(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維の製造方法およびそれを含有する紙
(51)【国際特許分類】
D21H 11/20 20060101AFI20231204BHJP
C08B 15/04 20060101ALN20231204BHJP
【FI】
D21H11/20
C08B15/04
(21)【出願番号】P 2020549143
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037039
(87)【国際公開番号】W WO2020059860
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2018176405
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018176411
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018215742
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018215745
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018246923
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019099397
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 至誠
(72)【発明者】
【氏名】久永 悠生
(72)【発明者】
【氏名】田村 金也
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512878(JP,A)
【文献】特表2016-503465(JP,A)
【文献】特開2017-057391(JP,A)
【文献】特開2013-203859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/20
C08B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る工程、
(2)前記工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理する工程、
前記化学変性パルプを酸処理する工程、
を含む、微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記機械的処理が叩解である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記化学変性パルプがアニオン変性パルプである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化学変性パルプが、0.3~2.5mmol/gのカルボキシル基を有する、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記化学変性パルプをアルカリ処理する工程を含む請求項1~
4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸処理が、前記化学変性パルプと水を含む混合物に酸を加えて当該混合物のpHを6.5以下に調整することを含む、請求項
1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ処理が、前記化学変性パルプと水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上に調整することを含む、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記微細セルロース繊維が、ミクロフィブリレイテッドセルロースである、請求項1~
7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記微細セルロース繊維が、セルロースナノファイバーである請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記工程(2)が、異なる条件で機械的処理を複数回行ってミクロフィブリレイテッドセルロースを得ることを含む工程であって、そのうち少なくとも1回は固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理を行う工程である、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)が、前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理した後に、固形分濃度15重量%未満の条件で機械的処理を施してミクロフィブリレイテッドセルロースを得ることを含む、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(2)が、前記機械的処理によって生成したミクロフィブレイテッドセルロースに、さらに機械的処理を施してセルロースナノファイバーとすることを含む、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記機械的処理によって生成した微細セルロース繊維をアルカリ処理する工程を含む、請求項1~
12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記工程(2)が、
(2-1)前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理して微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボールを形成すること、および
(2-2)前記セルロースファイバーボールをアルカリ処理してミクロフィブレイテッドセルロースを調製することを含む、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項15】
前記工程(2)が、
(2-1)前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理して微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボールを形成すること、
(2-2)前記セルロースファイバーボールをアルカリ処理してミクロフィブレイテッドセルロースを調製すること、および
(2-3)前記ミクロフィブレイテッドセルロースを機械的処理してセルロースナノファイバーを調製する工程を含む、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項16】
前記アルカリ処理が、前記セルロースファイバーボールと水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上に調整することを含む、請求項
14または
15に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれかの方法によって微細セルロースを準備する工程、
パルプと当該微細セルロースを含むスラリーを調製する工程、および
当該スラリーを抄紙する工程を備える、
紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細セルロース繊維の製造方法およびそれを含有する紙に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーやミクロフィブリレイテッドセルロース(以下併せて「微細セルロース繊維」という。)は、繊維径がナノ~マイクロオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
微細セルロース繊維の製造方法として、機械的な剪断力でセルロース繊維を微細化(特許文献1)する方法、セルロース繊維に酵素処理や化学変性を施した後に機械的な微細化処理を行う方法(特許文献2)、バクテリアセルロースに代表されるように微生物に微細セルロースを産生(特許文献3)させる方法などが知られている。
【0004】
化学変性としては、酸化、エーテル化、カチオン化、エステル化などが挙げられ、導入される置換基としてはカチオン性基またはアニオン性基などがある。アニオン性基の一例としてはカルボキシル基やリン酸エステル基がある。
【0005】
アニオン性基が導入された化学変性パルプは、水中、酸性条件下ではアニオン性基の末端が酸型となるため親水性が低く、アルカリ性条件下ではアニオン性基の末端が乖離するため親水性が高くなる。通常、アニオン変性セルロースナノファイバーは、変性セルロースをアルカリ処理してアニオン性基を塩型に変換した後、必要に応じて叩解(予備解繊)処理を行ってミクロフィブリレイテッドセルロースを得て、さらに超高圧ホモジナイザーなどの分散機で解繊処理して製造される(例えば特許文献4)。アニオン性基が乖離した状態の化学変性パルプは、水との親和性が非常に高く、膨潤し高粘度化するため、通常は固形分濃度5重量%以下程度の低濃度分散液を用いて叩解処理が行われていた。一方、当該固形分濃度を向上させるために、叩解して微細化を進めたフィブリルセルロースのpHを低くして保水性を低下させて、高濃度化する方法が知られている(特許文献5、6)。
【0006】
ところで、紙は、印刷用紙や記録用紙等の情報記録媒体用途や包装用途等の種々の分野に使用されており、いずれの用途においても使用時や加工時に十分な強度を有することが求められている。紙の強度やこわさを改善することを目的として、例えば特許文献7には酸化パルプを添加した紙基材が、特許文献8には共処理されたミクロフィブリレイテッドセルロースおよび無機粒子組成物を含む紙製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-10280号公報
【文献】特開2010-235679号公報
【文献】特開平8-291201号公報
【文献】国際公開2017/057710号
【文献】特表2017-527660号公報
【文献】特表2015-508839号公報
【文献】国際公開第2014/097929号
【文献】特開2017-203243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献7および8に記載のとおり、微細セルロース繊維は、紙をはじめとして種々の分野において新たな機能を付与できることが期待される。しかし従来の微細セルロース繊維の製造方法では、固形分濃度が5重量%以下という低濃度の条件で叩解処理を行っていたため、製造時や輸送におけるハンドリング性に問題があった。セルロースナノファイバーをはじめとする微細セルロース繊維は、その製造工程に、酸化、アルカリ処理、叩解、解繊等の複数の工程を備える。よって、発明者らは各工程での処理濃度を向上させることができれば、処理量や輸送時のコストなどの観点から、有利に微細セルロース繊維を製造することができるという着想を得た。また、特許文献5および6に開示されているように、微細化後に、微細セルロース繊維スラリーを濃縮して高濃度化することは検討されていたが、叩解に供するスラリー中の化学変性パルプ濃度を高めるという技術はなかった。さらに、化学変性パルプを原料としてミクロフィブリレイテッドセルロース(以下「MFC」ともいう)を製造する際、スラリー粘度をあまり上昇させることなくMFC化を進めることは困難であり、ハンドリング性に問題があった。かかる事情を鑑み、本発明は、製造時や輸送時のハンドリング性が良好な微細セルロース繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、化学変性パルプを特定の条件で機械的処理を実施することによって前記課題を解決した。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
態様1
(1)原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る工程、
(2)前記工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理する工程、
を含む、微細セルロース繊維の製造方法。
態様2
前記機械的処理が叩解である、態様1に記載の製造方法。
態様3
前記化学変性パルプがアニオン変性パルプである、態様1または2に記載の製造方法。
態様4
前記化学変性パルプが、0.3~2.5mmol/gのカルボキシル基を有する、態様1~3のいずれかに記載の製造方法。
態様5
前記化学変性パルプを酸処理する工程を含む、態様1~4のいずれかに記載の製造方法。
態様6
前記化学変性パルプをアルカリ処理する工程を含む態様1~5のいずれかに記載の製造方法。
態様7
前記酸処理が、前記化学変性パルプと水を含む混合物に酸を加えて当該混合物のpHを6.5以下に調整することを含む、態様5に記載の製造方法。
態様8
前記アルカリ処理が、前記化学変性パルプと水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上に調整することを含む、態様6に記載の製造方法。
態様9
前記微細セルロース繊維が、ミクロフィブリレイテッドセルロースである、態様1~8のいずれかに記載の製造方法。
態様10
前記微細セルロース繊維が、セルロースナノファイバーである態様1~8のいずれかに記載の方法。
態様11
前記工程(2)が、異なる条件で機械的処理を複数回行ってミクロフィブリレイテッドセルロースを得ることを含む工程であって、そのうち少なくとも1回は固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理を行う工程である、態様9に記載の製造方法。
態様12
前記工程(2)が、前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理した後に、固形分濃度15重量%未満の条件で機械的処理を施してミクロフィブリレイテッドセルロースを得ることを含む、態様11に記載の製造方法。
態様13
前記工程(2)が、前記機械的処理によって生成したミクロフィブレイテッドセルロースに、さらに機械的処理を施してセルロースナノファイバーとすることを含む、態様10に記載の製造方法。
態様14
前記機械的処理によって生成した微細セルロース繊維をアルカリ処理する工程を含む、態様1~13のいずれかに記載の製造方法。
態様15
前記工程(2)が、
(2-1)前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理して微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボールを形成すること、および
(2-2)前記セルロースファイバーボールをアルカリ処理してミクロフィブレイテッドセルロースを調製することを含む、態様9に記載の製造方法。
態様16
前記工程(2)が、
(2-1)前記化学変性パルプを固形分濃度15重量%以上の条件で機械的処理して微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボールを形成すること、
