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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】水プラズマによる透明樹脂の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/00 20060101AFI20231204BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231204BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20231204BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20231204BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20231204BHJP
   C23C 14/20 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B29C65/00
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C3/00
C23C14/12
C23C14/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019179658
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021053951
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 弘和
(72)【発明者】
【氏名】増市 幹雄
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188677(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159257(WO,A1)
【文献】特開2016-163549(JP,A)
【文献】特開平02-286222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00
G01N 37/00
B81B 1/00
B81C 3/00
C23C 14/12
C23C 14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、ポリパラキシリレンから成り平滑な平面部を有するパリレン層を備えた第1部材を作製し、
平滑な平面部を有する第2部材を作製し、
前記第1部材の前記平面部及び前記第2部材の前記平面部を共に水プラズマで処理し、
前記第1部材の前記平面部と前記第2部材の前記平面部を合わせる
ことにより第1部材と第2部材を接合する方法。
【請求項2】
前記第1部材の前記基材がPDMSである請求項1に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項3】
前記第2部材が、基材の表面にパリレン層を備えたものである請求項1又は2に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項4】
前記第2部材がガラス板またはCOP製の板である請求項1又は2に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項5】
前記第1部材のパリレン層および前記第2部材のパリレン層を水プラズマで処理し、パリレン層同士を接合する請求項に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項6】
前記第1部材が、
表面に平滑な平面部を有する型の該表面にポリパラキシリレンモノマーを蒸着することで前記パリレン層を形成し、
該パリレン層に更に前記基材を、該パリレン層との密着性の高い状態で置き、
表面に前記パリレン層が接合した基材を前記型から取り出す
ことにより作製される請求項1~5のいずれかに記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項7】
前記パリレン層に前記基材を密着性の高い状態で置く方法が、
該パリレン層の表面をプラズマで処理し、
次に、前記型に流動状態の基材を流しこんで硬化させる
方法である請求項に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項8】
前記パリレン層の表面に対して行われるプラズマ処理が水プラズマ処理である請求項に記載の第1部材と第2部材の接合方法。
【請求項9】
一方の表面に流路が形成された板である第1部材と、前記一方の表面を閉鎖する板である第2部材を、請求項1から請求項8のいずれかに記載の接合方法で接合することによりマイクロ流路チップを製造する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の生体試料等を分析するために用いられるマイクロ流路チップ(μTASやLab-on-Chipとも呼ばれる。)やDNAナノポアデバイス(以下、これらをまとめてマイクロ流路デバイスと呼ぶ。)等、主に透明板状のデバイスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)技術を用いて製造されるマイクロ流路デバイスは、微少量の試料の分析を行う際等に広く用いられる。また、様々な形態の流路を形成することができることから、複雑な処理を含む分析にも対応することができる。
