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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20231204BHJP
   H01F 6/02 20060101ALI20231204BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/02
H01F6/06 120
H01B12/06 ZAA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020069791
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021166268
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129519(JP,A)
【文献】特開2015-026519(JP,A)
【文献】特開2000-067646(JP,A)
【文献】特開昭58-206641(JP,A)
【文献】特開2017-197686(JP,A)
【文献】特開2020-047739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 6/02
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周りに超電導線材が巻き回された巻線部材と、
前記巻線部材において前記軸の径方向に並ぶ前記超電導線材の間を電気的に接続させることによって迂回路として機能する導電性樹脂層と
を備える超電導コイルであって、
前記導電性樹脂層は、
導電性の第1フィラーと、
前記第1フィラーより体積抵抗率が100倍以上大きい材料から構成された第2フィラーと
を有する
超電導コイル。
【請求項2】
前記第1フィラーは、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、金属からなる粒子、金属酸化物、金属からなる繊維、金属層でコートされた粒子、金属層でコートされた繊維のうち、少なくとも一つを含む
請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記第2フィラーは、シリカ、アルミナ、チッ化ケイ素、チッ化アルミナのうち、少なくとも一つを含む、
請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記第1フィラーの比重は、前記第2フィラーの比重に対して、0.5倍以上、3.0倍以下の範囲である、
請求項1から3のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記第1フィラーと前記第2フィラーとを合計したフィラー総量のうち、前記第1フィラーが占める割合が25体積%以上である、
請求項1から4のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記導電性樹脂層において、前記第1フィラーと前記第2フィラーとを合計したフィラー総量は、60体積%以下である、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、軸の周りに超電導線材が巻き回された巻線部材を備える。巻線部材において、超電導線材は、超電導状態を維持できる電流、温度、および、磁場の範囲、すなわち臨界電流、臨界温度、および、臨界磁場が存在する。このため、超電導線材は、超電導状態になって電気抵抗がほぼゼロになっても、無限に電流が流せるわけではなく、いずれかの臨界値を超えると、局所的に常電導状態へ転移する。常電導転移に伴うフラックスフロー抵抗は、ジュール損失による発熱が生ずる。その結果、超電導コイルにおいて熱暴走やクエンチが生ずる可能性がある。このため、熱暴走やクエンチに対する保護のために、さまざまな技術が提案されている。
【0003】
たとえば、超電導コイルと並列に保護抵抗をつなぐ方法が提案されている。この方法では、常電導状態に転移したときに発生するコイル電圧や温度上昇をトリガーとして、励磁電源を遮断する。励磁電源の遮断後は、超電導コイルと保護抵抗との閉回路になるため、室温部に配置した保護抵抗のジュール発熱で超電導コイルの蓄積エネルギーが消費され、コイルに流れる電流を減衰させることができる。
【0004】
高温超電導線材を用いた超電導コイルでは、従来のNbTiなどの低温超電導線材に比べ、20K~50Kといった高い温度でも高い臨界電流密度を有するため、高温での高電流密度運転が可能となる。しかしながら、高電流密度運転時にクエンチが生じた場合、20K~50Kの温度範囲では、低温超電導線材を使ったマグネットの運転温度よりも比熱が大きいために常電導転移領域の拡大が遅く、また、高電流密度運転を実行すると発熱密度も高くなる。その結果、従来においては、検知前に局所的に熱暴走が発生し、焼損が生ずる可能性がある。
【0005】
