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  • 特許-体腔液濃縮器の評価試験方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】体腔液濃縮器の評価試験方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20231204BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019239139
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106717
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】徳永 順子
(72)【発明者】
【氏名】安部 晃生
(72)【発明者】
【氏名】重藤 琴江
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154809(JP,A)
【文献】特開2009-297242(JP,A)
【文献】特開昭59-186603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質を含む試験液を体腔液濃縮器に送液し、濃縮液と濾液に分離する濃縮工程と、
前記濃縮工程の後に前記体腔液濃縮器に残留する残留試験液を回収する残液回収工程と、
前記試験液中の成分と、前記濃縮液及び/または前記濾液中の成分を測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する計算工程と、を含み、
前記試験液の総蛋白質濃度が0.5g/dL以上2.4g/dL以下であり、
前記試験液における血球数が1×10 2 個/μL以下であることを特徴とする体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項2】
前記試験液の総蛋白質濃度が0.5g/dL以上0.9g/dL以下である請求項1に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項3】
前記試験液の総蛋白質濃度が2.0g/dL以上2.4g/dL以下である請求項1に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項4】
前記試験液のアルブミンとグロブリンの比(A/G比)が0.8以上1.5以下である請求項1に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項5】
前記体腔液濃縮器は、多孔膜と、前記多孔膜の一次側に連通する入力ポートと、前記多孔膜の一次側に連通する第1出力ポートと、前記多孔膜の二次側に連通する第2出力ポートと、を有し、
前記濃縮工程は、
前記試験液を前記入力ポートへ送液し、前記第1出力ポートから前記濃縮液を回収する、請求項1~4のいずれかに記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項6】
前記蛋白質がアルブミン、α1-MGのうちの少なくともいずれかである請求項1~5のいずれかに記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項7】
前記蛋白質回収性能はアルブミン回収率である請求項1~6のいずれかに記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項8】
前記蛋白質回収性能はアルブミン回収率であり、
前記計算工程は、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のアルブミンを測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する請求項7に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項9】
前記アルブミン回収率は式(3)で表される請求項8に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
式(3)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液中のアルブミン量+残留試験液中のアルブミン量)/試験液中のアルブミン量}×100
【請求項10】
前記アルブミン回収率は式(4)で表される請求項8に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
式(4)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のアルブミン濃度+残留試験液量×残留試験液中のアルブミン濃度)/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【請求項11】
前記蛋白質回収性能はα1-MG回収率又はα1-MG透過率である請求項1又は4に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項12】
前記計算工程は、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のα1-MGを測定し、前記体腔液濃縮器の前記α1-MG回収率を算出する請求項11に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
【請求項13】
前記α1-MG回収率は式(9)で表される請求項12に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
式(9)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液中のα1-MG量+残留試験液中のα1-MG量)/試験液中のα1-MG量}×100
【請求項14】
前記α1-MG回収率は式(10)で表される請求項12に記載の体腔液濃縮器の評価試験方法。
式(10)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のα1-MG濃度+残留試験液量×残留試験液中のα1-MG濃度)/(試験液量×試験液中のα1-MG濃度)}×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療機器分野に属するものであり、医療機器の評価試験方法に関し、特に、ヒト体腔液を処理するための装置又は部品の評価及び試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
難治性腹水症の治療法として、患者から腹水を取り出し、当該腹水から細菌やがん細胞などの病因物質を除去し、アルブミンなどの有用成分を残した状態で除水し、当該除水後の濃縮液を体内に戻す腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)がある。
【0003】
