(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】透明親水性紫外線吸収積層体、及び透明親水性紫外線吸収コーティング剤
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20231204BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231204BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20231204BHJP
C09D 133/06 20060101ALI20231204BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20231204BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20231204BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20231204BHJP
【FI】
B32B27/18 A
B32B9/00 A
C09D7/48
C09D133/06
C09D171/02
C09D201/06
C08J7/04 A
(21)【出願番号】P 2019070154
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直大
(72)【発明者】
【氏名】井原 大貴
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003264(JP,A)
【文献】特開2018-180099(JP,A)
【文献】特開2017-042947(JP,A)
【文献】特表2017-526738(JP,A)
【文献】特開2003-041181(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052686(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/044912(WO,A1)
【文献】特開2014-051593(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042803(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0017306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、並びに
第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、及び親水性バインダーを含有し、かつ、30.0度以下の水接触角を呈する透明親水性紫外線吸収層を含み、
前記接触角は、前記透明親水性紫外線吸収層上の2マイクロリットルの液滴の光学顕微鏡画像から測定され、
前記第1の無機ナノ粒子が、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子であり、
前記第2の無機ナノ粒子は、前記第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含み、
前記親水性バインダーが、ポリエチレングリコール;ポリ-N-ビニルピロリドン
;両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する
親水性(メタ)アクリル樹脂;親水性ポリウレタン;並びに水酸基を有する
親水性樹脂から選ばれる少なくとも1種である、
透明親水性紫外線吸収積層体。
【請求項2】
前記第1の無機ナノ粒子及び前記第2の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、合計で70質量%以上含まれている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、10~65質量%の割合で含まれている、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第2の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、10~65質量%の割合で含まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第1の無機ナノ粒子の平均粒子径が、15nm以上であ
り、
前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した10個以上の粒子の平均値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記第2の無機ナノ粒子の平均粒子径が、前記第1の無機ナノ粒子の平均粒子径よりも大き
く、
前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した10個以上の粒子の平均値である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第2の無機ナノ粒子の平均粒子径が、50~400nmであ
り、
前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した10個以上の粒子の平均値である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記親水性バインダーが、ポリエチレングリコール、水酸基を有する
親水性樹脂、並びに、両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する
親水性(メタ)アクリ
ル樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記第2の無機ナノ粒子のコア粒子表面が、L-リジンで変性されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
前記第2の無機ナノ粒子のコア粒子が、酸化チタン及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項1~9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項11】
前記透明親水性紫外線吸収層が、第1のシランカップリング剤をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項12】
前記基材と前記透明親水性紫外線吸収層との間に、第3の無機ナノ粒子及び第2のシランカップリング剤を含有するプライマー層をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項13】
前記第3の無機ナノ粒子が、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
波長400~700nmにおける光線透過率が、85.0%以上であり、かつ、JIS K 7136(2000)に準拠して測定されたヘイズが、5.0%以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項15】
波長350nmにおける光線透過率が、75.0%以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項16】
第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、並びに親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含有する透明親水性紫外線吸収性コーティング剤であって、
前記第1の無機ナノ粒子が、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子であり、
前記第2の無機ナノ粒子は、前記第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含み、
前記親水性バインダーが、ポリエチレングリコール;ポリ-N-ビニルピロリドン
;両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する
親水性(メタ)アクリル樹脂;親水性ポリウレタン;並びに水酸基を有する
親水性樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
前記コーティング剤によって形成された透明親水性紫外線吸収層が、30.0度以下の水接触角を呈し、前記接触角は、前記透明親水性紫外線吸収層上の2マイクロリットルの液滴の光学顕微鏡画像から測定される、
透明親水性紫外線吸収コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明親水性紫外線吸収積層体、及び透明親水性紫外線吸収コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材に対し、親水性コーティング層、又は紫外線吸収性コーティング層を適用して親水性又は紫外線遮蔽性能を発現させる技術が知られている。
【0003】
