(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】電池分析用構造体およびX線回折装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20231204BHJP
【FI】
G01N23/20025
(21)【出願番号】P 2021541990
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014523
(87)【国際公開番号】W WO2021038943
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019154312
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0192121(US,A1)
【文献】特開2012-159311(JP,A)
【文献】特開平10-54809(JP,A)
【文献】特開2015-232546(JP,A)
【文献】特開2017-72530(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230971(WO,A1)
【文献】中国実用新案第205352967(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料電池を収容するための中空部が形成された電池収容ユニットと、
前記電池収容ユニットの一端面側に装着され、当該電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池に圧力を作用させるための加圧機構を備えた加圧ユニットと、
前記電池収容ユニットの他端面側に固定され、前記試料電池に作用する圧力を受ける圧受けユニットと、を備え、
前記圧受けユニットには、前記電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池にX線を照射するとともに、当該試料電池から反射してきた回折X線を外部へ出射させるためのX線窓が、正面から裏面に貫通する切欠孔により形成してあり、
前記X線窓には、X線を透過するが、前記電池収容ユニット内の中空部を大気から遮断する仕切部材を配置
し、
且つ、前記試料電池は、電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側にそれぞれ集電体層が配置された構成であり、
前記一方の集電体層と電気的に導通する第1電極端子と、前記他方の集電体層と電気的に導通する第2電極端子とを、外部に設け、
前記第1電極端子は、前記圧受けユニットの外部に設けてあり、
前記圧受けユニットは、導電性を有する金属部材で構成され、当該圧受けユニットを介して前記一方の集電体層と前記第1電極端子とが電気的に導通することを特徴とする電池分析用構造体。
【請求項2】
前記圧受けユニットと前記電池収容ユニットとを一体形成したことを特徴とする請求項1に記載の電池分析用構造体。
【請求項3】
前記X線窓は、前記電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池が前記仕切部材に当接する押圧領域よりも、小さい幅に形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池分析用構造体。
【請求項4】
前記加圧機構は、少なくとも前記試料電池に作用させる圧力を調整するボルト部材を有し、
前記加圧ユニットには、前記ボルト部材を螺合するナット部が形成してあり、
前記電池収容ユニットの中空部内には、押圧部材が挿入され、前記試料電池は、当該押圧部材を介して、前記ボルト部材からの圧力を受けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電池分析用構造体。
【請求項5】
前記電池収容ユニットの中空部内にはめ込まれ、当該中空部内に収容される前記試料電池の外周面を絶縁するとともに、前記X線窓を閉塞するための絶縁部材を備え、
前記絶縁部材は、先端面が気密部材を介して前記仕切部材に押し当てられ、その押圧力をもって前記仕切部材が前記X線窓の周囲に密接して当該X線窓を閉塞することを特徴とす
る請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電池分析用構造体。
【請求項6】
前記電池収容ユニットの一端面側と、当該一端面側に装着される前記加圧ユニットの一端面側との間に雌雄のねじ部を設け、当該ねじ部のねじ込み操作をもって前記加圧ユニットの一端面側を前記電池収容ユニットの一端面側に装着して、当該ユニット間を密閉する構成としたことを特徴とする請求項5に記載の電池分析用構造体。
【請求項7】
前記加圧ユニットは、前記ねじ部が設けられていない他端面側に前記加圧機構が露出しており、前記加圧ユニットの他端面側に露出した前記加圧機構の周囲を気密にする気密ケースユニットを備え、
前記加圧ユニットの他端面側と、当該他端面側に装着される前記気密ケースユニットの一端面側との間に雌雄の第2ねじ部を設け、当該第2ねじ部のねじ込み操作をもって前記気密ケースユニットの一端面側を前記加圧ユニットの他端面側に装着して密閉する構成としたことを特徴とする請求項6に記載の電池分析用構造体。
【請求項8】
前記加圧機構は、導電性を有する金属部材で構成され、当該加圧機構を介して前記他方の集電体層と前記第2電極端子とが電気的に導通することを特徴とする請求項
1に記載の電池分析用構造体。
【請求項9】
前記仕切部材を、前記試料電池を構成する前記集電体層の一方として構成し、
前記加圧機構は、前記仕切部材と前記試料電池を構成する一方の電極活物質層とが密着するよう、前記試料電池及び前記仕切部材を前記圧受けユニットの裏面に押し付ける構成としたことを特徴とする請求項
1に記載の電池分析用構造体。
【請求項10】
前記X線窓の正面開口部から嵌め込まれ、先端面が当該X線窓の裏面開口部を埋めるように配置されるブロックホルダを備えたことを特徴とする請求項1乃至
9に記載の電池分析用構造体。
【請求項11】
前記加圧ユニットは、前記押圧部材に作用する圧力に関する電気信号を出力する出力部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の電池分析用構造体。
【請求項12】
前記圧受けユニットに形成される前記X線窓の裏面周辺に凹部を設け、当該凹部に薄板状のガラス状カーボン又はベリリウムを配置することを特徴とする請求項1乃至
11に記載の電池分析用構造体。
【請求項13】
X線回折装置に回動自在に装着される請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の電池分析用構造体であって、
前記X線回折装置に設けた位置決め部に当接して、当該X線回折装置から照射されるX線に対して前記X線窓を位置決めする位置決め用当接部を備えたことを特徴とする電池分析用構造体。
【請求項14】
前記位置決め用当接部は、前記X線回折装置に対して回動自在に回動する際の回動中心に関して対称な2箇所に設けてあることを特徴とする請求項
13に記載の電池分析用構造体。
【請求項15】
X線回折装置に回動自在に装着される請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の電池分析用構造体であって、