腹水が貯留する患者は、大別すると肝硬変などの疾患が元で貯留する肝性腹水患者と、胃癌、卵巣癌、大腸癌などのがんが元で貯留するがん性腹水患者に分けられる。従来、上記治療法は主に肝性腹水患者に対して施行されることがほとんどであったが、近年、がん性腹水患者に対して上記治療法を実施することの治療効果が認められつつあり、がん性腹水患者に対する施行機会が増加している。
【0004】
上記治療法において、一般的に腹水処理装置が用いられている。この腹水処理装置には、腹水バッグと、濾過器と、濃縮器と、濃縮腹水バッグをこの順番で直列的に接続し、落差或いはポンプにより腹水を流して腹水を濾過、濃縮するものが用いられている。
【0005】
例えば、肝硬変などの腹水や胸水(以下、腹水と総称する)の溜まり易い患者に対して、腹水中のタンパク質を利用して患者の血中タンパク質濃度を上昇させるため、貯留部に針を刺し体外に排出した腹水を、中空糸膜などを用いた2種のフィルタにより濾過濃縮処理し、濃厚タンパク質溶液を得、これを患者に点滴する腹水濾過濃縮再静注法が行われている。2種のフィルタの1つ目は腹水中に含まれるがん細胞、血球成分などの細胞成分を除くための濾過フィルタであり、細胞成分を通過させず、水分、タンパク質などの溶質成分は通過させるような孔径を有する膜が用いられる。一方、もうひとつのフィルタは希薄なタンパク質濃度である腹水から除水し、タンパク質を濃縮するための濃縮フィルタであり、タンパク質成分はほとんど通過せず、水分、電解質などは通過させる膜が用いられる。通常、利便性の観点から、濾過器で細胞成分を濾別した腹水を濃縮器で濃縮する方法が取られ、これらを連続して行う装置が用いられる。
【0006】
また、このような腹水処理装置として、特許文献1には、濾過処理と再循環処理の切り替えを自動化するシステムを有する腹水処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-188427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
体腔液の処理に関して、様々な実用的機器や装置が発表されており、このような機器や装置は実際の使用において非常に高い安全性及び信頼性が求められている。前述のように、濃縮器は、体腔液中の人体に有用な栄養成分を濃縮するために使用され、通常、濃縮後の体腔液は、ウイルス成分及び余分な水分が除去されたと考えられるため、人体にできるだけ早く、直接戻すことが常に期待されている。
【0009】
実際に濃縮器を用いて腹水の濃縮を行う際に、通常、機器や装置による種々の制御手段を用いて濃縮器を制御する。しかしながら、本発明者らは以下のことを知見した。
【0010】
まず、機器や装置自体の構造、又は主要部品のデータは、濃縮能力及び効果に関する参考にはなるが、実際の操作において、適切なパラメータになるまで濃縮器を調整することは場合によっては困難になり、また、操作の安定性にも問題が起こり得る。
【0011】
そして、濃縮器は使用中において、所望の効果を達成するために種々の制御手段により調整されるが、濃縮器自体の材料(通常は所定の孔径を有する多孔膜材料)も、体腔液の濃縮効果に重要な影響を与えている。一方、本発明者らは、この材料の選択について、これまでは膜材料のメーカーによるパラメータのみで判断するが、膜材料のメーカーによるパラメータは通常、医療分野以外の試験手段(つまり物理的・化学的試験)により得られたものであることが分かった。通常、膜材料が選択された後、これらの膜材料自体がヒト体腔液の処理に関して合格のものと黙認される。そのため、濃縮器使用の安全性及び信頼性の向上は主に、上述のように濃縮器の動作状態/パラメータを調整するか、又は濃縮器の構造を調整することによって行われる。
【0012】
さらに、実際の使用において、濃縮器は様々な複雑な状況があり得る。例えば、合格のものと認められた濃縮器でも、濃縮の際に、信頼できる濃縮効果がなかなか達成できず、濃縮時間の延長や人体栄養物質の余計な流失を招く場合がある。また、腹水の処理において、濃縮器使用により処理される体腔液が通常、上流の濾過器により濾過された体腔液であるため、例えば肝硬変によるものか、がんによるものかという形成の原因によって、体腔液の成分が異なり、そして、上流の濾過器及びその濾過条件によって成分が異なる場合がある。そのため、特定の患者の処理時、又は特定の上流の濾過器と組み合わせて使用する時に所望の処理効果を達成できる濃縮器であっても、患者又は上流の濾過器が変わると、使用時に問題が生じる可能性があり、濃縮器の適用性が問われる。そのため、濃縮器の適用性を評価するための試験方法が切望されている。
【0013】
濃縮器を含む体腔液処理装置は、閉じられた一対一の系であるため、濃縮器による体腔液の処理に異常が出る(例えば、濃縮器の目詰まりなどにより濃縮能力が異常に低下する)と、通常は簡単な操作により装置の調整や修理を行うことができない。普通は有効な解決方法がないため、通常、濃縮器、ひいては上流の濾過器まで交換することが必要になり、これによる経済的コスト及び実際の損失は簡単に受け止められるものではない。また、有効な解決方法がないため、このような問題は一般に不可避的なシステム的リスクとして認識される。
【0014】
上述した問題について、本発明者らは、従来では孤立する材料のパラメータ、制御手段、装置の構成等の経験に基づいて濃縮器の性能を判断することは、上記システム的リスクの起因であると推測した。さらに検討した結果、このようなシステム的リスクは不可避的なものではないことが分かった。本発明が解決しようとする課題は、体腔液濃縮器の使用効果を有効に評価できる全体的で系統的な評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の発明を実施することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0016】
本発明は、
蛋白質を含む試験液を体腔液濃縮器に送液し、濃縮液と濾液に分離する濃縮工程と、
前記試験液中の成分と、前記濃縮液及び/または前記濾液中の成分を測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する計算工程と、
を含む体腔液濃縮器の評価試験方法を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記試験液における血球数が1×102個/μL以下である。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記試験液の総蛋白質濃度が0.5~2.4g/dLである。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記試験液の総蛋白質濃度が0.5~0.9g/dLである。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記試験液の総蛋白質濃度が2.0~2.4g/dLである。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記試験液のアルブミンとグロブリンの比(A/G比)が0.8~1.5である。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記体腔液濃縮器は、多孔膜と、前記多孔膜の一次側に連通する入力ポートと、前記多孔膜の一次側に連通する第1出力ポートと、前記多孔膜の二次側に連通する第2出力ポートと、を有し、
