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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】消波工三次元モデリングシステム
(51)【国際特許分類】
   G06T 19/00 20110101AFI20231204BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G06T19/00 A
G01C15/00 104Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020056186
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157411
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】山崎 真史
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】昇 悟志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】富永 柚香
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-012095(JP,A)
【文献】特開平03-277906(JP,A)
【文献】特開2004-012395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 19/00
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消波工の三次元モデリングのためのコンピュータプログラムであって、
既設の消波工に対して三次元測量を行って取得した消波工の三次元点群データを処理して、任意の視点からの消波工の現況を点群によって二次元的に表現した現況画像をディスプレイに表示させる現況画像表示機能と、
前記消波工において使用されている消波ブロックの三次元のブロックモデルを、ディスプレイ上において、現況画像に対し任意の姿勢で重ねて表示させるブロックモデル表示機能と、
前記現況画像中において消波ブロックを示すブロック点群画像に対し、前記ブロックモデルを、輪郭が重なるように配置させる自動位置合わせ機能と、をコンピュータにおいて実現させるブロックモデル配置システムを含み、
前記ブロック点群画像の第一脚部の側面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の基本形状及び諸元に関する情報に基づいて、当該第一脚部の中心軸線を推定する処理と、
推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、かつ、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能を実現させることを特徴とする消波工三次元モデリングシステム。
【請求項2】
消波工の三次元モデリングのためのコンピュータプログラムであって、
既設の消波工に対して三次元測量を行って取得した消波工の三次元点群データを処理して、任意の視点からの消波工の現況を点群によって二次元的に表現した現況画像をディスプレイに表示させる現況画像表示機能と、
前記消波工において使用されている消波ブロックの三次元のブロックモデルを、ディスプレイ上において、現況画像に対し任意の姿勢で重ねて表示させるブロックモデル表示機能と、
前記現況画像中において消波ブロックを示すブロック点群画像に対し、前記ブロックモデルを、輪郭が重なるように配置させる自動位置合わせ機能と、をコンピュータにおいて実現させるブロックモデル配置システムを含み、
前記ブロック点群画像の第一脚部の側面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の天面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の基本形状及び諸元に関する情報に基づいて、当該第一脚部の中心軸線を推定する処理と、
推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、かつ、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能を実現させることを特徴とする消波工三次元モデリングシステム。
【請求項3】
消波工の三次元モデリングのためのコンピュータプログラムであって、
既設の消波工に対して三次元測量を行って取得した消波工の三次元点群データを処理して、任意の視点からの消波工の現況を点群によって二次元的に表現した現況画像をディスプレイに表示させる現況画像表示機能と、
前記消波工において使用されている消波ブロックの三次元のブロックモデルを、ディスプレイ上において、現況画像に対し任意の姿勢で重ねて表示させるブロックモデル表示機能と、
