IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルセロールミタルの特許一覧

特許7395524オーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板の製造のための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】オーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板の製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20231204BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231204BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231204BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20231204BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C22C38/00 302A
C22C38/58
G01N23/2055
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021020493
(22)【出願日】2021-02-12
(62)【分割の表示】P 2018561534の分割
【原出願日】2017-05-23
(65)【公開番号】P2021088774
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/000698
(32)【優先日】2016-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・エル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・シャルボニエ
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・イン
(72)【発明者】
【氏名】ブランディーヌ・レミー
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528278(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0013333(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C2C3 38/00-38/60
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標値Mtarget以上の少なくとも1種の機械的特性(M)を提示するオーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板を製造するための方法であって、
鋼板の組成が、重量基準で、
0.1%超で1.2%未満のC、
13.0%以上で25.0%未満のMn、
0.030%以下のS、
0.080%以下のP、
0.1%以下のN、
3.0%以下のSi、
及び任意選択的に、
0.5%以下のNb、
0.005%以下のB、
1.0%以下のCr、
0.40%以下のMo、
1.0%以下のNi、
5.0%以下のCu、
0.5%以下のTi、
2.5%以下のV、
4.0%以下のAl
の1種以上の元素
を含み、前記組成の残り部分が、鉄及び不可避な不純物を構成し、
そのような方法が、
A.
I.Pareq値Pに対応する40秒~60分にわたって400~900℃の間での熱処理を受けた鋼板からできた少なくとも3つの異なったPareq値を有する試料が調製され、ここで、前記鋼板は、前記組成を有し、所定の再結晶アニーリング後の機械的特性Mrecrystallizationを有する再結晶済み鋼板が得られる再結晶済み鋼板の供給ステップ、及び、所定の冷間圧延後の機械的特性Mcold-rollを有する鋼板を得るための冷間圧延ステップを受けたものであり、ここで、Pareq値Pは、
Pareq=-0.67×log(∫exp(-ΔH/RT)×dt)
によって決定され、ΔHは鉄中における鉄の拡散エネルギー(300kJ/molに等しい)であり、Rは、気体定数(8.31×10-3kJ・mol-1・K-1に等しい)であり、T=熱処理の保持温度であり、積分は、熱処理の保持時間に対するものであり、Tの単位はケルビンであり、熱処理の保持時間の単位は時間(hour)であり、
II.前記試料が、半値幅FWHMが測定されているメインピークを含むスペクトルを得るようにX線回折に供され、
III.前記試料のMが、測定されており、Mが、極限引張強さ(UTS)、全伸び(TE)又は極限引張強さ×全伸び(UTS×TE)であり、
IV.前記試料の各々が0~100%の回復状態で測定されており、
V.FWMHの関数としてのMの曲線が、前記試料の0~100%の回復状態でドメインに描かれている、
較正ステップ、
B.
