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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】運搬装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/24 20060101AFI20231204BHJP
   B66F 9/075 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B66F9/24 J
B66F9/075 L
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020149819
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044271
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100149629
【弁理士】
【氏名又は名称】柘 周作
(74)【代理人】
【識別番号】100200148
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100139538
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 航介
(74)【代理人】
【識別番号】100200115
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 元勇
(74)【代理人】
【識別番号】100200137
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 良介
(72)【発明者】
【氏名】肥後 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】中本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-060184(JP,A)
【文献】特公昭50-026823(JP,B1)
【文献】実開昭64-055168(JP,U)
【文献】実開平06-008390(JP,U)
【文献】特開平10-025098(JP,A)
【文献】特開平09-272700(JP,A)
【文献】特開2020-090381(JP,A)
【文献】米国特許第06027303(US,A)
【文献】独国実用新案第202006014414(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/00-11/04
B62D 57/024;57/028
B62B 1/00-5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を支えるフォーク部と、
前記フォーク部を上下に駆動するリフト部と、
前記リフト部を支持し、駆動輪の駆動により走行面を移動可能な移動台車部と、
前記移動台車部に設けられ、前記フォーク部の長手方向に沿って移動可能であり、前記移動台車部に対する位置が可変である補助輪を有する補助脚部と、を含む車体と、
前記荷物を搬送する前記車体の重心位置を算出する算出部と、
前記走行面に段差がある場合、前記算出部で算出された重心位置に基づいて、前記移動台車部が前記段差に乗り上げるように、前記フォーク部、前記移動台車部、および前記補助脚部の動作を制御する制御部と、
を備える運搬装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記フォーク部を前記走行面に接触させ、前記補助脚部の前記補助輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項1に記載の運搬装置。
【請求項3】
前記フォーク部は車輪をさらに備え、
前記制御部は、前記リフト部が前記フォーク部を下方に駆動させ、前記車輪を前記段差に接触させることにより、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項1または請求項2に記載の運搬装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記補助脚部の前記補助輪にブレーキをかけ、前記補助脚部に沿って前記移動台車部を移動させ、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の運搬装置。
【請求項5】
前記フォーク部の先端側に設けられ、前記走行面に非接触の状態と前記走行面に接触する状態との切り替えが可能な先端支持機構部をさらに備える請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の運搬装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記リフト部が前記フォーク部を下方に駆動させ、前記先端支持機構部を前記段差に接触させることにより、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項5に記載の運搬装置。
【請求項7】
荷物を支えるフォーク部と、
前記フォーク部を上下に駆動するリフト部と、
前記リフト部を支持し、駆動輪の駆動により走行面を移動可能な移動台車部と、
前記フォーク部の先端側に設けられ、前記走行面に非接触の状態と前記走行面に接触する状態との切り替えが可能な先端支持機構部と、を含む車体と、
前記荷物を搬送する前記車体の重心位置を算出する算出部と、
前記走行面に段差がある場合、前記算出部で算出された重心位置に基づいて、前記移動台車部が前記段差を乗り上げるように、前記リフト部、前記移動台車部、および前記先端支持機構部の動作を制御する制御部と、
を備える運搬装置。
【請求項8】
前記フォーク部は車輪をさらに備え、
