(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】硬化性組成物および(メタ)アクリル系重合体
(51)【国際特許分類】
C08G 77/04 20060101AFI20231204BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20231204BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20231204BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C08G77/04
C08F8/30
C08F8/42
C08F299/02
(21)【出願番号】P 2019064875
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 太亮
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/213217(WO,A1)
【文献】特開2012-102159(JP,A)
【文献】特開2016-074848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F 290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 77/00-77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体、および、ラジカル重合開始剤を含み、
上記ラジカル硬化性基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を含み、
上記(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリル酸系モノマーと、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、を重合してなる重合体の、ヒドロキシル基に、イソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステルによるウレタン化により導入されている(メタ)アクリロイル基である、硬化性組成物。
【請求項2】
上記(メタ)アクリル系重合体は、その末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体、および、ラジカル重合開始剤を含み、
シラノール縮合触媒をさらに含む、硬化性組成物であって、
上記(メタ)アクリル系重合体は、上記ラジカル硬化性基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を含
む、硬化性組成物。
【請求項4】
上記シラノール縮合触媒が二価の錫化合物である、請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体、および/または、分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体、をさらに含む、請求項1~4の何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
ラジカル重合法によって重合されてなり、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有し、
上記(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリル酸系モノマーと、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、を重合してなる重合体の、ヒドロキシル基に、イソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステルによるウレタン化により導入されている(メタ)アクリロイル基である、(メタ)アクリル系重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物および(メタ)アクリル系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンフォーマルコーティング(電子基板保護のためのコーティング)分野では、一般に、加水分解性シリル基を有するアクリル重合体を含む組成物、または、ラジカル硬化性基を有するアクリル重合体を含む組成物が使用されている。例えば、特許文献1には、電子移動ラジカル重合による加水分解性シリル基を含有するポリ(メタ)アクリレートが記載されており、特許文献2には、半減期10時間の、分解温度が60℃以下であるラジカル発生可能な化合物を含む光硬化可能な樹脂組成物が記載されている。
【0003】
また、特許文献3には、加水分解性シリル基を有するアクリル重合体と、ラジカル硬化性基を有するアクリル重合体とを併用した硬化性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-162394号公報
【文献】特開昭63-152603号公報
【文献】特許第05550831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のポリ(メタ)アクリレートは、湿気硬化させることができるものの、光硬化または熱硬化させることができない。上記特許文献2に記載の樹脂組成物は、光硬化させることができるものの、湿気硬化させることができない。また、光硬化させる場合には、光が照射されない暗部が硬化しないので硬化が均一に起こらない。従って、特許文献1,2に記載の技術では、硬化時の方法に制約がある。また、上記特許文献3に記載の硬化性組成物は、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができるものの、一つの硬化方法では、硬化性組成物全体に亘って硬化が均一に起こらない傾向にある。
【0006】
それゆえ、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができ、一つの硬化方法でも全体に亘って硬化が均一に起こる硬化性組成物が求められている。
【0007】
本発明の一態様は、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができ、一つの硬化方法でも全体に亘って硬化が均一に起こる硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有し、当該ラジカル硬化性基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系重合体が、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができ、一つの硬化方法でも全体に亘って硬化が均一に起こることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の一実施の形態は、以下の構成を含む。
[1]分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体、および、ラジカル重合開始剤を含み、上記ラジカル硬化性基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を含む、硬化性組成物。
[2]上記(メタ)アクリル系重合体は、その末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を有する、[1]に記載の硬化性組成物。
[3]シラノール縮合触媒をさらに含む、[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
[4]上記シラノール縮合触媒が二価の錫化合物である、[3]に記載の硬化性組成物。
[5]分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体、および/または、分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体、をさらに含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の硬化性組成物。
