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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】粉末油脂
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20231204BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20231204BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20231204BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20231204BHJP
   A23F 5/40 20060101ALN20231204BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/007
A21D13/80
A23L23/00
A23F5/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020003215
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021108587
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】三橋 修代
(72)【発明者】
【氏名】魚住 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】牛島 漠
(72)【発明者】
【氏名】奥野 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】坂田 光平
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216887(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114404(WO,A1)
【文献】特開2001-200250(JP,A)
【文献】特開昭61-249362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、
前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスであり、
前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である、
粉末油脂。
【請求項2】
前記抽出物の質量に対する前記デキストリンの質量の比率が20以上7000以下である、請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
前記デキストリンの質量及び前記抽出物の質量の総量に対する前記油脂の質量の比率が0.7以上3.5以下である、請求項1又は2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
前記抽出物の質量に対する前記粉末化基材の質量の比率が4以上1000以下である、請求項1から3のいずれかに記載の粉末油脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末油脂は、液状又は固形状の油脂よりも他の粉体原料と混合しやすく、さらには、水に分散及び溶解しやすく乳化を必要としない等の利点を持つため、幅広い分野で利用されている。粉末油脂は、例えば、コーヒー等の飲料に配合したり、スープ類等の食品の調味材料として用いたりすることで、飲食品に所望の味や香りを付与する等の目的で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、風味の向上や異味の抑制等を目的とした粉末油脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-216887号公報
【文献】国際公開第2016/114404号
【文献】特開平11-318332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の粉末油脂は、殺菌工程等の加熱により、「戻り臭」として知られる異臭が生じてしまう可能性があった。
【0006】
他方で、戻り臭抑制のためにマスキング剤を配合すると、マスキング作用を有する成分は吸湿性を有し得ることから、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下をもたらすおそれがあり、さらには、マスキング作用を有する成分自体に乳化能があるため、粉末油脂の溶解時の乳化安定性を崩す懸念もあった。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、油脂及び粉末化基材と共に、特定の抽出物及びデキストリンを含む粉末油脂によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、
前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスであり、
前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である、
粉末油脂。
【0010】
(2) 前記抽出物の質量に対する前記デキストリンの質量の比率が20以上7000以下である、(1)に記載の粉末油脂。
【0011】