前記制御部は、前記リフト部が前記フォーク部を下方に駆動させ、前記車輪を前記段差に接触させることにより、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項7に記載の運搬装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記リフト部が前記フォーク部を下方に駆動させ、前記先端支持機構部を前記段差に接触させることにより、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項7または請求項8に記載の運搬装置。
【請求項10】
前記移動台車部に設けられ、前記フォーク部の長手方向に沿って移動可能であり、前記移動台車部に対する位置が可変である補助輪を有する補助脚部をさらに備える請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載の運搬装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記フォーク部を前記走行面に接触させ、前記補助脚部の前記補助輪を前記段差に乗り上げさせる、請求項10に記載の運搬装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記補助脚部の前記補助輪にブレーキをかけ、前記補助脚部に沿って前記移動台車部を移動させ、前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、請求 項10または請求項11に記載の運搬装置。
【請求項13】
前記フォーク部の前方の状況を示す前方情報を取得する取得部をさらに備える請求項1乃至12のいずれか一項に記載の運搬装置。
【請求項14】
前記前方情報に基づいて、前記走行面の段差を検知する段差検知部をさらに備える請求項13に記載の運搬装置。
【請求項15】
請求項3または請求項8に記載の運搬装置が、段差に乗り上げるための制御方法であって、
前記フォーク部を下方に駆動させるステップと、
前記フォーク部の前記車輪を前記段差に接触させるステップと、
前記移動台車部の前記駆動輪が前記段差に乗り上げさせるステップと、
を含む制御方法。
【請求項16】
前記補助脚部の前記補助輪にブレーキをかけさせるステップと、
前記補助脚部に沿って前記移動台車部を移動させるステップと、
前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせるステップと、
を含む請求項1、2、4、及び請求項10乃至12のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項17】
前記フォーク部を下方に駆動させるステップと、
前記先端支持機構部を前記段差に接触させるステップと、
前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせるステップと、
を含む請求項5乃至7、及び請求項9のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項18】
請求項3または請求項8に記載の運搬装置が、段差に乗り上げる制御をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記フォーク部を下方に駆動させ、
前記フォーク部の前記車輪を前記段差に接触させ、
前記移動台車部の前記駆動輪が前記段差に乗り上げさせる、
プログラム。
【請求項19】
前記補助脚部の前記補助輪にブレーキをかけさせ、
前記補助脚部に沿って前記移動台車部を移動させ、
前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、
請求項1、2、4、及び請求項10乃至12のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項20】
前記フォーク部を下方に駆動させ、
前記先端支持機構部を前記段差に接触させ、
前記移動台車部の前記駆動輪を前記段差に乗り上げさせる、
請求項5乃至7、及び請求項9のいずれか一項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、運搬装置、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
パレットを運搬する運搬装置において、車輪径が小さく、さらに駆動輪に必要なトルクが不足しているため、段差に乗り上げるのが困難であるという問題がある。これに対して、ハンドパレットトラックの車輪径を大きくする補助具が提案されている。しかし、補助具を装着した状態ではパレットにフォーク部を挿入することができないため、パレットを置く際に、この補助具を取り外す必要があり手間がかかってしまう。また、段差に応じた乗り換え方法を選択する移動ロボットが提案されているが、この機構はパレットトラックにそのまま適用できるものではない。
そのため、スムーズに段差に乗り上げることができる運搬装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-190105号公報
【文献】登録実用新案第3207541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、積載重量の変動の影響を低減してスムーズな段差乗り上げ動作が可能な運搬装置、制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の運搬装置は、荷物を支えるフォーク部と、前記フォーク部を上下に駆動するリフト部と、前記リフト部を支持し、駆動輪の駆動により走行面を移動可能な移動台車部と、前記移動台車部に設けられ、前記フォーク部の長手方向に沿って移動可能であり、前記移動台車部に対する位置が可変である補助輪を有する補助脚部と、を含む車体と、前記荷物を搬送する前記車体の重心位置を算出する算出部と、前記走行面に段差がある場合、前記算出部で算出された重心位置に基づいて、前記移動台車部が前記段差に乗り上げるように、前記フォーク部、前記移動台車部、および前記補助脚部の動作を制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の運搬装置の全体構成を示す斜視図。
