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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】フルオロエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20231204BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089833
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183578
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩本 智行
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄三
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】野田 定文
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-104656(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104829(WO,A1)
【文献】特表2001-508786(JP,A)
【文献】特開2022-87300(JP,A)
【文献】Journal of American Chemical Society,2001,Vol.123,No.28,p.6773-6777
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)及び/又は(E)-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z/E))の製造方法であって、
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)と水素(H2)とを反応させる工程を含み、
前記反応は、無触媒条件下又は触媒存在条件下で行い、
前記触媒存在条件下で用いる触媒は、活性炭、金属触媒、及び担体に担持されている金属触媒からなる群より選択される少なくとも1種の触媒であり、
前記金属触媒は、酸化クロム、フッ化酸化クロム、フッ化クロム、銅クロム酸化物、フッ化銅クロム酸化物、酸化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化鉄、フッ化酸化鉄、フッ化鉄、酸化ニッケル、フッ化酸化ニッケル、フッ化ニッケル、酸化銅、フッ化酸化銅、酸化マグネシウム、フッ化酸化マグネシウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属触媒であり、
前記金属触媒を担持する担体は、活性炭、不定形炭素、グラファイト、及びダイヤモンドからなる群より選択される少なくとも1種の炭素;アルミナ、ジルコニア、シリカ、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種の担体である、
製造方法。
【請求項2】
前記反応後、反応生成物からHFO-1132(Z/E)を回収し、HFC-134を主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、
HFC-134を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応は、気相流通式で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応は、400℃以上の温度で行う、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応は、水素(H2)の使用量を、原料化合物1モルに対して、0.1~10モル(H2/原料化合物のモル比)として行う、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフルオロエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素化触媒の存在下に1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122a)と水素とを気相で反応させることを特徴とする1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-56132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効率的にフルオロエチレンを得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.
(Z)及び/又は(E)-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z/E))、
1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、及び
1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロエチレン化合物の製造方法であって、
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、及び
1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロエタン化合物と水素(H2)とを反応させる工程を含む、
製造方法。
【0006】
項2.
(Z)及び/又は(E)-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z/E))の製造方法であって、
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)と水素(H2)とを反応させる工程を含む、
前記項1に記載の製造方法。
【0007】
項3.
前記反応後、反応生成物からHFO-1132(Z/E)を回収し、HFC-134を主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、
HFC-134を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む、前記項2に記載の製造方法。
【0008】
項4.
1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)の製造方法であって、
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)と水素(H2)とを反応させる工程を含む、
前記項1に記載の製造方法。
【0009】
項5.
前記反応後、反応生成物からHFO-1132aを回収し、HFC-134aを主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、
HFC-134aを主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む、前記項4に記載の製造方法。
【0010】
項6.
1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)の製造方法であって、
1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125)と水素(H2)とを反応させる工程を含む、
前記項1に記載の製造方法。
【0011】
項7.
前記反応後、反応生成物からHFO-1123を回収し、HFC-125を主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、
HFC-125を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む、前記項6に記載の製造方法。
【0012】
項8.
前記反応は、気相流通式で行う、前記項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
項9.
前記反応は、400℃以上の温度で行う、前記項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
項10.
前記反応は、水素(H2)の使用量を、原料化合物1モルに対して、0.1~10モル(H2/原料化合物のモル比)として行う、前記項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項11.
前記反応は、金属触媒を用いて行う、前記項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項12.