前記現況画像中において消波ブロックを示すブロック点群画像に対し、前記ブロックモデルを、輪郭が重なるように配置させる自動位置合わせ機能と、をコンピュータにおいて実現させるブロックモデル配置システムを含み、
前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線を推定する処理と、
前記ブロック点群画像の第二脚部の中心軸線を推定する処理と、
推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、かつ、推定された前記ブロック点群画像の第二脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第二脚部の中心軸線とが重なる位置に、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能を実現させることを特徴とする消波工三次元モデリングシステム。
【請求項4】
入力条件に基づいてコンピュータ上に作成された施工環境モデルにおいて、消波ブロックの動作の態様、据付位置、及び、姿勢の解析を実行させる据付シミュレーションシステムを含み、
当該据付シミュレーションシステムが、前記ブロックモデル配置システムによって前記ブロック点群画像に対して位置合わせを行った前記ブロックモデルのデータを読み込むことによって、前記ブロックモデルを反映させた施工環境モデルをコンピュータ上に作成する機能を実現させることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の消波工三次元モデリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や海岸などにおける消波工の調査、設計、施工、検査、及び、維持管理等に利用できる消波工三次元モデリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消波工の据付検討を行う際には、まず、対象となる消波工(多数の消波ブロックを積み重ねて形成した消波構造物)(ケーソン等の堤本体を含む)及び地盤の現況を一定の縮尺で再現したミニチュア模型(現況模型)を製作し、この現況模型中の消波ブロックの模型を再配置し、或いは、新たに消波ブロックの模型を追加配置する等の作業を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-12395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現況模型の製作には、相当の時間と手間を要するという問題があるほか、消波工の現況の再現精度が低く、このため十分な精度で据付検討作業を行うことが難しいという問題がある。また、近年、土木関連事業等においてICT施工(情報通信技術を活用した施工)の導入事例が増加しつつあり、消波工の施工に際してもICT施工の適用が望まれるが、そのためには、各消波ブロックの据付目標位置情報等が必要となるところ、ミニチュア模型を使用した従来の据付検討方法によっては、それらの必要な情報を正確に取得することは困難である。
【0005】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、消波工の施工に際してICT施工の適用を可能とし、三次元データによる消波工の一元的な管理を実現でき、更に、消波工の施工に関する検討精度の向上と検討作業の効率化を図ることができる消波工三次元モデリングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、消波工の三次元モデリングのためのコンピュータプログラムであって、既設の消波工に対して三次元測量を行って取得した消波工の三次元点群データを処理して、任意の視点からの消波工の現況を点群によって二次元的に表現した現況画像をディスプレイに表示させる現況画像表示機能と、前記消波工において使用されている消波ブロックの三次元のブロックモデルを、ディスプレイ上において、現況画像に対し任意の姿勢で重ねて表示させるブロックモデル表示機能と、前記現況画像中において消波ブロックを示すブロック点群画像に対し、前記ブロックモデルを、輪郭が重なるように配置させる自動位置合わせ機能と、をコンピュータにおいて実現させるブロックモデル配置システムを含むことを特徴としている。
【0007】
尚、この消波工三次元モデリングシステムにおいては、前記ブロック点群画像の第一脚部の側面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の基本形状及び諸元に関する情報に基づいて、当該第一脚部の中心軸線を推定する処理と、推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、かつ、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能が実現されることが好ましい。
【0008】