図2】実施形態の運搬装置の全体構成を示す斜視図。
図3】移動台車部の詳細を示す斜視図。
図4A】補助脚部の詳細を示す斜視図。
図4B】補助脚部の詳細を示す斜視図。
図4C】補助脚部の詳細を示す斜視図。
図5A】先端支持機構部の詳細を示す斜視図。
図5B】先端支持機構部の詳細を示す斜視図。
図6】実施形態の運搬装置が備える各種センサの配置例を示す模式図。
図7】実施形態の運搬装置の制御システムの構成例を示すブロック図。
図8】段差乗り上げ動作を示す模式図。
図9】段差乗り上げ動作を示す模式図。
図10】段差乗り上げ制御部による処理の流れを示すフローチャート。
図11】段差乗り上げ動作の判断を示す模式図。
図12】先端指示機構部を利用した段差乗り上げ動作を示す模式図。
図13】先端指示機構部を利用した段差乗り上げ動作の流れを示すフローチャート。
図14】フォーク部を利用した段差乗り上げ動作を示す模式図。
図15】フォーク部を利用した段差乗り上げ動作の流れを示すフローチャート。
図16】補助脚部を利用した段差乗り上げ動作を示す模式図。
図17】補助脚部を利用した段差乗り上げ動作の流れを示すフローチャート。
図18】段差平面の長さが短い場合の段差乗り上げ動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の運搬装置について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、添付図面のうちの模式図においては、図の見易さを考慮して運搬装置を構成する各部を簡略化して図示しているため、これら各部の形状、寸法、配置などが必ずしも正確に図示されていない点に留意されたい。
【0008】
まず、実施形態の運搬装置の機械的な構成について説明する。図1および図2は、実施形態の運搬装置の全体構成を示す斜視図である。図1および図2に示すように、実施形態の運搬装置は、フォーク部100と、リフト部120と、移動台車部140と、補助脚部160と、先端支持機構部180とを備える。なお、この運搬装置における前後、左右、上下の各方向は、図に示す通りとする。
【0009】
フォーク部100は、運搬装置が運搬する荷物(パレットおよびパレット上に積載される積載物)を支えるものであり、左右一対のツメ101をホルダ102で保持した構成となっている。一対のツメ101は、それぞれ長手方向の先端側が運搬装置の前方に位置し、基端側にてホルダ102に固定されている。ホルダ102は、後述の接続部材125に接続される。一対のツメ101の間隔は、パレットのフォーク挿入孔の間隔に合せて定められている。一対のツメ101は、間隔が調整できるようにホルダ102に取り付けられた構造であってもよい。
【0010】
リフト部120は、フォーク部100を上下に駆動するものであり、上下方向に立設されたフレーム121内に油圧シリンダ122が配置された構成となっている。フレーム121には、油圧シリンダ122を動作させる作動油を貯留するタンク123が取り付けられている。
【0011】
油圧シリンダ122は、油圧モータの駆動によりタンク123から作動油が供給されることによって内部の圧力が高められ、この圧力によりピストンロッド124を押し上げる。ピストンロッド124は、フォーク部100のホルダ102が接続された接続部材125に連結されており、油圧シリンダ122を駆動してピストンロッド124を押し上げることにより、フォーク部100が上昇する構造となっている(図2参照)。また、油圧シリンダ122の内部の作動油がタンク123に回収されると、油圧シリンダ122の内部の圧力が低下し、フォーク部100の重さによりピストンロッド124が押し下げられて、フォーク部100が下降する(図1参照)。
【0012】
なお、接続部材125の上側にはピストンロッド124と一体に動く筒状の保護カバー126が設けられており、油圧シリンダ122の駆動によって押し上げられたピストンロッド124の周囲がこの保護カバー126によって覆われることで、ピストンロッド124が保護される構成となっている(図2参照)。
【0013】
移動台車部140は、リフト部120を支持する移動体である。移動台車部140の詳細を図3に示す。図3に示すように、移動台車部140は、リフト部120のフレーム121が固定される台座141と、台座141上に配置された一対の駆動モータ142と、一対の駆動モータ142の出力軸に減速機を介して各々接続された左右一対の駆動輪143とを有する。移動台車部140は、一対の駆動モータ142を制御して左右一対の駆動輪143を駆動することにより、走行面上を直進移動したり旋回移動したりすることができる。
【0014】
左右一対の駆動輪143の上側は、それぞれ台座141に固定されたホイールカバー144で覆われている。そして、このホイールカバー144上に、運搬装置の全体の電源として使用されるバッテリ145が配置されている。これにより、移動台車部140の水平投影面積を小さくすることができる。
【0015】
補助脚部160は、フォーク部100のツメ101の長手方向(すなわち、運搬装置の前後方向)に沿って移動可能に移動台車部140に連結された構造体である。補助脚部160の詳細を図4A乃至図4Cに示す。なお、図4Aおよび図4Cは、補助脚部160を運搬装置の下側から見た様子を示し、図4Bは、補助脚部160を運搬装置の上側から見た様子を示している。
【0016】
図4Aおよび図4Cに示すように、補助脚部160は、左右一対の補助脚161を連結部162で連結した構造を有する。補助脚部160は、左右一対の補助脚161の間隔がフォーク部100の一対のツメ101の間隔と略等しくなるように構成され、これら一対の補助脚161が上下方向に見て一対のツメ101と重なるように、移動台車部140の台座141の裏面側(リフト部120のフレーム121が固定される面とは逆側)に配置される。
