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特許7395171固体酸化物形燃料電池用アノード及び固体酸化物形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用アノード及び固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231204BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231204BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20231204BHJP
   C01F 17/235 20200101ALI20231204BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20231204BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M4/86 T
H01M4/90 M
H01M8/12 101
C01F17/235
C04B35/50
C22C19/05 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019042401
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2019160794
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018041653
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年12月7日に第27回SOFC研究発表会講演要旨集(講演番号166C)にて公開 (2)平成31年1月11日に第4回NEXT-FC基盤研究報告会にて公開 (3)平成31年1月28日に九州大学エネルギーウィーク2019にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション事業「持続的共進化地域創成拠点」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】石橋 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】二村 聖太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-165143(JP,A)
【文献】特開2002-289248(JP,A)
【文献】特開2008-140652(JP,A)
【文献】国際公開第2013/061841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C22C 19/03-19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性酸化物から構成される電極骨格と、Ni基金属合金と、を有し、
イオン伝導性酸化物が、混合伝導性酸化物であり、
Ni基金属合金が、Niと、Cr及びFeとからなる合金であり、当該合金中のCrの含有量が1~25mol%であり、Feの含有量が1~15mol%(残部Ni)であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用アノード。
【請求項2】
Ni基金属合金が、イオン伝導性酸化物と共に電極骨格を構成する請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
【請求項3】
イオン伝導性酸化物が、Gd23ドープCeO2又はSm23ドープCeO2である請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
【請求項4】
固体電解質と、前記固体電解質の一方面側に配置されたアノードと、前記固体電解質の他方面に配置されたカソードとを備え、前記アノードが、請求項1からのいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用アノードである固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用アノード及び固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率の高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)が、次世代のエネルギー供給システムとして注目を集めている。
SOFCは、電解質膜にイオン伝導性固体電解質を使用し、その電解質膜の一方の面に多孔質焼結体からなるアノード(燃料極)を、他の面にカソ-ド(空気極)を接合して構成される。アノードに水素を含む燃料、カソードに空気(酸素)をそれぞれ供給すると、以下の電気化学反応によって電気エネルギーを取り出すことができる。
アノード反応:2H2+2O2- → 2H2O+4e- (反応1)
カソード反応:O2+4e-→ 2O2- (反応2)
全反応 :2H2+O2→2H2
【0003】
一般的に固体酸化物形燃料電池用アノードは、酸化ニッケル(NiO)粉末とイオン導電性酸化物の粉末の焼結体を骨格とした複合材料(サーメット)が広く用いられており、燃料中の水素でNiOを金属ニッケル(Ni)に還元して使用される。アノードにおいて、Niは上記アノード反応における電極触媒として機能すると共に、電極における電子伝導パスとして機能する。
