(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】異常検出装置、水門システムおよび異常検出方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/42 20060101AFI20231204BHJP
【FI】
E02B7/42
(21)【出願番号】P 2020141505
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-113967(JP,A)
【文献】特開平07-247536(JP,A)
【文献】実開昭63-130533(JP,U)
【文献】特開平07-042137(JP,A)
【文献】特開2019-028565(JP,A)
【文献】特開2011-059790(JP,A)
【文献】特開平08-134878(JP,A)
【文献】特開2016-191197(JP,A)
【文献】塩竃 裕三,ラジアルゲート支障部の摩擦抵抗モニタリング,土木学会論文集A,VOL.65,No.1,日本,土木学会,2009年01月,第1-14頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20-7/54
B66C 15/00
G01N 17/00
B66B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出装置であって、
ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する荷重値取得部と、
前記扉体においてスキンプレートと支承部とが脚柱により接続されており、前記脚柱にかかる応力を示す値を脚柱評価値として取得する評価値取得部と、
前記ラジアルゲートの設置位置における水位、前記扉体の開度、および、前記支持荷重値に基づいて前記脚柱評価値の正常値を推定する正常値推定部と、
前記評価値取得部により取得される前記脚柱評価値と、前記正常値推定部により推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する判定部と、
を備え
、
正常時である一の時点において前記評価値取得部により取得される前記脚柱評価値と、前記一の時点における前記水位、前記開度および前記支持荷重値を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記正常値推定部が前記脚柱評価値の前記正常値を推定し、
前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定されることを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検出装置であって、
前記スキンプレートの各側部が水密ゴムを介して戸当りに接触し、
前記正常値推定部が、水圧を受ける前記水密ゴムの長さに基づいて、前記扉体の回転時に前記正常値を推定することを特徴とする異常検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の異常検出装置であって、
前記正常値推定部が、前記ラジアルゲートを通過する水の流量に基づいて、前記扉体の回転時に前記正常値を推定することを特徴とする異常検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、
前記正常値推定部が、前記扉体の回転時において、前記扉体の回転開始からの経過時間に基づいて前記正常値を推定することを特徴とする異常検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、
前記脚柱に取り付けられる傾斜計をさらに備えることを特徴とする異常検出装置。
【請求項6】
ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出装置であって、
ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する荷重値取得部と、
前記ラジアルゲートの設置位置における水位、および、前記扉体の開度に基づいて前記支持荷重値の正常値を推定する正常値推定部と、
前記荷重値取得部により取得される前記支持荷重値と、前記正常値推定部により推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する判定部と、
を備え
、
正常時である一の時点において前記荷重値取得部により取得される前記支持荷重値と、前記一の時点における前記水位および前記開度を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記正常値推定部が前記支持荷重値の前記正常値を推定し、
前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定されることを特徴とする異常検出装置。
【請求項7】
水門システムであって、
ラジアルゲートと、
前記ラジアルゲートにおける異常を検出する、請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の異常検出装置と、
を備えることを特徴とする水門システム。
【請求項8】
ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出方法であって、
a)ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する工程と、
b)前記扉体においてスキンプレートと支承部とが脚柱により接続されており、前記脚柱にかかる応力を示す値を脚柱評価値として取得する工程と、
c)前記ラジアルゲートの設置位置における水位、前記扉体の開度、および、前記支持荷重値に基づいて前記脚柱評価値の正常値を推定する工程と、
d)前記b)工程において取得される前記脚柱評価値と、前記c)工程において推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する工程と、
を備え
、
正常時である一の時点において取得される前記脚柱評価値と、前記一の時点における前記水位、前記開度および前記支持荷重値を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記c)工程において前記脚柱評価値の前記正常値が推定され、
前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定されることを特徴とする異常検出方法。
【請求項9】
ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出方法であって、
a)ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する工程と、
b)前記ラジアルゲートの設置位置における水位、および、前記扉体の開度に基づいて前記支持荷重値の正常値を推定する工程と、
c)前記a)工程において取得される前記支持荷重値と、前記b)工程において推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する工程と、
を備え
、
正常時である一の時点において取得される前記支持荷重値と、前記一の時点における前記水位および前記開度を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記b)工程において前記支持荷重値の前記正常値が推定され、
前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定されることを特徴とする異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置、水門システムおよび異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダム等においてラジアルゲートが用いられている。ラジアルゲートの管理者は、人手を掛けた点検および調査(月点検、年点検、十年程度に一度の精密調査など)を行うことで、その健全性の確認および維持に努めている。
【0003】
なお、非特許文献1では、ラジアルゲートにおける脚柱のひずみのモニタリングを行い、支承部における摩擦係数を推定する手法が開示されている。具体的には、ゲートヘの作用水位と支承部摩擦係数をパラメータとして、有限要素解析により脚柱のひずみ変化量の解析値が求められ、実際の作用水位およびひずみ変化量から、支承部摩擦係数が推定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】塩竈裕三、「ラジアルゲート支承部の摩擦抵抗モニタリング」、土木学会論文集A Vol.65 No.l、2009年1月、1-14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ラジアルゲートの老朽化時には、支承部(回転部)の異常が、扉体の回転不良や脚柱の応力超過の原因となる場合があるが、ラジアルゲートに対する上述の点検および調査では、支承部の状態の把握は通常実施されない。また、上述の点検および調査では、限られた期間のみの運転データしか取れず、老朽状態が急激に進行するような場合の傾向管理を行うことができない。さらに、点検用の運転条件(水圧なし状態等)は、通常運転時の条件と異なるため、通常時の状態を把握できない可能性がある。
【0006】
非特許文献1では、支承部における摩擦係数が推定されるが、摩擦係数の推定値が正常であるか否かの判定は行われていない。また、有限要素解析のためのモデリングは設計寸法で行われるため、据付誤差や製作誤差等の影響を踏まえた結果を得ることができない、すなわち、現場条件の再現性が低い結果となってしまう。さらに、ラジアルゲートの動作開始時の一点において摩擦係数が推定されるため、動作中において継続的に状態を把握することができない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ラジアルゲートにおける異常を適切に検出することが可能な新規な手法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出装置であって、ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する荷重値取得部と、前記扉体においてスキンプレートと支承部とが脚柱により接続されており、前記脚柱にかかる応力を示す値を脚柱評価値として取得する評価値取得部と、前記ラジアルゲートの設置位置における水位、前記扉体の開度、および、前記支持荷重値に基づいて前記脚柱評価値の正常値を推定する正常値推定部と、前記評価値取得部により取得される前記脚柱評価値と、前記正常値推定部により推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する判定部とを備え、正常時である一の時点において前記評価値取得部により取得される前記脚柱評価値と、前記一の時点における前記水位、前記開度および前記支持荷重値を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記正常値推定部が前記脚柱評価値の前記正常値を推定し、前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の異常検出装置であって、前記スキンプレートの各側部が水密ゴムを介して戸当りに接触し、前記正常値推定部が、水圧を受ける前記水密ゴムの長さに基づいて、前記扉体の回転時に前記正常値を推定する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の異常検出装置であって、前記正常値推定部が、前記ラジアルゲートを通過する水の流量に基づいて、前記扉体の回転時に前記正常値を推定する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、前記正常値推定部が、前記扉体の回転時において、前記扉体の回転開始からの経過時間に基づいて前記正常値を推定する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、前記脚柱に取り付けられる傾斜計をさらに備える。
【0014】
請求項6に記載の発明は、ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出装置であって、ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する荷重値取得部と、前記ラジアルゲートの設置位置における水位、および、前記扉体の開度に基づいて前記支持荷重値の正常値を推定する正常値推定部と、前記荷重値取得部により取得される前記支持荷重値と、前記正常値推定部により推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する判定部とを備え、正常時である一の時点において前記荷重値取得部により取得される前記支持荷重値と、前記一の時点における前記水位および前記開度を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記正常値推定部が前記支持荷重値の前記正常値を推定し、前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定される。