(2-2)前記セルロースファイバーボールをアルカリ処理してミクロフィブレイテッドセルロースを調製すること、および
(2-3)前記ミクロフィブレイテッドセルロースを機械的処理してセルロースナノファイバーを調製する工程を含む、態様10に記載の製造方法。
態様17
前記アルカリ処理が、前記セルロースファイバーボールと水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上に調整することを含む、態様15または16に記載の製造方法。
態様18
態様1~17のいずれかの方法によって微細セルロースを準備する工程、
パルプと当該微細セルロースを含むスラリーを調製する工程、および
当該スラリーを抄紙する工程を備える、
紙の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、製造時や輸送時のハンドリング性が良好な微細セルロース繊維の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXとYを含む。
【0012】
1.微細セルロース繊維
本発明において、微細セルロース繊維とは、平均繊維径が500nm未満のセルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)および500nm以上のミクロフィブリレイテッドセルロース(以下「MFC」ともいう)を総称した繊維をいう。当該平均繊維径は長さ加重平均繊維径であり、例えばバルメット株式会社製フラクショネータや光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微細セルロース繊維を観察することにより測定できる。当該繊維径の下限は好ましくは1nm以上であり、上限は特に限定されないが10mm以下程度であり、好ましくは1mm以下である。本発明においてMFCとCNFでは平均繊維径の測定方法が異なる。そこで、まず、得られた微細セルロース繊維の平均繊維径を、ABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社製フラクショネータ等の画像解析に供して、MFCとCNFのいずれであるかを決定する。そして、得られた微細セルロース繊維がMFCである場合、前記フラクショネータで測定して平均繊維径を求める。また、微細セルロース繊維がCNFである場合はAFMを用いて平均繊維径を測定できる。
【0013】
[MFC]
本発明では、化学変性パルプを、生成する微細セルロース繊維の平均繊維径を500nm以上とするように機械的処理(好ましくは叩解)することでMFCを製造できる。平均繊維径の下限は好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、上限は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。当該MFCの平均繊維長は1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。その上限は2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下程度がより好ましい。本発明において平均繊維長は長さ加重平均繊維長である。
【0014】
MFCと原料であるセルロース繊維とは機械的処理の度合いが異なる。機械的処理の度合いは繊維を直接観察することによって確認できる。また、機械的処理の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、機械処理後の濾水度や保水度の変化量や表面積(例えばBET)の変化量で定量化することも可能である。一例として、以下にN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で、酸化剤を用いて酸化して得た酸化セルロースの場合を説明する。この場合、MFCの解繊前のパルプの濾水度(F0)が10ml以上変化する程度に機械的処理、特に叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=|F0-F|は10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、機械的処理前のパルプの濾水度を基準とするため、前記定義によって化学変性の度合いに因らず機械的処理の度合いを特定できる。F0は化学変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義に定めることは困難であるが、処理後の濾水度FはF0よりも小さくなるか、もしくはパルプが機械的処理によって非常に微細になることで、F0よりも大きくなる(叩解後パルプが水と一緒にメッシュを抜ける)。このようにして得た化学変性MFCのバルメット株式会社製フラクショネータによって求めたフィブリル化率は1.0%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。パルプの種類によってフィブリル化率が異なるが、上記範囲であれば、十分に機械的処理が行われていると考えられる。
【0015】
また、本発明で得られるMFCは、機械的処理を行う前のパルプのフィブリル化率(f0)が1ポイント以上向上する程度に機械的処理を行って得られたものであることが好ましい。すなわち、処理後のフィブリル化率をfとすると、フィブリル化率の差Δf=f-f0は0を超えていればよく、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは1ポイント以上、さらに好ましくは2.5ポイント以上である。
【0016】
前記機械的処理の度合いは、前述の指標以外にスラリーとしたときの吸光度、粘度特性(たとえば回転数-粘度の関係)等によっても評価できる。
【0017】
[CNF]
本発明においては、化学変性パルプを、生成する微細セルロース繊維の平均繊維径を500nm未満とするように機械的処理(好ましくは解繊)をすることでCNFを製造できる。具体的には、機械的処理の装置や強度、回数、時間を調整することでCNFを製造できる。あるいは、前述のとおりに製造したMFCを、さらに機械的処理に供してCNFを製造することもできる。この場合の機械的処理も好ましくは解繊処理であり、工程(2)で述べる装置を用いることができる。本発明で得られたCNFは、従来の方法で製造されたCNFと同等の性能を有する。本発明のCNFの平均繊維径は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。その下限は好ましくは1nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。平均繊維長は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。平均繊維長の下限は0.1μm以上程度である。平均繊維長および繊維径は、前述のとおり得られた微細セルロース繊維がCNFであることを確認した上で、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は、電解法出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について、解析し、平均を算出することにより測定することができる。また、このようにして得られた値を用いて、下記の式によりアスペクトを算出すことができる。本発明のCNFのアスペクト比は好ましくは50以上である。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0018】
