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特許7395413超電導コイルの製造方法、および、電気機器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】超電導コイルの製造方法、および、電気機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20231204BHJP
   H01F 6/02 20060101ALI20231204BHJP
   H02K 3/30 20060101ALN20231204BHJP
【FI】
H01F6/06 150
H01F6/02
H01F6/06 110
H02K3/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020070332
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021168325
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047740(JP,A)
【文献】特開2009-267240(JP,A)
【文献】特開2015-130420(JP,A)
【文献】特開2017-110183(JP,A)
【文献】特開2017-050119(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118061(WO,A1)
【文献】特表2002-541616(JP,A)
【文献】特開2016-089038(JP,A)
【文献】特開2020-057545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 6/02
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材が軸の周りに巻き回された巻線部材と、前記巻線部材において前記軸の径方向に沿った側面に設けられた導電性樹脂硬化層とを備える超電導コイルの製造方法であって、
導電性樹脂混合物を用いて導電性樹脂層を前記巻線部材の側面に形成する導電性樹脂層形成工程と、
前記導電性樹脂層を加圧した状態で硬化させることによって、前記導電性樹脂硬化層を設ける導電性樹脂硬化層形成工程と
を有し、
前記導電性樹脂混合物は、樹脂主剤と硬化剤とカップリング剤と分散剤と導電性物質とを含み、前記導電性物質としてAgメッキファイバーとAgコート粉とを含有し、下記の配合比で配合されている、
超電導コイルの製造方法。
・樹脂主剤:残部
・硬化剤:19.0±0.5体積%
・カップリング剤:1.0±0.1体積%
・分散剤:1.0±0.1体積%
・Agメッキファイバー:18.0±0.5体積%
・Agコート粉:12.0±0.3体積%
【請求項2】
前記導電性樹脂硬化層形成工程では、20kPa以上の荷重で前記導電性樹脂層の加圧を実行する、
請求項1に記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項3】
前記Agメッキファイバーは、有機物のファイバーと、前記ファイバーを被覆するAgメッキ層とを有する、
請求項1または2に記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項4】
前記Agコート粉は、有機物の粉体と、前記粉体を被覆するAgメッキ層とを有する、
請求項1から3のいずれかに記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項5】
前記導電性樹脂硬化層は、抵抗率が、1×10-5以上、1×10-4Ωm以下である、
請求項1から4のいずれかに記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項6】
導電性樹脂硬化層を有する電気機器の製造方法であって、
導電性樹脂混合物を用いて形成された導電性樹脂層を加圧した状態で硬化させることによって、前記導電性樹脂硬化層を設ける導電性樹脂硬化層形成工程
を有し、
前記導電性樹脂混合物は、樹脂主剤と硬化剤とカップリング剤と分散剤と導電性物質とを含み、前記導電性物質としてAgメッキファイバーとAgコート粉とを含有し、下記の配合比で配合されている、
電気機器の製造方法。
・樹脂主剤:残部
・硬化剤:19.0±0.5体積%
・カップリング剤:1.0±0.1体積%
・分散剤:1.0±0.1体積%
・Agメッキファイバー:18.0±0.5体積%