(3) 前記デキストリンの質量及び前記抽出物の質量の総量に対する前記油脂の質量の比率が0.7以上3.5以下である、(1)又は(2)に記載の粉末油脂。
【0012】
(4) 前記抽出物の質量に対する前記粉末化基材の質量の比率が4以上1000以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の粉末油脂。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<粉末油脂>
本発明の粉末油脂は、以下の要件を全て満たす。
(1)抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を少なくとも含む。
(2)上記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスである。
(3)上記抽出物の総量が、粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である。
【0016】
従来の粉末油脂は、その加熱時に、粉末油脂を構成する成分(糖質、タンパク質、油脂等)や、粉末油脂を構成する成分同士の反応物に由来する異臭(「戻り臭」とも呼ばれる。)が生じ、粉末油脂自体や、粉末油脂が添加された飲食物の風味を損ねる可能性があった。
【0017】
粉末油脂の加熱による戻り臭を抑制する技術として、粉末油脂の成分としてマスキング剤を配合することが考えられる。
しかし、本発明者らの検討の結果、任意のマスキング剤が、粉末油脂の加熱による戻り臭を抑制できるわけではないことが見出された。
さらには、マスキング作用を有する成分は吸湿性を有し得ることから、粉末油脂の製造機内に付着してしまう懸念があるため、マスキング剤の配合によって、粉末油脂の製造時における歩留まり率が低下する可能性があった。また、マスキング作用を有する成分自体に乳化能があるため、粉末油脂の溶解時の乳化安定性が損なわれる可能性もあった。
【0018】
そこで、本発明者らがさらに検討した結果、粉末油脂に、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスと、デキストリンとを配合し、かつ、サトウキビ抽出物及び酵母エキスの総量が粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下となるように調整すると、粉末油脂の加熱による戻り臭を抑制できることが見出された。さらに、このような配合により、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下をも抑制し得るという意外な知見が見出された。
上記の効果は、粉末油脂にデキストリンを配合しなかったり、サトウキビ抽出物及び酵母エキスの配合量が上記の範囲外であったりすると認められなかった。また、マスキング作用を有することが知られる、サトウキビ抽出物及び酵母エキス以外の成分によってもこのような効果は認められなかった。
【0019】
以下、本発明の粉末油脂の詳細について説明する。
【0020】
(抽出物)
本発明の粉末油脂は、抽出物として、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスを含む。これらの抽出物は、異味等のマスキング作用を有することが知られるが、本発明者らの検討の結果、これらの抽出物のみでは粉末油脂の加熱による戻り臭を十分に抑制できないことが見出された。また、これらの抽出物は吸湿性や乳化能を有することから、粉末油脂製造時における噴霧乾燥等の際に歩留まり率の低下をもたらす懸念や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性を損なう懸念があった。
他方で、これらの抽出物をデキストリンと組み合わせて配合し、かつ、これらの抽出物の総量が粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下となるように調整することで、粉末油脂の加熱による戻り臭を良好に抑制でき、さらには、粉末油脂製造時における歩留まり率の低下や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下をも抑制し得ることが見出された。
【0021】
サトウキビ抽出物としては、サトウキビ(学名:Saccharum officinarum)の任意の部位からの抽出物を用いることができる。
【0022】
酵母エキスとしては、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)を任意の方法で分解した分解物を用いることができる。分解方法としては、酵素分解、酸分解等が挙げられる。
【0023】
サトウキビ抽出物及び酵母エキスは、いずれも市販品を用いることができる。サトウキビ抽出物及び酵母エキスの市販品としては、実施例で用いたものが挙げられる。
【0024】
サトウキビ抽出物及び酵母エキスは、いずれかのみを用いてもよく、両方用いてもよい。サトウキビ抽出物及び酵母エキスを両方用いる場合、それらの質量比は特に限定されないが、サトウキビ抽出物:酵母エキス=10:1~1:1であってもよい。
【0025】
抽出物の配合量は、その総量が、粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である。抽出物がこの範囲にあると、粉末油脂の加熱による戻り臭、及び粉末油脂製造時における歩留まり率の低下を抑制できる。
抽出物の配合量の総量が、粉末油脂全体に対して0.001質量%未満であると、粉末油脂の加熱による戻り臭を十分に抑制できない。