前記金属触媒は、酸化クロム、フッ化酸化クロム、フッ化クロム、銅クロム酸化物、フッ化銅クロム酸化物、酸化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化鉄、フッ化酸化鉄、フッ化鉄、酸化ニッケル、フッ化酸化ニッケル、フッ化ニッケル、酸化銅、フッ化酸化銅、酸化マグネシウム、フッ化酸化マグネシウム、及びフッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒である、前記項11に記載の製造方法。
【0017】
本明細書では、次の通り記す。
【0018】
(Z)及び/又は(E)-1,2-ジフルオロエチレン:HFO-1132(Z/E)
HFO-1132(E):トランス-1,2-ジフルオロエチレン
HFO-1132(Z):シス-1,2-ジフルオロエチレン
1,1,2,2-テトラフルオロエタン:HFC-134
1,1-ジフルオロエチレン:HFO-1132a
1,1,1,2-テトラフルオロエタン:HFC-134a
1,1,2-トリフルオロエチレン:HFO-1123
1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン:HFC-125
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、効率的にフルオロエチレンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、上記課題を解決する手段を提供することを課題とする。本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物と、水素(H2)とを反応させることで、効率的に、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物を製造することができ、上記の課題を解決できることを見出した。
【0021】
本開示はかかる知見に基づいて、更に検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0022】
本開示の製造方法は、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、及びHFO-1123からなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロエチレン化合物の製造方法であって、HFC-134、HFC-134a、及びHFC-125からなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロエタン化合物と水素(H2)とを反応させる工程を含む。
【0023】
本開示の製造方法は、好ましくは、HFC-134と水素(H2)とを反応させる工程を含む、HFO-1132(Z/E))の製造方法である。
【0024】
本開示の製造方法は、好ましくは、HFC-134aと水素(H2)とを反応させる工程を含む、HFO-1132aの製造方法である。
【0025】
本開示の製造方法は、好ましくは、HFC-125と水素(H2)とを反応させる工程を含む、HFO-1123の製造方法である。
【0026】
本開示の製造方法は、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)と、水素(H2)とを反応させることで、熱分解により、カルベン種を発生させ、カップリング反応により、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を製造する方法である。
【0027】
HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125では、熱分解により、発生するカルベン種は異なる。HFC-134の熱分解では、CFHカルベンが発生する。HFC-134aの熱分解では、CH2カルベン及びCF2カルベンが発生する。HFC-125の熱分解では、CF2カルベン及びCFHカルベンが発生する。
【0028】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記反応は、気相流通式で行う。
【0029】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記反応は、400℃以上の温度で行う。
【0030】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記反応は、水素(H2)塩素の使用量を、原料化合物(HFC-134、HFC-134a又はHFC-125)1モルに対して、0.1~10モル(H2/原料化合物のモル比)として行う。
【0031】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記反応は、金属触媒を用いて行う。
【0032】
本開示の製造方法は、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)から、1ステップ(ワンポット合成)により、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を製造することができる。
【0033】
本開示の製造方法は、特に、前記安価なHFC-134、HFC-134a、又はHFC-125(原料化合物)から、効率的に、夫々、前記HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a。又はHFO-1123(目的化合物)を製造することができる。
【0034】
1.原料化合物
本開示の製造方法は、水素(H2)の存在下、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)の熱分解によって、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を製造するためのプロセスである。本開示の製造方法では、前記熱分解によって、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123の前駆体として、カルベン種が生成される。
【0035】
本開示の製造方法の原料化合物は、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125である。これらのハロゲン化エタンは、冷媒、溶剤、発泡剤、噴射剤等の用途として広く使用されており、一般に入手可能である。
【0036】
2.原料化合物と水素(H 2 )とを反応させる工程