【0015】
請求項7に記載の発明は、水門システムであって、ラジアルゲートと、前記ラジアルゲートにおける異常を検出する、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の異常検出装置とを備える。
【0016】
請求項8に記載の発明は、ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出方法であって、a)ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する工程と、b)前記扉体においてスキンプレートと支承部とが脚柱により接続されており、前記脚柱にかかる応力を示す値を脚柱評価値として取得する工程と、c)前記ラジアルゲートの設置位置における水位、前記扉体の開度、および、前記支持荷重値に基づいて前記脚柱評価値の正常値を推定する工程と、d)前記b)工程において取得される前記脚柱評価値と、前記c)工程において推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する工程とを備え、正常時である一の時点において取得される前記脚柱評価値と、前記一の時点における前記水位、前記開度および前記支持荷重値を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記c)工程において前記脚柱評価値の前記正常値が推定され、前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定される。
【0017】
請求項9に記載の発明は、ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出方法であって、a)ラジアルゲートにおいて扉体と駆動部とが連結媒体により連結されており、前記連結媒体にかかる荷重を示す値を支持荷重値として取得する工程と、b)前記ラジアルゲートの設置位置における水位、および、前記扉体の開度に基づいて前記支持荷重値の正常値を推定する工程と、c)前記a)工程において取得される前記支持荷重値と、前記b)工程において推定される前記正常値とを比較することにより、前記ラジアルゲートにおける異常の有無を判定する工程とを備え、正常時である一の時点において取得される前記支持荷重値と、前記一の時点における前記水位および前記開度を実質的に含む特徴量群との組合せを教師データとして、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記b)工程において前記支持荷重値の前記正常値が推定され、前記扉体の回転動作中において異常の有無が継続的に判定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラジアルゲートにおける異常を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施の形態に係る水門システムの構成を示す図である。
【
図3】異常検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】ラジアルゲートの異常を検出する処理の流れを示す図である。
【
図5】傾斜計が取り付けられた扉体を示す図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る異常検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】ラジアルゲートの異常を検出する処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る水門システム1の構成を示す図である。水門システム1は、水門であるラジアルゲート10と、コンピュータ4とを備える。
図1のラジアルゲート10は、ダムに設けられ、コンピュータ4は、例えば当該ダムに隣接する建屋内に設置される。ラジアルゲート10は、ダム以外の設備(例えば、堤防等)に設けられてもよい。また、コンピュータ4は、ラジアルゲート10から遠く離れた位置に設けられてもよい。この場合、ラジアルゲート10に取り付けられる各種測定部は、通信装置等に接続され、インターネット等のネットワークを介して当該コンピュータ4と通信可能とされる。当該コンピュータ4は、クラウドサービスにより提供されるコンピュータであってもよい。
【0021】
ラジアルゲート10は、扉体2と、開閉装置3とを備える。扉体2は、ダムの堤体に設けられた開口部91に設置され、開口部91における水の流通を調整するために用いられる。扉体2は、例えば金属により形成される。扉体2は、スキンプレート21と、2つのプレート支持部22とを備える。スキンプレート21は、
図1中の回転軸J1に略平行な板状部材である。回転軸J1に垂直なスキンプレート21の断面形状は、回転軸J1を中心とする所定半径の略円弧状である。スキンプレート21は、回転軸J1に略垂直な開口部91の2つの側面911(以下、「開口側面911」という。)の間に亘って設けられる。
【0022】
2つのプレート支持部22は、回転軸J1の方向に離れて設けられ、典型的には、2つの開口側面911の近傍に配置される。
図1では、1つのプレート支持部22のみを示している。各プレート支持部22は、支承部23と、複数の脚柱24とを備える。支承部23は、扉体2の回転部であり、例えば、トラニオンハブ231と、トラニオンピン232とを備える。トラニオンピン232は、ダムの堤体(例えば、開口側面911)に固定される。トラニオンハブ231は、円筒部材であり、ラジアル軸受を介してトラニオンピン232に嵌め込まれる。トラニオンハブ231は、トラニオンピン232により回転軸J1を中心として回転可能に支持される。回転軸J1は、トラニオンピン232の中心に一致する。支承部23では、トラニオンハブ231に対してスラスト軸受がさらに設けられてもよい。支承部23の設計によっては、トラニオンハブ231が堤体に固定され、トラニオンピン232が、トラニオンハブ231により回転可能に支持されてもよい。
【0023】
複数の脚柱24は、支承部23の回転体(ここでは、トラニオンハブ231)からスキンプレート21に向かって延びる長尺部材である。典型的には、プレート支持部22は、2本の脚柱24を有する。2本の脚柱24は、鋭角を成して支承部23の回転体に固定される。各脚柱24は、例えばH形鋼やI形鋼等である。スキンプレート21において支承部23側の面には、2本の桁25が設けられる。各桁25は、回転軸J1に略平行な長尺部材である。2本の脚柱24において、支承部23とは反対側の端部は、2本の桁25にそれぞれ固定される。扉体2では、スキンプレート21と支承部23とが、桁25および脚柱24により接続される。