抽出物の配合量の総量が、粉末油脂全体に対して1.10質量%超であると、粉末油脂製造時における歩留まり率が低下したり、粉末油脂の乳化安定性を損なったりする可能性がある。
【0026】
抽出物の総量の下限は、粉末油脂全体に対して、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。
抽出物の総量の上限は、粉末油脂全体に対して、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0027】
抽出物としてサトウキビ抽出物のみを用いる場合、抽出物の総量は、粉末油脂全体に対して、好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下、より好ましくは0.04質量%以上0.1質量%以下である。
【0028】
抽出物として酵母エキスのみを用いる場合、抽出物の総量は、粉末油脂全体に対して、好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.4質量%以上1.0質量%以下である。
【0029】
抽出物としてサトウキビ抽出物及び酵母エキスを組み合わせて用いる場合、抽出物の総量は、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.04質量%以上0.1質量%以下である。
【0030】
なお、本発明において「抽出物の総量」とは、サトウキビ抽出物及び酵母エキスのいずれかのみを用いる場合はサトウキビ抽出物又は酵母エキスの配合量を意味し、サトウキビ抽出物及び酵母エキスの両方を用いる場合はサトウキビ抽出物及び酵母エキスの合計量を意味する。
【0031】
(デキストリン)
本発明において、デキストリンは、上記抽出物と組み合わせて配合することで、粉末油脂の加熱による戻り臭を良好に抑制し、さらには、粉末油脂製造時における歩留まり率の低下や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下を抑制することができる。また、デキストリンは、粉末油脂の賦形剤としても機能する。
【0032】
デキストリンは、澱粉を化学的又は酵素的方法により低分子化した澱粉部分加水分解物であり、飲食物に配合される任意のものを使用できる。澱粉の原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦等が挙げられる。
【0033】
デキストリンのDE(Dextrose Equivalent)は、特に限定されないが、本発明の効果が奏されやすいという観点から、好ましくは4以上35以下、より好ましくは10以上30以下である。DEが10以上であると、糊のような風味を抑制しつつ、油脂の風味が良好に発現しやすくなり得る。DEが35以下であると、過度な甘味を抑制しつつ、油脂の風味が良好に発現しやすくなり得る。
なお、DEとは、デキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標であり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。DEの値が大きいほどデキストリンの鎖長は短いことを意味する。
【0034】
デキストリンは、1種単独で用いてもよく、異なる由来やDEを有するものを組み合わせて使用してもよい。
【0035】
デキストリンの配合量の下限は、抽出物との組み合わせによって加熱による戻り臭の抑制効果や、粉末油脂製造時における歩留まり率の低下抑制効果を十分に奏する観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
デキストリンの配合量の上限は、粉末油脂に抽出物を十分に配合する観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0036】
(油脂)
本発明の粉末油脂は、粉末油脂に通常配合され得る任意の油脂を含む。
【0037】
油脂としては、通常、食用油脂が用いられる。このような油脂としては、植物性油脂、動物性油脂、合成油脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた調合油として用いてもよい。油相に含まれる油脂としては、風味が良好な粉末油脂が得られやすいという観点から、植物性油脂が好ましい。
【0038】
植物性油脂としては、アマニ油、ナタネ油、エゴマ油、サフラワー油、シソ油、大豆油、パーム油及びその分別油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、綿実油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ゴマ油、米油等が挙げられる。パーム油の分別油としては、パーム分別中融点油、パーム分別硬質油、パーム極度硬化油等が挙げられる。
【0039】
動物性油脂としては、魚油(マグロ、サバ、イワシ、カツオ、ニシン等に由来する油脂)、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂等が挙げられる。
【0040】
合成油脂としては、中鎖脂肪酸油が挙げられる。
【0041】
油脂としては、上記の油脂に対して所望の処理を施した加工油脂であってもよい。このような処理としては、分別(例えば分別乳脂低融点部、パームスーパーオレイン等の分別)、硬化、エステル交換等が挙げられる。油脂に対しては、1又は2以上の処理を施してもよい。
【0042】