I.前記Mtargetに対応するFWHMtargetの値が、決定されており、
ここで、Mが極限引張強さ(UTS)である場合、計算ステップB.I中におけるFWHMの決定が、次の式:
UTStarget=UTScold-roll-(UTScold-roll-UTSrecrystallization)×(exp((-FWHM+2.3)/2.3)-1)
によって達成され、
Mが全伸び(TE)である場合、計算ステップB.I中におけるFWHMの決定が、
TEtarget=TEcold-roll-(TErecrystallization-UTScold-roll)×(exp((-FWHM+2.3)/2.3)-1)2.5
によって達成され、
Mが極限引張強さ×全伸び(UTS×TE)である場合、計算ステップB.I中におけるFWHMの決定が、
UTStarget×TEtarget=100000×(1-0.5FWHM)
によって達成され、
II.このようなMtargetに到達するための実施すべき前記熱処理のPareq値Ptargetが、FWHMtargetの値に基づいて決定されており、
III.前記Ptarget値に対応する時間ttarget及び温度T°targetが、選択されている、
計算ステップであって、
温度T°targetが、400~900℃の間であり、時間ttargetが、40秒~60分の間である、
ステップ、
C.再結晶アニーリング後の機械的特性Mrecrystallizationを有する再結晶済み鋼板の供給ステップ、
ここで、Mが極限引張強さ(UTS)である場合、Mrecrystallizationは、800及び1400MPaの間のUTSrecrystallizationであり、
Mが全伸び(TE)である場合、Mrecrystallizationは、20%超及び70%の間のTErecrystallizationであり、
Mが極限引張強さ×全伸び(UTS×TE)である場合、Mrecrystallizationは、16000超及び98000の間のTErecrystallization×UTSrecrystallizationであり、
D.冷間圧延後の機械的特性Mcold-rollを有する鋼板を得るための冷間圧延ステップ、
ここで、Mが極限引張強さ(UTS)である場合、Mcold-rollは、1000超及び1540MPaの間のUTScold-rollであり、
Mが全伸び(TE)である場合、Mcold-rollは、2%及び50%の間のTEcold-rollであり、
Mが極限引張強さ×全伸び(UTS×TE)である場合、Mcold-rollは、2000超及び70000の間のTEcold-roll×UTScold-rollであり、
並びに
E.時間ttargetにわたって温度T°targetで実施されるアニーリングステップ
からなるステップを含み、
FWHMtargetが、1.0°以上であり、
targetが、14.2以上である、
方法。
【請求項2】
ステップCにおいて、鋼板が、700~900℃の間で実行される再結晶アニーリング後に再結晶される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップDにおいて、冷間圧延が、1~50%の間の縮小率を伴うように実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
較正ステップA.II)の最中に、半値幅FWHMが測定されたメインピークが、ミラー指数[311]に対応する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
MがUTSである場合、UTStargetが、1430MPa以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
UTStargetが、1430~2000MPaの間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
MがTEである場合、TEtargetが、15%以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TEtargetが、15~30%の間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
MがTE×UTSである場合、UTStarget×TEtargetが21000以上であり、TEtargetが、最大30%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