Niとイオン伝導性酸化物との焼結体からなるアノードでは、高燃料利用率において燃料不足が起こると、局所的に酸素分圧が上昇して金属のNiがNiOに酸化して体積膨張し、燃料不足が解消されると再度金属のNiに還元されて体積収縮がおこる。その結果、Niの体積変化によりアノードの骨格が破壊される。そのため、粒子状の金属Niとイオン伝導性酸化物との複合材料を用いるアノードでは、高燃料利用率での運転が困難になるという課題がある。
【0004】
また、電極内の電子伝導の抵抗を小さくするためには、電極内のNiの含有量を大きくし、それぞれのNi粒子を互いに接触させる必要がある。しかしながら、SOFCは高温(800℃程度)で運転されるため、接触したNi粒子の凝集が起こりやすく、電極反応面積が減少したり電極構造が破壊したりする課題を抱えている。
【0005】
このような課題に対して、金属Niに代えて電子伝導性酸化物を電極骨格の形成材料として使用したSOFC用アノードも開発されている。
例えば、特許文献1では、電子伝導性を有するチタン酸ペロブスカイト型酸化物を電極骨格として使用したSOFC用アノードが報告されており、チタン酸ペロブスカイト型酸化物が、SOFCのアノード雰囲気下での酸化還元に耐性を有するため、体積変化が生じづらく、上述の電極構造の破壊が生じない。また、本発明者らは、特許文献2において、金属Niに代えて電子伝導性及びイオン導電性を有する混合伝導性酸化物を電極骨格の形成材料として使用し、この電極骨格に電極触媒金属及びイオン伝導性酸化物から構成される複合電極触媒を分散担持させたSOFC用アノードを報告している。このSOFC用アノードでは、電極骨格として使用された混合伝導性酸化物が、SOFCのアノード雰囲気下での酸化還元に耐性を有すると共に、電子とイオンの両方を反応場に供給できるため、優れた耐久性と電極性能を両立することに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-33418号公報
【文献】特開2018-055946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極骨格としてイオン伝導性酸化物と電子伝導性酸化物の焼結体を使用したアノードでは、高温還元雰囲気において体積変化が生じないため、Niを使用した際に問題となる電極の破壊を回避できている。
一方、アノードでの電極反応は、燃料ガスである水素ガス、触媒かつ電子伝導体である金属触媒、及び酸素イオン伝導体の界面(三相界面)にて起こるため、三相界面の量を増やすことがアノード性能を向上させるためには重要であるが、上述の特許文献1のチタン酸ペロブスカイト型酸化物を使用したSOFC用アノードは、有効な三相界面の形成が不十分で、電極性能が十分ではなかった。
また、特許文献2のSOFC用アノードでは、電極骨格の表面に担持された複合電極触媒が電極触媒機能を担い、電極骨格を構成するGd23ドープCeO2等の混合伝導性酸化物から電子とイオンとが反応場に供給されるため反応場である三相界面が十分に形成される。しかしながら、混合伝導性酸化物の電子伝導性は、金属材料と比較すると小さいため、電極内のオーミック抵抗の一因となり、この点においては改善の余地があった。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、電極構成成分の酸化還元による電極の破壊が抑制され、かつ、優れた電極性能を有する固体酸化物形燃料電池用アノード及び該アノードを使用した固体酸化物形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> イオン伝導性酸化物から構成される電極骨格と、Ni基金属合金と、を有する固体酸化物形燃料電池用アノード。
<2> Ni基金属合金が、イオン伝導性酸化物と共に電極骨格を構成する<1>に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<3> Ni基金属合金が、Niと、Cr、Fe、Cu、Co及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属種とを含有する合金である<1>または<2>に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<4> Ni基金属合金が、Niと、Coとからなる合金である<1>から<3>のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<5> Ni基金属合金が、Niと、Cr及びFeとからなる合金である<1>から<3>のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<6> イオン伝導性酸化物が、混合伝導性酸化物である<1>から<5>のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<7> イオン伝導性酸化物が、Gd23ドープCeO2又はSm23ドープCeO2である<6>に記載の固体酸化物形燃料電池用アノード。
