(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】蓄電池制御装置、蓄電システム、及び蓄電池制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/02 20160101AFI20231204BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H01M10/44 Q
H02J7/02 G
(21)【出願番号】P 2021041768
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】荘田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】大野 ちひろ
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-031249(JP,A)
【文献】特開2014-112980(JP,A)
【文献】特開2015-117951(JP,A)
【文献】特開2020-072548(JP,A)
【文献】特開2021-044918(JP,A)
【文献】特表2017-531983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0075230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/22
H01M 10/44
H02J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の蓄電池と、各蓄電池をバイパスするバイパス回路とを備える蓄電システムを制御する蓄電池制御装置であって、
充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の処理と、
前記第1の処理の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の処理と
を実行
し、
前記第1の処理の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の処理の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である蓄電池制御装置。
【請求項2】
前記第1の処理において、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量を、前記第1の処理の開始時点での最小値以下まで減少させる請求項1に記載の蓄電池制御装置。
【請求項3】
直列に接続された複数の蓄電池と、
各蓄電池をバイパスするバイパス回路と、
前記バイパス回路を制御する蓄電池制御装置と
を備え
る蓄電システムであって、
前記蓄電池制御装置は、
充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の処理と、
前記第1の処理の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の処理と
を実行し、
前記第1の処理の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の処理の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である蓄電システム。
【請求項4】
直列に接続された複数の蓄電池と、各蓄電池をバイパスするバイパス回路とを備える蓄電システムを制御する蓄電池制御装置を用いて実行する蓄電池制御方法であって、
充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の手順と、
前記第1の手順の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の手順と
を実行
し、
前記第1の手順の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の手順の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である蓄電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池制御装置、蓄電システム、及び蓄電池制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のバッテリが直列に接続されたバッテリ装置の充電を制御するシステムとして、各バッテリの状態に基づいて充電を避けるバッテリを選択し、その充電を避けるバッテリをバイパスして他のバッテリに充電するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシステムでは、複数のバッテリを直列に接続してCCCV充電(Constant Current, Constant Voltage:定電流定電圧充電)を実行し、その後、満充電になったバッテリを充電を避けるバッテリとしてバイパスし他のバッテリに対してCCCV充電を実行する処理を順次実行することにより、全てのバッテリを満充電にすることができる。しかしながら、最後には、1個のバッテリに対してCCCV充電を実行し、その他のバッテリをバイパスすることになるので、システムの総電圧が低くなってしまう。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、複数の蓄電池が直列に接続された蓄電システムにおける充電時の総電圧の低下を抑制できる蓄電池制御装置、蓄電システム、及び蓄電池制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蓄電池制御装置は、直列に接続された複数の蓄電池と、各蓄電池をバイパスするバイパス回路とを備える蓄電システムを制御する蓄電池制御装置であって、充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の処理と、前記第1の処理の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の処理とを実行し、前記第1の処理の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の処理の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である。