UTStarget×TEtargetが、21000~60000の間であり、TEtargetが、最大30%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
FWHMtargetが、1.0~1.5°の間である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
targetが、14.2~25の間である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
targetが、14.2~18の間である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板を製造するための方法に関する。本発明は、自動車の製造に特に良く適している。
【背景技術】
【0002】
車両の重量節減の観点から、自動車の製造のための高強度鋼を使用することが公知である。例えば、構造部品の製造のためには、このような鋼の機械的特性を改善しなければならない。しかしながら、鋼の強度が改善されたとしても、高い鋼の伸び及びこの結果としての成形加工性が低下する。これらの課題を克服するために、良好な成形加工性を有する回復された鋼板、特に、双晶誘起塑性鋼(TWIP鋼)が現れてきた。製品が非常に良好な成形加工性を示す場合であっても、極限引張応力及び降伏応力等の機械的特性が、自動車用途を満足するのに十分なほど高くないこともある。
【0003】
良好な加工性を保持しながらこれらの鋼の強度を改善するために、冷間圧延を行い、続いて、双晶を保持しながらも転位を除去する回復処理を行うことによって高密度の双晶を誘起することが、公知である。
【0004】
しかしながら、このような方法の適用によって、所期の機械的特性が得られない危険性がある。実際、当業者は、公知の方法に従った後、得られた鋼板の機械的特性を、所望の機械的特性が達成されたかどうかを確かめるために機械的特性を測定することのみが可能である。所期の機械的特性を得るために公知の方法の条件を適合させることは、可能ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、改善された少なくとも1種の所期の機械的特性を提示する回復された鋼板を製造するための方法の提供によって、上記欠点を解決することである。別の目的は、このような改善された機械的特性を有する回復された鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載のTWIP鋼板の製造のための方法の提供によって達成される。本方法は、請求項2から20の特徴をさらに含むことができる。
【0007】
別の目的は、請求項21に記載のTWIP鋼板の提供によって達成される。
【0008】
本発明に関する他の特徴及び利点は、本発明に関する下記の詳細な記述から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次の用語が、規定される。
・M:機械的特性、
・Mtarget:機械的特性の目標値、
・Mrecrystallisation:再結晶アニーリング後の機械的特性、
・Mcold-roll:冷間圧延後の機械的特性、
・UTS:極限引張強度、
・TE:全伸び、
・P:pareq値、
・Ptarget:pareqの目標値、
・FWHM:X線回折スペクトルの半値全幅及び
・FWHMtarget:X線回折スペクトルの半値全幅の目標値。
【0010】
本発明は、目標値Mtarget以上の少なくとも1種の機械的特性(M)を提示するオーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板を製造するための方法であって、
鋼板の組成が、重量基準で、
0.1%超で1.2%未満のC、
13.0%以上で25.0%未満のMn、
0.030%以下のS、
0.080%以下のP、
0.1%以下のN、
3.0%以下のSi、
及び純粋に任意選択的に、
0.5%以下のNb、
0.005%以下のB、
1.0%以下のCr、
0.40%以下のMo、
1.0%以下のNi、
5.0%以下のCu、
0.5%以下のTi、
2.5%以下のV、
4.0%以下のAl
等の1種以上の元素
を含み、組成の残り部分が、鉄及び当該オーステナイト型マトリックスの発生に起因した不可避な不純物を構成し、
そのような方法が、
A.
I.Pareq値Pに対応する40秒~60分にわたって400~900℃の間で熱処理を受けた前記鋼からできた少なくとも2つの試料が、調製され、
II.前記試料が、半値幅FWHMが測定されているメインピークを含むスペクトルを得るようにX線回折に供され、
III.このような試料のMが、測定されており、
IV.各試料の回復又は再結晶状態が、測定されており、