そこで、超電導コイルにおいて異なるターンの超電導線材同士を短絡させることによって、常電導転移が生じた部分に流れる電流を迂回させる技術が提案されている。たとえば、導電性粉末を混入させた導電性樹脂層を迂回路として設けることが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、臨界温度以下に冷却されたときに超電導線材の剥離が発生することを抑制するために、293Kから140Kへ冷却した時に長さが変化する割合を示す熱収縮率が、-0.517%以上であって-0.338%以下である含浸樹脂を用いることが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018―129519号公報
【文献】国際公開第2014/129586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性樹脂層の抵抗は、フラックスフロー抵抗の発生時に迂回路として機能する導電性樹脂層へ十分な量の電流が転流できる程度に小さく、かつ、超電導コイルを非通電状態から定格電流値まで励磁する際に励磁時間が長くならない程度に大きい方が好ましい。
【0009】
しかしながら、従来において、導電性樹脂層の体積抵抗率を増加させるために導電性粉末の混入量を減少させたときには、高温超電導の臨界温度以下に冷却した時の導電性樹脂層の熱収縮率が増大する。その結果、超電導コイル運転温度へ冷却した場合に熱応力が作用して剥離が発生する可能性がある。このため、従来においては、導電性樹脂層の体積抵抗率を自在に変えることが容易でないため、コイル設計によっては、励磁時間が長くなる場合がある。
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、導電性樹脂層の体積抵抗率を容易に変えることが可能な超電導コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の超電導コイルは、超電導コイルで軸の周りに超電導線材が巻き回された巻線部材と、巻線部材において軸の径方向に並ぶ超電導線材の間を電気的に接続させることによって迂回路として機能する導電性樹脂層とを備える。導電性樹脂層は、導電性の第1フィラーと、第1フィラーより体積抵抗率が100倍以上大きい材料から構成された第2フィラーとを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性樹脂層の体積抵抗率を容易に変えることが可能な超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る超電導コイル10について、一部を分解した斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る超電導コイル10の断面図である。
図3図3は、実施形態に係る超電導コイル10について、超電導線材20の一部を分解した斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る超電導コイル10において、導電性樹脂層13の拡大断面図である。
図5図5は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法の一例を示すフロー図である。
図6図6は、表1に示す各例について測定された体積抵抗率の結果を示す図である。
図7図7は、実施形態の変形例に係る超電導コイル10の巻線部材12を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[A]超電導コイル10の構成
図1は、実施形態に係る超電導コイル10について、一部を分解した斜視図である。図2は、実施形態に係る超電導コイル10の断面図である。
【0015】
図1では、超電導コイル10において導電性樹脂層13と絶縁板14とを分離した状態を模式的に示しており、図2では、超電導コイル10において軸Cに沿った断面を模式的に示している。
【0016】
超電導コイル10は、図1および図2に示すように、巻枠11、巻線部材12、導電性樹脂層13、および、絶縁板14を有する。超電導コイル10を構成する各部について順次説明する。
【0017】
[A-1]巻枠11
巻枠11は、軸C(中心軸)を有する略円筒形状であって、巻線部材12を保持するために設けられている。
【0018】
[A-2]巻線部材12
巻線部材12は、超電導線材20が巻枠11において軸Cの周りに巻き回されている。具体的には、超電導線材20は、巻枠11の周囲において周方向θへ同心円状に巻き回されている。すなわち、超電導線材20は、軸Cの径方向rにおいて、複数ターン分、順次積層されている。巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間は、たとえば、絶縁樹脂で形成された絶縁層25が介在しており、電気的に絶縁されている。なお、超電導線材20の詳細については後述する。
【0019】
[A-3]導電性樹脂層13
導電性樹脂層13は、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に設けられている。詳細については後述するが、導電性樹脂層13は、導電性樹脂混合物を硬化させることで形成されている。
【0020】
導電性樹脂層13は、超電導コイル10の使用中に巻線部材12に常電導部が生じた場合に電流が径方向rに迂回する迂回路として機能するように、巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間を電気的に接続している。導電性樹脂層13が迂回路として機能した際には、常電導部に流れる電流が低減するため、超電導コイル10の熱暴走やクエンチを抑制することができる。
