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特許7395523医用画像処理装置および医用画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】医用画像処理装置および医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20231204BHJP
【FI】
A61B6/03 360Z
A61B6/03 360D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021015118
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118536
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳奈
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000618(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012323(WO,A1)
【文献】特表2016-523154(JP,A)
【文献】特開2002-024820(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241030(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0232269(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射して得られる投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像を生成する差分画像生成部と、
前記差分画像において局所分散を算出する局所分散算出部と、
予め求められる補正関数を用いて前記局所分散を補正することで、前記被検体の断層画像のノイズ強度を推定するノイズ推定部と、を備える医用画像処理装置であって、
前記補正関数にはシステムノイズが含まれ
前記局所分散がVarD、前記ノイズ強度がVarC、スキャナの回転中心からの距離がs 、前記補正関数がα(s)、β(s)であるとき、前記ノイズ強度VarCは、VarC=VarD/{α(s)+√( α(s)^2+β(s)・VarD)}によって算出されることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記システムノイズは、前記放射線が検出されてからデジタル信号に変換されるまでの過程において検出回路で発生するノイズであることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項3】
請求項に記載の医用画像処理装置であって、
前記補正関数α(s)、β(s)は、一様な物質が充填されたファントムの投影データに基づいて、撮影条件毎に求められることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記ノイズ推定部は、前記ノイズ強度をマッピングすることによりノイズ強度マップを生成し、前記被検体の断層画像とともに表示させることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項5】
請求項に記載の医用画像処理装置であって、
前記被検体の断層画像に設定されるROIのノイズ強度に基づいて、前記被検体の断層画像にノイズ低減処理を施すことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項6】
被検体に放射線を照射して得られる投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像を生成する差分画像生成ステップと、
前記差分画像において局所分散を算出する局所分散算出ステップと、
予め求められる補正関数を用いて前記局所分散を補正することで、前記被検体の断層画像のノイズ強度を推定するノイズ推定ステップと、を備える医用画像処理方法であって、
前記補正関数にはシステムノイズが含まれ
前記局所分散がVarD、前記ノイズ強度がVarC、スキャナの回転中心からの距離がs 、前記補正関数がα(s)、β(s)であるとき、前記ノイズ強度VarCは、VarC=VarD/{α(s)+√( α(s)^2+β(s)・VarD)}によって算出されることを特徴とする医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置によって得られる医用画像を扱う医用画像処理装置および医用画像処理方法に係り、医用画像のノイズ強度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、被検体の周囲からX線を照射して複数の投影角度における投影データを取得し、投影データを逆投影することによって、画像診断用の断層画像を再構成する装置である。X線CT装置では、被検体のX線被ばくを低減するために、低線量撮影で得た断層画像において推定される局所的なノイズ強度に基づいて、当該断層画像の画質改善が図られている。
【0003】
