(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】微生物の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20231204BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20231204BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231204BHJP
C12Q 1/6862 20180101ALI20231204BHJP
C12Q 1/6865 20180101ALI20231204BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20231204BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20231204BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20231204BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6862 Z
C12Q1/6865 Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/689 Z
C12N9/12
C12N15/10 100Z
(21)【出願番号】P 2019031668
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】518150529
【氏名又は名称】公益財団法人筑波メディカルセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰康
(72)【発明者】
【氏名】杉山 明生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広道
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-060413(JP,A)
【文献】国際公開第2007/060949(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/084481(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103911365(CN,A)
【文献】特開昭62-236478(JP,A)
【文献】KULSKI,J.K. et al.,Preparation of Mycobacterial DNA from Blood Culture Fluids by Simple Alkali Wash and Heat Lysis Method for PCR Detection,Journal of Clinical Microbiology,1996年,Vol.34, No.8,pp.1985-1991
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/04
C12Q 1/6844
C12Q 1/686
C12Q 1/6862
C12Q 1/6865
C12Q 1/6806
C12Q 1/689
C12N 9/12
C12N 15/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれ得る微生物の検出方法であって、以下の工程A~F:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物に、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つであるpH
12~1
3のアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られたアルカリ性の懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
(F)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液、或いは前記工程Eで得られた精製液の一部又は全部を微生物の検出に供する工程、
を包含し、少なくとも前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われ
、
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、ビーズ破砕処理を含む、方法。
【請求項2】
前記反応容器の容量が、50mL以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応容器中にビーズが含まれている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビーズがジルコニアビーズである請求項
1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記工程Aにおいて、アルカリ性溶液が、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程Aにおいて、アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程Bにおいて微生物を濃縮する工程が、遠心分離処理を含む、請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、撹拌処理、超音波処理、加熱処理、及びアルカリ処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を
さらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、加熱処
理をさらに含む、請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記工程Eを含み、前記工程Eにおいて溶菌液又は破砕液を精製する工程が、遠心分離処理を含む、請求項1~
9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
微生物の検出が、微生物由来の核酸の検出である、請求項1~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
微生物由来の核酸の検出が、微生物由来の核酸の増幅をさらに含む請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸の増幅が、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、及びTRC法からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
検出対象微生物が、Mycobacterium属に分類される微生物の少なくとも一つである、請求項1~
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
検出対象微生物が、M. abscessus、M. africanum、M. agri、M. aichiense、M. algericum、M. alvei、M. arabiense、M. aromaticivorans、M. arosiense、M. arupense、M. asiaticum、M. aubagnense、M. aurum、M. austroafricanum、M. avium、M. bacteremicum、M. boenickei、M. bohemicum、M. bolletii、M. botniense、M. bouchedurhonense、M. bourgelatii、M. bovis、M. branderi、M. brisbanense、M. brumae、M. canariasense、M. caprae、M. celatum、M. chelonae、M. chimaera、M. chitae、M. chlorophenolicum、M. chubuense、M. colombiense、M. conceptionense、M. confluentis、M. conspicuum、M. cookii、M. cosmeticum、M. crocinum、M. diernhoferi、M. doricum、M. duvalii、M. elephantis、M. europaeum、M. fallax、M. farcinogenes、M. flavescens、M. florentinum、M. fluoranthenivorans、M. fortuitum、M. frederiksbergense、M. gadium、M.
