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  • 特許-ポリカーボネートジオール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】ポリカーボネートジオール
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20231204BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20231204BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20231204BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G18/44
C09D175/06
C09D5/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019114705
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2020002352
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018118208
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 英三郎
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197714(JP,A)
【文献】特開2017-014427(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069563(WO,A1)
【文献】特開2017-141440(JP,A)
【文献】特開2014-198808(JP,A)
【文献】特開平08-011273(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104134(WO,A1)
【文献】特開2017-137406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/02
C08G 18/44
C09D 175/06
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基と、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンから選ばれる1種類又は2種類以上のラクトンに由来する構成単位とを含み、重水素化クロロホルムを溶媒にテトラメチルシランを基準物質に用いて測定した1H-NMRスペクトルにおいて、3.90~4.45ppmのシグナルの積分値を1000とした場合、2.43~2.50ppmの積分値が0.020.8であり、
前記式(A)で表される繰り返し単位の30~100モル%が、下記式(B)で表される繰り返し単位である、ポリカーボネートジオール。
【化1】
(式(A)中、Rは、炭素数3~15の二価の脂肪族又は脂環族炭化水素を表し、全繰り返し単位において1種又は2種以上選択することができる。)
【化2】
【請求項2】
JIS K 0070(1992)の中和滴定法で測定した水酸基価が、32~280mg-KOH/gである、請求項1に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項3】
前記式(A)で表される繰り返し単位が、下記式(B)で表される繰り返し単位と下記式(C)で表される繰り返し単位とを含む、請求項1又は2に記載のポリカーボネートジオール。
【化3】
【化4】
(式(C)中、R1は、1,4-ブタンジオールに由来する(CH24を除く、炭素数3~6の二価の分岐を有しない脂肪族炭化水素を表し、1種又は2種以上選択することができる。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む、コーティング組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物であるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つ、コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、水系コーティング組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む、表面処理剤。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物であるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つ、表面処理剤。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、表面処理剤。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、水系表面処理剤。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物である熱可塑性ポリウレタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートジオールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオールは、例えば、ポリウレタンや熱可塑性エラストマーなどのソフトセグメントとして、耐加水分解性、耐光性、耐酸化劣化性、耐熱性などに優れた素材として知られており、合成皮革や人工皮革の表面処理剤の成分として、又は、フィルムのコーティング剤の成分として使用されている。例えば、合成皮革のコーティング剤又は表皮層に、主鎖に脂環構造を有するポリエステルポリカーボネートポリオールを含有する、水性ポリウレタン樹脂分散体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、人工皮革や合成皮革用の表面処理剤に、環状エステル化合物を開環付加重合することで得られるポリエステルポリオールを含有するポリカーボネートジオールを用いた水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。ポリカーボネートポリオールを構成成分として含むポリウレタン樹脂を含む塗布層を少なくともフィルムの片面に有する二軸延伸ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/039395号
【文献】特開2016-44240号公報
【文献】国際公開第2010/041408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術は、ポリカーボネートジオール分子中にポリエステル構造を有するため、耐湿熱性や耐汗性が不充分な場合がある。
【0005】
また、特許文献3に記載の技術は、エステルフィルムと塗布層の密着性から、耐摩耗性が不充分な場合がある。
【0006】
このように、これまでの技術では、耐摩耗性に優れるとともに、耐湿熱性や耐汗性を有する合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤は開発されていない。
【0007】
そこで、本発明は、例えば、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として、さらにはポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどの原料として適したポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。さらに詳しくは、本発明は、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として用いた場合、耐摩耗性に優れるとともに、耐湿熱性や耐汗性を得ることが出来るポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基とを有するポリカーボネートジオールが、特定の構造を有することで目的を達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明の構成は以下のとおりである。
[1]
下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基とを含み、重水素化クロロホルムを溶媒にテトラメチルシランを基準物質に用いて測定した1H-NMRスペクトルにおいて、3.90~4.45ppmのシグナルの積分値を1000とした場合、2.43~2.50ppmの積分値が0.01~1.0である、ポリカーボネートジオール。
【化1】
(式(A)中、Rは、炭素数3~15の二価の脂肪族又は脂環族炭化水素を表し、全繰り返し単位において1種又は2種以上選択することができる。)
[2]
前記式(A)で表される繰り返し単位の10~100モル%が、下記式(B)で表される繰り返し単位である、上記[1]に記載のポリカーボネートジオール。