油脂の配合量の下限は、粉末油脂が添加される対象(飲食品等)へ諸特性(風味、食感、栄養、白色度等)を良好に付与しやすいという観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
油脂の配合量の上限は、粉末油脂の乳化安定性を高めやすいという観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0043】
(粉末化基材)
本発明の粉末油脂は、粉末油脂に通常配合され得る任意の粉末化基剤を含む。粉末化基材としては、粉末油脂の構造(カプセル型構造等)の形成や、粉末油脂の乳化安定性の維持に寄与する成分であれば特に限定されず、例えば、界面活性能を有するタンパク質、ガム質、加工デンプン等が挙げられる。
【0044】
界面活性能を有するタンパク質としては、例えば、乳由来タンパク質(乳構成タンパク質(カゼインナトリウム、カゼインカリウム、及びホエータンパク等)及びその酵素分解物(乳ペプチド等)、ミルクプロテインコンセントレート、並びにトータルミルクプロテイン等)、豆由来タンパク質(エンドウタンパク、大豆タンパク、及びそらまめタンパク等)、並びにその加水分解物等が挙げられる。
【0045】
ガム質としては、例えば、アラビアガム、ガティガム等が挙げられる。
【0046】
加工デンプンとしては、例えば、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム等が挙げられる。
【0047】
粉末化基材は、1種単独で用いてもよく、異なる種類のものを組み合わせて使用してもよい。
【0048】
粉末化基材の配合量の下限は、粉末油脂の乳化性等の物性の安定性確保という観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。乳化基材の配合量の上限は、粉末油脂の乳化安定性を維持しやすいという観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0049】
粉末化基材は任意の方法で粉末化されたものであってもよい。通常、粉末化基材は、主に水性溶媒(水等)に溶解する特性を有し、本発明の粉末油脂を構成する水溶性成分に含まれる。粉末化基材の粒径は、通常、粉末油脂に配合できる程度の大きさである。
【0050】
(乳化剤)
本発明の粉末油脂は、粉末油脂に通常配合され得る任意の乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤としては、乳化作用(粉末油脂を構成する油溶性成分及び水溶性成分を乳化させることができる作用)を有するものを使用できる。
また、本発明における乳化剤は、通常、粉末油脂の界面に配向する乳化基材に対して、補足的に配向することで、粉末油脂の乳化安定性等を補助的に向上させる作用を奏する。
さらに、本発明における乳化剤は、粉末油脂が添加される対象(飲食品等)の食感改良効果等をも有し得る。
【0051】
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン等)、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、トマト糖脂質、サポニン(大豆サポニン、キラヤサポニン等)等が挙げられる。
【0052】
乳化剤の配合量の下限は、粉末油脂の乳化安定性を向上させやすく、粉末油脂が添加される対象(飲食品等)へ諸特性(風味、食感、栄養、白色度等)を良好に付与しやすいという観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。
乳化剤の配合量の上限は、粉末油脂の乳化安定性を向上させやすいという観点から、粉末油脂全体に対して、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0053】
なお、本発明における乳化剤は、上記粉末化基材であるものを含まない。つまり、本発明における乳化剤は、上記粉末化基材とは異なる物質である。本発明における乳化剤は、上記粉末化基材よりも小さな分子であり、通常、上記粉末化基材のように粉末油脂の構造(カプセル型構造等)の形成や乳化安定性の維持に寄与しない。
【0054】
(各成分の配合比)
本発明の効果をより奏しやすくする観点から、粉末油脂の構成成分は以下のいずれか、又は全てを満たすように調整することが好ましい。
【0055】
粉末油脂において、デキストリンの質量及び抽出物の質量の総量に対する、油脂の質量の比率(油脂/(デキストリン+抽出物))を0.7以上3.5以下、より好ましくは1.0以上3.1以下、さらに好ましくは1.0以上2.0以下に調整してもよい。「油脂/(デキストリン+抽出物)」が上記範囲内にあると、粉末油脂の溶解時の油滴径の大きさが安定し、乳化安定性が高まりやすくなる。
【0056】
粉末油脂において、抽出物の質量に対する、デキストリンの質量の比率(デキストリン/抽出物)を好ましくは20以上7000以下、より好ましくは40以上1000以下、さらに好ましくは300以上1000以下に調整してもよい。「デキストリン/抽出物」が上記範囲内にあると、粉末油脂の溶解時の油滴径の大きさが安定し、乳化安定性が高まりやすくなる。
【0057】
粉末油脂において、抽出物の質量に対する、粉末化基材の質量の比率(粉末化基材/抽出物)を好ましくは4以上1000以下、より好ましくは6以上500以下に調整してもよい。「粉末化基材/抽出物」が上記範囲内にあると、粉末油脂の戻り臭の抑制効果が高まりやすくなる。
【0058】
(その他の成分)