V.FWMHの関数としてのMの曲線が、前記試料が0~100%回復するが再結晶することがないドメインに描かれている、
較正ステップ、
B.
I.Mtargetに対応するFWHMtargetの値が、決定されており、
II.このようなMtargetに到達するための実行すべき熱処理のpareq値Ptargetが、決定されており、
III.Ptarget値に対応する時間ttarget及び温度T°targetが、選択されている、
計算ステップ、
C.Mrecrystallizationを有する再結晶済み鋼板の供給ステップ、
D.Mcold-rollを有する鋼板を得るために冷間圧延ステップ、並びに
E.時間ttargetにわたって温度T°targetで実施されるアニーリングステップ
からなるステップを含む、方法に関する。
【0011】
いかなる理論にも拘束されることは望まないが、本発明による方法が適用された場合、所期の改善された機械的特性を有する回復された鋼板、特にTWIP鋼板を得るという目的で、アニーリングステップE)の工程パラメータを得ることができるように思われる。
【0012】
鋼の化学組成に関しては、Cは、微細構造の形成及び機械的特性において重要な役割を担う。Cは、積層欠陥エネルギーを増大させ、オーステナイト相の安定性を助長する。このオーステナイト相の安定性は、炭素含量が0.5%以上の場合に、13.0~25.0重量%の間のMn含量と相まって達成される。炭化バナジウムが存在する場合、高いMn含量は、オーステナイトへの炭化バナジウム(VC)の可溶性を増大させることができる。しかしながら、C含量が1.2%超の場合、例えば炭化バナジウム又は炭窒化バナジウムの過剰な析出のため、延性が低下する危険性がある。好ましくは、炭素含量は、十分な強度を得るように0.4~1.2重量%の間、より好ましくは0.5~1.0重量%の間である。
【0013】
Mnもまた、強度を増大させるため、積層欠陥エネルギーを増大させるため、及びオーステナイト相を安定化させるために不可欠な元素である。Mnの含量が13.0%未満である場合、マルテンサイト相が形成する危険性があるが、このマルテンサイト相の形成は、変形可能度を非常に大きく低下させる。さらに、マンガン含量が25.0%超の場合、双晶の形成が抑制され、したがって、強度は増大するが、室温における延性が悪化する。好ましくは、マンガン含量は、積層欠陥エネルギーを最適化し、変形の影響下におけるマルテンサイトの形成を防止するように、15.0~24.0%の間、より好ましくは17.0~24.0%の間である。さらに、Mn含量が24.0%超である場合、双晶形成による変形モードは、完全転位すべりによる変形モードより優先度が劣る。
【0014】
Alは、鋼の脱酸素のために特に効果的な元素である。Cと同様に、Alは、変形マルテンサイトの形成の危険性を低減する積層欠陥エネルギーを増大させ、これにより、延性及び耐遅れ破壊性を改善する。しかしながら、Alは、高いMn含量を有する鋼中に過剰に存在する場合、Mnが液体状の鉄への窒素の可溶性を増大させるため、欠点である。過剰に多い量のAlが鋼中に存在する場合、Alと化合するNは、高温における変換中に結晶粒界の移動を妨害し、連続キャスティング中に割れが発生する危険性を非常に大きく増大させることになる窒化アルミニウム(AlN)の形態で析出する。さらに、後で説明するように、本質的に炭窒化物からできた微細な析出物を形成するためには、十分な量のNが利用可能でなければならない。好ましくは、Al含量は、2%以下である。Al含量が4.0%超である場合、双晶の形成が抑制され、延性が低下する危険性がある。好ましくは、Alの量は、0.06%超、より好ましくは0.7%超である。
【0015】
このAlの量に対応して、窒素含量は、AlNの析出及び固化中における体積欠陥(膨れ)の形成を防止するように、0.1%以下でなければならない。さらに、バナジウム、ニオブ、チタン、クロム、モリブデン及びホウ素等の窒化物の形態で析出できる元素である場合には、その窒素含量は、0.1%を超えないようにしなければならない。
【0016】
本発明によれば、Vの量は2.5%以下、好ましくは0.1~1.0%の間である。好ましくは、Vは析出物を形成する。好ましくは、鋼中におけるこのような元素の体積分率は、0.0001~0.025%の間である。好ましくは、バナジウム元素の大部分は、粒内の位置に局在する。有利には、バナジウム元素は、7nm未満、好ましくは1~5nmの間、より好ましくは0.2~4.0nmの間の平均サイズを有する。
【0017】
ケイ素は、鋼の脱酸素及び固相硬化のために効果的な元素でもある。しかしながら、ケイ素は、含量が3%超の場合、伸びを低下させ、特定の組立工程中に望ましくない酸化物を形成する傾向があり、したがって、ケイ素は、この限界より低く保持されなければならない。好ましくは、ケイ素の含量は0.6%以下である。