【化2】
[3]
JIS K 0070(1992)の中和滴定法で測定した水酸基価が、32~280mg-KOH/gである、上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネートジオール。
[4]
前記式(A)で表される繰り返し単位が、下記式(B)で表される繰り返し単位と下記式(C)で表される繰り返し単位とを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール。
【化3】
【化4】
(式(C)中、R1は、1,4-ブタンジオールに由来する(CH24を除く、炭素数3~6の二価の分岐を有しない脂肪族炭化水素を表し、1種又は2種以上選択することができる。)
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む、コーティング組成物。
[6]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物であるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つ、コーティング組成物。
[7]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、コーティング組成物。
[8]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、水系コーティング組成物。
[9]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む、表面処理剤。
[10]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物であるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つ、表面処理剤。
[11]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、表面処理剤。
[12]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、水系表面処理剤。
[13]
上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物である熱可塑性ポリウレタン。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネートジオールは、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として用いた場合、耐摩耗性に優れるとともに、耐湿熱性や耐汗性を得ることが出来る。これらの特性を有することから、本発明のポリカーボネートジオールは、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例8で得られたポリカーボネートジオールの1H-NMR分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
<ポリカーボネートジオール>
本実施形態のポリカーボネートジオールは、下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基とを含む。
【0014】
【化5】
【0015】
式(A)中、Rは、炭素数3~15の二価の脂肪族又は脂環族炭化水素を表し、全繰り返し単位において1種又は2種以上を選択することができる。
また、本実施形態のポリカーボネートジオールは、上記式(A)で表される繰り返し単位の10~100モル%が、下記式(B)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0016】
【化6】
【0017】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、式(A)で表される繰り返し単位における式(B)で表される繰り返し単位の割合が、10モル%以上であれば耐汗性がより高くなる傾向にある。また、本実施形態のポリカーボネートジオールは、式(A)で表される繰り返し単位における式(B)で表される繰り返し単位の割合が、20モル%以上であれば耐汗性と耐摩耗性とがより向上し好ましく、30モル%以上であればさらに好ましい。
【0018】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、上記式(A)で表される繰り返し単位が、上記式(B)で表される繰り返し単位と下記式(C)で表される繰り返し単位とを含むことが好ましい。
【0019】
【化7】
【0020】
式(C)中、R1は、1,4-ブタンジオールに由来する(CH24を除く、炭素数3~6の二価の脂肪族炭化水素を表し、その脂肪族炭化水素は分岐を有しても構わない。さらに、その脂肪族炭化水素が分岐を有しない場合、ポリカーボネートジオールの耐熱性が高くなる傾向にあるので、より好ましい。また、全繰り返し単位において1種又は2種以上を選択することができる。
【0021】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、式(A)で表される繰り返し単位が式(B)及び式(C)で表される繰り返し単位を含む場合、耐汗性と耐摩耗性とがより高くなるので好ましい。本実施形態のポリカーボネートジオールは、式(B)で表される繰り返し単位と式(C)で表される繰り返し単位との合計に対する式(B)で表される繰り返し単位の割合が、1~99モル%であることが好ましく、25~99モル%であれば、耐汗性と耐摩耗性とが高くなりより好ましく、30~75モル%である場合、ポリカーボネートジオールが室温(20℃)で液状となり取扱いが良好となりさらに好ましく、40~60モル%である場合、ポリカーボネートジオールの結晶性が低下し、柔軟なポリウレタンが得られる傾向にあるので特に好ましい。
【0022】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、重水素化クロロホルムを溶媒にテトラメチルシラン(TMS)を基準物質に用いて測定した1H-NMRスペクトルにおいて、3.90~4.45ppmのシグナルの積分値を1000とした場合、2.43~2.50ppmのシグナルの積分値(以降「積分値比」とも略す。)が、0.01~1.0である。前記1H-NMRスペクトルにおいて、3.90~4.45ppmのシグナルはカーボネートに結合したメチレンのシグナルであり、2.43~2.50ppmのシグナルはエステルのカルボニルに結合したメチレンのシグナルと推定される。よって、本実施形態のポリカーボネートジオールにおいて、該積分値比は、一定の繰り返し単位に含まれる特定のエステルと推定される構造の存在量を表す指標となる。本実施形態のポリカーボネートジオールは、積分値比が0.01以上であれば、基材との密着力が高くなる。耐摩耗性は、コーティング層が摩耗しにくいことは当然であるが、コーティング層と基材との密着性も影響し、密着性が低い場合耐摩耗性が低下したり摩擦によりコーティング層が剥離したりする。よって、高い耐摩耗性を得るには密着性が高い方がより好ましい。該積分値比は、0.02以上が好ましく、0.05以上であればさらに好ましい。例えば、ポリウレタンの材料選定、構造制御と改質事例集、p58~59、株式会社 技術情報協会(2014年)に示すように、ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンは、ポリカーボネートジオールを用いた場合と比較して、耐熱水性や耐汗性が劣ることが知られている。本実施形態のポリカーボネートジオールは、積分値比が1.0以下であれば、耐熱水性や耐汗性の低下がなく、0.8以下であれば、さらに好ましい。
【0023】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、末端OH基割合が95.0~99.9%であることが好ましい。該末端OH基割合が99.9%以下であれば、微細な高分子量ゲルなどを生成しコーティング層表面の平滑性が低下することがなく、該末端OH基割合が95.0%以上であれば高分子量のポリウレタンを得ることが出来るので好ましい。該末端OH基割合は97.0~99.9%がより好ましく、98.0~99.9%がさらに好ましい。
【0024】