また、この消波工三次元モデリングシステムにおいては、前記ブロック点群画像の第一脚部の側面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の天面の中の選択された範囲内の点群がそれぞれ有する三次元位置座標情報と、当該第一脚部の基本形状及び諸元に関する情報に基づいて、当該第一脚部の中心軸線を推定する処理と、推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、かつ、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能が実現されることが好ましい。
【0009】
更に、この消波工三次元モデリングシステムにおいては、前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線を推定する処理と、前記ブロック点群画像の第二脚部の中心軸線を推定する処理と、推定された前記ブロック点群画像の第一脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第一脚部の中心軸線とが重なる位置に、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、かつ、推定された前記ブロック点群画像の第二脚部の中心軸線と、前記ブロックモデルの第二脚部の中心軸線とが重なる位置に、それらの中心軸線の三次元の傾斜角度が一致するように姿勢を調整したうえで、ブロックモデルを移動させる処理を、コンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能が実現されることが好ましい。
【0010】
また、この消波工三次元モデリングシステムにおいては、前記ブロック点群画像と前記ブロックモデルとの間で共通する部位に対して設定された対応点が三組以上選択された場合に、各組の対応点同士の誤差が最小となるように、前記ブロックモデルの姿勢、及び、ディスプレイ上の表示位置を演算し、前記ブロック点群画像と重なる位置へ前記ブロックモデルを移動させる処理をコンピュータに実行させることによって、前記ブロックモデル配置システムの自動位置合わせ機能が実現されることが好ましい。
【0011】
更に、この消波工三次元モデリングシステムは、入力条件に基づいてコンピュータ上に作成された施工環境モデルにおいて、消波ブロックの動作の態様、据付位置、及び、姿勢の解析を実行させる据付シミュレーションシステムを含むことが好ましく、当該据付シミュレーションシステムが、前記ブロックモデル配置システムによって前記ブロック点群画像に対して位置合わせを行った前記ブロックモデルのデータを読み込むことによって、前記ブロックモデルを反映させた施工環境モデルをコンピュータ上に作成する機能が実現されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、測量によって取得した点群データに基づいて既設消波工の現況画像を生成することができるとともに、消波ブロック単体の三次元モデル(ブロックモデル)を、現況画像に対して任意の姿勢で重ねて表示させることができ、更に、コンピュータに対して簡単な操作を行うだけで、ブロックモデルを、現況画像中のブロック点群画像の上又は下に、輪郭が重なるように自動的に配置させることができる。そして、既設消波工の三次元点群データと、配置したブロックモデルの基本情報及び位置座標、姿勢等に関する情報とを連携させることにより、既設消波工等の現況を、コンピュータ上の三次元モデルとして正確に再現することができる。
【0013】
また、消波ブロックの据付シミュレーションを行う施工環境モデルを作成する際に、上記三次元点群データや、配置したブロックモデルのデータを読み込むことにより、既設消波工に関する情報を反映させた施工環境モデルにおいて消波ブロックの据付シミュレーション(消波ブロック同士の干渉や重力による転倒、その他の各種解析)を実行することができ、その結果、据付検討作業を十分な精度で実施することができ、また、検討作業の効率化を図ることができる。
【0014】
更に、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムによれば、各消波ブロックの据付目標位置座標や姿勢に関する情報を取得することができ、その結果、消波工の施工に際してICT施工の適用が可能となる。また、出来形の再現により、経年変化の確認等、消波工の維持管理の面でも有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムのブロックモデル配置システムによってディスプレイに表示される現況画像1の一例を示す図である。
図2図2は、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムのブロックモデル配置システムによってディスプレイに表示される現況画像中のブロック点群画像3の一例を示す図である。
図3図3は、図2のブロック点群画像3の上にブロックモデル2を重ねて表示した状態を示す図である。