【0017】
一対の補助脚161の先端側(運搬装置の前方側)と連結部162に接続される基端側(運搬装置の後方側)には、それぞれ走行面に接触する補助輪163が設けられている。補助脚部160は、これら4つの補助輪163が走行面に接触することで、運搬装置の荷重を移動台車部140の駆動輪143に集中させずに分散して支持する役割を持つ。なお、走行面に接触する補助輪163は、少なくとも一対の補助脚161の先端側(前方側)に設けられていればよく、一対の補助脚161の基端側(後方側)は走行面に接触しない構成であってもよい。
【0018】
また、補助脚部160は、補助輪163の回転を抑止するブレーキ機構を備えることが望ましい。例えば、補助輪163の回転軸に固定したディスクに対して電磁力により移動する摩擦板を押し当てることにより補助輪163の回転を抑止する構成のブレーキモジュールを補助脚部160に搭載するようにしてもよい。
【0019】
移動台車部140の台座141の裏面側には、両端部にピニオン(歯車)が取り付けられた回転シャフト164が、運搬装置の左右方向に沿って配置されている。また、台座141の裏面側には、回転シャフト164の両端部の近傍に位置して、後述のリニアレール166と係合するLM(Linear Motion)ブロック165が配置されている。一方、補助脚部160の一対の補助脚161には、図4Bに示すように、長手方向(運搬装置の前後方向)に沿って、リニアレール166と、回転シャフト164の両端部に取り付けられたピニオン(歯車)に係合するラック167とが設けられている。
【0020】
台座141の裏面側に配置された回転シャフト164は、補助脚移動用モータ168の動力がウォームホイール169を介して伝達されることで回転する。この回転シャフト164の回転は、ラック167によって補助脚部160の直線運動に変換され、補助脚部160がLMブロック165およびリニアレール166に案内されて前後方向に移動する。すなわち、補助脚移動用モータ168を制御することによって、図4Aおよび図4Cに示すように補助脚部160を前後方向に移動させて、走行面に接触する補助輪163の移動台車部140に対する相対的な位置を変化させることができる。
【0021】
なお、補助脚移動用モータ168の動力がウォームホイール169を介して回転シャフト164に伝達する構成とすることで、補助脚移動用モータ168が動作していないときに、外力などによって補助脚部160が想定外の動きをすることを有効に抑制できる。その結果、運搬装置の安定性を高めて転倒を防止することができる。
【0022】
なお、補助脚部160は、運搬装置に必ずしも備わっている必要はない。
【0023】
先端支持機構部180は、フォーク部100の一対のツメ101の先端側に各々設けられ、走行面に非接触の状態と走行面に接触する状態との切り替えが可能な機構を有する。先端支持機構部180の詳細を図5Aおよび図5Bに示す。なお、図5Aおよび図5Bは、先端支持機構部180を運搬装置の下側から見た様子を示している。
【0024】
図5Aおよび図5Bに示すように、先端支持機構部180は、フォーク部100のツメ101の裏側に収納されたホルダ181と、このホルダ181に固定された回転軸182に基端側が挿通され、回転軸182の軸周りに回転可能にホルダ181に支持された先端アーム183とを有する。先端アーム183の先端側には、車輪184が設けられている。
【0025】
また、先端アーム183を回転させる動力源となる先端支持駆動用モータ185の出力軸に、ナット186が挿通されたボールねじ187が連結されている。ナット186にはナットリンク188が固定されており、ナットリンク188と先端アーム183とが中継リンク189を介して連結されている。中継リンク189は、一端側がフリージョイントでナットリンク188に接続され、他端側がフリージョイントで先端アーム183に接続されている。
【0026】
先端支持駆動用モータ185の駆動によりボールねじ187が回転すると、ナット186およびナットリンク188がボールねじ187の軸方向に直動する。ナットリンク188が直動すると、その動力が中継リンク189を介して先端アーム183に伝達され、先端アーム183が回転軸182の軸周りに回転する。すなわち、先端支持駆動用モータ185を制御することによって、先端支持機構部180の先端アーム183を、図5Aに示すようにフォーク部100のツメ101と平行に寝かせた状態と、図5Bに示すようにフォーク部100のツメ101に対して垂直に起立させた状態とに変化させることができる。図5Aに示す状態のとき、先端アーム183は走行面と接触することはないが、図5Bに示す状態のとき、先端アーム183は走行面と車輪184で接触することができる。
【0027】
なお、先端支持機構部180は、運搬装置に必ずしも備わっている必要はない。
【0028】
次に、実施形態の運搬装置の制御系の構成について説明する。図6は、実施形態の運搬装置が備える各種センサの配置例を示す模式図である。図6に示すように、実施形態の運搬装置は、加速度センサ201と、傾斜センサ202と、圧力センサ203と、荷重センサ204と、カメラ205と、距離センサ206とを備える。
【0029】
加速度センサ201は、例えば移動台車部140に設けられ、移動台車部140が移動する際の加速度や減速度(移動加減速度)を検知する。傾斜センサ202は、例えばリフト部120に設けられ、運搬装置の傾きを検知する。
【0030】
圧力センサ203は、リフト部120の油圧シリンダ122内部の圧力を検知することで、フォーク部100が支える荷物の重量を間接的に検知する。荷重センサ204は、フォーク部100に設けられ、荷物の重量を直接検知する。圧力センサ203と荷重センサ204は、フォーク部100が支える荷物の重量を検知する荷物重量検知部の一例である。
