(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】エタノール生産経路が抑制された耐酸性酵母及びこれを用いた乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/19 20060101AFI20231204BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231204BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20231204BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20231204BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231204BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231204BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231204BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231204BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N15/31 ZNA
C12N15/53
C12P7/56
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2020557301
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2019002433
(87)【国際公開番号】W WO2019203436
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0044509
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC KCTC13508BP
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ヨン パク
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヨン リー
(72)【発明者】
【氏名】キ・スン リー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-006271(JP,A)
【文献】国際公開第2016/200207(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/030655(WO,A1)
【文献】特表2017-525372(JP,A)
【文献】Christopher D. Skory,Lactic acid production by Saccharomyces cerevisiae expressing a Rhizopus oryzae lactate dehydrogenase gene,J Ind Microbiol Biotechnol,2003年,30,22-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 7/56
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
韓国生命工学研究院生物資源センターにKCTC13508BPとして寄託されているカザクスタニア属(Kazachstania)菌株である耐酸性酵母において、g4423遺伝子であるADH(アルコールデヒドロゲナーゼ)遺伝子が欠失し、ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が
前記ADH遺伝子のプロモーターによって発現調節されるように導入され、乳酸生成能を有する組換え菌株。
【請求項2】
前記ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項1に記載の組換え菌株。
【請求項3】
前記プロモーターが、配列番号3又は配列番号4の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組換え菌株。
【請求項4】
次の段階を含む乳酸の製造方法;
(a)請求項1~3のいずれか一項に記載の組換え菌株を培養して乳酸を生成させる段階;及び
(b)前記生成された乳酸を得る段階。
【請求項5】
配列番号3又は配列番号4の塩基配列で表示されるプロモーターとラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が作動可能に連結されている遺伝子構造物。
【請求項6】
前記ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子構造物。
【請求項7】
配列番号5又は配列番号6の塩基配列で表示されるターミネーターをさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子構造物。
【請求項8】
請求項5に記載の遺伝子構造物を含む組換えベクター。
【請求項9】
請求項5に記載の遺伝子構造物又は請求項8に記載の組換えベクターが導入されている組換え微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール生産経路が抑制された耐酸性酵母を用いた乳酸の製造方法に関し、より詳細には、乳酸生成能が与えられ、エタノール生産経路が抑制された耐酸性酵母及びこれを用いた乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PLA(Polylacic Acid)は、乳酸をラクチドに転換し、これを開環重合して作る生分解性ポリマーであり、その原料である乳酸は発酵によって生産している。PLAは、使い捨て食品容器に広範囲に使用可能であり、単独で或いは組成物や共重合体の形態で、自動車産業を含む様々な産業的プラスチックにも使用可能な強度を有する。また、最近では3Dプリンティングにおいても使用される代表的なポリマーであり、特に、3Dプリンタ使用時に有害ガス及び臭いの発生が少ない、環境にやさしいポリマーである。このような生分解性ポリマーは、最近、全世界的に問題とされている廃プラスチック及び微細プラスチックによって環境破壊が加速化している現実を解決できる有望ポリマーであり、先進各国が導入拡大を推進中であり、PLAをより安価に生産するために、単量体である乳酸の生産性を向上させようと努力している。