【0007】
本発明の蓄電システムは、直列に接続された複数の蓄電池と、各蓄電池をバイパスするバイパス回路と、前記バイパス回路を制御する蓄電池制御装置とを備える蓄電システムであって、前記蓄電池制御装置は、充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の処理と、前記第1の処理の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の処理とを実行し、前記第1の処理の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の処理の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である。
【0008】
本発明の蓄電池制御方法は、直列に接続された複数の蓄電池と、各蓄電池をバイパスするバイパス回路とを備える蓄電システムを制御する蓄電池制御装置を用いて実行する蓄電池制御方法であって、充電完了までの残充電量が他の蓄電池に比して少ない蓄電池を優先的に前記バイパス回路によりバイパスすることで、複数の蓄電池の充電完了までの残充電量の差を減少させる第1の手順と、前記第1の手順の後に、複数の蓄電池の充電を完了させる第2の手順とを実行し、前記第1の手順の実行中の前記蓄電システムの総電圧は、前記蓄電システムの最低許容総電圧以上であり、又は、前記第1の手順の実行中の充電電力制限値は、最低許容充電電力以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の蓄電池が直列に接続された蓄電システムにおける充電時の総電圧の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電池制御装置を備える蓄電システムの概略を示す図である。
【
図2】
図2は、比較例の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、
図2のタイミングチャートに示す比較例の充電制御について説明するための表である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、
図4のタイミングチャートに示す本発明の一実施形態の充電制御について説明するための表である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施形態の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において実施形態を適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電池制御装置100を備える蓄電システム1の概略を示す図である。この図に示すように、蓄電システム1は、蓄電池パック10と、バイパス回路20と、充電回路30と、蓄電池制御装置100とを備える。蓄電池パック10は、直列に接続されたn個(nは2以上の整数)の蓄電池セルC1~Cnを備える車載用あるいは定置用の電源である。特に限定するわけではないが、本実施形態の蓄電池パック10は、中古電池を再生したものであり、各蓄電池セルC1~Cnの劣化度に差がある。蓄電池セルC1~Cnは、例えば、リチウムイオンバッテリ、リチウムイオンキャパシタ等の二次電池であり、充電回路30を通じて外部系統ESから電力を供給されて充電され、充電された電力を放電して外部系統ESに電力を供給する。なお、蓄電システム1は、直列に接続されたn個の蓄電池セルC1~Cnに代えて、直列に接続されたn個の蓄電池モジュール又は蓄電池パックを備え、各蓄電池モジュール又は各蓄電池パックをバイパスするバイパス回路を備えてもよい。
【0013】
蓄電池パック10は、複数の電圧測定部12と、電流測定部13と、電池温度測定部14とを備える。電圧測定部12は、各蓄電池セルC1~Cnの正負極端子間に接続されている。この電圧測定部12は、各蓄電池セルC1~Cnの端子間電圧を測定する。
【0014】
電流測定部13は、蓄電池パック10の電流経路に設けられている。この電流測定部13は、蓄電池パック10の充放電電流を測定する。また、蓄電池パック10には、電池温度測定部14が設けられている。この電池温度測定部14は、蓄電池パック10の電池温度を測定する。
【0015】
バイパス回路20は、各蓄電池セルC1~Cn毎に設けられたn個(nは2以上の整数)のバイパス回路B1~Bnを備える。バイパス回路B1~Bnは、それぞれ、バイパス線BLと、スイッチS1,S2とを備える。バイパス線BLは、各蓄電池セルC1~Cnをバイパスする電力線である。スイッチS1は、バイパス線BLに設けられている。このスイッチS1は、例えば機械的スイッチである。スイッチS2は、各蓄電池セルC1~Cnの正極とバイパス線BLの一端との間に設けられている。このスイッチS2は、例えば半導体スイッチである。
【0016】
