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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】透明物品、及び透明物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20231204BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20231204BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B05D1/02 Z
B05D5/06 B
B05D5/06 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019518780
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018630
(87)【国際公開番号】W WO2018212146
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2017096636
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 利之
(72)【発明者】
【氏名】池上 耕司
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】里村 利光
【審判官】廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513029(JP,A)
【文献】国際公開第2016/069113(WO,A1)
【文献】特開2010-64932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/02
B05D1/02
B05D3/02
B05D5/06
B32B7/023
C03C17/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチグレア面を備えた透明基材を有する透明物品であって、
前記アンチグレア面の面形状は、
下記式(1)で示される自己相関関数g(r)が0.2となる距離rの最小値である自己相関長(r0.2)と、前記自己相関関数g(r)が0となる距離rの最小値である自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状であるとともに、前記自己相関長(r)が15μm以上となる面形状であり、ヘイズ値が0.1~11%であることを特徴とする透明物品。
【数1】
ここで、前記自己相関関数g(r)は、前記アンチグレア面の面形状z(x,y)の規格化した自己相関関数g(t,t)について、極座標(t=rcosΦ,t=rsinΦ)に変換し、角度方向について平均化して得られる自己相関関数であり、面形状z(x,y)は、前記アンチグレア面に平行方向の座標を直交座標(x,y)とし、前記アンチグレア面の面直方向の高さをzとして表される面形状であり、自己相関関数g(t,t)は、下記式(2)で示される自己相関関数であり、下記式(2)、(3)におけるAは、前記アンチグレア面における対象範囲の面積であり、面形状z(x,y)の原点は、下記式(3)を満たす位置である。
【数2】
【請求項2】
前記アンチグレア面の面形状は、前記自己相関長(r0.2)が6μm以下となる面形状であることを特徴とする請求項1に記載の透明物品。
【請求項3】
前記アンチグレア面の面形状は、前記自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフにおいて、前記自己相関長(r0.2)よりも大きい範囲で最初に極小値をとる距離rをrminとしたとき、前記自己相関関数g(rmin)の値が正の値となる面形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明物品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の透明物品の製造方法であって、
前記透明基材の表面に対して、スプレーコート法を用いてコーティング剤を塗布することにより、前記アンチグレア面を有するアンチグレア層を形成するアンチグレア面形成工程を有し、
前記アンチグレア面形成工程において、口径が0.5mm以下の2流体ノズルを用いるとともに、前記透明基材の表面温度を30℃以上とすることを特徴とする透明物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチグレア面を有する透明物品、及び透明物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の視認性を向上する観点から、表示装置の表示面に配置される透明物品の表面を、アンチグレア面として防眩効果を付与することが提案されている。アンチグレア面による防眩効果は、アンチグレア面の凹凸形状に基づいて発揮される。そのため、アンチグレア面の凹凸形状を調整することにより、アンチグレア面の機能を制御することができる。