【0003】
伝統的な乳酸生産工程は、乳酸菌を用いて生産し、乳酸菌によって生成される乳酸の蓄積によって、酸による菌株死滅或いは成長中止を防止するために、様々な形態のCa塩やアンモニアのような中和剤を用いて、pHを中性pHである6~8に合せながら発酵を進行する。発酵が終了すると微生物を分離するが、塩形態では水中における分離及びラクチド転換が難しいため、硫酸を添加してラクテートを乳酸に転換させながらCa塩はCaSO4の形態で除去する。このような過程は、乳酸よりも多い量の副産物、即ちCaSO4が発生し、工程経済性を低下させてしまう。
【0004】
一方、ラクテートは、L型とD型の光学異性質体を持っている。L型を主に生産する乳酸菌の場合にも、約5~10%のD型を共に生産する場合が多く、D型を主に生産する菌株の場合、D型とL型を共に生産する形態と、D型とエタノールを共に生産する形態で存在するなど、多くの多様性を持っている微生物群がある(Ellen I.Garvie,Microbiological Reviews,106-139,1980)。
このような光学異性質体ラクテートのうち、D型は、主に医療用/薬物伝達用にのみ使用しているが、PLAに適用時にD型ラクチドによる結晶化率が上がりながら熱的特性が良くなる現象が発見され、また、純粋L型ポリマーと純粋D型ポリマーを混合した加工条件によって構造的にステレオコンプレックスPLAが形成される場合、耐熱性が、既存のPLAはもとより、PE/PPよりも高くなる、新しいポリマーが発見されるなど、D型による結晶化度の増加及びこれを用いたPLA物性を強化する方法に対する研究及び商業化が急速に進行され、PLAの適用分野が拡張されている。
【0005】
PLAは、発酵によって乳酸を生産した後、精製工程を経てラクチドに転換する工程が一般的である。ラクチド転換のためには、乳酸を水素化された形態に転換する工程が必要であり、一般の中性発酵へのpHは6~7であるので、多量の硫酸を用いて酸性pHに転換させる。この過程で多量の中和塩が発生し、このような中和塩を除去するための工程投資費及び中和塩の低い価値によって経済性の低下が発生する。
【0006】
一方、自然系で乳酸を生産するラクトバチルス(Lactobacillus)の場合、乳酸生産を商業的性能にするためには、多量の高価栄養分を培地として使用しなければならず、このような過量の栄養成分は、後段工程の重合工程、或いはラクチドを中間体とする場合にはラクチド転換工程に大きな阻害を与えるため、高収率・高純度のポリマー又はその前駆体を得るためには吸着、蒸留、イオン交換のような精製工程費用を必要とし、同様に高い生産費用の原因になる。このような問題を解決するための方法として、酵母を用いる研究が提示されている。酵母の場合、安価の栄養分を使用しても円滑に成長/発酵を進行するものと知られており、酸性における耐性も高いものと知られている。
【0007】
酸性でよく育つ酵母(以下、耐酸性酵母)を用いて乳酸を生産する場合、発酵時に中和剤を用いて培地をpH6~7に維持する必要がないので、発酵工程が単純になり、また後段の中和剤を除去する精製工程が省かれる。また、酵母は代謝に必要な多くの成分を単独で作るので、細菌、特に、ラクトバチルスに対比して比較的栄養分レベルが低い培地でも培養が可能であり、よって、多くの後段の精製工程を省略でき、生産単価を大きく下げることができる。
【0008】
しかしながら、酵母を利用する乳酸生産技術には前提条件があるが、それは、商業化に適用するためには、菌株発酵性能指標である収率、生産性、乳酸の濃度が乳酸菌の性能に類似するレベルと高く維持されなければならないという前提条件である。
また、多くの文献が酵母を用いた耐酸性乳酸技術開発を主張しているが、実際には、発酵において中和反応を伴ってpHを乳酸のpKa値以上である3.7以上に維持して発酵するときに限って高性能の発酵能を示す場合が多いので、実質的な耐酸性技術とは表現し難く、工程における生産費節減効果も期待し難い(Michael Sauer et al.,Biotechnology and Genetic Engineering Reviews,27:229-256,2010)。
したがって、工程費用を節減できる耐酸性酵母は、中和剤を使用しないか或いは最小量で使用しながら、発酵液のpHがpKa値以下である条件で発酵を終えることが可能でなければならず、発酵の3大指標を乳酸菌と類似のレベルに達成してこそ、商業的適用の意味がある。
【0009】
一般の酵母は、グルコースを発酵するとエタノールを主生産物として代謝し、乳酸を生産する場合はごく稀である。また、高い耐酸性を持っている微生物において乳酸を生産する菌株を選択する確率が非常に低いため、本発明者らはまず、耐酸性に優れた酵母菌株を選別し、選別された菌株に遺伝工学的な方法で乳酸生産能を持たせた。また、実際に選定された耐酸性菌株ライブラリーではいずれもエタノールを生産する菌株が選定された。
【0010】
乳酸の生産代謝回路は、ピルベートにおいて1段階反応によってなされ、この段階はラクテートデヒドロゲナーゼ酵素によって発生し、その後、輸送によって能動/拡散的に細胞外に排出される。このような乳酸を主生産物として発酵するためには、乳酸生産能を導入すると同時に、既存エタノール生産能を除去するための操作も伴われる必要がある。一般に、酵母では、ピルベートからエタノールへの転換は、アセトアルデヒドを経る2段階反応によって進行され、ピルベートからアセトアルデヒドに転換するPDC遺伝子を除去し、LDHを導入する方式が一般的である。
