(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】昆虫寄生菌を用いた害虫防除資材およびそれを用いた害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/30 20200101AFI20231204BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20231204BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20231204BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20231204BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
A01N63/30
A01N25/00
A01N25/08
A01P7/04
A01P17/00
(21)【出願番号】P 2019047524
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2021-10-07
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02854
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02855
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲井 康二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰宏
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-289864(JP,A)
【文献】特開2018-203696(JP,A)
【文献】特開2006-117617(JP,A)
【文献】特開平11-42036(JP,A)
【文献】特開2002-338419(JP,A)
【文献】和田哲夫,ボーベリア・バシアーナ剤の上手な使い方,植物防疫,2003年,Vol. 57, No. 4,pp. 181-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/30
A01N 25/00
A01N 25/08
A01P 7/04
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体担体上に生育させた昆虫寄生糸状菌を含む、害虫に接触する害虫防除資材であって、表層における前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数が1.0×10
6~1.0×10
10個/cm
2であることを
特徴と
し、
前記表層における前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数が、以下の方法により測定される、害虫防除資材
:
前記固体担体上に生育させた昆虫寄生糸状菌を前記固体担体上に静置した状態で、前記固体担体の培養面を平板培地に接触させるように前記固体担体を前記平板培地上に置き、前記固体担体が崩れないぐらいの重さで上から加重を一定時間かけた後に、前記固体担体を除去し、滅菌水または界面活性剤を含む滅菌水にて前記平板培地の表面を洗い流し、その液を全量回収し、顕微鏡下にて胞子菌数を測定し、前記固体担体の表面面積当たりの前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数を求める。
【請求項2】
前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア(Beauveria)属菌、ペキロマイセス(Paecilomyces
)属菌、トリコデルマ(Trichoderma)属菌、ヴァーティシリウム(Verticillium)属菌
、またはレカニシリウム(Lecanicillium)属菌である、請求項1に記載の害虫防除資材
。
【請求項3】
前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア・バッシアーナ(Beauveria bassiana)および/またはボーベリア・ブロンニアリティ(Beauveria brongniartii)である、請求項1又は2に記載の害虫防除資材。
【請求項4】
前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア・バッシアーナF-263(NITE BP-02855)株および/またはボーベリア・ブロンニアリティNBL-851(NITE BP-02854)株である、請求項1~3のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【請求項5】
前記害虫が、植物害虫または衛生害虫である、請求項1~4のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【請求項6】
前記植物害虫が、樹木に対する害虫である、請求項5に記載の害虫防除資材。
【請求項7】
前記樹木に対する害虫が、コウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫である、請求項6に記載の害虫防除資材。
【請求項8】
前記固体担体が、有機物からなる担体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【請求項9】