前記X線回折装置に設けた円形溝で構成された装着ステージに配置され、当該装着ステージの円形溝に案内されて回動自在な、円形の底面および円周面を有する基部を備えたことを特徴とする電池分析用構造体。
【請求項16】
請求項1乃至
15のいずれか一項に記載の電池分析用構造体を装着し、前記X線窓を通して前記電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池にX線を照射することによりX線回折測定を実施する構成を備えたことを特徴とするX線回折装置。
【請求項17】
請求項
16に記載のX線回折装置において、
前記電池分析用構造体のX線窓を位置決めするための位置決め部を有する位置決めブロックと、
前記位置決めブロックに着脱自在であって、前記電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池以外から発生するX線散乱線を低減するスリットと、を備えたことを特徴とするX線回折装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全固体電池をX線回折測定により評価する際に用いられる電池分析用構造体と、この電池分析用構造体が装着されるX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、電解質層の両端側に電極活物質層を有する構成となっており、充放電サイクル時に容量劣化や抵抗上昇を引き起こす。例えば、全固体リチウムイオン電池ではリチウムイオン(Li)の挿入・脱離に伴い、結晶構造の変化を生じやすいことから、劣化機構の解明にあたって、充放電に伴う結晶構造の変化をX線回折測定により評価することが行われている。 特許文献1及び2には、X線回折測定による試料電池の評価に用いられる、従来の電池分析用構造体が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたX線測定用電池構造体は、電池要素(2)を負極側カバー(5a)と正極側カバー(5b)とで挟み込み、多くのナット(22)を使用してこれら各カバー(5a、5b)を締め付けて電池要素(2)を密封し、大気と遮断する構成を備えている。なお、ナット(22)による締め付け構造は、電池要素(2)の気密性を確保するためのものである(同文献1の明細書段落「0020」を参照)。
【0004】
また、特許文献2に開示された分析用セルは、第1部材(11)、第2部材(21)、第3部材(31)を含む筐体(10)を備えており、この筐体(10)内に試料電池(100)を収容して、X線回折測定により評価を行う構成を備えている。筐体(10)を構成する各部材(11,21,31)は、それら各部材に設けられた多数の貫通孔(12、22、32)にボルトを挿入し、ナットで締め付けることで組み立てられる(同文献2の明細書段落「0053」を参照)。
なお、カッコ内の符号は、各特許文献において、それぞれ各構成要素に付されていたものである(以下、同様)。
【0005】
さて、全固体電池では、電解質層に固体の電解質が用いられている。全固体電池の内部では、充放電に伴い、各要素となる電極活物質層、固体電解質層、導電材等が膨張収縮し、粒子間の空隙や固体電解質層と電極活物質層との界面の剥離、又は内部クラックなどの現象が生じやすく、これらの現象が生じた場合に電池として正常に機能しなくなってしまう。そこで、この種の全固体電池を試料電池として分析評価を実施する場合には、試料電池を加圧状態で保持し、導電パスの確保や充放電に伴う膨張収縮を抑制する必要がある。
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1及び2に開示された従来の電池分析用構造体(分析用セル)は、いずれも試料電池を加圧状態に保持して、導電パスの確保や充放電に伴う試料電池の膨張収縮を抑制できる構成を備えていない。
【0007】
ちなみに、特許文献1に開示されたナット(22)による締め付け構造は、電池要素(2)の気密性を確保するためのものであり、しかも弾性部材(4a,4b)が介在するため、ナット(22)を締め付けても、導電パスの確保や膨張収縮を抑制できる程の大きな圧力を試料電池に作用させることができない。
【0008】
また、特許文献2には、押し棒で構成された加圧機構(46)が開示されているが、この加圧機構(46)は、試料電池の要素である電極活物質(112)、試料電極(110)及び窓部材(51)の一部を、筐体(10)の窓部(13)から突出させるためのものである(同文献2の明細書段落「0042」と
図3を参照)。
【0009】
このように電極活物質(112)、試料電極(110)及び窓部材(51)の一部を、筐体(10)の窓部(13)から突出させることで、電極活物質(112)と試料電極(110)の周囲を窓部材(51)により被覆し、試料電極(110)と窓部材(51)との間への電解液の侵入防止と、試料電池の密閉性向上が図られる(同文献2の明細書段落「0054」を参照)。
【0010】
しかしながら、同文献2の加圧機構(46)では、押し棒と対向する側に押し棒の押圧力を受ける部材が配置されてなく、窓部材(51)が引き延ばされながらその押圧力を受ける構造となっているので、かかる加圧機構(46)によっても、導電パスの確保や膨張収縮を抑制できる程の大きな圧力を試料電池に作用させることができない。
【0011】
また、全固体電池を構成する各要素は、水分や空気に反応する材料であることから、電池を収納して電池分析用構造体(分析用セル)を組み立てる作業は、試料電池の各要素が水分や空気に触れない環境下で行う必要がある。例えば、全固体リチウムイオン電池を試料電池とする場合にあっては、内部空間を高純度のアルゴンガス雰囲気にしたグローブボックス内で、同構造体の組み立て作業を行う。作業員は、グローブを介した外部からの操作をもって、同構造体の組み立て作業を実施する。
【0012】
ところが、上述した各特許文献に開示された従来技術では、いずれも組み立てに際して多くのナットを締め付ける作業が必要となるため、グローブボックス内での組み立て作業は煩雑となる欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2012-159311号公報
【文献】特開2017-72530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、試料電池を加圧してその膨張収縮を抑制することのできる電池分析用構造体の提供を第1の目的とする。
また、本発明は、簡単な組み立て作業で試料電池を収容して密封でき、大気中におけるX線回折測定を用いた試料電池の分析評価を実現することができる電池分析用構造体の提供を第2の目的とする。