[CFB]
本発明では、化学変性パルプが叩解されることによってフィブリル化が促進され、微細セルロース繊維が形成される。この際、微細セルロース繊維が毛玉のように絡み合って形成された略球状(球体または楕円体)の材料(集合体)であるセルロースファイバーボール(以下「CFB」ともいう)を経由してもよい。すなわち、化学変性パルプからCFBが形成され、それから微細セルロース繊維が形成されてもよい。1つのCFBは1本の微細セルロース繊維から形成されうるが、好ましくは複数の微細セルロース繊維から形成される。
【0019】
(1)平均粒子径
CFBのレーザー回折式粒度計を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)は好ましくは50μm~2mmである。後述するとおりCFBからMFCを製造できる。しかしながら前記平均粒子径が上限値を超えるとMFCの製造が困難になりうる。また平均粒子径が下限値未満であると、製造工程においてCFBを単離する際に取扱性が困難となる場合がある。この観点からCFBの湿式測定による平均粒子径(D50)は50μm~1.5mmであることがより好ましい。CFBが水等の分散媒に分散している場合、その平均粒子径はpH等によって変動する。よって、本発明における平均粒子径やアスペクト比は、pH6以下の酸性の分散液を用いて測定される。
【0020】
(2)アスペクト比(L/D)
CFBのアスペクト比(L/D)は好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。L/Dは任意の顕微鏡、例えばバルメット株式会社製フラクショネータやデジタルマイクロスコープ(ニコン社製)、レーザー顕微鏡(オリンパス社製)でCFBが水に分散した分散液(pH6以下)中のCFBを観察することにより測定できる。L(粒子の長軸の長さ)およびD(粒子の短軸の長さ)を目視によって判断し、画像解析ソフトを用いてそれぞれの長さを測定することで算出する。長軸は、粒子の長手方向において最大長さを示す軸として決定され、短軸は長軸に直交し、かつ当該方向において最大長さ(幅)示す軸として決定される。
【0021】
(3)自己崩壊性
CFBは特定の条件下において、自己を形成している微細セルロース繊維(好ましくはMFC)にほぐれるという崩壊性を有する。具体的に、CFBは、2重量%の酸性水懸濁液とした後に当該懸濁液のpHを中性~アルカリ性とすると水中で崩壊し、微細セルロース繊維が水中に分散した分散液を生成する。酸性水懸濁液のpHは2以上6.5未満であることが好ましい。また当該懸濁液を中性~アルカリ性にする場合、pHは6.5以上であることが好ましい。本発明では、この原理を利用してCFBを経由して微細セルロース繊維を得ることができるが、その詳細は後述する。
【0022】
2.微細セルロース繊維の製造方法
(1)工程1
[原料パルプ]
本工程では原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る。原料パルプとしては、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹未漂白サルファイトパルプ(LUSP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、加圧砕木パルプ(PGW)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)、リンター、ジュート、麻、コウゾ、ミツマタ、ケナフ等の草本由来のパルプ、竹由来のパルプ、再生パルプ、古紙パルプ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
[化学変性]
化学変性とはパルプに官能基を導入することであり、化学変性はアニオン変性であることが好ましい、すなわち化学変性パルプはアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基、硫酸エステル基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、-COOH基、-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)、-O-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(-COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は酸化またはエーテル化が好ましい。
【0024】
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0025】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0026】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、さらに好ましくは0.5mmol/g以上、よりさらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.3~2.5mmol/gがより好ましく、0.5~2.5mmol/gがさらに好ましく、0.8~2.0mmol/gがよりさらに好ましい。
【0027】
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中でもカルボキシメチル化が好ましい。カルボキシメチル化は、例えば、発底原料としての原料パルプをマーセル化し、その後エーテル化する方法により実施できる。
【0028】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0029】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
【0030】
(2)工程2
本工程では化学変性パルプに機械的処理を行う。本発明において機械的処理とは、繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散、混錬等を含む。微細化は繊維長、繊維径等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。本発明においては、繊維のフィブリル化を効率的に進めることができるため、機械的処理はリファイナーやニーダーを用いた叩解であることが好ましい。
【0031】
機械的処理(好ましくは叩解)は化学変性パルプと分散媒を含む混合物を用いて実施されるが、その際の固形分濃度は15重量%以上である。分散媒は限定されず、有機溶媒や水を用いることができるが、好ましくは水である。固形分濃度とは、機械的処理に供される前記混合物における固形分の濃度であり、通常は化学変性パルプの濃度である。固形分濃度が15重量%以上と高い条件にて化学変性パルプを叩解することで、処理効率の向上、ハンドリング性の向上などのメリットが得られる。当該濃度での機械的処理を「高濃度機械的処理」ともいう。ハンドリング性としては、例えば、高濃度機械的処理を行った後に希釈処理せずに高濃度のまま輸送することができる点や、高濃度機械的処理を経たMFCの分散液の粘度が高くなくポンプでの輸送効率が良好であること、さらには当該分散液の保存容器内への張り付きなどが少ない等の点が挙げられる。さらに、高濃度機械的処理の後に別の処理工程を実施する場合、次工程への前記分散液の輸送効率が良好である点も挙げられる。本発明のMFCの分散液の粘度が上昇しにくい理由は明らかではないが、化学変性パルプを高濃度処理すると、繊維の短繊維化が進みやすく、粘度が低下しやすい傾向にあるためであると推察される。MFCの分散液の粘度は、固形分濃度1%、25℃の条件下でアニオン性基末端がNa原子である(Na型)(分散液のpHが6以上)ときのB型粘度で評価することができる。