【0024】
各プレート支持部22には、滑車(シーブ)26がさらに設けられる。滑車26は、扉体2と共に移動(回転)する動滑車である。
図1の例では、滑車26は、下側の桁25の近傍に配置される。滑車26の個数や位置は、適宜変更されてよい。扉体2では、2本の脚柱24の間や、スキンプレート21の支承部23側の面等に、補強部材が適宜設けられてよい。
【0025】
スキンプレート21において各開口側面911と対向する側部211は、開口側面911と略平行な面を有する。当該側部211には、水密ゴム212(以下、「側部水密ゴム212」という。)が設けられる。側部水密ゴム212は、
図1中における当該側部211の上端から下端まで略全体に亘って設けられる。回転軸J1に垂直なスキンプレート21の断面形状と同様に、側部水密ゴム212は、回転軸J1を中心とする所定半径の略円弧状である。スキンプレート21の側部211は、戸当りである開口側面911と側部水密ゴム212を介して接触する。側部水密ゴム212が開口側面911と密着することにより、当該側部211と開口側面911との間を水が通過することが防止される。スキンプレート21の各側部211には、開口側面911上を転がるサイドローラ(図示省略)が設けられることが好ましい。これにより、扉体2が回転軸J1を中心として滑らかに回転可能となる。
【0026】
スキンプレート21では、下端部213にも水密ゴム214(以下、「下部水密ゴム214」という。)が設けられる。下部水密ゴム214は、当該下端部213において一方の開口側面911近傍から他方の開口側面911近傍まで、すなわち、下端部213の略全体に亘って設けられる。下部水密ゴム214は、回転軸J1に略平行に延びる。スキンプレート21の下端部213は、戸当りである開口部91の底面912と下部水密ゴム214を介して接触する。下部水密ゴム214が当該底面912と密着することにより、当該下端部213と当該底面912との間を水が通過することが防止される。なお、ラジアルゲート10がダムの中腹に設けられる場合には、スキンプレート21の上端部にも水密ゴムが設けられる。
【0027】
開閉装置3は、例えば、ワイヤロープウィンチ式であり、扉体2を回転させて扉体2の開閉(開口部91の開閉)を行う。開閉装置3は、例えば、駆動部31と、2本の金属製のワイヤロープ36とを備える。駆動部31は、2つのドラム311を有する。2つのドラム311は、2つの開口側面911の上方にそれぞれ配置される。後述するように、各ドラム311にワイヤロープ36の一部が巻かれる。
図1では、1つのドラム311および1つのワイヤロープ36のみを図示している。ドラム311およびワイヤロープ36の個数は任意に変更されてよい。
【0028】
2つのドラム311は、回転軸J1の方向に延びるシャフト(図示省略)に対してギア等を介して接続される。当該シャフトは、減速機等を介して電動機に接続される。駆動部31では、電動機がシャフトを回転させることにより、2つのドラム311が同じ回転方向に回転する。駆動部31では、ドラム311の回転方向を正転および逆転で切り替えることが可能である。
【0029】
各ドラム311には、連結媒体であるワイヤロープ36の一端が固定されるとともに、ワイヤロープ36の一部が巻かれている。各ワイヤロープ36においてドラム311に巻かれていない部分は、プレート支持部22の滑車26に掛けられる。ワイヤロープ36の他端は、ドラム311の近傍において後述の荷重値取得部46により保持される。荷重値取得部46は堤体に対して固定される。ラジアルゲート10では、ワイヤロープ36により扉体2と駆動部31とが連結される。開閉装置3では、ワイヤロープ36以外のロープや、チェーン等の他の索状部材が、連結媒体として用いられてもよい。
【0030】
開閉装置3では、ドラム311が正転することにより、ワイヤロープ36がドラム311に巻き取られ、
図1中の扉体2が回転軸J1を中心として時計回りに回転する。これにより、
図2に示すように、スキンプレート21が開口部91の底面912から離れる方向に移動する(すなわち、上昇する)。また、ドラム311が逆転することにより、ワイヤロープ36がドラム311から送り出され、扉体2が回転軸J1を中心として反時計回りに回転する。これにより、スキンプレート21が開口部91の底面912に近づく方向に移動する(すなわち、下降する)。このようにして、開口部91において扉体2が開閉される。
【0031】
図1のラジアルゲート10は、荷重値取得部46と、評価値取得部47と、水位計11と、開度計12とをさらに備える。荷重値取得部46および評価値取得部47は、後述の異常検出装置40(
図3参照)に含まれる構成である。既述のように、荷重値取得部46は、ワイヤロープ36に連結される。荷重値取得部46は、例えばロードセル等を有し、ワイヤロープ36にかかる荷重(ここでは、張力)を支持荷重値として測定する。荷重値取得部46は、ロードセル以外を利用して荷重を測定するものであってもよい。
図1の例では、各プレート支持部22の滑車26に掛けられたワイヤロープ36に対して、荷重値取得部46が連結される。荷重値取得部46は、各プレート支持部22に対して個別に設けられる。
【0032】
評価値取得部47は、各プレート支持部22の脚柱24の所定位置(以下、「評価位置」という。)に取り付けられ、脚柱24にかかる応力を示す値を脚柱評価値として取得する。
図1の例では、評価値取得部47は、ひずみゲージであり、脚柱24のひずみを脚柱評価値として取得する。評価値取得部47は、脚柱24にかかる応力を実質的に示す値が取得可能であるならば、ひずみゲージ以外であってもよい。例えば、測長器やカメラ等を利用して脚柱24のひずみやたわみ量を測定する構成や、脚柱24に作用する応力を赤外線カメラを利用して測定する構成が、評価値取得部47として用いられてもよい。評価値取得部47は、複数の脚柱24に取り付けられてよく、1つの脚柱24のみに取り付けられてもよい。本実施の形態では、荷重値取得部46および評価値取得部47は、2つのプレート支持部22のそれぞれに対して設けられるが、一方のプレート支持部22のみに対して設けられてもよい。
【0033】
