(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】衛星通信装置および送信レベル制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/155 20060101AFI20231204BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20231204BHJP
H04W 52/24 20090101ALI20231204BHJP
【FI】
H04B7/155
H04B1/04 E
H04W52/24
(21)【出願番号】P 2019194477
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 竜也
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-046286(JP,A)
【文献】国際公開第2006/077647(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0274690(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/14-7/22
H04B 1/02-1/04
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
符号化された伝送信号から多値変調信号を生成する変調部と、
人工衛星へとアップリンクで送信される送信信号を前記多値変調信号から生成する送信信号生成部と、
前記送信信号の送信レベルを制御量に基づいて設定するレベル設定部と、
前記制御量を目標値へと第1の周期で繰り返し制御する制御部と、
前記人工衛星からダウンリンクで受信されるビーコン信号の受信レベルを繰り返し検知する検知部と、
前記検知された受信レベルに基づいて、前記第1の周期よりも短い第2の周期で前記目標値を繰り返し算出する算出部と
を具備
し、
前記第1の周期は、前記多値変調信号の変調多値数に基づいて、当該多値変調信号の受信側での誤りを低減すべく、前記変調多値数が多いほど長く設定される、衛星通信装置。
【請求項2】
前記第1の周期または前記第2の周期の少なくともいずれかを可変設定するためのユーザインタフェースをさらに具備する、請求項1に記載の衛星通信装置。
【請求項3】
前記
制御部は、可変可能な変化量で、前記第1の周期ごとに前記制御量を前記目標値へと制御する、請求項1に記載の衛星通信装置。
【請求項4】
前記
変化量は、前記多値変調信号の変調多値数に基づいて、当該多値変調信号の受信側での誤りを低減すべく、前記変調多値数が多いほど小さく設定される、請求項3に記載の衛星通信装置。
【請求項5】
前記変化量を可変設定するためのユーザインタフェースをさらに具備する、請求項4に記載の衛星通信装置。
【請求項6】
前記
算出部は、前記受信レベルの、可変可能なサンプル数にわたる移動平均値に基づいて前記目標値を算出する、請求項1に記載の衛星通信装置。
【請求項7】
前記
サンプル数を可変設定するためのユーザインタフェースをさらに具備する、請求項6に記載の衛星通信装置。
【請求項8】
多値変調信号から生成され、人工衛星へとアップリンクで送信される送信信号の送信レベルを制御量に基づいて設定する過程と、
前記制御量を目標値へと第1の周期で繰り返し制御する過程と、
前記人工衛星からダウンリンクで受信されるビーコン信号の受信レベルを繰り返し検知する過程と、
前記検知された受信レベルに基づいて、前記第1の周期よりも短い第2の周期で前記目標値を繰り返し算出する過程と
を具備し、
前記第1の周期は、前記多値変調信号の変調多値数に基づいて、当該多値変調信号の受信側での誤りを低減すべく、前記変調多値数が多いほど長く設定される、送信レベル制御方法。
【請求項9】
前記制御量は、可変可能な変化量で、前記第1の周期ごとに前記目標値へと制御される、請求項8に記載の送信レベル制御方法。
【請求項10】
前記
変化量は、前記多値変調信号の変調多値数に基づいて、当該多値変調信号の受信側での誤りを低減すべく
、前記変調多値数が多いほど小さく設定される、請求項9に記載の送信レベル制御方法。
【請求項11】
前記
目標値は、前記受信レベルの、可変可能なサンプル数にわたる移動平均値に基づいて算出される、請求項8に記載の送信レベル制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、衛星通信装置および送信レベル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信衛星(Communication Satellite:CS)や放送衛星(Broadcasting Satellite:BS)を利用して、SNG(Satellite News Gathering)等の多様なサービスが提供されている。この種の衛星は、地上局等からアップリンクで送信された映像/音声信号を静止軌道上で中継し、地上に向けダウンリンクで再送信する。衛星は、Kuバンド(14GHz/12GHz)の電波で地上側の設備と通信する。Kuバンドは雨滴により大きく減衰するので、雲や降雨により衛星回線が切断されるおそれがある。これに対処するため、TPC(Transmission Power Control)と称する技術がある。