[6]ラジカル重合法によって重合されてなり、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有する、(メタ)アクリル系重合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、(メタ)アクリル系重合体は、加水分解性シリル基によって湿気硬化させることができ、ラジカル硬化性基によって光硬化または熱硬化させることができる。即ち、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体は、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができ、一つの硬化方法でも全体に亘って均一に硬化させることができる。従って、湿気硬化、光硬化または熱硬化させることができ、一つの硬化方法でも全体に亘って硬化が均一に起こる硬化性組成物を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては、特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。また、「重量」と「質量」は同義語として使用する。さらに、「(メタ)アクリル」は、「メタアクリルおよび/またはアクリル」を意味する。
【0012】
〔1.(メタ)アクリル系重合体〕
本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有し、当該ラジカル硬化性基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する。また、本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、ラジカル重合法によって重合されてなり、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有する。
【0013】
尚、以下の説明においては、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つのラジカル硬化性基とを有し、当該ラジカル硬化性基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系重合体に関して主に記載し、ラジカル重合法によって重合されてなり、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有する(メタ)アクリル系重合体に関しては、好ましい一形態として記載することとする。
【0014】
上記(メタ)アクリル系重合体は、例えば、主鎖を構成する、重合性不飽和基を有するモノマーと、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、を含むモノマー組成物を共重合させた後、得られた重合体の側鎖に存在するヒドロキシル基に、当該ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物を反応させ、これによりラジカル硬化性基を重合体の側鎖に導入すると共に、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって重合体の好ましくはその末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を導入する方法によって製造される。ここで、「末端近傍」とは、末端から炭素数20以内、より好ましくは10以内の部分を指す。また、加水分解性シリル基は、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって重合体に導入する方法の他に、シリル化剤を用いたシリル化によって重合体に導入する方法もある。
【0015】
好ましくは、上記(メタ)アクリル系重合体は、主鎖を構成する、重合性不飽和基を有するモノマーと、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、を含むモノマー組成物をラジカル重合開始剤の存在下でラジカル重合させた後、得られた重合体の側鎖に存在するヒドロキシル基に、当該ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物を反応させ、これによりラジカル硬化性基を重合体の側鎖に導入すると共に、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって重合体の好ましくはその末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を導入する方法によって製造される。ラジカル重合させて得られる上記(メタ)アクリル系重合体は、好ましくはメタクリル重合体である。但し、上記(メタ)アクリル系重合体は、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有していればよく、その製造方法は特に限定されない。但し、ラジカル重合法は、得られる(メタ)アクリル系重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が狭くなることから、リビングラジカル重合法がより好ましい。
【0016】
重合性不飽和基を有するモノマーとしては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチルパーフルオロブチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2,2-ジパーフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチルパーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等の芳香族ビニル系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フエニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール;等が挙げられる。これらモノマーは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。この中でも、(メタ)アクリル酸系モノマーがより好ましい。即ち、(メタ)アクリル系重合体は、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの他に、(メタ)アクリル酸系モノマーを主として重合して得られる(メタ)アクリル系重合体がより好ましく、アクリル酸系モノマーを主として重合して得られる(メタ)アクリル系重合体がより好ましい。ここで「主として」とは、主鎖を構成するモノマー単位のうち、30モル%以上、好ましくは50モル%以上が上記モノマーであることを指す。
【0017】
ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルコール性水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に限定されないものの、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルが挙げられる。これらヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。この中でも、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、およびメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが、入手の容易さ、および反応性に優れており、また、人体への有害性の有無を考慮して、より好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル系重合体の主鎖の原料となるモノマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、重合性不飽和基を有するモノマー、および、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外に、他のモノマーを含んでいてもよい。モノマー組成物における他のモノマーの割合は、90重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましい。
【0019】
加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)
H2C=CR5C(=O)O-(CH2)m-SiR6
n(OR7)3-n …(1)