水位計11は、例えばフロート式水位計であり、水面に浮かべられたフロートの位置を検出することにより、ラジアルゲート10の設置位置における水位(すなわち、スキンプレート21と接触する水の水位)を測定する。本実施の形態では、水位は、ダムの水底から水面までの高さである。水位計11は、フロートを用いることなく水位を測定する、音波式、超音波式または圧力式水位計等であってもよい。開度計12は、例えば扉体2に別途取り付けられたワイヤを利用して扉体2の開度を検出する。
図1および
図2の例では、扉体2の開度は、開口部91の底面912(正確には、下部水密ゴム214の接触位置)からスキンプレート21の下端までの高さ(上下方向の距離)である。開度計12は、各種センサ等を利用して扉体2の開度を検出するものであってもよい。
【0034】
図3は、異常検出装置40の機能構成を示すブロック図である。異常検出装置40は、ラジアルゲート10における異常を検出するものであり、荷重値取得部46と、評価値取得部47と、正常値推定部41と、判定部42とを備える。既述のように、荷重値取得部46は、
図1の各ワイヤロープ36に連結され、ワイヤロープ36にかかる荷重を示す支持荷重値を取得する。また、評価値取得部47は、脚柱24の所定の評価位置に取り付けられ、脚柱24にかかる応力を示す脚柱評価値を取得する。
【0035】
図3の正常値推定部41は、脚柱評価値の正常値を推定する。脚柱評価値の正常値は、現在の運転条件において、ラジアルゲート10に異常が起きていないと仮定した際に生じるべき脚柱評価値の値である。判定部42は、ラジアルゲート10における異常の有無を判定する。正常値推定部41および判定部42の機能は、コンピュータ4のCPU等が、所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)実現される。正常値推定部41および判定部42の機能は専用の電気回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気回路が用いられてもよい。
図3では、水位計11および開度計12もブロックにて示す。
【0036】
図4は、異常検出装置40がラジアルゲート10の異常を検出する処理の流れを示す図である。
図1に示す水門システム1では、例えば、扉体2の回転(移動)時、すなわち、スキンプレート21の上昇または下降を行う際に、荷重値取得部46によりワイヤロープ36における支持荷重値が取得される(ステップS11)。また、評価値取得部47により脚柱24における脚柱評価値が取得される(ステップS12)。後述するように、扉体2の回転開始から終了までの期間(例えば、数分)において、支持荷重値および脚柱評価値は繰り返し測定される。支持荷重値は、正常値推定部41に入力され、脚柱評価値の測定値は、判定部42に入力される。以下の説明では、一方のプレート支持部22の荷重値取得部46および評価値取得部47により取得される測定値(支持荷重値および脚柱評価値)に注目するが、他方のプレート支持部22の荷重値取得部46および評価値取得部47により取得される測定値についても同様の処理が行われる。
【0037】
また、ラジアルゲート10では、水位計11により水位が取得され、開度計12により扉体2の開度が取得される。水位および扉体2の開度は、正常値推定部41に入力される。正常値推定部41では、水位および扉体2の開度に基づいて、スキンプレート21の各側部211に設けられる側部水密ゴム212において、水中に位置する部分の長さ(以下、「側部ゴム没水長さ」という。)が求められる。既述のように、側部水密ゴム212は、回転軸J1を中心とする所定半径の略円弧状である。
図2の側部水密ゴム212における側部ゴム没水長さは、例えば回転軸J1を中心とする当該半径の円周において、扉体2の開度により特定されるスキンプレート21の下端の高さから、水位により特定される水面の高さまでの、円弧の長さとして求めることが可能である。側部水密ゴム212では、水圧の影響により水中に位置する部分と開口側面911との間の摩擦力が、気中に位置する部分と開口側面911との間の摩擦力よりも大きくなる。側部ゴム没水長さは、水圧を受ける側部水密ゴム212の長さである。
【0038】
正常値推定部41では、およそ同時に取得される水位、扉体2の開度、支持荷重値および側部ゴム没水長さが、特徴量群(特徴ベクトル)として扱われる。後述するように、特徴量群には、他の値(特徴量)が含まれてもよい。
図3の異常検出装置40では、学習済みモデルである推定器411が、後述の機械学習により予め生成されて、正常値推定部41に導入されている。正常値推定部41の推定器411では、特徴量群を入力することにより、脚柱24の評価位置における応力を示す脚柱評価値(ここでは、ひずみ)の正常値が出力される。すなわち、特徴量群に基づいて脚柱評価値の正常値が推定される(ステップS13)。脚柱評価値の正常値は、判定部42に入力される。
【0039】
ここで、脚柱24では、ワイヤロープ36の張力によるモーメント、扉体2の自重によるモーメント、側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメント、並びに、支承部23の回転体と軸受(ラジアル軸受およびスラスト軸受)との間の摩擦力によるモーメントが主として作用する。脚柱24において評価値取得部47が取り付けられる評価位置では、これらのモーメントの大きさが変化することにより、応力を示す脚柱評価値も変化する。
【0040】
ワイヤロープ36の張力によるモーメントは、支持荷重値と相関関係がある。扉体2の自重によるモーメントは、扉体2の開度(脚柱24の傾斜角)の影響を受ける。側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメントは、側部ゴム没水長さの影響を受ける。支承部23の回転体と軸受との間の摩擦力によるモーメントは、水位(水圧)の影響を受ける。したがって、後述の学習により生成された推定器411では、水位、扉体2の開度、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値を含む特徴量群から脚柱評価値の正常値が推定可能となる。
【0041】
判定部42では、ステップS12において評価値取得部47により取得された脚柱評価値の測定値と、ステップS13において正常値推定部41により推定された脚柱評価値の正常値とが比較される。例えば、脚柱評価値の測定値と正常値との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合に、ラジアルゲート10において何らかの異常が発生していると判定される。この場合、例えば、コンピュータ4のディスプレイ等に、異常が発生している旨を示す表示が行われる。異常の発生を示す報知は、ライトの点灯や、ブザーの鳴動、電子メール等を用いた情報通信端末への通知等により行われてもよい。