前記濃縮工程は、
前記試験液を前記入力ポートへ送液し、前記第1出力ポートから前記濃縮液を回収する。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記蛋白質がアルブミン、α1-MGのうちの少なくともいずれかである。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記蛋白質回収性能はアルブミン回収率である。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン回収率は式(1)で表される。
式(1)・・・アルブミン回収率(%)=(濃縮液中のアルブミン量/試験液中のアルブミン量)×100
【0026】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン回収率は式(2)で表される。
式(2)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のアルブミン濃度 )/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0027】
いくつかの実施形態において、前記濃縮工程の後に前記体腔液濃縮器に残留する残留試験液を回収する残液回収工程をさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記蛋白質回収性能はアルブミン回収率であり、計算工程は、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のアルブミンを測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン回収率は式(3)で表される。
式(3)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液中のアルブミン量+残留試験液中のアルブミン量)/試験液中のアルブミン量}×100
【0030】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン回収率は式(4)で表される。
式(4)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のアルブミン濃度+残留試験液量×残留試験液中のアルブミン濃度)/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0031】
いくつかの実施形態において、前記濃縮工程の後に前記濾液を回収する濾液回収工程をさらに含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記蛋白質回収性能はアルブミン透過率であり、前記計算工程は、前記試験液および前記濾液中のアルブミンを測定し、前記アルブミン透過率を算出する。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン透過率は式(5)で表される。
式(5)・・・アルブミン透過率(%)=(濾液中のアルブミン量/試験液中のアルブミン量)×100
【0034】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン透過率は式(6)で表される。
式(6)・・・アルブミン透過率(%)={(濾液量×濾液中のアルブミン濃度)/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0035】
いくつかの実施形態において、前記蛋白回収性能はα1-MG回収率又はα1-MG透過率である。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記計算工程は、前記試験液、前記濃縮液中のα1-MGを測定し、前記濃縮器の前記α1-MG回収率を算出する。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(7)で表される。
式(7)・・・α1-MG回収率(%)=(濃縮液中のα1-MG量/試験液中のα1-MG量)×100
【0038】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(8)で表される。
式(8)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のα1-MG量)/(試験液量×試験液中のα1-MG量)}×100
【0039】
いくつかの実施形態において、前記濃縮工程の後に前記体腔液濃縮器に残留する残留試験液を回収する残液回収工程をさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、計算工程は、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のα1-MGを測定し、前記濃縮器の前記α1-MG回収率を算出する。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(9)で表される。
式(9)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液中のα1-MG量+残留試験液中のα1-MG量)/試験液中のα1-MG量}×100
【0042】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(10)で表される。
式(10)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のα1-MG濃度+残留試験液量×残留試験液中のα1-MG濃度)/(試験液量×試験液中のα1-MG濃度)}×100
【0043】
いくつかの実施形態において、前記濃縮工程の後に前記濾液を回収する濾液回収工程をさらに含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記蛋白質回収性能はα1-MG透過率であり、前記計算工程は、前記試験液および前記濾液中のα1-MGを測定し、前記α1-MG透過率を算出する。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG透過率は式(11)で表される。
式(11)・・・α1-MG透過率(%)=(濾液中のα1-MG量/試験液中のα1-MG量)×100
【0046】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG透過率は式(12)で表される。
式(12)・・・α1-MG透過率(%)={(濾液量×濾液中のα1-MG濃度)/(試験液量×試験液中のα1-MG濃度)}×100