(式中、R5は水素またはメチル基を示す。R6は水素、メチル基、エチル基の何れかを示す。R7は水素、メチル基、エチル基の何れかを示す。mは0~10の範囲にある整数を示す。nは0~2の範囲にある整数を示す。)
で示される(メタ)アクリル酸エステルが好適である。
【0020】
シリル化剤である、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、メチルジメトキシシラン(DMS)、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。これら(メタ)アクリル酸エステルは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。この中でも、入手の容易さから3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランがより好ましく、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがさらに好ましい。
【0021】
ラジカル硬化性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、アリル基、2-メチル-2-プロペニル基、2-ブテニル基等のC2~C6アルケニル基;4-ビニルフェニル基、4-イソプロペニルフェニル基等のC2~C6アルケニル-C6~C20アリール基;スチリル基等のC6~C20アリール-C2~C6アルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、プロパルギル基、2-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基等のC2~C6アルキニル基;ビニレン基、メチルビニレン基、エチルビニレン基、1,2-ジメチルビニレン等のモノまたはジC1~C6アルキルビニレン基;クロロビニレン基等のハロビニレン基等の、置換基を有していてもよいビニレン基;ビニリデン基;エチニレン基等が挙げられる。本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、当該ラジカル硬化性基として、少なくとも(メタ)アクリロイル基を有している。従って、ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物としては、上記ラジカル硬化性基を(メタ)アクリル系重合体に導入することができる、ヒドロキシル基と反応する化合物であればよい。
【0022】
上記ラジカル硬化性基としては、(メタ)アクリロイル基が、重合性に優れていることからより好ましく、アクリロイル基がさらに好ましい。また、(メタ)アクリロイル基は、対応する市販の光ラジカル重合開始剤の種類が豊富であり、硬化の状態を調節し易いことからも好適である。従って、ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物としては、特に限定されないものの、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナートエチル等の、イソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。この中でも、イソシアネート基を有するメタアクリル酸エステルがより好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基の数は、重合体1分子当たり一つ以上であればよく、1.1~4.0の範囲がより好ましく、1.2~3.5の範囲がさらに好ましい。また、加水分解性シリル基は、(メタ)アクリル系重合体の末端および/または末端近傍に導入されていることが好ましく、片方の末端および/または末端近傍に導入されていることがより好ましい。(メタ)アクリル系重合体が有するラジカル硬化性基の数は、重合体1分子当たり一つ以上であればよく、1.1~4.0の範囲がより好ましく、1.2~3.5の範囲がさらに好ましい。また、ラジカル硬化性基は、(メタ)アクリル系重合体の末端および/または末端近傍に導入されていることが好ましく、上記加水分解性シリル基が導入されている側の末端とは逆側の、片方の末端および/または末端近傍に導入されていることがより好ましい。ここで、「末端近傍」とは、末端から炭素数20以内、より好ましくは10以内の部分を指す。
【0024】
そして、(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基の数と、ラジカル硬化性基の数との比は、1:10~10:1の範囲が好ましく、1:7~7:1の範囲がより好ましく、1:5~5:1の範囲がさらに好ましい。加水分解性シリル基の数と、ラジカル硬化性基の数との比を上記範囲に調節することにより、湿気硬化と、光硬化または熱硬化とのバランスに優れた(メタ)アクリル系重合体を得ることができる。
【0025】
(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量は、3,000~40,000の範囲が好ましく、5,000~30,000の範囲がより好ましく、7,000~20,000の範囲がさらに好ましい。また、(メタ)アクリル系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1~2の範囲が好ましく、1~1.8の範囲がより好ましく、1~1.5の範囲がさらに好ましい。
【0026】
本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、少なくとも一つの加水分解性シリル基と、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基とを有する(メタ)アクリル系重合体が製造される方法であればよく、具体的な製造方法は特に限定されない。即ち、上述したモノマー組成物を共重合させる方法は、特に限定されないものの、制御ラジカル重合させる方法が好ましく、リビングラジカル重合させる方法がより好ましく、原子移動ラジカル重合させる方法がさらに好ましい。モノマー組成物をリビングラジカル重合法によって重合させることにより、分子構造、特に末端構造を制御することができる。また、分子量の制御が容易であり、分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1~1.5程度)(メタ)アクリル系重合体を得ることができる。即ち、本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、ブロックコポリマーであることがより好ましい。
【0027】
モノマー組成物の共重合に用いる反応溶媒としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン等の高極性非プロトン性溶媒;等が挙げられる。これら反応溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
共重合時におけるモノマー組成物の濃度は、50~98重量%であることが好ましく、60~96重量%であることがより好ましい。
【0029】
モノマー組成物の共重合に用いる重合触媒としては、周期律表第7族~第11族元素を中心金属とする金属錯体が用いられ、このうち、一価の銅、二価の銅、二価のルテニウム、二価の鉄、二価のニッケルを含む金属錯体がより好ましく、入手が容易で安価なことから、一価の銅、二価の銅を含む金属錯体がさらに好ましい。特に限定されないものの、具体的には、例えば、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅が挙げられる。銅を含む金属錯体を重合触媒として用いる場合には、触媒活性を高めるためにアミン配位子を添加することがより好ましく、多座アミンを添加することが特に好ましい。
【0030】
尚、二価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl2(PPh3)3)も重合触媒として好適である。この重合触媒を使用するときは、その活性を高めるためにトリアルコキシアルミニウム等のアルミニウム化合物を添加することがより好ましい。また、二価の塩化鉄のトリストリフェニルホスフィン錯体(FeCl2(PPh3)3)も重合触媒として好適である。
【0031】
これら重合触媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。モノマー組成物に対する重合触媒の量は、0.001~0.01重量%であることが好ましく、0.003~0.007重量%であることがより好ましい。