・Agコート粉:12.0±0.3体積%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導コイルの製造方法、および、電気機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、発熱せずに、大電流の通電が可能な電磁石(マグネット)であり、大きな磁場を必要とする種々の用途に用いられる。特に、高温超電導体(例えば、Y系酸化物)は、金属系の超電導体に比べ、転移温度が高いため、高温超電導体を用いた高温超電導コイルは、より効率的な運用が可能となる(効率的な冷却、小型化、高磁場)。
【0003】
超電導コイルは、熱暴走やクエンチによって破損する可能性がある。すなわち、超電導コイルを構成する超電導線材の冷却不足や内部欠陥(例えば、層間剥離)の発生によって、超電導線材内に常伝導部(領域)が発生することがある。この常伝導部は、電流によって発熱し、極めて短い時間(1秒未満)で数100Kの温度が上昇する(ホットスポット)。
【0004】
常伝導部の発生を検知することで、熱暴走やクエンチを阻止することは困難である。特に、高温超電導体は、金属系の超電導体に比べて比熱が大きいため、常電導部の拡大が遅く、その検知前に、超電導線材が焼損する可能性が高い。
【0005】
熱暴走またはクエンチを抑制するために、超電導コイルの巻線部材の側面に、迂回路として機能する導電性樹脂硬化層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-103352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超電導コイルを構成する導電性樹脂硬化層は、熱暴走またはクエンチをより効果的かつ安定的に抑制するために、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが小さいことが求められている。超電導コイル以外に、たとえば、半導体装置などの電気機器を構成する導電性樹脂硬化層においても同様に、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが小さいことが求められている。
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが小さい導電性樹脂硬化層を有する超電導コイルの製造方法、および、電気機器の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る超電導コイルの製造方法は、超電導線材が軸の周りに巻き回された巻線部材と、前記巻線部材において前記軸の径方向に沿った側面に設けられた導電性樹脂硬化層とを備える超電導コイルの製造方法であって、導電性樹脂混合物を用いて導電性樹脂層を前記巻線部材の側面に形成する導電性樹脂層形成工程と、前記導電性樹脂層を加圧した状態で硬化させることによって、前記導電性樹脂硬化層を設ける導電性樹脂硬化層形成工程とを有し、導電性樹脂混合物は、樹脂主剤と硬化剤とカップリング剤と分散剤と導電性物質とを含み、前記導電性物質としてAgメッキファイバーとAgコート粉とを含有し、下記の配合比で配合されている、
超電導コイルの製造方法。
・樹脂主剤:残部
・硬化剤:19.0±0.5体積%
・カップリング剤:1.0±0.1体積%
・分散剤:1.0±0.1体積%
・Agメッキファイバー:18.0±0.5体積%
・Agコート粉:12±0.3体積%
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが小さい導電性樹脂硬化層を有する超電導コイルの製造方法、および、電気機器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る超電導コイル10について、一部を分解した斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る超電導コイル10の断面図である。
図3図3は、実施形態に係る超電導コイル10について、超電導線材20の一部を分解した斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る超電導コイル10において、導電性樹脂硬化層13の拡大断面図である。
図5図5は、実施形態に係る導電性樹脂硬化層13において、粒状導電体32の拡大断面図である。
図6図6は、実施形態に係る導電性樹脂硬化層13において、棒状導電体33の拡大断面図である。
図7図7は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法の一例を示すフロー図である。