本開示の製造方法は、水素(H2)の存在下、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)の熱分解によって、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を製造する方法である。本開示の製造方法では、前記熱分解によって、目的化合物の前駆体として、カルベン種を生成する。
【0037】
本開示では、好ましくは、原料化合物として、HFC-134を用いる時に、目的化合物であるHFO-1132(Z/E)を製造することができる。本開示では、好ましくは、原料化合物として、HFC-134aを用いる時に、目的化合物であるHFO-1132aを製造することができる。本開示では、好ましくは、原料化合物として、HFC-125を用いる時に、目的化合物であるHFO-1123を製造することができる。
【0038】
HFO-1132(Z/E)の製造方法は、HFC-134と水素(H2)とを反応させる工程を含む。
【0039】
HFO-1132aの製造方法は、HFC-134aと水素(H2)とを反応させる工程を含む。
【0040】
HFO-1123の製造方法は、HFC-125と水素(H2)とを反応させる工程を含む。
【0041】
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、好ましくは、気相で行い、より好ましくは、気相流通式で行う。本開示の製造方法は、特に好ましくは、固定床反応器を用いた気相連続流通式で行う。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できると共に、経済的に有利である。
【0042】
触媒
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、好ましくは、触媒の存在下、気相下で反応を行う。
【0043】
本工程で用いる触媒は、好ましくは、活性炭及び/又は金属触媒である。
【0044】
前記金属触媒は、より好ましくは、酸化クロム、フッ化酸化クロム、フッ化クロム、銅クロム酸化物、フッ化銅クロム酸化物、酸化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化鉄、フッ化酸化鉄、フッ化鉄、酸化ニッケル、フッ化酸化ニッケル、フッ化ニッケル、酸化銅、フッ化酸化銅、酸化マグネシウム、フッ化酸化マグネシウム及びフッ化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属触媒である。
【0045】
これら金属触媒のうち、反応の転化率を上げることが出来る点から、更に好ましくは、酸化クロム、フッ化酸化クロム、フッ化クロム、銅クロム酸化物、フッ化銅クロム酸化物、酸化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム等を用いる。
【0046】
本工程において、気相で、原料化合物と触媒とを接触させるに当たっては、触媒を固体の状態(固相)で原料化合物と接触させることが好ましい。
【0047】
本工程において、触媒は、粉末状でもよいが、ペレット状の方が気相連続流通式の反応に好ましい。
【0048】
前記触媒のBET法により測定した比表面積(以下、BET比表面積とも称する。)は、通常10m2/g~3,000m2/gであり、好ましくは10m2/g~400m2/gであり、より好ましくは20m2/g~375m2/gであり、更に好ましくは30m2/g~350m2/gである。触媒のBET比表面積が、前記範囲にあることで、触媒の粒子の密度が小さ過ぎることがない為、高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率を向上させることも可能である。
【0049】
触媒として活性炭を用いる場合、破砕炭、成形炭、顆粒炭、球状炭等の粉末活性炭を用いる事が好ましい。粉末活性炭は、JIS試験で、4メッシュ(4.76mm)~100メッシュ(0.149mm)の粒度を示す粉末活性炭を用いることが好ましい。
【0050】
触媒として金属触媒を用いる場合、担体に担持されていることが好ましい。担体としては、例えば、炭素、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)等が挙げられる。炭素としては、活性炭、不定形炭素、グラファイト、ダイヤモンド等を用いることができる。
【0051】
反応温度
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、反応温度の下限値は、より効率的に反応を進行させ、目的化合物をより高い選択率で得ることができる観点、転化率の低下を抑制する観点から、通常400℃程度であり、好ましくは、500℃程度であり、より好ましくは、600℃程度である。
【0052】
反応温度の上限値は、より効率的に原料化合物と水素(H2)とを反応させ、目的化合物をより高い選択率で得ることができる観点、且つ反応生成物が分解又は重合することによる選択率の低下を抑制する観点から、通常1,200℃程度であり、好ましくは1,000℃程度である。
【0053】
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、400℃~1,200℃程度の範囲で反応を行うことが好ましい。
【0054】
反応時間
<触媒を使用しない場合>
本開示における、触媒を使用しない場合の原料化合物と水素とを反応させる工程では、反応時間は、接触時間(V/F0)[V:反応管の体積(cc)、F0=原料化合物の流量(cc/sec)]で表すことができる。接触時間を延ばすことで、転化率を上げることができる。一方で、接触時間を延ばすことで、原料化合物の流量が下がる為、生産は非効率になる。
【0055】
その為、触媒を使用しない場合、原料化合物の転化率を向上させる点、及び設備コストを抑制する点から、接触時間は、好ましくは、5sec~300secであり、より好ましくは、10sec~200secであり、更に好ましくは、15gsec~150secである。前記原料化合物の接触時間とは、原料化合物が反応温度に達した配管内を通る滞留時間を意味する。
【0056】
<触媒を使用する場合>