【0032】
上記アミン配位子としては、多座アミンが好適であり、特に限定されないものの、具体的には、例えば、2,2-ビピリジン等の二座配位の多座アミン;N,N,N’,N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン等の三座配位の多座アミン;トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)、トリス(2-ピコリル)アミン等の四座配位の多座アミン;N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、ポリアミン等の六座配位の多座アミン;ポリエチレンイミン;等が挙げられる。
【0033】
重合時には、必要に応じて還元剤を用いてもよい。還元剤としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等の有機酸化合物;金属、金属水素化物;ヒドラジン、ジイミド等の窒素水素化合物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;等が挙げられる。これら還元剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、固体の還元剤は、重合系にそのまま添加してもよく、反応溶媒に溶解させて重合系に添加してもよい。さらに、還元剤は、重合系に直接、添加してもよいし、重合系中で発生させてもよい。重合系中で発生させる場合には、電解還元も含まれる。
【0034】
重合時には、必要に応じて、重合系中に存在する酸或いは発生する酸を中和して酸の蓄積を防ぐために、塩基を添加してもよい。塩基としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の有機塩基;水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム等の無機塩基;が挙げられる。これら塩基は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、塩基は、還元剤等と混合して重合系に添加してもよい。
【0035】
開始剤としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、ブロモ酢酸メチル、α-ブロモ酪酸エチル、2-ブロモプロピオン酸メチル、2-ブロモイソ酪酸エチル、(1-ブロモエチル)ベンゼン、アリルブロミド、クロロ酢酸メチル、2-クロロプロピオン酸メチル、(1-クロロエチル)ベンゼン、ジエチル-2,5-ジブロモアジペート等が挙げられる。これら開始剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。入手の容易さから、2-ブロモイソ酪酸エチル、(1-ブロモエチル)ベンゼン、クロロ酢酸メチルがより好ましく、反応性および安全性に優れていることから、2-ブロモイソ酪酸エチルが特に好ましい。
【0036】
また、重合時には、必要に応じて、連鎖移動剤を用いてもよい。
【0037】
共重合、より好ましくはラジカル重合、さらに好ましくはリビングラジカル重合させるときの重合条件は、特に限定されないものの、重合温度は、0~200℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましい。重合時間は、1~12時間であることが好ましく、3~10時間であることがより好ましい。また、重合は、不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0038】
上述したモノマー組成物を、共重合、より好ましくはラジカル重合、さらに好ましくはリビングラジカル重合させることにより、重合体が得られる。本発明においては、得られた重合体の側鎖に存在するヒドロキシル基に、当該ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物を反応させ、これによりラジカル硬化性基を重合体の側鎖に導入すると共に、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって重合体の好ましくはその末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を導入することにより、本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体を製造する。
【0039】
重合体の側鎖に存在するヒドロキシル基と、上述した、ヒドロキシル基と反応する官能基を有する化合物との反応(ウレタン化反応)には、亜鉛、錫、鉛、ジルコミウム、ビスマス、コバルト、マンガン、鉄等の金属とオクチル酸、ナフテン酸等の有機酸との金属塩;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属と有機酸との塩;トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等の有機アミンやその塩;等の公知のウレタン化触媒を用いることができる。これらウレタン化触媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。ウレタン化反応時に用いる溶媒は、上述したモノマー組成物の共重合時に用いる反応溶媒と同様の溶媒を用いることができる。反応条件は、特に限定されないものの、反応温度は、40~150℃であることが好ましく、80~130℃であることがより好ましい。反応時間は、1~10時間であることが好ましく、3~7時間であることがより好ましい。また、反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0040】
ウレタン化反応時には、反応系に、必要に応じて、ヒンダードアミン等の熱安定剤を添加してもよい。
【0041】
重合体の好ましくはその末端および/または末端近傍に加水分解性シリル基を導入するシリル化の反応方法としては、例えば、アルケニル基を少なくとも一つ有するビニル系重合体に、架橋性シリル基を有するヒドロシラン化合物を、ヒドロシリル化触媒の存在下で付加させる方法;ヒドロキシル基を少なくとも一つ有するビニル系重合体に、1分子中に架橋性シリル基とイソシアネート基とを有する化合物等の、ヒドロキシル基と反応し得る官能基を有する化合物を反応させる方法;ビニル系重合体を得る重合反応に、1分子中に重合性のアルケニル基と架橋性シリル基とを有する化合物を重合系に添加して反応させる方法;ビニル系重合体を得る重合反応に、架橋性シリル基を有する連鎖移動剤を添加して反応させる方法;反応性の高い炭素-ハロゲン結合を少なくとも一つ有するビニル系重合体に、1分子中に架橋性シリル基と安定なカルバニオンとを有する化合物を反応させる方法;等が挙げられる。
【0042】
上記アルケニル基を少なくとも一つ有するビニル系重合体は、例えば、ラジカル重合によってビニル系重合体を得る重合反応の終期或いは所定のモノマーの反応終了後に、例えば1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等の、重合性の低いアルケニル基を少なくとも二つ有する化合物を反応させる方法によって得ることができる。
【0043】
本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、分子内に、(メタ)アクリロイル基との反応に関与しなかったヒドロキシル基が存在していてもよい。一般に、(メタ)アクリル系重合体を光硬化させると、表面部分の硬化が酸素によって阻害される。しかしながら、(メタ)アクリル系重合体がヒドロキシル基を有していると、酸素による硬化阻害を回避することができる。
【0044】
上述した反応によって製造された本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体は、精製溶媒によって希釈し、吸着剤と共に加熱攪拌した後、濾過することにより、(メタ)アクリル系重合体の溶液として精製することができる。そして、当該溶液の精製溶媒を減圧留去することにより、(メタ)アクリル系重合体を取り出すことができる。
【0045】
精製溶媒としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これら精製溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。精製および減圧留去の容易さから、酢酸ブチル、メチルシクロヘキサン、トルエンがより好ましく、環境負荷が低減されることから、酢酸ブチル、メチルシクロヘキサンがさらに好ましい。