【0042】
また、当該差の絶対値が閾値以下である場合には、ラジアルゲート10において異常が発生していないと判定され、異常の発生を示す報知は行われない。このようにして、判定部42では、ラジアルゲート10における異常の有無が判定される(ステップS14)。判定部42における異常の判定は、一定期間の当該差の分布の変化等に基づいて行われてもよく、任意の統計的手法が用いられてよい。また、脚柱評価値の測定値と正常値との比等に基づいて異常の有無が判定されてもよい。
【0043】
異常検出装置40では、扉体2の回転開始から終了までの間、上記ステップS11~S14の処理が繰り返し行われる(ステップS15)。なお、判定部42では、脚柱評価値の測定値と正常値との差の絶対値の大きさ等に応じて、部品交換や点検までの期間が決定され、当該期間が報知されてもよい。このように、部品交換や点検までの期間を決定する処理も、実質的には、経年劣化による異常の検出(異常の有無の判定)と捉えることが可能である。
【0044】
次に、推定器411の生成について説明する。ここで、推定器(回帰器)は、決定木やニューラルネットワーク等を利用するものである。推定器の生成とは、推定器が含むパラメータに値を付与したり、推定器の構造を決定すること等により、推定器を生成することを意味する。推定器411の生成は、水門システム1のコンピュータ4により行われてよく、外部の他のコンピュータにより行われてもよい。推定器411の生成では、上述の手法以外の任意の統計的手法または機械学習的手法が用いられてよい。
【0045】
水門システム1では、過去の運転において、荷重値取得部46により取得された支持荷重値、および、評価値取得部47により取得された脚柱評価値の測定値が、日付および時刻に対応付けてコンピュータ4に記憶されている。また、水位計11により測定される水位、および、開度計12により測定される扉体2の開度も同様である。さらに、ラジアルゲート10において異常が発生していた期間についても記録されている。
【0046】
推定器411の生成では、異常が発生していない時点、すなわち、正常時である複数の時点における複数の教師データが準備される。各教師データは、正常時である一の時点における評価値取得部47による脚柱評価値の測定値と、当該時点における特徴量群との組合せである。特徴量群は、上記ステップS13において利用する特徴量群と同様であり、当該時点における水位、扉体2の開度、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値を含む。
【0047】
複数の教師データが準備されると、複数の教師データにおける特徴量群の入力に対する推定器の出力と、複数の教師データが示す脚柱評価値の測定値とがほぼ同じになるように学習が行われ、学習済みモデルである推定器411が生成される。推定器411の生成は、周知の手法により行われてよく、各教師データの特徴量群の入力に対して、当該教師データが示す脚柱評価値の測定値に近似した値が出力されるように、推定器が含むパラメータの値や、推定器の構造が決定される。推定器411(実際には、パラメータの値や、推定器411の構造を示す情報)は、正常値推定部41に転送されて導入される。既述のように、正常値推定部41では、推定器411を用いて脚柱評価値の正常値が推定される。
【0048】
以上に説明したように、異常検出装置40の荷重値取得部46では、ワイヤロープ36にかかる荷重を示す支持荷重値が取得される。また、正常値推定部41では、水位および扉体2の開度を用いて側部ゴム没水長さが求められ、水位、扉体2の開度、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値を含む特徴量群に基づいて脚柱評価値の正常値が推定される。既述のように、支承部23の回転体と軸受との間の摩擦力によるモーメントは、水位(水圧)の影響を受ける。扉体2の自重によるモーメントは、扉体2の開度(脚柱24の傾斜角)の影響を受ける。側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメントは、側部ゴム没水長さの影響を受ける。ワイヤロープ36の張力によるモーメントは、支持荷重値と相関関係がある。正常値推定部41では、据付誤差や製作誤差等の現場条件の影響を含む特徴量群に基づいて、脚柱評価値の正常値を精度よく推定することができる。
【0049】
また、評価値取得部47では、脚柱24にかかる応力を示す脚柱評価値の測定値が取得される。そして、判定部42において、評価値取得部47により取得される脚柱評価値の測定値と、正常値推定部41により推定される脚柱評価値の正常値とが比較され、ラジアルゲート10における異常の有無が判定される。その結果、支承部23の老朽化(回転不良)状態等、ラジアルゲート10における異常を適切に検出することができる。実際には、脚柱評価値の測定値に基づいて、脚柱24の破壊に対する余裕の有無も判定することが可能である。ラジアルゲート10および異常検出装置40を含む水門システム1では、ラジアルゲート10に異常が発生した場合でも迅速に対処することができ、安定した運用を実現することができる。
【0050】
異常検出装置40では、扉体2の回転時において異常の有無が繰り返し判定されることが好ましい。これにより、回転動作中において継続的にラジアルゲート10の状態を把握することができる。なお、異常検出装置40により取得される脚柱評価値の測定値と正常値とを継続的に比較することにより、ラジアルゲート10の老朽化状態の傾向管理を行うことも可能となる。
【0051】
ところで、既述のように側部ゴム没水長さは、水位および扉体2の開度から求められる。したがって、上記特徴量群から側部ゴム没水長さを省略する場合であっても、水位、扉体2の開度、および、支持荷重値に基づいて、ある程度の精度にて脚柱評価値の正常値を推定することが可能である。同様に、上記特徴量群から水位および扉体2の開度が省略されてもよく、この場合も、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値を用いて、ある程度の精度にて脚柱評価値の正常値を推定することが可能である。側部ゴム没水長さは、水位および扉体2の開度から求められるため、特徴量群が側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値のみを含む場合も、実質的に、水位、扉体2の開度、および、支持荷重値に基づいて、脚柱評価値の正常値が推定されているといえる。
【0052】