gastri、M. genavense、M. gilvum、M. goodii、M. gordonae、M. haemophilum、M. hassiacum、M. heckeshornense、M. heidelbergense、M. hiberniae、M. hippocampi、M. hodleri、M. holsaticum、M. houstonense、M. immunogenum、M. insubricum、M. interjectum、M. intermedium、M. intracellulare、M. iranicum、M. kansasii、M. komossense、M. koreense、M. kubicae、M. kumamotonense、M. kyorinense、M. lacus、M. lentiflavum、M. leprae、M. lepraemurium、M. litorale、M. llatzerense、M. madagascariense、M. mageritense、M. malmoense、M. mantenii、M. marinum、M. marseillense、M. massiliense、M. microti、M. minnesotense、M. monacense、M. montefiorense、M. moriokaense、M. mucogenicum、M. murale、M. neoaurum、M. nebraskense、M. neworleansense、M. nonchromogenicum、M. noviomagense、M. novocastrense、M. obuense、M. pallens、M. palustre、M. paraffinicum、M. parafortuitum、M. paragordonae、M. parakoreense、M. parascrofulaceum、M. paraseoulense、M. paratuberculosis、M. parmense、M. peregrinum、M. phlei、M. phocaicum、M. pinnipedii、M. porcinum、M. poriferae、M. pseudoshottsii、M. psychrotolerans、M. pulveris、M. pyrenivorans、M. rhodesiae、M. riyadhense、M. rufum、M. rutilum、M. salmoniphilum、M. saskatchewanense、M. scrofulaceum、M. sediminis、M. senegalense、M. senuense、M. seoulense、M. septicum、M. setense、M. sherrisii、M. shimoidei、M. shinjukuense、M. shottsii、M. simiae、M. smegmatis、M. sphagni、M. stomatepiae、M. szulgai、M. terrae、M. thermoresistibile、M. timonense、M. tokaiense、M. triplex、M. triviale、M. tuberculosis、M. tusciae、M. ulcerans、M. vaccae、M. vanbaalenii、M. vulneris、M. wolinskyi、M. xenopi、及びM. yongonenseからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
試料の前処理方法、又は、微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、以下の工程A~E:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物に、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つであるpH
12~1
3のアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られたアルカリ性の懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
を包含し、
前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われ
、
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、ビーズ破砕処理を含む、方法。
【請求項17】
請求項
16に記載の試料の前処理方法又は検出対象試料液の調製方法、或いは請求項1~
15のいずれかに記載の微生物の検出方法のための試薬であって、
前記工程A及び/又は工程Cに使用するためのアルカリ性溶液、
前記工程Dに使用するためのビーズ、或いは
前記工程Fに使用するためのプライマーミックス及び/又はDNAポリメラーゼ、
を含む、試薬。
【請求項18】
請求項
17に記載の試薬の少なくとも一つを含む、請求項
16に記載の試料の前処理方法又は検出対象試料液の調製方法、或いは請求項1~
15のいずれかに記載の微生物の検出方法のためのキット。
【請求項19】
前記工程A~D、工程A~E、又は工程A~Fで使用するための反応容器をさらに含む、請求項
18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれ得る微生物の検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる微生物を検出することは臨床診断、食品衛生などにおいて重要である。しかしながら、試料を直接検出に供すると核酸の増幅又は検出中に反応阻害などが起こり、正しい測定結果が得られないことがある。この点はとりわけ、夾雑物を多く含む生体試料を対象として微生物を検出する方法において大きな問題である。そこで、試料中に含まれる微生物を検出する際に、試料を直接検出に供するのではなく、何らかの前処理を行うことが一般的である。これは、試料中に含まれる夾雑物の除去や測定に供するための標識作業などを目的としており、試料中の微生物をより正確に検出するために必要な操作と考えられている。
【0003】
特に、微生物を検出する方法が微生物由来の核酸を検出する方法である場合、前処理として、試料中の核酸を精製することが一般的に行われる(例えば、特許文献1、非特許文献1)。これは、核酸を検出するために、例えば、PCRなどの核酸増幅反応に供する場合、試料中の夾雑物により反応が阻害されることを抑制するためである。精製法の一つとして核酸抽出法があり、核酸抽出法としてはBOOM法を原理とした方法等がある。
【0004】
しかしながら、核酸抽出は、操作が非常に複雑、操作時間が長い、有機溶媒を使用する、試薬コストが高いといった課題があった。特に、核酸抽出は操作が煩雑であるとともに、タンパク質変性作用がある毒性の高い試薬を必要とすることがある。また、核酸抽出は、操作によって反応容器を移して行うことがあるため、操作性が悪いとともにコンタミリスクがあった。
【0005】
ところで、抗酸菌等の一部の細菌は、ミコール酸を含む脂質層を有した強固な細胞壁を持つことが知られており、通常、他の微生物よりも検出精度が低い。これまでにも、このような強固な細胞壁を有する抗酸菌の検査を行う手法の検討がなされているが(例えば、特許文献2)、より高感度に検査を行うための更なる前処理法の検討が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-067291
【文献】特開2010-233503
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. Boom et al, Rapid and Simple Method for Purification of Nucleic Acids, Journal of Clinical Microbiology, 1990, vol.28, no.3, p.495-503.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、試料に含まれ得る微生物の検出方法であって、フェノール等の有機溶媒を使用する一般的な核酸抽出方法を必要とすることなく、試料を前処理する工程を含み、該前処理によって調製された検出対象試料液を微生物の検出方法に供することができる微生物の検出方法の提供を一つの目的とする。また、その前処理、検出対象試料液の調製、又は微生物の検出を実施するための試薬又はキットの提供を一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、試料(生体試料、食品試料等)を水又はアルカリ性溶液で懸濁した後、懸濁液に含まれる微生物を濃縮し、さらにアルカリ性溶液を添加後、懸濁液中の微生物を溶菌又は破砕する、簡便な、有機溶媒を必須としない、試料の前処理方法によって、試料中の微生物の検出が可能であることを見出し本発明を完成させた。代表的な本発明は以下のとおりである。
【0010】
[項1]
試料に含まれ得る微生物の検出方法であって、以下の工程A~F:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
(F)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液、或いは前記工程Eで得られた精製液の一部又は全部を微生物の検出に供する工程、
を包含し、少なくとも前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われる方法。
[項2]
前記反応容器の容量が、50mL以下である、項1に記載の方法。
[項3]
前記反応容器中にビーズが含まれている、項1又は2に記載の方法。
[項4]
前記ビーズがジルコニアビーズである項3に記載の方法。