本発明の粉末油脂には、発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を配合してもよい。このような成分としては、粉末油脂に通常配合され得る成分が挙げられ、具体的には、抗酸化剤(トコフェロール等)、賦形剤、増粘剤、防腐剤、着色剤等が挙げられる。これらの成分や含量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0059】
粉末油脂中には水分が含まれていてもよいが、含まれていなくともよい。粉末油脂中には水分が含まれている場合、その含量は、粉末油脂全体に対して、好ましくは5.0質量%以下である。
【0060】
<粉末油脂の製造方法>
本発明の粉末油脂は、粉末油脂の製造方法として知られる任意の方法によって製造することができる。
【0061】
粉末油脂の製造方法としては、例えば、水相と、油相とを含む乳化物を調製し、該乳化物を乾燥させる方法が挙げられる。乳化物の形態は、粉末油脂を調製可能な形態であれば特に限定されないが、例えば、水中油型(O/W)乳化物、水中油中水型(W/O/W)乳化物等が挙げられる。本発明の粉末油脂の製造に際して調製する乳化物は、粉末油脂の保存安定性を高めやすいという観点から、水中油型乳化物が好ましい。
なお、乳化物の組成は、水分含量が高い点以外は、粉末油脂と同様である。
【0062】
水相及び油相は、各相を構成する成分を、撹拌機等を用いて適宜混合撹拌することで得られる。
【0063】
乳化物は、水相及び油相から乳化物を製造できる任意の方法によって得られる。このような方法としては、水相を撹拌しながら油相を添加する方法、油相を撹拌しながら水相を添加する方法、水相及び油相を同時に添加して混合する方法等が挙げられる。
【0064】
乳化物の乾燥方法としては、水分を乾燥させること(つまり水分含量を低下させること)ができる通常の方法を用いることができ、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられる。これらのうち、製造の簡便さと製造コストの安さの観点、及び得られる粉末油脂の粒子サイズが均一になりやすいため固結しづらいという観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0065】
(水相)
乳化物を構成する水相には、水性溶媒(水等)、及び、本発明の粉末油脂を構成する水溶性成分(抽出物(サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキス)、及びデキストリン)が少なくとも含まれる。粉末化基材として水溶性粉末化基材を用いる場合、該粉末化基材も水相に含まれる。
【0066】
水相の組成は、最終的に得られる粉末油脂の組成が上記の要件を満たすように設定すればよく、水性溶媒、及び、本発明の粉末油脂を構成する水溶性成分が含まれていれば特に限定されない。水相の組成は水性溶媒の含量に応じて大きく変動し得るため、水相の各成分の含量は、油相(特に、油相中の油脂)の総量に対して設定してもよい。
【0067】
乳化物作製の際に、水性溶媒とその他の原材料との配合比は、特に限定されないが、例えば、乳化物を構成する全成分において、水性溶媒以外の全ての原材料(抽出物、デキストリン、油脂、粉末化基材、及びその他の原材料等)の合計量100質量%に対して水性溶媒50~200質量%の範囲内にすることができる。
【0068】
(油相)
油相の組成は、最終的に得られる粉末油脂の組成が上記の要件を満たすように設定すればよく、油脂が含まれていれば特に限定されない。油相には、油脂以外の成分(油溶性粉末化基材等の油溶性成分)が含まれていてもよい。
【0069】
本発明の粉末油脂の製造に際して調製する乳化物において、水相と油相との割合(質量比)は、好ましくは、水相:油相=21:4~29:21である。
【0070】
<粉末油脂の性質>
本発明の粉末油脂は、加熱を行っても戻り臭が抑制されており、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下も抑制されている。さらには、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下も抑制されている。
【0071】
(戻り臭)
本発明において、「戻り臭」とは、粉末油脂を、加熱(例えば121℃での加熱)した際に生じる異臭を意味する。戻り臭の原因物質は種々あるが、例えば、2-アセチル-1-ピロリンが挙げられる。
【0072】
加熱後の粉末油脂における戻り臭の有無や程度は実施例に記載した方法で評価できる。
【0073】
戻り臭の有無や程度は、加熱後の粉末油脂における戻り臭の原因物質の一つである2-アセチル-1-ピロリンの生成量を下記の方法で特定することでも評価できる。
[2-アセチル-1-ピロリンの生成量の特定方法]
粉末油脂を10%溶解した水溶液を121℃で20分間加熱処理した溶液1gをヘッドスペース分析用バイアル管に分取し、80℃にて30分加温した際に発生する揮発性物質を固相マイクロ抽出法(SPME)にて捕集する。SPMEファイバーにはSUPELCO社製の50/30μm DVB/CAR/PDMS等を用いることができる。
この揮発性物質をGC/MS装置(例えば、商品名「GC 7890A MSD 5975C」、アジレント・テクノロジー社製)の注入口にて240℃で5分間加熱脱着し、揮発性物質をガスクロマトグラフィー用カラム(例えば、商品名「DB-WAX UI」、60m×0.25mm、膜厚0.5μm、アジレント・テクノロジー社製)に供する。
