(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】化学的に定義されたバキュロウイルス発現系および細胞培養培地
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20231204BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231204BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N5/10
C12N5/00
(21)【出願番号】P 2020555879
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 US2019027108
(87)【国際公開番号】W WO2019200184
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502221282
【氏名又は名称】ライフ テクノロジーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ヨフチェヴァ マヤ
(72)【発明者】
【氏名】ズムダ ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ サラ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ チャング
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン ケネス
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/110440(WO,A1)
【文献】Jun Mitsuhashi,Preliminary formulation of a chemically defined medium for insect cell cultures.,Methods in Cell Science,1996年12月,Vol.18,p.293-298
【文献】Ying Peng et al.,The histone deacetylase inhibitor sodium butyrate inhibits baculovirus-mediated transgene expression in Sf9 cells.,J. Biotechnol.,2007年08月31日,Vol.131, No.2,p.180-187,doi: 10.1016/j.biotec.2007.06.009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
酵母加水分解物を含まない、化学的に定義され
た培地、
(b)複数のSf9細胞、及び
(c)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害
剤
を含
み、
前記Sf9細胞が、前記酵母加水分解物を含まない、化学的に定義された培地中で培養される、バキュロウイルス発現系。
【請求項2】
(d)トランスフェクション試薬をさらに含む、請求項1に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項3】
前記トランスフェクション試薬が、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬である、請求項2に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項4】
前記HDAC阻害剤が、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される、請求項1に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項5】
前記培地が、昆虫細胞培地である、請求項1~4のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項6】
前記複数のSf9細胞が、前記培地中の浮遊培養で成長することが可能である、請求項1~5のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項7】
前記複数のSf9細胞が、前記培地中で高密度成長が可能である、請求項1~6のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項8】
バキュロウイルスベクターをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項9】
前記培地が、タンパク質を含まない、及び/又は、前記培地が、動物由来の成分を含まない、
請求項1~8のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
【請求項10】
バキュロウイルスからの標的タンパク質産生の方法であって、
(a)
酵母加水分解物を含まない、化学的に定義され
た培地で昆虫細胞を培養するステップ、
(b)前記昆虫細胞を、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害
剤と接触させるステップ、
(c)前記昆虫細胞に標的タンパク質を発現するバキュロウイルスを感染させるステップ、を含む、方法。
【請求項11】
前記
HDAC阻害剤が、感染の少なくとも10時間前に添加される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記HDAC阻害剤が、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記昆虫細胞が、Sf9細胞である、請求項
10~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記感染ステップが、前記昆虫細胞が1ミリリットルあたり3×10
6細胞(細胞/mL)~1×10
7細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記感染ステップが、前記昆虫細胞が80%以上生存しているときに実施される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記昆虫細胞を感染させるために使用される前記バキュロウイルスが、1~10の感染多重度(MOI)を有する、請求項
10~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(d)感染した細胞を一定期間培養して、前記標的タンパク質を産生するステップをさらに含む、請求項
10~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(e)前記標的タンパク質を採取するステップをさらに含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)~(e)には、5日~15日を要する、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記標的タンパク質が、感染
後24時間
~120時間で採取される、請求項
18または
19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月12日に出願された米国仮特許出願第62/656,868号の優先権を主張し、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
細胞培養培地は、制御された人工のインビトロ環境で細胞を維持および成長させるために必要な栄養素を提供する。細胞培養培地の特性および製剤は、特定の細胞要件に応じて異なる。重要なパラメータには、浸透圧、pH、および栄養素組成が含まれる。
【0003】
細胞培養培地製剤は、文献に十分に文書化されており、多数の培地が市販されている。細胞培養培地の典型的な構成要素には、アミノ酸、有機および無機塩、ビタミン、微量金属、糖、脂質、および核酸が含まれ、それらの種類および量は、所与の種、細胞、または組織の種類の特定の要件に応じて異なる場合がある。
【0004】
培地製剤は、動物、植物、および細菌細胞を含む多くの細胞型を増殖するために使用されてきた。培養細胞は、生理学的プロセスの研究および有用な生物学的物質の産生を含む、多くの用途を有する。そのような有用な産物の例には、モノクローナル抗体、ホルモン、成長因子、酵素などが挙げられる。そのような産物は、多くの商業的および治療的用途を有し、組換えDNA技術の出現により、細胞を操作してこれらの産物を大量に産生することができる。培養細胞は、ベクターおよび/またはワクチンとして使用できるウイルスの単離、同定、および成長にも日常的に使用されている。したがって、インビトロで細胞を増殖する能力は、細胞生理学の研究にとって重要であるだけでなく、費用効果の高い手段では得られないであろう有用な物質の産生にとっても必要である。
【0005】
組換えタンパク質の産生には、昆虫細胞培養が一般的に使用される。原核細胞とは異なり、昆虫細胞は、基礎研究および大規模産生の両方で、複雑な翻訳後修飾を伴う大量のタンパク質を発現することができる。昆虫細胞はまた、多量体タンパク質、ウイルス様粒子、および哺乳類細胞に毒性のあるタンパク質の発現に好適な宿主でもある。CERVARIX(商標)、PROVENGE(商標)、GLYBERA(商標)、FLUBLOK(商標)を含む、いくつかのFDAが承認したワクチンおよび治療法は、昆虫細胞におけるバキュロウイルスの発現を使用する。特に、Sf9細胞は、組換えバキュロウイルスストックを単離および増殖し、組換えタンパク質を産生するために一般的に使用される。元のSf9細胞は、ツマジロクサヨトウSpodoptera frugiperdaの蛹の卵巣組織に由来する親IPLBSF-21(Sf21)細胞株からクローン化された。
【0006】
典型的に、細胞培養培地製剤は、ウシ胎児血清(FBS)(5~20% v/v)または動物の胚、臓器、もしくは腺からの抽出物(0.5~10% v/v)などの未定義の成分を含む、様々な添加物で補足される。昆虫細胞培地は、yeastolateとも呼ばれる酵母溶解物で補足されることが多い。Yeastolateは、Saccharomyces cervisiaeを含む、ビール酵母またはパン酵母などの酵母細胞の自己消化後に得られる酵母エキスである。Yeastolateは、複雑な混合物であり、細胞成長の促進に関与する成分は決定されていない。
【0007】
そのような化学的に定義されていない補足物質は、細胞培養培地でいくつかの有用な機能を果たす。例えば、これらの補足物質は、不安定な栄養素または水不溶性栄養素の担体またはキレート剤を提供し、有毒な部分に結合して中和し、ホルモンと成長因子、プロテアーゼ阻害剤、および必須の、しばしば未確認または未定義の低分子量栄養素を提供し、細胞を物理的なストレスおよび損傷から保護する。したがって、血清、臓器/腺抽出物、または酵母抽出物は、細胞の増殖に最適な培養培地を提供するための比較的低コストの補足物質として一般的に使用される。
【0008】
残念ながら、組織培養用途での血清、臓器/腺抽出物、または酵母抽出物の使用には、いくつかの欠点がある。例えば、これらの補足物質および血清の化学組成は、単一のメーカーであっても、ロット間で異なる。補足物質はまた、培養細胞の健康と最終産物の品質を著しく損なう可能性のある感染性病原体(例えば、マイコプラズマおよびウイルス)で汚染されている可能性もある。これらの血清または抽出物からの未定義の成分の使用はまた、培養細胞の栄養およびホルモン要件の真の定義および解明を妨げる。最後に、そして最も重要なことは、生物学的物質の工業産生に細胞培養培地を用いる人々にとって、血清、臓器/腺抽出物、または培養培地の酵母抽出物の補足は、血清または抽出物タンパク質の非特異的同時精製に起因して、培養培地からの所望の物質の精製を複雑にし、そのコストを増加させる可能性がある。
【0009】
化学的に定義された酵母溶解物を含まない無血清かつ動物産物を含まない昆虫細胞培地、ならびに増殖した昆虫細胞におけるバキュロウイルスおよび/またはタンパク質の産生を改善するための系および方法に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、とりわけ、バキュロウイルス発現系、その様々な構成要素、ならびにバキュロウイルスまたはタンパク質を産生するための発現系および/またはその構成要素の使用に関する。いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地と、
(b)複数のSf9細胞と、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、タンパク質発現エンハンサーをさらに含む。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、トリコスタチンA、またはバルプロ酸である。
【0012】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現は、トランスフェクション試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、トランスフェクション試薬は、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬である。
【0013】
いくつかの実施形態では、培地は、昆虫細胞培地である。
【0014】
いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、培地中の浮遊培養において成長することが可能である。
【0015】
いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、培地中で高密度成長が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、1ミリリットルあたり約2×106~約2×108細胞(細胞/mL)のピーク細胞密度が可能である。
【0016】