図4図4は、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムの据付シミュレーションシステムのフローの一例を示す図である。
図5図5は、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムの据付シミュレーションシステムによって作成した施工環境モデル6の一例を示す図である。
図6図6は、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムの据付シミュレーションシステムによって作成した消波ブロックの配列モデル7の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、コンピュータ上で動作するプログラムであって、「ブロックモデル配置システム」と、「据付シミュレーションシステム」とによって構成される。
【0017】
(1)ブロックモデル配置システム
ブロックモデル配置システムは、一般に「点群処理ソフトウェア」等と称されるコンピュータプログラムの機能を有しており、対象となる既設の消波工(多数の消波ブロックを積み重ねて形成した消波構造物)(ケーソン等によって構成される堤本体を含む)に対して三次元測量(例えば、三次元レーザー測量)を行って取得した消波工等(既設の消波工、及び、視認可能な地盤部分)の三次元点群データ(多数の測定点の三次元位置座標情報)を処理して、図1に示すように、任意の視点からの消波工等の現況を、点群(各測定点に対応する多数のドット)によって二次元的に表現した画像(現況画像)を生成してコンピュータのディスプレイに表示させることができる(現況画像表示機能)。
【0018】
また、このブロックモデル配置システムは、対象となる消波ブロック(対象となる既設の消波工において使用されている消波ブロック)の諸元等を予め入力することによって生成した消波ブロック単体の三次元モデル(ブロックモデル)を、ディスプレイ上において、現況画像に対し(現況画像の上又は下に)、任意の姿勢で重ねて表示させることができる(ブロックモデル表示機能)。
【0019】
更に、このブロックモデルは、コンピュータに対して簡単な操作を行うだけで、現況画像中において消波ブロックを示す部分(ブロック点群画像)の上又は下に、輪郭が重なるように配置させることができる(自動位置合わせ機能)。本システムにおいては、ブロックモデルの自動位置合わせ機能を実行する方法として、「対応点選択法」と「脚部軸推定法」という二通りの方法が用意されている。
【0020】
対応点選択法によってブロックモデルの自動位置合わせを実行する場合、まず、ブロック点群画像とブロックモデルとの間で共通する部位に対して任意に設定した対応点を三組以上選択する。例えば、図1に示すように、消波ブロックの一つの脚部の天面の中心点を対応点P1とし、隣接する三つの脚部の付け根の交点を対応点P2とし、他の脚部の天面の中心点を対応点P3と設定する。そして、ディスプレイ上において、ブロック点群画像3の対応点P1の位置にポインタを合わせてこれを選択する操作(クリック)を行い、次にブロックモデル2の対応点P1の位置にポインタを合わせて選択を行う。
【0021】
続いて、上記と同様に、ブロック点群画像3の対応点P2、ブロックモデル2の対応点P2、ブロック点群画像3の対応点P3、ブロックモデル2の対応点P3を順番に(ブロック点群画像3の対応点とブロックモデル2の対応点とを交互に)選択し、最後に実行ボタンを操作してコンピュータに処理を実行させると、各組の対応点同士の誤差が最小となるように、ブロックモデル2における消波ブロックの姿勢、及び、ディスプレイ上の表示位置がコンピュータによって演算され、ブロック点群画像3と重なる位置へブロックモデル2が自動的に移動する。尚、ブロックモデル2の位置及び姿勢は、必要に応じ、手動操作によって微調整することができる。
【0022】
脚部軸推定法によるブロックモデル2の自動位置合わせを実行する場合、まず、ブロック点群画像3の一つの脚部(第一脚部31)の中心軸線C1(図2参照)を推定する処理を行う。
【0023】
ブロック点群画像3の第一脚部31の中心軸線C1は、第一脚部31の側面を構成する点群(測定点に対応するドット)を多数選択することによって推定することができる。具体的には、マウス等の補助入力装置を操作(ドラッグ)することにより、ディスプレイ上のポインタを、第一脚部31の側面の中の一定範囲(例えば、図2に示す範囲R1)を取り囲むように移動させて選択範囲を特定すると、選択範囲内の点群がそれぞれ有する側面の三次元位置座標情報と、脚部の基本形状(図2に示す消波ブロックの場合は「円錐台形状」)及び諸元に関する情報に基づいて演算処理が行われ、中心軸線C1(三次元位置座標、傾斜角度)が推定される。
【0024】
尚、第一脚部31の天面がディスプレイ上において視認可能である場合には、側面だけでなく、天面を構成する点群を合わせて選択することにより、つまり、第一脚部31の天面の中の一定範囲(例えば、図2に示す範囲R2)を取り囲むようにポインタを移動させて選択範囲を特定し、選択範囲内の点群がそれぞれ有する天面の三次元位置座標情報を取得することにより、より高精度に中心軸線C1を推定することができる。
