(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】疲労限度特定装置および疲労限度特定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/34 20060101AFI20231204BHJP
G01N 3/06 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
G01N3/34 A
G01N3/06
(21)【出願番号】P 2020099266
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】小島 由梨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康元
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-024056(JP,A)
【文献】特開2019-148507(JP,A)
【文献】特開2020-085496(JP,A)
【文献】特開2014-205182(JP,A)
【文献】特開2006-153865(JP,A)
【文献】D.Shiozawa,T.Inagawa,T.Washio,T.Sakagami,「Accuracy improvement in dissipated energy measurement by using phase information」,Measurement Science & Technology,Measurement Science & Technology,2017年,Vol28
【文献】河合亮悟,黒川悠,入江庸介,井上裕嗣,「温度変動に基づく疲労限度迅速推定法に関する研究(温度の第二高調波の発生原因)」,日本機械学会論文集,日本機械学会,2018年02月06日,Vol.84,No.858
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/34
G01N 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に対して、所定周波数で、段階的に増加する繰返し荷重を加える疲労試験機と、
前記試験片の温度を測定する温度測定装置と、
前記試験片の測定された前記温度に基づき疲労限度を求める情報処理装置と、
を備え、
前記情報処理装置は、
測定された前記温度の変動波形に基づき、前記繰返し荷重の荷重値ごとに、前記変動波形の二次高調波の振幅、および前記変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれを算出し、
前記位相ずれであって、疲労限度より十分小さい前記繰返し荷重における小荷重時位相ずれと、疲労限度より十分大きな前記繰返し荷重における大荷重時位相ずれを取得し、
前記二次高調波の振幅と、前記小荷重時位相ずれと、前記大荷重時位相ずれとに基づき、前記繰返し荷重の荷重値ごとに、前記変動波形の疲労損傷に関係する二次高調波の振幅である疲労関連振幅を算出し、
前記疲労関連振幅に基づき疲労限度を特定する、
ように構成されている、
疲労限度特定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の疲労限度特定装置であって、前記小荷重時位相ずれと前記大荷重時位相ずれは、それぞれあらかじめ定められた荷重値における位相ずれである、疲労限度特定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の疲労限度特定装置であって、前記情報処理装置は、前記小荷重時位相ずれをΔθ
n、前記大荷重時位相ずれをΔθ
d、前記温度の変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれをΔθ
2、前記温度の変動波形の二次高調波の振幅をT
2としたとき、前記疲労関連振幅A
dを、
【数1】
に基づき算出するよう構成されている、疲労限度特定装置。
【請求項4】
試験片に対して、所定周波数で、段階的に増加する繰返し荷重を加えるステップと、