前記有機物からなる担体が、籾殻、おがくず、ふすま、麦、稲藁、大豆、大豆かす、または植物残渣である、請求項8に記載の害虫防除資材。
【請求項10】
前記固体担体が、
鉱物、発泡体マトリックス、不織布、又は織布である、請求項1~7のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【請求項11】
前記
固体担体が、多孔質の担体であり、前記多孔質部分に培地成分を含有する、請求項10に記載の害虫防除資材。
【請求項12】
前記固体担体が、帯状の不織布である、請求項1~7のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【請求項13】
前記昆虫寄生糸状菌は、前記固体担体上で、培養開始から3~8日までは湿度80%~100
%で培養し、その後、湿度を30%以上80%未満に低下させて2~5日培養することで生育させたものである、請求項1~12のいずれか一項に
記載の害虫防除資材。
【請求項14】
培養温度が20℃~30℃である、請求項13に記載の害虫防除資材。
【請求項15】
該固体担体の表層における前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数が1.0×10
6~1.0×10
9個/cm
2であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫寄生菌を用いた害虫防除資材、特にボーベリア属菌を用いたコウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫防除資材に関する。より詳細には、固体状の担体に昆虫寄生菌又はその培養物を担持させた害虫防除資材とそれを用いた害虫防除法に関する。
【背景技術】
【0002】
カミキリムシなどの害虫は作物や樹木に害を及ぼし、当該害虫による被害は農業や林業分野で問題となっている。カミキリムシなどの害虫を防除するために、これらの昆虫に寄生して殺虫効果を発揮する糸状菌などの微生物農薬が利用されている。
例えば、特公平7-108212号公報(特許文献1)や特公平8-22810号公報(特許文献2)には、糸状菌を不織布上に生育させ、当該不織布を害虫防除資材として用いることが開示されている。このような不織布などの固体担体を使用する資材に関しては、培養物中または製剤中に含まれる生菌数、おもに胞子(分生子)数によって効果を規定していた。
特許第3764254号明細書(特許文献3)には、固体担体を用いた害虫駆除剤において、より害虫に接触感染しやすく、効果も持続させるために、培養担体を2層にするなどして担体に含まれる生菌数(分生子数、胞子数)を増加させることが開示されている。そして、当該文献には最適な単位面積当たりの胞子数として約3×108個もの胞子が必要と記載されているように、非常に膨大な菌数が必要であった。しかし、必要以上の胞子を培養するために、人件費、冷暖房費、培養時間等を費やすため、コストが高くなるという課題があり、さらに、担体中に含まれる総菌数の増大は、効果の安定性や剤の保存安定性(持続性)の効果に大きな寄与をせず、従来技術を持っても半年~1年、使用後は数週間~数ヶ月で効果が減少することが分かっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平7-108212号公報
【文献】特公平8-22810号公報
【文献】特許第3764254号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、糸状菌を用いた微生物農薬は、培養物中または製剤中に含まれる総菌数おもに総胞子(分生子)数によって効果を規定しており、これら培養物や製剤の保存安定性および効果の安定性を担保するため、非常に多くの胞子を含有させている。これにより、製品自体の製造コストは増大し、微生物農薬は化学農薬よりも価格が高くなること場合が多く、生産者の求めるニーズに合致することがないことがある。
したがって、本発明の課題は、害虫防除資材の長期保存安定性の向上と害虫防除効果の向上である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、従来技術のように担体上に培養された菌体の総菌数または総胞子菌数を指標として保存安定性や害虫防除効果を決定するのではなく、転写分生子数、すなわち担体表面に存在する胞子のうち、その表層に位置する胞子菌数(以下、表層胞子菌数という)、または飛散分生子数が重要な指標となることを見出し、該知見に基づき、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]固体担体上に生育させた昆虫寄生糸状菌を含む害虫防除資材であって、表層における前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数が1.0×106~1.0×1010個/cm2であることを特徴とする、害虫防除資材。
[2]前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア属(Beauveria)属菌、ペキロマイセス(Paecilomyces)属菌、トリコデルマ(Trichoderma)属菌、ヴァーティシリウム(Verticillium)属菌、またはレカニシリウム(Lecanicillium)属菌である、[1]に記載の害虫防除資材。
[3]前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア・バッシアーナ(Beauveria