【0021】
[A-4]絶縁板14
絶縁板14は、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に、導電性樹脂層13を介して設置されている。絶縁板14は、たとえば、リング形状の板状体であって、導電性樹脂層13を外界から保護するために設置されている。
【0022】
[B]超電導線材20の詳細
超電導コイル10を構成する超電導線材20の詳細に関して、図2と共に図3を用いて説明する。
【0023】
図3は、実施形態に係る超電導コイル10について、超電導線材20の一部を分解した斜視図である。図3では、巻枠11に巻き回される前の状態を模式的に示している。
【0024】
超電導線材20は、図2および図3に示すように、基体層21、超電導層22、保護層23、および、安定化層24を有する。超電導線材20は、高温超電導線材であって、薄膜状の層が積層されたテープ形状である。
【0025】
[B-1]基体層21
基体層21は、例えば、ニッケル基合金、ステンレスまたは銅などの高強度の金属で構成されている。
【0026】
[B-2]超電導層22
超電導層22は、図3に示すように、基体層21の面に形成されている。超電導層22は、たとえば、レアメタル酸化物(RE酸化物)で構成されている。
【0027】
[B-3]保護層23
保護層23は、図3に示すように、超電導層22を介して、基体層21の面に形成されている。保護層23は、銀、金または白金などの材料で形成されている。保護層23は、超電導層22に含まれる酸素が超電導層22から拡散することを防止し、超電導層22の特性の変動を防止するために設けられている。
【0028】
[B-4]安定化層24
安定化層24は、図3に示すように、基体層21と超電導層22と保護層23との積層体を被覆するように、銅またはアルミニウムなどの良伝導性金属で形成されている。安定化層24は、超電導層22への過剰通電電流の迂回経路となって熱暴走を防止するために設けられている。
【0029】
[B-5]その他
なお、図示を省略しているが、基体層21と超電導層22の間には、配向層や中間層を別途設けてもよい。 中間層は、基体層21と超電導層22との熱収縮の起因する熱歪みを緩和するように設けられる。配向層は、基体層21の表面において中間層を配向させるために設けられる。
【0030】
[C]導電性樹脂層13の詳細
導電性樹脂層13の詳細について、図4を用いて説明する。
【0031】
図4は、実施形態に係る超電導コイル10において、導電性樹脂層13の拡大断面図である。
【0032】
導電性樹脂層13は、図4に示すように、バインダ樹脂層31、第1フィラー32、および、第2フィラー33を有する。
【0033】
[C-1]バインダ樹脂層31
バインダ樹脂層31は、硬化した樹脂で構成されている。バインダ樹脂層31は、たとえば、樹脂主剤、硬化剤、カップリング剤を含む樹脂混合物を用いて形成される。樹脂混合物は、必要に応じて、分散剤が添加される。
【0034】
樹脂混合物において、樹脂主剤は、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂である。
【0035】
硬化剤は、室温あるいは低温で粘度が低い液状材料であって、樹脂主剤の硬化を促進するために添加される。
【0036】
カップリング剤は、有機材料と反応結合する官能基、および、無機材料と反応結合する官能基の両者を有する化合物である。カップリング剤は、たとえば、シランカップリング剤などの有機ケイ素化合物であって、樹脂主剤の接着性を向上するために添加される。
【0037】
[C-2]第1フィラー32
第1フィラー32は、導電性を有する。第1フィラー32は、少なくとも一部が導電性材料で構成されており、導電性樹脂層13の内部において分散されている。第1フィラー32は、導電性樹脂層13に導電性を付与するために添加されている。
【0038】
第1フィラーとして、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、金属からなる粒子、金属酸化物、金属からなる繊維、金属層でコートされた粒子、金属層でコートされた繊維のうち、少なくとも一つを含む。上記材料を用いた場合には、それぞれの材料固有の体積抵抗率を反映して導電性樹脂層の体積抵抗率が10-8~10Ωmの範囲となり得る。
【0039】
上記のうち、金属コートした微粒子は、核が金属材料で被覆されている。金属コートした微粒子において、核は、無機材料または有機材料で形成されている。具体的には、無機材料として、ガラス、アルミニウムなどの金属、シリカなどの金属酸化物を用いて核が形成される。また、有機材料として、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂を用いて核が形成される。核に被覆される金属材料としては、ニッケル、銅、銀、これらを含む合金(例えば、Ag-Cu-Ni、Ni-Ti、Cu-Cr)が用いられる。核の表面に被覆した金属材料は、核の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0040】
第1フィラー32の比重は、0.5~6.0の範囲にあることが好ましい。この範囲であれば、第1フィラー32の比重と樹脂主剤の比重との差が小さいので、乾燥前の導電性樹脂混合物中において、第1フィラー32の沈降が抑制される。