例えば、特許文献1には、透明ガラス板の表面に設けられたアンチグレア面の表面粗さSq(RMS表面粗さ)を特定の範囲に設定することにより、スパークル(スパークル現象によるぎらつき)が抑えられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6013378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アンチグレア面を有する透明物品は、アンチグレア面の形状に基づいて表示装置外部からの光を拡散反射することで映り込みの抑制効果が得られる一方で、表示装置内部からの透過光も拡散してしまい、表示装置の解像度が低下する傾向がある。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、表示装置に表示される像等の当該透明物品を透過して見える像の解像度の低下を抑制できる透明物品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する透明物品は、アンチグレア面を備えた透明基材を有し、前記アンチグレア面の面形状は、下記式(1)で示される自己相関関数g(r)が0.2となる距離rの最小値である自己相関長(r0.2)と、前記自己相関関数g(r)が0となる距離rの最小値である自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状である。
【0007】
【数1】
ここで、前記自己相関関数g(r)は、前記アンチグレア面の面形状z(x,y)の規格化した自己相関関数g(t,t)について、極座標(t=rcosΦ,t=rsinΦ)に変換し、角度方向について平均化して得られる自己相関関数であり、面形状z(x,y)は、前記アンチグレア面に平行方向の座標を直交座標(x,y)とし、前記アンチグレア面の面直方向の高さをzとして表される面形状であり、自己相関関数g(t,t)は、下記式(2)で示される自己相関関数であり、下記式(2)、(3)におけるAは、前記アンチグレア面における対象範囲の面積であり、面形状z(x,y)の原点は、下記式(3)を満たす位置である。
【0008】
【数2】
上記透明物品において、前記アンチグレア面の面形状は、前記自己相関長(r0.2)が6μm以下となる面形状であることが好ましい。
【0009】
上記透明物品において、前記アンチグレア面の面形状は、前記自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフにおいて、前記自己相関長(r0.2)よりも大きい範囲で最初に極小値をとる距離rをrminとしたとき、前記自己相関関数g(rmin)の値が正の値となる面形状であることが好ましい。
【0010】
また、上記課題を解決する透明物品の製造方法は、前記透明基材の表面に対して、スプレーコート法を用いてコーティング剤を塗布することにより、前記アンチグレア面を有するアンチグレア層を形成するアンチグレア面形成工程を有し、前記アンチグレア面形成工程において、口径が0.5mm以下の2流体ノズルを用いるとともに、前記透明基材の表面温度を30℃以上とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アンチグレア面による優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、解像度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】透明物品の説明図。
図2】自己相関関数g(r)の変化を示すグラフ。
図3】自己相関関数g(r)の変化、及び自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフ。
図4】クラリティ値測定の説明図。
図5】スパークル値の測定方法の説明図。
図6】パターンマスクの説明図。
図7】試験例1~4における自己相関関数g(r)の変化、及び自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフ。
図8】試験例5~8における自己相関関数g(r)の変化、及び自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフ。
図9】試験例9~12における自己相関関数g(r)の変化、及び自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、透明物品10は、板状をなす透光性の透明基材11を備えている。透明基材11の厚さは、例えば、0.1~5mmである。透明基材11の材質の例としては、例えば、ガラス、及び樹脂が挙げられる。透明基材11の材質は、ガラスであることが好ましく、ガラスとしては、例えば、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス等の公知のガラスを用いることができる。また、化学強化ガラス等の強化ガラスやLAS系結晶化ガラス等の結晶化ガラスを用いることができる。これらのなかでも、アルミノシリケートガラスを用いること、特に、SiO:50~80質量%、Al:5~25質量%、B:0~15質量%、NaO:1~20質量%、KO:0~10質量%を含有する化学強化ガラスを用いることが好ましい。また、樹脂の例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0014】