始端の蓄電池セルC1は充電回路30を介して外部系統ESに接続され、終端の蓄電池セルCnも外部系統ESに接続されている。全てのバイパス回路B1~BnにおいてスイッチS1がオープンになりスイッチS2がクローズになった場合に、全ての蓄電池セルC1~Cnが外部系統ES及び充電回路30に直列接続される。他方で、何れかのバイパス回路B1~BnにおいてスイッチS2がオープンになり、スイッチS1がクローズになった場合に、当該バイパス回路B1~Bnに対応する蓄電池セルC1~Cnがバイパスされる。
【0017】
蓄電池制御装置100は、蓄電池パック10とバイパス回路20と充電回路30とに接続され、各蓄電池セルC1~Cnの監視及び制御と各バイパス回路B1~Bnの切り替え制御と充電回路30による充電制御とを実行する。本実施形態の蓄電池制御装置100は、各蓄電池セルC1~Cnの充電完了までの残充電容量RCに基づいて、各バイパス回路B1~Bnを切り替え、充電回路30による蓄電池パック10の充電を制御する。なお、以下の説明では、各蓄電池セルC1~Cnの充電完了までの残充電容量RCを、単に残充電容量RCと称する。この残充電容量RCは、各蓄電池セルC1~Cnの充電時に、充電終止電圧に到達するまでに充電可能な容量であり、各蓄電池セルC1~Cnの放電終止電圧に到達するために放電可能な容量ではない。
【0018】
蓄電池制御装置100は、測定値取得部101と、残充電容量算出部102と、記憶部103と、バイパス制御部104と、充電制御部105とを備える。
【0019】
測定値取得部101は、電圧測定部12と電流測定部13と電池温度測定部14とに接続されている。この測定値取得部101は、電圧測定部12と電流測定部13と電池温度測定部14とから測定値を取得して記憶部103に記憶させる。
【0020】
残充電容量算出部102は、測定値取得部101が取得した測定値に基づいて各蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを算出し記憶部103に記憶させる。本実施形態の残充電容量算出部102は、各蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RC[Ah]を、下記(1)式により算出する。
RC[Ah]=CC×(100-SOC)/100 …(1)
但し、CCは、各蓄電池セルC1~Cnの現在の電池容量(本実施形態では電流容量[Ah])であり、残充電容量算出部102が下記(2)式により算出する。SOCは、各蓄電池セルC1~CnのSOC(State Of Charge)[%]であり、電流積算法、開放電圧から求める方法(電圧法)、電流積算法と電圧法とを組み合わせた方法等の種々の公知の方法を用いて推定することができる。
【0021】
CC[Ah]=C0×SOH/100 …(2)
但し、C0は、各蓄電池セルC1~Cnの新品時の電流容量(Ah)であり、記憶部103が記憶している。また、SOHは、各蓄電池セルC1~CnのSOH(State Of Health)であり、残充電容量算出部102が、測定値取得部101が取得した測定値に基づいて推定する。
【0022】
各蓄電池セルC1~CnのSOHの算出方法としては、SOCの経時変化あるいは/及び内部抵抗の経時的増加を用いて推定する種々の公知の方法を用いればよい。SOHの推定方法としては、充放電試験による方法、電流積算法による方法、開回路電圧の測定による方法、端子電圧の測定による方法、モデルに基づく方法(以上はSOCの経時変化を用いる方法)、交流インピーダンス測定による方法、モデルに基づき、適応デジタルフィルタで求める方法、I-V特性(電流電圧特性)からの線型回帰(I-V特性の直線の傾き)による方法、ステップ応答による方法(以上、内部抵抗の経時的増加を用いて推定する方法)等を例示できる。
【0023】
記憶部103は、測定値取得部101が取得した測定値と残充電容量算出部102が算出した各蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCの算出値とを記憶する。また、記憶部103は、蓄電池制御装置100が実行するプログラムを記憶している。
【0024】
バイパス制御部104は、残充電容量算出部102により算出された各蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCに基づいて、各バイパス回路B1~BnのスイッチS1,S2のオープン/クローズの切り替えを制御する。充電制御部105は、残充電容量算出部102により算出された各蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCに基づいて、直列接続された蓄電池セルC1~Cnへの充電回路30による充電を制御する。
【0025】
具体的には、バイパス制御部104は、残充電容量RCが他の蓄電池セルC1~Cnに比して小さい蓄電池セルC1~Cnを優先的に各バイパス回路B1~Bnによりバイパスし、充電制御部105は、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCの差が減少するように、直列接続された複数の蓄電池セルC1~Cnを充電する(第1の処理)。充電制御部105は、第1の処理の実行中に、全ての蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCが均等化されるように、直列接続された複数の蓄電池セルC1~Cnの充電量を制御する。そして、第1の処理の実行後に、バイパス制御部104は、残充電容量RCが均等化された全ての蓄電池セルC1~Cnをバイパス回路B1~Bnにより直列接続し、充電制御部105は、直列接続された全ての蓄電池セルC1~Cnを充電完了まで充電する(第2の処理)。