【0041】
第1フィラー32は、平均粒径が異なる複数種を用いると、充填性が向上するので、体積抵抗率が低い導電性樹脂層13を容易に作製可能である。
【0042】
[C-3]第2フィラー33
第2フィラー33は、第1フィラー32より体積抵抗率が100倍以上大きい材料で構成されている。第1フィラー32が複数種である場合には、その複数種の第1フィラー32のそれぞれの体積抵抗率に対して、第2フィラー33の体積抵抗率が100倍以上である。
これは、第2フィラー33の体積抵抗率が100倍以上である場合には、導電性樹脂層の体積抵抗率を容易に変えることが可能であるが、100倍未満である場合は第1フィラーと第2フィラーの体積抵抗率が近いため導電性樹脂層の体積抵抗率を変えることが難しくなるからである。
【0043】
第2フィラー33は、金属酸化物(例えば、シリカ)などの無機材料で形成されている。この他に、第2フィラー33は、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機材料で形成されていてもよい。
【0044】
特に、第2フィラー33としては、シリカ、アルミナ、チッ化ケイ素、チッ化アルミナのうち、少なくとも一つを含むことが好ましい。上記材料は、熱膨張係数が小さいので、導電性樹脂層13と巻線部材12との間において剥離が生ずることを効果的に抑制可能である。
【0045】
[C-4]その他
なお、第1フィラー32の比重は、第2フィラー33の比重の0.5~3.0倍であることが好ましい。第1フィラー32の比重と第2フィラー33の比重とが互いに同程度であるので、第2フィラー33は、樹脂組成物中で均一に分散され、第1フィラー32同士が適切に接触する。たとえば、第1フィラー32と第2フィラー33とを同様な添加量にすることによって、体積抵抗率が高い導電性樹脂層13を形成することが可能である。
【0046】
導電性樹脂層13の体積抵抗率を上昇させるとき、第2フィラー33を添加しない場合は、フィラー量を大幅に減らす必要があり、均一分散性が低下し、熱収縮率が増加する。これに対して、第2フィラー33を添加することで、フィラー総量を維持して、均一分散性を向上させ、熱収縮率を低下させることができる。第1フィラー32の比重と第2フィラー33の比重が大きく異なると、樹脂組成物中で均一に分散せず、体積抵抗率の制御が困難になる。
【0047】
また、第1フィラー32と第2フィラー33とを合計したフィラー総量のうち、第1フィラー32が占める割合が25体積%以上であることが好ましい。これにより、第1フィラー32同士が接触する確率が上昇するので、導電性樹脂層13が迂回路として好適に機能することができる。
【0048】
さらに、導電性樹脂層13において、第1フィラー32と第2フィラー33とを合計したフィラー総量が占める割合は、60体積%以下であることが好ましい。これにより、導電性樹脂混合物の粘性が低いため、含浸性(塗布性)を向上させることが可能である。
【0049】
[D]超電導コイル10の製造方法
超電導コイル10の製造方法について説明する。
【0050】
図5は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0051】
[D-1]巻線部材12の作製(ステップST11)
超電導コイル10を製造する際には、まず、図5に示すように、巻線部材12の作製を行う。
【0052】
ここでは、略円筒形状である巻枠11の周りに、超電導線材20を巻くことによって、巻線部材12を作製する(図1図2参照)。一般的に、巻線部材12は、巻枠11への巻回によって成形された後に、巻枠11と共に、エポキシ樹脂などの絶縁材に含浸される。これにより、巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間に絶縁材が充填されて絶縁層25が形成される(図2参照)。これと共に、巻線部材12が絶縁材でコーティングされる。
【0053】
[D-2]導電性樹脂混合物の作製(ステップST12)
つぎに、図5に示すように、導電性樹脂混合物の作製を行う。
【0054】
導電性樹脂混合物は、上述したように、導電性樹脂層13の作製で用いる材料であって、バインダ樹脂層31を構成する材料と共に、第1フィラー32および第2フィラー33を混合することで作製される(図4参照)。導電性樹脂混合物の作製では、たとえば、混合機が用いられる。
【0055】
[D-3]導電性樹脂層の形成(ステップST13)
つぎに、図5に示すように、導電性樹脂層13の形成を行う。
【0056】
ここでは、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に導電性樹脂混合物を塗布することで、導電性樹脂層13を形成する(図1図2参照)。
【0057】
[D-4]絶縁板14の取り付け(ステップST14)
つぎに、図5に示すように、絶縁板14の取り付けを行う。
【0058】
ここでは、導電性樹脂層13を介して、巻線部材12の側面に対面するように、絶縁板14を取り付ける(図1図2参照)。
【0059】
[D-5]導電性樹脂層の硬化(ステップST15)
つぎに、図5に示すように、導電性樹脂層13を硬化させる。
【0060】
ここでは、必要に応じて、加熱によって導電性樹脂層13の硬化を促進させてもよい。