【0003】
マイクロ流路デバイスは一般に、一方の面に流路が形成された平板(流路板)と、その面(流路)を塞ぐ平板(閉鎖板)の少なくとも2枚の透明平板を接合することにより作製される。ポリジメチルシロキサン(PolyDiMethylSiloxane, PDMS)は光学特性に優れ、成形が容易なことから、これらの材料として広く用いられている。しかし、PDMSは通気性が高く、また、材料自体から低分子シロキサンを放出するため、流路に試料を流す際にこれらが試料に入り込み、観察や分析を阻害する。また、予め染色した細胞をPDMS流路に流すと、PDMSに拡散して不具合を起こすことなども明らかになってきた。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1ではPDMSにバリア性の高いパリレン(ポリパラキシリレン, Poly-para-Xylylene。「パリレン」は日本パリレン合同会社の登録商標。)をコーティングすることで解決を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-188677号公報
【文献】特開2018-013473号公報
【文献】特表2011-520216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他の材料の表面にパリレンをコーティングする場合、パリレンモノマーを当該材料の表面に蒸着することにより行われる。このため、コーティングを行った後のパリレンの表面はパリレンモノマーの分子量が大きいことから、かなり粗な状態となる。従って、従来、パリレンでコーティングされた部材の表面同士は熱圧着(特許文献2)や接着剤で(特許文献3)接合されていた。
【0007】
しかし、パリレンを熱圧着する場合、その処理温度は450℃近くが必要である。PDMSにパリレンをコーティングした材料の場合、その温度ではPDMSが変成してしまうため、熱圧着という方法は使えない。
【0008】
また、マイクロ流路デバイスを作製する場合、接着剤による接合では、接着剤が多いと流路に接着剤がはみ出したり接着剤が溶出して流路を流れる試料を汚染したり、逆に接着剤が少ないと接合面間に隙間ができてしまう恐れがある。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、表面をパリレンでコーティングした部材の該表面を熱圧着や接着剤ではない方法で接合することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、
基材の表面に、平滑な平面部を有するパリレン層を備えた第1部材を作製し、
平滑な平面部を有する第2部材を作製し、
前記第1部材の前記平面部及び前記第2部材の前記平面部を共に水プラズマ(H2Oプラズマ)で処理し、
前記第1部材の前記平面部と前記第2部材の前記平面部を0.5MPa以下の圧力で合わせる
ことにより第1部材と第2部材を接合する方法である。
【0011】
上記の方法において、「平滑な」とは、算術平均粗さRaが5nm以下であることを表す。
【0012】
前記水プラズマの処理において、その水プラズマには酸素プラズマ(Oプラズマ)を含んでいてもよい。すなわち、プラズマの原料ガスにおいて、水蒸気(H20)と酸素(O2)の比率がH20:O2=100:0~H20:O2=20:80のものを使用することができる。なお、水プラズマには窒素やヘリウムやアルゴンを含んでいてもよい。
【0013】
前記水プラズマの処理においては、処理対象である前記第1部材の前記平面部及び前記第2部材の前記平面部を共に40~100℃としておくことが望ましく、室温(25℃)としておくことがより望ましい。
また、水プラズマの圧力は0.1~400Paとしておくことが望ましい。
【0014】
前記水プラズマの処理においては、プラズマ発生用の電極に供給する高周波電力は、処理対象の面積に関して0.3~3000mW/cm2の範囲内の値としておくことが望ましい。
【0015】
前記水プラズマの処理時間は、1~8000秒の範囲内としておくことが望ましく、10~120秒としておくことがより望ましい。
【0016】
第1部材の前記基材としては、PDMSやその他のシリコーンを用いることができる。
【0017】