【発明の効果】
【0047】
本発明は体腔液濃縮器の評価試験方法を提供し、上記発明の実施により、以下の効果を達成できる。
(1)本発明による体腔液濃縮器の試験方法は、濃縮器の最初の評価試験方法であり、全体的で系統的な評価方法である。このような方法は当業界で知られている文献においては報告がなく、当業界で使用される濃縮器の信頼可能な評価試験方法を提供できる。
(2)本発明による体腔液濃縮器の評価試験方法は、ヒト体腔液を濃縮する際の濃縮器の処理効果及び処理能力を的確に反映でき、このタイプ・ロットの濃縮器が患者に医療サービスを確実かつ安全に提供できるかを評価できるため、濃縮器使用中のバラツキや事故を極力防止し、患者の医療負担及び医療リスクを軽減することができる。
(3)本発明による体腔液濃縮器の評価試験方法は、幅広く適用でき、すなわち、肝硬変に起因する腹水の濃縮器に対する評価のみならず、がんに起因する腹水の濃縮器に対する評価にも適用できる。
(4)本発明による体腔液濃縮器の評価試験方法は、便利な操作性を有し、濃縮器の迅速な試験が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態における濃縮器の構造を示すものである。
図2】本発明の一実施形態における評価試験に使用する装置を示すものである。
図3】本発明の実施例及び参考例における各濃縮器の稼働時のTMPデータグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する技術的事項の説明は、本発明の代表的な実施形態、具体例に基づくものであるが、本発明はこれらの実施形態、具体例に限定するものではない。また、以下のことを説明する。
本明細書において、「数値A~数値B」で表される数値範囲は、端点の数値A,Bを含むものとする。
本明細書において、「%」は、特に断りがない限り、重量又は質量百分率を意味する。
本明細書において、「てもよい」とは、その処理をしてもよく、しなくてもよいことを意味する。
本明細書において、「所望により」又は「所望による」とは、その物質、成分、工程、条件等の使用又は不使用を意味する。
本明細書において、単位の名称はすべて国際標準単位の名称である。
本明細書において、特に断りがない限り、「複数」とは、二以上を意味する。
本明細書において、「いくつかの(好ましい)実施形態」、「別の(好ましい)実施形態」、「実施形態」等とは、この実施形態に関係する特定の要素(例えば、要件、構造、性質及び/又は特性)が、ここに記載の少なくとも1つの実施形態に含まれるとともに、他の実施形態においても存在するか又は存在しないことを意味する。また、上記要素は各実施形態において任意の適切な態様で組み合わせることができる。
【0050】
本発明は、濃縮工程と、計算工程とを含む体腔液濃縮器の評価試験方法を提供する。
前記濃縮工程は、蛋白質を含む試験液を体腔液濃縮器に送液し、濃縮液と濾液に分離する。前記計算工程は、前記試験液中の成分と、前記濃縮液及び/または前記濾液中の成分を測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する。
【0051】
<体腔液濃縮器>
本発明に適用する体腔液濃縮器(単に「濃縮器」呼ばれることもある。)は、当業界の体腔液濃縮用の任意の濃縮器であってもよい。
【0052】
図1は本発明に適用する濃縮器の典型的な構造を示している。図中、1は濃縮器本体であり、3は濃縮器の入力ポートである。実際に患者に対する治療を行う際に、上流の濾過器(図示せず)により処理された体腔液は、濃縮器の入力ポート3から濃縮器本体1に入る。これに合わせて、本発明の評価方法を実施する際に、評価方法に用いる試験液は入力ポート3から濃縮器1に入る。図1において、2は濃縮器の濃縮液出力ポート(第1出力ポート)であり、実際の使用時に、前記濃縮器により処理された濃縮液は濃縮液出力ポート2から取り出される。図1において、4は濾液出力ポート(第2出力ポート)であり、濃縮器の濃縮中に生じる濾液を取り出すためのものである。
【0053】
さらに、別の実施形態において、本発明に適用する濃縮器は、濃縮器本体1に残った体腔液を排出するための残液排出ポート(図示せず)も備える。
【0054】
濃縮器本体1内に濃縮ユニットが設けられている。本発明のいくつかの実施形態において、前記濃縮ユニットは多孔膜から選ばれたものである。多孔膜は特に限定されず、当業界の一般的な限外濾過膜を使用できる。通常、濃縮器の多孔膜の孔径は、上流の濾過器に用いられる膜の孔径より小さい。多孔膜は主に、低濃度の蛋白質溶液中の蛋白質を濃縮させる。また、蛋白質がほとんど取り除かれた主に水分である濾液が膜の他方側に抜ける。
【0055】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、本発明に適用する多孔膜は、総孔数に対する0.08μm以上0.12μm以下の孔数の比率が60%であり、好ましくは70%以上である孔径分布を有する。別の好ましい実施形態において、本発明に適用する濃縮器の限外濾過性能は85mL/分/200mmHg以上150mL/分/200mmHg以下である。限外濾過性能が85mL/分/200mmHgよりも低いと、濃縮時に濾液の排出量が少なくなり、十分に濃縮された蛋白質溶液が得られない。限外濾過性能が85mL/分間/200mmHg以上であると、目詰まりの可能性が低くなるので好適であり、より好ましくは95mL/分間/200mmHg以上である。一方、限外濾過性能が150mL/分間/200mmHgよりも高いと、蛋白質が濾液に漏れてしまい、十分な蛋白質濃度が得られない。
【0056】
多孔膜の種類は特に限定されないが、いくつかの好ましい実施形態において、濃縮効率の観点から、中空糸膜を使用する。ここでいう中空糸膜は、その形状及び寸法は特に限定されず、上記限外濾過性能を有するものであればよい。材質については、製膜時に孔径制御がしやすく且つ化学的安定性に優れる理由から、ポリスルホン系がよい。もしくは、ポリエーテルスルホンも含むスルホン系、セルロース系でもよい。ポリスルホン系高分子は、芳香族化合物であることから放射線耐性に特に優れており、また、熱や化学的処理にも非常に強く、安全性にも優れている。従って、様々な製膜条件を採択できるとともに放射線滅菌が可能となり、腹水濃縮器に用いる膜材質として特に好ましい。なお、「~系」とは、ホモポリマーのみではなく、他のモノマーとの共重合体や化学修飾された類縁体も含むという意味である。
【0057】
ここで言うポリスルホン系高分子(以下、PSfと称することがある)とは、スルホン結合を有する高分子化合物の総称であり、特に規定するものではないが、例えば、繰返し単位が下記の式(1)、式(2)、式(3)、式(4)および式(5)で示されるポリスルホン系ポリマーが挙げられる。これらの芳香環の一部に置換基が導入された修飾ポリマーであっても構わない。工業的に入手し易い点から、繰返し単位が式(1)、式(2)および式(3)で示される芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましく、中でも(1)式で示す化学構造を持つポリスルホンが特に好ましい。このビスフェノール型ポリスルホン樹脂は、例えばソルベイ・アドバンスド・ポリマーズより「ユーデル(登録商標)」の商品名で市販されており、重合度等によっていくつかの種類が存在するが、特に限定するものではない。