本開示における、触媒を使用する場合の原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程では、反応時間は、原料化合物の触媒に対する接触時間(W/F0)[W:触媒の重量(g)、F0:原料化合物の流量(cc/sec)]で表すことができる。接触時間を延ばすことで、原料化合物の転化率を上げることができる。一方で、接触時間を延ばすことで、触媒の量が多くなって設備が大きくなる、又は原料化合物の流量が下がる為、生産は非効率である。その為、触媒を使用する場合、原料化合物の転化率を向上させる点、及び設備コストを抑制する点から、原料化合物の触媒に対する接触時間(W/F0)は、好ましくは、5g・sec/cc~300g・sec/ccであり、より好ましくは、10g・sec/cc~200g・sec/ccであり、更に好ましくは、15g・sec/cc~150g・sec/ccである。前記原料化合物の触媒に対する接触時間とは、原料化合物及び触媒が接触する時間を意味する。
【0057】
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、触媒の存在下、気相で行う際に、特に触媒に合わせて反応温度と反応時間(接触時間)とを適宜調整することで、目的化合物をより高い選択率で得ることができる。
【0058】
反応圧力
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、反応圧力は、より効率的に反応を進行させる点から、-0.05MPa~2MPaであることが好ましく、-0.01MPa~1MPaであることがより好ましく、常圧~0.5MPaであることが更に好ましい。なお、本開示において、圧力については表記が無い場合はゲージ圧とする。
【0059】
反応において、原料化合物と触媒(金属触媒等)とを接触させて反応させる反応器としては、上記温度及び圧力に耐えうるものであれば、形状及び構造は特に限定されない。反応器としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0060】
反応の例示
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、反応は、反応器に原料化合物を連続的に仕込み、当該反応器から目的化合物を連続的に抜き出す流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施することができる。目的化合物が反応器に留まると、更に反応が進行し得ることから、流通式で実施することが好ましい。本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、気相で行い、特に固定床反応器を用いた気相連続流通式で行うことが好ましい。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できるとともに、経済的に有利である。
【0061】
反応を行う際の雰囲気については、原料化合物に反応させる水素(H2)に加えて、触媒(金属触媒等)の劣化を抑制する点から、不活性ガス存在下及び/又はフッ化水素存在下であることが好ましい。当該不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの不活性ガスの中でも、コストを抑える点から、窒素(N2)がより好ましい。当該不活性ガスの濃度は、反応器に導入される気体成分の0mol%~99mol%とすることが好ましい。
【0062】
反応終了後は、必要に応じて常法に従って精製処理を行うことができる。
【0063】
水素の使用量(H 2 /原料化合物のモル比)
本開示における、原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程は、水素(H2)の使用量は、特に限定されない。本開示では、水素(H2)の使用量は、好ましくは、原料化合物(HFC-134、HFC-134a又はHFC-125)1モルに対して、0.1~10モル(H2/原料化合物のモル比)として行い、より好ましくは、0.5~2モル(H2/原料化合物のモル比)として行う。本開示では、水素(H2)の存在下、原料化合物の熱分解によって、前駆体として、カルベン種を生成し、夫々、高い転化率(収率)及び高い選択率で、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123(目的化合物)を製造することができる。
【0064】
リサイクルする工程
本開示では、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)の含有割合がより高められた組成物を回収する為に、前記原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程の後、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)を回収し、前記反応にリサイクルすることができる。
【0065】
本開示では、前記原料化合物と水素(H2)とを反応させる工程の後、好ましくは、反応生成物から、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を回収し、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)を主成分とするストリーム、及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含む。
【0066】
本開示では、好ましくは、次に、前記分離されたHFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む。本開示では、好ましくは、繰り返し、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を回収することで、目的化合物の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0067】
HFO-1132(Z/E)の製造方法でリサイクルする工程を含む方法
HFO-1132(Z/E)の製造方法は、HFC-134と水素(H2)とを反応させる工程を含み、好ましくは、前記反応後、反応生成物からHFO-1132(Z/E)を回収し、HFC-134を主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、HFC-134を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む。
【0068】
HFO-1132aの製造方法でリサイクルする工程を含む方法
HFO-1132aの製造方法は、HFC-134aと水素(H2)とを反応させる工程を含み、好ましくは、前記反応後、反応生成物からHFO-1132aを回収し、HFC-134aを主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、HFC-134aを主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む。