さらに、本発明は、かかる電池分析用構造体を用いて高精度に試料電池を測定することのできるX線回折装置の提供を第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る電池分析用構造体は、試料電池を収容するための中空部が形成された電池収容ユニットと、電池収容ユニットの一端面側に装着され、当該電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池に圧力を作用させるための加圧機構を備えた加圧ユニットと、電池収容ユニットの他端面側に固定され、試料電池に作用する圧力を受ける圧受けユニットと、を備えている。圧受けユニットには、電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池にX線を照射するとともに、当該試料電池から反射してきた回折X線を外部へ出射させるためのX線窓が、正面から裏面に貫通する切欠孔により形成してある。X線窓には、X線を透過するが、電池収容ユニット内の中空部を大気から遮断する仕切部材が配置される。
【0016】
かかる構成の本発明は、電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池を、加圧ユニットと圧受けユニットとの間で加圧して、その導電パスの確保や、膨張収縮を抑制することができる。
【0017】
なお、圧受けユニットと電池収容ユニットは、一体形成して一つのユニットで構成することもできる。
【0018】
また、X線窓は、電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池が仕切部材に当接する押圧領域よりも、小さい幅に形成することが好ましい。
X線窓をこのような幅に形成することで、加圧ユニットからの圧力を受けるために充分な面積を圧受けユニットの裏面に確保することができる。
【0019】
また、加圧機構は、少なくとも試料電池に作用させる圧力を調整するボルト部材を有し、加圧ユニットには、ボルト部材を螺合するナット部を形成した構成とすることができる。さらに、電池収容ユニットの中空部内には、押圧部材が挿入され、試料電池は、当該押圧部材を介して、ボルト部材からの圧力を受ける構成とすることができる。
この構成により、一本のボルト部材をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、試料電池に所望の圧力を加えることができる。
【0020】
特に、全固体電池は、充放電を繰り返した際の膨張収縮による、粒子間の空隙や固体電解質層と電極活物質層との界面の剥離、または内部クラックなどが生じやすく、電池として正常に機能をしないことから、実験において常時、高い圧力を作用しておく必要がある。この加圧状態を形成するために、簡単な作業で試料電池を加圧できる構成を備えることは、適切な評価作業を円滑に実行するために好ましい。
【0021】
また、本発明は、電池収容ユニットの中空部内にはめ込まれ、当該中空部内に収容される試料電池の外周面を絶縁するとともに、X線窓を閉塞するための絶縁部材を備えた構成とすることができる。絶縁部材は、先端面が気密部材を介して仕切部材に押し当てられ、その押圧力をもって仕切部材がX線窓の周囲に密接して当該X線窓を閉塞する。
このように構成することで、絶縁部材により試料電池の外周面に対する絶縁が確保され、しかもX線窓を気密にすることもできる。
【0022】
また、本発明は、電池収容ユニットの一端面側と、当該一端面側に装着される加圧ユニットの一端面側との間に雌雄のねじ部を設け、当該ねじ部のねじ込み操作をもって加圧ユニットの一端面側を電池収容ユニットの一端面側に装着して、当該ユニット間を密閉する構成とすることもできる。
【0023】
このように構成することで、雌雄一対のねじ部をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、加圧ユニットを電池収容ユニットに装着して、試料電池を収容した電池収容ユニット内の中空部を密閉することができる。
したがって、作業者は、グローブを介したグローブボックス外部からの組み立て作業であっても、容易にその作業を行うことができる。なお、ドライルームなどの比較的広いスペースで組み立て作業を行う場合にあっても、作業が容易であることに変わりはない。
【0024】
また、加圧ユニットは、ねじ部が設けられていない他端面側に加圧機構を露出させ、この他端面側から加圧操作を行う構成とすることができる。このように構成した場合には、加圧ユニットの他端面側に露出した加圧機構の周囲を気密にする気密ケースユニットを備え、加圧ユニットの他端面側と、当該他端面側に装着される気密ケースユニットの一端面側との間に雌雄の第2ねじ部を設け、当該第2ねじ部のねじ込み操作をもって気密ケースユニットの一端面側を加圧ユニットの他端面側に装着して密閉する構成とすることが好ましい。
このように構成することで、加圧機構が露出する加圧ユニットの他端面側の空間を、気密ケースユニットにより気密状態とすることができる。
【0025】
試料電池は、例えば、電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側にそれぞれ集電体層が配置された構成となっている。
このような構成の試料電池を分析対象とする場合は、一方の集電体層と電気的に導通する第1電極端子と、他方の集電体層と電気的に導通する第2電極端子とを、外部に設けた構成とすることが好ましい。
これら各電極端子の間を充放電装置と接続することで、試料電池を充放電することができ、その充放電サイクルの過程における試料電池の評価を継続して実施することが可能となる。
【0026】
ここで、第1電極端子は、圧受けユニットの外部に設けるとともに、圧受けユニットは、導電性を有する金属部材で構成し、当該圧受けユニットを介して一方の集電体層と第1電極端子とが電気的に導通する構成とすることができる。
【0027】
また、加圧機構は、導電性を有する金属部材で構成し、当該加圧機構を介して他方の集電体層と第2電極端子とが電気的に導通する構成とすることができる。
【0028】
さらに、本発明は、仕切部材を、試料電池を構成する集電体層の一方として構成し、加圧機構は、仕切部材と試料電池を構成する一方の電極活物質層とが密着するよう、試料電池及び仕切部材を圧受けユニットの裏面に押し付ける構成とすることができる。
これにより仕切部材を別途用意する必要がなくなり、部品点数が一つ減少する。
【0029】
ここで、X線窓の裏面開口部に配置された集電体層に圧力が作用した場合、X線窓を形成する切欠孔に集電体層の一部が押し込まれて凹凸や皺ができるおそれがある。
そこで、X線窓の正面開口部から嵌め込まれ、先端面が当該X線窓の裏面開口部を埋めるように配置されるブロックホルダを備えた構成とすることが好ましい。
このブロックホルダの先端面が、X線窓の裏面開口部を埋めることで、X線窓内に集電体層の一部が押し込まれることを阻止することができる。
【0030】
また、加圧ユニットは、押圧部材に作用する圧力に関する電気信号を出力する出力部を備えた構成とすることができる。この出力部から出力した電気信号により押圧部材に作用する圧力を計測することで、充放電に伴う試料電池の体積変化を圧力計で計測でき、かつ結晶構造の変化との相関関係を分析評価することが可能となる。
【0031】
さらに、本発明は、圧受けユニットに形成されるX線窓の裏面周辺に凹部を設け、当該凹部に薄板状のガラス状カーボン(グラッシーカーボン)又はベリリウムを配置した構成とすることもできる。
グラッシーカーボンと称するガラス状カーボンやベリリウムは、X線を透過し、大気を遮断する性質を有している。しかも、圧力に対する耐性が高いので、試料電池に作用する圧力を受けてもX線窓の切欠孔内に押し込まれることがなく、仕切部材や試料電池を平坦面で支持することができる。