<8> 固体電解質と、前記固体電解質の一方面側に配置されたアノードと、前記固体電解質の他方面に配置されたカソードとを備え、前記アノードが、<1>から<7>のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用アノードである固体酸化物形燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極構成成分の酸化還元よる電極の破壊が抑制され、優れた電極性能と耐久性を有する固体酸化物形燃料電池用アノード及び該アノードを使用した固体酸化物形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のSOFC用アノードの模式図である。
図2】還元温度800℃及び1000℃で還元処理を行った実施例1のSOFCのIV特性の評価結果である(実施例1:Ni74.5Cr17.2Fe8.3-GDCアノード)。
図3】還元温度800℃及び1000℃で還元処理を行った実施例1のSOFCのアノード過電圧の評価結果である。
図4】還元温度800℃及び1000℃で還元処理を行った実施例1のSOFCのアノードIR損の評価結果である。
図5】還元温度800℃で還元処理を行った実施例1のSOFCアノードの微細構造(FE-SEM像,EDS分析)の評価結果である。
図6】還元温度1000℃で還元処理を行った実施例1のSOFCアノードの微細構造(FE-SEM像,EDS分析)の評価結果である。
図7】Redoxサイクル耐久性試験の測定条件を示す図である。
図8】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのIV特性の評価結果である(実施例1:Ni74.5Cr17.2Fe8.3-GDCアノード、実施例2:Ni80Co20-GDCアノード、比較例1:Ni-GDCアノード)。
図9】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのアノード過電圧の評価結果である。
図10】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのアノードIR損の評価結果である。
図11】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのRedoxサイクル試験におけるIV特性の評価結果である。
図12】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのRedoxサイクル試験におけるアノード過電圧の評価結果である。
図13】実施例1、実施例2及び比較例1のSOFCセルのRedoxサイクル試験におけるアノードIR損の評価結果である。
図14】Redoxサイクル試験前の比較例1のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析によるNiマッピング結果)。
図15】Redoxサイクル試験後(50サイクル)の比較例1のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析(Niマッピング))。
図16】Redoxサイクル試験前の実施例1のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析(Niマッピング))。
図17】Redoxサイクル試験後(50サイクル)の実施例1のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析(Niマッピング))。
図18】Redoxサイクル試験前の実施例2のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析(Niマッピング))。
図19】Redoxサイクル試験後(50サイクル)の実施例2のSOFCセルの微細構造評価結果である((a)FE-SEM像、(b)EDS分析(Niマッピング))。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0014】
<1.固体酸化物形燃料電池用アノード>
本発明の固体酸化物形燃料電池用アノード(「SOFC用アノード」、又は、単に「本発明のアノード」と記載する場合がある。)は、イオン伝導性酸化物から構成される電極骨格と、Ni基金属合金と、を有する。
【0015】
本発明のSOFC用アノードにおいて、電極骨格は、イオン伝導性酸化物が三次元的に連続した構成を有し、アノードの機械的強度を担保し、酸素イオン伝導パス(イオン伝導性酸化物が混合伝導性を有する場合には酸素イオン伝導パス及び電子の伝導パス)となる役割を有する。
【0016】
本発明のアノードは、その電極骨格としてイオン伝導性酸化物を必須とするが、他の構成成分であるNi基金属合金についても電極骨格として機能することが好ましい。図1に本発明の好適なアノードの模式図を示す。図1においては、イオン伝導性酸化物とNi基金属合金のそれぞれが三次元的に連続した構成を有し、酸素イオン伝導パスと電子伝導パスを有する電極骨格として機能している。
なお、図1においては、Ni基金属合金と、イオン伝導性酸化物は球状粒子であるが、三次元的に連続した電子伝導パス及びイオン伝導パスを形成していればよく、球状粒子でなくてもよい。
【0017】
本発明のSOFC用アノードの特徴は、従来のSOFC用アノードにおいて、電子伝導パスおよび電極触媒として使用されていた金属Niを、Ni基金属合金としたことにある。金属Niとイオン伝導性酸化物との焼結体からなる従来のアノードでは、高燃料利用率において燃料不足等が起こると、局所的に酸素分圧が上昇して、金属が酸化物となって体積膨張し、燃料不足が解消されると再度金属に還元されて体積収縮がおこり、その体積変化によりアノードの骨格が破壊されるという課題があるが、本発明のアノードは、酸化還元に対する耐久性の高いNi基金属合金と、イオン伝導性酸化物により構成されるため、体積変化がほとんど起こらずアノード破壊が回避される。