特許文献1(特開2018-180099号公報)には、基材と、親水性ハードコート層と、を含む、20度以下の初期水接触角を有する親水性ハードコート積層体であって、親水性ハードコート層が、親水性バインダー、及び親水性ハードコート層の総重量に基づき、60質量%以上の無機ナノ粒子を含み、無機ナノ粒子が、前記親水性バインダー中に分散している親水性ハードコート積層体が記載されている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2009/044912号)には、(A)コロイダルシリカゾルと、(B)活性水素を有する重量平均分子量(Mw)5千~20万のアクリルポリマーと、(C)反応性シランカップリング剤と、(D)アクリルポリマー(B)に対する硬化剤とを含有し、(A)成分と(B)成分との質量比[(A)/(B)]が5/95~95/5であり、且つ、(A)成分及び(B)成分の合計と(C)成分との質量比[(A+B)/(C)]が30/70~95/5である、親水性被覆剤を用いて形成した親水性基材が記載されている。
【0005】
特許文献3(国際公開第2018/052686号)には、疎水性バインダーとZnOナノ粒子とを含む紫外線吸収ハードコートであって、ZnOナノ粒子が、ハードコートの総重量に基づいて1~90質量%の範囲で含まれており、ZnOナノ粒子の少なくとも一部がL-リジンで表面改質され、その上にシリカコーティングを有し、かつ、このシリカコーティングがシランカップリング剤で表面処理されている、紫外線吸収ハードコートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-180099号公報
【文献】国際公開第2009/044912号
【文献】国際公開第2018/052686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
親水性コーティング層に紫外線吸収能を発現させるには、一般に有機系の紫外線吸収剤が使用される。しかしながら、有機系の紫外線吸収剤は疎水性であるため、親水性バインダー、親水性モノマーなどと併用すると、親水性コーティング層の性能(例えば透明性、親水性)を低下させるおそれがあった。
【0008】
例えば特許文献3の実施例に記載されているように、疎水性バインダー又は疎水性モノマーを含むコーティング剤に関する技術は、親水性コーティング剤とは真逆の技術であるため、かかる技術を親水性コーティング剤に適用しないことは出願時の技術常識である。仮に、かかる技術を親水性コーティング剤に適用した場合には、親水性コーティング層の性能(例えば透明性、親水性)を低下させるおそれがあった。
【0009】
親水性コーティング剤に関する分野において、透明性、親水性、及び紫外線遮蔽性の全ての性能を満足させる技術はこれまでになく、このような性能を発揮するコーティング剤及び該コーティング剤から形成される積層体が望まれていた。
【0010】
本開示は、透明性、親水性、及び紫外線遮蔽性に優れる透明親水性紫外線吸収積層体、並びに透明親水性紫外線吸収コーティング剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施態様によれば、基材、並びに、第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、及び親水性バインダーを含有し、かつ、30.0度以下の水接触角を呈する透明親水性紫外線吸収層を含み、第2の無機ナノ粒子は、第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含む、透明親水性紫外線吸収積層体が提供される。
【0012】
本開示の別の実施態様によれば、第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、並びに親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含有する透明親水性紫外線吸収性コーティング剤であって、第2の無機ナノ粒子は、第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含み、コーティング剤によって形成された透明親水性紫外線吸収層が、30.0度以下の水接触角を呈する、透明親水性紫外線吸収コーティング剤が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、透明性、親水性、及び紫外線遮蔽性に優れる透明親水性紫外線吸収積層体、並びに透明親水性紫外線吸収コーティング剤を提供することができる。
【0014】
上述の記載は、本実施形態の全ての実施態様及び本開示に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】例6~例11及び比較例1の構成における紫外線遮蔽性に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0017】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0018】
本開示において「親水性」とは、基材の水接触角に比べて低いこと、又は水分散性若しくは水溶性を奏し得る性能を意味する。
【0019】
本開示において「透明」とは、可視光領域(波長400~700nm)の光線透過率が、80.0%以上をいい、望ましくは85.0%以上、87.0%以上、又は90.0%以上であってよい。光線透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、100%未満、99.0%以下、又は98.0%以下とすることができる。あるいは、本開示において「透明」とは、ヘイズが、5.0%以下、望ましくは4.0%以下、又は3.0%以下であってよい。ヘイズの下限値については特に制限はないが、例えば、0.5%以上、0.7%以上、又は1.0%以上とすることができる。
【0020】
本開示において「紫外線」とは、波長が400nm未満、380nm以下、360nm以下、又は350nm以下、200nm以上の領域を意味する。
【0021】
本開示において「分散」とは、凝集していないことを意味し、「水分散性」とは、無機ナノ粒子が水中で凝集して沈殿していない状態を意味する。
【0022】
本開示において、例えば、「基材の上に配置された透明親水性紫外線吸収層」における「上」とは、透明親水性紫外線吸収層が基材に直接的に配置されること、又は、透明親水性紫外線吸収層が他の層を介して基材の上方に間接的に配置されることを意味している。
【0023】
一実施態様によれば、透明親水性紫外線吸収積層体は、基材、並びに第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、及び親水性バインダーを含有し、かつ、30.0度以下の水接触角を呈する透明親水性紫外線吸収層を含み、第2の無機ナノ粒子は、第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含んでいる。
【0024】
基材の材料としては特に制限はなく、例えば、有機材料、無機材料、金属材料を使用することができる。有機材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリウレタン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー(ABS)、エポキシ、ポリアセテート、塩化ビニルを挙げることができる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミックスを挙げることができ、金属材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、及びこれらの合金(例えばステンレス)を挙げることができる。これらの材料は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
基材の形状又は構成としては特に制限はなく、例えば、フィルム形状、板形状、曲面形状、異形状、又は3次元形状であってもよく、単層構成、積層構成、又は形状の相違する複数の基材が組み合わさったような複合構成であってもよい。
【0026】
基材は、透明又は着色透明であってもよい。本開示において「着色透明」とは、例えばサングラスのように、着色された基材を介して対象物を視認できる透明性を意図しており、この場合、可視光領域における光線透過率は80.0%以下であってもよい。本開示における可視光領域における光線透過率とは、JIS K 7361-1(1997)に準拠し、分光光度計を用いて25℃で測定された波長400nm~700nmの領域における平均透過率を意味する。
【0027】
基材の厚さとしては特に制限はなく、例えば、フィルム状基材の場合には、5マイクロメートル以上、10マイクロメートル以上、又は15マイクロメートル以上とすることができ、500マイクロメートル未満、400マイクロメートル以下、又は300マイクロメートル以下とすることができる。フィルム状基材よりも厚い基材、例えば、板状基材の場合には、0.5mm以上、1mm以上、又は1.5mm以上とすることができ、10mm以下、7mm以下、又は5mm以下とすることができる。
【0028】
本開示の透明親水性紫外線吸収層は親水性能を有している。親水性能は水接触角で規定することができる。例えば、かかる層表面の水接触角としては、30.0度以下、25.0度以下、20.0度以下、又は15.0度以下とすることができる。水接触角の下限値については特に制限はないが、例えば、1.0度以上、2.0度以上、又は3.0度以上とすることができる。