第2部材としては、前記第1部材と同様に、基材の表面にパリレンをコーティングしたものを用いることができる。その他に、ガラスやシクロオレフィンポリマー(Cycloolefin Polymer (COP)。ただし、その共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)やシクロブロックコポリマー(CBC)を含む。)を用いることができる。また、基材にはポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリシロキサン、フエノール樹脂、ポリサルフアイド、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロライド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセタート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリキノキサリン、ポリイミダゾピロロン、エポキシ樹脂、並びに芳香族成分及びビニルやシクロブタン基から選択される成分を含む共重合体のような有機物であってもよく、あるいは、サファイア、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)のような無機物を用いることもできる。
【0018】
基材の表面に、平滑な平面部を有するパリレン層を備えた第1部材を作製する方法としては、例えば、表面に平滑な平面部を有する型の該表面にパリレンモノマーを蒸着することでパリレン層を形成し、該パリレン層に更に基材を、該パリレン層との密着性の高い状態で置き、表面に前記パリレン層が接合した基材を前記型から取り出すことにより作製することができる。
【0019】
この場合、前記パリレン層に前記基材を密着性の高い状態で置く方法として、該パリレン層の表面(型面ではない方の面)を水プラズマ又は他のプラズマで処理し、次に、前記型に(パリレンのプラズマ処理した表面側に)流動状態の基材(例えばPDMS)を流しこんで硬化させる、という方法がある。該パリレン層の表面をプラズマ処理せず、次に、前記型に流動状態の基材を流しこんで硬化させた場合は、基材を前記型から取り出すときに前記パリレン層が前記型に残るので、基材の表面に、平滑な平面部を有するパリレン層を備えた第1部材を作製することができない(特開2016-163549)。
【0020】
ここにおける水プラズマの他のプラズマとしては、例えば酸素プラズマ(Oプラズマ)、アルゴンプラズマ(Arプラズマ)、或いはそれらの混合プラズマ等を挙げることができる。
【0021】
基材の表面にパリレン層を備えた第2部材を作製する方法としては、例えば、表面に平滑な平面部を有する型の該表面にパリレンモノマーを蒸着することでパリレン層を形成し、該パリレン層に更に基材(例えば、PDMS、ガラスまたはCOP製の板)を、該パリレン層との密着性の高い状態で置き、表面に前記パリレン層が接合した基材を前記型から取り出すことにより作製することが好ましい。
【0022】
この場合、前記パリレン層に前記基材を密着性の高い状態で置く方法として、該パリレン層の表面(型面ではない方の面)を水プラズマ又は他のプラズマで処理し、次に、前記型に(パリレンのプラズマ処理した表面側に)基材を置くという方法が好ましい。
【0023】
このようにして得られた第1部材のパリレン層と第2部材のパリレン層は平滑な平面部を有しているので、パリレン層同士を接合すると第1部材と第2部材とを高い強度で接合することができるが、さらに高い強度で第1部材と第2部材と接合できる点で、第1部材のパリレン層および第2部材のパリレン層を水プラズマで処理した後に、パリレン層同士を接合することが好ましい。このようにして製造されたマイクロ流路チップは、流路内に高い圧力で送液しても第1部材と第2部材とが剥離しない。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る接合方法によると、表面をパリレンでコーティングした部材の該表面を熱圧着や接着剤ではない方法で他の透明材料と接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る接合方法を用いて作製するマイクロ流路デバイスの一例の概略構成図であり、(a)は流路板の平面図、(b)は閉鎖部材の平面図、(c)は両者を合わせたものの側面図。
図2】本発明に係る接合方法の一実施形態において用いられるプラズマ処理装置の概略構成図。
図3】前記実施形態のフローチャート。
図4】前記実施形態において行われる試験片の作製手順を示す断面図。
図5】接合強度評価試験の試験片の平面図(a)及び側面図(b)。
図6】接合強度評価試験の結果を示す写真。
図7】接合強度評価試験において行う引張試験の方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る接合方法を用いてマイクロ流路デバイスを作製する方法の一実施形態を説明する。本実施形態で作製するマイクロ流路デバイスの一例を図1に示す。このマイクロ流路デバイス10は、一方の表面に流路13が形成された透明板である流路部材11と、該流路部材11の流路形成側の面を閉鎖する(すなわち、流路を形成する)ための透明の平面板である閉鎖部材12で構成される。閉鎖部材12の、流路13の両端部に対応する位置には、試料を流路13に導入し、流路13から導出するための試料導入口/導出口14がそれぞれ設けられている。
【0027】