いくつかの実施形態では、培地は、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、培地は、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択されるビタミンを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、バキュロウイルスベクターをさらに含む。
【0019】
本開示は、部分的に、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩と、ビタミンとを含む、昆虫細胞培養のための培地に関する。いくつかの実施形態では、無機塩の量は、昆虫細胞の成長を支持するのに十分である。いくつかの実施形態では、培地は、化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地である。いくつかの実施形態では、培地は、タンパク質を含まない。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含まない。いくつかの実施形態では、培地は、動物に由来する成分を含まない。
【0020】
いくつかの実施形態では、ビタミンは、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態では、ビタミンの量は、昆虫細胞の成長を支持するのに十分である。
【0021】
いくつかの実施形態では、培地は、昆虫細胞の成長を支持するのに十分な量の糖をさらに含む。いくつかの実施形態では、糖は、マルトース、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、マンノース、ラクトース、ガラクトース、デキストロース、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞を成長させる方法は、本明細書に記載されるような培地中で昆虫細胞を培養することを含む。
【0023】
本開示は、部分的に、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)細胞をバクミドでトランスフェクトすることと、
(c)昆虫細胞培養からウイルスを採取することと、を含む、バキュロウイルス産生の方法に関する。
【0024】
いくつかの実施形態では、細胞は、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトされる。
【0025】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、Sf9細胞である。
【0026】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。
【0027】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションステップは、昆虫細胞が1ミリリットルあたり1×106細胞(細胞/mL)~2×107細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される。いくつかの実施形態では、トランスフェクションステップは、昆虫細胞が90%以上生存しているときに実施される。
【0028】
いくつかの実施形態では、培地は、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、培地は、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択されるビタミンを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、培地は、トランスフェクションステップ後に新鮮な培地で変更、補充(replenish)、置換、または補足(supplement)されない。
【0031】
いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、1ミリリットルあたり少なくとも5×107感染性ウイルス粒子(IVP/mL)の力価を有する。いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、少なくとも1×108IVP/mLの力価を有する。いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、5×107IVP/mL~1×1010IVP/mLの力価を有する。
【0032】
本開示は、部分的に、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)昆虫細胞にタンパク質を発現するバキュロウイルスを感染させることと、を含む、バキュロウイルスからのタンパク質産生の方法に関する。
【0033】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ステップ(b)の前に培地に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の少なくとも10時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の12時間~36時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の18時間~24時間前に添加される。
【0034】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、リコスタチンA、またはバルプロ酸である。
【0035】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、Sf9細胞である。
【0036】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、培地中で高密度成長が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、1ミリリットルあたり約2×106~約2×108細胞(細胞/mL)のピーク細胞密度が可能である。
【0037】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、付着培養されている。
【0038】
いくつかの実施形態では、感染ステップは、昆虫細胞が1ミリリットルあたり3×106細胞(細胞/mL)~1×107細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される。いくつかの実施形態では、感染ステップは、昆虫細胞が80%以上生存しているときに実施される。
【0039】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、1~10の感染多重度(MOI)を有する。いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、3~7のMOIを有する。いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、約5のMOIを有する。
【0040】
いくつかの実施形態では、この方法は、(c)感染細胞を一定期間培養してタンパク質を産生することをさらに含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、この方法は、(d)タンパク質を採取することをさらに含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)~(d)には、5日~15日を要する。いくつかの実施形態では、タンパク質は、感染後約24時間~約120時間で採取される。
【0043】
いくつかの実施形態では、培地は、タンパク質産生中に新鮮な培地で置換、補充、または補足されない。
【0044】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、付着培養されている。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。
【0045】
本明細書に記載される態様および実施形態の各々は、実施形態または態様の文脈から明白にまたは明確に除外されない限り、一緒に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1A】化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地(太線)または酵母溶解物を含有する昆虫細胞培地(yeastolate、細線)中で成長させたSf9細胞の生細胞密度(VCD、実線)および生存率(破線)を示す折れ線グラフである。
【
図1B】付着培養または浮遊培養として化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地中で成長させたSf9細胞から単離されたバキュロウイルスの量を示す棒グラフである。
【
図2A】タンパク質エンハンサーを含まないか((-)エンハンサー)、またはタンパク質発現バキュロウイルス感染の16、20、24、または28時間前にタンパク質エンハンサーを添加した、化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞からのタンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図2B】タンパク質エンハンサーを添加した場合と添加しない場合の、酵母溶解物を含有する昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞のタンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図3A】示されたサイズのフラスコ内で化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞からのタンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図3B】示されたサイズのフラスコ内で成長させた非感染細胞の生細胞密度(VCD、実線)および生存率(破線)を示す折れ線グラフである。
【
図3C】125mLフラスコまたは24ディープウェルプレートで化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞からのタンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図3D】指示されたサイズの容器内で成長させた非感染細胞の生細胞密度(VCD、実線)および生存率(破線)を示す折れ線グラフである。
【
図4A】酵母溶解物を含有する昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞(「従来のプロトコル」、太線)と比較して、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞(「強化プロトコル」、細線)の生細胞密度(VCD、実線)および生存率(破線)を示す折れ線グラフである。
【
図4B】
図4Aの細胞の感染後1、2、3、および4日のタンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図5A】示されるように、酵母溶解物を含有する4つの異なる昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞と比較して、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞(「強化プロトコル」、実線)の生細胞密度(VCD)を示す折れ線グラフである。
【
図5B-5D】
図5Aの酵母溶解物を含有する4つの異なる昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞と比較して、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞(「強化プロトコル」)から採取したタンパク質の力価を示す棒グラフである。
【
図6A】酵母溶解物を含有するSf900-II昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞と比較して、GUS発現バキュロウイルスに感染し、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞(「強化プロトコル」)からのβ-グルクロニダーゼ(GUS)活性を示す棒グラフである。
【
図6B】酵母溶解物を含有するSf900-II昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞と比較して、SEAP発現バキュロウイルスに感染し、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞(「強化プロトコル」)からの分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)活性を示す棒グラフである。
【
図6C】
図6Bに記載されている細胞からのSEAPのポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真である。
【
図6D】酵母溶解物を含有するSf900-II昆虫細胞培地で成長させたバキュロウイルス感染Sf9細胞と比較して、TNF-α発現バキュロウイルスに感染し、本明細書に記載される化学的に定義された酵母溶解物を含まない昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞(「強化プロトコル」)からの腫瘍壊死因子-α(TNF-α)タンパク質力価を示す棒グラフである。
【
図6E】核因子κB(NFκB)ルシフェラーゼアッセイで測定されたTNF-αタンパク質の活性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
I.定義
本明細書で使用される「a」または「an」という用語は、1つ以上を意味する。
【0048】