bassiana)またはボーベリア・ブロンニアリティ(Beauveria
brongniartii)である[1]又は[2]に記載の害虫防除資材。
[4]前記昆虫寄生糸状菌が、ボーベリア・バッシアーナF-263(NITE BP-02855)株またはボーベリア・ブロンニアリティNBL-851(NITE BP-02854)株である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
[5]前記害虫が、植物害虫または衛生害虫である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
[6]前記植物害虫が、樹木に対する害虫である、[5]に記載の害虫防除資材。
[7]前記樹木に対する害虫が、コウチュウ目のオサゾウムシ科、ゾウムシ科、もしくはカミキリムシ科に属する害虫、またはカメムシ目のウンカ科、カメムシ科、カスミカメムシ科、もしくはアブラムシ科に属する害虫である、[6]に記載の害虫防除資材。
[8]前記固体担体が、有機物担体である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
[9]前記有機物担体が、籾殻、おがくず、ふすま、麦、稲藁、大豆、大豆かす、または植物残渣である、[8]に記載の害虫防除資材。
[10]前記固体担体が、無機物担体である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の害虫防除資材。
[11]前記無機物担体が、多孔質の担体であり、前記多孔質部分に培地成分を含有する、[10]に記載の害虫防除資材。
[12]前記無機物担体が、帯状の不織布である、[10]または[11]に記載の害虫防除資材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より長期保存安定性および害虫防除効果が向上した害虫防除用資材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、固体担体上に生育させた昆虫寄生糸状菌を含む害虫防除資材であって、表層における前記昆虫寄生糸状菌の胞子菌数が所定の範囲内であることを特徴とする、害虫防除資材を提供する。
【0009】
使用される糸状菌としては、昆虫に寄生して殺虫効果を有する糸状菌であって、固体培地によって培養することのできる糸状菌であれば特に限定はされないが、例えば、ボーベリア(Beauveria)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ヴァーティシリウム(Verticillium)属菌、またはレカニシリウム(Lecanicillium)属菌からなる群より選択される1種以上に属する糸状菌が挙げられる。更に具体的には、コウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫に対する特異的な殺虫力の観点から、ボーベリア・バッシアーナ(Beauveria
bassiana)、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria
brongniartii)、ボーベリア・アモルファ(Beauveria
amrpha)からなる群より選択される1種以上の糸状菌が挙げられる。特に好ましくは、ボーベリア・バッシアーナF-263株またはボーベリア・ブロンニアリティNBL-851株が挙げられる。これらの糸状菌は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、F-263株は、2018年12月27
日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターNITE Patent Microorganisms Depository(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE BP-02855でブダペスト条約に基づく国際寄託され、NBL-851株は、2018年12月27日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターNITE Patent Microorganisms Depository(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE BP-02854でブダペスト条約に基づく国際寄託されている。
【0010】
本発明の資材においては、担体の表層における昆虫寄生体糸状菌の胞子菌数(表層胞子菌数)を、1.0×106~1.0×1010個/cm2、好ましくは1.0×106~1.0×109個/cm2、より好ましくは1.0×107~1.0×108個/cm2とする。
表層胞子菌数をこの範囲とすることにより、資材の保存安定性を向上させ、かつ、殺虫効果も向上させることができる。
【0011】
表層胞子菌数の測定方法としては、例えば以下の方法を使用することができる。固体担体上で培養された昆虫寄生糸状菌を固体担体上に静置した状態で、固体担体の培養面を平板培地に接触させるように固体担体を平板培地上に置き、固体担体が崩れないぐらいの重さで上から加重を一定時間かけた後に、固体担体を除去し、滅菌水または少量の界面活性を含む滅菌水にて平板培地の表面を洗い流し、その液を全量回収し、顕微鏡下にて胞子菌数を測定する。その際、固体担体の表面面積を元に表層胞子菌数の換算を行う。すなわち、表層の一部について胞子菌数を測定し、その面積の全体に占める割合から、全表面の胞子菌数を計算することができる。