特許文献1には、分割された投影データ毎に断層画像を再構成し、断層画像間の差分画像において算出される画素値のばらつきを、予め求められた補正値によって補正することでノイズ強度を推定することが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6713860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、X線検出器のコストダウンにともなって増加するシステムノイズに対する配慮がなされておらず、システムノイズの比率が高まるにつれてノイズ強度の推定精度が低下する。
【0006】
そこで本発明の目的は、システムノイズの比率が高まってもノイズ強度の推定精度を維持することが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、被検体に放射線を照射して得られる投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像を生成する差分画像生成部と、前記差分画像において局所分散を算出する局所分散算出部と、予め求められる補正関数を用いて前記局所分散を補正することで、前記被検体の断層画像のノイズ強度を推定するノイズ推定部と、を備える医用画像処理装置であって、前記補正関数にはシステムノイズが含まれることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、被検体に放射線を照射して得られる投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像を生成する差分画像生成ステップと、前記差分画像において局所分散を算出する局所分散算出ステップと、予め求められる補正関数を用いて前記局所分散を補正することで、前記被検体の断層画像のノイズ強度を推定するノイズ推定ステップと、を備える医用画像処理方法であって、前記補正関数にはシステムノイズが含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、システムノイズの比率が高まってもノイズ強度の推定精度を維持することが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】医用画像処理装置の全体構成図
図2】医用画像撮影装置の一例であるX線CT装置の全体構成図
図3】医用画像処理装置の機能ブロック図
図4】補正関数の算出処理の流れの一例を示す図
図5】差分画像の生成処理の流れの一例を示す図
図6A】ファンビーム形式の投影データを説明する図
図6B】パラレルビーム形式の投影データを説明する図
図7】被検体の断層画像のノイズ推定処理の流れの一例を示す図
図8】ノイズ低減処理の流れの一例を示す図
図9】ROIの設定画面の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法の実施例について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【実施例1】
【0012】
図1は医用画像処理装置1のハードウェア構成を示す図である。医用画像処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、記憶装置4、ネットワークアダプタ5がシステムバス6によって信号送受可能に接続されて構成される。また医用画像処理装置1は、ネットワーク9を介して医用画像撮影装置10や医用画像データベース11と信号送受可能に接続されるとともに、表示装置7と入力装置8が接続される。ここで、「信号送受可能に」とは、電気的、光学的に有線、無線を問わずに、相互にあるいは一方から他方へ信号送受可能な状態を示す。
【0013】
CPU2は、各構成要素の動作を制御する装置である。CPU2は、記憶装置4に格納されるプログラムやプログラム実行に必要なデータをメモリ3にロードして実行し、医用画像に対して様々な画像処理を施す。メモリ3は、CPU2が実行するプログラムや演算処理の途中経過を記憶するものである。記憶装置4は、CPU2が実行するプログラムやプログラム実行に必要なデータを格納する装置であり、具体的にはHHD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid state Drive)等である。ネットワークアダプタ5は、医用画像処理装置1をLAN、電話回線、インターネット等のネットワーク9に接続するためのものである。CPU2が扱う各種データはLAN(Local Area Network)等のネットワーク9を介して医用画像処理装置1の外部と送受信されても良い。
【0014】
表示装置7は、医用画像処理装置1の処理結果等を表示する装置であり、具体的には液晶ディスプレイ等である。入力装置8は、操作者が医用画像処理装置1に対して操作指示を行う操作デバイスであり、具体的にはキーボードやマウス、タッチパネル等である。マウスはトラックパッドやトラックボール等の他のポインティングデバイスであっても良い。
【0015】
医用画像撮影装置10は、例えば被検体の投影データを取得し、投影データから断層画像を再構成するX線CT(Computed Tomography)装置であり、図2を用いて後述される。医用画像データベース11は、医用画像撮影装置10によって取得された投影データや断層画像等を記憶するデータベースシステムである。