【0032】
また、本発明は、X線回折装置に設けた位置決め部に当接して、当該X線回折装置から照射されるX線に対してX線窓を位置決めする位置決め用当接部を備えた構成とすることもできる。
【0033】
ここで、位置決め用当接部を、X線回折装置に対して回動自在に回動する際の回動中心に関して対称な2箇所に設ければ、X線窓に対して180度異なる方向からX線を入射させることが可能となる。
【0034】
また、本発明は、X線回折装置に設けた円形溝で構成された装着ステージに配置され、当該装着ステージの円形溝に案内されて回動自在な、円形の底面および円周面を有する基部を備えた構成とすることもできる。
このように、X線回折装置に設けた円形溝に配置するだけで回動自在に支持される基部を備えることで、X線回折装置への装着作業の容易化を図ることができる。
【0035】
次に、本発明に係るX線回折装置は、上述した構成の電池分析用構造体を装着し、X線窓を通して電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池にX線を照射することによりX線回折測定を実施する構成を備えたことを特徴とする。
これにより、試料電池の高精度なX線回折測定を実現することができる。
【0036】
また、本発明に係るX線回折装置は、電池分析用構造体のX線窓を位置決めするための位置決め部を有する位置決めブロックと、この位置決めブロックに着脱自在であって、電池収容ユニットの中空部内に収容された試料電池以外から発生するX線散乱線を低減するスリットと、を備えた構成とすることもできる。
このスリットを介することで、いっそう高精度なX線回折測定の実現が可能となる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、試料電池を加圧状態で保持し、充放電に伴う膨張収縮を抑制した状態で、X線回折測定による試料電池の分析評価を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体の全体構造を示す正面断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体の分解正面断面図である。
【
図5】
図5は、圧受けユニットと電池収容ユニットの構成を示す分解斜視図である。
【
図6】
図6Aは、圧受けユニットの裏面への集電体層の配置と、絶縁部材による押圧機能を説明するための正面断面図である。
図6Bは、X線窓と集電体層と試料電池の配置関係を示す平面図である。
図6Cは、ブロックホルダの機能を説明するための正面断面図である。
【
図7】
図7Aは、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体を用いたX線回折測定の実施を説明するための斜視図である。
図7Bは、基台の基準端面とX線窓との間の向きの調整を説明するための底面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体を用いた試料電池の分析評価方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体を用いた全固体電池用負極活物質の充放電過程における状態変化(リチウムイオンの挿入・離脱に伴うステージ状態変化)を、X線回折装置で観察した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の第2実施形態に係る電池分析用構造体の外観を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施形態に係る電池分析用構造体の分解正面断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第2実施形態に係る電池分析用構造体をX線回折装置に装着するための装着ステージを示す斜視図である。
【
図13】
図13は、装着ステージに電池分析用構造体を装着する操作を説明するための斜視図である。
【
図14】
図14は、装着ステージの円周溝に電池分析用構造体を配置した状態を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、装着ステージと電池分析用構造体との間に設けた位置決め構造を説明するための斜視図である。
【
図16】
図16は、装着ステージに設けたスリットを説明するための斜視図である。
【
図17】
図17は、電池分析用構造体が装着されるX線回折装置の外観を示す斜視図である。
【
図18】
図18は、本発明の変形例を説明するための正面断面図である。
【符号の説明】
【0039】
S:試料電池、1:電池分析用構造体
10:圧受けユニット、11:X線窓、12:仕切部材(集電体層)、13:ブロックホルダ、14:凸状部、15:第1電極端子、
20:電池収容ユニット、21:絶縁部材、21a:フランジ部、22:押圧部材、23:雄ねじ部、
30:加圧ユニット、30A:外側胴体部、30B:内側胴体部、31:ナット部、32:ボルト部材、33:圧力伝達部材、34:ロードセル、34a:出力棒(出力部)、35:雌ねじ部、36:金属環、37:第2雄ねじ部、
40:気密ケースユニット、41:第2雌ねじ部、42:第2電極端子、43:導電部材、44:基台、44a:基準端面、45:長孔、
50:締結具、51:Oリング(気密部材)、52:操作棒(位置決め用当接部)、
60:窓埋材、61:凹部、
100:圧受け・電池収容ユニット、101:基部、
200:装着ステージ、201:円周溝、202:位置決めブロック、202a:位置決め部、203:スリット、210:X線源、220:X線検出器
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
分析評価の対象となる試料電池は、電解質層の両端側に電極活物質層が配置され、さらに各電極活物質層の外側に集電体層が配置された構成となっている。
リチウムイオン電池等の従来の電池は、電解質層が液状又はゲル状の電解質が用いられていたが、近年開発が進む全固体電池では、電解質層に固体の電解質が用いられている。全固体電池の内部では、充放電に伴う膨張収縮により、粒子間の空隙や固体電解質層と電極活物質層との界面の剥離、または内部クラックなどが生じやすく、これらの現象が生じた場合に電池として正常に機能をしなくなってしまう。そこで、この種の全固体電池を試料電池として分析評価を実施する場合には、試料電池を加圧状態で保持し、充放電に伴う導電パスの確保や、膨張収縮を抑制する必要がある。
【0041】
また、既述したように、全固体電池を構成する各要素は、水分や空気に反応する材料である。そこで、一般に、電池分析用構造体を組み立てる作業は、グローブボックス(GB)内を不活性ガスとなる高純度のアルゴンガス雰囲気下の空間などで行われる。
そして、電池分析用構造体の内部に密閉状態で収容した試料電池に対し、大気中でX線回折装置を用いて、分析評価が実行される。ここで、X線回折装置は、汎用性が高い反射型X線回折装置を用いて、分析評価できることが好ましい。
以下に説明する本発明の各実施形態に係る電池分析用構造体は、上述したこれらの条件をすべて満足する構成となっている。
【0042】
〔第1実施形態〕
まず、
図1~