前記試験片の温度を、前記繰返し荷重の荷重値ごとに測定し、前記温度の変動波形を取得するステップと、
前記温度の変動波形に基づき、前記繰返し荷重の荷重値ごとに、前記変動波形の二次高調波の振幅、および前記変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれを算出するステップと、
前記位相ずれであって、疲労限度より十分小さい前記繰返し荷重における小荷重時位相ずれと、疲労限度より十分大きな前記繰返し荷重における大荷重時位相ずれを取得するステップと、
前記二次高調波の振幅と、前記小荷重時位相ずれと、前記大荷重時位相ずれとに基づき、前記繰返し荷重の荷重値ごとに、前記変動波形の疲労損傷に関係する二次高調波の振幅である
疲労関連振幅を算出するステップと、
前記疲労関連振幅に基づき疲労限度を特定するステップと、
を含む、疲労限度特定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の疲労限度特定方法であって、前記小荷重時位相ずれと前記大荷重時位相ずれは、それぞれあらかじめ定められた荷重値における位相ずれである、疲労限度特定方法。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の疲労限度特定方法であって、前記疲労関連振幅を算出するステップは、前記小荷重時位相ずれをΔθ
n、前記大荷重時位相ずれをΔθ
d、前記温度の変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれをΔθ
2、前記温度の変動波形の二次高調波の振幅をT
2としたとき、前記疲労関連振幅A
dを、
【数2】
に基づき算出する、疲労限度特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の疲労限度を特定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片に繰返し荷重を加えると、荷重の変動に対応して試験片の温度が変動する。この温度の変動の二次高調波の振幅が試験片の疲労限度に関係することが知られている。試験片に加える繰返し荷重の値を段階的に増加させると、温度の変動波形の二次高調波の振幅は増加し、特にある荷重から急激に増加するようになる。この二次高調波の振幅の急増が始まる荷重は疲労限度と関係する。
【0003】
下記特許文献1には、試験片を赤外線カメラで撮影して二次高調波の振幅が大きい領域に関して、振幅の急増点から疲労限度を特定する技術が記載されている。
【0004】
下記非特許文献1では、温度変動の二次高調波には、疲労損傷に無関係な要因に起因する成分が含まれることが報告されている。
【0005】
下記非特許文献2には、疲労損傷に関係する特定の位相ずれを用いて、疲労損傷に関係する温度変動の二次高調波(散逸エネルギ)の計測精度を向上させる技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】河合亮悟,黒川悠,入江庸介,井上裕嗣,「温度変動に基づく疲労限度迅速推定法に関する研究(温度の第二高調波の発生原因)」,日本機械学会論文集,2018年2月6日,Vol.84,No.858(2018)
【文献】D.Shiozawa,T.Inagawa,T.Washio,T.Sakagami,「Accuracy improvement in dissipated energy measurement by using phase information」,Measurement Science & Technology,2017年2月6日、Vol.28(2017)044004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の非特許文献2による疲労損傷に関係する温度変動の二次高調波の振幅の算出方法は、煩雑な演算処理が必要である。本発明は、疲労損傷に関係する温度変動の二次高調波の振幅を簡易に算出する装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る疲労限度特定装置は、試験片に対して、所定周波数で、段階的に増加する繰返し荷重を加える疲労試験機と、試験片の温度を測定する温度測定装置と、試験片の測定された温度に基づき疲労限度を求める情報処理装置と、を備える。