カラム(昇温条件40℃5分→10℃/分→240℃20分)で、単離した揮発性物質を検出器(MS)と匂い嗅ぎ装置(ODP)に分岐させて検知する。カラム保持時間が19.6分である戻り臭(ポップコーン臭)のものが2-アセチル-1-ピロリンに相当する。
【0074】
(歩留まり率)
粉末油脂の歩留まり率は、実施例に示した方法で、粉末油脂の製造時(通常、噴霧乾燥時)において、準備した乳化物の質量に対して、該乳化物から実際に得られた粉末油脂の質量を測定することで評価できる。歩留まり率が高いほど、乳化物から得られた粉末油脂の割合が多く、効率的に粉末油脂を製造できることを意味する。
【0075】
(溶解時の乳化安定性)
粉末油脂の溶解時の乳化安定性は、実施例に示した方法で、粉末油脂を水に溶解させた際のメディアン径(下記実施例中の「メディアン径(粉)」に相当)を測定することで評価できる。
粉末油脂を25℃の水に溶解させた際の油滴径(メディアン径)は、2.0μm以下であることが好ましい。
【0076】
粉末油脂の溶解時の乳化安定性は、実施例に示した方法で、粉末油脂を水に溶解させた際のメディアン径(下記実施例中の「メディアン径(粉)」に相当)と、粉末油脂を調製する前の乳化液(噴霧乾燥前の乳化液)のメディアン径(下記実施例中の「メディアン径(液)」に相当)とを比較することでも評価できる。
例えば、粉末油脂を水に溶解させた際のメディアン径と、粉末油脂を調製する前の乳化液のメディアン径との差(絶対値)は、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.3以下がさらにより好ましい。メディアン径の差が上記範囲内であることは、粉末油脂の乳化安定性が良好であることを意味する。
【0077】
粉末油脂を調製する前の乳化液(噴霧乾燥前の乳化液)の油滴径(メディアン径)は、1.0μm以下であることが好ましい。
【0078】
<粉末油脂の用途>
本発明の粉末油脂は、任意の飲料及び食品等に配合して用いることができる。本発明の粉末油脂を配合し得る食品等としては、コーヒー、経腸栄養剤、ゼリー、ヨーグルト、スープ類(コーンポタージュ等)、ソース類、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉、製菓(クッキー等)、製パン等が挙げられる。
【実施例
【0079】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
<粉末油脂の作製>
下記の方法に基づき、水相及び油相を含む水中油型乳化物を調製し、該水中油型乳化物を用いて、最終的な組成が下記表中に表される粉末油脂を作製した。なお、表中、「油脂」、「デキストリン」、「粉末化基材」、「乳化剤」、「抗酸化剤」、「マスキング剤」、及び「合計」の項の値の単位は「質量%」である。
表中、「成分2/成分4」は、マスキング剤の質量に対するデキストリンの質量の割合を意味する。「成分1/(成分2+成分4)」は、デキストリン及びマスキング剤の総質量に対する油脂の質量の割合を意味する。「成分3/成分4」は、マスキング剤の質量に対する粉末化基材の質量の割合を意味する。
【0081】
<粉末油脂の原料>
表中、使用した材料の詳細は下記のとおりである。
【0082】
(油脂)
A:アマニ油
B:魚油
C:ナタネ油
D:パーム油
E:ヤシ硬化油
【0083】
(デキストリン)
A:デキストリン(DE11)、商品名「パインデックス♯2」、松谷化学工業株式会社製
B:デキストリン(DE8)、商品名「バイアンデックスBH」、昭和産業株式会社製
C:デキストリン(DE29)、商品名「コーンシロップ」、昭和産業株式会社製
D:デキストリン(DE17~21)、商品名「NSD700」、サンエイ糖化株式会社製
E:デキストリン(DE4)、商品名「パインデックス♯100」、松谷化学工業株式会社製
【0084】
(粉末化基材)
A:カゼインナトリウム
B:オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
C:エンドウタンパク
【0085】
(乳化剤)
A:グリセリン脂肪酸エステル
B:レシチン
【0086】
(抗酸化剤)
ミックストコフェロール
【0087】
(マスキング剤)
A:サトウキビ抽出物、商品名「MSX-100」、三井製糖株式会社製(有効分10質量%)
B:酵母エキス、商品名「アジレックスNH」、興人ライフサイエンス株式会社製(有効分100質量%)
C:酒粕エキス、商品名「酒香の華」、理研ビタミン株式会社製
D:アガベイヌリン、商品名「有機アガベイヌリン」、株式会社アルマテラ製(有効分100質量%)
【0088】
なお、表中、「マスキング剤」の項に記載された上段の数値は、マスキング剤に含まれる各マスキング成分量(マスキング剤に含まれる全成分の総量から、マスキング剤に含まれるマスキング成分以外の成分(賦形剤等)を除いた量)を示す。下段の数値(括弧内の数値)は、粉末油脂に配合されたマスキング剤の量(マスキング剤に含まれる全成分の総量)を示す。
【0089】
<粉末油脂の製造方法>
水相を構成する成分(デキストリン、マスキング剤、粉末化基材、水)と、油相を構成する成分(油脂、乳化剤、抗酸化剤)とを、6000rpmで10分間撹拌後、圧力式ホモジナイザーを用いて200kgf/cmの圧力で均質化し、乳化液(水中油型乳化物)を得た。
得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて25ml/minの流量で噴霧乾燥(入口温度180~220℃)し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た。
【0090】
<粉末油脂の評価>