【0018】
硫黄及びリンは、結晶粒界を脆化する不純物である。硫黄及びリンの各含量は、十分な熱間延性を維持するように0.030~0.080%を超えないようにしなければならない。
【0019】
ある程度のホウ素が、最大0.005%、好ましくは最大0.001%まで添加されてもよい。この元素は結晶粒界に偏析し、結晶粒界の凝集を増大させる。理論に拘束されることを望むわけではないが、このようにホウ素が結晶粒界に偏析し、結晶粒界の凝集を増大させると、プレス加工による整形後の残留応力が低減され、このようにして整形された部分の応力により、耐腐食性が向上すると考えられている。この元素はオーステナイト結晶粒界に偏析し、オーステナイト結晶粒界の凝集を増大させる。ホウ素は、例えば、炭化ホウ素及び窒化ホウ素の形態で析出する。
【0020】
任意選択的に、ニッケルが、固溶硬化によって鋼の強度を増大させるために使用されてもよい。しかしながら、コストを理由として、ニッケル含量を1.0%以下、好ましくは0.3%未満の最大含量に限定することが特に望ましい。
【0021】
同様に、任意選択的に、5%を超えない含量の銅の添加は、銅金属の析出によって鋼を硬化させる手段の一つである。しかしながら、この含量を超える場合、銅は熱間圧延板の表面欠陥の外観の原因である。好ましくは、銅の量は2.0%未満である。好ましくは、Cuの量は0.1%超である。
【0022】
チタン及びニオブもまた、任意選択的に析出物の形成によって硬化及び強化を達成するために使用されてもよい元素である。しかしながら、Nb又はTi含量が0.50%超である場合、過剰な析出が靱性の低下を起こす危険性があるが、この危険性は回避しなければならない。好ましくは、Tiの量は0.040~0.50重量%の間又は0.030重量%~0.130重量%の間である。好ましくは、チタン含量は0.060重量%~0.40重量%、例えば0.060重量%~0.110重量%の間である。好ましくは、Nbの量は0.01%超、より好ましくは0.070~0.50重量%の間又は0.040~0.220%の間である。好ましくは、ニオブ含量は0.090重量%~0.40重量%、有利には0.090重量%~0.200重量%である。
【0023】
クロム及びモリブデンは、固溶硬化によって鋼の強度を増大させるための任意選択による元素として使用されてもよい。しかしながら、クロムは積層欠陥エネルギーを低減するため、クロムの含量は1.0%を超えないようにしなければならず、好ましくは0.070%~0.6%の間でなければならない。好ましくは、クロム含量は0.20~0.5%の間である。モリブデンは0.40%以下の量、好ましくは0.14~0.40%の間の量で添加されてもよい。
【0024】
さらに、いかなる理論にも拘束されることは望まないが、バナジウム、チタン、ニオブ、クロム及びモリブデンの析出物は、遅れ割れの発生しやすさを低減することが可能であり、この遅れ割れの発生しやすさの低減を、延性及び靱性特性の悪化を伴うことなく行うことができるように思われる。したがって、好ましくは、炭化物、窒化物及び炭窒化物の形態であるチタン、ニオブ、クロム及びモリブデンから選択される少なくとも1種の元素が、鋼中に存在する。
【0025】
本発明によれば、本方法は、Pareq値Pに対応する40秒~60分にわたって400~900℃の間で熱処理を受けた鋼板からできた少なくとも2つの試料が調製される、較正ステップA.I)を含む。このステップにおいて、Pareqと呼ぶパラメータが、異なる時間にわたって異なる温度で実施される異なる熱処理を比較可能にするために決定されるが、このPareqは、
Pareq=-0.67×log(∫-ΔH/RT)×dt)
によって決定される
【0026】
ここで、ΔH:鉄中における鉄の拡散エネルギー(300kJ/molに等しい。)であり、T=サイクルの温度であり、積分は、熱処理時間に対するものである。熱処理がより熱い又はより長いほど、Pareq値が低くなる。同一のPareq値を有する異なる2種の熱処理は、同じグレードの鋼に関しては同じ結果を与える。好ましくは、Pareq値は、14.2超、より好ましくは14.2~25の間、より好ましくは14.2~18の間である。
【0027】