なお、本実施形態において、末端OH基割合は、以下のように定義される。70g~100gのポリカーボネートジオールを、0.4kPa以下の圧力下、160℃~200℃の温度に加熱、攪拌して、該ポリカーボネートジオールの約1~2重量%に相当する留分、即ち約1g(0.7~2g)の初期留分を得る。得られた留分を約100g(95~105g)のアセトンに溶解させて溶液として回収する。回収した溶液をガスクロマトグラフィー分析(以下「GC分析」とも称す。)して、得られるクロマトグラフのピーク面積の値から、下記式(1)により計算した末端OH基割合を言う。なお、GC分析は、カラムとしてDB-WAX(米国J&W社製)30m、膜厚0.25μmを付けたガスクロマトグラフィー6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、60℃から10℃/分で250℃まで昇温した後、その温度で15分間保持するプロファイルとする。GC分析における各ピークの同定は、下記GC-MS装置を用いて行った。GC装置は、カラムとしてDB-WAX(米国J&W社製)を付けた6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用いた。GC装置において、初期温度40℃から昇温速度10℃/分で220℃まで昇温した。MS装置は、Auto-massSUN(日本JEOL製)を用いた。MS装置において、イオン化電圧70eV、スキャン範囲m/z=10~500、フォトマルゲイン450Vで測定を行う。
【0025】
末端OH基割合(%)=B÷A×100 (1)
A:ジオールを含むアルコール類のピーク面積の総和
B:ジオールのピーク面積の総和
【0026】
末端OH基割合は、ポリカーボネートジオールの全末端基に占めるOH基の割合に対応する。即ち、上記に示すように、ポリカーボネートジオールを0.4kPa以下の圧力下、160℃~200℃の温度に加熱すると、ポリカーボネートジオールの末端部分がアルコール類として留出する(下記式(a)を参照)。留出するアルコール類としては、特に限定されないが、例えば、原料に用いたジオール、シクロヘキサンジオールや1,5-ヘキサンジオールなどの原料に含まれる不純物、メタノールなどの原料のカーボネート化合物に由来するモノアルコール、重合中の副反応で生成する不飽和炭化水素を有するモノアルコールが挙げられる。
【0027】
【化8】
(式(a)中、Xは-R2-OH又はR2であり、R1及びR2は炭化水素を表す。)
【0028】
この留分中の全アルコール類におけるジオールの比率が末端OH基割合である。
【0029】
本実施形態のポリカーボネートジオールの製造方法は、上記積分値比を特定の範囲内に制御する方法以外は、特に限定されない。例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9~20(1994年)に記載される種々の方法が挙げられる。なお、上記積分値比を特定の範囲内に制御する方法は後述する。
【0030】
本実施形態のポリカーボネートジオールの水酸基価は、32~280mg-KOH/gであることが好ましい。本実施形態のポリカーボネートジオールは、水酸基価が280mg-KOH/g以下であれば、得られるポリウレタンの柔軟性が良好となる。本実施形態のポリカーボネートジオールは、水酸基価が32mg-KOH/g以上であれば、コーティング剤の固形分濃度などが制限されることもないので好ましい。本実施形態のポリカーボネートジオールの水酸基価は、35~140mg-KOH/gであることがさらに好ましい。
【0031】
なお、本実施形態において、ポリカーボネートジオールの水酸基価は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、ジオールとカーボネート化合物とを原料として製造する場合、上述したとおり、例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9~20(1994年)に記載される種々の方法で製造することができる。
【0033】
原料として用いるジオールは、特に限定されないが、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-ドデカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオールなどの側鎖を持たないジオール;2-メチル-1、8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチルー1、5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールなどの側鎖を持ったジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,4-シクロヘキサンジオールなどの環状ジオールが挙げられる。当該ジオールは1種類又は2種類以上をポリカーボネートジオールの原料として用いてもよい。1,4-ブタンジオールを用いた場合、耐摩耗性と耐汗性が高くなるので好ましい。1,4-ブタンジオールと、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールから1種類又は2種類以上をポリカーボネートジオールの原料として用いることが好ましく、1,4-ブタンジオールと、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールから1種類又は2種類以上をポリカーボネートジオールの原料として用いることがさらに好ましい。
【0034】
さらに、本実施形態のポリカーボネートジオールの性能を損なわない範囲で、1分子に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどをポリカーボネートジオールの原料として用いることもできる。この1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物をポリカーボネートジオールの原料としてあまり多く用いると、ポリカーボネートの重合反応中に架橋してゲル化が起きてしまう。したがって、1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物をポリカーボネートジオールの原料として用いる場合であっても、当該化合物は、ポリカーボネートジオールの原料として用いるジオールのモル数に対し、0.1~5モル%にするのが好ましい。この割合は0.1~1モル%であることが、より好ましい。
【0035】
本実施形態のポリカーボネートジオールの原料となるカーボネートの例として、特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート;ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート;エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、1,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートなどが挙げられる。これらの内から1種又は2種以上のカーボネートをポリカーボネートジオールの原料として用いることができる。入手のしやすさや重合反応の条件設定のしやすさの観点より、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態のポリカーボネートジオールの製造では、触媒を添加することが好ましい。該触媒としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属のアルコラート、水素化物、オキシド、アミド、炭酸塩、水酸化物、窒素含有ホウ酸塩、さらに有機酸の塩基性アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられる。また、前記触媒として、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、スズ、アンチモン、タングステン、レニウム、オスミニウム、イリジウム、白金、金、タリウム、鉛、ビスマス、イッテルビウム、の金属、塩、アルコキシド、有機化合物が挙げられる。それらから1つ又は複数の触媒を選択し使用することができる。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛、イッテルビウムの金属、塩、アルコキシド、有機化合物から1つ又は複数の触媒を用いた場合、ポリカーボネートジオールの重合が良好に行われ、得られるポリカーボネートジオールを用いたウレタン反応に対する影響も少ないので好ましい。前記触媒として、チタン、イッテルビウム、スズ、ジルコニウムを用いた場合、さらに好ましい。
【0037】
本実施形態のポリカーボネートジオールには、上記触媒を含んでいてもよい。本実施形態のポリカーボネートジオールにおいて、該触媒の含有量は、誘電結合プラズマ(以下「ICP」とも記す。)を用い測定した金属元素の量として、0.0001~0.05重量%であることが好ましい。該触媒の含有量が前記範囲であれば、ポリカーボネートジオールの重合が良好に行われ、得られたポリカーボネートジオールを用いたウレタン反応に対する影響も少ない。該触媒の含有量は、ICPを用い測定した金属元素の量として、0.0005~0.02重量%であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、ICPにより測定した際の、チタン、イッテルビウム、スズ、及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量が、0.0001~0.05重量%であることが好ましく、0.0005~0.02重量%であることがより好ましい。また、本実施形態のポリカーボネートジオールは、ICPにより測定した際の、チタン、イッテルビウム、スズ及びジルコニウムの総含有量が、0.0001~0.05重量%であることが好ましく、0.0005~0.02重量%であることがより好ましい。