【0003】
TPCは、衛星から一定電力で送信される基準信号(ビーコン信号等)の地上での受信レベルの強度に応じて降雨減衰量を算出し、それに応じて、アップリンクの送信レベルを補正するという技術である。衛星のトランスポンダへの入力レベルをTPCにより安定化させることで、地上側におけるダウンリンクの受信レベルも安定化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-46286号公報
【文献】特開平4-275726号公報
【文献】特開平5-252084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の衛星通信システムでは64APSK(Amplitude Phase Shift Keying)、32APSKなどの多値振幅位相変調方式が用いられる。これらの方式は伝送ビットレートが高い反面、シンボル間の振幅、位相距離が接近しているので受信レベルの急激な変動に弱い。殊に天候の急変等でTPCによる送信レベルの補正量が大きくなると、信号レベルの急激な変化に受信側の復調機能が追従できず、瞬間的な受信断が生じることがある。これを避けるため送信側ではTPC補正の周期を比較的長くとり、送信レベルの急峻な変化を抑制するようにしていた。
【0006】
しかしながら送信レベルの変化を緩やかにすることは、送信レベルを減少させる必要があるときに、逆に問題となる。つまり天候が急速に回復する場合である。このような場合には、増加させた送信レベルを速やかに抑制できなければアップリンクの送信レベルが既定値を超えてしまう。既定値を上回る強度の電波が衛星に送信されると衛星(トランスポンダ等)に過大な負担がかかり、衛星の性能劣化や深刻な障害を発生させる要因となる。送信レベルを急速に抑圧できることが求められる。
【0007】
このように、TPCを採用する衛星通信システムには送信レベルの制御に関して互いに相反する要請があり、これらを両立できる、新たな技術の提供が要望されている。
そこで、目的は、気象条件への耐性を高めた衛星通信装置および送信レベル制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、衛星通信装置は、変調部、送信信号生成部、レベル設定部、制御部、検知部、および、算出部を具備する。変調部は、符号化された伝送信号から多値変調信号を生成する。送信信号生成部は、人工衛星へとアップリンクで送信される送信信号を多値変調信号から生成する。レベル設定部は、送信信号の送信レベルを制御量に基づいて設定する。制御部は、制御量を目標値へと第1の周期で繰り返し制御する。検知部は、人工衛星からダウンリンクで受信されるビーコン信号の受信レベルを繰り返し検知する。算出部は、検知された受信レベルに基づいて、第1の周期よりも短い第2の周期で目標値を繰り返し算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係わる衛星通信装置を適用可能な衛星通信システムの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、気象条件により通信環境が影響を受けることを説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、衛星100からビーコン信号が送出されていることを説明するための概念図である。
【
図4】
図4は、基地局20に備わる衛星通信装置200の一例を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、メモリ70に記憶されるデータ、およびプロセッサ60により実現される機能の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、操作部90のLCDパネル90aに表示される設定画面の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係わる衛星通信装置200の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8A】
図8Aは、晴天時に観測されるビーコン信号の受信レベルの一例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、天候の悪化時に観測されるビーコン信号の受信レベルの一例を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、天候の回復時に観測されるビーコン信号の受信レベルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
