって床Cへの荷重を50kgまで低減させるときには150kg分をキャンセルする。
【0051】
以上、本変形例に係るパラレルワイヤ機構1において、第1算出部12は、作業対象物Vの重力の一部をキャンセルしないで作業対象物Vの目標位置を算出する。よって、作業対象物Vが床C(地面又は床面等)に載置されているとき等に、第1算出部12は、作業対象物Vの重力の一部をキャンセルしないで当該算出を行う。
【0052】
従って、作業対象物Vの重力の一部がキャンセルされないことにより、床Cに載置した作業対象物Vを移動させたい状況下において、作業対象物Vの重力の一部が床Cに付与されることとなる。その結果、床Cに所望の荷重を与えることができると共に、当該荷重を必要量だけ低減させることができる。例えば、作業対象物Vがコンクリ―ト仕上げロボットである場合に、打設後のコンクリート天端(表面)に仕上げのために必要なだけの荷重をかけつつ、ロボット自身の自重の全てはかけないようにすることができる。これにより、200kgの集中荷重(ロボット自身の自重)により硬化前のコンクリ―ト天端(表面)を陥没させることなく、平滑に仕上を行うことができる。
【0053】
以上、本開示に係るパラレルワイヤ機構1の実施形態及び変形例について説明した。しかしながら、本開示に係るパラレルワイヤ機構は、前述した実施形態又は変形例に限定されるものではなく、各請求項に記載された要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、パラレルワイヤ機構の各部の構成、機能、形状、大きさ、数及び配置態様は、各請求項の要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0054】
例えば、前述の実施形態では、複数のワイヤ5の結束点Pに作業対象物Tが吊り下げられる例について説明した。しかしながら、作業対象物は、複数のワイヤの結束点でない場所に吊り下げられていてもよい。すなわち、作業対象物は、複数のワイヤに接続されていればよい。
【0055】
また、前述の実施形態では、柱2及びシーブ3が設けられた建設現場Aにおいてパラレルワイヤ機構1を用いて作業対象物Tを移動させる例について説明した。しかしながら、本開示に係るパラレルワイヤ機構が用いられる建設現場の構成及び種類は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…パラレルワイヤ機構、2…柱、3…シーブ、5…ワイヤ、6…ウインチ、7…モータ、10…制御部、11…センサ、12…第1算出部、13…第2算出部、14…出力部、A…建設現場、B…紐、C…床、F…フック、K…ばね定数、M…作業者、P…結束点、T,V…作業対象物、W…障害物。