【0029】
親水性バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール;ポリ-N-ビニルピロリドン;ポリビニルアセテート;親水性ポリ(メタ)アクリレート、例えば、両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する(メタ)アクリル樹脂;親水性ポリウレタン;水酸基を有する樹脂を挙げることができる。これらは単独で又は複数組み合わせて使用することができる。このような親水性バインダーは、親水性硬化型モノマー及び/又は親水性硬化型オリゴマーを用いて調製することができ、水分散性又は水溶性に優れている。例えば、親水性の発現作用、耐候性などの観点から、親水性を有するバインダーは、芳香族を含まないことが好ましい。ここで、本開示において単に「硬化型」と表記されている場合には、かかる「硬化型」は熱硬化型、電離放射線硬化型などの硬化性能を包含し、使用用途、生産性などに応じてその硬化性能を適宜選定することができる。また、本開示における硬化には、一般に重合と呼ばれるものも包含される。
【0030】
親水性バインダーは、透明親水性紫外線吸収層における、親水性、耐擦傷性及び/又は基材若しくは表面処理層(例えばプライマー層)に対する接着性を向上させることができる。このような性能を考慮すると、親水性バインダーとしては、ポリエチレングリコール、水酸基を有する樹脂、並びに、両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する(メタ)アクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。水酸基を有する樹脂としては、例えば、硬化型(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーから得られる水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂を使用することができる。
【0031】
中でも、親水性、耐擦傷性、並びに後述する第1及び第2の無機ナノ粒子の分散安定性の観点から、親水性バインダーとしては、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する(メタ)アクリル樹脂が好ましい。このような(メタ)アクリル樹脂は、親水性モノマー、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートを重合させることによって得ることができる。親水性モノマーは、単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。このようなポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類又はポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類は、エチレン又はプロピレングリコール鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができ、鎖長数(n)によって親水性を制御できる。例えば、親水性を有するバインダーは、鎖長数が1以上のものを使用することができ、好ましくは、5以上、7以上、又は10以上のものを使用することができる。鎖長数が大きすぎるとコーティング剤が白化することがあるため、鎖長数の上限は500以下とすることができる。
【0032】
上記(メタ)アクリル樹脂は親水性である限り、上記親水性モノマーのうち、例えば、多官能モノマーである、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートの1種以上とともに、親水性を有する又は有しない、公知の硬化型の、単官能モノマー、多官能モノマー又はオリゴマーを1種又は複数組み合わせて使用して得ることができる。
【0033】
単官能モノマーは、エチレン性二重結合を1つ有するモノマーを使用することができる。このような単官能モノマーとしては、次のものに限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、スチレンモノマー、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルを使用することができる。
【0034】
多官能モノマー又はオリゴマーは、二官能以上の反応性官能基を有する硬化型の多官能モノマー又はオリゴマーを使用することができる。例えば、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリルウレタンモノマー、及びそれらのオリゴマーを挙げることができる。
【0035】
多官能(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーは、一分子中、2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機化合物である。多官能(メタ)アクリレートモノマー又はオリゴマーとしては、次のものに限定されないが、例えば、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチールプロパンPO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、デンドリマーアクリレート、又はそれらのオリゴマーを使用することができる。
【0036】
多官能(メタ)アクリルウレタンモノマー又はオリゴマーは、一分子中、2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機化合物である。多官能(メタ)アクリルウレタンモノマー又はオリゴマーとしては、次のものに限定されないが、例えば、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、又はそれらのオリゴマーを使用することができる。
【0037】
親水性多官能モノマー又はオリゴマー、非親水性多官能モノマー又はオリゴマー、親水性単官能モノマー、非親水性単官能モノマーを組み合わせて用いる場合には、親水性、耐擦傷性等を考慮して適宜混合して使用することができる。
【0038】
モノマー又はオリゴマーの重合は、次のものに限定されないが、例えば、熱重合、光重合によって行うことができる。熱重合の場合には、熱重合開始剤を使用することができる。熱重合開始剤としては、次のものに限定されないが、例えば、過酸化物(例えばペルオキソ二硫化カリウム、ペルオキソ二硫化アンモニウム)、アゾ化合物(例えばVA-044、V-50、V-501、VA-057(和光純薬工業株式会社製))といった親水性の熱重合開始剤を使用することができる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有するラジカル開始剤なども使用することができる。触媒として、三級アミン化合物であるN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、β-ジメチルアミノプロピオニトリルなどを用いることができる。
【0039】
光重合は、例えば、電子線、紫外線などの電離放射線を使用して実施することができる。電子線を使用する場合には、光重合開始剤を使用しなくてもよいが、紫外線による光重合の場合は、光重合開始剤を使用する。光重合開始剤としては、次のものに限定されないが、例えば、イルガキュア(商標)2959、ダロキュア(商標)1173、ダロキュア(商標)1116、イルガキュア(商標)184(BASF社製)、カンタキュア(商標)ABQ、同BT、同QTX(シェル化学社製)といった水溶性又は親水性の光重合開始剤を使用することができる。
【0040】
透明親水性紫外線吸収層中に含まれる親水性バインダーの総量、又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤中に含まれる親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種の総量としては、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上とすることができ、30質量%以下、25質量%以下、23質量%以下、又は20質量%以下とすることができる。
【0041】
なお、後述するシランカップリング剤が、親水性であり、ビニル基、(メタ)アクリル基などを有するシランカップリング剤である場合には、このようなシランカップリング剤を親水性バインダーの1種としてみなすこともできる。
【0042】
第1の無機ナノ粒子は、透明親水性紫外線吸収層が所定の水接触角を呈する限り特に制限はなく、例えば、シリカ(SiO、SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、及びアンチモンドープ酸化スズ(ATO)から選ばれる少なくとも1種の粒子を使用することができる。中でも、後述する第2の無機ナノ粒子と比べて350nmにおける紫外線吸収能が低い、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウムが好ましく、特にシリカが好ましい。水分散性のシリカナノ粒子は、その表面にシラノール基を有するため、透明親水性紫外線吸収層の親水性を他の粒子に比べてより向上させることができる。