図8図8は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法において、導電性樹脂層に加えた加圧力(荷重)と、導電性樹脂硬化層13の厚みとの関係を示す図である。
図9図9は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法において、導電性樹脂層に加えた加圧力(荷重)と、導電性樹脂硬化層13の密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[A]超電導コイル10の構成
図1は、実施形態に係る超電導コイル10について、一部を分解した斜視図である。図2は、実施形態に係る超電導コイル10の断面図である。
【0013】
図1では、超電導コイル10において導電性樹脂硬化層13と側板14とを分離した状態を模式的に示しており、図2では、超電導コイル10において軸Cに沿った断面を模式的に示している。
【0014】
超電導コイル10は、図1および図2に示すように、巻枠11、巻線部材12、導電性樹脂硬化層13、および、側板14を有する。超電導コイル10を構成する各部について順次説明する。
【0015】
[A-1]巻枠11
巻枠11は、軸C(中心軸)を有する略円筒形状であって、巻線部材12を保持するために設けられている。
【0016】
[A-2]巻線部材12
巻線部材12は、超電導線材20が巻枠11において軸Cの周りに巻き回されている。具体的には、超電導線材20は、巻枠11の周囲において周方向θへ同心円状に巻き回されている。すなわち、超電導線材20は、軸Cの径方向rにおいて、複数ターン分、順次積層されている。巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間は、たとえば、絶縁樹脂で形成された絶縁層25が介在しており、電気的に絶縁されている。なお、超電導線材20の詳細については後述する。
【0017】
[A-3]導電性樹脂硬化層13
導電性樹脂硬化層13は、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に設けられている。詳細については後述するが、導電性樹脂硬化層13は、導電性樹脂を硬化させることで形成されている。
【0018】
導電性樹脂硬化層13は、超電導コイル10の使用中に巻線部材12に常電導部が生じた場合に電流が径方向rに迂回する迂回路として機能するように、巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間を電気的に接続している。導電性樹脂硬化層13が迂回路として機能した際には、常電導部に流れる電流が低減するため、超電導コイル10の熱暴走やクエンチを抑制することができる。
【0019】
導電性樹脂硬化層13は、導電性が高いことが好ましい。導電性樹脂硬化層13は、たとえば、1×10-3Ωm以下、より好ましくは、1×10-4Ωm以下の抵抗率(体積抵抗率)であることが好ましい。これにより、導電性樹脂硬化層13を介して電流を効果的に迂回できる。
【0020】
[A-4]側板14
側板14は、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に、導電性樹脂硬化層13を介して設置されている。側板14は、たとえば、リング形状の絶縁体であって、導電性樹脂硬化層13を外界から保護するために設置されている。
【0021】
[B]超電導線材20の詳細
超電導コイル10を構成する超電導線材20の詳細に関して、図2と共に図3を用いて説明する。
【0022】
図3は、実施形態に係る超電導コイル10について、超電導線材20の一部を分解した斜視図である。図3では、巻枠11に巻き回される前の状態を模式的に示している。
【0023】
超電導線材20は、図2および図3に示すように、基体層21、超電導層22、保護層23、および、安定化層24を有する。
【0024】
[B-1]基体層21
基体層21は、例えば、ニッケル基合金、ステンレスまたは銅などの高強度の金属で構成されている。
【0025】
[B-2]超電導層22
超電導層22は、図3に示すように、基体層21の面に形成されている。超電導層22は、たとえば、イットリウム系超伝導体(YBaCu)、ビスマス系超伝導体(BiSrCaCu10、REBCO:REBaCu)などの酸化物超電導体で構成されている。
【0026】
[B-3]保護層23