透明基材11の一方の主面には、光を散乱させる凹凸構造をなす表面であるアンチグレア面12aを有するアンチグレア層12が設けられている。アンチグレア面12aの表面粗さSa(算術平均表面高さ)は、例えば、0.03~0.5μmであることが好ましい。なお、表面粗さSaは、ISO25178に準拠して測定される表面粗さSaである。
【0015】
アンチグレア層12は、例えば、SiO、Al、ZrO、TiO等の無機酸化物からなるマトリックスにより構成される。アンチグレア面12aたる凹凸構造の例としては、例えば、複数の島状の凸部間に平坦部分を有する島状の凹凸構造が挙げられる。アンチグレア層12は、無機酸化物のみにより構成されるか、または、有機化合物を含まないことが好ましい。
【0016】
アンチグレア層12は、例えば、マトリックス前駆体、及びマトリックス前駆体を溶解する液状媒体を含むコーティング剤を透明基材11の表面に塗布し、加熱することにより形成できる(アンチグレア面形成工程)。コーティング剤に含まれるマトリックス前駆体の例としては、例えば、シリカ前駆体、アルミナ前駆体、ジルコニア前駆体、チタニア前駆体等の無機前駆体が挙げられる。アンチグレア層12の屈折率を低くする点、反応性を制御しやすい点から、シリカ前駆体が好ましい。
【0017】
シリカ前駆体の例としては、ケイ素原子に結合した炭化水素基及び加水分解性基を有するシラン化合物、シラン化合物の加水分解縮合物、シラザン化合物等が挙げられる。アンチグレア層12を厚く形成した場合にもアンチグレア層12のクラックが充分に抑えられる点から、シラン化合物及びその加水分解縮合物のいずれか一方又は両方を少なくとも含むことが好ましい。
【0018】
シラン化合物は、ケイ素原子に結合した炭化水素基、及び加水分解性基を有する。炭化水素基は、炭素原子間に-O-、-S-、-CO-、及び-NR’-(R’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。
【0019】
炭化水素基は、1つのケイ素原子に結合した1価の炭化水素基であってもよく、2つのケイ素原子に結合した2価の炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。2価の炭化水素基の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等が挙げられる。
【0020】
加水分解性基の例としては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられ、シラン化合物の安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基、及びハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、又はエトキシ基がより好ましい。
【0021】
シラン化合物の例としては、アルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等)、アルキル基を有するアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。これらのシラン化合物のなかでも、アルコキシシラン及びその加水分解縮合物のいずれか一方又は両方を用いることが好ましく、アルコキシシランの加水分解縮合物を用いることがより好ましい。
【0022】
シラザン化合物は、その構造内にケイ素と窒素の結合(-SiN-)をもった化合物である。シラザン化合物としては、低分子化合物でも高分子化合物(所定の繰り返し単位を有するポリマー)であってもよい。低分子系のシラザン化合物の例としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルシクロトリシラザン等が挙げられる。
【0023】
アルミナ前駆体の例としては、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシドの加水分解縮合物、水溶性アルミニウム塩、アルミニウムキレート等が挙げられる。ジルコニア前駆体の例としては、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。チタニア前駆体の例としては、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
【0024】
コーティング剤に含まれる液状媒体は、マトリックス前駆体を溶解する溶媒であり、マトリックス前駆体の種類に応じて適宜、選択される。液状媒体の例としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0025】
アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル類の例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。セロソルブ類の例としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。エステル類の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。グリコールエーテル類の例としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。含窒素化合物の例としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。含硫黄化合物の例としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。液状媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
なお、液状媒体は、水を含む液状媒体、すなわち、水、又は水と他の液状媒体の混合液であることが好ましい。他の液状媒体としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
【0027】
また、コーティング剤は、マトリックス前駆体の加水分解及び縮合を促進する酸触媒を含むものであってもよい。酸触媒は、マトリックス前駆体の加水分解及び縮合を促進し、アンチグレア層12を短時間で形成させる成分である。酸触媒は、コーティング剤の調製に先立って、マトリックス前駆体の溶液の調製の際に、原料(アルコキシシラン等)の加水分解、縮合のために添加されたものであってもよく、必須成分を調製した後にさらに添加されたものであってもよい。酸触媒としては、無機酸(硝酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(ギ酸、シュウ酸、酢酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、トリクロル酢酸等)が挙げられる。
【0028】
コーティング剤の塗布方法の例としては、公知のウェットコート法(スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等)等が挙げられる。塗布方法としては、凹凸を形成しやすい点から、スプレーコート法が好ましい。
【0029】
スプレーコート法に用いるノズルの例としては、2流体ノズル、1流体ノズル等が挙げられる。ノズルから吐出されるコーティング剤の液滴の粒径は、通常0.1~100μmであり、1~50μmが好ましい。液滴の粒径が0.1μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される凹凸を短時間で形成できる。液滴の粒径が100μm以下であれば、防眩効果が充分に発揮される適度な凹凸を形成しやすい。コーティング剤の液滴の粒径は、ノズルの種類、霧化エア圧、液量等により適宜、調整できる。例えば、2流体ノズルでは、霧化エア圧が高くなるほど液滴は小さくなり、また、液量が多くなるほど液滴は大きくなる。なお、液滴の粒径は、レーザ測定器によって測定されるザウター平均粒子径である。
【0030】
コーティング剤を塗布する際の塗布対象(例えば、透明基材11)の表面温度は、例えば、20~75℃であり、30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることが更に好ましい。塗布対象を加熱する方法としては、例えば、温水循環式の加熱装置を用いることが好ましい。また、コーティング剤を塗布する際の湿度は、例えば、20~80%であり、50%以上であることが好ましい。
【0031】
スプレーコーティング装置のノズルから吐出されるコーティング剤の流量である液流量は、0.01kg/時~1kg/時であることが好ましい。液流量が小さいほど自己相関長(r0.2)を小さくすることが容易であり、液流量が大きいほど量産性が向上する。
【0032】
以下、透明物品10が有するアンチグレア面12aの面形状について具体的に説明する。
アンチグレア面12aの面形状は、下記式(1)で示される自己相関関数g(r)に基づいて規定される。
【0033】
【数3】
自己相関関数g(r)は、アンチグレア面12aの面形状z(x,y)の規格化した自己相関関数g(t,t)について、極座標(t=rcosΦ,t=rsinΦ)に変換し、角度方向について平均化して得られる自己相関関数である。ここで、面形状z(x,y)は、アンチグレア面12aに平行方向の座標を直交座標(x,y)とし、アンチグレア面12aの面直方向の高さをzとして表される面形状である。自己相関関数g(t,t)は、下記式(2)で示される自己相関関数である。下記式(2)、(3)におけるAは、アンチグレア面12aにおける対象範囲の面積(測定面積)であり、面形状z(x,y)の原点は、下記式(3)を満たす位置である。
【0034】
【数4】
なお、面形状z(x,y)は、公知の粗さ測定装置によって測定することができる。自己相関関数g(t,t)は、面形状z(x,y)に基づいて直接計算することにより得られる。
【0035】