衛星通信システムの地上側装置(地球局)は、アップリンクにおける降雨減衰量を補償するためのTPC機器、もしくはTPC機能を備える。TPCは、衛星から一定レベルで送信される信号(ビーコン信号等)の受信強度からダウンリンクでの降雨減衰量を算出する。そして、その値を基準としてアップリンクでの降雨減衰量を求め、送信電力の補正量を算出するという方式である。
【0011】
TPC機能を専用の機器(ハードウェア)にて実現する装置がある一方で、TPCをいわばソフトウェアのアルゴリズムのみで実現するケースもある。この種の装置は、ビーコン信号の受信レベル情報を基準として自らの送信レベルを算出し、周波数変換装置を含む送信信号生成部に送信レベルを適用することで、専用機器を必要とせずにTPCを実現する。
【0012】
近年の衛星通信システムでは、高画質、高圧縮、狭帯域伝送等のニーズから、64APSK、32APSKなどの多値振幅位相変調が多用されることから、受信レベルの急峻な変動に対して脆弱になっていると言わざるを得ない。加えて、近年の気象の激甚化(いわゆるゲリラ豪雨)により、ブロックノイズの発生や瞬断等の可能性が高まっている。特に、ニュース素材を取り扱うSNGのようなアプリケーションでは画像にノイズが混じると台無しで、最初から通信をやり直す事態に陥ることもある。以下では、このような不具合を解決可能な技術について説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係わる衛星通信装置を適用可能な衛星通信システムの一例を示す図である。衛星通信システムは、静止軌道上の人工衛星(衛星)を介して互いに通信する、複数の地球局を備える。この種のシステムは、例えば、災害現場のライブ映像を、その現場に設置された衛星通信装置から送信し、複数の県庁所在地等の地球局にて同時受信することができる。これにより災害状況を迅速かつ正確に知ることができる。
【0014】
図1において、基地局20から衛星100に向けアップリンク送信された信号は、衛星100を経由し、衛星100から地上に向けてダウンリンク送信される。衛星100で中継された信号は、地上の車載局10や受信局30(31~3N)で受信される。車載局10は、例えば災害現場等に派遣される。基地局20は県庁所在地などに設置され、受信局30は山間部や地方の自治体等に設置される。車載局10、基地局20、受信局30のいずれもが衛星通信装置を備えることができる。実施形態では基地局20に備えられる衛星通信装置について説明する。
【0015】
図2に示されるように、基地局20の上空に雲がかかったりすると、基地局20と衛星100との間の通信リンクが物理的に阻害され、基地局20からのアップリンク信号が十分なレベルで衛星100に到達しなくなる。これに応じてダウンリンク信号の電力レベルも低下して、車載局10、受信局30において受信障害の発生するおそれがある。受信障害を防ぐためには、アップリンク信号の降雨減衰量分だけ、基地局20側で送信電力を補正してアップリンク信号を送信する。
【0016】
図3に示されるように、衛星100は、ビーコン信号を継続的に、規定されたレベルでダウンリンク送信する。このビーコン信号の受信レベルを検知、常時監視することで、地上局は、衛星100との間の降雨減衰量を把握することができる。その結果に基づいて、TPCは、アップリンク信号の送信レベルを制御する。
【0017】
図4は、基地局20に備わる衛星通信装置200の一例を示す機能ブロック図である。衛星通信装置200は、送信部40、受信部50、プロセッサ60、メモリ70、およびこれらを接続する内部バス80を備える。内部バス80にはユーザインタフェースとしての操作部90が接続され、衛星通信装置200の各機能を操作部90から設定できるようになっている。
【0018】
プロセッサ60は、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等であり、メモリ70は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等として実現される。すなわち衛星通信装置200は、ハードウェアとしてのプロセッサおよびメモリを備える、コンピュータである。
【0019】
図4において、MPEG2-TS(Moving Picture Experts Group 2 - Transport Stream)やH.265/HEVC(High Efficiency Video Coding)等の符号化方式により符号化された映像・音声・データ素材等を含む伝送信号が、送信部40の変調部(MOD)45に入力される。変調部45は、この伝送信号からN-APSK等の多値変調信号を生成する。ここで、Nは16,32,64等に代表されるが、これ以外の多値数Nの変調方式もあり得る。また、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの方式を用いることも可能である。
【0020】
多値変調信号は、アップコンバータ(U/C)44に入力され、衛星100へとアップリンク送信される周波数に変換される。これにより送信信号が生成される。