図9を参照して、本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体について、詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る電池分析用構造体の外観を示す斜視図、
図2は同じく電池分析用構造体の全体構造を示す正面断面図である。さらに、
図3は本実施形態に係る電池分析用構造体の分解斜視図、
図4は同じく分解正面断面図である。
【0043】
電池分析用構造体は、
図3及び
図4に示すように、圧受けユニット10と、電池収容ユニット20と、加圧ユニット30と、気密ケースユニット40の各ユニットを構成要素に含んでいる。加圧ユニット30は、電池収容ユニット20の一端面側(図の下端面側)に装着され、圧受けユニット10は、電池収容ユニット20の他端面側(図の上端面側)に装着される。
分析対象となる試料電池Sは、電池収容ユニット20内に収容され、密閉状態で大気から遮断される。
【0044】
図5は圧受けユニットと電池収容ユニットの構成を示す分解斜視図である。
図3乃至
図5に示すように、圧受けユニット10は、円盤状に形成してあり、中心を通り直径方向に延びる長孔状のX線窓11が、正面から裏面に貫通する切欠孔によって形成してある(
図5参照)。なお、X線窓11の形状は、長孔状に限定されるものではなく、円形状や矩形状など必要に応じて他の形状に形成してもよい。
圧受けユニット10は、ボルト等の締結具50により、電池収容ユニット20に圧着固定される。
【0045】
電池収容ユニット20は円筒状に形成してあり、内部に形成された横断面円形状の中空部内に試料電池Sが収容される。電池収容ユニット20は、強度を確保するために金属材料で製作することが好ましい。電池収容ユニット20を金属材料で製作すると、中空部内に収容した試料電池Sが電気的に短絡してしまう。そこで、電池収容ユニット20の中空部内に円筒形状をした絶縁部材21を嵌め込み、この絶縁部材21の中空部内に試料電池Sを収容することで、試料電池Sの外周面を絶縁部材21によって絶縁する。絶縁部材21は、絶縁性を有する合成樹脂材料で形成してある。
絶縁部材21は、分析評価の対象となる各種試料電池Sの直径に、中空部の内径が適合する各種寸法のものをあらかじめ用意しておき、試料電池Sに応じ交換して用いるようにすることが好ましい。
【0046】
圧受けユニット10のX線窓11の裏面側には、仕切部材12が配置され、電池収容ユニット20内の中空部を大気から遮断する。仕切部材12は、X線を透過するが、空気や水分は透過させない材料で形成してある。
本実施形態では、この仕切部材12を、試料電池Sの両面に電極として配置される集電体層の一方により構成してある。集電体層は、導電性を有するアルミ箔や銅箔等の金属箔で構成されているが、当該金属箔は、X線を透過しかつ空気や水分は透過させない特性を有しているため、仕切部材12としての適用が可能である。そこで、本実施形態では、試料電池Sの一方の集電体層を分離しておき、この集電体層を圧受けユニット10の裏面に、X線窓11を被覆するように配置する。
【0047】
また、本実施形態では、絶縁部材21に、仕切部材12(集電体層)を圧受けユニット10の裏面に押し付けるための押圧手段としての機能を持たせている。
すなわち、
図6Aに示すように、圧受けユニット10の裏面に仕切部材12(集電体層)を配置し、絶縁部材21によって仕切部材12を圧受けユニット10の裏面に押し付けて密接させる。仕切部材12(集電体層)は、
図6Bに示すように、圧受けユニット10に形成したX線窓11を被覆するように配置してあり、絶縁部材21によってこの仕切部材12を圧受けユニット10の裏面に密接することで、X線窓11からの大気の侵入を高精度に防止することが可能となる。
【0048】
なお、仕切部材12を集電体層で構成しない場合は、仕切部材12を圧受けユニット10の裏面に貼り付けて、X線窓11を密閉することもできる。その場合は、絶縁部材21に押圧手段としての機能を持たせなくてもよい。
【0049】
圧受けユニット10には、
図6A,
図6Bに示すように、仕切部材12(集電体層)を介して、X線窓11と対向する位置に試料電池Sが配置される。そして、試料電池Sは後述するように圧受けユニット10の裏面に任意の圧力で押し付けられる。
圧受けユニット10は、この試料電池Sに作用する圧力を受ける機能を有している。
また、X線窓11は、
図6Aに示すように、圧受けユニット10の裏面側に配置された試料電池SにX線を照射するとともに、当該試料電池Sから反射してきた回折X線を外部へ出射させる機能を有している。
【0050】
ここで、
図6Bに示すように、X線窓11の幅は、試料電池Sからの圧力を受けるための十分な面積を圧受けユニット10の裏面に確保するために、少なくとも試料電池Sの幅より小さくする。また、
図6Aに示すように、X線窓11の長さと内壁の厚さは、試料電池Sの分析評価者から要求されるX線回折測定の測定範囲(X線の入射角度θと検出する回折角度2θ)や試料電池Sの加圧条件等を考慮して決定することが好ましい。
【0051】
絶縁部材21の先端面には、仕切部材12(集電体層)を圧受けユニット10の裏面に押し付けるための気密部材としてOリング51が配置してある。なお、
図2,
図4,
図6A,
図6C,
図10の断面図において、Oリング51へのハッチングは省略してある。
絶縁部材21には、
図5に示すように、基端縁から外径方向に拡がるフランジ部21aが形成してあり、このフランジ部21aがボルト等の締結具50により電池収容ユニット20の一端面側に締結される。このときの締め付け力(押圧力)をもって、Oリング51を介して仕切部材12(集電体層)を圧受けユニット10の裏面に押し付ける(
図4参照)。これにより、仕切部材12(集電体層)が、X線窓11の周囲に密接してX線窓11を閉塞する。
【0052】
上述した締結具50による電池収納ユニット20の他端面側への圧受けユニット10の装着作業と、圧受けユニット10の中空部に挿入して仕切部材12(集電体層)を圧受けユニット10の裏面に配置する作業と、圧受けユニット10の中空部内に絶縁部材21を嵌め込み、そのフランジ部21aを締結具50により圧受けユニット10の一端面側に締結する作業は、いずれも試料電池Sの本体(仕切部材12としての集電体層を除く)を取り扱わない作業であるため、大気中で行うことができる。よって、多数本のボルト等の締結具50を締め付ける作業も煩わしくなく比較的容易に行うことができる。
【0053】
図3乃至
図5に示すように、本実施形態の電池分析用構造体は、ブロックホルダ13を備えている。ブロックホルダ13は、ボルト等の締結具50により、圧受けユニット10の表面に取り付けられる。ブロックホルダ13には、X線窓11の寸法形状に対応した凸状部14が形成してあり(
図5参照)、この凸状部14がX線窓11に嵌め込まれて、その先端面がX線窓11の裏面開口部と同一平面上に配置され、同裏面開口部を埋めて大きな凹みを無くす機能を有している。
【0054】
図6Cに示すように、X線窓11には、裏面側から仕切部材12(集電体層)が配置され、さらに後述するように試料電池Sが押し付けられる。この試料電池Sに作用する圧力により、仕切部材12がX線窓11の切欠孔内へ押し込められて、皺や亀裂が生じて密閉状態が破壊してしまうおそれがある。