情報処理装置は、測定された温度の変動波形に基づき、繰返し荷重の荷重値ごとに、変動波形の二次高調波の振幅、および変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれを算出し、疲労限度より十分小さい繰返し荷重における小荷重時の位相ずれと、疲労限度より十分大きな繰返し荷重における大荷重時の位相ずれを取得し、二次高調波の振幅と、小荷重時の位相ずれと、大荷重時の位相ずれとに基づき、繰返し荷重の荷重値ごとに、変動波形の疲労損傷に関係する二次高調波の振幅である疲労関連振幅を算出し、疲労関連振幅に基づき疲労限度を特定するように構成されている。
【0010】
本発明の他の態様に係る疲労限度特定方法は、試験片に対して、所定周波数で、段階的に増加する繰返し荷重を加えるステップと、試験片の温度を、繰返し荷重の荷重値ごとに測定し、温度の変動波形を取得するステップと、温度の変動波形に基づき、繰返し荷重の荷重値ごとに、変動波形の二次高調波の振幅、および変動波形の基本波に対する二次高調波の位相ずれを算出するステップと、疲労限度より十分小さい繰返し荷重における小荷重時の位相ずれと、疲労限度より十分大きな繰返し荷重における大荷重時の位相ずれを取得するステップと、二次高調波の振幅と、小荷重時の位相ずれと、大荷重時の位相ずれとに基づき、繰返し荷重の荷重値ごとに、変動波形の疲労損傷に関係する二次高調波の振幅である疲労関連振幅を算出するステップと、疲労関連振幅に基づき疲労限度を特定するステップと、を含む。
【0011】
小荷重時の位相ずれと大荷重時の位相ずれは、それぞれあらかじめ定められた荷重値における位相ずれとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
繰返し荷重を加えたときの試験片の温度の変動波形の、基本波に対する二次高調波の位相ずれであって、小荷重時の位相ずれと、大荷重時の位相ずれを用いることで、簡便に疲労損傷に関係する二次高調波の振幅を求めることができ、疲労限度の測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本実施形態の疲労限度特定装置の概略構成を示す図である。
【
図3】繰返し荷重(応力振幅)と温度の二次高調波の振幅の関係を示す図である。
【
図4】繰返し荷重(応力振幅)と温度の基本に対する二次高調波の位相ずれの関係を示す図である。
【
図5】繰返し荷重(応力振幅)と温度の二次高調波の振幅、特に疲労損傷に関係する振幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
図1は、試験片10の形状を示す図であり、
図2は、本実施形態の疲労限度特定装置12の概略構成を示す模式図である。試験片10は、長方形の板形状を有し、長方形の長辺の中央部分に円弧上の窪みが形成されている。疲労限度特定装置12は、試験片10に繰返し荷重を加える疲労試験機14と、繰返し荷重が加えられている試験片10の温度を測定する装置である赤外線カメラ16と、測定された温度に基づき、疲労限度を特定する情報処理装置18とを含む。
【0015】
疲労試験機14は、試験片10の両端をそれぞれ把持し、試験片10に対して、所定の周波数で繰返し、引張荷重および圧縮荷重を加えることができる。情報処理装置18は、演算装置20、演算装置20に所定の動作を実行させるためのプログラムおよび所定の数値などを記憶するための記憶装置22を含む。赤外線カメラ16は、他の温度測定装置、例えば試験片に接触して、その温度を特定する検出装置であってよい。
【0016】
次に、疲労限度の算出方法について説明する。疲労試験機14を用いて試験片10に対して、繰返し荷重を加える。繰返し荷重は、小さい荷重から大きい荷重に段階的に増加させる。例えば、周波数5Hzで、試験片の応力振幅が200MPaから500MPaに段階的に増加するよう荷重を加える。まず、応力振幅が200MPaとなる荷重で1300周期、荷重を加え、次に荷重を増加させて再び1300周期の荷重を加える。これを応力振幅が500MPaになるまで繰り返す。繰返し荷重を加えている過程で、赤外線カメラで試験片10を撮影し、荷重変動に応じて変化する温度変動を取得する。温度の測定は、1300周期の中の定められた区間、例えば1000~1095周期の区間で計測する。