しかし、サッカロマイセスセレビシエのようなクラブツリー陽性酵母では、PDC(pyruvate decarboxylase)を完全に遮断する場合、細胞の脂質合成に必要なサイトゾルアセチル-CoAの供給が進行されず、成長が大きく阻害され、PDCを完全遮断しないと、LDHとピルベートといった同一基質に対する競合によってエタノール生産を完全に遮断できず、このため、収率を乳酸菌レベルに上げることができない問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明者らは、耐酸性酵母を選別し、前記酵母に乳酸生産能を与えるために鋭意努力した結果、前記耐酸性酵母においてエタノール生産代謝経路のADH遺伝子を乳酸生産代謝経路のLDH遺伝子に置換する場合、LDHの発現が顕著に増加し、乳酸生成能が増加することを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、エタノール生成が抑制され、高い乳酸生成能を有する組換え耐酸性酵母を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記組換え耐酸性酵母を用いて乳酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、耐酸性酵母YBC菌株(KCTC13508BP)においてg4423遺伝子が欠失又は弱化し、ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されている、乳酸生成能を有する組換え菌株を提供する。
本発明はまた、(a)前記組換え菌株を培養して乳酸を生成させる段階;及び(b)前記生成された乳酸を得る段階を含む乳酸の製造方法を提供する。
本発明はまた、配列番号2の塩基配列で表示されるプロモーターとラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が作動可能に連結されている遺伝子構造物及び前記構造物を含む組換えベクターを提供する。
本発明はまた、前記遺伝子構造物又は前記組換えベクターが導入されている組換え微生物を提供する。
本発明はまた、(a)前記組換え微生物を培養して乳酸を生成させる段階;及び(b)前記生成された乳酸を得る段階を含む乳酸の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】既存に知られた
S.cerevisiae菌株と本発明で使用した耐酸性菌株であるYBC菌株の、乳酸に対する耐性を比較した結果を示すものである。
【
図2】YBC菌株においてADH候補遺伝子の発現量を確認した結果を示すものである。
【
図3】野生型YBC菌株とG4423ノックアウト菌株のエタノール生成能を確認した結果を示すものである。
【
図4】LDHを対立遺伝子別に発現したり或いは目的遺伝子を除去するための遺伝子カセットの例である。(a)は、g4423の対立遺伝子1にLDHを発現するカセットであり、(b)は、g4423の対立遺伝子2にLDHを発現するカセットであり、(c)は、目的遺伝子を除去するためのカセットの一例である。
【
図5】3種の菌株由来LDHを導入したYBC組換え菌株の乳酸生成能を確認した結果を示すものである。
【
図6】YBC菌株のg4423遺伝子の座にLDH遺伝子を2コピー導入した組換え菌株の乳酸生成能を確認した結果を示すものである。
【
図7】YBC菌株のg4423遺伝子の座にLDH遺伝子を2コピー導入した組換え菌株のpH別乳酸生成能を比較した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に定義されない限り、本明細書で使われた技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家に通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われた命名法は、本技術分野でよく知られており、通常用いられるものである。
【0016】
耐酸性酵母は、酸性pHにおいても糖を速い速度で消耗し、高い成長率を示し、発酵条件では、消耗した糖を産物に転換する特徴を有する。本発明では、このような特徴を有する酵母を様々な酵母ライブラリーを用いて選別し、選別された菌株は、乳酸濃度が40~80g/Lである条件でも高い成長性及び糖消耗速度を示した。このような選別された菌株を対象にして遺伝工学を用いた代謝回路調節を行った。
【0017】
代謝回路調節方法について前述したように、今まで多くの研究者らは、ピルベートで競合反応によって進行されるピルビン酸デカルボキシラーゼ酵素を除去してエタノールを減少する研究を進行しており、これについて、Cargill、Toyota、サムスンなどで多くの先行研究を発表したことがある(US7534597号、US7141410B2号、US9353388B2号、JP4692173B2号、JP2001-204464A号、JP4095889B2号、KR1686900B1号)。このようなPDCの除去によるエタノール減少の効果は、非常に直接的であり、且つ効果が大きいが、酵母の場合、PDCの除去がもたらす深刻な副作用があり、特に、クラブツリー陽性のようにエタノール発酵が非常に強い菌株ではこの副作用がより大きくなる(Yiming Zhang,et al.,Microbial Cell Factory,14:116,2015)。酵母において重要代謝産物であるアセチル-CoAは、ミトコンドリアではPdh酵素によって供給されるが、細胞質では糖から代謝でPDC経路を通じてアセトアルデヒドを生産する。したがって、PDC遺伝子を除去すると細胞質内アセチル-CoAの供給が中断され、これによって脂肪酸生成が中断され、細胞の成長阻害を誘発し、グルコースによる呼吸関連遺伝子が抑制されてミトコンドリア内のTCA回路が弱化するクラブツリー陽性菌株ではこのような現象が非常に強化される。このようなサイトゾルアセチル-CoAは、他の副反応経路で供給されてもよいが、深刻な成長阻害によって、発酵産物の生産速度の阻害につながり、商業用菌株としての価値がなくなる。このような副作用に対しては、変異/進化によってアセチル-CoAの間接的供給回路が強化された菌株を作る必要があるが、このような進化には長期間の研究が要され、効果も菌株別に異なることがあり、正確なメカニズムも知られていない。
【0018】
これと異なる接近方法としては、PDCの次の段階でADHを遮断して、アセトアルデヒドからエタノールの転換を防ぐ方法を用いることができる。このADHの遮断を用いる方法は、前記のサイトゾルアセチル-CoAの供給不足による成長阻害はないが、ADHの遮断によって、エタノールの前駆体であるとともに毒性物質であるアセトアルデヒドが蓄積され、成長が阻害される。このようなADHの遮断によるアセトアルデヒド蓄積は、ラクテート代謝経路を強く発現できるように導入して解消できる。ラクテート代謝は、アセトアルデヒドの上の段階の反応物であるピルベートから転換されるので、この経路が強化されるほどPDC及びADHへのフラックスは自然に減少し、このような自然的なフラックスの減少は、アセトアルデヒドの蓄積濃度を減少させることができる。このような背景で、本発明ではADHを遮断しながらラクテート生産を上げる酵母菌株を開発するに至った。