【0026】
バイパス制御部104は、バイパスする蓄電池セルC1~Cnに対応するバイパス回路B1~Bnについて、スイッチS2をオープンにし、スイッチS1をクローズにする。他方で、バイパス制御部104は、直列接続する蓄電池セルC1~Cnに対応するバイパス回路B1~Bnについて、スイッチS1をオープンにし、スイッチS2をクローズにする。
【0027】
図2は、比較例の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。また、
図3は、
図2のタイミングチャートに示す比較例の充電制御について説明するための表である。これらの図に示すように、比較例の充電制御では、8個の蓄電池セルC1~C8の充電を制御する。
【0028】
図2及び
図3に示すように、8個の蓄電池セルC1~C8の初期の残充電容量RCを、それぞれ、100[Ah],99[Ah],98[Ah],95[Ah],90[Ah],89[Ah],87[Ah],86[Ah]とする。比較例の充電制御では、まず、時間t0~t1の間に、バイパス制御部(図示省略)は、8個の蓄電池セルC1~C8を直列接続し、充電制御部(図示省略)は、直列接続された8個の蓄電池セルC1~C8を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、8個の蓄電池セルC1~Cnの充電量を86[Ah]とし、初期の残充電容量RCが86[Ah]で最小の蓄電池セルC8を満充電にする。
【0029】
次に、時間t1において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC8をバイパス回路B8によりバイパスし、7個の蓄電池セルC1~C7を直列接続された状態にする。時間t1~t2の間に、充電制御部は、直列接続された7個の蓄電池セルC1~C7を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、7個の蓄電池セルC1~C7の充電量を1[Ah]とし、残充電容量RCが1[Ah]で最小の蓄電池セルC7を満充電にする。
【0030】
次に、時間t2において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC7をバイパス回路B7によりバイパスし、6個の蓄電池セルC1~C6を直列接続された状態にする。時間t2~t3の間に、充電制御部は、直列接続された6個の蓄電池セルC1~C6を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、6個の蓄電池セルC1~C6の充電量を2[Ah]とし、残充電容量RCが2[Ah]で最小の蓄電池セルC6を満充電にする。
【0031】
次に、時間t3において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC6をバイパス回路B6によりバイパスし、5個の蓄電池セルC1~C5を直列接続された状態にする。時間t3~t4の間に、充電制御部は、直列接続された5個の蓄電池セルC1~C5を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、5個の蓄電池セルC1~C5の充電量を1[Ah]とし、残充電容量RCが1[Ah]で最小の蓄電池セルC5を満充電にする。
【0032】
次に、時間t4において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC5をバイパス回路B5によりバイパスし、4個の蓄電池セルC1~C4を直列接続された状態にする。時間t4~t5の間に、充電制御部は、直列接続された4個の蓄電池セルC1~C4を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、4個の蓄電池セルC1~C4の充電量を5[Ah]とし、残充電容量RCが5[Ah]で最小の蓄電池セルC4を満充電にする。
【0033】
次に、時間t5において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC4をバイパス回路B4によりバイパスし、3個の蓄電池セルC1~C3を直列接続された状態にする。時間t5~t6の間に、充電制御部は、直列接続された3個の蓄電池セルC1~C3を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、3個の蓄電池セルC1~C3の充電量を3[Ah]とし、残充電容量RCが3[Ah]で最小の蓄電池セルC3を満充電にする。
【0034】
次に、時間t6において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC3をバイパス回路B3によりバイパスし、2個の蓄電池セルC1,C2を直列接続された状態にする。時間t6~t7の間に、充電制御部は、直列接続された2個の蓄電池セルC1,C2を、何れか一つの残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、2個の蓄電池セルC1,C2の充電量を1[Ah]とし、残充電容量RCが1[Ah]で最小の蓄電池セルC2を満充電にする。
【0035】
最後に、時間t7において、バイパス制御部は、満充電になった蓄電池セルC2をバイパス回路B2によりバイパスし、1個の蓄電池セルC1を接続された状態にする。時間t7~t8の間に、充電制御部は、接続された1個の蓄電池セルC1を、残充電容量RCが0[Ah]になるまで充電する。具体的には、1個の蓄電池セルC1の充電量を1[Ah]とし、残充電容量RCが1[Ah]の蓄電池セルC1を満充電にする。
【0036】