【0043】
第1の無機ナノ粒子は、市販品を使用することができる。例えば、シリカ粒子としては、NALCO(商標)2327(Nalco社製);アルミナ粒子としては、バイラール(商標)AL-A7(多木化学株式会社製);酸化ジルコニウムとしては、バイラール(商標)Zr-20(多木化学株式会社製);スズドープ酸化インジウムとしては、PI-3(三菱マテリアル電子化成株式会社製);アンチモンドープ酸化スズとしては、549541(シグマアルドリッチ社製)を使用することができる。
【0044】
第1の無機ナノ粒子は、親水性、耐擦傷性の観点から、未変性で、水中に凝集しない状態で分散し得る粒子であることが好ましい。かかる無機ナノ粒子としては、次のものに限定されないが、例えば、pH調整に基づく粒子表面の静電反発力のみによって水中に分散する粒子を使用することができる。ここで、未変性とは、無機ナノ粒子表面の末端基が官能基により改質されていないことを意味し、例えば、無機ナノ粒子を水中、透明親水性紫外線吸収コーティング剤中に分散させやすくするために、無機ナノ粒子表面に表面処理剤を結合(共有結合、イオン結合、又は物理吸着による結合)させる処理が施されていないことを含む。第1の無機ナノ粒子として、ポリマー等の表面処理剤で処理されておらず、無機ナノ粒子の表面がむき出しの状態(未変性の状態)の粒子を使用した場合、無機ナノ粒子自体の耐擦傷性、硬度、親水性を、該粒子を配合した透明親水性紫外線吸収層表面に対してより発現させることができる。
【0045】
第1の無機ナノ粒子の量としては、例えば、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上とすることができ、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下とすることができる。このような割合で第1の無機ナノ粒子が配合されていると、透明性及び紫外線遮蔽性の低下を低減又は防止することができるとともに、得られる透明親水性紫外線吸収層の親水性、耐擦傷性を向上させることができる。また、有機系の親水性付与剤を使用する親水性コーティング層に比べ、親水性の耐久性及び持続性をより向上させることができる。
【0046】
無機ナノ粒子の平均粒子径は、本技術分野において一般的に用いられる技術、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。透明親水性紫外線吸収コーティング剤などの溶液中における無機ナノ粒子の平均粒子径の測定に対してはTEMを使用することが有利であり、透明親水性紫外線吸収積層体を構成する透明親水性紫外線吸収層中の無機ナノ粒子の平均粒子径の測定に対しては、透明親水性紫外線吸収層断面を観察することができるSEMを使用することが有利である。これらの測定方法による平均粒子径は、10個以上、例えば10~100個の粒子の平均値と定義することができる。以下に、一例として、TEMによる測定方法について説明する。
【0047】
無機ナノ粒子の平均粒子径のTEMによる測定において、ゾル試料を、メッシュのレース状炭素(Ted Pella Inc.(Redding,CA)から入手可能)の上面に超薄炭素基材を有する400メッシュの銅TEM格子に滴下することで、TEM画像用のゾル試料を調製することができる。液滴の一部を、濾紙とともに格子の側部又は底部に接触させることにより除去することができる。ゾルの溶媒の残りは加熱するか又は室温で放置して除去することができる。これにより、超薄炭素基材上に粒子を残し、基材からの干渉を最小にして画像化することができる。次に、TEM画像を格子全域にわたる多くの位置で記録することができる。例えば、500~1000個の粒子の粒子径測定を可能にするのに十分な画像を記録することができる。次に、無機ナノ粒子の平均粒子径を、各試料における粒子径測定値に基づいて計算することができる。
【0048】
TEM画像は、例えば、300KVで動作する(LaB6源使用)高分解能透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズより商品名「Hitachi H-9000」として入手可能)を使用して得ることができる。画像は、カメラ(例えば、Gatan,Inc.(Pleasanton,CA)から商品名「GATAN ULTRASCAN CCD」として入手可能:モデル番号895、2k×2kチップ)を使用して記録することができる。画像は5万倍及び10万倍の倍率で撮ることができる。いくつかの試料において、画像は30万倍の倍率で撮ることができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、第1の無機ナノ粒子の平均粒子径は、例えば、15nm以上、20nm以上、30nm以上、又は50nm以上とすることができる。第1の無機ナノ粒子の平均粒子径の上限値については特に制限はなく、例えば、300nm以下、250nm以下、200nm以下、150nm以下、又は100nm以下とすることができる。このような平均粒子径を有する第1の無機ナノ粒子を採用すると、透明性及び紫外線遮蔽性の低下を低減又は防止することができるとともに、得られる透明親水性紫外線吸収層の親水性、耐擦傷性を向上させることができる。
【0050】
第2の無機ナノ粒子は、上述した第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含むものである。かかる粒子は、コア粒子の周りに酸化ケイ素を含むシェルが被覆されている。かかる無機ナノ粒子は、有機系の紫外線吸収剤に比べて親水性であるため、親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含むコーティング剤に配合することができるとともに、シェル層を有しない酸化亜鉛等の紫外線吸収性粒子に比べて透明性を向上させることができる(特にヘイズを低下させることができる)。
【0051】
コア粒子としては、紫外線吸収能を有する無機ナノ粒子であればいかなるものでもよく特に制限されないが、例えば、紫外線吸収性、取り扱い性等の観点から、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)が好ましく、酸化亜鉛がより好ましい。これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0052】
シェルは酸化ケイ素を含んでいればよく、次のものに限定されないが、シェル中の酸化ケイ素成分の割合としては、例えば、50%以上、70%以上、又は90%以上とすることができ、望ましくはシェルが酸化ケイ素のみからなることが好ましい。このような割合で酸化ケイ素を含むシェルは、例えば酸化亜鉛の光触媒能に基づく親水性バインダーの劣化を防止することができるため、コーティング層の耐久性を向上させることができるとともに、親水性バインダーに対する分散性又は相溶性を向上させることができるため、透明性に優れたコーティング層を提供することができる。
【0053】
シェルは、コア粒子表面の少なくとも一部、例えば、コア粒子表面の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上の範囲に適用することができるが、光触媒能に基づく親水性バインダーの劣化防止、親水性バインダーに対する分散性等を考慮すると、コア粒子の全面に適用されていることが有利である。
【0054】
シェルの厚さとしては特に制限はないが、例えば、紫外線吸収性、光触媒能に基づく親水性バインダーの劣化防止、親水性バインダーに対する分散性等の観点から、0.5nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、又は5nm以上とすることができ、25nm以下、20nm以下、又は15nm以下とすることができる。
【0055】
コア粒子表面に対してシェルを適用する方法については特に制限はないが、例えば、酸化亜鉛等のコア粒子を含有する水性懸濁液中に、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)などのケイ酸塩を所定量添加し、攪拌及び任意に加熱して調製することができる。あるいは、コア粒子を含有する水性懸濁液中にL-リジンを添加し、攪拌及び任意に加熱してコア粒子表面をL-リジンで表面改質した後に、TEOSなどのケイ酸塩を所定量添加し、攪拌及び任意に加熱して調製することができる。後者の方法によれば、比較的均一な粒子径のナノ粒子を得ることができるため、透明性の低下、例えば可視光領域の光線透過率の低下若しくはヘイズの上昇を低減又は防止することができる。
【0056】
無機ナノ粒子は、ナノオーダーの粒子であるため、一般に表面活性が高く、コーティング剤中で凝集して沈降しやすい傾向にある。特に、酸化亜鉛、酸化チタンはシェル層で被覆したとしてもその傾向が強いため、かかる粒子を樹脂バインダー又はモノマーなどの樹脂成分と混合する場合には、樹脂成分中の粒子の分散性又は相溶性、及びそれに伴う透明性の観点から、特許文献3の実施例に記載されているように、シェル層の表面をシランカップリング剤などの表面処理剤で変性処理することが一般的である。しかしながら、本開示の親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含むコーティング剤の場合には、シランカップリング剤などの表面処理剤でシェルを変性処理した第2の無機ナノ粒子を使用すると、親水性及び透明性が逆に低下する(特にヘイズが上昇する)場合があることが判明した。