【0019】
したがって、本発明は、一観点において、耐酸性酵母YBC菌株(KCTC13508BP)においてg4423遺伝子が欠失又は弱化し、ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されている乳酸生成能を有する組換え菌株に関する。
【0020】
酵母のエタノール生産能は非常に強く、特に、クラブツリー効果を有する酵母の場合、糖濃度が高いと、酸素の存在下でもエタノールを生産して糖を消耗する。このような強いエタノール生産能は、酵素の高い活性及びこれを強く発現するプロモーターの作用によるものであり、したがって、このようなエタノール生産能をラクテート生産能に変えるためには、強いLDH酵素と共に強いプロモーターを使用する必要がある。そのために、本発明者らは、既存に知られた様々なサッカロマイセスセレビジエのプロモーターを用いて発現量を上げる研究をしたが、所望の発現量を示すプロモーターを確保できなかった。
【0021】
一般に、プロモーターは様々な調節機序を持っており、それによって菌株別に特化される場合が多いので、本発明では対象菌株であるYBC菌株(KCTC13508BP)の解糖過程及びエタノール生産遺伝子に対して発現量を確認し、最も強く発現されるADH遺伝子としてg4423遺伝子を確認した。確認されたADH遺伝子(g4423遺伝子)を、強い活性を持つLDH遺伝子に取り替えた後、g4423プロモーターを用いてLDH遺伝子を発現させると、YBC菌株のエタノール生成フラックスがラクテート生成フラックスに変わると考えた。また、YBC菌株に導入するLDH遺伝子はそれから作られる酵素の活性にも強い必要があるが、基質であるピルベートに対して、YBC菌株内のPDC遺伝子と競合しなければならず、ピルベートに対する選択度が良好である必要がある(すなわち、Km値が低い必要がある)。しかし、Km値をin vitroで測定することは測定条件による値の差が大きいので、in vivoにおける結果に基づいてLDHの選択度を判定することが好ましい。したがって、高い活性と低いKm値を用いて、ラクテートをよく生産するLDH遺伝子を選択する必要があり、該当特性を確実に確認するために、YBC菌株のg4423遺伝子部位に様々な公知のLDH遺伝子を直接導入してラクテート生産能を比較し、最適の遺伝子を選択した。
本発明において、前記ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、g4423遺伝子のプロモーター(配列番号3又は配列番号4)によって発現調節されるように導入されていることを特徴とし得る。
【0022】
本発明において、前記ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、ラクトバチルスプランタルム由来であることを特徴とし、配列番号1で表示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子であることを特徴とし得る。
【0023】
本発明において、前記g4423遺伝子の欠失又は弱化によって、親菌株であるYBC菌株(KCTC13508BP)に比べてエタノール生成能が減少することを特徴とし得る。
本発明の一態様では、前記ラクトバチルスプランタルム由来のLDHをg4423遺伝子に代えて挿入したYBCの組換え菌株において57.1g/Lのラクテートを生成した。
【0024】
したがって、本発明は、他の観点において、(a)前記組換え菌株を培養して乳酸を生成させる段階;及び(b)前記生成された乳酸を得る段階を含む乳酸の製造方法に関する。
【0025】
本発明によって、ラクテート生産が大きく増加し、エタノール生産が大きく減少した、優れた耐酸性菌株を確保することができる。
【0026】
さらに他の観点において、本発明は、配列番号3又は配列番号4の塩基配列で表示されるプロモーターとラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が作動可能に連結されている遺伝子構造物及び前記構造物を含む組換えベクターに関する。
【0027】
本発明において、前記遺伝子構造物は、配列番号5又は配列番号6の塩基配列で表示されるターミネーターをさらに含むことを特徴とし得る。
【0028】
本発明において、前記ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子であることを特徴とし得る。
【0029】
さらに他の観点において、本発明は、前記遺伝子構造物又は前記組換えベクターが導入されている組換え微生物、及び(a)前記組換え微生物を培養して乳酸を生成させる段階;及び(b)前記生成された乳酸を得る段階を含む乳酸の製造方法に関する。
【0030】
前記g4423プロモーターは配列番号3又は配列番号4の配列と好ましくは90%以上、92%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%の配列相同性を示す配列を有することができる。
本発明のg4423プロモーターと90%以上の相同性を有しながら同等なレベルの発現効率を示すと、実質的に均等なプロモーターと言えよう。
場合によって、本発明に係るg4423プロモーターは、目的遺伝子の発現効率を上げるために、当業界に知られた公知の技術を適用して変異させてもよい。
【0031】
本発明において、組換え酵母は耐酸性があることを特徴とし、本発明に適した耐酸性組換え酵母を作製するためには、有機酸に耐酸性を持つ宿主酵母を使用することが好ましい。
前記耐酸性酵母は、サッカロマイセス属、カザクスタニアサッカロマイセス及びカンジダ属からなる群から選ばれる耐酸性を有する酵母であり得、例えば、サッカロマイセスセレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、カザクスタニアエクシグア(Kazachstania exigua)、カザクスタニアブルデリ(Kazachstania bulderi)、及びカンジダフミリス(Candida humilis)からなる群から選ばれることを特徴とするが、これに限定されない。
【0032】