得られた各粉末油脂について、諸特性を下記の方法で評価した。
【0091】
(油滴径(メディアン径))
噴霧乾燥前の乳化液の油滴径(メディアン径)、及び、乳化液の噴霧乾燥後に得られた粉末油脂を25℃の水に溶解させた際の油滴径(メディアン径)を、レーザー回折式粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)によって測定した。その結果を、下記表中の「油滴径」の項に示す。
表中、油滴径(メディアン径)の単位は「μm」である。
表中、「径(液)」は、噴霧乾燥前の乳化液の油滴径(メディアン径)を意味する。「径(粉)」は、粉末油脂を溶解させた際の油滴径(メディアン径)を意味する。
【0092】
また、粉末油脂を溶解させた際の油滴径(メディアン径)について以下の基準に基づき評価した。その結果を、下記表中の「径評価」の項に示す。
◎:メディアン径(粉)が1.0μm未満である。
○:メディアン径(粉)が1.0μm以上2.0μm未満である。
×:メディアン径(粉)が2.0μm以上である。
【0093】
(歩留まり)
各粉末油脂を水に溶解させて乳化物700ml(固形分50%)を調製した。各乳化物を35ml/minの流量で送液し、入口温度180℃、出口温度100℃の条件下で噴霧乾燥した。噴霧乾燥後、トート瓶に回収できたサンプル量から歩留まり(乳化物のうち、噴霧乾燥されて粉末油脂となった量)を算出し、下記の基準で評価した。その結果を、下記表中の「歩留まり」の項に示す。
◎:歩留まり60%以上
○:歩留まり50%以上60%未満
△:歩留まり30%以上50%未満
×:歩留まり30%未満
【0094】
(戻り臭)
各粉末油脂を10%溶解させた水溶液を準備し、これを121℃で20分間加熱処理し、10℃で3時間静置した。次いで、各水溶液を口に含んだ時の粉末油脂由来の戻り臭をパネル20名によって評価した。
具体的には、下記の組み合わせで粉末油脂同士を比較し、「戻り臭が抑えられている」と回答した人数を算出し、下記の基準に基づき評価した。その結果を、下記表中の「戻り臭」の項に示す。
【0095】
[戻り臭の評価における粉末油脂の比較対象]
実施例1~6、実施例8、9、11:比較例1と比較した。
実施例7:比較例2と比較した。
実施例10:比較例3と比較した。
実施例12:比較例4と比較した。
実施例13:比較例5と比較した。
実施例14:比較例6と比較した。
実施例15:マスキング剤を含まない点以外は実施例15の組成と共通する粉末油脂と比較した。
実施例16:比較例7と比較した。
実施例17:比較例8と比較した。
実施例18:比較例9と比較した。
実施例19、20:比較例11と比較した。
【0096】
[戻り臭の評価基準]
◎:パネル20名中、15名以上が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
○:パネル20名中、10~14名が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
△:パネル20名中、8~9名が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
×:パネル20名中、8名未満が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
【0097】
なお、戻り臭を評価した評価パネルは、以下のように選抜した。
20組の異なる風味を有する粉末油脂を用意し、1対2点試験法(duo-trio test:2種類の試料を合計3個準備し、2種類のうち一方の試料を標準試料として提示し、標準試料と同じものを選択させる手法)を行い、正解率70%以上の者を選抜した。
戻り臭の評価を実施するにあたり、パネル全体で事前に討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルに共通認識を持たせた。また、官能評価におけるパネルの偏りを排除し、評価の精度を高めるために、サンプルの試験区番号や内容はパネルに知らせず、ランダムに提示した。
【0098】
(総合評価)
3つの評価結果(粉末油脂を溶解させた際の油滴径(メディアン径)、歩留まり、及び戻り臭)に基づき、下記の基準で総合評価を行った。その結果を、下記表中の「総合評価」の項に示す。
◎:3つの評価結果が全て◎である。
○:3つの評価結果が全て○以上(すなわち、○又は◎)であり、かつ、◎の数が3未満である。
×:3つの評価結果のうち、1つ以上が×である。

【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
表に示されるとおり、デキストリンと、所定量のサトウキビ抽出物又は酵母エキスと、を含む粉末油脂は、加熱による戻り臭が抑制されていた。このような効果は、サトウキビ抽出物及び酵母エキスの配合量が本発明に規定される範囲外であると認められなかった。
【0103】
本発明の要件を満たす粉末油脂は、加熱による戻り臭が抑制されているだけではなく、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制されていた。
【0104】
また、本発明の要件を満たす粉末油脂は、粉末油脂を水に溶解させた際のメディアン径が2.0μm未満であることから乳化安定性が良好だった。
【0105】
他方で、サトウキビ抽出物及び酵母エキスと同様にマスキング作用を有することが知られる、酒粕エキス又はアガベイヌリンを配合しても、加熱による戻り臭が抑制されなかった。データには示していないが、酒粕エキス又はアガベイヌリンの配合量を増やしても戻り臭抑制効果はほぼ認められなかったうえ、粉末油脂の製造時における歩留まり率が著しく低下した。