【0017】
取得した温度変動は、繰返し荷重の周波数と同じ周波数の成分と、繰返し荷重の周波数の2倍の周波数成分とを含む。前者を基本波、後者を二次高調波と記す。試験片10の温度変動T(t)は、次式(1)で表される。
【0018】
【数1】
ここで、T
mは平均温度、T
cは、周囲への温度損失、ωは繰返し荷重の角周波数、T
1は温度の基本波の振幅、θ
1は温度の基本波の初期位相、T
2は温度の二次高調波の振幅、θ
2は温度の二次高調波の初期位相である。
【0019】
疲労損傷となる微小な破壊は、引張荷重と圧縮荷重のそれぞれの最大時に発生するため、疲労損傷は温度変化の二次高調波に関係する。二次高調波成分は、次式(2)のように、疲労損傷に無関係な成分と、疲労損傷に関係する成分とを含む。式(2)の右辺第1項が疲労損傷に無関係な成分であり、第2項が疲労損傷に関係する成分である。
【0020】
【数2】
ここで、A
nは疲労損傷に無関係な温度の二次高調波の振幅、Δθ
nは疲労損傷に無関係な位相ずれ、A
dは疲労損傷に関係する温度の二次高調波の振幅、Δθ
dは疲労損傷に関係する位相ずれ、Δθ
2は温度の基本波に対する二次高調波の位相ずれである。なお、温度の基本波に対する二次高調波の位相ずれΔθ
2は、前述の非特許文献2に記載された式(3)で算出できる。
【0021】
式(2)を変形すると、式(4)、(5)を得る。
【数3】
【0022】
式(4)、(5)からA
nを消去すると、次式(6)を得る。
【数4】
【0023】
疲労損傷となる微小な破壊は疲労限度以上の繰返し荷重で発生する。よって、疲労限度に比べて十分小さな繰返し荷重では、式(2)の第1項、つまり疲労損傷に無関係な項が支配的であり、Δθ2は概ねΔθnとなると考えられる。一方、疲労限度に比べ十分大きな繰返し荷重では、式(2)の第2項、つまり疲労損傷に関係する項が支配的になり、Δθ2は概ねΔθdとなると考えられる。したがって、疲労限度に比べて十分小さな繰返し荷重のときに得られたΔθ2をΔθnとし、疲労限度に比べて十分大きな繰返し荷重のときに得られたΔθ2をΔθdとし、これらのΔθnおよびΔθdと、各繰返し荷重における温度変動のデータから得られるT2およびΔθ2とを式(6)に代入することで、疲労損傷に関係する二次高調波の振幅Adが算出できる。
【0024】
図3は、繰返し荷重による応力振幅に対する温度の二次高調波の振幅T
2を示す図であり、
図4は、繰返し荷重による応力振幅に対する温度の基本波に対する二次高調波の位相ずれΔθ
2を示す図である。応力振幅が200MPaとなるように、試験片10に対して繰返し荷重を加え、繰返しの所定の区間で赤外線カメラ16を用いて試験片10の表面温度を測定し、時系列の温度変動データT(t)を取得する。繰返し荷重の繰返し回数が所定数(例えば1300周期)に達したら、応力振幅を例えば10MPa増加させ、再び繰返し荷重を加える。これを応力振幅が500MPaになるまで繰返して、得られたグラフが
図3および
図4に示されている。繰返し荷重、つまり応力振幅の下限値と上限値は、経験的に得られる疲労限度σ
wよりも十分小さな、また十分大きな値とする。また、
図3に示す二次高調波の振幅T
2のグラフが得られれば、屈曲点が分かるので、繰返し荷重の下限値、上限値が適切であったかを判断し、適切でなければ、再度測定を行うこともできる。なお、試験は、2つの試験片10に対して行い、
図3、4には、それぞれの試験片の測定結果が示されている。また、同等の試験片に対して行われた一般的な疲労試験(材料学会標準(金属材料疲労信頼性評価標準[S-N曲線
回帰法]))により得られた疲労限度σ
wは396MPaである。
【0025】
図3に示されるように、繰返し荷重が小さいときには、温度の二次高調波振幅T
2は、荷重の増加と共に緩やかに増加し、疲労限度σ
w付近を境に急増する。疲労限度σ
w未満の温度の二次高調波振幅T
2が緩やかに増加する範囲の温度変動は、疲労損傷に無関係な温度振幅の影響を受けたものと考えられる。また、
図4に示されるように、位相ずれΔθ