【0016】
図2を用いて医用画像撮影装置10の一例であるX線CT装置100の全体構成を説明する。なお、図2において、横方向をX軸、縦方向をY軸、紙面に垂直な方向をZ軸とする。X線CT装置100は、スキャナ200と操作ユニット250を備える。
【0017】
スキャナ200は、X線管211、検出器212、コリメータ213、駆動部214、中央制御部215、X線制御部216、高電圧発生部217、スキャナ制御部218、寝台制御部219、コリメータ制御部221、プリアンプ222、A/Dコンバータ223、寝台240等を有する。
【0018】
X線管211は寝台240上に載置された被検体210にX線を照射する装置である。X線制御部216から送信される制御信号に従って高電圧発生部217が発生する高電圧がX線管211に印加されることによりX線管211から被検体にX線が照射される。
【0019】
コリメータ213はX線管211から照射されるX線の照射範囲を制限する装置である。X線の照射範囲は、コリメータ制御部221から送信される制御信号に従って設定される。
【0020】
検出器212は被検体210を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置である。検出器212はX線管211と対向配置され、X線管211と対向する面内に多数の検出素子が二次元に配列される。検出器212で計測された信号はプリアンプ222で増幅された後、A/Dコンバータ223でデジタル信号に変換される。検出器212によるX線の検出からA/Dコンバータ223によるデジタル信号への変換までの過程において、検出回路で発生するノイズであるシステムノイズがデジタル信号に付加される。その後、デジタル信号に対して、対数変換処理を含む様々な補正処理が行われ、投影データが取得される。
【0021】
駆動部214はスキャナ制御部218から送信される制御信号に従って、X線管211と検出器212とを被検体210の周囲で回転させる。X線管211と検出器212の回転とともに、X線の照射と検出がなされることにより、複数の投影角度からの投影データが取得される。投影角度毎のデータ収集単位はビューと呼ばれる。二次元に配列された検出器212の各検出素子の並びは、検出器212の回転方向がチャネル、チャネルに直交する方向が列と呼ばれる。投影データはビュー、チャネル、列によって識別される。
【0022】
寝台制御部219は寝台240の動作を制御し、X線の照射と検出がなされる間、寝台240を静止させたままにしたり、Z軸方向に等速移動させたりする。寝台240を静止させたままのスキャンはアキシャルスキャン、寝台240を移動させながらのスキャンはらせんスキャンとそれぞれ呼ばれる。
【0023】
中央制御部215は以上述べたスキャナ200の動作を、操作ユニット250からの指示に従って制御する。
【0024】
次に操作ユニット250について説明する。操作ユニット250は、再構成処理部251、画像処理部252、記憶部254、表示部256、入力部258等を有する。
【0025】
再構成処理部251は、スキャナ200で取得された投影データを逆投影することにより、断層画像を再構成する。画像処理部252は断層画像を診断に適した画像にするため、様々な画像処理を行う。記憶部254は投影データや断層画像、画像処理後の画像を記憶する。表示部256は断層画像や画像処理後の画像を表示する。入力部258は投影データの取得条件(管電圧、管電流、スキャン速度等)や断層画像の再構成条件(再構成フィルタ、FOVサイズ等)を操作者が設定する際に用いられる。
【0026】
なお、操作ユニット250が図1に示した医用画像処理装置1であっても良い。その場合、は、再構成処理部251や画像処理部252がCPU2に、記憶部254が記憶装置4に、表示部256が表示装置7に、入力部258が入力装置8に、それぞれ相当することになる。
【0027】
図3を用いて本実施例の機能ブロック図について説明する。なお図3に示される各機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等が用いられる専用のハードウェアで構成されても良いし、CPU2上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では本実施例の各機能がソフトウェアで構成された場合について説明する。
【0028】
本実施例は、差分画像生成部301、局所分散算出部302、ノイズ推定部303を備える。また記憶装置4には、X線CT装置100で取得された投影データや図4の処理の流れによって算出される補正関数等が記憶される。以下、各構成部について説明する。
【0029】
差分画像生成部301は、投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像を生成する。例えば偶数ビューと奇数ビューに分割された各投影データが再構成された2つの断層画像である偶画像と奇画像との間で、差分画像が生成される。
偶画像と奇画像との差分画像では両画像中の構造物が互いに打ち消されるので、生成される差分画像はノイズを主成分とする画像となる。
【0030】