このマイクロ流路デバイスの作製方法を図3のフローチャート及び図4のマイクロ流路デバイス断面図を用いて説明する。まず、流路部材11の作製方法を説明する。図1(a)に示すような流路部材11の雌型である流路型21(図4(a))を用意し、その表面を平滑にする(ステップS1)。ここで「平滑」とは、表面の算術平均粗さRaが5nm以下であることを言う。次に、この流路型21の内表面(平滑面)にパリレンを蒸着する(ステップS2、図4(b))。こうして形成したパリレン層22の表面(蒸着面)をプラズマで処理する(ステップS3)。ここで用いるプラズマは、水プラズマ(H2Oプラズマ)の他、水-酸素プラズマ(H2O-O2プラズマ)、酸素プラズマ(Oプラズマ)、アルゴンプラズマ(Arプラズマ)など、一般的に洗浄目的で使用されている各種プラズマを使用することができる。その後、流路型21の中にPDMS23を注入し、熱硬化させる(ステップS4、図4(c))。PDMS層23が十分に硬化した後、表面にパリレン層22を有するPDMS層23を流路型21から取り出す(ステップS5)。パリレン層22の型側の面は平滑面であるのに対しPDMS層23側の面はパリレンを蒸着したままの粗面であり、また、プラズマにより表面処理が施された後に液体状のPDMS23と接触したため、PDMS層23はパリレン層22と良く密着し、パリレン層22は流路型21には残らずPDMS層23と一緒に流路型21から取り出される(図4(d))。これで、表面に平滑なパリレン層22を有するPDMS層23から成る流路部材11が完成する(図4(e)左)。
【0028】
一方、同様の方法により、試料導入口/導出口に対応する凸部を設けた閉鎖板型(図示せず)を用いて、表面に平滑なパリレン層27を有するPDMS層28から成る閉鎖部材12を作製する(ステップS6、図4(e)右。なお、図1及び図4はいずれも模式的に示したものであり、流路13の幅や試料導入口/導出口14の大きさなどは図1図4において異なる。)。なお、閉鎖部材12はこのようなパリレン層27を有するPDMS層から成る平板ではなく、平滑な表面を持つCOP板やガラス板で作製してもよい。
【0029】
こうして作製した流路部材11と閉鎖部材12のパリレン層側の面(平滑面)を、水プラズマで処理する(ステップS7)。水プラズマ処理は、例えば平行平板型(容量結合型)プラズマ処理装置を用いて行うことができる。このような平行平板型プラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置50(サムコ株式会社製AQ-2000)の概略の構成を図2により説明する。処理室51内には上下に電極52、53が配置され、いずれか一方が接地され、他方に高周波電力が供給される。図2の装置では、上部電極53に高周波電源54より高周波電力が供給され、下部電極52が接地されてそこに被処理部材が載置される(PEモード)。これを逆にして、被処理部材を載置した下部電極52に高周波電力を供給し、上部電極53を接地してもよい(RIEモード)。密閉された処理室51内は真空排気系55により排気可能となっており、排気後の処理室51内には水蒸気供給系56から水蒸気(H2O)が供給される。これら各部はプラズマ処理装置50の制御部58により制御される。
【0030】
このプラズマ処理装置50の処理室51内に前記流路部材11及び閉鎖部材12を、それらの平滑面が処理面(上面)となるように下部電極52上に設置し(図4(e))、水プラズマ処理を施す(ステップS7)。水プラズマ処理の処理条件は、例えば次のとおりとすることができる。
水蒸気(H2O)流量20sccm
B.G.P. 10Pa
圧力 4Pa
高周波電力 100W(33mW/cm2
試験片温度 25℃
処理時間 80sec
【0031】
こうして両平滑面に水プラズマ処理を施した後、両平滑面を合わせ、それらを接合する(ステップS8、図4(f))。接合は、流路部材11又は閉鎖部材12の自重(流路部材11や閉鎖部材12が76mm×26mm×2mm程度の平板である場合、通常、約4gf)程度の力でも可能であるが、0.5MPa以下の圧力を加えてもよい。
以上の工程により、マイクロ流路デバイスが完成する。
【0032】
次に、上記の工程のうち、
(1) パリレン蒸着面へのプラズマ処理の有無による、パリレン層とPDMS層の接着性(ステップS3の効果)
(2) パリレン層の平滑表面と他の平滑表面に水プラズマ処理を施した後の両平滑表面の接着性(ステップS8の効果)
を評価するための試験を行った。
【0033】
まず、(1)の評価のため、次のような試験を行った。図5に示すように、ガラス基板31にパリレンC(ベンゼン環の水素の1つを塩素に置換したもの。)を2μmの厚さで蒸着した。この、ガラス基板31+パリレン層32から成る試験片30を2枚作製し、そのうち1枚の試験片30についてはパリレン層の表面(蒸着面。粗面)をプラズマで処理した。ここにおけるプラズマ処理は、上記と同じ条件の水プラズマ処理とした。他の1枚の試験片30にはプラズマ処理を施さなかった。その後、両試験片30上にそれぞれ15mm×15mmの略正方形の枠を載置し、各枠内にPDMSを2mmの厚さとなるように注入し、硬化させた。ここで用いたPDMSはダウ・東レ株式会社製のSylgard184(Sylgardは同社の商標。)である。硬化は、75℃に90分保持することにより行った。PDMS層33が硬化した後、枠を取り外し、ガラス基板31上にパリレン層32とPDMS層33の積層体が形成された2種の試験片30を得た。前記の通り、このうち1種はパリレン層32表面にプラズマ処理が施されており、他の1種にはプラズマ処理が施されていない。図5に示すように、両試験片30のガラス基板31上のパリレン層32とPDMS層33の積層体に、カッターナイフで、積層体を3×3に分割するように分割線34を入れた。