本明細書で使用される「細胞」という用語は、あらゆる種類の真核生物および原核生物細胞を指し、それらを含む。いくつかの実施形態では、この用語は、真核細胞、特に昆虫細胞を指す。ある特定の例示的であるが非限定的な実施形態では、「細胞」という用語は、例えば、Sf9細胞、またはその変異体などのSpodoptera frugiperda細胞を指すことを意味する。Sf9細胞の変異体には、例えば限定されないが、酵母溶解物(yeastolate)を含まない培地で成長できるSf9細胞、および/または浮遊培養で成長、増殖、およびトランスフェクトできるSf9細胞が含まれる。Sf9細胞の変異体は、例えば限定されないが、高密度(例えば、約2×106細胞/mL以上、約5×106細胞/mL以上、2×107細胞/mL以上、またはそれ以上)で培養することができるSf9細胞を含む。
【0049】
細胞を培養し、トランスフェクションおよびウイルス産生ワークフローを実行する状況で使用される場合、「高密度成長が可能」という句は、一般に、高効率でトランスフェクトされる能力を維持しながら、適切な細胞培養培地中で約1×106細胞/mL以上、約2×106細胞/mL以上、約3×106細胞/mL以上、またはさらに必要に応じて約4×106細胞/mL以上、または約2×107細胞/mL以上のピーク細胞密度まで成長または培養することができる、既知の細胞株、または既知の細胞株の変異体を指す。いくつかの実施形態では、そのような細胞はまた、高レベル(例えば、200μg/mL以上から最大約1mg/mL以上のレベル)で標的タンパク質を発現することができる。
【0050】
「接触する」は、その単純な通常の意味に従って使用され、少なくとも2つの異なる種(例えば、生体分子または細胞を含む化学化合物)が、反応、相互作用、または物理的に触れるのに十分に近くなるプロセスを指す。しかしながら、得られる反応産物は、添加試薬間の反応から直接、または反応混合物中で産生され得る、添加試薬のうちの1つ以上に由来する中間体から産生され得ることを理解されたい。
【0051】
「接触する」という用語は、2つの種が反応、相互作用、または物理的に接触するのを可能にすることを含み得、ここで、2つの種は、本明細書に記載される化合物およびタンパク質または酵素であり得る。いくつかの実施形態では、接触することは、本明細書に記載される化合物が、シグナル伝達経路に関与するタンパク質または酵素と相互作用するのを可能にすることを含む。
【0052】
「発現」という用語は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、および分泌を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの産生に関与する任意のステップを含む。発現は、タンパク質を検出するための従来の技法(例えば、ELISA、ウエスタンブロッティング、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、免疫組織化学など)を使用して検出することができる。
【0053】
「酵母溶解物」または「yeastolate」という用語は、アミノ酸、ペプチド、多糖類、ビタミン、およびミネラルの(通常は定義されていない)混合物を含有する酵母(例えば、パン酵母またはビール酵母)の水性抽出物を指す。例えば、Shen et al.,Cytotechnology.2007 May;54(1):25-34(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。Yeastolateは、限外濾過されていても、限外濾過されていなくてもよい。
【0054】
本明細書で使用される「酵母溶解物を含まない」または「yeastolateを含まない」という用語は、酵母溶解物を含まないかまたは実質的に含まない培地、特に昆虫細胞培地を指す。好ましくは、培地は、酵母溶解物を完全に含まない。本明細書で使用される「酵母溶解物を実質的に含まない」とは、約1重量%未満の酵母溶解物を含有する、微量の酵母溶解物のみを含有する、または検出できない量の酵母溶解物を含有する培地を指す。
【0055】
本明細書で使用される「血清を含まない」という用語は、血清を含まないか、または実質的に血清を含まない培地を指す。本明細書で使用される「実質的に血清を含まない」とは、約1重量%未満の血清を含有する、微量の血清のみを含有する、または検出できない量の血清を含有する培地を指す。
【0056】
本明細書で使用される「化学的に定義された培地」という用語は、細胞、特に真核細胞のインビトロ培養に好適な培地を指し、ここで、すべての化学成分およびそれらの濃度が知られている。
【0057】
「タンパク質を含まない」培養培地という句は、タンパク質を含有しない(例えば、血清アルブミンもしくは接着因子などの血清タンパク質、成長因子などの栄養素タンパク質、またはトランスフェリン、セルロプラスミンなどの金属イオンキャリアタンパク質などのない)培養培地を指す。好ましくは、ペプチドが存在する場合、ペプチドは小さいペプチド、例えば、ジまたはトリペプチドである。好ましくは、デカペプチド長またはそれ以上のペプチドは、無タンパク質培地中に存在するアミノ酸の約1%未満、より好ましくは約0.1%未満、さらにより好ましくは約0.01%未満である。
【0058】
本明細書に使用される「動物由来」材料という用語は、すべてまたは一部が、組換え動物DNAまたは組換え動物タンパク質DNAを含む、動物源に由来する材料を指す。
【0059】
「発現エンハンサー」という用語は、一般的に、ここに記載される実施形態による培養培地製剤を補足するために使用される1つ以上の液体(好ましくは水性)添加物を指し、該添加物は、ここに記載される実施形態による一過性タンパク質発現系において産生される発現されたタンパク質の収量を改善するように選択される。本用語は、細胞周期の進行に影響を及ぼし、アポトーシスを阻害し、細胞成長を遅らせ、かつ/またはタンパク質産生を促進するいくつかの化合物のうちの任意の1つ以上を包含する。本発明の文脈において、「発現エンハンサー」という用語は、一般に、タンパク質発現系に添加される任意の1つ以上の化合物を指し、その存在は、標的タンパク質の発現を、そのような発現エンハンサー(複数可)の不在下において見られる発現レベルを少なくとも2倍~最大約10倍を超える率で強化または促進する。
【0060】
本明細書で使用される「バクミド」という用語は、細菌内で複製するバキュロウイルスベクターを指すが、昆虫細胞にトランスフェクトされると、昆虫細胞によるバキュロウイルスの産生を可能にする。
【0061】
「細胞培養」または「培養」とは、人工的なインビトロ環境における細胞の維持を意味する。
【0062】
「増殖」とは、成長および/または分化および/またはまたは継続生存を好む条件下のインビトロでの細胞の維持を意味する。「培養」は、「細胞培養」と互換可能に使用され得る。培養は、培養培地1mLあたりの生細胞の数によって評価される。巨大分子の導入後の増殖は、好ましくは、産物、例えば、ウイルスでのタンパク質産物の産生を含む。
【0063】
本明細書に使用される「補充、交換、または補足培地」という用語は、ある体積の新鮮な細胞培養培地を、培養において既に存在する培地に添加すること、および/または培養において既に存在する培地を新鮮な培地に交換すること、および/または培養において既に存在する培地を新しい培地で補足することを指す。新鮮な培地は、少なくとも1つの細胞内に導入される1つ以上の巨大分子もしくは化合物を含有しない培地、または増殖におけるそれらの成長を支持するために細胞と接触していない培地である。当業者は、細胞計数(手動または自動)、トリパンブルー排除、タンパク質もしくは他の物質の産生、アラマーブルーアッセイ、1つ以上の代謝産物の存在もしくは濃度、細胞接着、形態学的外観、消費培地の分析などの、当該技術分野において既知の技法により、細胞成長および/または生存率をモニタリングすることによって、培地を除去および/または補充、置換、もしくは補足することが利点であるか、または必要であるかを決定することができる。モニタリング技法のうちの1つまたは組み合わせを使用して、成長、少なくとも1つの巨大分子の導入、および/または少なくとも1つの巨大分子の導入後の増殖を支持する必要があるかどうかを決定することができる。
【0064】
「組換えタンパク質」とは、宿主細胞に導入された核酸によってコードされるタンパク質を指す。宿主細胞は、核酸を発現する。「核酸を発現する」という用語は、「核酸によりコードされるRNAからタンパク質を発現すること」と同義である。本明細書に使用される「タンパク質」とは、重合されたアミノ酸、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質などを広く指す。
【0065】
「タンパク質収量」という用語は、培養された細胞によって発現されたタンパク質の量を指し、例えば、培地1ミリリットルあたりの産生されたタンパク質のグラムに関して測定され得る。タンパク質が細胞によって分泌されない場合、タンパク質は、当業者に既知の方法によって細胞の内部から単離され得る。タンパク質が細胞によって分泌される場合、タンパク質は、当業者に既知の方法によって培養培地から単離され得る。細胞によって発現されたタンパク質の量は、当業者によって容易に決定され得る。タンパク質は組換えタンパク質であり得る。
【0066】
「タンパク質産物」は、タンパク質による産生または作用に関連する産物である。タンパク質産物はタンパク質であり得る。タンパク質産物はまた、産物を産生するために、1つ以上の他の物質によるタンパク質の作用から生じる産物であってもよい。かかる作用の例は、タンパク質による酵素作用である。
【0067】
「浮遊培養」とは、培養槽中の細胞の大部分またはすべてが浮遊状態で存在し、培養槽中の細胞の少数が槽の表面または槽内の別の表面に接着するか、またはいずれも接着しない細胞培養を意味する。好ましくは、「浮遊培養」は、培養槽中の細胞の75%超が浮遊状態であり、培養槽上の表面または培養槽に接着しない。より好ましくは、「浮遊培養」は、培養槽中の細胞の85%超が浮遊状態で存在し、培養槽上の表面または培養槽に接着しない。培養槽中の細胞の95%超が浮遊状態で存在し、培養槽上の表面または培養槽に接着しない「浮遊培養」がさらにより好ましい。
【0068】
本発明の培地、方法、キット、および組成物は、細胞の単層(付着)または浮遊培養、トランスフェクション、および増殖、ならびに単層または浮遊培養での細胞におけるタンパク質の発現に好適である。好ましくは、本発明の培地、方法、キット、および組成物は、細胞の浮遊培養、トランスフェクション、および増殖、ならびに浮遊培養での細胞におけるタンパク質産物の発現のためである。
【0069】
「培養槽」とは、任意の容器、例えば、細胞を培養するための無菌環境を提供することができるガラス、プラスチック、または金属製の容器を意味する。
【0070】
「細胞培養培地」、「組織培養培地」、「培養培地」(いずれの場合も、複数「培地(media)」)、および「培地製剤」という句は、細胞または組織を増殖するための栄養素液を指す。これらの句は、互換可能に使用され得る。
【0071】
「組み合わせる」という用語は、成分を混合または混和することを指す。
【0072】
「微量元素」または「微量元素部分」という用語は、培養培地中に存在する他の部分もしくは構成成分の量または濃度に対して、非常に低い(すなわち、「微」)量または濃度でのみ細胞培養培地中に存在する部分を指す。本発明では、これらの用語は、Ag+、Al3+、Ba2+、Cd2+、Co2+、Cr3+、Cu1+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Ge4+、Se4+、Br-、I-、Mn2+、F-、Si4+、V5+、Mo6+、Ni2+、Rb+、Sn2+、およびZr4+、ならびにそれらの塩を包含する。例えば、以下の塩は、本発明の培養培地中の微量元素として使用され得る:AgNO3、AlCl3・6H2O、Ba(C2H3O2)2、CdSO4・8H2O、CdCl2、CoCl2・6H2O、Cr2(SO4)3・1H2O、CuCl2、FeSO4、GeO2、Na2SeO3、H2SeO3、KBr、Kl、MnC12・4H2O、NaF、Na2SiO3・9H2O、NaVO3、(NH4)6Mo7O24・4H2O、NiSO4・6H2O、RbCl、SnCl2、ZnCl2、およびZrOCl2・8H2O。
【0073】
「アミノ酸」という用語は、アミノ酸またはそれらの誘導体(例えば、アミノ酸類似体)、ならびにそれらのD形態およびL形態を指す。そのようなアミノ酸の例には、限定されないが、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ロイシン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、およびL-バリン、N-アセチルシステインが挙げられる。
【0074】
「トランスフェクション」という用語は、核酸、タンパク質、または他の巨大分子を標的細胞に送達することを意味して本明細書に使用され、結果として、この核酸、タンパク質、または他の巨大分子が細胞内で発現されるかまたは生物学的機能を有するようになる。
【0075】
細胞内への「巨大分子の導入のための試薬」または「トランスフェクション試薬」は、細胞内への巨大分子の進入を容易にする、当業者に既知の任意の材料、製剤、または組成物である。例えば、米国特許第5,279,833号を参照されたい。いくつかの実施形態では、試薬は、「トランスフェクション試薬」であり得、1つ以上の標的細胞内への1つ以上の核酸の取り込みを増加させる任意の化合物および/または組成物であり得る。様々なトランスフェクション試薬が、当業者に既知である。
【0076】
II.バキュロウイルス発現系
本開示は、とりわけ、バキュロウイルスまたはタンパク質を産生するために使用することができる、バキュロウイルス発現系およびその様々な構成要素に関する。いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地と、
(b)複数のSf9細胞と、を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、タンパク質発現エンハンサーをさらに含む。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、トリコスタチンA、またはバルプロ酸である。