【0046】
吸着剤としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、活性炭、イオン交換樹脂(酸性、塩基性またはキレート);合成ハイドロタルサイト、シリカ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、活性アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、酸性白土、活性白土、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、ケイソウ土;等が挙げられる。これら吸着剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
精製条件は、特に限定されないものの、攪拌温度および減圧温度は、50~120℃であることが好ましく、経済性を考慮して、60~100℃であることがより好ましい。攪拌時間は、0.1~2時間であることが好ましく、0.5~1時間であることがより好ましい。
【0048】
〔2.硬化性組成物〕
硬化性組成物は、上述した(メタ)アクリル系重合体、および、ラジカル重合開始剤を含む。硬化性組成物は、光アニオン開始剤、近赤外光重合開始剤等の光重合開始剤、熱重合開始剤、レドックス系開始剤等の開始剤をさらに含んでいてもよく、シラノール縮合触媒をさらに含んでいてもよい。
【0049】
ラジカル重合開始剤は、(メタ)アクリル系重合体を光硬化または熱硬化させる開始剤である。ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないものの、光ラジカル開始剤が好適であり、具体的には、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、3-メチルアセトフェノン、4-メチルアセトフェノン、3-ペンチルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、4-メトキシアセトフェノン、3-ブロモアセトフェノン、4-アリルアセトフェノン、3-メトキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4-クロロ-4’-ベンジルベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン等のフェニルケトン誘導体;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン等のα-ヒドロキシケトン化合物;キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、p-ジアセチルベンゼン、3-クロロキサントン、3,9-ジクロロキサントン、3-クロロ-8-ノニルキサントン、ベンジルメトキシケタール、2-クロロチオキサントン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ジベンゾイル等が挙げられる。これらラジカル重合開始剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。この中でも、フェニルケトン誘導体、α-ヒドロキシケトン化合物がより好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル系重合体に対するラジカル重合開始剤の量は、0.1~10重量%であることが好ましく、0.5~5重量%であることがより好ましい。
【0051】
シラノール縮合触媒は、(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基を湿気硬化させる触媒である。シラノール縮合触媒としては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫、フェルザチック酸錫等の二価の錫化合物、或いはこれら錫化合物と後述するアミンとの反応物および混合物;ジブチル錫ジラウレート等のジアルキル錫化合物(四価の錫化合物);テトラブチルチタネート等のチタン化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)等のアルミニウム化合物;ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)等のジルコニウム化合物;2-エチルヘキサン酸等のカルボン酸;カルボン酸鉛、カルボン酸ビスマス、カルボン酸カリウム等のカルボン酸金属塩;三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等の三フッ化ホウ素化合物;フッ化テトラブチルアンモニウム等のフッ素アニオン含有化合物;等が挙げられる。これらシラノール縮合触媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。この中でも、二価の錫化合物がより好ましく、オクチル酸錫がさらに好ましい。
【0052】
(メタ)アクリル系重合体に対するシラノール縮合触媒の量は、0.1~5重量%であることが好ましく、0.5~3重量%であることがより好ましい。
【0053】
シラノール縮合触媒として二価の錫化合物を用いる場合には、アミンを併用することがより好ましい。アミンは、(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基を湿気硬化させる助触媒である。アミンとしては、特に限定されないものの、具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂肪族第一アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジデシルアミン、ジラウリルアミン、ジセチルアミン、ジステアリルアミン、メチルステアリルアミン、エチルステアリルアミン、ブチルステアリルアミン等の脂肪族第二アミン類;トリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン等の脂肪族第三アミン類;トリアリルアミン、オレイルアミン等の脂肪族不飽和アミン類;ラウリルアニリン、ステアリルアニリン、トリフェニルアミン等の芳香族アミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-n-オキシル等のアミン系化合物、ポリアミン化合物等が挙げられる。また、市販品である、H-TEMPO(Alfa Aesar社製)、LA-63P((株)ADEKA製)、Tinuvin770、Tinuvin770DF、Tinuvin292、Tinuvin5050、Tinuvin5151、Tinuvin5060(何れもBASF製)等も挙げられ、貯蔵安定性を考慮して、H-TEMPO、LA-63Pがより好ましい。これらアミンは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、アミンは、硬化性組成物にそのまま添加してもよく、溶媒に溶解させて添加してもよい。
【0054】
(メタ)アクリル系重合体に対するアミンの量は、貯蔵安定性および費用対効果を考慮して、0.1~5重量%であることが好ましく、0.3~3重量%であることがより好ましい。
【0055】
また、二価の錫化合物とアミンとのモル比は、1:0.05~1:10の範囲が好ましく、1:0.1~1:5の範囲がより好ましく、1:0.2~1:2の範囲がさらに好ましい。
【0056】
硬化性組成物は、分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体、および/または、分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体、をさらに含んでいてもよい。即ち、硬化性組成物は、必要に応じて、加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基の一方の反応性官能基のみを有する(メタ)アクリル系重合体、をさらに含んでいてもよい。本発明において、「分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体」には、分子内に、平均して一つ未満のラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体も包含される。また、本発明において、「分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体」には、分子内に、平均して一つ未満の加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体も包含される。