【0034】
こうして形成した両試験片30の9個の各分割領域毎に、真空ピンセットでPDMS層33を吸引してガラス基板31に垂直に引っ張り、各層がどの境界で剥離するかを調べた。その結果を図6に示す。プラズマ処理を施さなかった試験片30(図6の「プラズマ処理なし」欄)では、9箇所のうち9箇所(全数)で、パリレン層32とPDMS層33の間の境界で剥離した。すなわち、パリレン層32は全てガラス基板31に残留し、剥離したPDMS層33にはパリレン層32は付着してこなかった。一方、プラズマ処理を施した試験片30(図6の「プラズマ処理あり」欄)では、9箇所のうち9箇所(全数)で、ガラス基板31とパリレン層32の間の境界で剥離した。すなわち、全ての領域においてガラス基板31上には何も残らず、全領域においてパリレン層32はPDMS層33と一緒に剥離した。
【0035】
これにより、パリレン蒸着面にプラズマ処理を施すことによる、パリレン層32とPDMS層33の接着性向上の効果(ステップS3の効果)が確認された。
【0036】
また、上記のうちプラズマ処理を施した試験片3枚について、プラズマ処理を施した直後のパリレン層32表面の水接触角を測定した。また、プラズマ処理を施さなかった試験片3枚についても同様にパリレン層表面の水接触角を測定した。その結果、プラズマ処理を施した試験片30では水接触角は4°、5°、4°であったのに対し、プラズマ処理を施さなかった試験片30では水接触角は82°、90°、88°であった。このことから、プラズマ処理を施すことによりパリレン層32の表面が非常に強い親水性となっていることがわかる。この強い親水性がPDMS層33との接着性向上に寄与しているものと考えられる。
【0037】
次に、上記(2)の評価のため、次のような接合試験片を作製した。
接合試験片1:上記評価試験(1)においてプラズマ処理後にガラス基板から剥離した[パリレン層+PDMS層]から成る5mm×5mm×[2μm+2mm]の板状試験片
接合試験片2:白板ガラス板(松波硝子工業株式会社製S1112スライドグラス)から成る76mm×26mm×1mmの)試験片
【0038】
接合試験1として、2枚の接合試験片1を用意し、それらの平滑表面(ガラス基板から剥離したパリレン層表面)を水プラズマ処理で処理した後、直ちに両処理面(両平滑表面)を合わせ、ハンドローラーで加圧した。このときの水プラズマ処理の条件は前記のとおりである。接合時の環境温度は25℃であり、ハンドローラーによる加圧の両平滑表面における圧力は0.1MPaである。こうして接合した2枚の接合試験片1のそれぞれから、PDMS層を除去した。この理由は、本接合試験1は、平滑なパリレン層と平滑なパリレン層の間の接合強度を評価するためのものであるからである。こうして準備した2枚の接合試験片1(図7(a)、(b)の41、42)の両側の外表面にそれぞれプラスチックボルト43のヘッドの平坦面を合わせ、接着剤で固定した(図4(c))。両ボルト43を引張試験機で引っ張り、両接合試験片1(41、42)が剥離したときの引張強度を測定した。
【0039】
その結果、2枚の試験片1の接合強度(引張強度)は192.8 N/cm2と、水プラズマ処理を行った平滑なパリレン層間では十分強固な接合がなされていることが確認された。
【0040】
また、接合試験2として、1枚の接合試験片1と1枚の接合試験片2(白板ガラス板)を用意し、接合試験片1(前記同様、PDMS層は引張試験前に除去した。)の平滑表面と接合試験片2の一方の表面(当然、平滑表面)に前記条件で水プラズマ処理を施した後、直ちに両処理面(両平滑表面)を合わせてハンドローラーで加圧することにより接合した。このときの接合条件(環境温度、圧力)は接合試験1と同じとした。この状態で引張強度試験を行った(前記同様、接合試験片1のPDMS層は引張試験前に除去した。)ところ、接合試験片1と接合試験片2の接合強度(引張強度)は63.2 N/cm2であった。これも、マイクロ流路デバイスとして使用するには十分な接合強度である。
【0041】
さらに、前記のように接合試験片1と接合試験片2を接合した後、50℃で10分間加熱し、その後引張強度試験を行った。その結果、接合試験片1と接合試験片2の接合強度は103.4 N/cm2に増加した。すなわち、接合後に加熱することは接合強度向上に有効であることが判明した。
【符号の説明】
【0042】
10…マイクロ流路デバイス
11…流路部材
12…閉鎖部材
13…流路
14…試料導入口/導出口
21…流路型
22、27…パリレン層
23、28…PDMS層
30…試験片
31…ガラス基板
32…パリレン層
33…PDMS層
34…分割線
41、42…接合試験片
43…プラスチックボルト
50…プラズマ処理装置
51…処理室
52…下部電極
53…上部電極
54…高周波電源
55…真空排気系
56…水蒸気供給系
58…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7