ここで、アップコンバータ44はアッテネータ(ATT)44aを備える。アッテネータ44aは、プロセッサ60から与えられる制御量(TPC補正値(a))に基づいて、送信信号の送信レベルを設定する。送信信号は、アップコンバータ44から電力増幅部(SSPA:Solid State Power Amplifier)43および導波管切替部42を経由してアンテナ装置41に入力される。導波管切替部42は、複数の送信部40でアンテナ装置41を共用するために設けられ、送信部40が1系統のみであれば省略することができる。
【0021】
アンテナ装置41は、サーキュレータの機能を持つFEED41aとアンテナ部41bを備える。電力増幅部43からの送信信号は、FEED41aを経由してアンテナ部41bから衛星100に向けアップリンクで送信される。
【0022】
一方、衛星100からダウンリンクで到達した信号はアンテナ部41bで受信され、FEED41aを経由して受信部50に入力される。この信号は受信部50の受信増幅器(LNC:Low Noise Converter)51で増幅されたのち、分配器52でビーコンレシーバ53と受信機器54とに振り分けられる。受信機器54は、ダウンリンク信号から各種のデータを受信復調する。
ビーコンレシーバ53は、衛星100からのビーコン信号を常時モニタし、ビーコン信号のビーコン信号の受信レベル(b)をプロセッサ60に通知する。
【0023】
図5は、メモリ70に記憶されるデータ、およびプロセッサ60により実現される機能の一例を示すブロック図である。
【0024】
プロセッサ60は、実施形態に係わる処理機能として、レベル設定機能60a、制御機能60b、検知機能60c、算出機能60d、および、設定値可変機能60eを備える。これらの機能は、メモリ70に記憶されたプログラム70aに記述された命令をプロセッサ60が実行することで、実現される。すなわちプロセッサ60は、プログラム70aにより、レベル設定部、制御部、検知部、算出部、および、設定値可変部として機能する。
【0025】
レベル設定機能60aは、TPCを動作する晴天時(減衰量0)の基準レベルを設定/登録する機能である。例えば晴天時のビーコンレベルが-60dBmである場合、アッテネータの減衰量の基準値(TPC基準値)として20dBが設定され、TPCの補正係数として1.25が設定される。
【0026】
制御機能60bは、TPC補正値(a)を、別途算出された目標値へと、予め設定された安定期間の周期(第1の周期)でアッテネータ44aに繰り返し与えて制御する。安定期間の設定値は、例えば
図6に示されるようなユーザインタフェースを用い操作部90から入力され、安定期間設定値70bとしてメモリ70に記憶される。
【0027】
図6のユーザインタフェースは、操作部90の例えばLCD(Liquid Crystal Display)パネル90aに表示される。LCDパネル90aには算出周期、移動平均回数、最小レベル変化量、および、安定期間を設定するための領域が表示される。各領域にはそれぞれ矢印マーク(黒塗りの△/黒塗りの▽)が対応付けられ、矢印マークをタッチすることで数値をアップ/ダウンさせることができる。実施形態では、安定期間設定値=2000[msec:ミリ秒]とする。
【0028】
プロセッサ60の検知機能60c(
図5)は、衛星100からダウンリンクで受信されるビーコン信号の受信レベル(b)を繰り返し検知する。検知された値は、受信レベル70cとしてメモリ70に記憶される。
【0029】
算出機能60dは、検知機能60cにより検知された受信レベル(b)に基づいて、安定期間設定値(第1の周期)よりも短い算出周期(第2の周期)で、TPC補正値(a)の目標値を繰り返し算出する。この算出周期の設定値は、
図6のLCD画面を用いて操作部90から入力され、算出周期設定値70dとしてメモリ70に記憶される。実施形態では、算出周期設定値=800[msec]とする。
ここで、算出機能60dは、予め設定されたサンプル数にわたる受信レベル(b)の移動平均値に基づいて、上記目標値を算出する。
【0030】
設定値可変機能60eは、各種の設定値を可変させるためのユーザインタフェース機能群である。すなわち設定値可変機能60eは、例えば、安定期間、算出周期のいずれか、または両方を可変設定するためのユーザインタフェースを、LCDパネル90aに表示する。また、設定値可変機能60eは、制御量としてのTPC補正値(a)を目標値へと制御する際のステップ(変化量)を設定するためのユーザインタフェースを、LCDパネル90aに表示する。
【0031】
図6に示されるように、最小レベル変化量を設定するための領域がLCDパネル90aに設けられる。最小レベル変化量の設定値は、
図6のLCD画面を用いて操作部90から入力され、最小レベル変化量設定値70eとしてメモリ70に記憶される。実施形態では、最小レベル変化量設定値=0.5[dB:デシベル]とする。つまりTPC補正値(a)を、0.5dBずつ変化させて目標値へと近づけるようにする。
【0032】