保護層23は、図3に示すように、超電導層22を介して、基体層21の面に形成されている。保護層23は、銀、金または白金などの材料で形成されている。保護層23は、超電導層22に含まれる酸素が超電導層22から拡散することを防止し、超電導層22の特性の変動を防止するために設けられている。
【0027】
[B-4]安定化層24
安定化層24は、図3に示すように、基体層21と超電導層22と保護層23との積層体を被覆するように、銅またはアルミニウムなどの良伝導性金属で形成されている。安定化層24は、超電導層22への過剰通電電流の迂回経路となって熱暴走を防止するために設けられている。
【0028】
[B-5]その他
なお、図示を省略しているが、基体層21と超電導層22の間には、配向層や中間層を別途設けてもよい。 中間層は、基体層21と超電導層22との熱収縮の起因する熱歪みを緩和するように設けられる。配向層は、基体層21の表面において中間層を配向させるために設けられる。
【0029】
[C]導電性樹脂硬化層13の詳細
導電性樹脂硬化層13の詳細について、図4を用いて説明する。
【0030】
図4は、実施形態に係る超電導コイル10において、導電性樹脂硬化層13の拡大断面図である。
【0031】
導電性樹脂硬化層13は、図4に示すように、樹脂硬化層31、粒状導電体32、および、棒状導電体33を有する。
【0032】
[C-1]樹脂硬化層31
樹脂硬化層31は、樹脂が硬化したバインダーである。樹脂硬化層31は、たとえば、樹脂主剤、硬化剤、カップリング剤、分散剤、および、必要に応じて調整剤を含む樹脂混合物を用いて形成される。
【0033】
樹脂混合物において、樹脂主剤は、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂である。
【0034】
硬化剤は、室温あるいは低温で粘度が低い液状材料であって、樹脂主剤の硬化を促進するために添加される。
【0035】
カップリング剤は、有機材料と反応結合する官能基、および、無機材料と反応結合する官能基の両者を有する化合物である。カップリング剤は、たとえば、シランカップリング剤などの有機ケイ素化合物であって、樹脂主剤の接着性を向上するために添加される。
【0036】
分散剤は、たとえば、無機材料の粒子である。分散剤は、樹脂混合物に混合され(充填材)、樹脂硬化物の強度を向上させるために添加される。
【0037】
調整剤は、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンなどの揮発性有機物である。調整剤は、塗布性(塗り易さ)の向上を目的として添加される。この他に、調整剤は、凝固後の厚さの制御を目的として添加される。
【0038】
[C-2]粒状導電体32、棒状導電体33
粒状導電体32および棒状導電体33は、少なくとも一部が導電性材料で構成されており、導電性樹脂硬化層13の内部において分散されている。粒状導電体32および棒状導電体33は、導電性樹脂硬化層13に導電性を付与するために添加されている。本実施形態では、互いに形状が異なる粒状導電体32と棒状導電体33とを併用しているので、導電性樹脂硬化層13の導電性を向上できる。
【0039】
粒状導電体32および棒状導電体33の一例について、図5および図6を用いて説明する。
【0040】
図5は、実施形態に係る導電性樹脂硬化層13において、粒状導電体32の拡大断面図である。図6は、実施形態に係る導電性樹脂硬化層13において、棒状導電体33の拡大断面図である。
【0041】
図5に示すように、粒状導電体32は、たとえば、核となる粉状体320と、粉状体320を被覆する導電性被覆層321とを有する。粉状体320は、たとえば、真球形状、回転楕円体形状などの球形状である。
【0042】
これに対して、棒状導電体33は、図6に示すように、たとえば、核となる棒状体330と、棒状体330を被覆する導電性被覆層331とを有する。棒状体330は、たとえば、円柱形状であって、ファイバ(繊維)であっても良い。
【0043】
粒状導電体32において核となる粉状体320、および、棒状導電体33において核となる棒状体330は、ガラス、金属(たとえば、アルミニウム)、金属酸化物(たとえば、シリカ)、および、有機材料(ナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等)で形成されている。
【0044】
粒状導電体32の導電性被覆層321および棒状導電体33の導電性被覆層331は、たとえば、ニッケル、銅、銀、これらを含む合金(例えば、Ag-Cu-Ni、Ni-Ti、Cu-Cr)の導電性材料のうち少なくとも1つを選択して用いることが好適である。導電性被覆層321および導電性被覆層331は、たとえば、メッキ法などの成膜法によって形成される。