【0031】
カメラ205は、例えば先端支持機構部180に設けられ、運搬装置の前方の画像を撮影する。距離センサ206は、例えば、先端支持機構部180に設けられ、運搬装置の前方に存在する各種の物体までの距離を計測する。カメラ205が撮影する画像や距離センサ206が計測する距離の情報は、運搬装置の前方の状況を示す前方情報の一例であり、カメラ205や距離センサ206は、前方情報を取得する取得部の一例である。
【0032】
なお、図6に示す各種センサの位置は一例であり、運搬装置で各種センサを取り付ける位置は変えることができる。
【0033】
図7は、実施形態の運搬装置の制御システムの構成例を示すブロック図である。図7に示すように、運搬装置の制御システムは、移動台車部140を駆動する移動台車駆動部301と、リフト部120を駆動するリフト駆動部302と、補助脚部160を駆動する補助脚駆動部303と、先端支持機構部180を駆動する先端支持機構駆動部304と、これら各部の動作を制御する制御用プロセッサ310とを備える。移動台車駆動部301には上述の駆動モータ142、リフト駆動部302には上述の油圧モータ127、補助脚駆動部303には上述の補助脚移動用モータ168、先端支持機構駆動部304には上述の先端支持駆動用モータ185がそれぞれ含まれている。
【0034】
制御用プロセッサ310には、上述の加速度センサ201、傾斜センサ202、圧力センサ203と荷重センサ204を含む荷物重量検知部305、カメラ205と距離センサ206を含む取得部306がそれぞれ接続されている。
【0035】
制御用プロセッサ310は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサを用いて構成され、所定の制御プログラムに従って各種の演算を行うことにより、図7に示すように、移動制御部311、持ち上げ制御部312、段差検知部313、段差乗り上げ制御部314、重心位置算出部315、転倒防止制御部316などの各種の制御機能を実現する。なお、制御用プロセッサ310は、これらの制御機能が実装されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用ハードウェアを用いて構成されてもよい。
【0036】
移動制御部311は、取得部306により取得された前方情報(カメラ205により撮影された画像や距離センサ206により計測された距離情報)に基づいて、移動台車駆動部301に制御指令を出力して、移動台車部140の走行面上での移動を制御する。持ち上げ制御部312は、パレットなどの荷物をフォーク部100で支えてバランスを取りながらリフト部120で持ち上げるように、リフト駆動部302、先端支持機構駆動部304および補助脚駆動部303に制御指令を出力して、リフト部120、先端支持機構部180および補助脚部160の動作を制御する。
【0037】
段差検知部313は、取得部306により取得された前方情報(カメラ205により撮影された画像や距離センサ206により計測された距離情報)に基づいて、移動台車部140が移動する走行面の段差を検知する。段差乗り上げ制御部314は、段差検知部313により検知された段差を乗り上げるように、リフト駆動部302、先端支持機構駆動部304、および補助脚駆動部303に制御指令を出力して、先端支持機構部180および補助脚部160の動作を制御する。
【0038】
重心位置算出部315は、荷物重量検知部305により検知された荷物の重量に基づいて、荷物を搬送する運搬装置の重心位置を算出する。転倒防止制御部316は、重心位置算出部315により算出された重心位置と、事前に設定された移動台車部140の移動加減速度とに基づいて、運搬装置が荷物を搬送する際に転倒するか否かを判定し、転倒すると判定した場合は、転倒を防止するための制御を行う。転倒を防止するための制御は、例えば、走行面に非接触の状態の先端支持機構部180を走行面に接触させる、または、後方側の補助輪163が駆動輪143の後方で走行面に接触するように補助脚部160を移動させる、または、移動台車部140の移動加減速度を低下させるといった制御である。
【0039】
実施形態の運搬装置は、上述した構造と制御システムを有することにより、荷物の運搬に必要な様々な動作を無人で行うことが可能となっている。以下では、実施形態の運搬装置の動作で、運搬装置が段差を乗り上げる動作について説明する。
【0040】
図8で、運搬装置の段差の検出方法と、運搬装置が段差に乗り上げできるかどうかの判断方法について述べる。運搬装置の上部に距離センサ206を取り付けた場合を考える。距離センサ206は、例えば、レーザー距離計などである。
【0041】
図8(a)に示すように、距離センサ206は、走行面に垂直な方向に対して、角度θの方向で、走行面と距離センサ206の間の距離を検出する。ここで、距離センサ206と垂直な方向において、走行面と距離センサ206の間の距離D1は、D1=d1cosθと求められる。その後、図8(b)に示すように、運搬装置が前進して、距離センサ206が段差を検出すると、距離センサ206は、走行面に垂直な方向に対して、角度θの方向で、段差と距離センサ206の間の距離d2を検出する。ここで、距離センサ206と垂直な方向において、段差と距離センサ206の間の距離D2は、D2=d2cosθと求められる。段差の高さhはh=D1-D2と求められる。
【0042】
段差乗り上げ制御部314は、運搬装置が段差を乗り上げることができるかどうかを判断する。段差乗り上げ制御部314は、距離センサ206で検出した段差の高さh、運搬装置の重量、駆動輪143の出せる最大トルク、および駆動輪143の半径に基づいて判断する。段差乗り上げ制御部314は、予めCADデータなどから推定された運搬装置の重心位置と重量の推定値と、距離センサ206で検出した段差の高さhを使用して、段差に乗り上げるために必要な駆動輪143のトルクを算出する。
【0043】