[項5]
前記工程A及び/又は工程Cにおいて、アルカリ性溶液が、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つである、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記工程A及び/又は工程Cにおいて、アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、項1~5のいずれかに記載の方法。
[項7]
前記工程Bにおいて微生物を濃縮する工程が、遠心分離処理を含む、項1~6のいずれかに記載の方法。
[項8]
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、及びアルカリ処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、項1~7のいずれかに記載の方法。
[項9]
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、加熱処理を含む、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項10]
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、ビーズ破砕処理を含む、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項11]
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、加熱処理及びビーズ破砕処理を含む、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項12]
前記工程Eにおいて溶菌液又は破砕液を精製する工程が、遠心分離処理を含む、項1~11のいずれかに記載の方法。
[項13]
微生物の検出が、微生物由来の核酸の検出である、項1~12のいずれかに記載の方法。
[項14]
微生物由来の核酸の検出が、微生物由来の核酸の増幅をさらに含む項13に記載の方法。
[項15]
前記核酸の増幅が、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、及びTRC法からなる群より選択される少なくとも一つを含む、項14に記載の方法。
[項16]
検出対象微生物が、Mycobacterium属に分類される微生物の少なくとも一つである、項1~15のいずれかに記載の方法。
[項17]
検出対象微生物が、M. abscessus、M. africanum、M. agri、M. aichiense、M. algericum、M. alvei、M. arabiense、M. aromaticivorans、M. arosiense、M. arupense、M. asiaticum、M. aubagnense、M. aurum、M. austroafricanum、M. avium、M. bacteremicum、M. boenickei、M. bohemicum、M. bolletii、M. botniense、M. bouchedurhonense、M. bourgelatii、M. bovis、M. branderi、M. brisbanense、M. brumae、M. canariasense、M. caprae、M. celatum、M. chelonae、M. chimaera、M. chitae、M. chlorophenolicum、M. chubuense、M. colombiense、M. conceptionense、M. confluentis、M. conspicuum、M. cookii、M. cosmeticum、M. crocinum、M. diernhoferi、M. doricum、M. duvalii、M. elephantis、M. europaeum、M. fallax、M. farcinogenes、M. flavescens、M. florentinum、M. fluoranthenivorans、M. fortuitum、M. frederiksbergense、M. gadium、M. gastri、M. genavense、M. gilvum、M. goodii、M. gordonae、M. haemophilum、M. hassiacum、M. heckeshornense、M. heidelbergense、M. hiberniae、M. hippocampi、M. hodleri、M. holsaticum、M. houstonense、M. immunogenum、M. insubricum、M. interjectum、M. intermedium、M. intracellulare、M. iranicum、M. kansasii、M. komossense、M. koreense、M. kubicae、M. kumamotonense、M. kyorinense、M. lacus、M. lentiflavum、M. leprae、M. lepraemurium、M. litorale、M. llatzerense、M. madagascariense、M. mageritense、M. malmoense、M. mantenii、M. marinum、M. marseillense、M. massiliense、M. microti、M. minnesotense、M. monacense、M. montefiorense、M. moriokaense、M. mucogenicum、M. murale、M. neoaurum、M. nebraskense、M. neworleansense、M. nonchromogenicum、M. noviomagense、M. novocastrense、M. obuense、M. pallens、M. palustre、M. paraffinicum、M. parafortuitum、M. paragordonae、M. parakoreense、M. parascrofulaceum、M. paraseoulense、M. paratuberculosis、M. parmense、M. peregrinum、M. phlei、M. phocaicum、M. pinnipedii、M. porcinum、M. poriferae、M. pseudoshottsii、M. psychrotolerans、M. pulveris、M. pyrenivorans、M. rhodesiae、M. riyadhense、M. rufum、M. rutilum、M. salmoniphilum、M. saskatchewanense、M. scrofulaceum、M. sediminis、M. senegalense、M. senuense、M. seoulense、M. septicum、M. setense、M. sherrisii、M. shimoidei、M. shinjukuense、M. shottsii、M. simiae、M. smegmatis、M. sphagni、M. stomatepiae、M. szulgai、M. terrae、M. thermoresistibile、M. timonense、M. tokaiense、M. triplex、M. triviale、M. tuberculosis、M. tusciae、M. ulcerans、M. vaccae、M. vanbaalenii、M. vulneris、M. wolinskyi、M. xenopi、及びM. yongonenseからなる群より選択される少なくとも一つである、項16に記載の方法。
[項18]
試料の前処理方法、又は、微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、以下の工程A~E:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
を包含し、前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われる方法。
[項19]
項18に記載の試料の前処理方法又は検出対象試料液の調製方法、或いは項1~17のいずれかに記載の微生物の検出方法のための試薬であって、
前記工程A及び/又は工程Cに使用するためのアルカリ性溶液、
前記工程Dに使用するためのビーズ、或いは
前記工程Fに使用するためのプライマーミックス及び/又はDNAポリメラーゼ、
を含む、試薬。
[項20]
項19に記載の試薬の少なくとも一つを含む、項18に記載の試料の前処理方法又は検出対象試料液の調製方法、或いは項1~17のいずれかに記載の微生物の検出方法のためのキット。
[項21]
前記工程A~D、工程A~E、又は工程A~Fで使用するための反応容器をさらに含む、項20に記載のキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な試料の前処理によって、微生物の検出、特に核酸検出に基づく微生物の検出、に適した液(検出対象試料液)を、有機溶媒を必須とせずに調製でき、この検出対象試料液を直接、微生物の検出に供することができる。また、試料の前処理の過程及び検出対象試料液を調製する過程において実効的なタンパク質変性剤が必須ではないため、薬傷の危険性もない。また、試料の前処理及び検出対象試料液の調製は、同一の反応容器内で行われるので、操作性の向上、資材コストの削減、コンタミリスクの回避も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上述の代表的な発明を中心に説明する。