ここで、負荷や充電回路の動作を保証する観点から、充電時であっても蓄電システムの総電圧が最低許容総電圧VLを下回ることを防止する必要がある。最低許容総電圧VLは、例えば充電回路の仕様に基づいて設定されるものであり、系統連携型定置用の蓄電システムであれば、電力系統から充電する際に必要なAC/DCの最低出力電圧を例示でき、車載用の蓄電システムであれば、回生電力の変換回路やOBC(オンボードチャージャー)等の最低出力電圧を例示できる。
【0037】
しかしながら、比較例の充電制御では、直列接続する蓄電池セルC1~C8の数が1個や2個と少なくなる時点で、蓄電システムの総電圧が最低許容総電圧VLを下回るおそれがある。そこで、本実施形態の充電制御では、充電開始時から充電完了時まで、蓄電システム1の総電圧を最低許容総電圧VL以上に維持するように、上記の第1の処理及び第2の処理を実行する。以下、本実施形態の充電制御について詳細に説明する。
【0038】
図4は、本実施形態の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。また、
図5は、
図4のタイミングチャートに示す本実施形態の充電制御について説明するための表である。これらの図に示すように、本実施形態の充電制御では、8個の蓄電池セルC1~C8の充電を制御する。
【0039】
図4及び
図5に示すように、初期の8個の蓄電池セルC1~C8の残充電容量RCを、それぞれ、100[Ah],99[Ah],98[Ah],95[Ah],90[Ah],89[Ah],87[Ah],86[Ah]とする。本実施形態の充電制御では、バイパス制御部104(
図1参照)が、残充電容量RCが他に比して相対的に小さい蓄電池セルC1~C8を優先的にバイパスし、充電制御部105(
図1参照)は、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCの差が減少するように、直列接続された複数の蓄電池セルC1~Cnを充電する(第1の処理)。この第1の処理では、バイパス制御部104が、初期の残充電容量RCが最小の蓄電池セル(図示する一例ではC8)を当該処理の開始から終了まで連続してバイパスし、その他の蓄電池セル(図示する一例ではC1~C7)をバイパスしたり直列接続したりすることにより、全ての蓄電池セルC1~C8の残充電容量RCを、初期の残充電容量RCの最小値(図示する一例では86Ah)に揃える。また、第1の処理では、バイパス制御部104が、初期の残充電容量RCが最大の蓄電池セル(図示する一例ではC1)を、当該処理の開始から終了までの間、バイパスすることなく接続し、その他の蓄電池セル(図示する一例ではC2~C7)を残充電容量RCが小さいほどバイパスする回数が多くなるように接続したりバイパスしたりすることにより、残充電容量RCの差を漸次的に減少させる。なお、ここでの第1の処理は、一例であり、適宜変更してもよい。
【0040】
ここで、第1の処理では、バイパス制御部104が、蓄電システム1の総電圧が最低許容総電圧VL以上という条件が満たされるように、バイパスする蓄電池セルC1~C8を選択する。図示する一例では、バイパス制御部104が、第1の処理の開始から終了までの間、3個以上の蓄電池セルC1~C7を直列接続することにより、蓄電システム1の総電圧を最低許容総電圧VLよりも高い状態に維持する。
【0041】
図4に示す第1の処理の一例では、まず、時間t1において、バイパス制御部104が、残充電容量RCが最小の蓄電池セルC8に加えて、初期の残充電容量RCが他に比して相対的に小さい蓄電池セルC5,C6,C7をバイパスし、初期の残充電容量RCが他に比して相対的に大きい蓄電池セルC1,C2,C3,C4を直列接続する。時間t1~t2の間に、充電制御部105は、直列接続された4個の蓄電池セルC1~C4を充電する。この4個の蓄電池セルC1~C4に対する充電量は7[Ah]である。なお、例えば、この4個の蓄電池セルC1~C4に対する充電量を9[Ah]として、蓄電池セルC4の残充電容量RCを目標値の86[Ah]まで減少させることも可能である。
【0042】
次に、時間t2において、バイパス制御部104は、蓄電池セルC5~C8に加えて、蓄電池セルC3をバイパスし、その他の蓄電池セルC1,C2,C4を直列接続する。時間t2~t3の間に、充電制御部105は、直列接続された3個の蓄電池セルC1,C2,C4を充電する。この3個の蓄電池セルC1,C2,C4に対する充電量は2[Ah]である。これにより、蓄電池セルC4の残充電容量RCが目標値の86[Ah]まで減少する。
【0043】
次に、時間t3において、バイパス制御部104は、残充電容量RCが目標値まで低下した蓄電池セルC4を蓄電池セルC5~C8と共にバイパスし、バイパスしていた蓄電池セルC3を接続する。時間t3~t4の間に、充電制御部105は、直列接続された3個の蓄電池セルC1,C2,C3を充電する。この3個の蓄電池セルC1,C2,C3に対する充電量は1[Ah]である。
【0044】
次に、時間t4において、バイパス制御部104は、残充電容量RCが目標値の蓄電池セルC4,C8と共に蓄電池セルC2,C6をバイパスし、バイパスしていた蓄電池セルC5,C7を接続する。時間t4~t5の間に、充電制御部105は、直列接続された4個の蓄電池セルC1,C3,C5,C7を充電する。この4個の蓄電池セルC1,C3,C5,C7に対する充電量は1[Ah]である。これにより、蓄電池セルC7の残充電容量RCが目標値の86[Ah]まで減少する。また、蓄電池セルC1,C2,C3,C5,C6の残充電容量RCが89[Ah]に揃う。
【0045】