段差と駆動輪143の接触点において、走行面の垂直方向に力Fがかかっていたとする。駆動輪143の半径をrとして、運搬装置が段差に乗り上げるのに必要なトルクτは、τ=F√{r2-(r-h)2}と推定できる。段差乗り上げ制御部314は、駆動モータ142の最大トルクがこの推定値を超えているならば、運搬装置が段差に乗り上げることが可能だと判断する。
【0044】
次に、段差乗り上げ制御部314は、駆動輪143が段差に接触したかどうかを判定する。段差乗り上げ制御部314は、距離センサ206で検出した段差情報と、駆動輪143の速度、駆動輪143の直径に基づいて、駆動輪143と段差の間の距離を算出する。
【0045】
走行面で平面を検出していた距離センサ206が、走行面の段差を検出すると、距離センサ206で検出する距離が変化する。段差乗り上げ制御部314は、距離センサ206の出力と、距離センサ206と駆動輪143の間の距離に基づいて、駆動輪143と段差までの距離を算出する。
【0046】
次に、段差乗り上げ制御部314は、駆動モータ142のエンコーダーを使用して、駆動輪143の回転速度(rad/s)を計測する。駆動輪143の回転速度から、段差を検出した際の駆動輪143の回転距離Rd (rad)が求められる。駆動輪143の回転距離に、駆動輪143の半径rをかけることで、進行方向への進んだ距離がRdrと求められる。段差乗り上げ制御部314は、距離Rdrが、算出した駆動輪143と段差までの距離よりも大きくなったら、段差に駆動輪143が接触していると判断する。
【0047】
図9で、運搬装置の補助脚部160が段差に乗り上げる動作について述べる。
【0048】
図9(a)に示すように、運搬装置が段差に近づくと、段差乗り上げ制御部314は、先端支持機構部180が段差の上に位置している状態でフォーク部100を下げる。フォーク部100を下げると、先端支持機構部180が段差の上面に接触する。先端支持機構部180が段差の上面に接触した状態で、さらにフォーク部100を下げると、補助脚部160の前方側の補助輪163が走行面から浮く。次に、図9(b)に示すように、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差より高い位置まで浮いたら、駆動輪143が前進して段差に近づくことで、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差の上に位置する。
【0049】
図10に運搬装置の段差乗り上げ動作のフローチャートを示す。
【0050】
まず、運搬装置が段差に近づき、距離センサ206で段差の高さを検出する。これは図8(a)(b)で示した状態である(S101)。
【0051】
次に、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差の上に位置する。これは図9(a)(b)で示した状態である(S102)。
【0052】
次に、重心位置算出部315は、荷物を積載した運搬装置の重心の位置を算出する。また、段差乗り上げ制御部314は、駆動輪163の最大トルクを算出する(S103)。
【0053】
段差乗り上げ制御部314は、段差の高さ、荷物を積載した運搬装置の重心の位置、および駆動輪163の最大トルクに基づいて、駆動輪163で段差に乗り上げることが可能かどうかを判断する(S104)。
【0054】
駆動輪163で段差に乗り上げることが可能である場合、運搬装置が前進して段差に乗り上げて(S105)、終了となる(S106)。
【0055】
S104で駆動輪163が段差に乗り上げることが不可能である場合、段差乗り上げ制御部314は、荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の前方に偏っているかどうかを判断する(S107)。
【0056】
荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の前方に偏っている場合、段差乗り上げ制御部314は、先端支持機構部180を利用した方法で、運搬装置が段差に乗り上げるように制御する(S108)。
【0057】
荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の前方に偏っていない場合、段差乗り上げ制御部314は、荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の中心付近にあるかどうかを判断する(S109)。
【0058】
荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の中心付近にある場合、段差乗り上げ制御部314は、フォーク部100を利用した方法で、運搬装置が段差に乗り上げるように制御する(S110)。
【0059】
荷物を積載した運搬装置の重心の位置が車体の中心付近にない場合、段差乗り上げ制御部314は、補助脚部160を利用した方法で、運搬装置が段差に乗り上げるように制御する(S111)。
【0060】
運搬装置が段差に乗り上げるための、S108の先端支持機構部180を利用した方法、S110のフォーク部100を利用した方法、およびS111の補助脚部160を利用した方法について、以下詳細を述べる。
【0061】
図11で、段差乗り上げ制御部314が、上述の3つの段差に乗り上げる方法のいずれを選択するかの判断について説明する。
【0062】
図11は、運搬装置の駆動輪143の回転軸を0として、運搬装置の側面に沿ってx軸を考えた図である。例えば、荷物を積載していない運搬装置の重心を重心Aとし、x軸での位置をDとする。例えば、x軸方向において、運搬装置の長さをLとする。Dから+x軸方向にL/3の位置にある点をD、Dから-x軸方向にL/3の位置にある点をDとする。
【0063】
次に運搬装置に荷物を積載した場合を考える。荷物を積載した運搬装置の重心を重心Bとし、x軸での位置をDwwとする。
【0064】