【0057】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体、並びに、分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体、が有する加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基としては、本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基と同じ加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基が挙げられる。
【0058】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基の数は、重合体1分子当たり一つ以上であればよく、1.1~5.0の範囲がより好ましく、1.2~3.0の範囲がさらに好ましい。また、加水分解性シリル基は、上記(メタ)アクリル系重合体の末端および/または末端近傍に導入されていることが好ましく、両方の末端および/または末端近傍に導入されていることがより好ましい。上記(メタ)アクリル系重合体が有するラジカル硬化性基の数は、重合体1分子当たり一つ未満であればよく、0.5未満がより好ましく、0.1未満がさらに好ましく、0であることが特に好ましい。上記(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量は、3,000~40,000の範囲が好ましく、5,000~30,000の範囲がより好ましく、7,000~20,000の範囲がさらに好ましい。また、上記(メタ)アクリル系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1~2の範囲が好ましく、1~1.8の範囲がより好ましく、1~1.5の範囲がさらに好ましい。
【0059】
分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体が有するラジカル硬化性基の数は、重合体1分子当たり一つ以上であればよく、1.1~5.0の範囲がより好ましく、1.2~3.0の範囲がさらに好ましい。また、ラジカル硬化性基は、上記(メタ)アクリル系重合体の末端および/または末端近傍に導入されていることが好ましく、両方の末端および/または末端近傍に導入されていることがより好ましい。上記(メタ)アクリル系重合体が有する加水分解性シリル基の数は、重合体1分子当たり一つ未満であればよく、0.5未満がより好ましく、0.1未満がさらに好ましく、0であることが特に好ましい。上記(メタ)アクリル系重合体の数平均分子量は、3,000~40,000の範囲が好ましく、5,000~30,000の範囲がより好ましく、7,000~20,000の範囲がさらに好ましい。また、上記(メタ)アクリル系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1~2の範囲が好ましく、1~1.8の範囲がより好ましく、1~1.5の範囲がさらに好ましい。
【0060】
分子内に、少なくとも一つの加水分解性シリル基を有し、ラジカル硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体、並びに、分子内に、少なくとも一つのラジカル硬化性基を有し、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル系重合体、の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、具体的には、本発明の一実施の形態における(メタ)アクリル系重合体に対して、50~5,000重量%であることが好ましく、500~1,500重量%であることがより好ましい。
【0061】
硬化性組成物は、脱水剤、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の光安定剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤(垂れ防止剤)等の公知の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。これら添加剤の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であればよい。
【0062】
硬化性組成物の粘度は、コンフォーマルコーティング分野での作業性等を考慮して、室温(23℃)において、10~150Pa・sec の範囲が好ましく、30~120Pa・sec の範囲がより好ましいものの、特に限定されない。上記粘度は、溶媒の種類や含有量等を適宜設定することによって、容易に調節することができる。
【0063】
上述した硬化性組成物を湿気硬化、光硬化または熱硬化させることにより、ゴム弾性を有する硬化物が得られる。硬化条件は、硬化性組成物の組成に応じて、適切な硬化物が得られる条件に設定すればよく、特に限定されない。硬化物は、時間の経過に伴い(経時変化によって)、未硬化の(メタ)アクリル系重合体、可塑剤等の添加剤が外部に漏れ出す懸念がある。従って、硬化物を最終製品として使用する場合には、硬化物のゲル分率は、高い方がより好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例に記載の試薬および原料は、工業化を見越して、大量生産されている試薬および原料を入手してそのまま反応に使用し、精製等の処理を一切行っていない。但し、試薬および原料は、使用前に脱酸素処理を行った。
【0065】
〔数平均分子量、分子量分布〕
各種ポリマーの数平均分子量、および分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn))は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法によって算出した。GPCカラムとして、ポリスチレン架橋ゲルを充填したカラム(Shodex GPC K-804;昭和電工(株)製)を用い、GPC溶媒として、クロロホルムを用いた。
【0066】
〔反応性官能基の数〕
各種ポリマー1分子当たりに導入された反応性官能基(加水分解性シリル基、ラジカル硬化性基)の数は、1H-NMRによる濃度分析、およびGPCを用いた標準ポリスチレン換算法によって算出した数平均分子量を基にして算出した。1H-NMRの測定には、Bruker製のNMR測定装置(NMR Avance III-400)を使用した。
【0067】
〔積算光量〕
実施例および比較例における積算光量とは、硬化性組成物に対して照射機から照射した光の積算量を示す。照射機として、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(現ヘレウス)製の照射機(型式LH6、Hバルブ)を使用した。そして、紫外線光量計(ウシオ電機製のUIT250、測定波長:254nm)で測定した光量値を積算して、積算光量とした。
【0068】
〔モノマーの転化率〕
各種組成物中のモノマーの転化率(重合反応率)は、ガスクロマトグラフィー(アジレント社製の7890B)を使用した測定結果から算出した。サンプルとして、トルエン溶媒約1mlに対して反応途中のモノマー溶液を約0.05ml溶解させた溶液を用いた。カラムは、HP-5MS(アジレント社製)を使用した。
【0069】
〔破断時の応力〕
硬化物から、JIS K 7113に示された3号形ダンベル型試験片を打抜き、引張試験機((株)島津製のオートグラフを使用、測定温度:23℃、引張速度:200mm/分)を用いて当該試験片の破断時の応力Tb(MPa)を測定した。
【0070】
〔ゲル分率〕
硬化物をトルエンに24時間浸漬した後、当該硬化物を取り出して加熱乾燥し、トルエンに浸漬する前後の硬化物の重量変化から、ゲル分率(%)を算出した。
【0071】
〔合成例〕
(ポリマーA)
下記工程を行い、ラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体を作製した。
【0072】
(1)重合工程