アンチグレア面12aの面形状は、上記式(1)で示される自己相関関数g(r)が0.2となる距離rの最小値である自己相関長(r0.2)と、自己相関関数g(r)が0となる距離rの最小値である自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状である。
【0036】
図2は、面形状z(x,y)の原点からの距離rに対する自己相関関数g(r)の変化を示すグラフである。同グラフに示すように、自己相関長(r0.2)は、自己相関関数g(r)が最もはやく0.2まで減衰した点における距離rであり、自己相関長(r)は、自己相関関数g(r)が最もはやく0まで減衰した点における距離rである。アンチグレア面12aの面形状が、自己相関長(r0.2)と自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状であることにより、アンチグレア面12aの面形状に基づく優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、表示装置の解像度の低下を抑制できる。なお、比(r/r0.2)は4以上であることがより好ましい。
【0037】
比(r/r0.2)が大きいということは、アンチグレア面12aの面形状を構成する凹凸のなかに様々な大きさの凹凸が混在しており、面形状を構成する凹凸の大きさがより不均一であることを意味する。したがって、透明物品10のアンチグレア面12aは、様々な大きさの凹凸を含む不均一な面形状であることによって、光の拡散反射が効率的に発生し、その結果、解像度の低下を抑制しつつ映り込みを抑える効果が発現していると考えられる。
【0038】
自己相関長(r)は、15μm以上であることが好ましく、19μm以上であることがより好ましい。これにより、効率的に映り込みを抑えつつ、アンチグレア面12aにおけるスパークル(スパークル現象によるぎらつき)を抑制することができる。なお、自己相関長(r)は、計算上において無限大であってもよい。
【0039】
自己相関長(r0.2)は、6μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。この場合には、アンチグレア面12aにおけるスパークル(スパークル現象によるぎらつき)を抑制することができる。
【0040】
自己相関関数g(r)、自己相関長(r0.2)、自己相関長(r)は、アンチグレア層12の形成条件を変化させることにより制御することができる。例えば、スプレーコート法によりアンチグレア層12を形成する場合において、ノズルから吐出されるコーティング剤の液滴の粒径を小さくすると、比(r/r0.2)が増加する。透明基材11の表面温度を高くすると、比(r/r0.2)が増加する。
【0041】
なお、比(r/r0.2)が2以上となる面形状のアンチグレア面は、透明基材11の表面温度を高めた場合に特に形成されやすい。この要因は以下のように考えられる。すなわち、表面温度を高めた透明基材11に液滴が着弾すると、液滴が着弾した部分の表面温度が瞬間的に低下する。そのため、液滴の一部は、僅かに先行する液滴の着弾によって表面温度が低下した部分に着弾することになる。そして、この表面温度が低下した部分に着弾した液滴が固化して形成される凹凸と、表面温度が低下していない部分に着弾した液滴が固化して形成される凹凸との間に大きさ(高さ)の違いが生じる。
【0042】
その結果、比(r/r0.2)が2以上という、様々な大きさの凹凸を含む不均一な面形状となる。また、こうした効果は、口径の小さいノズルを用いて液滴の粒径を小さくした場合により顕著なものになる。なお、具体例としては、表面温度が30℃以上となるように加熱した透明基材11に対して、口径が0.5mm以下の2流体ノズルを用いてコーティング剤を塗布してアンチグレア層12を形成することが挙げられる。なお、ノズルの口径とは、ノズルにおける液体の噴出孔の内径の平均値を表す。
【0043】
また、コーティング剤の塗布量を増加させると、表面粗さSaが上昇する。コーティング剤の塗布量は、例えば、1~100g/mであることが好ましい。
また、図3は、自己相関関数g(r)の変化を示すグラフと、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフとを重ねたものである。自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフは、距離rの増加にともなう変化が減少傾向から増加傾向に変わる極小値を有している。ここで、自己相関長(r0.2)よりも距離rの大きい範囲において、上記極小値をとる距離rの最小値を自己相関長rminとしたとき、アンチグレア面12aの面形状は、自己相関関数g(rmin)の値が正の値となる面形状であることが好ましい。これにより、効率的に映り込みを抑えつつ、アンチグレア面12aにおけるスパークル(スパークル現象によるぎらつき)を抑制することができる。
【0044】
なお、自己相関長rminを求める際には、ノイズによる影響を排除するために、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフを適当な平滑フィルタを用いてスムージング処理することが好ましい。平滑フィルタとして、例えば、移動平均フィルタやガウシアンフィルタを用いることができる。また、自己相関長rminは、自己相関関数g(r)の導関数(dg/dr)が0となる距離rの最小値と規定することもできる。