【0039】
なお、本実施形態において、ポリカーボネートジオール中の金属元素の含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
本実施形態のポリカーボネートジオールは、例えば、ポリウレタンの原料として用いる場合、ポリカーボネートジオールの製造で用いた触媒を、リン化合物で処理することが好ましい。リン化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジル・ジフェニルホスフェートなどのリン酸トリエステル;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-エチルへキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェートなどの酸性リン酸エステル;トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニル(モノデシル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、ジエチルハイドロゲンホスファイト、ビス(2-エチルヘキシル)ハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、ビス(デシル)ペンタエリスルトールジホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどの亜リン酸エステル類;さらに、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸などが挙げられる。
【0041】
本実施形態のポリカーボネートジオールには、リン化合物を含んでいてもよい。本実施形態のポリカーボネートジオールにおいて、リン化合物の含有量は、ICPを用い測定したリン元素(P)の含有量として、0.0001~0.05重量%であることが好ましい。本実施形態のポリカーボネートジオールは、リン化合物の含有量が前記範囲であれば、例えば、ポリウレタンの原料として用いた場合、該ポリウレタンの製造反応において、ポリカーボネートジオール製造で用いた触媒の影響を殆どなくすることが可能であり、さらに、リン化合物がポリウレタンの製造反応や反応生成物の物性に影響することも少ない。本実施形態のポリカーボネートジオールにおいて、ICPにより測定した際のリン元素(P)の含有量は、0.0005~0.02重量%であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態のポリカーボネートジオールにおいて、水分量は、10~500ppmであることが好ましい。
【0043】
本実施形態のポリカーボネートジオールの製造方法の具体例を以下に示す。本実施形態のポリカーボネートジオールの製造は、特に限定されないが、例えば、2段階に分けて行うことができる。ジオールとカーボネートとをモル比(ジオール:カーボネート)で、例えば、20:1~1:10の割合で混和し、常圧又は減圧下、100~250℃で1段目の反応を行う。カーボネートとしてジメチルカーボネートを用いる場合、生成するメタノールをジメチルカーボネートとの混合物として除去して低分子量ポリカーボネートジオールを得ることができる。カーボネートとしてジエチルカーボネートを用いる場合、生成するエタノールをジエチルカーボネートとの混合物として除去して低分子量ポリカーボネートジオールを得ることができる。また、カーボネートとしてエチレンカーボネートを用いる場合、生成するエチレングリコールをエチレンカーボネートとの混合物として除去して低分子量ポリカーボネートジオールを得ることができる。次いで、2段目の反応は、前記1段目の反応生成物を、減圧下、160~250℃で加熱して、未反応のジオールとカーボネートを除去するとともに、低分子量ポリカーボネートジオールを縮合させて、所定の分子量のポリカーボネートジオールを得る反応である。
【0044】
本実施形態の積分値比を有すポリカーボネートジオールを得る方法としては、例えば、二塩基酸又は二塩基酸エステル、ラクトン、ポリエステルポリオールを用いる方法を挙げることが出来る。二塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、グルタミン酸、セバシン酸、ブラシル酸が挙げられる。二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、上記二塩基酸のメチル、エチル、ブチル、イソブチル、2-エチルヘキシル、イソデシル、イソノニルエステルが挙げられる。ラクトンとしては、特に限定されないが、例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンが挙げられる。ポリエステルポリオールは、特に限定されないが、例えば、二塩基酸の単独又は2種類以上の混合物と、多価アルコールの単独又は2種類以上の混合物とを、縮合反応させることによって得ることができる。前記二塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸等が挙げられる。前記多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチルペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、2-メチロールプロパンジオール、エトキシ化トリメチロールプロパン等が挙げられる。又は、特に限定されないが、例えば、ε-カプロラクトン等のラクトン類を、多価アルコールを用いて開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等もポリエステルポリオールとして用いることができる。ラクトンを用いた場合、得られるポリカーボネートジオールの耐熱水性が保たれるので好ましく、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンから1種類又は2種類以上のラクトンを用いることがさらに好ましい。具体的な方法としては、例えば、二塩基酸又は二塩基酸エステル、ラクトン、ポリエステルポリオールを原料のジオール及びカーボネートに混ぜてポリカーボネートジオールを重合する方法、又は、一般的なポリカーボネートジオールに二塩基酸又は二塩基酸エステル、ラクトン、ポリエステルポリオールを加え、100~200℃の温度で30分~5時間加熱する方法が挙げられる。
【0045】
また、本実施形態に用いるポリカーボネートジオールの末端OH基割合は、原料中の不純物、温度や時間などの製造条件、さらに、原料であるカーボネートとしてジアルキルカーボネート及び/又はジアリールカーボネートを用いる場合は、原料中のジオールとカーボネートとの仕込み比などの条件より、1つの方法を選択して、又は適宜組み合わせることにより調整できる。原料であるカーボネートとして、ジアルキルカーボネート及び/又はジアリールカーボネートを用いた場合、目的とするポリカーボネートジオールの分子量に対応させて、原料であるジオールとカーボネートとを化学量論量又はそれに近い割合で仕込んで反応させると、ポリカーボネートジオールの末端にカーボネートに由来するアルキル基やアリール基が残存することが多い。そこで、原料中のカーボネートに対するジオールの量を、例えば、化学量論量の1.01~10倍とすることで、ポリカーボネートジオールは、末端アルキル基や末端アリール基が減り、末端ヒドロキシル基を多くすることができる。さらに、副反応により、ポリカーボネートジオールの末端がビニル基になったり、例えばカーボネートとしてジメチルカーボネートを用いた場合、メチルエステルやメチルエーテルになったりする。一般的に、副反応は、反応温度が高いほど、反応時間が長いほど起きやすくなる。
【0046】
<用途>
本実施形態のポリカーボネートジオールは、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として、またポリウレタンや熱可塑性エラストマーの原料として、さらにはポリエステルの改質剤などの用途に用いることができる。特に、合成皮革の人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として用いた場合、耐摩耗性に優れるとともに、耐湿熱性や耐汗性を得ることが出来る。
【0047】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタンは、上述のポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとを用いて得ることができる。
【0048】
本実施形態のコーティング組成物は、上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む。
【0049】
また、本実施形態のコーティング組成物は、上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つことが好ましい。