【0013】
[微生物の検出方法]
生体試料、食品、環境試料等の一部を採取し、採取試料に微生物の検出が可能になる程度にまで各種の前処理を施し、得られた前処理物に含まれる微生物を検出することが一般的に行われている。本発明の一実施形態は、試料に含まれ得る微生物の検出方法であって、以下の工程A~F:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
(F)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液、或いは前記工程Eで得られた精製液の一部又は全部を微生物の検出に供する工程、
を包含し、少なくとも前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われる方法、である。
【0014】
[試料]
本発明において使用できる試料は、検出目的の微生物を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。試料は工程Aにおいて懸濁される。試料としては、例えば、生体試料や食品、環境試料等が挙げられる。なお、本発明でいう微生物とは、広義の意味で小さな生物を示し、バクテリア、真菌、ウイルス、寄生虫、線虫等を含むがこれらに限定されない。また、微生物の検出とは、微生物そのものの有無だけでなく、微生物構成成分(タンパク質、核酸、脂質等)及びそれらをコードする遺伝子等を検出することも含む。検出の対象となる微生物は生きた微生物、死んだ微生物のいずれであってもよいが、生きた微生物が好ましい。
【0015】
生体試料の例として、特に制限されないが、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルス等が挙げられる。さらに挙げると、血液、血漿、血清、血液培養液、尿、唾液、羊水、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻咽頭拭い液、直腸拭い液、喀痰、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、鼓膜切開液、肺胞洗浄液、胃洗浄液、腸洗浄液、子宮頸管拭い液、尿道擦過物、臓器抽出液、組織抽出液分離培養コロニー、気管支洗浄液、カテーテル洗浄液等が挙げられる。本発明は、夾雑物を多く含む生体試料を対象とする場合であっても、感度のよい微生物検出が可能である。このような観点から、本発明が対象とする生体試料としては、例えば、排泄物、吐瀉物、糞便、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻咽頭拭い液、喀痰が好適であり、糞便、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰がより好適であり、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰が更に好適であり、喀痰がとりわけ好適であり、これらの中でも哺乳動物由来、殊にヒト由来のものがより一層好適である。
【0016】
食品の例として、水、アルコール飲料、清涼飲料水、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜等が挙げられる。また、食品を試料とする場合、その食品の一部あるいは全部を使用できるだけでなく、食品表面を拭き取ったものも使用できる。さらに、調理器具等の食品接触部又は人接触部やドアノブ等の人接触部を拭き取ったものあるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。液体成分が多い試料については、必要に応じて、乾燥、限外ろ過、蒸留等を行い、液体成分の一部あるいは全部を除去した試料を用いてもよい。
【0017】
環境試料の例として、水、氷、土壌等が挙げられる。ここでいう水とは、例として、水道水、海水あるいは川、滝、湖、池等から採取した水等が挙げられる。また、施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったものあるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。液体成分が多い試料については、必要に応じて、乾燥、限外ろ過、蒸留等を行い、液体成分の一部あるいは全部を除去した試料を用いてもよい。
【0018】
試料の採取方法は、特に制限されず、試料の種類、大きさ、目的に応じて公知の方法を用いることができる。例えば、綿棒、スワブ、白金耳、スポイト、へら、さじなどの採取具を用いた採取方法である。
【0019】
試料は、本発明の工程Aに供する前に、必要に応じて前処理を実施してもよい。例えば、液体成分が多い試料については、乾燥、限外ろ過、蒸留等を行い、液体成分の一部あるいは全部を除去した試料を用いてもよい。例えば、粘性の高い試料(喀痰など)については、セミアルカリプロテアーゼ(SAP)処理やNALC-NaOH処理を施してもよい。これらの処理を行った検体も試料として、本発明に使用することができる。
【0020】
[工程A]
工程Aでは、試料をそのまま、又は試料の一部を採取して、水又はアルカリ性溶液に懸濁する。水、アルカリ性溶液のどちらを使用するかは、試料によって適宜選択することができる。例えば、pH調整や夾雑物除去を目的として、アルカリ性溶液を選択できる。アルカリ性溶液を使用することで、目的の微生物以外の夾雑物を分解又は溶解しやすくなる。なお、採取された試料や前処理された試料において試料中の微生物がが水又はアルカリ性溶液に含有され、次の工程Bに供することができる場合、本工程を省略しても差し支えない。
【0021】
水としては、例えば精製水、滅菌水、水道水等が挙げられるが、不純物が少ない点で精製水又は滅菌水が好ましい。また、試料が水の場合は、必要に応じて精製水又は滅菌水で希釈することもできるし、工程Aを省略することもできるが、アルカリ性溶液を使用することが好ましい。
【0022】
アルカリ性溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられ、水酸化カリウム水溶液及び/又は水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。これらのアルカリ性溶液は、微生物の検出に不適切な大きな影響を与えない。
【0023】
また、アルカリ性溶液として緩衝作用を持つ緩衝液を使用してもよい。緩衝液として、例えば、当該分野で周知のTris、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS、PBS、アミノ酸緩衝液、リン酸緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
アルカリ性溶液のpHは、7.0以上、8.0以上、9.0以上、10.0以上、11.0以上等とすることができ、また、14.0以下、13.0以下、12.5以下、12.0以下、11.0以下等とすることができ、8.0~14.0が好ましく、9.0~13.0がより好ましい。なお、ここでいうアルカリ性溶液のpHとは、試料を懸濁する前のアルカリ性溶液のpHをいうが、工程Aで得られるアルカリ性溶液添加後の懸濁液のpHも上記範囲にあることが好ましい。
【0025】
水又はアルカリ性溶液に対する試料の量は、以降の工程を行うことができる量であれば制限されず、例えば、水又はアルカリ性溶液に対して、80%(v/v)以下が好ましく、50%(v/v)以下がより好ましく、40%(v/v)以下がさらに好ましく、下限としては0.1%(v/v)以上、0.5%(v/v)以上、1%(v/v)以上とすればよい。
【0026】
工程Aにおいて、必要に応じてさらに添加剤等を加えてもよい。添加剤として、EDTA、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、これらに限定されない。添加剤の添加量は、各添加剤が有効にはたらく範囲内であれば、特に制限されない。
【0027】
工程Aにおける懸濁は、公知の方法で実施できる。例えば、試料、及び水又はアルカリ性溶液を含んだチューブを手動で振動させて懸濁する方法(タッピング)、ピペットマン等によるピペッティング、転倒混和、ボルテックスミキサー等による懸濁などである。
【0028】
[工程B]
工程Bでは、工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する。濃縮とは、懸濁液中に含まれる微生物を集菌するあるいはその微生物の濃度を上げることである。濃縮後、濃縮物を得るために不要な成分、例えば遠心分離による濃縮により微生物が沈降する場合における上清、の一部若しくは全部の除去を行ってもよい。濃縮方法は、目的の微生物を濃縮できれば特に制限はなく、例えば、遠心分離や磁性ビーズ分離、加熱乾燥、凍結乾燥等による処理で実施できるがこれらに限定されない。
【0029】