【0078】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、トランスフェクション試薬をさらに含む。好適なトランスフェクション試薬には、ポリエチレンイミン(PEI)などのカチオン性ポリマー、ポリリジンおよびポリアルギニンなどの正に荷電したアミノ酸のポリマー、正に荷電したデンドリマーおよび分裂したデンドリマー、カチオン性B-シクロデキストリン含有ポリマー(CDポリマー)、DEAE-デキストランなどを含む、1つ以上の化合物および/または組成物が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、細胞内への巨大分子の導入のための試薬は、カチオン性脂質および/または中性脂質であり得る1つ以上の脂質を含み得る。好ましい脂質には、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPE)、1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(4´-トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)、ジヒドロキシル-ジミリスチルスペルミンテトラヒドロクロリド(DHDMS)、ヒドロキシル-ジミリスチルスペルミンテトラヒドロクロリド(HDMS)、1,2-ジオレオイル-3-(4´-トリメチルアンモニオ)ブタノイル-sn-グリセロール(DOTB)、1,2-ジオレオイル-3-スクシニル-sn-グリセロールコリンエステル(DOSC)、コレステリル(4´-トリメチルアンモニオ)ブタノエート(ChoTB)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DOME)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、O,O´-ジドデシル-N-[p(2-トリメチルアンモニオエチルオキシ)ベンゾイル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、1つ以上の脂質に接合したスペルミン(例えば、5-カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド(DOGS)、N,NI,NII,NIII-テトラメチル-N,NI,NII,NIII-tet-ラパルミチルスペルミン(TM-TPS)、およびジパルミトイルファスファチジルエタノールアミン5-カルボキシスペルミルアミンド(DPPES))、リポポリリジン(DOPEに接合したポリリジン)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トロメタミン)接合脂肪酸(TFA)、ならびに/またはペプチド、例えば、トリリジル-アラニル-TRISモノ、ジ、およびトリパルミテート(3B-[N-(N´,N´-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DCChol)、N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル-D-グルタメートクロリド(TMAG)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
当業者であれば、上述の脂質のある特定の組み合わせが、細胞内への核酸の導入に特に好適であることが示されていることを理解し、例えば、DOSPAおよびDOPEの3:1(w/w)の組み合わせは、Life Technologies Corporation(Carlsbad,Calif.)から商品名LIPOFECTAMINE(商標)で入手可能であり、DOTMAおよびDOPEの1:1(w/w)の組み合わせは、ThermoFisher Scientificから商品名LIPOFECTIN(登録商標)で入手可能であり、DIVIRIEおよびコレステロールの1:1(M/M)の組み合わせは、Life Technologies Corporation(Carlsbad,Calif.)から商品名DIVIRIE-C試薬で入手可能であり、TM-TPSおよびDOPEの1:1.5(M/M)の組み合わせは、Life Techから入手可能である。いくつかの実施形態では、トランスフェクション試薬は、カチオン性脂質トランスフェクション試薬である。いくつかの実施形態では、トランスフェクション試薬は、ポリマー系トランスフェクション試薬である。他の市販のカチオン性脂質トランスフェクション試薬には、限定されないが、TRANSFAST(商標)(Promega Corporationから入手可能)、LYOVEC(商標)(InvivoGenから入手可能)、DOTAPリポソームトランスフェクション試薬(Rocheから入手可能)、TRANSIT(登録商標)トランスフェクション試薬(Mirusから入手可能)、および昆虫GENEJUICE(登録商標)トランスフェクション試薬(EMD Millipore)が挙げられる。ポリマー系トランスフェクション試薬には、限定されないが、TURBOFECT(商標)トランスフェクション試薬(ThermoFisher Scientificから入手可能)、Xfectトランスフェクション試薬(Takara Bio USAから入手可能)、XTREMEGENE(商標)トランスフェクション試薬(Rocheから入手可能)、Sigmaユニバーサルトランスフェクション試薬(Sigma-Aldrichから入手可能)、POLYMERインビボトランスフェクション試薬(Altogen Biosystemsから入手可能)、およびポリエチレンイミン(PEI)が挙げられる。本明細書で使用され得る追加のトランスフェクション試薬には、限定されないが、VIAFECT(商標)トランスフェクション試薬、FUGENE(登録商標)6トランスフェクション試薬およびFUGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬(これらの各々は、Promega Corporationから入手可能である)、ならびにBioRad Laboratories,Inc.から入手可能なTRANSFECTIN(商標)脂質試薬が挙げられる。
【0080】
いくつかの実施形態では、培地は、昆虫細胞培地である。実施形態では、昆虫細胞培地は、ThermoFisher Scientificから入手可能なEXPISF(商標)CD培地である。実施形態では、昆虫細胞培地は、グレースの昆虫培地、SF-900(商標)II、またはSF-900(商標)IIIであり、これらの各々は、ThermoFisher Scientificから入手可能である。
【0081】
元のSf9細胞は、ツマジロクサヨトウSpodoptera frugiperdaの蛹の卵巣組織に由来する親IPLBSF-21(Sf21)細胞株からクローン化された。Sf9細胞は、ウイルス、特にバキュロウイルスの研究開発に広く使用されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるSf9細胞は、例えば、細胞を培地中で一定期間(例えば、少なくとも4、6、8、10、12、15、20継代)にわたって培養/継代培養することによって、化学的に定義された酵母溶解物を含まない培地での成長に適合されたSf9細胞である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、ThermoFisher Scientificから入手可能なEXPISF9(商標)細胞である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、ThermoFisher Scientificから入手可能なGIBCO(登録商標)Sf9細胞である。
【0082】
いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、培地中の浮遊培養において成長することが可能である。いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、培地中の付着培養において成長することが可能である。
【0083】
いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、本明細書に記載されるように、化学的に定義された酵母溶解物を含まない培地で培養される場合、高密度成長が可能である。いくつかの実施形態では、複数のSf9細胞は、本明細書に記載されるように、化学的に定義された酵母溶解物を含まない培地で培養される場合、高密度成長に適合される。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、1ミリリットルあたり約1×106細胞(細胞/mL)~約2×108細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約2×106細胞/mL~約2×108細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約5×106細胞/mL~約5×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約5×106細胞/mL~約4×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約5×106細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約6×106細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約7×106細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約8×106細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約9×106細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約1×107細胞/mL~約3×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約1×107細胞/mL~約2.5×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約2×107細胞/mL~約2.5×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、最大約2.2×107細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。いくつかの実施形態では、Sf9細胞は、約1×106細胞/mL~約5×106細胞/mL、約5×106細胞/mL~約1×107細胞/mL、約1×107細胞/mL~約5×107細胞/mL、約5×107細胞/mL~約1×108細胞/mL、または約1×108細胞/mL~約2×108細胞/mLのピーク細胞密度が可能である。
【0084】
いくつかの実施形態では、細胞は浮遊培養で成長する。これは、培養槽中の細胞の大部分またはすべてが浮遊状態で存在し、培養槽中の細胞の少数が槽の表面または槽内の別の表面に接着するか、またはいずれも接着しない、細胞培養を意味する。いくつかの実施形態では、浮遊培養は、培養槽中の細胞の約75%以上が浮遊状態であり、培養槽上の表面または培養槽内に接着しない。いくつかの実施形態では、浮遊培養は、培養槽中の細胞の約85%以上が浮遊状態で存在し、培養槽上の表面または培養槽内に接着しない。いくつかの実施形態では、浮遊培養は、培養槽中の細胞の約95%以上が浮遊状態で存在し、培養槽上の表面または培養槽内に接着しない。
【0085】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、その系を使用してバキュロウイルスを発現させるための説明書をさらに含む。いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、その系を使用してバキュロウイルスからタンパク質を発現させるための説明書をさらに含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、バキュロウイルスベクターをさらに含む。いくつかの実施形態では、バキュロウイルスベクターは、バクミドである。
【0087】
いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、組換えバキュロウイルスを作製するための1つ以上の構成要素をさらに含む。
【0088】
III.昆虫細胞培地
いくつかの態様では、本開示は、昆虫細胞の成長のための培地に関する。いくつかの実施形態では、バキュロウイルス発現系は、培地を含む。本開示は、部分的に、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩と、ビタミンとを含む、昆虫細胞培養のための培地に関する。いくつかの実施形態では、無機塩の量は、昆虫細胞の成長を支持するのに十分である。いくつかの実施形態では、培地は、化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地である。いくつかの実施形態では、培地は、タンパク質を含まない。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含まない。いくつかの実施形態では、培地は、動物に由来する成分を含まない。
【0089】
いくつかの実施形態では、培地は、アルミニウム塩、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される有機または無機塩を含む。塩は、有機または無機アニオンで作製されるものを含み、限定されないが、AgNO3、AlCl3・6H2O、Ba(C2H3O2)2、CaCl2、CdSO4・8H2O、CdCl2、CoCl2・6H2O、Cr2(SO4)3・1H2O、CuCl2、FeSO4、FeCl2、FeCl3、Fe(NO3)3、GeO2、Na2、SeO3、H2SeO3、KBr、KCl、Kl、MgCl2、MgSO4、MnC12・4H2O、NaF、Na2SiO3・9H2O、NaVO3、Na3VO4、(NH4)6Mo7O24・4H2O、Na2HPO4、NaH2PO4、NaHCO3、NiSO4・6H2O、NiCl2、Ni(NO3)2、RbCl、SnCl2、ZnCl2、ZnSO4、ZrOCl2・8H2O、EDTAテトラナトリウムが挙げられる。