なお分割された投影データから生成される断層画像に、診断に支障をきたすようなアーチファクトが発生しなければ、投影データは偶数ビューと奇数ビューに限らずいかように分割されても良い。アーチファクトが発生するか否かは、一様なファントムを用いて取得された投影データを用いて予め確認される。
【0031】
局所分散算出部302は、入力された画像の局所分散を算出する。算出された局所分散は、入力された画像のノイズ強度に相当する。局所分散の算出には例えば次式が用いられる。
【0032】
【数1】
【0033】
ここでi、j、kは三次元画像の各画素の座標であり、i=1、2、…、I、j=1、2、…、J、k=1、2、…、Kである。なおi、jを断層画像の各画素の座標とする。またVar(i、j、k)は座標(i、j、k)のNi、Nj、Nk近傍における局所分散、p(i、j、k)は座標(i、j、k)の画素値である。またAve(i、j、k)は座標(i、j、k)のNi、Nj、Nk近傍における画素値の平均であり例えば次式を用いて算出される。
【0034】
【数2】
【0035】
差分画像生成部301で生成される差分画像が局所分散算出部302に入力されれば、差分画像の局所分散が算出される。
【0036】
ノイズ推定部303は、予め求められる補正関数を用いて、差分画像生成部301で生成される差分画像の局所分散を補正することでノイズ強度を推定する。実施例1の補正関数は、システムノイズを含むものであり、既知の材質や形状を有するファントムから取得される投影データを用いて求められ、ネットワークアダプタ5を介して接続される外部装置や、記憶装置4に予め格納される。
【0037】
ここで、システムノイズを含む補正関数を算出するに先立ち、差分画像生成部301で生成される差分画像の局所分散と、ノイズ推定部303によって推定されるノイズ強度との関係を求める。X線光子数の統計揺らぎはポアソン分布に従うので、ポアソン分布の母数をX線光子数λとし、A/Dコンバータ223における変換ゲインをaとすると、A/Dコンバータ223から出力されるデジタル信号の分散VarX1は次式で表される。
【0038】
【数3】
【0039】
またデジタル信号から投影データへの変換過程に対数変換処理が含まれるので、投影データの分散VarAは次式で表される。
【0040】
【数4】
【0041】
なお、数3から数4の導出過程において、対数変換関数をλの周りにおける2次の項までのテイラー展開にて近似したとき、VarX1^2の項の係数が十分に小さく無視できると仮定する。
【0042】
次にデジタル信号の分散にシステムノイズcが加法的に生じる場合、A/Dコンバータ223における変換ゲインをbとすると、A/Dコンバータ223から出力されるデジタル信号の分散VarX2は次式で表される。
【0043】
【数5】
【0044】
また数3から数4の導出過程と同様に、数5から導出される投影データの分散VarDは次式で表される。
【0045】
【数6】
【0046】
数6はλに関して2つの解を有するものの、VarD>0かつc>0の条件下で負になる解はX線光子数として不適であるのでλは次式となる。
【0047】
【数7】
【0048】
分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像は数6の分散VarDを有する投影データから作成され、分割前の投影データが再構成された断層画像は数4の分散VarAを有する投影データから作成されるとする。両投影データが同一のX線を検出することによって取得される場合、数4と数6のX線光子数λは一致するので次式が得られる。
【0049】
【数8】
【0050】
また数8の中のαとβを、スキャナ200の回転中心からの距離sの関数とすることで数8を次式のように表す。
【0051】
【数9】
【0052】
数9は分散VarDと分散VarAとの関係を表す式であり、差分画像生成部301で生成される差分画像の局所分散と、ノイズ推定部303によって推定されるノイズ強度に相当する分割前の投影データが再構成された断層画像の局所分散との関係も表す。またα(s)とβ(s)は分散VarDを分散VarAに補正する補正関数であり、被検体の断層画像のノイズ強度を推定するために予め求められる。
【0053】
図4を用いて、補正関数を算出する処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0054】
(S401)
差分画像生成部301は、一様な物質が充填されたシリンダー状のファントムの投影データを取得する。ファントムの投影データは、ファントムの中心がスキャナ200の回転中心に設置された状態で取得される。ファントムの直径は、撮影視野とほぼ等しいことが望ましい。
【0055】
(S402)
差分画像生成部301は、ファントムの投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像ImgDを生成する。図5を用いて本ステップの処理の流れの一例について説明する。
【0056】
(S501)
差分画像生成部301は、ファンビーム形式である投影データPfをパラレルビーム形式である投影データPpに変換する。ファンビーム形式の投影データは、図6Aに例示されるように、X線管211から扇状に広がって照射されて被検体210を透過したX線ビーム601が、曲面状の検出器212に入射するときの幾何学系に基づくデータ形式である。一方、パラレルビーム形式の投影データは、図6Bに例示されるように、複数のX線管211から互いに平行に照射されて被検体210を透過したX線ビーム601が、平面状の検出器212に入射するときの幾何学系に基づくデータ形式である。