具体的なNi基金属合金については後述する。
【0018】
本発明のアノードにおいて、電極骨格を形成するイオン伝導性酸化物として、電子伝導性とイオン伝導性の混合伝導性を有する混合伝導性酸化物であることが好ましい。イオン伝導性酸化物として混合伝導性酸化物を使用すると、酸化物部分でも電子を流すことができるので、Ni基金属合金が部分的に不連続になった場合でもアノード全体として電流を流すことができるという利点がある。
【0019】
本発明のアノードは、好適にはNi基金属合金粒子及びイオン伝導性酸化物粒子を焼結させた焼結体が利用でき、電子およびイオンの伝導パスを確保できる程度に、Ni基金属合金同士、あるいは、Ni基金属合金とイオン伝導性酸化物、イオン伝導性酸化物同士が部分的に焼結することで、電子伝導部分とイオン伝導部分とが三次元的に連続していることが好ましい。
【0020】
また、本発明のSOFC用アノードは、燃料となる水素ガスや生成ガスがアノード内を拡散できる程度に空隙を有している。本発明のSOFC用アノードの空隙率は、基材としての強度が保てる範囲であればよいが、好適には30体積%以上70体積%以下である。
【0021】
また、イオン伝導性酸化物及びNi基金属合金は、本発明の目的を達成する範囲において、それぞれの種類、粒径、割合を適宜決定すればよい。Ni基金属合金とイオン伝導性酸化物との割合は、通常、体積比としてNi基金属合金:イオン伝導性酸化物=70:30~30:70である。
【0022】
本発明のSOFC用アノードは、イオン伝導性酸化物及びNi基金属合金を含むものであるが、本発明の目的を損なわないで別の成分を含んでいてもよい。
【0023】
以下、本発明のSOFC用アノードにおけるイオン伝導性酸化物及びNi基金属合金について、詳しく説明する。
【0024】
[イオン伝導性酸化物]
本発明において、イオン伝導性酸化物は、上述の通り、本発明のアノードの電極骨格を構成し、イオン伝導パスとして機能する。
イオン伝導性酸化物は、SOFCのアノード雰囲気下において化学的及び熱的に安定性が高いイオン伝導性を有する酸化物であれば特に限定されず、適宜選択することができる。なお、本明細書において、「SOFCのアノード雰囲気」とは、温度範囲が600~1000℃であって、かつ、酸素分圧範囲が10-25~10-10気圧である還元雰囲気を意味する。
【0025】
電極骨格を構成するイオン伝導性酸化物は、セリア(CeO2)系酸化物、ジルコニア(ZrO2)系酸化物、ランタンガレート(LaGaO3)系酸化物等を用いることができる。セリア(CeO2)系酸化物としては、Gd23ドープCeO2(GDC)やSm23ドープCeO2(SDC)等を、ジルコニア系酸化物としては、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)等の安定化ジルコニアが挙げられる。ランタンガレート系酸化物としては、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタンガレート等が挙げられる。
【0026】
電極骨格を構成するイオン伝導性酸化物としては、混合伝導性を有するイオン伝導性酸化物が好適である。ここでいう「混合伝導性」とは酸素イオン伝導性と共に、電子伝導性を併せ持つことを意味し、混合伝導性を有するイオン伝導性酸化物としては、例えば、GDCやSDC等のセリア系酸化物が挙げられる。
【0027】
イオン伝導性酸化物粒子は、平均粒径で0.5~10μm程度の粒子であることが好ましい。なお、電極骨格におけるイオン伝導性酸化物粒子の「平均粒径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、50個ずつ粒子を任意に抽出して、それぞれにつき粒径(直径)を測定して、50個の粒径の平均値として算出することができる。また、粒子の形状が、球形以外の場合は、顕微鏡像における粒子の周囲長を解析ソフトで測定し、該周囲長を円周としたときの直径を粒径とする。
【0028】
[Ni基金属合金]
以下、Ni基金属合金について説明する。
Ni基金属合金は、アノードでの電極反応を触媒する機能と共に、電極反応により発生した電子の伝導パスとしても機能する。また、本発明のアノードの好適な態様では、Ni基金属合金はイオン伝導性粒子と共に電極骨格を構成する。
【0029】
本発明のNi基金属合金は、Niを50mol%以上(好適には70mol%以上)含有し、Ni以外に他の金属種を含有する合金であって、燃料ガスである水素に対する電気化学触媒活性を有するものであり、かつ、SOFCのアノード雰囲気下において化学的及び熱的に安定性を有する組成であれば特に限定されず、適宜選択することができる。特に添加される他の金属種は、SOFCの運転中のアノード雰囲気(600~1000℃、酸素分圧10-25~10-10気圧)においてNiと合金化し、当該金属種も金属の状態が安定な元素であって、燃料供給停止時には、金属Niの酸化を抑制するために、Niより酸化しやすい傾向にある金属種が好ましく用いられる。
【0030】