‘耐酸性酵母’とは、3-HP又は乳酸などの有機酸に対する抵抗性を持つ酵母を意味するものであり、耐酸性は、様々な濃度の有機酸を含む培地における生長を評価して確認することができる。すなわち、‘耐酸性酵母’とは、高濃度の有機酸を含む培地内で一般酵母に比べて高い生長率及びバイオマス消耗率を示す酵母を意味する。
【0033】
本発明において、‘耐酸性酵母’は、有機酸のpKa値未満のpHにおいて、培地に有機酸が含まれていない場合に比べて、培地に1M以上の有機酸(特に、乳酸)が含まれている場合、少なくとも10%のバイオマス消耗率(糖消耗率など)又は少なくとも10%の比生長率を維持できる酵母と定義する。より具体的に、本発明において、‘耐酸性酵母’は、pH 7の場合に比べて、pH2~4において少なくとも10%のバイオマス消耗率(糖消耗率など)又は少なくとも10%の比生長率を維持できる酵母と定義する。
【0034】
本発明に係る組換え酵母は、通常の方法によって前記遺伝子を宿主酵母の染色体に挿入させたり、或いは前記遺伝子を含むベクターを宿主酵母に導入させることによって製造できる。
前記宿主酵母は、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主細胞が通常使用され、本発明の一実施例では耐酸性酵母を使用したが、これに限定されず、十分な目的DNAの発現が可能ないかなる種類の酵母も使用可能である。
【0035】
前記組換え酵母は、任意の形質転換方法によって製造できる。“形質転換”とは、DNAを宿主に導入し、DNAが染色体の因子として又は染色体統合完成によって複製可能になることであり、外部のDNAを細胞内に導入して人為的に遺伝的な変化を起こす現象を意味する。一般の形質転換方法には電気穿孔法、酢酸リチウム-PEG法などがある。
【0036】
また、本発明において、遺伝子を宿主微生物の染色体上に挿入する方法は、通常知られた任意の遺伝子操作方法を利用することができ、一例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ-関連ウイルスベクター、ヘルペスシンプレックスウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、非ウイルス性ベクターなどを用いる方法がある。“ベクター”は、適切な宿主内でDNAを発現させることができる適切な調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含有するDNA製造物を意味する。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子又は簡単に潜在的ゲノム挿入物であり得る。適切な宿主に形質転換されると、ベクターは、宿主ゲノムに関係なく複製し機能可能になるか、或いは、一部の場合に、ゲノム自体に統合可能になる。プラスミドが現在ベクターの最も一般的に用いられる形態であり、また、線形化したDNAも酵母のゲノムインテグレーションのために通常使用する形態である。
【0037】
典型的なプラスミドベクターは、(a)宿主細胞当たりにプラスミドベクターを含むように効率的に複製がなされるようにする複製開始点、(b)プラスミドベクターで形質転換された宿主細胞の選抜を可能にする抗生剤耐性遺伝子又は栄養要求マーカー遺伝子、及び(c)外来DNA切片を挿入可能にする制限酵素切断部位を含む構造を有する。適切な制限酵素切断部位が存在しなくても、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用すると、ベクターと外来DNAを容易にライゲーションできる。
【0038】
なお、前記遺伝子は、他の核酸配列と機能的関係で配置されるときに“作動可能に連結”される。これは、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合する時、遺伝子発現を可能にする方式で連結された遺伝子及び調節配列であり得る。例えば、前配列又は分泌リーダに対するDNAは、ポリペプチドの分泌に参加する前タンパク質として発現する場合、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結され;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又はリボソーム結合部位は、配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又はリボソーム結合部位は、翻訳を容易にするように配置される場合、コーディング配列に作動可能に連結される。
【0039】
一般に、“作動可能に連結された”とは、連結されたDNA配列が接触し、また、分泌リーダの場合、接触し、リーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサーは接触する必要がない。これらの配列の連結は、便利な制限酵素部位においてライゲーション(連結)によって行われる。このような部位が存在しない場合、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
【0040】
勿論、全てのベクターが本発明のDNA配列を発現する上で全て同等に機能を発揮するわけではなく、同様に、全ての宿主が同一の発現システムに対して同一に機能を発揮するわけでもない。しかし、当業者であれば、過度な実験的負担無しに、本発明の範囲から逸脱しない状態で、他の様々なベクター、発現調節配列及び宿主の中から適切に選択して適用することができる。例えば、ベクターを選択するに当たっては宿主を考慮しなければならないが、これは、ベクターがその中で複製される必要があるためであり、ベクターの複製数、複製数を調節できる能力及び当該ベクターによってコードされる他のタンパク質、例えば、抗生剤マーカーの発現も考慮される必要がある。
【0041】
本発明において、炭素源はグルコース、キシロース、アラビノース、スクロース、フルクトース、セルロース、ガラクトース、グルコースオリゴマー及びグリセロールからなる群から選ばれる一つ以上であることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0042】