【実施例
【0061】
実施例および比較例について、表1から表4を用いて説明する。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表1から表4では、導電性樹脂層13の作製で用いる導電性樹脂混合物の配合、フィラー総量、全フィラーに対する第1フィラーの含有割合(%)、および、試験結果を示している。
【0067】
[1]表1について
[1-1]導電性樹脂層13の試料作製
表1に示す各例において導電性樹脂層13の試料を作製した方法に関して説明する。
【0068】
[1-1-1]実施例1
実施例1では、まず、導電性樹脂層13を構成する導電性樹脂混合物を作製するために、表1に示すように、樹脂主剤、カップリング剤、および、硬化剤と共に、第1フィラー32と第2フィラー33とを準備した。
【0069】
ここでは、下記のような材料を準備した。
・樹脂主剤:エポキシ樹脂
・カップリング剤:アルコキシシラン
・硬化剤:ポリエーテルアミン
・第1フィラー32:シリカの粉体にAgメッキ層を被覆した粒状物質(比重2.9、体積抵抗率10-6Ωm、平均粒径2μm)
・第2フィラー33:球状シリカ(比重2.2、体積抵抗率1016Ωm、平均粒径2μm)
【0070】
つぎに、各材料を表1に示す配合比で配合し、自転・公転式の混合機を用いて、5分間、混合することによって導電性樹脂混合物を作製した。
【0071】
つぎに、幅4mm、深さ1mm、長さ50mmである型(溝)に導電性樹脂混合物を塗布し硬化させることによって、導電性樹脂層13の試料を作製した。
【0072】
[1-1-2]実施例2、実施例3、比較例1~4
実施例2、実施例3、および、比較例1~4では、各材料を表1に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した。この点を除き、実施例1の場合と同様に、各例の試料を作製した。
【0073】
[1-2]評価結果
[1-2-1]体積抵抗率
上記のように作製した各例の試料について、体積抵抗率を四端子法で測定した(JIS K 7194準拠)。
【0074】
図6は、表1に示す各例について測定された体積抵抗率の結果を示す図である。図6において、横軸は、第1フィラー32の配合割合(体積%)であり、縦軸は、体積抵抗率(Ω・m)である。図6では、第2フィラー33を含有している場合(実施例1~3;第2フィラー有)と、第2フィラー33を含有していない場合(比較例1~4;第2フィラー無)とを分けて示している。
【0075】
図6から判るように、第2フィラー33を含有している場合(実施例1~3;第2フィラー有)は、第2フィラー33を含有していない場合(比較例1~4;第2フィラー無)よりも、体積抵抗率の変化が大きい。この結果から、第2フィラー33の添加によって、導電性樹脂層13の体積抵抗率を容易に変えることが可能である。
【0076】
[1-2-2]熱収縮率
上記のように作製した各例の試料について、熱収縮率を測定した(JIS K 7197準拠)。ここでは、293Kから140Kへ冷却したときの熱収縮率に関して測定した。
【0077】
293Kから140Kへ冷却した時の熱収縮率は、比較例4では、-0.521%であった。比較例4のように、熱収縮率の絶対値が0.517%より大きい場合には、超電導線材が臨界温度以下に冷却されて使用されるときに作用する熱応力によって、導電性樹脂層13が巻線部材12から剥離する可能性が高く、超電導特性が劣化し易い。これに対して、各実施例は、熱収縮率の絶対値が0.517%よりも小さく、かつ、各比較例よりも小さいので、剥離の発生を効果的に防止可能である。
【0078】
[2]表2について
[2-1]導電性樹脂層13の試料作製
[2-1-1]実施例4
実施例4では、まず、導電性樹脂層13を構成する導電性樹脂混合物を作製するために、表2に示すように、樹脂主剤、カップリング剤硬化剤、および、分散剤と共に、第1フィラー32と第2フィラー33とを準備した。
【0079】
ここでは、分散剤、および、第1フィラー32として下記のような材料を準備した点を除き、実施例1等と同様に、導電性樹脂層13の試料を作製した。
・分散剤:ポリエーテルリン酸エステル化合物
・第1フィラー32(棒状体):ナイロン繊維にAg電解メッキ層を被覆した棒状物質(比重1.5、体積抵抗率10-6Ωm、長さ0.4mm)
・第1フィラー32(球状体):アクリル樹脂の粉体にAgメッキ層を被覆した粒状物質(比重4.1、体積抵抗率10-6Ωm、平均粒径2μm)
【0080】
つぎに、各材料を表2に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した後に、実施例1等と同様に、導電性樹脂混合物を硬化させることによって導電性樹脂層13の試料を作製した。
【0081】
[2-1-2]比較例5
比較例5では、各材料を表2に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した。この点を除き、実施例4の場合と同様に、各例の試料を作製した。
【0082】
[2-1-3]比較例6
比較例6では、各材料を表2に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した。
【0083】
ここでは、第1フィラー32として下記のような材料を準備した点を除き、実施例4の場合と同様に、導電性樹脂層13の試料を作製した。