Niと合金化させる金属種としては、具体的にはCr、Fe、Cu、Co及びMo等が挙げられる。すなわち、Ni基金属合金は、Niと、Cr、Fe、Cu、Co及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属種と、を含有する合金であることが好ましい。Niと合金化させる金属元素の含有量は本発明の目的とする効果を得られる範囲であれば制限はなく適宜決定することができる。
【0031】
Ni基金属合金の好適な態様は、Coを含有する態様であり、Coの含有量は、例えば3mol%以上(特には5mol%以上)であり、25mol%以下(特には20mol%以下、10mol%以下)である。特にNi基金属合金が、Niと、Coとからなる合金(但し、不可避不純物元素を含んでいてもよい)であることが好ましく、Coの含有量が10~30mol%であることが好ましい。
【0032】
また、他の好適な態様は、Ni基金属合金が、Niと、Cr及びFeとからなる合金(但し、不可避不純物元素を含んでいてもよい)である。Crの含有量は、例えば1mol%以上、3mol%以上、5mol%以上であり、25mol%以下(特には20mol%以下)である。また、Feの含有量は例えば1mol%以上(特には3mol%以上)であり、15mol%以下(特には10mol%以下)である。
【0033】
また、Ni基金属合金は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記金属種以外の元素を含んでいてもよい。具体的には、Al、Si、Nb、Ta、Ti、Mn等を含んでいてもよい。また、例えば、Mg等のアルカリ土類金属を含ませることにより、炭化水素燃料を使用した際の炭素析出を抑制することができる。
【0034】
本発明のNi基金属合金は、平均粒径0.5~10μm程度の粒子であることが好ましい。なお、電極骨格におけるNi基金属合金粒子の「平均粒径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、50個ずつ粒子を任意に抽出して、それぞれにつき粒径(直径)を測定して、50個の粒径の平均値として算出することができる。また、粒子の形状が、球形以外の場合は、顕微鏡像における粒子の周囲長を解析ソフトで測定し、該周囲長を円周としたときの直径を粒径とする。
【0035】
[アノードの製造方法]
本発明のアノードの製造方法は特に制限されず、その一例は後述する実施例で説明する方法である。
【0036】
また、実施例以外にも本発明のアノードの構造を形成できれば他の方法を採用してもよい。例えば、NiO粉末に、目的とする添加金属前駆体溶液(例えば、Cr硝酸塩溶液など)と混合し、蒸発乾固して、ある一定量の添加金属前駆体でNiO粉末表面に被覆したものを製造し、これをイオン伝導性酸化物粒子と混合し、これ以降は通常のアノード作製プロセスでアノードをスクリーン印刷し、高温焼き付けを行う方法が挙げられる。この方法では、従来のNiO粒子に代えて、添加金属前駆体で被覆したNiO粉末を使用することのみの違いであるので、Niに添加金属を数~十数%含有させ、多孔構造は従来のアノードと同様になる。
【0037】
<2.固体酸化物形燃料電池>
本発明は、固体電解質と、前記固体電解質の一方面側に配置されたアノードと、前記固体電解質の他方面に配置されたカソードとを備え、前記アノードが、上述した固体酸化物形燃料電池用アノードである固体酸化物形燃料電池(「本発明のSOFC」と記載する場合がある。)である。
本発明のSOFCは、固体電解質基板にアノード及びカソードを焼き付けた、いわゆる電解質支持型の燃料電池でもよく、アノード上に電解質膜を形成し、さらに電解質膜の上にカソードを形成した、いわゆるアノード支持型の燃料電池であってもよい。
【0038】
本発明のSOFCのアノードは上述した本発明のアノードであるため、説明を省略する。本発明のアノードの厚みは、その形態や使用目的によっても異なるが、固体電解質支持型の場合は、10~300μm程度が適当な範囲である。なお、電解質支持型セルではなく、アノード支持膜型セルの場合には、燃料電池用電極(アノード)の厚み0.1~5mm(特に0.5~2.5mm)が好適である。
【0039】
本発明のSOFCの固体電解質としては、SOFCの電解質として公知のものを使用することができる。例えば、スカンジウムやイットリウムをドープしたジルコニア系酸化物(それぞれ、ScSZ、YSZ)、ガドリニウムやサマリウム等をドープしたセリア系酸化物(それぞれGDC、SDC)、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタンガレート系酸化物などを用いることができる。この中でも、イオン伝導性が高く、安定性が高いScSZや、安価で安定性が高いYSZは好適である。
また、固体電解質は、本発明のアノードの電極骨格におけるイオン伝導性酸化物と同種のイオン伝導性酸化物であってもよい。
【0040】
固体電解質の厚さは、要求される導電率や強度に合わせて適宜調整すればよい。例えば、電解質支持型セルの場合において、ScSZでは厚みが5~500μm以下のものが好適に使用される
【0041】
本発明のSOFCのカソードには、ペロブスカイト型酸化物等の金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO3、(La,Sr)MnO3、(La,Sr)CoO3、(La,Sr)(Fe,Co)O3、(La,Sr)(Fe,Co,Ni)O3などが挙げられる。
本発明のSOFCのアノード、カソードの材料は、上述した電解質との反応性等を考慮して適宜選択される。