【0057】
実施例1では、X線管211が単数であっても取得可能なファンビーム形式の投影データPfがファン―パラレル変換によってパラレルビーム形式の投影データPpに変換される。パラレルビーム形式の投影データPpから再構成される断層画像は、空間分解能がより均一になる。
【0058】
(S502)
差分画像生成部301は、S501で変換された投影データPpを2つの投影データPp1、Pp2に分割する。例えば、投影データPp1は奇数ビューの投影データであり、投影データPp2は偶数ビューの投影データである。
【0059】
(S503)
差分画像生成部301は、S502で分割された各投影データPp1、Pp2をそれぞれ再構成し、2つの断層画像Img1、Img2を生成する。なお投影データPp1の再構成により断層画像Img1が生成され、投影データPp2の再構成により断層画像Img2が生成される。
【0060】
(S504)
差分画像生成部301は、S503で生成された2つの断層画像Img1、Img2を用いて差分画像ImgDを算出する。差分画像ImgDは、一方の断層画像の各画素から他方の断層画像の各画素が差分されることにより、例えばImg1-Img2として算出される。
【0061】
図4の説明に戻る。
【0062】
(S403)
局所分散算出部302は、S402で生成された差分画像ImgDの局所分散VarDを算出する。局所分散VarDの算出には、例えば数1が用いられる。
【0063】
(S404)
S401で取得されたファントムの投影データが再構成されファントムの断層画像ImgPhが生成される。なおS503で生成された2つの断層画像Img1、Img2を加算したImg1+Img2が断層画像ImgPhとして生成されても良い。
【0064】
(S405)
局所分散算出部302は、S404で生成されたファントムの断層画像ImgPhの局所分散VarPhを算出する。局所分散VarPhの算出には、例えば数1が用いられる。
【0065】
(S406)
X線光子数に係る条件数Tが網羅されたか否かが判定される。網羅されていればS407へ処理が進められ、網羅されていなければX線光子数に係る条件、例えば管電流の値が変更されてからS401へ処理が戻される。S401からS405の処理が繰り返されることにより、X線光子数に係る条件毎に、S403において局所分散VarD(t)が、S405において局所分散VarPh(t)がそれぞれ算出される。なおtはX線光子数に係る条件のインデックスであり、t=1、2、…、Tである。
(S407)
S403で算出された局所分散VarD(t)とS405で算出された局所分散VarPh(t)に基づいて、補正関数α(s)、β(s)が算出される。断層画像の中心とスキャナ200の回転中心とが一致している場合、座標(i、j)の画素と回転中心との距離sは次式で表される。
【0066】
【数10】
【0067】
また補正関数α(s)、β(s)を距離sのn次の多項式として次式を用いる。
【0068】
【数11】
【0069】
【数12】
【0070】
数11の係数の組rn、…、r0、と数12の係数の組qn、…、q0とが、次式の最小値を与える組み合わせとして決定される。
【0071】
【数13】
【0072】
そして係数の組rn、…、r0、qn、…、q0が決定されることにより、補正関数α(s)、β(s)が算出される。
【0073】
算出された補正関数α(s)、β(s)は記憶装置4やネットワークアダプタ5を介して接続される外部装置に格納される。なお補正関数α(s)、β(s)は、撮影条件、例えばX線管211に印加される電圧やX線フィルタの種類毎に算出されることが望ましい。
【0074】
以上説明した処理の流れにより、一様なファントムの投影データに基づいて、補正関数α(s)、β(s)が算出される。算出された補正関数α(s)、β(s)は被検体の断層画像のノイズ強度の推定に用いられる。
【0075】
図7を用いて、被検体の断層画像のノイズ強度を推定する処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。なお図4と重複するステップの説明は簡略化される。
【0076】
(S701)
被検体の投影データが取得される。被検体の投影データは、記憶装置4やネットワークアダプタ5を介して接続される外部装置から読み出される。
【0077】
(S402)
差分画像生成部301は、被検体の投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像ImgDを生成する。
【0078】
(S403)
局所分散算出部302は、S402で生成された差分画像ImgDの局所分散VarDを算出する。局所分散VarDの算出には、例えば数1が用いられる。
【0079】
(S704)
ノイズ推定部303は、補正関数α(s)、β(s)を記憶装置4やネットワークアダプタ5を介して接続される外部装置から読み出す。読み出される補正関数α(s)、β(s)は、被検体の投影データが取得されたときの撮影条件に基づいて選択されることが望ましい。
【0080】
(S705)