・第1フィラー32:Agナノ粒子(比重10.5、体積抵抗率10-8Ωm、平均粒径5μm)
【0084】
比較例6は、第1フィラー32の比重が、第2フィラー33の比重の0.5~3.0倍の範囲外である。第1フィラー32の比重と第2フィラー33の比重とが上記範囲以外の場合は導電性樹脂混合物中で一方のフィラーが沈降し、体積抵抗率がばらつき、均一な導電性樹脂にならない。
【0085】
[2-2]評価結果
上記のように作製した実施例4の試料および比較例5の試料について、実施例1などと同様に、体積抵抗率および熱収縮率を測定した。
【0086】
実施例4は、第2フィラー33を含有している場合であり、比較例5は、第2フィラー33を含有していない場合である。また、実施例4において、第1フィラー32の比重は、第2フィラー33の比重の0.5~3.0倍の範囲である。体積抵抗率は、実施例4と比較例5との間で同程度である。熱収縮率の絶対値は、実施例4の方が比較例5よりも小さい。このため、実施例4では、超電導線材が臨界温度以下に冷却されて使用される際に、導電性樹脂層13が巻線部材12から剥離することを抑制可能である。
【0087】
[3]表3について
[3-1]導電性樹脂層13の試料作製
実施例5から実施例10では、導電性樹脂層13を構成する導電性樹脂混合物を作製するために、実施例4等と同じ材料を準備した。そして、各材料を表3に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した後に、実施例4等と同様に、導電性樹脂混合物を硬化させることによって導電性樹脂層13の試料を作製した。
【0088】
[3-2]評価結果
上記のように作製した実施例5から実施例10の試料について、実施例4等と同様に、体積抵抗率を測定した。実施例5から実施例9では2.7×10-5~9.3×10-3Ωmの体積抵抗率が得られた。実施例10では、体積抵抗率のバラツキが大きかったが、導通は得られた。この結果から、第1フィラー32と第2フィラー33とを合計したフィラー総量のうち、第1フィラー32が占める割合が25体積%以上であることが好ましいことが判る。
【0089】
[4]表4について
[4-1]導電性樹脂層13の試料作製
実施例11から実施例15では、導電性樹脂層13を構成する導電性樹脂混合物を作製するために、実施例4等と同じ材料を準備した。そして、各材料を表4に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した後に、実施例4等と同様に、導電性樹脂混合物を硬化させることによって導電性樹脂層13の試料を作製した。
【0090】
[4-2]評価結果
上記のように作製した実施例11から実施例15の試料について、実施例4等と同様に、体積抵抗率を測定した。
【0091】
表4には示していないが、実施例11から実施例15については、含浸性(塗布性)に関して評価した。実施例11から実施例13は、フィラー総量が30~50体積%であり、硬化前の導電性樹脂混合物は、粘性が低く、含浸性(塗布性)に優れていた。実施例14は、フィラー総量が60体積%であり、硬化前の導電性樹脂混合物は、粘性がやや高いが、含浸性(塗布性)は良好であった。実施例15は、フィラー総量が65体積%であり、硬化前の導電性樹脂混合物は、粘性が高いが、塗布可能であり、含浸性(塗布性)を保持していた。この結果から、導電性樹脂層13において第1フィラー32と第2フィラー33とを合計したフィラー総量が占める割合は、60体積%以下であることが好ましいことが判る。
【0092】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0093】
たとえば、上記実施形態では、超電導コイル10が、巻線部材12が、いわゆるパンケーキ形状である場合について説明したが、これに限らない。
【0094】
図7は、実施形態の変形例に係る超電導コイル10の巻線部材12を示す斜視図である。
【0095】
図7に示すように、超電導コイル10は、巻線部材12がソレノイド型でもよい。その他、巻線部材12は、非円形に巻回したレーストラック型、鞍型、楕円型などのように様々な形態であってもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、迂回路である導電性樹脂層13は、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った両側面に設けられているが、これに限らない。両側面でなく、一方の側面に導電性樹脂層13を設けてもよい(図2参照)。
【0097】
その他、超電導コイル10においては、巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間に絶縁層25が介在しているが、絶縁層25に代わって導電性樹脂層13を介在させてもよい(図2参照)。
【符号の説明】
【0098】
10:超電導コイル、11:巻枠、12:巻線部材、13:導電性樹脂層、14:絶縁板、20:超電導線材、21:基体層、22:超電導層、23:保護層、24:安定化層、25:絶縁層、31:バインダ樹脂層、32:第1フィラー、33:第2フィラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7