【0050】
さらに、本実施形態のコーティング組成物は、上述のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂を含むことがより好ましく、上述のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂を含む、水系コーティング組成物であることがさらに好ましい。
【0051】
また、本実施形態の表面処理剤は、上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを含む。
【0052】
さらに、本実施形態の表面処理剤は、上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物であるウレタンプレポリマーを含み、該ウレタンプレポリマーが末端イソシアネート基を持つことが好ましい。
【0053】
またさらに、本実施形態の表面処理剤は、上述のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含むことがより好ましく、上述のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤の反応生成物であるポリウレタン樹脂を含む、水系表面処理剤であることがさらに好ましい。
【0054】
使用される有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、及びその混合物(TDI)、粗製TDI、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、粗製MDI、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネート等の公知の芳香族ジイソシアネート、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)等の公知の脂肪族ジイソシアネート、及びこれらのイソシアネート類のイソシアヌレート化変性品、カルボジイミド化変性品、ビウレット化変性品等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。またこれらの有機ポリイソシアネートは、ブロック剤でイソシアネート基をマスクして用いてもよい。
【0055】
また、ポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとの反応において、所望により共重合成分として鎖伸長剤を用いることができる。鎖伸長剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン業界における常用の鎖伸長剤、すなわち、水、低分子ポリオール、ポリアミン等が使用できる。鎖伸長剤の例として、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン等の低分子ポリオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン等のポリアミンが挙げられる。これらの鎖伸長剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても構わない。
【0056】
本実施形態のコーティング組成物を製造する方法としては、業界で公知の製造方法が用いられる。例えば、上述のポリカーボネートジオールから得られる塗料主剤と有機ポリイソシアネートからなる硬化剤とを塗工直前に混合する2液型溶剤系コーティング組成物;上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて得られる末端イソシアネート基を持つウレタンプレポリマーからなる1液型溶剤系コーティング組成物;上述のポリカーボネートジオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂からなる1液型溶剤系コーティング組成物;あるいは1液型水系コーティング組成物を製造することができる。
【0057】
本実施形態のコーティング組成物には、例えば、各種用途に応じて硬化促進剤(触媒)、充填剤、分散剤、難燃剤、染料、有機又は無機顔料、離型剤、流動性調整剤、可塑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤、溶剤等を添加することができる。
【0058】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄鉛、クレー、タルク、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾル系、フタロシアニン系、イソインドリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサン系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料が挙げられる。
【0059】
硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクチレート、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0060】
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、サリシレート系、蓚酸アニリド系を挙げることができる。紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物を挙げることができる。
【0061】
塗料の溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、水などを挙げることができる。これらの溶剤は1種類又は複数種を混合して使用することができる。
【0062】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタンを製造する方法としては、特に限定されず、ポリウレタン業界で公知のポリウレタン化反応の技術が用いられる。例えば、上述のポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートとを大気圧下に常温から200℃で反応させることにより、熱可塑性ポリウレタンを製造することができる。鎖延長剤を用いる場合は、反応の最初から加えておいてもよいし、反応の途中から加えてもよい。本実施形態の熱可塑性ポリウレタンの製造方法については、例えば、米国特許第5,070,173号を参照できる。
【0063】
ポリウレタン化反応においては、公知の重合触媒や溶媒を用いてもよい。用いられる重合触媒は、特に限定されないが、例えばジブチルスズジラウレートが挙げられる。
【0064】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタンには、熱安定剤(例えば酸化防止剤)や光安定剤などの安定剤を添加することが好ましい。また、可塑剤、無機充填剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤等を添加してもよい。
【実施例
【0065】
次に、実施例及び比較例によって、本発明を説明する。
【0066】
以下の実施例は、本発明を例示するために記載するものであって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0067】
以下の実施例及び比較例において示す物性値は、下記の方法で測定した。
【0068】
1.ポリカーボネートジオールの積分値比の決定(1H-NMR)
ポリカーボネートジオールにおける積分値比を以下のとおり決定した。
まず、サンプル10mgを重水素クロロホルム(アルドリッチ製)0.75mLに溶解した。該溶液に化学シフト基準としてテトラメチルシラン(TMS)を加えて、得られた溶液について日本電子社製、ECZ500(SC)を用いて1H-NMRを測定した。該測定において、共鳴周波数:500MHz、パルス幅:45°、待ち時間:5秒、積算回数:5000回とし、TMSシグナルを0ppmとして1H-NMRスペクトルを得た。ポリカーボネートジオールにおける積分値比は、前記測定した1H-NMRにおいて得られた、3.90~4.45ppmのシグナルの積分値と2.43~2.50ppmのシグナルの積分値とを用いて、下記式(2)で求めた。
積分値比=D/C×1000 (2)
C:3.90~4.45ppmのシグナルの積分値
D:2.43~2.50ppmのシグナルの積分値
【0069】
2.ポリカーボネートジオール中の含有成分の分析(ICP)
ポリカーボネートジオール中に含有する各成分を以下のとおり分析した。まず、サンプルをテフロン(登録商標)製分解容器に秤取り、高純度硝酸(関東化学製)を加えてマイクロウエーブ分解装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS TC)を用いて分解した。サンプルは完全に分解され、得られた分解液は無色透明となった。分解液に純水を加えて検液とした。得られた検液について誘電結合プラズマ分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、iCAP6300 Duo)を用い、各元素の標準液を元に定量を行った。