【0032】
前記固形分濃度は15重量%以上であるが、好ましくは18重量%、さらに好ましくは20重量%以上である。固形分濃度が過度に高いと機械的処理の効率が低下するので、固形分濃度の上限は60重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましい。固形分濃度は機械的処理中に変動しうるが、本発明においては機械的処理開始時の固形分濃度を当該処理における固形分濃度という。また、所望の繊維径の微細セルロース繊維が得られるように、処理時間または条件等は適宜調整される。
【0033】
本発明において、機械的処理は複数回実施してもよい。この場合、少なくとも1回を固形分濃度15重量%以上の条件で行えばよい。前述のとおりこの条件での機械的処理を「高濃度機械的処理」ともいい、特に機械的処理が叩解である場合は「高濃度叩解」ともいう。同様に、固形分濃度15重量%未満の条件での機械的処理を「低濃度機械的処理」ともいい、特に機械的処理が叩解である場合は「低濃度叩解」ともいう。したがって、高濃度機械的処理と低濃度機械的処理と組合せて実施してもよい。これらの機械的処理を組み合わせる場合、処理の順番は限定されないが、濃縮のしやすさの観点から高濃度機械的処理を先に行うことが好ましい。例えば化学変性パルプを、高濃度機械的処理した後に、当該処理で得られた化学変性パルプを低濃度機械的処理して、MFCを得ることができる。原料である化学変性パルプの脱水または濃縮が容易であるという観点から、高濃度機械的処理に供される化学変性パルプはアニオン性基末端がHである酸型であることが好ましいが、酸型の状態で脱水または濃縮した後に、乖離型に変換して高濃度機械的処理に供してもよい。低濃度機械的処理に供される化学変性パルプは、アニオン性基末端がHである酸型であってもよいし、当該末端が金属原子(Na等)である乖離型であってもよいが、電荷による反発を利用して機械処理効率を向上させる観点から乖離型であることが好ましい。
【0034】
低濃度叩解に用いる装置としては、例えば高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるもの、あるいはキャビテーションや水流または水圧によってパルプ繊維を分散または解繊するものを使用することができる。
【0035】
本工程において、化学変性パルプからMFCまたはCNFが生成される。前述のとおり、化学変性パルプからCFBを経由してMFCが生成されてもよい。さらに、得られたMFCを機械的処理に供して、CNFとすることもできる。
【0036】
高濃度機械的処理と低濃度機械的処理の組合せ例は限定されないが、以下が挙げられる。この場合、前記2つの処理と後述する酸またはアルカリ処理を組み合わせてもよい。
1)アニオン性基が酸型の状態で高濃度機械的処理した後、希釈して低濃度機械的処理を行う
2)アニオン性基が酸型の状態で濃度機械的処理した後、希釈し、かつアルカリを添加し乖離型(好ましくはNa型)の状態で低濃度機械的処理を行う
3)アニオン性基が酸型の状態で高濃度機械的処理を行うことによりCFBを得た後、希釈し、かつアルカリ添加を行い乖離型(好ましくはNa型)の状態で低濃度機械的処理を行う
4)アニオン性基が酸型の状態で高濃度機械的処理を行う過程でアルカリを添加し乖離型(好ましくはNa型)の状態とし、その後希釈して低濃度機械的処理を行う
【0037】
(3)酸またはアルカリ処理
本発明においては、パルプまたは微細セルローススラリーの高濃度化(脱水)、セルロース繊維の性状変化、処理効率の向上を目的として、工程(2)の前、または工程(2)の任意の段階で、酸またはアルカリ処理を行うことができる。酸またはアルカリ処理は、任意に組み合わされて、複数回実施されてもよい。当該処理に使用する酸またはアルカリは限定されないが、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸等の有機酸を用いることができ、またNaOHやKOH等の任意のアルカリを用いることができる。酸処理は、化学変性パルプと水を含む混合物に酸を加えて当該混合物のpHを6.5以下に調整することを含む。また、アルカリ処理は化学変性パルプと水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上(6.5超)に調整することを含む。酸またはアルカリ処理を実施する装置は機械的処理を行う装置と別であってもよいが、同一装置を用いて両者を同時または連続して実施してもよい。酸またはアルカリに加えて、過酸化水素等の酸化剤、分散剤、浸透剤、疎水化剤など、別種の薬品を加えてもよい。
【0038】
本発明に用いる化学変性パルプが特にアニオン変性パルプの場合、酸処理により、化学変性パルプ中の乖離型アニオン性基が減少して酸型アニオン性基が増加する。すなわち、全アニオン性基に占める酸型アニオン性基が多くなり、化学変性パルプの親水性が低下する。例えばアニオン性基がカルボキシル基である場合、酸処理化学変性パルプの全カルボキシル基に対して、-COOM(Mは金属原子)が減少し-COOHが増加する。水への親和性の程度は、乖離型アニオン性基の割合に依存し、酸型アニオン性基が多くなるほど水への親和性が低下するので化学変性パルプの高濃度化が可能になる。一方で、アルカリ処理を施した場合、アルカリ添加によりアニオン性基の末端が乖離型となり繊維同士の反発が大きくなる。そのため、繊維の静電反発を利用して効率的に叩解や解繊などの機械的処理を進めることができる。そのため、叩解や解繊効率向上を目的としたアルカリ処理は、高濃度機械処理前または高濃度機械的処理中に行うことが好ましい。
【0039】
以下に、アニオン変性がTEMPO酸化またはカルボキシメチル化である場合の、MFC化工程における酸またはアルカリ処理について詳細に説明する。
【0040】
[TEMPO酸化パルプのMFC化]
TEMPO酸化パルプのカルボキシル基は、酸化反応直後は乖離型(Na型)であり保水性が高いため、脱水が困難である。そこで、脱水効率の向上を目的として、酸を添加し酸型にすることが好ましい。酸処理および脱水を行った後に、本発明の高濃度機械的に供することが好ましい。高濃度機械的処理は、少なくとも一度以上処理を行えばよく、処理の程度により製造されるMFCの繊維長、フィブリル化の程度を調整することができる。また、酸処理および脱水を行った後に、連続してアルカリ処理を行うことでカルボキシル基を乖離型とし、乖離型の状態で高濃度機械処理に供してもよい。高濃度機械処理中にアルカリ処理を行ってもよい。
【0041】
[CM化パルプのMFC化]
CM化パルプは、一般的に上述の通りマーセル化の後にエーテル化を行い製造されるため、反応後は強いアルカリ性であり、カルボキシメチル基は乖離型(Na型)である。本発明においては、得られたCM化パルプをさらに酸添加、脱水、乾燥の工程を経て乾燥品としたもの、または乾燥後に粉砕処理したものを、高濃度機械的処理に供することができる。当該乾燥後のCM化パルプのカルボキシメチル基は乖離型(Na型)である。
【0042】