【0057】
本発明者は、本開示の親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含むコーティング剤の場合には、第2の無機ナノ粒子のシェル表面における表面処理剤による変性量(被覆割合)が、好ましくは20%以下、15%以下、又は10%以下、より好ましくは未変性であると、これまでの傾向とは逆に、コーティング剤中の無機ナノ粒子の凝集及び沈殿を低減又は抑制することができることを見出した。このような第2の無機ナノ粒子を使用すると、コーティング層の透明性、親水性及び紫外線遮蔽性をより向上させることができる。
【0058】
シェル表面における表面処理剤の有無は、コーティング剤の状態であれば、例えば、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)又はNMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて測定することができる一方で、コーティング層の状態では測定できない場合がある。しかしながら、許容される変性量を超える割合で変性処理した無機ナノ粒子を使用するとコーティング層の親水性が低下するため、コーティング層表面の水接触角は、30.0度以下を達成することができない。したがって、コーティング層表面の水接触角によって、無機ナノ粒子の変性処理の有無を間接的に評価することができる。
【0059】
第2の無機ナノ粒子の量としては、例えば、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上とすることができ、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下とすることができる。このような割合で第2の無機ナノ粒子が配合されていると、透明性及び親水性の低下を低減又は防止することができるとともに、得られる透明親水性紫外線吸収層の紫外線遮蔽性、耐擦傷性を向上させることができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、第2の無機ナノ粒子の平均粒子径は、上述した第1の無機ナノ粒子の平均粒子径よりも大きくてもよい。いくつかの実施形態では、第2の無機ナノ粒子の平均粒子径は、例えば、50nm以上、60nm以上、70nm以上、又は80nm以上とすることができる。第2の無機ナノ粒子の平均粒子径の上限値については特に制限はなく、例えば、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、200nm以下、又は150nm以下とすることができる。このような平均粒子径を有する第2の無機ナノ粒子を採用すると、透明性及び親水性の低下を低減又は防止することができるとともに、得られる透明親水性紫外線吸収層の紫外線遮蔽性、耐擦傷性を向上させることができる。
【0061】
第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子の合計量としては、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、70質量%以上、75質量%以上、77質量%以上、又は80質量%以上とすることができ、95質量%以下、90質量%以下、又は85質量%以下とすることができる。このように無機ナノ粒子が高度に配合されていると、得られる透明親水性紫外線吸収層の親水性、紫外線遮蔽性、耐擦傷性を向上させることができることに加え、有機系の親水性付与剤及び紫外線吸収剤を主体で使用する透明親水性紫外線吸収層に比べ、親水性及び紫外線遮蔽効果の耐久性及び持続性をより向上させることができる。
【0062】
透明親水性紫外線吸収層は、基材の片面又は両面に適用することができる。透明親水性紫外線吸収層の厚さは特に制限はなく、例えば、0.1マイクロメートル以上、0.5マイクロメートル以上、又は1マイクロメートル以上とすることができる。厚さの上限値について特に制限はないが、例えば、20マイクロメートル以下、15マイクロメートル以下、又は10マイクロメートル以下とすることができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子のそれぞれは、平均粒子径の異なる無機ナノ粒子の混合物であってもよい。例えば、上述した平均粒子径が15nm以上の第1の無機ナノ粒子又は平均粒子径が50nm以上の第2の無機ナノ粒子を使用する場合には、これらの粒子よりも平均粒子径の小さい第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子を併用してもよい。例えば、第1の無機ナノ粒子として、平均粒子径が75nmのシリカゾルと、平均粒子径が5nmのシリカゾルを混合して使用することができる。このような構成にすると、無機ナノ粒子を透明親水性紫外線吸収層中に高度に充填することができるため、透明親水性紫外線吸収層の耐久性、硬度、耐擦傷性等をより向上させることができる。
【0064】
第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子の種類、量、サイズ、及び混合比率を選択することにより、親水性、透明性、紫外線遮蔽性、耐久性、耐擦傷性、硬度等の性能を調整することができる。
【0065】
透明親水性紫外線吸収層は、本実施形態の効果を阻害しない範囲において、任意成分として、シランカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、界面活性剤、レベリング剤、触媒、顔料、染料などを単独で又は二種以上組み合わせて配合することができる。
【0066】
シランカップリング剤(第1のシランカップリング剤と称する場合がある。)としては、例えば、アミノ変性アルコキシシラン、グリシジル変性アルコキシシランなどのエポキシ変性アルコキシシラン、ポリエーテル変性アルコキシシラン、双性イオンアルコキシシランなどの親水性シランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤を透明親水性紫外線吸収層に配合すると、無機ナノ粒子と親水性バインダーとを結合させることができるため、透明親水性紫外線吸収層からの無機ナノ粒子の脱落を防止することができる。シランカップリング剤の使用は、ガラス等の無機系基材を採用した場合には、基材と透明親水性紫外線吸収層との層間密着性を向上させることにも役立つ。
【0067】
特許文献3の実施例に記載されるような、シランカップリング剤などの表面処理剤による無機ナノ粒子の変性処理の場合は、後述の実施例の項目でも例示されているように、一般に、シェルで被覆された無機ナノ粒子を含むゾルに対してシランカップリング剤を直接配合するため、シランカップリング剤はシェル表面に対し高密度に被覆される。一方、第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、親水性モノマー等を含むコーティング剤に対し、シランカップリング剤を添加して使用する場合には、コーティング剤中に含まれる第2の無機ナノ粒子表面に対するシランカップリング剤の被覆割合は、変性処理する系に比べて明らかに少ない。このようなシランカップリング剤のシェル表面における被覆状態の差異の結果、シランカップリング剤をコーティング剤に添加して使用する場合には、透明性の低下が生じにくいと考えられる。
【0068】
シランカップリング剤は一般に、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上、2.0質量%以下、1.5質量%以下、又は1.0質量%以下の範囲で使用することができる。シランカップリング剤の割合がこのような範囲であると、仮にシランカップリング剤が第2の無機ナノ粒子のシェル表面に付着したとしても、その割合は低量であるため、ヘイズを上昇させるような不具合を発生させることはない。
【0069】
中でも、上述した親水性シランカップリング剤は、無機ナノ粒子の表面に優先的に付着するのではなく、親水性バインダー又は親水性硬化型モノマー若しくはオリゴマーと、無機ナノ粒子との間でバランスよく存在することができるため、ヘイズを上昇させるような不具合を低減又は防止することができると考えられる。例えば、ビニル基又は(メタ)アクリル基などを有する親水性シランカップリング剤は、親水性バインダーとして使用することもできる。親水性バインダーとしても機能し得る親水性シランカップリング剤は、透明親水性紫外線吸収層の総重量(乾燥塗工量)又は透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量(固形分)に基づき、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上、25質量%以下、23質量%以下、又は20質量%以下の範囲で使用することができる。
【0070】
いくつかの実施形態において、透明親水性紫外線吸収積層体の透明親水性紫外線吸収層は、透明性、親水性、及び紫外線遮蔽性に加えて、例えば、第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子を高度に充填させることができるため、優れた表面硬度、耐擦傷性も発揮することができる。