【0090】
実施形態では、培地は、バナジン酸ナトリウム(NaVO3またはNa3VO4)を、1リットルあたり約1×10-5グラム(g/L)~約5×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、バナジウム酸ナトリウム(NaVO3またはNa3VO4)を、約5×10-5g/L~約5×10-3g/L、約1×10-4g/L~約5×10-3g/L、約5×10-4g/L~約5×10-3g/L、または約1×10-3g/L~約5×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、バナジン酸ナトリウム(NaVO3またはNa3VO4)を、約5×10-5g/L~約1×10-3g/L、約5×10-5g/L~約5×10-4g/L、または約5×10-5g/L~約1×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、バナジン酸ナトリウム(NaVO3またはNa3VO4)を、約1×10-5g/L~約5×10-5g/L、約5×10-5g/L~約1×10-4g/L、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L、約5×10-4g/L~約1×10-3g/L、または約1×10-3g/L~約5×10-3g/Lの範囲で含む。
【0091】
実施形態では、培地は、メタケイ酸ナトリウムを、1リットルあたり約1×10-5グラム(g/L)~約5×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、メタケイ酸ナトリウムを、約5×10-5g/L~約5×10-3g/L、約1×10-4g/L~約5×10-3g/L、または約5×10-4g/L~約5×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、メタケイ酸ナトリウムを、約5×10-5g/L~約1×10-3g/L、約5×10-5g/L~約5×10-4g/L、または約5×10-5g/L~約1×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、メタケイ酸ナトリウムを、約1×10-5g/L~約5×10-5g/L、約5×10-5g/L~約1×10-4g/L、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L、約5×10-4g/L~約1×10-3g/L、または約1×10-3g/L~約5×10-3g/Lの範囲で含む。
【0092】
実施形態では、培地は、モリブデン酸アンモニウムを、約1×10-6g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、モリブデン酸アンモニウムを、約1×10-6g/L~約1×10-4g/L、約1×10-6g/L~約5×10-5g/L、または約1×10-6g/L~約1×10-5g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、モリブデン酸アンモニウムを、約5×10-6g/L~約5×10-4g/L、約1×10-5g/L~約5×10-4g/L、または約5×10-5g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、モリブデン酸アンモニウムを、約1×10-6g/L~約5×10-6g/L、約5×10-6g/L~約1×10-5g/L、約1×10-5g/L~約5×10-5g/L、約5×10-5g/L~約1×10-4g/L、または約1×10-4g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。
【0093】
実施形態では、培地は、塩化カドミウムを、約1×10-8g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化カドミウムを、約5×10-8g/L~約5×10-4g/L、約1×10-7g/L~約5×10-4g/L、約5×10-7g/L~約5×10-4g/L、約1×10-6g/L~約5×10-4g/L、約5×10-6g/L~約5×10-4g/L、約1×10-5g/L~約5×10-4g/L、または約5×10-5g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化カドミウムを、約1×10-8g/L~約1×10-4g/L、約1×10-8g/L~約5×10-5g/L、約1×10-8g/L~約1×10-5g/L、約1×10-8g/L~約1×10-6g/L、または約1×10-8g/L~約1×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化カドミウムを、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、約1×10-7g/L~約5×10-7g/L、約5×10-7g/L~約1×10-6g/L、約1×10-6g/L~約5×10-6g/L、約5×10-6g/L~約1×10-5g/L、約1×10-5g/L~約5×10-5g/L、約5×10-5g/L~約1×10-4g/L、または約1×10-4g/L~約5×10-4g/Lの範囲で含む。
【0094】
実施形態では、培地は、亜鉛塩(ZnCl2および/またはZnSO4)を、約1×10-4g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、亜鉛塩(ZnCl2および/またはZnSO4)を、約5×10-4g/L~約5×10-2g/L、約1×10-3g/L~約5×10-2g/L、約5×10-3g/L~約5×10-2g/L、または約1×10-2g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。実施形態では、媒地は、亜鉛塩(ZnCl2および/またはZnSO4)を、約5×10-4g/L~約1×10-2g/L、約5×10-4g/L~約5×10-3g/L、または約5×10-4g/L~約1×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、亜鉛塩(ZnCl2および/またはZnSO4)を、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L、約5×10-4g/L~約1×10-3g/L、約1×10-3g/L~約5×10-3g/L、約5×10-3g/L~約1×10-2g/L、または約1×10-2g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。
【0095】
実施形態では、培地は、鉄塩(例えば、FeSO4、FeCl2、FeCl3、および/またはFe(NO3)3)を、約1×10-4g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、鉄塩(例えば、FeSO4、FeCl2、FeCl3、および/またはFe(NO3)3)を、約5×10-4g/L~約5×10-2g/L、約1×10-3g/L~約5×10-2g/L、約5×10-3g/L~約5×10-2g/L、または約1×10-2g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、鉄塩(例えば、FeSO4、FeCl2、FeCl3、および/またはFe(NO3)3)を、約5×10-4g/L~約1×10-2g/L、約5×10-4g/L~約5×10-3g/L、または約5×10-4g/L~約1×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、鉄塩(例えば、FeSO4、FeCl2、FeCl3、および/またはFe(NO3)3)を、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L、5×10-4g/L~約1×10-3g/L、1×10-3g/L~約5×10-3g/L、5×10-3g/L~約1×10-2g/L、または1×10-2g/L~約5×10-2g/Lの範囲で含む。
【0096】
実施形態では、培地は、カリウム塩(例えば、KBr、KCl、および/またはKI)を、約1×10-9g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、カリウム塩(例えば、KBr、KCl、および/またはKI)を、約5×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-8g/L~約5×10-7g/L、約5×10-8g/L~約5×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、カリウム塩(例えば、KBr、KCl、および/またはKI)を、約5×10-9g/L~約1×10-7g/L、約5×10-9g/L~約5×10-8g/L、または約5×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、カリウム塩(例えば、KBr、KCl、および/またはKI)を、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。
【0097】
実施形態では、培地は、銀塩(例えば、AgNO3)を、約1×10-9g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、銀塩(例えば、AgNO3)を、約5×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-8g/L~約5×10-7g/L、約5×10-8g/L~約5×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、銀塩(例えば、AgNO3)を、約5×10-9g/L~約1×10-7g/L、約5×10-9g/L~約5×10-8g/L、または約5×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、銀塩(例えば、AgNO3)を、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。
【0098】
実施形態では、培地は、塩化第一スズを、約1×10-9g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化第一スズを、約5×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-8g/L~約5×10-7g/L、約5×10-8g/L~約5×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化第一スズを、約5×10-9g/L~約1×10-7g/L、約5×10-9g/L~約5×10-8g/L、または約5×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、塩化第一スズを、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。
【0099】
実施形態では、培地は、ニッケル塩(例えば、NiSO4NiCl2、および/またはNi(NO3)2)を、約1×10-9g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ニッケル塩(例えば、NiSO4、NiCl2、および/またはNi(NO3)2)を、約5×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-8g/L~約5×10-7g/L、約5×10-8g/L~約5×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ニッケル塩(例えば、NiSO4、NiCl2、および/またはNi(NO3)2)を、約5×10-9g/L~約1×10-7g/L、約5×10-9g/L~約5×10-8g/L、または約5×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ニッケル塩(例えば、NiSO4、NiCl2、および/またはNi(NO3)2)を、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、または約1×10-7g/L~約5×10-7g/Lの範囲で含む。
【0100】
実施形態では、培地は、ZrOCl2を、約1×10-9g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ZrOCl2を、約5×10-9g/L~約5×10-6g/L、約1×10-8g/L~約5×10-6g/L、約5×10-8g/L~約5×10-6g/L、約1×10-7g/L~約5×10-6g/L、または約5×10-7g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ZrOCl2を、約1×10-9g/L~約1×10-6g/L、約1×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ZrOCl2を、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、5×10-8g/L~約1×10-7g/L、1×10-7g/L~約5×10-7g/L、5×10-7g/L~約1×10-6g/L、または1×10-6g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。
【0101】
実施形態では、培地は、フッ化ナトリウムを、約1×10-9g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、フッ化ナトリウムを、約5×10-9g/L~約5×10-6g/L、約1×10-8g/L~約5×10-6g/L、約5×10-8g/L~約5×10-6g/L、約1×10-7g/L~約5×10-6g/L、または約5×10-7g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、フッ化ナトリウムを、約1×10-9g/L~約1×10-6g/L、約1×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、フッ化ナトリウムを、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、約1×10-7g/L~約5×10-7g/L、約5×10-7g/L~約1×10-6g/L、または約1×10-6g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。