遠心分離は、懸濁液に遠心力をかけることで、比重の異なる物質を分離あるいは分画する方法である。目的の微生物が沈降物にならないほどの遠心力をかければ、目的の微生物は上清に残り、夾雑物等は沈降物として分離される。一方で、目的の微生物が沈降物になるほどの遠心力をかければ、目的の微生物は沈降物として分離され、沈降物にならない夾雑物等は上清に残る。好ましくは目的の微生物が沈降物となる遠心分離である。遠心分離での遠心力は、目的の微生物や懸濁液中の物質に応じて適宜選択できる。遠心力は、例えば2,000g以上、5,000g以上、7,000g以上、8,000g以上、9,000g以上、10,000g以上、13,000g以上等とでき、目的の微生物を沈降物とする場合には5,000g以上が好ましく、8,000g以上がより好ましく、10,000g以上がさらに好ましく、13,000g以上がより一層好ましいが、これらに限定されない。遠心力の上限値は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、一例として、50,000g以下とすることができ、好ましくは20,000g以下とすることができる。また、遠心分離を行う時間も目的の微生物や懸濁液中の物質に応じて適宜選択できる。一般的に遠心分離を行う時間を長くすれば、沈降物はできやすくなるが、時間を要する。したがって、遠心分離を行う時間は短いほうが好ましく、例えば10分以内、5分以内、3分以内等とすることができるが、これらに限定されない。
例えば、目的の微生物が沈降物となる遠心力で遠心分離を行い、その上清の一部若しくは全部を除くことで、目的の微生物が濃縮される。
【0030】
[工程C]
工程Cでは、工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する。濃縮物は、工程Bによって微生物が濃縮されたものであり、固形物及び/又は液体物であり得る。固形物であれば、アルカリ性溶液を添加した後、懸濁することで懸濁液を調製する。液体物であれば、アルカリ性溶液を添加した後、懸濁することで溶液を均一化してもよい。
【0031】
工程Cにおいてアルカリ性溶液としては、前記工程Aで説明したと同様のアルカリ性溶液を使用できる。また、工程Cでは、工程Aで説明したと同様に、添加剤等を懸濁液に更に加えてもよい。
【0032】
また、工程Cにおいて、濃縮物に対して添加するアルカリ性溶液の量は特に制限されないが、後述する工程Dにおける懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程で、アルカリ処理としてはたらく量が好ましい。例えば、工程Bにおいて得られる濃縮物が液体物の場合、その濃縮物150μLに対して、工程Cで添加するアルカリ性溶液の量は、一例として150μL以下、好ましくは100μL以下、より好ましくは75μL以下とすることができる。下限値としては、例えば、1μL以上、好ましくは5μL以上、より好ましくは10μL以上とすることができる。更に、工程Cで用いるアルカリ性液のpHとしては、例えば、アルカリ性溶液を添加した後の懸濁液のpHが、8.0~14.0が好ましく、9.0~13.0がより好ましい。
【0033】
工程Cでは、工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加した後、懸濁(混合)させることが好ましい。工程Cにおける懸濁は、公知の方法で実施できる。例えば、濃縮物とアルカリ性溶液を含んだチューブを手動で振動させて懸濁する方法(タッピング)、ピペットマン等によるピペッティング、転倒混和、ボルテックスミキサー等による懸濁などである。
【0034】
[工程D]
工程Dでは、工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する。この工程では、微生物に含まれる核酸、タンパク質、脂質等が液中に放出されうる。放出された核酸、タンパク質、脂質等をターゲットにすることで、後の、微生物の検出が感度よく効率的に実施できる。
【0035】
工程Dは、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、及びアルカリ処理の少なくとも一つの処理を含む方法により好ましく実施できる。
【0036】
撹拌処理は懸濁液を撹拌して微生物を破砕する方法である。撹拌処理は、転倒混和、ボルテックスミキサー、撹拌機などにより行うことができる。
【0037】
ビーズ破砕処理は、懸濁液にビーズを加えて撹拌することで微生物を破砕する方法である。用いるビーズの種類は特に制限はなく微生物破砕用のものであれば使用でき、例えば、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等が挙げられるが、ジルコニアビーズがより好ましい。また、ビーズのサイズは例えば5mm以下が好ましく、複数のサイズのビーズを組み合わせて使用してもよい。複数のサイズのビーズを用いることで、破砕効率の向上が期待できる。処理時間は例えば10秒間~10分間、好ましくは20秒間~5分間、より好ましくは30秒~3分間である。
なお、ビーズ破砕処理に用いるビーズは、工程A~Dのいずれの段階で反応容器に加えてもよいが、工程Aを行う段階、特に試料、水、又はアルカリ性溶液を反応容器に加える前、から反応容器に含めておくと、以降の工程でビーズを導入する操作を要しないため好ましい。工程A~Eにおいて反応容器にビーズが含まれていても前処理が可能である。
【0038】
超音波処理は、懸濁液に超音波を当てることで、微生物を破砕する方法である。例えば、超音波ホモジナイザーは簡便に細胞壁を壊すことができ、微生物が破砕されやすい。処理時間は例えば10秒間~2分間、好ましくは10秒間~1分間であり、1回のみでも複数回(例えば2~6回、2~4回等)繰り返してもよい。
【0039】
加熱処理は、懸濁液に熱を加えることで微生物を溶菌させる方法である。加熱温度は特に制限されないが、一例として75℃以上とすることができ、80℃以上が好ましい。加熱時間は例えば10秒間~30分間、好ましくは20秒間~20分間、より好ましくは30秒間~10分間である。
【0040】
アルカリ処理は、懸濁液にアルカリ性物質を加えて微生物を溶菌する方法である。アルカリ性物質は、懸濁液中の微生物を溶菌できる程度のアルカリ性であり、微生物の検出を阻害しないもの、あるいは阻害しうるとしても検出に供される前に簡便に除去できるものであれば、特に制限されない。アルカリ性物質は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カルシウムであってもよく、これらを単独で又は複数種を組み合わせて使用でき、好適にはこれらの水溶液(アルカリ性溶液)である。懸濁液にアルカリ性溶液が添加される場合アルカリ性溶液のpHは、7.0以上、8.0以上、9.0以上、10.0以上、11.0以上等とすることができ、また、14.0以下、13.0以下、12.5以下、12.0以下、11.0以下等とすることができ、pH8.0~14.0であることが好ましく、pH9.0~13.0であることがより好ましい。
【0041】
また、工程Cで得られた懸濁液中のアルカリ性溶液が溶菌作用を有するときは、当該懸濁液をそのまま、静置等する、或いは撹拌処理等の他の処理を併用することによって溶菌することができ、このような態様は本工程のアルカリ処理を省略又は簡便にできるため好ましい。例えば、工程Cにおいて得られる懸濁液が溶菌に適したアルカリ性(例えばpH8.0~14.0、pH9.0~13.0等)であるときは、工程Dとしての操作を省略することもできる。
【0042】
工程Dでは、一つ又は複数の処理を連続して行ってもよいし、可能であれば複数の処理を組み合わせて同時に行ってもよい。複数の処理を組み合わせることは、より溶菌又は破砕されやすくなるので好ましい。一実施形態において、工程Cで溶菌に適したアルカリ性溶液に懸濁し、工程Dにおいて他の処理、例えば撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理等を行う。また、他の実施形態では、工程Cで得られた懸濁液に撹拌処理及びビーズ破砕処理を行う。さらに別の実施形態では、工程Cで得られた懸濁液にビーズ破砕処理を行う。なかでも、強固な細胞壁を有するMycobacterium属の微生物を検出する場合には、工程Dにおいて、加熱処理(例えば、約80℃以上で10分間程度)とビーズ破砕処理を組み合わせて行うことが好ましく、上記のような加熱処理を先に行い、次いでビーズ破砕処理を行うことがより好ましい。
【0043】
[工程E]
本発明では工程Eとして、工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を精製する工程を設けてもよい。工程Eで該液が精製されることによって、微生物の検出をより高感度に行うことができる。ここでいう精製とは、工程Dで得られた溶菌液又は破砕液中の核酸、タンパク質、脂質等の純度を上げることをいう。すなわち、該液中に放出された核酸、タンパク質、脂質等以外の夾雑物の量を低減し、工程Eで得られる精製液における核酸、タンパク質、脂質等の純度を工程Dで得られた液より上げることをいう。精製する方法は特に制限されないが、限外ろ過処理、分離処理等が挙げられ、これらの処理は単独でも複数組み合わせてもよい。工程数を小さく、前処理を簡便にする観点からは工程Eを設けないこともできる。
【0044】