【0045】
上記のように構成された透明物品10は、例えば、表示装置の表示面に配置されて使用される。この場合、透明物品10は、表示装置の表示面の上に取り付けられる部材であってもよい。すなわち、透明物品10は、表示装置に事後的に取り付けられる部材であってもよい。また、このような透明物品10は、ピクセル密度が160~600ppiの表示装置に適用することが好ましい。
【0046】
透明物品は、後述するスパークル値が0.005~0.2であることが好ましい。また、透明物品は、後述するクラリティ値が2~10%であり、ヘイズ値が0.1~11%であり、クラリティ値とヘイズ値の積が30以下であることが好ましい。
【0047】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)透明物品10は、アンチグレア面12aを備えた透明基材11を有している。アンチグレア面12aの面形状は、自己相関関数g(r)が0.2となる距離である自己相関長(r0.2)と、自己相関関数g(r)が0となる距離である自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状である。
【0048】
上記構成によれば、アンチグレア面12aの面形状に基づく優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、解像度の低下が抑制された透明物品10となる。
(2)アンチグレア面12aの面形状は、自己相関長(r0.2)が6μm以下となる面形状であることが好ましい。
【0049】
上記構成によれば、アンチグレア面12aのスパークルが抑制された透明物品となる。
(3)アンチグレア面12aの面形状は、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフにおいて、自己相関長(r0.2)よりも大きい範囲で最初に極小値をとる距離rをrminとしたとき、自己相関関数g(rmin)の値が正の値となる面形状であることが好ましい。
【0050】
上記構成によれば、アンチグレア面12aのスパークルが抑制された透明物品となる。
(4)アンチグレア面12aは、例えば、SiO、Al、ZrO、TiOから選ばれる少なくとも一種を含有するアンチグレア層12により構成される。
【0051】
上記構成によれば、上記(1)~(3)の効果をより確実に得ることができる。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・透明物品10は、透明基材11及びアンチグレア層12に加えて、反射防止層や防汚層等のその他の層を有するものであってもよい。
【0052】
・アンチグレア面12aは、透明基材11の一方の主面に設けられたアンチグレア層12の表面に限定されるものではない。例えば、透明基材11の表面に対して、ブラスト処理やエッチング処理等の他の方法を用いたアンチグレア面形成工程により形成される凹凸構造のアンチグレア面であってもよい。
【0053】
・透明基材11の複数の面のうちの2つ以上の面にアンチグレア面12aを設けてもよい。
・透明物品10におけるアンチグレア面12aの形状の評価基準として、自己相関関数g(r)が0.2となる距離である自己相関長(r0.2)と、自己相関関数g(r)が0となる距離である自己相関長(r)との比(r/r0.2)を用いてもよい。
【0054】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(1)アンチグレア面を備えた透明基材を有する透明物品であって、前記アンチグレア面の面形状は、上記式(1)で示される自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフにおいて、前記自己相関長(r0.2)よりも大きい範囲で最初に極小値をとる距離rをrminとしたとき、前記自己相関関数g(rmin)の値が正の値となる面形状である前記透明物品。
【0055】
(2)アンチグレア面を備えた透明基材を有する透明物品であって、前記アンチグレア面の面形状は、上記式(1)で示される自己相関関数g(r)が0となる距離rの最小値である自己相関長(r)が15以上となる面形状である透明物品。
【0056】
(3)アンチグレア面を備えた透明基材を有する透明物品の評価方法であって、前記アンチグレア面の面形状が、上記式(1)で示される自己相関関数g(r)が0.2となる距離rの最小値である自己相関長(r0.2)と、前記自己相関関数g(r)が0となる距離rの最小値である自己相関長(r)との比(r/r0.2)が2以上となる面形状であるか否かに基づいて評価する透明物品の評価方法。
【実施例
【0057】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例1~12)