CM化パルプのMFC化は上述のTEMPO酸化パルプのMFC化と同様に実施される。乾燥または乾式粉砕されたCM化パルプはTEMPO酸化パルプと異なり固形分濃度が高い(含水率が低い)ため、そのまま本発明の高濃度機械的処理に供してもよく、水を添加して適宜固形分濃度を調整してから高濃度機械的処理に供してもよい。当該希釈時には、酸を添加してもよく、アルカリを添加してもよいが、酸を添加し酸型とした状態で高濃度機械的処理を行った場合、前述のCFBが形成されることがある。高濃度機械的処理は、少なくとも一度以上処理を行えばよく、処理の程度により製造されるMFCの繊維長、フィブリル化の程度を調整することができる。得られたCFBはMFCで構成されており、TEMPO酸化CFBと同様にアルカリの添加により分散状態のMFCを得ることができる。
【0043】
[CFBのアルカリ処理]
高濃度機械処理を行うことにより、短繊維化やフィブリル化が進んだMFCが形成されるが、前述のとおり、酸性条件(アニオン性基が酸型となる)でかつ処理の程度を強くするとCFBが形成される。CFBにアルカリ処理を施すと、CFBの繊維塊がほどけて分散状態のMFCが得られる。繊維塊がほどける理由は明らかではないが、アルカリ添加によりアニオン性基が乖離型(Na型)となり、繊維同士の反発が強くなることで、繊維塊がほどけると推測される。アルカリ処理は、前記粒子と水を含む混合物にアルカリを加えて、当該混合物のpHを中性以上に調整することを含む。2価のイオンは架橋により繊維の分散を抑制する可能性があるため、この観点から、本処理で使用するアルカリは1価の金属イオンを含むことが好ましい。当該アルカリとしては、KOH、NaOH等が挙げられる。
【0044】
したがって、一態様において、工程(2)は、化学変性パルプからCFBを形成し、当該CFBをアルカリ処理してMFCを調製する工程を含む。また別態様において、工程(2)は、このようにして得られたMFCを機械的処理してCNFを調製する工程を含む。
【0045】
CFBが崩壊して得られたMFCの分散液におけるMFCの繊維長分布は、0.6mm以下の繊維の割合が15%以上であることが好ましい。当該割合が15%未満であると叩解による繊維の微細化が不十分であり、MFCとしての機能を十分に発揮しないからである。前記割合の上限は限定されず100%以下であることが好ましい。CFBを直接分析して繊維長分布を測定することはできないので、このようにして測定された繊維長分布を、CFBを構成している微細セルロース繊維の繊維長分布とみなしてよい。
【0046】
CFB懸濁液のpHが酸性(好ましくはpH4.5)であるときの電荷密度の大きさをa(meq./g)、中性~アルカリ性(好ましくはpH7.5)であるときの電荷密度の大きさをb(meq./g)としたとき、b-aは0.1(meq./g)以上であることが好ましい。当該差がこの範囲であると、化学変性セルロースのアニオン性基のうち乖離型の割合が十分に高くアニオン性基の末端が乖離してセルロース同士が電気的に反発するため、CFBが崩壊しやすい。b-aの上限は限定されないが1(meq./g)以下であることが好ましい。電荷密度とは所定量のセルロース繊維当たりの電荷の密度であり、例えば粒子表面電荷量測定装置(MUTEK製、Particle Chargedetector, PCD03)を用いてカチオン要求量を測定し、アニオン電荷密度を算出することで測定される。
【0047】
3.用途
本発明によって得られた微細セルロース繊維は、化学変性パルプを原料としており、繊維表面に官能基が配されているため、官能基由来の様々な機能性を有する。このため本発明の微細セルロース繊維は種々の用途に使用できる。本発明の微細セルロース繊維は、一般的に添加剤が用いられる様々な分野において、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水材、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤、混和剤等として使用することができる。当該分野としては、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物等が挙げられる。
【0048】
4.紙の製造方法
本発明の紙の製造方法は、微細セルロースを準備する工程、パルプと当該微細セルロースを含むスラリーを調製する工程、および当該スラリーを抄紙する工程を備える。微細セルロースは前述のとおりに調製される。
【0049】
[スラリー調製工程]
本工程では、パルプと前記微細セルロースを含むスラリーを調製する。パルプとしては、前述の「原料パルプ」と同じものを使用できる。例えば、本工程は、予め調製されたパルプスラリーと前工程で得た微細セルロースと水の混合物を混合することによって実施できる。混合は、公知のとおりに行うことができる。例えば、公知のミキサー等を用いて両者を混合してスラリーを調製できる。微細セルロースを調製する際に得た微細セルロースと水の混合物をそのまま本工程に用いることもできるが、パルプに対する微細セルロースの分散性を良好にする観点から、当該混合物中の微細セルロース濃度は調整されることが好ましい。当該濃度は好ましくは60重量%以下であり、分散性の観点からより好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下である。また、分散性を向上させる観点から、微細セルロースは乾燥されることなく本工程に供されることが好ましい。
【0050】
パルプと微細セルロースを含むスラリーにおける微細セルロース濃度は、パルプと微細セルロースを合わせた固形分に対して、0.01~20重量%であることが好ましい。上限がこの値を超えると、微細セルロースの分散が不十分になり、分散体中に未分散物が発生したり、分散体の粘度が高くなりすぎたりして取扱い性が低下する可能性がある。この観点から、前記の微細セルロース濃度の上限はより好ましくは10重量%以下であり、下限は好ましくは0.1重量%以上である。スラリーのB型粘度(1%、25℃、60rpm)は、通常の製紙工程で使用される配管やポンプで移送できる範囲であればよく、流動性やスラリー中での微細セルロースの分散性の観点から600mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下がより好ましい。当該スラリーには、通常、製紙に使用される填料や添加剤を添加することができる。また、本発明のMFCはパルプスラリーの保水性(水持ち)を上昇させるため、添加量を多くするほど保水度が高くなる傾向があり、一方で濾水度(カナダ標準式濾水度など)は低下する傾向がある。
【0051】
[抄紙工程]
本工程では前記スラリーを抄紙して紙を得る。抄紙は公知のとおりに実施でき、例えば、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の抄紙機を用いて実施できる。また手抄きによって抄紙してもよい。
【0052】
[他の工程]
本発明の製造方法は、原紙の上に顔料塗工層または顔料を含有しないクリア塗工層を設ける塗工工程を備えていてもよい。さらに本発明の製造方法は、紙を表面処理する工程を備えていてもよい。これらの方法は、公知のとおりに実施できる。
【0053】
[微細セルロースを含有する紙]
本発明で得られた微細セルロースを含有する紙は、優れた強度および透気抵抗度を有する。特許文献7には酸化パルプを含有する紙が開示されている。当該酸化パルプは製紙に用いるスラリー中での分散性が十分ではなく、紙の補強効果および透気抵抗も十分なレベルではない。また特許文献8は未変性パルプを無機粒子と共に機械的に処理して得たMFCを含有する紙を開示する。しかし、当該MFCもスラリー中での分散性が十分ではなく紙の透気抵抗度も十分なレベルではない。さらに当該無機粒子と共処理したMFCを添加した紙には、必然的に一定量の無機粒子が含有されてしまうため、灰分のコントロールが難しいという問題もある。一方、化学変性したセルロースは、導入された官能基の静電的な反発により、未処理のセルロースと比較して効率的にセルロース繊維同士をほぐすことができる。そのため、化学変性セルロースを叩解すると、化学変性しないセルロースを叩解する場合に比べてフィブリル化や短繊維化が進んだMFCが得られる。特に本発明で得られたMFCは短繊維化がより進んでいるので、当該MFCはスラリーに添加した際に分散性が良好であり、かつ当該スラリーから得た紙は優れた機械的強度を備え、さらに高い透気抵抗度を有する。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