本発明において、培養は、微生物、例えば大腸菌などがそれ以上作用できないように(例えば、代謝体生産不可能に)する条件で行うことができる。例えば、培養は、pH1.0~6.5、好ましくはpH1.0~6.0、より好ましくはpH2.6~4.0であることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【0043】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものとして解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例】
【0044】
実施例1:耐酸性菌株YBCの選定及び効果
本発明者らは、様々な酵母菌株に対するテストによって、耐酸性を有する菌株群を選別したことがある(大韓民国特許公開第2017-0025315号)。前記選別された酵母菌に対して乳酸を培養初期に培地に添加し、微生物の成長及び糖消耗速度を確認しながら耐酸性に最も優れた菌株を選別した。このとき、接種ODは4にし、培地は、YP培地(20g/Lペプトン、10g/L酵母抽出物)にグルコース3.5%を使用し、50mlのフラスコ培養で30℃、100rpm条件において実験を行ったが、乳酸濃度は各初期60g/Lにして培養を行った。その結果を比較分析し、耐酸性に最も優れた菌株であるYBC菌株(Kazachstania exigua s B-018c)を選定し、2018年4月11日付に寄託機関韓国生命工学研究院生物資源センターに(KCTC13508BP)として寄託した。
【0045】
系統分析から、YBC菌株は
S.cerevisiaeと類似の菌株であり、2倍体の遺伝子を持っており、クラブツリー陽性の特性を有するということを確認した。
選別された耐酸性YBC菌株の耐酸性を確認するために、
S.cerevisiae(CEN.PK113-7D)菌株と同一の条件で培養をした。40g/Lのグルコース濃度のYP培地に30g/L及び60g/Lの乳酸をそれぞれ添加した後、30℃、200rpmで50時間培養しながら、培養液のOD値を比較した。
図1に示すように、YBC菌株は60g/Lの高濃度乳酸環境でも成長可能であるが、
S.cerevisiae CEN.PK菌株は60g/Lの乳酸濃度で全く成長できないことが確認できた。
【0046】
実施例2:YBC菌株においてアルコール生産遺伝子の発現率を確認して主発現遺伝子確認
本実施例では、YBC菌株においてグルコース存在下で強く発現する解糖過程及びエタノール生産関連遺伝子を対象に強い発現と共に該当遺伝子置換時に成長に影響がないながらも効果が高い遺伝子を選択する目的で、ADH遺伝子をターゲットとした。特に、微生物成長に直接的な影響を与えないためには解糖過程に関連した遺伝子を回避しなければならないが、これは、解糖過程関連遺伝子がなくなるか或いは弱化する場合、微生物成長に重要なピルベート生成が抑制されたり或いは連鎖反応のバランスに問題が生じて微生物の成長に影響を与え、結論的に発酵能が低下するためである。したがって、遺伝子置換のための内在遺伝子としては、対象菌株がエタノール生産菌株である場合は、PDC遺伝子或いはADHの遺伝子の中から選択し、PDCのノックアウト(K/O)時の陰性効果を考慮して、ADHを選択して除去するものとして選定した。
酵母のようにエタノール発酵能が強い菌株は、非常に様々な強度及び役割を担当するADHが存在し、YBC菌株のADHのうち、エタノール生産を担当する主なADHを確認し、該当プロモーターを使用するためにYBCの遺伝体情報及びS.cerevisiaeの知られたADH遺伝子情報を比較して様々な候補遺伝子を選定し、それに対するqPCRを行った。
ゲノム全配列データ(Genome Full sequencing Data)においてS.cerevisiae及びバイオインフォマティクス情報を用いてYBC菌株のゲノムに存在するADH遺伝子候補を7種選別し、選別遺伝子に特異的なオリゴマーをデザインしてRT-qPCRを行った。
S.cerevisiaeのゲノム全配列データにおいてバイオインフォマティクス情報を用いてADH遺伝子候補を7種選別し(表1)、選別遺伝子に特異的なオリゴマーをデザイン(表2)してRT-qPCRを行った。
【0047】
【0048】
【0049】
その結果、
図2に示すように、g4423遺伝子の発現量が顕著に高く現れ、g4423が主エタノール生産遺伝子として確認された。
【0050】
実施例3:YBC菌株においてg4423を除去してエタノール生成低下効果確認
実施例2で確認されたYBC菌株の主ADHであるg4423をノックアウトさせた組換え菌株を作製し、ADH除去が菌株の成長に及ぼす影響を確認した。
g4423及びUTRの情報に基づいてg4423 ORFが除去され、5’及び3’UTR及び抗生剤マーカーがある、
図4(c)と類似の遺伝子カセットを作製し、ドナーDNAとして使用した。ドナーDNAの作製には、前述したように、制限酵素を用いたクローニング方法とギブソンアセンブリを用いた方法が用いられた。作製されたドナーDNAを導入し、マーカー遺伝子に対応するプレートで育ったコロニーに対して、g4423を確認するためのORF用プライマー(Primer forward(配列番号43):GAGATAGCACACCATTCACCA、Primer reverse(配列番号44):CAACGTTAAGTACTCTGGTGTTTG)を用いて、ORFが除去されたことを確認した。
前記作製されたg4423ノックアウト菌株を、40g/Lのグルコース濃度を持つYP培地で150ml培養し、30℃、200rpmで培養した。
【0051】
その結果、
図3に示すように、g4423ノックアウト菌株(
図3のB)は、エタノール生成能が野生型YBC菌株(
図3のA)に比べて顕著に減少したことが確認でき、ADH活性弱化によってNADH酸化反応が制限されてグルコース取り込み能力が低下し、これによる成長低下とこれを補完するためのグリセロール生産増大などの特徴を示した。
【0052】
実施例4:g4423プロモーターを用いた公知のLDH遺伝子の発現及び最適LDH選定
YBC菌株に導入するLDH遺伝子の候補遺伝子を文献から選別し(N.Ishida et.al.,Appl.Environ.Micobiol.,1964-1970,2005;M.Sauer et al.,Biotechnology and Genetic Engineering Reviews,27:1,229-256,2010)、L.helveticus由来LDH遺伝子、R.oryzae由来LDH遺伝子及びL.plantarum由来LDH遺伝子の、総3種の遺伝子を選定した。