そこで、あらかじめ圧受けユニット10にブロックホルダ13を装着しておき、X線窓11の裏面開口部の凹みをほぼ無くして、仕切部材12(集電体層)をほぼ平坦面で支持する。これにより、仕切部材12(集電体層)に皺が寄ったり亀裂が生じたりする不都合を回避することができる。
【0055】
図2乃至
図4に戻り、加圧ユニット30は、電池収容ユニット20の中空部内(詳しくは、絶縁部材21の中空部内)に収容された試料電池Sに圧力を作用させる機能を有している。
この加圧ユニット30は、円筒状の胴体部を有している。胴体部は、外側胴体部30Aと内側胴体部30Bとで構成してあり、円筒状の外側胴体部30Aの内部(中空部内)に、同じく円筒状の内側胴体部30Bを嵌め込み、ボルト等の締結具50によって固定することで一体化してある(
図4参照)。
【0056】
ここで、外側胴体部30Aは、電気的な絶縁性を有し、かつ加圧力の反作用に耐え得る強度と気密性を有した合成樹脂材料(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエスチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メタクル・スチレン共重合体(MS)、ポリカーボネイト(PC)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン(PTFE)などで形成してある。一方、内側胴体部30Bは、加圧力の反作用に耐え得る強度を有した金属材料で形成してある。
【0057】
内側胴体部30Bの内周面は、
図4に示すように段付き形状に形成してあり、内径の小さい後部の内周面にナット部31が形成してある。このナット部31には、一本のボルト部材32が螺合する。ボルト部材32は、電池収容ユニット20の中空部内に収容された試料電池Sに圧力を作用させるための加圧機構を構成する。また、このボルト部材32は、後述するように試料電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、試料電池Sに高い圧力を加圧する強度を有し、かつ導電性を有した金属材料で形成してある。
【0058】
内側胴体部30Bにおける内径の大きな前部の内周面には、圧力伝達部材33が摺動自在に嵌め込んであり、この圧力伝達部材33に圧力測定手段としてのロードセル34が組み込んである。ロードセル34は、ボルト部材32のねじ込みによって生じた圧力を計測して、その計測値を示す電気信号を出力棒34a(出力部)に経由して、図示しない圧力表示器に出力する。このようにして圧力を計測することで、試料電池Sに作用する圧力と、試料電池Sの充放電に伴う結晶構造の変化との相関関係を分析・評価することが可能となる。
この圧力伝達部材33とロードセル34も、後述するように試料電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、導電性を有した金属材料で形成してある。
なお、圧力測定手段としては、ロードセルに限定されるものではなく、例えば、ロードセルの代わりにトルクレンチを用いて、ボルト部材32に作用するトルクから圧力を求めることもできる。
【0059】
図2に示すように、加圧ユニット30は、電池収容ユニット20の一端面側(図の下端面側)に装着する。そして、電池収容ユニット20の中空部内(詳しくは、絶縁部材21の中空部内)には、円柱状に形成された押圧部材22を挿入する。
この押圧部材22は、ロードセル34と試料電池Sの間に介在し、ボルト部材32からの押圧力をもって試料電池Sを圧受けユニット10の方向へ押圧する機能を有している。すなわち、ボルト部材32のねじ込み操作に伴い、圧力伝達部材33、ロードセル34及び押圧部材22を介して、試料電池Sに押圧力が作用して、試料電池Sが圧受けユニット10に押し付けられる。
これにより、試料電池Sを加圧することができる。その加圧値は、圧力表示器(図示せず)の表示を参照しながら、ボルト部材32のねじ込み量を調整することで、任意に設定することができる。
【0060】
ここで、押圧部材22も、後述するように試料電池Sへの充電及び放電を行うための導通経路を形成する。そのため、導電性を有した金属材料で形成してある。
【0061】
図2乃至
図4に示すように、気密ケースユニット40は、円筒状に形成してあり、その一端面側(図の上端面側)を、加圧ユニット30の他端面側(図の下端面側)に装着される。一方、気密ケースユニット40の他端面側(図の下端面側)には、平板状の基台44がボルト等の締結具50により固定してある。そのため、加圧ユニット30の他端面側に装着することで、その他端面側の周囲が、気密ケースユニット40により密閉されて大気と遮断される。
【0062】
加圧ユニット30に設けたボルト部材32の頭部は、同ユニットの他端面側に露出しており、気密ケースユニット40の中空部内に配置される。気密ケースユニット40の中空部内は密閉空間となっているので、ボルト部材32とナット部31が噛み合う部分の僅かな隙間を経由しての、電池収容ユニット20内への空気の侵入を阻止することができる。
【0063】
気密ケースユニット40は、電気的な絶縁性を有する合成樹脂材料(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエスチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メタクル・スチレン共重合体(MS)、ポリカーボネイト(PC)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン(PTFE)などで形成してある。
【0064】
さて、上述した電池収容ユニット20の一端面側(図の下端面側)には雄ねじ部23が設けてあり、一方、この一端面側に装着される加圧ユニット30の一端面側(図の上端面側)には雌ねじ部35が設けてある。そして、これら雄ねじ部23と雌ねじ部35とを螺合し、ねじ込み操作することによって、加圧ユニット30の一端面側を電池収容ユニット20の一端面側に装着する構造となっている。
【0065】
また、上述した加圧ユニット30の他端面側(図の下端面側)には第2雄ねじ部37が設けてあり、一方、この他端面側に装着される気密ケースユニット40の一端面側(図の上端面側)には第2雌ねじ部41が設けてある。そして、これら第2雄ねじ部37と第2雌ねじ部41とを螺合し、ねじ込み操作することによって、気密ケースユニット40の一端面側を加圧ユニット30の他端面側に装着する構造となっている。
【0066】
このように、雌雄一対のねじ部をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、加圧ユニット30を電池収容ユニット20に装着して、試料電池Sを収容した電池収容ユニット20と加圧ユニット30との間を密閉することができる。同様に、雌雄一対のねじ部をねじ込み操作するだけの簡単な作業で、気密ケースユニット40を加圧ユニット30に装着して、ボルト部材32(加圧機構)が露出する加圧ユニット30の他端面側の周囲を密閉することができる。
したがって、作業者は、グローブを介したグローブボックス外部からの組み立て作業であっても、容易にその作業を行うことができる。
【0067】