【0042】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、アノードとして、SOFCのアノード雰囲気下において安定なイオン伝導性酸化物とNi基金属合金で構成されているため、体積変化がほとんど生じない。また、アノードを構成するNi基金属合金は、高い電極触媒活性と電子伝導性を有する。その結果、本発明の燃料電池(SOFC)は、発電性能が高く、さらに長時間発電してもアノードの劣化が起こり難いという優れた特性を有する。
【0043】
本発明の固体酸化物形燃料電池におけるアノードを構成するNi基金属合金は、還元雰囲気での熱処理を行うことにより活性化することが好ましい。還元ガスとしては、水素、又は水素含有ガス等であればよい。
【0044】
また、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の説明において、SOFCセルの作製途中のNi基金属合金は酸化物の状態であるため、「Ni基金属合金(還元処理前の酸化物)」と表記する。
【0046】
[実施例1]:Ni74.5Cr17.2Fe8.3-GDCアノード
実施例1のSOFCセル(Ni74.5Cr17.2Fe8.3-GDCアノード)の製造方法は以下の通りである。
(Ni基金属合金(還元処理前の酸化物)の調製)
実施例1のNi基金属合金(Ni74.5Cr17.2Fe8.3粉末(還元処理前の酸化物))は以下の手順で共沈法により調製した。
まず、原材料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO32・6H2O、キシダ化学製)、硝酸クロム九水和物(Cr(NO・9HO、キシダ化学製)、硝酸鉄九水和物(Fe(NO・9HO、キシダ化学製)を重量比で5.0:1.6:0.76となるように秤量し、これを一つのビーカーに入れて純水を加え、撹拌することで各硝酸塩を完全に溶解させた。なお、Ni,Cr,Feの割合(仕込み比)は、目的とするNi基金属合金の組成がInconel(登録商標)600と同様になるようにNi,Cr,Feのモル比で74.5:17.2:8.3(重量比76.0:15.5:8.0)である。
次に、各硝酸塩を溶解させた水溶液を撹拌しながら、アンモニア水を水溶液のpHが7.5となるまで滴下しNi,Cr,Feの水酸化物による沈殿を生成した。生成した沈殿をろ過して集め、100℃で10時間乾燥後、更に1000℃で2時間か焼を行った。最後に、か焼後の粉末を15分間乾式ボールミルで粉砕し、実施例1の粉末(Ni74.5Cr17.2Fe8.3粉末(還元処理前の酸化物))を調製した。
調製した実施例1のNi基金属合金粉末(還元処理前の酸化物)と、GDC粉末(Gd0.1Ce0.92粉末)とを重量比で6.21:7.21となるように混合したのちに、エタノール中に分散させ、24時間のボールミリングの後、乾燥させて原料粉末とした。これらの電極材料粉末と6 wt%のエチルセルロースを溶解したα-テルピネオールを重量比が約5:7となるように秤量し、混合してペースト状にした。得られたペーストを三本ロールミルで10回程度ミリングを繰り返し、均一なアノードペーストを得た。
【0047】
(アノードの作製)
固体電解質として、市販の直径20mm、厚さ200μmの平板(円盤)型スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ:10mol%Sc23-1mol%CeO2-89mol%ZrO2、第一稀元素化学工業製)を使用した。
固体電解質にアノード用ペーストを塗布し、大気雰囲気下、80℃で30分乾燥させた(1層目)。同じアノード用ペーストを再度塗布した(2層目)。次いで、1300℃(昇温速度3℃/min)、3時間で焼成した。なお、アノード用ペーストの塗布は膜厚30μmのスクリーン(九州ミタニ製)を使用してスクリーン印刷法で行い、所定の厚みのアノード(8mm×8mm)を形成した。
なお、上記スクリーンを使用することによりアノード用ペーストの塗布量は、得られるSOFCセルのアノードの厚さが、約60μm(1層目:約30μm、2層目:約30μm)となるように調整した。
【0048】
(カソードの作製)
カソード原料として、ScSZ粉末(10mol%Sc23-1mol%CeO2-89mol%ZrO2粉末、第一稀元素化学工業製、商品名「10Sc1CeSZ」)及びLSM粉末((La0.8Sr0.20.98MnO3粉末、Praxair製、粒径500nm~3.3μm)を使用した。
カソードは、異なる調製方法の原料粉末を使用して2層で形成した。
カソード原料粉末(1層目)は、上記ScSZ粉末及びLSM粉末を50:50の重量比でエタノール中に分散させ、24時間のボールミリングの後、乾燥させることで製造した。また、カソード原料粉末(2層目)として、空隙率を高くし、空気の拡散効率を向上させるため、LSM粉末を1400℃で5時間焼成することで粒径を大きくしたものを、乳鉢ですりつぶし,エタノール中に分散させ、24時間のボールミリングの後、乾燥させることで製造した。カソード原料粉末(1層目及び2層目)のそれぞれを6 wt%のエチルセルロースを溶解したα-テルピネオールを重量比が約60:40となるように秤量し、混合してペースト状にした。得られたペーストを三本ロールミルで10回程度ミリングを繰り返し、均一なカソード用ペーストを得た。
【0049】