各酵素の遺伝子は、前記文献から、酵母において発現時に発現量がよく、ラクテートをよく生産するLDHを選択し、可能な限り、pH<pKaである酸性条件で性能がpH>pKaよりも高い一般pHにおける性能差が少ない酵素を選択した。また、NADH以外の補酵素としてフルクトース-1,6-ジホスフェートを必要としない遺伝子を選択した。該当遺伝子のKm値に対しては多くの文献でその値を比較でき、比較的Km値が低くてYBC内部のPDC酵素と競合時に多くのフラックスを生成できるものを選択した。しかし、Km値の場合、in-vitroで測定時に培地、基質濃度、補酵素濃度などによってその値が変わるため、実際の性能は、各菌株内で発酵結果から直接確認しなければならない。
したがって、前記選定された3種の遺伝子をそれぞれYBC菌株に導入して、g4423プロモーターを用いる組換え菌株を作製した後、各組換え菌株の乳酸生成能を確認した。
【0053】
g4423及びUTRの情報に基づいて、g4423 ORFが除去され、5’及び3’UTR及び抗生剤マーカーがある、
図4(a)の遺伝子カセットを作製し、g4423のORF座には3種のLDHに対して酵母コドン利用で最適化された配列(配列番号2、8及び10の遺伝子配列と配列番号1、7及び9のアミノ酸配列に各ラクトバチルスプランタルム(
Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルスヘルベティカス(
Lactobacillus helveticus)、リゾプスオリーゼ(
Rhizopus oryzae)のLDHを合成した後、制限酵素を用いて導入した。
完成されたカセットにおいてドナーDNAを増幅し、これをYBC菌株に形質転換して、成長したコロニーに対して、g4423 ORFを確認するプライマー(Primer forward ORF inside(配列番号45):CAACGTTAAGTACTCTGGTGTTTG、Primer reverse ORF inside(配列番号46):GAGATAGCACACCATTCACCA、Primer forward ORF outside(配列番号47):5’GGATTCCTGTAATGACAACGCGAG、Primer reverse ORF outside(配列番号48)3’:TGGATACATTACAGATTCTCTATCCT)と各LDHのORFが存在することを確認することによって、次のプライマーを用いて各LDHが1コピー導入されたことを確認した。
【0054】
L.helveticus Primer forward(配列番号49):ATGAAAATTTTTGCTTATGG
L.helveticus Primer reverse(配列番号50):TTAATATTCAACAGCAATAG;
R.oryzae Primer forward(配列番号51):ATGGTTTTGCATTCTAAAGT
R.oryzae Primer reverse(配列番号52):TTAACAAGAAGATTTAGAAA
L.plantarum Primer forward(配列番号53):ATGTCTTCTATGCCAAATCA
L.plantarum Primer reverse(配列番号54):TTATTTATTTTCCAATTCAG
【0055】
YBC菌株は2倍体の菌株であるので、LDH遺伝子を1つ挿入した状態でも他のg4423遺伝子が作動しており、このため、エタノール生産量が、完全にノックアウト(K/O)された菌株の程度には減少しない。
前記作製された組換え菌株をフラスコにおいて、YP培地に4%グルコースと150mg/Lのウラシルを添加した培地を用いて、30℃/100rpmで24時間振盪培養した。
培養液中のラクテートとエタノールはHPLCを用いて確認した。培養液中のグルコース、エタノール、L-ラクテートの濃度は、Waters 1525 Binary HPLCポンプにBio-Rad Aminex 87-Hカラムを装着して分析した。グルコースとエタノールは、Waters 2414示差屈折率検出器を用いて分析し、L-ラクテートは、Waters 2489 UV/可視検出器(210nm)を用いて分析し、各成分別に濃度によるピーク面積標準曲線を作成して濃度を計算した。具体的な分析条件は次の通りである。
【0056】
1.移動相条件:0.005MのH2SO4溶液
2.流量:0.6mL/分
3.実行時間:40分
4.カラムオーブン温度:60℃
5.検出器温度:40℃
6.注入量:10μL
7.オートサンプラートレイ温度:4℃
【0057】
その結果、
図5及び表3に示すように、置換された対象遺伝子がいずれもLDH活性を示すことが確認され、
L.plantarum由来LDH遺伝子が導入された菌株が最高の乳酸生成能を示した。
【0058】
表3に、該当LDHの文献に報告されたKm値を表示する。しかし、この数値は同一条件でテストされた酵素間の比較としてのみ使用でき、絶対値の意味はない。当該実験でもKm値が相対的に高いL.plantarum由来の遺伝子から発現したLDHが菌株内でPDC遺伝子と競合してラクテートをよく生産できることを確認した。また、前記結果から、耐酸性菌株YBCにおいてPDCと競合しながら最高の乳酸生成能を示す遺伝子はL.plantarum由来のLDH遺伝子であることを確認した。
【0059】
【0060】
実施例5:選定されたLDHを用いてエタノール生産を遮断し、ラクテート生産能確認
YBC菌株のg4423遺伝子の座に、実施例4で選ばれた
L.plantarum由来のLDH遺伝子を2コピー導入した組換え菌株を作製し、乳酸生成能を確認した。
該当YBC菌株は2倍体であり、2倍体の遺伝子が存在する。本発明者らは、各対立遺伝子別に、
図4の(a)及び(b)のようにそれぞれ異なる抗生剤耐性遺伝子を有するドナーDNAを実施例4の作製方法で完成した後、各対立遺伝子別に2回にわたってYBC菌株に導入した。その後、g4423のORFプライマーを用いてg4423 ORFが完全に除去されたことを確認し、各抗生剤耐性遺伝子が存在することから、2コピーの遺伝子が導入されたことを確認した。抗生剤耐性遺伝子があると今後の遺伝子操作ができない点で、それぞれの抗生剤は、カセットに導入されているCre-loxP法を用いて除去した。
前記組換え菌株を用いて発酵器において乳酸生成能を確認した。培地は、ヘストリン-シュラム培地(グルコース120g/L、ペプトン5g/L、酵母抽出物5g/L、クエン酸1.15g/L、K