【0071】
透明親水性紫外線吸収積層体の親水性は、水接触角で評価することができ、例えば、かかる積層体の透明親水性紫外線吸収層表面の水接触角としては、30.0度以下、25.0度以下、20.0度以下、又は15.0度以下とすることができる。水接触角の下限値については特に制限はないが、例えば、1.0度以上、2.0度以上、又は3.0度以上とすることができる。
【0072】
透明親水性紫外線吸収積層体の透明性は、例えば、ヘイズ又は光線透過率試験によって評価することができる。ヘイズ及び光線透過率は、JIS K 7136(2000)及びJIS K 7361-1(1997)にそれぞれ準拠して、NDH-5000W(日本電色工業株式会社製)を使用して測定することができる。
【0073】
一般的な透明光学フィルム基材、例えば、50マイクロメートル厚のコスモシャイン(商標)A4100(東洋紡株式会社製)の片面に1.0マイクロメートルの厚さの透明親水性紫外線吸収層を適用した透明親水性紫外線吸収積層体をサンプルとして使用した場合において、初期ヘイズ値は、5.0%以下、4.0%以下、又は3.0%以下にすることができる。初期ヘイズ値の下限値については特に制限はないが、例えば、0.5%以上、0.7%以上、又は1.0%以上とすることができる。
【0074】
可視光領域(波長400~700nm)の光線透過率は、85.0%以上、87.0%以上、又は90.0%以上にすることができる。かかる光線透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、100%未満、99.0%以下、又は98.0%以下とすることができる。
【0075】
可視光領域(波長400~700nm)の拡散透過率は、5.0%以下、4.0%以下、又は3.0%以下とすることができる。拡散透過率の下限値については特に制限はないが、例えば、0%超、0.1%以上、又は0.2%以上とすることができる。
【0076】
可視光領域(波長400~700nm)の平行光線透過率は、80.0%以上、83.0%以上、又は85.0%以上とすることができる。平行光線透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、94.0%以下、93.0%以下、又は92.0%以下とすることができる。
【0077】
透明親水性紫外線吸収積層体の紫外線遮蔽性能は、紫外線領域(例えば350nm)における光線透過率によって評価することができる。かかる光線透過率は、JIS K 7361-1(1997)にそれぞれ準拠して、NDH-5000W(日本電色工業株式会社製)を使用して測定することができる。
【0078】
一般的な透明光学フィルム基材、例えば、50マイクロメートル厚のコスモシャイン(商標)A4100(東洋紡株式会社製)の片面に1.0マイクロメートルの厚さの透明親水性紫外線吸収層を適用した透明親水性紫外線吸収積層体をサンプルとして使用した場合において、紫外線領域(350nm)における光線透過率は、75.0%以下、60.0%以下、50.0%以下、又は40.0%以下とすることができる。かかる光線透過率の下限値については特に制限はないが、例えば、5.0%以上、10.0%以上、15.0%以上、20.0%以上、又は25.0%以上とすることができる。
【0079】
透明親水性紫外線吸収積層体の表面硬度は、例えば、JIS K5600-5-4に準拠した鉛筆硬度によって評価することができる。例えば、PETフィルム基材の片面に1.0マイクロメートルの厚さの透明親水性紫外線吸収層を適用した透明親水性紫外線吸収積層体をサンプルとして使用した場合、かかるサンプルをガラス板の上に固定し、鉛筆の芯の先端に750gの荷重をかけた状態で600mm/分の速度で表面を引っかいたときの鉛筆硬度は、4B以上、2B以上、又はH以上にすることができ、4H以下、3H以下、又は2H以下にすることができる。
【0080】
透明親水性紫外線吸収積層体の耐擦傷性は、例えば、スチールウール摩耗抵抗試験によって評価することができる。かかる試験は、例えば、スチールウール摩耗抵抗試験器(ラビングテスターIMC-157C、株式会社井元製作所製)を用い、27mm角の#0000スチールウールを使用し、350gの荷重、85mmのストローク、60サイクル/分の速さで、透明親水性紫外線吸収積層体の透明親水性紫外線吸収層の表面を10回(サイクル)研磨し、上述したヘイズ測定に基づくΔヘイズ値(摩耗試験後のヘイズ値-初期ヘイズ値)によって評価することができる。
【0081】
一般的な透明光学フィルム基材、例えば、50マイクロメートル厚のコスモシャイン(商標)A4100(東洋紡株式会社製)の片面に1.0マイクロメートルの厚さの透明親水性紫外線吸収層を適用した透明親水性紫外線吸収積層体をサンプルとして使用した場合において、Δヘイズ値は、-0.20%~0.20%、-0.15%~0.15%、又は-0.10%~0.10%にすることができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、本実施形態の透明親水性紫外線吸収積層体は、透明親水性紫外線吸収層と基材との間の密着性を向上させるために、基材表面に対し、任意に、表面処理を適用してもよく、或いは、プライマー層を適用してもよい。
【0083】
表面処理は本技術分野で既知であり、例えば、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、電子線照射処理、粗面化処理、オゾン処理、クロム酸又は硫酸を用いた化学酸化処理などの表面処理が挙げられる。
【0084】
本実施形態の透明親水性紫外線吸収コーティング剤は、親水性であることから、撥水性の表面、例えば、水接触角が80度以上又は90度以上の表面を有する基材(例えばアルミニウム基材)を使用する場合には、透明親水性紫外線吸収コーティング剤の塗工性を考慮し、水接触角が10度以上、15度以上又は20度以上、60度以下、50度以下又は40度以下のプライマー層を適用することが好ましい。かかるプライマー層は、例えば、無機ナノ粒子(第3の無機ナノ粒子と称する場合がある)及びシランカップリング剤(第2のシランカップリング剤と称する場合がある)を含有するプライマー用コーティング剤を使用して形成することができる。
【0085】
プライマー層に使用される第3の無機ナノ粒子及び第2のシランカップリング剤としては、上述した、第1の無機ナノ粒子及び第1のシランカップリング剤と同様のものを使用することができる。基材への塗工性、並びに基材及び透明親水性紫外線吸収層の密着性の観点から、第3の無機ナノ粒子は、シリカ粒子であることが有利である。
【0086】
耐光性も考慮した場合には、第3の無機ナノ粒子とともに、紫外線遮蔽能を有する第4の無機ナノ粒子を併用することが有利である。第4の無機ナノ粒子としては、例えば、第2の無機ナノ粒子のコア粒子として挙げた酸化亜鉛、酸化チタンなどを使用することができるが、プライマー層の光触媒作用に伴う劣化を抑制する観点から、第2の無機ナノ粒子と同様のコアシェル型の紫外線吸収性の粒子を使用することが有利である。
【0087】
第2のシランカップリング剤としては、基材への塗工性、並びに基材及び透明親水性紫外線吸収層の密着性の観点から、バインダーとしても機能し得る、例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基などを有するシランカップリング剤が有利である。
【0088】
プライマー層中の第3の無機ナノ粒子の含有量、又はプライマー層中の第3の無機ナノ粒子及び第4の無機ナノ粒子の合計含有量としては、基材への塗工性、並びに基材及び透明親水性紫外線吸収層の密着性の観点から、透明親水性紫外線吸収層中の第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子の合計含有量よりも少ないことが有利である。
【0089】
プライマー層は、無機ナノ粒子及びシランカップリング剤を含有するプライマー用コーティング剤を、本技術分野で既知の方法、例えば、バーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、キャピラリーコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、及びスクリーン印刷によって基材上に塗布、乾燥して形成することができる。
【0090】
プライマー層の厚さは特に制限はなく、例えば、0.1マイクロメートル以上、又は0.5マイクロメートル以上とすることができ、20マイクロメートル以下、10マイクロメートル以下、又は5マイクロメートル以下とすることができる。
【0091】
いくつかの実施形態では、本実施形態の透明親水性紫外線吸収積層体は、例えば、透明親水性紫外線吸収層と基材との間、又は透明親水性紫外線吸収層の反対側の基材面に、任意に、着色層、装飾層、導電層、接着剤層、粘着剤層などの追加の層を適用してもよい。
【0092】
本実施形態の透明親水性紫外線吸収積層体は、例えば、枚葉品であってもよく、ロール状に巻かれたロール体であってもよく、或いは、3次元形状の物品であってもよい。
【0093】
透明親水性紫外線吸収積層体の製造方法は特に制限はなく、例えば、透明親水性紫外線吸収コーティング剤を、任意にプライマー層を備える基材に塗布、乾燥して未硬化の透明親水性紫外線吸収層を形成する工程と、未硬化の透明親水性紫外線吸収層を硬化させる工程とを経ることで製造することができる。