さらに、設定値可変機能60eは、LCDパネル90aに、目標値を算出するための受信レベル(b)のサンプル数(移動平均回数)を設定するためのユーザインタフェースを作成するための制御を行う。
【0033】
図6に示されるように、移動平均回数を設定するための領域がLCDパネル90aに設けられる。移動平均回数の設定値は、
図6のLCD画面を用いて操作部90から入力され、移動平均回数設定値70fとしてメモリ70に記憶される。実施形態では、移動平均回数設定値=5[回]とする。つまりビーコン信号の受信レベル(b)の、時系列で連続する5つのサンプルの平均値に基づいて、TPC補正値(a)の目標値が算出される。
【0034】
ここで、安定期間(第1の周期)、および、最小レベル変化量は、変調部45で生成される多値変調信号の変調多値数Nに基づいて、当該多値変調信号の受信側での誤りを低減すべく設定されるのが好ましい。すなわち、多値数Nが多いほど安定期間を長くとることにより、TPC補正の急峻な変化を抑制し、受信側でのショックを軽減することができる。多値数Nが多いほど最小レベル変化量を小さくすることでも、TPC補正の変化を緩やかにできるので、同様の効果を得られる。次に、上記構成における作用を説明する。
【0035】
図7は、実施形態に係わる衛星通信装置200の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7において、衛星通信装置200は、受信したビーコン信号の受信レベル(ビーコンレベル)を繰り返し取得する(ブロックB1)。これにより
図8A~
図8Cに示されるように、受信レベルの時系列が取得される。
図8Aは晴天時におけるビーコンレベルの一例を示し、例えば-60[dBm]のビーコンレベルが安定して取得されている。ここで、ビーコンレベルの観測の周期は、制御目標値の算出周期で、移動平均回数の個数以上のサンプル数を得るとする。すなわち、実施形態では800[msec]毎にビーコンレベルを検知し、5個のサンプルを取得するのに初回4秒が必要になり、その後は800[msec]の観測周期で5個のサンプルを更新するようにする。
【0036】
次に衛星通信装置200は、補正目標値を算出する処理を実行する(ブロックB2)。ブロックB2において、衛星通信装置200は、ビーコンレベルの5回にわたる移動平均値を算出する。例えば
図8Aの状態では、移動平均値=-60dBmとなり、最大のビーコンレベル(クリアスカイレベル)が得られている。よってアッテネータ44aに最大の減衰量(例えば20dB)がセットされる。この20dBが補正目標値である。
【0037】
図8Bは、天候が悪化してゆく状態で観測されるビーコンレベルの一例を示す。
図8Bにおいてはビーコンレベルが次第に低下してゆく様子が示され、例えば移動平均値=-64.0dBmが算出される。この場合、アッテネータ44aでの減衰を弱めて送信信号の出力レベルを上げる必要がある(減衰量DOWN)。
【0038】
ビーコンレベルがクリアスカイレベルから4dBm低下したので、これに既定の係数1.25を乗算し(4×1.25=5)、この値を20dBから減算して、目標値15.0dBが得られる。つまり
図8Bのケースでは、アッテネータ44aの減衰量の目標値として15.0dBが算出される。仮に、移動平均値=-70.0dBmまで低下すると、アッテネータ44aの減衰量の目標値として、20-{(70-60)×1.25}=7.5dBが算出される。この目標値は、例えば800msec間隔で算出され更新される。
【0039】
ここで、係数1.25について説明する。すなわち、ビーコンレベルの減衰量とアッテネータ44aの減衰量とは、異なる値になるのが普通である。これは、減衰の傾きが周波数により異なるからである。例えば、12GHz帯で受信されるビーコン信号で計算した劣化量は、送信帯域である14GHz帯ではおおよそ1.25倍に補正されることがわかっている。このように、受信帯域と送信帯域とで信号の減衰特性が異なることによる減衰量の変換は、例えばレベル設定機能60aにより処理される。
【0040】
なお、移動平均値と減衰量との間には一定の関係があり、例えば予めテーブル化してメモリ70に記憶される。つまり移動平均値の値が低くなれば、減衰量も減少する(出力レベルが上がる)方向にフィードバックされる。この対応関係は、例えばシミュレーション等で予め算出されることができる。
【0041】
次に、衛星通信装置200は、TPCレベルを制御する処理を実行する(ブロックB3)。このブロックは、アッテネータ44aの減衰量を上記算出された目標値へと制御する過程と、衛星100へのアップリンク送信信号の送信レベルを、アッテネータ44aの減衰量に基づいて設定する過程とを含む。
【0042】
すなわち衛星通信装置200は、一例として、アッテネータ44aの減衰量を20.0dBから15.0dBまで、2000msecごとに0.5dBのステップ(刻み)で徐々に変化させる。ここで、2000msecは
図6に示される安定期間であり、0.5dBは最小レベル変化量である。
【0043】