アンチグレア面を備えた透明基材を有する透明物品であって、アンチグレア面の面形状の異なる試験例1~12の透明物品を作製した。すなわち、厚さ1.3mmの板状の化学強化ガラスからなる透明基材(日本電気硝子株式会社製:T2X-1)の一方側の表面に対して、スプレーコーティング装置を使ってコーティング剤を塗布することによりアンチグレア層を形成した。スプレーコーティング装置のノズルは、2流体ノズルであり、コーティング剤は、水を含む液状媒体にアンチグレア層の前駆体(オルトケイ酸テトラエチル)を溶解することで調製した溶液であり、当該コーティング剤を、雰囲気湿度52%にて、表面温度を所定温度に調整した透明基材に塗布し、180℃で30分加熱して乾燥させた。試験例1~12の透明物品におけるアンチグレア面の面形状は、アンチグレア層を形成する際における、ノズルの口径、コーティング剤を噴射するための霧化エア圧、ノズルから吐出されるコーティング剤の流量である液流量、コーティング剤の単位面積当たりの塗布量、透明基材の表面温度を表1に示すように変更することで変化させている。
【0058】
【表1】
(アンチグレア面の面形状の解析)
走査型白色干渉顕微鏡(株式会社菱化システム製:VertScan)を用いて、各試験例の透明物品におけるアンチグレア面の形状z(x,y)を測定し、ISO25178に準拠して表面粗さSaを測定した。測定は、WAVEモードにより、530whiteフィルタ及び倍率20倍の対物レンズを用いて、測定領域316.77μm×237.72μmを解像度640ピクセル×480ピクセルで測定した。測定したデータを解析ソフトVS-Viewerにて1次面補正し、アンチグレア面の形状z(x,y)及び表面粗さSaを得た。自己相関関数g(r)は、解析ソフトgwyddion 2.46を用い、アンチグレア面の形状z(x,y)について“radial ACF”を求め、自己相関長(r0.2)、自己相関長(r)、比(r/r0.2)を得た。その結果を表2に示す。
【0059】
また、自己相関関数g(r)から、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)を求めた。そして、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)から自己相関長(rmin)、自己相関関数g(rmin)を求めた。その結果を表2に示す。なお、自己相関長(rmin)を求める際には、ノイズによる影響を排除するために、自己相関関数の導関数の絶対値の変化を示すグラフに対して、区間0.5μmの移動平均フィルタによるスムージング処理を実行した。
【0060】
図7図9に、各試験例について、自己相関関数g(r)の変化を示すグラフと、自己相関関数g(r)の導関数の絶対値(|dg/dr|)の変化を示すグラフとを重ねたものを示す。
【0061】
(クラリティ値の測定)
各試験例の透明物品におけるアンチグレア面のクラリティ値を測定した。その結果を表2に示す。クラリティ値は、透明物品のアンチグレア面に光源を映り込ませた像の輝度分布データから得られる全反射光の輝度に対する正反射成分の輝度の割合の値である。
【0062】
上記クラリティ値は、アンチグレア面における映り込みを示す値であり、アンチグレア面における映り込みが抑制されているほど、上記クラリティ値は低くなる。上記クラリティ値を用いることにより、映り込みに関して、人の視覚に基づく画像認識に近い定量的な評価を行うことができる。以下、上記クラリティ値の具体的な測定方法について記載する。
【0063】
図4に示すように、厚さ5mm以上の黒色ガラス20上に、アンチグレア面12aが上側に位置するように透明物品10を配置した。また、透明物品10のアンチグレア面12aと対向する位置に、ライン光源21、及び焦点距離16mmのレンズを有する光検出器22をそれぞれ配置した。ライン光源21は、透明物品10の厚さ方向と平行な方向(アンチグレア面12aの法線方向)に対して一方側(マイナス方向)に第1角度Θi(=3°)傾いた位置に配置した。
【0064】
光検出器22は、透明物品10の厚さ方向と平行な方向に対して他方側(プラス方向)に第2角度Θr傾いた位置であって、アンチグレア面12aから410mmの位置にレンズが位置するように配置した。なお、ライン光源21と、光検出器22は、透明物品10のアンチグレア面12aの同一法平面内に配置されている。また、光検出器22としては、SMS-1000(Display-Messtechnik&Systeme社製)を用いた。
【0065】
次に、透明物品10のアンチグレア面12aに対してライン光源21からの光を照射して、光検出器22により、透明物品10のアンチグレア面12aの画像データを取得するとともに、その画像データをSMS-1000の反射分布測定モード(ソフトウェア Sparkle measurement system)により解析して、アンチグレア面12aに映り込んだ像の「-5°≦Θ*(=Θr-Θi)≦5°」の範囲における輝度分布データを測定した。得られた輝度分布データより求められる全反射光の輝度及び正反射成分の輝度に基づいて、下記式(4)によりクラリティ値を算出した。なお、正反射成分の輝度とはピーク輝度の半値幅の範囲の輝度を表す。
【0066】
クラリティ値(%)=[正反射成分の輝度]/[全反射光の輝度]×100 ・・・(4)
(ヘイズ値の測定)