【0025】
ブロック点群画像3の第一脚部31の中心軸線C1の推定が完了すると、図3に示すように、推定された中心軸線C1の上にブロックモデル2の第一脚部21の中心軸線C2が重なる位置に、かつ、三次元の傾斜角度が一致するように姿勢が調整されたうえで、ブロックモデル2が自動的に移動する。
【0026】
このときブロックモデル2は、手動操作により、中心軸線C2に沿った移動、及び、中心軸線C2回りの三次元的な回転が可能となっており(それ以外の動作は規制される)、ブロックモデル2を中心軸線C2に沿って適宜移動させることにより、ブロックモデル2の第一脚部21を、ブロック点群画像3の第一脚部31(図2参照)の上又は下に、輪郭が一致するように重ねることができ、また、ブロックモデル2を中心軸線C2回りに適宜回転させることにより、ブロックモデル2の他の脚部と、ブロック点群画像3の他の脚部とを、輪郭が一致するように重ねることができる。
【0027】
尚、ブロック点群画像3の第一脚部31の中心軸線C1の推定を行った後、第二脚部32(第一脚部31以外の脚部)の側面(及び/又は天面)を構成する点群を多数選択することによって、第二脚部32の中心軸線を推定させることもでき、この場合、ブロックモデル2の第二脚部22の中心軸線が、推定されたブロック点群画像3の第二脚部32の中心軸線の上に重なるように、かつ、三次元の傾斜角度が一致するように、ブロックモデル2の姿勢が調整されて、ディスプレイ上において自動的に移動する。従って、ブロックモデル2の位置や姿勢の手動調整を行わなくとも、ブロックモデル2をブロック点群画像3の上に、輪郭が一致するように重ねることができる。
【0028】
既設の消波工に対して三次元測量を行うことによって取得することができる消波ブロックの点群データは、測定点から直接視認できる部分についてのみであり、法面或いは天端面の消波ブロックの陰になっている消波ブロックについては、部分的にしか点群データを取得することができないが、このブロックモデル配置システムを用いて、現況画像1に含まれる全ての(或いは、主要な)ブロック点群画像3の上に、ブロックモデル2をそれぞれ正確に配置して、三次元測量によって取得した消波工の点群データと、配置したブロックモデル2の基本情報及び位置座標、姿勢等に関する情報とを連携させることにより、対象となる既設の消波工等(消波ブロック、堤本体、及び、地盤)の現況を、コンピュータ上の三次元モデルとして正確に再現することができる。
【0029】
(2)据付シミュレーションシステム
据付シミュレーションシステムは、一般に「機構解析(マルチボディ・ダイナミクス・アナリシス)ソフトウェア」等と称されるコンピュータプログラムの機能を有しており、条件を入力して作成した機構の動作や、発生する力、速度、加速度などを、要素同士の相互作用から解析することができる。
【0030】
この据付シミュレーションシステムは、図4に示すようなフローで、対象となる消波工に関し、消波ブロックの据付シミュレーションを行うことができる。具体的には、まず、消波ブロックのマスターモデル及び施工環境を作成する。マスターモデルの作成とは、対象となる消波ブロック単体の三次元モデルを生成するための情報を入力するとともに、消波ブロックの材料密度、形状基準点(例えば重心位置)、各脚部の天面の中心位置を登録し、解析の際に参照する消波ブロック単体の三次元マスターモデルを作成することをいう。
【0031】
施工環境の作成とは、据付シミュレーションを行う空間形状をコンピュータ上に作成することをいう。例えば、消波工の断面諸元に関する情報(基準点の座標、天端高さ、天端幅、法面勾配、施工延長、計画面許容値等)を入力して、図5に示すような施工環境モデル6を作成する。尚、必要に応じて、ケーソン4の諸元、及び、地盤5に関する情報を入力して、施工環境モデル6にケーソン4及び地盤5を含めることができる。
【0032】
次に、消波ブロックの据付配列を作成する。据付配列の作成とは、マスターモデルを使用して、据付一層分を構成する複数個の消波ブロックの三次元配列モデル7を作成することを意味し、消波ブロックの配列方法(列数、行数、方式等)、吊り姿勢、開始向き等の条件を指定することにより、図6に示すように様々な態様の配列モデル7を作成することができる。
【0033】
この据付のシミュレーションシステムにおいては、図6に示すような消波ブロック一層分の配列モデル7を、図5に示す施工環境モデル6において、任意の高さ位置(施工環境モデル6において設定した基準点を起点とする)から一度に(又は、消波ブロックの三次元モデルを一個ずつ)落下させて、ブロック同士の接触や重力による転倒の動作の態様等をシミュレートすることができ、各消波ブロックが最終的に収まる位置(据付位置)やその姿勢等を解析することができる。これを必要な層数分(最下段層から最上段層まで)繰り返すことにより、所望の断面の消波工のシミュレーションモデルを構築することができる。最下段層から最上段層まで全数据付の自動解析も可能であり、最下層法尻ブロックの法面からの離れ寸法、積み上げ層数、列数、列間隔、配列方式、開始向きを入力して設定することができる。