【0102】
実施形態では、培地は、酢酸バリウムを、約1×10-9g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、酢酸ナトリウムを、約5×10-9g/L~約5×10-6g/L、約1×10-8g/L~約5×10-6g/L、約5×10-8g/L~約5×10-6g/L、約1×10-7g/L~約5×10-6g/L、または約5×10-7g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、酢酸バリウムを、約1×10-9g/L~約1×10-6g/L、約1×10-9g/L~約5×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-7g/L、約1×10-9g/L~約1×10-8g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、酢酸バリウムを、約1×10-9g/L~約5×10-9g/L、約5×10-9g/L~約1×10-8g/L、約1×10-8g/L~約5×10-8g/L、約5×10-8g/L~約1×10-7g/L、約1×10-7g/L~約5×10-7g/L、約5×10-7g/L~約1×10-6g/L、または約1×10-6g/L~約5×10-6g/Lの範囲で含む。
【0103】
実施形態では、培地は、マグネシウム塩(例えば、MgCl2および/またはMgSO4)を、約0.01g/L~約10g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、マグネシウム塩(例えば、MgCl2および/またはMgSO4)を、約0.05g/L~約10g/L、約0.1g/L~約10g/L、約0.5g/L~約10g/L、または約1g/L~約10g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、マグネシウム塩(例えば、MgCl2および/またはMgSO4)を、約0.01g/L~約5g/L、約0.01g/L~約1g/L、約0.01g/L~約0.5g/L、または約0.01g/L~約0.1g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、マグネシウム塩(例えば、MgCl2および/またはMgSO4)を、約0.01g/L~約0.05g/L、約0.05g/L~約0.1g/L、約0.1g/L~約0.5g/L、約0.5g/L~約1g/L、約1g/L~約5g/L、または約5g/L~約10g/Lの範囲で含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、培地は、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン(例えば、塩化コリン)、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、またはそれらの組み合わせから選択されるビタミンを含む。各ビタミンは、約1×10-4g/L~約0.5g/Lの範囲で培地中に存在し得る。実施形態では、培地は、ビタミンを、約5×10-4g/L~約0.5g/L、約1×10-3g/L~約0.5g/L、約5×10-3g/L~約0.5g/L、約0.01g/L~約0.5g/L、または約0.05g/L~約0.5g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ビタミンを、約1×10-4g/L~約0.1g/L、約1×10-4g/L~約0.05g/L、約1×10-4g/L~約0.01g/L、約1×10-4g/L~約5×10-3g/L、または約1×10-4g/L~約1×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、ビタミンを、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L、約5×10-4g/L~約1×10-3、約1×10-3g/L~約5×10-3g/L、約5×10-3g/L~約0.01g/L、約0.01g/L~約0.05g/L、約0.05g/L~約0.1g/L、または約0.1g/L~約0.5g/Lの範囲で含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、培地は、メチルメリステート、トコフェロール、リオレイン酸メチル、オレイン酸メチル、アラキドン酸メチル、リノレン酸メチル、パルミトリン酸メチル、パルミチン酸メチル、およびそれらの組み合わせから選択される脂肪酸(またはそのエステル、例えばその脂肪酸メチルエステル)を含む。各脂肪酸および/または脂肪酸メチルエステルは、約1×10-5g/L~約1×10-2g/Lの範囲で培地中に存在してもよい。実施形態では、培地は、脂肪酸(またはそのエステル)を、約5×10-5g/L~約1×10-2g/L、約1×10-4g/L~約1×10-2g/L、約5×10-4g/L~約1×10-3g/L、または約1×10-3g/L~約1×10-2g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、脂肪酸(またはそのエステル)を、約1×10-5g/L~約5×10-3g/L、約1×10-5g/L~約1×10-3g/L、約1×10-5g/L~約5×10-4g/L、または約1×10-5g/L~約1×10-4g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、脂肪酸(またはそのエステル)を、約1×10-5g/L~約5×10-5g/L、5×10-5g/L~約1×10-4g/L、1×10-4g/L~約5×10-4g/L、5×10-4g/L~約1×10-3g/L、1×10-3g/L~約5×10-3g/L、または5×10-3g/L~約1×10-2g/Lの範囲で含む。
【0106】
いくつかの実施形態では、培地は、グルコース、スクロース、ピルビン酸(例えば、ピルビン酸ナトリウム)、マルトース、トレハロース、またはそれらの組み合わせから選択されるエネルギー源を含む。実施形態では、培地は、約0.01g/L~約30g/Lの範囲のエネルギー源を含む。実施形態では、培地は、約0.05g/L~約30g/L、約0.1g/L~約30g/L、約0.5g/L~約30g/L、約1g/L~約30g/L、約5g/L~約30g/L、約10g/L~約30g/L、または約20g/L~約30g/Lの範囲のエネルギー源を含む。実施形態では、培地は、約0.01g/L~約20g/L、約0.01g/L~約10g/L、約0.01g/L~約5g/L、約0.01g/L~約1g/L、約0.01g/L~約0.5g/L、または約0.01g/L~約0.1g/Lの範囲のエネルギー源を含む。実施形態では、培地は、約0.01g/L~約0.05g/L、約0.05g/L~約0.1g/L、約0.1g/L~約0.5g/L、約0.5g/L~約1g/L、約1g/L~約5g/L、約5g/L~約10g/L、または約10g/L~約20g/Lの範囲のエネルギー源を含む。
【0107】
いくつかの実施形態では、培地は、乳化剤、界面活性剤、抗酸化剤、緩衝液、ポロキサマー、金属結合化合物、またはそれらの組み合わせから選択される追加の成分を含む。いくつかの実施形態では、培地は、ポリソルベート、エタノールアミン、プトレシン、スペルミン、スペリミジン、ヒドロキシピリジン誘導体(例えば、2-ヒドロキシピリジン-N-オキシド、3-ヒドロキシ-4-ピロン、3-ヒドロキシピリド-2-オン、1-メチル-3-ヒドロキシピリド-2-オン、または2-ヒドロキシ-ニコチン酸)、EDTA、2-メルカプトエタノール、B-グリセロホスフェート、およびコレステロールから選択される追加の成分を含む。各追加の成分は、任意の量、例えば約1×10-4g/L~約10g/Lで培地中に存在し得る。実施形態では、培地は、追加の成分を、約5×10-4g/L~約10g/L、約1×10-3g/L~約10g/L、約5×10-3g/L~約10g/L、約1×10-2g/L~約10g/L、約5×10-2g/L~約10g/L、約0.1g/L~約10g/L、約0.5~約10g/L、および約1~約10g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、追加の成分を、約1×10-4g/L~約5g/L、約1×10-4g/L~約1g/L、約1×10-4g/L~約0.5g/L、約1×10-4g/L~約0.1g/L、約1×10-4g/L~約0.05g/L、約1×10-4g/L~約0.01g/L、または約1×10-4g/L~約1×10-3g/Lの範囲で含む。実施形態では、培地は、追加の成分を、約1×10-4g/L~約5×10-4g/L~約5×10-4g/L~約1×10-3g/L、約1×10-3g/L~約5×10-3g/L~約5×10-3g/L~約0.01g/L、約0.01g/L~約0.05g/L、約0.05g/L~約0.1g/L、約0.1g/L~約0.5g/L、約0.5g/L~約1g/L、約1g/L~約5g/L、または約5g/L~約10g/Lの範囲で含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、培地は、L-アラニン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-リジン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-アスパラギン、ピロリシン、L-プロリン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-セリン、L-スレオニン、セレノシステイン、L-バリン、L-トリプトファン、L-チロシン、カルニチン、レボチロキシン、ヒドロキシプロリン、セレノメチオニン、タウリン、シトルリン、オルニチン、またはそれらの組み合わせから選択されるアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、アミノ酸の安定な類似体である(例えば、ThermoFisher Scientificから入手可能なGLUTAMAX(商標))。実施形態では、各アミノ酸は、約0.1g/L~約8g/Lの範囲で培地中に存在し得る。
【0109】
IV.使用方法
本開示は、部分的に、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)細胞をバクミドでトランスフェクトすることと、
(c)昆虫細胞培養からウイルスを採取することと、を含む、バキュロウイルス産生の方法に関する。
【0110】
いくつかの実施形態では、細胞は、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトされる。
【0111】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、Sf9細胞である。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、付着(単層)培養されている。
【0112】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションステップは、昆虫細胞が1×106細胞/mL~5×107細胞/mL、約1×106細胞/mL~1×107細胞/mL、または約5×106細胞/mL~1×107細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される。いくつかの実施形態では、トランスフェクションステップは、昆虫細胞が75%以上生存可能、80%以上生存可能、85%以上生存可能、90%以上生存可能、または95%以上生存可能であるときに実施される。
【0113】
いくつかの実施形態では、培地は、本明細書に記載されるような培地である。
【0114】
いくつかの実施形態では、培地は、トランスフェクションステップの後に、追加のまたは新鮮な培地で補充、置換、または補足されない。
【0115】
いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、1ミリリットルあたり少なくとも5×107感染性ウイルス粒子(IVP/mL)の力価を有する。いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、少なくとも1×108IVP/mLの力価を有する。いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、約5×107IVP/mL~約1×1010IVP/mL、約5×107IVP/mL~約5×109IVP/mL、約5×107IVP/mL~約1×109IVP/mL、約1×108IVP/mL~約1×1010IVP/mL、約5×108IVP/mL~約1×1010IVP/mL、または約1×109IVP/mL~約1×1010IVP/mLの力価を有する。いくつかの実施形態では、採取されたバキュロウイルスは、約5×107IVP/mL~約1×108IVP/mL、約1×108IVP/mL~約5×108IVP/mL、約5×108IVP/mL~約1×109IVP/mL、約1×109IVP/mL~約5×109IVP/mL、および約5×109IVP/mL~約1×1010IVP/mLの力価を有する。
【0116】
本開示は、部分的に、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)昆虫細胞にタンパク質を発現するバキュロウイルスを感染させることと、を含む、バキュロウイルスからのタンパク質産生の方法に関する。
【0117】
いくつかの実施形態では、この方法は、(c)感染細胞を一定期間培養してタンパク質を産生することをさらに含む。
【0118】