【0045】
粒状導電体32において、粉状体320は、導電性被覆層321よりも密度が低い導電性材料を用いて被覆されていることが好ましい。具体的には、粒状導電体32としては、粉状体320が有機物の粉体であって、粉状体320を被覆する導電性被覆層321がAgメッキ層であるAgコート粉を用いることができる。
【0046】
同様に、棒状導電体33において、棒状体330は、導電性被覆層331よりも密度が低い導電性材料を用いて被覆されていることが好ましい。具体的には、棒状導電体33としては、棒状体330が有機物のファイバーであって、棒状体330を被覆する導電性被覆層331がAgメッキ層であるAgメッキファイバーを用いることができる。
【0047】
粒状導電体32および棒状導電体33は、主に、硬化前の樹脂混合物の流動性の確保と硬化後の導電性樹脂硬化層13の導電性の確保とを両立させるために、以下に示す事項を満たすことが好ましい。具体的には、粒状導電体32の直径r1は、好ましくは2~10μmであり、より好ましくは、4~7μmである。棒状導電体33の直径r2は、好ましくは5~15μmであり、より好ましくは7~10μmである。棒状導電体33の長さは、好ましくは、粒状導電体32の径r1の10~2,000倍(20~20,000μm)、より好ましくは、50~100倍(200~700μm)である。
【0048】
導電性樹脂硬化層13の作製では、導電性樹脂混合物が用いられる。導電性樹脂混合物は、樹脂硬化層31を構成する樹脂混合物と共に、粒状導電体32および棒状導電体33を混合することで作製される(図4参照)。つまり、導電性樹脂混合物は、樹脂主剤と硬化剤とカップリング剤と分散剤と導電性物質とを含み、導電性物質として、粒状導電体32および棒状導電体33を含有している。棒状導電体33は、たとえば、Agメッキファイバーであり、粒状導電体32は、たとえば、Agコート粉である。本実施形態では、導電性樹脂混合物は、各材料が下記の配合比で配合されていることが好ましい。詳細については後述するが、これにより、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが小さい導電性樹脂硬化層13を容易に形成可能である。
【0049】
・樹脂主剤:残部
・硬化剤:19.0±0.5体積%
・カップリング剤:1.0±0.1体積%
・分散剤:1.0±0.1体積%
・Agメッキファイバー:18.0±0.5体積%
・Agコート粉:12.0±0.3体積%
【0050】
[D]超電導コイル10の製造方法
超電導コイル10の製造方法について説明する。
【0051】
図7は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0052】
[D-1]巻線部材12の作製(ステップST11)
超電導コイル10を製造する際には、まず、図7に示すように、巻線部材12の作製を行う。
【0053】
ここでは、略円筒形状である巻枠11の周りに、超電導線材20を巻くことによって、巻線部材12を作製する(図1図2参照)。一般的に、巻線部材12は、巻枠11への巻回によって成形された後に、巻枠11と共に、エポキシ樹脂などの絶縁材に含浸される。これにより、巻線部材12において径方向rに積層された超電導線材20のターン間に絶縁材が充填されて絶縁層25が形成される(図2参照)。これと共に、巻線部材12が絶縁材でコーティングされる。
【0054】
[D-2]導電性樹脂混合物の作製(ステップST12)
つぎに、図7に示すように、導電性樹脂混合物の作製を行う。
【0055】
導電性樹脂混合物は、上述したように、導電性樹脂硬化層13の作製で用いる材料であって、樹脂硬化層31を構成する樹脂混合物と共に、粒状導電体32および棒状導電体33を混合することで作製される(図4参照)。導電性樹脂混合物の作製では、たとえば、自転・公転式の混合機が用いられる。
【0056】
[D-3]導電性樹脂層の形成(ステップST13)
つぎに、図7に示すように、導電性樹脂層の形成を行う(導電性樹脂層形成工程)。
【0057】
導電性樹脂層は、導電性樹脂硬化層13が硬化される前の状態の層であって、巻線部材12において軸Cの径方向rに沿った側面に導電性樹脂混合物を塗布することで形成される(図1図2参照)。
【0058】
[D-4]側板14の取り付け(ステップST14)
つぎに、図7に示すように、側板14の取り付けを行う。
【0059】
ここでは、導電性樹脂硬化層13になる導電性樹脂層を介して、巻線部材12の側面に対面するように、側板14を取り付ける(図1図2参照)。
【0060】
[D-5]導電性樹脂層を加圧して硬化(ステップST15)