正常値推定部41では、学習により生成された学習済みモデル(推定器411)を用いることにより、脚柱評価値の正常値を精度よく取得することが可能となる。その結果、ラジアルゲート10における異常を精度よく検出することが実現される。学習済みモデルの生成、および、学習済みモデルを利用した正常値の推定では、上述のように、水位、扉体2の開度、および、支持荷重値を含む特徴量群、または、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値を含む特徴量群が用いられてよく、側部ゴム没水長さは、水位および扉体2の開度から求められる。したがって、特徴量群は、水位、扉体2の開度、および、支持荷重値を実質的に含むといえる。
【0053】
異常検出装置40の設計によっては、正常時における上記特徴量群を説明変数とし、脚柱評価値(正常値)を目的変数とする統計的な回帰分析が行われ、得られた回帰式を用いて、
図4のステップS13において、特徴量群から脚柱評価値の正常値が推定されてもよい。脚柱評価値の正常値は、様々な統計的手法または機械学習的手法を用いて推定されてよい。
【0054】
特徴量群には、水位、扉体2の開度、側部ゴム没水長さ、および、支持荷重値以外の値(特徴量)が含まれてもよい。例えば、側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメントの向きは、扉体2の回転方向に依存する。したがって、特徴量群には、
図1中の扉体2の回転方向が時計回りまたは反時計回りのいずれであるか(スキンプレート21の移動方向が上昇または下降のいずれであるか)を示す値が含まれることが好ましい。
【0055】
また、好ましい異常検出装置40では、ラジアルゲート10を通過する水の流量(以下、「放流量」という。)が特徴量群に含まれる。放流量は、開口部91の幅(回転軸J1の方向の幅)、水位および扉体2の開度等から、所定の算出式を用いて算出可能である。スキンプレート21が上昇または下降する場合、個々の扉体形状により、特定の開度において、放流に応じた上向きまたは下向きの力が作用する。例えば、スキンプレート21が上昇するように扉体2を回転する場合、スキンプレート21の下端に接触しつつ通過する水の影響により、スキンプレート21に対して放流量に応じた力が作用する。また、スキンプレート21が下降するように扉体2を回転する場合、スキンプレート21の下方を流れる水により、スキンプレート21の下降を阻害する抵抗力が作用する。したがって、正常値推定部41が、ラジアルゲート10を通過する水の流量(放流量)に基づいて、扉体2の回転時に脚柱評価値の正常値を推定することにより、放流量に依存する負荷を考慮して、脚柱評価値の正常値をより精度よく推定することができる。放流量が特徴量群に含まれる場合には、扉体2の回転方向も、特徴量群に含まれることが好ましい。
【0056】
また、ラジアルゲート10では、ある回転位置にて停止している扉体2が当該回転位置からいずれかの回転方向に回転する場合に、他の条件が同じであっても、扉体2の当該回転位置への回転(一つ前の回転)が時計回りであったか、反時計回りであったかによって、今回の回転時に得られる脚柱評価値の測定値が異なることがある。このように、今回の回転時の脚柱評価値の測定値が、一つ前の回転時の回転方向に依存する一因として、一つ前の回転の完了時に、支承部23の回転体と軸受との間において生じる摩擦力が、今回の回転時まで残留していることが考えられる。
【0057】
したがって、好ましい異常検出装置40では、扉体2の回転時において、今回の扉体2の回転方向と、一つ前の回転時の回転方向とが特徴量群に含まれる。すなわち、正常値推定部41が、扉体2の回転時において、今回の扉体2の回転方向と、一つ前の回転時の回転方向とに基づいて、脚柱評価値の正常値を推定する。これにより、支承部23に残留する摩擦力等を考慮して、脚柱評価値の正常値をより精度よく推定することができる。
【0058】
さらに、扉体2の回転開始からの経過時間が特徴量群に含まれてもよい。扉体2の構造によっては、扉体2の一部(例えば、スキンプレート21の脚柱24側近傍等)に水が取り込まれることがあり、この場合、扉体2の回転開始からの経過時間によって、扉体2に取り込まれた水の量が変化する。また、支承部23の回転体と軸受との接触位置や、スキンプレート21の側部211と開口側面911との接触位置等も経過時間によって変化する。したがって、正常値推定部41が、扉体2の回転時において、扉体2の回転開始からの経過時間に基づいて脚柱評価値の正常値を推定することにより、運転中に変動する稼働負荷の影響を考慮して、脚柱評価値の正常値をより精度よく推定することができる。回転開始からの経過時間が特徴量群に含まれる場合には、扉体2の回転方向も、特徴量群に含まれることが好ましい。
【0059】
上述の処理例では、扉体2の回転時において異常の有無が判定されることにより、扉体2の回転に係る構成の異常を適切に検出することが可能となるが、異常検出装置40では、扉体2の停止時にも異常の有無が判定されてもよい。この場合、例えば、扉体2の回転時であるか否かを示す値が、特徴量群に含まれることが好ましい。
【0060】
異常検出装置40では、
図5に示すように、傾斜計12aが用いられてもよい。傾斜計12aは、脚柱24に取り付けられ、脚柱24の傾斜角を取得する。傾斜計12aとしては、内部に保持される液体の液面の傾斜を利用するものや、加速度センサを有するもの等様々な傾斜センサが利用可能である。脚柱24の傾斜角は、正常値推定部41に入力される。正常値推定部41では、脚柱24の傾斜角が、扉体2の開度として扱われる。脚柱24の傾斜角と扉体2の開度の両方が利用されてもよい。傾斜計12aでは、
図1の開度計12よりも高い分解能にて扉体2の開度(脚柱24の傾斜角)を取得することができる。
【0061】
ラジアルゲート10では、ワイヤロープ36の張力は、脚柱24に垂直な成分と、脚柱24に平行な成分とに分けることができ、脚柱24の傾斜角によってこれらの成分の割合が変動する。異常検出装置40では、傾斜計12aを用いることにより、ワイヤロープ36の張力を、脚柱24に垂直な成分と、脚柱24に平行な成分とに精度よく分けることができる。その結果、脚柱評価値の正常値をより精度よく推定することができる。
【0062】