<化学変性パルプ1の調製(TEMPO酸化)>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)に、TEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を加えてガラスフィルターで濾過してパルプを分離し、パルプを十分に水洗して化学変性パルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、pHは5、カルボキシル基量は1.59mmol/gであった。
【0055】
<叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物を脱水してパルプ固形分濃度を25重量%とし、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)を用いて叩解処理を7回行い、CFBを得た。14インチラボリファイナーでの高濃度機械処理は、原料を装置に投入して機械的処理を行ったものを回収し、その後複数回機械的処理に供するバッチ処理であるため、処理回数で処理の程度を調整した。
【0056】
<中性~アルカリへのpH調整>
得られたCFBにイオン交換水を加えてCFB固形分濃度が2重量%の混合物とし、これを酸性にして、次いで当該混合物のpHを7.5にしたところ、MFCが水中に分散した分散液が得られた。後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが4.9mmol/gとなるように添加した以外は、実施例1と同じ方法で、COOH基量が1.42mmol/gである化学変性パルプ2を得た。得られた化学変性パルプと水の混合物を脱水してパルプ固形分濃度を30重量%とし、かつ処理回数を2回としたこと以外は実施例1と同様にしてMFCの分散液を得た。ただし、本例ではCFBは形成されなかった。
【0058】
[実施例3]
処理回数を3回とした以外は実施例1と同様にしてMFCの分散液を得た。ただし、本例ではCFBは形成されなかった。
【0059】
[実施例4]
化学変性パルプ2と水の混合物を、パルプ固形分濃度が30重量%となるように脱水した。当該混合物を14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)での処理に供し、処理回数を2回として叩解処理を行った。処理後の混合物にNaOHとH2O2を添加してCOOH基を塩型とし、かつパルプ固形分濃度を4重量%とした。当該混合物をトップファイナー(相川鉄工株式会社製)に供して20分処理した。当該処理後の混合物に対してpH調整は行わずイオン交換水による希釈のみを行い、MFCの分散液を得た。
【0060】
[実施例5]
<化学変性パルプ4の調製(カルボキシメチル化)>
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130重量部と、水酸化ナトリウム20重量部を水100重量部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙株式会社)製、LBKP)を乾燥重量(100℃で60分間乾燥後)で100重量部仕込んだ。30℃で90分間撹拌して、混合しマーセル化されたセルロース原料を調製した。さらに内容物を撹拌しながらイソプロパノール(IPA)100重量部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60重量部を添加して30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、30重量%であった。反応終了後、内容物に酢酸を加えてpH7程度になるように中和した、脱液、乾燥を行いカルボキシメチル置換度0.21、セルロースI型の結晶化度72%のカルボキシメチル化パルプを得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、29%であった。カルボキシメチル置換度の測定方法は上述のとおりであり、セルロースI型の結晶化度およびカルボキシメチル化剤の有効利用率は公知の方法で求めた。
【0061】
<叩解>
得られたカルボキシメチル化パルプと水の混合物に塩酸を添加してpHを5に調整し、脱水後のパルプの固形分濃度を30重量%とした以外は、実施例3と同様に叩解処理を行いMFCの分散液を得た。本例においてCFBは形成されなかった。
【0062】
[実施例6]
カルボキシメチル化パルプと水の混合物を、塩酸を添加せずに叩解処理に供したこと、叩解処理後にpH調整は行わずイオン交換水による希釈のみを行ったこと以外は実施例5と同様にしてMFC分散液を得た。
【0063】
[比較例1]
未変性のNBKPを用い、叩解条件を表1に示すように変更して、実施例1と同様にしてMFCの分散液を得た。
【0064】
[比較例2]
化学変性パルプ1を用い、叩解条件を表1に示すように変更して、実施例1と同様にしてMFCの分散液を得た。14インチラボリファイナーでの低濃度機械的処理は、タンクとリファイナーをパイプで接続して循環処理としたため、処理時間で処理の程度を調整した。
【0065】
[比較例3]
塩酸を添加せずに叩解処理を行ったこと、14インチラボリファイナーによる叩解処理を5分間行ったこと、叩解処理後にpH調整は行わずイオン交換水による希釈のみを行ったこと以外は、比較例2と同様にしてMFCの分散液を得た。
【0066】
以下のようにして物性および特性を評価した。
1)平均繊維長および平均繊維径
叩解後の混合物にイオン交換水を加えて0.25重量%スラリーを調製し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定した。
2)フィブリル化率
叩解後の混合物にイオン交換水を加えて0.25重量%スラリーを調製し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定した。
3)電荷密度
粒子表面電荷量測定装置(MUTEK製、Particle Charge Detector PCD03)および自動滴定装置([Model Titrino702]Mutek社製)を用い、以下のようにして電荷密度を測定した。
i)試料とイオン交換水を混合し、試料濃度0.01重量%の液を調製した。
ii)10mLの当該液をカチオン性高分子電解質(Polydimethyl diallyl ammonium chloride、1/1000N)溶液で滴定し、電荷ゼロ点までの消費量を測定した。
iii)下式に従って電荷密度の大きさ(カチオン要求量)を求めた。
電荷密度の大きさ(μeq/g)=(V×c×1000)/m
V:滴定液消費量(mL)、c:滴定液濃度(mol/L=eq/L)、m:サンプル量(g)
4)ハンドリング性
叩解後に希釈して得たMFC分散液について、以下の項目をそれぞれ評価した。
(項目)
i)高濃度であり、運搬効率が良好であるかどうか。
ii)粘度が低く運搬容器等への張り付きが少ないかどうか。