ノイズ推定部303は、S403で算出された局所分散VarDを、S704で読み出された補正関数α(s)、β(s)により補正し、補正後の局所分散VarCを算出する。補正後の局所分散VarCの算出には例えば次式が用いられる。
【0081】
【数14】
【0082】
算出された局所分散VarCは、被検体の断層画像のノイズ強度の推定値として出力される。すなわちノイズ推定部303は、被検体の断層画像のノイズ強度を局所分散VarCとして推定する。局所分散VarCとして推定されたノイズ強度を、断層画像の各座標(i、j)にマッピングすることによりノイズ強度マップが作成されても良い。
【0083】
以上説明した処理の流れにより、予め求められる補正関数α(s)、β(s)を用いて、被検体の断層画像のノイズ強度が推定される。補正関数α(s)、β(s)にはシステムノイズcが含まれるので、システムノイズcの比率が高まってもノイズ強度の推定精度を維持することができる。また補正関数α(s)、β(s)が撮影条件毎に求められることにより、撮影条件に適した局所分散の補正が可能になるので、ノイズ強度の推定精度を向上させることができる。
【0084】
なお投影データの分割はビュー方向に限定されず、差分画像において構造物が打ち消されるのであれば、チャネル方向あるいは列方向の分割であっても良いし、3方向を織り交ぜた分割であっても良い。また投影データの分割数は2つに限定されず、3つ以上であっても良い。
【実施例2】
【0085】
実施例1では、被検体の断層画像の全体において、ノイズ強度を推定することについて説明した。実施例2では、断層画像に設定されるROI(Region Of Interest)のノイズ強度に基づいてノイズを低減することについて説明する。なお、実施例1との違いは図7の処理の流れにいくつかのステップが追加される点であるので、それ以外の説明を省略する。
【0086】
図8を用いて実施例2における処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。なお図7と重複するステップの説明は簡略化される。
【0087】
(S701)
被検体の投影データが取得される。
【0088】
(S402)
差分画像生成部301は、被検体の投影データを分割し、分割された投影データ毎に再構成された断層画像間の差分画像ImgDを生成する。
【0089】
(S403)
局所分散算出部302は、S402で生成された差分画像ImgDの局所分散VarDを算出する。
【0090】
(S704)
ノイズ推定部303は、補正関数α(s)、β(s)を読み出す。
【0091】
(S705)
ノイズ推定部303は、補正後の局所分散VarCを算出する。
【0092】
(S801)
S701で取得された被検体の投影データの再構成により被検体の断層画像ImgObが生成される。
【0093】
(S802)
断層画像ImgObに対して操作者によってROIが設定される。ROIの設定には、例えば図9に例示される画面が用いられる。図9の画面には、被検体の断層画像ImgObととともに、S705で算出された局所分散VarCがマッピングされたノイズ強度マップが表示される。操作者はノイズ強度マップを参照しながら、例えばノイズ低減したい領域に入力装置8を介してROIを設定する。ROIの形状は任意であり、例えば円形でであっても矩形であっても良い。また設定されるROIの数も任意である。
【0094】
(S803)
S802で設定されたROIのノイズ強度の代表値が算出される。例えば、ROIの中の局所分散の平均値や最大値が代表値として算出される。
【0095】
(S804)
S803で算出されたノイズ強度の代表値に基づいて、断層画像ImgObに対してノイズ低減処理が施される。ノイズ低減処理は任意の処理であっても良い。例えばノイズ強度の代表値δを用いて、平滑化の程度を表すパラメータηがη=t・δ^νとして算出され、算出されたηに従って断層画像ImgObに平滑化処理が施されても良い。なおtとνは任意の定数である。
【0096】
以上説明した処理の流れにより、操作者によって設定されたROIのノイズ強度に基づいて断層画像にノイズ低減処理が施されるので、ROIのSNR(Signal-Noise Ratio)を向上させた断層画像が得られる。
【0097】
なお、本発明の医用画像処理装置及び医用画像処理方法は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0098】
1:医用画像処理装置、2:CPU、3:メモリ、4:記憶装置、5:ネットワークアダプタ、6:システムバス、7:表示装置、8:入力装置、10:医用画像撮影装置、11:医用画像データベース、100:X線CT装置、200:スキャナ、210:被検体、211:X線管、212:検出器、213:コリメータ、214:駆動部、215:中央制御部、216:X線制御部、217:高電圧発生部、218:スキャナ制御部、219:寝台制御部、221:コリメータ制御部、222:プリアンプ、223:A/Dコンバータ、240:寝台、250:操作ユニット、251:再構成処理部、252:画像処理部、254:記憶部、256:表示部、258:入力部、301:差分画像生成部、302:局所分散算出部、303:ノイズ推定部、601:X線ビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9