これらのねじ込み操作に特別な工具は必要とせず、例えば、ねじ込み対象となる一方のユニットを固定しておき、他方のユニットを把持して人力で容易にねじ込み操作をすることができる。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、電池収容ユニット20の外周面と、加圧ユニット30の外周面に、ねじ込み操作用の操作棒52を径方向に突き出して設けてある。作業員はこの操作棒52を手で回すだけで、上記の各ねじ込み操作をいっそう容易に行うことが可能となる。
【0068】
なお、雄ねじ部23は、金属製の電池収容ユニット20に形成してあるので、これに螺合する雌ねじ部35も、
図3に示すように、金属環36の内周面に形成し、この金属環36を合成樹脂製の加圧ユニット30の外側胴体部30Aにボルト等の締結具50により取り付けた構成としてある。これにより、雄ねじ部23と同等の耐摩耗性や強度等を雌ねじ部35に付与することができる。
【0069】
また、電池収容ユニット20の一端面側に密着する加圧ユニット30の一端面には、密閉部材としてのOリング51が設けてある。さらに、加圧ユニット30の他端面側に密着する気密ケースユニット40の一端面にも、密閉部材としてのOリング51が設けてある。これらのOリング51を介在させることで、人手によるねじ込み操作だけでも、各ユニットの相互間を容易に密閉することが可能となる。
【0070】
図1に戻り、本実施形態の電池分析用構造体は、外部に第1電極端子15と第2電極端子42を備えている。
【0071】
第1電極端子15は、圧受けユニット10の外面にボルト等に締結具50によって固定してある。圧受けユニット10は、導電性を有する金属材料で形成してある。したがって、
図2に示すように、圧受けユニット10と、導電性を有する仕切部材12(集電体層)とを介して、第1電極端子15が試料電池Sの一方の電極活物質層と電気的に導通した状態となる。
【0072】
第2電極端子42は、気密ケースユニット40の外周面にボルト等に締結具50によって固定してある。気密ケースユニット40の内部には、この第2電極端子42と電気的に導通する導電部材43が配置してある。この導電部材43は、ばね性を有する金属板で形成してあり、気密ケースユニット40を加圧ユニット30に装着したとき、ボルト部材32の頭部が、この導電部材43に当接するように位置決めしてある。
【0073】
したがって、
図2に示すように、第2電極端子42は、導電部材43、ボルト部材32、圧力伝達部材33、ロードセル34、押圧部材22で形成した導通経路を介して、試料電池Sの他方の電極活物質層と電気的に導通した状態となる。
【0074】
よって、これらの第1電極端子15と第2電極端子42の間に電気を流すことで、電池収容ユニット20の内部に収容された試料電池Sを充電することができ、またこれらの電極端子の間を、抵抗を介在させて導通することで、試料電池Sを放電することができる。
【0075】
図2に示すように、第1電極端子15と第2電極端子42の間は、加圧ユニット30における合成樹脂製の外側胴体部30Aと、同じく合成樹脂製の気密ケースユニット40とによって絶縁されている。
【0076】
図7Aに示すように、上述した構成の本実施形態に係る電池分析用構造体は、X線回折装置の試料台に装着して、大気中でX線回折測定を行うことができる。ここで、基台44は、あらかじめ設定してある基準端面44aを、X線回折装置の試料台に設けた基準面に突き合わせて装着するだけで、X線窓11の長手方向をX線の入射方向に位置決めできるように構成してある。
【0077】
図7Bに示すように、基台44には円弧上の長孔45が形成してあり、この長孔45を通してボルト等の締結具50により、基台44を気密ケースユニット40に固定してある。締結具50を緩め、基台44に対して長孔45に沿って気密ケースユニット40を回動することで、基台44の基準端面44a及びX線窓11の相互間の向きをあらかじめ調整しておくことができる。
【0078】
次に、
図8を参照して、本実施形態に係る電池分析用構造体を用いた試料電池の分析評価方法を説明する。
まず、圧受けユニット10にブロックホルダ13を取り付け(ステップS1)、続いて圧受けユニット10を電池収容ユニット20に装着する(ステップS2)。そして、仕切部材となる仕切部材12(集電体層)を圧受けユニット10の裏面に配置し、絶縁部材21を電池収容ユニット20に装着する(ステップS3)。これにより、仕切部材12(集電体層)が圧受けユニット10の裏面に押し付けられて、X線窓11が密閉される。
【0079】
ここまでの作業は、グローブボックスの外部で行うことができる。
次に、必要な構成ユニットや電池材料,圧力表示器等を、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)が充填されたグローブボックスの内部へ収納する(ステップS4)。
【0080】
作業員は、グローブボックスに装備されたグローブを嵌めて、グローブボックス内で、まず試料電池Sを成型する(ステップS5)。次いで、成型した試料電池Sを電池収容ユニット20内に収容するとともに、押圧部材22を電池収容ユニット20内に挿入する(ステップS6)。
【0081】
次いで、電池収容ユニット20に加圧ユニット30を装着し(ステップS7)、さらにロードセル34に圧力表示器を接続する(ステップS8)。
【0082】
ここまでの作業が終了した後、圧力表示器を見ながらボルト部材32をねじ込み操作し、電池収容ユニット20内の試料電池Sに圧力を作用させる(ステップS9)。ボルト部材32のねじ込み操作は、スパナ等の工具を用いて行う。そして、試料電池Sに作用する圧力が目標の値に達したとき、ボルト部材32のねじ込み操作を終了する(ステップS10)。
【0083】
次いで、加圧ユニット30に気密ケースユニット40を装着するとともに(ステップS11)、圧力表示器をロードセル34から取り外す(ステップS12)。気密ケースユニット40を装着したことで、電池分析用構造体の組み立て作業が終了する。
その後、グローブボックスから電池分析用構造体を取り出し(ステップS13)、圧受けユニット10からブロックホルダ13を取り外す(ステップS14)。
【0084】
次に、X線回折装置に電池分析用構造体を装着し(ステップS15)、第1,第2電極端子15,42に充放電装置を接続する(ステップS16)。そして、試料電池Sを充放電しながら、試料電池Sに対してX線回折測定を実施して(ステップS17)、その測定データにより試料電池Sの特性を分析評価する。ここで、X線回折測定中又は測定後に出力棒34aへ圧力表示器を接続し、試料電池Sに作用する圧力を計測することもできる。これにより、X線回折測定による測定結果を、試料電池Sの圧力と関係付けて分析・評価することができる。
なお、試料電池Sを充放電した後に、その試料電池Sに対してX線回折測定を実施することもできる。
【0085】
図9は、本実施形態に係る電池分析用構造体を用いた全固体電池用負極活物質の充放電過程における状態変化(リチウムイオンの挿入・離脱に伴うステージ状態変化)を、X線回折装置で観察した結果を示すグラフである。試料電池には9.8MPaの圧力を作用させている。
同図に示すように、充放電に伴い、各ステージの状態変化を、回折X線のピーク値の変化から明瞭に観察することができる。
【0086】
〔第2実施形態〕
次に、
図10~
図17を参照して、本発明の第2実施形態に係る電池分析用構造体について、詳細に説明する。