異常検出装置40では、開閉装置3の駆動部31にかかる負荷が、支持荷重値として測定されてもよい。一例では、駆動部31に接続される荷重値取得部46が、駆動部31の電動機に流れる電流値を支持荷重値として測定する。このような支持荷重値(電流値)も、ワイヤロープ36にかかる荷重を実質的に示す値である。また、駆動部31における駆動源は、直線運動を行う油圧シリンダや、回転運動を行う油圧モータ等であってもよい。この場合、荷重値取得部46では、例えば、油圧シリンダ内の圧力、油圧シリンダもしくは油圧モータに送られる作動油の圧力、または、作動油の圧送に利用される電動機の電流値等が、支持荷重値として測定される。以上のように、支持荷重値は、ワイヤロープ36にかかる荷重を実質的に示す様々な種類の値であってよい。なお、駆動部31の駆動源が油圧シリンダである場合、扉体2に接続されるシリンダロッドが連結媒体となる。
【0063】
図6は、第2の実施の形態に係る異常検出装置40aの機能構成を示すブロック図である。
図6の異常検出装置40aでは、
図3の異常検出装置40における評価値取得部47が省略されるとともに、荷重値取得部46が判定部42aに接続される。また、正常値推定部41aでは、支持荷重値の正常値が推定され、判定部42aでは、支持荷重値の測定値と正常値とが比較される。異常検出装置40aの他の構成は、
図3と同様であり、同じ構成に同じ符号を付す。
【0064】
図7は、異常検出装置40aがラジアルゲート10の異常を検出する処理の流れを示す図である。異常検出装置40aにおけるラジアルゲート10の異常の検出では、例えば、扉体2の回転時に、荷重値取得部46により支持荷重値の測定値が取得される(ステップS21)。支持荷重値の測定値は、判定部42aに入力される。正常値推定部41aでは、上記処理と同様にして、水位および扉体2の開度に基づいて側部ゴム没水長さが取得される(ステップS22)。
【0065】
正常値推定部41aでは、水位、扉体2の開度および側部ゴム没水長さが特徴量群として扱われ、当該特徴量群が、学習済みモデルである推定器411aに入力される。これにより、推定器411aから支持荷重値の正常値が出力される(ステップS23)。異常検出装置40aにおける推定器411aは、上記処理例と同様に、複数の時点における複数の教師データを用いた学習により予め生成されている。ここでの各教師データは、一の時点において荷重値取得部46により取得される支持荷重値の測定値と、当該時点における、水位、扉体2の開度および側部ゴム没水長さを含む特徴量群との組合せである。
【0066】
既述のように、扉体2では、ワイヤロープ36の張力によるモーメント、扉体2の自重によるモーメント、側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメント、並びに、支承部23の回転体と軸受との間の摩擦力によるモーメントが主として作用する。また、扉体2の回転は低速であり、これらのモーメントはおよそ釣り合っていると捉えることができる。扉体2の自重によるモーメントは、扉体2の開度の影響を受ける。側部水密ゴム212と開口側面911との間の摩擦力によるモーメントは、側部ゴム没水長さの影響を受ける。支承部23の回転体と軸受との間の摩擦力によるモーメントは、水位(水圧)の影響を受ける。したがって、学習により生成された推定器411aでは、水位、扉体2の開度および側部ゴム没水長さを含む特徴量群から支持荷重値の正常値が推定可能となる。
【0067】
判定部42aでは、荷重値取得部46により取得された支持荷重値の測定値と、正常値推定部41aにより推定された支持荷重値の正常値とが比較され、ラジアルゲート10における異常の有無が判定される(ステップS24)。異常検出装置40aでは、上記ステップS21~S24の処理が繰り返し行われる(ステップS25)。
【0068】
以上のように、異常検出装置40aの荷重値取得部46では、ワイヤロープ36にかかる荷重を示す支持荷重値の測定値が取得される。また、正常値推定部41aでは、水位、扉体2の開度、および、側部ゴム没水長さに基づいて、支持荷重値の正常値が推定される。そして、判定部42aにおいて、支持荷重値の測定値と正常値とが比較され、ラジアルゲート10における異常の有無が判定される。これにより、ラジアルゲート10における異常を適切に検出することができる。
【0069】
既述のように側部ゴム没水長さは、水位および扉体2の開度から求められるため、上記特徴量群から側部ゴム没水長さを省略する場合であっても、水位および扉体2の開度に基づいて、ある程度の精度にて支持荷重値の正常値を推定することが可能である。同様に、上記特徴量群から水位および扉体2の開度が省略されてもよく、この場合も、側部ゴム没水長さを用いて、ある程度の精度にて支持荷重値の正常値を推定することが可能である。特徴量群が側部ゴム没水長さのみを含む場合も、実質的に、水位および扉体2の開度に基づいて支持荷重値の正常値が推定されているといえる。
【0070】
図3の異常検出装置40と同様に、
図6の異常検出装置40aでは、扉体2の回転方向が特徴量群に含まれることが好ましい。また、放流量、扉体2の(今回の)回転方向および一つ前の回転方向、並びに、扉体2の回転開始からの経過時間等が、特徴量群に含まれてもよい。上述の評価値取得部47が設けられ、脚柱評価値が特徴量群に含まれてもよい。さらに、扉体2の停止時にも異常の有無が判定されてよい。
図5の傾斜計12aが用いられてもよく、開閉装置3の駆動部31にかかる負荷が、支持荷重値として測定されてもよい。推定器411aを用いることなく、支持荷重値の正常値が推定されてもよい。
【0071】
上記異常検出装置40,40a、異常検出方法および水門システム1では様々な変形が可能である。
【0072】
ラジアルゲート10の設計によっては、各開口側面911において、扉体2の回転に伴ってスキンプレート21の側部211が接触する位置に、側部水密ゴムが設けられてもよい。すなわち、側部水密ゴムは、当該側部211および開口側面911のいずれに取り付けられてもよい。
【0073】
図2のように、スキンプレート21が上昇する扉体2の回転により、側部水密ゴム212の一部(上部)が開口側面911と接触しなくなる場合に、側部水密ゴム212において開口側面911と接触しない部分の長さが、特徴量群に含まれてもよい。
【0074】
ラジアルゲート10は、支承部23側からスキンプレート21側へと水が流れる、引張りラジアルゲートであってもよい。
【0075】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0076】
1 水門システム
2 扉体
10 ラジアルゲート
12a 傾斜計
21 スキンプレート
23 支承部
24 脚柱
31 駆動部
36 ワイヤロープ
40,40a 異常検出装置
41,41a 正常値推定部
42,42a 判定部
46 荷重値取得部
47 評価値取得部
211 (スキンプレートの)側部
212 側部水密ゴム
411,411a 推定器
911 開口側面
S11~S15,S21~S25 ステップ