2HPO
4 2.7g/L、MgSO
4・7H
2O 1g/L)を使用し、1L体積で発酵器において120g/Lの糖濃度で培養した。培養温度は30℃であり、pH 3に調節し、350~450rpmレベルを維持した。
【0061】
その結果、
図6に示すように、通常、ADHが除去された菌株に見られるアセトアルデヒドによる成長阻害は確認されず、グリセロール生成増加もなかったので、新しく発現されたLDH酵素によってNADHの酸化がよく起こり、内部の酸化還元バランスがよく取れているということが確認できる。また、追加LDHを発現させる場合、NADHの酸化速度がさらに速くなり、ラクテート生産性及び濃度がより増加すると判断される。
【0062】
前記の結果は、既存に知られたADH遮断及び関連LDH発現を用いた結果に比べて大きく進展したものである(Kenro Tokuhiro et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,82:883-890,2009)。まず、エタノール生成が大きく減少したにもかかわらず、糖を円滑に消耗しながらラクテートに転換されることが分かり、グリセロールのレベルが低いということは、強く発現されたLDHによってNADHの酸化反応を充実に行っているということを示し、培養液のOD値から乳酸による耐酸性が維持され、エタノール遮断による中間産物であるアセトアルデヒドの毒性影響が非常に少ないことが確認できた。このような性能指標はまた、さらにエタノール生成を遮断してラクテートに転換する場合、収率、濃度、発酵速度の3大指標が円滑に増加し、商業的使用が可能な菌株の開発という目標が達成可能であることを示す。
【0063】
より詳細に既存技術を挙げて説明すると、前述したように、ADHを遮断する場合、エタノール生産を減少することはできるが、減少の程度に比例してピルベートとエタノールの前駆体であるアセトアルデヒドが蓄積され、細胞に及ぶ毒性が上がる傾向がある。またADHを遮断すると、ADHによって発生するNADHの酸化反応が阻害され、深刻な糖消耗速度の低減及びこれを解消するために別の還元物質であるグリセロール生産増加が発生するが、これは乳酸の生産性減少及び副産物の増加につながる。このとき、LDHを効果的に発現させる場合、LDHによるNADH酸化によって上記のような現象が減少することはあるが、このようなLDHのKm値が細胞内のPDC酵素と競合するため、ラクテートを円滑に生産できるとともに十分な量の酵素が強力に発現してこそ、糖消耗速度阻害及び成長阻害を起こさない程度にNADHが酸化でき、ADH遮断によって発生する問題を解決することができる。既存の技術ではこのような問題を解決し難く、NADHの酸化を促進するために強いエアレーションによるTCAサイクルを作動してそれを緩和させようとしたが、糖消耗速度の減少問題を完全に解決することはできなかった。
関連例を下記表4及び表5に示す。
【0064】
主要ADHが遮断された菌株においてLDHを発現する場合(Adh1(pLdhA68X))、収率生産性及び濃度において顕著に低い値を示すことが分かり、既存技術においてLDHの強い発現と適正なLDHの選定をしない場合、ADH遮断を用いたラクテート生産が難しいことが分かる。また、このような技術を、低いpHで円滑に乳酸を生産するように耐酸性菌株において具現することはより一層難しい。
比較群としてADHが遮断されていない菌株においてLDHをADH1プロモーターによって発現する場合には、LDHによるラクテート生産及び菌株成長がよく進んでいることを分かり(エタノールは、LdhとPDCの競合反応によって生産量が減る効果も見られる。)、前記のネガティブな影響がADHを遮断することによって発生することが分かる。しかし、このようにエタノールが遮断されていない菌株ではピルベートからのラクテート及びエタノールの収率競合によって更なる収率向上が不可能であるということは自明な事実である。
また、ちなみに、PDCの活性が野生型菌株対比2%レベルに残っている菌株にLDHを発現させ、NADHの酸化をLDHが担当しながら乳酸を生産するようにする研究も添付した。該当菌株(YSH4.123.-1C(pLdhA68X))は、前述したように、サイトゾルアセチル-CoAの供給のために野生型対比2%のPDC活性を残した。これによってエタノールが10g/Lで生産されているということを確認し、この値は、乳酸生成を基準にしては10/92×90.08/46.07=0.21の収率損害があるものであり、このようなノックダウンを用いたPDC活性調節だけでは乳酸生産時にエタノール生産の遮断が難しいということが分かる。また、完全にPDC活性を除去する場合には、文献に報告された通り、シトゾルアセチルcoAの供給制限による細胞成長の深刻な阻害があることは、既に周知の事実である。
【0065】
【0066】
【0067】
本発明によって、ラクテート生産が大きく増加し、エタノール生産が大きく減少した優れた耐酸性菌株を確保することができた。
本発明の組換え菌株の耐酸性を確認するために、発酵時のpH条件を、乳酸のpKa値以上であるpH4及びpH5に、塩基であるNaOHを用いて調整しながら発酵して比較した。
【0068】
その結果、
図7に示すように、当該菌株はpKaよりも低いpHにおいても高いpHと類似の性能を示すことが確認でき、これは、既存の酵母を用いた乳酸生産菌株で見られるpKa以下のpHにおける性能低下がない結果であり、当該菌株の耐酸性をよく表すものである。また、本発明の組換え菌株は、120g/Lの糖を全て消耗する性能を、pH3、pH4及びpH5で全て示しており、これもまた、当該菌株の耐酸性をよく表している結果といえよう。表6には、一般の酵母を用いた乳酸生産菌株の開発に見られるpHによる性能低下の例を示す。
【0069】
【0070】
[寄託情報]
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC13508BP
受託日:20180411
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、耐酸性酵母においてエタノール生成を効果的に抑制し、LDH酵素を強い発現と高い効率で発現することによって、低いpHにおいても成長低下無しで乳酸を高収率で生産することができる。
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【配列表】