次いで、ステップA.II)中に、試料は、半値全幅FWHMが測定されているメインピークを含むスペクトルを得るようにX線回折に供される。X線回折は、単位胞寸法、結合長、結合角及びサイト秩序化の詳細を含む、結晶性物質の内部格子に関する詳細な情報を提供する、非破壊分析法である。直接関係するのは、単結晶の精密化であるが、この単結晶の精密化では、X線分析から生成したデータを解釈し、精密化して、結晶構造を得る。通常、X線結晶学が、結晶構造を確定するために使用される手段である。本発明によれば、鋼板は、面心立方系を有する、オーステナイト型マトリックスを有する。したがって、好ましくは、半値全幅FWHMが測定されたメインピークは、ミラー指数[311]に対応する。実際、このピークは、オーステナイト系に特有のものであり、転位密度の影響を最も良く表すと考えられている。
【0028】
次いで、ステップA.III)中に、このような試料のMが、測定されている。好ましくは、Mは、極限引張強度(UTS)、全伸び(TE)又はこれらの両方(UTS×TE)である。
【0029】
回復又は再結晶の後、各試料の状態は、ステップA.IV)の最中に測定されている。好ましくは、このような状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)及びEBSD(電子後方散乱回折)又は透過型電気顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0030】
次いで、ステップA.V)中に、FWMHの関数としてのMの曲線は、試料が0~100%回復されるが再結晶することがないドメインに描かれている。
【0031】
本発明によれば、計算ステップB)が実行される。計算は、Mtargetに対応するFWHMtargetの値が決定されているステップB.I)を含む。好ましくは、FWHMtargetは、1.0°超、有利には1.0~1.5°の間である。
【0032】
MがUTSである好ましい一実施形態において、FWHMの決定は、次の式:
UTStarget=UTScold-roll-(UTScold-roll-UTSrecrystallization)×(exp((-FWHM+2.3)/2.3)-1)
によって達成される。
【0033】
この場合、好ましくは、UTStargetは、1430MPa以上、より好ましくは1430~2000MPaの間である。
【0034】
MがTEである別の好ましい実施形態において、計算ステップB.I)中におけるFWHMの決定は、
TEtarget=TEcold-roll-(TErecrystallization-UTScold-roll)×(exp((-FWHM+2.3)/2.3)-1)2.5
によって達成される。
【0035】
この場合、好ましくは、TEtargetは、15%以上、より好ましくは15~30%の間である。
【0036】
別の好ましい実施形態において、MがUTS×TEである場合、計算ステップB.I)中におけるFWHMの決定は、
UTStarget×TEtarget=100000×(1-0.5FWHM)
によって達成される。
【0037】
この場合、好ましくは、UTStarget×TEtargetは、21000超、より好ましくは21000~60000の間であり、TEtargetが、最大30%である。
【0038】
次いで、このようなMtargetに到達するための実施すべき熱処理のpareq値Ptargetが決定されるステップB.II)が実施される。好ましくは、Ptargetは、14.2超、より好ましくは14.2~25の間、より好ましくは14.2~18の間である。
【0039】
その後、Ptarget値に対応する時間ttarget及び温度T°targetを選択することからなるステップB.III)が実行される。好ましくは、T°targetは、400~900℃の間であり、ttargetは、40秒~60分の間である。
【0040】
次いで、本発明による方法は、Mrecrystallizationを有する再結晶済み鋼板の供給ステップを含む。実際、好ましくは、鋼板は、700~900℃の間の温度で実施された再結晶アニーリング後に再結晶する。例えば、再結晶は、10~500秒、好ましくは60~180秒の間実行される。
【0041】
好ましい一実施形態において、MがUTSである場合、UTSrecrystallizationは、800MPa超、好ましくは800~1400MPaの間、より好ましくは1000~1400MPaの間である。
【0042】
別の好ましい実施形態において、MがTEである場合、TErecrystallizationは、20%超、好ましくは30%超、より好ましくは30~70%の間である。
【0043】
別の好ましい実施形態において、MがTE×UTSである場合、TErecrystallization×UTSrecrystallizationは、16000超、より好ましくは24000超、有利には24000~98000の間である。
【0044】