【0094】
本実施形態の透明親水性紫外線吸収コーティング剤は、上述した透明親水性紫外線吸収層で用い得る各種材料を含むことができ、少なくとも、第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、並びに親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含有し、該透明親水性紫外線吸収コーティング剤によって形成された透明親水性紫外線吸収層が、30.0度以下の水接触角を呈するコーティング剤である。
【0095】
いくつかの実施形態では、透明親水性紫外線吸収コーティング剤は、水、及び水と相溶する有機系溶媒をさらに含むことができる。ここで、「水と相溶する」とは、相互に分離することなく、水と有機系溶媒とが均一に混ざり合うことを意味する。水と相溶する有機系溶媒のSP(Solubility Parameter)値は、例えば、9.3以上、又は10.2以上であり、23.4よりも小さい。
【0096】
いくつかの実施形態では、透明親水性紫外線吸収コーティング剤は、例えば、水分散性である第1及び第2の無機ナノ粒子のゾルを、溶媒中で反応開始剤と一緒に親水性の硬化型モノマーと混合し、必要に応じて溶媒を追加することで所望の固形分含量に調整して得ることができる。反応開始剤として、例えば、上述した既知の光重合開始剤又は熱重合開始剤を用いることができる。
【0097】
例えば、未変性の水分散性無機ナノ粒子は、粒子間の静電反発力のみによってゾル中に分散している。このような無機ナノ粒子を、親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含む透明親水性紫外線吸収コーティング剤中に配合すると、無機ナノ粒子は凝集して粒子径が増大し、得られる透明親水性紫外線吸収層の透明性などの性能が低下する場合がある。一実施形態の製造方法では、透明親水性紫外線吸収コーティング剤を調整するときに使用する溶媒を選定することによって、未変性の水分散性無機ナノ粒子を透明親水性紫外線吸収コーティング剤中に分散させることを可能にしている。
【0098】
溶媒としては、水、及び水と相溶する有機系溶媒の混合溶媒を使用することができる。混合溶媒中の水の量としては、透明親水性紫外線吸収コーティング剤の総重量に基づき、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上で使用することができる。
【0099】
水と相溶する有機系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどの少なくとも1種を使用することができる。中でも、1-メトキシ-2-プロパノールと、メタノール、エタノール及びイソプロパノールの少なくとも1種とを混合した有機系溶媒の使用が好ましい。
【0100】
水、及び水と相溶する有機系溶媒の質量比としては、例えば、30:70、35:65、40:60、50:50、又は60:40とすることができる。水と相溶する有機系溶媒における、1-メトキシ-2-プロパノールと、メタノール、エタノール及びイソプロパノールの少なくとも1種以上との質量比としては、例えば、95:5、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、又は40:60とすることができる。
【0101】
透明親水性紫外線吸収コーティング剤を基材の表面に適用する技術として、次のものに限定されないが、例えば、バーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、キャピラリーコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、及びスクリーン印刷を挙げることができる。
【0102】
基材に適用した透明親水性紫外線吸収層は、必要に応じて乾燥し、紫外線若しくは電子線を用いた光重合法又は熱重合法などの本技術分野で既知の重合法で硬化することができる。このようにして基材上に透明親水性紫外線吸収層を形成して、本実施形態の透明親水性紫外線吸収積層体を得ることができる。
【0103】
本実施態様の透明親水性紫外線吸収積層体は、親水性に伴う防曇効果及び防汚効果などを有するとともに、透明性及び紫外線遮蔽性能に優れるため、屋内外を問わず種々の用途に使用することができる。かかる用途としては特に制限はないが、例えば、乗物(例えば車、船、電車、航空機)の窓、ミラー、ボディー又はライトカバー;建築物の窓ガラス、サッシ、ドア、ドアノブ又は外装材;蛇口の取手;家電製品(例えばエアコン、扇風機、掃除機、洗濯機、冷蔵庫);カメラのレンズ又は本体;時計;光学ディスプレー(例えば、陰極線管(CRT)、液晶(LCD)ディスプレー、発光ダイオード(LED)ディスプレー);モバイル端末(例えば携帯情報端末(PDA)、携帯電話、スマートフォン);キーボード、タッチスクリーン、及び着脱式コンピュータスクリーンなどのデバイス;信号機;鏡、眼鏡又はゴーグル;カード;食器;家具(例えばテーブル、椅子、机);包装材;カバン;衣類;雨具;測定装置又は観測装置;太陽電池パネル;風力発電などに用いられる各種の構成部材を挙げることができる。
【実施例】
【0104】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0105】
以下の方法にしたがって各種特性を評価した。
【0106】
(透明性:可視光領域における光線透過率試験)
試験サンプルの透明性に関する光学特性を、JIS K 7136(2000)及びJIS K 7361-1(1997)にそれぞれ準拠して、NDH-5000W(日本電色工業株式会社製)を使用して測定し、その結果を表3に示す。ここで透明性に関する光学特性としては、ヘイズ、並びに可視光領域(波長400~700nm)における光線透過率(TT)、拡散透過率(DF)、及び平行光線透過率(PT)を評価した。
【0107】
(紫外線遮蔽性:紫外線領域における光線透過率試験)
試験サンプルの紫外線遮蔽性に関する光学特性を、JIS K 7361-1(1997)にそれぞれ準拠して、NDH-5000W(日本電色工業株式会社製)を使用して測定し、その結果を表3及び
図1に示す。ここで紫外線遮蔽性に関する光学特性としては、紫外線領域(波長350nm)における光線透過率を評価した。
【0108】
(水接触角)
接触角メーター(協和界面科学株式会社から製品名「DROPMASTER FACE」として入手)を使用し、Sessile Drop法により、コーティング層表面の水接触角を測定した。2マイクロリットルの水を試験サンプルの表面に滴下した後、光学顕微鏡画像から水接触角を測定した。5回測定した平均から水接触角の値を計算した。その結果を表3に示す。
【0109】
(接着性)
基材及びコーティング層間の接着性能は、JIS K 5600に従ってクロスカット法によって評価した。ここではグリッド間隔が1mmの5×5グリッドと、セロテープ(商標)CT-24(ニチバン株式会社製)とを採用した。コーティング層に剥がれが生じていなかった場合は「良」、コーティング層に剥がれが生じていた場合は「不良」とし、その結果を表3に示す。
【0110】
本実施例で使用した材料を以下の表1に示す。
【0111】
【0112】
〈SACの調製〉
SACを、米国特許公開2015/0203708号公報(Klunら)記載のPreparative Example 7に記載の方法で調製した。具体的には、オーバーヘッドスターラーを備える500mLの丸底フラスコに、140.52g(0.684mol、重量平均分子量205.28の3-トリメトキシシリルプロピルイソシアネート及び0.22gのDBTDL(ジブチルすずジラウレート)を添加し、55℃に加熱した。添加漏斗を用いて、79.48g(0.684mol、重量平均分子量116.12)のヒドロキシエチルアクリレートを約1時間かけて添加した。合計約4時間で、生成物を単離し、瓶に詰めた。ここで、重量平均分子量は、標準ポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。
【0113】
〈SiO2被覆ZnOゾルの調製〉
0.073gのL-リジンを、ガラス瓶中の20gのAQ-E3913及び20gのEtOHの混合物に加え、10分間室温で撹拌した。ガラス瓶を密封し、60℃の油浴内に16時間攪拌しながら配置し、L-リジンで表面改質されたZnOナノ粒子を含むZnOゾル(以下、ゾル1という。)を得た。
【0114】
20gの水及びEtOHの混合液(水及びEtOHの質量比は1:1)を、ガラス瓶中の20gのゾル1に添加した。次いで、5.104gのTEOSをガラス瓶中に添加し、10分間室温で撹拌して混合物を調製した。この混合物を、密閉型円筒形状のポリテトラフルオロエチレンライニングステンレス鋼製オートクレーブ内に移し、150℃で6時間加熱し、SiO2被覆ZnOゾル(以下、ゾル2という。)を得た。
【0115】
得られたゾル2から、60℃で溶液の固形分が10質量%近くになるまでロータリーエバポレーターでEtOHを除去した。得られた溶液に40gの蒸留水を投入し、次に、60℃でロータリーエバポレーターを使用して残りのEtOHを除去した。後半のステップを2回繰り返して溶液からさらにEtOHを取り除いた。全ZnOナノ粒子の濃度を27.0質量%に調整し、水中分散型のSiO2被覆ZnOゾル(以下、未変性SiO2被覆ZnOゾルという。)を得た。