いくつかの実施形態では、この方法は、(d)タンパク質を採取することをさらに含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)~(d)には、5日~15日を要する。いくつかの実施形態では、タンパク質は、感染後約24時間~約120時間で採取される。
【0120】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ステップ(b)の前に培地に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の少なくとも10時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の少なくとも12時間、少なくとも15時間、少なくとも18時間、少なくとも21時間、少なくとも24時間、少なくとも27時間、少なくとも30時間、少なくとも33時間、または少なくとも36時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の10時間~36時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の12時間~36時間、15時間~36時間、18時間~36時間、21時間~36時間、24時間~36時間、27時間~36時間、または30時間~36時間前に添加される。いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、感染の10時間~33時間、10時間~30時間、10時間~27時間、10時間~24時間、10時間~21時間、10時間~18時間、または10時間~15時間前に添加される。
【0121】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現エンハンサーは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、リコスタチンA、またはバルプロ酸である。
【0122】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、Sf9細胞である。
【0123】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、培地中で高密度成長が可能である。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、1ミリリットルあたり約2×106~約2×108細胞(細胞/mL)のピーク細胞密度が可能である。
【0124】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、付着培養されている。
【0125】
いくつかの実施形態では、感染ステップは、昆虫細胞が1×106細胞/mL~5×107細胞/mL、約1×106細胞/mL~1×107細胞/mL、または約5×106細胞/mL~1×107細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される。いくつかの実施形態では、感染ステップは、昆虫細胞が75%以上生存可能、80%以上生存可能、85%以上生存可能、90%以上生存可能、または95%以上生存可能であるときに実施される。
【0126】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、1~10、2~10、3~10、4~10、5~10、6~10、7~10、または8~10の感染多重度(MOI)を有する。いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、2~9、3~8、または4~7の感染多重度(MOI)を有する。いくつかの実施形態では、昆虫細胞を感染させるために使用されるバキュロウイルスは、約5のMOIを有する。
【0127】
いくつかの実施形態では、培地は、タンパク質産生中に新鮮な培地で変更、補充、置換、または補足されない。
【0128】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、付着培養されている。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、浮遊培養されている。
【0129】
本明細書に記載される実施例および実施形態は、例示のみを目的としており、それに照らして様々な修正または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書で引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のためにそれら全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0130】
実施例1:Sf9細胞培養
Sf9細胞は、振とうフラスコ培養で複数継代にわたって培地中で成長させることにより、化学的に定義された酵母溶解物を含まない培地(以下、「酵母溶解物を含まない培地」と称される)で培養するように適合された。
【0131】
適合されたSf9細胞を、酵母溶解物を含まない培地中、27℃の無加湿で空気調節した非CO2雰囲気下、オービタルシェーカープラットフォーム上でインキュベートした。細胞が、1ミリリットルあたり少なくとも5×106生細胞(VCM)の密度、一般に、約10×106VCM未満に到達したら、細胞を継代培養した。細胞生存率は、トリパンブルー排除法または自動細胞カウンターによって決定した。
【0132】
長期保存のために、適合されたSf9細胞を、標準的な極低温手順を使用して、7.5%のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、92.5%の馴化した酵母溶解物を含まない培地で凍結した。
【0133】
酵母溶解物を含まない培地と酵母溶解物を含む標準的な昆虫細胞培地とで、適合されたSf9細胞の生存率を決定するために、各培地で細胞を成長させ、培養10日間で生細胞密度を決定した。
図1Aに示されるように、酵母溶解物を含まない培地で成長させた細胞(太線)は、標準的な昆虫細胞培地で成長させた細胞(細線)と比較して、経時的に高い生細胞密度(実線)を達成し、培養6~10日後に高い生存率(破線)を有していた。
【0134】
実施例2:バキュロウイルスの生成-Sf9細胞のトランスフェクション
バクミドDNAを、BAC-TO-BAC(商標)バキュロウイルス発現系(ThermoFisher Scientific)を使用して産生した。酵母溶解物を含まない培地での培養に適合されたSf9細胞を、実施例1に記載されるように酵母溶解物を含まない培地で培養した。
【0135】
接着剤系トランスフェクション
適合させたSf9細胞を、約5×106~約10×106VCMの密度、および90%以上の生存率に到達するまで培養した。細胞を、1ウェルあたり総体積3mLの酵母溶解物を含まない培地中、1ウェルあたり約1×106生細胞の最終密度で6ウェルプレートに播種した。細胞を、27℃の無加湿で空気調節した非CO2雰囲気のインキュベーター中で30~60分間付着させた。
【0136】
細胞を、10μLのトランスフェクション試薬あたり約1μgのDNAの比率で、カチオン性脂質トランスフェクション試薬でトランスフェクトした。簡単に説明すると、トランスフェクション試薬をOPTIMEM(商標)I還元血清培地(250μL)中に希釈し、室温で5分間インキュベートした。バクミドDNAを、希釈したトランスフェクション試薬に添加し、混合し、室温で5分間インキュベートした。溶液を、6ウェルプレートの細胞に滴下で移した。トランスフェクトされた細胞を、72~96時間インキュベートした。
【0137】
懸濁液系トランスフェクション
細胞を、約5×106~約10×106VCMの密度、および90%以上の生存率に到達するまで培養した。細胞を、125mLのバッフルなしの通気振とうフラスコ中の総体積25mLの酵母溶解物を含まない培地中、1mLあたり約2.5×106生細胞の最終密度に希釈した。細胞を、27℃の無加湿で空気調節した非CO2雰囲気のインキュベーター中、オービタルシェーカープラットフォーム上で最長30分間回収した。
【0138】
細胞を、30μLのトランスフェクション試薬あたり約12.5μgのDNAの比率で、カチオン性脂質トランスフェクション試薬でトランスフェクトした。簡単に説明すると、トランスフェクション試薬をOPTIMEM(商標)I還元血清培地(1mL)中に希釈し、室温で5分間インキュベートした。バクミドDNAを、希釈したトランスフェクション試薬に添加し、混合し、室温で5分間インキュベートした。溶液を、振とうフラスコ内の細胞に滴下で移した。トランスフェクトされた細胞を、72~96時間インキュベートした。
【0139】
実施例3:バキュロウイルスの生成-ウイルスストックの単離
細胞が、約60%~80%の生存率に低下したとき(トランスフェクションの72~120時間後)、バキュロウイルスを細胞培養培地から採取した。培養物を細胞から取り出し、250×gで5分間遠心分離して、細胞および大きな破片を除去した。清澄化した上清を、新しいコニカルチューブに移した。これは、P1ウイルスストックであった。P1ウイルスストックを、光から保護して4℃で保存した。
【0140】
ウイルス力価を、バキュロウイルス力価アッセイによって決定した。5~10倍段階希釈(希釈範囲:1×10-1~1×10-5)P1ウイルスストックを、新鮮な酵母溶解物を含まない培地で調製した。適合させたSf9細胞を、酵母溶解物を含まない培地で1.25×106VCMに希釈した。反応は、24ウェル懸濁プレートで次のように設定した。
1.1mLの各段階希釈(最初の希釈を除く、1×10-1を、適切なウェル(1希釈あたり1ウェル)に添加した。
2.1mLの新鮮な酵母溶解物を含まない培地を、陰性対照(すなわち、ウイルスなし)に十分添加した。
3.800μLの細胞を1.25×106生細胞/ウェルで、各希釈液を含むウェルおよび陰性対照ウェルに添加した。任意の未使用のウェルを、1mLの培地またはPBSで満たした。
4.プレートを、225±5rpmに設定された振とうプラットフォーム上の加湿されていないインキュベーター内で27℃で一晩インキュベートした。
【0141】
以下の試薬を調製した。
・希釈緩衝液:2%ウシ胎児血清(FBS)を含有するPBS。
・抗バキュロウイルスエンベロープgp64 APC抗体:抗体を、希釈緩衝液で最終濃度0.15μg/mLに希釈した。
【0142】
試料を、フローサイトメトリーによる分析のために調製した。
a.14~16時間のインキュベーション後、24ウェル懸濁プレートをインキュベーターから取り外し、各ウェルの内容物を、1ウェルあたり1本のFACSチューブで別々のFACSチューブに移した。
b.チューブを、300×gで5分間遠心分離した。上清を慎重に吸引し、廃棄した。
c.各細胞ペレットを、100μLの希釈抗体に再懸濁し、3~5秒間ボルテックスすることによって短時間混合した。
d.チューブを室温で30分間インキュベートした。
e.1mLのPBSを添加することによって試料を洗浄した後、300×gで10分間遠心分離した。上清を慎重に吸引し、廃棄した。
f.各細胞ペレットを、1mLの希釈緩衝液に再懸濁した。
【0143】
試料をフローサイトメーター(赤色レーザー-励起:633~647nm、発光:660nm)で分析した。陽性gp64発現細胞の割合を、各希釈液および陰性対照試料について記録した。
【0144】
ウイルス力価を決定した:
a.10%未満のgp64陽性細胞パーセントが得られた希釈試料を選択した。
b.1ウェルあたりの細胞数(すなわち、1×10
6細胞/mL)、最適な希釈試料、およびそのそれぞれの希釈試料中のgp64陽性細胞パーセントを使用して、ウイルス力価を、以下の方程式を使用して計算した。
【数1】
c.感染多重度(MOI)は、1細胞あたりのウイルス粒子の数として定義される。次の式を使用して、特定のMOIを取得するために添加するウイルスストック(接種材料)の量を計算した。
【数2】
【0145】
結果
図1Bに示されるように、浮遊培養で成長させた適合Sf9細胞は、トランスフェクション後3日目および4日目の両方で、付着培養で成長させた細胞よりも1mLあたりより多くの感染性粒子が産生された。
【0146】
実施例4:適合されたSf9細胞におけるタンパク質発現
適合されたSf9細胞を継代培養し、それらがおよそ5×10
6~10×10
6生細胞/mLおよび90%以上の生存率に到達するまで拡張させた。感染前の日に、細胞を、5×10
6生細胞/mLの最終密度に播種し、新鮮な酵母溶解物を含まない培地を予め室温に温めた。フラスコを穏やかに回転させて、細胞を混合した。播種直後に、タンパク質エンハンサーを振とうフラスコに添加した(表1を参照)。細胞を、27℃の無加湿で空気調節した非CO
2雰囲気のインキュベーター中で、オービタルシェーカープラットフォーム上で一晩インキュベートした。
【表1】
【0147】
生細胞密度および生存率は、タンパク質エンハンサーの添加後18~24時間で決定した。細胞密度は、およそ5×106~7×106生細胞/mL、および80%以上の生存率であった。細胞を、MOI5の高力価ウイルスストックを使用して感染させた(表1を参照)。細胞を、27℃の無加湿で空気調節した非CO2雰囲気のインキュベーター中、表1に示される速度でオービタルシェーカープラットフォーム上でインキュベートした。
【0148】
タンパク質を、感染後24~120時間で細胞(または組換えタンパク質が分泌されている場合は培地)から採取した。
【0149】
結果
タンパク質エンハンサーの添加に最適な時点は、感染前の示された時点でタンパク質エンハンサーを添加して、上記のプロトコルを使用して決定した。
図2Aは、バキュロウイルス感染の16時間、20時間、24時間、または28時間前にタンパク質エンハンサーを添加したときに、適応されたSf9細胞によって産生されたタンパク質力価(mg/mL)を示す。すべての時点での力価は、タンパク質エンハンサー((-)エンハンサー)なしで成長させた細胞よりも大きかった。タンパク質エンハンサーでのインキュベーションは、酵母溶解物を含有する培地で成長させたSf9細胞のタンパク質力価に影響を与えなかった(
図2B)。
【0150】