【0012】
固体担体は、有機物担体または無機物担体のいずれであってもよい。
有機物担体としては、具体的な例としては、籾殻、おがくず、ふすま、麦、稲藁、大豆、大豆かす、または植物残渣が挙げられるが、これらに限定されず、糸状菌が資化できる成分を含有している、または、目的の昆虫寄生菌を培養するのに必要である培養液を吸収または、表面上に保持できる担体であれば使用できる。
無機物担体としては、具体的な例としては、多孔質の担体であり、前記多孔質部分に培地成分を含有する、粒状、球状または帯状の形状の担体が挙げられるが、これらに限定されず、多孔質の物質であり、目的の昆虫寄生菌を培養するのに必要である培養液を吸収または、表面上に保持できる担体であれば使用できる。好ましくは、無機物担体としては、鉱物、発泡体マトリックス、不織布、織布が使用できる。さらに好ましくは、無機物担体としては、帯状の不織布が使用できる。
【0013】
鉱物としては、特に限定されず、カオリン、粘土、タルク、チョーク、石英、アタパルジャイト、モンモリロナイト、珪藻土等の天然鉱物、ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等の合成鉱物を用いることができる。
【0014】
発泡体マトリックスとしては、例えば、特開昭63-74479号公報、特開昭63-190807号公報で開示されたポリウレタンフォーム、ポリスチレン発泡体、塩化ビニル発泡体、ポリエチレン発泡体、ポリスチレン発泡体などが挙げられる。かかる発泡体マトリックスを基材として用いる場合、そのまま用いてもよく、発泡体を生成し得る発泡体組成物を培地成分と共に発泡させて得られる物質を用いてもよい。
【0015】
不織布または織布の素材としては特に限定されず、市販の素材が使用できるが、培地成分の保持性や保水性・親水性、昆虫寄生糸状菌の付着性、炭素源としての利用や天然崩壊性などの点からは、パルプ、レーヨン、ポリエステルなどが特に好ましい。
【0016】
固体担体の形状は、餌木に簡便且つ確実に設置でき、しかもその有効性を長期間持続させることができる観点、および少数配置するだけで効率よくコウチュウ目カミキリムシ科
に属する害虫に対する昆虫寄生糸状菌を感染させることができる観点から、粒状、球状、帯状またはシート状の形状が好ましい。より好ましくは、帯状の形状である。
【0017】
帯状またはシート状の培養基材としては、例えば特開昭63-74479号公報、特開昭63-190807号公報で開示された発泡体マトリックス、または不織布、織布などの多孔性で見掛けの表面積が大きい素材、およびこれらを組合せた素材が挙げられる。
【0018】
固体担体に含有させる培養液の成分は特に限定されず、有機物に糖源や、微生物培養に必要な養分を含むものであれば使用できる。具体的な成分として、同化が可能な炭素源や窒素源、無機塩類、天然有機物などを含むことが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、サッカロース、ラクトース、マルトース、グリセリン、デンプン、セルロース糖蜜などが例示できる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが例示できる。無機塩類としては、リン酸二水素カリウムなどのリン酸塩、硝酸マグネシウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどが例示できる。天然有機物としては、肉エキス、魚肉摘出液、サナギ粉などの動物組織抽出物や動物組織粉砕物、麦芽エキス、コーンスチープリカー、大豆油などの植物組織抽出物、乾燥酵母、酵母エキス、ポリペプトンなどの微生物菌体またはその抽出物などが例示できる。
培養液は具体的には、穀類からの抽出物にグルコースなどの糖を添加したもの、更に具体的には、バレイショからの抽出物にグルコースなどの糖を添加したものが例示できる。
これらの培養液を固体担体に含有させる方法としては、培養液を直接塗布する方法や浸漬などによって含有させる方法が例示できる。
【0019】
昆虫寄生糸状菌の培養条件は、目的の昆虫寄生糸状菌の生育が可能な条件であれば特に限定されない。目的の昆虫寄生糸状菌の生育が可能な温度としては、15℃~35℃が好ましく、20℃~30℃がより好ましい。目的の昆虫寄生糸状菌の生育が可能な湿度としては、0%~100%のいずれでもよい。表層胞子菌数を目的の範囲とするためには、培養初期と培養後期で湿度を変化させること、すなわち、培養後期の湿度は、培養初期と比較して低湿度とすることが好ましい。例えば、培養初期(例えば、培養開始から3~8日まで)は湿度60%~100%で培養することが好ましく、80%~100%で培養することがより好ましい。その後(培養後期)、湿度を30%以上80%未満に低下させて2~5日培養することが好ましい。
【0020】
昆虫寄生糸状菌の培養物は、培養基材に培地成分を含有させた後に菌を摂取し培養する方法、予め昆虫寄生糸状菌を前培養して得られた培養液と培地成分とを混合した後に得られた混合物を固体担体に含有させる方法などで得ることができる。
【0021】
防除対象の害虫としては、例えば植物害虫または衛生害虫が例示される。植物害虫は、樹木に対する害虫であることが好ましい。さらに、樹木に対する害虫は、コウチュウ目、またはカメムシ目などに属する害虫が例示され、コウチュウ目に属する害虫としては、オサゾウムシ科、ゾウムシ科、カミキリムシ科などに属する害虫が挙げられ、カメムシ目に属する害虫としては、ウンカ科、カメムシ科、カスミカメムシ科、アブラムシ科などに属する害虫が挙げられる。また、衛生害虫とは、例えばヒトや家畜を初めとする動物に対して、疾患等の害を与える昆虫等のことである。