2は、階段状に変化し、繰返し荷重が小さいときには低く概略一定値であり、疲労限度σ
w付近で大きく変化して疲労限度σ
wを超えると高くなり、ある値に漸近するように見える。
【0026】
繰返し荷重が疲労限度σwより小さいときには、式(2)の第1項が支配的となり、このときの位相ずれΔθ2は、疲労損傷に無関係の位相ずれΔθnとみなすことができる。疲労限度σwから離れていた方が、疲労損傷による影響をより受けないと考えられるため、測定範囲の下限の繰返し荷重により得られた位相ずれΔθ2を疲労損傷に無関係な位相ずれΔθnとみなすことに合理性がある。また、繰返し荷重が疲労限度σwより大きいときには、式(2)の第2項が支配的となり、このときの位相ずれΔθ2は、疲労損傷に関係する位相ずれΔθdとみなすことができる。疲労限度σwから離れていた方が、疲労損傷に無関係な第1項が相対的に小さくなると考えられ、その影響を小さくすることができるため、測定範囲の上限の繰返し荷重により得られた位相ずれΔθ2を疲労損傷に関係する位相ずれΔθdとみなすことに合理性がある。
【0027】
位相ずれΔθ
n、Δθ
dは、温度の二次高調波の振幅T
2のグラフの屈曲点を求め、この屈曲点の繰返し荷重(応力)から、所定値低い荷重時、所定値高い荷重時の位相ずれΔθ
2を用いるようにしてもよい。例えば、屈曲点に対し20%以下の荷重、20%以上の荷重の時の位相ずれΔθ
2を用いるようにしてもよい。また、位相ずれΔθ
n、Δθ
dは、それぞれ所定値より低い荷重範囲の平均値(例えば20%以下の荷重の平均値)、所定値より高い荷重範囲の平均値(例えば20%以上の荷重の平均値)としてもよい。さらにまた、位相ずれΔθ
n、Δθ
dは、
図4に示す位相ずれΔθ
2のグラフを用いてステップ形状の下段から上段に遷移する範囲を排除し、下段に相当する範囲の平均値、上段に相当する範囲の平均値としてもよい。
【0028】
各繰返し荷重(応力)で測定された時系列温度変動データから得られた温度の二次高調波の振幅T
2および位相ずれΔθ
2と、疲労損傷に無関係な位相ずれΔθ
nおよび疲労損傷に関係する位相ずれΔθ
dとを式(6)に代入すると、疲労損傷に関係する温度の二次高調波の振幅A
dを得ることができ、
図5にこれを示す。
図5では、
図4に比べて、疲労限度σ
w未満の範囲における二次高調波の振幅の緩やかな増加が抑制され、ほぼ0となっており、疲労損傷に無関係な二次高調波の影響が低減されていると考えることができる。
【0029】
図5のグラフから屈曲点を求め、屈曲点に対応する応力を疲労限度と特定することができる。屈曲点の求め方は、例えば次のとおりである。まず、仮の屈曲点を定め、この仮の屈曲点より低い繰返し荷重による測定点の近似直線を求め、この近似直線と各測定点の残差を二乗した値の総和を算出する。同様に仮の屈曲点より高い繰返し荷重による測定点について、近似直線と各測定点の残差を二乗した値の総和を算出する。複数の仮の屈曲点に対して同様に残差の二乗の総和を算出し、これらの総和の和が最も小さくなる仮の屈曲点を、このグラフの屈曲点とする。この屈曲点に対応する繰返し応力を疲労限度とすることができる。
図5のグラフから、2つの試験片10の疲労限度は、それぞれ397MPa、386MPaと求められた。
【0030】
情報処理装置は、疲労試験機の繰返し荷重の切替えなどを制御する制御装置として機能してもよい。また、情報処理装置は、疲労試験機から繰返し荷重に係る情報を取得し、この情報に基づき、赤外線カメラによる測定の制御、および測定された時系列温度変動のデータの処理を行うようにしてよい。
【符号の説明】
【0031】
10 試験片、12 疲労限度特定装置、14 疲労試験機、16 赤外線カメラ(温度測定装置)、18 情報処理装置、20 演算装置、22 メモリ、T1 温度の基本波の振幅、θ1 温度の基本波の初期位相、T2 温度の二次高調波の振幅、θ2 温度の二次高調波の初期位相、An 疲労損傷に無関係な温度の二次高調波の振幅、Δθn 疲労損傷に無関係な位相ずれ(小荷重時位相ずれ)、Ad 疲労損傷に関係する温度の二次高調波の振幅、Δθd 疲労損傷に関係する位相ずれ(大荷重時位相ずれ)、Δθ2 温度の基本波に対する二次高調波の位相ずれ。