限外ろ過とは、目的に応じた孔径を有するフィルター等を用いて目的物とそれ以外の夾雑物を分離する方法である。例えば、溶液中に放出された微生物由来の核酸、タンパク質、脂質等を選択的に分離するため、それらが通過する大きさの孔を有するフィルターを用いることが好ましい。該フィルターを用いることで、核酸、タンパク質、脂質等の小分子はろ液として通過し、孔よりも大きい夾雑物を除去することができる。
【0045】
分離とは、物理的あるいは化学的な方法で核酸、タンパク質、脂質等を選択的に収集することをいう。例えば、遠心分離、HPLC等をはじめとするクロマトグラフィー、磁気分離、電気分離等が挙げられるが、これらに限定されない。一例として遠心分離にて選択的に分離する場合、核酸、タンパク質、脂質等が沈降物にならない程度の遠心力を加えることが好ましい。該遠心力を加えて処理することで、核酸、タンパク質、脂質等の目的物は上清に残るため、上清をのちの検出に使用することができる。遠心力は、5,000g以上が好ましく、8,000g以上がより好ましく、10,000g以上がさらに好ましく、13,000g以上がより一層好ましいが、これらに限定されない。遠心力の上限値は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、一例として、50,000g以下とすることができ、好ましくは20,000以下とすることができる。また、遠心分離を行う時間は10分以内が好ましく、5分以内がより好ましく、3分以内がさらに好ましいが、これらに限定されない。
【0046】
[反応容器]
本発明では、少なくとも工程A~Eを同一の反応容器内で行い、工程A~Fを同一の反応容器内で行ってもよい。反応容器は、工程A~E又は工程A~Fを実施できる形態であれば、特に制限されず、材質、形、色、容量等は目的に合わせて選択することができる。例えば、工程Bあるいは工程Eにおいて遠心分離を行う場合、該反応容器は遠心分離機に適応可能であることが好ましい。したがって、該反応容器の容量は、例えば、50mL以下、好ましくは25mL以下、より好ましくは15mL以下、更に好ましくは5mL以下、更により好ましくは2mL以下又は1.5mL以下である。本発明の方法では、少なくとも工程A~Eを同一容器で行うことで、懸濁操作の不足や溶液の分注ロス等の発生を抑制することができる。また、複数の反応容器を用いて溶液等を移す操作をすると、操作回数が1回以上増えるとともに、資材コストの増加、コンタミリスクの増加、試料からの感染リスクの増加等のデメリットがあり、本発明ではこれらのデメリットが小さい。したがって、同一の反応容器内で各工程を行う本発明は、操作性、安全性等の観点からも非常に優れている。
【0047】
また、反応容器中にビーズが含まれていてもよい。特定の好ましい実施形態では、最初の工程Aの段階から反応容器中にビーズが充填された状態で本発明の方法を実施することができる。本発明では、反応容器がビーズを含む状態で工程Aを行い、次いで、その同じ反応容器内で工程Bの濃縮工程(例えば、遠心分離処理)以降の工程を行っても、良好な検出結果が得られている(試験例1~3)。このため、ビーズを反応容器に供給すると汚染が懸念される等の理由により工程B以降におけるビーズ供給操作を回避したい場合等があり、そのような場合でも、本発明において工程Aの段階からビーズを含んだ反応容器を使用しておけば、ビーズ供給による汚染の心配がなく、そのため、工程Dにおいてビーズ破砕処理を容易に実施することができる。用いるビーズの種類は特に制限はなく微生物破砕用のものであれば使用でき、例えば、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等が挙げられるが、ジルコニアビーズがより好ましい。また、ビーズのサイズは例えば粒子径5mm以下が好ましく、複数のサイズのビーズを組み合わせて使用してもよい。複数のサイズのビーズを用いることで、破砕効率の向上が期待できる。
【0048】
[工程F]
工程Fでは、工程Dで得られた溶菌液又は破砕液、或いは工程Eで得られた精製液の一部又は全部を微生物の検出に供し、微生物を検出する。該液を検出対象試料液として直接、微生物の検出に供してもよい。該液に必要に応じて各種標識、核酸増幅、核酸検出等のための、微生物検出用試薬等を添加することで微生物を検出できる。また、該液を含む工程A~Eと同一の反応容器にこのような試薬等を添加してもよい、つまり工程Fも工程A~Eと同一の反応容器で行ってもよい。あるいは、該液をこのような試薬等を予め含んだ検出用容器に添加してもよい。なお、微生物の検出を阻害しない限りにおいて、適宜の、他の成分を加えたり、他の処理を加えたりできる。
【0049】
微生物の検出は、例えば核酸検出法、抗原検査法、抗体検査法、培養同定法、質量分析法、生化学的性状試験等により行えるが、検出の精度及び検出に要する時間の点で核酸検出法が好ましい。
【0050】
核酸を検出する方法は、さらに、微生物由来の核酸の増幅を含むことが好ましい。核酸増幅を行うことで、より高感度に目的の微生物由来の核酸を検出することができる。核酸増幅の方法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて利用される。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて適宜選択できる。好ましい核酸増幅はPCR法である。
【0051】
PCR法は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応であり、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって標的核酸を増幅する。DNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENTやその変異体が挙げられる。
【0052】
[検出対象の微生物(検出対象微生物)]
本発明において、検出の対象となる微生物は、特に制限されないが、例えば、Mycobacterium属に分類される微生物(結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)、非結核性抗酸菌等)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、Clostridioides difficile)、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)、ウレアプラズマ、HIV、HPV等であり、検出対象微生物は1種単独でも複数種組み合わせてもよい。なお、目的の微生物の形態、性状、性質等に合わせて、各工程を本発明の範囲内で適宜変更してもよい。
【0053】
例えば、Mycobacterium属に分類される微生物の一つである、結核菌群は、ミコール酸を細胞壁に多く含み、外的因子に対して高い抵抗性を示すため、工程Dの溶菌又は破砕する工程において複数種の処理を行うこと(なかでも、加熱処理とビーズ破砕処理を相前後又は並行して行うこと)が好ましいが、特に限定されない。
【0054】
Mycobacterium属に分類される微生物としては、特に限定されないが、例えば、M. abscessus、M. africanum、M. agri、M. aichiense、M. algericum、M. alvei、M. arabiense、M. aromaticivorans、M. arosiense、M. arupense、M. asiaticum、M. aubagnense、M. aurum、M. austroafricanum、M. avium、M. bacteremicum、M. boenickei、M. bohemicum、M. bolletii、M. botniense、M. bouchedurhonense、M. bourgelatii、M. bovis、M. branderi、M. brisbanense、M. brumae、M. canariasense、M. caprae、M. celatum、M. chelonae、M. chimaera、M. chitae、M. chlorophenolicum、M. chubuense、M. colombiense、M. conceptionense、M. confluentis、M. conspicuum、M. cookii、M. cosmeticum、M. crocinum、M. diernhoferi、M. doricum、M. duvalii、M. elephantis、M. europaeum、M. fallax、M. farcinogenes、M. flavescens、M. florentinum、M. fluoranthenivorans、M. fortuitum、M. frederiksbergense、M. gadium、M. gastri、M. genavense、M. gilvum、M. goodii、M. gordonae、M. haemophilum、M. hassiacum、M. heckeshornense、M. heidelbergense、M. hiberniae、M. hippocampi、M. hodleri、M. holsaticum、M. houstonense、M. immunogenum、M. insubricum、M. interjectum、M. intermedium、M. intracellulare、M. iranicum、M. kansasii、M. komossense、M. koreense、M. kubicae、M. kumamotonense、M. kyorinense、M. lacus、M. lentiflavum、M. leprae、M. lepraemurium、M. litorale、M. llatzerense、M. madagascariense、M. mageritense、M. malmoense、M. mantenii、M. marinum、M. marseillense、M. massiliense、M. microti、M. minnesotense、M. monacense、M. montefiorense、M. moriokaense、M. mucogenicum、M. murale、M. neoaurum、M. nebraskense、M. neworleansense、M. nonchromogenicum、M. noviomagense、M. novocastrense、M. obuense、M. pallens、M. palustre、M. paraffinicum、M. parafortuitum、M. paragordonae、M. parakoreense、M. parascrofulaceum、M. paraseoulense、M. paratuberculosis、M. parmense、M. peregrinum、M. phlei、M. phocaicum、M. pinnipedii、M. porcinum、M. poriferae、M. pseudoshottsii、M. psychrotolerans、M. pulveris、M. pyrenivorans、M. rhodesiae、M. riyadhense、M. rufum、M. rutilum、M. salmoniphilum、M. saskatchewanense、M. scrofulaceum、M. sediminis、M. senegalense、M. senuense、M. seoulense、M. septicum、M. setense、M. sherrisii、M. shimoidei、M. shinjukuense、M. shottsii、M. simiae、M. smegmatis、M. sphagni、M. stomatepiae、M. szulgai、M. terrae、M. thermoresistibile、M. timonense、M. tokaiense、M. triplex、M. triviale、M. tuberculosis、M. tusciae、M. ulcerans、M. vaccae、M. vanbaalenii、M. vulneris、M. wolinskyi、M. xenopi、M. yongonense等を挙げることができる。本発明の検出方法では、これらのMycobacterium属の任意の微生物を検出することができるが、なかでもM. avium、M. intracellulare、M. africanum、M. bovis、M. microti、及びM. tuberculosisからなる群より選択される少なくとも一つが高感度に検出できるので好ましい。
【0055】
[試料の前処理方法]
本発明の一実施形態は、微生物の検出ための試料の前処理方法であって、以下の工程A~E:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
を包含し、前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われる方法、である。
この方法によって、微生物の検出に適した検出対象試料液を簡便に得ることができる。この方法の詳細は、本発明の検出方法における詳細と同様である。
【0056】
[検出対象試料液の調製方法]
本発明の一実施形態は、微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、以下の工程A~E:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を濃縮する工程、
(C)前記工程Bで得られた濃縮物にアルカリ性溶液を添加する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を必要に応じて精製する工程、
を包含し、前記工程A~Eが同一の反応容器内で行われる方法、である。
この方法によって調製される検出対象試料液は、上記工程Fに記載された溶菌液、破砕液、又は精製液として利用できる。この方法の詳細は、本発明の検出方法における詳細と同様である。
【0057】
[試薬]
本発明の一実施形態は、本発明の試料の前処理方法、検出対象試料液の調製方法、又は微生物の検出方法のための試薬である。試薬の種類、個数について、これらの方法が実施できれば特に制限されない。
例えば、工程A~E又は工程A~Fに使用するための反応容器;工程A及び/又は工程Cに使用するためのアルカリ性溶液;工程Dに使用するためのビーズ;工程Fに使用するための核酸増幅酵素、オリゴヌクレオチドプライマー、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、マグネシウム塩等の1種又は2種以上;等が挙げられる。核酸増幅酵素は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)、DNAリガーゼ、ヘリカーゼ;が試薬のひとつとして挙げられる。これらの試薬は本発明の効果が得られる限りにおいて公知のものを適宜使用できる。また、本発明の試薬の詳細は、本発明の検出方法における詳細と同様である。
【0058】
[キット]
本発明の一実施形態は、前記試薬を含む、本発明の試料の前処理方法、検出対象試料液の調製方法、又は微生物の検出方法のためのキットである。キットの構成について、前記試薬の少なくとも一つを含み、本発明の方法が実施できれば特に制限されない。
例えば、前記工程A及び/又は工程Cに使用するためのアルカリ性溶液、前記工程Dに使用するためのビーズ、のいずれか一つを少なくとも含む、本発明の試料の前処理方法、検出対象試料液の調製方法、又は微生物の検出方法のためのキットが挙げられる。また、例えば、前記工程Fに使用するためのプライマーミックス及び/又はDNAポリメラーゼ、のいずれか一つを少なくとも含む、本発明の微生物の検出方法のためのキットが挙げられる。 これらのキットはさらに、前記工程A~D、工程A~E、又は工程A~Fで使用するための反応容器を含んでもよい。本発明のキットの構成要素の詳細は本発明の検出方法における詳細と同様である。
【実施例】
【0059】
以下に試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は試験例に限定されるものではない。
【0060】
〔試験例1:反応容器の検討〕
(1-1)概要
工程A~Eを同一の反応容器で行う場合と、複数の反応容器で行う場合における微生物検出結果を比較した。
【0061】
(1-2)試料
結核菌群、M. avium、M. intracellulareがすべて陰性であるヒト由来喀痰をNALC-NaOH処理し、該処理液にM. avium菌体を1500CFU/mLとなるように添加した液を試料とした。
【0062】
(1-3)同一の反応容器を用いた方法
同一の反応容器で以下に示す工程A~Fを行った。
工程A:反応容器としてジーンキューブ(R)専用イージー・ビーズを使用した。該容器はジルコニアビーズを含む(以下の試験例においても同様)。該容器を工程Aから工程Eまで使用した。該容器に滅菌水240μL、試料約160μLを分注、懸濁した。
工程B:懸濁液について13,000g、3分間の遠心分離を行い、上清の一部を廃棄して容器に約100μL残した。
工程C:容器内に残った沈渣及び上清にpHが約12~13の水酸化カリウム水溶液を約100μL添加して混合した。
工程D:得られた混合液を80℃、10分間加熱後、ボルテックスミキサーによる撹拌を1分間行い、ビーズ破砕を行った。
工程E:得られた破砕液について13,000g、3分間の遠心分離を行った。
工程F:工程Eで得られた上清を検出対象試料液とし、その一部を20μLずつ0.5mLチューブに分注した。該チューブをGENECUBE(R)にセットし、ジーンキューブ(R)MAI(東洋紡社)を使用してM. aviumの検出を行った。装置及び試薬の操作、取扱いは、それぞれの添付文書にしたがって行った。
【0063】
(1-4)複数の反応容器を用いた方法
複数の反応容器を用いて以下に示す工程A~Fを行った。
工程A:一つ目の反応容器として1.5mLマイクロチューブ(ザルスタット社)を使用した。該容器を工程Aから工程Cまで使用した。該容器に滅菌水240μL、試料約160μLを分注、懸濁した。
工程B:懸濁液について13,000g、3分間の遠心分離を行い、上清の一部を廃棄して容器に約100μL残した。
工程C:容器内に残った沈渣及び上清にpHが約12~13の水酸化カリウム水溶液を約100μL添加して混合した。
工程D:得られた混合液の全量を二つ目の反応容器であるジーンキューブ(R)専用イージー・ビーズに移し、80℃、10分間加熱後、ボルテックスミキサーによる撹拌を1分間行い、ビーズ破砕を行った。
工程E:得られた破砕液について13,000g、3分間の遠心分離を行った。