つぎに、図7に示すように、導電性樹脂層を加圧した状態で硬化させる(導電性樹脂硬化層形成工程)。
【0061】
ここでは、導電性樹脂層の硬化は、たとえば、加圧機を用いて軸Cに沿った方向へ導電性樹脂層を加圧することで実行される。これにより、導電性樹脂層が硬化して導電性樹脂硬化層13になる(図1図2参照)。なお、必要に応じて、導電性樹脂層を加熱することで、硬化を促進させてもよい。
【0062】
詳細については後述するが、本工程では、20kPa以上の荷重を導電性樹脂層に加えた状態にすることが好ましい。
【実施例
【0063】
実施例および比較例について、表1を用いて説明する。
【0064】
【表1】
【0065】
表1では、上述したように、導電性樹脂硬化層13の作製で用いる導電性樹脂混合物の配合、導電性樹脂層の加圧有無、および、評価結果を示している。また、表1では、導電性樹脂混合物の好適な配合範囲の上限および下限を示しており、好適な配合範囲から外れている部分については、太い枠で囲っている。
【0066】
[導電性樹脂硬化層13の試料作製]
最初に、実施例等において、導電性樹脂硬化層13の試料を作製した方法について説明する。
【0067】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、樹脂主剤、カップリング剤、分散剤、および、硬化剤と共に、導電性物質として、AgメッキファイバーとAgコート粉とを準備した。ここでは、下記に示すように、各材料を準備した。
・樹脂主剤:エポキシ樹脂(ビスフェーノールF型液状エポキシ樹脂(例えば三菱ケミカル製Ep-807))
・カップリング剤:シランカップリング剤(例えば繁和産業製OFS-6040)
・分散剤:無溶剤高分子量型分散剤(例えば楠本化成製DA-375)
・硬化剤:ポリエーテルアミン(例えば、商品名D230;三井化学ファイン株式会社製)
・導電性物質:Agメッキファイバー(径10~20μm,長さ50~300μm)
・導電性物質:Agコート粉(粒径2μm程度)
【0068】
つぎに、各材料を表1に示す配合比で配合し、混合機を用いて、1分間、混合することで、導電性樹脂混合物を作製した。
【0069】
つぎに、幅が5mmであって長さが50mmである型(溝)に導電性樹脂混合物を塗布することで導電性樹脂層を形成した後に、その導電性樹脂層を硬化させた。導電性樹脂層を硬化させる際には、導電性樹脂層に対して荷重を付加しなかった(つまり、加圧機を用いずに、自重のみの荷重で硬化させた)。これより、比較例1の試料を4つ作製した。
【0070】
(実施例1)
実施例1では、比較例1の場合と異なり、導電性樹脂層を硬化させる際に導電性樹脂層に荷重を付加した。ここでは、加圧機を用いて20kPaの荷重を加えた状態で、導電性樹脂層を硬化させた。この点を除き、比較例1の場合と同様に、試料を作製した。
【0071】
(比較例2~11)
比較例2~11では、各材料を表1に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した。比較例2~11では、実施例1の場合と異なり、一部の材料の配合を好適な範囲外とした。この点を除き、実施例1の場合と同様に、試料を作製した。
【0072】
具体的には、比較例2および比較例3では、硬化剤の配合を好適な範囲外とした。比較例4および比較例5では、カップリング剤の配合を好適な範囲外とした。比較例6および比較例7では、分散剤の配合を好適な範囲外とした。比較例8および比較例9では、Agメッキファイバーの配合を好適な範囲外とした。比較例10および比較例11では、Agコート粉の配合を好適な範囲外とした。
【0073】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の導電性樹脂混合物に調整剤としてアセトンを加えた。アセトンは、実施例1の導電性樹脂混合物に対して、40vol%添加した。この点を除き、実施例1の場合と同様に、試料を作製した。
【0074】
(実施例3および実施例4)
実施例3および実施例4では、各材料を表1に示す配合比で配合して導電性樹脂混合物を作製した。この点を除き、実施例1の場合と同様に、試料を作製した。
【0075】
[評価結果]
上記のように作製した実施例の試料および比較例の試料について、抵抗率(体積抵抗率)を四端子法で、複数点、測定した。
【0076】
表1においては、抵抗率の平均値、最小値、最大値の他に、最大値と最小値との差分値を示している。そして、抵抗率の平均値、および、最大値と最小値との差分値に基づいて、総合評価を行った。総合評価は、下記の基準で判定した。
【0077】