【化1】
【0058】
本発明におけるポリスルホン系中空糸膜は、親水性高分子により、親水性を持たせたものが好ましい。ポリスルホン系高分子だけでは中空糸膜表面が疎水性となり、このような表面にはタンパク質が吸着しやすく、タンパク質の回収性能を低下させる原因になるためである。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと称することがある)や、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、中でもPVPが親水化の効果や安全性の面より好ましい。PVPについても分子量等によっていくつかの種類が存在し、例えば、市販品としてPVPのK-15、30、90(いずれもアイ・エス・ピー(ISP)社製)等を挙げることができる。本発明で使用するPVPの分子量(粘度平均分子量)は1万~200万、好ましくは5万~150万である。親水性高分子の膜中の含有率はポリマー全量の3~20%、好ましくは3~10%である。含有率が3%以下の場合には親水化剤としての効果が薄れ、また含有率が20%を越えた場合には製膜原液の粘度が上がりすぎるため、生産上好ましくない。
【0059】
親水化されたポリスルホン中空糸膜の製造方法は、公知の乾湿式製膜技術を利用できる。まず、ポリスルホン系高分子とポロビニルピロリドンなどの親水性高分子を両方に共通の溶媒に溶解し、均一な紡糸原液を調製する。このような共通溶媒としては、親水性高分子がポリビニルピロリドンの場合には、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する)、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、あるいは上記溶媒2種以上の混合液からなる溶媒が挙げられる。なお、孔径制御のため、紡糸原液には水などの添加物を加えてもよい。
【0060】
紡糸口金のオリフィスからの紡糸原液と、チューブからの中空内液と、を同時に空中に吐出させる。中空内液は紡糸原液を凝固させる為のものであり、水、または水を主体とした凝固液が使用できる。中空内液は、目的とする中空糸膜の限外濾過性能などの性能に応じてその組成等は決めていけば良く、一概には決められないが、一般的には紡糸原液に使った溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、中空内液として、0~65重量%のDMAC水溶液などが用いられる。紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行し、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬されて凝固が完了する。その後、凝固した中空糸の洗浄工程等を経て、湿潤状態の中空糸膜を巻き取り機で巻き取り、中空糸膜の束を得、その後乾燥する。あるいは、洗浄工程を経て、続いて乾燥機内にて乾燥を行い、中空糸束を得ても良く、製造方法を特定するものではない。
【0061】
濃縮器は圧力によって動作するため、説明の便宜上、濃縮器内の多孔膜の圧力が大きい側を多孔膜の一次側といい、多孔膜の圧力が小さい側を多孔膜の二次側という。
【0062】
ここで、前記一次側では例えば蛋白質成分の濃縮が行われ、前記二次側では濾液(水分)の排出が行われる。なお、図1において、濃縮器の濃縮液出力ポート2は多孔膜の一次側の空間につながっており、濾液出力ポート4は多孔膜の二次側の空間につながっている。
【0063】
<評価方法>
本発明は少なくとも、濃縮工程及び計算工程を用いて、上記濃縮器の評価を行う。
いわゆる濃縮工程は、適切な試験液を回路を介して濃縮器の入力ポート3から濃縮器に供給し、多孔膜により試験液を濃縮液と濾液とに分離する。
【0064】
(試験液)
本発明は、試験液を提供することにより、濃縮器の濃縮及び分離能力を試験する。理論的には、被験濃縮器の実際の濃縮及び分離能力を完全に反映するために、患者の体腔液を用いて評価及び試験を行うことは最も信頼できる。しかし、このような理論は現実的ではない。
【0065】
まず、患者の体腔液を事前に入手することはほぼ不可能であり、標準的な方法により濾過器で濾過された体腔液を取得することはさらに不可能である。そして、特定の患者の体腔液を用いて濃縮器を評価すると、その評価結果は普遍性を有せず、特定の時期にある当該個別の患者のみに関するものである。さらに、濃縮器自体は通常高価なものであり、試験後の濃縮器は基本的には再利用不可であるため、このように実施する場合、患者一人は少なくとも2倍の医療費用を払うこととなる。なお、患者の体腔液が試験に使用されると、回収できないため、医療倫理の観点からも不可能である。したがって、患者の体腔液を用いて濃縮器の濃縮性能を評価することは実用上の価値を有しない。
【0066】
このように、濃縮器の評価のため、信頼可能な試験液を提供することが重要である。本発明者らは、濃縮器の最も重要な機能が、蛋白質を含む体液の濃縮と回収であるため、所定の濃度の蛋白質を含む試験液を提供することにより、濃縮器の濃縮性能を評価することができると知見した。さらに、ヒト体腔液は形成の原因によって、体腔液の組成が異なるため、実際の処理時に濃縮器に供給される上流の濾過器からの体腔液の組成も一定不変ではない。したがって、適切な濃度の試験液の選択も重要である。
【0067】
本発明において、評価方法の汎用性及び信頼性を高める観点から、蛋白質の含有量が0.5g/dL以上2.4g/dL以下の溶液、特に水溶液を試験液として採用する。蛋白質の濃度が低すぎると、濃縮の効果を評価できない(蛋白質が薄すぎると、実際に濃縮器は水を濃縮することとなり、評価試験の結果は濃縮器のヒト体腔液の現実な処理効果を反映できない)。一方、蛋白質の含有量を2.4g/dL以下とすることにより、評価試験期間(30分~1時間、患者の通常の治療時間と同じ)内にTMP(濃縮器内の多孔膜にかかる膜間圧力差)が上がることはなく、評価試験の良好な再現性を確保することができる。さらに、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記試験液における血球数を1×102個/μL以下とする。本発明者らは、血球数を上記範囲とすることにより、試験液において凝固カスケード(血栓のような塊)が発生しにくくなり、濃縮性能を再現性良く試験することができる。
【0068】
本発明者らは、試験液における蛋白質の含有量を上記範囲に設定すれば、評価結果がより一層、濃縮器の実際の使用効果に近くなることを知見した。また、蛋白質の含有量を上記範囲内で調整すれば、本発明の評価方法の汎用性を高めることができ、すなわち、肝硬変に起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能を正確に評価できるとともに、各種のがんに起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能も正確に評価できる。