次いで、冷間圧延ステップD)が、Mcold-rollを有する鋼板を得るために実行される。好ましくは、縮小率は、1~50%、好ましくは1~25%の間又は26~50%の間である。冷間圧延ステップD)は、鋼の厚さを縮小することができる。さらに、前述の方法によって製造された鋼板は、この圧延ステップを受けたことによるひずみ硬化によって、強度を増大させた可能性がある。さらに、このステップは、高い密度の双晶を誘起し、この結果、鋼板の機械的特性を改善する。
【0045】
好ましい一実施形態において、MがUTSである場合、UTScold-rollは、1000超、好ましくは1200MPa超、有利には1400MPa超である。
【0046】
別の好ましい実施形態において、MがTEである場合、TEcold-rollは、2%超、より好ましくは2~50%の間である。
【0047】
別の好ましい実施形態において、MがTE×UTSである場合、TEcold-roll×UTScold-rollは、2000超、好ましくは2400、より好ましくは2400~70000の間である。
【0048】
次いで、アニーリングステップE)が、時間ttargetにわたって温度T°targetで実施される。
【0049】
第2の冷間圧延後、溶融めっきステップG)を実施することができる。好ましくは、ステップG)は、アルミニウムを主体とした浴又は亜鉛を主体とした浴によって実行される。
【0050】
好ましい一実施形態において、溶融亜鉛めっきステップは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残り部分がAlである、アルミニウムを主体とした浴によって実施される。
【0051】
別の好ましい実施形態において、溶融亜鉛めっきステップは、0.01~8.0%のAl、任意選択的に0.2~8.0%のMgを含み、残り部分がZnである、亜鉛を主体とした浴によって実施される。
【0052】
溶融浴は、供給インゴットに由来の又は溶融浴中を鋼板が通過したことに由来の不可避な不純物及び残留元素をさらに含み得る。例えば、任意選択的に不純物は、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択され、重量基準で各々のさらなる元素の含量が0.3重量%未満である。供給インゴットに由来の又は溶融浴中を鋼板が通過したことに由来の残留元素は、最大5.0重量%、好ましくは3.0重量%までの含量の鉄であってよい。
【0053】
例えば、アニーリングステップは、亜鉛めっき鋼板を得るためのコーティング堆積後に実施することができる。
【0054】
したがって、少なくとも1種の改善された所期の機械的特性のオーステナイト型マトリックスを有する回復された鋼板が、本発明による方法を施すことによって得られる。
【実施例
【0055】
この例において、次の重量組成を有する鋼板を使用した。
【0056】
【表1】
【0057】
この例において、回復された鋼板には、1512MPaのUTStargetである機械的特性Mtargetの目標値があった。較正ステップAにより、UTStargetに対応するFMHMtargetの値が決定され、FMHMtargetは、1.096だった。UTStargetに到達するための実施すべき熱処理のPtargetが決定され、14.39だった。このとき、選択された時間ttargetは40秒であり、選択された温度T°targetは650℃であった。
【0058】
したがって、最初に試行1及び2を加熱し、1200℃の温度で熱間圧延した。熱間圧延の仕上げ温度を890℃に設定し、熱間圧延後にコイル化を400℃で実施した。次いで、第1の冷間圧延を、50%の冷間圧延縮小率を伴うように実行した。この後、再結晶アニーリングを825℃で180秒間実施した。得られたUTSrecrystallizationの値は、980MPaだった。この後、第2の冷間圧延を、30%の冷間圧延縮小率を伴うように実行した。得られたUTScold-rollの値は、1540MPaであった。
【0059】
次いで、本発明によって試行1を650℃で40秒間アニーリングした。このアニーリング後、試行1を回復した。試行1のUTSは、1512.5MPaであった。
【0060】
試行2を650℃で90秒間アニーリングし、つまりは、本発明の方法によって決定されたttarget及びT°targetは顧慮しなかった。このアニーリング後、試行2を再結晶させた。試行2のUTSは、1415.15MPaだった。試行2のFMHMは0.989であり、Pは14.12であり、すなわち、本発明の範囲外であった。
【0061】
結果は、本発明による方法が適用された場合、所期の機械的特性を有する回復された鋼板を得ることができることを示している。