【0070】
3.ポリカーボネートジオールの末端OH基割合の決定
ポリカーボネートジオールにおける末端OH基割合を以下のとおり決定した。まず、70g~100gのポリカーボネートジオールを300mLのナスフラスコに測り取った。留分回収用のトラップ球を接続したロータリーエバポレーターを用いて、前記ナスフラスコ中のポリカーボネートジオールを、0.4kPa以下の圧力下、約180℃の加熱浴で加熱し、攪拌して、トラップ球に該ポリカーボネートジオールの約1~2重量%に相当する留分、即ち約1g(0.7~2g)の初期留分を得た。得られた留分を約100g(95~105g)のアセトンに溶解させ溶液として回収した。回収した溶液をガスクロマトグラフィー分析(以下「GC分析」とも称す。)して、得られたクロマトグラフのピーク面積の値から、下記式(1)によりポリカーボネートジオールにおける末端OH基割合を計算した。なお、GC分析は、カラムとしてDB-WAX(米国J&W社製)30m、膜厚0.25μmを付けたガスクロマトグラフィー6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、60℃から10℃/分で250℃まで昇温した後、その温度で15分間保持するプロファイルとした。GC分析における各ピークの同定は、下記GC-MS装置を用いて行った。GC装置は、カラムとしてDB-WAX(米国J&W社製)を付けた6890(米国ヒューレット・パッカード製)を用いた。GC装置において、初期温度40℃から昇温速度10℃/分で220℃まで昇温した。MS装置は、Auto-massSUN(日本JEOL製)を用いた。MS装置において、イオン化電圧70eV、スキャン範囲m/z=10~500、フォトマルゲイン450Vで測定を行った。
末端OH基割合(%)=B÷A×100 (1)
A:ジオールを含むアルコール類のピーク面積の総和
B:ジオールのピーク面積の総和
【0071】
4.ポリカーボネートジオールの組成の決定
ポリカーボネートジオールの組成を以下のとおり決定した。まず、100mLのナスフラスコに、サンプルを1g測り取り、エタノール30g、水酸化カリウム4gを入れて、混合物を得た。得られた混合物を100℃のオイルバスで1時間加熱した。前記混合物を室温まで冷却後、指示薬としてフェノールフタレインを前記混合物に1~2滴添加し、塩酸で中和した。その後、前記混合物を冷蔵庫で3時間冷却し、沈殿した塩を濾過で除去した後、濾液をガスクロマトグラフィー(GC)分析した。なお、GC分析は、カラムとしてDB-WAX(米国J&W社製)30m、膜厚0.25μmを付けたガスクロマトグラフィーGC14B(島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内部標準として用い、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を用いて行った。カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/分で250℃まで昇温するプロファイルとした。GC分析により得られたジオールの面積値を元に、ポリカーボネートジオールの組成を決定した。
【0072】
5.ポリカーボネートジオールの水酸基価の決定
ポリカーボネートジオールの水酸基価は、無水酢酸とピリジンとを用い、水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する「中和滴定法(JIS K0070-1992)」によって求めた。
【0073】
6.ポリカーボネートジオールの性状の確認
80℃に加熱したポリカーボネートジオールを透明なサンプル瓶に入れ、室温まで冷えた状態を目視で観察した。透明であり、かつサンプル瓶を傾けた時に僅かでも流動性がある場合を液状と、不透明又はサンプル瓶を傾けても状態が変化しない何れかの場合及び双方の場合を固体として表した。
【0074】
7.表面処理面の耐摩耗性
合成皮革の表面処理面において、JIS K5600-5-9―1990に準じて評価を行い、試験体の外観を目視で評価した。JIS K5600-8-1-2014に準じて欠陥の程度及び量を等級0~5で表し、耐摩耗性とした。使用したホイルはH22であり、錘の重量は500gであった。
【0075】
8.表面処理面の耐摩耗性変化
合成皮革を80℃の熱水に1日浸漬した。表面の水分を拭き取った後、23℃、50%RHの恒温室で7日間養生した。上記の方法で耐摩耗性を評価し、試験前との等級の変化を耐摩耗性変化とした。
【0076】
9.表面処理面の耐汗性
合成皮革の表面処理面に、0.1gのオレイン酸を付着させ、20℃で4時間放置し、試験体の外観を目視で評価した。JISK5600-8-1―2014に準じて欠陥の程度及び量を等級0~5で表し、耐汗性とした。
【0077】
10.ポリウレタンの耐熱水性
ポリカーボネートジオールを用いて得られたポリウレタンフィルムを10mm×80mmの短冊型に切り取り、23℃、50%RHの恒温室で3日間養生したものを試験体とした。該試験体についてテンシロン引張試験器(ORIENTEC製、RTC-1250A)を用い、チャック間距離50mm、引張速度100mm/分で、破断強度(単位:MPa)を測定し、耐熱水性試験前の破断強度とした。さらに、上記のポリウレタンフィルムを90℃の熱水に3日間浸漬し、23℃、50%RHの恒温室で7日間養生したものを試験体とし、上記の方法で破断強度(単位:MPa)を測定し、耐熱水性試験後の破断強度とした。下記式(3)で強度保持率を求め、ポリウレタンの耐熱水性の指標とした。
強度保持率(%)=F/E×100 (3)
E:耐熱水性試験前の破断強度(MPa)
F:耐熱水性試験後の破断強度(MPa)
【0078】
11.ポリウレタンの耐汗性
ポリウレタンフィルムを用い、上述した表面処理面の耐汗性の方法で評価し、ポリウレタンの耐汗性とした。
【0079】
12.ポリカーボネートジオールの熱安定性(耐熱性)
ポリカーボネートジオールの熱安定性(耐熱性)を、以下のとおり決定した。示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス製、STA7000RV)を用いて、窒素下で測定を行い、サンプルの質量が5%の減少した温度をポリカーボネートジオールの耐熱性とした。サンプルの質量が5%の減少した温度が高いほどポリカーボネートジオールの耐熱性に優れると評価した。
【0080】
13.ポリウレタンの柔軟性
ポリカーボネートジオールを用いて得られたポリウレタンフィルムを10mm×80mmの短冊型に切り取り、23℃、50%RHの恒温室で3日間養生したものを試験体とした。該試験体についてテンシロン引張試験器(ORIENTEC製、RTC-1250A)を用い、チャック間距離50mm、引張速度100mm/分で応力(単位:MPa)を測定し、10%伸長時の応力をポリウレタンの柔軟性とした。なお、当該応力の値が小さいとポリウレタンの柔軟性が高いと見なした。
【0081】
[比較例1]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、ジメチルカーボネートを650g(7.2mol)、1,4-ブタンジオールを380g(4.2mol)、1,6-ヘキサンジオールを500g(4.2mol)仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.2gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。反応温度を150℃とし、生成するメタノールとジメチルカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。その後、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとジメチルカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに10時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.22g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-21と略する。
【0082】
参考例4
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、ジメチルカーボネートを650g(7.2mol)、1,4-ブタンジオールを380g(4.2mol)、1,6-ヘキサンジオールを500g(4.2mol)、γ-ブチロラクトンを0.01g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.2gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。反応温度を150℃とし、生成するメタノールとジメチルカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。その後、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとジメチルカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに10時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.22g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-1と略する。