脱酸素処理を行ったアクリル酸n-ブチル1000gを用意し、攪拌機を備えたステンレス製の反応容器の内部の脱酸素処理を行った後、重合触媒として臭化第一銅(CuBr)1.7g、およびアクリル酸n-ブチル200gを仕込むと共に、反応溶媒としてアセトニトリル65g、および開始剤としてジエチル-2,5-ジブロモアジペート35.1gを添加して混合し、加熱攪拌した。そして、反応液の温度が約80℃に達した段階で、アミン配位子としてN,N,N’,N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン(以下、「トリアミン」と記す)0.17gを添加し、重合反応を開始した。その後、残りのアクリル酸n-ブチル800gを逐次添加し、重合反応を進めた。また、重合の途中でトリアミンを適宜追加し、重合速度を調節した。さらに、重合反応が進行すると重合熱によって反応液の温度が上昇するので、当該温度を約80℃~約90℃に調節しながら重合を進行させた。重合時に使用したトリアミンの総量は、1.7gであった。
【0073】
(2)酸素処理工程
上記重合工程において、モノマー転化率(重合反応率)が約95%以上となった時点で、反応容器の気相部に酸素-窒素混合ガスを導入した。そして、反応液の温度を約80℃~約90℃に保ちながら、当該反応液を数時間、加熱攪拌して反応液中の重合触媒と酸素とを接触させた。その後、アセトニトリルおよび未反応のアクリル酸n-ブチルを減圧留去し、重合体を含有する濃縮物を得た。濃縮物は著しく着色していた。
【0074】
(3)第一粗精製工程
上記濃縮物を酢酸ブチル1000gで希釈し、濾過助剤10g、および吸着剤(珪酸アルミニウムであるキョーワード700SEN;5g、合成ハイドロタルサイトであるキョーワード500SH;15g(何れも協和化学工業(株)製))を添加した。反応容器の気相部に酸素-窒素混合ガスを導入した後、希釈液を約80℃で数時間、加熱攪拌した。その後、重合触媒や吸着剤、濾過助剤等の不溶成分を濾別した。得られた濾液は、重合触媒の残渣によって着色し、若干の濁りを有していた。
【0075】
(4)第二粗精製工程
上記濾液を、攪拌機を備えたステンレス製の別の反応容器に仕込み、吸着剤(キョーワード700SEN;5g、キョーワード500SH;15g)を添加した。反応容器の気相部に酸素-窒素混合ガスを導入した後、希釈液を約100℃で数時間、加熱攪拌した。その後、吸着剤等の不溶成分を濾過して除去した。濾液は、殆ど無色透明な清澄液であった。濾液を濃縮し、ほぼ無色透明の重合体を得た。
【0076】
(5)アクリロイル基導入工程
上記重合体を反応溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)980gに溶解した後、アクリル酸カリウム31g、熱安定剤(H-TEMPO:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-n-オキシル)0.1g、および吸着剤(キョーワード700SEN)4gを添加し、約70℃で数時間、加熱攪拌した。その後、DMACを減圧留去し、重合体を含有する濃縮物を得た。この濃縮物を酢酸ブチル980gで希釈し、濾過助剤10gを添加して固形分を濾別した。得られた濾液を濃縮して、末端にアクリロイル基(ラジカル硬化性基)を有する(メタ)アクリル系重合体であるポリマーA960gを得た。得られたポリマーA1分子当たりに導入されたアクリロイル基の数は1.8、数平均分子量は12,000、分子量分布は1.2であった。
【0077】
(ポリマーB)
下記工程を行い、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体を作製した。
【0078】
(1)重合工程
上記ポリマーAの重合工程と同じ工程を行った。
【0079】
(2)ジエン反応工程
重合工程で得られた反応液1000gに、1,7-オクタジエン(以下、「オクタジエン」と記す)210g、および反応溶媒としてアセトニトリル350gを添加し、さらにトリアミン6.8gを添加して混合し、加熱攪拌することによって反応を開始した。そして、反応液の温度を約80℃~約90℃に調節しながら数時間、加熱攪拌することにより、重合体の末端にオクタジエンを反応させた。反応液は重合触媒によって著しく着色していた。
【0080】
(3)酸素処理工程
上記ポリマーAの酸素処理工程と同じ工程を行った。
【0081】
(4)第一粗精製工程
上記ポリマーAの第一粗精製工程と同じ工程を行った。
【0082】
(5)第二粗精製工程
上記ポリマーAの第二粗精製工程と同じ工程を行った。
【0083】
(6)脱ハロゲン化工程(高温加熱処理工程)および吸着精製工程
上記第二粗精製工程で得られた濾液(重合体;980g含有)に、熱安定剤(スミライザーGS:住友化学(株)製)2g、および吸着剤(キョーワード700SEN;5g、キョーワード500SH;15g)を添加し、減圧下で加熱攪拌しながら昇温し、約170℃~約200℃の高温状態で数時間程度、減圧下で加熱攪拌した。これにより、重合体中のハロゲン基の脱離を行うと共に、吸着精製を実施した。その後、処理液に吸着剤(キョーワード700SEN;15g、キョーワード500SH;5g)をさらに追加すると共に、重合体100重量部に対して約10重量部の酢酸ブチルを希釈溶媒として添加した。そして、気相部を酸素-窒素混合ガス雰囲気にし、約170℃~約200℃の高温状態でさらに数時間程度、加熱攪拌することにより、吸着精製を継続した。その後、処理液を、重合体100重量部に対して90重量部の酢酸ブチルでさらに希釈し、吸着剤を濾過して除去した。濾液を濃縮し、希釈溶媒である酢酸ブチルを回収することにより、両末端にアルケニル基を有する重合体を得た。
【0084】
(7)シリル化工程
上記吸着精製工程で得られた重合体960gに、シリル化剤としてメチルジメトキシシラン(DMS)32g、およびオルトギ酸メチル(MOF)16gを添加すると共に、ビス(1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン)白金錯体触媒のイソプロパノール溶液を所定量混合し、約100℃で1時間程度、加熱攪拌した。その後、未反応のDMS等の揮発分を減圧留去し、両末端にジメトキシシリル基(加水分解性シリル基)を有する(メタ)アクリル系重合体であるポリマーBを得た。得られたポリマーB1分子当たりに導入されたジメトキシシリル基の数は1.8、数平均分子量は13,800、分子量分布は1.3であった。
【0085】
(ポリマーC)
下記工程を行い、加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体を作製した。
【0086】
(1)準備工程
フラスコ内部を脱酸素した後、アクリル酸n-ブチル200g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル21.5g、および開始剤としてα-ブロモ酪酸エチル19gを混合したモノマー混合液を入れた。
【0087】
温度調節用のジャケットおよび攪拌機を備えたステンレス製の反応容器の内部の脱酸素処理を行った後、重合触媒として臭化第二銅(CuBr2)53mg、アミン配位子としてトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)54mg、およびメタノール1.8gを仕込み、窒素気流下で均一溶液になるまで攪拌を行った。次に、上記フラスコに入れたモノマー混合液を、酸素が混入しないようにキャヌラーを通して反応容器に全量移送し、内容物全体を均一に攪拌した。
【0088】
別の攪拌容器を用意し、メタノール40ml、還元剤であるアスコルビン酸0.5g、および塩基であるトリエチルアミン0.8mlを入れて、窒素気流下で均一溶液になるまで30分間、攪拌を行った。
【0089】
(2)第一重合工程
上記反応容器を加熱して溶液の温度を50℃以上にした後、上記攪拌容器内の混合液を、1時間当たりにアスコルビン酸が36mg滴下されるように滴下速度を調節して滴下し、重合反応を開始した。
【0090】
反応液の温度をモニターすると、アスコルビン酸の滴下と同時に発熱が起こり、やがて発熱が最大になった後、発熱は徐々に小さくなっていった。反応液の温度からジャケットの温度を差し引いた温度差が2℃になったところで、反応液を少量サンプリングし、ガスクロマトグラフで分析を実施したところ、アクリル酸n-ブチルのうち81重量%が消費されていることが確認された。
【0091】
(3)第二重合工程
次に、上記反応液にアクリル酸n-ブチル800gを90分間かけて滴下しながら、重合反応を継続した。滴下終了後、反応液を定期的にサンプリングし、ガスクロマトグラフで分析を実施して、滴下したアクリル酸n-ブチルのうち98重量%が消費されるまで重合をさらに継続した。