フラスコ/培養サイズの関数としてのタンパク質力価は、培地(培養)、エンハンサー、および表2に示されるバキュロウイルスストック量を使用して、感染およびタンパク質産生中に適応されたSf9細胞を125mL、250mL、500mL、または1Lフラスコ内で成長させることによって評価した。タンパク質力価を
図3Aに示す。これらの結果は、このタンパク質発現プロトコルが、125mL~1Lフラスコスケールまで直接拡張可能であることを示す。
【表2】
【0151】
図3Cに示されるように、タンパク質発現プロトコルは、24ディープウェルプレートにスケールダウンすることもできる(最終培養量およそ4mL、エンハンサー量16μL、バキュロウイルスストック量80μL、および振とう速度250rpm)。
【0152】
各サイズの容器内の培養物中で2~7日間培養した非感染細胞の生細胞密度(VCD)および生存率を
図3Bおよび3Dに示す。
【0153】
「従来のプロトコル」(酵母溶解物を含有する昆虫細胞培地で成長させたSf9細胞、タンパク質エンハンサーなし)を本明細書に記載される強化プロトコルと比較して、複数のタンパク質について細胞生存率およびタンパク質産生動態を決定した。
図4Aは、従来のプロトコル(太線)および強化プロトコル(細線)での緑色蛍光タンパク質(GFP)発現バキュロウイルス感染後の細胞生存率を示す。
図4Bは、従来のプロトコル(点状のバー)および強化プロトコル(斜線のバー)での感染後1~4日目のGFP力価(mg/L)を示す。
【0154】
複数の酵母溶解物を含有する培地で成長させたSf9細胞におけるバキュロウイルス媒介タンパク質産生を、本明細書に記載される強化プロトコルと比較した。強化プロトコルは、より優れた細胞生存率(
図5A)、および複数のタンパク質発現バキュロウイルス構築物からのタンパク質産生よりおよそ5~8倍高いタンパク質産生を提供した(
図5B~5D)。
【0155】
Sf-900(商標)II昆虫細胞培地(ThermoFisher Scientific)で成長させたSf9細胞でのバキュロウイルス媒介タンパク質産生を、本明細書に記載される強化されたプロトコルと比較した。GUS活性によって決定されるβ-グルクロニダーゼ(GUS)の発現(
図6A)、相対発光(
図6B)およびポリアクリルアミドゲル電気泳動(
図6C)に基づく分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)、タンパク質力価によって決定される腫瘍壊死因子-α(TNF-α)(
図6D)はすべて、強化プロトコルを使用して少なくとも2倍高かった。
【0156】
組換えTNF-αタンパク質の活性を、核因子κB(NFκB)ルシフェラーゼアッセイで測定した。簡単に説明すると、NFκB応答エレメントによって制御される統合ルシフェラーゼレポーター構築物を含有するレポーター細胞を、TNF-αで処理し、ルシフェラーゼ活性を測定した。TNF-αタンパク質の活性は、TNF-αタンパク質を産生するために使用されたプロトコルに関係なく類似していた(
図6E)。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地と、
(b)複数のSf9細胞と、を含む、バキュロウイルス発現系。
〔2〕タンパク質発現エンハンサーをさらに含む、前記〔1〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔3〕トランスフェクション試薬をさらに含む、前記〔1〕または〔2〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔4〕前記トランスフェクション試薬が、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬である、前記〔3〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔5〕前記タンパク質発現エンハンサーが、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む、前記〔2〕~〔4〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔6〕前記HDAC阻害剤が、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される、前記〔5〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔7〕前記HDAC阻害剤が、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、トリコスタチンA、またはバルプロ酸である、前記〔5〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔8〕前記培地が、昆虫細胞培地である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔9〕前記複数のSf9細胞が、前記培地中の浮遊培養で成長することが可能である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔10〕前記複数のSf9細胞が、前記培地中で高密度成長が可能である、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔11〕前記Sf9細胞が、1ミリリットルあたり約2×10
6
~約2×10
8
細胞(細胞/mL)のピーク細胞密度が可能である、前記〔10〕に記載のバキュロウイルス発現系。
〔12〕前記培地が、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩を含む、前記〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔13〕前記培地が、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択されるビタミンを含む、前記〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔14〕バキュロウイルスベクターをさらに含む、前記〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現系。
〔15〕昆虫細胞培養のための培地であって、前記培地が、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、ナトリウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩と、ビタミンと、を含み、前記培地が、化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地である、培地。
〔16〕前記培地が、タンパク質を含まない、前記〔15〕に記載の培地。
〔17〕前記培地が、動物由来の成分を含まない、前記〔15〕または前記〔16〕に記載の培地。
〔18〕前記ビタミンが、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択される、前記〔15〕~〔17〕のいずれか一項に記載の培地。
〔19〕前記無機塩が、昆虫細胞の成長を支持するのに十分な量で存在する、前記〔15〕~〔18〕のいずれか一項に記載の培地。
〔20〕昆虫細胞の成長を支持するのに十分な量の糖をさらに含む、前記〔14〕~〔18〕のいずれか一項に記載の培地。
〔21〕前記糖が、マルトース、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、マンノース、ラクトース、ガラクトース、デキストロース、またはそれらの組み合わせから選択される、前記〔20〕に記載の培地。
〔22〕前記〔15〕~〔21〕のいずれか一項に記載の培地中で昆虫細胞を培養することを含む、昆虫細胞を成長させる方法。
〔23〕バキュロウイルス産生の方法であって、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)前記細胞をバクミドでトランスフェクトすることと、
(c)前記培地または前記細胞から前記バキュロウイルスを採取することと、を含む、方法。
〔24〕前記細胞が、カチオン性脂質トランスフェクション試薬またはポリマー系トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトされる、前記〔23〕に記載の方法。
〔25〕前記昆虫細胞が、Sf9細胞である、前記〔23〕または前記〔24〕に記載の方法。
〔26〕前記昆虫細胞が、浮遊培養されている、前記〔23〕~〔25〕のいずれか一項に記載の方法。
〔27〕前記トランスフェクションステップが、前記昆虫細胞が1ミリリットルあたり1×10
6
細胞(細胞/mL)~2×10
7
細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される、前記〔23〕~〔26〕のいずれか一項に記載の方法。
〔28〕前記トランスフェクションステップが、前記昆虫細胞が90%以上生存しているときに実施される、前記〔27〕に記載の方法。
〔29〕前記培地が、バリウム塩、カドミウム塩、銅塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ニッケル塩、カリウム塩、カルシウム塩、銀塩、スズ塩、ジルコニウム塩、またはそれらの組み合わせから選択される無機塩を含む、前記〔23〕~〔28〕のいずれか一項に記載の方法。
〔30〕前記培地が、パラアミノ安息香酸、ビタミンB12、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、またはそれらの組み合わせから選択されるビタミンを含む、前記〔23〕~〔29〕のいずれか一項に記載の方法。
〔31〕前記培地が、前記トランスフェクションステップ後に新鮮な培地で変更、補充、置換、または補足されない、前記〔23〕~〔30〕のいずれか一項に記載の方法。
〔32〕前記採取されたバキュロウイルスが、1ミリリットルあたり少なくとも5×10
7
感染性ウイルス粒子(IVP/mL)の力価を有する、前記〔23〕~〔31〕のいずれか一項に記載の方法。
〔33〕前記採取されたバキュロウイルスが、少なくとも1×10
8
IVP/mLの力価を有する、前記〔32〕に記載の方法。
〔34〕前記採取されたバキュロウイルスが、5×10
7
IVP/mL~1×10
10
IVP/mLの力価を有する、前記〔32〕に記載の方法。
〔35〕バキュロウイルスからの標的タンパク質産生の方法であって、
(a)化学的に定義された酵母加水分解物を含まない培地で昆虫細胞を培養することと、
(b)前記昆虫細胞に標的タンパク質を発現するバキュロウイルスを感染させることと、を含む、方法。
〔36〕タンパク質発現エンハンサーを、ステップ(b)の前に前記培地に添加することをさらに含む、前記〔35〕に記載の方法。
〔37〕前記タンパク質発現エンハンサーが、感染の少なくとも10時間前に添加される、前記〔36〕に記載の方法。
〔38〕前記タンパク質発現エンハンサーが、感染の少なくとも12時間~36時間前に添加される、前記〔36〕に記載の方法。
〔39〕前記標的タンパク質発現エンハンサーが、感染の18時間~24時間前に添加される、前記〔36〕に記載の方法。
〔40〕前記標的タンパク質発現エンハンサーが、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を含む、前記〔36〕~〔39〕のいずれか一項に記載の方法。
〔41〕前記HDAC阻害剤が、アピシジン、ベリノスタット、CI-994、CRA-024781、クルクミン、パノビノスタット、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンA、およびバルプロ酸から選択される、前記〔40〕に記載の方法。
〔42〕前記HDAC阻害剤が、酪酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、リコスタチンA、またはバルプロ酸である、前記〔40〕に記載の方法。
〔43〕前記昆虫細胞が、Sf9細胞である、前記〔35〕~〔42〕のいずれか一項に記載の方法。
〔44〕前記昆虫細胞が、前記培地中で高密度成長が可能である、前記〔35〕~〔43〕のいずれか一項に記載の方法。
〔45〕前記Sf9細胞が、1ミリリットルあたり約2×10
6
~約2×10
8
細胞(細胞/mL)のピーク細胞密度が可能である、前記〔44〕に記載の方法。
〔46〕前記昆虫細胞が、浮遊培養されている、前記〔35〕~〔45〕のいずれか一項に記載の方法。
〔47〕前記感染ステップが、前記昆虫細胞が1ミリリットルあたり3×10
6
細胞(細胞/mL)~1×10
7
細胞/mLの生細胞密度で存在するときに実施される、前記〔35〕~〔46〕のいずれか一項に記載の方法。
〔48〕前記感染ステップが、前記昆虫細胞が80%以上生存しているときに実施される、前記〔47〕に記載の方法。
〔49〕前記昆虫細胞を感染させるために使用される前記バキュロウイルスが、1~10の感染多重度(MOI)を有する、前記〔35〕~〔48〕のいずれか一項に記載の方法。
〔50〕前記昆虫細胞を感染させるために使用される前記バキュロウイルスが、3~7のMOIを有する、前記〔49〕に記載の方法。
〔51〕前記昆虫細胞を感染させるために使用される前記バキュロウイルスが、約5のMOIを有する、前記〔49〕に記載の方法。
〔52〕(c)感染した細胞を一定期間培養して、前記標的タンパク質を産生することをさらに含む、前記〔35〕~〔51〕のいずれか一項に記載の方法。
〔53〕(d)前記標的タンパク質を採取することをさらに含む、前記〔35〕~〔52〕のいずれか一項に記載の方法。
〔54〕ステップ(a)~(d)には、5日~15日を要する、前記〔53〕に記載の方法。
〔55〕前記標的タンパク質が、感染後約24時間~約120時間で採取される、前記〔53〕または〔54〕に記載の方法。
〔56〕前記培地が、タンパク質産生の間に新鮮な培地で置換、補充、または補足されない、前記〔35〕~〔55〕のいずれか一項に記載の方法。
〔57〕前記昆虫細胞が、付着培養されている、前記〔15〕~〔56〕のいずれか一項に記載の方法。
〔58〕前記昆虫細胞が、浮遊培養されている、前記〔15〕~〔56〕のいずれか一項に記載の方法。