(基準)
a:良好
b:やや劣る
c:劣る
5)B型粘度
MFC濃度が1重量%である水分散液を調製し、pHを6以上にし、25℃、60rpmにて測定した。
【0067】
【0068】
[実施例A1]
<化学変性パルプ1の調製(TEMPO酸化)>
実施例1と同じ方法で化学変性パルプ1を得た。
【0069】
<叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物を脱水してパルプ固形分濃度を25重量%とし、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))にて叩解処理を3回行い、MFCと水の混合物を得た。
【0070】
<紙の製造>
脱墨古紙パルプ(日本製紙株式会社製)に、硫酸バンド、カチオン化澱粉、前記工程で得たMFC、PAM、歩留剤をこの順で添加し、さらに水を加えてパルプスラリーを調製した。MFCとして、前記工程で得た混合物をそのままパルプに添加した。配合量は以下のとおりとした。
脱墨古紙パルプ:96重量部
MFC:4重量部
硫酸バンド:脱墨古紙パルプとMFCの合計(パルプ系原料)に対して0.9重量%
カチオン化澱粉:パルプ系原料に対して0.3重量%
PAM:パルプ系原料に対して0.06重量%
歩留剤:パルプ系原料に対して200ppm
【0071】
得られた抄紙用スラリーを用いて手抄きシートを製造して評価した。
【0072】
[比較例A1]
MFCを用いなかった以外は、実施例A1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0073】
[比較例A2]
叩解時のパルプ固形分濃度を4重量%とし、叩解処理時間を3分としてMFCを調製した以外は、実施例A1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0074】
[比較例A3]
化学変性パルプ1の代わりにNBKPを使用し、叩解時のパルプ固形分濃度を4重量%、処理時間を9分としてMFCを調製した以外は、実施例A1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例B1]
<化学変性パルプ5の調製(TEMPO酸化)>
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが4.7mmol/gとなるように添加した以外は、実施例1と同じ方法で化学変性パルプ5を得た。カルボキシル基量は1.37mmol/gであった。
【0076】
<叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物を脱水してパルプ固形分濃度を28重量%とし、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))を用いて叩解処理を5回行い、CFBが水に分散した混合物を得た。当該混合物にNaOH水溶液を加えて、混合物のpHを8に調整したところMFCが水に分散した混合物が得られた。
【0077】
<紙の製造>
パルプ(未脱墨パルプ、日本製紙株式会社製)に対し、実施例A1と同様の条件でMFC以外の各成分および水を加えてパルプスラリーを調製した。このスラリーと前記pH調整後のMFCが水に分散した混合物とを混合して抄紙用スラリーを調製した。得られた抄紙用スラリーを用いて手抄きシートを製造して評価した。
【0078】
[実施例B2]
実施例B1におけるパルプ固形分28重量%での14インチラボリファイナーでの処理を、パルプ固形分30重量%での四軸ニーダー(相川鉄工株式会社製)での処理に変更し、処理時間を10分とした以外は、実施例B1と同様にしてMFCと水の混合物を得た。当該MFCを用い、実施例B1と同様にして手すきシートを製造して評価した。
【0079】
[実施例B3]
実施例B2における四軸ニーダーでの処理の途中にアルカリを添加し、当該処理された混合物に対してpH調整を行わずにイオン交換水を加えたところ、CFBを経由せずにMFCが水に分散した混合物が得られた。当該MFCを用い、実施例B1と同様にして手すきシートを製造して評価した。
【0080】
[実施例B4]
実施例B3における四軸ニーダーで処理して得た処理物を、パルプ固形分濃度が4重量%となるように希釈した後、14インチラボリファイナーでの処理を10分行い、CFBを経由せずにMFCが水に分散した混合物を得た。当該MFCを用い、実施例B1と同様にして手すきシートを製造して評価した。
【0081】
[実施例B5]
実施例B1における固形分濃度28重量%での14インチラボリファイナーでの叩解処理を3回に変更し、当該処理物をパルプ固形分濃度が4重量%となるように希釈した後、トップファイナーでの処理を10分行った以外は、実施例B1と同様にしてMFCが水に分散した混合物を得た。当該MFCを用い、実施例B1と同様にして手すきシートを製造して評価した。
【0082】
[比較例B1]
MFCを用いなかった以外は、実施例B1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。これらの結果を表3に示す。
【0083】
[実施例C1]
<化学変性パルプ4の調製(カルボキシメチル化)>
実施例5と同じ方法で化学変性パルプ4(カルボキシメチル置換度0.21)を得た。
【0084】
<叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物を脱水してパルプ固形分濃度を28重量%とし、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))にて叩解処理を7回行い、MFCと水の混合物を得た。
【0085】
<紙の製造>
前記工程で得たMFCと水の混合物を使用し、実施例A1と同じ方法で手抄きシートを製造して評価した。
【0086】
[実施例C2]
実施例C1における14インチラボリファイナーでの処理を3回とし、当該処理後の混合物にイオン交換水を加えてパルプ固形分濃度を4重量%とし、これを14インチラボリファイナーにて10分間処理してMFCが水に分散した混合物を得た。当該混合物を使用し、実施例C1と同じ方法で手すきシートを製造して評価した。
【0087】
[実施例C3]
実施例C2における固形分濃度4重量%での14インチラボリファイナーでの処理を、固形分濃度4%でのトップファイナー処理に変更した以外は、実施例C2と同様にして手すきシートを製造して評価した。
【0088】
[比較例C1]
MFCを用いなかった以外は、実施例C1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。これらの結果を表4に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
[評価方法]
坪量:JIS P 8124:2011に従った。
平均繊維長および平均繊維径:叩解後の分散液にイオン交換水を加えて0.25重量%スラリーを調製し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定した。
紙厚および密度:JIS P 8118:2014に従った。
灰分:JIS P 8251:2003に従った。
透気抵抗度:JIS P8117:2009に従い、王研式平滑度透気試験機により測定した。
裂断長:JIS P 8113:1998に従った。
【0093】
本発明の製造方法で得た紙は、優れた透気抵抗度と裂断長を有する。アルカリ処理したMFCを用いた実施例B、およびCM化MFCを用いた実施例Cの紙は、特に優れた透気抵抗度と断裂長を有する。