得られたカソード用ペースト(1層目)を、上述のスクリーンを使用して、固体電解質のアノードを形成した反対の面に塗布し、80℃で30分乾燥させた。次いで、カソード用ペースト((2層目)を塗布した。なお、カソード用ペーストの塗布量は、得られるSOFCセルのカソードの厚さが、約60μm(1層目:約30μm、2層目:約30μm)となるように調整した。
次いで、カソード用ペーストが塗布されたセルを1200℃5時間で焼成することにより、実施例1のSOFCセルを得た。
【0050】
なお、作製した実施例1のSOFCセル(還元処理前)は、両電極に集電体である白金メッシュが取り付けられており、アノードとカソードの電極面積は約0.64cm2である。白金メッシュは、電気化学測定ができるように、白金線がスポット溶接されている。
【0051】
[電気化学的評価]
実施例1のSOFCセルを用いて、電気化学的評価を行った。
(評価1)還元温度1000℃、24時間
まず、測定対象となるSOFCセル(還元処理前)を評価装置にセットし、温度を5時間(昇温速度:200℃/hour)で1000℃まで上げ、1000℃に達したのち、カソード側に乾燥空気(150ml/分)を、アノード側に3%H2O-H2(H2流量:150ml/分)を供給し、開回路電圧(Open Circuit Voltage、OCV)をモニタリングしながら、24時間アノードの還元処理を行った。
【0052】
次いで、800℃まで降温させOCVが安定したのを確認して、890CL型電子負荷装置(米国、Scribner社製)を掲載した燃料電池評価装置(東陽テクニカ製)を用いて負荷電流を印加し、3%H2O-H2供給時のセル電圧の測定を行った(IV測定)。また、IV測定と同時に、電流遮断法により各電流値におけるアノード過電圧及びIR損の評価を行った。具体的には、890CL型電子負荷装置を用いて、電流を遮断してから15μsec後の端子電圧を読み取ることによりオーミック抵抗(IR損)を測定し、過電圧分離を行った。
【0053】
(評価2)還元温度800℃、24時間
評価1において、1000℃、24時間で還元処理に代えて、800℃まで昇温した後に、800℃、24時間で還元処理に変更した以外は評価1と同様の試験を行った。
【0054】
評価1,2について、図2にIV測定の結果を、図3にアノード過電圧の評価結果を、図4にIR損の評価結果を示す。
【0055】
図2から、還元温度1000℃のSOFCセルは、還元温度800℃のSOFCセルと比較して、同じ電流密度において電圧の低下が少なく、より優れたIV性能を有していることがわかる。
そして、図3に示すようにアノード電圧においては還元温度1000℃のSOFCセルと、還元温度800℃のSOFCセルで大差ないのに対し、図4に示すアノードIR損は、800℃のSOFCセルの方が大きかった。このことから、還元温度1000℃のSOFCセルにおいては、アノードを構成するNi-Cr-Fe複合体の還元が進み、Ni-Cr-Fe複合体の電子伝導性率が増加したため、アノードのIR損が還元温度800℃の場合と比較して小さいものと考えられる。
【0056】
[微細構造評価]
還元温度1000℃のSOFCセルについて、電気化学的評価(IV測定)を行った後、アノードの微細構造評価を行った。図5に還元温度1000℃、図6に還元温度800℃でのアノードのFIB-SEM画像とEDSによる分析結果を示す。
図5及び図6のEDS分析からCe(及びGd)マッピングで特定できるGDCが連続してつながっており、連続した電極骨格を形成していることが確認された。
これに対し、Niマッピングで特定できるNi基金属合金は連続してつながっている部分と、連続してつながっていない部分とが確認された。そのため、アノードにおいて、Ni基合は、電極骨格として完全に連続しているわけではなく、これがIR損の一因となっているものと考えられる。
図5及び図6との対比からわかるように、還元温度1000℃のアノードは電極構造が密になっており、Ni基金属合金がより連続的であることから、還元温度800℃アノードと比べて導電性が高くなったため、IR損が小さいと予測される。
【0057】
[実施例2]:Ni80Co20-GDCアノード
実施例2のSOFCセル(Ni80Co20-GDCアノード)の製造方法は以下の通りである。
まず、実施例2のNi基金属合金(Ni80Co20粉末(還元処理前の酸化物))は、原材料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO32・6H2O、キシダ化学製)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO32・6H2O、キシダ化学製)を使用し、原材料組成(仕込み比)を、Ni,Coの重量比で80:20にした以外は、上記実施例1のNi基金属合金(還元処理前の酸化物)の調製方法と同様の方法で調製した。
次いで、得られた実施例2のNi基金属合金(還元処理前の酸化物)を使用し、上記実施例1のアノード作製、カソード作製と同一の方法で、実施例2のSOFCセル(還元処理前)を得た。
【0058】
[比較例1]:Ni-GDCアノード
実施例のNi基金属合金-GDCアノードと対比するために、Ni-GDCアノードを有する比較例のSOFCセルを製造した。比較例1のSOFCセルの製造方法は、原材料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO32・6H2O)のみを使用して、Ni酸化物粉末を得る以外は、上記実施例1のNi基金属合金(還元処理前の酸化物)の調製方法と同様の方法で調製した。