なお、本発明の第2実施形態に係る電池分析用構造体において、
図1~
図8に示した本発明の第1実施形態に係る電池分析用構造体と同一部分またはそれに相当する部分には、同一符号を付し、それらの詳細な説明は省略することもある。
【0087】
図10は、本実施形態に係る電池分析用構造体の外観を示す斜視図であり、
図11は、同電池分析用構造体の分解正面断面図である。
図10は
図1に対応しており、また
図11は
図4に対応している。
【0088】
先に説明した第1実施形態では、例えば、
図1及び
図4に示したように、圧受けユニット10と電池収容ユニット20とを、それぞれ別体のユニットで構成し、締結具50を用いて電池収容ユニット20に圧受けユニット10を圧着固定していた。
これに対して本実施形態では、圧受けユニット10と電池収容ユニット20とを一体形成し、一つの圧受け・電池収容ユニット100で構成してある。
すなわち、この圧受け・電池収容ユニット100は、先の第1実施形態における圧受けユニット10と電池収容ユニット20と含むユニットであり、これら各ユニット10,20の機能をそのまま備えている。
なお、第1実施形態における圧受けユニット10および電池収容ユニット20の説明は、締結具50を用いた電池収容ユニット20への圧受けユニット10の装着に関する内容を除き、圧受け・電池収容ユニット100にもそのまま適用される。
【0089】
また、本実施形態では、先に説明した第1実施形態において、気密ケースユニット40の下端面側に装着した平板状の基台44を省略し、気密ケースユニット40の下部を、後述するX線回折装置に装着するための基部101として構成してある。この基部101は、気密ケースユニット40における円形をした底面101aと、そこから立ち上がる円周面101b(下部領域のみ)とを含んでいる(
図11参照)。
【0090】
本実施形態に係る電池分析用構造体が装着されるX線回折装置は、
図12に示すような装着ステージ200を備えている。電池分析用構造体は、この装着ステージ200に回動自在に装着される。
【0091】
装着ステージ200には、電池分析用構造体を配置するための円周溝201が形成してある。そして、
図13から
図14に示すように、電池分析用構造体1における気密ケースユニット40の基部101をこの円周溝201に配置することで、円周溝201の底面に支持されて、電池分析用構造体1が装着ステージ200に装着される。さらに、電池分析用構造体1は、円周溝201の内周面に案内されて自在に回動させることができる。
【0092】
また、装着ステージ200には、円周溝201の外側に直立して位置決めブロック202が設けてあり、この位置決めブロック202の一部内側面に位置決め部202aが形成してある(
図14参照)。
一方、電池分析用構造体1には、圧受け・電池収容ユニット100(第1実施形態における電池収容ユニット20)の外周面から径方向に突き出して操作棒52が設けてあるが、この操作棒52が位置決め用当接部としても機能している。すなわち、
図14に示すように、装着ステージ200に装着された電池分析用構造体1を回動させて、
図15に示すように、位置決め用当接部52を位置決め部202aに当接させることで、X線回折装置から照射されるX線aに対して電池分析用構造体1のX線窓11を位置決めすることができる構成となっている。
【0093】
ここで、位置決め用当接部52を位置決め部202aに当接させた状態において、X線回折装置のX線源から照射されるX線aの中心軌道と、長孔状のX線窓11が開口する長手方向とが同じ鉛直平面上に配置され、且つ当該X線aがX線窓11から入射して内部の試料電池Sに照射されるように、位置決め部202aと位置決め用当接部52との位置関係、および位置決め用当接部52とX線窓11との位置関係が、あらかじめ調整してある。
【0094】
また、位置決め用当接部52は、装着ステージ200上で回動する際の回動中心に関して対称な2箇所から突き出して設けてあり、そのいずれかを選択して位置決め部202aに当接させることで、X線窓11に対して180度異なる方向からX線aを入射させることができるようになっている(
図15参照)。
【0095】
また、
図16に示すように、装着ステージ200に設けた位置決めブロック202には、スリット203が着脱自在に装着できる構成となっている。スリット203は、例えば、シュルツスリットと称するスリットを適用することができ、これにより、X線源からX線窓11に向かって照射されるX線aの横幅を制限する。したがって、試料電池S以外にX線が照射されることによって生じる散乱線が低減できるため、高精度なX線回折測定の実現が可能となる。
【0096】
図17は、電池分析用構造体が装着されるX線回折装置の外観を示す斜視図である。
同図に示すように、X線回折装置の装着ステージ200に電池分析用構造体1を装着する。X線源210から照射されるX線aは、スリット203を介してX線窓11に入射する。そして、電池分析用構造体1の内部に収容された試料電池Sから反射してきた回折X線bを、X線検出器220が検出することで、試料電池SのX線回折測定を実行することができる。
【0097】
〔変形例又は応用例〕
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施や応用実施が可能なことはもちろんである。
例えば、本発明の電池分析用構造体は、分析対象となる試料電池が全固体電池に限定されるものではなく、リチウムイオン電池など、他の各種電池の分析評価に適用することができる。
また、本発明に係る電池分析用構造体の組み立てに、グローブボックスは必須ではなく、試料電池の種類によってはグローブボックスを使用しない組み立ても可能である。
【0098】
圧受けユニット、電池収容ユニット、加圧ユニット、気密ケースユニットや、絶縁部材などの各部材の構成は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、各構成要素のいずれの部位を導電性又は絶縁性を有する材料で構成するかは、各電極端子の設置個所などに応じて、適宜設計変更することができる。
【0099】
また、
図18に示すように、圧受けユニット10に形成されるX線窓11の裏面周辺に凹部61を設け、この凹部61に薄板状のガラス状カーボン(グラッシーカーボン)又はベリリウムで形成した窓埋材60を配置してもよい。窓埋材60は、圧受けユニット10の裏面に接着剤で貼り付けるか、ろう付けにより接合する。
窓埋材60の裏面は、圧受けユニット10の裏面において仕切部材12が配置される面10aと同一平面上に配置する。
【0100】
グラッシーカーボンやベリリウムは、X線を透過し、大気を遮断する性質を有している。しかも、圧力に対する耐性が高いので、試料電池Sに作用する圧力を受けてもX線窓11の切欠孔内に押し込まれることがなく、仕切部材12(集電体層)や試料電池Sを平坦面で支持することができる。
【0101】
第2実施形態に示した気密ケースユニット40における基部101の構造や、X線回折装置の装着ステージ200の構造(
図12参照)、位置決め部202aと位置決め用当接部(操作部52)によるX線窓11の位置決め構造、(
図15参照)、スリット203の設置構造等は、第1実施形態に係る電池分析用構造体にも適用することができる。