【0106】
<クッキーの作製及び評価>
実施例10、実施例17、比較例3、又は比較例8の粉末油脂を用いて、以下の配合及び方法に基づきアイスボックスクッキーを作製し、その戻り臭を評価した。
【0107】
(アイスボックスクッキーの配合)
ショートニング 135g
上白糖 120g
全卵 75g
粉末油脂 60g
薄力粉 300g
【0108】
(アイスボックスクッキーの作製方法)
ミキシングボールに、ショートニング及び上白糖を投入し、ビーターでミキシングした。全卵を少しずつ添加後、さらに粉末油脂、薄力粉を添加混合し、クッキー生地を得た。得られた生地を冷蔵庫で1時間リタードした後、丸型に成型し、冷凍庫で静置した。クッキー生地を厚さ10mmにスライスし、オーブンで焼成した。2枚の天板を使用し、上段を180℃、下段を150℃に設定して16分間焼成してアイスボックスクッキーを得た。
【0109】
(戻り臭の評価)
アイスボックスクッキーの戻り臭について、下記の組み合わせ及び基準で、各粉末油脂が配合されたアイスボックスクッキーの喫食時における戻り臭を評価した。
【0110】
[戻り臭の評価におけるアイスボックスクッキーの比較対象]
実施例10:比較例3と比較した。
実施例17:比較例8と比較した。
【0111】
[戻り臭の評価基準]
◎:パネル20名中、15名以上が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
○:パネル20名中、10~14名が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
△:パネル20名中、8~9名が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
×:パネル20名中、8名未満が「戻り臭が抑えられている」と回答した。
【0112】
(結果)
実施例10、又は実施例17の粉末油脂が配合されたアイスボックスクッキーは、いずれも◎の評価だった。
【0113】
<コーンポタージュの作製及び評価>
実施例16、実施例17、比較例7、又は比較例8の粉末油脂を用いて、以下の配合及び方法に基づきコーンポタージュを作製し、その戻り臭を評価した。
【0114】
(コーンポタージュの配合)
スイートコーン缶詰 200質量部
牛乳 200質量部
粉末油脂 5質量部
食塩 少々
【0115】
(コーンポタージュの作製方法)
上記配合に記載される各成分を混合し、ホモミキサーで撹拌(5000rpm、10分間)しながら80℃に加熱しコーンポタージュを作製した。次いで、湯煎により85℃で数分間、予備加熱した。コーンポタージュをメジウムビンに充填後、オートクレーブ(121℃、20分)にかけた。
【0116】
(戻り臭の評価)
コーンポタージュの戻り臭について、下記の組み合わせ及び基準で、各粉末油脂が配合されたコーンポタージュの喫食時における戻り臭を評価した。
【0117】
[戻り臭の評価におけるコーンポタージュの比較対象]
実施例16:比較例7と比較した。
実施例17:比較例8と比較した。
【0118】
[戻り臭の評価基準]
上記<クッキーの作製及び評価>におけるものと同様である。
【0119】
(結果)
実施例16、又は実施例17の粉末油脂が配合されたコーンポタージュは、いずれも◎の評価だった。
【0120】
<コーヒーの作製及び評価>
実施例16、実施例17、比較例7、又は比較例8の粉末油脂を用いて、以下の配合及び方法に基づきコーヒーを作製し、その戻り臭を評価した。
【0121】
(コーヒー調整液の配合)
インスタントコーヒー 20質量%
水 80質量%
(コーヒーの配合)
コーヒー調整液 5.00質量%
グラニュー糖 6.00質量%
粉末油脂 1.00質量%
P-1670(※1) 0.050質量%
ポエムB-15V(※2) 0.03質量%
カゼインナトリウム 0.050質量%
水 87.870質量%
(※1)ショ糖パルミチン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製)
(※2)コハク酸グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製)
【0122】
(コーヒーの作製方法)
インスタントコーヒーを湯に溶かし、リン酸水素二ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウムを用いてpH6.8に調整し、コーヒー調整液を得た。
60℃の湯にコーヒー調整液以外の上記各成分を入れて、ホモミキサー(5000rpm、10min)で予備乳化した。得られた予備乳化液にコーヒー調整液を混合し、撹拌した(最終コーヒーBrix 1.2~1.4程度を目標とした)。得られた撹拌物を高圧ホモジナイザー(15MPa/4MPa、2パス)にかけ、均質化した。次いで、湯煎により85℃で数分間、予備加熱した。コーヒーをメジウムビンに充填後、オートクレーブ(121℃、20分)にかけた。
【0123】
(戻り臭の評価)
コーヒーの戻り臭について、下記の組み合わせ及び基準で、各粉末油脂が配合されたコーヒーの喫食時における戻り臭を評価した。
【0124】
[戻り臭の評価におけるコーヒーの比較対象]
実施例16:比較例7と比較した。
実施例17:比較例8と比較した。
【0125】
[戻り臭の評価基準]
上記<クッキーの作製及び評価>におけるものと同様である。
【0126】
(結果)
実施例16、又は実施例17の粉末油脂が配合されたコーヒーは、いずれも◎の評価だった。