【0069】
さらに、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、試験液における蛋白質の含有量を0.5g/dL以上0.9g/dL以下の範囲とする。このような試験液は、特に肝硬変に起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能を評価する場合には、より高い信頼性を有する。
【0070】
本発明の別の好ましい実施形態において、試験液における蛋白質の含有量を2.0g/dL以上2.4g/dL以下の範囲とする。このような試験液は、特に各種のがんに起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能を評価する場合には、より高い信頼性を有する。
【0071】
さらに、蛋白質の種類について、本発明において、アルブミンと、アルブミン以外の蛋白質とを含むものを使用できる。好ましくは、前記アルブミン以外の蛋白質はグロブリンである。また、試験液の成分による濃縮器の目詰まりを減らす観点から、好ましくは、前記蛋白質としてフィブリンを少量に使用するか、又はフィブリンを使用しない。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態において、前記試験液のアルブミンとグロブリンの比(A/G比)は0.8以上1.5以下である。本発明において、アルブミンとグロブリンの比を上記範囲にした試験液は、濃縮器の実際動作時の性能をより良く反映できる評価結果につながると考えられる。
【0073】
さらに、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記試験液のアルブミンとグロブリンの比(A/G比)は0.8以上1.2以下である。このような試験液は、特に肝硬変に起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能を評価する場合には、より高い信頼性を有する。
【0074】
さらに、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記試験液のアルブミンとグロブリンの比(A/G比)は0.9以上1.5以下である。このような試験液は、特に各種のがんに起因するヒト体腔液を対象とする濃縮器の実際の使用性能を評価する場合には、より高い信頼性を有する。
【0075】
また、実際に試験液を使用する際に、試験液は評価試験における高い信頼性のみならず、試験液の実際の使用及び貯蔵の容易性の観点から、成分の均一性及び安定性も期待される。そのため、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、本発明における試験液の使用時の信頼性に悪影響がないことを前提に、試験液の安定性を高める観点から、試験液に所定の含有量の抗凝固剤を含ませる。
【0076】
本発明における試験液に使用可能な抗凝固剤は、特に限定されず、ヘパリン及びその塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、ヒルジンからなる群より選択される少なくともいずれか又はこれらの混合物を使用できる。
【0077】
いくつかの好ましい実施形態において、前記抗凝固剤は少なくともヘパリン又はその塩を含む。試験液の安定性を効果的に高める観点から、前記抗凝固剤は、2単位/mL以上、好ましくは3単位/mL以上、より好ましくは5単位/mL以上のヘパリン及び/又はその塩を含む。
【0078】
本発明における評価用試験液は、上記蛋白質、所望による抗凝固剤に加えて、試験液の評価効果に影響がなければ、実際の必要に応じて他の補助的成分を含んでもよい。補助的成分としては、無機塩、pH緩衝成分が挙げられる。
【0079】
(試験液の製造方法)
本発明において、上記試験液の製造方法は特に限定されない。本発明のいくつかの実施形態において、当業界の一般的な分散方法により、上述の蛋白質を水中に分散させて、安定した分散系を形成することができる。
【0080】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、ヒト以外の動物の血漿により上記試験液を調製することができる。動物血漿は蛋白質を含み、生物学的にはヒト体腔液とある程度近似するため、動物血漿の採用により、試験液調製の簡素化を図るとともに、試験液の使用効果を高めることができる。
【0081】
上記動物血漿は特に限定されず、(やや大きい)哺乳類動物の血液を使用でき、例えば、牛、羊、豚、馬、鹿の血液を使用できる。採取しやすさの観点から、好ましくは牛又は羊の血漿を使用する。さらに、血漿は新鮮な血漿であってもよく、冷蔵保存された血漿であってもよいが、扱いやすさの観点から、好ましくは新鮮な動物血漿を使用する。また、所望により、血漿に上述の抗凝固剤、特にヘパリンを加えてもよい。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態において、動物血漿を用いる試験液調製は、0.2μm以下の平均孔径を有する濾過膜により原料液を濾過する濾過工程を含む。
【0083】
前記濾過工程において試験液に使用できる濾過膜は、特に限定されず、いくつかの実施形態において、当業界の一般的な多孔膜、典型的には中空糸膜を使用できる。
【0084】
中空糸膜束を内部に備えた筒状容器を使用できる。当該筒状容器において、原料液を前記中空糸膜束の中空糸膜の外側から中空糸膜の内側に通過させることにより、体腔液中の特定の物質を除去する。ここで、前記中空糸膜は、前記筒状容器の内部横断面において前記中空糸膜束の充填率が20%以上41%以下となるように分散して配置され、前記中空糸膜束における平均中空糸膜間距離は150μm以上である。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態において、前記中空糸膜束における最大中空糸膜間距離は300μm以上であり、前記中空糸膜束の有効膜面積は0.7m2以上3.0m2以下であり、前記中空糸膜の内径は50μm以上500μm以下である。
【0086】
さらに、別の実施形態において、前記濾過工程において使用する濾過膜はガーゼであってもよく、ガーゼは単層で使用してもよく、積層して使用してもよい。
【0087】
濾過の便宜上及びコストの観点から、好ましくは上記ガーゼを用いて前記濾過工程を行う。ガーゼにより、フィブリン及び血球をメインとする不要な成分を除去する。濾過の効果を確保するために、濾過を多数回行ってもよい。
【0088】
また、いくつかの好ましい実施形態において、例えばフィブリン等の成分による試験結果の均一性低下を防ぐため、前記濾過工程の前に原料液を凍結・溶解する工程を行ってフィブリンを除去してもよい。なお、この凍結・溶解工程及びフィブリン除去工程は、前記濾過工程の後に行ってもよい。
【0089】
濾過工程で得られた濾液に対して、上記試験液の組成となるように、さらに濃度調整工程を行う。