【0069】
HFO-1123の製造方法でリサイクルする工程を含む方法
HFO-1123の製造方法は、HFC-125と水素(H2)とを反応させる工程を含み、好ましくは、前記反応後、反応生成物からHFO-1123を回収し、HFC-125を主成分とするストリーム及び反応後に生じたフッ化水素(HF)を主成分とするストリームとを分離する工程を含み、HFC-125を主成分とするストリームの少なくとも一部を、前記反応にリサイクルして、再び水素(H2)と反応させる工程を含む。
【0070】
3.目的化合物
本開示の製造方法は、水素(H2)の存在下、HFC-134、HFC-134a、又はHFC-125のフルオロエタン化合物(原料化合物)の熱分解によって、夫々、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物(目的化合物)を製造するためのプロセスである。本開示の製造方法では、前記熱分解によって、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123の前駆体として、カルベン種が生成される。
【0071】
本開示の製造方法の目的化合物は、HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレン化合物である。本開示における製造方法により製造した
HFO-1132(Z/E)、HFO-1132a、又はHFO-1123のフルオロエチレンは、例えば、冷媒、溶剤、発泡剤、噴射剤、樹脂製品原料、有機合成中間体、熱媒体等の各種用途に、有効に用いることができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>
無触媒条件下のHFO-1132(Z/E)の製造
反応器(材質:SUS316)において、水素(H2)の存在下、HFC-134(原料化合物)の熱分解によって、HFO-1132(Z/E)(目的化合物)を製造した。
【0074】
HFC-134(原料化合物):3mol%
水素(H2):3mol%
窒素ガス(N2)雰囲気:94mol%
反応時間:V/F0=15s
反応温度:500℃
反応圧力:常圧
【0075】
【化1】
【0076】
【表1】
【0077】
4F:テトラフルオロエチレン(HFO-1114)
HFO-1141:フルオロエチレン
c-318:オクタフルオロシクロブタン(ペルフルオロシクロブタン)
HFC-143:1,1,2-トリフルオロエタン
「転化率」は、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガス(=反応ガス)に含まれる、その原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0078】
「選択率」は、反応器出口からの流出ガス(=反応ガス)に含まれる、原料化合物以外の化合物の合計モル量に対して、当該流出ガスに含まれる化合物のモル量の割合(モル%)を意味する。
【0079】
本開示の製造方法により、気相流通系で、HFC-134と水素(H2)とを反応させることで、CFHカルベンを発生させ、カップリングにより、HFO-1132(Z/E)を合成できた。
【0080】
HFO-1132(Z/E)の選択率は43%であった。
【0081】
また、副生成物として、4F、c-318(4Fの二量化体)等が生成された。
【0082】
本開示の製造方法により、HFC-134(原料化合物)と、水素(H2)とを反応させることで、HFO-1132(Z/E)を効率よく製造することが可能であると評価できた。
【0083】
<実施例2~7>
触媒存在条件下のHFO-1132(Z/E)の製造
反応器(材質:SUS316)の単管に金属触媒を充填し、水素(H2)の存在下、HFC-134(原料化合物)の熱分解によって、HFO-1132(Z/E)(目的化合物)を製造した。
【0084】
触媒:銅クロム酸化物(Calsicat社:S-93-346A E-103TU)5g
実施例2~6の反応温度:400℃
実施例7の反応温度:500℃
反応圧力:常圧
【0085】
【表2】
【0086】
実施例2:銅クロム触媒存在下で反応を行った。実施例1の無触媒条件下(500℃)に比べて、低温(400℃)で反応が進行し、原料化合物HFC-134の転化率は向上し、3.9%であった。また、目的化合物HFO-1132(Z/E)の選択率は、実施例1の無触媒条件下に比べて、高く、47%であった。表2中の「その他」は、エタン、エチレン、プロピレン等の炭化水素系の化合物が主に含まれている。
【0087】
実施例3:実施例2(W/F0=15)に比べて、接触時間W/F0を40に伸ばした。原料化合物HFC-134の転化率は向上し、9.8%であった。目的化合物HFO-1132(Z/E)の選択率は、32%であった。「その他」に含まれる炭化水素系の化合物が増加しており、水素化が進行したと考えられる。
【0088】
実施例4:実施例2(W/F0=15)に比べて、接触時間W/F0を7.5に短くした。また、実施例2(HFC-134:50、H2:50)に比べて、気相条件をN2:50、HFC-134:25、H2:25に変更した。原料化合物HFC-134の転化率、及び目的化合物HFO-1132(Z/E)の選択率は、実施例2と同程度であった。
【0089】
実施例5:実施例2(HFC-134:50、H2:50)に比べて、気相条件をHFC-134:67、H2:33に変更した。原料化合物HFC-134の転化率、及び目的化合物HFO-1132(Z/E)の選択率は、実施例2と同程度であった。
【0090】
実施例6:実施例2(HFC-134:50、H2:50)に比べて、気相条件をHFC-134:40、H2:60に変更した。原料化合物HFC-134の転化率、及び目的化合物HFO-1132(Z/E)の選択率は、実施例2と同程度であった。
【0091】
実施例7:実施例4(400℃)に比べて、反応温度を500℃まで上げた。原料化合物HFC-134の転化率は、実施例4に比べて、向上し、11%であった。メタンが主生成物となった。
【0092】
本開示の製造方法では、金属触媒存在下で、HFC-134(原料化合物)と水素(H2)とを反応させることで、HFO-1132(Z/E)を、より効率良く製造することが可能であると評価できた。HFC-134(原料化合物)と水素(H2)とを反応させる際に、金属触媒(好ましくは、銅-クロム触媒)を用いることで、水素還元の効果が有る点、クロムがルイス酸としての脱HF効果があると理解できる。