【0034】
尚、施工環境モデル6(図5参照)は、上述の通り、消波工の断面諸元に関する情報(基準点の座標、天端高さ、天端幅、法面勾配、施工延長、計画面許容値等)を入力することによって作成することができるが、上述のブロックモデル配置システムによって生成した、既設消波工の点群データに基づくメッシュデータ、及び/又は、現況画像1に対して位置合わせを行った全ての(或いは主要な)消波ブロックの三次元モデル(図3に示すブロックモデル2等)のデータを読み込み、基準点を指定するとともに、消波工の断面諸元を入力することによって、既設消波工を再現したメッシュデータ、及び/又は、ブロックモデル2を反映させた施工環境モデル6を作成することもできる。
【0035】
既設消波工のブロックモデル2を反映させた施工環境モデル6においては、ブロックモデル2の上に、マスターモデルから作成した新たな消波ブロックの三次元モデルを載置し、或いは、据付一層分を構成する複数個の消波ブロックの配列モデル7(図6参照)を既設消波工のブロックモデル2の上に落下させて、ブロック同士の接触や重力による転倒の態様等をシミュレートすることができ、各消波ブロックが最終的に収まる位置(据付位置)やその姿勢等を解析することができ、所望の断面の消波工のシミュレーションモデルを構築することができる。
【0036】
この据付シミュレーションシステムは、解析結果として、消波ブロックの据付三次元図、解析動画(落下据付)、消波ブロックの位置座標(消波ブロックの中心)、及び、姿勢(消波ブロックの中心からの各脚部の方向ベクトル)、許容計画面からの逸脱判定、空隙率の算出等の項目を出力することができる。
【0037】
以上に説明したように、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、ブロックモデル配置システムによって、対象となる既設の消波工等(消波ブロック、ケーソン、及び、地盤)の現況を三次元モデルとして正確に再現することができるとともに、据付シミュレーションシステムによって、消波ブロックの据付のシミュレーション及び解析を行って据付三次元図、消波ブロックの位置座標及び姿勢等を出力することができる。
【0038】
それらの出力データを利用することにより、消波ブロックを目標の位置に誘導して据付けるICT施工(情報通信技術を活用した施工)、より具体的には、GNSS(全球衛星測位システム)を用いた誘導据付システムや、AR(拡張現実)等と称される技術を用いて、消波工の実施工を行うことが可能となる。
【0039】
誘導据付システムとは、クレーンに取り付けたGNSSによって、吊り上げた消波ブロックの平面位置情報を取得し、この取得した消波ブロックの平面位置情報と、計画されたブロック据付目標位置とを、ディスプレイに表示させて、消波ブロックの据付を誘導することができるシステムである。また、ARとは、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することにより、目の前にある世界を仮想的に拡張できるという技術であり、例えば、クレーンに取り付けたビデオカメラによって撮影した画像と、据付シミュレーションシステムによって再現した消波ブロックの三次元モデルとを、GNSSによって取得した平面位置情報に基づいてリンクさせて、リアルタイムでディスプレイに表示させることが可能となる。
【0040】
消波ブロック据付工の実施工において、GNSSを用いた誘導据付システムやAR技術を用いたICT施工を実施するためには、各消波ブロックの据付目標位置情報を予め把握しておく必要があるところ、従来方法によっては、それらの情報を正確に取得することは困難であった。これに対し、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、ブロックモデル配置システム、及び、据付シミュレーションシステムによって、消波ブロックの配置、位置座標、及び、姿勢についての情報を容易に取得可能であり、消波工の実施工において、GNSSを用いた誘導据付システムやAR技術を用いたICT施工を実現することができる。
【0041】
更に、本発明に係る消波工三次元モデリングシステムは、施工後における消波工の検査、維持管理においても有効に活用することができる。例えば、施工後に再度三次元測量を実施して、施工後の消波工の三次元モデルを作成することにより、消波工を構成する各消波ブロックの出来形の管理を行うことができ、また、定期的に三次元測量を実施して、逐次消波工の三次元モデルを作成することにより、消波工の経年変化(各消波ブロックの沈下量等)を把握することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:現況画像、
2:ブロックモデル、
21:第一脚部、
3:ブロック点群画像、
31:第一脚部、
4:ケーソン、
5:地盤、
6:施工環境モデル、
7:消波ブロックの配列モデル、
C1,C2:中心軸線、
図1
図2
図3
図4
図5
図6