【0090】
濃度調整工程は、蛋白質の濃度の調整を含むが、典型的には、蛋白質を添加することにより、蛋白質の濃度を本発明における試験液の所定の範囲に調整する。
【0091】
さらに、上述の工程により得られた試験液を将来の使用に備えて容器に入れてもよい。試験液の保存条件は特に限定されないが、典型的には冷蔵保存できる。
【0092】
使用の便宜さの観点から、本発明の好ましい実施形態において、上述の工程で得られた試験液をキットとして保存してもよい。前記キットは、収容部と、前記収容部に収容される試験液とを含む。前記キットは、可撓性又は剛性のハウジングを備えてもよく、いくつかの実施形態において、外部と連通可能な出力ポート又は接続口を有する。このような出力ポート又は接続口は使用時までシールされている。別の実施形態において、前記キットは真空にしてもよく、つまり使用時まで内部が真空である。
【0093】
(評価の流れ)
本発明において、上記試験液を用いて濃縮器を評価する。
【0094】
<濃縮工程>
図2に示す装置は、本発明の一実施形態において使用する装置であり、5は試験液を収容する容器(試験液バッグ)で、6は濃縮器の処理により得られた濃縮液を収容する容器(濃縮液バッグ)で、7は濃縮器から排出された濾液を収容する容器(濾液バッグ)である。
【0095】
さらに、別の実施形態において、評価試験に使用するシステムは、図2に示す装置又は構造に加えて、所望により、濃縮液バッグ6内の濃縮液を試験液バッグに再循環する再循環装置と、前記濃縮液バッグに収容された濃縮液の量が第一の所定量となった時、濾過動作を停止させ、前記濃縮液バッグ6に収容された濃縮液を前記再循環装置により前記試験液バッグに再循環させ、そして濃縮器に再度供給して濃縮させる制御装置とを備える。
【0096】
さらに、本発明における各装置間の物質搬送は、動力装置により行ってもよく、前記動力装置の種類は特に限定されず、ローラーポンプを使用できる。
【0097】
本発明の評価試験は0~50℃の条件下で実施でき、好ましくは15~35℃の条件下で実施する。温度が低すぎると、試験液の流動性が悪くなり、濃縮器の濃縮処理も低下する。温度が高すぎると、蛋白質成分が変性するおそれがある。
【0098】
本発明の評価試験を行う際に、試験液は回路aから濃縮器本体1へ搬送され、濃縮器内の多孔膜一次側の加圧により、試験液の濃縮及び濾液(主に水分)の排出が行われる。濃縮液はさらに回路bを介して濃縮液バッグ6に供給され、濾液は回路cを介して濾液バッグ7に供給される。
【0099】
さらに、再循環装置により、濃縮液バッグ6内の濃縮液を試験液バッグ5に戻して、再濃縮及び再排出を行うことができる。
【0100】
濃縮処理後の濃縮液バッグ6内の濃縮液及び/又は濾液バッグ7内の濾液の成分を測定して、濃縮器の性能を評価する。
【0101】
<計算工程>
本発明において、計算工程により、前記試験液の成分、前記濃縮液及び/又は前記濾液の成分を測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する。
【0102】
いくつかの実施形態において、濃縮器のアルブミン回収率により濃縮器の蛋白回収性能を評価する。
【0103】
自動測定装置(日本電子株式会社製BioMajestyTMJCA-BM6050)により試験液中のアルブミンの量及び濃縮液中のアルブミンの量をそれぞれ測定し、式(1)により前記アルブミン回収率を算出する。
式(1)・・・アルブミン回収率(%)=(濃縮液中のアルブミン量/試験液中のアルブミン量)×100
【0104】
別の実施形態において、前記アルブミン回収率は式(2)により算出してもよい。
式(2)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のアルブミン濃度 )/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0105】
さらに、別の実施形態において、特に濃縮器の体積が大きいか、又は明らかに残液がある場合、濃縮器の評価方法は、濃縮器に残留する残液も考慮する。
この場合、本発明の評価試験方法は、前記濃縮工程の後に前記体腔液濃縮器に残留する残留試験液を回収する残液回収工程をさらに含む。
【0106】
したがって、いくつかの実施形態において、前記蛋白回収性能はアルブミン回収率であり、計算工程において、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のアルブミンを測定し、前記体腔液濃縮器の蛋白質回収性能を算出する。
この場合、前記アルブミン回収率は式(3)により算出する。
式(3)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液中のアルブミン量+残留試験液中のアルブミン量)/試験液中のアルブミン量}×100
【0107】
さらに、前記アルブミン回収率は式(4)により算出してもよい。
式(4)・・・アルブミン回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のアルブミン濃度+残留試験液量×残留試験液中のアルブミン濃度)/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0108】
本発明の別の実施形態において、前記濃縮工程の後に前記濾液を回収する。当該濾液には、多孔膜を通った蛋白質が含まれている可能性があるため、この場合、前記蛋白回収性能はアルブミン透過率により表すこともできる。すなわち、前記計算工程において、前記試験液及び前記濾液中のアルブミンを測定し、前記アルブミン透過率を算出する。
【0109】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン透過率は例えば、式(5)により算出する。
式(5)・・・アルブミン透過率(%)=(濾液中のアルブミン量/試験液中のアルブミン量)×100
【0110】
いくつかの実施形態において、前記アルブミン透過率は例えば、式(6)により算出してもよい。
式(6)・・・アルブミン透過率(%)={(濾液量×濾液中のアルブミン濃度)/(試験液量×試験液中のアルブミン濃度)}×100
【0111】
さらに、濃縮器の実際の使用性能は、アルブミンの濃縮状況のほか、α1-MGの回収率又はα1-MG透過率により評価してもよい。
【0112】
前記計算工程において、前記試験液、前記濃縮液中のα1-MGを測定して、前記濃縮器の前記α1-MG回収率を算出する。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG(α1-ミクログロブリン)回収率は式(7)により算出する。
式(7)・・・α1-MG回収率(%)=(濃縮液中のα1-MG量/試験液中のα1-MG量)×100
【0114】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は例えば、式(8)により算出してもよい。