例えば、重心Bの位置DwwがDよりも+x方向側にある場合、重心Bが運搬装置の車体の前方に偏っている。そのため、段差乗り上げ制御部314は、先端支持機構部180を利用した段差乗り上げ方法を選択する。
【0065】
例えば、重心Bの位置DwwがDとDの間にある場合、重心Bが運搬装置の車体の中心付近にある。そのため、段差乗り上げ制御部314は、フォーク部100を利用した段差乗り上げ方法を選択する。
【0066】
例えば、重心Bの位置DwwがDよりも-x方向側にある場合、重心Bが運搬装置の車体の後方に偏っている。そのため、段差乗り上げ制御部314は、補助脚部160を利用した段差乗り上げ方法を選択する。
【0067】
なお、重心Bの位置Dwwと、D、Dの位置関係により、段差乗り上げ制御部314はどの段差乗り上げ方法にするかを選択したが、この選択基準は変えてもよい。たとえば、重心の位置DwwがDよりも+x方向側にある場合、段差乗り上げ制御部314は、フォーク部100を利用した段差乗り上げ方法を選択してもよい。
【0068】
また、重心Aの位置Dから+x軸方向にL/3の位置にある点をD、Dから-x軸方向にL/3の位置にある点をDとしたが、重心の位置DからD、Dまでの距離も変えて良い。
【0069】
図12(a)乃至図12(c)を参照して、実施形態の運搬装置が先端支持機構部180を利用した段差の乗り上げ動作を説明する。
【0070】
まず、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差の上に乗り上げた状態(図9(b)参照)で、運搬装置は段差に向かって前進し、駆動輪143を段差に接触させる。駆動輪143が段差に接触したら、運搬装置は前進の動作を停止する(図12(a)参照)。
【0071】
運搬装置はフォーク部100を下げる。運搬装置がフォーク部100を下げると、段差に先端支持機構部180が段差に接触する。先端支持機構部180が段差に接触したら、運搬装置は先端支持機構部180の車輪184にブレーキをかける(図12(b)参照)。
【0072】
先端支持機構部180の関節を回転させると同時に、駆動輪143を段差に向かって前進させる。駆動輪143のトルクと、先端支持機構部180によって発生した引っ張る力の2つが同時に発生するため、運搬装置が駆動輪143のみを動作させて段差に乗り上げるようとするよりも、大きな力で段差に乗り上げることができる(図12(c)参照)。
【0073】
なお、先端支持機構部180の先端に車輪184が存在しない場合、段差に接触可能な部分を接触させれば良い。
【0074】
次に、制御用プロセッサ310の制御機能により実行される処理の具体例について説明する。まず、図13を参照して、上述の運搬装置が先端支持機構部180を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理を説明する。図13は、先端支持機構部180を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理の流れを示すフローチャートである。
【0075】
まず、補助脚部160の前方の補助輪163が段差に乗り上げている状態で(S201)、移動制御部311は運搬装置の駆動輪143を段差に向かって前進させる(S202)。段差乗り上げ制御部314は、駆動輪143が段差と接触したかどうかを判定する。段差乗り上げ制御部314は、距離センサ206で検知した段差と運搬装置との距離、および駆動輪143の半径に基づいて算出された駆動輪143が進んだ距離を用いて、駆動輪143が段差と接触したかどうかを判定する(S203)。駆動輪143が段差と接触していない場合、移動制御部311は駆動輪143を段差に向かって前進させる。駆動輪143が段差と接触した場合、移動制御部311は運搬装置のフォーク部100を段差に向かって下げる(S204)。段差乗り上げ制御部314は、先端支持機構部180と段差が接触したかどうかを判定する。段差乗り上げ制御部314は、段差の高さ、フォーク部100の位置、先端支持機構部180の回転量、運搬装置の姿勢から、先端支持機構部180と段差が接触したかどうかを判定する(S205)。先端支持機構部180と段差が接触していない場合、フォーク部100を段差に向かって下げ続ける。先端支持機構部180と段差が接触した場合、先端支持機構部180の車輪184にブレーキをかける(S206)。先端支持機構部180とフォーク部100の間の関節を回転させると同時に、駆動輪143を段差に向かって前進させる(S207)。駆動輪143が段差に乗り上げることにより、運搬装置の段差乗り上げ動作は終了する(S208)。
【0076】
図14(a)乃至図14(c)を参照して、実施形態の運搬装置がフォーク部100を利用した段差の乗り上げ動作を説明する。フォーク部100で運搬装置の重量を支えることで、駆動輪143にかかる荷重を減らすことできるため、運搬装置が段差に乗り上げることが可能となる。フォーク部100の出せる力よりも、運搬装置にかかる荷重のほうが小さい場合に有効である。
【0077】
まず、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差の上に乗り上げた状態(図9(b)参照)で、運搬装置は段差に向かって前進し、駆動輪143を段差に接触させる。駆動輪143が段差に接触したら、運搬装置は前進の動作を停止する(図14(a)参照)。
【0078】
運搬装置はフォーク部100を下げる。運搬装置がフォーク部100を下げると、段差に車輪105が段差に接触する(図14(b)参照)。
【0079】
さらにフォーク部100を下げると同時に、駆動輪143を回転させる。フォーク部100の車輪105が段差に接触することで、駆動輪143にかかる負荷が減るため、乗り上げが完了する(図14(c)参照)。
【0080】