【0022】
本発明におけるコウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫としては、例えば、マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)、ゴマダラカミキリ(Anoplophora malasiaca)、キボシカミキリ(Psacothea hilaris)、センノカミキリ(Acalolepta luxuriosa)、ハラアカコブカミキリ(Moechotypa diphysis)、クビアカツヤカミキリ(Aromia bungii)、トラカミキリ(Xylotrechus chinensis、Xylotrechus quadripesまたはXylotrechus pyrrhoderus)などが挙げられる。
【0023】
当該昆虫寄生糸状菌の培養物の餌木への施用は、特に限定されないが、例えば、パルプ不織布による培養物の餌木への巻き付け、ステープラー係止などで行うことができる。防除効果をさらに向上させるために、施用の際には、防除対象の害虫の餌木を集積して行うことがより好ましい。
【0024】
施用の時期は、特に限定されないが、駆除効率を高める観点から、駆除対象とするコウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫のライフサイクルにあわせて施用することが好ましい。一般的に、コウチュウ目カミキリムシ科に属する害虫は、樹木の樹皮下に産卵され、孵化した幼虫は樹皮下を食害しながら成長し、春になり気温が上昇すると蛹室で越冬した幼虫は蛹となり、羽化した成虫が樹木から脱出し、交尾・産卵に入る前にしばらく後食行動をとるというライフサイクルを有する。例えば、ハラアカコブカミキリなどは、8~10月に羽化脱出した後、日当たりがよく雨水のかからない比較的乾燥した石や落葉の下、ホダ場原木の枝葉の間、切株の下、屋根瓦や壁などに潜み越冬して、翌年5月までは後食期間が続き、翌年5月から産卵が始まり翌年8月まで続く。
【0025】
したがって、例えば、8月以降翌年5月までの間に本発明の駆除方法を実施することにより、非常に効率的に、後食および産卵目的で集まってくる成虫を駆除することができ、さらに羽化脱出直後の成虫をも駆除することができる。
【実施例】
【0026】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0027】
<実施例1>昆虫寄生糸状菌の培養方法
4%サナギ粉抽出液に終濃度2%になるようにグルコースを加えて、培地にて5日間、ボーベリア・ボロンニアティNBL-851株を25℃で振盪培養し前培養液とした。4%サナギ粉抽出液と10%グルコース液を含有する滅菌パルプ不織布をステンレス網上に置き、前培養液を不織布に含有させ25℃で湿度80~100%で培養を開始し、4日後に温度は25℃のままで湿度を80%以下(30%以上)に変更し、この培養条件を維持した培養を行った。培養中には後述の表層胞子菌数の測定方法を用いて日々表層胞子菌数の測定を行い、表層胞子菌数が5×105個/cm2以上になるまで培養を行った。実際には湿度変更後さらに3日間行った。その後1日間、送風乾燥することで余分な水分を飛ばした。その後さらに表層胞子菌数の測定を行い、表層胞子菌数が5×105個/cm2以上存在することを確認した。その際の総胞子菌数は、1×108~3×108個/cm2以上であった。
【0028】
対照として、従来技術である特許第3764254号に記載にあるように、サナギ粉抽出液等を含有するパルプ不織布をポリプロピレンの袋に入れて25℃(湿度100%)で1週間培養を行った結果、総胞子菌数は1×108~3×108個/cm2以上であったが、その一方で表層胞子菌数は1×105個/cm2以下であった。
【0029】
表層胞子菌数の測定は、昆虫寄生糸状菌の培養後の不織布を5cm×5cm幅に切り取り、PDA(Potato Dextrose Agar)培地上に置き、5分間一定加重後、不織布を除去し、0.05%tween20を添加した溶液にて培地表面上に存在する胞子を全量回収し、顕微鏡下にてトーマ血球計算板を用いて胞子菌数を計算した。不織布の表面面積を元に表層胞子菌数の換算を行った。
【0030】
<実施例2>キボシカミキリへの殺虫活性
サナギになった約1ヶ月のキボシカミキリを使用した。大型の容器に、ボーベリア・ボロンニアティNBL-851株を含む防除資材である試験サンプル(実施例1)を入れ、その防除
資材にキボシカミキリをまたがせ接触したことを確認し、1分間放置した。その後、桑の木(径約1cm、2本)が入った大容器にキボシカミキリを移し、完全に致死するまでの日数を計測した。7日間までの殺虫活性にて効果を比較した。比較例は、従来技術である特許第3764254号に記載にあるような方法を使用して、ボーベリア・ボロンニアティNBL-851株を含ませた防除資材を準備した(比較例1)。
表1に示すように、比較例1に記載のサンプルと実施例1に記載のサンプルとでは総菌数は同程度であるが、表層胞子菌数は比較例1において1×106個/cm2未満であり、実施例1においては1×106個/cm2以上であった。その結果、実施例1においてはいずれの反復実験(反復1~4)においても7日間の殺虫効果が見られたのに対し、比較例1においてはいずれの反復実験(反復1~4)においても7日間の殺虫効果が見られなかった。つまり、本発明に係る防除資材は、従来技術に係る防除資材と比較して、殺虫効果が向上したことが分かった。
【0031】