次いで、得られた比較例1のNi酸化物粉末を使用し、上記実施例1のアノード作製及びカソード作製と同一の方法で、比較例1のSOFCセル(還元処理前)を得た。
【0059】
[電気化学的評価]
実施例1,2及び比較例1のSOFCセル(還元処理前)を用いて、上記(評価1)の還元条件(還元温度1000℃、24時間)で還元し、800℃まで降温させたのちに、電気化学的評価(IV測定、アノード過電圧、アノードIR損)を行った。電気化学的評価の方法は、上記(評価1)と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
[Redoxサイクル耐久性試験]
実施例1、2及び比較例1のSOFCセルについて、Redoxサイクル耐久性試験を行った。この試験は、一定の温度条件下、燃料供給及び電流のオンオフを行い、サイクル前後での所定の電流においてのアノード電位を測定するものである。この評価では、電流のオンオフに加えて、アノードを還元雰囲気及び酸化雰囲気にさらすことにより、酸化還元の繰り返し(Redoxサイクル)に対する耐久性や電極触媒金属であるNiの凝集に対する耐性を評価できる。
【0061】
Redoxサイクル耐久性試験は、具体的には、図7に示すプロトコルに従い行った

還元処理:実施例1、2及び比較例1のSOFCセル(還元処理前)に対して、電気化学的評価と同様にして還元処理を行った。
1サイクル目:還元処理した後、作動温度800℃で1時間燃料(3%H2O-H2)供給の下で0.2A/cm2まで電流を引き、このときの電圧を測定した。
2サイクル目:次いで、燃料供給を遮断し2.5時間放置した。燃料を再供給し1時間放置後、再び1時間燃料供給の下で0.2A/cm2まで電流を引き、このときの電圧を測定した。
3~50サイクル目:2サイクル目と同様のサイクルを50回繰り返し行った。
【0062】
[微細構造評価]
実施例1、2及び比較例1のSOFCセルついて、Redoxサイクル試験前後のアノードの微細構造評価(FIB-SEM及びEDS分析)を行った。
【0063】
(評価結果)
SOFCセルの電気化学的評価として、図8にIV測定の結果、図9にアノード過電圧の結果、図10にアノードIR損の評価結果を示す。
また、実施例1,2及び比較例1のSOFCセルのRedoxサイクル試験の評価結果として、図11にIV測定の結果を、図12にアノード過電圧の評価結果を、図13にアノードIR損の評価結果を示す。
【0064】
図8~10の電気化学的評価(IV測定、アノード過電圧、アノードIR損)からわかるように、実施例2(Ni80Co20-GDCアノード)は、実施例1(Ni74.5Cr17.2Fe8.3-GDCアノード)と比較して優れた発電性能を示し、比較例1(Ni-GDCアノード)とほぼ同等の発電性能を示した。
この結果から、Cr, Feと比べてCoはSOFCアノードの発電性能低下の抑制に寄与していることが分かった。
また、図11~13のRedoxサイクル試験から、合金化していないNi-GDCアノード(比較例1)と比較して、Ni基金属合金を使用した実施例1,2のアノードは共に、過電圧とIR損の変化率は小さいことから、合金化による耐久性の向上が確認できた。特に、実施例2のアノードは50サイクルを終えた時点で最もアノード電位の変化率が小さかった。
【0065】
また、Redoxサイクル試験前後のアノードの微細構造評価として、比較例1のアノードについて図14にサイクル試験前、図15にサイクル試験後(50サイクル)のFE-SEM像(a)、EDS分析によるNiマッピング(b)をそれぞれ示した。また、実施例1のアノードについて図16にサイクル試験前、図17にサイクル試験後(50サイクル)、実施例2のアノードについて図18にサイクル試験前、図19にサイクル試験後(50サイクル)のFE-SEM像、EDS分析によるNiマッピングをそれぞれ示す。
図14及び図15の対比から明らかなように、Ni-GDCからなる比較例1のアノードは、Redoxサイクル試験前には分散して連続的であったNi粒子がRedoxサイクル試験後には凝集し、粗大化していることがわかる。この結果から、Ni粒子の酸化還元のサイクルによってNi粒子が凝集していき、粗大化することによってNi粒子が不連続となり、導電性が高くなったため、図11~13で認められるように電極性能の著しく低下したものと考えられる。
一方、合金化したNi基金属合金-GDCからなる実施例1,2のアノードでは、Redoxサイクル試験後であってもNi基金属合金粒子の凝集はそれほど認められず、連続していることが認められた。また、図示しないがRedoxサイクル試験前後においても実施例1,2のアノードのEDS分析からCe(及びGd)マッピングで特定できるGDCが連続してつながっており、GDCについても連続した電極骨格を形成していることが確認された。
【0066】
以上の結果から、NiにCr,Fe,Co等を合金化したNi基金属合金は酸化還元の繰り返しに対して優れた耐久性が認められ、特にCoを合金化することにより、発電特性と共に耐久性向上にも優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードは、酸化還元による電極骨格の破壊が抑制され、優れた電極性能、高燃料利用率耐久性を有するため、固体酸化物形燃料電池のさらなる性能向上が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14
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