図8Cは、天候が回復してゆく状態で観測されるビーコンレベルの一例を示す。
図8Cにおいてはビーコンレベルが次第に元に戻る様子が示され、例えば移動平均値=-62.0dBmが算出される。この場合、直ちにアッテネータ44aでの減衰を強めて送信信号の出力レベルが既定値を超えないようにする必要がある(減衰量UP)。
図8Cのケースでは、アッテネータ44aの減衰量の目標値として、20-{(62-60)×1.25}=17.5dBが算出される。
【0044】
図8Bの状態から
図8Cの状態に至る過程で、アッテネータ44aの減衰量の目標値は15.0dBから17.5dBに変化することになる。ここでも、衛星通信装置200は、アッテネータ44aの減衰量を15.0dBから17.5dBまで、2000msecごとに0.5dBのステップで徐々に変化させてゆく。そして、ブロックB1~ブロックB3の手順は繰り返し実行される。
【0045】
以上説明したようにこの実施形態では、アッテネータ44aの減衰量を、第1の周期で比較的緩やかに、かつ小さなステップで制御目標値へと制御する。このようにすることで、多値変調信号の変調多値数が増加した場合でも、信号レベルの変化を和らげ、受信側でのショックを軽減して伝送誤りの発生を抑圧することができる。
【0046】
一方で、制御目標値の算出それ自体は、第1の周期よりも高速に実行し、常に更新し続ける。目安としては、減衰量の制御が2000msec周期であれば、目標値を800msecの周期で繰り返し算出する。これにより、天候の急速な変化にも十分に速い速度で追従することができ、アップリンク送信レベルが既定値を超えることを予防することが可能になる。
【0047】
既存の技術では、アップリンク送信レベルが既定値を超えた状態を経過することによって初めて負のフィードバックが作用するという、アルゴリズム設計であった。このため、例えば数秒間にわたって規定レベル以上の送信信号が衛星100に送信されてしまい、衛星100に過大な負荷をかける恐れがあった。
【0048】
これに対し実施形態によれば、TPCのための補正目標値を、移動平均値により高速で算出し、常時更新する。これにより、急激な天候の変化に対する追従性を向上させることができる。また、制御目標値への制御については、多値変調方式に耐えうる最小限のレベル変化量、および安定期間を確保することで、受信信号の急峻なレベル変動に耐性を持たせることが可能になる。
【0049】
つまり実施形態によれば、TPC補正の急峻な変化の抑制と、天候の変化へのTPC補正の即応性とを両立することができる。従って、多値振幅位相変調でも瞬断することなく安定的な衛星通信が可能となる。また、今後更に多値化の技術が進歩した場合もアルゴリズムを応用して適用することが見込める。さらに、ゲリラ豪雨などの急激な天候の変化に対しても安全な衛星通信が可能となる。実施形態のアルゴリズムを応用することで、地域の天候の特性などに応じた対応が可能となる。
これらのことから、気象条件への耐性を高めた衛星通信装置および送信レベル制御方法を提供することが可能となる。
【0050】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば上記説明では、実施形態に係わる機能を基地局20に実装する例を示した。これに代えて、
図5に示される機能ブロックを車載局10や受信局30に実装することももちろん可能である。
【0051】
また、目標値の算出周期(800msec)、移動平均回数(5回)、最小レベル変化量(0.5dB)、安定期間(2秒)は、いずれも異なる値に設定できることはもちろんである。システムのハードウェア、多値変調方式、天候の条件など、様々な条件に柔軟に対応し、幅広い条件での応用が可能である。例えばプロセッサ60の能力が十分であれば、目標値の算出周期を400msec、あるいは200msec等に短縮しても良い。さらに、これらの値を、変調多値数Nに応じて予めデフォルトで設定しても良い。
【0052】
さらに、システムの運用途中においても、変調多値数Nや変調方式を切り替え設定することも可能である。その際、互いに異なる第1のニュース素材と第2のニュース素材との間に変調多値数Nや変調方式を切り替えるようにするのが運用上好ましい。
【0053】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10…車載局、20…基地局、30…受信局、40…送信部、41…アンテナ装置、41a…FEED、41b…アンテナ部、42…導波管切替部、43…電力増幅部、44…アップコンバータ、44a…アッテネータ、45…変調部、50…受信部、51…LNC、52…分配器、53…ビーコンレシーバ、54…受信機器、60…プロセッサ、60a…レベル設定機能、60b…制御機能、60c…検知機能、60d…算出機能、60e…設定値可変機能、70…メモリ、70a…プログラム、70b…安定期間設定値、70c…受信レベル、70d…算出周期設定値、70e…最小レベル変化量設定値、70f…移動平均回数設定値、80…内部バス、90…操作部、90a…LCDパネル、100…衛星、200…衛星通信装置。