次に、時間t5において、バイパス制御部104は、残充電容量RCが目標値の蓄電池セルC4,C7,C8をバイパスし、バイパスしていた蓄電池セルC2,C6を接続する。時間t5~t6の間に、充電制御部105は、直列接続された5個の蓄電池セルC1,C2,C3,C5,C6を充電する。この5個の蓄電池セルC1,C2,C3,C5,C6の充電量は3[Ah]である。これにより、蓄電池セルC1,C2,C3,C5,C6の残充電容量RCが目標値の86[Ah]まで減少し、全ての蓄電池セルC1~C8の残充電容量RCが目標値の86[Ah]に揃う。
【0046】
次に、時間t6から充電完了までの間に、充電制御部105は、直列接続された全ての蓄電池セルC1~C8を充電する(第2の処理)。第2の処理における全ての蓄電池セルC1~C8の充電量は86[Ah]である。これにより、全ての蓄電池セルC1~C8が満充電となる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の蓄電池制御装置100は、上記比較例のように充電が完了した蓄電池セルC1~Cnを順次バイパスするのではなく、残充電容量RCが他の蓄電池セルC1~Cnに対して相対的に小さい蓄電池セルC1~Cnを優先的にバイパス回路B1~Bnによりバイパスすることで、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCの差を減少させる第1の処理を実行する。そして、蓄電池制御装置100は、第1の処理の実行後に、全ての蓄電池セルC1~Cnを直列接続して充電完了まで充電する。これにより、第1の処理の実行後から全ての蓄電池セルC1~C8の充電が完了するまでの間、全ての蓄電池セルC1~Cnを直列接続した状態を維持できる。従って、この間に、蓄電システム1の総電圧を、上記比較例に比して高い状態に維持できる。また、総電圧を高い状態に維持できることにより、充電回路30から蓄電池パック10に所望の充電電力を入力できる時間を、上記比較例に比して長くすることができる。
【0048】
また、本実施形態の蓄電池制御装置100は、第1の処理において、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを、第1の処理の開始時点での最小値まで減少させる。これにより、全ての蓄電池セルC1~Cnの充電完了のタイミングを揃え、充電が完了した蓄電池セルC1~Cnをバイパスするタイミングを揃えることができる。
【0049】
さらに、本実施形態の蓄電池制御装置100は、第1の処理の実行中の蓄電システム1の総電圧が、蓄電システム1の最低許容総電圧VL以上に維持されるように、バイパスする蓄電池セルC1~Cnを選択する。これによって、第1の処理において、蓄電システム1の総電圧が充電回路30や電力系統(図示省略)の最低許容総電圧VLを下回ることを防止したうえで、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを揃えることができる。
【0050】
図6は、他の実施形態の充電制御について説明するためのタイミングチャートである。この図に示す充電制御では、第1の処理の実行中の充電電力制限値[W]を、最低許容充電電力P
L以上に維持にする。ここで、充電電力制限値[W]は、蓄電池セルC1~Cnの充電電流制限値の中の最小値に蓄電システム1の総電圧を乗じることにより得られる値である。また、最低許容充電電力P
Lは、例えば、太陽光発電システムが発電可能な上限電力を常に充電できる能力を保証するために、蓄電システム1に許容される充電電力の下限値である。
【0051】
なお、最低許容充電電力PLは、一定の値であってもよく、諸条件により変動する値であってもよい。例えば、晴天の昼間は太陽光発電システムの発電電力が大きいので、最低許容充電電力PLを高めに設定し、朝晩や曇天・雨天は太陽光発電システムの発電電力が小さいので、最低許容充電電力PLを低めに設定する等してもよい。
【0052】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0053】
例えば、上記実施形態では、各蓄電池セルC1~Cnの充電完了までの残充電量を、電流容量である残充電容量RC[Ah]で規定したが、各蓄電池セルC1~Cnの充電完了までの残充電量は、当該指標と相関があるもので規定すればよく、SOCやOCV(開放電圧)等により規定してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第1の処理において、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを、第1の処理の開始時点での最小値まで減少させたが、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを、第1の処理の開始時点での最小値を下回るまで減少させてもよい。
【0055】
また、最終的に全ての蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを使い切る、全ての蓄電池セルC1~Cnの充電完了のタイミングを揃えるという観点から、第1の処理において、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを揃えることが好ましい。しかしながら、第1の処理において、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCを揃えることも必須ではなく、第1の処理において、複数の蓄電池セルC1~Cnの残充電容量RCの差が減少していればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 :蓄電システム
20 :バイパス回路
100 :蓄電池制御装置
C1~Cn :蓄電池セル
RC :残充電容量(残充電量)
VL :最低許容総電圧
PL :最低許容充電電力