◎・・・平均値と差分値が3×10-5Ωm以下である場合
△・・・上記以外の場合
【0078】
(実施例1の結果について)
表1に示すように、実施例1の抵抗率は、比較例1の場合よりも、抵抗率の平均値が低く、かつ、最大値と最小値との差分値が小さい。この結果から、導電性樹脂層を硬化させる際に導電性樹脂層を加圧することによって、導電性樹脂硬化層13の抵抗率を安定化させることができることが確認できた。これは、加圧によって、導電性樹脂硬化層13の厚みが低減し、密度が上昇したことに起因すると考えられる。
【0079】
(実施例2の結果について)
表1に示すように、実施例2の抵抗率は、実施例1の場合よりも、抵抗率の平均値が低い。この結果から、導電性樹脂混合物に調整剤としてアセトンを加えることで、導電性樹脂硬化層13の抵抗率を安定化させることができることが確認できた。
【0080】
(実施例3および実施例4の結果について)
表1に示すように、実施例3および実施例4の抵抗率は、実施例1と同様である。これに対して、比較例2から11の抵抗率は、実施例3および実施例4の場合よりも、抵抗率の平均値が高く、かつ、最大値と最小値との差分値が大きい。この結果から、導電性樹脂混合物の配合を上述した好適な範囲にすることによって、導電性樹脂硬化層13の抵抗率を安定化させることができることが確認できた。
【0081】
[加圧力について]
導電性樹脂層に対して荷重を付加したときの加圧力に関して説明する。
【0082】
図8は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法において、導電性樹脂層に加えた加圧力(荷重)と、導電性樹脂硬化層13の厚みとの関係を示す図である。図9は、実施形態に係る超電導コイル10の製造方法において、導電性樹脂層に加えた加圧力(荷重)と、導電性樹脂硬化層13の密度との関係を示す図である。
【0083】
図8および図9では、上記した実施例1と同様に形成した導電性樹脂層を硬化させる際に、導電性樹脂層に対して印加する加圧力(荷重)を変えたときの結果を示している。また、図9において、縦軸は、密度の相対値であり、加圧力が10kPaである場合の密度を「1」とした場合を示している。
【0084】
図8に示すように、導電性樹脂層に20kPa以上の加圧力を加えた場合には、導電性樹脂硬化層13の厚みが大きく減少する。これに伴い、図9に示すように、導電性樹脂層に20kPa以上の加圧力を加えた場合には、導電性樹脂硬化層13の密度が大きく上昇する。
【0085】
その結果、導電性樹脂硬化層13は、空隙が減少し、樹脂硬化層31の内部において粒状導電体32および棒状導電体33が密着しやすい状態になると考えられる(図4参照)。したがって、導電性樹脂硬化層13においては、抵抗率が低く、抵抗率のバラツキが減少する。
【0086】
[超電導コイルでの試験」
実施例1から実施例4の導電性樹脂を用いて超電導コイル10を作成し試験した。ここでは、巻線部材12の側面の一方に導電性樹脂混合物を塗布し硬化することで導電性樹脂硬化層13を有する超電導コイル10を作成した。その後、液体窒素雰囲気で超電導コイル10の過電流試験を実施した。この結果、超電導コイル10の導電性樹脂硬化層13で電流の迂回が観察され、実施例1から実施例4の導電性樹脂硬化層13について有効性を確認できた。実施例1から実施例4の導電性樹脂硬化層13は、低抵抗率(高導電率)であって、抵抗率のバラツキが減少しているので、熱暴走やクエンチを効果的に抑制可能である。
【0087】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0088】
たとえば、上記の実施形態では、超電導コイル10において電流の迂回路として機能する導電性樹脂硬化層13を形成する際に、加圧した状態で硬化を実施する場合について説明したが、これに限らない。超電導コイル10とは異なる分野において、導電性樹脂硬化層13を上記実施形態と同様に形成してもよい。たとえば、半導体装置などの電気機器において導電性樹脂硬化層13を形成する際に、上記実施形態と同様に、加圧した状態で硬化を実施してもよい。
【符号の説明】
【0089】
10:超電導コイル、11:巻枠、12:巻線部材、13:導電性樹脂硬化層、14:側板、20:超電導線材、21:基体層、22:超電導層、23:保護層、24:安定化層、25:絶縁層、31:樹脂硬化層、32:粒状導電体、33:棒状導電体、320:粉状体、321:導電性被覆層、330:棒状体、331:導電性被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9