【0116】
〈シランカップリング剤で処理したSiO2被覆ZnOゾルの調製〉
上記と同様にゾル2を調製し、0.465gのSILQUEST(商標)A-174、及び0.0125gのPROSTAB(商標)をガラス瓶中のゾル2に添加し、10分間室温で撹拌した。ガラス瓶を密封し、60℃のオーブンに16時間静置した。次いで、20.0gのMIPAを添加し、得られた溶液から、溶液の固形分が40質量%近くになるまで60℃でロータリーエバポレーターを用いて水及びEtOHを除去した。得られた溶液に20gのMIPAを投入した後、60℃でロータリーエバポレーターを使用して残存する水を除去した。後半のステップを2回繰り返して溶液からさらに水を取り除いた。全ZnOナノ粒子の濃度を27.36質量%に調整し、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで変性処理したSiO2被覆ZnOゾル(以下、変性SiO2被覆ZnOゾルという。)を得た。
【0117】
〈コーティング剤1の調製〉
3.073gのNALCO(商標)2329、1.329gのNALCO(商標)2327、0.392gのEBECRYL(商標)11、及び0.008gのSACを混合した。光重合開始剤として0.06gのIrgacure(商標)2959を混合物に添加した。次いで、1.600gのIPA、2.400gのMIPA、及び1.198gの蒸留水を混合物に加え、コーティング剤1を調製した。
【0118】
〈コーティング剤2の調製〉
3.073gのNALCO(商標)2329、1.329gのNALCO(商標)2327、0.392gのEBECRYL(商標)11、及び0.008gのSACを混合した。光重合開始剤であるIrgacure(商標)2959を0.06g及び水分散性の有機系紫外線吸収剤であるTinuvin(商標)477 DW0.5gを混合物に添加した。次いで、1.600gのIPA、2.400gのMIPA、及び1.198gの蒸留水を混合物に加え、コーティング剤2を調製した。なお、水分散性ではない紫外線吸収剤のTinuvin(商標)477は混合物に溶解しなかったため、かかる紫外線吸収剤を含むコーティング剤は得ることができなかった。
【0119】
〈コーティング剤3の調製〉
下記の表2に示される配合割合を採用したこと以外は、コーティング剤2と同様にしてコーティング剤3を調製した。なお、表2中の配合量は全てグラムである。また、水分散性ではない紫外線吸収剤のTinuvin(商標)479は混合物に溶解しなかったため、かかる紫外線吸収剤を含むコーティング剤は得ることができなかった。
【0120】
〈コーティング剤4~12の調製〉
下記の表2に示される配合割合を採用したこと以外は、コーティング剤1と同様にしてコーティング剤4~12を各々調製した。ここで、NALCO(商標)2326、及び未変性SiO2被覆ZnOゾル、変性SiO2被覆ZnOゾル、又は未変性ZnOゾル(AQ-E3913)に関しては、NALCO(商標)2329などと一緒に混合した。
【0121】
【0122】
〈例1〉
コーティング剤5を、メイヤーロッド#8を用いて、基材であるコスモシャイン(商標)A4100の易接着処理面に塗布し、大気雰囲気下において60℃で5分間乾燥した。次に、コーティング層を適用した基材を、窒素雰囲気下で紫外線照射器(Fusion UV System Inc.のH-バルブ(DRSモデル))に二度通して、コーティング層を硬化させた。このとき、照度700mW/cm2、積算光量900mJ/cm2の条件で、紫外線(UV-A)をコーティング層に対して照射した。このようにして、厚さ1.0マイクロメートルのコーティング層を有する積層体を作製した。
【0123】
〈例2~例6〉
表3に示されるコーティング剤を使用したこと以外は、例1と同様にして例2~例6の積層体を作製した。
【0124】
〈比較例1〉
基材であるコスモシャイン(商標)A4100を使用した。
【0125】
〈比較例2~7〉
表3に示されるコーティング剤を使用したこと以外は、例1と同様にして比較例2~7の積層体を作製した。ここで、比較例3、4及び7に関しては、積層体の初期ヘイズ値が高く透明性を有していなかったため、紫外線遮蔽性の評価は実施しなかった。比較例7に関しては、親水性及び接着性の評価も実施しなかった。
【0126】
例1~6、及び比較例1~7における評価結果を表3に示す。
【0127】
【0128】
〈例7~例11〉
例6と同じコーティング剤10を使用し、例1の操作を繰り返してコーティング層を重ね塗りし、2~6マイクロメートル厚のコーティング層を有する積層体を各々作製した。
【0129】
各積層体の350nmでの光線透過率を測定し、その結果を
図1に示す。
図1から分かるように、紫外線遮蔽性能は、例えばコーティング層の膜厚、即ち、紫外線吸収性SiO
2被覆ZnO粒子の総量によっても調整し得ることが確認できた。
【0130】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目18]に記載する。
[項目1]
基材、並びに
第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、及び親水性バインダーを含有し、かつ、30.0度以下の水接触角を呈する透明親水性紫外線吸収層を含み、
前記第2の無機ナノ粒子は、前記第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含む、透明親水性紫外線吸収積層体。
[項目2]
前記第1の無機ナノ粒子及び前記第2の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、合計で70質量%以上含まれている、項目1に記載の積層体。
[項目3]
前記第1の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、10~65質量%の割合で含まれている、項目1又は2に記載の積層体。
[項目4]
前記第2の無機ナノ粒子が、前記透明親水性紫外線吸収層の総重量に基づき、10~65質量%の割合で含まれている、項目1~3のいずれか一項に記載の積層体。
[項目5]
前記第1の無機ナノ粒子の平均粒子径が、15nm以上である、項目1~4のいずれか一項に記載の積層体。
[項目6]
前記第2の無機ナノ粒子の平均粒子径が、前記第1の無機ナノ粒子の平均粒子径よりも大きい、項目1~5のいずれか一項に記載の積層体。
[項目7]
前記第2の無機ナノ粒子の平均粒子径が、50~400nmである、項目1~6のいずれか一項に記載の積層体。
[項目8]
前記親水性バインダーが、ポリエチレングリコール、水酸基を有する樹脂、並びに、両性イオン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択される少なくとも1つを有する(メタ)アクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、項目1~7のいずれか一項に記載の積層体。
[項目9]
前記第1の無機ナノ粒子が、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子である、項目1~8のいずれか一項に記載の積層体。
[項目10]
前記第2の無機ナノ粒子のコア粒子表面が、L-リジンで変性されている、項目1~9のいずれか一項に記載の積層体。
[項目11]
前記第2の無機ナノ粒子のコア粒子が、酸化チタン及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の粒子である、項目1~10のいずれか一項に記載の積層体。
[項目12]
前記透明親水性紫外線吸収層が、第1のシランカップリング剤をさらに含む、項目1~11のいずれか一項に記載の積層体。
[項目13]
前記基材と前記透明親水性紫外線吸収層との間に、第3の無機ナノ粒子及び第2のシランカップリング剤を含有するプライマー層をさらに含む、項目1~12のいずれか一項に記載の積層体。
[項目14]
前記プライマー層中の前記第3の無機ナノ粒子の含有量が、前記透明親水性紫外線吸収層中の前記第1の無機ナノ粒子及び第2の無機ナノ粒子の合計含有量よりも少ない、項目13に記載の積層体。
[項目15]
前記第3の無機ナノ粒子が、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム、及びアンチモンドープ酸化スズから選ばれる少なくとも1種の粒子である、項目13又は14に記載の積層体。
[項目16]
波長400~700nmにおける光線透過率が、85.0%以上であり、かつ、ヘイズが、5.0%以下である、項目1~15のいずれか一項に記載の積層体。
[項目17]
波長350nmにおける光線透過率が、75.0%以下である、項目1~16のいずれか一項に記載の積層体。
[項目18]
第1の無機ナノ粒子、第2の無機ナノ粒子、並びに親水性バインダー、親水性硬化型モノマー及び親水性硬化型オリゴマーから選択される少なくとも一種を含有する透明親水性紫外線吸収性コーティング剤であって、
前記第2の無機ナノ粒子は、前記第1の無機ナノ粒子とは異なるコアシェル型の紫外線吸収性の粒子であって、かつ、シェルが酸化ケイ素を含み、
前記コーティング剤によって形成された透明親水性紫外線吸収層が、30.0度以下の水接触角を呈する、透明親水性紫外線吸収コーティング剤。