式(8)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のα1-MG量)/(試験液量×試験液中のα1-MG量)}×100
【0115】
また、残液も考慮する場合、計算工程において、前記試験液、前記濃縮液、前記残留試験液中のα1-MGを測定し、前記濃縮器の前記α1-MG回収率を算出する。
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(9)により算出する。
式(9)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液中のα1-MG量+残留試験液中のα1-MG量)/試験液中のα1-MG量}×100
【0116】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG回収率は式(10)により算出する。
式(10)・・・α1-MG回収率(%)={(濃縮液量×濃縮液中のα1-MG濃度+残留試験液量×残留試験液中のα1-MG濃度)/(試験液量×試験液中のα1-MG濃度)}×100
【0117】
また、α1-MGの透過率により前記蛋白質回収性能を評価してもよい。この場合、前記計算工程において、前記試験液及び前記濾液中のα1-MGを測定し、前記α1-MG透過率を算出する。
【0118】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG透過率は式(11)により算出する。
式(11)・・・α1-MG透過率(%)=(濾液中のα1-MG量/試験液中のα1-MG量)×100
【0119】
いくつかの実施形態において、前記α1-MG透過率は式(12)により算出してもよい。
式(12)・・・α1-MG透過率(%)={(濾液量×濾液中のα1-MG濃度)/(試験液量×試験液中のα1-MG濃度)}×100
【0120】
<データ処理>
本発明において、上述のようなアルブミンの回収率、アルブミンの透過率、α1-MGの回収率又はα1-MGの透過率により濃縮器の実際の使用性能を評価する。
【0121】
いくつかの実施形態において、上記式(1)~(12)のいずれかの計算によるデータに基づいて評価できる。また、所望により、公知の数学方法によりデータの重み付け処理を行ってより総合的な評価指数を得てもよい。具体的な数学処理方法については、本発明では特に限定されない。
【実施例
【0122】
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。
【0123】
実施例
0.2μm以下の平均孔径を有する中空糸膜により牛血漿を濾過処理し、総蛋白(以下「TP」という。)濃度 2 g/dL、アルブミン/グロブリン比(「A/G 比」)1.2に調整した液を試験液とした。当該試験液中のヘパリン濃度は3.2単位/mLであり、血球数は0個/μLである。
【0124】
試験液を試験液バッグ(図2中の5)に入れて27±1℃に調温し、回路を介して、濃縮倍率が10倍になるように、濃縮器の入力ポート(図2中の3)に流量 50 mL/分の速度で試験液を供給し、濃縮器の第1出力ポート(図2中の2)の流量が5mL/分となる(バッグに収集される)とともに、濃縮器の第2出力ポート(図2中の4)から45mL/分の流量で濾液が発生する(バッグに収集される)ように、60分間(試験液量3L)送液した。
【0125】
濃縮が停止した後、試験液と濃縮液を用いて、式(1)でアルブミンの回収率を計算した。このとき、濃縮器内に残留する液は46mLだった。
アルブミン回収率(%)=(濃縮液中のアルブミン量/試験液中のアルブミン量)×100
【0126】
測定した結果、濃縮液中のアルブミンの量は23.7gだった。また、アルブミン回収率は69.3%だった。
【0127】
さらに、濃縮器の入力ポートからエアーを導入して、濃縮器に残留する残留試験液を回収した。試験液と濃縮液、残留試験液を用いて、式(3)でアルブミンの回収率を計算した。
アルブミン回収率(%)={(濃縮液中のアルブミン量+残留試験液中のアルブミン量)/試験液中のアルブミン量}×100
【0128】
測定した結果、濃縮液および残留試験液中のアルブミンの量は27.5gだった。また、アルブミン回収率は80.6%だった。
【0129】
同じロットの濃縮器を3個(n=3)試験したところ、試験液と濃縮液、残留試験液を用いて式(3)で求めたアルブミン回収率の平均は79.9%、相対標準偏差(RSD)は0.0161(1.61%)だった。
【0130】
参考例1
実施例における試験液の蛋白質濃度を4g/dLに調整する以外は実施例と同様に濃縮処理を行った。
【0131】
参考例2
実施例における試験液の蛋白質濃度を7g/dLに調整する以外は実施例と同様に濃縮処理を行った。
【0132】
<評価>
実施例及び参考例1、2の濃縮時のTMP(膜間圧力差)を測定した。実施例の濃縮時TMPの変化はTP2で、参考例1の濃縮時TMPの変化はTP4で、参考例2の濃縮時TMPの変化はTP7で表され、結果を図3に示す。
【0133】
図3は、試験期間(患者に通常必要な医療時間、つまり30min~60min)において、実施例のTMPが150mmHg未満であることを示している。一方、参考例1では、30minの時にTMPが400mmHg付近になり、参考例2では、10minの時にTMPが400mmHg付近になった。
【0134】
以上の現象から、実施例の評価方法は問題がなく、高い再現性を有する試験結果が得られ、性能試験を正確に行えることが分かった。この方法は、濃縮器によるヒト体腔液への濃縮処理の通常(繰り返して)使用時の濃縮状況をシミュレーションすることができ、計算工程により、濃縮器の実際動作時の濃縮性能を基本的に把握することができる。
【0135】
参考例1及び参考例2において、TMP(膜間圧力差)は短期間(30分以内に)で上昇した。そうすると、予定どおりの全処理時間の試験はできなくなった。また、TMPが上昇しすぎると、膜が破損して容器が傷つく可能性があり、試験を続けることができなくなる。このような場合には、濃縮器の通常動作時の性能を有効に予見することができず、信頼可能な再現性はない。
【0136】
以上は具体的な実施例により本発明を説明したが、本発明がこれらに限定されないことは当業者には理解できるところである。
【0137】
本発明の実施例に関する以上の説明は例示的なものにすぎず、網羅的なものではなく、限定的なものではない。当業者は、上記実施例の趣旨及び精神を逸脱しない範囲内で様々な変形や変更を行うことができる。本明細書における用語は、実施例の原理、実際の適用及び従来技術への改良を最適に説明したり、当業者に本明細書に記載の実施例を理解してもらったりするために採用したものである。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明による評価試験方法は、産業上のヒト体腔液用濃縮器の評価に利用できる。
【符号の説明】
【0139】
1 濃縮器本体
2 濃縮液出力ポート(第1出力ポート)
3 濃縮器の入力ポート
4 濾液出力ポート(第2出力ポート)
5 試験液バッグ
6 濃縮液バッグ
7 濾液バッグ
a/b/c 回路
図1
図2
図3