【0083】
[実施例2]
γ-ブチロラクトンの量を0.03gとした以外は参考例4に示す方法で反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-2と略する。
【0084】
[実施例3]
γ-ブチロラクトンの量を0.21gとした以外は参考例4に示す方法で反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。また、ポリカーボネートジオールの熱安定性(耐熱性)は、298℃であった。このポリカーボネートジオールをPC-3と略する。
【0085】
参考例5
γ-ブチロラクトンの量を0.64gとした以外は参考例4に示す方法で反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-4と略する。
【0086】
[比較例2]
γ-ブチロラクトンの量を0.92gとした以外は参考例4に示す方法で反応した。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-22と略する。
【0087】
参考例1
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、エチレンカーボネートを600g(6.8mol)、1,4-ブタンジオールを15g(0.2mol)、1,6-ヘキサンジオールを800g(6.8mol)仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.35gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。その後、反応温度を150℃とし、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。さらに、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに10時間反応を行った。次いで、ε-カプロラクトンを0.04g加え、150℃で5時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.39g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-5と略する。
【0088】
参考例6
1,4-ブタンジオールの量を135g(1.5mol)、1,6-ヘキサンジオールの量を650g(5.5mol)とした以外は、参考例1に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-6と略する。
【0089】
[実施例7]
1,4-ブタンジオールの量を215g(3.4mol)、1,6-ヘキサンジオールの量を550g(4.7mol)とした以外は、参考例1に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-7と略する。
【0090】
[実施例8]
1,4-ブタンジオールの量を455g(5.1mol)、1,6-ヘキサンジオールの量を230g(2.0mol)とした以外は、参考例1に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。また、ポリカーボネートジオールの熱安定性(耐熱性)は、291℃であった。このポリカーボネートジオールをPC-8と略する。実施例8で得られたポリカーボネートジオールPC-8の1H-NMR分析チャートを図1に示す。
【0091】
[実施例9]
1,4-ブタンジオールの量を515g(5.7mol)、1,6-ヘキサンジオールの量を140g(1.2mol)とした以外は、参考例1に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-9と略する。
【0092】
[実施例10]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、エチレンカーボネートを750g(8.5mol)、1,4-ブタンジオールを550g(6.1mol)、2-メチル-1,3-プロパンジオールを230g(2.6mol)、γ-ブチロラクトンを0.06g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.2gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。その後、反応温度を140℃とし、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートとの混合物を留去しながら20時間反応を行った。さらに、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートとを留去しながら、170℃でさらに3時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.22g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-10と略する。
【0093】
[実施例11]
フラスコ内の圧力が12kPa、温度が170℃での反応時間を8時間とした以外は、実施例10に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-11と略する。
【0094】
[実施例12]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、エチレンカーボネートを750g(8.5mol)、1,4-ブタンジオールを550g(6.1mol)、2-メチル-1,3-プロパンジオールを230g(2.6mol)、γ-ブチロラクトンを0.06g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.2gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。その後、反応温度を150℃とし、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。さらに、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに15時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.22g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。また、ポリカーボネートジオールの熱安定性(耐熱性)は、258℃であった。このポリカーボネートジオールをPC-12と略する。
【0095】
[実施例13]
フラスコ内の圧力が12kPa、温度が175℃での反応時間を30時間とした以外は、実施例12に示す方法で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-13と略する。
【0096】
[実施例14]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、エチレンカーボネートを670g(7.6mol)、1,4-ブタンジオールを350g(3.9mol)、1,5-ペンタンジオールを380g(3.7mol)、γ-ブチロラクトンを0.35g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.3gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。その後、反応温度を150℃とし、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。さらに、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに15時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.33g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-14と略する。
【0097】
参考例2