【0092】
(4)シリル化工程
次に、上記第二重合工程で得られた反応液に、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン50gを添加し、50℃で1時間程度、加熱攪拌した。その後、反応液の温度を80℃に昇温し、当該反応液の揮発分を、ダイヤフラムポンプおよび真空ポンプの順に用いて減圧留去し、重合体を含有する濃縮物を得た。減圧留去後、ジャケットの温度を60℃以下に設定して濃縮物を冷却した。
【0093】
(5)精製工程
得られた反応容器内の濃縮物に酢酸ブチル1000gを添加し、均一溶液になるまで混合攪拌した。このポリマー溶液に対して、吸着剤(キョーワード700SEN-S;10g、キョーワード500SH;10g(何れも協和化学工業(株)製))を添加し、1時間攪拌した。
【0094】
攪拌終了後、バグフィルター濾布を敷いた濾過器に、スラリー状の上記ポリマー溶液を通して濾過し、清澄なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液中の酢酸ブチルを、ダイヤフラムポンプおよび真空ポンプの順に用いて80℃で減圧留去し、重合体を含有する濃縮物を得た。
【0095】
(6)メタクリロイル基導入工程
新たに準備した、温度調節用のジャケットおよび攪拌機を備えた攪拌装置に、上記精製工程で得られた濃縮物(重合体;206g含有)、および熱安定剤(H-TEMPO;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-n-オキシル)0.02gを入れ、ジャケットの温度を120℃に設定した。次に、攪拌装置に、ウレタン化触媒であるU-360(日東化成(株)製)0.10g、およびカレンズMOI(昭和電工(株)製、メタクリル酸2-イソシアナートエチル)5.2gを入れ、内容物の温度を120℃に保持した状態で5時間攪拌した。これにより、メチルジメトキシシリル基(加水分解性シリル基)とメタクリロイル基(ラジカル硬化性基)とを有する(メタ)アクリル系重合体であるポリマーCを得た。
【0096】
得られたポリマーC1分子当たりに導入されたメチルジメトキシシリル基の数は1.8、メタクリロイル基の数は1.8であった。
【0097】
(ポリマーD)
下記工程を行い、加水分解性シリル基およびラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体を作製した。
【0098】
(1)準備工程~(5)精製工程
上記ポリマーCの準備工程~精製工程と同じ工程を行った。
【0099】
(6)メタクリロイル基導入工程
カレンズMOIの量を2.6gにした以外は、上記ポリマーCのアクリロイル基導入工程と同じ工程を行い、メチルジメトキシシリル基(加水分解性シリル基)とアクリロイル基(ラジカル硬化性基)とを有する(メタ)アクリル系重合体であるポリマーDを得た。
【0100】
得られたポリマーD1分子当たりに導入されたメチルジメトキシシリル基の数は1.8、メタクリロイル基の数は0.9であった。
【0101】
〔実施例1〕
ポリマーC102.6重量部に対して、光ラジカル重合開始剤であるOmnirad 1173(BASF社製)0.2重量部およびOmnirad 819(BASF社製)0.1重量部、並びに、二価の錫化合物であるオクチル酸錫(以下、「OT」と記す)と助触媒であるラウリルアミン(以下、「LA」と記す)との混合物(OT/LA=2/0.5(重量比))2.5重量部を加えた。これにより、硬化性組成物を調製した。
【0102】
得られたポリマーCを含む組成物を、あわとり練太郎(遊星式混合脱泡機;シンキー社製)で混合しながら脱泡し、得られた組成物をポリエチレン製のトレイに流し込んだ。
【0103】
次に、上記組成物に、UV照射装置を用いて、積算光量が6500mJ/cm2~6600mJ/cm2となるようにUVを照射してメタクリロイル基を光硬化させた。その後、得られた硬化性組成物を、50℃のオーブンに入れて20時間静置し、メチルジメトキシシリル基を湿気硬化させた。これにより、ゴム弾性を有するシート状の硬化物を得た。
【0104】
得られた硬化物の破断時の応力Tb(MPa)を測定し、ゲル分率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0105】
〔実施例2〕
ポリマーC102.6重量部の替わりに、ポリマーA45.0重量部、ポリマーB45.0重量部、およびポリマーC10.26重量部を用い、Omnirad 1173、Omnirad 819、およびOTとLAとの混合物の量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシート状の硬化物を得た。
【0106】
得られた硬化物の破断時の応力Tb(MPa)を測定し、ゲル分率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0107】
〔参考例1〕
ポリマーC102.6重量部の替わりに、ポリマーA45.0重量部、ポリマーB45.0重量部、およびポリマーD10.13重量部を用い、Omnirad 1173、Omnirad 819、およびOTとLAとの混合物の量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシート状の硬化物を得た。
【0108】
得られた硬化物の破断時の応力Tb(MPa)を測定し、ゲル分率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0109】
〔比較例1〕
ポリマーC102.6重量部の替わりに、ポリマーA45.0重量部、およびポリマーB45.0重量部を用い、Omnirad 1173、Omnirad 819、およびOTとLAとの混合物の量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシート状の硬化物を得た。
【0110】
得られた硬化物の破断時の応力Tb(MPa)を測定し、ゲル分率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0111】
〔比較例2〕
ポリマーC102.6重量部の替わりに、ポリマーD101.3重量部を用い、Omnirad 1173、Omnirad 819、およびOTとLAとの混合物の量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシート状の硬化物を得た。
【0112】
得られた硬化物の破断時の応力Tb(MPa)を測定し、ゲル分率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
実施例1および比較例1の結果から、加水分解性シリル基とラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体を用いた硬化物は、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体とラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体とを用いた硬化物と比較して、硬化物のゲル分率は変わらないものの、破断時の応力が大きくなることが分かる。
【0115】
実施例2および比較例1の結果から、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体とラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体との総量の10重量%を、加水分解性シリル基とラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体に置き換えることで、硬化物の破断時の応力およびゲル分率が大きくなることが分かる。
【0116】
実施例1~2および比較例1~2の結果から、加水分解性シリル基とラジカル硬化性基とを有する(メタ)アクリル系重合体だけを用いるよりも、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体およびラジカル硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体に混合して用いた方が、硬化物の破断時の応力およびゲル分率が大きくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、特に、コンフォーマルコーティング(電子基板保護のためのコーティング)分野での用途に好適に利用可能である。