次に、制御用プロセッサ310の制御機能により実行される処理の具体例について説明する。まず、図15を参照して、上述の運搬装置がフォーク部100を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理を説明する。図15は、フォーク部100を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理の流れを示すフローチャートである。
【0081】
まず、補助脚部160の前方の補助輪163が段差に乗り上げている状態で(S301)、移動制御部311は運搬装置の駆動輪143を段差に向かって前進させる(S302)。段差乗り上げ制御部314は、駆動輪143が段差と接触したかどうかを判定する。段差乗り上げ制御部314は、距離センサ206で検知した段差と運搬装置との距離、および駆動輪143の半径に基づいて算出された駆動輪143が進んだ距離を用いて、駆動輪143が段差と接触したかどうかを判定する(S303)。駆動輪143が段差と接触していない場合、移動制御部311は駆動輪143を段差に向かって前進させる。駆動輪143が段差と接触した場合、移動制御部311は運搬装置のフォーク部100を段差に向かって下げる(S304)。段差乗り上げ制御部314は、フォーク部100の車輪105と段差が接触したかどうかを判定する。段差乗り上げ制御部314は、フォーク部100の位置、運搬装置の姿勢(傾き具合)から、車輪105と段差が接触したかどうかを判定する(S305)。フォーク部100の車輪105と段差が接触していない場合、フォーク部100を段差に向かって下げ続ける。先フォーク部100の車輪105と段差が接触した場合、さらにフォーク部100を下げつつ、駆動輪143を回転させる(S306)。駆動輪143が段差に乗り上げることにより、運搬装置の段差乗り上げ動作は終了する(S307)。
【0082】
図16(a)乃至図16(c)を参照して、実施形態の運搬装置が補助脚部160を利用した段差の乗り上げ動作を説明する。
【0083】
まず、補助脚部160の前方側の補助輪163が段差の上に乗り上げた状態(図9(b)参照)で、補助脚部160の前方の補助輪163が段差に乗り上げている状態で、補助輪163にブレーキをかける(図16(a)参照)。
【0084】
運搬装置は、補助脚部160に沿って前進する。運搬装置の駆動輪143は、走行面から離れ、補助脚部160に沿って前進し、段差に接触する(図16(b)参照)。
【0085】
運搬装置の駆動輪143が段差に接触した後に、駆動輪143を回転させる。駆動輪143は段差に乗り上げが完了する(図16(c)参照)。
【0086】
次に、制御用プロセッサ310の制御機能により実行される処理の具体例について説明する。まず、図17を参照して、上述の運搬装置が補助脚部160を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理を説明する。図17は、補助脚部160を利用した段差の乗り上げ動作における移動制御部311および段差乗り上げ制御部314による処理の流れを示すフローチャートである。
【0087】
まず、補助脚部160の前方の補助輪163が段差に乗り上げている状態で(S401)、移動制御部311は運搬装置の補助脚部160の補助輪163にブレーキをかける(S402)。段差乗り上げ制御部314は、補助脚部160に沿って、運搬装置を前進させる(S403)。段差乗り上げ制御部314は、駆動輪143が段差と接触したかどうかを判定する(S404)。駆動輪143が段差と接触していない場合、段差乗り上げ制御部314は、補助脚部160に沿って、さらに運搬装置を前進させる。駆動輪143が段差と接触した場合、段差乗り上げ制御部314は、駆動輪143を回転させる(S405)。駆動輪143が段差に乗り上げることにより、運搬装置の段差乗り上げ動作は終了する(S406)。
【0088】
なお、運搬装置が段差に乗り上げるための、先端支持機構部180を利用した方法、フォーク部100を利用した方法、および補助脚部160を利用した方法を説明したが、補助脚部160が運搬装置に備わっていない場合、運搬装置は補助脚部160を利用して段差に乗り上げることはできない。また、先端支持機構部180が運搬装置に備わっていない場合、運搬装置は先端支持機構部180を利用して段差に乗り上げることはできない。
【0089】
ここまで、水平方向において、段差の長さが、先端支持機構部180とフォーク部100が接触可能である程度にある場合を説明したが、段差の長さが短く、また段差の高さが運搬装置よりも低い場合に、運搬装置が段差に乗り上げる方法を説明する。
【0090】
図18(a)乃至図18(c)を参照して、水平方向において、段差の長さが短く、また段差の高さが運搬装置よりも十分に低い場合に、運搬装置が段差に乗り上げる方法を説明する。
【0091】
まず、段差は運搬装置よりも高さが十分に低いため、リフト部100は段差の上側に位置している場合を考える。運搬装置がフォーク部100を下げると、段差を超えた先にある走行面に先端支持機構部180の車輪184が接触する。この時に、補助脚部160の前側の補助輪163は走行面を離れている状態になる(図18(a)参照)。駆動輪143を段差に向かって前進させる(図18(b)参照)。駆動輪143が段差に接触した後に、駆動輪143をさらに回転させ、運搬装置は段差の上に乗り上げて、完了する(図18(c)参照)。段差の高さが運搬装置よりも低い場合は、駆動輪143の力だけで乗り上げることが可能である。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
100 フォーク部
105 車輪
120 リフト部
140 移動台車部
143 駆動輪
160 補助脚部
163 補助輪
180 先端支持機構部
184 車輪
206 距離センサ
305 荷物重量検知部
306 取得部
310 制御用プロセッサ
311 移動制御部
312 持ち上げ制御部
313 段差検知部
314 段差乗り上げ制御部
315 重心位置算出部
316 転倒防止制御部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18