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、ジメチルカーボネートを600g(6.7mol)、1,4-ブタンジオールを480g(5.3mol)、1,12-ドデカンジオールを510g(2.5mol)、γ-ブチロラクトンを0.26g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.3gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。反応温度を150℃とし、生成するメタノールとジメチルカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。その後、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとジメチルカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに10時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.33g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-15と略する。
【0098】
参考例3
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置とを備えた2Lのガラス製フラスコに、エチレンカーボネートを670g(7.6mol)、1,5-ペンタンジオールを400g(3.9mol)、1,6-ヘキサンジオールを450g(3.8mol)、ε-カプロラクトンを0.15g仕込んだ。前記フラスコに触媒としてチタンテトラブトキシド0.3gを加え、前記フラスコ内の混合物を常圧で攪拌及び加熱した。その後、反応温度を150℃とし、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートとの混合物を留去しながら25時間反応を行った。さらに、前記フラスコ内の圧力を12kPaまで減圧し、ジオールとエチレンカーボネートとを留去しながら、175℃でさらに15時間反応を行った。その後、前記フラスコにリン化合物として2-エチルヘキシルアシッドホスフェートを0.33g加え、前記フラスコ内の混合物を120℃で5時間加熱することによりポリカーボネートジオールを得た。得られたポリカーボネートジオールの分析結果を、表1に示す。このポリカーボネートジオールをPC-16と略する。
【0099】
【表1】
【0100】
参考応用例7
還流冷却器、温度計及び撹拌装置を備えた反応容器に、ポリカーボネートジオールPC-1を200g、イソホロンジイソシアネートを66.2g、トリエチルアミンで中和したジメチロールプロピオン酸を23.3g、メチルエチルケトン(MEK)を700g入れ、50℃で2時間反応を行い、末端がイソシアネートのウレタンプレポリマーを得た。反応容器内の温度を30℃とした後、撹拌しながら該ウレタンプレポリマーに640gの蒸留水を20g/分の速度で添加して、ウレタンプレポリマー溶液のエマルジョンを得た。さらに、反応容器内に、鎖延長剤として、エチレンジアミンの20重量%水溶液を23.8g、撹拌しながら30分かけて添加した。その後、反応容器内の温度を40℃としさらに30分反応を行った。還流冷却管を単蒸留装置に替えた後、減圧下で3時間かけて反応容器の内温を80℃まで昇温しながら溶媒であるMEKを留去して、固形分が約30重量%の水分散ポリウレタン樹脂を得た。
上記水分散ポリウレタン樹脂に、レベリング剤(BYK社製、BYK-331)0.2重量%と沈降防止剤(楠本化成社製、DISPARLON AQ-002)0.2重量%とを加え、表面処理剤とした。市販のポリウレタン樹脂系合成皮革(黒色)の表面に、上記の表面処理剤を乾燥後の膜厚が5~6μmとなるようにバーコーターで塗布し、室温にて20時間放置後、150℃にて1分間乾燥した。さらに23℃、50%RHの恒温室で7日間養生し評価に用いた。評価結果を表2に示した。
【0101】
[応用例2~3、7~14及び参考応用例1~2、8~9
ポリカーボネートジオールとしてPC-2~PC-15を用いた以外は参考応用例7の方法で水分散ポリウレタン樹脂を調製し、合成皮革の表面処理を行った。但し、PC-13を用いた場合、プレポリマーの粘度が高くなり、目的とする粒径の水分散ポリウレタンを得ることが出来なかった。該合成皮革を用いて物性の評価を行い、該評価結果を表2に示した。
【0102】
[比較応用例3及び4]
ポリカーボネートジオールとしてPC-21とPC-22とを用いた以外は参考応用例7の方法で水分散ポリウレタン樹脂を調製し、合成皮革の表面処理を行った。該合成皮革を用いて物性の評価を行い、該評価結果を表2に示した。
【0103】
【表2】
【0104】
参考応用例10
攪拌装置、温度計及び冷却管の付いた反応器に、参考例4で得たPC-1を200g、ヘキサメチレンジイソシアネート34g、触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、70℃で5時間反応させて末端イソシアネート(NCO)基を持つウレタンプレポリマーを得た。該プレポリマーに溶剤としてジメチルホルムアミド600gを加えて溶液を得た。その後、得られた溶液に鎖延長剤としてイソホロンジアミン17gを加えて35℃で1時間撹拌してポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液をガラス板上に流延し、室温で30分間放置して溶剤をとばした後、100℃の乾燥機に2時間入れて乾燥させてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて物性の評価を行い、該評価結果を表3に示した。
【0105】
[応用例17~1822~29及び参考応用例3~5、11~12
ポリカーボネートジオールとして、PC-2~PC-16を用いた以外は、参考応用例10と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて物性の評価を行い、該評価結果を表3に示した。
【0106】
[比較応用例3及び4]
ポリカーボネートジオールとして、PC-21及びPC-22を用いた以外は、応用例16と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて物性の評価を行い、該評価結果を表3に示した。
【0107】
[応用例32]
攪拌装置、温度計及び冷却管の付いた反応器に、実施例3で得たPC-3を200g、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート53g、触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、70℃で3時間反応させて末端イソシアネート(NCO)基を持つウレタンプレポリマーを得た。該プレポリマーに溶剤としてジメチルホルムアミド600gを加えて溶液を得た。その後、得られた溶液に鎖延長剤としてイソホロンジアミン17gを加えて35℃で1時間撹拌してポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液をガラス板上に流延し、室温で30分間放置して溶剤をとばした後、100℃の乾燥機に2時間入れて乾燥させてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.1MPaであった。
【0108】
[応用例33]
ポリカーボネートジオールとして、PC-7を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.3MPaであった。
【0109】
[応用例34]
ポリカーボネートジオールとして、PC-8を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.4MPaであった。
【0110】
[応用例35]
ポリカーボネートジオールとして、PC-12を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.8MPaであった。
【0111】
[応用例36]
ポリカーボネートジオールとして、PC-14を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.4MPaであった。
【0112】
参考応用例6
ポリカーボネートジオールとして、PC-16を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.1MPaであった。
【0113】
[比較応用例5]
ポリカーボネートジオールとして、PC-21を用いた以外は、応用例32と同様にしてポリウレタンフィルムを得た。該ポリウレタンフィルムを用いて、ポリウレタンの柔軟性を評価したところ、1.4MPaであった。
【0114】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のポリカーボネートジオールは、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として用いた場合、耐摩耗性に優れるとともに、耐湿熱性や耐汗性を得ることが出来る。これらの特性を有することから、本発明のポリカーボネートジオールは、合成皮革や人工皮革の表面処理剤やフィルムのコーティング剤の構成材料として好適に用いることができる。
図1