JIS K7136(2000)に準拠して、試験例1~12の透明物品のヘイズ値を測定した。その結果を表2の「ヘイズ値」欄に示す。JIS K7136(2000)は国際規格のISO14782と対応し、両者の技術的内容は同等である。なお、ヘイズ値は、解像度の低下の度合を示す値であり、アンチグレア面におけるヘイズ値が低いほど、解像度の低下を抑制できる。
【0067】
(スパークル値の測定)
各試験例の透明物品におけるアンチグレア面のスパークル値を測定した。その結果を表2に示す。スパークル値は、透明物品のアンチグレア面とは反対の面と対向する位置に面光源を配置し、透明物品と面光源との間にパターンマスクを配置し、許容錯乱円径53μmにおける前方被写界深度内に透明物品のアンチグレア面及びパターンマスクのトップ面が含まれるようにして、アンチグレア面に対向する位置から透明物品を撮像し、撮像することで得られた画像データを解析してパターンマスクのピクセル輝度の平均値と標準偏差を求めたときに、前記標準偏差を前記平均値で除した値である。
【0068】
上記スパークル値は、アンチグレア面におけるスパークルの度合を示す値であり、アンチグレア面におけるスパークルが抑制されているほど、上記スパークル値は低くなる。上記スパークル値を用いることにより、スパークルに関して、人の視覚に基づく画像認識に近い定量的な評価を行うことができる。以下、上記スパークル値の具体的な測定方法について記載する。
【0069】
図5に示すように、面光源30の上に、パターンマスク31を配置するとともに、パターンマスク31の上に、アンチグレア面12aとは反対側の面がパターンマスク31側を向くようにして透明物品10を配置した。また、透明物品10のアンチグレア面12aと対向する位置に、許容錯乱円径を53μmに設定した光検出器32を配置した。
【0070】
パターンマスク31としては、図6に示すように、ピクセルピッチ50μm、ピクセルサイズ10μm×40μmの500ppiのパターンマスクを用いた。光検出器32としては、SMS-1000(Display-Messtechnik&Systeme社製)を用いた。
【0071】
光検出器32のセンサーサイズは1/3型であり、ピクセルサイズは3.75μm×3.75μmである。光検出器32のレンズの焦点距離は100mmであり、レンズ絞り径は4.5mmである。パターンマスク31は、そのトップ面31aが光検出器32の焦点位置に位置するように配置し、透明物品10は、パターンマスク31のトップ面31aからアンチグレア面12aまでの距離が1.8mmとなる位置に配置した。
【0072】
次に、透明物品10のアンチグレア面12aに対して、パターンマスク31を介して面光源30からの光を照射した状態として、光検出器32により、透明物品10を撮像し、透明物品10のアンチグレア面12aの画像データを取得した。得られた画像データを、SMS-1000のスパークル測定モード(ソフトウェア Sparkle measurement system)により解析して、パターンマスク31の各ピクセルのピクセル輝度、ピクセル間のピクセル輝度の標準偏差、及びピクセル輝度の平均値を求めた。得られたピクセル間のピクセル輝度の標準偏差及びピクセル輝度の平均値に基づいて、下記式(5)によりスパークル値を算出した。
【0073】
スパークル値=[パターンマスクのピクセル輝度の標準偏差]/[パターンマスクのピクセル輝度の平均値] ・・・(5)
【0074】
【表2】
表2に示すように、試験例3,5,7,9,10,12は、試験例1,2,4,6,8,11と比較して、クラリティ値とヘイズ値の積が低い値(30以下)となった。試験例3,5,7,9,10,12と試験例1,2,4,6,8,11のアンチグレア面の面形状を比較すると、自己相関長の比(r/r0.2)に大きな差があり、試験例3,5,7,9,10,12は、自己相関長の比(r/r0.2)が顕著に高い値である。これらの結果から、アンチグレア面の面形状を、自己相関長の比(r/r0.2)が高い値(2以上)となる面形状にすることにより、優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、解像度の低下が抑制された透明物品となることが分かる。
【0075】
表2に示すように、試験例1は、試験例2~12と比較して、スパークル値が0.026と高い値となった。試験例1と試験例2~12のアンチグレア面の面形状を比較すると、自己相関長(r0.2)に大きな差があり、試験例1は、自己相関長(r0.2)が顕著に高い値である。これらの結果から、アンチグレア面の面形状を、自己相関長(r0.2)が低い値(6μm以下)となる面形状にすることにより、アンチグレア面のスパークルが抑制された透明物品となることが分かる。
【0076】
また、優れた映り込みの抑制効果が得られるとともに、解像度の低下が抑制され、更にアンチグレア面のスパークルが抑制された試験例3,5,7,9,10,12は、自己相関関数g(rmin)が正の値であった。これに対して、試験例1,2,4,6,8,11は、自己相関関数g(rmin)が0以下の値であった。
【符号の説明】
【0077】
10…透明物品、11…透明基材、12…アンチグレア層、12a…アンチグレア面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9