工程F:工程Eで得られた上清を検出対象試料液とし、その一部を20μLずつ0.5mLチューブに分注した。該チューブをGENECUBE(R)にセットし、ジーンキューブ(R)MAI(東洋紡社)を使用してM. aviumの検出を行った。装置及び試薬の操作、取扱いは、それぞれの添付文書にしたがって行った。
【0064】
(1-5)結果
同一の反応容器で各工程を行った場合(1-3)と、複数の反応容器で各工程を行った場合(1-4)でのM. avium検出結果(陽性率)を比較した。
【0065】
表1が同一の反応容器で各工程を行った場合と、複数の反応容器で各工程を行った場合での陽性率である。複数の反応容器を使用した場合、陽性率は43.8%程度と低かった一方、同一の反応容器で各工程を行った場合、陽性率は100%であった。これは容器から懸濁液を移す際のロスを抑制できたことが一因であると考えられるが、そのようなロスの抑制から予想される以上に高い陽性率を達成することができた。本発明の検出方法により予想以上に高い陽性率を達成できることが確認できた。
【0066】
【0067】
〔試験例2:従来方法との比較1〕
(2-1)概要
本発明の検出方法における試料の前処理方法(工程A~E)と従来技術における試料の前処理方法(核酸抽出法)を比較した。従来方法として、ジーンキューブ(R)専用前処理セット(東洋紡社)及びGENECUBE(R)(東洋紡社)による核酸抽出を用いた。
【0068】
(2-2)試料
結核菌群、M. avium、M. intracellulareがすべて陰性であるヒト由来喀痰をNALC-NaOH処理し、該処理液にM. bovis菌体を7500CFU/mLあるいはM. intracellulare菌体を1500CFU/mLとなるように添加した液を試料とした。
【0069】
(2-3)本発明の検出方法における検出対象試料液の調製(試料の前処理)
同一の反応容器で以下に示す工程A~Eを行った。
工程A:反応容器としてジーンキューブ(R)専用イージー・ビーズを使用した。該容器を工程Aから工程Eまで使用した。該容器にpHが約11の水酸化カリウム約1000μLを分注した。該溶液に試料約400μLを懸濁した。
工程B:懸濁液について13,000g、3分間の遠心分離を行い、上清の一部を廃棄して容器に約150μL残した。
工程C:容器内に残った沈渣及び上清にpHが約12~13の水酸化カリウム水溶液を約50μL添加して混合した。
工程D:得られた混合液を80℃、10分間加熱後、ボルテックスミキサーによる撹拌を3分間行い、ビーズ破砕を行った。
工程E:得られた破砕液について13,000g、3分間の遠心分離を行った。
【0070】
(2-4)従来技術の検出対象試料液の調製(核酸抽出法)
ジーンキューブ(R)専用前処理セットを用いて試料から核酸抽出を行った。各試薬の操作、取扱いは、それぞれの取扱説明書にしたがって行った。なお、構成試薬である洗浄液は、エタノール溶液(60~100%(v/v))であった。さらに、構成試薬である溶解吸着液はグアニジン塩を含んでいた。
【0071】
(2-5)微生物の検出
工程Eで得られた上清を検出対象試料液とし、その一部を20μLずつ0.5mLチューブに分注し、該チューブをGENECUBE(R)にセットし、ジーンキューブ(R)MTB(東洋紡社)あるいはジーンキューブ(R)MAI(東洋紡社)を使用して、M. bovis又はM. intracellulareの検出を行った(工程F)。従来技術の方法でも同様にして、得られた核酸抽出液を検出対象試料液とし、ジーンキューブ(R)MTB(東洋紡社)あるいはジーンキューブ(R)MAI(東洋紡社)を使用して、M. bovis又はM. intracellulareの検出を行った。装置及び各試薬の操作、取扱いは、それぞれの添付文書にしたがって行った。
【0072】
(2-6)結果
表2がM. bovis菌体を含む試料を前処理(工程A~E又は核酸抽出)して得られた検出対象試料液をジーンキューブ(R)MTBで検出した結果である。表3がM. intracellulare菌体を含む試料を前処理(工程A~E又は核酸抽出)して得られた検出対象試料液をジーンキューブ(R)MAIで検出した結果である。本発明における前処理(工程A~E)で調製された検出対象試料液と、ジーンキューブ(R)専用前処理セットによる前処理で調製された検出対象試料液(核酸抽出液)を測定した際の各試薬の検出結果(陽性率)は同等であることを確認した。なお、ジーンキューブ(R)専用前処理セットは、エタノールやグアニジン塩を含む一方で、本発明における前処理(工程A~E)はそれらの有機溶媒や毒性が懸念される試薬は必要としない。したがって、本発明は、従来技術と同等の性能を得ながら、操作性の向上、安全性の向上が期待できることを確認した。
【0073】
【0074】
【0075】
〔試験例3:従来方法との比較2〕
(3-1)概要
本発明の微生物検出方法(工程A~F)と従来技術における微生物検出方法を比較した。従来方法として、アンプリコア マイコバクテリウム 検体処理 試薬セットII(ロシュ・ダイアグノスティックス社)及びコバス(R)TaqMan(R)MAI(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた。
【0076】
(3-2)試料
結核菌群、M. avium、M. intracellulareがすべて陰性であるヒト由来喀痰をNALC-NaOH処理し、該処理液にM. intracellulare菌体を150~30000CFU/mLとなるように添加した液を試料とした。
【0077】
(3-3)本発明の方法
同一の反応容器で以下に示す工程A~Fを行った。
工程A:反応容器としてジーンキューブ(R)専用イージー・ビーズを使用した。該容器を工程Aから工程Eまで使用した。該容器にpHが約11の水酸化カリウム約1000μLを分注した。該溶液に試料約400μLを懸濁した。
工程B:懸濁液について13,000g、3分間の遠心分離を行い、上清の一部を廃棄して容器に約150μL残した。
工程C:容器内に残った沈渣及び上清にpHが約12~13の水酸化カリウム水溶液を約50μL添加して混合した。
工程D:得られた混合液を80℃、10分間加熱後、ボルテックスミキサーによる撹拌を3分間行い、ビーズ破砕を行った。
工程E:得られた破砕液について13,000g、3分間の遠心分離を行った。
工程F:工程Eで得られた上清を検出対象試料液とし、その一部を20μLずつ0.5mLチューブに分注した。該チューブをGENECUBE(R)にセットし、ジーンキューブ(R)MAI(東洋紡社)を使用してM. intracellulareの検出を行った。装置及び試薬の操作、取扱いは、それぞれの添付文書にしたがって行った。
【0078】
(3-4)従来技術の方法
アンプリコア マイコバクテリウム 検体処理 試薬セットIIを用いて試料を処理し、得られた検出対象試料液をコバス(R)TaqMan(R)48及びコバス(R)TaqMan(R)MAIを使用してM. intracellulareの検出を行った。装置及び各試薬の操作、取扱いは、それぞれの添付文書にしたがって行った。なお、アンプリコア マイコバクテリウム 検体処理 試薬セットIIは毒性の高い試薬を含むことをSDSで確認した。また、アンプリコア マイコバクテリウム 検体処理 試薬セットIIによる検体処理は、1時間以上を要した。
【0079】
(3-5)結果
M. intracellulare菌体濃度が異なる試料を前処理して得られた各検出対象試料液について、本発明の方法及び従来技術の方法における結果(陽性率)を比較した。
表4が本発明あるいは従来技術での各菌体濃度の試料を前処理して得られた検出対象試料液における結果(陽性率)である。本発明の方法では、菌体濃度750CFU/mL以上で陽性率100%であった。一方で、従来技術の方法では3000CFU/mL以上で陽性率100%であった。したがって、本発明は、従来技術よりも感度よく微生物の検出が可能であることを確認できた。また、検出対象試料液調製(前処理)の時間について、本発明の検出方法における調製法(工程A~E)が約30分であるのに対して従来技術の方法が1時間以上であった。したがって、操作時間の観点からも本発明のほうが有意であることを確認した。
【0080】
【0081】
本発明の検出方法における工程A~Eで調製した液(検出対象試料液)を核酸増幅反応に直接供したところ(工程F)、驚くべきことに、優れた結果が得られた(試験例1~3)。この結果は、本発明の検出方法における検体の前処理方法(工程A~E)で後の検出反応に悪影響を及ぼす夾雑物等を高度に除去でき、その結果、核酸増幅及び検出反応において夾雑物による反応阻害が抑制されたことを示唆する。
【0082】
また、試験例1~3では、ミコール酸を細胞壁に多く含み、外的因子に対して高い抵抗性を示すMycobacterium属に分類される微生物の検出を行った。該微生物は、上記の特徴的な細胞壁を有するため、他の微生物と比較して核酸抽出等が煩雑とされているが、本発明によれば、簡便な方法で該微生物を核酸抽出法と同程度に検出できた。したがって、本発明は他の様々な種類の微生物でも検出を行うことが可能であり、臨床診断等の場面で非常に有益である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の方法を用いることで、核酸精製することなく、試料中に含まれる微生物由来の核酸を検出することができるため、臨床診断の分野に大きく貢献できる。